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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150334
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】伸びフランジ割れ評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/00 20060101AFI20231005BHJP
   G01N 3/08 20060101ALI20231005BHJP
   G01N 3/28 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
G01N3/00 T
G01N3/08
G01N3/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059396
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100197561
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 三喜男
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 貞雄
(72)【発明者】
【氏名】前田 康裕
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA01
2G061AA20
2G061AB01
2G061AB04
2G061BA03
2G061BA04
2G061CA01
2G061CB01
2G061EA01
2G061EA02
2G061EA10
2G061EB03
2G061EB07
(57)【要約】
【課題】伸びフランジ割れの評価精度を向上させる。
【解決手段】複数の板状部材について伸びフランジ成形試験を行い、板状部材について単軸引張変形試験を行い、伸びフランジ成形試験による割れ状態が縁割れであるか内割れであるかを判定するとともに伸びフランジ成形試験による限界ひずみとひずみ勾配とを算出し、縁割れ及び内割れにおいてそれぞれ板状部材の限界ひずみとひずみ勾配との関係を示す縁割れ限界ひずみ特性データ及び内割れ限界ひずみ特性データを算出し、単軸引張変形試験による延性破壊時のひずみを限界ひずみとする延性破壊限界ひずみ特性データを算出し、縁割れ限界ひずみ特性データL1a、内割れ限界ひずみ特性データL1b及び延性破壊限界ひずみ特性データL1cのうち少なくとも縁割れ限界ひずみ特性データ及び延性破壊限界ひずみ特性データを用いて伸びフランジ部の割れを評価する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス成形品の伸びフランジ部の割れを評価する伸びフランジ割れ評価方法であって、
複数の板状部材についてそれぞれ前記板状部材の端部に割れを発生させるように成形して限界ひずみを算出する伸びフランジ成形試験を行い、
前記複数の板状部材と同一材料の板状部材について単軸引張変形させて延性破壊時のひずみを算出する単軸引張変形試験を行い、
前記複数の板状部材のそれぞれについて前記伸びフランジ成形試験による割れ発生時の割れ状態が縁割れであるか内割れであるかを判定するとともに前記伸びフランジ成形試験による限界ひずみと前記板状部材の端面から前記板状部材の内部方向におけるひずみ勾配とを算出し、
前記伸びフランジ成形試験による割れ状態が縁割れであるときの各板状部材の限界ひずみとひずみ勾配とに基づいて、縁割れにおける板状部材の限界ひずみとひずみ勾配との関係を示す縁割れ限界ひずみ特性データを算出し、
前記伸びフランジ成形試験による割れ状態が内割れであるときの各板状部材の限界ひずみとひずみ勾配とに基づいて、内割れにおける板状部材の限界ひずみとひずみ勾配との関係を示す内割れ限界ひずみ特性データを算出し、
前記板状部材について前記単軸引張変形試験による延性破壊時のひずみをひずみ勾配に関わらず限界ひずみとする延性破壊限界ひずみ特性データを算出し、
前記縁割れ限界ひずみ特性データ、前記内割れ限界ひずみ特性データ及び前記延性破壊限界ひずみ特性データのうち少なくとも前記縁割れ限界ひずみ特性データ及び前記延性破壊限界ひずみ特性データを用いて、伸びフランジ部の割れを評価する、
伸びフランジ割れ評価方法。
【請求項2】
前記縁割れ限界ひずみ特性データ、前記内割れ限界ひずみ特性データ及び前記延性破壊限界ひずみ特性データを用いて、伸びフランジ部の割れを評価する、
請求項1に記載の伸びフランジ割れ評価方法。
【請求項3】
板状部材から伸びフランジ部を有するプレス成形品をプレス成形するプレス成形解析時に、前記縁割れ限界ひずみ特性データ、前記内割れ限界ひずみ特性データ及び前記延性破壊限界ひずみ特性データのうち少なくとも前記縁割れ限界ひずみ特性データ及び前記延性破壊限界ひずみ特性データを用いて、伸びフランジ部の割れを評価する、
請求項1又は請求項2に記載の伸びフランジ割れ評価方法。
【請求項4】
前記伸びフランジ成形試験において前記板状部材の表面をカメラによって撮像し、
前記カメラによって撮像された前記板状部材の表面の画像に基づいて、前記板状部材について前記伸びフランジ成形試験による限界ひずみとひずみ勾配とを算出する、
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の伸びフランジ割れ評価方法。
【請求項5】
前記伸びフランジ成形試験において前記板状部材の表面をカメラによって撮像し、
前記カメラによって撮像された前記板状部材の表面の画像に基づいて、前記板状部材について前記伸びフランジ成形試験による割れ発生時の割れ状態が縁割れであるか内割れであるかを判定する、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の伸びフランジ割れ評価方法。
【請求項6】
前記単軸引張変形試験において前記板状部材の表面をカメラによって撮像し、
前記カメラによって撮像された前記板状部材の表面の画像に基づいて、前記板状部材について前記単軸引張変形試験による延性破壊時のひずみを算出する、
請求項1から請求項5の何れか1項に記載の伸びフランジ割れ評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸びフランジ割れ評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製の板状部材をプレス成形してプレス成形品を製造する場合、事前に有限要素法を用いた解析(FEM解析)を用いたプレス成形解析によって板状部材のプレス成形をシミュレーションしてプレス成形品について割れの評価を行い、プレス成形の可否を評価することが行われている。
【0003】
板状部材として、例えば引張強度が980MPa程度以上を有する高張力鋼板などの板状部材を用いる場合、プレス成形において伸びフランジ成形される伸びフランジ部では、伸びフランジ変形を伴うことから変形途中に板状部材の端部から割れが発生することがあり、この割れを事前に評価して予測するように、プレス成形解析によってプレス成形品における伸びフランジ割れを評価することが行われている。
【0004】
伸びフランジ割れを評価する際、板状部材の破断限界特性として、板状部材の限界ひずみとひずみ勾配との関係を示す限界ひずみ特性データを用いることが知られている。例えば特許文献1には、鋼板の穴広げ試験を行い、穴縁での限界ひずみと穴径方向のひずみ勾配との関係から特性データを決定し、特性データをプレス成形のシミュレーションに適用して伸びフランジ割れを評価することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6852426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1に記載される板状部材の限界ひずみとひずみ勾配との関係を示す限界ひずみ特性データは、穴広げ試験において穴部の端部の割れに基づいて破断限界を計算し、割れ発生位置が穴部の端部である縁割れのみを考慮して限界ひずみ特性データを算出している。
