(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150292
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】べら針
(51)【国際特許分類】
D04B 35/04 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
D04B35/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059326
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(72)【発明者】
【氏名】北原 健治
【テーマコード(参考)】
4L054
【Fターム(参考)】
4L054AA01
4L054LA02
4L054NA04
(57)【要約】
【課題】 ファインゲージ化に伴って厚さが減少しても剛性の改善が可能なべら針を提供する。
【解決手段】 べら針11は、針幹13の支点領域18の厚みを従来のべら針1の支点領域8の厚みよりも厚くし、支点領域18とフック2との間に付加領域20を設ける。付加領域20の厚みは、支点領域18の厚みとフック2の厚みとの間の厚みとなる。支点領域終了部17cから基準領域開始部17dまでも厚みが増大する段部となる。この段部では、基準領域9からは角度α1で厚みが減少する。角度α1は、従来の対応する角度α0よりも小さくして、しかも基準領域開始部17dの位置を、従来よりも先端側にすることができる。この結果、基準厚みに達している部分が無い範囲の長さL1は、従来の長さL0よりも減少し、フック側の剛性が改善される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
横編機の針床に並設される針溝に収容されて摺動し、針床の一辺が臨む歯口側の先端にフックを有し、摺動でフックを歯口に進退させて編成動作を行い、歯口から離れる基端側でフックに続く針幹に揺動軸が設けられ、揺動軸で一端が支持されるべらの他端でフックを開閉し、針幹は、基端側で針溝の並設方向の厚みが針溝の幅に近い一定の基準厚みを有する基準領域となり、先端側のフック付近で厚みが減少して、基準厚みよりも薄いフックの厚みを有するべら針において、
針幹は、
揺動軸付近で、厚みが一定で、基準厚みよりも薄く、フックの厚みよりも厚くなるように、先端側の支点領域開始部から基端側の支点領域終了部までの間に設けられる支点領域と、
支点領域終了部とフックとの間の少なくとも一部で、厚みがフックの厚みよりも厚くなり、かつ厚みが支点領域の厚みと異なるように設けられる付加領域とを、
有することを特徴とするべら針。
【請求項2】
前記付加領域の厚みは、前記支点領域の厚みと前記フックの厚みとの間の厚みであり、
該付加領域は、前記支点領域開始部とフックとの間に設けられる、
ことを特徴とする請求項1記載のべら針。
【請求項3】
前記支点領域終了部および前記支点領域開始部は、それぞれ前記針溝の表面側から底面側への深さ方向に延びる直線となる、
ことを特徴とする請求項1記載のべら針。
【請求項4】
前記支点領域終了部および前記支点領域開始部は、それぞれ前記針溝の表面側から底面側への深さ方向に関して、深くなると前記先端側となり、浅くなると前記基端側となるように、傾斜して延びる直線となる、
ことを特徴とする請求項1記載のべら針。
【請求項5】
前記付加領域の厚みは、前記基準厚みである、
ことを特徴とする請求項1記載のべら針。
【請求項6】
前記付加領域は、前記支点領域よりも、前記針溝の表面側と底面側とにそれぞれ設けられる、
ことを特徴とする請求項5記載のべら針。
【請求項7】
前記付加領域は、前記支点領域よりも、前記針溝の底面側に設けられる、
ことを特徴とする請求項5記載のべら針。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横編機の編針として使用されるべら針に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、
図6に示すようなべら針1が横編機の針床に並設される針溝に収容されて摺動し、針床の一辺が臨む歯口にフックを進退させて編地を編成するための編針として広く使用されている(たとえば特許文献1の
図1(a)参照)。
図6は、べら針1でフック2が設けられる先端側の構成を、下側の正面図および上側の平面図でそれぞれ示す。正面図での上下は、針溝の表面と底面とに対応する。べら針1ではフック2が先端に形成される針幹3に、フック2を開閉するべら4を揺動可能に支持する揺動軸5が設けられるけれども、平面図ではべら4の図示を省略する。正面図では、べら4の先端がフック2を閉じている状態を実線で、最大に開いている状態を二点鎖線で、それぞれ示す。べら4が最大に開いている状態の先端よりも基端側となる針幹3の側面には、目移し用の目移し羽根6が取付けられる。
