(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150257
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂フィルム、ラベル及びインモールドラベル
(51)【国際特許分類】
B32B 27/20 20060101AFI20231005BHJP
G09F 3/04 20060101ALI20231005BHJP
G09F 3/02 20060101ALI20231005BHJP
B29C 49/24 20060101ALI20231005BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B32B27/20 Z
G09F3/04 Z
G09F3/02 A
B29C49/24
B32B5/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059270
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000122313
【氏名又は名称】株式会社ユポ・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100154759
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 貴子
(72)【発明者】
【氏名】北村 優佳
(72)【発明者】
【氏名】野田 康弘
【テーマコード(参考)】
4F100
4F208
【Fターム(参考)】
4F100AA01A
4F100AA08A
4F100AH02A
4F100AK01A
4F100AK04B
4F100AK07A
4F100BA02
4F100BA07
4F100CB03B
4F100DE00A
4F100DJ06A
4F100GB90
4F100JA04A
4F100JA04B
4F100JK07
4F100JK14B
4F100JL12B
4F208AD09
4F208AD17
4F208AD20
4F208AG03
4F208AG07
4F208AH55
4F208LA09
4F208LB01
4F208LB19
(57)【要約】
【課題】ブリスター及び環境負荷を低減しつつ、外観及び接着強度に優れた熱可塑性樹脂フィルムを提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂フィルムは、ヒートシール樹脂受容層と、当該ヒートシール樹脂受容層上にヒートシール樹脂を含有するヒートシール層とを備える。前記ヒートシール樹脂受容層が、熱可塑性樹脂、無機粒子及び表面処理剤を含有し、前記ヒートシール樹脂受容層中の前記無機粒子の含有量が40~80質量%である。前記表面処理剤が、炭素数8~20の炭化水素基を有する酸、当該酸のエステル、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種である。前記ヒートシール層の表面のコア部のレベル差Rkが、1.2~9.0μmであり、前記ヒートシール層の表面の十点平均粗さRzjisと前記レベル差Rkとの比Rzjis/Rkが、3~10である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒートシール樹脂受容層と、当該ヒートシール樹脂受容層上にヒートシール樹脂を含有するヒートシール層とを備える熱可塑性樹脂フィルムであって、
前記ヒートシール樹脂受容層が、熱可塑性樹脂、無機粒子及び表面処理剤を含有し、前記ヒートシール樹脂受容層中の前記無機粒子の含有量が40~80質量%であり、
前記表面処理剤が、炭素数8~20の炭化水素基を有する酸、当該酸のエステル、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記ヒートシール層の表面のコア部のレベル差Rkが、1.2~9.0μmであり、
前記ヒートシール層の表面の十点平均粗さRzjisと前記レベル差Rkとの比Rzjis/Rkが、3~10である
熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項2】
前記ヒートシール層の表面のコア部の負荷長さ率Mr1が、6.5~15%である
請求項1に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項3】
前記ヒートシール層の表面の平滑度が、1000~10000秒である
請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項4】
前記ヒートシール樹脂受容層が、延伸多孔質層であり、
前記熱可塑性樹脂の融点が、前記ヒートシール樹脂の融点より高い
請求項1~3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂フィルムを含む、ラベル。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂フィルムを含む、インモールドラベル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂フィルム、ラベル及びインモールドラベルに関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂容器の成形方法としては、金型内で加熱した原料樹脂に空気を吹き込み、膨張させることによって金型の形状に成形するインモールド成形が知られている。このインモールド成形時に金型内で樹脂容器に貼着されるラベルがインモールドラベルである。インモールドラベルはその表面にヒートシール層を備えることが一般的である。膨張する原料樹脂がヒートシール層に接触すると、ヒートシール層が原料樹脂の熱によって溶融し、樹脂容器の表面に接着する。インモールドラベルのヒートシール層と反対側の表面には、通常、文字や画像等が印刷される。
【0003】
原料樹脂がインモールドラベルに接触したとき、その間に空気が残り、ラベルの接着強度の低下又はブリスターと呼ばれる外観不良を引き起こすことがある。そこで、インモールドラベルの樹脂容器との接着面、つまりヒートシール層の表面に凹凸が設けられることがある。凹凸によって樹脂容器とインモールドラベル間に空気の流路が形成されるため、当該流路を介して空気を逃がすことができる。
【0004】
例えば、特許文献1には、ラベルの容器と接着する裏面側に逆グラビア型のエンボスパターンが設けられたインモールド用ラベルが開示されている。ラベルの接着強度の向上及びブリスターの抑制のため、エンボスのドット形状及びエンボスの線数が調整されている。特許文献2には、交互かつ連続的に配列された複数の突起マイクロ構造を有するヒートシール樹脂層が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3-260689号公報
【特許文献2】特開2012-155153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようにエンボスパターンが設けられたインモールドラベルは、印刷後に積み重ねて保管すると、印刷面にエンボスパターンが転写されることがあった。これは、エンボス加工によって表面に凹凸を有するヒートシール層が、積み重ねによって印刷面に強く押し当てられ、印刷面にも凹凸が生じるためである。
【0007】
また環境保護の観点から、プラスチック廃棄物の減量化の要求があり、インモールドラベルにおいても樹脂使用量の削減が求められている。ラベルに無機フィラーを使用し、その含有量を増やすことにより、相対的に樹脂使用量の削減を図ることができるが、一般的に多量のフィラーを樹脂中へ均一に分散させることは難しい。無機フィラーの凝集物が生じ、局所的な接着強度の低下又は接着面での外観不良が生じる可能性がある。
【0008】
本発明は、ブリスター及び環境負荷を低減しつつ、外観及び接着強度に優れた熱可塑性樹脂フィルムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、下記のとおり、本発明を完成した。
【0010】
[1]ヒートシール樹脂受容層と、当該ヒートシール樹脂受容層上にヒートシール樹脂を含有するヒートシール層とを備える熱可塑性樹脂フィルムであって、
前記ヒートシール樹脂受容層が、熱可塑性樹脂、無機粒子及び表面処理剤を含有し、前記ヒートシール樹脂受容層中の前記無機粒子の含有量が40~80質量%であり、
前記表面処理剤が、炭素数8~20の炭化水素基を有する酸、当該酸のエステル、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記ヒートシール層の表面のコア部のレベル差Rkが、1.2~9.0μmであり、
前記ヒートシール層の表面の十点平均粗さRzjisと前記レベル差Rkとの比Rzjis/Rkが、3~10である
熱可塑性樹脂フィルム。
【0011】
[2]前記ヒートシール層の表面のコア部の負荷長さ率Mr1が、6.5~15%である
上記[1]に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【0012】
[3]前記ヒートシール層の表面の平滑度が、1000~10000秒である
上記[1]又は[2]に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【0013】
[4]前記ヒートシール樹脂受容層が、延伸多孔質層であり、
前記熱可塑性樹脂の融点が、前記ヒートシール樹脂の融点より高い
上記[1]~[3]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【0014】
[5]上記[1]~[4]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムを含む、ラベル。
【0015】
[6]上記[1]~[4]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムを含む、インモールドラベル。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ブリスター及び環境負荷を低減しつつ、外観及び接着強度に優れた熱可塑性樹脂フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】コア部のレベル差Rkと十点平均粗さRzjisとを求めるための平滑化粗さ曲線と負荷曲線の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の熱可塑性樹脂フィルム、ラベル及びインモールドラベルについて詳細に説明する。以下の説明は本発明の一例(代表例)であり、本発明はこれに限定されない。
【0019】
(熱可塑性樹脂フィルム)
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、ヒートシール樹脂受容層と、その上にヒートシール樹脂を含有するヒートシール層とを備える。ヒートシール樹脂受容層は、熱可塑性樹脂及び無機粒子を含有する。ヒートシール樹脂受容層中の無機粒子の含有量は40~80質量%と比較的多いため、樹脂の使用量を削減し、環境負荷を低減することが可能である。
【0020】
通常、無機粒子が多いと凝集しやすく、外観不良又は局所的な接着強度の低下が生じることがあるが、本発明においてヒートシール樹脂受容層は無機粒子の表面処理剤を含有する。表面処理剤は、炭素数8~20の炭化水素基を有する酸、当該酸のエステル、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種である。これらは無機粒子の凝集を抑えて、層中の無機粒子の分散の均一性を高める。よって、ヒートシール樹脂受容層が比較的多くの無機粒子を含有しても、外観及び接着強度に優れた熱可塑性樹脂フィルムが得られ、環境負荷の低減と優れた外観及び接着強度の両立が可能である。
【0021】
また本発明においてヒートシール層の表面は、コア部のレベル差Rkが1.2~9.0μmであり、十点平均粗さRzjisとレベル差Rkとの比Rzjis/Rkが3~10である。レベル差Rk及び比Rzjis/Rkが上記特定の範囲内にあるヒートシール層の表面は、適度な凹凸構造を有する。ヒートシール層が樹脂容器の外表面と接したときに凹凸によってその間に空間が形成されるため、当該空間を通してヒートシール層と樹脂容器の間から空気を効率的に排出することができる。よって、ブリスターの抑制と、ヒートシール層が本来有する優れた接着強度とを両立することができる。
