(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150329
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】シールド掘削機のテールシールの交換方法及び構築中のトンネル
(51)【国際特許分類】
E21D 11/00 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
E21D11/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059389
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 英典
(72)【発明者】
【氏名】川内 大輔
(72)【発明者】
【氏名】有川 健
【テーマコード(参考)】
2D155
【Fターム(参考)】
2D155GB02
2D155JA06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】小さな曲げ半径のトンネルを構築することが可能なシールド掘削機のテールシールの交換方法を提供する。
【解決手段】既設のセグメントリングを反力受けとした複数の推進ジャッキ15の伸長により前方に向かって掘削機本体を推進し、前方に新たなセグメントリングを順次設置してトンネルを構築する途中において、掘削機本体のスキンプレートの後部に設けられ、スキンプレートの外周面とセグメントリングの内周面との間を封止するテールシールを交換する。最も後方のテールシールよりも後方のセグメントリング33を構成する各ピース43に周方向に離間して備わる複数の注入口43aから止水剤を注入し、その後、セグメントリング31を構成するピース41を推進ジャッキの15のロッド15aのスプレッダーと固定し、このロッド15aを収縮することによりピース41を前方に引き出し、それにより生じた空間を介してテールシールを交換する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に分割されたピースからなる既設のセグメントリングを反力受けとした複数の推進ジャッキのロッドの伸長により切羽側に向かって掘削機本体を推進し、前記既設のセグメントリングの前記切羽側に新たなセグメントリングを順次設置することによりトンネルを構築する途中において、前記掘削機本体の胴体の後部に設けられ、前記胴体の内周面と前記既設のセグメントリングの外周面との間を封止するテールシールを交換する方法であって、
最も立坑側のテールシールよりも立坑側に位置する前記セグメントリングを構成する各前記ピースに備わる少なくとも一つの注入口から止水剤を注入し、
その後、前記交換すべきテールシールの内方に位置する前記セグメントリングを構成する前記ピースを前記複数の推進ジャッキのうちの少なくとも1つの推進ジャッキのロッドのスプレッダーと固定し、当該ロッドを収縮することにより前記ピースを前記切羽側に引き出し、
前記ピースの引き出しにより生じた空間を介して前記交換すべきテールシールを交換することを特徴するシールド掘削機のテールシールの交換方法。
【請求項2】
前記掘削機本体を推進させながら、前記注入口から裏込め剤に替えて低強度の充填剤を注入し、前記掘削機本体を停止した後、前記止水剤を注入して、前記注入した充填剤を前記止水剤に置き換えることを特徴とする請求項1に記載のテールシールの交換方法。
【請求項3】
前記切羽側に引き出す前記ピースは、周方向に隣接する前記ピースと接触する面に予め滑剤が塗布されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のシールド掘削機のテールシールの交換方法。
【請求項4】
周方向に分割されたピースからなる既設のセグメントリングを反力受けとした複数の推進ジャッキのロッドの伸長により切羽側に向かって掘削機本体を推進し、前記既設のセグメントリングの前記切羽側に新たなセグメントリングを順次設置されることによりなる構築中のトンネルであって、
交換すべきテールシールの内方に位置する前記セグメントリングより立坑側に位置する前記セグメントリングを構成する各前記ピースは、少なくとも一つの注入口を備えることを特徴とする構築中のトンネル。
【請求項5】
前記交換すべきテールシールの内方に位置する前記セグメントリングより前記立坑側に位置する前記セグメントリングを構成する各前記ピースは、周方向に離間して少なくとも1つの注入口を備えることを特徴とする請求項4に記載の構築中のトンネル。
