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特開2023-150355誘導加熱コイル及び高周波焼入れ装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150355
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】誘導加熱コイル及び高周波焼入れ装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/38 20060101AFI20231005BHJP
   C21D 1/10 20060101ALI20231005BHJP
   C21D 9/40 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
H05B6/38
C21D1/10 B
C21D1/10 R
C21D9/40 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059438
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100158665
【弁理士】
【氏名又は名称】奥井 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(72)【発明者】
【氏名】清澤 裕
(72)【発明者】
【氏名】吉田 大志
(72)【発明者】
【氏名】岡本 直也
(72)【発明者】
【氏名】大野 達也
【テーマコード(参考)】
3K059
4K042
【Fターム(参考)】
3K059AA09
3K059AD05
3K059CD64
3K059CD65
4K042AA22
4K042AA23
4K042BA10
4K042DA01
4K042DB01
4K042DC05
4K042DD04
4K042DE02
4K042DF02
4K042EA01
(57)【要約】
【課題】半球面状の窪みを有する金属製部材の内壁全体を一様に加熱できる誘導加熱コイル、その誘導加熱コイルを用いた高周波焼入れ装置を提供する。
【解決手段】被加熱金属製部材に設けられた半球面状の窪みに挿入される誘導加熱コイルであって、前記半球面状の窪みの内壁に沿うように、前記内壁の底部から上部に向かって延びる円弧状の複数の第1導体1、第2導体3a、第3導体3b、第4導体5が、前記内壁の底部から上部に向かって放射状に設けられ、前記複数の導体の上端が、第5導体2、第6導体4によって連結されている誘導加熱コイル、及び、その誘導加熱コイルを用いた高周波焼入れ装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱金属製部材に設けられた半球面状の窪みに挿入される誘導加熱コイルであって、前記半球面状の窪みの内壁に沿うように、前記内壁の底部から上部に向かって延びる円弧状の複数の導体が、前記底部から上部に向かって放射状に設けられ、前記複数の導体は連結されている誘導加熱コイル。
【請求項2】
被加熱金属製部材に設けられた半球面状の窪みの内壁を高周波焼入れする高周波焼入れ装置であって、請求項1に記載の誘導加熱コイルを備え、前記被加熱金属製部材と前記誘導加熱コイルとを相対的に回転させながら、前記半球面状の窪みの内壁を焼入れする高周波焼入れ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱コイル、特に被加熱金属製部材に設けられた半球面状の窪みの内壁を焼入れするのに好適な誘導加熱コイル、及びその誘導加熱コイルを用いた高周波焼入れ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ベアリングのボール等の転動面が内周に設けられた半球面状の窪みを有する金属製部材は、転動面に焼入れ及び焼戻しの熱処理を施し、転動面の硬度を確保しているが、その焼入れのために、被加熱金属製部材に形成された半球面状の窪み(椀状の中空部、有底碗状体)に誘導加熱コイルを挿入して加熱している(特許文献1及び2参照)。