【0022】
またレベル差Rk及び比Rzjis/Rkが上記特定の範囲内にあると、熱可塑性樹脂フィルムを積み重ねたときに、ヒートシール層の表面(以下、ヒートシール面ということがある)の凹凸のパターンが、熱可塑性樹脂フィルムのヒートシール層と反対側の表面(以下、フロント面ということがある)に転写されにくい。そのため、印刷によってフロント面にインク組成物からなる印刷層が形成された場合にも印刷層に凹凸パターンが現れにくくなる。したがって、凹凸構造によるブリスターの抑制と優れた外観の両立が可能である。
【0023】
<ヒートシール層の表面性状>
ヒートシール層の表面性状に関する各種パラメーターは、表面の平滑化粗さ曲線及び負荷曲線により求めることができる。具体的な求め方を、
図1を参照しながら説明する。
図1は、ヒートシール層の表面の平滑化粗さ曲線K1と、当該平滑化粗さ曲線K1から求められた負荷曲線K2の一例を示す。なお、本発明におけるヒートシール層の表面の平滑化粗さ曲線及び負荷曲線は、
図1に例示するパターンに限定されない。
【0024】
<<コア部のレベル差Rk>>
本発明における「コア部のレベル差Rk」は、ISO 13565-2:1996及びJIS B0671-2:2002「製品の幾何特性仕様(GPS)-形体-第2部:円筒及び円すいの測得中心線,測得中心面並びに測得形体の局部寸法」において規定された粗さ曲線の突出山部高さと突出谷部深さの間のコア部のレベル差(core roughness depth)である。
【0025】
コア部のレベル差Rkを求めるには、
図1に例示するように、まず平滑化粗さ曲線K1から負荷曲線K2を求める。負荷曲線K2の縦軸は高さを示す。負荷曲線K2の横軸は、負荷長さ率Tp(%)を示す。負荷長さ率Tpは、平滑化粗さ曲線K1を、ある高さで水平方向に切断したときの切断位置における、実体部分と空隙部分のうちの実体部分の割合(基準長さに対する実体部分の累積長さの割合)(%)である。
【0026】
次に、負荷曲線K2上で等価直線K3を求める。等価直線K3は、負荷曲線K2上の2点であって、負荷長さ率Tpの差ΔMrが40%になる2点を通る割線(かっせん)のうち、最も緩い傾斜となる直線である。負荷長さ率Tpが0%と100%の位置において、等価直線K3が縦軸と交わる2つの高さ位置の間がコア部51であり、この2つの高さ位置の差がコア部51のレベル差Rkである。通常、レベル差Rkが大きい値であるほど、表面の主たる凹部(コア部51の凹部)の容積が大きいことを意味する。また、負荷長さ率Tpが0%の位置において、等価直線K3が縦軸と交わる位置(コア部51の最上部)より高い部分が突出山部52である。コア部51の負荷長さ率Mr1は、測定面からみて突出山部52が占める面積の割合を表す。
【0027】
ヒートシール面のコア部のレベル差Rkが大きくなれば、空気の流路を形成し得るキャビティの容積が大きくなり、熱可塑性樹脂フィルムと容器の成形用樹脂との間の空気の排出性が向上すると考えられる。この空気の排出性の観点から、本発明においてはヒートシール面のコア部のレベル差Rkが、1.2μm以上であり、1.5μm以上が好ましく、2.5μm以上がより好ましく、3.0μm以上がさらに好ましい。
【0028】
一方、レベル差Rkが大きくなりすぎると、負荷長さ率Mr1が減少し、突出山部52の面積が測定面積に対し相対的に減少することになる。そのため、ヒートシール面と容器の成形用樹脂との接触面積が減少し、接着強度が低くなる可能性がある。したがって、ラベル付き容器におけるラベル(熱可塑性樹脂フィルム)の接着強度を高くする観点から、本発明においてヒートシール面のコア部のレベル差Rkは、9.0μm以下であり、8.5μm以下が好ましく、8.0μm以下がより好ましい。
【0029】
<<十点平均粗さRzjis、比Rzjis/Rk>>
本発明における「十点平均粗さRzjis」は、JIS B0601:1994「製品の幾何特性仕様(GPS)-表面性状:輪郭曲線方式-用語,定義及び表面性状パラメーター」附属書1で規定する十点平均粗さ(ten point height of roughness profile)である。まず、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけを抜き取る。この抜き取り部分の平均線から縦倍率の方向に測定した、最も高い山頂から5番目までの山頂の標高(Yp)の絶対値と、最も低い谷底から5番目までの谷底の標高(Yv)の絶対値との和を求める。求めた和を5で除して、マイクロメートル(μm)単位に変換することにより、十点平均粗さRzjisを求めることができる。
図1においては、最高の山頂から高い順に5番目までの山高さの平均を5点山高さ平均avRpkとして表し、最深の谷底から深い順に5番目までの谷深さの平均を5点谷深さ平均avRvkとして表している。
【0030】
通常、十点平均粗さRzjisが大きい値であるほど、より深い凹部(より高い凸部)を表面に有することを意味する。したがって、ヒートシール面の十点平均粗さRzjisが大きくなれば、空気流路を形成し得るキャビティが深くなるため、熱可塑性樹脂フィルムと容器の成形用樹脂との間の空気の排出性が向上することが期待できる。このような観点から、ヒートシール面の十点平均粗さRzjisは、9.0μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましい。一方、ヒートシール面の十点平均粗さRzjisが大きすぎると、熱可塑性樹脂フィルムのヒートシール面と成形用樹脂との接触面積が減少し、接着強度が低くなる可能性がある。したがって、ラベル付き容器におけるラベル(熱可塑性樹脂フィルム)の接着強度を高くする観点から、ヒートシール面の十点平均粗さRzjisは、30μm以下が好ましく、25μm以下がより好ましい。
【0031】
キャビティが深くても、キャビティの幅が狭ければ十分な空気の排出性が得られないことがある。キャビティの幅の指標が上記レベル差Rkである。一方、熱可塑性樹脂フィルム同士をヒートシール面とヒートシール面とは反対側のフロント面とが接するように重ね合わせて荷重をかけた場合、ヒートシール面の突起部とフロント面との接触面積が小さいと、その接触部分に加わる圧力が高くなる。そのため、ヒートシール面の突起部の形状(凹凸形状)がフロント面に転写されやすくなると考えられる。ヒートシール面の凹凸形状がフロント面に転写されることを抑えるためには、ヒートシール面の突起部とフロント面の接触面積を評価する指標が必要になる。その指標の1つが比Rzjis/Rkであり、もう1つがコア部51の負荷長さ率Mr1である。
【0032】
比Rzjis/Rkは、コア部51の高さに対する突出山部52の高さの比率である。コア部51の高さ、つまりレベル差Rkが一定のとき、比Rzjis/Rkが大きくなるほど、突出山部52の底面積は変化がなく、突出山部52の高さが高くなり、突出山部52が急峻な傾斜を有することを意味する。ここで突出山部52の面積は、負荷長さ率Mr1に相当する。すなわち、キャビティの幅を広げるためには突出山部52の底面積を狭くするほうがよいことから、比Rzjis/Rkが大きい方が、ヒートシール面と原料樹脂との間の空気の排出性が向上する傾向がある。一方、ヒートシール面とフロント面との接触面積を広くするためには突出山部52の傾斜が急峻でないほうがよいことから、Rzjis/Rkが小さい方が、ヒートシール面の凹凸形状がフロント面に転写されにくい傾向がある。
【0033】
以上の点から、本発明において比Rzjis/Rkは、3以上であり、4以上が好ましく、4.5以上がより好ましい。また、比Rzjis/Rkは、10以下であり、9以下が好ましく、8以下がより好ましく、7以下がさらに好ましい。これにより、熱可塑性樹脂フィルムを積み重ねたときに、ヒートシール面の凹凸形状がフロント面に転写されることが抑えられるとともに、熱可塑性樹脂フィルムと成形用樹脂との間から空気が効率良く排出される。ブリスターの発生を抑えつつ、熱可塑性樹脂フィルムと成形用樹脂を高い接着強度で接着することが可能になる。
【0034】
<<コア部の負荷長さ率Mr1>>
本発明において「コア部の負荷長さ率Mr1」とは、ISO 13565-2:1996で規定するコア部の負荷長さ率(material portion)である。
図1に例示するように、コア部51の負荷長さ率Mr1は、突出山部52とコア部51の分離線と負荷曲線K2の交点の負荷長さ率を表す。また、負荷長さ率Mr1は上述の通り、突出山部52が測定面積に占める割合ととらえることができる。したがって、キャビティの容積を大きくするためには負荷長さ率Mr1が小さいほうがよく、ヒートシール面とフロント面との接触面積を広くするためには、負荷長さ率Mr1が大きいほうがよい。
【0035】
ヒートシール面のコア部の負荷長さ率Mr1は、6.5%以上であることが好ましく、8.0%以上がより好ましく、9.0%以上がさらに好ましい。また、ヒートシール面のコア部の負荷長さ率Mr1は、15.0%以下であることが好ましく、12.0%以下がより好ましく、11.0%以下がさらに好ましい。ヒートシール面のコア部51の負荷長さ率Mr1が上記の範囲であることにより、熱可塑性樹脂フィルムを積み重ねたときに、フロント面への凹凸形状の転写がより抑えられやすく、熱可塑性樹脂フィルムのヒートシール面と容器の成形用樹脂との間の空気もより効率良く排出されるようになる。
【0036】
ISO 13565-2:1996に規定されるレベル差Rk及びJIS B0601:1994附属書1に規定される十点平均粗さRzjis等を測定することができる機器としては、Zygo Corporation製の非接触表面形状測定機、株式会社小坂研究所製の高精度微細形状測定機、株式会社キーエンス製のレーザー顕微鏡、又は株式会社東京精密製の表面粗さ測定機等が挙げられる。測定方法の詳細については、後述の実施例を参照することができる。
【0037】
<<算術平均粗さRa>>
本発明において「算術平均粗さRa」は、JIS B0601:2013「製品の幾何特性仕様(GPS)-表面性状:輪郭曲線方式-用語,定義及び表面性状パラメーター」で規定する算術平均粗さRaである。
ヒートシール面の算術平均粗さRaは、0.90μm以上が好ましく、1.00μm以上がより好ましく、1.30μm以上がさらに好ましい。上記算術平均粗さRaは、2.60μm以下が好ましく、2.30μm以下がより好ましく、2.00μm以下がさらに好ましく、1.80μm以下が特に好ましい。
【0038】
<<平滑度>>
本発明において「平滑度」とは、JIS P 8155:2010で規定する王研式平滑度(Oken smoothness)である。
ヒートシール面の平滑度は、1000秒以上であることが好ましく、2000秒以上であることがより好ましく、3000秒以上であることがさらに好ましい。また、ヒートシール面の平滑度は、10000秒以下であることが好ましく、9000秒以下であることがより好ましく、6000秒以下であることがさらに好ましい。ヒートシール面の平滑度が上記の範囲であることにより、熱可塑性樹脂フィルムを積み重ねたときに、フロント面への凹凸形状の転写がより抑えられるとともに、インモールド成形時に熱可塑性樹脂フィルムのヒートシール面と容器の成形用樹脂との間の空気がより効率良く排出されるようになる。
【0039】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、本発明の効果が得られる範囲内で、ヒートシール樹脂受容層及びヒートシール層以外の層を含むことができる。例えば、本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、剛度を高める観点から基材層を備え、当該基材層上にヒートシール樹脂受容層及びヒートシール層を備えることができる。
以下、各層について説明する。
【0040】
<ヒートシール樹脂受容層>
ヒートシール樹脂受容層は、ヒートシール層の支持体となり得る。上述のように、ヒートシール樹脂受容層は、熱可塑性樹脂、無機粒子及び表面処理剤を含有する。
【0041】