【0007】
しかしながら、縁割れのみを考慮した限界ひずみ特性データを用いてプレス成形解析によって伸びフランジ割れを評価したときに、プレス成形解析によって伸びフランジ割れが発生しないと評価された場合についても、縁割れではない破断が発生する場合など、実際にプレス成形したときに伸びフランジ割れが発生することがある。
【0008】
また、ひずみ勾配が大きくなるにつれて限界ひずみが大きくなる縁割れのみを考慮した限界ひずみ特性データを用いてプレス成形解析によって伸びフランジ割れを評価する場合、ひずみ勾配の大きさによっては限界ひずみが過剰に大きくなるおそれがあり、プレス成形解析によって伸びフランジ割れが発生しないと評価された場合についても、実際にプレス成形したときに伸びフランジ割れが発生するおそれがある。
【0009】
本発明は、伸びフランジ割れの評価精度を向上させることができる伸びフランジ割れ評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、プレス成形品の伸びフランジ部の割れを評価する伸びフランジ割れ評価方法であって、複数の板状部材についてそれぞれ前記板状部材の端部に割れを発生させるように成形して限界ひずみを算出する伸びフランジ成形試験を行い、前記複数の板状部材と同一材料の板状部材について単軸引張変形させて延性破壊時のひずみを算出する単軸引張変形試験を行い、前記複数の板状部材のそれぞれについて前記伸びフランジ成形試験による割れ発生時の割れ状態が縁割れであるか内割れであるかを判定するとともに前記伸びフランジ成形試験による限界ひずみと前記板状部材の端面から前記板状部材の内部方向におけるひずみ勾配とを算出し、前記伸びフランジ成形試験による割れ状態が縁割れであるときの各板状部材の限界ひずみとひずみ勾配とに基づいて、縁割れにおける板状部材の限界ひずみとひずみ勾配との関係を示す縁割れ限界ひずみ特性データを算出し、前記伸びフランジ成形試験による割れ状態が内割れであるときの各板状部材の限界ひずみとひずみ勾配とに基づいて、内割れにおける板状部材の限界ひずみとひずみ勾配との関係を示す内割れ限界ひずみ特性データを算出し、前記板状部材について前記単軸引張変形試験による延性破壊時のひずみをひずみ勾配に関わらず限界ひずみとする延性破壊限界ひずみ特性データを算出し、前記縁割れ限界ひずみ特性データ、前記内割れ限界ひずみ特性データ及び前記延性破壊限界ひずみ特性データのうち少なくとも前記縁割れ限界ひずみ特性データ及び前記延性破壊限界ひずみ特性データを用いて、伸びフランジ部の割れを評価する、伸びフランジ割れ評価方法を提供する。
【0011】
本発明によれば、複数の板状部材についてそれぞれ伸びフランジ成形試験を行い、伸びフランジ成形試験による割れ発生時の割れ状態が縁割れであるか内割れであるかを判定するとともに伸びフランジ成形試験による限界ひずみとひずみ勾配とを算出し、縁割れ限界ひずみ特性データと内割れ限界ひずみ特性データとを算出する。また、板状部材について単軸引張変形試験を行い、単軸引張変形試験による延性破壊時のひずみを限界ひずみとする延性破壊限界ひずみ特性データを算出する。そして、縁割れ限界ひずみ特性データ、内割れ限界ひずみ特性データ及び延性破壊限界ひずみ特性データのうち少なくとも縁割れ限界ひずみ特性データ及び延性破壊限界ひずみ特性データを用いて伸びフランジ部の割れを評価する。
【0012】
これにより、板状部材の限界ひずみとひずみ勾配との関係を示す限界ひずみ特性データとして、実際の伸びフランジ成形試験による割れの状態である縁割れ又は内割れに応じて縁割れ限界ひずみ特性データと内割れ限界ひずみ特性データとを算出し、縁割れ限界ひずみ特性データ及び内割れ限界ひずみ特性データを用いて伸びフランジ割れを評価するので、縁割れのみを考慮した限界ひずみ特性データを用いる場合に比して、伸びフランジ割れの評価精度を向上させることができる。さらに、単軸引張変形試験による延性破壊時のひずみを限界ひずみとする延性破壊限界ひずみ特性データを用いて伸びフランジ部の割れを評価するので、ひずみ勾配が大きい場合についても限界ひずみが過剰に大きくなることを抑制することができ、伸びフランジ割れの評価精度を向上させることができる。割れ発生時の割れ状態が縁割れのみである板状部材には、縁割れ限界ひずみ特性データ及び延性破壊限界ひずみ特性データを用いて、伸びフランジ割れの評価精度を向上させることができる。
【0013】
前記伸びフランジ割れ評価方法は、前記縁割れ限界ひずみ特性データ、前記内割れ限界ひずみ特性データ及び前記延性破壊限界ひずみ特性データを用いて、伸びフランジ部の割れを評価する。
【0014】
本構成により、縁割れ限界ひずみ特性データ、内割れ限界ひずみ特性データ及び延性破壊限界ひずみ特性データを用いて、伸びフランジ部の割れが評価されるので、割れ発生時の割れ状態が縁割れ又は内割れである板状部材について、伸びフランジ割れの評価精度を向上させることができる。
【0015】
前記伸びフランジ割れ評価方法は、板状部材から伸びフランジ部を有するプレス成形品をプレス成形するプレス成形解析時に、前記縁割れ限界ひずみ特性データ、前記内割れ限界ひずみ特性データ及び前記延性破壊限界ひずみ特性データのうち少なくとも前記縁割れ限界ひずみ特性データ及び前記延性破壊限界ひずみ特性データを用いて、伸びフランジ部の割れを評価する。
【0016】
本構成により、プレス成形解析時に、縁割れ限界ひずみ特性データ、内割れ限界ひずみ特性データ及び延性破壊限界ひずみ特性データのうち少なくとも縁割れ限界ひずみ特性データ及び延性破壊限界ひずみ特性データを用いて、伸びフランジ部の割れを評価するので、プレス成形解析時に、伸びフランジ部の端部について有限要素分割した解析モデルの各要素における最大主ひずみと該要素に伸びフランジ部の端部から離れる方向に隣接する要素とのひずみ勾配とを算出することで、プレス成形解析における伸びフランジ部の割れを精度良く評価することができる。
【0017】
前記伸びフランジ割れ評価方法は、前記伸びフランジ成形試験において前記板状部材の表面をカメラによって撮像し、前記カメラによって撮像された前記板状部材の表面の画像に基づいて、前記板状部材について前記伸びフランジ成形試験による限界ひずみとひずみ勾配とを算出することが好ましい。
【0018】
本構成により、カメラによって撮像された板状部材の表面の画像に基づいて、板状部材について伸びフランジ成形試験による限界ひずみとひずみ勾配とを算出するので、デジタル画像相関法(DIC:Digital Image Correlation)を用いて限界ひずみとひずみ勾配とを算出することができ、精度良く限界ひずみとひずみ勾配とを算出することが可能である。
【0019】
前記伸びフランジ割れ評価方法は、前記伸びフランジ成形試験において前記板状部材の表面をカメラによって撮像し、前記カメラによって撮像された前記板状部材の表面の画像に基づいて、前記板状部材について前記伸びフランジ成形試験による割れ発生時の割れ状態が縁割れであるか内割れであるかを判定することが好ましい。
【0020】
本構成により、カメラによって撮像された板状部材の表面の画像に基づいて、伸びフランジ成形試験による割れ発生時の割れ状態が縁割れであるか内割れであるかを判定するので、板状部材の表面の画像に基づいて割れ発生時の割れ起点を見つけることで、縁割れ又は内割れの割れ状態の判定精度を向上させて伸びフランジ割れの評価精度を向上させることができる。
