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特開2023-150117セラミック電子部品およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150117
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】セラミック電子部品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
H01G4/30 201D
H01G4/30 201C
H01G4/30 311D
H01G4/30 516
H01G4/30 513
H01G4/30 517
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059054
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】荒木 真彦
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AC09
5E001AE02
5E001AE03
5E001AF06
5E001AJ01
5E082AA01
5E082AB03
5E082BC35
5E082EE04
5E082EE23
5E082EE35
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG26
5E082FG46
5E082GG10
5E082GG11
5E082GG28
5E082JJ03
5E082JJ23
5E082PP10
(57)【要約】
【課題】 絶縁性悪化を抑制することができるセラミック電子部品およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 セラミック電子部品は、誘電体層と内部電極層とが交互に積層された積層チップを備え、前記内部電極層は、主成分金属と添加金属とを含み、前記添加金属の原子半径は、前記主成分金属の原子半径よりも40pm以上大きく、前記内部電極層において、前記内部電極層と前記誘電体層との界面における前記主成分金属の界面サイトに対する前記添加金属の固溶エネルギーよりも、前記主成分金属のバルクサイトに対する前記添加金属の固溶エネルギーが2.00eV以上高いことを特徴とする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体層と内部電極層とが交互に積層された積層チップを備え、
前記内部電極層は、主成分金属と添加金属とを含み、
前記添加金属の原子半径は、前記主成分金属の原子半径よりも40pm以上大きく、
前記内部電極層において、前記内部電極層と前記誘電体層との界面における前記主成分金属の界面サイトに対する前記添加金属の固溶エネルギーよりも、前記主成分金属のバルクサイトに対する前記添加金属の固溶エネルギーが2.00eV以上高いことを特徴とするセラミック電子部品。
【請求項2】
前記主成分金属は、Niであり、
前記添加金属は、La,Ce,Eu,Gd,Dy,Ho,Pr,Nd,Pm,Sm,Tb,Er,Tm,Yb,Luの少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項3】
前記内部電極層において、前記添加金属の含有量は、前記主成分金属を100at%と仮定した場合に、0.1at%以上、1.0at%以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセラミック電子部品。
【請求項4】
前記添加金属は、前記内部電極層と前記誘電体層との界面に偏析していることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項5】
前記誘電体層の厚みは、0.05μm以上、5.0μm以下であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項6】
前記内部電極層の厚みは、0.2μm以上、4.0μm以下であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項7】
前記誘電体層の主成分セラミックは、チタン酸バリウムであることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項8】
セラミック粉末を含む誘電体グリーンシート上に、主成分金属粉末および添加金属粉末を含む内部電極パターンが形成された積層単位が積層された積層体を用意する工程と、
前記積層体を焼成することで、前記誘電体グリーンシートから誘電体層を形成し、前記内部電極パターンから内部電極層を形成する工程と、を含み、
前記添加金属の原子半径は、前記主成分金属の原子半径よりも40pm以上大きく、
前記内部電極層において、前記内部電極層と前記誘電体層との界面における前記主成分金属の界面サイトに対する前記添加金属の固溶エネルギーよりも、前記主成分金属のバルクサイトに対する前記添加金属の固溶エネルギーが2.00eV以上高い
ことを特徴とするセラミック電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化に伴い、電子機器に搭載される積層セラミックコンデンサなどのセラミック電子部品についても、さらなる小型化が求められている。基本特性である容量値を大きくするためには、(1)誘電体層の誘電率を大きくする、(2)容量規定面積を大きくする、(3)誘電体層を薄くする、のいずれかの手段が考えられる。誘電率と素子サイズとが既定の場合、誘電体層が薄いほど1層あたりの容量値を大きくできることに加え、誘電体層及び内部電極層を薄くすることにより、既定の厚さ内に積層する数を増やすことが可能となるため、有利となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-7562号公報
【特許文献2】特開2011-23707号公報
【特許文献3】特開2000-269073号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】S.Suzuki,et al.,Appl.Phys.Lett.,2020,116(13),132903.
