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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150264
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】排水トラップと排水構造
(51)【国際特許分類】
   E03C 1/28 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
E03C1/28 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059282
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】595025224
【氏名又は名称】フネンアクロス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】水間 唯浩
【テーマコード(参考)】
2D061
【Fターム(参考)】
2D061DA01
2D061DD08
2D061DD20
2D061DE01
(57)【要約】
【課題】防錆処理を不要として、貫通部に設けることができる耐火性を備えた排水トラップを提供する。
【解決手段】防水パン用の排水トラップ1であって、下流側管材が差し込まれて接続する受口部140を設けて筒状に形成されており、軸Cが上下の方向に延びていて防水パンに取り付けられる熱可塑性樹脂製の内管本体部10と、受口部140の下端部を上端部に差し込んで受口部140よりも下方へ延びた熱可塑性樹脂製の接続管部50と、少なくとも接続管部50の一部を覆っていて、熱で膨張して排水の流路を塞ぐ熱膨張部材60と、内管本体部10と接続管部50と熱膨張部材60を覆う繊維モルタル製の耐火部80と、を備えている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
防水パン用の排水トラップであって、
下流側管材が差し込まれて接続する受口部を設けて筒状に形成されており、軸が上下の方向に延びていて前記防水パンに取り付けられる熱可塑性樹脂製の内管本体部と、
前記受口部の下端部を上端部に差し込んで前記受口部よりも下方へ延びた熱可塑性樹脂製の接続管部と、
少なくとも前記接続管部の一部を覆っていて、熱で膨張して排水の流路を塞ぐ熱膨張部材と、
前記内管本体部と前記接続管部と前記熱膨張部材を覆う繊維モルタル製の耐火部と、
を備えたことを特徴とする、排水トラップ。
【請求項2】
環状に形成された熱膨張性の目地部材を前記接続管部の下に設けていることを特徴とする、請求項1に記載の排水トラップ。
【請求項3】
前記内管本体部は、前記受口部よりも高い位置に設けられると共に前記受口部よりも内径が大きく形成された大筒部を設けており、
前記耐火部は、前記目地部材と共に下方を臨む下面と、この下面の周縁から上方へ延びた外周面と、を有して、軸から径方向に沿った前記耐火部の寸法において、前記受口部側が前記大筒部側よりも厚く形成されていることを特徴とする、請求項2に記載の排水トラップ。
【請求項4】
防水パン用の排水トラップであって、
下流側管材が差し込まれて接続する受口部とこの受口部よりも内径が大きく形成されていると共に前記受口部から延びている下方延長部とを設けて筒状に形成されており、軸が上下の方向に延びていて前記防水パンに取り付けられる熱可塑性樹脂製の内管本体部と、
少なくとも前記下方延長部の一部を覆っていて、熱で膨張して排水の流路を塞ぐ熱膨張部材と、
前記内管本体部と前記熱膨張部材とを覆う繊維モルタル製の耐火部と、
を備えたことを特徴とする、排水トラップ。
【請求項5】
スラブの上方に設けた防水パンと、
前記防水パンに取り付けられて、前記防水パンから下方へ突き出て一部がスラブの貫通部に配置された排水トラップと、
前記排水トラップの下に設けた下流側管材と、を備え、
前記排水トラップは、
前記下流側管材が差し込まれて接続する受口部を設けて筒状に形成されており、軸が上下の方向に延びていて前記防水パンに取り付けられた熱可塑性樹脂製の内管本体部と、
前記受口部の下端部を上端部に差し込んで前記受口部よりも下方へ延びた熱可塑性樹脂製の接続管部と、
少なくとも前記接続管部の一部を覆っていて、熱で膨張して排水の流路を塞ぐ熱膨張部材と、
