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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150303
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】制菌組成物、制菌剤及び制菌方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 43/16 20060101AFI20231005BHJP
   A61K 31/353 20060101ALI20231005BHJP
   A61K 36/87 20060101ALI20231005BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20231005BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
A01N43/16 C
A61K31/353
A61K36/87
A61P17/00 101
A01P3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059343
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】591174737
【氏名又は名称】北海道ワイン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592019213
【氏名又は名称】学校法人昭和大学
(71)【出願人】
【識別番号】519057081
【氏名又は名称】学校法人北海道科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100134706
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 俊彦
(74)【代理人】
【識別番号】100151161
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 彩
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 朋之
(72)【発明者】
【氏名】田島 大敬
(72)【発明者】
【氏名】嶌村 公宏
(72)【発明者】
【氏名】塚田 愛
(72)【発明者】
【氏名】砂川 正隆
(72)【発明者】
【氏名】三原 義広
【テーマコード(参考)】
4C086
4C088
4H011
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086GA17
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA63
4C086NA14
4C086ZA90
4C088AB56
4C088AC04
4C088BA08
4C088BA11
4C088BA23
4C088BA32
4C088CA08
4C088NA14
4C088ZA90
4H011AA02
4H011BB08
4H011BB22
4H011DA13
4H011DD07
(57)【要約】
【課題】ブドウから抽出される一連のポリフェノールを含むカテキン類の中で制菌効果の高い特定の制菌組成物を提供する。
【解決手段】制菌組成物は、ブドウの搾汁残渣からの抽出物であり、エピガロカテキンと、エピカテキンガレートとの少なくともいずれかの構造が含まれるカテキン類により構成されるプロアントシアニジンを含む。好ましくは、アクネ菌と、黄色ブドウ球菌と、大腸菌と、枯草菌と、セラチア菌とのいずれかの菌を制菌する。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブドウの搾汁残渣からの抽出物であり、
エピガロカテキンと、エピカテキンガレートとの少なくともいずれかの構造が含まれるカテキン類により構成されるプロアントシアニジンを含む制菌組成物。
【請求項2】
アクネ菌と、黄色ブドウ球菌と、大腸菌と、枯草菌と、セラチア菌とのいずれかの菌を制菌する請求項1記載の制菌組成物。
【請求項3】
前記制菌組成物に可視光線を照射することにより制菌する請求項1または2のいずれかに記載の制菌組成物。
【請求項4】
前記可視光線の波長は、380nmから450nmの波長領域を含む請求項3記載の制菌組成物。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の制菌組成物と、
水と、
を含む制菌剤。
【請求項6】
請求項5に記載の制菌剤を、人の肌に噴霧または塗布する工程と、
肌上の前記制菌剤に可視光線を照射する照射工程と
を有する制菌方法。
【請求項7】
請求項5に記載の制菌剤を、噴霧または塗布する工程と、
噴霧または塗布された前記制菌剤に可視光線を照射する照射工程と
を有する制菌方法。