上述したヒートシール面の表面性状の各パラメーターを所望の範囲に調整する観点から、ヒートシール層の下のヒートシール樹脂受容層は、延伸多孔質層であることが好ましい。無機粒子を含有するヒートシール樹脂受容層は、延伸によって無機粒子を起点とする微細な空孔が内部に多数形成され、多孔質層となる。空孔によって多孔質層の表面に凹部が生じ、当該凹部にヒートシール層のヒートシール樹脂が溶け落ちるため、ヒートシール面に凹凸構造を形成することができる。その表面性状のパラメーターは、ヒートシール樹脂受容層中の無機粒子の含有量、サイズ、表面状態又は延伸条件等で空孔数、空孔径及び空孔率等を制御することによって調整ができる。
【0042】
また多孔質であるヒートシール樹脂受容層は、無機粒子の含有量が大きいとその空孔率も大きくなる。空孔率が大きいと熱可塑性樹脂フィルムの弾性率が低下し、クッション性が高まるため、曲面に対する追従性が向上する。よって、熱可塑性樹脂フィルムをラベル又はインモールドラベルとして用いた場合に、被着体又は容器が凹凸の多い複雑な形状であっても当該形状に合わせて貼着することができ、優れた外観を得ることができる。
【0043】
<<熱可塑性樹脂>>
ヒートシール樹脂受容層の熱可塑性樹脂としては、後述の基材層に使用可能な熱可塑性樹脂から選択してもよい。これらは1種類を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いることもできる。
【0044】
ヒートシール層とヒートシール樹脂受容層との層間剥離を減らす観点から、ヒートシール樹脂受容層中の熱可塑性樹脂としては、ヒートシール層中のヒートシール樹脂と接着性の高い熱可塑性樹脂を使用することが好ましい。基材層が設けられる場合は、基材層とヒートシール樹脂受容層との層間剥離も減らす観点から、ヒートシール樹脂及び基材層中の熱可塑性樹脂の両方と接着性の高い熱可塑性樹脂を使用することが好ましい。
【0045】
ヒートシール樹脂受容層中の熱可塑性樹脂の融点は、ヒートシール層中のヒートシール樹脂の融点より高いことが好ましく、10℃以上高いことがより好ましく、20℃以上高いことがさらに好ましく、30℃以上高いことが特に好ましい。また、ヒートシール樹脂受容層中の熱可塑性樹脂の融点がヒートシール層中のヒートシール樹脂の融点よりも高く、かつ、ヒートシール樹脂受容層の延伸温度が、ヒートシール層中のヒートシール樹脂の融点より高い温度であってヒートシール樹脂受容層中の熱可塑性樹脂の融点より低い温度であることが好ましい。これにより、ヒートシール樹脂受容層が延伸多孔質層である場合に、フィルム成形時等に溶融したヒートシール樹脂がヒートシール樹脂受容層の空孔に溶け落ちやすく、ヒートシール面への凹凸構造の形成が可能になる。
【0046】
ヒートシール樹脂受容層中の熱可塑性樹脂の含有量は、熱可塑性樹脂フィルムのヒートシール面と容器の成形用樹脂との間の空気排出性を向上させる観点から、15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、25質量%以上であることがさらに好ましい。一方、ヒートシール面と成形用樹脂との接触面積を広くする観点から、上記熱可塑性樹脂の含有量は、60質量%以下であることが好ましく、55質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましく、45質量%以下であることがよりさらに好ましく、40質量%以下であることが特に好ましい。
【0047】
<<無機粒子>>
無機粒子は、樹脂よりも製造過程における二酸化炭素の排出係数が小さい。よって、無機粒子の含有により、ヒートシール樹脂受容層中の樹脂使用量を削減できるだけでなく、製造過程における二酸化炭素の排出も減らせる点でも環境負荷の低減が可能である。またヒートシール樹脂受容層が延伸多孔質層の場合、無機粒子は、ヒートシール樹脂を溶け落ちさせる空孔を形成する核となり得る。無機粒子の粒子径、含有量又は表面状態を制御することにより、ヒートシール面の表面性状を所望の範囲に調整することができる。
【0048】
樹脂使用量を削減し、環境負荷を低減する観点から、ヒートシール樹脂受容層中の無機粒子の含有量は、40質量%以上であり、45質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、55質量%以上がさらに好ましい。ヒートシール樹脂受容層が延伸多孔質層である場合は、無機粒子の含有量が大きいほど空孔率が上昇し、樹脂の使用量をさらに削減できるとともに、ヒートシール面のレベル差Rk及び十点平均粗さRzjisも大きい値に制御することが容易になり、好ましい。フィルムの成形性の観点からは、ヒートシール樹脂受容層中の無機粒子の含有量は、80質量%以下であり、75質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、65質量%以下がさらに好ましい。
【0049】
無機粒子としては、ヒートシール樹脂受容層を多孔質化させることができるものであれば、その種類は特に限定されない。無機粒子の具体例としては、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、焼成クレイ、タルク、珪藻土、白土、硫酸バリウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、チタン酸バリウム、シリカ、アルミナ、ゼオライト、マイカ、セリサイト、ベントナイト、セピオライト、バーミキュライト、ドロマイト、ワラストナイト、又はガラスファイバー等が挙げられる。なかでも重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、焼成クレイ、又はタルクが、空孔成形性が良く安価なために好ましい。
これらの中から1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0050】
無機粒子のその粒度分布における平均粒子径(D50)は、0.5μm以上が好ましく、1.0μm以上がより好ましく、4.5μm以上がさらに好ましい。無機粒子の平均粒子径は、10μm以下が好ましく、8μm以下がより好ましく、6μm以下がさらに好ましい。
ヒートシール樹脂受容層が多孔質延伸層の場合、空孔へヒートシール樹脂が溶け落ちることによって形成されるヒートシール面の表面性状のパラメーターを、空孔の数、空孔の径及び空孔率等によって制御することができる。上記平均粒子径が0.5μm以上であれば、ヒートシール面のレベル差Rk及び十点平均粗さRzjisを大きい値に制御することが容易となる。また上記平均粒子径が10μm以下であれば、ヒートシール面のレベル差Rk及び十点平均粗さRzjisを小さい値に制御することが容易となる。
【0051】
十点平均粗さRzjis、又は比Rzjis/Rkを小さく制御する観点から、無機粒子は、その粒度分布においてD50に対するD90の比(D90/D50)が、20以下であることが好ましく、15以下がより好ましく、10以下がさらに好ましく、5以下が特に好ましい。上記比(D90/D50)は、十点平均粗さRzjis、又は比Rzjis/Rkを大きく制御する観点から、1.5以上であってもよく、2.0以上であってもよい。
【0052】
上記無機粒子の平均粒子径(D50)は、粒子計測装置、例えば、レーザー回折式粒子計測装置「マイクロトラック」(株式会社日機装製、商品名)により測定された粒度分布において、累積で50%にあたる粒子径(累積50%粒径)のことをいう。D90は、上記粒度分布において、累積で90%にあたる粒子径をいう。
【0053】
<<表面処理剤>>
表面処理剤は、無機粒子の表面に付着して無機粒子の凝集を抑えることができる。これにより、層中の無機粒子の含有量が大きくとも、凝集による熱可塑性樹脂フィルムの成形不良又は外観の不良を減らすとともに、周囲の熱可塑性樹脂との親和性により延伸の際の空孔の核の形成状態を調整し、空孔数、空孔径又は空孔率を制御することができる。また、ヒートシール樹脂受容層が延伸多孔質層の場合、表面処理剤によって凝集を抑制することにより、空孔径を小さい値に制御することができ、ヒートシール面のレベル差Rk及び十点平均粗さRzjisを小さい値に制御することが可能となる。
【0054】
ヒートシール樹脂受容層は、予め表面処理され、表面処理剤が付着した無機粒子を含有することによって表面処理剤を含有してもよい。また、ヒートシール樹脂受容層は、表面処理されていない無機粒子と表面処理剤とを混合することによって表面処理剤を含有してもよい。この場合、混合によって無機粒子の表面に表面処理剤が付着する。表面処理剤による凝集の抑制効果をより高い水準で得る観点からは、ヒートシール樹脂受容層は、表面処理された無機粒子の含有によって予め無機粒子の表面に付着した表面処理剤を含有することが好ましく、表面処理された無機粒子と別途混合される表面処理剤の両方を含有することがより好ましい。
【0055】
ヒートシール樹脂受容層に使用する無機粒子の全体に対し、予め表面処理によって表面処理剤が付着した無機粒子の割合は、40質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましく、70質量%以上が特に好ましく、80質量%以上がより特に好ましい。上記割合が40質量%以上であれば、無機粒子の凝集を抑制し、成形不良又は外観不良を減らしやすい。また、空孔径を小さい値に制御してレベル差Rk又は十点平均粗さRzjisを小さい値に制御することが容易になる。
【0056】
ヒートシール樹脂受容層中の別途混合される表面処理剤の含有量は、成形不良又は外観不良を減らす観点から、0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.2質量%以上がさらに好ましい。表面処理剤がヒートシール面にブリードアウトすることによる接着性の低下を抑制する観点、及び樹脂の耐熱性の低下を抑制する観点からは、上記表面処理剤の含有量は、5質量%以下が好ましく、4質量%以下がより好ましく、3質量%以下がさらに好ましい。
【0057】
凝集を抑制する観点から、表面処理剤は、炭素数8~20の炭化水素基を有する酸、当該酸のエステル、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。そのような表面処理剤としては、例えば樹脂酸、脂肪酸、有機酸、硫酸エステル型陰イオン界面活性剤、スルホン酸型陰イオン界面活性剤、石油樹脂酸、これらのナトリウム、カリウム、アンモニウム等の塩、これらの脂肪酸エステル、樹脂酸エステル、ワックス、パラフィン等の他、非イオン系界面活性剤、ジエン系ポリマー、チタネート系カップリング剤、シラン系カップリング剤、燐酸系カップリング剤等も挙げられる。硫酸エステル型陰イオン界面活性剤としては、例えば長鎖アルコール硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル、硫酸化油、それらのナトリウム、カリウム等の塩が挙げられる。スルホン酸型陰イオン界面活性剤としては、例えばアルキルベンゼンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、パラフィンスルホン酸、α-オレフィンスルホン酸、アルキルスルホコハク酸、それらのナトリウム、カリウム等の塩等が挙げられる。脂肪酸としては、例えばオレイン酸、カプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、べへン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸等が挙げられる。有機酸としては、例えばマレイン酸、ソルビン酸等が挙げられる。ジエン系ポリマーとしては、例えばポリブタジエン、イソプレン等が挙げられる。非イオン系界面活性剤としては、例えばポリエチレン樹脂グリコールエステル型界面活性剤等が挙げられる。これらの表面処理剤は、1種類又は2種類以上組み合わせて使用できる。
【0058】
<<その他の添加剤>>
ヒートシール樹脂受容層は、必要に応じて公知の添加剤を任意に含有することができる。使用できる添加剤としては、例えば、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、高級脂肪酸アミド等のアンチブロッキング剤、染料、顔料、可塑剤、結晶核剤、離型剤、又は難燃剤等が挙げられる。これらは、熱可塑性樹脂フィルムからなるインモールドラベルの印刷性又はヒートシール性を阻害しない範囲で使用できる。