【非特許文献2】A.V.Polotai,et al.,J.Electroceram.23,6,2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、誘電体層を薄くすると、同じ使用電圧でも誘電体層に印加される電界強度が大きくなるため、絶縁信頼が低下するおそれがある。薄い誘電体層での絶縁信頼性を担保するための方策として、誘電体層に対する濡れ性が悪い貴金属をセラミック原料や内部電極ペーストに添加し、内部電極層と誘電体層との間に添加金属の薄層を形成することが開示されている(例えば、特許文献1~3および非特許文献1,2参照)。
【0006】
内部電極添加金属の界面析出は、内部電極への固溶が難しい、巨大な原子半径を有する金属ほど効果的に析出すると予想される。ランタン(La)は、大きな原子半径を有する金属元素である。Laの界面析出については特許文献3で述べられている。内部電極に焼結制御効果のあるLaを予め添加しておくことで、焼成後にLaが界面に析出する。特許文献3では、Laを酸化物として界面析出させている。この場合、同じく酸化物である誘電体層の構成化合物との親和性が良いため、Laが誘電体層に拡散する。そのため、界面への効果的なLaの薄層形成には十分なLaの添加が必要となり、その添加量増加に伴い絶縁信頼性が悪化する問題が出てくる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、絶縁信頼性悪化を抑制することができるセラミック電子部品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るセラミック電子部品は、誘電体層と内部電極層とが交互に積層された積層チップを備え、前記内部電極層は、主成分金属と添加金属とを含み、前記添加金属の原子半径は、前記主成分金属の原子半径よりも40pm以上大きく、前記内部電極層において、前記内部電極層と前記誘電体層との界面における前記主成分金属の界面サイトに対する前記添加金属の固溶エネルギーよりも、前記主成分金属のバルクサイトに対する前記添加金属の固溶エネルギーが2.00eV以上高いことを特徴とする。
【0009】
上記セラミック電子部品において、前記主成分金属は、Niであり、前記添加金属は、La,Ce,Eu,Gd,Dy,Ho,Pr,Nd,Pm,Sm,Tb,Er,Tm,Yb,Luの少なくともいずれかを含んでいてもよい。
【0010】
上記セラミック電子部品の前記内部電極層において、前記添加金属の含有量は、前記主成分金属を100at%と仮定した場合に、0.1at%以上、1.0at%以下であってもよい。
【0011】
上記セラミック電子部品において、前記添加金属は、前記内部電極層と前記誘電体層との界面に偏析していてもよい。
【0012】
上記セラミック電子部品において、前記誘電体層の厚みは、0.05μm以上、5.0μm以下であってもよい。
【0013】
上記セラミック電子部品において、前記内部電極層の厚みは、0.2μm以上、4.0μm以下であってもよい。
【0014】
上記セラミック電子部品において、前記誘電体層の主成分セラミックは、チタン酸バリウムであってもよい。
【0015】
本発明に係るセラミック電子部品の製造方法は、セラミック粉末を含む誘電体グリーンシート上に、主成分金属粉末および添加金属粉末を含む内部電極パターンが形成された積層単位が積層された積層体を用意する工程と、前記積層体を焼成することで、前記誘電体グリーンシートから誘電体層を形成し、前記内部電極パターンから内部電極層を形成する工程と、を含み、前記添加金属の原子半径は、前記主成分金属の原子半径よりも40pm以上大きく、前記内部電極層において、前記内部電極層と前記誘電体層との界面における前記主成分金属の界面サイトに対する前記添加金属の固溶エネルギーよりも、前記主成分金属のバルクサイトに対する前記添加金属の固溶エネルギーが2.00eV以上高いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、絶縁信頼性悪化を抑制することができるセラミック電子部品およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】積層セラミックコンデンサの部分断面斜視図である。
図2図1のA-A線断面図である。
図3図1のB-B線断面図である。
図4】内部電極層と誘電体層との境界近傍の詳細を説明するための図である。
