(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150093
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
B60K 5/10 20060101AFI20231005BHJP
F16F 15/08 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B60K5/10 C
F16F15/08 W
F16F15/08 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059001
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001878
【氏名又は名称】三菱マヒンドラ農機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】錦織 昇
(72)【発明者】
【氏名】藤原 隆行
(72)【発明者】
【氏名】森 敦紀
【テーマコード(参考)】
3D235
3J048
【Fターム(参考)】
3D235AA12
3D235AA13
3D235AA14
3D235AA16
3D235BB23
3D235BB27
3D235CC05
3D235CC06
3D235EE02
3D235EE03
3D235EE08
3D235EE09
3D235EE14
3D235EE16
3D235EE33
3J048AA01
3J048AD05
3J048AD11
3J048BA03
3J048DA02
3J048EA01
(57)【要約】
【課題】シャーシの左右側板に設けるブラケットと、縦置きエンジンに設けるブラケットの間に防振部材を介装し、エンジンを左右の側板に防振支持する際に、この防振部材の配置形態を見直すことによって、左右の側板の内側にエンジンとともに防振部材を設けてエンジンを効果的に防振支持すると共に、エンジンの過度の振れも安価に規制することができる作業車両を提供する。
【解決手段】左右の側板3の内側にエンジンとともに設け、且つエンジンの前部左右寄りと後部左右寄りを支持する夫々の防振部材64、65を、その圧縮方向を左右方向に傾けて設ける傾斜形態と、その圧縮方向を上下方向とする平置形態で設けると共に、これ等防振部材を介して支持するエンジンの所定以上の前後方向の振れを規制するマウントストッパを備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャーシのサイドメンバーを構成する左右の側板と、この左右の側板の内側に夫々設ける前後のシャーシ側ブラケットと、縦置きエンジンの前部と後部の左右寄りに夫々設けるエンジン側ブラケットの間に防振部材を介装して、エンジンを左右の側板に防振支持する際に、前記エンジンの前部左右寄りと後部左右寄りを支持する夫々の防振部材を、その圧縮方向を左右方向に傾けて設ける傾斜形態と、その圧縮方向を上下方向とする平置形態で設けると共に、前記防振部材を介して支持するエンジンの所定以上の前後方向の振れを規制するマウントストッパを備えることを特徴する作業車両。
【請求項2】
前記縦置きエンジンは、そのシリンダブロックの前部側にギヤケースや冷却ファンを設け、また、このシリンダブロックの後部側にリヤプレートやフライホイールを設けると共に、前記エンジンの前部左右寄りに設けるエンジン側ブラケットをシリンダブロックの前部左右下端寄りに取付けて、前記傾斜形態で設ける防振部材をシリンダブロックの前方側に設け、さらに、エンジンの後部左右寄りに設けるエンジン側ブラケットをシリンダブロックの後部左右下端寄りに取付けて、前記平置形態で設ける防振部材をリヤプレートやフライホイールを避けたシリンダブロックの外方側に設けることを特徴する請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記マウントストッパは、前記平置形態で設ける左右の防振部材に夫々一体に組込んで、エンジンの前後方向の振れを規制することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の作業車両。
【請求項4】
前記平置形態で設ける左右の防振部材、或いはこの防振部材を取付けるエンジン側ブラケットの外端部を左右の側板の内側に近接させて設け、この近接する防振部材、或いはエンジン側ブラケットの外端部が左右の側板に当接した際に、エンジンのその以上の左右方向の振れを規制することを特徴とする請求項3に記載の作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用型の芝刈機又は草刈機、農業用トラクタ、或いは田植機等の作業車両に関し、詳しくは、走行装置や作業装置等を駆動する動力源となるエンジンを作業車両の骨格となるシャーシ(機体フレーム)に搭載する際のマウント装置(エンジンマウント)に関する。
【背景技術】
【0002】
農業用のトラクタ等の作業車両は、シャーシに動力源となるエンジンやトランスミッション等を設けて作業走行を行う。なお、この場合、シャーシはサイドメンバーを構成する前後方向に延びる左右一対の縦枠をクロスメンバーを構成する複数の横枠で連結して枠組みし、曲げおよびねじりに対する強度と剛性を確保する。
【0003】
また、シャーシはその前部寄りにエンジンやその補器類を搭載すると共に、エンジンの下方となるシャーシにフロントアクスルケースを左右揺動自在に取付け、このフロントアクスルケースに設ける前車軸は左右の前輪を駆動する。さらに、シャーシの後部寄りにトランスミッションケースを取付け、このトランスミッションケースの左右にはリアアクスルケースを設け、リアアクスルケースに軸支する後車軸は左右の後輪を駆動する。