【0059】
<<空孔率>>
ヒートシール樹脂受容層の空孔率は、20%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、40%以上がさらに好ましい。上記空孔率は、70%以下が好ましく、65%以下がより好ましく、60%以下がさらに好ましい。
上記空孔率が20%以上であれば、樹脂使用量を削減し、環境負荷を低減しやすい。またヒートシール面のレベル差Rk及び十点平均粗さRzjisを大きい値に制御することが容易になる。空孔率が大きいほど熱可塑性樹脂フィルムの弾性率が低下し、クッション性が向上して曲面への追従性が高まるため、被着体又は容器の形状に合わせたラベリングが容易となる。上記空孔率が70%以下であれば、ヒートシール面のレベル差Rk及び十点平均粗さRzjisを小さい値に制御することが容易になる。
【0060】
<<厚さ>>
ヒートシール樹脂受容層の厚さは、溶融したヒートシール樹脂を受容するための空孔を十分に形成する観点から、20μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましく、40μm以上がさらに好ましく、50μm以上が特に好ましく、200μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。
【0061】
<基材層>
基材層は、熱可塑性樹脂フィルムの引張弾性率を向上させるとともに、熱可塑性樹脂フィルムの機械的強度を高めることができる。これにより、印刷工程又はラベル加工工程での搬送、インモールド成形時の金型への挿入等のハンドリングがより容易となる。また基材層によって、耐水性、耐薬品性、必要に応じて印刷性、不透明性、軽量性、又は帯電防止性等を付与することもできる。
【0062】
基材層は、引張弾性率又は機械的強度を高める観点から、熱可塑性樹脂を含有することが好ましい。基材層に使用できる熱可塑性樹脂としては、オレフィン系樹脂;エステル系樹脂;ナイロン-6、ナイロン-6,6、ナイロン-6,10、ナイロン-6,12等のアミド系樹脂;ポリカーボネート、アタクティックポリスチレン、シンジオタクティックポリスチレン等のスチレン系樹脂;ポリフェニレンスルフィドが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0063】
なかでも、オレフィン系樹脂又はエステル系樹脂を用いることが好ましく、オレフィン系樹脂を用いることがより好ましい。
オレフィン系樹脂としては、例えばプロピレン系樹脂、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン等のエチレン系樹脂、ポリ-4-メチル-1-ペンテン、又はエチレン-環状オレフィン共重合体等が挙げられる。また、エチレン、プロピレン、ブチレン、ヘキセン、オクテン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、メチル-1-ペンテン等のオレフィン類の単独重合体、及びこれらオレフィン類の2種類以上からなる共重合体が挙げられる。また、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体の金属塩(アイオノマー)、エチレン・アクリル酸アルキルエステル共重合体、エチレン・メタクリル酸アルキルエステル共重合体(アルキル基の炭素数は1~8が好ましい)、マレイン酸変性ポリエチレン、又はマレイン酸変性ポリプロピレン等の官能基含有オレフィン系樹脂が挙げられる。
エステル系樹脂としてはポリエチレンテレフタレートやその共重合体、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、又は脂肪族ポリエステル等が挙げられる。
【0064】
オレフィン系樹脂の中でも、フィルム成形性、防湿性、機械的強度、又はコストの観点から、プロピレン系樹脂が好ましい。プロピレン系樹脂としては、例えばプロピレンを単独重合させたアイソタクティック、シンジオタクティック、及び様々な立体規則性を有するホモポリプロピレンが挙げられる。またプロピレンを主体とし、これとエチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィンとを共重合させた様々な立体規則性を有するプロピレン系共重合体を挙げることができる。プロピレン系共重合体は2元系でも3元系以上の多元系でもよく、ランダム共重合体でもブロック共重合体でもよい。
【0065】
基材層中の熱可塑性樹脂としては、貼着時又は使用時に基材層とヒートシール樹脂受容層との層間剥離を起こしにくくする観点から、ヒートシール樹脂受容層中の熱可塑性樹脂に対して接着性の高い熱可塑性樹脂を使用することが好ましい。
【0066】
環境負荷の低減の観点から、基材層は、無機粒子を含有することが好ましく、無機粒子を含有する延伸多孔質層であることがより好ましい。基材層に使用できる無機粒子としては、上記ヒートシール樹脂受容層の項目で挙げた無機粒子と同様のものを使用することができ、好ましい無機粒子の種類もヒートシール樹脂受容層の項目で挙げたものと同じである。
また基材層は、必要に応じてヒートシール樹脂受容層と同様の公知の添加剤を任意に含有することができる。
【0067】
基材層中の熱可塑性樹脂の含有量は、フィルムの成形性又は機械的強度を向上させる観点から、40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましい。一方、熱可塑性樹脂フィルムに不透明性又は軽量性を付与する観点から、基材層中の熱可塑性樹脂の含有量は、90質量%以下であることが好ましく、85質量%以下がより好ましく、80質量%以下がさらに好ましい。
【0068】
基材層は、単層構造を有しても多層構造を有してもよい。各層で異なる機能を発現する観点からは多層構造が好ましい。こうした機能を発現する層としては、白色度、不透明度又は軽量化のための低密度層、ダイスから押し出して成形するときの異物の発生を抑制したりヒートシール樹脂受容層との接着力を高くしたりするためのスキン層、印刷インクの定着性に優れ、熱可塑性樹脂フィルムのフロント面に設けられるインク受容層等が挙げられる。
【0069】
<<厚さ>>
基材層の厚さは、機械的強度の観点から、30μm以上が好ましく、40μm以上がより好ましく、50μm以上がさらに好ましい。上記基材層の厚さは、曲面への追従性の観点から、300μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましく、100μm以下がさらに好ましい。
【0070】
<ヒートシール層>
ヒートシール層は、ヒートシール樹脂を含有し、熱可塑性樹脂フィルムと他の樹脂とを接合する接着剤の働きを有する。
【0071】
<<ヒートシール樹脂>>
使用できるヒートシール樹脂としては、例えば高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(アルキル基の炭素数は1~8)、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体の金属塩(例えばZn、Al、Li、K、Naから選択される金属との塩)等の熱可塑性樹脂が挙げられる。
またヒートシール樹脂としては、分子内に炭素2~20個を有するα-オレフィンから選択された少なくとも2種以上のコモノマーを共重合して得られるα-オレフィンのランダム共重合体又はブロック共重合体のような熱可塑性樹脂が挙げられる。
炭素2~20個のα-オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、2-メチル-1-プロペン、1-ペンテン、2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、2-エチル-1-ブテン、2,3-ジメチル-1-ブテン、2-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、3,3-ジメチル-1-ブテン、1-ヘプテン、メチル-1-ヘキセン、ジメチル-1-ペンテン、エチル-1-ペンテン、トリメチル-1-ブテン、メチルエチル-1-ブテン、1-オクテン、1-ヘプ
テン、メチル-1-ペンテン、エチル-1-ヘキセン、ジメチル-1-ヘキセン、プロピル-1-ヘプテン、メチルエチル-1-ヘプテン、トリメチル-1-ペンテン、プロピル-1-ペンテン、ジエチル-1-ブテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、オクタデセン等が挙げられる。これらの中でも共重合のしやすさ、又はコスト等の観点から、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテンが好ましい。
これらの中でも、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、又はメタロセン触媒を用いて共重合したエチレン系共重合体が好ましい。
これら熱可塑性樹脂のうち、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0072】
例えば、ヒートシール樹脂がエチレンとα-オレフィンとのランダム共重合体である場合、インモールド成形時のショットサイクルを早くする観点から、メタロセン触媒を用いて共重合されたエチレン・α-オレフィン共重合体をヒートシール樹脂として用いることが好ましい。エチレン・α-オレフィン共重合体を合成する際の触媒としては、メタロセン触媒、特にメタロセン・アルモキサン触媒、又は、例えば、国際公開公報WO92/01723号公報等に開示されているようなメタロセン化合物と、メタロセン化合物と反応して安定なアニオンをなす化合物からなる触媒が好ましい。
【0073】
ヒートシール層中のヒートシール樹脂の含有量は、接着性を高める観点から、50質量%以上であることが好ましく、65質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、100質量%であってもよい。
【0074】
ヒートシール面を所望の表面性状に調整する観点から、ヒートシール層は、(i)粒子を含有するか、(ii)互いに非相溶性である少なくとも2種類の熱可塑性樹脂を含有することが好ましい。ヒートシール層は、(i)と(ii)の組み合わせであってもよい。
上記(i)の粒子を含有するヒートシール層は、ヒートシール層中の粒子の粒径又は添加量を調整することにより、ヒートシール面の表面性状を所望のパラメーターに制御することが可能となる。また上記(ii)のヒートシール層においては、互いに非相溶性である少なくとも2種類の熱可塑性樹脂によってヒートシール層の表面に凹凸が形成される。よって、組み合わせる熱可塑性樹脂の種類や含有量等を調整することにより、ヒートシール面の表面性状を所望のパラメーターに制御することが可能となる。ヒートシール面の表面性状の制御をする観点からは、延伸多孔質層であるヒートシール樹脂受容層に上記(i)又は(ii)のヒートシール層を組み合わせることも可能である。
【0075】
(i)粒子を含有するヒートシール層
粒子を含有する場合、ヒートシール樹脂としては、上述したヒートシール樹脂のうち、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、又はメタロセン触媒を用いて共重合したエチレン系共重合体が好ましく、これらの1種類を単独で又は2種類を組み合わせて使用できる。
【0076】
ヒートシール層に使用できる粒子としては、ヒートシール層に凹凸を付与することができるものであれば、その種類は特に限定されず、例えば無機粒子又は有機粒子が挙げられる。
【0077】
無機粒子の具体例としては、上記ヒートシール樹脂受容層の項で説明した種類と同様のものが挙げられる。無機粒子としては、凹凸賦形性が良く安価である観点から、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、アルミナ、シリカ、ゼオライト、又は酸化チタンが好ましい。
【0078】