【請求項8】
前記可視光線の波長は、380nmから450nmの波長領域を含む請求項6または7のいずれか1項に記載の制菌方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制菌組成物、制菌剤及び制菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブドウから抽出されるブドウ抽出物質には、ポリフェノールをはじめとしたさまざまな生理活性物質が含まれており、ブドウ抽出物質を機能性材料として、化粧品や健康食品等の高付加価値化が行われている。
ブドウ抽出物質の制菌効果に着目した化粧品や健康食品等が商品化されている例もある。
【0003】
近年、ブドウ抽出物質の様々な生理活性が見い出されてきているが、ブドウ抽出物質の機能性材料としての利用促進のひとつとして、確実に制菌効果のある制菌組成物を得て、その制菌組成物を制菌剤として利用し、制菌する方法を確立することが挙げられる。
【0004】
ここで、ブドウ抽出物質のひとつであるポリフェノールは、フラバン-3-オールまたはフラバン-3,4-ジオールを構成単位として、4-6位や4-8位などで縮合もしくは重合により結合した化合物群であって各種植物体に存在する縮合型ポリフェノールの総称であり、これらは酸処理によりシアニジン、デルフィニジン、ペラルゴニジン等のアントシアニジンを生成することから、プロアントシアニジン類とも称され、上記構成単位の2量体、3量体、4量体さらに10~30量体以上の高分子のプロシアニジン、プロデルフィニジン、プロペラルゴニジン等のプロアントシアニジン及びそれらの異性体等を含むものである。さらにこれらの3位、5位、7位にガロイル基がエステル結合している場合もある。さらに、ガロイル基の他に3位、5位、7位に糖を結合する配糖体の形をとる場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-155719号公報
【特許文献2】特開2010-208970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、どの形(化学構造)のポリフェノールが、生理活性が高いのかまでは明らかではない。また、生理活性と制菌効果の関係性も十分には解明されていない。
【0007】
そこで、本発明は、ブドウから抽出されるポリフェノールを含むカテキン類の中で確実に制菌効果のある特定の制菌組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の制菌組成物は、ブドウの搾汁残渣からの抽出物であり、エピガロカテキンと、エピカテキンガレートとの少なくともいずれかの構造が含まれるカテキン類により構成されるプロアントシアニジンを含むものとして構成されている。
【0009】
本発明の制菌組成物は、アクネ菌と、黄色ブドウ球菌と、大腸菌と、枯草菌と、セラチア菌とのいずれかの菌を制菌するものとして構成されている。
【0010】
上記制菌組成物は、上記制菌組成物に可視光線を照射することにより制菌するものであることが好ましい。
【0011】
上記可視光線の波長は、380nmから450nmの波長領域を含むことが好ましい。
【0012】
本発明の制菌剤は、上記制菌組成物と、水と、を含むものとして構成されている。
【0013】
本発明の制菌方法は、上記制菌剤を、人の肌に噴霧または塗布する工程と、肌上の上記制菌剤に可視光線を照射する照射工程とを有するものとして構成されている。
【0014】
本発明の制菌方法は、上記制菌剤を、噴霧または塗布する工程と、噴霧または塗布された上記制菌剤に可視光線を照射する照射工程とを有するものとして構成されている。
【0015】
本発明の制菌方法は、上記可視光線の波長が380nmから450nmの波長領域を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の制菌組成物によれば、アクネ菌と、黄色ブドウ球菌と、大腸菌と、枯草菌と、セラチア菌とのいずれかの菌を制菌することができる。本発明の制菌剤によれば、上記制菌剤を人の肌に噴霧または塗布して肌上の制菌剤に可視光線を照射して、また、噴霧または塗布された制菌剤に可視光線を照射して、制菌することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明による制菌組成物の制菌効果を示したグラフである。
図2】本発明による制菌組成物のアクネ菌に対する制菌効果を示したグラフである。
図3】本発明による制菌組成物の黄色ブドウ球菌に対する制菌効果を示したグラフである。
図4】本発明による制菌組成物の大腸菌に対する制菌効果を示したグラフである。
図5】本発明による制菌組成物の枯草菌に対する制菌効果を示したグラフである。
図6】本発明による制菌組成物のセラチア菌に対する制菌効果を示したグラフである。
図7】本発明による果皮からの制菌組成物と種子からの制菌組成物の制菌効果を示したグラフである。