図5】積層セラミックコンデンサの製造方法のフローを例示する図である。
図6】(a)および(b)は積層工程を例示する図である。
図7】結晶構造のモデルを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0019】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100の部分断面斜視図である。図2は、図1のA-A線断面図である。図3は、図1のB-B線断面図である。図1図3で例示するように、積層セラミックコンデンサ100は、略直方体形状を有する積層チップ10と、積層チップ10のいずれかの対向する2端面に設けられた外部電極20a,20bとを備える。なお、積層チップ10の当該2端面以外の4面のうち、積層方向の上面および下面以外の2面を側面と称する。外部電極20a,20bは、積層チップ10の積層方向の上面、下面および2側面に延在している。ただし、外部電極20a,20bは、互いに離間している。
【0020】
積層チップ10は、誘電体として機能するセラミック材料を含む誘電体層11と、卑金属材料を含む内部電極層12とが、交互に積層された構成を有する。各内部電極層12の端縁は、積層チップ10の外部電極20aが設けられた端面と、外部電極20bが設けられた端面において、交互に露出している。それにより、各内部電極層12は、外部電極20aと外部電極20bとに、交互に導通している。その結果、積層セラミックコンデンサ100は、複数の誘電体層11が内部電極層12を介して積層された構成を有する。また、誘電体層11と内部電極層12との積層体において、積層方向の最外層には内部電極層12が配置され、当該積層体の上面および下面は、カバー層13によって覆われている。カバー層13は、セラミック材料を主成分とする。例えば、カバー層13の材料は、誘電体層11とセラミック材料の主成分が同じである。
【0021】
積層セラミックコンデンサ100のサイズは、例えば、長さ0.25mm、幅0.125mm、高さ0.125mmであり、または長さ0.4mm、幅0.2mm、高さ0.2mm、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであり、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.110mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.1mmであり、または長さ3.2mm、幅1.6mm、高さ1.6mmであり、または長さ4.5mm、幅3.2mm、高さ2.5mmであるが、これらのサイズに限定されるものではない。
【0022】
誘電体層11は、例えば、一般式ABOで表されるペロブスカイト構造を有するセラミック材料を主成分とする。なお、当該ペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れたABO3-αを含む。例えば、当該主成分セラミックとして、BaTiO(チタン酸バリウム),CaZrO(ジルコン酸カルシウム),CaTiO(チタン酸カルシウム),SrTiO(チタン酸ストロンチウム),MgTiO(チタン酸マグネシウム),ペロブスカイト構造を形成するBa1-x-yCaSrTi1-zZr(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1)等のうち少なくとも1つから選択して用いることができる。Ba1-x-yCaSrTi1-zZrは、チタン酸バリウムストロンチウム、チタン酸バリウムカルシウム、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸カルシウムおよびチタン酸ジルコン酸バリウムカルシウムなどである。
【0023】
図2で例示するように、外部電極20aに接続された内部電極層12と外部電極20bに接続された内部電極層12とが対向する領域は、積層セラミックコンデンサ100において電気容量を生じる領域である。そこで、当該電気容量を生じる領域を、容量領域14と称する。すなわち、容量領域14は、異なる外部電極に接続された隣接する内部電極層12同士が対向する領域である。
【0024】
