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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150127
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】加速器、及び中性子捕捉療法装置
(51)【国際特許分類】
   H05H 13/02 20060101AFI20231005BHJP
   G21K 1/00 20060101ALI20231005BHJP
   G21K 5/02 20060101ALI20231005BHJP
   G21K 5/08 20060101ALI20231005BHJP
   A61N 5/10 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
H05H13/02
G21K1/00 N
G21K5/02 N
G21K5/08 N
A61N5/10 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059070
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】戸内 豊
【テーマコード(参考)】
2G085
4C082
【Fターム(参考)】
2G085AA03
2G085AA11
2G085BA02
2G085BA14
2G085BA15
2G085BA16
2G085BA17
2G085BB02
2G085BC02
2G085BC04
2G085EA07
4C082AA01
4C082AC07
4C082AG02
(57)【要約】
【課題】共振周波数の変化を抑制することができる加速器、及び中性子捕捉療法装置を提供する。
【解決手段】真空管増幅器23は、カプラ24を介して電極14へ電力を供給することができる。これにより、電極14は、荷電粒子を加速することができる。ここで、加速器2は、真空管増幅器23とカプラ24との間の距離を調整可能な調整機構26を備える。この場合、ビームローディングが変化したときに、調整機構26が真空管増幅器23とカプラ24との間を適切な距離に調整することで、真空管31の効率が低下してしまうことを抑制できる。更には調整機構26による距離の調整によれば、コンデンサ電極42の面積を調整する方法とは異なり、共振周波数の変化を抑制することができる。
【選択図】図4


【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子を加速する電極と、
前記電極へ電力を供給する真空管増幅器と、
前記真空管増幅器から前記電極へ電力を伝送するカプラと、
前記真空管増幅器と前記カプラとの間の距離を調整可能な調整機構と、を備える、加速器。
【請求項2】
前記調整機構は、前記カプラに対して接触した状態にて、前記カプラに対して前記真空管増幅器をスライド可能とする接触部を有する、請求項1に記載の加速器。
【請求項3】
前記カプラは第1の筒部を有し、
前記調整機構は、前記第1の筒部の外周側に配置された第2の筒部と、前記第2の筒部に固定されて前記第1の筒部と接触する前記接触部と、を有する、請求項2に記載の加速器。
【請求項4】
前記カプラと前記電極との間の距離が固定されている、請求項1~3の何れか一項に記載の加速器。
【請求項5】
前記カプラと前記電極との間には、互いの距離が固定された一対のコンデンサ電極が設けられた、請求項4に記載の加速器。
【請求項6】
少なくとも前記電極が配置される真空領域と、大気圧領域とを有し、
前記調整機構は大気圧領域に配置された、請求項1~5の何れか一項に記載された加速器。
【請求項7】
前記真空管増幅器は、前記カプラに対する移動をガイドするガイド機構を有する、請求項1~6の何れか一項に記載の加速器。
【請求項8】
請求項1~7の何れか一項に記載の加速器と、
前記加速器から出射された粒子線をターゲットに照射させることで中性子線を発生させる中性子線発生部と、を備える、中性子捕捉療法装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加速器、及び中性子捕捉療法装置に関する。
【背景技術】
【0002】
