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特開2023-15009パーソナライズされた治療計画のための生存決定木グラフ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023015009
(43)【公開日】2023-01-31
(54)【発明の名称】パーソナライズされた治療計画のための生存決定木グラフ
(51)【国際特許分類】
   G16H 20/00 20180101AFI20230124BHJP
   A61B 5/367 20210101ALI20230124BHJP
   A61B 34/10 20160101ALI20230124BHJP
【FI】
G16H20/00
A61B5/367
A61B34/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022113767
(22)【出願日】2022-07-15
(31)【優先権主張番号】17/379,183
(32)【優先日】2021-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】511099630
【氏名又は名称】バイオセンス・ウエブスター・(イスラエル)・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Biosense Webster (Israel), Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】リアット・ツォレフ
(72)【発明者】
【氏名】マティットヤフ・アミット
(72)【発明者】
【氏名】ロネン・タル-ボッツァー
(72)【発明者】
【氏名】ガイ・センダー・ザハヴィ
(72)【発明者】
【氏名】リー・ベン-アミ
【テーマコード(参考)】
4C127
5L099
【Fターム(参考)】
4C127AA02
4C127HH13
4C127LL08
5L099AA03
(57)【要約】
【課題】心臓アブレーション処置を患者に適合させること。
【解決手段】方法は、それぞれの患者の医療情報、患者に対して実行される臨床処置のそれぞれのタイプ、及び患者のそれぞれの生存率を含むデータセットを受信することを含む。生存木グラフは、臨床治療処置のタイプ間の生存率の差のコスト関数を最大化することによって生成される。生存木グラフに基づいて、所与の患者のための臨床処置のタイプが選択される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
システムであって、
それぞれの患者の医療情報、前記患者に対して実行される臨床処置のそれぞれのタイプ、及び前記患者のそれぞれの生存率を含むデータセットを受信するように構成されたインターフェースと、
プロセッサであって、
前記臨床治療処置の前記タイプ間の前記生存率の差のコスト関数を最大化することによって、生存木グラフを生成し、
前記生存木グラフに基づいて、所与の患者のための前記臨床処置のタイプを選択する、
ように構成された、プロセッサと、
を備える、システム。
【請求項2】
前記生存率の前記差が、カプランマイヤー(KM)曲線間の差を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記プロセッサが、遺伝的アルゴリズムを前記データセットに適用することによって、前記生存木グラフを生成するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記プロセッサが、前記生存木グラフにおける各分割の均質性を最大化する決定ノード及びカットオフ値を選択することによって、前記遺伝的アルゴリズムを適用するように構成されている、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記プロセッサが、前記生存木グラフの1つ以上の層を固定することによって、前記生存木グラフを生成するように更に構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記プロセッサが、前記生存木グラフのルートを固定することによって、前記1つ以上の層を固定するように構成されている、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記プロセッサが、患者の年齢及び性別のうちの1つであるように前記ルートを事前設定することによって、前記1つ以上の層を固定するように構成されている、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記プロセッサが、前記生存木グラフの出力層に先行する層を事前設定することによって、前記1つ以上の層を固定するように構成されている、請求項5に記載のシステム。
【請求項9】