【0003】
特許文献1には、「被加熱物に形成された椀状の中空部に挿入され、所定の回転軸を中心にして被加熱物に対して相対的に回転する複数巻きの誘導加熱コイルにおいて、複数巻きのうちの互いに隣接する2巻きの境界線を前記所定の回転軸に対して90°未満の範囲内の所定角度傾斜しながら前記椀状の中空部の側壁に沿って巻かれた第1導体部と、該第1導体部から連続して前記椀状の中空部の底壁に沿って延びる第2導体部とを備えたことを特徴とする誘導加熱コイル。」(請求項1)が記載され、また、「第1導体部30では、上述したように、一巻き目32と二巻き目34との境界線36は回転軸42に対して75°以上82°以下の範囲内の角度だけ傾斜しているので、金属部材10と誘導加熱コイル20とを相対的に回転させた場合、金属部材10の側壁14のうち、境界線36に向き合う部分の位置が時々刻々と移動し、側壁14の一部がほとんど加熱されないということが無い。この結果、側壁14の全ての部分が均等に加熱される。また、第2導体部40は底壁16に沿って延びているので、金属部材10と誘導加熱コイル20とを相対的に回転させた場合、底壁16のうち、第2導体部40に向き合う部分の位置が時々刻々と移動し、底壁16の全ての部分が均等に加熱される。従って、誘導加熱コイル20の線径が大きくて中空部12が小さくても、この中空部12の側壁14を第1導体部30で加熱できると共に底壁16を第2導体部40で加熱でき、側壁14と底壁16とを一様に加熱できることとなる。」(段落[0019])と記載されている。
【0004】
特許文献2には、「図4に示す本例の高周波焼入装置12は、有底碗状体である受口部3を有する外輪4を所定位置に保持するワーク保持治具13と、受口部3の湾曲状内周面3bに対応配置されてこの内周面3bを高周波誘導加熱する高周波誘導加熱コイル14と、受口部3の底部3aに不活性ガス、又は還元性ガス、或いは不活性ガス及び還元性ガスの混合ガスを導入するガス導入管(ガス噴射管)15と、ワーク保持治具13に保持された受口部3の開放口に対応してその上部箇所に配置されるハウジング16と、ハウジング16内に充満されるガスをハウジング16の外部へ排出するガス排出管17と、受口部3の加熱部に冷却液を噴射する冷却液噴射管18と、ハウジング16内に溜まった冷却液をハウジング16の外部へ排出する冷却液排出管19とをそれぞれ具備している。」(段落[0011])、「そして、図外のワーク回転機構により外輪4がワーク保持治具13と一緒に回転駆動されるようになっている。」(段落[0012])、「高周波誘導加熱コイル14は、内部を水冷できる銅パイプからなるものであって、受口部3の凹状溝8を非接触状態のもとで誘導加熱すべくワーク形状に沿って被加熱面と所要の間隙をもつように複数に巻回されている。そして、この高周波誘導加熱コイル14にはコイルリード14aを介して高周波電源20から高周波電流が適宜に供給されるように構成されている。」(段落[0013])と記載されている。
【0005】
また、特許文献1及び2に記載されている巻回された誘導加熱コイルとは異なる形状を有する誘導加熱コイルが公知である(特許文献3及び4参照)。
【0006】
特許文献3には、「異形円筒部材の外周形状に沿って、該部材の被処理表面との間に所定の隙間を形成する形状の3本の導体が軸方向に配設され、該3本の導体の一端同士が連結され、両側の2本の導体の他端同士が連結され、中央の導体の他端のリード部と前記両側の他端同士が連結されたリード部とに電源を接続して3本足コイルを形成させたことを特徴とする異形円筒部材の誘導加熱コイル。」(請求項1)が記載され、また、「図1において、加熱コイル10の3本の導体11、12、13はワークWの表面との間に所定の隙間を形成する形状の曲線に曲げられた導体であり、ワークWの外周形状に沿って軸方向に延長して配設される。その一端11a,12a,13aは半円の導体14により連結されている。」(段落[0015])、「一方、両側の2本の導体11と13の他端11b,13bは、半円の導体15により連結され、導体15のほぼ中央部からリード部16が接続されている。そして、中央の導体12の他端12bにリード部17が接続され、リード部17とリード部16との間に絶縁物18を挟んで両リード部が平行に引き出されている。このリード部17とリード部16が図示しない電源に接続されて3本足コイル10が形成される。」(段落[0016])と記載されている。