【0021】
前記伸びフランジ割れ評価方法は、前記単軸引張変形試験において前記板状部材の表面をカメラによって撮像し、前記カメラによって撮像された前記板状部材の表面の画像に基づいて、前記板状部材について前記単軸引張変形試験による延性破壊時のひずみを算出することが好ましい。
【0022】
本構成により、カメラによって撮像された板状部材の表面の画像に基づいて、板状部材について単軸引張変形試験による延性破壊時のひずみを算出するので、デジタル画像相関法を用いて延性破壊時のひずみを算出することができ、精度良く延性破壊限界ひずみを算出することが可能である。カメラによって撮像された画像に基づいて、板状部材について伸びフランジ成形試験による限界ひずみとひずみ勾配とを算出するとともに、板状部材について単軸引張変形試験による延性破壊時のひずみを算出することで、デジタル画像相関法を用いて限界ひずみとひずみ勾配とを算出するとともに延性破壊限界ひずみを算出することができ、伸びフランジ割れの評価精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】伸びフランジ部を有するプレス成形品を示す図である。
図2】伸びフランジ部の縁割れ及び内割れを説明するための説明図である。
図3】本発明の実施形態に係る伸びフランジ割れの評価に用いる板状部材の限界ひずみとひずみ勾配との関係を示すグラフである。
図4】円筒穴広げ試験の概略構成図である。
図5】円筒穴広げ試験後の板状部材及びパンチを示す斜視図である。
図6】板状部材の穴部近傍の最大主ひずみを示す図である。
図7】板状部材の穴部中心からの距離と最大主ひずみとの関係を示すグラフである。
図8】板状部材の端面からの距離と最大主ひずみとの関係を示すグラフである。
図9】円錐穴広げ試験の概略構成図である。
図10】円錐穴広げ試験後の板状部材及びパンチを示す斜視図である。
図11】単軸引張試験の概略構成図である。
図12】板状部材の長手方向中央部の最大主ひずみを示す図である。
図13】板状部材の板幅方向位置と最大主ひずみとの関係を示すグラフである。
図14】伸びフランジ割れの評価方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
【0025】
図1は、伸びフランジ部を有するプレス成形品を示す図である。図1に示すプレス成形品1は、例えば引張強度が980MPa程度以上を有する高張力鋼板などの金属製の板状部材をプレス成形して成形されるプレス成形品1である。プレス成形品1として、車両の車体側面部を構成して前後のドア開口部の間に配設されるセンターピラーアウタ1を示している。
【0026】
センターピラーアウタ1は、車体上下方向に延びる中央部2と、車体前後方向に延びてルーフサイドレールに取り付けられる上端部3と、車体前後方向に延びてサイドシルに取り付けられる下端部4とを有している。センターピラーアウタ1の中央部2は、底面部5と、両側の側面部6と、両側のフランジ部7とを備えて断面略ハット状に形成されている。
【0027】
センターピラーアウタ1のフランジ部7は、中央部2から上端部3及び下端部4までそれぞれ延びるように設けられ、中央部2と上端部3及び下端部4との接続部分にそれぞれ、プレス成形時に延びフランジ成形される伸びフランジ部8を有している。伸びフランジ部8は、伸びフランジ成形されるときにひずみが大きくなって割れが発生し易くなる。
【0028】
図2は、伸びフランジ部の縁割れ及び内割れを説明するための説明図である。図2は、図1に示すプレス成形品の一部を拡大して示すと共に伸びフランジ部8の端部に発生し得る割れを示している。図2(a)では、白矢印で示す割れ発生位置が伸びフランジ部8の端面である縁割れを示し、図2(b)では、白矢印で示す割れ発生位置が伸びフランジ部8の端面より内部である内割れを示している。図2(a)及び図2(b)に示すように、伸びフランジ部8には、縁割れ又は内割れである割れが発生し得る。
【0029】
本実施形態では、板状部材からプレス成形品をプレス成形する際に、プレス成形解析に用いる板状部材の破断限界特性として、板状部材の限界ひずみとひずみ勾配との関係を示す限界ひずみ特性データを、伸びフランジ成形試験による実際の割れの状態に応じて算出するとともに、単軸引張変形試験による延性破壊限界ひずみを算出して用いることで、プレス成形解析によってプレス成形品の伸びフランジ割れの評価精度を向上させる。伸びフランジ成形試験は、板状部材の端部に割れを発生させるように板状部材を成形して限界ひずみを算出する伸びフランジ成形試験である。単軸引張変形試験は、板状部材を単軸引張変形させて延性破壊時のひずみを算出する単軸引張変形試験である。
【0030】
図3は、本発明の実施形態に係る伸びフランジ割れの評価に用いる板状部材の限界ひずみとひずみ勾配との関係を示すグラフである。本実施形態では、伸びフランジ成形試験に基づいて縁割れにおける板状部材の限界ひずみとひずみ勾配との関係を示す縁割れ限界ひずみ特性データを算出し、伸びフランジ成形試験に基づいて内割れにおける板状部材の限界ひずみとひずみ勾配との関係を示す内割れ限界ひずみ特性データを算出し、単軸引張変形試験に基づいて延性破壊時のひずみを限界ひずみとする延性破壊限界ひずみ特性データを算出し、図3に示すように、板状部材の破断限界特性として、縁割れ限界ひずみ特性データL1aと内割れ限界ひずみ特性データL1bと延性破壊限界ひずみ特性データL1cとを用いて、伸びフランジ部の割れを評価する。
【0031】
本実施形態では、伸びフランジ成形試験として、これに限定されるものではないが、穴広げ試験を用い、単軸引張変形試験として、これに限定されるものではないが、単軸引張試験を用いた。穴広げ試験は、穴部を有する板状部材を用い、穴部にパンチを、穴部の端部に発生する割れが厚さ方向に貫通するまで押し込むことにより行った。単軸引張試験は、穴広げ試験に用いた板状部材と同一材料の引張試験片である板状部材を用い、板状部材が破断するまで板状部材の両端部に引張荷重を加えることにより行った。板状部材としては、材料Aからなる引張強度が980MPa程度以上を有する高張力鋼板を用いた。
【0032】
図4は、円筒穴広げ試験の概略構成図である。伸びフランジ割れの評価では、複数の板状部材についてそれぞれ、穴部を有する板状部材を用いて穴広げ試験を行い、穴広げ試験による割れの状態を判定するとともに板状部材の限界ひずみとひずみ勾配との関係を示す限界ひずみ特性データを取得する。
【0033】
図4に示すように、穴広げ試験装置としての円筒穴広げ試験装置10は、穴部21を有する板状部材20をプレス成形して穴部近傍に割れを発生させるプレス工具11を備えている。プレス工具11は、板状部材20を挟持するダイ12及びブランクホルダ13と、板状部材20をプレス成形するパンチ14とを備えている。
【0034】
穴広げ試験では、円形状に形成された穴部21を有する板状部材20を所定押付力でダイ12及びブランクホルダ13に挟持した状態で、穴部近傍に割れが発生するまでパンチ14を移動させる。円筒穴広げ試験では、先端部が円形状に形成された円筒パンチ14が用いられ、円筒パンチ14は、板状部材20の穴部21と中心軸が一致するように配置されている。
【0035】
穴広げ試験装置10は、ブランクホルダ13及びパンチ14を移動させる移動機構(不図示)を備えている。穴広げ試験装置10には、制御ユニット30が備えられ、制御ユニット30は、前記移動機構の作動を制御するようになっている。
【0036】
穴広げ試験装置10にはまた、板状部材20の穴部近傍の表面を撮像する撮像装置としてのカメラ35が設けられ、板状部材20の表面を撮像するようにパンチ14とは反対側に板状部材20の上方に2つのカメラ35が配置されている。2つのカメラ35は、例えばパンチ14と中心軸が一致する穴部21の中心軸に対して対称位置に配置されている。