外部電極20aに接続された内部電極層12同士が、外部電極20bに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域を、エンドマージン15と称する。また、外部電極20bに接続された内部電極層12同士が、外部電極20aに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域も、エンドマージン15である。すなわち、エンドマージン15は、同じ外部電極に接続された内部電極層12が異なる外部電極に接続された内部電極層12を介さずに対向する領域である。エンドマージン15は、電気容量を生じない領域である。
【0025】
図3で例示するように、積層チップ10において、積層チップ10の2側面から内部電極層12に至るまでの領域をサイドマージン16と称する。すなわち、サイドマージン16は、上記積層構造において積層された複数の内部電極層12が2側面側に延びた端部を覆うように設けられた領域である。サイドマージン16も、電気容量を生じない領域である。
【0026】
積層セラミックコンデンサ100を小型化・大容量型化するために、誘電体層11を薄く形成することが好ましい。例えば、1層あたりの誘電体層11の厚みは、0.05μm以上5.0μm以下であり、または0.1μm以上3.0μm以下であり、または0.2μm以上1.0μm以下であり、または0.6μm以下である。誘電体層11の厚みは、積層セラミックコンデンサ100の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、異なる10層の誘電体層11についてそれぞれ10点ずつ厚みを測定し、全測定点の平均値を導出することによって測定することができる。
【0027】
内部電極層12は、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、スズ(Sn)等の卑金属を主成分金属とする。内部電極層12として、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、金(Au)などの貴金属やこれらを含む合金を主成分金属として用いてもよい。内部電極層12の厚みは、例えば、0.2μm以上0.8μm以下であり、0.3μm以上0.8μm以下であり、0.6μm以上0.8μm以下であり、0.8μm以上1.5μm以下、1.5μm以上4.0μm以下である。内部電極層12の厚みは、積層セラミックコンデンサ100の断面をSEMで観察し、異なる10層の内部電極層12についてそれぞれ10点ずつ厚みを測定し、全測定点の平均値を導出することによって測定することができる。
【0028】
本実施形態に係る内部電極層12は、主成分金属に加えて、添加金属を含んでいる。添加金属の少なくとも一部は、金属イオンではなく金属原子として内部電極層12に含まれている。したがって、内部電極層12において、添加金属の全部が金属原子として含まれていてもよく、一部が金属イオンとして含まれていることもある。
【0029】
内部電極層12において、添加金属は、主成分金属よりも大きい原子半径を有する。それにより、添加金属は、内部電極層12と誘電体層11との界面付近に偏析しやすくなる。したがって、本実施形態に係る添加金属は、界面指向の強い金属として機能する。
【0030】
添加金属の原子半径と主成分金属の原子半径との差が小さいと、添加金属が十分に内部電極層12と誘電体層11との界面に偏析しないおそれがある。そこで、本実施形態においては、添加金属の原子半径と主成分金属の原子半径との差に下限を設ける。具体的には、添加金属の原子半径は、主成分金属の原子半径よりも40pm以上大きく、50pm以上大きいことが好ましく、60pm以上大きいことがより好ましい。
【0031】
また、内部電極層12において、内部電極層12と誘電体層11との界面における主成分金属の界面サイトに対する添加金属の固溶エネルギーよりも、主成分金属のバルクサイトに対する添加金属の固溶エネルギーが高くなっている。それにより、添加金属は、内部電極層12と誘電体層11との界面付近に偏析しやすくなる。したがって、本実施形態に係る添加金属は、界面指向の強い金属として機能する。
【0032】