前記内管本体部と前記接続管部と前記熱膨張部材を覆う繊維モルタル製の耐火部と、
を備えたことを特徴とする、排水構造。
【請求項6】
前記排水トラップは、環状に形成された熱膨張性の目地部材を前記接続管部の下に設けており、
前記下流側管材は、前記受口部の内側に嵌る差口部を有する熱可塑性樹脂製の内管と、前記差口部側を除いて前記内管を覆う繊維モルタル製の外管と、を備えており、
前記下流側管材の前記差口部が前記排水トラップの前記受口部に差し込まれて、前記下流側管材の前記外管の端部が前記目地部材に寄せて設けられていることを特徴とする、請求項5に記載の排水構造。
【請求項7】
前記下流側管材の前記内管と前記接続短管との間に空間が構成されていることを特徴とする、請求項6に記載の排水構造。
【請求項8】
前記内管本体部は、前記受口部よりも高い位置に設けられると共に前記受口部よりも内径が大きく形成された大筒部を設けており、
前記耐火部は、前記目地部材と共に下方を臨む下面と、この下面の周縁から上方へ延びた外周面と、を有して、軸から径方向に沿った前記耐火部の寸法において、前記受口部側が前記大筒部側よりも厚く形成されていることを特徴とする、請求項6又は請求項7に記載の排水構造。
【請求項9】
ロックウール或いはグラスウールが前記排水トラップのまわりに設けられて前記貫通部が塞がれていることを特徴とする、請求項5から請求項8の何れかに記載の排水構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物のスラブの貫通部に設ける耐火性の排水トラップの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図13に示すように、ホテルやマンションにおいて、バスユニット7の排水構造700は、バスユニット7の排水口に取り付けた排水トラップ710と、排水トラップの710の排出口に接続した直管720と、この直管720の下流側の端部につながったエルボ730と、このエルボ730の他端につながりスラブ8の貫通部8Aを通る耐火二層構造の立て管740と、を備えていて、貫通部8Aはモルタル750で塞がれている。バスユニット7からの排水は排水トラップ710を経由して階下へ流れる。
【0003】
バスユニット7の排水構造700において、排水トラップ710を貫通部8Aに設けて排水を階下へ流すことにすれば、スラブ8の上に設ける配管(直管720とエルボ730)などが不要となり、施工性が向上する。貫通部8Aに設ける耐火性を備えた排水トラップとしては、鋳鉄製のものを利用することができる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-290944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の鋳鉄製の排水トラップを貫通部8Aで使用した場合には、排水トラップにサビができるため、防錆処理が別途必要となり、作業が煩雑になってしまう。従来の鋳鉄製の排水トラップを洗濯機用の防水パンからの排水に利用する場合も同様の問題がある。
【0006】
そこで、本発明はこのような課題を解決するために創作されたものであり、防錆処理を不要として、貫通部に設けることができる耐火性を備えた排水トラップと、この排水トラップを用いた排水構造と、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、防水パン用の排水トラップであって、下流側管材が差し込まれて接続する受口部を設けて筒状に形成されており、軸が上下の方向に延びていて前記防水パンに取り付けられる熱可塑性樹脂製の内管本体部と、前記受口部の下端部を上端部に差し込んで前記受口部よりも下方へ延びた熱可塑性樹脂製の接続管部と、少なくとも前記接続管部の一部を覆っていて、熱で膨張して排水の流路を塞ぐ熱膨張部材と、前記内管本体部と前記接続管部と前記熱膨張部材を覆う繊維モルタル製の耐火部と、を備えている。
【0008】
本発明の排水トラップは、好ましくは、環状に形成された熱膨張性の目地部材を前記接続管部の下に設けている。
本発明の排水トラップは、好ましくは、前記内管本体部は、前記受口部よりも高い位置に設けられると共に前記受口部よりも内径が大きく形成された大筒部を設けており、前記耐火部は、前記目地部材と共に下方を臨む下面と、この下面の周縁から上方へ延びた外周面と、を有して、軸から径方向に沿った前記耐火部の寸法において、前記受口部側が前記大筒部側よりも厚く形成されている。