有機粒子としては、ヒートシール樹脂と非相溶であり、融点又はガラス転移温度がヒートシール樹脂よりも高く、加えてヒートシール樹脂の溶融混練条件下で微分散するものが好ましい。有機粒子を構成する樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ナイロン-6、ナイロン-6,6、環状ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリエチレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリメチルメタクリレート、ポリ-4-メチル-1-ペンテン、環状オレフィンの単独重合体、又は環状オレフィンとエチレンとの共重合体等が挙げられる。さらにこれらの樹脂を架橋しておいて用いることもできる。またメラミン樹脂のような熱硬化性樹脂の微粉末を用いてもよい。
【0079】
上記無機粒子及び有機粒子は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。2種以上を組み合わせる場合は、無機粒子と有機粒子の組合せであってもよいが、無機粒子及び有機粒子のいずれか一方を用いることが好ましく、環境保護の観点からは、無機粒子を用いることが好ましい。
【0080】
ヒートシール層は、粒子のヒートシール層からの脱落を抑制し、粒子の凝集による外観不良を減らす観点から、粒子の表面処理剤を含有することができる。ヒートシール層においても、ヒートシール樹脂受容層の項で挙げた表面処理剤と同様の表面処理剤を使用することができる。
【0081】
粒子の平均粒子径は、ヒートシール面のレベル差Rk及び十点平均粗さRzjisを大きい値に制御する観点からは、0.5μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましく、5μm以上がさらに好ましい。ヒートシール面のレベル差Rk及び十点平均粗さRzjisを小さい値に制御する観点からは、上記粒子の平均粒子径は、30μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましく、15μm以下がさらに好ましい。
【0082】
ヒートシール層からの粒子の脱落を抑え、かつレベル差Rk及び比Rzjis/Rkを所定の範囲に調整する観点から、ヒートシール層の厚さに対する、粒子の平均粒子径の割合は、50%以上であることが好ましく、100%以上が好ましく、1000%以下であることが好ましく、500%以下がより好ましい。
【0083】
無機粒子の平均粒子径の定義は、ヒートシール樹脂受容層の項で説明した通りである。有機粒子の平均粒子径は、溶融混練と分散により熱可塑性樹脂中に分散した有機粒子の平均分散粒子径であり、熱可塑性樹脂フィルムの切断面の電子顕微鏡観察により測定された、少なくとも10個の粒子の最大径の平均値をいう。
【0084】
ヒートシール層中の粒子の含有量は、ヒートシール面のレベル差Rk及び十点平均粗さRzjisを大きい値に制御する観点から、3質量%以上であることが好ましく、5質量%以上がより好ましい。ヒートシール面の接着強度を高める観点からは、上記粒子の含有量は、30質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。
【0085】
(ii)互いに非相溶性である少なくとも2種類の熱可塑性樹脂を含有するヒートシール層
互いに非相溶性である2種類以上の熱可塑性樹脂を混合して加熱溶融した後、冷却固化すると、その冷却固化の過程において、各熱可塑性樹脂の熱収縮率の差により自発的に凹凸のある表面が形成される。上記2種類以上の熱可塑性樹脂はいずれもヒートシール樹脂であることが好ましい。ヒートシール面に凹凸の付与が可能であり、熱可塑性樹脂の種類又は含有量等によって、レベル差Rk又は比Rzjis/Rkを所望の範囲に調整することが可能となる。
【0086】
ここで、「互いに非相溶性である」とは、2種類以上の熱可塑性樹脂の混合物のDSC(示差走査熱量測定)において、各熱可塑性樹脂の融解ピークがそれぞれ独立に観察されることをいう。
互いに非相溶性である少なくとも2種類の熱可塑性樹脂の組み合わせは、互いに非相溶性である2種類の熱可塑性樹脂の組み合わせであってもよいし、互いに非相溶性である3種類以上の熱可塑性樹脂の組み合わせであってもよい。互いに非相溶性である3種類以上の熱可塑性樹脂の組み合わせの場合、各熱可塑性樹脂が、他の熱可塑性樹脂の少なくとも1種に対して非相溶性であればよく、全ての熱可塑性樹脂に対して非相溶性である必要はない。
【0087】
また、ヒートシール層中の熱可塑性樹脂は、互いに非相溶性である熱可塑性樹脂のみで構成されていてもよいし、互いに非相溶性である熱可塑性樹脂の他に、いずれの熱可塑性樹脂に対しても相溶性を有する熱可塑性樹脂(以下、相溶性樹脂という)を含んでいてもよい。凹凸の形成性の観点からは、相溶性樹脂の含有率は、互いに非相溶性である熱可塑性樹脂よりも小さいことが好ましい。
【0088】
例えば、互いに非相溶性である熱可塑性樹脂の組み合わせとして、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等のエチレン系樹脂と、プロピレン単独重合体、(プロピレン-エチレン)ランダム共重合体等との組み合わせが挙げられる。また、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、エチレン・α-オレフィン共重合体等のエチレン系共重合体と、プロピレン単独重合体等との組み合わせが挙げられる。
【0089】
ヒートシール層が含む熱可塑性樹脂のうち互いに非相溶性である熱可塑性樹脂は、ヒートシール層が含む熱可塑性樹脂の合計質量に対する含有率(質量%)が最も大きい成分(A)と、その次に含有率が大きい成分(B)であることが好ましい。これにより、ヒートシール面のレベル差Rk又は比Rzjis/Rkを、容易に所定の範囲に調整することができる。
【0090】
成分(A)と成分(B)の含有率の比(成分(A)の含有率/成分(B)の含有率)は、レベル差Rk又は比Rzjis/Rkを所定の範囲に調整する観点から、80/20~55/45であることが好ましく、30/70~55/45であることがより好ましく、40/60~55/45であることがさらに好ましい。
【0091】
また、レベル差Rk又は比Rzjis/Rkを所定の範囲に調整する観点から、成分(B)の融点は、成分(A)の融点よりも高いことが好ましく、成分(B)の融点と成分(A)の融点との差が20~110℃であることがより好ましく、40~90℃であることがさらに好ましい。具体的には、成分(A)の融点は、60℃以上であることが好ましく、70℃以上がより好ましく、140℃以下であることが好ましく、120℃以下がより好ましい。また、成分(B)の融点は、100℃以上であることが好ましく、120℃以上がより好ましく、200℃以下であることが好ましく、180℃以下がより好ましい。
【0092】
成分(A)及び成分(B)の組み合わせは、上記の「互いに非相溶性である熱可塑性樹脂の組み合わせ」から適宜選択することができる。これらのうち、例えば、成分(A)が直鎖状低密度ポリエチレンであり、成分(B)がプロピレン単独重合体である場合は、レベル差Rkの増加より十点平均粗さRzjisの増加が顕著で、比Rzjis/Rkが増大しやすい傾向がある。また、成分(A)が直鎖状低密度ポリエチレンであり、成分(B)が(プロピレン-エチレン)ランダム共重合体である場合は、十点平均粗さRzjisの増加よりレベル差Rkの増加が顕著で、比Rzjis/Rkが減少しやすい傾向がある。こうした傾向を考慮して、成分(A)及び成分(B)を選択することが好ましい。
【0093】
<<添加剤>>
印刷工程における搬送性のようなハンドリングの観点から、ヒートシール層は、ヒートシール性能に影響を及ぼさない範囲で、帯電防止剤を含有することができる。使用できる帯電防止剤としては、例えば1~3級アミン又は4級アンモニウム塩構造を有する化合物、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド等の完全脂肪酸エステル又は部分脂肪酸エステルが挙げられる。
【0094】
ヒートシール層の樹脂組成物に練り込んで使用し、徐々に表面に移行して帯電防止効果を発現する観点からは、低分子型の帯電防止剤を使用することができる。また、低濃度で持続的に帯電防止効果を発現する観点から、高分子型の帯電防止剤を使用することができる。低分子型の帯電防止剤と高分子型の帯電防止剤の併用も可能である。
【0095】
ヒートシール層中の帯電防止剤の含有量は、帯電防止剤の所定の性能を発揮する観点から、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上がより好ましい。インモールドラベルを容器に貼着した場合の接着強度を確保する観点から、上記帯電防止剤の含有量は、3質量%以下であることが好ましく、2質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。
【0096】
帯電防止剤の添加方法としては、ヒートシール層用の樹脂組成物に直接配合する方法、ヒートシール層に用いる熱可塑性樹脂と相溶性のある熱可塑性樹脂に帯電防止剤を高濃度で配合して得たマスターバッチをヒートシール層用の樹脂組成物に配合する方法が挙げられる。
【0097】
ブロッキング抑制の観点から、ヒートシール層は、アンチブロッキング剤を含有することができる。使用できるアンチブロッキング剤としては、例えば乳化重合法、分散重合法、懸濁重合法、又はシード重合法等を用いて調製されたポリマー微粒子;シリカ、アルミナ、又は合成ゼオライト等の無機微粒子;N,N′-エチレンビスステアリン酸アミド、N,N′-エチレンビスオレイン酸アミド、エルカ酸アミド、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、又はべへニン酸アミド等の脂肪酸アミドが挙げられる。これらの中でも熱可塑性樹脂フィルムを重ね合せた時に、そのヒートシール層の上に重ねられた熱可塑性樹脂フィルムのフロント面を傷つけにくいポリマー微粒子又は脂肪酸アミドが好ましい。また、これらのアンチブロッキング剤は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0098】
ヒートシール層中のアンチブロッキング剤の含有量は、アンチブロッキング剤の所定の性能を発揮する観点から、0.05質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。一方、被着体又は容器との接着強度を高める観点から、上記アンチブロッキング剤の含有量は、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
【0099】
アンチブロッキング剤の添加方法としては、ヒートシール層形成用の樹脂組成物に直接配合する方法、ヒートシール層に用いる熱可塑性樹脂と相溶性のある熱可塑性樹脂にアンチブロッキング剤を高濃度で配合して得たマスターバッチをヒートシール層形成用の樹脂組成物に配合する方法が挙げられる。
【0100】
ヒートシール層は、必要に応じて上記ヒートシール樹脂受容層の項で列挙した公知の添加剤を任意に含有することができる。
ヒートシール層中のこれらの添加剤の含有量は、添加剤の所定の性能を発揮する観点から、0.05質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。被着体又は容器との接着強度を高める観点から、上記添加剤の含有量は、7.5質量%以下であることが好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下がさらに好ましい。
【0101】
<<厚さ>>
ヒートシール層の厚さは、接着強度を高める観点から、0.5μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましく、3μm以上がさらに好ましく、例えば10μm以下である。特にヒートシール樹脂受容層が延伸多孔質層である場合、ヒートシール面にヒートシール樹脂の溶け落ちによる所望の凹凸構造を形成する観点からは、上記厚さは、7μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。
【0102】
(熱可塑性樹脂フィルムの製造方法)