前記プロセッサが、治療アプローチを示すように前記層を事前設定することによって、前記出力層に先行する前記層を事前設定するように構成されている、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記治療アプローチが、肺静脈隔離を含む、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記臨床処置の前記タイプが、心不整脈の異なる心臓アブレーション治療、がんの異なる治療、及び脳卒中の治療の異なるもののうちの1つである、請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
コンピュータソフトウェア製品であって、前記製品が、プログラム命令が記憶された有形の非一時的コンピュータ可読媒体を含み、前記命令が、プロセッサによって読み取られると、前記プロセッサに、
前記臨床治療処置の前記タイプ間の前記生存率の差のコスト関数を最大化することによって、生存木グラフを生成させ、
前記生存木グラフに基づいて、所与の患者のための前記臨床処置のタイプを選択させる、
コンピュータソフトウェア製品。
【請求項13】
方法であって、
それぞれの患者の医療情報、前記患者に対して実行される臨床処置のそれぞれのタイプ、及び前記患者のそれぞれの生存率を含むデータセットを受信することと、
前記臨床治療処置の前記タイプ間の前記生存率の差のコスト関数を最大化することによって、生存木グラフを生成することと、
前記生存木グラフに基づいて、所与の患者のための前記臨床処置のタイプを選択することと、
を含む、方法。
【請求項14】
前記生存率の前記差が、カプランマイヤー(KM)曲線間の差を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記生存木グラフを生成することが、遺伝的アルゴリズムを前記データセットに適用することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記遺伝的アルゴリズムを適用することが、前記生存木グラフにおける各分割の均質性を最大化する決定ノード及びカットオフ値を選択することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記生存木グラフを生成することが、前記生存木グラフの1つ以上の層を固定することを更に含む、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記層を固定することが、前記生存木グラフのルートを固定することを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記生存木グラフの前記ルートを固定することが、患者の年齢及び性別のうちの1つであるように前記ルートを事前設定することを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記層を固定することが、前記生存木グラフの出力層に先行する層を事前設定することを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記出力層に先行する前記層を事前設定することが、治療アプローチを示すように前記層を事前設定することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記治療アプローチが、肺静脈隔離を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記臨床処置の前記タイプが、心不整脈の異なる心臓アブレーション治療、がんの異なる治療、及び脳卒中の治療の異なるもののうちの1つである、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、パーソナライズされた医療に関し、具体的には、心臓アブレーション処置を患者に適合させることに関する。
【背景技術】
【0002】
患者の集団の健康メトリックの分析に基づくパーソナライズされた医療予測方法は、特許文献において以前に報告されている。例えば、米国特許出願公開第2018/0158552号は、深層学習プロセッサによってニューラルネットワークを訓練して、測定又は観察された健康メトリックと対応する医療結果との複数の組み合わせを含む訓練データをニューラルネットワークに提供することによって健康情報を予測することを含む、医療予測のための解釈可能なモデルを生成するための方法を提供する。この方法はまた、深層学習プロセッサによって、ニューラルネットワークを使用して、訓練データに基づいて測定又は観察された健康メトリックの複数の組み合わせの各々について測定又は観察された健康メトリックの予測された結果を含む予測データを決定することを含む。この方法はまた、深層学習プロセッサ又は学習プロセッサによって、解釈可能な機械学習モデルを訓練して、測定又は観察された健康メトリックと予測データの対応する予測された結果との組み合わせを含む模倣データを解釈可能な機械学習モデルに提供することによって、ニューラルネットワークと同様の予測を行うことを含む。