本発明は、防水パン用の排水トラップであって、下流側管材が差し込まれて接続する受口部とこの受口部よりも内径が大きく形成されていると共に前記受口部から延びている下方延長部とを設けて筒状に形成されており、軸が上下の方向に延びていて前記防水パンに取り付けられる熱可塑性樹脂製の内管本体部と、少なくとも前記下方延長部の一部を覆っていて、熱で膨張して排水の流路を塞ぐ熱膨張部材と、前記内管本体部と前記熱膨張部材とを覆う繊維モルタル製の耐火部と、を備えている。
【0009】
本発明の排水構造は、スラブの上方に設けた防水パンと、前記防水パンに取り付けられて、前記防水パンから下方へ突き出て一部がスラブの貫通部に配置された排水トラップと、前記排水トラップの下に設けられる下流側管材と、を備えている。前記排水トラップは、前記下流側管材が差し込まれて接続する受口部を設けて筒状に形成されており、軸が上下の方向に延びていて前記防水パンに取り付けられた熱可塑性樹脂製の内管本体部と、前記受口部の下端部を上端部に差し込んで前記受口部よりも下方へ延びた熱可塑性樹脂製の接続管部と、少なくとも前記接続管部の一部を覆っていて、熱で膨張して排水の流路を塞ぐ熱膨張部材と、前記内管本体部と前記接続管部と前記熱膨張部材を覆う繊維モルタル製の耐火部と、を備えている。
【0010】
本発明の排水構造は、好ましくは、環状に形成された熱膨張性の目地部材を前記接続管部の下に設けており、前記下流側管材は、前記受口部の内側に嵌る差口部を有する熱可塑性樹脂製の内管と、前記差口部側を除いて前記内管を覆う繊維モルタル製の外管と、を備えており、前記下流側管材の前記差口部が前記排水トラップの前記受口部に差し込まれて、前記下流側管材の前記外管の端部が前記目地部材に寄せて設けられている。
本発明の排水構造は、好ましくは、前記下流側管材の前記内管と前記接続短管との間に空間が構成されている。
本発明の排水構造は、好ましくは、ロックウール或いはグラスウールが前記排水トラップのまわりに設けられて前記貫通部が塞がれている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、防錆処理を施さずに、スラブの貫通部に設けて使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(a)は本発明の実施形態に係る排水トラップの正面図であり、(b)は(a)の排水トラップの平面図であり、(c)は(a)の排水トラップの底面図である。
図2図1(a)のA1-A1線に沿った排水トラップの断面図である。
図3図1(a)の排水トラップの分解図である。
図4図1の排水トラップの耐火部の成形方法を説明するための図である。
図5図1の排水トラップの耐火部の他の成形方法を説明するための図である。
図6図1の排水トラップを用いた排水構造を示す図である。
図7図6のA2-A2線に沿った排水構造の断面図である。
図8図1の排水トラップの機能を説明するための図である。
図9図1の排水トラップの機能を説明するための図である。
図10図1の排水トラップの変形例を示す断面図である。
図11図1の排水トラップの内管本体部の変形例を示す断面図である。
図12図1の排水トラップを用いた排水構造の他の構成例を示す図である。
図13】従来のバスユニットの排水構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。
[排水トラップ1]
図1及び図2に示すように、排水トラップ1は、筒状に形成されていて軸を上下の方向に延ばした内管本体部10と、排水トラップ1をバスユニット4に固定するための固定部20と、内管本体部10の内部に収容された器部30と、内管本体部10の内部に収容され上流からの排水を器部30の内部に導くガイド筒部40と、内管本体部10の下流側の端部に取り付けた接続短管部50と、熱膨張部材60と、目地部材70と、内管本体部10と接続短管部50と熱膨張部材60とを覆う耐火部80と、を備えている。なお、図2に排水トラップ1の軸Cを一転鎖線で表しており、内管本体部10と固定部20と器部30とガイド筒部40と接続短管部50とは何れも軸Cを中心軸として構成されている。
【0014】
[内管本体部10]