内部電極層12において、内部電極層12と誘電体層11との界面における主成分金属の界面サイトに対する添加金属の固溶エネルギーと、主成分金属のバルクサイトに対する添加金属の固溶エネルギーとの差が小さいと、添加金属が十分に内部電極層12と誘電体層11との界面に偏析しないおそれがある。そこで、本実施形態においては、内部電極層12において、内部電極層12と誘電体層11との界面における主成分金属の界面サイトに対する添加金属の固溶エネルギーと、主成分金属のバルクサイトに対する添加金属の固溶エネルギーとの差に下限を設ける。具体的には、内部電極層12において、内部電極層12と誘電体層11との界面における主成分金属の界面サイトに対する添加金属の固溶エネルギーよりも、主成分金属のバルクサイトに対する添加金属の固溶エネルギーが2.00eV以上高く、2.50eV以上高いことが好ましく、3.00eV以上高いことがより好ましい。
【0033】
内部電極層12と誘電体層11との間の界面付近に添加金属が偏析することで、誘電体層11に含まれる酸素空孔が内部電極層12側に堆積することが抑制される。それにより、誘電体層11の絶縁性が向上する。
【0034】
なお、添加金属が金属イオンではなく金属原子の状態で存在することから、誘電体層11の主成分セラミックへの置換固溶が抑制される。それにより、誘電体層11の絶縁性低下が抑制される。
【0035】
表1は、各元素の原子半径を示す。表1からすると、内部電極層12の主成分金属としてNi,Cuなどを用いる場合には、添加金属元素として、希土類元素を用いることができる。希土類元素として、例えば、La,セリウム(Ce),ユーロピウム(Eu),ガドリニウム(Gd),ジスプロシウム(Dy),ホルミウム(Ho),プラセオジム(Pr),ネオジム(Nd),プロメチウム(Pm),サマリウム(Sm),テルビウム(Tb),エルビウム(Er),ツリウム(Tm),イッテルビウム(Yb),ルテチウム(Lu)などを用いることができる。この原子半径の出展は、The Elements, 3rd edition. Oxford: Clarendon Press, 1998.である。
【表1】
【0036】
内部電極層12において、添加金属の添加量が少ないと、十分に誘電体層11と内部電極層12との界面に添加金属が偏析しないおそれがある。そこで、内部電極層12において、添加金属の含有量に下限を設けることが好ましい。例えば、内部電極層12において、添加金属の含有量は、主成分金属を100at%と仮定した場合に、0.1at%以上であることが好ましく、0.2at%以上であることがより好ましく、0.3at%以上であることがさらに好ましい。
【0037】
一方、内部電極層12において、添加金属の添加量が多いと、添加金属が粒内または粒界に過剰に偏析してしまい、絶縁性が悪化するおそれがある。そこで、内部電極層12において、添加金属の含有量に上限を設けることが好ましい。例えば、内部電極層12において、添加金属の含有量は、主成分金属を100at%と仮定した場合に、1.0at%以下であることが好ましく、0.9at%以下であることがより好ましく、0.8at%以下であることがさらに好ましい。
【0038】
内部電極層12において、添加金属が誘電体層11と内部電極層12との界面付近に多く存在していることが好ましい。図4は、この場合の内部電極層12と誘電体層11との境界近傍の詳細を説明するための図である。例えば、図4で例示するように、内部電極層12は、主成分金属層121が、被覆層122によって覆われた構造を有する。例えば、主成分金属層121の一方の主面(図4では上側の主面)である第1主面上に被覆層122が形成されている。また、主成分金属層121の他方の主面(図4では下側の主面)である第2主面下にも被覆層122が形成されている。なお、被覆層122は、必ずしも主成分金属層121の第1主面および第2主面の全体を覆っていなくてもよく、主成分金属層121の第1主面および第2主面を部分的に覆っていてもよい。
【0039】
被覆層122は、添加金属が偏析する層である。なお、主成分金属層121および被覆層122の各層において、単一の金属だけが存在するわけではなく、各金属が各層に部分的に拡散している。主成分金属層121において、主成分金属は、例えば98at%以上含まれている。主成分金属層121は、被覆層122に含まれる添加金属元素を含んでいてもよい。被覆層122は、主成分金属層121の主成分金属を含んでいてもよい。
【0040】
例えば、積層方向にライン分析を行なうことによって、内部電極層12に被覆層122が形成されていることを確かめることができる。例えば、積層方向に沿った断面のTEM(透過型電子顕微鏡)分析において、誘電体層11と内部電極層12との積層方向に沿って各サンプル点について各成分元素濃度をライン分析した場合に、主成分金属層121の界面から誘電体層11の界面までの間に添加金属の濃度にピークが現れることを確認することができれば、被覆層122が形成されていることを確かめることができる。なお、ノイズを減らすために、ライン分析の際に9点ほどで平均化することで、測定結果を平滑化してもよい。