中性子線を照射してがん細胞を死滅させる中性子捕捉療法として、ホウ素化合物を用いたホウ素中性子捕捉療法(BNCT:Boron Neutron Capture Therapy)が知られている。ホウ素中性子捕捉療法では、がん細胞に予め取り込ませておいたホウ素に中性子線を照射し、これにより生じる重荷電粒子の飛散によってがん細胞を選択的に破壊する。 中性子線を発生するために、荷電粒子を加速して粒子線としてターゲットに照射する加速器が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-146119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、中性子捕捉療法で用いる加速器は、ビームローディングが大きいため同軸管でRF電力を伝送せず、真空管増幅器を加速用の電極に結合させている。これによりビームローディングが変化しても伝送ラインの反射波の影響を考慮する必要をなくすことができるが、真空管の効率が低下してしまう現象が生じる。真空管の動作を変える(効率を上げる)ためにはカップリングを変える必要があり、当該目的のためにカップリング用のコンデンサ電極の面積を調整する場合がある。しかし、当該方法では、共振周波数が変化するという問題がある。
【0005】
従って、本発明は、共振周波数の変化を抑制することができる加速器、及び中性子捕捉療法装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る加速器は、荷電粒子を加速する電極と、電極へ電力を供給する真空管増幅器と、真空管増幅器から電極へ電力を伝送するカプラと、真空管増幅器とカプラとの間の距離を調整可能な調整機構と、を備える。
【0007】
本発明に係る加速器において、真空管増幅器は、カプラを介して電極へ電力を供給することができる。これにより、電極は、荷電粒子を加速することができる。ここで、加速器は、真空管増幅器とカプラとの間の距離を調整可能な調整機構を備える。この場合、ビームローディングが変化したときに、調整機構が真空管増幅器とカプラとの間を適切な距離に調整することで、真空管の効率が低下してしまうことを抑制できる。更には調整機構による距離の調整によれば、コンデンサ電極の面積を調整する方法とは異なり、共振周波数の変化を抑制することができる。
【0008】
調整機構は、カプラに対して接触した状態にて、カプラに対して真空管増幅器をスライド可能とする接触部を有してよい。この場合、調整機構は、大掛かりな作業を行わなくとも、カプラに対する接触部の接触を維持したまま真空管増幅器をスライドするだけで、容易に真空管の効率低下を抑制できる。
【0009】
カプラは第1の筒部を有し、調整機構は、第1の筒部の外周側に配置された第2の筒部と、第2の筒部に固定されて第1の筒部と接触する接触部と、を有してよい。この場合、接触部を第1の筒部の外周面に接触させた状態で、第2の筒部を第1の筒部に沿ってスライドすることで、容易に真空管の効率低下を抑制できる。
【0010】
カプラと電極との間の距離が固定されていてよい。この場合、カプラと電極との間のカップリング部の構造を維持したまま、調整機構によって真空管の効率低下を抑制できる。
【0011】
カプラと電極との間には、互いの距離が固定された一対のコンデンサ電極が設けられてよい。この場合、カプラと電極とをCカップルで結合できる。
【0012】
加速器は、少なくとも電極が配置される真空領域と、大気圧領域とを有し、調整機構は大気圧領域に配置されてよい。この場合、調整機構は、真空領域の構成に影響を及ぼすことなく、大気圧領域にて距離の調整を行うことができる。
【0013】
真空管増幅器は、カプラに対する移動をガイドするガイド機構を有してよい。この場合、ガイド機構によって真空管増幅器をスムーズにスライドさせて、カプラとの間の距離を調整することができる。
【0014】
本発明に係る中性子捕捉療法装置は、上述の加速器と、加速器から出射された粒子線をターゲットに照射させることで中性子線を発生させる中性子線発生部と、を備える。
【0015】
この中性子捕捉療法装置によれば、上述の加速器と同趣旨の作用・効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、共振周波数の変化を抑制することができる加速器、及び中性子捕捉療法装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る中性子捕捉療法装置及び加速器を示す概略図である。
図2】加速器の一部を示す斜視図である。
図3】加速器の一部を示す概略平面図である。
図4】加速器の一部を示す概略断面図である。
図5】調整機構の拡大断面図である。
図6】調整機構の拡大断面図である。
図7】加速器のロードインピーダンス等の測定結果を示すグラフである。
図8】(a)は比較例のロードインピーダンス等の測定結果を示すグラフであり、(b)は実施例のロードインピーダンス等の測定結果を示すグラフである。
