(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150254
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】積層鉄心の製造方法及び積層鉄心の製造装置
(51)【国際特許分類】
H02K 15/02 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
H02K15/02 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059265
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000144038
【氏名又は名称】株式会社三井ハイテック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100153969
【弁理士】
【氏名又は名称】松澤 寿昭
(72)【発明者】
【氏名】蓮尾 裕介
【テーマコード(参考)】
5H615
【Fターム(参考)】
5H615AA01
5H615PP01
5H615PP06
5H615SS05
5H615SS10
5H615SS16
(57)【要約】
【課題】本開示は、ブロックコアと位置決め部材との間でのアーク放電の発生を抑制することが可能な積層鉄心の製造方法及び積層鉄心の製造装置を説明する。
【解決手段】積層鉄心の製造方法は、複数の打抜部材が積層されて構成される積層体と、積層体の積層方向に沿って延びる複数の貫通孔と、積層体の少なくとも一部を積層方向に溶接して形成される溶接部とを備える積層鉄心を製造する方法であって、積層体の貫通孔に位置決め部材を配置することと、積層体を下側プレートに載置することと、積層体の上方に上側プレートを載置することと、上記の工程の後に、積層体を上側プレート及び下側プレートで挟持した状態で、溶接トーチによって積層体の溶接部を溶接することとを含む。位置決め部材には凹溝が形成されている。凹溝は、位置決め部材のうち、上側プレート及び下側プレートの少なくとも一方と積層体との境界に対応する部分に位置している。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の打抜部材が積層されて構成される積層体と、前記積層体の積層方向に沿って延びる複数の貫通孔と、前記積層体の少なくとも一部を積層方向に溶接して形成される溶接部とを備える積層鉄心を製造する方法であって、
前記積層体の貫通孔に位置決め部材を配置することと、
前記積層体を下側プレートに載置することと、
前記積層体の上方に上側プレートを載置することと、
前記位置決め部材を配置することと、前記積層体を前記下側プレートに載置することと、前記積層体の上方に前記上側プレートを載置することとの後に、前記積層体を前記上側プレート及び前記下側プレートで挟持した状態で、溶接トーチによって前記溶接部を溶接することとを含み、
前記位置決め部材には凹溝が形成されており、
前記凹溝は、前記位置決め部材のうち、前記上側プレート及び前記下側プレートの少なくとも一方と前記積層体との境界に対応する部分に位置している、積層鉄心の製造方法。
【請求項2】
前記位置決め部材には別の凹溝が形成されており、
前記別の凹溝は、前記位置決め部材のうち、前記上側プレート及び前記下側プレートの少なくとも一方と、別の積層体との境界に対応する部分に位置しており、
前記別の積層体の高さは、前記積層体の高さとは異なる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記積層体は、複数のブロックコアが積層されて構成されており、
前記複数のブロックコアはそれぞれ、前記複数の打抜部材が積層されて構成されており、
前記位置決め部材には別の凹溝が形成されており、
前記別の凹溝は、前記位置決め部材のうち、前記複数のブロックコアのうち隣り合ういずれか2つの境界に対応する部分に位置している、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記凹溝の側壁は、前記凹溝の底壁に向かうにつれて前記凹溝の開口幅が小さくなるように傾斜している、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記貫通孔は、前記積層体の中央に設けられた中心孔を含み、
前記位置決め部材は、前記積層体の径方向に移動可能に構成され且つ前記積層体の周方向に沿って円形に並ぶように前記中心孔内に配置される複数の拡径部材を含み、
前記位置決め部材を配置することは、前記複数の拡径部材を前記中心孔内に配置して前記積層体の径方向外方に移動させることにより、前記複数の拡径部材を前記中心孔の内周面に当接させることを含み、
前記複数の拡径部材はそれぞれ、その外表面側に位置し且つ前記積層体の積層方向に沿って延びる角部を含み、
前記角部のうち前記上側プレート及び前記下側プレートの少なくとも一方と前記積層体との境界に対応する部分に面取りが形成されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記溶接部は、前記積層体の積層方向に沿って延びており、
前記溶接部を溶接することは、前記上側プレート及び前記下側プレートの一方である溶接開始プレートから前記上側プレート及び前記下側プレートの他方に向けて、前記溶接トーチによって前記溶接部を前記積層体の積層方向に沿って溶接する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記溶接開始プレートは、前記上側プレート及び前記下側プレートが前記積層体を挟持した状態で前記溶接部と向かい合う対向面を含み、
前記対向面は、前記積層方向において前記積層体から離れるにつれて前記積層体の径方向外方に拡がるように傾斜しているか、又は、前記積層方向において前記積層体から近い側の部分に対して前記積層体から遠い側の部分が前記積層体の径方向外方に突出する階段状を呈している、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
複数の打抜部材が積層された積層体を載置可能に構成された下側プレートと、
前記積層体の積層方向に沿って延びる貫通孔内に配置されることにより、前記積層体を前記下側プレートに対して位置決めするように構成された位置決め部材と、
前記積層体の上方に載置可能に構成された上側プレートと、
前記積層体を前記上側プレート及び前記下側プレートで挟持した状態で、前記積層体に設けられた溶接部を溶接するように構成された溶接トーチとを備え、
前記位置決め部材には凹溝が形成されており、