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、例えば各層の成分を含む樹脂組成物からフィルムを成形して積層することにより製造することができる。フィルムは、必要に応じて延伸される。
フィルムの成形方法、積層方法、又は延伸方法としては、公知の種々の技術を単独で又は組み合わせて用いることができ、特に限定されない。
【0103】
フィルムの成形方法としては、例えば、スクリュー型押出機に接続された単層又は多層のTダイ、Iダイなどにより溶融状態の樹脂組成物をシート状に押し出すキャスト成形、カレンダー成形、圧延成形、インフレーション成形等が挙げられる。
【0104】
フィルムの積層方法としては、種々の接着剤を使用したドライラミネート方式、ウェットラミネート方式又は溶融ラミネート方式の他、フィードブロック又はマルチマニホールドを使用した多層ダイス方式(共押出方式)、複数のダイスを使用する押出しラミネーション方式、種々のコーターを使用した塗工方法等が挙げられる。多層ダイスと押出しラミネーションを組み合わせて使用することも可能である。
【0105】
延伸方法としては、ロール群の周速差を利用したロール間縦延伸法、テンターオーブンを利用した横延伸法、これらを組み合わせた逐次二軸延伸法等が挙げられる。また、ロールの圧力による圧延法、テンターオーブンとパンタグラフの組み合わせによる同時二軸延伸法、テンターオーブンとリニアモーターの組み合わせによる同時二軸延伸法等も挙げられる。スクリュー型押出機に接続された円形ダイを使用して溶融樹脂をチューブ状に押し出し成形した後、これに空気を吹き込む同時二軸延伸(インフレーション成形)法等も挙げられる。
【0106】
各層を積層する前に個別に延伸しておいてもよいし、積層した後にまとめて延伸してもよい。また、延伸した層を積層後に再び延伸してもよい。
空孔形成性の観点からは、ヒートシール樹脂受容層とヒートシール層とが積層された後、少なくとも1軸方向に延伸されることが好ましい。基材層/ヒートシール樹脂受容層/ヒートシール層の延伸軸数は、2軸/1軸/1軸、1軸/2軸/2軸、2軸/2軸/1軸、2軸/2軸/2軸であってもよい。
【0107】
なかでも、多層ダイの中で基材層/ヒートシール樹脂受容層/ヒートシール層の順に各層の樹脂組成物を積層して押し出すことにより積層フィルムを成形し、これを1軸又は2軸方向に延伸する方法、基材層となる単層又は多層の無延伸フィルムに、ヒートシール樹脂受容層及びヒートシール層を同時又は順次積層し、さらに1軸又は2軸延伸する方法、又は基材層となる単層あるいは多層の1軸延伸フィルムに、ヒートシール樹脂受容層及びヒートシール層を同時又は順次積層し、さらに1軸又は2軸延伸する方法が好ましい。
【0108】
熱可塑性樹脂フィルムの延伸温度は、ヒートシール樹脂受容層に空孔を形成する観点から、ヒートシール樹脂受容層に用いられる熱可塑性樹脂が非結晶性樹脂の場合には、当該熱可塑性樹脂のガラス転移点以上の温度であることが好ましい。また、ヒートシール樹脂受容層に用いられる熱可塑性樹脂が結晶性樹脂の場合には、該熱可塑性樹脂の非結晶部分のガラス転移点以上で結晶部分の融点より低いことが好ましい。一方、ヒートシール層中のヒートシール樹脂を空孔中に溶け落ちさせる観点から、延伸温度は、ヒートシール層に用いられる熱可塑性樹脂の結晶部分の融点より高いことが好ましい。例えば、ヒートシール樹脂受容層に用いられる熱可塑性樹脂がプロピレンの単独重合体(ガラス転移点約-20℃、融点155~167℃)であり、ヒートシール層に用いられるヒートシール樹脂が高密度ポリエチレン(融点121~136℃)である場合は123~165℃が好適である。
【0109】
延伸速度は、特に限定されるものではないが、熱可塑性樹脂フィルムの安定した延伸成形のために20~350m/分の範囲内であることが好ましい。
【0110】
延伸倍率は、熱可塑性樹脂フィルムに用いられる熱可塑性樹脂の延伸特性等を考慮して適宜決定される。例えば、熱可塑性樹脂フィルムに用いられる熱可塑性樹脂がプロピレンの単独重合体又はその共重合体である場合は、熱可塑性樹脂フィルムを一方向に延伸する場合の延伸倍率は、約1.5倍以上が好ましく、2倍以上がより好ましく、12倍以下が好ましく、10倍以下がより好ましい。また、二軸延伸する場合の延伸倍率は、面積延伸倍率で1.5倍以上が好ましく、4倍以上がより好ましく、60倍以下が好ましく、50倍以下がより好ましい。
【0111】
本発明においては、ヒートシール樹脂受容層が含む熱可塑性樹脂の融点が、ヒートシール層が含むヒートシール樹脂の融点よりも高くなるように材料を選択し、かつ、ヒートシール層が含むヒートシール樹脂の融点より高い温度であってヒートシール樹脂受容層が含む熱可塑性樹脂の融点より低い温度で延伸を行うことが好ましい。これにより、ヒートシール樹脂受容層中に空孔を形成し、この空孔内にヒートシール層のヒートシール樹脂を溶け落ちさせることができる。ヒートシール面に多数の凹部を形成して、ヒートシール面のレベル差Rkと比Rzjis/Rkを、所望の範囲に容易に調整することができる。
ヒートシール層の表面に凹凸構造を付与する観点からヒートシール層が無機粒子を含有する場合、ヒートシール樹脂受容層上にヒートシール層が積層された後に延伸することが好ましい。延伸によって無機粒子の形状がヒートシール層の表面形状に反映されやすく、凹凸を付与しやすい。また、ヒートシール層を延伸する場合、無延伸の場合に比べて無機粒子の量が少なくてもレベル差Rk及び比Rzjis/Rkを特定の範囲に調整しやすく、被着体又は容器との接着強度が低下しにくい効果がある。
【0112】
ヒートシール層に含まれる熱可塑性樹脂を非相溶性の2成分以上の樹脂の組み合わせとする場合、無延伸であっても自発的に凹凸のある表面を形成することができるが、ヒートシール層を積層成形した後に延伸することが好ましい。延伸を組み合わせることによって凹凸がヒートシール層の表面に強調されやすい。このとき、成分(B)が海島構造の島となることから、延伸温度は成分(A)の融点より高く、成分(B)の融点より低いことが好ましい。
【0113】
(熱可塑性樹脂フィルムの物性)
<厚さ>
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの厚さは、ラベル又はインモールドラベルに十分な剛度を与えて、印刷工程又は金型挿入工程のトラブルを抑制する観点から、30μm以上であることが好ましく、40μm以上がより好ましく、50μm以上がさらに好ましい。また、大型ボトル容器における耐落下性の観点から、熱可塑性樹脂フィルムの厚さは、200μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがより好ましい。
上記熱可塑性樹脂フィルムの厚さは、JIS K7130:1999「プラスチック-フィルム及びシート-厚さ測定方法」に従って測定する。
【0114】
<引張弾性率>
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの横方向(TD)における引張弾性率は、200MPa以上が好ましく、350MPa以上がより好ましく、400MPa以上がさらに好ましい。上記引張弾性率は、3600MPa以下が好ましく、3300MPa以下がより好ましく、3100MPaがさらに好ましい。
上記引張弾性率が200MPa以上であるとフィルムの剛度が高まりやすく、成形時に撓みにくいインモールドラベルを提供できる。上記引張弾性率が3600MPa以下であると、曲面への追従性が高まりやすく、凸部又は凹部を有する複雑な形状の被着体又は容器に貼着された場合も外観が良好なラベルを提供できる。
上記引張弾性率は、JISK7161―1:2014「プラスチック-引張特性の求め方」に従って測定する。測定対象のフィルムから、縦方向(MD)及び横方向(TD)についてそれぞれ幅10mm×長さ80mmの試験片を5枚用意した。各試験片を、JIS K7161-1記載の方法に従って、試験速度:100mm/minで引っ張った際の引張応力、引張ひずみを測定し、下記式より引張弾性率Eを算出した。
E=(σ2-σ1)/(ε2-ε1)
ただし、E:引張弾性率(MPa)、σ1:ひずみε1=0.0005において測定された引張応力、 σ2:ひずみε2=0.0025において測定された引張応力
【0115】
<密度>
熱可塑性樹脂フィルムの密度は、インモールドラベルに十分な剛度を与えて、印刷工程又は金型挿入工程のトラブルを減らす観点から、0.6g/cm3以上であることが好ましく、0.65g/cm3以上であることがより好ましく、0.7g/cm3以上であることがさらに好ましい。また、ラベルの軽量化の観点から、熱可塑性樹脂フィルムの密度は、0.95g/cm3以下であることが好ましく、0.9g/cm3以下であることがより好ましく、0.85g/cm3以下であることがさらに好ましい。熱可塑性樹脂フィルムをインモールドラベルとして使用するとき、成形後のラベルの外観にオレンジピールと称する模様が現れることがあるが、オレンジピールがデザインとして不要である場合、熱可塑性樹脂フィルムの密度として、上記範囲の中で高めの値(0.8g/cm3以上)を選択すればよく、オレンジピールがデザインとして必要である場合、上記範囲の中で低めの値(0.8g/cm3未満)を選択すればよい。
【0116】
上記熱可塑性樹脂フィルムの密度は、JIS P8124:2011「紙及び板紙-坪量の測定方法」に基づいて測定して得た坪量を、上記熱可塑性樹脂フィルムの厚さで割った値として求める。
【0117】
<表面抵抗率>
熱可塑性樹脂フィルムのヒートシール面と反対側のフロント面の表面抵抗率は、1×108Ω以上であることが好ましく、5×108Ω以上であることがより好ましく、1×109Ω以上であることがさらに好ましい。また、フロント面の表面抵抗率は、1×1012Ω以下であることが好ましく、5×1011Ω以下であることが好ましく、1×1011Ω以下であることがさらに好ましい。これにより、印刷工程、ラベル加工工程等において、2枚以上のフィルムが重なって搬送されること(重送)が抑制されるとともに、帯電インサーターを用いて金型に配置するときにインモールドラベルの落下が起こりにくくなる。
上記表面抵抗率は、温度23℃、相対湿度50%の条件下で、JIS K-6911:1995「熱硬化性プラスチック一般試験方法」に準拠し、2重リング法の電極を用いて測定される抵抗率である。
【0118】
(ラベル及びインモールドラベル)
本発明のラベル及びインモールドラベルは、上述した本発明の熱可塑性樹脂フィルムを備える。本発明のラベルは、加熱によりヒートシール層が被着体に接着する。また本発明のインモールドラベルは、インモールド成形時に溶融した成形用樹脂の熱によって成形用樹脂から成形される容器の外表面に接着する。
【0119】
<印刷>
本発明のラベル及びインモールドラベルは、そのフロント面にバーコード、製造元、販売会社名、キャラクター、商品名、又は使用方法等の情報を印刷することができる。印刷方式は特に限定されず、例えばグラビア印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷、シール印刷、又はスクリーン印刷等を採用することができる。ラベル又はインモールドラベルとしての熱可塑性樹脂フィルムのフロント面は、表面処理され、印刷適性を有することが好ましい。表面処理の方法としては、コロナ放電等の表面酸化処理、インク定着性に優れた物質の塗布等が挙げられる。
【0120】
従来の熱可塑性樹脂フィルムからなるラベル又はインモールドラベルは、積み重ねられたときにエンボス加工されたヒートシール面の凹凸形状がフロント面に強く転写されているため、フロント面にベタ印刷を行うとエンボスパターンが目立って現れる傾向があった。これに対して、本発明の熱可塑性樹脂フィルムを用いるラベル又はインモールドラベルでは、印刷面にエンボスパターンが全く現れないか現れても目立たない。保存期間後も印刷部分の外観の変化が少なく、優れた外観を維持することができる。
【0121】
<打抜加工>
本発明の熱可塑性樹脂フィルムを打抜加工することにより、必要な形状寸法のラベル又はインモールドラベルを得ることができる。ラベル又はインモールドラベルに情報を印刷する場合、打抜加工工程は、印刷工程前であっても印刷工程後でもよいが、通常は印刷工程後である。打抜加工されたラベル又はインモールドラベルは、樹脂容器表面の全面に貼着される大きなサイズであってもよいし、一部に貼着される小さなサイズであってもよい。例えば、インモールドラベルは、インジェクション成形されるカップ状の樹脂容器の側面をぐるりと取巻くブランクラベルとして用いられてもよいし、中空成形されるボトル状の樹脂容器の表面及び裏面に貼着されるラベルとして用いるものであってもよい。