【0004】
そして、このように構成する作業車両のエンジンは、そのクランクシャフトが車体前後方向を向く縦置きにレイアウトすることが多く、このようにエンジンを縦置きにすると、後方に設けるトランスミッションにエンジンからドライブシャフト等を介して真っすぐ後ろに動力を伝達し易くなって、動力伝達系をシンプルに構成することができる(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
ところで、これらの比較的小型の作業車両の場合、車体を出来るだけコンパクトに纏めて軽量化を行い安価にユーザーに提供できるようにすることが望ましい。そこで、前述のシャーシにしてもその幅や長さを出来るだけ短くして重量の軽減を図り車体のコンパクト化に貢献する必要がある。
【0006】
しかし、シャーシの後部寄りに設けるトランスミッションケースは、その左右の縦枠にトランスミッションケースを左右から挟み込むように取付け、トランスミッションケース自体をシャーシのクロスメンバーとして用いることが多い。そのため、シャーシの左右の縦枠を加工工数を削減するために直線状の平行する側板で形成すると、シャーシの幅は全長に亘って専ら左右の側板を取付けるトランスミッションケースの幅に基づいて決定されるといった制約がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のように、作業車両はエンジンやトランスミッション等をシャーシに設けており、この場合、特許文献1に開示されていることでも明らかなように、エンジンはシャーシに防振ゴム等の防振部材を介して搭載する。そして、このようにエンジンを防振支持して搭載することによってエンジンの振動がシャーシを介して車体全体に伝わるのを低減して作業者の乗り心地等を改善する。
【0009】
なお、エンジンの回転運動によるエンジン自体の揺れ(振れ)は、エンジンを横置きにすると前後方向に発生し易いが、縦置きにするとエンジン自体の揺れは左右方向に発生し易い。そのため、前述のようにシャーシにエンジンを防振部材を介して縦置きする際には、エンジンの前部左右寄りと後部左右寄りを支持する夫々の防振部材を、その圧縮方向を左右方向に傾けて設けることによって、防振部材がエンジンの揺れを受け止め易くしてエンジンの周辺に設ける機器との当接を防止する。
【0010】
しかし、上述のように防振部材をその圧縮方向を左右方向に傾けて設けると、例えば防振部材をその圧縮方向を上下方向として平置きする場合に比べて防振部材の配置スペースが増大する。一方、車体のコンパクト化を図るためにシャーシの幅をトランスミッションケースの幅と同等となすと、シャーシの左右のサイドメンバー間にエンジンを収めることはできても、傾斜する防振部材をエンジンの側方に設けて、これを左右のサイドメンバー間に収めることが困難となる。
【0011】
そこで、特許文献1では、傾斜させて設ける防振部材をシャーシの左右のサイドメンバーの上方に設けて防振部材の配置スペースを左右外方側に拡げて確保するが、これによると防振部材のエンジンに対する取付高さにもよるが、その実施形態に示されるように防振部材をエンジンの下部寄りに設けるとエンジンの配置高さが相対的に高くなり、それによって作業車両の重心が高くなって機体が転倒し易くなるといった問題や、後方に設ける運転席からの前方視界が悪化するといった問題がある。
【0012】
また、係る問題を解決するためにエンジンを搭載する箇所のシャーシ幅を部分的に拡げて、防振部材の配置スペースを確保することが考えられるが、シャーシの左右のサイドメンバー間の幅を部分的に拡げるとシャーシの重量、加工工数、強度上の何れの面でも不利となってコストアップを免れない。ところで、エンジンの揺れはエンジン自体の回転運動に伴う起振力による他、例えば車両を急発進・急停止させたり、傾斜地での作業や路面の凹凸等の外力によっても発生する。
【0013】
そこで、このエンジンの前後方向の振れや左右方向に対する過度の振れを防止するために特許文献1では、エンジン側ステー及びフレーム側ステーに挟持される振動吸収部材を備え、また、エンジン側ステーに規制ピンを、そして、フレーム側ステーには規制ピンが挿通されるスリットを設けて、エンジンのローリング方向の揺動に加えて前後方向の揺動も規制することが記載されている。
【0014】
従って、係る振れ防止構造を採用することによってエンジンの過度の振れを規制することができる。しかし、このものではエンジン側やフレーム側のステーに規制ピンやスリット等を設ける必要があり、ステー自体の製作費がアップするという問題があって俄かに採用し難く、改善の余地が残されている。
【0015】
そこで、本発明は、前述のような問題点に鑑み、シャーシの左右側板に設けるブラケットと、縦置きエンジンに設けるブラケットの間に防振部材を介装し、エンジンを左右の側板に防振支持する際に、この防振部材の配置形態を見直すことによって、左右の側板の内側にエンジンとともに防振部材を設けてエンジンを効果的に防振支持すると共に、エンジンの過度の振れも安価に規制することができる作業車両を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の作業車両は、前述の課題を解決するために第1に、シャーシのサイドメンバーを構成する左右の側板と、この左右の側板の内側に夫々設ける前後のシャーシ側ブラケットと、縦置きエンジンの前部と後部の左右寄りに夫々設けるエンジン側ブラケットの間に防振部材を介装して、エンジンを左右の側板に防振支持する際に、前記エンジンの前部左右寄りと後部左右寄りを支持する夫々の防振部材を、その圧縮方向を左右方向に傾けて設ける傾斜形態と、その圧縮方向を上下方向とする平置形態で設けると共に、前記防振部材を介して支持するエンジンの所定以上の前後方向の振れを規制するマウントストッパを備えることを特徴する。