図9】電圧、電流、インピーダンスの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る中性子捕捉療法装置100及び加速器2を示す概略図である。中性子捕捉療法装置100は、粒子線として、中性子線発生部1が発生する中性子線を用いて治療を行う装置である。中性子線発生部1は、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT:Boron Neutron Capture Therapy)を用いたがん治療を行う中性子捕捉療法装置として用いられる。まず、図1を参照して、中性子捕捉療法装置100の構成について説明する。中性子捕捉療法装置100は、例えばホウ素(10B)が投与された患者50(治療対象物)の腫瘍に中性子線Nを照射する。
【0020】
中性子捕捉療法装置100は、加速器2を備えている。加速器2は、粒子を加速して、粒子線Rを出射する。例えば、加速器2として、サイクロトロン、線形加速器などが採用されてよい。
【0021】
加速器2から出射された粒子線Rは、内部が真空に保たれ、内部をビームが通過可能なビームダクトと称される輸送路9内を通過して、ターゲット配置部30へ輸送される。ターゲット配置部30は、ターゲット10を配置する部分であり、ターゲット10を照射時の姿勢となるように保持する機構を有する。ターゲット配置部30は、輸送路9の端部(出射口)と対向する位置に、ターゲット10を配置する。加速器2から出射された粒子線Rは、輸送路9を通り、輸送路9の端部に配置されたターゲット10へ向かって進行する。この輸送路9に沿って複数の電磁石4(四極電磁石など)、及び走査電磁石6が設けられている。複数の電磁石4は、例えば電磁石を用いて粒子線Rのビーム軸調整などを行うものである。
【0022】
走査電磁石6は、粒子線Rを走査し、ターゲット10に対する粒子線Rの照射制御を行うものである。この走査電磁石6は、粒子線Rのターゲット10に対する照射位置を制御する。
【0023】
中性子線発生部1は、粒子線Rをターゲット10に照射することにより中性子線Nを発生させ、患者50に向かって中性子線Nを出射する。中性子線発生部1は、ターゲット10、遮蔽体8、減速材39、コリメータ20を備えている。
【0024】
ターゲット10は、粒子線Rの照射を受けて中性子線Nを生成するものである。ターゲット10は、粒子線Rが照射されることで中性子線Nを発生させる材質によって形成される固体形状の部材である。具体的に、ターゲット10は、例えば、ベリリウム(Be)やリチウム(Li)、タンタル(Ta)、タングステン(W)により形成され、例えば直径160mmの円板状の固体形状をなしている。なお、ターゲット10は、円板状に限らず、他の形状であってもよい。
【0025】
減速材39は、ターゲット10で生成された中性子線Nを減速させる(中性子線Nのエネルギーを低下させる)ものである。減速材39は、中性子線Nに含まれる速中性子を主に減速させる層39Aと、中性子線Nに含まれる熱外中性子を主に減速させる層39Bと、からなる積層構造を有していてよい。
【0026】
遮蔽体8は、発生させた中性子線N、及び当該中性子線Nの発生に伴って生じたガンマ線等を外部へ放出されないよう遮蔽するものである。遮蔽体8は、減速材39を囲むように設けられている。遮蔽体8の上部及び下部は、減速材39より粒子線Rの上流側に延在している。
【0027】
コリメータ20は、中性子線Nの照射野を整形するものであり、中性子線Nが通過する照射口20aを有する。コリメータ20は、例えば中央に照射口20aを有するブロック状の部材である。
【0028】
次に、図2及び図3を参照して、加速器2の詳細について説明する。図2及び図3に示す様に、加速器2は、イオン源11(図3参照)から入射される荷電粒子を加速して、加速した荷電粒子線(ビーム)を出射する装置である。荷電粒子としては、例えば水素イオン、炭素イオン、電子などが挙げられる。加速器2は、荷電粒子を通過させ加速するための平面視円形の加速空間12を備えている。ここでは、加速空間12が水平に延在するように加速器2が設置されているものとする。以下の説明で「上」、「下」の概念を含む語を用いる場合には、図2に示す状態の加速器2の上下に対応するものとする。
【0029】
加速器2は、加速空間12の下方及び上方に設けられた磁極13を備えている。なお、加速空間12の上方の磁極13は図示を省略している。磁極13は、加速空間12に、鉛直方向の磁場を発生させる。磁極13の周囲にはコイル16(図4参照)が設けられる。
【0030】