前記凹溝は、前記位置決め部材のうち、前記上側プレート及び前記下側プレートの少なくとも一方と前記積層体との境界に対応する部分に位置している、積層鉄心の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層鉄心の製造方法及び積層鉄心の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、電磁鋼板から打ち抜かれた複数のプレートを積層してブロックコアを得ることと、ブロックコアの耳金部に設けられている貫通孔に位置決め部材を挿入しつつ、複数のブロックコアを治具に載置することと、複数のブロックコアの積層方向に沿って耳金部を溶接することとを含む、固定子積層鉄心の製造方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複数のブロックコアの積層方向に沿ってこれらを溶接する場合、ブロックコアと位置決め部材との間の隙間において、意図しないアーク放電が発生してしまうことがある。これにより、ブロックコアや位置決め部材のうち意図しない領域が溶融してしまい、積層鉄心の外観や性能に影響を与えたり、位置決め部材の機能に影響を与えたりしてしまう可能性が懸念される。
【0005】
そこで、本開示は、ブロックコアと位置決め部材との間でのアーク放電の発生を抑制することが可能な積層鉄心の製造方法及び積層鉄心の製造装置を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
積層鉄心の製造方法の一例は、複数の打抜部材が積層されて構成される積層体と、積層体の積層方向に沿って延びる複数の貫通孔と、積層体の少なくとも一部を積層方向に溶接して形成される溶接部とを備える積層鉄心を製造する方法であって、積層体の貫通孔に位置決め部材を配置することと、積層体を下側プレートに載置することと、積層体の上方に上側プレートを載置することと、位置決め部材を配置することと、積層体を下側プレートに載置することと、積層体の上方に上側プレートを載置することとの後に、積層体を下側プレート及び上側プレートで挟持した状態で、溶接トーチによって溶接部を溶接することとを含む。位置決め部材には凹溝が形成されている。凹溝は、位置決め部材のうち、上側プレート及び下側プレートの少なくとも一方と積層体との境界に対応する部分に位置している。
【0007】
積層鉄心の製造装置の一例は、複数の打抜部材が積層された積層体を載置可能に構成された下側プレートと、積層体の積層方向に沿って延びる貫通孔内に配置されることにより、積層体を下側プレートに対して位置決めするように構成された位置決め部材と、積層体の上方に載置可能に構成された上側プレートと、積層体を下側プレート及び上側プレートで挟持した状態で、積層体に設けられた溶接部を溶接するように構成された溶接トーチとを備える。位置決め部材には凹溝が形成されている。凹溝は、位置決め部材のうち、上側プレート及び下側プレートの少なくとも一方と積層体との境界に対応する部分に位置している。この場合、例1の方法と同様の作用効果が得られる。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る積層鉄心の製造方法及び積層鉄心の製造装置によれば、ブロックコアと位置決め部材との間でのアーク放電の発生を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、固定子積層鉄心の一例を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1の固定子積層鉄心を構成する積層体の分解斜視図である。
【
図3】
図3は、積層鉄心の製造装置の一例を示す概略図である。
【
図4】
図4は、溶接治具の一例を概略的に示す斜視図である。
【
図5】
図5は、溶接装置の一例を概略的に示す断面図である。
【
図6】
図6は、溶接ブロックの一例を概略的に示す平面図である。
【
図7】
図7は、積層体の溶接方法の一例を説明するための溶接蔵置の断面図であり、
図7(a)は溶接開始時における溶接トーチ及びアークの状態を示し、
図7(b)は溶接途中における溶接トーチ及びアークの状態を示す。
【
図8】
図8は、溶接装置の他の例を概略的に示す断面図であり、
図8(a)は積層体を構成するブロックコアが6個の場合の例を示し、
図8(b)は積層体を構成するブロックコアが3個の場合の例を示す。
【
図9】
図9は、溶接装置の他の例を概略的に示す断面図であり、
図9(a)は積層体を構成するブロックコアが6個の場合の例を示し、
図9(b)は積層体を構成するブロックコアが3個の場合の例を示す。
【
図10】
図10は、溶接装置の他の例を概略的に示す断面図である。
【
図11】
図11は、溶接装置の他の例を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。なお、本明細書において、図の上、下、右、左というときは、図中の符号の向きを基準とすることとする。
【0011】
[固定子積層鉄心の構成]
まず、
図1及び
図2を参照して、固定子積層鉄心1の構成について説明する。固定子積層鉄心1は、固定子(ステータ)の一部である。固定子は、固定子積層鉄心1に巻線(図示せず)が取り付けられることにより構成される。固定子と回転子(ロータ)とが組み合わせられることにより、電動機(モータ)が構成される。
【0012】
固定子積層鉄心1(ステータ)は、全体として筒形状を呈している。固定子積層鉄心1の中央部分には、中心軸Axに沿って延びるように固定子積層鉄心1を貫通する貫通孔1a(中心孔)が設けられている。すなわち、貫通孔1aは、固定子積層鉄心1の高さ方向に延びている。貫通孔1a内には、回転子(ロータ)が配置可能である。固定子積層鉄心1は、回転子鉄心と共に電動機(モータ)を構成する。固定子積層鉄心1は、積層体10と、溶接ビード20とを備える。
【0013】
積層体10は、複数のブロックコアB(鉄心部材)がこの順に積層されている。
図1及び
図2の例では、積層体10は、6つのブロックコアB1~B6が上側から下側に向けてこの順に並ぶように積層されている。すなわち、積層体10の積層方向は、積層体10の高さ方向でもあり、中心軸Axの延在方向でもある。以下では、積層体10の積層方向を単に「積層方向」と称する。
【0014】
ブロックコアBは、
図2に例示されるように、複数の打抜部材Wが積み重ねられた積層体である。打抜部材Wは、後述する金属板MS(例えば電磁鋼板)が所定形状に打ち抜かれた板状体であり、積層体10に対応する形状を呈している。ブロックコアBは、いわゆる転積によって構成されていてもよい。
【0015】