【0017】
また、本発明の作業車両は第2に、前記縦置きエンジンは、そのシリンダブロックの前部側にギヤケースや冷却ファンを設け、また、このシリンダブロックの後部側にリヤプレートやフライホイールを設けると共に、前記エンジンの前部左右寄りに設けるエンジン側ブラケットをシリンダブロックの前部左右下端寄りに取付けて、前記傾斜形態で設ける防振部材をシリンダブロックの前方側に設け、さらに、エンジンの後部左右寄りに設けるエンジン側ブラケットをシリンダブロックの後部左右下端寄りに取付けて、前記平置形態で設ける防振部材をリヤプレートやフライホイールを避けたシリンダブロックの外方側に設けることを特徴する。
【0018】
さらに、本発明の作業車両は第3に、前記マウントストッパは、前記平置形態で設ける左右の防振部材に夫々一体に組込んで、エンジンの前後方向の振れを規制することを特徴とする。
【0019】
そして、本発明の作業車両は第4に、前記平置形態で設ける左右の防振部材、或いはこの防振部材を取付けるエンジン側ブラケットの外端部を左右の側板の内側に近接させて設け、この近接する防振部材、或いはエンジン側ブラケットの外端部が左右の側板に当接した際に、エンジンのその以上の左右方向の振れを規制することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の作業車両によれば、シャーシのサイドメンバーを構成する左右の側板と、この左右の側板の内側に夫々設ける前後のシャーシ側ブラケットと、縦置きエンジンの前部と後部の左右寄りに夫々設けるエンジン側ブラケットの間に防振部材を介装して、エンジンを左右の側板に防振支持する際に、前記エンジンの前部左右寄りと後部左右寄りを支持する夫々の防振部材を、その圧縮方向を左右方向に傾けて設ける傾斜形態と、その圧縮方向を上下方向とする平置形態で設けると共に、前記防振部材を介して支持するエンジンの所定以上の前後方向の振れを規制するマウントストッパを備えるから、左右の側板の内側にエンジンの下部とともに防振部材を設けてエンジンを効果的に防振支持することができると共に、マウントストッパを備えてエンジンの前後方向の振れを規制し、エンジンの周辺に設ける機器との当接を確実に防止することができる。
【0021】
より詳細には、全ての防振部材をその圧縮方向を左右方向に傾けて設けると、防振部材の配置スペースの増大によって、シャーシの左右の側板の間にエンジンの下部と共に防振部材を設けることができず、傾斜する防振部材を側板の上方に設けるといった対策を取らざるを得ない。しかし、エンジンの前部左右寄りと後部左右寄りを支持する夫々の防振部材を、その圧縮方向を左右方向に傾けて設ける傾斜形態と、その圧縮方向を上下方向とする平置形態に分けると、例えば傾斜形態で設ける防振部材をエンジンの下部寄りに存在する前方側又は後方側の空きスペースを利用して当該箇所に防振部材を設けることができる。
【0022】
また、前方側及び後方側に空きスペースが無く傾斜形態の防振部材では設けることができない防振部材であっても、配置スペースの少ない平置形態に変えればこの防振部材をエンジンの下部寄りの外方側に設けることができる。そして、このように防振部材の配置形態を2つに分けると、エンジンの前部左右寄り又は後部左右寄りに設ける傾斜形態の防振部材はエンジンの支持と共にエンジンの左右方向の振れを受け止めることができ、また、他方の平置形態の防振部材はエンジンの左右方向の振れを防止することはあまり期待できないものの、比較的寸法の小さいサイズの防振部材を用いてもエンジンの重量を確実に支持することができる。
【0023】
従って、エンジンマウントにおける防振、制振、支持機能を2つの配置形態の防振部材に振り分けて備えさせ、エンジンを効果的に防振支持することができる。なお、この場合、エンジンの前後方向の過度の振れは傾斜形態や平置形態の防振部材では抑え難い。そこで、係る前後方向の振れに対してはマウントストッパを備えることによって、エンジンの周辺に設ける機器との当接を確実に防止することができる。
【0024】
また、本発明の作業車両によれば、前記縦置きエンジンは、そのシリンダブロックの前部側にギヤケースや冷却ファンを設け、また、このシリンダブロックの後部側にリヤプレートやフライホイールを設けると共に、前記エンジンの前部左右寄りに設けるエンジン側ブラケットをシリンダブロックの前部左右下端寄りに取付けて、前記傾斜形態で設ける防振部材をシリンダブロックの前方側に設け、さらに、エンジンの後部左右寄りに設けるエンジン側ブラケットをシリンダブロックの後部左右下端寄りに取付けて、前記平置形態で設ける防振部材をリヤプレートやフライホイールを避けたシリンダブロックの外方側に設けると、前述のように左右の側板の内側にエンジンの下部とともに防振部材を設けてエンジンを効果的に防振支持することができる。
【0025】
より詳細には、縦置きエンジンは、そのシリンダブロックの前部側にギヤケースや冷却ファンを設けるが、これ等のギヤケースや冷却ファンの下方の左右側には若干の空きスペースを生ずる。そこで、シリンダブロックの前方側となるこの空きスペースに左右の防振部材を傾斜させて設ける。なお、この場合、左右の側板の内側に左右の前シャーシ側ブラケットを設ける共に、左右のエンジン側ブラケットをシリンダブロックの前部左右下端寄りに取付けて、両ブラケットの間に左右の防振部材を介装する。
【0026】