【請求項6】
前記交換すべきテールシールの内方に位置する前記セグメントリングを構成する各前記ピースは、周方向に離間して複数の注入口を備えることを特徴とする請求項4又は5に記載の構築中のトンネル。
【請求項7】
前記交換すべきテールシールの内方に位置する前記セグメントリング及び当該セグメントリングより前記切羽側に位置する前記セグメントリングをそれぞれ構成するピースは、周方向に隣接する前記ピースと接触する面に予め滑剤が塗布されていることを特徴とする請求項4から6の何れか1項に記載の構築中のトンネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド掘削機のテールシールを交換する方法及び構築中のトンネルに関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルを構築するために、掘削機本体の前端部で地盤を掘削し、掘削機本体の後部においてセグメントリングを組み立てることを1リング毎に繰り返すシールド掘削機が使用されている。シールド掘削機においては、掘削機本体の胴体の後部の内周面とセグメントリングの外周面との隙間を止水するためにテールブラシなどのテールシールを備えている。
【0003】
長距離のトンネルを構築する場合には、テールシールに劣化や損傷が生じ、セグメントリングの不具合やジャッキ推力の異常などの不具合が生じるおそれがあった。そのため、トンネルの掘進途中においてテールシールを交換する必要が生じていた。
【0004】
そこで、特許文献1には、元のテールシールリングの前端に新たなテールシールリングを固定した状態でシールドジャッキのロッドを伸長させることにより、これらテールシールリングを後方に移動させた後、ロッドを短縮させて、元のテールシールリングを除去する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術においては、シールドジャッキのロッドのストロークはテールシールリングの長さよりも長くしなければならない。しかし、この場合、小さな曲げ半径のトンネルを構築することができないとう不具合が生じる。
【0007】
本発明は、以上の点に鑑み、小さな曲げ半径のトンネルを構築することが可能なシールド掘削機のテールシールの交換方法及び構築中のトンネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のシールド掘削機のテールシールの交換方法は、周方向に分割されたピースからなる既設のセグメントリングを反力受けとした複数の推進ジャッキのロッドの伸長により切羽側に向かって掘削機本体を推進し、前記既設のセグメントリングの前記切羽側に新たなセグメントリングを順次設置することによりトンネルを構築する途中において、前記掘削機本体の胴体の後部に設けられ、前記胴体の内周面と前記既設のセグメントリングの外周面との間を封止するテールシールを交換する方法であって、最も立坑側のテールシールよりも立坑側に位置する前記セグメントリングを構成する各前記ピースに備わる少なくとも一つの注入口から止水剤を注入し、その後、前記交換すべきテールシールの内方に位置する前記セグメントリングを構成する前記ピースを前記複数の推進ジャッキのうちの少なくとも1つの推進ジャッキのロッドのスプレッダーと固定し、当該ロッドを収縮することにより前記ピースを前記切羽側に引き出し、前記ピースの引き出しにより生じた空間を介して前記交換すべきテールシールを交換することを特徴する。
【0009】
本発明のシールド掘削機のテールシールの交換方法によれば、交換すべきテールシールの内方に位置するピースを推進ジャッキのロッドを収縮することにより切羽側に引き出し、この引き出しにより生じた空間を介してテールシールを交換する。これにより、テールシールの交換に必要なロッドの収縮量は、テールシールを交換可能な空間を形成することが可能であればよく、上記特許文献1に記載された技術と比較して、ロッドのストロークを抑制することが可能であり、小さな曲げ半径のトンネルを構築することができる。
【0010】
そして、最も立坑側のテールシールよりも立坑側に位置するセグメントリングを構成する各ピースに備わる少なくとも一つの注入口から止水剤を注入するので、テールシールを交換するためにピースを引き出したことに生じ得る立坑側からの漏水を全周に亘って防止することが可能となる。
【0011】