【0041】
例えば、被覆層122の厚みは、0.5nm以上2.8nm以下であり、0.5nm以上2.0nm以下であり、0.5nm以上1.3nm以下である。なお、被覆層122の厚みは、上記ライン分析で得られた添加金属の濃度ピークにおいて、その半値幅で規定される。
【0042】
続いて、積層セラミックコンデンサ100の製造方法について説明する。図5は、積層セラミックコンデンサ100の製造方法のフローを例示する図である。
【0043】
(原料粉末作製工程)
まず、誘電体層11を形成するための誘電体材料を用意する。誘電体層11に含まれるAサイト元素およびBサイト元素は、通常はABOの粒子の焼結体の形で誘電体層11に含まれる。例えば、BaTiOは、ペロブスカイト構造を有する正方晶化合物であって、高い誘電率を示す。このBaTiOは、一般的に、二酸化チタンなどのチタン原料と炭酸バリウムなどのバリウム原料とを反応させてチタン酸バリウムを合成することで得ることができる。誘電体層11の主成分セラミックの合成方法としては、従来種々の方法が知られており、例えば固相法、ゾル-ゲル法、水熱法等が知られている。本実施形態においては、これらのいずれも採用することができる。
【0044】
得られたセラミック粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、希土類元素(イットリウム(Y)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホロミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)およびイッテルビウム(Yb))の酸化物、または、コバルト(Co)、Ni、リチウム(Li)、ホウ素(B)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)もしくはケイ素(Si)を含む酸化物、または、Co、Ni、Li、B、Na、KもしくはSiを含むガラスが挙げられる。
【0045】
例えば、セラミック原料粉末に添加化合物を含む化合物を湿式混合し、乾燥および粉砕してセラミック材料を調製する。例えば、上記のようにして得られたセラミック材料について、必要に応じて粉砕処理して粒径を調節し、あるいは分級処理と組み合わせることで粒径を整えてもよい。以上の工程により、誘電体材料が得られる。
【0046】
(積層工程)
次に、得られた誘電体材料に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材51上に誘電体グリーンシート52を塗工して乾燥させる。基材51は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムである。
【0047】
次に、図6(a)で例示するように、誘電体グリーンシート52上に、内部電極パターン53を成膜する。図6(a)では、一例として、誘電体グリーンシート52上に4層の内部電極パターン53が所定の間隔を空けて成膜されている。内部電極パターン53が成膜された誘電体グリーンシート52を、積層単位とする。内部電極パターン53は、主成分金属の粉末と、添加金属の粉末とを含んでいる。
【0048】
次に、誘電体グリーンシート52を基材51から剥がしつつ、図6(b)で例示するように、積層単位を積層する。
【0049】
次に、積層単位が積層されることで得られた積層体の上下にカバーシート54を所定数(例えば2~10層)だけ積層して熱圧着させ、所定チップ寸法(例えば1.0mm×0.5mm)にカットする。図6(b)の例では、点線に沿ってカットする。カバーシート54は、誘電体グリーンシート52と同じ成分であってもよく、添加化合物が異なっていてもよい。
【0050】
(焼成工程)
このようにして得られたセラミック積層体を、N雰囲気で脱バインダ処理した後に外部電極20a,20bの下地層となる金属ペーストをディップ法で塗布し、酸素分圧10-5~10-8atmの還元雰囲気中で1100~1300℃で10分~2時間焼成する。このようにして、積層セラミックコンデンサ100が得られる。
【0051】
