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特開2023-150118セラミック電子部品およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150118
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】セラミック電子部品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
H01G4/30 201D
H01G4/30 311D
H01G4/30 201C
H01G4/30 516
H01G4/30 513
H01G4/30 517
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059055
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】末正 里樹
(72)【発明者】
【氏名】増田 秀俊
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AC09
5E001AE02
5E001AE03
5E001AF06
5E001AH01
5E001AH03
5E082AA01
5E082AB03
5E082BC35
5E082EE04
5E082EE05
5E082EE23
5E082EE35
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG26
5E082FG46
5E082GG10
5E082GG28
5E082JJ03
5E082JJ12
5E082JJ23
(57)【要約】
【課題】 性能低下を抑制することができるセラミック電子部品およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 セラミック電子部品は、誘電体層と内部電極層とが交互に積層された積層チップを備え、前記誘電体層と前記内部電極層との間において、前記誘電体層と前記内部電極層との積層方向の異なる位置に、前記内部電極層の主成分金属とは異なる第1金属の濃度ピークおよび第2金属の濃度ピークが存在し、前記第2金属は、前記第1金属よりもイオン化しやすい金属であり、前記第2金属の濃度ピークは、前記第1金属の濃度ピークよりも前記誘電体層側に位置することを特徴とする。
【選択図】 図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体層と内部電極層とが交互に積層された積層チップを備え、
前記誘電体層と前記内部電極層との間において、前記誘電体層と前記内部電極層との積層方向の異なる位置に、前記内部電極層の主成分金属とは異なる第1金属の濃度ピークおよび第2金属の濃度ピークが存在し、
前記第2金属は、前記第1金属よりもイオン化しやすい金属であり、
前記第2金属の濃度ピークは、前記第1金属の濃度ピークよりも前記誘電体層側に位置することを特徴とするセラミック電子部品。
【請求項2】
前記誘電体層と前記内部電極層との間は、前記内部電極層から前記誘電体層に向かって成分元素濃度を測定した場合に、前記内部電極層の主成分金属の濃度の微分値の最小値から、前記誘電体層の主成分セラミックの構成金属の濃度の微分値の最大値までの区間であることを特徴とする請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項3】
前記第1金属の濃度ピークおよび前記第2金属の濃度ピークは、1.0at%以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセラミック電子部品。
【請求項4】
前記第1金属の濃度ピークおよび前記第2金属の濃度ピークは、30at%以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項5】
隣接する2層の前記誘電体層の間において、前記第1金属および前記第2金属のそれぞれの添加濃度は、0.01at%以上であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項6】
隣接する2層の前記誘電体層の間において、前記第1金属および前記第2金属のそれぞれの添加濃度は、20at%以下であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項7】
前記誘電体層の厚みは、0.6μm以下であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項8】
前記誘電体層と前記内部電極層との間において、前記内部電極層の界面から前記第1金属の濃度ピークまでの間隔は、0.1nm以上2nm以下であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項9】
前記誘電体層と前記内部電極層との間において、前記第1金属の濃度ピークから、前記第2金属の濃度ピークまでの間隔は、0.1nm以上2nm以下であることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項10】
前記誘電体層と前記内部電極層との間において、前記第2金属の濃度ピークから前記誘電体層の界面までの間隔は、0.1nm以上2nm以下であることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項11】
前記内部電極層の主成分金属は、Niであることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項12】