【0037】
2つのカメラ35によって撮像された板状部材20の表面の画像は、制御ユニット30に入力されるようになっている。制御ユニット30は、カメラ35によって撮像された画像をメモリなどの記憶装置に記憶させるとともに、デジタル画像相関法を用いた解析によって、板状部材20の穴部近傍における表面全体について最大主ひずみを算出するようになっている。
【0038】
制御ユニット30は、穴広げ試験前に板状部材20の表面にスプレーによって塗布された塗料ドットパターンを2つのカメラ35によって撮像し、撮像された前後の画像に基づいてドットパターンの位置関係の変化から板状部材20の表面の最大主ひずみを算出するようになっている。制御ユニット30はまた、カメラ35によって撮像された画像及び板状部材20の穴部近傍の最大主ひずみをディスプレイなどの表示装置(不図示)に表示するようになっている。
【0039】
円筒穴広げ試験では、これに限定されるものではないが、ダイ内径D1を53.8mmとし、ダイ肩半径R1を5mmとしたダイ12を用い、パンチ外径D2を50mmとし、パンチ肩半径R2を10mmとしたパンチ14を用いた。板状部材20の厚さtは、1.6mmとし、穴部21の初期穴径D3は、20mmなどの種々の穴径を用いた。板状部材20の穴部21は、ダイ及びブランクホルダと打ち抜きパンチとを用いてクリアランスを板厚の12%として打ち抜き加工した。
【0040】
図5は、円筒穴広げ試験後の板状部材及びパンチを示す斜視図である。図5では、板状部材20を板厚方向に貫通する割れが発生するまでパンチ14を移動させた穴広げ試験後の板状部材20及びパンチ14を示している。図5に示すように、穴広げ試験後にはパンチ14によって板状部材20の穴部近傍が変形され、板状部材20の穴部近傍に割れ22が発生する。
【0041】
本実施形態では、穴広げ試験時にカメラ35によって板状部材20の穴部近傍の表面の画像を撮像し、撮像された板状部材20の穴部近傍の表面の画像に基づいて、作業者などが板状部材20の端部に発生する割れ22の割れ状態を判定する。割れ状態として、割れの起点である割れ発生位置が穴部21の端面である割れ発生位置C1である場合には縁割れであると判定し、割れの起点である割れ発生位置が穴部21の端面から離れた板状部材20の内部である割れ発生位置C2である場合には内割れであると判定する。
【0042】
図6は、板状部材の穴部近傍の最大主ひずみを示す図である。図6では、穴広げ試験後における板状部材20の穴部近傍の最大主ひずみを表示している。本実施形態では、穴広げ試験時にカメラ35によって板状部材20の穴部近傍の表面の画像を撮像し、撮像された板状部材20の穴部近傍の表面の画像に基づいて、デジタル画像相関法を用いて板状部材20の穴部近傍の最大主ひずみを算出する。
【0043】
穴広げ試験では、板状部材20の穴部近傍において穴部21の周方向に最大主ひずみが発生する。図6に示すように、板状部材20の穴部近傍の最大主ひずみは、板状部材20の端面である穴部21の端面から板状部材20の内部である穴部21の径方向外側に離れるにつれて最大主ひずみが小さくなっている。穴部21の端部における周方向2ヵ所に割れが発生した板状部材20では、図6に示すように、穴部21の端部4ヵ所に最大主ひずみが大きい部分が存在し、穴部21から径方向に離れるにつれて最大主ひずみが小さくなっていることが分かる。
【0044】
図7は、板状部材の穴部中心からの距離と最大主ひずみとの関係を示すグラフである。図7では、板状部材20の穴部近傍の表面全体について算出した最大主ひずみが、穴部21の中心からの距離に応じて黒丸印を用いてプロットされている。図7に示すように、穴部21近傍の端部の周方向において算出された最大主ひずみは比較的大きく、穴部21の端面から離れた板状部材20の内部では周方向において算出された最大主ひずみは全体として穴部21から径方向に離れるにつれて小さくなる最大主ひずみ分布を有している。
【0045】
図8は、板状部材の端面からの距離と最大主ひずみとの関係を示すグラフである。図8では、板状部材20の端面として穴部21の端面からの距離を横軸にとり、最大主ひずみを縦軸にとって表示し、最大主ひずみを黒四角として示している。板状部材20の端面である穴部21の端面から板状部材20の内部方向である径方向(前記端面の接線直交方向)に所定距離における最大主ひずみとして、板状部材20の穴部21の端面から径方向外側に所定距離にある周方向全ての最大主ひずみの平均値を最大主ひずみとして算出する。
【0046】
図8に示すように、穴広げ試験による板状部材20の最大主ひずみは、板状部材20の端面から離れるにつれて小さくなっている。本実施形態では、板状部材20の端面における最大主ひずみε0を算出すると共に、板状部材20の穴部近傍のひずみ勾配αとして板状部材20の端面から離れた位置における最大主ひずみのひずみ勾配αを算出する。
【0047】
ひずみ勾配αとして、板状部材20の端面からの距離がd1とd2の間における最大主ひずみの傾きの絶対値をひずみ勾配として算出した。図8に示すように、板状部材20の端面からの距離がd1及びd2における最大主ひずみε1及びε2を結ぶ直線の傾き[(ε2-ε1)/(d2-d1)]を算出し、直線の傾きの絶対値をひずみ勾配αとして算出した。なお、ひずみ勾配αは、板状部材20の端面から離れた他の所定範囲における最大主ひずみの傾きから算出するようにしてもよい。
【0048】
このように、円筒穴広げ試験を行い、割れ発生時の割れの状態として縁割れ又は内割れを判定するとともに、割れ発生時における板状部材20の穴部21の端面における最大主ひずみε0を板状部材20の限界ひずみε0として算出し、且つ板状部材20の穴部近傍のひずみ勾配αを算出する。
【0049】
複数の板状部材20について、穴径などを変更して円筒穴広げ試験を行い、割れ発生時の割れの状態として縁割れ又は内割れを判定するとともに、割れ発生時における板状部材20の穴部21の端面における最大主ひずみを板状部材20の限界ひずみε0として算出し、且つ板状部材20の穴部近傍のひずみ勾配αを算出する。
【0050】
図9は、円錐穴広げ試験の概略構成図である。本実施形態では、前述した穴広げ試験装置10において円筒パンチに代えて円錐パンチを用い、穴広げ試験として、円筒穴広げ試験に加えて円錐穴広げ試験を行い、円錐穴広げ試験についても、複数の板状部材20についてそれぞれ、穴広げ試験による割れの状態を判定するとともに、割れ発生時における板状部材の穴部の端面における最大主ひずみを板状部材の限界ひずみとして算出し、且つ板状部材の穴部近傍のひずみ勾配を算出する。
【0051】
穴広げ試験装置としての円錐穴広げ試験装置は、パンチを除いて、円筒穴広げ試験装置10と同様に構成されている。円錐穴広げ試験装置10は、図9に示すように、穴部21を有する板状部材20をプレス成形して穴部近傍に割れを発生させるプレス工具11を備えている。プレス工具11は、板状部材20を挟持するダイ12及びブランクホルダ13と、板状部材20をプレス成形するパンチ15とを備えている。円錐穴広げ試験では、先端部が円錐状に形成された円錐パンチ15が用いられ、円錐パンチ15は、板状部材20の穴部21と中心軸が一致するように配置されている。
【0052】
円錐穴広げ試験では、これに限定されるものではないが、ダイ内径D1を53.8mmとし、ダイ肩半径R1を5mmとしたダイ12を用い、パンチ外径D2を50mmとし、パンチ頂角θ1を120度としたパンチ15を用いた。板状部材20の厚さtは、1.6mmとし、穴部21の初期穴径D3は、20mmなどの種々の穴径を用いた。板状部材20の穴部21は、ダイ及びブランクホルダと打ち抜きパンチとを用いてクリアランスを板厚の12%として打ち抜き加工した。