図8】エピカテキン、カテキン、エピカテキンガレート及びエピガロカテキンの制菌効果を評価した結果を示したグラフである。
図9】エピカテキン、カテキン、エピカテキンガレート及びエピガロカテキンの制菌効果を評価した結果を示したグラフである。
図10】カタラーゼ添加によりエピカテキン、カテキン、エピカテキンガレート及びエピガロカテキンの過酸化水素生成量の差を評価した結果を示したグラフである。
図11】本発明による果皮からの制菌組成物を構成する物質の同定を示したグラフである。
図12】本発明による種子からの制菌組成物を構成する物質の同定を示したグラフである。
図13】本発明による制菌組成物のプロアントシアニジンの組成について示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態である、制菌組成物は、ブドウの搾汁残渣からの抽出物であり、エピガロカテキンと、エピカテキンガレートとの少なくともいずれかの構造が含まれるカテキン類により構成されるプロアントシアニジンを含む固体であり、かつ、褐色の粉末である。この制菌組成物を構成する各要素の具体的な内容については、後述の通りである。
【0019】
上記制菌組成物及び制菌剤は、例えば、皮膚外用剤等の医薬品、医薬部外品、化粧品等として好適に使用される。
制菌組成物の具体的な使用方法は、水や、水とエタノールとの混合液に制菌組成物を分散させた制菌剤を、物や空間に噴霧したり、布などに浸み込ませて物をその布で拭うなどして物に塗布する。または、水や、水とエタノールとの混合液に制菌組成物を分散させた制菌剤にさらに保湿成分や香料、防腐剤などを混合した化粧品等として、人の肌に噴霧したり、塗布する。さらに、制菌組成物や制菌剤を原材料として混合して住宅などの建物の内壁にしたり、制菌組成物や制菌剤を染料として使用することもできる。
【0020】
例えば、この制菌組成物及び制菌剤を皮膚外用剤等とする場合、剤型等は特に限定されず、例えば軟膏、クリーム、乳液、ローション、美容液、パック、浴用剤、洗顔料等とすることができる。この制菌組成物及び制菌剤を化粧品とする場合その形態は特に限定されず、例えば、化粧水、乳液、美容液、クリーム、パック等の皮膚化粧品(メイクアップベースローション,メイクアップベースクリーム,パウダー状,液状またはクリーム状のファンデーション等のメイクアップ化粧品,ハンドクリーム,レッグクリーム,オーラルケアトリートメント,ボディローション等の身体用化粧品,洗顔料,ボディーソープ等)とすることができる。
【0021】
この制菌組成物は、後述するように、アクネ菌、黄色ブドウ球菌、大腸菌、枯草菌及びセラチア菌に対する制菌効果、すなわち、これらの菌の数を減少させる効果がある。水や、水とエタノールとの混合液に制菌組成物を混合した制菌剤を肌に噴霧または塗布して、肌上の制菌剤に一定時間可視光線を照射すると、制菌剤を噴霧または塗布した肌上のアクネ菌の数を減少させることができる。また、水や、水とエタノールとの混合液に制菌組成物を混合した制菌剤を物や空間に噴霧したり、布などに浸み込ませて物をその布で拭うなどして塗布して、噴霧または塗布した制菌剤に一定時間可視光線を照射すると、その物や空間の黄色ブドウ球菌、大腸菌、枯草菌及びセラチア菌を減少させることができる。さらに、制菌組成物や制菌剤を原材料として混合して住宅などの内壁にしたり、染料として使用して、制菌組成物及び制菌剤に一定時間可視光線を照射すると、制菌ができる。
【0022】
この制菌組成物は、ブドウからの抽出物であり、エピガロカテキンと、エピカテキンガレートとの少なくともいずれかの構造が含まれるカテキン類により構成されるプロアントシアニジンを含む。
ブドウには、ポリフェノールの一種であるプロアントシアニジンが含まれる。プロアントシアニジンは、フラバン-3-オールのフラバン骨格の炭素同士がC-C結合などによって結合した二量体、三量体、オリゴマーまたはポリマーなどであり、カテキン類の分子が繋がった構造を持つ。このブドウに含まれるカテキン類には、カテキン、エピカテキン、下記の式(1)で表されるエピガロカテキン及び下記の式(2)で表されるエピカテキンガレートの4種類があり、これらのカテキン類により構成されるプロアントシアニジンがプロアントシアニジンポリマーの形でブドウに存在しており、下記の式(3)から(5)で表されるものが代表的なものである。なお、下記の式(5)で表される繰り返し構造を有するプロアントシアニジンポリマーは、互いに隣り合う繰り返し構造の一方の「*1」に他方の「*3」が、一方の「*2」に他方の「*4」が、それぞれ結合している。このように、下記の式(5)で表される繰り返し構造は各々のモノマー単位が反転した形で繰り返されている。また、「*2」に、下記の式(4)で表される括弧で括られた繰り返し単位が結合している場合や、「*4」に、下記の式(4)で表される括弧で括られた繰り返し単位が結合している場合もある。すなわち、カテキン、エピカテキン、エピガロカテキン及びエピカテキンガレートの少なくともいずれかの単量体(モノマー)がいずれもC4-C8結合、C4-C6結合若しくはC2-O-C7結合したオリゴマーが連なった構造となっている。このようにオリゴマー単位において、上記のように互いに異なる結合様式により、異性体が2つに大別される。また、カテキン、エピカテキン、エピガロカテキン及びエピカテキンガレートの少なくともいずれかの構造が含まれるカテキン類の重合は、直鎖上に重合を繰り返すだけではなく、分岐することもある。