一方、エンジンのシリンダブロックの後部側に設けるリヤプレートやフライホイールは大径となしており元々幅狭とする左右の側板との間には僅かな隙間しかなく、ここに左右の防振部材を設けることができない。しかし、これ等の前方となるエンジンのシリンダブロックと左右の側板との間には平置形態の防振部材を設けることができるスペースがある。そこで、左右の側板の内側に左右の後シャーシ側ブラケットを設ける共に、左右のエンジン側ブラケットをシリンダブロックの後部左右下端寄りに取付けて、両ブラケットの間に平置形態で左右の防振部材を介装する。
【0027】
なお、エンジンのシリンダブロックの後部側に設けるリヤプレートやフライホイールの後方側であれば、左右の防振部材を傾斜形態であっても設けることができる空きスペースがある。しかし、係る箇所に防振部材を設けるためにはエンジン側ブラケットをシリンダブロックやリヤプレートからフライホイールを迂回させて設ける必要があって、この場合、エンジン側ブラケットを後方に延長すべく強度アップを図り、それ自体の重量の増大が懸念されるから、係るマウント構造は一概に採用し難い。
【0028】
さらに、本発明の作業車両によれば、前記マウントストッパは、前記平置形態で設ける左右の防振部材に夫々一体に組込んで、エンジンの前後方向の振れを規制するから、エンジン側ブラケットやシャーシ側ブラケットにマウントストッパとして機能させる部材や加工を施す必要がなく、簡単に又安価にエンジンの前後方向の振れを規制することができる。より詳細には、平置形態で設ける左右の防振部材はストッパ付きの角型の防振ゴムを用い、この防振ゴムのボルトを備える上下の取付金具の両端部は上方と下方に湾曲させ、各々の両端部が所定の隙間を隔てて重なるように対向させて設ける。
【0029】
そして、この防振ゴムの上下取付金具の両端部が前後方向に位置するようにエンジン側ブラケットとシャーシ側ブラケットに取付け、エンジンが前後方向に過度に振れて上下取付金具の対向する両端部が緩衝突起を介して当接すると、それ以上のエンジンの振れが規制される。従って、平置形態で設ける左右の防振部材自体を用いてエンジンの前後方向の振れを確実に規制することができる。
【0030】
また、本発明の作業車両によれば、前記平置形態で設ける左右の防振部材、或いはこの防振部材を取付けるエンジン側ブラケットの外端部を左右の側板の内側に近接させて設け、この近接する防振部材、或いはエンジン側ブラケットの外端部が左右の側板に当接した際に、エンジンのその以上の左右方向の振れを規制するから、エンジンの周辺に設ける機器との当接を確実に防止することができる。
【0031】
そして、この場合、エンジンの左右方向の振れの規制は新たに規制部材を設ける必要がなく、エンジンを防振支持する左右の側板と、防振部材例えば、エンジン側ブラケットに対する防振部材の取付金具やエンジン側ブラケットの外端部をストッパの当接部としてそのまま利用するだけであるから、極めて簡素にマウントストッパを構成してコストアップを生ずること無くエンジンの振れを規制することができる。
【0032】
なお、傾斜形態で設ける左右の防振部材側のエンジンの左右方向の振れはマウントストッパを用いて規制していないが、この側は元々左右の防振部材を傾斜形態で設けることによってエンジンの左右方向の振れを防振部材自体で抑制するものであるから、エンジンの左右方向の振れの規制を積極的に行う必要はない。しかし、万が一のために例えば、エンジン側ブラケットに左右側板に向かう規制部を設けて、この規制部の側板との当接によってエンジンのその以上の左右方向の振れを規制するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図2】エンジンを搭載した車体前部寄りの斜視図である。
【
図3】バッテリやカバー等を取外した状態の車体前部寄りの斜視図である。
【
図5】シャーシにエンジンを搭載した状態を示す底面図である。
【
図6】シャーシにエンジンやトランミッションを搭載する状態を示す斜視図である。
【
図8】傾斜形態で設ける防振部材の取付状態を示す正面図である。
【
図9】平置形態で設ける防振部材の取付状態を示す背面図である。
【
図10】エンジンマウント構造を示す平面図である。
【
図11】左エンジンマウント構造を示し、(a)は側面図、(b)は平面図、(c)は正面図、(d)は背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1及び
図6に示すように作業車両としての農業用のトラクタ1は、サイドメンバーを構成する前後方向に延びる長尺な左右の縦枠とクロスメンバーを構成する複数の横枠とを結合して枠組みするシャーシ2を備える。そして、この場合、シャーシ2の縦枠は鋼板等で形成する所定の厚さtと幅と長さを備える左右の側板3をベースに構成し、この左右の側板3はその板面を互いに対向させて平行に設け、横枠となる前面板4やピボットフレーム5等によって所定のシャーシ幅(間隔)Wを備える。
【0035】
また、左右の側板3の前部寄りには水冷4サイクル3気筒ディーゼルエンジンで構成するエンジン6を後述するように防振支持して搭載すると共に、左右の側板3の後部寄りにはクロスメンバーとしても機能するトランスミッションケース7を、その外側面を左右の側板3によって左右から挟み込むようにボルトで連結し、全体としてトラクタ1の車体を構成する。そして、この車体の前部寄り設けるピボットフレーム5には
図4に示すようにフロントアクスルケース8を左右揺動自在に取付け、また、フロントアクスルケース8の左右端にはファイナルケースを設け、係るファイナルケースに軸支する前車軸に左右の前輪9を取付ける。
【0036】