本発明のシールド掘削機のテールシールの交換方法において、前記掘削機本体を推進させながら、前記注入口から裏込め剤に替えて低強度の充填剤を注入し、前記掘削機本体を停止した後、前記止水剤を注入して、前記注入した充填剤を前記止水剤に置き換えることが好ましい。
【0012】
この場合、切羽側のピースを引き出す間、最も立坑側のテールシールよりも立坑側にて止水して、漏水を抑えることが可能となる。
【0013】
また、本発明のシールド掘削機のテールシールの交換方法において、前記切羽側に引き出す前記ピースは、周方向に隣接する前記ピースと接触する面に予め滑剤が塗布されていることが好ましい。
【0014】
この場合、ピースを引き出し際に生じる損傷の低減を図ることが可能となる。
【0015】
本発明の構築中のトンネルは、周方向に分割されたピースからなる既設のセグメントリングを反力受けとした複数の推進ジャッキのロッドの伸長により前記切羽側に向かって掘削機本体を推進し、前記既設のセグメントリングの前記切羽側に新たなセグメントリングを順次設置されることによりなる構築中のトンネルであって、交換すべき前記テールシールの内方に位置する前記セグメントリングより前記立坑側に位置する前記セグメントリングを構成する各前記ピースは、少なくとも一つの注入口を備えることを特徴とする。
【0016】
本発明の構築中のトンネルによれば、交換すべきテールシールの内方に位置するセグメントリングより立坑側に位置するセグメントリングを構成する各ピースに備わる少なくとも一つの注入口から止水剤を注入することができるので、テールシールを交換するためにピースを引き出したことに生じ得る前記立坑側からの漏水を全周に亘って防止することが可能となる。
【0017】
本発明の構築中のトンネルにおいて、前記交換すべきテールシールの内方に位置する前記セグメントより立坑側に位置する前記セグメントリングを構成する各前記ピースは、周方向に離間して少なくとも1つの注入口を備えることが好ましい。
【0018】
この場合、テールシールを交換するためにピースを引き出したことによって切羽側から漏水が生じた場合であっても、前記ピースの注入口から止水剤を緊急的に注入し、漏水を抑えることが可能となる。
【0019】
また、本発明の構築中のトンネルにおいて、前記交換すべきテールシールの内方に位置する前記セグメントリングを構成する各前記ピースは、周方向に離間して複数の注入口を備えることが好ましい。
【0020】
この場合、前記ピースの複数の注入口から止水剤を注入することにより、テールシールを交換するためにピースを引き出したことに生じ得る、引き出したピースが元々存在していた箇所からの漏水を防止することが可能となる。
【0021】
また、本発明の構築中のトンネルにおいて、前記交換すべきテールシールの内方に位置する前記セグメント及び当該セグメントリングより前記切羽側に位置する前記セグメントリングをそれぞれ構成するピースは、周方向に隣接する前記ピースと接触する面に予め滑剤が塗布されていることが好ましい。
【0022】
この場合、ピースを引き出した場合に生じる損傷の低減を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係るシールド掘削機のテールシールの交換方法に用いるシールド掘削機を模式縦断面図。
【
図2】シールド掘削機の中心軸側から見た模式展開図であり、テールシールを交換するときのセグメントリングを構成するピースの配置を示す。
【
図3】シールド掘削機の中心軸側から見た模式展開図であり、最初の2個のピースを引き出した状態を示す。
【
図4】ピースガイドアタッチメントを備えたエレクタの模式縦断面図。
【
図5】止水板組み付けアタッチメントを備えたエレクタの模式縦断面図。
【
図6】スペーサ配置アタッチメントを備えたエレクタの模式縦断面図。
【
図7】シールド掘削機の中心軸側から見た模式展開図であり、最初に引き出した2個のピースにより生じた空間にスペーサを配置した状態を示す。
【
図8】シールド掘削機の中心軸側から見た模式展開図であり、次の2個のピースを引き出した状態を示す。
【
図9】シールド掘削機の中心軸側から見た模式展開図であり、最後の2個のピースを引き出した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態に係るシールド掘削機のテールシールの交換方法を実施する際に使用されるシールド掘削機100について図面を参照して説明する。
【0025】