プロアントシアニジンは、ひとつの分子内に、エピガロカテキンの構造とエピカテキンガレートの構造とのいずれか一方の構造を有するものでもよいし、両方の構造を有するものでもよい。制菌組成物は、ひとつの分子内にエピガロカテキンとエピカテキンガレートとのうちの一方の構造を含むプロアントシアニジンと、他方の構造を含むプロアントシアニジンとの少なくとも一方のプロアントシアニジンを含んでいてもよい。
【0023】
【化1】
【0024】
【化2】
【0025】
【化3】
【0026】
【化4】
【0027】
【化5】
【0028】
ここで、本明細書における「エピガロカテキン」という用語は、CAS番号970-74-1に該当するエピガロカテキンという化合物に該当する。また、「エピカテキンガレート」という用語は、CAS番号1257-08-5に該当するエピカテキンガレートという化合物に該当する。
【0029】
エピガロカテキンとエピカテキンガレートは、後述するように、カテキンやエピカテキンと比較して、それらの分子構造に水酸基を多く持つ。フェノール性水酸基が可視光線の持続的な照射を受けると、電子供与体として作用して、ラジカル生成により酸素が還元され過酸化水素が発生し、制菌効果をもたらす。
【0030】
ここで、ワインやブドウジュースの製造過程におけるブドウから果汁を搾る搾汁工程は、適度に調整した圧力をかけられる圧搾機を用いて果汁を搾り出す。圧搾機には複数の種類があり、籠式、水平式、空気圧式または連続式といったものがあるが、圧搾機の種類は特に問わない。特に、ワインを醸造する場合には、なるべく種を潰さずに、さらに、ワインに好ましくない成分が含まれないような制御を行い搾汁する。すなわち、搾汁により、種子と、ワインには好ましくない搾り出されなかった成分を含む果皮とが残る。これがブドウの搾汁残渣である。
【0031】
ブドウの搾汁残渣から抽出されるものが、この制菌組成物である。本発明の一実施形態として用いた制菌組成物の製造方法は、抽出工程と、第1分画工程と、第2分画工程と、第3分画工程と、溶媒除去工程とからなる。さらに詳細には、この制菌組成物は、ブドウの搾汁残渣を乾燥した、果皮と種子とを有する乾燥残渣を粉砕した乾燥残渣粉末から、水と第1有機溶媒とのいずれか一方を含む液体により抽出された抽出物を、水に溶解し、溶解した溶液を第1カラムクロマトグラフィにより分画する第1分画工程と、上記第1分画工程で得られた分画物を第2有機溶媒に溶解し、溶解した溶液を第2カラムクロマトグラフィにより分画する第2分画工程と、上記第2分画工程で得られた分画物を第3有機溶媒に溶解し、溶解した溶液を第3カラムクロマトグラフィにより分画する第3分画工程と、第3分画工程で得られた分画物から、上記第3有機溶媒を除去することにより得られる。上記は、本発明の一実施形態として用いた制菌組成物の製造方法であり、制菌組成物の製造方法はこれに限られない。
【0032】
なお、第1分画工程は、ブドウの搾汁残渣を乾燥した、果皮と種子とを有する乾燥残渣を粉砕した乾燥残渣粉末から、水と第1有機溶媒とのいずれか一方を含む液体により抽出された抽出物を、水に溶解し、溶解した溶液を第1カラムクロマトグラフィにより分画する工程である。抽出物を抽出するための液体は、水が好ましい。第2分画工程は、上記第1分画工程で得られた分画物を第2有機溶媒に溶解し、溶解した溶液を第2カラムクロマトグラフィにより分画する工程である。第2有機溶媒は、水とエタノールとの混合溶液が好ましい。第3分画工程は、上記第2分画工程で得られた分画物を第3有機溶媒に溶解し、溶解した溶液を第3カラムクロマトグラフィにより分画する工程である。第3有機溶媒は、水とアセトンとの混合溶液が好ましい。さらに、第3分画工程で得られた分画物から、上記第3有機溶媒を除去する溶媒除去工程を経ることにより、エピガロカテキンと、エピカテキンガレートとの少なくともいずれかの構造が含まれるカテキン類により構成されるプロアントシアニジンを含む制菌組成物を得ることができる。なお、各分画工程で用いる有機溶媒は、エタノール以外のアルコール、アセトン以外のケトン、または、エステルのいずれかでも構わない。高温高圧条件では、これらのいずれかを蒸気として用いることが好ましい。
【0033】