【0003】
別の例として、米国特許出願公開第2019/0019581号は、患者にデジタル診断及びデジタル治療法を提供する方法及び装置を記載している。デジタルパーソナライズされた医療システムは、デジタルデータを使用して、患者の症状を評価又は診断し、治療に対する患者反応からのフィードバックは、パーソナライズされた治療介入を更新するために考慮される。本明細書に開示される方法及び装置はまた、より少ない質問、短い時間で対象者の認知機能を診断及び治療し、複数の行動の、神経学的、又は精神的健康の障害を判定し、診断及び治療において臨床的に許容される感度及び特異性を提供することができる。
【0004】
米国特許出願公開第2020/0098451号は、臨床治験に基づいて患者の転帰を予測するための施設を記載している。この施設は、1つ以上の完了した臨床治験を記述する情報を取得し、取得された臨床治験情報から特徴を抽出する。この施設は、抽出された特徴を使用して、臨床転帰を予測するための時系列データモデル及び臨床転帰を予測するための非時系列データモデルの両方を訓練する。この施設は、これらの訓練されたモデルを、対象患者を記述する情報に適用して、対象患者の臨床転帰を予測する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施形態は、それぞれの患者の医療情報、患者に対して実行される臨床処置のそれぞれのタイプ、及び患者のそれぞれの生存率を含むデータセットを受信することを含む方法を提供する。生存木グラフは、臨床治療処置のタイプ間の生存率の差のコスト関数を最大化することによって生成される。生存木グラフに基づいて、所与の患者のための臨床処置のタイプが選択される。
【0006】
いくつかの実施形態では、生存率の差は、カプランマイヤー(Kaplan-Meier、KM)曲線間の差を含む。
【0007】
いくつかの実施形態では、生存木グラフを生成することは、遺伝的アルゴリズムをデータセットに適用することを含む。
【0008】
他の実施形態では、遺伝的アルゴリズムを適用することは、生存木グラフにおける各分割の均質性を最大化する決定ノード及びカットオフ値を選択することを含む。
【0009】
一実施形態では、生存木グラフを生成することは、生存木グラフの1つ以上の層を固定することを更に含む。
【0010】
別の実施形態では、層を固定することは、生存木グラフのルートを固定することを含む。
【0011】
更に別の実施形態では、生存木グラフのルートを固定することは、患者の年齢及び性別のうちの1つであるようにルートを事前設定することを含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、層を固定することは、生存木グラフの出力層に先行する層を事前設定することを含む。
【0013】
他の実施形態では、出力層に先行する層を事前設定することは、治療アプローチを示すように層を事前設定することを含む。
【0014】
更なる実施形態では、治療アプローチは、肺静脈隔離を含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、臨床処置のタイプは、心不整脈の異なる心臓アブレーション治療、がんの異なる治療、及び脳卒中の治療の異なるもののうちの1つである。
【0016】
本発明の一実施形態によれば、インターフェースと、プロセッサと、を含むシステムが追加的に提供される。インターフェースは、それぞれの患者の医療情報、患者に対して実行される臨床処置のそれぞれのタイプ、及び患者のそれぞれの生存率を含むデータセットを受信するように構成されている。プロセッサは、(i)臨床治療処置のタイプ間の生存率の差のコスト関数を最大化することによって、生存木グラフを生成し、(ii)生存木グラフに基づいて、所与の患者のための臨床処置のタイプを選択する、ように構成されている。
【0017】
本発明の一実施形態によれば、コンピュータソフトウェア製品が更に提供され、この製品は、プログラム命令が記憶された有形の非一時的コンピュータ可読媒体を含み、この命令は、プロセッサによって読み取られると、プロセッサに、(i)臨床治療処置のタイプ間の生存率の差のコスト関数を最大化することによって、生存木グラフを生成させ、(ii)生存木グラフに基づいて、所与の患者のための臨床処置のタイプを選択させる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
以下の本開示の実施形態の詳細な説明を図面と併せ読むことで、本開示のより完全な理解が得られるであろう。