さらに、車体の後部寄りに設けるトランスミッションケース7の左右下部寄りにリアアクスルケース10を取付け、このリアアクスルケース10に軸支する後車軸11に左右の後輪12を取付ける。そして、トランスミッションケース7の前部寄りに取付ける静油圧式無段変速装置(HST)13は、エンジン6の後部側に設ける出力軸からドライブシャフト14とカップリング15を介して駆動し、また、トランスミッションケース7内に設ける歯車式の副変速装置は主変速装置を構成する静油圧式無段変速装置13が変速した動力を更に多段に変速する。
【0037】
そして、このように変速する走行系の動力は、トランスミッションケース7内に設ける後輪差動歯車装置に伝達され、この後輪差動歯車装置からリアアクスルケース10に軸支する後車軸11を介して左右の後輪12を駆動する。また、走行系の動力はトランスミッションケース7の前部に設ける前輪動力取出軸16からユニバーサルジョイント17とドライブシャフト18を介してフロントアクスルケース8内に設ける前輪差動歯車装置に伝達され、この前輪差動歯車装置からファイナルケースに軸支する前車軸を介して左右の前輪9を駆動する。
【0038】
一方、静油圧式無段変速装置13の入力軸13aに伝達されたエンジン6の動力は、トランスミッションケース7内に設けるPTOクラッチと減速歯車装置を介してトランスミッションケース7の後部に軸支するリアPTO軸やトランスミッションケース7の中程下部に軸支するミッドPTO軸に伝達し、車体の後部に備えるトップリンク19と左右のロワリンク20からなる三点リンク機構を介して連結するロータリ耕耘装置や、車体の腹下に設けるモーア等の作業装置を駆動する。
【0039】
さらに、前述のエンジン6は
図2乃至
図6、
図8、及び
図9に示すように、その出力軸となるクランクシャフト21を車体前後方向を向く縦置きとしてシャーシ2に搭載し、そのエンジン本体を構成するシリンダブロック22やシリンダヘッド23の前部側にタイミングギヤケース(ギヤケース)24、ウォーターポンプ25、クーリングファン(冷却ファン)26、ゼネレータ27等を設け、また、シリンダブロック22の後部側にスタータモータアッシ28を取付けるリヤプレート29やフライホイール30を設け、このリヤプレート29の後方側のフライホイール30等は樹脂製のカバー31で覆い、シリンダブロック22の下方にはオイルパン32を設ける。
【0040】
また、シリンダヘッド23のインレットマニホールドとエキゾーストマニホールドに連結するエアクリーナ33とマフラ34をエンジン6の上方の左右に振り分けて配置し、さらに、エンジン6前方のシャーシ2上にラジエータブラケット35と電装ブラケット36を立設する底板37を設け、これ等のブラケット35、36にラジエータ38とリレー等の電装品39を取付けて設ける。また、底板37の前方寄り中央に矩形状の穴37aを設け、この穴37aにバッテリ40を落とし込んで設ける。
【0041】
そして、エンジン6後方のシャーシ2に門型のコラムフレーム41を立設し、このコラムフレーム41には上部にステアリングホイール42を、また下方にパワーステアリングユニット43を備えるステアリングコラム44を始め、メータパネルユニット45やエンジンコントロールレバー等を取付け、これらをパネルカバー46とリヤパネルカバー47で覆う。また、コラムフレーム41の上部にヒンジ48を設け、このヒンジ48にエンジン6やエンジン6の補器類を覆うボンネット49をその前部側が開閉自在に取付ける。
【0042】
さらに、コラムフレーム41の後方側にはエンジン6から静油圧式無段変速装置13やトランスミッションケース7からフロントアクスルケース8に動力を伝達するドライブシャフト14、18等の上方をカバー50で覆うと共に、そのカバー50の左右となる側板3に外方側に張出す前後のステー3a、3bを固着し、この前後のステー3a、3bに亘って左右のステップ51を取付けて設ける。なお、側板3に基部を軸支するブレーキペダル52は左ステップ51の前部寄りの開口を通してステップ上に臨ませて設け、静油圧式無段変速装置13を変速操作する前進ペダルと後進ペダルは右ステップ51の前部寄りに設ける。
【0043】
また、トランスミッションケース7の上部に取付けてリフトアーム53を軸支する油圧ケース54の上方にシートブラケット55を介して運転席56を取付け、操縦部をエンジン6後方の車体後半部に設ける。さらに、左右の側板3の後端部に門型の脚柱57を取付け、この脚柱57の上部左右寄りに左右の下部支柱58aを取付け、また、左右の下部支柱58aの上部に逆U字状のロールバー58bを可倒自在に取付けて、運転席56に座って運転操作する作業者のための安全フレーム58を構成する。
【0044】
そして、運転席56の下方側から後輪12の上方側を覆う左右のフェンダ59にかけて設けるカバー60には、その開口を通してトランスミッションケース7内に設ける副変速装置を変速操作する走行副変速レバー61や作業装置を昇降させる油圧昇降レバー、或いはPTOクラッチスイッチ62等を設け、さらに、運転席56の後方にはトラクタ1に装着する作業装置の油圧機器を作動させるための複数の外部油圧取出コネクタ63を設ける。
【0045】
以上、トラクタ1の概要について説明したが、次に左右の側板3の前部寄りにエンジン6を防振支持して搭載するエンジンマウント装置について説明すると、先ず、前述のようにシャーシ2のサイドメンバーを構成する左右の側板3は、その後部寄りにトランスミッションケース7を左右から挟み込んでボルトで取付けて設け、この場合、トランスミッションケース7はシャーシ2の強度を高めるクロスメンバーとして機能する。
【0046】