「転積」とは、複数の打抜部材Wを積層させてブロックコアBを得るに際し、打抜部材W同士の角度を相対的にずらすことをいい、打抜部材Wを回転させつつ積層することを含む。転積は、主に打抜部材Wの板厚偏差を相殺することを目的に実施される。ブロックコアBを得るにあたり、打抜部材Wを1枚ごとに転積してもよいし、打抜部材Wを所定枚数ごとに転積してもよい。複数のブロックコアBを積層して積層体10を得る際に、ブロックコアBを1つごとに転積してもよいし、ブロックコアBを所定個ごとに転積してもよい。
【0016】
図1に戻って、積層体10は、ヨーク部11と、複数のティース部12と、複数の耳金部13(溶接部)と、複数のカシメ部14とを含む。ヨーク部11は、環状を呈しており、中心軸Axを囲むように延びている。
図1等に例示されるように、ヨーク部11は円環状を呈していてもよい。複数のティース部12は、ヨーク部11の内縁から中心軸Ax側に向かうようにヨーク部11の径方向に沿って延びている。すなわち、複数のティース部12は、ヨーク部11の内縁から中心軸Axに向けて突出している。複数のティース部12は、ヨーク部11の周方向において、略等間隔で並んでいてもよい。隣り合うティース部12の間には、巻線を配置するための空間であるスロット15(貫通孔)が画定されている。
【0017】
各耳金部13は、中心軸Axから離れるように、ヨーク部11の外縁からヨーク部11の径方向に沿って延びている。すなわち、各耳金部13は、ヨーク部11の外縁からヨーク部11の径方向外側に向けて突出している。
図1に例示される積層体10においては、3個の耳金部13がヨーク部11に一体的に形成されている。各耳金部13は、ヨーク部11の周方向において、略等間隔で並んでいてもよい。各耳金部13は、積層方向において、積層体10の一端面(例えば上端面)から他端面(例えば下端面)にかけて直線状に延びている。
【0018】
耳金部13は、主突部13aと、副突部13b(溶接部)とを含む。主突部13aは、ヨーク部11の外縁に設けられており、上方から見たときに略三角形状を呈していてもよい。主突部13aには、積層方向において主突部13a(耳金部13)を貫通する貫通孔16が設けられている。貫通孔16は、例えば、固定子積層鉄心1を電動機のハウジング(図示せず)に固定するためのボルトの挿通孔として機能する。
【0019】
カシメ部14は、例えば、ヨーク部11に設けられていてもよい。図示はしていないが、カシメ部14は、例えば、各ティース部12に設けられていてもよい。積層方向において隣り合う打抜部材W同士は、カシメ部14によって締結されていてもよい。複数の打抜部材W同士は、カシメ部14に代えて、種々の公知の方法にて締結されてもよい。複数の打抜部材W同士は、例えば、接着剤又は樹脂材料を用いて互いに接合されてもよい。あるいは、打抜部材Wに仮カシメを設け、仮カシメを介して複数の打抜部材Wを締結して仮積層体を得た後、仮カシメを当該仮積層体から除去することによって、ブロックコアBを得てもよい。なお、「仮カシメ」とは、複数の打抜部材Wを一時的に一体化させるのに使用され且つ製品(固定子積層鉄心1)を製造する過程において取り除かれるカシメを意味する。
【0020】
溶接ビード20は、副突部13bの外表面に形成されている。溶接ビード20は、副突部13bの長手方向に沿って、積層体10の一端面(例えば上端面)から他端面(例えば下端面)にかけて全体的に直線状に延びている。溶接ビード20は、積層方向に並ぶ複数の打抜部材W及び複数のブロックコアBを接合している。
【0021】
[固定子積層鉄心の製造装置]
続いて、
図3を参照して、固定子積層鉄心の製造装置100(積層鉄心の製造装置)について説明する。製造装置100は、帯状の金属板MSから固定子積層鉄心1を製造するように構成されている。製造装置100は、アンコイラー110と、送出装置120と、プレス加工装置130と、溶接装置200と、コントローラCtrとを備える。
【0022】
アンコイラー110は、コイル材111を回転自在に保持するように構成されている。コイル材111は、金属板MSがコイル状(渦巻状)に巻回されたものである。送出装置120は、金属板MSを上下から挟み込む一対のローラ121,122を含む。一対のローラ121,122は、コントローラCtrからの指示信号に基づいて回転及び停止し、金属板MSをプレス加工装置130に向けて間欠的に順次送り出すように構成されている。
【0023】
プレス加工装置130は、コントローラCtrからの指示信号に基づいて動作するように構成されている。プレス加工装置130は、例えば、送出装置120によって送り出される金属板MSを複数のパンチにより順次、打ち抜き加工または切り曲げ加工して、複数の打抜部材Wを形成するように構成されていてもよい。プレス加工装置130は、打ち抜き加工によって得られた複数の打抜部材Wを順次積層してブロックコアBを形成するように構成されていてもよい。プレス加工装置130によって形成されたブロックコアBは、例えば、コンベアCvによって溶接装置200に搬送されてもよいし、人手によって溶接装置200に搬送されてもよい。
【0024】
溶接装置200は、コントローラCtrからの指示信号に基づいて動作し、複数のブロックコアBが積層されてなる積層体10の耳金部13(副突部13b)を溶接するように構成されている。溶接装置200の詳細については後述する。
【0025】
コントローラCtrは、例えば、記録媒体(図示せず)に記録されているプログラム又はオペレータからの操作入力等に基づいて、送出装置120、プレス加工装置130、溶接装置200及びコンベアCvを動作させるための信号を生成するように構成されている。コントローラCtrは、送出装置120、プレス加工装置130、溶接装置200及びコンベアCvに当該信号をそれぞれ送信するように構成されている。
【0026】
[溶接装置の詳細]
続いて、
図4~
図6を参照して、溶接装置200の詳細について説明する。溶接装置200は、下側プレート210と、複数の案内シャフト220(位置決め部材)と、複数の位置決めピン230(位置決め部材)と、複数の案内レール240と、拡径具250と、上側プレート260と、駆動部270と(以上を「溶接治具」ともいう。)、溶接機280とを備える。
【0027】
下側プレート210は、
図4に例示されるように、略円形状を呈する板状部材である。下側プレート210は、下側プレート210の上面に載置された積層体10(複数のブロックコアB)を支持するように構成されている。下側プレート210の上面側は、
図4及び
図5に例示されるように、複数の凹部210aが設けられている。複数の凹部210aの数及び位置は、積層体10の耳金部13の数及び位置に対応していてもよい。そのため、複数の凹部210aは、積層体10の周方向に沿って円形状を呈するように略等間隔に並んでいてもよい。
【0028】
凹部210a内には、溶接ブロック211が配置されている。