【0122】
(ラベル付き樹脂容器)
本発明のインモールドラベルを用いてインモールド成形することにより、樹脂容器の表面に本発明のインモールドラベルが貼着されたラベル付き樹脂容器を製造することができる。
【0123】
<樹脂容器>
樹脂容器の材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)又はその共重合体等のエステル系樹脂;ポリプロピレン(PP)、又はポリエチレン(PE)等のオレフィン系樹脂;ポリカーボネート樹脂等を挙げることができる。なかでも、ブロー成形しやすい樹脂であることから、エステル系樹脂又はオレフィン系樹脂を用いることが好ましい。また、これらの熱可塑性樹脂を主成分とする熱可塑性樹脂組成物を使用することが好ましい。
【0124】
樹脂容器の胴体の形状は特に限定されず、断面形状が真円であってもよく、楕円形又は矩形であってもよい。断面が矩形である場合は角が曲率を有するであることが好ましい。強度の点からは、胴体の断面は真円か真円に近い楕円形であることが好ましく、真円であることが最も好ましい。
【0125】
<インモールド成形>
インモールド成形方法としては、例えば中空成形、インジェクション成形、又は差圧成形等が挙げられる。
【0126】
例えば中空成形では、インモールドラベルを、少なくとも1つの金型のキャビティ内にインモールドラベルのヒートシール面が金型のキャビティ側(フロント面が金型に接するよう)に向くように配置した後、吸引又は静電気により金型内壁に固定する。次いで容器の原料樹脂からなるパリソン又はプリフォームのような成形用樹脂を加熱し、金型間に導いて型締めする。次いで、常法により中空成形することにより、該ラベルが樹脂容器の外表面に一体に貼着されたラベル付き樹脂容器が成形される。
【0127】
インジェクション成形では、インモールドラベルを、雌金型のキャビティ内にインモールドラベルのヒートシール面が金型のキャビティ側に向くよう(フロント面が金型に接するよう)に配置した後、吸引又は静電気により金型内壁に固定し、型締めする。次いで、容器の成形用樹脂の溶融物を金型内に射出し容器を成形することにより、該ラベルが樹脂容器の外表面に一体に貼着されたラベル付き樹脂容器が成形される。
【0128】
差圧成形では、インモールドラベルを、差圧成形金型の下雌金型のキャビティ内にラベルのヒートシール面が金型のキャビティ側に向くよう(フロント面が金型に接するよう)に設置した後、吸引又は静電気により金型内壁に固定する。次いでシート状の成形用樹脂の溶融物を下雌金型の上方に導き、常法により差圧成形することにより、該ラベルが樹脂容器の外表面に一体に貼着されたラベル付き樹脂容器が成形される。差圧成形は、真空成形及び圧空成形のいずれも採用できるが、一般には両者を併用し、かつプラグアシストを利用した差圧成形が好ましい。
本発明のインモールドラベルは、容器の樹脂温度が低温で成形される中空成形又はインジェクション成形用として、特に有用である。
【0129】
<接着強度>
樹脂容器とラベルとの間の接着強度は、ブリスターが生じない状況下において、2N/15mm以上が好ましく、4N/15mm以上が好ましく、6N/15mm以上がさらに好ましい。これにより、使用中のラベルの剥がれを減らすことができる。
上記接着強度は、JIS K 6854-3:1999「接着剤-はく離接着強さ試験方法-第3部:T形はく離」に従って測定する。
【実施例0130】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の「部」、「%」等の記載は、断りのない限り、質量基準の記載を意味する。
【0131】
(測定方法)
熱可塑性樹脂フィルムの物性は、次のように測定した。
【0132】
<厚さ>
熱可塑性樹脂フィルムの総厚(μm)は、JIS K7130:1999に基づき、定圧厚さ測定器(株式会社テクロック製、「PG-01J」)を用いて測定した。
各層の厚さ(μm)は、走査型電子顕微鏡により熱可塑性樹脂フィルムの断面を観察して求めた、各層の厚さの比率を上記総厚に乗算することにより求めた。
【0133】
<密度>
熱可塑性樹脂フィルムの密度(g/cm3)は、熱可塑性樹脂フィルムの坪量を、上記で得た厚さで割った値として求めた。
熱可塑性樹脂フィルムの坪量は、JIS P8124:2011「紙及び板紙-坪量の測定方法」に基づき、100mm×100mmサイズに打抜いたサンプルを電子天秤で秤量して測定した。
【0134】
<平滑度>
熱可塑性樹脂フィルムの王研式平滑度(秒)を、JIS P 8155:2010「紙及び板紙-平滑度試験方法-王研法」に従って、デジタル王研式透気度、平滑度試験機(旭精工株式会社製「EYO-55-1M」)で測定した。
【0135】
<引張弾性率>
熱可塑性樹脂フィルムの縦方向(MD)及び横方向(TD)の引張弾性率を、JISK7161―1:2014に基づき、求めた。
【0136】
<十点平均粗さRzjis>
熱可塑性樹脂フィルムのヒートシール面の十点平均粗さRzjisを、JIS B0601:1994附属書1に準拠する表面粗さ測定機(株式会社東京精密製、「SURFCOM 1500DX」)を用いて、ヒートシール面の測定長さ30mmの条件で測定した。測定には、熱可塑性樹脂フィルムを50mm×50mmに断裁したサンプルを用いた。
【0137】
<算術平均粗さRa、コア部のレベル差Rk、突出山部高さRpk、及び突出谷部深さRvk、コア部の負荷長さ率Mr1、比Rzjis/Rk>
熱可塑性樹脂フィルムのヒートシール面の表面形状を、ISO 13565-1:1996に準拠する非接触3次元表面形状粗さ測定器(Zygo Corporation製、「NewView5010」)を用いて測定した。具体的には、面方向の3次元表面形状を、測定面積:2mm×2mm、対物レンズ:20倍、14μm以下の波長をカットする条件下で測定した。この測定結果をISO 13565-2:1996に準拠する解析ソフト(Zygo Corporation製、「MetroPro」)を用いて解析し、上記面方向の3次元表面形状(算術平均粗さRa、コア部のレベル差Rk、突出山部高さRpk、及び突出谷部深さRvk、コア部の負荷長さ率Mr1、比Rzjis/Rk)を求めた。
【0138】
(材料)
表1は、熱可塑性樹脂フィルムの製造に使用した材料の一覧である。
【表1】
【0139】
(実施例1)
表1に記載の熱可塑性樹脂PP2(プロピレン単独重合体(日本ポリプロ社製、商品名:ノバテックPP MA3、MFR(JIS-K7210):11g/10分、密度:0.906g/m3、融点(JIS-K7121):167℃)を25質量%、熱可塑性樹脂PP3(プロピレン単独重合体(日本ポリプロ社製、商品名:ノバテックPP FY6、MFR(JIS-K7210):2.5g/10分、密度:0.906g/m3、融点(JIS-K7121):167℃)を13.5質量%、無機粒子CA1(重質炭酸カルシウム(ステアリン酸エステルにより表面処理済み、備北粉化工業社製、商品名:ライトン32X、平均粒子径(D50):0.7μm、D90:2μm、密度:2.71g/m3))を60質量%、表面処理剤SA(オレイン酸(花王社製、商品名:ルナック O-V))を0.5質量%、無機粒子TIO(ルチル型二酸化チタン(石原産業社製、商品名:タイペーク CR-60、平均粒子径:0.2μm、密度:4.23g/m3))を1質量%の割合で混合し、ヒートシール樹脂受容層用の樹脂組成物を調製した。
【0140】
また表1に記載のヒートシール樹脂PE2(メタロセン系ポリエチレン (日本ポリエチレン社製、商品名:ハーモレックスNF444N、MFR(JIS-K7210):2g/10分、密度:0.912g/cm3、融点(JIS-K7121):121℃、結晶化点(JIS-K7121):95℃)の100質量%を、ヒートシール層用の樹脂組成物として準備した。
【0141】
上記ヒートシール樹脂受容層用とヒートシール層用の各樹脂組成物を、230℃に設定した2台の押出機にてそれぞれ溶融混練した後、230℃に設定したTダイよりシート状に共押出して、ヒートシール樹脂受容層/ヒートシール層の2層構造を有する無延伸シートを得た。この無延伸シートを、テンターオーブンを用いてシート表面の温度が160℃になるように再加熱した後、テンターを用いて横方向(TD)に9倍延伸し、さらに170℃に調整した熱セットゾーンによりアニーリング処理を行った。冷却ロールにて約60℃まで冷却し、耳部をスリットして2層構造の1軸延伸樹脂フィルムを得た。これをガイドロールでコロナ放電処理器に導き、ヒートシール樹脂受容層側の表面に50W・分/m2の処理量でコロナ放電処理を施した。これを巻き取り機で巻き取って、実施例1の熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0142】
図2は、実施例1の熱可塑性樹脂フィルムの負荷曲線を示す。実施例1の熱可塑性樹脂フィルムは、総厚:78μm(ヒートシール樹脂受容層の厚さ:74μm/ヒートシール層の厚さ:4μm)、密度:0.90g/cm
3、平滑度:5664秒、引張弾性率(MD):124MPa、引張弾性率(TD):2740MPa、表面粗さパラメーターがそれぞれ、Ra:1.33μm、Rzjis:17.63μm、Rk:3.79μm、Rpk:1.24μm、Rvk:2.64μm、Mr1:8.34%、Rzjis/Rk:4.65であった。
【0143】
(実施例2)
ヒートシール樹脂PE1(メタロセン系ポリエチレン(日本ポリエチレン社製、商品名:ハーモレックスNJ744N、MFR(JIS-K7210):12g/10分、密度:0.911g/cm3、融点(JIS-K7121):120℃、結晶化点(JIS-K7121):95℃)を50質量%、ヒートシール樹脂PE2を50質量%の割合で混合し、ヒートシール層用の樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物を用いてヒートシール層を形成した以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂フィルムを得た。実施例2の熱可塑性樹脂フィルムの成分、延伸条件、及び各物性の測定結果を、表2~表4に示す。
【0144】
(実施例3)
熱可塑性樹脂PP2を25質量%、熱可塑性樹脂PP3を13.5質量%、無機粒子CA1を40質量%、無機粒子CA2(重質炭酸カルシウム(表面処理なし、備北粉化工業社製、商品名:ソフトン#1800、平均粒子径(D50):1.25μm、D90:7.5μm)、密度:2.71g/m3)を20質量%、表面処理剤SAを0.5質量%、及び無機粒子TIOを1質量%の割合で混合し、ヒートシール樹脂受容層用の樹脂組成物を調製した。
また、ヒートシール樹脂PE1の100質量%をヒートシール層用の樹脂組成物として準備した。
上記各樹脂組成物を用いてヒートシール樹脂受容層及びヒートシール層を形成した以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂フィルムを得た。実施例3の熱可塑性樹脂フィルムの成分、延伸条件、及び各物性の測定結果を、表2~表4に示す。
【0145】
(実施例4)
ヒートシール樹脂受容層用の樹脂組成物において、無機粒子CA2の代わりに無機粒子CA3(重質炭酸カルシウム(表面処理なし、備北粉化工業社製、商品名:BF200、平均粒子径(D50):5μm、D90:30μm)、密度:2.71g/m3)を20質量%用いた以外は、実施例3と同様にして熱可塑性樹脂フィルムを得た。実施例4の熱可塑性樹脂フィルムの成分、延伸条件、及び各物性の測定結果を、表2~表4に示す。
【0146】
(実施例5~7、11及び12、比較例3及び4)
ヒートシール樹脂受容層の各成分の割合を表2に示すように変更した以外は、実施例3と同様にして実施例5~7、11及び12、比較例3及び4の各熱可塑性樹脂フィルムを得た。各熱可塑性樹脂フィルムの成分、延伸条件、物性、引張弾性率及び表面性状の各パラメーターを、表2~表4に示す。実施例5の熱可塑性樹脂フィルムの負荷曲線を