図1】本発明の例示的な一実施形態による、カテーテルベースの電気生理学的(electrophysiological、EP)感知、EP信号分析、及びアブレーションシステムの概略描写図である。
図2】本発明の例示的な実施形態による、カプランマイヤー(KM)生存曲線を使用して、所与の患者のための最適な治療処置を選択する、遺伝的アルゴリズムによって生成された生存木グラフを示す。
図3】本発明の例示的な実施形態による、カプランマイヤー(KM)生存曲線を使用して、所与の患者のための最適な治療処置を選択する、遺伝的アルゴリズムによって生成された生存木グラフを示す。
図4】本発明の例示的な一実施形態による、図2の遺伝的アルゴリズムを生成及び使用して、最適な治療処置を選択する方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
概論
特定の医学的治療を受けた後にある期間(例えば、数ヶ月及び数年)にわたって実施された患者集団の生存分析は、治療の大まかな有効性を示すことができる。しかしながら、そのような指標は、特定の所与の患者について不正確であり得る平均である。例えば、心房細動(atrial fibrillation、AF)のいくつかの心臓アブレーション治療は、異なる医師(例えば、電気生理学者)によって使用される。生存分析は、そのような治療の各々に対して実行することができ、その中には:
・肺静脈隔離(Pulmonary vein isolation、PVI)のみ、
・PVI及び追加の解剖学的隔離ライン、
・電気生理学的(EP)マッピング結果に基づくPVI及び/又は追加のアブレーション(マッピングは、瘢痕などのAFの特定の発生源を示すことができる)、
・非PVI、通常は、CFAE、トリガ、ロータ、分留などの非PVトリガマッピングに基づくアブレーション、
がある。
【0020】
異なる研究は、上記に列挙した異なるアブレーション治療の有効性及び性能を示すが、これらの研究は、異なる(例えば、広範囲の)患者の動員を含むため、どのタイプの患者にそれぞれの特定のアブレーションアプローチが最も有益であり得るかに関する明確なガイドラインはない。
【0021】
本明細書に記載される本発明の実施形態は、既定の心臓アブレーション処置のリストの中から、特定の患者について最良の心臓アブレーション処置を推定及び推奨する機械学習(machine learning、ML)ベースの方法を提供する。この目的のために、本発明の一実施形態は、治療(例えば、アブレーション)の適切な選択によって所与の患者の生存可能性を最大化する治療(例えば、アブレーション)決定木グラフを生成するための方法及びアルゴリズムを含む。決定木グラフは、研究集団のデータベースを異なる生存測定値(例えば、異なるカプランマイヤー(KM)曲線)を有する別個のグループに分割する。決定木グラフを使用して、競合する治療アプローチを区別することにより、臨床医は、特定の患者について最良の治療アプローチ(例えば、心臓アブレーション)を選択することができる。
【0022】
いくつかの実施形態では、プロセッサは、開示された技術に従って準備された遺伝的アルゴリズムを実行して、決定パラメータの階層(ノード)、及び決定木グラフの経路の異なるKM曲線(リーフ)間の結果として得られる弁別性レベルに基づくコスト関数を見つける。ノードは、患者の年齢、性別、及び臨床情報を含み得る。別の実施形態では、階層の一部分は、遺伝的アルゴリズムに与えられ、遺伝的アルゴリズムは、生存木ノードの残りを見つける。例えば、心臓アブレーションの場合、木グラフの可能なルートは、年齢であるように予め決定する、又は性別であるように予め決定することができる。出力層の1つ前の層は、異なるアブレーション治療アプローチであるように予め決定されたノードを含むことができる。
【0023】
開示された方法を使用して、EPマッピング及びアブレーションシステムを操作する臨床医は、ML分析した治療の中の治療、例えば、最良の予想される臨床転帰を提供するように患者のプロファイル及び診断データに最もよく一致するものを新しい患者に提供することができる。AFの場合、開示される技術は、患者(patent)の心臓に対して利用可能なEP情報(例えば、EPマップ)を活用して、生存率によって測定されるような生存に基づいて特定の患者について可能なアプローチの中でも、例えば、重度の不整脈を治療するための最適な心臓アブレーション処置を決定するように臨床医を支援する。
【0024】
システムの説明
図1は、本発明の例示的な一実施形態による、カテーテルベースの電気生理学的(EP)感知、EP信号分析、及びアブレーションシステム20の概略描写図である。システム20は、例えば、Biosense-Webster(Irvine,California)によって作製されたCARTO(登録商標)3システムであり得る。見られるように、システム20は、医師30によって患者28の心臓26にナビゲートされるシャフト22を有するカテーテル21を備える。図示される実施例では、医師30は、カテーテル21の近位端の近くのマニピュレータ32を使用してシャフト22を操作しながら、シース23を通してシャフト22を挿入する。