図6に例示されるように、溶接ブロック211には、一対の貫通孔211aが設けられている。貫通孔211aは、平面視において、下側プレート210の径方向に沿って延びる長孔状を呈している。溶接ブロック211は、貫通孔211aに挿通されたボルトBTによって下側プレート210の凹部210a内に取り付けられている。貫通孔211aに対して挿通されるボルトBTの位置に応じて、下側プレート210に対する溶接ブロック211の位置が調節される。
【0029】
溶接ブロック211は、平面視において副突部13bに対応した凹凸部211bを含む。凹凸部211bは、耳金部13の副突部13bの形状に対応した一対の谷部211cと、一対の谷部211cの中央に設けられ且つ耳金部13の副突部13bの形状に対応した山部211dとを含む。山部211dは、下側プレート210及び上側プレート260によって積層体10が挟持された状態(以下、単に「挟持状態」という。)において積層体10と向かい合う対向面S1を含む。
図5に例示されるように、対向面S1は、積層方向において積層体10から離れるにつれて積層体10の径方向外方に拡がるように傾斜している。換言すれば、対向面S1は、山部211dのうち下側プレート210の上面側の部分が面取りされて構成されている。
【0030】
複数の案内シャフト220と、複数の位置決めピン230と、複数の案内レール240とは、下側プレート210の上面から上方に向けて突出するように、下側プレート210に取り付けられている。複数の案内シャフト220と、複数の位置決めピン230と、複数の案内レール240とは、下側プレート210に固定されていてもよいし、下側プレート210に着脱可能に取り付けられていてもよい。
【0031】
案内シャフト220は、耳金部13の貫通孔16に挿通されることにより、積層体10を下側プレート210に対して支持するように構成されている。そのため、案内シャフト220は、必ずしも貫通孔16に当接していなくてもよい。複数の案内シャフト220の数及び位置は、積層体10の耳金部13の数及び位置に対応していてもよい。複数の案内シャフト220は、積層体10の周方向に沿って円形状を呈するように略等間隔に並んでいてもよい。複数の案内シャフト220の外形は、円柱形状を呈していてもよいし、貫通孔16の形状に対応した形状であってもよい。
【0032】
案内シャフト220の上端部には、
図4に例示されるように、凹溝221が形成されている。凹溝221は、案内シャフト220の全周にわたって設けられていてもよいし、案内シャフト220の周方向において部分的に延びるように設けられていてもよい。案内シャフト220における凹溝221の位置は、挟持状態において、上側プレート260と積層体10との境界に対応する位置である。なお、積層方向における凹溝221の中央部と当該境界とが略一致するように、凹溝221の位置が設定されていてもよい。
【0033】
図示していないが、凹溝221の側壁は、凹溝221の底壁に向かうにつれて凹溝221の開口幅が小さくなるように傾斜していてもよい。換言すれば、凹溝221の開口側の縁が面取りされていてもよい。案内シャフト220の表面における凹溝221の開口幅(積層方向における凹溝221の長さ)は、特に限定はされないが、例えば、3mm~8mm程度であってもよい。
【0034】
位置決めピン230は、スロット15に挿通されることによりスロット15の内周面と当接し、積層体10を下側プレート210に対して位置決めするように構成されている。複数の位置決めピン230の数は、スロット15の数以下であってもよい。複数の位置決めピン230の位置は、スロット15に対応した位置であってもよい。複数の位置決めピン230は、積層体10の周方向に沿って円形状を呈するように略等間隔に並んでいてもよい。複数の位置決めピン230の外形は、円柱形状を呈していてもよいし、スロット15の形状に対応した形状であってもよい。
【0035】
位置決めピン230の上端部には、
図4に例示されるように、凹溝231が形成されている。凹溝231は、位置決めピン230の全周にわたって設けられていてもよいし、位置決めピン230の周方向において部分的に延びるように設けられていてもよい。位置決めピン230における凹溝231の位置は、挟持状態において、上側プレート260と積層体10との境界に対応する位置である。なお、積層方向における凹溝231の中央部と当該境界とが略一致するように、凹溝231の位置が設定されていてもよい。
【0036】
図5に例示されるように、凹溝231の側壁は、凹溝231の底壁に向かうにつれて凹溝231の開口幅が小さくなるように傾斜していてもよい。換言すれば、凹溝231の開口側の縁が面取りされていてもよい。位置決めピン230の表面における凹溝231の開口幅(積層方向における凹溝231の長さ)は、特に限定はされないが、例えば、3mm~8mm程度であってもよい。
【0037】
案内レール240は、水平方向で且つ案内レール240の延在方向に沿って、後述する拡径部材251をスライドさせるように構成されている。複数の案内レール240の数及び位置は、拡径部材251の数及び位置に対応していてもよい。複数の案内レール240は、下側プレート210の中央部から外方に向けて放射状に延びている。複数の案内レール240は、平面視において、円形状を呈するように略等間隔に配置されている。
【0038】
拡径具250は、
図4及び
図5に例示されるように、複数の拡径部材251(位置決め部材)と、押子部材252とを含む。複数の拡径部材251は、平面視において、円形状を呈するように略等間隔に配置されている。拡径部材251は、上方から見て扇形状を呈する。拡径部材251は、例えば、円環状の柱状体を複数に分割することにより得ることができる。拡径部材251の上面及び下面は共に、円弧状の外周縁と、当該外周縁よりも長さが短い円弧状の内周縁と、外周縁の一端と内周縁の一端を接続する直線状の側縁と、外周縁の他端と内周縁の他端とを接続する直線状の側縁とで構成されている。拡径部材251の内周面S2は、下方に向かうにつれて内側に近づく傾斜面を呈している。
【0039】
拡径部材251には、貫通孔251aが設けられている。貫通孔251aは、拡径部材251の内周面S2と外周面との間において延びる長孔状を呈する。貫通孔251a内には、対応する案内レール240が挿入可能である。貫通孔251aの長さは、案内レール240の長さよりも長い。そのため、拡径部材251は、案内レール240の延在方向に沿って移動可能である。なお、案内レール240を収容可能であれば貫通孔251aでなくてもよく、例えば、貫通孔251aに代えて、長孔状の開口を有する凹部が拡径部材251に設けられていてもよい。
【0040】
拡径部材251の上端部には、