前記誘電体層は、チタン酸バリウムを含むことを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項13】
前記第2金属は、Cr、Fe、In、W、V、Y、Ta、およびTiのいずれかであることを特徴とする請求項1から請求項12のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項14】
前記第1金属は、Auであり、
前記第2金属は、Crであることを特徴とする請求項1から請求項12のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項15】
誘電体グリーンシート上に、内部電極パターンを形成することによって積層単位を形成する工程と、
複数の前記積層単位を積層することによって積層体を形成する工程と、
前記積層体を焼成する工程と、を含み、
前記内部電極パターンは、主成分金属、第1金属、および前記第1金属よりもイオン化しやすい第2金属を含み、
前記誘電体グリーンシートから得られる誘電体層と前記内部電極パターンから得られる内部電極層との間において、前記誘電体層と前記内部電極層との積層方向の異なる位置に、前記第1金属の濃度ピークおよび前記第2金属の濃度ピークが存在し、前記第2金属の濃度ピークが前記第1金属の濃度ピークよりも前記誘電体層側に位置するように、前記積層体を焼成することを特徴とするセラミック電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車載・携帯端末において高容量・高信頼性を有するハイエンド積層セラミックコンデンサの需要が高まっている。このようなセラミック電子部品は、高周波回路および電力回路においてDCデカップリング、ノイズバイパス、電圧安定化などの用途で使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-7562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
小型かつ高い容量値を実現するため、セラミック電子部品の内部電極層および誘電体層の薄膜化が進んでいる。薄膜化により高い静電容量を有するセラミック電子部品を実現することが可能になるが、その一方で内部電極層の断裂、誘電体層の絶縁性低下などが問題となっている。この問題に対して、内部電極層と誘電体層との間に、複数の金属元素を配置することによって、内部電極層の断裂や絶縁性の低下を抑制することが考えられる。しかしながら、単純に複数の金属元素を配置しても、性能低下を抑制できないおそれがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、性能低下を抑制することができるセラミック電子部品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るセラミック電子部品は、誘電体層と内部電極層とが交互に積層された積層チップを備え、前記誘電体層と前記内部電極層との間において、前記誘電体層と前記内部電極層との積層方向の異なる位置に、前記内部電極層の主成分金属とは異なる第1金属の濃度ピークおよび第2金属の濃度ピークが存在し、前記第2金属は、前記第1金属よりもイオン化しやすい金属であり、前記第2金属の濃度ピークは、前記第1金属の濃度ピークよりも前記誘電体層側に位置することを特徴とする。
【0007】
上記セラミック電子部品において、前記誘電体層と前記内部電極層との間は、前記内部電極層から前記誘電体層に向かって成分元素濃度を測定した場合に、前記内部電極層の主成分金属の濃度の微分値の最小値から、前記誘電体層の主成分セラミックの構成金属の濃度の微分値の最大値までの区間であってもよい。
【0008】
上記セラミック電子部品において、前記第1金属の濃度ピークおよび前記第2金属の濃度ピークは、1.0at%以上であってもよい。
【0009】
上記セラミック電子部品において、前記第1金属の濃度ピークおよび前記第2金属の濃度ピークは、30at%以下であってもよい。
【0010】
上記セラミック電子部品の隣接する2層の前記誘電体層の間において、前記第1金属および前記第2金属のそれぞれの添加濃度は、0.01at%以上であってもよい。
【0011】
上記セラミック電子部品の隣接する2層の前記誘電体層の間において、前記第1金属および前記第2金属のそれぞれの添加濃度は、20at%以下であってもよい。
【0012】
上記セラミック電子部品において、前記誘電体層の厚みは、0.6μm以下であってもよい。
【0013】
上記セラミック電子部品において、前記誘電体層と前記内部電極層との間において、前記内部電極層の界面から前記第1金属の濃度ピークまでの間隔は、0.1nm以上2nm以下であってもよい。
【0014】
上記セラミック電子部品において、前記誘電体層と前記内部電極層との間において、前記第1金属の濃度ピークから、前記第2金属の濃度ピークまでの間隔は、0.1nm以上2nm以下であってもよい。
【0015】
上記セラミック電子部品において、前記誘電体層と前記内部電極層との間において、前記第2金属の濃度ピークから前記誘電体層の界面までの間隔は、0.1nm以上2nm以下であってもよい。
【0016】
上記セラミック電子部品において、前記内部電極層の主成分金属は、Niであってもよい。
【0017】
上記セラミック電子部品において、前記誘電体層は、チタン酸バリウムを含んでいてもよい。
【0018】
上記セラミック電子部品において、前記第2金属は、Cr、Fe、In、W、V、Y、Ta、およびTiのいずれかであってもよい。