【0025】
本明細書に記載の例示的な実施形態では、カテーテル21は、それぞれ心臓26の電気生理学的マッピング及び/又はアブレーションなど、任意の好適な診断目的及び/又は組織アブレーションのために使用することができる。ECG記録器具35は、プロセス中にシステム20によって感知された様々なタイプのECG信号を受信することができる。
【0026】
挿入図25及び45に示されるように、カテーテル21のシャフト22の遠位端には、多電極バスケットカテーテル40が装着されている。挿入図45は、バスケットカテーテル40の複数の電極48の配置を示す。
【0027】
カテーテル21の近位端は、制御コンソール24に接続されて、例えば、電極48によって取得された電位図(electrograms、EGM)を送信する。コンソール24は、カテーテル21の電極48からEP信号(例えば、EGM及びECG信号)並びに非EP信号(位置信号など)を受信するための好適なフロントエンド及びインターフェース回路38を有するプロセッサ41、典型的には汎用コンピュータを含む。この目的のために、プロセッサ41は、シャフト22内を延びるワイヤを介して電極48に接続されている。
【0028】
インターフェース回路38は、ECG記録計器35であり得るマルチチャネル(例えば、12端子)ECG装置などからのECG信号、並びに表面体電極49からの非ECG信号を受信するように更に構成されている。典型的には、電極49は、患者28の胸部及び脚の周囲の皮膚に取り付けられている。プロセッサ41は、ケーブル39の中を通っているワイヤによって電極49に接続されて、電極49から信号を受信する。
【0029】
EPマッピング処置中、電極48の場所は、患者の心臓26内にありながら追跡される。そのために、電気信号が、電極48と体表面電極49との間を通される。この信号に基づいて、及び患者の身体上の電極22の既知の位置を考慮して、プロセッサ41は、患者の心臓内の各電極22の推定される位置を計算する。このような追跡は、その開示が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第8,456,182号に記載されている、Biosense-Webster(Irvine California)製のAdvanced Current Location(ACL)システムを使用して実行されてもよい。
【0030】
こうして、プロセッサ41は、EGMなどの、電極48から受信された任意の所与の信号を、信号が取得された位置と関連付けることができる。プロセッサ41は、これらの信号に含まれる情報を使用して、ディスプレイ上に示すようにローカルアクティベーション時間(local activation time、LAT)マップなどのEPマップを構築する。
【0031】
医師30は、プロセッサによって患者28について推測される前述の生存決定木グラフに基づいて、どのアブレーション処置を実行するかを決定することができる。アブレーションを実行するために、電極48は、コンソール24内のアブレーション波形発生器47に接続される(例えば、切り替えられる)。実行する肺静脈隔離のタイプなどの開示される技術によって提供されるアブレーションのガイドラインを使用して、プロセッサ41又は医師は、どの電極を発生器47に接続するかを選択して、アブレーションを適用することができる。
【0032】
プロセッサ41は、通常、本明細書に記載の機能を実施するようにソフトウェアでプログラムされる。ソフトウェアは、例えば、ネットワークを介して電子形式でプロセッサにダウンロードされてもよく、あるいは、ソフトウェアは、代替的に又は付加的に、磁気的、光学的、又は電子的メモリなどの非一時的な有形媒体上に提供及び/又は記憶されてもよい。具体的には、プロセッサ41は、以下で更に説明するように、開示される工程をプロセッサ41が実行することを可能にする、図4に含まれているものなどの、本明細書に開示されるような専用アルゴリズムを実行する。
【0033】
パーソナライズされた治療計画のための生存決定木グラフ
生存分析は、患者の医学的治療のよく定義された時間原点から患者に関連するなんらかの特定の医学的事象又は終点の発生までの持続時間の形態でデータの分析を説明するために使用される語句である。治療は、薬物投与(例えば、化学療法)、又は侵襲的処置(例えば、ステント配置、アブレーション)などであってよい。
【0034】
そのような時間関連の転帰を説明及び分析するために、様々な統計的方法が開発されてきた。これらの中でも、カプランマイヤー曲線は、生存分析のために医学研究で広く使用されている。カプランマイヤー(KM)曲線は、経時的なイベント発生率である、生存関数の推定値である。KM曲線は、例えば、「A practical guide to understanding Kaplan-Meier curves」(Otolaryngology Head Neck Surgery,143 (3)、2010、331~336ページ)と題する論文においてRich JTらによって説明されている。