図4に例示されるように、凹溝251bが形成されている。凹溝251bは、拡径部材251の外周面において周方向全体に沿って延びるように設けられていてもよいし、拡径部材251の外周面において周方向に沿って部分的に延びるように設けられていてもよい。拡径部材251における凹溝251bの位置は、挟持状態において、上側プレート260と積層体10との境界に対応する位置である。なお、積層方向における凹溝251bの中央部と当該境界とが略一致するように、凹溝251bの位置が設定されていてもよい。
【0041】
図示していないが、凹溝251bの側壁は、凹溝251bの底壁に向かうにつれて凹溝251bの開口幅が小さくなるように傾斜していてもよい。換言すれば、凹溝251bの開口側の縁が面取りされていてもよい。拡径部材251の外表面における凹溝251bの開口幅(積層方向における凹溝251bの長さ)は、特に限定はされないが、例えば、3mm~8mm程度であってもよい。
【0042】
拡径部材251は、拡径部材251の外表面側に位置し、且つ積層方向に沿って延びる角部251cを含む。角部251cは、
図4に例示されるように、全体的に面取り(例えば、C面取り、R面取りなど)されていてもよい。あるいは、角部251cは、挟持状態において、上側プレート260と積層体10との境界に対応する部分が面取りされていてもよい。
【0043】
押子部材252は、
図5に例示されるように、拡径部材251の内周面S2内に配置されている。押子部材252は、先端(下端)に向かうにつれて縮径する円錐台形状を呈している。そのため、押子部材252の外周面は、錐面状を呈しており、拡径部材251の内周面S2に対応する形状を有する。
【0044】
上側プレート260は、
図4に例示されるように、略円形状を呈する板状部材である。上側プレート260は、下側プレート210に載置された積層体10の上方に載置される。上側プレート260には、
図4及び
図5に例示されるように、貫通孔261と、複数の貫通孔262と、複数の貫通孔263とが設けられている。
【0045】
貫通孔261は、拡径具250が挿通可能である。貫通孔261は、円形状を呈しており、上側プレート260の中心部に位置している。貫通孔261は、積層体10の内径と同程度かそれよりも若干大きくてもよい。
【0046】
貫通孔262は、案内シャフト220が挿通可能である。複数の貫通孔262の数及び位置は、案内シャフト220の数及び位置に対応していてもよい。そのため、複数の貫通孔262は、積層体10の周方向に沿って円形状を呈するように略等間隔に並んでいてもよい。貫通孔262は、案内シャフト220の外径と同程度かそれよりも若干大きくてもよい。
【0047】
貫通孔263は、位置決めピン230が挿通可能である。複数の貫通孔263の数及び位置は、位置決めピン230の数及び位置に対応していてもよい。そのため、複数の貫通孔263は、積層体10の周方向に沿って円形状を呈するように略等間隔に並んでいてもよい。貫通孔263は、位置決めピン230の外径と同程度かそれよりも若干大きくてもよい。
【0048】
上側プレート260の下面側は、複数の凹部260aが設けられている。複数の凹部260aの数及び位置は、積層体10の耳金部13の数及び位置に対応していてもよい。そのため、複数の凹部260aは、積層体10の周方向に沿って円形状を呈するように略等間隔に並んでいてもよい。
【0049】
凹部260a内には、溶接ブロック264が配置されている。溶接ブロック264は、溶接ブロック211と略同等の構成を有している。そのため、詳しくは省略するが、溶接ブロック264は、
図6に例示されるように、貫通孔264aと、凹凸部264bとを含む。凹凸部264bは、谷部264cと、山部264dとを含む。山部264dは、挟持状態において積層体10と向かい合う対向面S3を含む。
図5に例示されるように、対向面S3は、積層方向において積層体10から離れるにつれて積層体10の径方向外方に拡がるように傾斜している。換言すれば、対向面S3は、山部264dのうち上側プレート260の下面側の部分が面取りされて構成されている。
【0050】
駆動部270は、上側プレート260を上下動させて、上側プレート260を下側プレート210に対して近接又は離隔させるように構成されている。駆動部270は、例えば、エアシリンダ、油圧シリンダ、電動シリンダ等の直動機構であってもよい。
【0051】
溶接機280は、耳金部13(副突部13b)を溶接するように構成されている。溶接機280は、アーク溶接法を用いた溶接機であってもよい。アーク溶接法としては、例えば、電極を溶かし溶加材としても用いる溶極式であってもよいし、消耗しない電極を用い、別に溶加材を添加する非溶極式であってもよい。非溶極式の一例として、TIG溶接が挙げられる。
【0052】
溶接機280は、
図5に例示されるように、電源の陽極に電気的に接続された陽極部材281と、電源の陰極に電気的に接続された溶接トーチ282とを含んでいてもよい。陽極部材281は、溶接の際に、下側プレート210に接続されてもよいし、上側プレート260に接続されてもよいし、下側プレート210及び上側プレート260のそれぞれに接続されてもよい。
【0053】
溶接トーチ282は、図示しない駆動源に接続されており、下側プレート210及び上側プレート260の一方から他方に向けて積層方向に沿って移動可能に構成されている。陽極部材281及び溶接トーチ282に電圧が印加された状態において、積層体10、下側プレート210、案内シャフト220、位置決めピン230、拡径部材251及び上側プレート260等の溶接治具と、溶接トーチ282の先端(電極棒)との間に電位差が生ずるので、溶接トーチ282の先端から溶接治具に向けてアークが発生する。
【0054】
[固定子積層鉄心の製造方法]
続いて、
図3~
図7を参照して、固定子積層鉄心1の製造方法について説明する。まず、
図3に示されるように、コントローラCtrの指示に基づいて、プレス加工装置130が、金属板MSを順次打ち抜きつつ複数の打抜部材Wを積層して、ブロックコアBを形成する。プレス加工装置130から排出されたブロックコアBは、コンベアCvによって溶接装置200に搬送される。このとき、下側プレート210に案内シャフト220が取り付けられた部材を搬送部材CM(
図4参照)として構成し、複数のブロックコアBを搬送部材CMに載置した状態で、搬送部材CMをコンベアCvによって溶接装置200に搬送してもよい。なお、複数のブロックコアBを転積しながら搬送部材CMに載置し、搬送部材CM上において積層体10を形成してもよい。
【0055】
次に、搬送部材CMに積層体10が載置された状態で、複数の位置決めピン230を、対応するスロット15内に挿通する(