図1に示すように、シールド掘削機100は、スキンプレート(シールド筒)10と、スキンプレート10に組付けた掘削ユニット20とを備えている。スキンプレート10は、前スキンプレート(前胴)11と後スキンプレート(後胴)12とから構成されている。スキンプレート10及び掘削ユニット20は本発明の掘削機本体に相当し、スキンプレート10は本発明の胴体に相当する。
【0026】
後スキンプレート12の前端には、前スキンプレート11の後端部に内嵌する球面ジョイント部13が設けられており、前スキンプレート11は後スキンプレート12に対し任意の方向に屈曲自在となっている。そして、前スキンプレート11と後スキンプレート12とを連結する中折れジャッキ14が周方向の間隔を存して複数設けられており、これら中折れジャッキ14により前スキンプレート12の方向、即ち、シールド掘削機100の掘進方向を調節することができる。
【0027】
後スキンプレート12には、既設のセグメントリング30を反力受けにしてシールド掘削機100を前進させる複数の推進ジャッキ(シールドジャッキ)15が周方向の間隔を存して取付けられている。
【0028】
後スキンプレート12の内部には、
図2も参照して、掘削済みのトンネル内壁面にピース41等によりリング状のセグメントリング31等を組付けるエレクタ50が配置されている。
【0029】
既設のセグメントリング30を反力受けにして推進ジャッキにより掘削機本体を前進させ、推進ジャッキ15の後方(立坑側)と既設のセグメントリング30の先端との間に新たなセグメントリングを設置する。セグメントリング31等は、複数、ここでは6個の鋼製のピース41等が周方向に連結されたものであり、短い略円管状である。
【0030】
シールド掘削機100内にピース41等を搬入し、シールド掘削機100に配置されたエレクタ50を用いてピース41等をリング状に組み立てる。ピース41等は重量物であるので、ピース41等を組み付けることが可能なピース組み付けアタッチメント51を備えるエレクタ50を用いて、シールド掘削機100内で組み付け作業が行われる。
【0031】
各ピース41等には、詳細は図示しないが、ピース組み付けアタッチメント51のそり状の支持部材51aに備わるピンなどの突起状体により保持されるために、窪みや貫通孔などの被保持部が形成されている。各ピース41等は、その被保持部が突起状体に保持された状態で、支持部材51aに載置されることにより、ピース組み付けアタッチメント51に保持される。
【0032】
掘削ユニット20は、隔壁21と、スキンプレート10の前端より前方(切羽側)で切羽を掘削するカッタヘッド22とを有している。カッタヘッド22は、隔壁21に支持されている。
【0033】
隔壁21の背面には、カッタヘッド22を回転駆動させる駆動ユニット23が設けられている。駆動ユニット23は駆動モータ、減速機、ギヤ等から構成され、駆動ユニット23の駆動力によって、駆動軸24を介してカッタヘッド22は高トルクで回転駆動する。
【0034】
隔壁21とカッタヘッド22との間の空間は隔室25となっている。隔室25は、掘削土砂を泥水と共に充填して切羽面からの土圧に対抗させるためのものである。隔壁21の後側には、隔室25と連通する土砂搬出装置26が設けられている。送泥管26a及び排泥管26bからなる土砂搬出装置26は、後方の発進立坑にまで到っている。
【0035】
後スキンプレート12の後部には、既設のセグメントリング30の外周面との間の隙間を封止するテールシール61~63が取付けられている。なお、テールシール61~63には、ブラシ状のテールブラシも含まれる。
【0036】
各テールシール61~63は、全体として環状であり、内周がセグメントリング30の外周面に接触するように設けられている。テールシール61~63は、切羽側を前方とし、立坑側を後方としたとき、前後方向に離間して複数段、ここでは3段に亘って設けられている。各テールシール61~63は、詳細は図示しないが、例えば、段ごとに周方向に分割されたテールプレート12aにボルトなどによって固定されており、各テールプレート12aは溶接やボルトなどによって後スキンプレート12に固定されている。このように、各テールシール61~63はテールプレートに対して交換可能である。
【0037】
そして、トンネル構築中にテールシール61,62を交換する場合、
図2に示すように、交換すべきテールシール61,62に対してセグメントリング31等を構成するピース41等が所定の位置となるように配置する。換言すれば、所定のピース41等が所定の位置に配置された構築中のトンネルにおいて所定の位置のテールシール61,62を交換することができる。なお、