そして、この場合、左右の側板3にトランスミッションケース7を直接的に取付けた場合、左右の側板3の間の幅(内幅)はトランスミッションケース7の当該箇所における幅となる。また、係る幅を備える左右の側板3にエンジン6を防振支持して搭載する場合に、左右の側板3の間の幅が不足して左右の側板3の間の幅を拡げるとすると、左右の側板3とトランスミッションケース7の間に隙間を生じて、これを防止するために余分なスペーサ等を両者の間に介在させる必要が生じると共に、前面板4等の他のクロスメンバーの幅もそれに合わせて拡げることになってシャーシ2が全体的に大型化する。
【0047】
なお、左右の側板3の間の幅を前後方向に一律ではなく部分的に変更することも考えられるが、その場合に例えば、左右の側板3の幅を拡げたい箇所で一旦切断し、この切断した側板3の角度を変えて次々と溶着しながら製作したり、左右の側板3の幅を拡げたい箇所で折り曲げながら製作すると、側板3の重量が角度変化や曲げによって増すと共に、その加工工数が必要となって多大な費用が発生する。さらに、接合部や曲げ部に応力が集中して強度不足となり易く、係る部位に補強部材等を別に設ける必要が生じたりする。
【0048】
そこで、係る事態を避けるためにシャーシ2の幅、この場合、左右の側板3の間の幅は専らトランスミッションケース7の幅に基づいて決定し、最終的に左右の側板3はこの幅のまま前後方向に平行する直線状になして、シャーシ2の軽量化とコンパクト化を図る。従って、防振支持して搭載するエンジン6は、この制約された幅を備える左右の側板3の前部寄りに設ける必要がある。
【0049】
また、前述のようにシャーシ2に縦置きするエンジン6は、その回転運動によるエンジン自体の揺れ(振れ)が左右方向に発生し易く、特にエンジン始動時等の低回転時にはその加振力によってエンジン6が大きく左右に振れるという問題がある。また、トラクタ1はその作業を効率的に行うためにエンジン6の回転数を例えば、定格回転数に至る推奨される作業回転数に合わせて作業を行うことが多く、この場合はエンジン6が自ら大きく振動することはないが、この際にもエンジン6の振動がシャーシ2を介して車体全体に伝わるのを防止して作業者の乗り心地を改善する必要がある。
【0050】
さらに、トラクタ1は圃場の枕時での旋回のために前後進を繰り返しながら走行を行うことが多く、その場合の急発進や急停止によってエンジン6は車体の前後方向に慣性に基づいて振れることになる。また、傾斜地走行で例えば、その等高線に沿って作業を行う場合にはエンジン6の傾斜によって右又は左に振れた状態となり、或いは圃場の凹凸によってエンジン6が車体と共に右又左、或いは前又は後に傾くことが往々にして発生し、このような外力によるエンジン6の振れにも対応しなければならない。
【0051】
また一方、トラクタ1等の作業車両は農道等の移動走行における転倒事故が多く、安全フレーム58等を常備して転倒に備えるが、係る転倒を防止するために先ず車体の重心を下げる必要があり、この場合、エンジン6もシャーシ2に対して可能な限り低位置で支持して車体の転倒角を大きくする必要がある。また、エンジン6はそのボンネット49を含めて運転席56からの作業者の前方視界を阻害する要因となり、さらに、エンジン6を含めてシャーシ2の幅が広いと外側方に設ける前輪9の最大操舵角を大きく取れなかったり、前輪9の操舵状態を運転席56から確認し難くなり、エンジン6やシャーシ2は可能な限りコンパクトに纏める必要がある。
【0052】
そこで、このような問題に鑑み、シャーシ2の左右側板3に設けるブラケットと、縦置きエンジン6に設けるブラケットの間に防振部材64、65を介装し、エンジン6を左右の側板3に防振支持する際に、この防振部材64、65の配置形態を見直すことによって、左右の側板3の内側にエンジン6とともに防振部材64、65を設けてエンジン6を効果的に防振支持すると共に、エンジン6の過度の振れも安価に規制することができるトラクタ1を提供する。
【0053】
そのため、先ず
図6、
図10、及び
図11に示すように、エンジン6を防振支持する左右の側板3の前部寄りの内側に、前後のシャーシ側ブラケット66、67を所定の前後間隔をあけて固着(溶着)して設ける。そして、この場合、左右2つの前シャーシ側ブラケット66はく字状に折曲げて形成する上平板部66aを夫々の側板3の内側の内面中程に固着し、また、下平板部66bを左右(水平)方向から内側下方に向けて約30度傾けて設け、更にその中央部に長手方向を左右方向とする長穴66cを備え、係る左右の下平板部66bをエンジン6の前部左右寄りを防振部材64を介して支持する前支持部に構成する。
【0054】
また、左右2つの後シャーシ側ブラケット67は直角に折曲げて形成する前平板部67aと後平板部67bの一側の端面を夫々の側板3の内側の内面中程に固着し、また、後平板部67bをその板面が水平となるように設け、更に後平板部67bの中央部に長手方向を前後方向とする長穴67cを備え、係る左右の下平板部67bをエンジン6の後部左右寄りを防振部材65を介して支持する後支持部に構成する。
【0055】
一方、エンジン6には、その前部と後部の左右寄りに夫々エンジン側ブラケット68、69をボルトで取付けて設ける。そして、この場合、左右2つの前エンジン側ブラケット68は直角に折曲げて形成する後平板部68aの後部に鉛直板68dを固着し、この後平板部68aと鉛直板68dによってエンジン6の前部左右寄りに取付ける前取付部を構成し、また、前平板部68bを左右(水平)方向から内側下方に向けて約30度傾けて設け、更に前平板部68bの中央部に前後方向に2つのボルト通し穴68cを設けて、防振部材64に対する前取付部を構成する。なお、68eは補強プレートである。
【0056】