【0007】
特許文献4には、「複数の異径外周部を有する軸状部材の外周面、或いは、異径内周部を有する筒状部材の内周面を高周波誘導加熱する高周波誘導加熱コイル体において、
(a) 前記軸状部材或いは筒状部材の軸線方向に対して平行に配置されると共に、前記軸状部材の外周面或いは前記筒状部材の内周面に対向して配置される直線形状部を有する4つの第1,第2,第3,及び第4の加熱導体と、
(b) 前記4つの第1,第2,第3,及び第4の加熱導体の一端部がそれぞれ接続される円環状の第1の接続導体と、
(c) 高周波電源に接続される一対の給電用リード部のうちの一方の給電用リード部と、前記4つの第1,第2,第3,及び第4の加熱導体のうちの2つの第1及び第2の加熱導体の他端部とをそれぞれ接続するための円環状の第2の接続導体と、
(d) 前記一対の給電用リード部のうちの他方の給電用リード部と、前記4つの第1,第2,第3,及び第4の加熱導体のうちの2つの第3及び第4の加熱導体とをそれぞれ接続するための円弧形状の第3の接続導体と、
をそれぞれ具備することを特徴とする高周波誘導加熱コイル体。」(請求項1)が記載され、また、「図1に示すように、例えば断面矩形状の導電性パイプ材を所定形状をなすように連結して成る構造体であって、焼戻対象部品である内軸21の軸線方向に対して平行に配置されると共にこの内軸21の外周面21aに対向して配置される直線形状部を有する第1~第4の加熱導体22,23,24,25(以下においては、これらの加熱導体22~25はその直線形状部が主要部をなしているので、直線形状の第1~第4の加熱導体22,23,24,25と記載する)と、これらの加熱導体22~25の一端部(図1では下端部)の全てが接続される円環状の第1の接続導体26と、上述の加熱導体22~25の前記一端部とは反対側の他端部(図1では上端部)のうちの2つがそれぞれ接続される円環状の第2の接続導体27及び円弧状の第3の接続導体28と、第2の接続導体27と高周波電源29との間に接続された第1の給電用リード部30と、第2の接続導体28と高周波電源29との間に接続された第2の給電用リード部31とから構成されている。」(段落[0011])と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11-26150号公報
【特許文献2】特開2007-297718号公報
【特許文献3】特開2002-167618号公報
【特許文献4】特許第3733089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1及び2に記載されているような巻回型の誘導加熱コイルを用いて非加熱金属製部材を移動させないで焼入れする場合、被加熱金属製部材の半球面状の窪みの内壁を一様に加熱するために、被加熱金属製部材と誘導加熱コイルとを相対的に回転させていたが、一様に加熱するのは十分ではなかった。
【0010】
また、誘導加熱コイルとしては、巻回型ではなく、複数本の導体を連結した誘導加熱コイルも公知である(特許文献3及び4参照)が、特許文献3に記載された誘導加熱コイルは、3本の導体が、異形円筒部材の外周形状に沿って配設されるものであり、半球面状の窪みに挿入されることは示されていない。特許文献4に記載された誘導加熱コイルは、4つの加熱導体を有するものであるが、直線形状部が主要部をなしているものであり、加熱導体を、半球面状の窪みの内壁に沿うように形成することは示されていない。
【0011】
そこで、本発明は、被加熱金属製部材に設けられた半球面状の窪みの内壁全体を一様に加熱できる誘導加熱コイル、その誘導加熱コイルを用いた高周波焼入れ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明は、以下の手段を採用する。