この制菌組成物は、ブドウの搾汁残渣からの抽出物であり、本例では、ナイヤガラ(ナイアガラ,Niagara)を用いている。ナイヤガラは、アメリカで育成された交雑種の白ブドウ品種で、生食用、醸造用及び果汁用に栽培収穫され、日本では、北海道及び長野県を中心に栽培収穫されている。日本国内での搾汁残渣または乾燥残渣粉末の安定的な調達が比較的容易な品種である。これにより、トレーサビリティの問題や価格の高騰などの問題を回避して、安心安全で比較的安価な日本産のブドウから制菌組成物を得ることができる。なお、ブドウの品種は特に限定されず、Vitis labrusca種、Vitis vinifera種、Vitis amurensis種、Vitis coignetiae種、これら以外の種またはこれらの全ての交雑種も含んで本例は有効である。例えば、ナイヤガラ、デラウェア、ポートランド、ニューナイヤガラ、ネオマスカット、シャインマスカット、巨峰、コンコード、ピオーネ、スチューベン、マスカット・オブ・アレキサンドリア、甲斐路、ルビーロマン、オーロラブラック、キャンベル・アーリ、バッファロー、安芸クイーン、サンヴェルデ、秋鈴、クイーンニーナ、サニードルチェ、ブラックビード、藤稔、キングデラウェア、オリエンタルスター、ゴルビー、翠峰、陽峰、瀬戸ジャイアンツ、サニールージュ、紅南陽、レッドナイヤガラ、旅路、ロザリオ・ビアンコ、ピッテロ・ビアンコ、紫玉、サマーブラック、伊豆錦、ブラックオリンピア、ミルズ、ノースレッド、ノースブラック、ヒムロッド・シードレス、紅伊豆、高墨、竜宝、リザマート、セイベル-9110、セイベル-5279、セイベル13053、ロンド、レゲント、アコロン、甲斐ノワール、甲斐ブラン、ヤマソーヴィニヨン、ビジュノワール、アルモノワール、モンドブリエ、コリーヌヴェルト、ブラッククィーン、竜眼、清見、清舞、山幸、北醇、アジロンダック、甲州、マスカットベリーA、サンセミヨン、信濃リースリング、小公子、ニューヨークマスカット、ベリーアリカントA、ヤマブドウ、ブラックペガール、ホワイトペガール、シャルドネ、ピノブラン、ソーヴィニヨンブラン、シュナンブラン、セミヨン、リースリング、ケルナー、シルヴァーナ、バッカス、ミュスカ、モリオマスカット、マスカットオットネル、アルバリーニョ、ゲヴェルツトラミネール、ピノグリ、ヴィオニエ、マカベオ、パレリャーダ、チャレロ、ユニブラン、トロンテス、パロミノ、プティマンサン、グレラ、ペドロ・ヒメネス、ベルデホ、マルサンヌ、ミュスカデ、モスカートビアンコ、ミュラートゥルガウ、ザラジェンジェ、フルミント、オルテガ、ペルレ、ジーガレーベ、フクセルレーベ、ショイレーベ、ムスカテラー、ソラリス、グートエーデル、ノブリング、ムスカリス、グリュナー・フェルトリナー、グロ・マンサン、サヴァニャン、シェーンベルガー、アイレン、ウェルシュリースリング、ガルガネーガ、カベルネソーヴィニヨン、カベルネフラン、サンジョベーゼ、ピノノワール、シラー、タナ、ツヴァイゲルト、ドルンフェルダー、トロリンガー、バルベーラ、プティヴェルド、メルロ、レンベルガー、ピノムニエ、ロートベルガー、サンソー、ジンファンデル、ネッビオーロ、マルベック、ムールヴェードル、ポルトギーザ、テンプラリーニョ、ヘルフェンシュタイナー、サペラヴィ、フリューブルグンダー、カベルネミトス、カベルネドルサ、カベルネクビン、アリアニコ、ガメイ、カリニャン、グルナッシュ、カルメネール、ピノタージュ、ロンディネッラなど多品種にわたって本例に有効である。
【0034】
この制菌組成物は、例えば、制菌組成物を水に分散させた状態にして、制菌剤として使用される。すなわち、制菌剤は、制菌組成物を水に分散させた液体である。粉末の制菌組成物の状態で流通させてもよいし、制菌組成物を水に分散させた制菌剤として流通させてもよい。
この制菌組成物は、エピガロカテキンの構造が含まれるカテキン類により構成されるプロアントシアニジンを含む制菌組成物と、エピカテキンガレートの構造が含まれるカテキン類により構成されるプロアントシアニジンを含む制菌組成物との両方を含む制菌組成物でもよく、エピガロカテキンの構造が含まれるカテキン類により構成されるプロアントシアニジンを含む制菌組成物と、エピカテキンガレートの構造が含まれるカテキン類により構成されるプロアントシアニジンを含む制菌組成物との比率は、特にこだわらないが、エピガロカテキンの構造が含まれるカテキン類により構成されるプロアントシアニジンをより多く含む制菌組成物である方が好ましい。
【0035】
この制菌剤における、エピガロカテキンと、エピカテキンガレートとの少なくともいずれかの構造が含まれるカテキン類により構成されるプロアントシアニジンを含む制菌組成物の含有率は、1質量単位当たり、1000000分の1質量以上から10000分の1質量が好ましく、より好ましくは1000分の1質量以上から100分の1質量である。
この制菌剤には、エピガロカテキンの構造が含まれるカテキン類により構成されるプロアントシアニジンを含む制菌組成物と、エピカテキンガレートの構造が含まれるカテキン類により構成されるプロアントシアニジンを含む制菌組成物との両方が含まれてもよい。また、この制菌剤に含有される、エピガロカテキンの構造が含まれるカテキン類により構成されるプロアントシアニジンを含む制菌組成物と、エピカテキンガレートの構造が含まれるカテキン類により構成されるプロアントシアニジンを含む制菌組成物との比率は、特にこだわらないが、エピガロカテキンの構造が含まれるカテキン類により構成されるプロアントシアニジンをより多く含む方が好ましい。