【0019】
上記セラミック電子部品において、前記第1金属は、Auであり、前記第2金属は、Crであってもよい。
【0020】
本発明に係るセラミック電子部品の製造方法は、誘電体グリーンシート上に、内部電極パターンを形成することによって積層単位を形成する工程と、複数の前記積層単位を積層することによって積層体を形成する工程と、前記積層体を焼成する工程と、を含み、前記内部電極パターンは、主成分金属、第1金属、および前記第1金属よりもイオン化しやすい第2金属を含み、前記誘電体グリーンシートから得られる誘電体層と前記内部電極パターンから得られる内部電極層との間において、前記誘電体層と前記内部電極層との積層方向の異なる位置に、前記第1金属の濃度ピークおよび前記第2金属の濃度ピークが存在し、前記第2金属の濃度ピークが前記第1金属の濃度ピークよりも前記誘電体層側に位置するように、前記積層体を焼成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、性能低下を抑制することができるセラミック電子部品およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】積層セラミックコンデンサの部分断面斜視図である。
図2図1のA-A線断面図である。
図3図1のB-B線断面図である。
図4】内部電極層と誘電体層との境界近傍の詳細を説明するための図である。
図5】(a)~(c)はTEM画像における誘電体層と内部電極層の積層方向に沿った各サンプル点について各元素濃度をライン分析した場合の分析結果を例示する図である。
図6】積層セラミックコンデンサの製造方法のフローを例示する図である。
図7】(a)および(b)は積層工程を例示する図である。
図8】誘電体グリーンシート上への内部電極パターンの成膜を詳細に説明するための図である。
図9】連続率を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0024】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100の部分断面斜視図である。図2は、図1のA-A線断面図である。図3は、図1のB-B線断面図である。図1図3で例示するように、積層セラミックコンデンサ100は、略直方体形状を有する積層チップ10と、積層チップ10のいずれかの対向する2端面に設けられた外部電極20a,20bとを備える。なお、積層チップ10の当該2端面以外の4面のうち、積層方向の上面および下面以外の2面を側面と称する。外部電極20a,20bは、積層チップ10の積層方向の上面、下面および2側面に延在している。ただし、外部電極20a,20bは、互いに離間している。
【0025】
積層チップ10は、誘電体として機能するセラミック材料を含む誘電体層11と、卑金属材料を含む内部電極層12とが、交互に積層された構成を有する。各内部電極層12の端縁は、積層チップ10の外部電極20aが設けられた端面と、外部電極20bが設けられた端面において、交互に露出している。それにより、各内部電極層12は、外部電極20aと外部電極20bとに、交互に導通している。その結果、積層セラミックコンデンサ100は、複数の誘電体層11が内部電極層12を介して積層された構成を有する。また、誘電体層11と内部電極層12との積層体において、積層方向の最外層には内部電極層12が配置され、当該積層体の上面および下面は、カバー層13によって覆われている。カバー層13は、セラミック材料を主成分とする。例えば、カバー層13の材料は、誘電体層11とセラミック材料の主成分が同じである。
【0026】
積層セラミックコンデンサ100のサイズは、例えば、長さ0.25mm、幅0.125mm、高さ0.125mmであり、または長さ0.4mm、幅0.2mm、高さ0.2mm、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであり、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.110mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.1mmであり、または長さ3.2mm、幅1.6mm、高さ1.6mmであり、または長さ4.5mm、幅3.2mm、高さ2.5mmであるが、これらのサイズに限定されるものではない。
【0027】
誘電体層11は、例えば、一般式ABOで表されるペロブスカイト構造を有するセラミック材料を主相とする。なお、当該ペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れたABO3-αを含む。例えば、当該セラミック材料として、BaTiO(チタン酸バリウム),CaZrO(ジルコン酸カルシウム),CaTiO(チタン酸カルシウム),SrTiO(チタン酸ストロンチウム),MgTiO(チタン酸マグネシウム),ペロブスカイト構造を形成するBa1-x-yCaSrTi1-zZr(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1)等のうち少なくとも1つから選択して用いることができる。Ba1-x-yCaSrTi1-zZrは、チタン酸バリウムストロンチウム、チタン酸バリウムカルシウム、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸カルシウムおよびチタン酸ジルコン酸バリウムカルシウムなどである。
【0028】