図5参照)。また、搬送部材CMに積層体10が載置された状態で、積層体10の中央の中心孔(固定子積層鉄心1の貫通孔1aに対応)に、拡径具250を配置する(同参照)。これらの順番は、前後してもよいし、略同時期であってもよい。
【0056】
次に、拡径具250の押子部材252を下方に向けて押し込む。これにより、押子部材252の周面(錐面)が各拡径部材251の内周面S2に当接した状態のまま、押子部材252が各拡径部材251に対して押しつけられる。そのため、押子部材252の周面(錐面)が内周面S2上を摺動しながら内周面S2に外向きの力を付与する。従って、各拡径部材251は、案内レール240によって案内されつつ、積層体10の径方向外側に移動する。これにより、各拡径部材251の外周面はそれぞれ積層体10の中心孔の内周面(各ティース部12の先端面)に当接し、これらに対して径方向外向きの力を付与する。
【0057】
次に、積層体10上に上側プレート260を載置する。具体的には、上側プレート260の貫通孔261に拡径具250が挿通され、各貫通孔262に案内シャフト220が一つずつ挿通され、各貫通孔263に位置決めピン230が一つずつ挿通されるように、駆動部270によって上側プレート260を積層体10に向けて降下させる。これにより、積層体10が下側プレート210と上側プレート260とで挟持され、積層体10に対して所定の大きさの荷重が付与される。
【0058】
この挟持状態において、案内シャフト220における凹溝221は、上側プレート260と積層体10との境界に位置する。この挟持状態において、
図7に例示されるように、位置決めピン230における凹溝231は、上側プレート260と積層体10との境界に位置する。この挟持状態において、
図7に例示されるように、拡径部材251における凹溝251bは、上側プレート260と積層体10との境界に位置する。
【0059】
次に、陽極部材281を下側プレート210及び上側プレート260の少なくとも一方に接続する(
図7参照)。次に、溶接トーチ282の先端が、例えば、上側プレート260の溶接ブロック264に対向するように、溶接トーチ282を配置する。この場合、上側プレート260が溶接開始プレートとなる。この状態で、陽極部材281及び溶接トーチ282に電圧を印加することにより、溶接トーチ282の先端から溶接ブロック264に向けてアークが発生する(
図7(a)参照)。
【0060】
次に、アークが発生した状態のまま、溶接トーチ282を下側プレート210の溶接ブロック211に向けて、積層方向に沿って移動させる。これにより、副突部13bが積層方向に沿って溶接され、副突部13bに溶接ビード20が形成される。以上により、複数のブロックコアBの積層体である固定子積層鉄心1が完成する。
【0061】
[作用]
以上の例によれば、案内シャフト220、位置決めピン230及び拡径部材251(以下、まとめて「位置決め部材」という。)に凹溝221,231,251bが形成されており、凹溝221,231,251bは、挟持状態における上側プレート260(溶接開始プレート)と積層体10との境界に位置している。そのため、位置決め部材と積層体10(ブロックコアB)との距離が離隔するので、位置決め部材と積層体10(ブロックコアB)との間でアーク放電が発生し難くなる。したがって、積層体10(ブロックコアB)や位置決め部材のうち意図しない領域が溶融してしまうことを抑制することが可能となる。
【0062】
以上の例によれば、凹溝221,231,251bの開口側の縁に面取りが形成されうる。この場合、凹溝221,231,251bの開口側の縁が、挟持状態における上側プレート260(溶接開始プレート)と積層体10(ブロックコアB)との境界から離隔する。そのため、位置決め部材と積層体10(ブロックコアB)との間でアーク放電がより発生し難くなる。
【0063】
以上の例によれば、拡径部材251の角部251cに面取りが形成されうる。この場合、面取り加工によって、拡径部材251の角部251cが、積層体10(ブロックコアB)から離隔する。そのため、位置決め部材と積層体10(ブロックコアB)との間でアーク放電がより発生し難くなる。
【0064】
以上の例によれば、対向面S1,S3が傾斜面となっている。そのため、アーク放電の開始時には、上側プレート260(溶接開始プレート)の対向面S3と溶接トーチ282とが近接することになるので、アーク放電の開始が安定する。一方、溶接トーチ282が積層方向に移動して、アークが溶接ブロック264から積層体10に移動するときには、対向面S3と積層体10との間の段差が小さいか、ほぼ存在しなくなるので、副突部13bのうち積層体10の上端面近傍の部分をアークが飛び越えることなく積層体10が溶接される。積層体10の溶接の終了間近においても同様であり、下側プレート210(溶接終了プレート)の対向面S1と溶接トーチ282とが近接することになるので、アーク放電の開始が安定する。一方、溶接トーチ282が積層方向に移動して、アークが積層体10から溶接ブロック211に移動するときには、対向面S1と積層体10との間の段差が小さいか、ほぼ存在しなくなるので、副突部13bのうち積層体10の端面近傍の部分をアークが飛び越えることなく積層体10が溶接される。そのため、副突部13bに対する溶接品質を高めることが可能となる。
【0065】
[変形例]
本明細書における開示はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特許請求の範囲及びその要旨を逸脱しない範囲において、以上の例に対して種々の省略、置換、変更などが行われてもよい。
【0066】
(1)固定子積層鉄心1以外の他の積層鉄心を製造する際に、上記の技術を適用してもよい。他の積層鉄心は、例えば、回転子積層鉄心であってもよい。
【0067】
(2)上記の例では、積層体10は、複数のブロックコアBが積層されて構成されていたが、複数の打抜部材Wが積み重ねられた単一の積層体によって構成されていてもよい。
【0068】
(3)積層体10のうち耳金部13以外の箇所が溶接されてもよい。例えば、積層体10の外周面が溶接されてもよいし、積層体10の内周面(貫通孔1aの内周面)が溶接されてもよい。これらの場合、積層体10の外周面又は内周面の溶接箇所に、凹溝が設けられていてもよい。凹溝は、例えば、積層体10の積層方向に沿って延びていてもよい。
【0069】
(4)上記の例では、溶接ビード20は、副突部13bの長手方向に沿って、積層体10の一端面から他端面にかけて全体的に直線状に延びていたが、溶接ビード20の形態はこれに限定されない。例えば、溶接ビード20は、ブロックコアB同士の各境界部分を接合するように、当該境界の近傍において積層体10の積層方向に部分的に延びていてもよい。例えば、溶接ビード20は、ブロックコアB同士の境界部分を接合するように、当該境界を点溶接したものであってもよい。例えば、溶接ビード20は、ブロックコアB同士の全ての境界部分を接合するように、ブロックコアB同士の境界のうち最も上方に位置する境界から最も下方に位置する境界まで連続的に延び、且つ、積層体10の各端面に到達していなくてもよい。あるいは、溶接ビード20は、上記の各例示の組み合わせであってもよい。