図3に示すように、内管本体部10は、上流側を構成し軸Cが上下の方向に延びた大筒部110と、この大筒部110の上端部111に設けたフランジ部120と、大筒部110の下端部112から軸Cへ向けて延びた延出部130と、この延出部130から下方へ延びて下流側を構成する小筒部140と、を備えている。なお、図3では、内管本体部10を正面から見た左半分を示すと共に、右半分を断面で表しており、固定部20(後述する着脱部材20Aを除く。)なども同様に左側が正面から見た左半分であり右側が断面である。
【0015】
大筒部110は、小筒部140と比べて、軸Cに沿った寸法L11が小筒部140の寸法L12よりも大きく設定され、内径も小筒部140の寸法よりも大きく設定されている。なお、図面では大筒部110の内周面の半径r11と小筒部140の内周面の半径r12(<r11)を示している。
【0016】
延出部130は、軸C及び小筒部140寄りに設けられ平坦状或いは大筒部110側から軸側へ下る斜面状に形成された小筒隣接部131と、この小筒隣接部131よりも軸Cから離れた箇所を構成し軸Cから離れるにつれて高くなる大筒隣接部132と、を備えている。小筒隣接部131の軸C寄りに設けられる縁が、小筒部140の内部に通じる開口135を形成する。大筒隣接部132の外側と内側の各面(内周面、外周面)は、曲面として形成されていて、前記の大筒部110が大筒隣接部132の端から上方へ延びている。
【0017】
[固定部20]
固定部20は、大筒部110の上端部111の内側に取り付けられ軸Cが上下の方向に延びた固定用筒部210と、固定用筒部210の上端部211の外側に設けられた固定用フランジ部220と、固定用筒部210の下端部212の内側に設けた支持部230と、を備えている。例えば、固定用筒部210は、外周面に螺旋状に延びた爪部を設けていて、この爪部が大筒部110の上端部の内周面に設けた螺旋状の爪部に掛かることで、内管本体部10に取り付けられる。
【0018】
支持部230は、固定用筒部210の下端部212の内周面の一部が軸Cへ向けて突き出て形成されており、例えば軸Cまわりの全体に亘って設けられている。
【0019】
[器部30]
器部30は、円形の底部310と、底部310の周縁から立ち上がり軸Cが上下の方向に延びた筒状の側面部320と、側面部320の上端部321の外側に設けられた突出部330と、側面部320を貫通したオーバーフロー用開口340と、を備えている。
【0020】
器部30は、突出部330を固定部20の支持部230に載せることで、底部310が延出部130よりも高い位置に保持され且つ側面部320が大筒部110と距離を置いた状態で大筒部110の内部に収容される。オーバーフロー用開口340は突出部330に寄せて側面部320の高い位置に設けられている。
【0021】
[ガイド筒部40]
ガイド筒部40は、軸Cが上下の方向に延びた円筒状の筒本体部410と、筒本体部410の上に設けたテーパー部420と、テーパー部420の上端部421の外側に設けたフランジ部430と、を備えている。
【0022】
図2に示すように、フランジ部430が器部30の側面部320の上端部321及び突出部330の上に配置されて、ガイド筒部40は上流からの排水を固定部20の内部から器部30の内部まで案内する流路を構成する。このガイド筒部40の下端411は、器部30のオーバーフロー用開口340よりも低い位置に設けられる。
【0023】
なお、ゴム製のパッキン35がガイド筒部40のフランジ部430と器部30の上端部321や突出部330との間に設けられて、排水がガイド筒部40のフランジ部430の外側を回って器部30の内部へ流入することと、下流側からの臭気が容器30の内部からフランジ部430の外側を回ってバスユニット4へ流入することとを防止する。
【0024】
[着脱部材20A]
着脱部材20Aが、固定部20の固定用筒部210の内側に着脱自在に設けられている。この着脱部材20Aは、例えばエルボ状の管継手4Dを設けたエルボ付ユニットとして構成されていて、管継手4Dを取り付けるための取付用貫通孔241と、この取付用貫通孔241の周りに設けた複数の貫通孔242とを備えている。なお、図1(b)は、複数の貫通孔242の内、一部の貫通孔242を表している。この着脱部材20Aを固定部20から外すと、器部30及びガイド筒部40を内管本体部10の大筒部110の内部から取り出すことができる。なお、着脱部材20Aは、エルボ付ユニットに限らず、ストレーナーなどその他の機能を設けたものを用いることができる。
【0025】
[接続短管部50]