【0035】
KM曲線は、研究動員された患者の異なるサブグループについて計算及び描画することができる。ログランク検定などの統計的検定を使用して、KMを比較することができる。
【0036】
したがって、生存決定木は、以下のものを含むことができる。
1.経時的な治療不成功率を記述するKM曲線の「リーフ」
2.リーフの直前のパラメータ、例えば、PVIを含む又は含まない前述の異なるアブレーションアプローチ
3.患者のサブグループを特徴付ける、上位決定ノードにおける決定規則のセットを含む追加のパラメータ
4.以下の異なるスコアに従ってKM曲線の各対間の差を最大化するように作成することができる木の規則:
a.KM曲線間の面積
b.最終時点での治療不成功率間の距離
c.ログランク検定のp値
d.リスク一致指数(Harrellのc指数とも呼ばれる)
【0037】
開示されるアルゴリズムは、異なる治療アプローチについてのKM生存曲線を使用して、木グラフの最終リーフにおける治療選択肢(例えば、PVI対「PVI+」)間に最適な分離を生成することを目的としている。これらの問題を解決するために、人工知能を使用して、木の最終リーフに焦点を当てる。目標は、上記のスコア又は基準(a)~(d)のうちの1つに従って、心房細動の治療間の最大の差があるサブグループを効果的に特定することである。このタスクの1つの選択肢は、最適な生存決定木を構築するように適合された進化アルゴリズムである。
【0038】
進化アルゴリズムは、解決策の生成による進化の生物学的プロセス、最良の(最適の)解決策の選択、乗換え、突然変異、及び遺伝的浮動を模倣する。進化アルゴリズムは、心房細動の治療アプローチを比較する最適な生存木を見つけるための柔軟なフレームワークを提供する。以下は、それらの利点の一部である。
1.可能な解決策空間の大規模な探索:
a.生存決定木を構築することは、どの特徴が木に含まれるか、どのレベルでそれらが含まれるか、どのようなカットオフ値が選択されるか、などを含む多くの考慮事項を伴う。多くの考慮事項があるため、可能な木の数は、すべての可能な解決策を評価するには大きすぎる。
b.進化アルゴリズムは、アルゴリズム進化のプロセスにおいて莫大な数の解決策を考慮する。進化を模倣するプロセスを通して、最良の解決策が評価され、最適な解決策を見つけることができる。
2.可能な解決策の構築における柔軟性:
a.異なる制約を有する問題を解決するために、進化アルゴリズムを適合させることができる。生存決定木の場合、主な制約は、心房細動治療アプローチであり得る木の最終分割の固定である。
b.以下のものを含む(がこれらに限定されない)他の関連する制約も同様に考慮することができる:
i.各最終カプランマイヤー曲線における対象者の最小数
ii.木全体のレベルの数
iii.木の第1の分割又は木内の任意の他の分割に対する変数の固定
【0039】
決定木は、ルートノードからリーフにデータを伝えることによって生成される。データは、子ノードが結果変数に関してより「純粋」(すなわち、均質)であるように、予測変数に従って繰り返し分割される。一実施形態では、開示される遺伝的アルゴリズムは、木グラフにおける各分割の均質性を最大化する決定ノード及びカットオフ値を選択するように構成されている。
【0040】
図2は、本発明の一実施形態による、カプランマイヤー(KM)生存曲線を使用して、所与の患者のための最適な治療処置を選択する、遺伝的アルゴリズムによって生成された生存木グラフ200を示す。決定木グラフ200を生成する遺伝的アルゴリズムは、ローカルメモリ又は遠隔位置であり得るメモリ224からアップロードされた患者データを使用して、コンピュータプロセッサ222によって動作される。動作中、プロセッサは、生成された木グラフをメモリ224に保存する。
【0041】
見られるように、生存木グラフ200は、ルート決定ノード202を含む。木グラフ200は、グラフの異なる層に決定ノード204を更に含む。決定ノード202及び204は、例えば、2~3例を挙げると、年齢、性別、がんの場合は腫瘍サイズ、又はステント留置の場合には動脈の識別情報のうちの1つであり得る。
【0042】
更に見られるように、治療についての特定のタイプの決定ノード206は、出力層208の1つ前の層に位置する。最後の層は、競合するアプローチ208の(例えば、選択する、可能性のある治療の)KM曲線207の形態の予想される生存率である。グラフィック指標210は、生存木グラフの分岐ごとに、医師が選択する最適な治療をマーキングする。
【0043】
パーソナライズされた心臓アブレーション治療計画のための生存決定木グラフ