【0070】
(5)溶接トーチ282を下側プレート210の溶接ブロック211から上側プレート260の溶接ブロック264に向けて、積層方向に沿って移動させてもよい。この場合、凹溝221,231,251bは、挟持状態における下側プレート210(溶接開始プレート)と積層体10(ブロックコアB)との境界に位置していてもよい。
【0071】
(6)貫通孔211a,264aは、ボルトBTの直径よりも大きく且つボルトBTの頭部よりも小さな孔であれば、その形状は特に限定されない。この場合、ボルトBTによって溶接ブロック211,264が下側プレート210又は上側プレート260に固定されてない状態において、溶接ブロック211,264が下側プレート210又は上側プレート260に対して移動可能となる。そのため、下側プレート210又は上側プレート260に対する溶接ブロック211,264の位置を適宜調節することが可能となる。貫通孔211a,264aの形状は、長孔状に代えて、例えば、円形状であってもよいし、楕円形状であってもよいし、矩形状であってもよい。
【0072】
(7)以上の例では、案内シャフト220、位置決めピン230及び拡径部材251にそれぞれ凹溝221,231,251bが形成されていたが、これらの少なくとも一つに凹部が形成されていてもよい。あるいは、積層体10の溶接時に積層体10を位置決めする他の位置決め部材に対して、挟持状態における溶接開始プレートと積層体10(ブロックコアB)との境界に凹溝を形成してもよい。
【0073】
(8)以上の例では、積層体10の中央の中心孔に拡径具250が配置されていたが、拡径具250が用いられなくてもよい。例えば、積層体10の中央の中心孔に、当該中心孔に沿った外形を呈する柱部材が配置されてもよい。当該柱部材は、下側プレート210に設けられていてもよい。あるいは、積層体10の中央の中心孔に部材が配置されていなくてもよい。
【0074】
(9)
図8及び
図9に例示されるように、1つの位置決め部材に複数の凹溝が形成されていてもよい。例えば、6つのブロックコアBによって1つの積層体10を構成する際には、
図8(a)及び
図9(a)に例示されるように、位置決め部材の上端部に設けられた凹溝が、挟持状態における上側プレート260(溶接開始プレート)と積層体10との境界に位置することとなる。一方、例えば、3つのブロックコアBによって1つの積層体10を構成する際には、
図8(b)及び
図9(b)に例示されるように、位置決め部材の中央部に設けられた凹溝が、挟持状態における上側プレート260(溶接開始プレート)と積層体10との境界に位置することとなる。この場合、一つの位置決め部材を用いて、複数種類の積層体10を溶接することができる。したがって、異なる種類の積層体10に対応した複数種類の位置決め部材を用意したり、異なる種類の積層体10を溶接するごとに位置決め部材を交換したりといった手間やコストを削減することが可能となる。
【0075】
なお、
図8に例示されるように、一の積層体10を構成する6つのブロックコアBの高さ(
図8(a)参照)と、他の積層体10を構成する3つのブロックコアBの高さ(
図8(b)参照)とが略同一である場合には、1つの位置決め部材に形成される複数の凹溝が、下側プレート210の表面を基準として略等間隔に配置されていてもよい。一方、
図9に例示されるように、一の積層体10を構成する6つのブロックコアBの高さ(
図9(a)参照)と、他の積層体10を構成する3つのブロックコアBの高さ(
図9(b)参照)とが異なる場合には、1つの位置決め部材に形成される複数の凹溝が、下側プレート210の表面を基準として略等間隔に配置されていなくてもよい。
【0076】
(10)
図10に例示されるように、位置決め部材に形成される凹溝は、複数のブロックコアBのうち隣り合ういずれか2つの境界に位置していてもよい。この場合、位置決め部材のうち、複数のブロックコアBのうち隣り合う2つの境界に対応する部分において、意図しないアーク放電が発生し難くなる。
【0077】
(11)対向面S1,S3は種々の形状を呈していてもよい。例えば、
図11(a)に例示されるように、対向面S1,S3のうち積層方向において積層体10に近い部分が鉛直方向に沿って直線状に延びており、対向面S1,S3のうち積層方向において積層体10から遠い部分が傾斜面となっていてもよい。
図11(b)に例示されるように、溶接ブロック211,264の山部211d,261dが全体的に傾斜した対向面S1,S3とされていてもよい。
図11(c)に例示されるように、対向面S1,S3のうち積層方向において積層体10に近い部分が鉛直方向に沿って直線状に延びており、対向面S1,S3のうち積層方向において積層体10から遠い部分が積層体10の径方向外方に突出する階段状を呈していてもよい。これらの対向面S1,S3のうち積層体10側の縁は、積層体10の径方向において、積層体10の外周面よりも中心軸Ax側に位置していてもよいし、積層体10の外周面よりも外方に位置していてもよい。
【0078】
(12)
図11(d)に例示されるように、山部211d,261dに対向面S1,S3が形成されていなくてもよい。あるいは、山部211d,261dの少なくとも一方に、対向面S1,S3が形成されていてもよい。
【0079】
[他の例]
例1.積層鉄心の製造方法の一例は、複数の打抜部材が積層されて構成される積層体と、積層体の積層方向に沿って延びる複数の貫通孔と、積層体の少なくとも一部を積層方向に溶接して形成される溶接部とを備える積層鉄心を製造する方法であって、積層体の貫通孔に位置決め部材を配置することと、積層体を下側プレートに載置することと、積層体の上方に上側プレートを載置することと、位置決め部材を配置することと、積層体を下側プレートに載置することと、積層体の上方に上側プレートを載置することとの後に、積層体を上側プレート及び下側プレートで挟持した状態で、溶接トーチによって溶接部を溶接することとを含む。位置決め部材には凹溝が形成されている。凹溝は、位置決め部材のうち、上側プレート及び下側プレートの少なくとも一方と積層体との境界に対応する部分に位置している。
【0080】
ところで、溶接部を溶接する場合、積層体と位置決め部材との間の隙間において、意図しないアーク放電が発生してしまうことがある。特に、アーク放電が発生する直前は、電流がどこに流れるのか不安定であるため、位置決め部材のうち、上側プレート及び下側プレートの少なくとも一方と積層体との境界に対応する部分に、意図しないアーク放電が発生してしまうことがある。