図2で例示するように、外部電極20aに接続された内部電極層12と外部電極20bに接続された内部電極層12とが対向する領域は、積層セラミックコンデンサ100において電気容量を生じる領域である。そこで、当該電気容量を生じる領域を、容量領域14と称する。すなわち、容量領域14は、異なる外部電極に接続された隣接する内部電極層12同士が対向する領域である。
【0029】
外部電極20aに接続された内部電極層12同士が、外部電極20bに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域を、エンドマージン15と称する。また、外部電極20bに接続された内部電極層12同士が、外部電極20aに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域も、エンドマージン15である。すなわち、エンドマージン15は、同じ外部電極に接続された内部電極層12が異なる外部電極に接続された内部電極層12を介さずに対向する領域である。エンドマージン15は、電気容量を生じない領域である。
【0030】
図3で例示するように、積層チップ10において、積層チップ10の2側面から内部電極層12に至るまでの領域をサイドマージン16と称する。すなわち、サイドマージン16は、上記積層構造において積層された複数の内部電極層12が2側面側に延びた端部を覆うように設けられた領域である。サイドマージン16も、電気容量を生じない領域である。
【0031】
積層セラミックコンデンサ100を小型大容量型化するために、誘電体層11を薄く形成することが好ましい。例えば、1層あたりの誘電体層11の厚みは、0.05μm以上5μm以下であり、または0.1μm以上3μm以下であり、または0.2μm以上1μm以下であり、または0.6μm以下である。誘電体層11の厚みは、積層セラミックコンデンサ100の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、異なる10層の誘電体層11についてそれぞれ10点ずつ厚みを測定し、全測定点の平均値を導出することによって測定することができる。
【0032】
図4は、内部電極層12と誘電体層11との境界近傍の詳細を説明するための図である。図4で例示するように、内部電極層12は、第1被覆層17によって覆われている。さらに、第1被覆層17は、第2被覆層18によって覆われている。例えば、内部電極層12の一方の主面(図4では上側の主面)である第1主面上に第1被覆層17が形成され、第1被覆層17上に第2被覆層18が形成されている。また、内部電極層12の他方の主面(図4では下側の主面)である第2主面下に第1被覆層17が形成され、第1被覆層17下に第2被覆層18が形成されている。なお、第1被覆層17は、必ずしも内部電極層12の第1主面および第2主面の全体を覆っていなくてもよく、内部電極層12の第1主面および第2主面を部分的に覆っていてもよい。また、第2被覆層18は、必ずしも第1被覆層17の全体を覆っていなくてもよく、第1被覆層17を部分的に覆っていてもよい。
【0033】
第1被覆層17は、内部電極層12の主成分金属とは異なる第1金属を、比較的多く含む層である。第2被覆層18も、内部電極層12の主成分金属とは異なる第2金属を、比較的多く含む層である。第1金属と第2金属とは、異なっている。第2金属は、同じ条件下で第1金属よりもイオン化しやすい金属である。なお、内部電極層12、第1被覆層17、および第2被覆層18の各層において、単一の金属だけが存在するわけではなく、各金属が各層に部分的に拡散している。内部電極層12の主成分金属は、ニッケル(Ni)、銅(Cu)などの卑金属であってもよく、貴金属などであってもよい。例えば、内部電極層12において、主成分金属は、90at%以上含まれている。
【0034】
図5(a)~図5(c)は、TEM(透過型電子顕微鏡)画像における、誘電体層11と内部電極層12との積層方向に沿った各サンプル点について各成分元素濃度をライン分析した場合の分析結果を例示する図である。図5(a)~図5(c)の例では、一例として、内部電極層12の主成分金属としてNiを用い、第1被覆層17が金(Au)を比較的多く含み、第2被覆層18がスズ(Sn)を比較的多く含み、誘電体層11の主成分セラミックとして、チタン酸バリウムを用いている。
【0035】
図5(a)では、横軸が積層方向の距離を示し、縦軸が各成分の濃度(at%)を示している。横軸の「0nm」は、内部電極層12と第1被覆層17との界面であると予想された位置を示している。横軸の距離が大きい値になるにしたがって、積層方向に誘電体層11へと近づいていくことになる。図5(a)で例示するように、距離「0nm」では、内部電極層12の主成分金属であるNi濃度が最も高くなっている。誘電体層11に近づくにつれてNi濃度が低くなり、Au濃度およびSn濃度にピークが現れ、チタン(Ti)濃度および酸素(O)濃度が高くなっていく。なお、図5(a)の例では、ノイズを減らすために、9点で平均化して平滑化している。
【0036】
図5(b)は、図5(a)のNi濃度およびTi濃度について微分した結果を示している。最急峻変化点を特定することで、内部電極層12の界面および誘電体層11の界面を特定することができる。図5(b)の例では、Ni濃度の微分値が最も小さい値となる位置が、内部電極層12の界面である。また、Ti濃度の微分値が最も大きい値となる位置が、誘電体層11の界面である。この誘電体層11の界面と内部電極層12の界面との間に、AuおよびSnが多く存在していることになる。
【0037】