(1)被加熱金属製部材に設けられた半球面状の窪みに挿入される誘導加熱コイルであって、前記半球面状の窪みの内壁に沿うように、前記内壁の底部から上部に向かって延びる円弧状の複数の導体が、前記底部から上部に向かって放射状に設けられ、前記複数の導体は連結されている誘導加熱コイル。
(2)被加熱金属製部材に設けられた半球面状の窪みの内壁を高周波焼入れする高周波焼入れ装置であって、前記(1)に記載の誘導加熱コイルを備え、前記被加熱金属製部材と前記誘導加熱コイルとを相対的に回転させながら、前記半球面状の窪みの内壁を焼入れする高周波焼入れ装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明において、被加熱金属製部材に設けられた半球面状の窪みに挿入される誘導加熱コイルは、複数の導体が、前記半球面状の窪みの内壁に沿うように設けられているため、前記半球面状の窪みの内壁全体を一様に加熱することができ、また、一様に焼入れすることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る誘導加熱コイルの斜視概念図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る金属製部材の斜視概念図である。
図3図3は、本発明の一実施形態に係る高周波焼入れ装置の正面概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(誘導加熱コイル)
本発明の実施形態における焼入れ用誘導加熱コイルは、被加熱金属製部材に設けられた半球面状の窪みに挿入される誘導加熱コイルであって、前記半球面状の窪みの内壁に沿うように、前記内壁の底部から上部に向かって延びる円弧状の複数の導体が、前記底部から上部に向かって放射状に設けられ、前記複数の導体は連結されている。
このように、前記半球面状の窪みの内壁の底部から上部に向かって延びる円弧状の複数の導体が、前記底部から上部に向かって放射状に設けられているため、被加熱金属製部材に設けられた半球面状の窪みの内壁全体を一様に加熱することができ、また、一様に焼入れすることができる。
【0016】
前記円弧状の複数の導体は、4つ以上であることが好ましい。
前記底部から上部に向かって延びる円弧状の導体を4つ以上とすることにより、前記半球面状の窪みの内壁全体をより一様に加熱し、焼入れすることができる。
【0017】
本発明の一実施形態(以下、「本実施形態」という。)に係る誘導加熱コイルについて、図1を用いて説明する。
【0018】
(加熱コイル部)
本実施形態の誘導加熱コイル9の加熱コイル部は、被加熱金属製部材に設けられた半球面状の窪みの内壁に沿うように、窪みの内壁の底部から上部に向かって円弧状に延びる第1導体1、第1導体1から離れて当該底部から上部に向かってそれぞれ円弧状に延びる第2導体3a及び第3導体3b(第2導体3aと第3導体3bは互いに当該窪みの内壁の底部側の下端で連結されている)、並びに第1導体1、第2導体3a及び第3導体3bから離れて当該底部から上部に向かって円弧状に延びる第4導体5が設けられている。
【0019】
上記の第1導体1、第2導体3a、第3導体3b及び第4導体5の前記底部から上部に向かって円弧状に延びる4つの導体が、半球面状の窪みの内壁に沿うように、前記内壁の底部から上部に向かって放射状に設けられている。
そして、前記導体のうち隣接する第1導体1及び第2導体3aの上端が水平の第5導体2によって連結され、前記導体のうち隣接する別の第3導体3b及び第4導体5の上端が水平の第6導体4によって連結されている。すなわち、複数の導体1、2、3a、3b、4、5は、一筆書きにこの順で連結されて加熱コイル部を構成している。
なお、前記水平の第5導体2及び第6導体4は、窪みの内壁の底部側の下端で互いに連結されている第2導体3aと第3導体3bの当該連結位置を起点として窪みの内壁の底部から上部に向かって直線状に延びる仮想直線を、中心点として、図1に示すような円弧状に設けられていることが好ましい。
このような円弧状に設けられていることで、後述するリード部を配置させやすくなるため好ましい。