加速器2は、平面視扇形のディ電極と称される電極14を備えている。電極14は、真空に保たれる真空領域15において、高周波電場を発生させる。電極14は、周方向に貫通された空洞を有しており、当該空洞が上記の加速空間12の一部をなす。真空管増幅器がカップリング部19(図3参照)を介して電極14に高周波の交流電力を付与することで、電極14は周方向の電場を加速空間12に発生させ、当該電場によって荷電粒子が加速される。加速空間12の略中央に導入された荷電粒子は、磁極13による磁場と電極14による電場との作用により、加速空間12内において水平な渦巻き状の周回軌道Kを描きながら加速される。加速された荷電粒子は、最終的には周回軌道Kの接線方向へ出射される。
【0031】
図3を参照して、加速器2の構成について更に詳細に説明する。なお、図4では、周方向に二か所に電極14が設けられているが、図3では周方向における一方の電極14が示されている。図3に示すように、上述の電極14と、真空箱21と、共振器22と、真空管増幅器23と、カプラ24と、調整機構26と、を備える。
【0032】
前述のように、一対の電極14は、上下方向に互いに離間して対向している。真空箱21は、一対の電極14を上下及び外周側で取り囲んで収容する。真空箱21は、上下方向の一対の磁極13の間に配置される。真空箱21は、内部を真空領域15とする容器である。これにより、上下のそれぞれの電極14は真空領域15内に配置される。
【0033】
共振器22は、共振によって高周波を発生させるための機構である。共振器22は、外筒27と、内筒28と、を備える。共振器22は、上下のそれぞれの電極14に対して設けられる。上側の共振器22の外筒27は、真空箱21の上側の壁部21aから上方へ延びる。外筒27の下側の端部は真空箱21の内部空間と連通しており、外筒27内は真空領域15として構成されている。上側の共振器22の内筒28は、外筒27内において上下方向に延びる。内筒28の下側の端部は上側の電極14に接続される。内筒28の上側の端部は外筒27の上側の端部27aに接続される。下側の共振器22は、下側の電極14に対して設けられており、上側の共振器22と上下対称な構成を有する。
【0034】
電極14のコンデンサ容量を「C」とし、共振器22のインダクタンスを「L」とすると、加速器2の共振周波数は「1/(2×π×√LC)」にて示される。
【0035】
真空管増幅器23は、電極14へ電力を供給する装置である。真空管増幅器23は、RF(高周波)電力を供給する。真空管増幅器23は、真空箱21及び電極14に対して外周側へ離間した位置に配置される。真空管増幅器23は、入力された電気信号を増幅させる真空管31を備えている。真空管31は、カプラ24、及び調整機構26を介して増幅させた電力を電極14へ供給する。
【0036】
カプラ24は、真空管増幅器23から電極14へ電力を伝送する機構である。カプラ24は、外筒32と、内筒33(第1の筒部)と、を備える。外筒32は、真空箱21の上下の壁部21aにおける外周側の端部から、径方向外側の真空管増幅器23へ向かって延びている。なお、外筒32は、接続部34を介して、真空領域15に配置される部材と、大気圧領域35に配置される部材とで分割されている。大気圧領域35は、真空領域15の外側の領域であって大気開放された領域であり、大気圧となっている領域である。外筒32のうち、真空領域15に配置される部分、及び真空箱21の外周側の端部付近の部分は、壁部36で覆われる。壁部36の内側は、真空領域15となる。
【0037】
内筒33は、電極14の外周側の端部付近から、径方向外側の真空管増幅器23へ向かって延びている。内筒33は、外筒32の内部に配置される。内筒33は、接続部37を介して、真空領域15に配置される部材33aと、大気圧領域35に配置される部材33bとで分割されている。なお、外筒32の内部空間には、真空領域15と大気圧領域35とを区切る隔壁38が設けられる。隔壁38は、接続部34と接続部37との間に設けられる。
【0038】
カプラ24と電極14との間の距離は固定されている。本実施形態では、カプラ24の内筒33と電極14との間には、互いの距離が固定された一対のコンデンサ電極41,42が設けられる。コンデンサ電極41は、電極14の外周側の端部において、上下方向に広がるように平板状に形成される(図3も参照)。コンデンサ電極41は、カプラ24の内筒33の内周側の端部において、上下方向に広がるように平板状に形成される(図3も参照)。電極14側のコンデンサ電極41とカプラ24側のコンデンサ電極42とは、固定された距離をあけて互いに離間した状態で対向する。これにより、共振器22と真空管増幅器23とが、カップリング部19にてCカップルで結合される。
【0039】
調整機構26は、真空管増幅器23とカプラ24との間の距離を調整可能な機構である。調整機構26は、外筒43と、内筒44(第2の筒部)と、を備える。外筒43は、真空管増幅器23の筐体から電極14側へ延びて、カプラ24の外筒32に接続される。内筒44は、真空管31から電極14側へ延びて、カプラ24の内筒33に接続される。この調整機構26は、大気圧領域35に配置されている。