図5(c)は、図5(a)の結果について、縦軸を対数で表した図である。図5(c)で例示するように、誘電体層11の界面と内部電極層12の界面との間に、Au濃度のピークとSn濃度のピークとが現れている。Au濃度のピークは、Sn濃度のピークよりもNiの界面側に位置している。Sn濃度のピークは、Au濃度のピークよりもTiの界面側に位置している。このように、誘電体層11の界面と内部電極層12の界面との間において、第1被覆層17に比較的多く含まれる第1金属の濃度ピークと、第2被覆層18に比較的多く含まれる第2金属の濃度ピークとが、誘電体層11と内部電極層12との積層方向の異なる位置に存在するようになる。具体的には、第1金属の濃度ピークが内部電極層12の界面側に位置し、第1金属よりもイオン化しやすい第2金属の濃度ピークが誘電体層11の界面側に位置する。
【0038】
このような構成によれば、第1金属の効果と、第2金属の効果とがそれぞれ個別に発揮されることになる。例えば、第1金属が誘電体層11の信頼性低下を抑制する効果を発揮し、第2金属が内部電極層12の連続率低下を抑制する効果を発揮する場合、第1金属と第2金属とが均一に混ざり合った合金層が設けられている場合と比較して、信頼性低下の抑制効果が高くなり、連続率低下の抑制効果が高くなる。また、第1金属が誘電体層11の信頼性低下を抑制する効果を発揮し、第2金属も誘電体層11の信頼性低下を抑制する効果を発揮する場合、第1金属と第2金属とが均一に混ざり合った合金層が設けられている場合と比較して、信頼性低下の抑制効果が高くなる。このように、第1金属の効果と、第2金属の効果とがそれぞれ個別に発揮されることによって、積層セラミックコンデンサ100の性能低下を抑制することができる。この効果は、誘電体層11が薄く形成されて(例えば0.6μm以下など)、絶縁性などが十分に担保されない場合などに顕著に発揮される。なお、第1金属および第2金属として、貴金属と卑金属とを組み合わせるか、卑金属と卑金属とを組み合わせることによって、貴金属の使用量を低減することができる。
【0039】
さらに、第2金属は、第1金属よりもイオン化しやすい金属であることから、誘電体層11に含まれるセラミックの酸素と強く結びつきやすく、安定な酸化物を形成する。第2金属が第1金属よりも誘電体層11側に位置することから、電気的に障壁の高い相(電子親和力の低い相)が誘電体層11に近い位置に配置されることになる。また、第2金属が誘電体層11に含まれる酸素と強く結びつくことで、内部電極層12と誘電体層11との間における酸素欠陥の増加が抑制される。それにより、積層セラミックコンデンサ100の性能低下を抑制することができる。
【0040】
内部電極層12の主成分金属としてNiやCuを用いる場合、例えば、誘電体層11の絶縁信頼性低下を抑制する金属として、砒素(As),Au,コバルト(Co),クロム(Cr),Cu,鉄(Fe),インジウム(In),イリジウム(Ir),マグネシウム(Mg),オスミウム(Os),パラジウム(Od),白金(Pt),レニウム(Re),ロジウム(Rh),ルテニウム(Ru),セレン(Se),Sn,テルル(Te),バナジウム(V),タングステン(W),イットリウム(Y),亜鉛(Zn)などが挙げられる。
【0041】
内部電極層12の主成分金属としてNiやCuを用いる場合、例えば、内部電極層12の連続率低下を抑制する金属として、銀(Ag),Cr,Ir,Mg,モリブデン(Mo),Os,Pd,Pt,Re,Rh,Ru,Y,Wなどが挙げられる。
【0042】
内部電極層12の主成分金属としてNiやCuを用いる場合、例えば、内部電極層12と誘電体層11との間の拡散をバリアする効果を有する金属として、タンタル(Ta),Tiなどが挙げられる。
【0043】
内部電極層12の主成分金属としてNiやCuを用いる場合、例えば、内部電極層12と誘電体層11との密着性を担保する金属として、Cr,Ta,Tiなどが挙げられる。
【0044】
内部電極層12の主成分金属としてNiやCuを用いて誘電体層11の主成分セラミックとしてチタン酸バリウムなどのペロブスカイト酸化物を用いる場合、例えば、内部電極層12と誘電体層11との格子不整合を緩和する金属として、Cuなどが挙げられる。
【0045】
なお、これらの金属について、同じ条件下でイオン化しやすい順番に並べると、In(558)<Y(600)<V(651)<Cr(653)<Mo(684)<Sn(709)<Ru(710)<Rh(720)<Ta(728)<Ag(731)<Mg(738)<Cu(745)<Re(756)<W(759)<Co(760)<Fe(762)<Pd(804)<Os(814)<Pt(864)<Ir(865)<Te(869)<Au(890)<Zn(906)<Se(941)<As(944)となる。第1金属および第2金属がこれらの金属から選択されることが好ましい。なお、カッコ内の数値は、単元素のイオン化エネルギー(kJ/mol)である。
【0046】
第1金属の効果および第2金属の効果を十分に得る観点から、第1金属の濃度ピークおよび第2金属の濃度ピークに下限を設けることが好ましい。第1金属の濃度ピークは、1.0at%以上であることが好ましく、5.0at%以上であることがより好ましい。第2金属の濃度ピークは、1.0at%以上であることが好ましく、5.0at%以上であることがより好ましい。また、隣接する2層の誘電体層11の間において、第1金属および第2金属の添加濃度は、0.01at%以上であることが好ましい。すなわち、内部電極層12、第1被覆層17および第2被覆層18の全体において、第1金属および第2金属の添加濃度は、0.01at%以上であることが好ましい。
【0047】