【0020】
(リード部)
本実施形態において、第1導体1の下端には、窪みの内壁の底部から上部に向かって直線状に延びる第1リード部6(6a、6b)が接続され、第4導体5の下端には窪みの内壁の底部から上部に向かって直線状に延びる第2リード部7(7a、7b)が接続され、第1リード部6bと第2リード部7bとの間に絶縁物8を挟んで両リード部6、7が平行に引き出されて、4つの導体1、3a、3b、5の誘導加熱コイル9が形成される。第1リード部6の6aと6bは連結され、第2リード部7の7aと7bも連結されている。この第1リード部6b及び第2リード部7bは、それぞれ図示しない電源に接続される。
すなわち、第1リード部6、複数の導体1、2、3a、3b、4、5、第2リード部7は、一筆書きにこの順で連結されて誘導加熱コイル9を構成している。このように、誘導加熱コイル9は、一筆書きに構成されているため、電源との接続、コイルの設置が容易になる。
【0021】
(誘導加熱コイルへの電流の流れ)
本実施形態において、誘導加熱コイル9へ高周波電力を供給すると、誘導加熱コイル9には、或る瞬時において図1の矢印Rで示す方向の経路に沿って高周波電流が流れ、次の瞬時には前記矢印R方向とは反対の方向の経路に沿って高周波電流が交互に流れることとなる。具体的には、高周波電流は、給電用の第1リード部6から、円弧状の第1導体1、水平の第5導体2、円弧状の第2導体3a、円弧状の第3導体3b、水平の第6導体4、円弧状の第4導体5、給電用の第2リード部7へと順次流れ、また、その反対に、順次流れる。
【0022】
(誘導加熱コイルのその他の構成)
誘導加熱コイル9の材質は例えば、銅である。誘導加熱コイル9には、誘導加熱コイル9自身を冷却するための冷却液が流れる流路を有する。誘導加熱コイル9自身を冷却するために、図示しない冷却液供給手段により、第1リード部6aの上端の入口に冷却液を注入すると、冷却液は、円弧状の第1導体1、水平の第5導体2、円弧状の第2導体3a、円弧状の第3導体3b、水平の第6導体4、円弧状の第4導体5へと流れ、第2リード部7aの上端の出口から排出され、回収される。
【0023】
(半球面状の窪みを有する被加熱金属製部材)
本実施形態の誘導加熱コイルは、図2に示すような半球面状の窪みを有する被加熱金属製部材の内壁の焼入れに用いる。
被加熱金属製部材に形成された半球面状の窪みは、半分の球面状でなくてもよく、半分よりも浅い球面のものを含む。逆に、半分よりも深い球面であってもよい。
金属製部材は、鋼製部材が好ましく、鋼製部材としては、例えば、炭素鋼を用いることができる。
【0024】
(高周波焼入れ装置)
半球面状の窪みを有する被加熱金属製部材10(以下、金属製部材10という。)の当該窪みの内壁を高周波焼入れする高周波焼入れ装置は、上述した誘導加熱コイル9を備え、金属製部材10と誘導加熱コイル9とを相対的に回転させながら、誘導加熱コイル9で前記半球面状の窪みの内壁を焼入れするものである。
【0025】
本実施形態に係る高周波焼入れ装置15の構成を図3に示す。
半球面状の窪みを有する金属製部材10が、金属製部材10を回転させるための回転台11の棒状部材11a上に図示しない固定手段により固定されて載置され、回転台11は、基台12上に、上下動できるように、かつ回転自在に固定されている。
また、誘導加熱コイル9は、金属製部材10の上方に配置されている。
金属製部材10を半球面状の窪みが上になるように回転台11の棒状部材11a上に載置し、回転台11を上昇させることにより、誘導加熱コイル9を、金属製部材10の半球面状の窪みの内壁に沿うように、当該内壁である被加熱面と所要の間隙を持って配置する。
上記とは逆に、回転台11を上下動させる代わりに、誘導加熱コイル9を上下動させてもよい。
【0026】
誘導加熱コイル9における加熱コイル部の内側とリード部6、7との間には、誘導加熱コイル9を外側から冷却すると共に、さらに、金属製部材10の半球面状の窪み内も冷却(急冷)するための冷却ジャケット13が配置されている。誘導加熱コイル9の外側に、当該冷却ジャケット13を配置してもよい。