また、左右2つの後エンジン側ブラケット69はエンジン6の後部左右寄りに取付ける後取付部を構成する鉛直板69aを前後方向として設け、また、この鉛直板69aに略U字状に折曲げた平板69bを前後方向に固着し、更に平板69bの中央部にボルト通し穴69cを設けて、防振部材65に対する後取付部を構成する。
【0057】
そして、このように形成する左右の前エンジン側ブラケット68は
図4、
図5、及び
図8に示すように、その前取付部を構成する後平板部68aと鉛直板68dをエンジン6のシリンダブロック22の前部左右下端寄りの前面と側面にボルトで取付け、その防振部材64に対する前取付部はシリンダブロック22の前方側に位置させる。また、左右の後エンジン側ブラケット69は
図4、
図5、及び
図9に示すように、その後取付部を構成する鉛直板69aをエンジン6のシリンダブロック22の後部左右下端寄りの側面にボルトで取付け、その防振部材65に対する後取付部を構成する平板69bはシリンダブロック22の外方側に位置させる。
【0058】
一方、左右の前シャーシ側ブラケット66と左右の前エンジン側ブラケット68に取付ける防振部材64は丸型の両ネジタイプの防振ゴムを用い、この防振ゴムの下取付金具64aは下方に向かうボルト64bを備え、上取付金具64cは防振ゴムの外周側となる前後位置に上方に向かう2つのボルト64d、64eを備える。
【0059】
また、左右の後シャーシ側ブラケット67と左右の後エンジン側ブラケット69に取付ける防振部材65は角型(直方体)の両ネジタイプの防振ゴムを用い、この防振ゴムの下取付金具65aは下方に向かうボルト65bを備える共に、その下取付金具65aの両端部を上方に折曲げて受部65c、65dを設ける。また、防振ゴムの上取付金具65eは上方に向かうボルト65fを備える共に、その上取付金具65eの両端部を下方に折曲げ、その曲げ部65g、65hの内面側に端面に沿う水平方向となる緩衝突起65i、65jをラバーコーティングによって一体成型する。
【0060】
そのため、係る防振部材65は、その角型の防振ゴムにその長手方向となる横方向に向かうせん断力が加わると、一方の緩衝突起65iと受部65c、或いは他方の緩衝突起65jと受部65dが当接してそれ以上の相対的な変位を阻止するマウントストッパを備える防振部材(マウントストッパ付き防振部材)となっている。
【0061】
そして、このように構成する前者の防振部材64は、前エンジン側ブラケット68の前平板部68bの下面に上取付金具64cの上面が重なるように、夫々の2つのボルト通し穴68cにボルト64d、64eを通して上方からナットで締結して取付ける。また、エンジン6を上方から降ろして、防振部材64の下取付金具64aに設けるボルト64bを前シャーシ側ブラケット66の長穴66cに通して下方からナットで締結して取付ける。
【0062】
さらに、後者の防振部材65は、後エンジン側ブラケット69の平板69bの下面に上取付金具65dの上面が重なるように、ボルト通し穴69cにボルト65eを通して上方からナットで締結して取付け、その際、防振部材65はその角型の防振ゴムの長手方向が平板69bの長手方向と一致するように平板69bに沿わせて設ける。また、エンジン6を上方から降ろして、防振部材65の下取付金具65aに設けるボルト65bを後シャーシ側ブラケット67の長穴67cに通して下方からナットで締結して取付ける。
【0063】
なお、エンジン6を上方から降ろして防振部材65を後シャーシ側ブラケット67に取付ける際に、防振部材65がその取付時のエンジン6等の傾きによってせん断方向(前後方向)に振れている場合があり、この場合には一方の緩衝突起65iと受部65c、また、他方の緩衝突起65jと受部65dとの間の隙間が正しく確保されて防振部材65が適正に取付けられていないことになる。
【0064】
そこで、このような取付けを防止するために一方の緩衝突起65iと受部65c、又は他方の緩衝突起65jと受部65dとの間に適正な隙間に相当する厚さのリーフを差し込んで、下取付金具65aに設けるボルト65bの長穴67cの前後方向における取付位置を調節したうえでナットの締結を行う。なお、この場合、隙間にリーフを下方から差し込みし易くするために、後シャーシ側ブラケット67の後平板部67bの後端を、防振部材65の取付時の下取付金具65aの受部65dより後方側にはみ出さないように前方側の位置に止め置く。
【0065】
以上、エンジンマウントに関するシャーシ2側とエンジン6側に設けるブラケット66~69、防振部材64、65、及びこれ等の取付けの詳細について説明したが、次に、エンジン6を縦置きとしてシャーシ2に防振支持する際の、特に防振部材64、65の配置形態から本発明のエンジンマウントについて纏めて説明すると、縦置きエンジン6の前部左右寄りを支持する夫々の防振部材64は、その圧縮方向を左右方向に傾けて設ける傾斜形態で設け、また、縦置きエンジン6の後部左右寄りを支持する夫々の防振部材65は、その圧縮方向を上下方向とする平置形態で設ける。
【0066】
より詳細に説明すると
図8に示すように、エンジン6の前部左右寄りを支持する防振部材64は、その防振ゴムの圧縮軸Zとして左右方向とする水平線を上下方向に約60度傾けた方向に設ける。また、望ましくは左右の防振部材64の防振ゴムの2つの圧縮軸Zが交わる交点Gが、エンジン6の重心を通る前後方向の軸線上に位置するように互いに傾けて対向させて設ける。そのため、左右の防振部材64は、縦置きエンジン6の左右方向の振れに対する防振支持効果と、上下方向となるエンジン6の重量を支える防振支持効果を合わせて期待することができる。
【0067】
一方、