【0053】
図10は、円錐穴広げ試験後の板状部材及びパンチを示す斜視図である。図10では、板状部材20を板厚方向に貫通する割れが発生するまでパンチ15を移動させた穴広げ試験後の板状部材20及びパンチ15を示している。図10に示すように、穴広げ試験後にはパンチ15によって板状部材20の穴部近傍が変形され、板状部材20の穴部近傍に割れ22が発生する。
【0054】
円錐穴広げ試験についても、穴広げ試験時にカメラ35によって板状部材20の穴部近傍の表面の画像を撮像し、撮像された板状部材20の穴部近傍の表面の画像に基づいて、作業者などが板状部材20の端部に発生する割れ22の割れ状態を判定する。割れ状態として、割れの起点である割れ発生位置が穴部21の端面である割れ発生位置C1である場合には縁割れであると判定し、割れの起点である割れ発生位置が穴部21の端面から離れた板状部材20の内部である割れ発生位置C2である場合には内割れであると判定する。
【0055】
円錐穴広げ試験についても、円筒穴広げ試験と同様にして、割れ発生時の割れの状態として縁割れ又は内割れを判定するとともに、板状部材20の端面である穴部21の端面から板状部材20の内部方向である径方向(前記端面の接線直交方向)に所定距離における最大主ひずみとして、板状部材20の穴部21の端面から径方向外側に所定距離にある周方向全ての最大主ひずみの平均値を最大主ひずみとして算出する。
【0056】
そして、板状部材20の端面における最大主ひずみε0を算出すると共に、板状部材20の穴部近傍のひずみ勾配αとして板状部材20の端面から離れた位置における最大主ひずみのひずみ勾配αを算出する。円錐穴広げ試験についても、ひずみ勾配αとして、板状部材20の端面からの距離がd1とd2の間における最大主ひずみの傾きの絶対値をひずみ勾配として算出した。なお、ひずみ勾配αは、板状部材20の端面から離れた他の所定範囲における最大主ひずみの傾きから算出するようにしてもよい。
【0057】
このように、円錐穴広げ試験を行い、割れ発生時の割れの状態として縁割れ又は内割れを判定するとともに、割れ発生時における板状部材20の穴部21の端面における最大主ひずみε0を板状部材20の限界ひずみε0として算出し、且つ板状部材20の穴部近傍のひずみ勾配αを算出する。
【0058】
複数の板状部材20について、穴径などを変更して円錐穴広げ試験を行い、割れ発生時の割れの状態として縁割れ又は内割れを判定するとともに、割れ発生時における板状部材20の穴部21の端面における最大主ひずみε0を板状部材20の限界ひずみε0として算出し、且つ板状部材20の穴部近傍のひずみ勾配αを算出する。
【0059】
図3では、ひずみ勾配αを横軸にとり、板状部材20の端面における最大主ひずみε0を限界ひずみとして縦軸にとって表している。円筒穴広げ試験及び円錐穴広げ試験による限界ひずみとしての最大主ひずみとひずみ勾配との算出結果から、ひずみ勾配が相対的に大きい場合は板状部材20に縁割れが発生し、ひずみ勾配が相対的に小さい場合は板状部材20に内割れが発生していることが分かった。
【0060】
本実施形態では、穴広げ試験による最大主ひずみとひずみ勾配との算出結果から、縁割れである場合についてひずみ勾配と最大主ひずみとの関係を示した一次関数の近似式を既知の最小二乗法によって算出し、縁割れにおける板状部材20の限界ひずみとひずみ勾配との関係を示す縁割れ限界ひずみ特性データL1aを算出する。板状部材20の限界ひずみとひずみ勾配との関係を示す縁割れ限界ひずみ特性データL1aは、ひずみ勾配が大きいほど限界ひずみが大きくなる限界ひずみ特性を有している。
【0061】
また、穴広げ試験による最大主ひずみとひずみ勾配との算出結果から、内割れである場合についてひずみ勾配と最大主ひずみとの関係を示した二次関数の近似式を既知の最小二乗法によって算出し、内割れにおける板状部材の限界ひずみとひずみ勾配との関係を示す内割れ限界ひずみ特性データL1bを算出する。板状部材20の限界ひずみとひずみ勾配との関係を示す内割れ限界ひずみ特性データL1bは、ひずみ勾配が大きいほど限界ひずみが大きくなる限界ひずみ特性を有している。
【0062】
図11は、単軸引張試験の概略構成図である。伸びフランジ割れの評価ではまた、穴広げ試験に用いた板状部材と同一材料の板状部材について、JIS Z2241における5号試験片である板状部材を用いて単軸引張試験を行い、板状部材について単軸引張変形させて延性破壊時のひずみをひずみ勾配に関わらず限界ひずみとする延性破壊限界ひずみ特性データを取得する。
【0063】
図11に示すように、引張試験装置40は、引張試験片である板状部材50の下端部及び上端部をそれぞれ把持する下側把持部41及び上側把持部42を備えている。板状部材50は、長手方向中央部に所定板幅及び所定板厚を有する平行部51を有している。平行部51は、板幅方向両側の端面が機械加工などの同一の加工によって形成されている。板状部材50として、これに限定されるものではないが、板厚1.6mmのものを用いた。
【0064】
単軸引張試験では、板状部材50が塑性変形後に破断するまで板状部材50の長手方向中央部に引張荷重を加えるように下側把持部41及び上側把持部42を互いに離間する方向(白矢印で示す方向)に移動させる。引張試験装置40は、下側把持部41及び上側把持部42を移動させる移動機構(不図示)を備えるとともに、前記移動機構の作動を制御する制御ユニット60を備えている。
【0065】
引張試験装置40にはまた、板状部材50の長手方向中央部の表面を撮像する撮像装置としてのカメラ45が設けられ、板状部材50の表面を撮像するように板状部材50の側方に2つのカメラ45が配置されている。2つのカメラ45は、例えば板状部材50の長手方向に直交する方向に対して上下方向に対称位置に配置されている。
【0066】
2つのカメラ45によって撮像された板状部材50の表面の画像は、制御ユニット60に入力されるようになっている。制御ユニット60は、カメラ45によって撮像された画像をメモリなどの記憶装置に記憶させるとともに、デジタル画像相関法を用いた解析によって、板状部材50の長手方向中央部における表面全体について最大主ひずみを算出するようになっている。
【0067】
単軸引張試験についても、制御ユニット60は、引張試験前に板状部材50の表面にスプレーによって塗布された塗料ドットパターンを2つのカメラ45によって撮像し、撮像された前後の画像に基づいてドットパターンの位置関係の変化から板状部材50の表面の最大主ひずみを算出するようになっている。制御ユニット60はまた、カメラ45によって撮像された画像及び板状部材50の長手方向中央部の最大主ひずみをディスプレイなどの表示装置(不図示)に表示するようになっている。
【0068】
図12は、板状部材の長手方向中央部の最大主ひずみを示す図である。図12では、引張試験における破断直前の板状部材50の長手方向中央部の最大主ひずみを表示している。本実施形態では、引張試験時にカメラ45によって板状部材50の長手方向中央部の表面の画像を撮像し、撮像された板状部材50の長手方向中央部の画像に基づいて、デジタル画像相関法を用いて板状部材50の長手方向中央部の最大主ひずみを算出する。
【0069】
引張試験では、板状部材50の長手方向中央部の中心側に板状部材50の長手方向に最大主ひずみが発生する。図12に示すように、板状部材50の長手方向中央部の最大主ひずみは、板状部材50の長手方向中央部の中心側から長手方向に離れるにつれて小さくなるとともに板状部材50の長手方向中央部の中心側から板幅方向に離れるにつれて小さくなっている。
【0070】
図13は、板状部材の板幅方向位置と最大主ひずみとの関係を示すグラフである。図13では、図12のV-V線に沿った板状部材50の表面について、板状部材50の板幅方向位置を横軸にとり、板状部材50の最大主ひずみを縦軸にとって表示している。図13に示すように、板状部材50の板幅方向中央側に板幅方向位置P10及びP11の間が延性破壊して割れが発生している。