図3に示す。
【0147】
(実施例8)
ヒートシール樹脂PE1を70質量%、及び無機粒子CA1を30質量%の割合で混合し、ヒートシール層用の樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物を用いてヒートシール層を形成し、ヒートシール樹脂受容層の各成分の割合を表2に示すように変更した以外は、実施例3と同様にして実施例8の熱可塑性樹脂フィルムを得た。当該熱可塑性樹脂フィルムの成分、延伸条件、及び各物性の測定結果を、表2~表4に示す。
【0148】
(実施例9)
無延伸シートを、シート表面の温度が130℃になるよう熱ロールで再加熱し、縦方向(MD)に2倍延伸し、冷却ロールにてシート表面の温度が約60℃になるまで冷却して2倍延伸シートを得た後、150℃まで再加熱して横方向に2倍延伸し、2軸延伸樹脂フィルムを得たこと以外は、実施例3と同様に熱可塑性樹脂フィルムを作製した。当該熱可塑性樹脂フィルムの成分、延伸条件、及び各物性の測定結果を、表2~表4に示す。
【0149】
(実施例10)
熱可塑性樹脂PP1(プロピレン単独重合体(日本ポリプロ社製、商品名:ノバテックPP MA4、MFR(JIS-K7210):5g/10分、密度:0.906g/m3、融点(JIS-K7121):167℃)を84質量%、無機粒子CA1を16質量%の割合で混合し、基材層用の樹脂組成物を調製した。
【0150】
上記基材層用の樹脂組成物を250℃に設定した押出機にて溶融混練した後、250℃に設定したTダイに供給してシート状に押し出し、これを冷却ロールにて約60℃まで冷却して無延伸シートを得た。次いでこの無延伸シートを、シート表面の温度が140℃になるよう熱ロールで再加熱した後、ロール群の周速差を利用して縦方向(MD)に4倍延伸し、冷却ロールにてシート表面の温度が約60℃になるまで冷却して4倍延伸シートを得た。
【0151】
次いで実施例1で調製したヒートシール樹脂受容層用及びヒートシール層用の各樹脂組成物を、230℃に設定した別の2台の押出機にて溶融混練した。これを230℃に設定したTダイよりシート状に押し出して上記4倍延伸シートに積層し、基材層/ヒートシール樹脂受容層/ヒートシール層の順に積層された3層シートを得た。当該3層シートを、テンターオーブンを用いてシート表面の温度が160℃になるように再加熱した後、テンターを用いて横方向(TD)に9倍延伸し、さらに170℃に調整した熱セットゾーンによりアニーリング処理を行った。冷却ロールにて約60℃まで冷却し、耳部をスリットして3層構造の2軸延伸樹脂フィルムを得た。これをガイドロールでコロナ放電処理器に導き、基材層側の表面に50W・分/m2の処理量でコロナ放電処理を施した。巻き取り機で巻き取って、熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0152】
得られた熱可塑性樹脂フィルムは、総厚:80μm(基材層の厚さ:50μm、ヒートシール樹脂受容層の厚さ:26μm/ヒートシール層の厚さ:4μm)、密度:0.75g/cm3、平滑度:6542秒、引張弾性率(MD):967MPa、引張弾性率(TD):2478MPa、表面粗さパラメーターがそれぞれ、Ra:1.43μm、Rzjis:18.74μm、Rk:4.12μm、Rpk:1.33μm、Rvk:2.51μm、Mr1:9.54%、Rzjis/Rk:4.55であった。
【0153】
(比較例1)
熱可塑性樹脂PP2を30質量%、熱可塑性樹脂PP3を13.5質量%、無機粒子CA1を55質量%、表面処理剤SAを0.5質量%、及び無機粒子TIOを1質量%の割合で混合し、ヒートシール樹脂受容層用の樹脂組成物を調製した。
また、100質量%の熱可塑性樹脂PE1をヒートシール層用の樹脂組成物として準備した。
【0154】
上記ヒートシール樹脂受容層用とヒートシール層用の各樹脂組成物を、230℃に設定した2台の押出機にてそれぞれ溶融混練した後、230℃に設定したTダイよりシート状に共押出して、ヒートシール樹脂受容層/ヒートシール層の2層構造を有するシートを得た。このシートを、#150線のグラビアエンボスを付形した金属冷却ロールとマット調ゴムロールとの間にヒートシール層側が金属冷却ロールに接するように導き、挟圧して両者を接合しながらヒートシール層側にエンボスパターンを転写した。これを冷却ロールにて冷却して、ヒートシール樹脂受容層/ヒートシール層の2層構造を有する無延伸シートを得た。この無延伸シートを、テンターオーブンを用いてシート表面の温度が160℃になるように再加熱した後、テンターを用いて横方向(TD)に9倍延伸し、さらに170℃に調整した熱セットゾーンによりアニーリング処理を行った。冷却ロールにて約60℃まで冷却し、耳部をスリットして2層構造の1軸延伸樹脂フィルムを得た。これをガイドロールでコロナ放電処理器に導き、ヒートシール樹脂受容層側の表面に50W・分/m
2の処理量でコロナ放電処理を施した。これを巻き取り機で巻き取って、比較例1の熱可塑性樹脂フィルムを得た。
比較例1の熱可塑性樹脂フィルムの熱可塑性樹脂フィルムの成分、延伸条件、及び各物性の測定結果を、表2~表4に示す。比較例1の熱可塑性樹脂フィルムの負荷曲線を
図4に示す。
【0155】
(比較例2)
ヒートシール樹脂PE3(メタロセン系ポリエチレン(The Dow Company製、商品名:エンゲージ8401、MFR(ASTM D1238):30g/10分、密度:0.885g/cm
3、融点(JIS-K7121):81℃)を50質量%、及び熱可塑性樹脂PP2を50質量%の割合で混合し、ヒートシール層用の樹脂組成物を調製した。これを用いてヒートシール層を形成した以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂フィルムを得た。比較例2の熱可塑性樹脂フィルムの成分、延伸条件、及び各物性の測定結果を、表2~表4に示す。また比較例2の熱可塑性樹脂フィルムの負荷曲線を
図5に示す。
【0156】
表2は、各熱可塑性樹脂フィルムの成分の一覧である。表3は、各熱可塑性樹脂フィルムの延伸条件、厚さ、密度及び平滑度の物性の一覧である。表4は、各熱可塑性樹脂フィルムの引張弾性率及び表面性状のパラメーターの物性の一覧である。各表中、HSはヒートシールを表す。
【表2】
【0157】
【0158】
【0159】
(評価方法)
各熱可塑性樹脂フィルムからラベル及びインモールドラベルを製造し、それぞれの適性を次のように評価した。
【0160】
<ラベルの印刷適性>
熱可塑性樹脂フィルムを小割スリット処理し、ラベルを製造した。当該ラベルの片面に温度23℃、相対湿度50%の環境下でフレキソ印刷した。印刷にはフレキソ印刷機(太陽機械製作所株式会社製、「TCL」)、及び紫外線硬化型フレキソインキ(T&K TOKA株式会社製、「UVフレキソCF」)を用い、商品名、製造元、販売会社名、使用方法、注意事項等の文字情報及びバーコード及び意匠を含む図柄を、60m/分の速度にて4色印刷を施した。印刷物を、紫外線照射器(アイグラフィック株式会社製、メタルハライド灯、100W/cm、1灯)の下を60m/分の速度にて通過させて印刷面のインクを乾燥させて、フレキソ印刷物を得た。
【0161】
印刷物の印刷面を観察し、下記基準にしたがって印刷適性を評価した。
◎:良好(ルーペ観察で外観不良は見られない)
○:良好(ルーペ観察で文字の輪郭に揺らぎが見られる)
△:可(ルーペ観察で文字の輪郭に欠損が見られる)
×:不良(目視観察で白抜けが見られる)
【0162】
<インモールドラベルの適性評価>
各熱可塑性樹脂フィルムからインモールドラベルを製造し、当該インモールドラベルを用いてインモールド成形によりラベル付き容器を製造した。ラベル付き容器におけるラベルの接着強度と、ラベルの外観を下記のように評価した。
【0163】
<<ラベル付き容器の製造>>
熱可塑性樹脂フィルムを、横120mm、縦150mmの矩形に打抜加工してインモールドラベルを製造した。
このインモールドラベルを3Lの内容量のボトルを成型できるブロー成形用金型の一方にヒートシール面がキャビティ側に向くように配置し、吸引を利用して金型上に固定した。金型の内壁には外側に突出する凸部を設け、この凸部にヒートシール面が位置するようにインモールドラベルを配置した。次いで、高密度ポリエチレン(日本ポリエチレン株式会社製、商品名:ノバテックHD HB420R、MFR(JIS K7210:1999):0.2g/10分、融解ピーク温度(JIS K7121:2012):133℃、結晶化ピーク温度(JIS K7121:2012):115℃、密度(JIS K7112:1999):0.956g/cm3)を160℃で溶融して、金型間にパリソン状に押し出し、ラベルが貼着する部分のパリソンを160℃に設定した。金型を型締めした後、4.2kg/cm2の圧空をパリソン内に供給し、16秒間パリソンを膨張させて金型に密着させて容器状とするとともにラベルと融着させた。金型内で成型物を冷却した後、型開きをしてラベル付き容器を得た。金型の冷却温度は20℃、ショットサイクル時間は38秒/回とした。
【0164】
<<接着強度>>
上記ラベル付き樹脂容器を23℃、相対湿度50%の環境下に1週間保管した。次いで、JIS K 6854-3:1999に従って、ラベル付き容器のラベル貼着部分を15mm幅の短冊状に切り取り、サンプルを作製した。引張試験機(株式会社島津製作所製、「オートグラフAGS-D型」)を用い、サンプルを300mm/minの引張速度でT字剥離することにより、ラベルと容器との間の接着強度(N/15mm)を測定した。
【0165】
<<ラベル全体の外観>>
ラベル付き容器のラベル全体を観察し、下記のように評価した。
◎:優(外観不良も剥離も見られない)
○:良(若干の外観不良が発生するが、剥離は見られない)
△:可(オレンジピールが発生するが、剥離は見られず、実用上問題ない)
×:不良(ブリスター、位置ずれによる外観不良、又は剥離が発生する)
【0166】
<<ラベルの凸部の外観>>
ラベル付き容器のラベルの凸部を観察し、下記のように評価した。
◎:優(凹凸部に追従している)
〇:良(若干のシワが発生するが、十分追従しており剥離は見られない)
△:可(凹部への追従がやや劣るが、容器の凹凸は視認でき、実用上問題ない)
×:不良(凹凸部へ追従せず、容器の凹凸が視認できない)
【0167】
<ヒートシール樹脂受容層の空孔率>
熱可塑性樹脂フィルムから任意の一部をサンプルとして切り取り、エポキシ樹脂で包埋して固化させた後、ミクロトームを用いて、面方向に対する垂直方向(厚さ方向)にサンプルを切断した。切断面が観察面となるように、サンプルが包埋されたエポキシ樹脂を観察試料台に貼り付け、その観察面に金又は金-パラジウム等を蒸着した。次いで、走査型電子顕微鏡によって、任意の倍率(例えば、500倍~3000倍)で切断面の空孔を観察し、観察した領域を画像データとして取り込んで画像処理を行い、ヒートシール樹脂受容層の全面積に対して空孔が占める割合(%)を求めた。任意の10~30箇所においてサンプルを切り取って上記空孔が占める割合を測定し、その平均値をヒートシール樹脂受容層の空孔率(%)として算出した。
【0168】
<熱可塑性フィルム中の樹脂の体積比率>
熱可塑性フィルムを構成する樹脂組成物のうち、樹脂組成物の体積比率(%)を求めた。上記ヒートシール樹脂受容層の空孔率と同様の方法で熱可塑性樹脂フィルム全体の空孔率(%)を算出した。下記の計算式を用いて、熱可塑性樹脂フィルム中の樹脂の体積比率を算出した。
熱可塑性フィルム中の樹脂の体積比率(%)
=樹脂組成物の体積比率(%)×(1-熱可塑性フィルム全体の空孔率(%))
【0169】
【0170】
表5に示すように、レベル差Rk及び比Rzjis/Rkが特定の範囲にある実施例1~12は、ブリスターが少ないうえに5N/15mm以上の十分な接着強度が得られている。またヒートシール樹脂受容層の無機粒子の含有量が大きいため、環境への貢献度も高い。延伸によって空孔率が大きいヒートシール樹脂受容層は、ラベルの凸部への追従性も向上し、優れた外観が得られている。
【0171】
一方、比較例1~4は、レベル差Rk又は比Rzjis/Rkが特定の範囲内になく、印刷面の外観不良が生じるか、接着強度が低下して剥離が見られる。無機粒子の含有量が小さい比較例3は、環境への貢献度が低く、ヒートシール樹脂受容層の空孔率も小さいため、凸部への追従も不十分である。