一方で、第1金属の濃度ピークおよび第2金属の濃度ピークが高すぎると、誘電体層11の内部に第1金属および第2金属が過度に拡散し、誘電体層11の電気特性を狙い値から大きく変動させるおそれがある。そこで、第1金属の濃度ピークおよび第2金属の濃度ピークに上限を設けることが好ましい。第1金属の濃度ピークは、30at%以下であることが好ましく、10at%以下であることがより好ましい。第2金属の濃度ピークは、30at%以下であることが好ましく、10at%以下であることがより好ましい。また、隣接する2層の誘電体層11の間において、第1金属および第2金属の添加濃度は、20at%以下であることが好ましい。すなわち、内部電極層12、第1被覆層17および第2被覆層18の全体において、第1金属および第2金属の添加濃度は、20at%以下であることが好ましい。
【0048】
第1金属の1層を形成するためには、少なくとも第1金属の原子半径以上の間隔が必要となる。そこで、積層方向において、内部電極層12の界面から第1金属の濃度ピークまでの間隔に下限を設けることが好ましい。一方、当該間隔が大きすぎると、効果が飽和し始める。そこで、当該間隔に上限を設けることが好ましい。積層方向において、内部電極層12の界面から第1金属の濃度ピークまでの間隔は、例えば、0.1nm以上2nm以下であり、0.1nm以上1.5nm以下であり、0.1nm以上1nm以下である。積層方向において、第1金属の濃度ピークから第2金属の濃度ピークまでの間隔は、例えば、0.1nm以上2nm以下であり、0.1nm以上1.5nm以下であり、0.1nm以上1nm以下である。積層方向において、第2金属の濃度ピークから誘電体層11の界面までの間隔は、例えば、0.1nm以上2nm以下であり、0.1nm以上1.5nm以下であり、0.1nm以上1nm以下である。上記では濃度のピークが2種類である場合を示したが、3種類以上のピークが存在している場合も同様の間隔を有することが好ましい。
【0049】
内部電極層12の厚さは、例えば、10nm以上、1000nm以下であり、20nm以上、500nm以下であり、50nm以上、300nm以下である。内部電極層12の厚さは、積層セラミックコンデンサ100の断面をSEMで観察し、異なる10層の内部電極層12についてそれぞれ10点ずつ厚みを測定し、全測定点の平均値を導出することによって測定することができる。
【0050】
なお、内部電極層12と誘電体層11との間において、積層方向の異なる位置に濃度ピークが現れる金属数は、2つに限られない。内部電極層12と誘電体層11との間において、積層方向の異なる位置に、3つ以上の金属の濃度ピークが現れてもよい。この場合には、3つ以上の金属が有するそれぞれの効果を得ることができる。
【0051】
続いて、積層セラミックコンデンサ100の製造方法について説明する。図6は、積層セラミックコンデンサ100の製造方法のフローを例示する図である。
【0052】
(原料粉末作製工程)
まず、誘電体層11を形成するための誘電体材料を用意する。誘電体層11に含まれるAサイト元素およびBサイト元素は、通常はABOの粒子の焼結体の形で誘電体層11に含まれる。例えば、BaTiOは、ペロブスカイト構造を有する正方晶化合物であって、高い誘電率を示す。このBaTiOは、一般的に、二酸化チタンなどのチタン原料と炭酸バリウムなどのバリウム原料とを反応させてチタン酸バリウムを合成することで得ることができる。誘電体層11の主成分セラミックの合成方法としては、従来種々の方法が知られており、例えば固相法、ゾル-ゲル法、水熱法等が知られている。本実施形態においては、これらのいずれも採用することができる。
【0053】
得られたセラミック粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、Mg、マンガン(Mn)、V、Cr、希土類元素(Y、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホロミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)およびイッテルビウム(Yb))の酸化物、または、Co、Ni、リチウム(Li)、ホウ素(B)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)もしくはケイ素(Si)を含む酸化物、または、Co、Ni、Li、B、Na、KもしくはSiを含むガラスが挙げられる。
【0054】
例えば、セラミック原料粉末に添加化合物を湿式混合し、乾燥および粉砕してセラミック材料を調製する。例えば、上記のようにして得られたセラミック材料について、必要に応じて粉砕処理して粒径を調節し、あるいは分級処理と組み合わせることで粒径を整えてもよい。以上の工程により、誘電体材料が得られる。
【0055】
(積層工程)
次に、得られた誘電体材料に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材51上に誘電体グリーンシート52を塗工して乾燥させる。基材51は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムである。
【0056】
次に、図7(a)で例示するように、誘電体グリーンシート52上に、内部電極パターン53を成膜する。図7(a)では、一例として、誘電体グリーンシート52上に4層の内部電極パターン53が所定の間隔を空けて成膜されている。内部電極パターン53が成膜された誘電体グリーンシート52を、積層単位とする。
【0057】
次に、誘電体グリーンシート52を基材51から剥がしつつ、図7(b)で例示するように、積層単位を積層する。
【0058】