冷却ジャケット13には、パイプ13aから冷却液が供給され、誘導加熱コイル9における加熱コイル部の上方に位置する冷却ジャケット13の下端に設けられた図示しない冷却液供給孔から当該冷却液が排出され、加熱コイル部及び高周波加熱された金属製部材10の半球面状の窪みの内壁を急冷する。
【0027】
高周波焼入れ装置15を使用して金属製部材10の半球面状の窪みの内壁を焼入れするに当たっては、次のような方法で行う。
回転台11の上に、半球面状の窪みが上になるように金属製部材10を配置して、誘導加熱コイル9を半球面状の窪みに挿入しておき、半球面状の窪みの底壁の中心を通る回転軸を中心にして金属製部材10を回転させながら内壁(底壁と側壁)を所定温度まで昇温して高周波誘導加熱し、その後、冷却ジャケット13から冷却液を金属製部材10の半球面状の窪みの内壁に供給して急冷することにより焼入れする。これにより、半球面状の窪みの内壁がどの位置でも一様な深さまで一様に加熱されて、半球面状の窪みの内壁に一様な深さの硬化層が得られる。
【0028】
本実施形態に係る高周波焼入れ装置15は、前記回転台11の上部(金属製部材10の下方)から冷却液を噴射し、半球面状の窪みを高周波誘導加熱中、あるいは急冷時の焼入れ冷却中に金属製部材10の反対側を冷却するための冷却装置14を設けることが好ましい。
すなわち、回転台11に冷却液噴射孔14aを設け、図示しないホース等を回転台11に接続して冷却液を供給し、上記の噴射孔14aから、冷却液を噴射することが好ましい。
このように、金属製部材10の半球面状の窪みの内壁を誘導加熱中にその反対側を冷却する冷却装置14を設けることで、当該内壁の焼入れ深さおよび金属製部材10の熱量の制御をすることができる。
【0029】
上述した高周波焼入れ装置15は、金属製部材10を下に配置し、誘導加熱コイル9を上に配置しているが、上下を逆にし、特許文献1に示されるように、金属製部材を上に配置し、誘導加熱コイルを下に配置することもできる。
金属製部材を上に配置し、誘導加熱コイルを下に配置した場合、本実施形態において、誘導加熱コイル9の底部は頂部となり、上部は下部となり、上端は下端となり、下端は上端となる。
また、上記の場合、金属製部材を急冷するための冷却装置も上部に設けることになる。
【0030】
また、本発明に係る高周波焼入れ装置は、誘導加熱コイルを備え、前記被加熱金属製部材と前記誘導加熱コイルとを相対的に回転させながら、前記半球面状の窪みの内壁を焼入れすることができれば、図3に示す構造に限られず、多種多様な構造を用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の誘導加熱コイルを用いて高周波焼入れすることにより、半球面状の窪みを有する金属製部材(特に鋼製部材)の当該窪みの内壁を一様に加熱することができ、一様に焼入れすることができるため、当該窪みの内壁を硬化させる必要がある金属製部材(特に鋼製部材)の高周波焼入れに有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0032】
1:底部の一箇所から上部に向かって延びる円弧状の導体(第1導体)
2:第1導体1の上端及び第2導体3aの上端を連結する水平の導体(第5導体)
3a:導体3の一部であり導体1から離れた底部の一箇所から上部に向かって延びる円弧状の導体部(第2導体)
3b:第1導体1から離れた底部の一箇所から上部に向かって第2導体3aとは反対方向に延びる円弧状の導体部(第3導体)
4:第3導体3bの上端及び第4導体5の上端を連結する水平の導体(第6導体)
5:底部の一箇所から上部に向かって延びる円弧状の導体(第4導体)
6(6a、6b):導体1の下端に接続され軸方向に延びるリード部(第1リード部)
7(7a、7b):導体5の下端に接続され軸方向に延びるリード部(第2リード部)
8:絶縁物
9:誘導加熱コイル
10:被加熱金属製部材
11:回転台
11a:棒状部材
12:基台
13:冷却ジャケット
13a:冷却液供給パイプ
14:冷却装置
14a:冷却水噴射孔
15:高周波焼入れ装置
図1
図2
図3