【0003】
針幹3は、フック2の付近で、厚み方向の中心線2aに関して対称であり、フック領域終了部7aから先端側のフック領域はスエージング加工によって丸断面となるように形成される。厚み方向は、針床に針溝が並設される方向である。フック領域終了部7aから基端側の支点領域開始部7bまでの区間は、丸断面から矩形断面へ移行する。支点領域開始部7bから基端側は、揺動軸5を設ける支点領域8となる。揺動軸5は、かしめて固定され、周囲には一定量の平面が必要であり、支点領域8がこの平面となる。針幹3は、支点領域終了部7cから基準領域開始部7dにかけて、一方の側面側の厚みが増大して、基準領域9となる。べら針1のフック2および針幹3は、原材料の鋼板を加工して形成され、基準領域9は、元の鋼板の板厚に対応する基準厚みを有する。フック2は基準厚みよりも薄く、かつ断面が円形に近くなるように加工される。支点領域8は、基準厚みよりも薄く、フック2の厚みよりも厚くなるように加工される。すなわち、基準領域開始部7dよりも先端側で長さL0の範囲は基準厚みに達している部分が無い。また、針幹3で基準厚みの部分から長さL0の範囲に移行する厚みの減少角度は、α0となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
べら針1では、フック2に形成されていた旧の編目は、フック2の歯口への進出に伴ってフック2内からべら4を開きながら、一旦、針幹3の基端側に相対移動してクリアされる。旧の編目は、フック2に編糸の給糸を受ける退入に伴う相対移動でフック2側に移動し、べら4を閉じながらノックオーバーされる。このような相対移動でクリアされる旧の編目にとって、針幹3の周長の急激な変化は好ましくない。このため、針幹3の厚みが変化する段部は、支点領域8と基準領域9との間に、支点領域終了部7cから基準領域開始部7dまで、1回だけ設けられている。
【0006】
横編機では、編針の並設ピッチが狭くなるようにファインゲージ化して、細い編糸で密な編地を編成可能にすることが要望されている。しかしながら、ファインゲージになるほど基準厚みが減少し、さらに長さL0の範囲の剛性が低下する傾向にあることは避けられない。特に、フック2付近の針幹3は、ニットや目移しのために歯口に進出すると、針床で針溝を形成するニードルプレートで側方から支持されなくなるので、側方に曲がるおそれがある。フック2付近の針幹3が側方に曲がると、歯口に進退する際の直進性が悪くなって、旧の編目がクリアミスするおそれがある。また、目移し時に対向する針床から侵入するフック2と目移し羽根6との出会いのずれ等も生じて、編成限界性能の低下や、べら針1の破損の原因にもなり得る。
【0007】
本発明の目的は、ファインゲージ化に伴って厚さが減少しても剛性の改善が可能なべら針を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、横編機の針床に並設される針溝に収容されて摺動し、針床の一辺が臨む歯口側の先端にフックを有し、摺動でフックを歯口に進退させて編成動作を行い、歯口から離れる基端側でフックに続く針幹に揺動軸が設けられ、揺動軸で一端が支持されるべらの他端でフックを開閉し、針幹は、基端側で針溝の並設方向の厚みが針溝の幅に近い一定の基準厚みを有する基準領域となり、先端側のフック付近で厚みが減少して、基準厚みよりも薄いフックの厚みを有するべら針において、
針幹は、
揺動軸付近で、厚みが一定で、基準厚みよりも薄く、フックの厚みよりも厚くなるように、先端側の支点領域開始部から基端側の支点領域終了部までの間に設けられる支点領域と、
支点領域終了部とフックとの間の少なくとも一部で、厚みがフックの厚みよりも厚くなり、かつ厚みが支点領域の厚みと異なるように設けられる付加領域とを、
有することを特徴とするべら針である。
【0009】
また本発明で、前記付加領域の厚みは、前記支点領域の厚みと前記フックの厚みとの間の厚みであり、
該付加領域は、前記支点領域開始部とフックとの間に設けられる、
ことを特徴とする。
【0010】
また本発明で、前記支点領域終了部および前記支点領域開始部は、それぞれ前記針溝の表面側から底面側への深さ方向に延びる直線となる、
ことを特徴とする。
【0011】
また本発明で、前記支点領域終了部および前記支点領域開始部は、それぞれ前記針溝の表面側から底面側の深さ方向に関して、深くなると前記先端側となり、浅くなると前記基端側となるように、傾斜して延びる直線となる、
ことを特徴とする。
【0012】
また本発明で、前記付加領域の厚みは、前記基準厚みである、
ことを特徴とする。
【0013】
また本発明で、前記付加領域は、前記支点領域よりも、前記針溝の表面側と底面側とにそれぞれ設けられる、
ことを特徴とする。
【0014】