【0040】
図5及び図6を参照して、調整機構26について更に詳細に説明する。図5及び図6に示すように、内筒44の真空管増幅器23側の端部は、真空管31の電極部46に固定されている。内筒44の電極14側の端部は、接触部51を介してカプラ24の内筒33にスライド可能に接続されている。接触部51は、内筒44の電極14側の端部に固定されている。接触部51は、コンタクトフィンガーと称される部材であり、カプラ24の内筒33に対して物理的に接触した状態にて、内筒33に対して真空管増幅器23をスライド可能とする部材である。接触部51は、内筒44と共に、内筒33の外周面F1と接触した状態を維持しながら、当該外周面F1に沿ってスライド可能である。
【0041】
外筒43の真空管増幅器23側の端部は、真空管増幅器23の筐体48に固定されている。外筒43の電極14側の端部は、接触部52を介してカプラ24の外筒32にスライド可能に接続されている。接触部52は、外筒43の電極14側の端部に固定されている。接触部52は、コンタクトフィンガーと称される部材であり、カプラ24の外筒32に対して物理的に接触した状態にて、外筒32に対して真空管増幅器23をスライド可能とする部材である。接触部52は、外筒43と共に、外筒32の外周面F2と接触した状態を維持しながら、当該外周面F2に沿ってスライド可能である。
【0042】
以上のような構成により、調整機構26は、図5に示すようにカプラ24と真空管増幅器23との間の距離を短くした状態から、カプラ24の内筒33及び外筒32に対して接触部51,52をスライドさせることで、内筒44及び外筒43と共に真空管増幅器23全体をスライドさせることができる。これにより、図6に示すようにカプラ24と真空管増幅器23との間の距離を長くした状態へ切り替えることができる。なお、真空管増幅器23のスライドを容易とするために、図4に示すように、真空管増幅器23は、カプラ24に対する移動をガイドするガイド機構53を有してよい。ガイド機構53は、例えば、真空管増幅器23の移動方向に沿って延びるレール状の部材である。
【0043】
次に、本実施形態に係る加速器2、及び中性子捕捉療法装置100の作用・効果について説明する。
【0044】
ここで、中性子捕捉療法で用いる加速器は、ビームローディングが大きいため同軸管でRF電力を伝送せず、真空管増幅器を加速用の電極に結合させている。これによりビームローディングが変化しても伝送ラインの反射波の影響を考慮する必要をなくすことができるが、真空管の効率が低下してしまう現象が生じる。例えば、設計値に係るロードインピーダンスを550Ω(陽極RF電圧=13kV/陽極ピーク電流=24A)として、ビーム無しの状態における加速器のロードインピーダンス等の測定結果を図7(a)に示す。図7(a)のグラフG1はロードインピーダンスを示す。なお、横軸は周波数を示す。左側の縦軸はロードインピーダンス(Ω)を示す。コンデンサ電極の面積や調整機構による調整を行わなかった場合において、ビーム有りの状態における加速器のロードインピーダンス等の測定結果を図7(b)に示す。図7(b)のグラフG1に示すように、ロードインピーダンスが300Ω程度まで低下しており、真空管の変換効率が低下していることが確認される。この場合、真空管の負荷が増大し、ダメージを受ける可能性がある。
【0045】
真空管の動作を変える(効率を上げる)ためにはカップリングを変える必要があり、当該目的のために真空領域内のカップリング用のコンデンサ電極の面積を変える場合がある。具体的に、図2及び図3において、仮想線で示すコンデンサ電極42のように、当該コンデンサ電極42の面積を大きくする。この場合、図8(a)に示すように、ビーム有りの状態におけるロードインピーダンスを約550Ωで維持することができている。しかし、当該方法では、コンデンサ電極42を大きい面積のものに交換するために、真空領域を大気開放してヨークを上げるという大掛かりな作業が必要となるという問題がある。また、当該方法では共振周波数が変化するという問題もある。図8(a)に示すように、グラフG1のピークのときの周波数、すなわち共振周波数は、図7(a)(b)のものに比べて低下している。
【0046】