【0071】
図13に示すように、板状部材50が単軸引張変形して延性破壊するまで引張試験を行ったとき、板状部材50の延性破壊時の最大主ひずみは、板状部材50の長手方向中央部の板幅方向中央側(板幅方向位置P10)において最大値εmaxをとり、板幅方向一端側及び他端側に向かうにつれて小さくなる最大主ひずみ分布を有している。
【0072】
本実施形態では、単軸引張試験による板状部材50の延性破壊時の最大主ひずみの最大値εmaxを単軸引張試験による延性破壊時のひずみとして取得する。そして、板状部材50について単軸引張試験による延性破壊時のひずみを、ひずみ勾配に関わらず限界ひずみとする延性破壊限界ひずみ特性データL1cを算出する。図3に示すように、延性破壊限界ひずみ特性データL1cは、ひずみ勾配に関わらず板状部材50の材料に応じて限界ひずみが一定である限界ひずみ特性を有している。
【0073】
本実施形態では、伸びフランジ割れの評価において、板状部材20の限界ひずみ特性データL1として、縁割れ限界ひずみ特性データL1aと内割れ限界ひずみ特性データL1bと延性破壊限界ひずみ特性データL1cとを用いる。ひずみ勾配が所定値P1以下である場合、縁割れ限界ひずみデータL1a及び延性破壊限界ひずみ特性データL1cより限界ひずみが小さい内割れ限界ひずみ特性データL1bを用い、ひずみ勾配が所定値P1より大きく所定値P2以下である場合、内割れ限界ひずみ特性データL1b及び延性破壊限界ひずみ特性データL1cより限界ひずみが小さい縁割れ限界ひずみデータL1aを用い、ひずみ勾配が所定値P2より大きい場合、縁割れ限界ひずみデータL1a及び内割れ限界ひずみ特性データL1bより限界ひずみが小さい延性破壊限界ひずみ特性データL1cを用いる。
【0074】
板状部材から伸びフランジ部を有するプレス成形品をプレス成形するプレス成形解析時に、縁割れ限界ひずみ特性データL1aと内割れ限界ひずみ特性データL1bと延性破壊限界ひずみ特性データL1cとを用いて、伸びフランジ部の割れを評価する。プレス成形解析時に、伸びフランジ部の端部について有限要素分割した解析モデルの各要素における最大主ひずみと該要素に伸びフランジ部の端部から離れる方向に隣接する要素とのひずみ勾配とを算出し、各要素において所定ひずみ勾配における最大主ひずみが、縁割れ限界ひずみ特性データL1aと内割れ限界ひずみ特性データL1bと延性破壊限界ひずみ特性データL1cに基づく限界ひずみ特性データL1の限界ひずみ以上になると伸びフランジ割れが発生すると評価する。
【0075】
伸びフランジ成形試験として、複数の板状部材についてそれぞれ板状部材の端部に割れを発生させるように成形して限界ひずみを算出する他の伸びフランジ成形試験を用いるようにしてもよい。他の伸びフランジ成形試験を用いる場合についても、割れ発生時の割れ状態が縁割れであるか内割れであるかを判定するとともに伸びフランジ成形試験による限界ひずみと板状部材の端面から板状部材の内部方向(前記端面の接線垂直方向)におけるひずみ勾配とを算出することで、縁割れ限界ひずみ特性データL1aと内割れ限界ひずみ特性データL1bを算出する。伸びフランジ成形試験として、複数の伸びフランジ成形試験を用いることも可能である。
【0076】
伸びフランジ成形試験として、ひずみ勾配が非常に小さい場合について板状部材の限界ひずみとひずみ勾配との関係を示す特性データを算出するため、複数の板状部材についてそれぞれ板状部材の端部に割れを発生させるように板状部材を成形して限界ひずみを算出する片側打ち抜き引張試験を用いることができる。
【0077】
片側打ち抜き引張試験は、前述した単軸引張試験に用いた引張試験装置と同様の引張試験装置を用いて行うことができる。片側打ち抜き引張試験についても、JIS Z2241における5号試験片である板状部材として、長手方向中央部に所定板幅及び所定板厚を有する平行部を有する板状部材を用いることができる。片側打ち抜き引張試験では、所定打ち抜き端面形状を付与するように平行部の板幅方向一方側の端面が打ち抜き加工によって成形し、平行部の板幅方向他方側の端面が打ち抜き加工とは異なる機械加工などによって成形する。打ち抜き加工として、例えばダイ及びブランクホルダと打ち抜きパンチとを用いてクリアランスを板厚の12%として成形することができる。
【0078】
伸びフランジ成形試験として、片側打ち抜き引張試験を用いる場合、板状部材を板厚方向に貫通する割れが発生するまで引張試験を行うことで、板状部材の平行部の板幅方向の端部近傍に割れが発生する。試験時にはカメラによって板状部材の平行部の表面の画像を撮像し、撮像された板状部材の平行部の表面の画像に基づいて、作業者などが板状部材の端部に発生する割れの割れ状態を判定する。
【0079】
片側打ち抜き引張試験では、板状部材の端面における最大主ひずみε0を算出すると共に、板状部材の端部近傍のひずみ勾配αとして板状部材の端面から前記端面から板状部材の内部方向(前記端面の接線垂直方向)に離れた位置における最大主ひずみのひずみ勾配αを算出する。
【0080】
伸びフランジ成形試験として、片側打ち抜き引張試験を用い、複数の板状部材のそれぞれについて伸びフランジ成形試験による割れ発生時の割れ状態が縁割れであるか内割れであるかを判定するとともに、伸びフランジ成形試験による限界ひずみと板状部材の端面から板状部材の内部方向(前記端面の接線垂直方向)におけるひずみ勾配とを算出することができる。
【0081】
板状部材の限界ひずみとひずみ勾配との関係を示す限界ひずみ特性データL1として、実際の伸びフランジ成形試験による割れの状態である縁割れ又は内割れに応じて縁割れ限界ひずみ特性データL1aと内割れ限界ひずみ特性データL1bとを算出し、縁割れ限界ひずみ特性データL1a及び内割れ限界ひずみ特性データL1bを用いて伸びフランジ割れを評価するので、縁割れのみを考慮した限界ひずみ特性データを用いる場合に比して、伸びフランジ割れの評価精度を向上させることができる。さらに、単軸引張試験による延性破壊時のひずみを限界ひずみとする延性破壊限界ひずみ特性データL1cを用いて伸びフランジ部の割れを評価するので、ひずみ勾配が大きい場合についても限界ひずみが過剰に大きくなることを抑制することができ、伸びフランジ割れの評価精度を向上させることができる。
【0082】
図3に示すように、板状部材20の限界ひずみとひずみ勾配との関係を示す限界ひずみ特性データL1として、縁割れのみを考慮した限界ひずみ特性データL1aのみを用いる場合、ひずみ勾配が所定値P1以下である場合には内割れ限界ひずみ特性データL1bより限界ひずみが大きく、プレス成形解析によって伸びフランジ割れが発生しないと評価されても実際にプレス成形したときに伸びフランジ割れが発生するおそれがある。
【0083】
また、縁割れのみを考慮した限界ひずみ特性データL1aのみを用いる場合、ひずみ勾配が所定値P2より大きい場合には延性破壊限界ひずみ特性データL1cより限界ひずみが大きく、プレス成形解析によって伸びフランジ割れが発生しないと評価されても実際にプレス成形したときに伸びフランジ割れが発生するおそれがある。
【0084】
本実施形態では、縁割れ限界ひずみ特性データL1aと内割れ限界ひずみ特性データL1bと延性破壊限界ひずみ特性データL1cとを用いるので、伸びフランジ割れの評価精度を向上させることができる。
【0085】
図14は、伸びフランジ割れの評価方法を示すフローチャートである。図14に示すように、プレス成形品1の伸びフランジ部8の割れを評価する際には、先ず、穴部21を有する板状部材20について伸びフランジ成形試験を行う(ステップS1)。伸びフランジ成形試験時には、伸びフランジ成形試験による割れ発生時の割れ状態を判定し、割れ状態が縁割れであるか内割れであるかを判定する(ステップS2)。伸びフランジ成形試験として穴広げ試験を行う場合、穴広げ試験時の割れ状態が縁割れであるか内割れであるかを判定する。