(再酸化処理工程)
その後、Nガス雰囲気中で600℃~1000℃で再酸化処理を行ってもよい。
【0052】
(めっき処理工程)
その後、めっき処理により、外部電極20a,20bに、Cu,Ni,Sn等の金属コーティングを行ってもよい。
【0053】
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100の製造方法によれば、内部電極パターン53において、添加金属の原子半径が主成分金属の原子半径よりも40pm以上大きくなっている。また、内部電極層12において、内部電極層12と誘電体層11との界面における主成分金属の界面サイトに対する添加金属の固溶エネルギーよりも、主成分金属のバルクサイトに対する添加金属の固溶エネルギーが2.00eV以上高くなっている。それにより、添加金属が内部電極層12と誘電体層11との界面付近に偏析しやすくなり、誘電体層11の絶縁性が向上する。
【0054】
なお、内部電極パターン53において、添加金属の含有量は、主成分金属を100at%と仮定した場合に、0.1at%以上であることが好ましく、0.2at%以上であることがより好ましく、0.3at%以上であることがさらに好ましい。また、内部電極パターン53において、添加金属の含有量は、主成分金属を100at%と仮定した場合に、1.0at%以下であることが好ましく、0.9at%以下であることがより好ましく、0.8at%以下であることがさらに好ましい。
【0055】
なお、添加金属が、主成分金属よりもイオン化エネルギーが小さく酸化しやすい金属元素であれば、焼成工程における還元雰囲気を調整することが好ましい。例えば、焼成工程における雰囲気の含有水素濃度は、1容量%以上5容量%以下とすることが好ましい。
【0056】
なお、上記各実施形態においては、セラミック電子部品の一例として積層セラミックコンデンサについて説明したが、それに限られない。例えば、バリスタやサーミスタなどの、他の電子部品を用いてもよい。
【実施例0057】
以下、実施形態に係る積層セラミックコンデンサを作製し、特性について調べた。
【0058】
内部電極層への添加金属の添加により効果的に界面偏析可能かどうか、また界面偏析が絶縁性向上に影響するか否かを検証するために、評価項目(1)として、添加金属の界面安定性について第1原理計算により評価した。また、評価項目(2)として、添加金属の界面固溶による信頼性改善について、第一原理計算により評価した。
【0059】
まず、評価項目(1)である添加金属の内部電極層中の界面の安定性について示す。内部電極層の主成分金属をNiとした。実施例1では、添加金属をLaとした。実施例2では、添加金属をHoとした。実施例3では、添加金属をEuとした。比較例1では、添加金属をFeとした。比較例2では、添加金属をCrとした。誘電体層の主成分セラミックは、BaTiOとした。
【0060】
第1原理計算では、図1図3の構造のモデルを用いた。図7は、結晶構造のモデルを例示する図である。図7は、純粋なNiの面心立方格子の結晶構造と、誘電体層の主成分セラミックであるBaTiOを繋げた構造である。まず、添加金属を1つのNi原子と置換した構造の、安定構造配置とそのエネルギーを算出した。このエネルギーをE(metal_Ni)とする。次にNiと添加金属の化学ポテンシャルμ_Ni, μ_metalを算出した。これは、Niと添加金属から形成される最安定な化合物相の生成エンタルピーから算出できる。最後に元素置換のない完全結晶となる図7のトータルエネルギーE(perfect)を計算した。以上の結果を使用して、添加金属のNiの固溶エネルギーFE(metal_Ni)を、下式のように見積もった。
FE(metal_Ni) = E(metal_Ni) - E(perfect) + μ_Ni - μ_metal
【0061】
FE(metal_Ni)は、添加金属が図7のNi中に固溶する場合の安定性を示し、値が大きければ固溶し難く、小さければ固溶しやすいことを示す。また、添加金属のNi置換は、内部電極層12と誘電体層11との界面における内部電極層12の界面サイトとして図7のNi原子30を、バルクサイトとしてNi原子31を置換させてそれぞれの固溶エネルギーを算出した。表2に、検討した実施例1~3および比較例1,2のバルクサイトへの添加元素の固溶エネルギーから界面サイトへの添加元素の固溶エネルギーを引いたエネルギー差を示す。このエネルギー差が大きいほど、添加元素は界面安定と言える。表2においては、Niと添加金属との原子半径差も記載した。