図2、3は、シールド掘削機100の中心軸側から見た模式展開図である。
【0038】
ここでは、最も切羽側に位置する段のテールシール61を交換する場合について説明する。カーブを施工するときなどに、後スキンプレート12の内周面とセグメントリング31とのクリアランスが狭くなることで、このテールシール61は、セグメントリング31と擦れて摩耗し易く、最も交換頻度が高い。テールシール61と同時にテールシール62を交換してもよい。なお、テールシール63を交換する場合は、別途立坑側を止水することになる。
【0039】
交換すべきテールシール61の内方(シールド掘削機100の中心軸側)に位置するセグメントリング31を構成する各ピース41は、鋼製ピースであり、止水剤注入用の注入口41aが1つ形成されている。ただし、必ずしも、これらピース41に注入口41aが形成されていなくてもよい。
【0040】
そして、交換すべきテールシール61の内方に位置するセグメントリング31よりも所定段数だけ立坑側に位置するセグメントリング33、34を構成する各ピース43、44も、鋼製ピースであり、周方向に離間して複数の注入口43a、43b、44aが形成されている。ここでは、セグメントリング31より2つ立坑側に位置するセグメントリング33を構成する各ピース43には、周方向に離間してそれぞれ複数の固結滑剤注入用の注入口43a及び止水剤注入用の注入口43bが設けられている。
【0041】
このセグメントリング33は、最も立坑側に位置するテールシール63よりも立坑側に位置している。なお、このセグメントリング33よりも1つ立坑側のセグメントリング34、すなわち、ここでは、交換すべきテールシール61の内方に位置するセグメントリング立坑側より3つ立坑側に位置するセグメントリング34を構成する各ピース44にも、周方向に離間する複数の止水剤注入用の注入口44aが設けられている。
【0042】
各注入口41a、43a、43b、44aは、詳細は図示しないが、逆止弁を備えており、通常時はプラグで封止されている。固結滑剤や止水剤を注入する際に、プラグを外し、注入後にプラグで注入口41a、43a、43b、44aを封止する。
【0043】
なお、図示しないが、全てのピースは、地山とセグメントリング30との隙間に裏込め剤を注入するために、少なくとも1つの注入口を備えている。一方、上述したピース41~44においては、裏込め剤を注入するだけでなく、テールシール63より立坑側で、セグメントリング32~34と地山との隙間を止水する必要がある。この止水は全周に亘って確実に行う必要があるので、周方向に離間して複数の注入口43a、43b、44aが設けられている。なお、注入口41aは、緊急時に止水剤を注入するために設けられているため、各ピース41に1つずつだけしか設けられていない。
【0044】
交換すべきテールシール61の内方に位置するセグメントリング31より2つ立坑側に位置するセグメントリング33を構成する各ピース43に設けられる注入口43aの個数は、他のピース41、44に設けられる注入口41a、44aの個数と比較して、多い又は同じであることが好ましい。これにより、これより立坑側にテールシール61~63が存在しない、最も止水が必要なセグメントリング33と地山との間を確実に止水することが可能となる。
【0045】
以下、上述したシールド掘削機100を用いて、本発明の実施形態に係るシールド掘削機のテールシールの交換方法について説明する。
【0046】
まず、
図2に示すように、交換すべきテールシール61に対するセグメントリング31~34の位置関係を上述した所定のものとする。このように、テールシール61を交換すべき時期となったら、予め所定のセグメントリング31~34を用いてトンネルを構築しておく。
【0047】
そして、最も立坑側に位置するテールシール63より立坑側に位置するセグメントリング33を構成するピース43の各注入口43aから固結滑剤を注入し、その後、注入口43bから止水剤を注入する。これにより、テールシール63の立坑側からの地下水の流れを止めることができる。裏込め剤を注入すると止水剤が注入できないので、低強度の充填剤である固結滑剤で一旦地山の崩壊を防止して、その後、止水剤を注入して、固結滑剤と置き換える。なお、最終的には裏込め剤を注入する。
【0048】
次に、