【0086】
伸びフランジ成形試験時にはまた、伸びフランジ成形試験による限界ひずみと板状部材の端面から板状部材の内部方向におけるひずみ勾配とを算出する(ステップS3)。伸びフランジ成形試験として穴広げ試験を行う場合、前記穴部の径方向におけるひずみ勾配とを算出する。穴広げ試験時に穴部21の端部に割れが発生すると、カメラ35によって撮像された板状部材20の表面の画像に基づいて、板状部材20の穴部近傍の表面全体について板状部材20の最大主ひずみを算出する。前述したように、板状部材20の表面全体について算出された板状部材20の最大主ひずみから、板状部材20の限界ひずみとひずみ勾配とを算出する。
【0087】
複数の板状部材20を用いて穴広げ試験として円筒穴広げ試験及び円錐穴広げ試験を行い、各穴広げ試験についてステップS1~ステップS3を繰り返し、複数の板状部材20についてそれぞれ、割れ状態を判定するとともに、穴広げ試験による限界ひずみとひずみ勾配とを算出する。
【0088】
次に、伸びフランジ成形試験による割れ状態が縁割れである場合について、割れ状態が縁割れであるときの各板状部材20の限界ひずみとひずみ勾配とに基づいて、縁割れにおける板状部材20の限界ひずみとひずみ勾配との関係を示す縁割れ限界ひずみ特性データL1aを算出する(ステップS4)。
【0089】
伸びフランジ成形試験による割れ状態が内割れである場合についても、割れ状態が内割れであるときの各板状部材20の限界ひずみとひずみ勾配とに基づいて、内割れにおける板状部材20の限界ひずみとひずみ勾配との関係を示す内割れ限界ひずみ特性データL1bを算出する(ステップS5)。
【0090】
ステップS1~S5において、伸びフランジ成形試験として、穴広げ試験などと共に、ひずみ勾配が非常に小さい場合について板状部材の限界ひずみとひずみ勾配との関係を示す特性データを算出するため、片側打ち抜き引張試験を行うようにしてもよい。
【0091】
片側打ち抜き引張試験を行う場合についても、片側打ち抜き引張試験を行い(ステップS1)、割れ発生時の割れ状態を判定し(ステップS2)、限界ひずみと板状部材の端面から板状部材の内部方向におけるひずみ勾配とを算出し(ステップS3)、穴広げ試験などの他の伸びフランジ成形試験などと共に、縁割れにおける板状部材の限界ひずみとひずみ勾配との関係を示す縁割れ限界ひずみ特性データL1aを算出し(ステップS4)、内割れにおける板状部材の限界ひずみとひずみ勾配との関係を示す内割れ限界ひずみ特性データL1bを算出する(ステップS5)。
【0092】
伸びフランジ部8の割れを評価する際にはまた、伸びフランジ成形試験に用いた板状部材20と同一材料の板状部材50について単軸引張変形試験として単軸引張試験を行う(ステップS6)。単軸引張試験時には板状部材50の最大主ひずみを算出する。引張試験時に板状部材50が延性破壊して割れが発生するまで、カメラ45によって撮像された板状部材50の長手方向中央部の画像に基づいて、板状部材50の長手方向中央部の最大主ひずみを算出する。
【0093】
板状部材50が延性破壊して割れが発生すると、板状部材50の破断時の最大主ひずみの最大値εmaxを引張試験による延性破壊時のひずみとし、板状部材50について引張試験による延性破壊時のひずみを、ひずみ勾配に関わらず限界ひずみとする延性破壊限界ひずみ特性データL1cを算出する(ステップS7)。
【0094】
次に、縁割れ限界ひずみ特性データL1a及び内割れ限界ひずみ特性データL1bと延性破壊限界ひずみ特性データL1cとに基づいて、板状部材の限界ひずみとひずみ勾配との関係を示す限界ひずみ特性データL1を算出する(ステップS8)。限界ひずみ特性データL1は、縁割れ限界ひずみ特性データL1a、内割れ限界ひずみ特性データL1b及び延性破壊限界ひずみ特性データL1cのうち所定ひずみ勾配に対する限界ひずみが小さい限界ひずみ特性データによって形成される。
【0095】
限界ひずみ特性データL1は、ひずみ勾配が所定値P1以下である場合は内割れ限界ひずみ特性データL1bによって形成され、ひずみ勾配が所定値P1より大きく所定値P2以下である場合は縁割れ限界ひずみ特性データL1bによって形成され、ひずみ勾配が所定値P2より大きい場合は延性破壊限界ひずみ特性データL1cによって形成される。
【0096】
そして、このようにして算出された板状部材の限界ひずみ特性データL1を用い、板状部材から伸びフランジ部を有するプレス成形品を成形するプレス成形解析を行い、伸びフランジ部の端部について有限要素分割した解析モデルの各要素における最大主ひずみと該要素に伸びフランジ部の端部から離れる方向に隣接する要素とのひずみ勾配とを算出し、限界ひずみ特性データL1以上である場合には割れが発生すると評価することで、伸びフランジ割れを評価する(ステップS9)。
【0097】
本実施形態ではまた、板状部材として、前述した材料Aからなる引張強度が980MPa程度以上を有する高張力鋼板に代えて、材料Aと同様の980MPa級高張力鋼板において添加成分を変更した材料を用いた材料B及び材料Cからなる板状部材についても同様に、板状部材20の限界ひずみとひずみ勾配との関係を示す限界ひずみ特性データを算出した。
【0098】
材料B及び材料Cを用いた限界ひずみ特性データについてもそれぞれ、材料Aを用いた限界ひずみ特性データL1と同様に、縁割れ限界ひずみデータと内割れ限界ひずみ特性データと延性破壊限界ひずみ特性データとによって形成された。材料B及び材料Cを用いた限界ひずみ特性データについてもそれぞれ、材料Aを用いた板状部材と同様に、前記限界ひずみ特性データを用いて板状部材から伸びフランジ部を有するプレス成形品を成形するプレス成形解析を行い、伸びフランジ割れを評価することができる。
【0099】
このように、板状部材の限界ひずみとひずみ勾配との関係を示す限界ひずみ特性データとして、実際の伸びフランジ成形試験による割れの状態である内割れ又は縁割れに応じて内割れの限界ひずみ特性データ及び縁割れの限界ひずみ特性データを算出し、内割れ及び縁割れの限界ひずみ特性データを用いて伸びフランジ割れを評価するので、縁割れのみを考慮した限界ひずみ特性データを用いる場合に比して、伸びフランジ割れの評価精度を向上させることができる。さらに、単軸引張変形試験による延性破壊時のひずみを限界ひずみとする延性破壊限界ひずみ特性データを用いて伸びフランジ部の割れを評価するので、ひずみ勾配が大きい場合についても限界ひずみが過剰に大きくなることを抑制することができ、伸びフランジ割れの評価精度を向上させることができる。
【0100】
本実施形態では、穴広げ試験として円筒穴広げ試験及び円錐穴広げ試験を用いて内割れの限界ひずみ特性データ及び縁割れの限界ひずみ特性データを取得しているが、先端部が球頭状に形成された球頭パンチを用いた球頭穴広げ試験を用いて、割れの状態を判定するとともに板状部材の限界ひずみとひずみ勾配との関係を示す限界ひずみ特性データを取得することも可能である。
【0101】
内割れ限界ひずみ特性データL1bとして、穴広げ試験による最大主ひずみとひずみ勾配との算出結果から、内割れである場合についてひずみ勾配と最大主ひずみとの関係を示した二次関数の近似式を算出しているが、一次関数の近似式を算出して内割れ限界ひずみ特性データを算出するようにしてもよい。
【0102】
本実施形態では、板状部材の材料として、980MPa級高張力鋼板を用いているが、他の鋼板やアルミニウム合金板などの他の金属製の板材についても同様に適用可能である。また、伸びフランジ成形試験について、同一条件において、複数の板状部材を用いて複数回の伸びフランジ成形試験を行い、複数回の伸びフランジ成形試験の最大主ひずみの平均値を用いるようにすることも可能である。