【0062】
比較例1,2のFe,Crに対して、実施例1のLaは、界面固溶が非常に有利な結果となった。以上から、Laは、界面指向の強い金属であり、内部電極層に少量添加でも界面に十分な薄層を形成すると期待できる。また、Laと同程度の原子半径を持つHo,Euについても、Fe,Crに比べてエネルギー差が大きいため、同様の結果が得られた。
【表2】
【0063】
次に、評価項目(2)について示す。ここでは、信頼性に影響を与える酸素空孔について、その形成のしやすさを評価した。これは、第一原理計算による、酸素空孔の形成エネルギーFE(V_O)を見積もることで評価することができる。実施例1では、図7の界面サイトのNi原子30を1原子、Laに置換した。置換したモデルについてそのトータルエネルギーE(perfect)と酸素原子を1つ抜いたモデルでのトータルエネルギーE(V_O)を計算した。ここでは、酸素の化学ポテンシャルμOに酸素分子のエネルギーを使用した。以上のエネルギーを使用して、FE(V_O)を下式のように見積もった。
FE(V_O) = E(V_O) - E(perfect) + μO
【0064】
また、Ho,Eu,Fe,Crの計算も実施した。さらに比較例3として、Laを置換していない場合のFE(V_O)も同様の方法で算出した。表3に、各添加金属の酸素空孔の形成エネルギーを示す。実施例1と比較例3とを比較すると、Laが存在することで酸素空孔の形成エネルギーが0.7eV程上昇することがわかった。以上から、Laの界面薄層が形成されると酸素空孔が形成し難くなり、信頼性向上が期待される。また評価項目(1)で、La同様に界面固溶が有利とされるEu,Hoは、La以上に酸素空孔を形成させない効果が確認された。一方、Fe,Crは、酸素空孔の形成を抑える効果はほとんどないことがわかった。
【表3】
【0065】
次に、実際にサンプルを作製して結果を調べた。チタン酸バリウムをセラミック成分の主成分として含む誘電体グリーンシートを準備し、その表面に導体ペーストを内部電極パターンとして印刷した。導体ペースト中の金属粉として、Ni粉末と、添加金属の粉末とを含むものを用いた。Niを100at%と仮定した場合に、添加金属の割合を0.2at%とした。なお、比較例4として、添加金属の代わりにLaの酸化物であるLaの粉末を含ませた。内部電極パターンが形成された複数の誘電体グリーンシートを、あらかじめ準備したカバーシートの上に積層した。引き続き圧着、カット、外電電極用の金属ペーストの塗布、焼成を行い、積層セラミックコンデンサ素子を得た。
【0066】
実施例1~3および比較例1,2,4の各サンプルについて、故障時間を測定した。125℃の恒温槽中で24Vの直流電界を印加した条件で漏れ電流値が1000μAに達した時間を、故障時間として測定した。
【0067】
結果を表4に示す。故障時間が5000min以上であれば、絶縁信頼性が合格「〇」と判定した。故障時間が4000min未満であれば、絶縁信頼性が不合格「×」と判定した。実施例1~3のいずれにおいても絶縁信頼性が合格と判定された。これは、添加金属の原子半径が主成分金属の原子半径よりも40pm以上大きく、誘電体層の主成分セラミックの結晶構造に対する添加金属の固溶エネルギーが主成分金属の結晶構造に対する添加金属の固溶エネルギーよりも2.00eV以上低いことで、添加金属が誘電体層と内部電極層との界面付近に十分に偏析したからであると考えられる。比較例1,2,4では絶縁信頼性が不合格「×」と判定された。比較例1,2では、添加金属が誘電体層と内部電極層との界面付近に十分に偏析しなかったからであると考えられる。比較例4では、Laを酸化物として添加したために、誘電体層の主成分セラミックにおいてLaが拡散したため、界面に十分な偏析層を形成できなかったからであると考えられる。
【表4】
【0068】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0069】
10 積層チップ
11 誘電体層
12 内部電極層
13 カバー層
14 容量領域
15 エンドマージン
16 サイドマージン
20a,20b 外部電極
51 基材
52 誘電体グリーンシート
53 内部電極パターン
100 積層セラミックコンデンサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7