【0036】
この制菌方法は、制菌剤を、人の肌に噴霧または塗布した後に、肌上の制菌剤に10分間以上、可視光線の波長領域を含む光を250mW/cm程度の照射強度で照射することが好ましい。また、制菌剤を、噴霧または塗布した後に、噴霧または塗布された制菌剤に10分間以上、可視光線の波長領域を含む光を250mW/cm程度の照程度で照射することが好ましい。
【0037】
この制菌方法は、可視光線の波長が380nmから450nmの波長領域を含むものである。比較的短い波長領域の波長を含むものが好ましい。
【0038】
以上によれば、アクネ菌、黄色ブドウ球菌、大腸菌、枯草菌及びセラチア菌を制菌することができる。すなわち、体調や環境の変化によってニキビを引き起こす原因菌であり皮膚に常在するアクネ菌や、食品業界の品質管理で重要視される黄色ブドウ球菌、大腸菌及び枯草菌、病院内での感染の中心的な起因菌のひとつであるセラチア菌といった菌の数を減らすことができるという制菌効果を有する。
【実施例0039】
実施例と、実施例と比較した比較例と、各カテキン類での実験例を、以下に説明する。
【0040】
[実施例1]
ナイヤガラからの制菌組成物の制菌効果を評価した。評価方法は、制菌組成物を0.1mol/Lのりん酸緩衝生理食塩水に混合し、0.25mg/mLまたは0.125mg/mLの濃度とした分散液に、照射波長400nmの光と、590nmの光と、850nmの光を、それぞれ照射強度を250mW/cmに設定し、10分間照射し、照射前と照射終了後との各菌のコロニー数(CFU/mL)を比較した。
【0041】
北海道産のナイヤガラの搾汁残渣を乾燥した、果皮と種子とを有する乾燥残渣を粉砕した乾燥残渣粉末100gを30%の水と70%のアセトンとの混合溶液300mLに混合して、攪拌しながら1時間浸漬した後、ペーパーフィルタでろ過して、エバポレータで乾固し、さらに、凍結乾燥機で乾燥させることで、上記乾燥残渣粉末からのアセトン抽出物を約30g得た。このアセトン抽出物1gを、0.1vol%トリフルオロ酢酸(TFA)水溶液40mlに加えて超音波を当ててよく攪拌したのち、3000rpm、4℃、10分間の条件にて遠心分離機で固液分離した。そして、上ずみ液のすべてを、Toyopearl(登録商標)HW40-F(東ソー株式会社製)80mLを入れた内径3.6cm、長さ10.5cmのカラムに供した。第1分画工程として、0.1vol%トリフルオロ酢酸(TFA)水溶液で溶出分画し、次に第2分画工程として、0.1vol%トリフルオロ酢酸(TFA)50vol%の水とエタノールとの混合溶液で溶出分画し、次に第3分画工程として、0.1vol%トリフルオロ酢酸(TFA)67vol%の水とアセトンとの混合溶液で溶出分画し、第3分画工程を経た分画物から、エバポレータで有機溶媒を除去し、制菌組成物を得た。
【0042】
0.1158gの制菌組成物が得られた。なお、第1分画工程による分画物(水分画)は0.6904g、第2分画工程(エタノール分画)による分画物は0.1117g得られた。
水分画からは収量が多く得られたが、この大部分は糖またはアミノ酸の重合物を含むと考えられる。エタノール分画には、没食子酸、カテキン、エピカテキンなどの低分子ポリフェノールが多く含まれると考えられ、制菌組成物には縮合型タンニンなどの高分子ポリフェノールを多く含むと考えられる。理由は、後述の通りである。
【0043】
図1は、400nmの波長による光の照射後における各5種類の菌の制菌効果を評価した結果である。図のうち、「PBS」は、比較のための、0.1mol/Lのりん酸緩衝生理食塩水の評価であり、「GE」は、果皮と種子とが混合したブドウからの抽出物である制菌組成物である(以下、同じ。)。この制菌組成物を0.1mol/Lのりん酸緩衝生理食塩水に混合し、0.25 mg/mLの濃度の分散液にした。「LED-」は、光照射前の菌のコロニー数であり、「LED+」は、光照射後の菌のコロニー数であり、制菌効果「-LOG(LED+/LED-)」は、光照射前後における菌のコロニー数の対比であり、例えば、光照射前の菌のコロニー数が1×10CFU/mLに対して、光照射後の菌のコロニー数が1×10CFU/mLに減少した場合、制菌効果は、「4」となる。
図1の結果により、実施例1により得られた制菌組成物は、(1)アクネ菌、黄色ブドウ球菌、大腸菌、枯草菌及びセラチア菌に対して制菌効果を有する可能性と、(2)400nmの波長による光の照射が高い制菌効果を示す可能性とが示唆された。
【0044】
図2は、アクネ菌に対する各3つの波長の光照射による制菌効果の違いを評価した結果である。制菌組成物を0.1mol/Lのりん酸緩衝生理食塩水に混合し、0.125 mg/mLの濃度の分散液にした(濃度は図3から図6は全て同じ。)。なお、図2で用いている語と評価方法については、図1と同様である。さらに、図3以降においても同様である。