図3に示すように、交換すべきテールシール61の内方に位置するセグメントリング31を構成するピース41の一部を切羽側に引き出す。ここでは、セグメントリング31の頂部に位置するピース41-1と、これを隣り合うピース41-2とを最初に引き出す場合について説明する。
【0049】
なお、これらピース41-1,41-2には、その隣り合うピースと当接する周方向の両側面に予め滑剤を塗布しておくことが好ましい。また、これらの両側面にシール材を埋め込んでおくことが好ましい。これらにより、ピース41-1と41-2の間で引き出し時に生じる損傷の低減を図ることが可能となる。
【0050】
この際、作業者は、ピース組み付けアタッチメント51を取り外し、代わりに、
図4に示すように、ピースガイドアタッチメント52をエレクタ50に取り付ける。そして、作業者は、このエレクタ50を操作して、ピース41-1、41-2を引き出して空間Sを確保する。この空間Sは、ピース41-1、41-2が元々存在していた空間を含有する空間である。ピースガイドアタッチメント52は、これらピース41-1、41-2をガイド面にて案内するそり状のガイド部材52aを備えている。このガイド部材52aの上面に押し付けられるようにして、これらピース41-1、41-2が案内されるので、残存するピース42-1、42-2、42-6等の脱落を防止することができる。なお、上部に位置するピース41-1、41-2を案内する際は、ガイド部材52aによって支持し、中間部及び下部に位置するピース41-3~6を案内する際は、ガイド部材52aに沿って摺動させることが可能な構成であることが好ましい。
【0051】
残存するピース41-3~41-6が脱落しないように推進ジャッキ15-3~15―6で抑えながら、頂部に位置するピース41-1と、これと隣り合う一方の側のピース41-2を最初に引き出す。頂部に位置するピース41-1は、切羽側に向けてテーパ状に広がるとなるように両側面が傾斜している。そして、これらと隣り合うピース41-2は、ピース41-1の接する側面に対応して一方の側面が傾斜している。
【0052】
引き出しは、まず、頂部のピース41-1とこれに対応する推進ジャッキ15-1のロッド15a-1の後端部の端部に設けられたスプレッダーとを固定する。また、頂部のピース41-1と隣り合うピース41-2とこれに対応する推進ジャッキ15-2のロッド15a-2の端部に設けられたスプレッダーとを固定する。なお、ピース41-1等とロッド15a-1等の端部に設けられたスプレッダーとの固定は、クランプや万力などの既知の着脱可能な固定手段により固定すればよい。
【0053】
その後、推進ジャッキ15-1のロッド15a-1を収縮させる。これにより、頂部のピース41-1が引き出される。そして、これと同時に又はこの後に、推進ジャッキ15-2のロッド15a-2を収縮させる。これにより、ピース41-2が引き出される。
【0054】
これら引き出しにおけるロッド15a-1、15a-2の収縮ストロークは、後述するスペーサ81、82の長さよりも長い距離とする。ただし、頂部のピース41-1を引き出す際の収縮ストロークは、引き出したときにピース41-2との間に隙間が生じるように、ピース41-2を引き出すときの収縮ストロークより少し長い距離とする。
【0055】
なお、テールシール61を交換した後、テールシール61のシール部分がセグメントリング31を通過するときに、テールシール61の損傷などにより、セグメントリング31を構成するピース41間の目地などから出水した場合、ピース41の各注入口41aから止水剤を注入することにより、緊急的に漏水を防止することができる。
【0056】
次に、作業者は、ピースガイドアタッチメント52を取り外し、代わりに、
図5に示すように、止水プレート組み付けアタッチメント53をエレクタ50に取り付ける。そして、作業者は、このエレクタ50を操作して、以下で説明するように、止水プレート70を設置する。
【0057】
止水プレート組み付けアタッチメント53は、止水プレート70を把持することが可能な把持部材53aを備えている。この把持部材53aにより止水プレート70を把持することより、重量物である止水プレート70をエレクタ50によって簡易に組み付けることができる。ここでは、止水プレート組み付けアタッチメント53は、ピースガイドアタッチメント52に把持部材53aを追加した構成となっているが、このような構成に限定されず、止水プレート70を着脱自在に保持するものであってもよい。
【0058】
そして、
図3及び