次に、積層単位が積層されることで得られた積層体の上下にカバーシート54を所定数(例えば2~10層)だけ積層して熱圧着させ、所定チップ寸法(例えば1.0mm×0.5mm)にカットする。図7(b)の例では、点線に沿ってカットする。カバーシート54は、誘電体グリーンシート52と同じ成分であってもよく、添加化合物が異なっていてもよい。
【0059】
(焼成工程)
このようにして得られたセラミック積層体を、N雰囲気で脱バインダ処理した後に外部電極20a,20bの下地層となる金属ペーストをディップ法で塗布し、酸素分圧10-5~10-8atmの還元雰囲気中で1100~1300℃で10分~2時間焼成する。このようにして、積層セラミックコンデンサ100が得られる。
【0060】
(再酸化処理工程)
その後、Nガス雰囲気中で600℃~1000℃で再酸化処理を行ってもよい。
【0061】
(めっき処理工程)
その後、めっき処理により、外部電極20a,20bに、Cu,Ni,Sn等の金属コーティングを行ってもよい。
【0062】
図8は、誘電体グリーンシート52上への内部電極パターン53の成膜を詳細に説明するための図である。図8で例示するように、内部電極層12の主成分金属の主成分金属パターン57の両主面上において、第1被覆層17が比較的多く含む第1金属の第1パターン55をスパッタで成膜し、第2被覆層18が比較的多く含む第2金属の第2パターン56を第1パターン55上にスパッタで成膜する。例えば、誘電体グリーンシート52上に、第2パターン56をスパッタで成膜する。次に、第2パターン56上に、第1パターン55をスパッタで成膜する。次に、第1パターン55上に、主成分金属パターンをスパッタで成膜する。次に、主成分金属パターン57上に、第1パターン55をスパッタで成膜する。次に、第1パターン55上に、第2パターン56をスパッタで成膜する。これらの主成分金属パターン57、第1パターン55、および第2パターン56が、内部電極パターン53である。
【0063】
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100の製造方法によれば、図8のように各パターンをスパッタで成膜することによって、各層の金属が混ざり合うことが抑制される。それにより、焼成工程で各金属が互いに拡散したとしても、焼成工程後に得られる内部電極層12の界面近傍では、図4で例示したような構造が得られるようになる。この場合、TEM画像における積層方向に沿った各サンプル点について各元素濃度をライン分析した場合に、内部電極層12の界面と、誘電体層11の界面との間において、第1被覆層17に比較的多く含まれる第1金属の濃度ピークと、第2被覆層18に比較的多く含まれる第2金属の濃度ピークとが、異なる位置に存在するようになる。それにより、第1金属の効果と、第2金属の効果と、がそれぞれ個別に発揮されることになる。また、第2金属の濃度ピークが第1金属の濃度ピークよりも誘電体層11側に位置するようになる。それにより、電気的に障壁の高い相(電子親和力の低い相)が誘電体層11に近い位置に配置されることになる。また、第2金属が誘電体層11に含まれる酸素と強く結びつくことで、内部電極層12と誘電体層11との間における酸素欠陥の増加が抑制される。その結果、積層セラミックコンデンサ100の性能低下を抑制することができる。
【0064】
なお、内部電極パターン53の成膜手法は、上記のスパッタに限られない。例えば、誘電体グリーンシート52上に、内部電極層12の主成分金属の粉末、第1金属の粉末、および第2金属の粉末が混合された金属ペーストを印刷してもよい。この場合においても、第2金属が第1金属よりもイオン化しやすい性質を有していることから、焼成の過程で第2金属が第1金属よりも誘電体層11側に拡散し、第2金属の濃度ピークが第2金属の濃度ピークよりも誘電体層11側に位置するようになる。
【0065】
なお、上記各実施形態においては、セラミック電子部品の一例として積層セラミックコンデンサについて説明したが、それに限られない。例えば、バリスタやサーミスタなどの、他の電子部品を用いてもよい。
【実施例0066】
以下、実施形態に係る積層セラミックコンデンサを作製し、特性について調べた。
【0067】
(実施例1)
チタン酸バリウム粉末に対して添加化合物を添加し、ボールミルで十分に湿式混合粉砕して誘電体材料を得た。誘電体材料に有機バインダとしてブチラール系、溶剤としてトルエン、エチルアルコールを加えてドクターブレード法にてPETの基材上に誘電体グリーンシートを塗工した。誘電体グリーンシートの表面に、スパッタで厚さ200nmのパターンを成膜した。主成分金属パターンのNi表層に異種金属の被覆層を設けるため、Ni層の成膜前後に、第1金属の層としてAu層を成膜し、第2金属の層としてCr層を成膜した。具体的には、Cr層、Au層、Ni層、Au層、Cr層の順に成膜した。Au層とCr層の厚さは、いずれも表裏ともに1nmとし、Ni層は196nmとした。パターニングには、メタルマスクを用いたマスク法を採用した。内部電極パターンが形成された誘電体グリーンシートを、内部電極パターンが交互にずれるように100層積層し、所定の大きさにカットし、内部電極パターンが露出する2端面に外部電極用の金属導電ペーストを塗布し、焼成した、積層セラミックコンデンサを得た。
【0068】
得られた積層セラミックコンデンサについて、誘電体層と内部電極層との境界近傍の組成をSTEM-EDS(走査透過型電子顕微鏡)でライン分析した。9点ほどの平均化処理で、測定データのばらつきを平均化した。境界をまたぐ領域において、濃度変化が最も急峻な位置を界面と定義した。すなわち、濃度の距離微分の最大値/最小値を示す位置を界面とした。NiとTiとについて、上記操作で抽出した界面位置は、それぞれ異なり、その間隔は0.5nm程度であった。AuとCrの濃度は、ともにピークの極大値を有し、そのピーク位置はNiとTiの界面の間に存在した。それぞれのピーク位置は互いに異なり、この素子の場合、0.2nm程度の間隔を有していた。Crの濃度ピークは、Auの濃度ピークよりも誘電体層側に位置していた。