図2の結果により、実施例1により得られた制菌組成物は、400nmの波長による光の照射がアクネ菌に対する高い制菌効果を示す可能性が示唆された。
【0045】
図3は、黄色ブドウ球菌に対する各3つの波長の光照射による制菌効果の違いを評価した結果である。
図3の結果により、実施例1により得られた制菌組成物は、400nmの波長による光の照射が黄色ブドウ球菌に対する高い制菌効果を示す可能性が示唆された。
【0046】
図4は、大腸菌に対する各3つの波長の光照射による制菌効果の違いを評価した結果である。
図4の結果により、実施例1により得られた制菌組成物は、400nmの波長による光の照射が大腸菌に対する高い制菌効果を示す可能性が示唆された。
【0047】
図5は、枯草菌に対する各3つの波長の光照射による制菌効果の違いを評価した結果である。
図5の結果により、実施例1により得られた制菌組成物は、400nmの波長による光の照射が枯草菌に対する高い制菌効果を示す可能性が示唆された。
【0048】
図6は、セラチア菌に対する各3つの波長の光照射による制菌効果の違いを評価した結果である。
図6の結果により、実施例1により得られた制菌組成物は、400nmの波長による光の照射がセラチア菌に対する高い制菌効果を示す可能性が示唆された。
【0049】
[実施例2]
ナイヤガラからの制菌組成物の制菌効果を評価した。評価方法は、制菌組成物を0.1mol/Lのりん酸緩衝生理食塩水に混合し、0.0125mg/mLの濃度とした分散液に、照射波長400nmの光を、照射強度を250mW/cmに設定し、10分間照射し、照射前と照射終了後との各菌のコロニー数を比較した。
【0050】
北海道産のナイヤガラの搾汁残渣を乾燥させて、果皮と種子とを分離した。乾燥した果皮を粉砕した乾燥残渣粉末と、乾燥した種子を粉砕した乾燥残渣粉末とを、それぞれ70%アセトンと30%水の混合液で抽出したのち、エバポレータで40℃、50hPaの条件になるまで減圧濃縮し、これを凍結乾燥した。次いで、得られたそれぞれの粉末に、それぞれ、0.1vol%トリフルオロ酢酸(TFA)水溶液に加えて超音波を当ててよく攪拌したのち、3000rpm、4℃、10分間の条件にて遠心分離機で固液分離した。そして、上ずみ液のすべてを、Toyopearl(登録商標)HW40-F(東ソー株式会社製)80mLを入れた内径3.6cm、長さ10.5cmのカラムに供した。0.1vol%トリフルオロ酢酸(TFA)水溶液と、0.1vol%トリフルオロ酢酸(TFA)50vol%エタノール水溶液と、0.1vol%トリフルオロ酢酸(TFA)67vol%アセトン混合溶液とに溶出し、各分画をエバポレータで有機溶媒を除去し、果皮からの制菌組成物(GP)と、種子からの制菌組成物(GS)を得た。
【0051】
図7は、制菌組成物と、本発明の一実施形態として用いた制菌組成物の製造方法において得られた各分画物の黄色ブドウ球菌に対する制菌評価を評価した結果である。
「GP Water」は、本発明の一実施形態として用いた制菌組成物の製造方法における第1分画工程において得られた果皮からの水分画物であり、「GP EtOH」は、本発明の一実施形態として用いた制菌組成物の製造方法における第2分画工程において得られた果皮からのエタノール分画物である。「GS Water」は、本発明の一実施形態として用いた制菌組成物の製造方法における第1分画工程において得られた種子からの水分画物、「GP EtOH」は、本発明の一実施形態として用いた制菌組成物の製造方法における第2分画工程において得られた種子からのエタノール分画物である。
図7の結果により、実施例2により得られた制菌組成物 は、(1)黄色ブドウ球菌に対して制菌効果を有する可能性と、(2)種子からの制菌組成物(GS)がより高い制菌効果を示す可能性とが示唆された。
【0052】
[実験1]
実験1では、カテキン、エピカテキン、エピガロカテキン及びエピカテキンガレートの4つのカテキン類と、比較対象としてPBS(0.1mol/Lのりん酸緩衝生理食塩水)の計5種類の試料が黄色ブドウ球菌に対して制菌効果を発揮するかを実験した。10μmol/Lの各試料に、照射波長400nmの光を、照射強度を250mW/cmに設定し、10分間照射して、各試料の光の照射前と照射終了後の菌のコロニー数を比較した。
【0053】
図8は、光照射によるカテキン類の制菌作用(対黄色ブドウ球菌)を評価した結果である。
図8の結果により、エピガロカテキン及びエピカテキンガレートにより構成されるカテキン類の抗菌効果が高い可能性が示唆された。
【0054】
[実験2]