図5に示すように、空間Sに露出したピース41-3、41-6、42-1、42-2、42-6の露出面に必要に応じて止水プレート70を設置する。止水プレート70には、ピース41-3、41-6の露出した一側面を覆って前後方向(シールド掘削機100の中心軸方向)に延びる第1の止水プレート71と、ピース42-1、42-2、42-6の露出した前面、及び、ピース41-3,41-6の外周面と後スキンプレート12の内周面との間を覆って円環が分割された形状の面を有する第2の止水プレート72とからなっている。これら2種類の止水プレート71、72は、止水剤などによる止水の状況に応じて、何れか一方、または、両方を設置すればよいが、ここでは、両方の止水プレート71、72を設置する場合について説明する。
【0059】
各ピース41-3、41-6の両側壁には、図示しないが、隣接するピース同士を接続するボルトが挿通される貫通孔が形成されている。そして、第1の止水プレート71は、残存するピース41-3、41-6の露出する側壁に略全面に亘って当接する矩形状の鋼製の平板からなっている。そして、この平板に形成された貫通孔と側壁に形成された貫通孔を挿通するボルトによって、残存するピースの側壁41-3、41-6に固定される。また、第1の止水プレート71には、テールシール61,62をかわすように、切欠きが形成されている。
【0060】
第2の止水プレート72は、露出するピース42-1、42-2、42-6の前面を略全面に亘って覆うように、各ピース42-1~42-6の前面を6分割した大きさの分割された円環平板状となっている。
【0061】
なお、これら止水プレート71、72に形成された各貫通孔は、ボルトの位置調整幅を大きく確保するために、シールドの半径方向を長軸とする長孔となっている。
【0062】
次に、作業者は、シールド掘削機100内に必要に応じて図示しない足場などを設置し、この足場などを用いてテールシール61を交換する。具体的には、交換すべきテールシール61を清掃した後、取り外す。そして、必要に応じてテールプレートやスキンプレートを整形したうえで、新たなテールシール61を取り付ける。
【0063】
その後、作業者は、必要に応じて足場などを撤去したうえで、止水プレート組み付けアタッチメント53を取り外し、代わりに、
図6に示すように、スペーサ配置アタッチメント54をエレクタ50に取り付ける。
【0064】
そして、このエレクタ50を操作して、
図6及び
図7に示すように、引き出したピース41-1、41-2と残存するピース42-1、42-2、43-6の前後方向の隙間に、バックリングを防止するためにスペーサ81、82をそれぞれ配置する。スペーサ81、82は鋼製であり、所定の長さを有している。ここでは、頂部のピース41-1を引き出した空間Sに配置されるスペーサ81の長さは、これと隣り合うピース41-2を引き出した空間Sに配置されるスペーサ82の長さに比較して、少し長い又は同じとなっている。
【0065】
スペーサ配置アタッチメント54は、スペーサ81、82を着脱可能に保持する保持部材54aを備えている。スペーサ81,82の内方側に溶接によって固定された座に、保持部材54aの上端壁がボルトにより固定することが可能となっている。この保持部材54aによりスペーサ81、82を保持することにより、重量物であるスペーサ81、82を空間S内に位置させることが可能となる。
【0066】
その後、推進ジャッキ15-1、15-2のロッド15a-1、15a-2を少し伸長させることにより、スペーサ81をその前後方向に位置するピース41-1、42-1により、スペーサ82をその前後方向に位置するピース41-2、42-2によりそれぞれ挟み込み、ピース41-1、41-2が引き出された状態をスペーサ81、82により維持する。
【0067】
次に、
図8に示すように、引き出した状態に維持されたピース41-1、41-2と隣り合って配置されているピース41-3、41-6の引き出しを行う。頂部のピース41-1の他方にて隣り合うピース41-6は、頂部のピース41-1の接する側面に対応して、一方の側面が傾斜している。一方、ピース41-3の両側面は傾斜していない。これら2個のピース41-3、41-6の引き出しは既に説明したピース41-1、41-2の引き出しと同様に行う。なお、1個ずつ引き出しを行っても2個同時に引き出しを行ってもよい。
【0068】