【0069】
(実施例2)
実施例2では、第1金属の層をSn層とし、第2金属の層をCr層とした。その他の条件は、実施例1と同様とした。実施例2においては、NiとTiの界面の間に、SnとCrの濃度ピークが異なる位置に確認された。Crの濃度ピークは、Snの濃度ピークよりも誘電体層側に位置していた。
【0070】
(実施例3)
実施例3では、第1金属の層をFe層とし、第2金属の層をCr層とした。その他の条件は、実施例1と同様とした。実施例3においては、NiとTiの界面の間に、FeとCrの濃度ピークが異なる位置に確認された。Crの濃度ピークは、Feの濃度ピークよりも誘電体層側に位置していた。
【0071】
(実施例4)
実施例4では、第1金属の層をAu層とし、第2金属の層をFe層とした。その他の条件は、実施例1と同様とした。実施例4においては、NiとTiの界面の間に、AuとFeの濃度ピークが異なる位置に確認された。Feの濃度ピークは、Auの濃度ピークよりも誘電体層側に位置していた。
【0072】
(比較例1)
比較例1では、第1金属の層をCr層とし、第2金属の層をAu層とした。その他の条件は、実施例1と同様とした。比較例1においては、NiとTiの界面の間に、CrとAuの濃度ピークが異なる位置に確認された。Auの濃度ピークは、Crの濃度ピークよりも誘電体層側に位置していた。
【0073】
(比較例2)
比較例2では、第1金属の層をCr層とし、第2金属の層をSn層とした。その他の条件は、実施例1と同様とした。比較例2においては、NiとTiの界面の間に、CrとSnの濃度ピークが異なる位置に確認された。Snの濃度ピークは、Crの濃度ピークよりも誘電体層側に位置していた。
【0074】
(比較例3)
比較例3では、第1金属の層をCr層とし、第2金属の層をFe層とした。その他の条件は、実施例1と同様とした。比較例3においては、NiとTiの界面の間に、CrとFeの濃度ピークが異なる位置に確認された。Feの濃度ピークは、Crの濃度ピークよりも誘電体層側に位置していた。
【0075】
(比較例4)
比較例4では、第1金属の層をFe層とし、第2金属の層をAu層とした。その他の条件は、実施例1と同様とした。比較例4においては、NiとTiの界面の間に、FeとAuの濃度ピークが異なる位置に確認された。Auの濃度ピークは、Feの濃度ピークよりも誘電体層側に位置していた。
【0076】
実施例1~4および比較例1~4について、125℃/18VのHALT(高加速寿命)試験を実施し、50%寿命を測定した。50%寿命とは、総試験素子のうち半数が故障に至るまでの時間のことである。20個の素子を同時に試験開始し、10個が故障するまでの経過時間を50%寿命として測定した。
【0077】
実施例1~4および比較例1~4について、50%寿命が30000min以上であれば良好「〇」と判定し、30000min未満であれば不良「×」と判定した。結果を表1に示す。
【表1】
【0078】
表1に示すように、比較例1~4については「不合格」と判定され、実施例1~4については、50%寿命が合格「〇」と判定された。これは、第1金属の濃度ピークよりも、第1金属よりもイオン化しやすい第2金属の濃度ピークが誘電体層側に位置したことで、電気的に障壁の高い相が誘電体層に近い位置に配置され、また、内部電極層と誘電体層との間における酸素欠陥の増加が抑制されたからであると考えられる。
【0079】
次に、実施例1~4および比較例1,2について、内部電極層の連続率を測定した。図9は、連続率を表す図である。図9で例示するように、ある内部電極層12における長さL0の観察領域において、その金属部分の長さL1,L2,・・・,Lnを測定して合計し、金属部分の割合であるΣLn/L0をその層の連続率と定義することができる。実施例1では、連続率が90.4%と測定された。実施例2では、連続率が86.2%と測定された。実施例3では、連続率が89.7%と測定された。実施例4では、連続率が71.2%と測定された。比較例1では、連続率が70%と測定された。比較例2では、連続率が80.5%と測定された。比較例3では、連続率が66.2%と測定された。比較例2では、連続率が63.6%と測定された。
【0080】
実施例4と比較して、実施例1~3では連続率が高くなった。これは、連続率低下を抑制するCrを第2金属として添加してCrが誘電体層側に存在し、安定な酸化膜が形成され、Ni原子の拡散および球状化が抑制されたからであると考えられる。なお、比較例1~3でもCrを添加しているものの、実施例1~3ほど連続率は高くなっていない。これは、Crが誘電体層側に存在しないため、Ni原子の拡散および球状化が十分に抑制されなかったからであると考えられる。
【0081】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0082】
10 積層チップ
11 誘電体層
12 内部電極層
13 カバー層
14 容量領域
15 エンドマージン
16 サイドマージン
17 第1被覆層
18 第2被覆層
20a,20b 外部電極
51 基材
52 誘電体グリーンシート
53 内部電極パターン
54 カバーシート
55 第1パターン
56 第2パターン
57 主成分金属パターン
100 積層セラミックコンデンサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9