図9に示すように、エンジン6の後部左右寄りを支持する防振部材65は、その防振ゴムの圧縮軸Zを上下方向に設け、せん断軸Xを前後方向や左右方向に設ける。そのため、左右の防振部材65は、縦置きエンジン6の前後方向や左右方向の振れに対する防振支持効果はあまり期待することができないが、上下方向となるエンジン6の重量を支える防振支持効果は大である。
【0068】
従って、この傾斜形態で設けるエンジン6の前部左右寄りを支持する防振部材64と平置形態で設けるエンジン6の後部左右寄りを支持する防振部材65によって、エンジンマウントにおける防振、制振、支持機能を配置形態の異なる防振部材64、65に振り分けて備えさせ、エンジン6を効果的に防振支持することができる。
【0069】
また、エンジンマウントについて冒頭で説明するように、エンジン6の前部左右寄りと後部左右寄りを支持する防振部材64、65を全て傾斜形態で設けると、防振部材64、65の傾斜に伴う左右方向の配置スペースの増大によって、シャーシ2の左右の側板3の間にエンジン6の下部と共に防振部材64、65を設けることができず、傾斜する防振部材64を側板3の上方に設けるといった対策を取らざるを得ない。
【0070】
しかし、エンジン6の前部左右寄りと後部左右寄りを支持する夫々の防振部材64、65を、その圧縮方向を左右方向に傾けて設ける傾斜形態と、その圧縮方向を上下方向とする平置形態に分けると、傾斜形態で設ける防振部材64をエンジン6の下部寄りに存在する空きスペース、詰まり、エンジン6のシリンダブロック22の前部側、又はエンジン6の配置方向によっては後部側に設けるギヤケース24や冷却ファン26の下方となるシリンダブロック22の前方、又は後方に設けることができる。
【0071】
また、空きスペースが無く傾斜形態では設けることができない防振部材65であっても、配置スペースの少ない平置形態に変えればこの防振部材65をエンジン6の下部の外方側、詰まり、エンジン6のリヤプレート29やフライホイール30を避けたシリンダブロック22の外方側に設けることができる。
【0072】
従って、シャーシ2の左右側板3にエンジン6を防振支持する際に、この防振部材64、65の配置形態を見直すことによって、左右の側板3の内側にエンジン6とともに防振部材64、65を設けることができるようになり、しかも、その場合に可能な限りエンジン6の高さを低く抑えて、運転席56からの前方視界の悪化や機体の転倒を防止しながら、制約を受けるシャーシ2の幅内にエンジン6を防振支持して、機体の軽量化やコンパクト化を図ることができる。
【0073】
なお、エンジン6の前後方向の過度の振れは、防振部材64、65を傾斜形態や平置形態に設けるだけでは抑え難い。そこで、係る前後方向の過度の振れに対しては、平置形態で設ける左右の防振部材65に夫々マウントストッパ(下取付金具65aの受部65c、65dと上取付金具65eの緩衝突起65i、65j)を一体に組込み、このマウントストッパが前後方向の振れに対して作用するように防振部材65の取付方向を前後方向に合わせて設ける。
【0074】
そのため、エンジン側やシャーシ側ブラケット66~69にマウントストッパとして機能させる部材や加工を施す必要がなく、簡単に又安価にエンジン6の前後方向の過度の振れを規制することができ、これによりエンジン6の周辺に設ける機器との当接を確実に防止することができる。また、エンジン6の左右方向の振れは傾斜形態で設ける防振部材64で防止するものの、左右方向の過度の振れに対して安全性を高めるために、前後方向と同様にマウントストッパを設ける。
【0075】
そして、この場合のマウントストッパは、平置形態で設ける左右の防振部材65の上取付金具65e、或いはこの防振部材65を取付ける後エンジン側ブラケット69の平板69bの外端部を左右の側板3の内側に少ない隙間Sをもって近接させて設け、この近接する防振部材65、或いは後エンジン側ブラケット69の外端部が左右の側板3に当接した際に、エンジン6のその以上の左右方向の振れを規制するから、新たに規制部材を設ける必要がなく極めて簡素な構造によって、エンジン6の周辺に設ける機器との当接を確実に防止することができる。
【0076】
以上、縦置きエンジン6のマウント装置について説明したが、そのエンジン6のレイアウトに関しては実施形態とは逆に、エンジン6のシリンダブロック22の後部側にギヤケース24や冷却ファン26を設け、また、このシリンダブロック22の前部側にリヤプレート29やフライホイール30を設けるようにしてもよい。また、傾斜形態で設ける防振部材64、或いは平置形態で設ける防振部材65は多少前後方向に傾けて設け、これによりエンジン6の前後方向の振れに対する防振支持効果を備えさせてもよい。
【0077】
なお、傾斜形態で設ける左右の防振部材64側のエンジン6の左右方向の振れはマウントストッパを用いて規制していないが、この側は元々左右の防振部材64を傾斜形態で設けることによってエンジン6の左右方向の振れを防振部材64自体で抑制するものであるから、エンジン6の左右方向の振れの規制を積極的に行う必要はない。しかし、万が一のために例えば、前エンジン側ブラケット68に左右側板3に向かう規制部を設けて、この規制部の側板3との当接によってエンジン6のその以上の左右方向の振れを規制するようにしてもよく、必ずしも本発明は、前記実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0078】
1 トラクタ(作業車両)
2 シャーシ
3 側板
6 エンジン
7 トランスミッションケース
64 防振部材(傾斜形態)
65 防振部材(平置形態)
66 前シャーシ側ブラケット
67 後シャーシ側ブラケット
68 前エンジン側ブラケット
69 後エンジン側ブラケット
65i、65j 緩衝突起(マウントストッパ)