AFに関して、上述の時間原点は、AFの侵襲的治療に対応し得る。予想されるイベント(成功した治療後のAFの再発)がほとんどの個人では発生しないため、時間関連イベントの分析は、一意である。AFの例では、KM曲線は、経時的なAFの治療不成功率を説明する。
【0044】
図3は、本発明の一実施形態による、カプランマイヤー(KM)生存曲線を使用して、所与の患者のための最適なアブレーション治療を選択する、遺伝的アルゴリズムによって生成された生存木グラフ300を示す。
【0045】
図3の決定木の結論戦略は、以下のとおりである。
【0046】
【表1】
【0047】
見られるように、生存木グラフ300は、ルート決定ノード302を含む。木グラフ300は、グラフの異なる層に決定ノード304を更に含む。決定ノード302は、年齢に基づく。ノード304は、年齢及び診断セッション(例えば、マッピング及び又は撮像)によって得られるような左心房(LA)の直径に基づく。
【0048】
更に見られるように、治療についての特定のタイプの決定ノード306は、出力層308の1つ前の層に位置する。最後の層は、競合するアプローチ308の(例えば、選択する、可能性のあるアブレーション治療の)KM曲線307の4つの予想される生存率である。グラフィック指標310は、医師のために、生存木グラフの分岐ごとに最適な選択をマーキングする。
【0049】
生存木グラフ300は、メモリスティック又はネットワークドライブに記憶し、図1のシステム20のユーザに、又は他のシステムのユーザに提供することができる。
【0050】
図3に示される実施例の描写図は、単に概念を分かりやすくする目的で選択されている。生存木の生成に含めることができるパラメータは多数であり、好ましくは、以下の3列のリストを含む、成功したアブレーションアプローチの予測因子である。
【0051】
【表2】
【0052】
上記に加えて、心房マッピング結果から取り出されたパラメータを、決定木の生成のために含めることができる。これらのパラメータとしては、以下のものを挙げることができる。
・心房領域のうちの低電圧ゾーン領域のパーセンテージ
・CARTOFINDERによって見られた焦点トリガの数
・周期長マッピングなどによって突き止められた非PVトリガの数
・心房領域からの分留によって覆われたパーセンテージ面積
【0053】
パーソナライズされた心臓アブレーション治療計画のための生存決定木グラフを生成し使用する方法
図4は、本発明の一実施形態による、図2の遺伝的アルゴリズムを生成及び使用して、最適な治療処置を選択する方法のフローチャートである。提示された実施形態によるアルゴリズムは、2つの部分、すなわち、木グラフ準備401及び木グラフ使用402に分割される。
【0054】
アルゴリズムは、プロセッサ222が、データベース受信工程411において、生存率を含む患者の医療データベースを受信(例えば、メモリ224からアップロード)することから始まるプロセスを実行する。データベースは、表2に見られるものなどの情報を更に含む。
【0055】
次に、プロセッサ222は、生存木グラフ生成工程413で、木グラフ200などの生存木グラフを生成する。上述したように、グラフの各末端分岐において、グラフは、異なる可能な臨床治療処置のうちの2つ以上の臨床治療処置間の最大差を提供する。
【0056】
最後に、木グラフ準備401の部分に関して、プロセッサは、木グラフ記憶工程415で、生成された生存木グラフをメモリ224及び/又は非一時的コンピュータ可読媒体に記憶する。
【0057】
木グラフ使用402の部分の開始時に、システム21のプロセッサ41などのプロセッサは、生存木グラフアップロード工程420で、例えば、非一時的コンピュータ可読記憶媒体から、生存木をアップロードする。
【0058】
次に、プロセッサは、新しい患者データ受信工程422で、例えば、EPマッピング処置の結果を含む、新しい患者医療データを受信する。
【0059】
生存木グラフを患者医療情報に適用して、医師30は、工程424で、新しい患者について最適な臨床処置(例えば、前述のアブレーション選択肢のうちの1つ)を選択する。最適な選択肢は、新しい患者の医療プロファイルに関する最良のMK曲線などの最良の予想結果によって誘導される。
【0060】
本明細書に記載される実施形態は、主に心臓アブレーションに対処するものであるが、本明細書に記載される方法及びシステムは、可能な治療間の臨床決定を伴う任意の医療分野で使用することもできる。
【0061】
上に記載される実施形態は例として挙げたものであり、本発明は本明細書において上記で具体的に図示及び説明されるものに限定されない点が理解されよう。むしろ、本発明の範囲は、上記の明細書に記載される様々な特徴の組み合わせ及び部分的組み合わせの両方、並びに前述の説明を読むことで当業者に想到されるであろう、先行技術において開示されていないそれらの変形例及び修正例を含むものである。