これに対し、本実施形態に係る加速器2において、真空管増幅器23は、カプラ24を介して電極14へ電力を供給することができる。これにより、電極14は、荷電粒子を加速することができる。ここで、加速器2は、真空管増幅器23とカプラ24との間の距離を調整可能な調整機構26を備える。この場合、ビームローディングが変化したときに、調整機構26が真空管増幅器23とカプラ24との間を適切な距離に調整することで、真空管31の効率が低下してしまうことを抑制できる。更には調整機構26による距離の調整によれば、コンデンサ電極42の面積を調整する方法とは異なり、共振周波数の変化を抑制することができる。具体的に、図8(b)に示すように、ロードインピーダンスは約550Ωで維持することができており、共振周波数も図7(a)(b)に示すものと同等とすることができている。
【0047】
真空管増幅器23とカプラ24との間を適切な距離に調整することで、ロードインピーダンスを変化させることができることを模式的に示す。図9は、同軸線路内における電流分布(グラフG3)、電圧分布(グラフG4)を示す。図9の横軸は、ある場所からの距離(単位:cm)を示す。右側の縦軸は電流を示し、左側の縦軸は電圧を示す。共振周波数が73MHzの場合、波長は約30000/73≒411cmであり、同軸線路内の電流分布、電圧分布は上記波長を1周期長さとする正弦波となる。横軸のある場所におけるインピーダンス(グラフG5)は「Z=V/I」にて示される。例えば、電圧が0となる箇所を基準位置SPとし、真空管31の初期位置とすると、当該基準位置から真空管31をカプラから遠ざける、すなわち横軸が左に行くほどインピーダンスZが大きくなる。加速器2において、真空管31の動作に対して、真空管31の大きさや出力電力によって適したインピーダンスZが存在する。従って、調整機構26は、カプラ24と真空管増幅器23との距離を調整することで、インピーダンスZを真空管31の動作に適した値となるように調整することができる。
【0048】
調整機構26は、カプラ24に対して接触した状態にて、カプラ24に対して真空管増幅器23をスライド可能とする接触部51,52を有してよい。この場合、調整機構26は、大掛かりな作業を行わなくとも、カプラ24に対する接触部51,52の接触を維持したまま真空管増幅器23をスライドするだけで、容易に真空管31の効率低下を抑制できる。
【0049】
カプラ24は内筒33を有し、調整機構26は、内筒33の外周側に配置された内筒44と、内筒44に固定されて内筒33と接触する接触部51と、を有してよい。この場合、接触部51を内筒33の外周面F1に接触させた状態で、内筒44を内筒33に沿ってスライドすることで、容易に真空管31の効率低下を抑制できる。
【0050】
カプラ24と電極14との間の距離が固定されていてよい。この場合、カプラ24と電極14との間のカップリング部19の構造を維持したまま、調整機構26によって真空管31の効率低下を抑制できる。
【0051】
カプラ24と電極14との間には、互いの距離が固定された一対のコンデンサ電極41,42が設けられてよい。この場合、カプラ24と電極14とをCカップルで結合できる。
【0052】
加速器2は、少なくとも電極14が配置される真空領域15と、大気圧領域35とを有し、調整機構26は大気圧領域35に配置されてよい。この場合、調整機構26は、真空領域15を大気開放するなどの影響を及ぼすことなく、大気圧領域35にて距離の調整を行うことができる。
【0053】
真空管増幅器23は、カプラ24に対する移動をガイドするガイド機構53を有してよい。この場合、ガイド機構53によって真空管増幅器23をスムーズにスライドさせて、カプラ24との間の距離を調整することができる。
【0054】
本実施形態に係る中性子捕捉療法装置100は、上述の加速器2と、加速器2から出射された粒子線をターゲットに照射させることで中性子線を発生させる中性子線発生部1と、を備える。
【0055】
この中性子捕捉療法装置100によれば、上述の加速器2と同趣旨の作用・効果を得ることができる。
【0056】
カプラ24と電極14との間の結合はCカップルに限定されず、Lカップルで結合されてもよい。その場合、結合箇所は電圧の高いコンデンサ電極41ではなく、電圧の低い箇所、例えば外筒27の端部27aなどが望ましい。
【0057】
上述の加速器及び真空管増幅器の構成は一例に過ぎず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更してよい。
【0058】
加速器の用途は特に限定されず、中性子捕捉療法装置以外の用途で用いられてもよい。
【符号の説明】
【0059】
2…加速器、14…電極、15…真空領域、23…真空管増幅器、24…カプラ、26…調整機構、33…内筒(第1の筒部)、35…大気圧領域、44…内筒(第2の筒部)、51,52…接触部、100…中性子捕捉療法装置。
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
図8
図9