接続短管部50(本発明の接続管部に相当する。)は円筒の直管であり、接続短管部50の内周面の半径r3は小筒部140の半径r12に小筒部140の厚みt1を加えた寸法に相当する。接続短管部50は、小筒部140の下端部141を上端部51に差し込んで内管本体部10に接続されており、小筒部140よりも下方へ延びている。接続短管部50は、軸Cに沿った寸法L3が小筒部140の寸法L12よりも短く設定されている。なお、接続短管部50が小筒部140に接続した状態では、接続短管部50と小筒部140とが重なる箇所の軸Cに沿った寸法は、重ならない接続短管部50の残りの箇所や小筒部140の残りの箇所の寸法よりも短く設定されている。
【0026】
[熱膨張部材60]
熱膨張部材60は、熱で膨張して排水の流路を塞ぐものであり、酸化処理された粉末状の黒鉛などの耐火膨張原料をアルミ箔などの包装材で包んで帯状に形成されている。この帯状の熱膨張部材60は、接続短管部50と小筒部140に設けられていて、それらの外周面を覆っている。図示例では、熱膨張部材60を接続短管部50と小筒部140との外周面に設けているが、接続短管部50の外周面にだけ設けてもよい。
【0027】
[目地部材70]
目地部材70は、エチレンプロピレンゴム又はポリエチレンに耐火膨張原料を添加してリング状に成形されていて、火災時の熱で膨張するものであり、目地部材70は、接続短管部50の下に設けられている。
【0028】
以上説明した、内管本体部10、固定部20、器部30、ガイド筒部40、接続短管部50とは、それぞれ熱可塑性樹脂を成形して製造することができる。熱可塑性樹脂の材料は限定されるものではないが、例えば硬質ポリ塩化ビニルやABS樹脂などを利用することができる。なお、図示例では、接続短管部
50が硬質ポリ塩化ビニルで構成され、他の内管本体部10、固定部20、器部30、ガイド筒部40がABS樹脂で構成されている。
【0029】
[耐火部80]
耐火部80は、セメント、骨材及び補強用繊維を主原料として、水を加えて混錬した繊維モルタルを用いた成形体であり、耐火性を備えており、前記の内管本体部10、接続短管部50や熱膨張部材60の外周面を覆っている。
図2に示すように、耐火部80は、目地部材70と共に下方を臨む下面801と、この下面801の周縁から上方へ延びており更に軸Cから径方向の寸法が内管本体部10のフランジ部120の寸法よりも大きい外周面802と、上方を臨む上面803と、を有し、軸Cから径方向に沿った耐火部80の厚さ(寸法)としては、小筒部140のまわりの箇所が最も厚く構成されており(厚み:t21)があり、接続短管部50のまわりの箇所の厚みt22は小筒部140のまわりの箇所の厚みt21に比べて薄く、さらに大筒部110のまわりの箇所の厚みt23が接続短管部50のまわりの箇所の厚みt22よりも薄く形成されている(t23<t22<t21)。
なお、耐火部80の上面803は、内管本体部10のフランジ部120の下面121に隣接して設けられ、内管本体部10のフランジ部120と耐火部80の上面803とで構成される入隅部81には非膨張性の目地部材86を設けるとよい。
【0030】
次に、排水トラップ1の製造方法を説明する。
先ず、耐火部80の内部に固定される内側固定部材10Aを準備する。内管本体部10、接続短管部50などは、熱可塑性樹脂を材料として射出成形によって製造し、或いは成形品を加工して製造する。これらの内、接続短管部50を内管本体部10の小筒部140に接着剤を用いて接続した後に、熱膨張部材60を接続短管部50や小筒部140に巻いてクラフトテープで留める。例えば、熱膨張部材60を接続短管部50と小筒部140との外周面の全体に設けた場合には、クラフトテープを接続短管部50と小筒部140とのまわりに巻く。熱膨張部材60で覆われていない接続短管部50の下端に、接着剤などを用いて目地部材70を固定する。さらに、吸水用の紙テープを内管本体部10の大筒部110の外周面に設けることで、内側固定部材10Aが完成する
【0031】
次に、内側固定部材10A(内管本体部10とこれに接続した接続短管部50とこれらに取り付けられた熱膨張部材60と目地部材70)を、耐火部80を成形するための型の中に入れて、繊維モルタルを内側固定部材10Aと型との間に充填し、さらに繊維モルタルを乾燥させて耐火部80を成形する。なお、繊維モルタルを射出成形する際に、図4に示すように、ゴム製或いは樹脂製のリング95の内側に大筒部110の一部を入れて、リング95が大筒部110の外周面から突き出るようにして、型100と内側固定部材10Aとの間の空間S1に繊維を混入したモルタルを充填させると、繊維モルタルが乾燥する過程で下降することを抑えることができる。