【0062】
〔実施の態様〕
(1) 方法であって、
それぞれの患者の医療情報、前記患者に対して実行される臨床処置のそれぞれのタイプ、及び前記患者のそれぞれの生存率を含むデータセットを受信することと、
前記臨床治療処置の前記タイプ間の前記生存率の差のコスト関数を最大化することによって、生存木グラフを生成することと、
前記生存木グラフに基づいて、所与の患者のための前記臨床処置のタイプを選択することと、
を含む、方法。
(2) 前記生存率の前記差が、カプランマイヤー(KM)曲線間の差を含む、実施態様1に記載の方法。
(3) 前記生存木グラフを生成することが、遺伝的アルゴリズムを前記データセットに適用することを含む、実施態様1に記載の方法。
(4) 前記遺伝的アルゴリズムを適用することが、前記生存木グラフにおける各分割の均質性を最大化する決定ノード及びカットオフ値を選択することを含む、実施態様3に記載の方法。
(5) 前記生存木グラフを生成することが、前記生存木グラフの1つ以上の層を固定することを更に含む、実施態様1に記載の方法。
【0063】
(6) 前記層を固定することが、前記生存木グラフのルートを固定することを含む、実施態様5に記載の方法。
(7) 前記生存木グラフの前記ルートを固定することが、患者の年齢及び性別のうちの1つであるように前記ルートを事前設定することを含む、実施態様6に記載の方法。
(8) 前記層を固定することが、前記生存木グラフの出力層に先行する層を事前設定することを含む、実施態様5に記載の方法。
(9) 前記出力層に先行する前記層を事前設定することが、治療アプローチを示すように前記層を事前設定することを含む、実施態様8に記載の方法。
(10) 前記治療アプローチが、肺静脈隔離を含む、実施態様9に記載の方法。
【0064】
(11) 前記臨床処置の前記タイプが、心不整脈の異なる心臓アブレーション治療、がんの異なる治療、及び脳卒中の治療の異なるもののうちの1つである、実施態様1に記載の方法。
(12) システムであって、
それぞれの患者の医療情報、前記患者に対して実行される臨床処置のそれぞれのタイプ、及び前記患者のそれぞれの生存率を含むデータセットを受信するように構成されたインターフェースと、
プロセッサであって、
前記臨床治療処置の前記タイプ間の前記生存率の差のコスト関数を最大化することによって、生存木グラフを生成し、
前記生存木グラフに基づいて、所与の患者のための前記臨床処置のタイプを選択する、
ように構成された、プロセッサと、
を備える、システム。
(13) 前記生存率の前記差が、カプランマイヤー(KM)曲線間の差を含む、実施態様12に記載のシステム。
(14) 前記プロセッサが、遺伝的アルゴリズムを前記データセットに適用することによって、前記生存木グラフを生成するように構成されている、実施態様12に記載のシステム。
(15) 前記プロセッサが、前記生存木グラフにおける各分割の均質性を最大化する決定ノード及びカットオフ値を選択することによって、前記遺伝的アルゴリズムを適用するように構成されている、実施態様14に記載のシステム。
【0065】
(16) 前記プロセッサが、前記生存木グラフの1つ以上の層を固定することによって、前記生存木グラフを生成するように更に構成されている、実施態様12に記載のシステム。
(17) 前記プロセッサが、前記生存木グラフのルートを固定することによって、前記1つ以上の層を固定するように構成されている、実施態様16に記載のシステム。
(18) 前記プロセッサが、患者の年齢及び性別のうちの1つであるように前記ルートを事前設定することによって、前記1つ以上の層を固定するように構成されている、実施態様17に記載のシステム。
(19) 前記プロセッサが、前記生存木グラフの出力層に先行する層を事前設定することによって、前記1つ以上の層を固定するように構成されている、実施態様16に記載のシステム。
(20) 前記プロセッサが、治療アプローチを示すように前記層を事前設定することによって、前記出力層に先行する前記層を事前設定するように構成されている、実施態様19に記載のシステム。
【0066】
(21) 前記治療アプローチが、肺静脈隔離を含む、実施態様20に記載のシステム。
(22) 前記臨床処置の前記タイプが、心不整脈の異なる心臓アブレーション治療、がんの異なる治療、及び脳卒中の治療の異なるもののうちの1つである、実施態様12に記載のシステム。
(23) コンピュータソフトウェア製品であって、前記製品が、プログラム命令が記憶された有形の非一時的コンピュータ可読媒体を含み、前記命令が、プロセッサによって読み取られると、前記プロセッサに、
前記臨床治療処置の前記タイプ間の前記生存率の差のコスト関数を最大化することによって、生存木グラフを生成させ、
前記生存木グラフに基づいて、所与の患者のための前記臨床処置のタイプを選択させる、
コンピュータソフトウェア製品。
図1
図2
図3
図4
【外国語明細書】