なお、頂部のピース41-1に隣接するピース41-6を引き抜く際のロッド15a-6の収縮ストロークは、引き出した状態のピース41-1に対応するロッド15a-1の長さと同じ又はそれ未満のロッド長となるようにすればよい。また、他のピース41-3を引き出す際のロッド15a-3の収縮ストロークは、このロッド15a-6と同じであっても、これより少し大きくても小さくともよい。
【0069】
そして、これら2個のピース41-3、41-6の引き出しにより生じた空間Sを利用して、上記と同様に、テールシール61-3、61-6を交換し、さらに、スペーサ83,86を設置する。スペーサ83,86の長さはロッド15a-3、15a-6の収縮ストロークに対応した長さとすればよい。なお、第1の止水プレート71は一旦取り外し、残存するピース41-4、41-5の露出する側壁に設置する。
【0070】
次に、
図9に示すように、交換すべきテールシール61の内方に位置するセグメントリング31を構成する残存するピース41-4、41-5の引き出しを行う。これらの両側面は傾斜していない。これら2個のピース41-4、41-5の引き出しは既に説明した引き出しと同様に行う。なお、1個ずつ引き抜きを行っても2個同時に引き出しを行ってもよい。
【0071】
残存するピース41-4、41-5を引き出す際のロッド15a-4、15a-5の収縮ストロークは、既に引き抜いた両側面が傾斜していないピース41-3を引き出す際のロッド15a-3の収縮ストロークと同じとすればよい。
【0072】
そして、これら2個のピース41-4、41-5の引き出しにより生じた空間Sを利用して、上記と同様にテールシール61-4、61-5を交換し、さらに、スペーサ84、85を設置する。なお、第1の止水プレート71は取り外す。また、隣り合う第2の止水プレート72同士はその両端部同士を接続する。
【0073】
そして、テールシール61にシリコンシールやテールグリスなどを塗布した後、セグメントリング31の復旧を行う。これは、推進ジャッキ15のロッド15aをそれぞれ少し収縮させてスペーサ81~86を取り外し、その後、推進ジャッキ15のロッド15aを伸長させて、各ピース41-1~41-6を元の位置に戻す。この工程は、引き出した順序とは逆の順序で行えばよく、最後に頂部のピース41-1を元に位置に戻す。上述したようにピース41-1は、合わせて前方に向けてテーパ状に広がるとなるように両側面が傾斜しているので、これらを押し入れることにより、セグメントリング31を確実に元の形状に戻すことが可能となる。
【0074】
なお、ピース41-1~41-6を戻す際、これらの両側面に滑剤を塗布しておくことが好ましい。また、両側面に新たなシール材を埋め込んでおくことが好ましい。これらにより、戻すときにピース41-1~41-6に生じる損傷の低減を図ることが可能となる。
【0075】
これにより、テールシール61の交換作業は完了するが、図示しない注入口から裏込め剤を注入し、止水剤と置き換える。その後は、通常と同様に、セグメントリングを構築する工程を行えばよい。
【0076】
本発明は、上述したシールド掘削機のテールシールの交換方法に限定されるものではなく、適宜変更することが可能である。例えば、上述したシールド掘削機100を用いるものに限定されず、既知の各種のシールド掘削機を用いることができる。
【0077】
また、6個のピース41からなるセグメントリング31において、2個ずつ3回に分けてピース41を引き出す場合について説明した。しかし、これに限定されず、例えば、1個ずつ6回に分けて、また、3個ずつ2回に分けてピース41を引き出してもよい。
【符号の説明】
【0078】
10…スキンプレート(胴体、掘削機本体)、 11…前スキンプレート、 12…後スキンプレート、 12a…テールプレート、 15(15-1~15-6)…推進ジャッキ、 15a(15a-1~15a-6)…ロッド、 20…掘削ユニット(掘削機本体)、 21…隔壁、 22…カッタヘッド、 23…駆動ユニット、 30…既設のセグメントリング、 31~36…セグメントリング、 41(41-1~41-6)、42~45…ピース、 41a、43a、43b、44a…注入口、 50…エレクタ(組み立て装置)、 51…ピース組み付けアタッチメント、 51a…支持部材、 52…ピースガイドアタッチメント、 52a…ガイド部材、 53…止水プレート組み付けアタッチメント、 53a…把持部材、 54…スペーサ配置アタッチメント、 54a…保持部材、 61~63…テールシール、 70…止水プレート、 71…第1の止水プレート、 72…第2の止水プレート、 81~86…スペーサ、 100…シールド掘削機、 S…空間。