【0032】
さらに、耐火部80の成形工程は、繊維モルタルで構成された直管から所定の長さに切断した直管部材81を用意し、内側固定部材10Aを直管部材81の内部に入れた後に、直管部材81と内側固定部材10Aとの間に繊維を混入したモルタルを充填させて成形してもよい。この場合、図5に示すようにゴム製或いは樹脂製のリング95Aの内側に大筒部110の一部を入れると共に、リング95Aをフランジ部120に当てて、リング95Aが大筒部110の外周面からフランジ部120よりも突き出るように設けた後に、内側固定部材10Aを直管部材81の内部に入れる。そして、リング95Aを直管部材81の内周面に当てることで、内側固定部材10Aが所定の位置に配置される。このように位置決めがされた内側固定部材10Aと直管部材81とを、例えばフランジ部120側を下にすると共に接続短管部50及び目地部材70を上にして台101の上に置き、内側固定部材10Aと直管部材81の間の空間S2に繊維を混入したモルタルを入れて耐火部80を形成することができる。
【0033】
[排水構造2]
次に、排水トラップ1を用いた排水構造2を説明する。図6に示すように、排水構造2はスラブ3上に設けたバスユニット4から階下へ排水を流すためのものであり、排水構造2は、バスユニット4の防水パン4Aに取り付けられた排水トラップ1と、排水トラップ1に接続した下流側管材5と、を備えている。
【0034】
バスユニット4の防水パン4Aは、軸切りボルトなどの脚部4Hによってスラブ3の上方、例えば40mm~80mmの高さHの位置に保持されている。防水パン4Aは、貫通する開口を形成する開口縁部4Bと、開口縁部4Bのまわりに設けられていて排水が開口へ向けて流れるように勾配が設定されている傾斜部4Cと、を備えている。開口縁部4B(開口)がスラブ3の貫通部3Aの上方に配置されていて、さらに排水トラップ1が開口縁部4B(開口)に取り付けられている。
【0035】
排水トラップ1のバスユニット4への取付は、先ず図3に示すゴム製のパッキン91の溝部91Aに防水パン4Aの開口縁部4Bを入れてパッキン91を防水パン4Aに装着する。次に、内管本体部10と固定部20とが離れている状態で、耐火部80と一体の内管本体部10を防水パン4Aの下方に配置した後に、そのフランジ部120をパッキン91(開口縁部4B)の下側に当て、さらに固定部20を防水パン4Aの上方に配置した後に固定用筒部210を開口縁部4Bで囲われる開口からその下にある内管本体部10の大筒部110の内部に入れると共に固定用フランジ部220をパッキン91(開口縁部4B)の上側に当てる。固定部20を内管本体部10の大筒部110にねじ込むことで、開口縁部4B及びパッキン91が内管本体部10のフランジ部120と固定部20の固定用フランジ部220とに挟まれて、内管本体部10が防水パン4Aに取り付けられる。なお、図3に示すワッシャー93が、固定部20の固定用フランジ部220とパッキン91との間に設けられ、このワッシャー93はプラスチック製シートで円環状に形成されていて、穴に固定部20の固定用筒部210を通すことができる。
【0036】
排水トラップ1は、バスユニット4に取り付けた状態で防水パン4Aから下方へ突き出ていて、耐火部80で覆われている一部がスラブ3よりも高い位置に設けられ、残りの低い部分(大筒部110の一部と小筒部140と接続短管部50)が貫通部3Aに配置されている。
【0037】
排水構造2では、下流側管材5が排水トラップ1の下に設けられている。この下流側管材5は、エルボ或いは直管を用いることができ、下流側管材5は、好ましくは耐火二層管として、硬質ポリ塩化ビニルなどで構成された内管5Aと、この内管5Aを覆う繊維モルタル製の外管5Bと、を備えている。図7に示すように、下流側管材5では、排水トラップ1と接続する上流側の端部は外管5Bで覆われず内管5Aで構成された差口部5A′を構成しており、この差口部5A′が排水トラップ1の小筒部140(本発明の受口部に相当する。)に差し込まれて接続している。なお、差口部5A′の外周面に接着剤を塗布して小筒部140に固定されている。
【0038】