実験2では、0.01μmol/L、0.1μmol/L、1.0μmol/L、10μmol/L及び100μmol/Lの5つの試料濃度で、カテキン、エピカテキン、エピガロカテキン及びエピカテキンガレートの4つのカテキン類と、比較対象としてPBS(0.1mol/Lのりん酸緩衝生理食塩水)の5種類の試料が黄色ブドウ球菌に対して制菌効果を発揮するかを実験した。それぞれの濃度の試料に、照射波長400nmの光を、照射強度を250mW/cmに設定し、10分間照射して、各試料の光の照射前と照射終了後の菌のコロニー数を比較した。
【0055】
図9は、光照射によるカテキン類の制菌作用(対黄色ブドウ球菌)を評価した結果である。
図9の結果により、エピガロカテキン及びエピカテキンガレートにより構成されるカテキン類の抗菌効果が高い可能性が示唆された。
【0056】
[実験3]
実験3では、カテキン、エピカテキン、エピガロカテキン及びエピカテキンガレートの4つのカテキン類と、比較対象としてPBS(0.1mol/Lのりん酸緩衝生理食塩水)の計5種類の試料が光照射により過酸化水素(H)の生成を抑制するかを実験した。10μmol/Lの各試料に、カタラーゼを添加して照射波長400nmの光を、照射強度を250mW/cmに設定して10分間照射した後の過酸化水素量と、カタラーゼを添加せずに照射波長400nmの光を、照射強度を250mW/cmに設定して10分間照射した後の過酸化水素量とを比較した。
【0057】
図10は、「Cat-」は、カタラーゼを添加しないもの、「Cat+」は、カタラーゼを添加したものであり、カタラーゼ添加による過酸化水素の生成量の差を評価した結果である。
図10の結果により、(1)カタラーゼ添加により、過酸化水素の生成が大きく抑制されたこと、(2)カテキンやエピカテキンと比較して、エピガロカテキンとエピカテキンガレートから生成される過酸化水素生成量多い可能性と、(3)エピガロカテキンとエピカテキンガレートの構造に多く含まれるフェノール性水酸基が可視光線の持続的な照射を受けると、電子供与体として作用して、ラジカル生成により酸素が還元され過酸化水素が発生することで、制菌効果がもたらされている可能性があることと、(4)過酸化水素生成量と制菌効果の間に、正の相関関係がある可能性が示唆された。
【0058】
実験1から実験3の結果は、エピガロカテキンとエピカテキンガレートは、カテキンやエピカテキンと比較して、それらの分子構造に水酸基を多く持つことから生ずるものであると考えている。フェノール性水酸基が可視光線の持続的な照射を受けると、電子供与体として作用して、ラジカル生成により酸素が還元され過酸化水素が発生し、制菌効果をもたらすものと考えている。可視光線のうち、波長の短い可視光線領域の光の方が、波長の長い可視光線領域の光と比較して、エネルギが強く、過酸化水素の発生がより高まるため、波長の短い可視光線領域の光を照射する方が、制菌効果がより高まるものと考えている。
【0059】
[実施例3]
ナイヤガラからの制菌組成物の組成を調べた。
【0060】
図11は、実施例2にて得た、果皮からの制菌組成物に含まれるポリフェノール成分を液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS/MS)により同定を行った結果である。図12は、実施例2にて得た、種子からの制菌組成物に含まれるポリフェノール成分を液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS/MS)により同定を行った結果である。縦軸は、吸光度(AU)であり、横軸は時間である。
図11及び図12から、いずれの制菌組成物も、プロアントシアニジンが主要な成分であることが示唆された。
【0061】
図13は、実施例2にて得た、果皮からの制菌組成物と、種子からの制菌組成物のプロアントシアニジンの組成を調べた結果である。「-Ex」は、「Extension units(伸長ユニット)」である。「-T」は、「Terminal units(末端ユニット)」である。
果皮からの制菌組成物のプロアントシアニジンは、平均重合度(mDP,Mean Degree of Polymerization)が8.5(±0.5)であった。含有するエピカテキンガレート(G,Galloylation)の割合は、伸長ユニットと末端ユニットと、合わせて7.4%であり、含有するエピガロカテキン(P,prodelphilinidins)の割合は、伸長ユニットと末端ユニット合わせて1.6%であった。
種子からの制菌組成物のプロアントシアニジンは、平均重合度が7.8(±1.8)であった。含有するエピカテキンガレート(G)の割合は、伸長ユニットと末端ユニット合わせて17.8%であり、含有するエピガロカテキンの割合は、伸長ユニットと末端ユニット合わせて2.7%であった。
【0062】
図11から図13の結果により、(1)制菌組成物の制菌効果はプロアントシアニジンによるものである可能性が高いことと、(2)種子から得られた制菌組成物がよりプロアントシアニジンが多く得られることから、種子から得られた制菌組成物の制菌効果がより高い可能性があることが示唆された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13