【0103】
限界ひずみ特性データL1として、伸びフランジ成形試験による割れ発生時の割れ状態が縁割れ又は内割れである場合には、縁割れ限界ひずみデータと内割れ限界ひずみ特性データと延性破壊限界ひずみ特性データとによって形成された限界ひずみ特性データが用いられているが、伸びフランジ成形試験による割れ発生時の割れ状態が縁割れのみである場合には、縁割れ限界ひずみデータと延性破壊限界ひずみ特性データとが用いられる。限界ひずみ特性データL1として、縁割れ限界ひずみ特性データ、内割れ限界ひずみ特性データ及び延性破壊限界ひずみ特性データのうち少なくとも縁割れ限界ひずみ特性データ及び延性破壊限界ひずみ特性データが用いられる。
【0104】
本実施形態では、伸びフランジ成形試験において割れが発生したときの最大主ひずみを用いて限界ひずみと最大ひずみのひずみ勾配であるひずみ勾配との関係を示す限界ひずみ特性データを算出しているが、伸びフランジ成形試験において割れが発生する直前における最大主ひずみを用いて限界ひずみとひずみ勾配との関係を示す限界ひずみ特性データを算出するようにすることも可能である。
【0105】
本実施形態では、伸びフランジ成形試験において、板状部材の表面をカメラによって撮像し、撮像された表面の画像に基づいて限界ひずみとひずみ勾配とを算出しているが、スクライブドサークル法などの他の方法を用いて限界ひずみとひずみ勾配とを算出してもよい。単軸引張変形試験についても、スクライブドサークル法などの他の方法を用いて延性破壊時のひずみを算出してもよい。また、伸びフランジ成形試験では、カメラによって撮像された表面の画像に基づいて割れ状態を判定しているが、他の方法を用いて判定してもよい。
【0106】
このように、本実施形態に係る伸びフランジ割れ評価方法は、複数の板状部材20についてそれぞれ伸びフランジ成形試験を行い、伸びフランジ成形試験による割れ発生時の割れ状態が縁割れであるか内割れであるかを判定するとともに伸びフランジ成形試験による限界ひずみとひずみ勾配とを算出し、板状部材20の限界ひずみとひずみ勾配との関係を示す限界ひずみ特性データL1として、縁割れ限界ひずみ特性データL1aと内割れ限界ひずみ特性データL1bとを算出する。また、板状部材50について単軸引張変形試験を行い、単軸引張変形試験による延性破壊時のひずみを限界ひずみとする延性破壊限界ひずみ特性データL1cを算出する。そして、縁割れ限界ひずみ特性データL1a、内割れ限界ひずみ特性データL1b及び延性破壊限界ひずみ特性データL1cのうち少なくとも縁割れ限界ひずみ特性データ及び延性破壊限界ひずみ特性データを用いて伸びフランジ部の割れを評価する。
【0107】
これにより、板状部材の限界ひずみとひずみ勾配との関係を示す限界ひずみ特性データL1として、実際の伸びフランジ成形試験による割れの状態である縁割れ又は内割れに応じて縁割れ限界ひずみ特性データL1aと内割れ限界ひずみ特性データL1bとを算出し、縁割れ限界ひずみ特性データL1a及び内割れ限界ひずみ特性データL1bを用いて伸びフランジ割れを評価するので、縁割れのみを考慮した限界ひずみ特性データを用いる場合に比して、伸びフランジ割れの評価精度を向上させることができる。さらに、単軸引張変形試験による延性破壊時のひずみを限界ひずみとする延性破壊限界ひずみ特性データL1cを用いて伸びフランジ部の割れを評価するので、ひずみ勾配が大きい場合についても限界ひずみが過剰に大きくなることを抑制することができ、伸びフランジ割れの評価精度を向上させることができる。割れ発生時の割れ状態が縁割れのみである板状部材には、縁割れ限界ひずみ特性データ及び延性破壊限界ひずみ特性データを用いて、伸びフランジ割れの評価精度を向上させることができる。
【0108】
また、伸びフランジ割れ評価方法は、縁割れ限界ひずみ特性データ、内割れ限界ひずみ特性データ及び延性破壊限界ひずみ特性データを用いて、伸びフランジ部の割れを評価する。これにより、割れ発生時の割れ状態が縁割れ又は内割れである板状部材について、伸びフランジ割れの評価精度を向上させることができる。
【0109】
また、伸びフランジ割れ評価方法は、板状部材から伸びフランジ部を有するプレス成形品をプレス成形するプレス成形解析時に、縁割れ限界ひずみ特性データL1a、内割れ限界ひずみ特性データL1b及び延性破壊限界ひずみ特性データL1cのうち少なくとも縁割れ限界ひずみ特性データL1a及び延性破壊限界ひずみ特性データL1cを用いて、伸びフランジ部の割れを評価する。これにより、プレス成形解析時に、伸びフランジ部の端部について有限要素分割した解析モデルの各要素における最大主ひずみと該要素に伸びフランジ部の端部から離れる方向に隣接する要素とのひずみ勾配とを算出することで、プレス成形解析における伸びフランジ部の割れを精度良く評価することができる。
【0110】
また、伸びフランジ割れ評価方法は、伸びフランジ成形試験において板状部材20の表面をカメラ35によって撮像し、カメラ35によって撮像された板状部材20の表面の画像に基づいて、板状部材20について伸びフランジ成形試験による限界ひずみとひずみ勾配とを算出する。これにより、デジタル画像相関法を用いて限界ひずみとひずみ勾配とを算出することができ、精度良く限界ひずみとひずみ勾配とを算出することが可能である。
【0111】
また、伸びフランジ割れ評価方法は、伸びフランジ成形試験において板状部材20の表面をカメラ35によって撮像し、カメラ35によって撮像された板状部材20の表面の画像に基づいて、板状部材20について伸びフランジ成形試験による割れ発生時の割れ状態が縁割れであるか内割れであるかを判定する。これにより、板状部材20の表面の画像に基づいて割れ発生時の割れ起点を見つけることで、縁割れ又は内割れの割れ状態の判定精度を向上させてフランジ割れの評価精度を向上させることができる。
【0112】
また、伸びフランジ割れ評価方法は、単軸引張変形試験において板状部材50の表面をカメラ45によって撮像し、カメラ45によって撮像された板状部材50の表面の画像に基づいて、板状部材50について単軸引張変形試験による延性破壊時のひずみを算出する。これにより、デジタル画像相関法を用いて延性破壊時のひずみを算出することができ、精度良く延性破壊限界ひずみを算出することが可能である。カメラによって撮像された画像に基づいて、板状部材について伸びフランジ成形試験による限界ひずみとひずみ勾配とを算出するとともに、板状部材について単軸引張変形試験による延性破壊時のひずみを算出することで、デジタル画像相関法を用いて限界ひずみとひずみ勾配とを算出するとともに延性破壊限界ひずみを算出することができ、伸びフランジ割れの評価精度を向上させることができる。
【0113】
本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0114】
以上のように、本発明によれば、伸びフランジ割れの評価精度を向上させることができるので、板状部材から伸びフランジ部を有するプレス成形品を成形するプレス成形をシミュレーションする場合に、好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0115】
1 プレス成形品
8 伸びフランジ部
10 穴広げ試験装置
14,15 パンチ
20,50 板状部材
22 割れ
30,60 制御ユニット
35,45 カメラ
40 引張試験装置
L1 限界ひずみ特性データ
L1a 縁割れ限界ひずみ特性データ
L1b 内割れ限界ひずみ特性データ
L1c 延性破壊限界ひずみ特性データ
図1
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