下流側管材5の差口部5A′が排水トラップ1の小筒部140に接続した状態では、下流側管材5の外管5Bの端部5B′が排水トラップ1の目地部材70に寄せて設けられると共に、排水トラップ1の内部では下流側管材5の差口部5A′と接続短管部50とが、小筒部140の厚みt1に相当する間隔で離れていて、それらの間に空間S3が構成されている。さらに、下流側管材5の他方の端部には、図示を省略するエルボ、直管、集合管などの他の管材が接続される。
【0039】
排水トラップ1の固定部20には、図3及び図7に示すように着脱部材20Aが取り付けられており、さらに、エルボ状の管継手4Dが着脱部材20Aに設けられている。管継手4Dは、一方の接続口側が直管状に長く形成されていて、この長い筒部分が着脱部材20Aの取付用貫通孔241に嵌って着脱部材20Aを貫通していて、ガイド筒部40の内部まで延びている。ホース4Fが一方の端部を浴槽4Eの排水口に接続され、他方の端部を管継手4Dに接続されている。
【0040】
さらに、図6に示すように、排水構造2では、ロックウール6或いはグラスウールが排水トラップ1の耐火部80のまわりに設けられて、スラブ3の貫通部3Aは塞がれている。
【0041】
このような排水構造2によれば、浴槽4Eからの排水はホース4Fと管継手4Dを経由して排水トラップ1に入り、さらに洗い場4Gからの排水は着脱部材20Aに設けた貫通孔242を通って排水トラップ1に入る。そして、これらの排水は図7に示す排水トラップ1の内部の流路P1~P3を経由して下流側管材5へ排出される。流路P1はガイド筒部40の内部であり、流路P2はガイド筒部40と器部30との間にできる空間であり、流路P3は器部30と大筒部110との間にできる空間であり、図7では下流側管材5の内部の流路に符号P4を付している。一方、下流側管材5からの臭気は排水トラップ1によってバスユニット4への流入が防止される。排水トラップ1によれば、防錆処理を施さずに、スラブ3の貫通部3Aに設けて使用することができる。
【0042】
さらに、排水構造2では、火災が階下で起きた場合、例えば図8に示すように、下流の排水管から排水トラップ1へ向けて移動する火炎やその熱によって下流側部材5の内管5Aが溶損し、また下流側部材5のまわりの火災の熱によって目地部材70が膨張して、隙間CLを塞いで、下流側部材5からの火炎やその熱が排水トラップ1の空間S3に向かい易くなり、接続短管部50も軟化する。図8では火炎や熱の流れを破線の矢印で表している。さらに排水トラップ1を加熱する状態が続くと、図9に示すように熱膨張部材60が膨張することで、排水が流れる流路P4及び耐火部80の内部(後述する下面側周縁部82で囲われる空間S4)が塞がれる。これにより火炎や煙が上の階へ移動することを遮断し、延焼を防止することができる。図9では火炎や熱の流れを破線の矢印で表している。また、目地部材70が火災の熱で膨張することで、排水トラップ1とその下の下流側管材5の外管5Bとの間に隙間CLを埋めて、火炎が外管5Bの内部に入ることを防止する。
【0043】
このように階下で火災が起きた場合、排水トラップ1の耐火部80では、大筒部110のまわりだけでなく、大筒部110の下も繊維モルタルで厚く構成されているため、大筒部110や延出部130が階下の火災の熱の影響を低減することができる。
これに対して、大筒部110を覆う耐火部の厚みが薄く、且つ大筒部110の下でも小筒部140,接続短管部50及び熱膨張部材60を覆う耐火部の厚みが薄いと、特に図7で破線で囲う下面側周縁部82を設けていないと、大筒部110や延出部130が階下の火災の熱で容易に変形して、煙が通る流路が耐火部80との間にできてしまい、上の階に流入し得るため好ましくない。
排水トラップ1では、耐火部80が下面側周縁部82を設けていることで、大筒部110や延出部130の変形を抑えることができる。
【0044】
さらに、排水トラップ1によれば、接続短管部50が設けられて熱膨張部材60を設ける面積が広く形成されている。熱膨張部材60を小筒部140から接続短管部50までに亘って設けると、延焼を一層防止することができる。
また、図示を省略するが、排水トラップ1では、大筒部110と耐火部80との間に紙テープが設けられており、この紙テープは耐火部80の成形の際にモルタルから水分を吸収して乾燥を促進させることができ、さらに耐火部80が成形された状態では紙テープも乾燥して、大筒部110と耐火部80との間に僅かな隙間を構成する。この狭い隙間があることで、内管本体部10が環境の温度上昇に伴い膨張することができて、割れなどを防止することができる。