【0081】
しかしながら、例1によれば、位置決め部材の当該部分に凹溝が形成されている。そのため、位置決め部材と積層体との距離が離隔するので、位置決め部材と積層体との間でアーク放電が発生し難くなる。したがって、積層体や位置決め部材のうち意図しない領域が溶融してしまうことを抑制することが可能となる。
【0082】
例2.例1の方法において、位置決め部材には別の凹溝が形成されており、別の凹溝は、位置決め部材のうち、上側プレート及び下側プレートの少なくとも一方と、別の積層体との境界に対応する部分に位置しており、別の積層体の高さは、積層体の高さとは異なっていてもよい。この場合、積層体を溶接するときも、別の積層体を溶接するときも、凹溝及び別の凹溝の存在により、位置決め部材と積層体との間でアーク放電が発生し難くなる。そのため、一つの位置決め部材を用いて、複数種類の積層体を溶接することができる。したがって、異なる種類の積層体に対応した複数種類の位置決め部材を用意したり、異なる種類の積層体を溶接するごとに位置決め部材を交換したりといった手間やコストを削減することが可能となる。
【0083】
例3.例1の方法において、積層体は、複数のブロックコアが積層されて構成されており、複数のブロックコアはそれぞれ、複数の打抜部材が積層されて構成されており、位置決め部材には別の凹溝が形成されており、別の凹溝は、位置決め部材のうち、複数のブロックコアのうち隣り合ういずれか2つの境界に対応する部分に位置していてもよい。この場合、位置決め部材のうち、複数のブロックコアのうち隣り合う2つの境界に対応する部分において、意図しないアーク放電が発生し難くなる。
【0084】
例4.例1~例3のいずれかの方法において、凹溝の側壁は、凹溝の底壁に向かうにつれて凹溝の開口幅が小さくなるように傾斜していてもよい。この場合、凹溝の開口側の縁が、溶接開始プレートと積層体との境界から離隔する。そのため、位置決め部材と積層体との間でアーク放電がより発生し難くなる。
【0085】
例5.例1~例4のいずれかの方法において、貫通孔は、積層体の中央に設けられた中心孔を含み、位置決め部材は、積層体の径方向に移動可能に構成された且つ積層体の周方向に沿って円形に並ぶように中心孔内に配置される複数の拡径部材を含み、位置決め部材を配置することは、複数の拡径部材を中心孔内に配置して積層体の径方向外方に移動させることにより、複数の拡径部材を中心孔の内周面に当接させることを含み、複数の拡径部材はそれぞれ、その外表面側に位置し且つ積層体の積層方向に沿って延びる角部を含み、角部のうち上側プレート及び下側プレートの少なくとも一方と積層体との境界に対応する部分に面取りが形成されていてもよい。この場合、面取り加工によって、拡径部材の角部が、上側プレート及び下側プレートの少なくとも一方と積層体との境界から離隔する。そのため、位置決め部材と積層体との間でアーク放電がより発生し難くなる。
【0086】
例6.例1~例5のいずれかの方法において、溶接部は、積層体の積層方向に沿って延びており、溶接部を溶接することは、上側プレート及び下側プレートの一方である溶接開始プレートから上側プレート及び前記下側プレートの他方に向けて、溶接トーチによって溶接部を積層体の積層方向に沿って溶接することを含んでいてもよい。
【0087】
例7.例6の方法において、溶接開始プレートは、上側プレート及び下側プレートが積層体を挟持した状態で溶接部と向かい合う対向面を含み、対向面は、積層方向において積層体から離れるにつれて積層体の径方向外方に拡がるように傾斜しているか、又は、積層方向において積層体から近い側の部分に対して積層体から遠い側の部分が積層体の径方向外方に突出する階段状を呈していてもよい。
【0088】
ところで、積層体の積層方向に沿って溶接部をその全長にわたって溶接するためには、まず、溶接開始プレートと溶接トーチとの間でアーク放電を発生させて、アークの状態を保ったまま溶接トーチを積層方向に移動させる。そのため、溶接開始プレートと溶接トーチとが近接していると、アーク放電の開始が安定する。しかしながら、積層体と溶接トーチとが近接していると、積層体への入熱量が多くなり積層体が過剰に溶融してしまうことがあったり、溶接トーチの電極棒の消耗が激しくなり電極棒を頻繁に交換しなければならなかったりする。一方で、溶接開始プレートを積層体よりも積層体の径方向外方に突出させて、溶接開始プレートと積層体との間に段差を設けると、溶接開始プレートと溶接トーチとが近接するので、アーク放電の開始は安定する。しかしながら、溶接トーチが積層方向に移動して、アークが当該段差を乗り越える際に、溶接部のうち積層体の端面近傍の部分をアークが飛び越えてしまい、当該部分が溶接されない可能性がありうる。
【0089】
これに対し、例7によれば、溶接開始プレートの対向面が、傾斜しているか又は階段状を呈している。そのため、アーク放電の開始時には、溶接開始プレート(対向面)と溶接トーチとが近接することになるので、アーク放電の開始が安定する。一方、溶接トーチが積層方向に移動して、アークが積層体に移動するときには、対向面と積層体との間の段差が小さいか、ほぼ存在しなくなるので、溶接部のうち積層体の端面近傍の部分をアークが飛び越えることなく溶接される。そのため、溶接部に対する溶接品質を高めることが可能となる。
【0090】
例8.積層鉄心の製造装置の一例は、複数の打抜部材が積層された積層体を載置可能に構成された下側プレートと、積層体の積層方向に沿って延びる貫通孔内に配置されることにより、積層体を下側プレートに対して位置決めするように構成された位置決め部材と、積層体の上方に載置可能に構成された上側プレートと、積層体を上側プレート及び下側プレートで挟持した状態で、積層体に設けられた溶接部を溶接するように構成された溶接トーチとを備える。位置決め部材には凹溝が形成されている。凹溝は、位置決め部材のうち、上側プレート及び下側プレートの少なくとも一方と積層体との境界に対応する部分に位置している。この場合、例1の方法と同様の作用効果が得られる。
【符号の説明】
【0091】
1…固定子積層鉄心、1a…貫通孔(中心孔)、10…積層体、13…耳金部(溶接部)、13b…副突部(溶接部)、15…スロット(貫通孔)、16…貫通孔、100…固定子積層鉄心の製造装置(積層鉄心の製造装置)、200…溶接装置、210…下側プレート、220…案内シャフト(位置決め部材)、221…凹溝、230…位置決めピン(位置決め部材)、231…凹溝、250…拡径具、251b…凹溝、251c…角部、251…拡径部材(位置決め部材)、280…溶接機、282…溶接トーチ、B,B1~B6…ブロックコア、S1,S3…対向面、W…打抜部材。