また本発明で、前記付加領域は、前記支点領域よりも、前記針溝の底面側に設けられる、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、針幹の揺動軸付近に、厚みが一定の支点領域が設けられるとともに、支点領域終了部とフックとの間の少なくとも一部で、厚みが支点領域の厚みとは異なる付加領域が設けられる。付加領域の厚みはフックの厚みよりも厚くなるので、ファインゲージ化に伴って針幹の厚さが減少しても剛性の改善が可能となる。
【0016】
また本発明によれば、針幹の厚みは、先端側から基端側に、フックの厚み、付加領域の厚み、支点領域の厚みおよび基準厚みへと、順次的に増大するので、周長の変化も緩やかで、剛性を改善することが可能となる。
【0017】
また本発明によれば、支点領域は、先端側の境界となる支点領域開始部も基端側の境界となる支点領域終了部も、針溝の表面から底面側への深さ方向に延びる直線となるので、針幹の厚みを先端側から基端側にかけて段階的に変化させることができる。
【0018】
また本発明によれば、傾斜する支点領域終了部の底面側は基準厚みの付加領域となり、針幹の剛性を高めることができる。針幹の厚みが変化する支点領域終了部および支点領域開始部は、針溝の深さ方向に関し、深くなると先端側に、浅くなると基端側になるように傾斜しているので、クリアの際に針幹を相対移動する編目の傾斜に合わせて、周長の急激な変化を避けることができる。
【0019】
また本発明によれば、付加領域の厚みは、基準厚みとなって支点領域の厚みよりも厚くなるので、付加領域の剛性は支点領域の剛性よりも高くなる。支点領域終了部とフックとの間の少なくとも一部に、支点領域よりも剛性の高い付加領域が設けられるので、針幹の剛性を改善することができる。
【0020】
また本発明によれば、針溝の表面側と底面側とにそれぞれ設けられる基準厚みの付加領域は、支点領域終了部よりも先端側になり、針幹の剛性を高めることができる。
【0021】
また本発明によれば、支点領域よりも針溝の底面側に設けられる基準厚みの付加領域は、支点領域終了部よりも先端側になり、針幹の剛性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、実施例1であるべら針11の先端側の構成を示す平面図および正面図である。
【
図2】
図2は、実施例2であるべら針21の先端側の構成を示す平面図および正面図である。
【
図3】
図3は、実施例3であるべら針31の先端側の構成を示す平面図および正面図である。
【
図4】
図4は、実施例4であるべら針41の先端側の構成を示す平面図および正面図である。
【
図5】
図5は、実施例5であるべら針51の先端側の構成を示す平面図および正面図である。
【
図6】
図6は、従来からのべら針1の先端側の構成を示す平面図および正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、
図1から
図5は、実施例1から実施例5までのべら針11,21,31,41,51の構成を、
図6と同様に、上側を平面図、下側を正面図として示す。べら針11,21,31,41,51は、従来のべら針1と同一の部分があり、
図6を含めて、各図で対応する部分は,同一の参照符を付して示し、重複する説明を省略する場合がある。また説明の便宜上、
図1から
図5は、
図6よりもフック2側に近い部分のみを拡大して示し、べら4は閉じた状態のみ正面図で示す。また、以下の説明での厚みの方向は、
図6と同様に、針床に対する針溝の並設方向とする。
【実施例0024】
図1に示す実施例1であるべら針11は、針幹13の支点領域18の厚みを従来のべら針1の支点領域8の厚みよりも厚くし、支点領域18とフック2との間に付加領域20を設ける。付加領域20の厚みは、支点領域18の厚みとフック2の厚みとの間の厚みとなる。したがって、フック領域終了部7aと支点領域開始部17bとの間で、フック領域終了部7aから付加領域開始部20aまで丸断面から矩形断面に形状が変化し、付加領域終了部20bから支点領域開始部17bまで厚みが増大する段部が形成される。支点領域終了部17cから基準領域開始部17dまでも厚みが増大する段部となる。この段部では、基準領域9からは角度α1で厚みが減少する。支点領域18の厚みと基準厚みとの差が小さくなるので、角度α1は、従来のべら針1で対応する角度α0よりも小さくして、しかも基準領域開始部17dの位置を、従来の基準領域開始部7dの位置よりも先端側にすることができる。この結果、基準厚みに達している部分が無い範囲の長さL1は、従来のL0よりも減少し、フック側の剛性が改善される。
実施例1のべら針11と本実施例2のべら針21で、支点領域終了部17c,27cおよび支点領域開始部17b、27bは、それぞれ針溝の表面側から底面側への深さ方向に延びる直線となる。この結果、針幹の厚みを先端側から基端側にかけて段階的に変化させる加工が容易となる。