【0045】
さらに、排水構造2によれば、排水トラップ1で低い部分を構成する箇所がスラブ3の貫通部3Aに収まるため、バスユニット4の防水パン4Aなどをスラブ3の近くに配置することができる。図12に示す従来の排水構造700では、バスユニット7がスラブ8の上方の高い位置にボルトなどの脚部760で保持され、この高さに合わせてスラブ8は段差部8Bを設ける必要があったが、本実施形態では、バスユニット4を低い位置に保持するため、段差部8Bを省くことができる。
排水構造2では、スラブ3の貫通部3Aをロックウール6で塞ぐことで、図13に示す従来の排水構造700の貫通部8Aをモルタル750で埋め戻す場合に比べて施工が容易になる。
【0046】
本発明は、前記の説明や図示例に限らず、実施をすることができる。
【0047】
[熱膨張部材60A]
例えば、図10に示すように熱膨張部材60Aは大筒部110の外周面に設けてもよいし、図示を省略するが、延出部130を覆うように設けてもよい。
【0048】
[内管本体部10と接続短管部50]
前記の実施形態では、接続短管部50が内管本体部10と別体に構成されているが、接続短管部50は内管本体部10と一体に射出成形されてもよく、図11に示すように内管本体部10″は、接続短管部50に相当する円筒状の下方延長部50″を、大筒部110と、フランジ部120と、延出部130と、下流側管材5を接続する円筒状の小筒部140″と一体に設けている。下方延長部50″は小筒部140″よりも内径が大きく形成され、さらに小筒部140″の下端部141″から下方へ延びている。また、前記の実施形態では、本発明の接続管部として、軸Cに沿った寸法(長さ)が小筒部140の長さよりも短い接続短管部50を挙げたが、接続管部は小筒部140と同じ長さ或いは小筒部140よりも長く形成されてもよい。
【0049】
[紙テープ]
内側固定部材10Aや排水トラップは紙テープを省いて構成されてもよい。
【0050】
[排水構造2A]
本発明の排水トラップは、バスユニットに限らず、洗濯機の防水パンに取り付けて用いることができる。また、排水トラップ1を構成する接続短管部50の貫通部3Aに対する位置は貫通部3Aの内部に限るものではなく、一部がスラブ3よりも低い位置に配置されてもよい。
図12は排水トラップ1を用いた排水構造2Aを示し、排水構造2Aでは、洗濯機の防水パン4A″の開口縁部4Bと、この開口縁部4Bに被せたパッキン91とが内管本体部10のフランジ部120と固定部20の固定用フランジ部220とに挟まれて、排水トラップ1が防水パン4A″に取り付けられている。防水パン4A″に近接して設けられるフランジ部120、大筒部110の一部、固定用フランジ部220、耐火部80の上面803及び外周面802の一部等がスラブ3よりも高い位置に配置されて、排水トラップ1は防水パン4A″から貫通部3Aへ向けて突き出ている。さらに、排水構造2Aでは、接続短管部50と、その周りの熱膨張部材60と、さらに耐火部80の下面801及び外周面802の一部はスラブ3よりも低い位置に配置されている。
このように排水トラップ1は接続短管部50やその周りの熱膨張部材60を含む一部がスラブ3から下方の空間S″に突き出るように設けてもよい。
図示することを省略するが、小筒部140も少なくも一部、例えば小筒部140の下端部141側がスラブ3よりも低い位置に配置されてもよいし、或いは小筒部140の全体がスラブ3よりも低い位置に配置されてもよい。なお、図12で符号4Jは防水パン4A″を載せる床を示しており、床4Jも排水トラップ1を通す貫通部4Kを設けている。
【符号の説明】
【0051】
1 排水トラップ
2 排水構造
3 スラブ
3A 貫通部
4 バスユニット
4A,4A″ 防水パン
5 下流側管材
5A 内管
5A′ 差口部
5B 外管
6 グラスウール
10,10″ 内管本体部
10A 内側固定部材
110 大筒部
111 上端部
112 下端部
120 フランジ部
130 延出部
140,140″ 小筒部
20 固定部
20A 着脱部材
210 固定用筒部
211 上端部
220 フランジ部
30 器部
40 ガイド筒部
50 接続短管部
50″ 下方延長部
60,60A 熱膨張部材
70 目地部材
80 耐火部
S3 空間

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13