(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150371
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】管体用疑似受口
(51)【国際特許分類】
F16L 55/00 20060101AFI20231005BHJP
F16L 9/02 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
F16L55/00 Z
F16L9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059458
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(72)【発明者】
【氏名】森田 裕也
(72)【発明者】
【氏名】大久保 貴志
(72)【発明者】
【氏名】明渡 健吾
(72)【発明者】
【氏名】太田 慧
【テーマコード(参考)】
3H111
【Fターム(参考)】
3H111AA01
3H111BA02
3H111CB08
3H111CB14
3H111DB03
3H111EA20
(57)【要約】
【課題】受口と挿し口を有さないハウジング管の内面処理又は外面処理を容易にできるようにする。
【解決手段】管体10の端部12に取り付けられる管体用疑似受口であって、端部12の外周に固定される基部31と、基部31に隣接して設けられた環状を成す張出部32とを備え、管体10への取り付け状態で、張出部32は端部12よりも管軸方向外方へ突出し、且つ、張出部32の外面32aは管体10の外周面10aよりも大径であり、少なくとも張出部32の外方側端面32cに臨む素材は金属である管体用疑似受口とした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
管体(10)の端部(12)に取り付けられる管体用疑似受口であって、
前記端部(12)の外周に固定される基部(31)と、
前記基部(31)に隣接して設けられた環状を成す張出部(32)と、
を備え、
前記管体(10)への取り付け状態で、前記張出部(32)は前記端部(12)よりも管軸方向外方へ突出し、且つ、前記張出部(32)の外面(32a)は前記管体(10)の外周面(10a)よりも大径であり、少なくとも前記張出部(32)の外方側端面(32c)に臨む素材は金属である管体用疑似受口。
【請求項2】
前記基部(31)は環状を成しその周方向に沿って少なくとも1箇所にスリット(34)を備え、
前記基部(31)における前記スリット(34)を挟む対向部(33,33)間に設けられる締付手段(50)を備え、
前記基部(31)は、前記締付手段(50)によって前記端部(12)の外周に締め付けられて固定される請求項1に記載の管体用疑似受口。
【請求項3】
前記締付手段(50)は、前記対向部(33,33)の一方に設けられた雌ねじ部(53a)及び他方に設けられた貫通孔(53b)と、前記貫通孔(53b)に挿通され前記雌ねじ部(53a)にねじ込まれるボルト(52)で構成され、前記取り付け状態で、前記ボルト(52)は前記基部(31)の前記外面(31a)よりも内径側に入り込んでいる請求項2に記載の管体用疑似受口。
【請求項4】
前記基部(31)と前記張出部(32)とは、前記スリット(34)を挟んで管軸回り所定の方位は周方向スリット(40)を介して分断されており、他の方位では連結されている請求項2または3に記載の管体用疑似受口。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一つに記載の管体用疑似受口を用いた管体の表面処理方法であって、
前記基部(31)が前記締付手段(50)によって前記管体(10)の端部(12)の外周に締め付けられて固定され、前記張出部(32)が前記端部(12)よりも管軸方向外方へ突出し、且つ、前記張出部(32)の外面(32a)は前記管体(10)の外周面(10a)よりも大径である状態で、
前記管体(10)をローラ(21)上に載置し、前記張出部(32)を当て止め(22)に当接させ、前記管体(10)を管軸回りに回転させながら、前記管体(10)の内面(10b)又は端面(10c)に対して研磨、研削、塗装、ライニングの中から選択される単一の又は複数の表面処理を行う管体の表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、管体の端部に取り付けられる疑似受口に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋳鉄管(金属管)として、例えば、
図9に示すように、内外径が一定な円筒形の直管部の一方の端部が受口2、他方の端部が挿し口3となった管体1が一般的である。管体1の受口2の内面に別の管体1の挿し口3が挿入され、2本の管体1,1が接続される。このとき、一方の管体1の受口2の内面に嵌められたロックリングが、他方の管体1の挿し口3の外面の突部に係止することによって、管体1,1同士が抜け出めされている。
【0003】
この種の管体1として、遠心鋳造法によって鋳造される鋳鉄管がある。遠心鋳造法では、円筒形の型枠を高速回転させた状態で溶融した金属(溶湯)を流し込み、型枠の回転に伴う遠心力によって溶湯を加圧して、管体1を製造している。その後、管体1には焼鈍が行われ、スケール除去処理、必要に応じて探傷検査、挿し口3の外面や受口2の内面の細部の形状処理、防錆塗装、内面への粉体塗装又はモルタルライニング等の内面処理(その下地処理を含む)、合成樹脂塗装等の外面処理(その下地処理を含む)、その他各種の処理を行っている。
【0004】
また、管接続時及び管取り外し時に部材の軸方向移動を最小限とすることを目的として、ハウジング形式の継手に対応した管体10が採用される場合がある(特許文献1)。ハウジング形式の継手に対応した管体10(以下、ハウジング管と称する)は、
図10に示すように受口に相当する部分が存在せず、管軸方向両端が管径一定の円筒形状となっている。この円筒形状の端部同士を管軸方向に沿って対向させ、管体10,10同士の対向部の外周に、環状のハウジング継手を嵌めて内径方向へ締め付けることにより、管体10,10同士が接続される。このため、管接続時及び管取り外し時に、管体10を管軸方向に沿って移動する必要がないという利点がある。
【0005】
例えば、特に、トンネル内等の狭隘な作業場所では、部材をクレーンで吊り上げることができないことから、従来のように、受口2と挿し口3とを繋ぐ際に管体1を管軸方向へ相対移動するのが難しい場合がある。このような作業環境であれば、ハウジング管とハウジング継手を用いれば、管接続時及び管取り外し時におけるハウジング管の管軸方向への移動を最小限とでき、作業性が向上する。なお、ハウジング管の管軸方向両端の外周には、ハウジング継手を管軸方向へ位置決めする突部11が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように、鋳鉄管からなる管体1には、鋳造後の行程において、各種の内面処理や外面処理が施される。受口2と挿し口3を有する管体1(以下、通常管と称する)では、これらの内面処理や外面処理を、
図9に示すような装置を用いて管体1を回転させながら行う場合が多い。管体1は、
図9に示すようにローラ21上に載置され、ローラ21を駆動力によって回転させることで、管体1が管軸回りに矢印B方向へ回転する。このとき、管体1は、管軸回りに回転しながら、スラスト荷重により管軸方向へ矢印Aのように移動する。ここで、当て止め22に受口2側の管端が当たることで、作業中に管体1が管軸方向へ移動することが防止されている。当て止め22は、管体1の管軸回りの回転とともに、それに追随して矢印c方向へ回転する。
【0008】
しかし、このような装置を用いて、受け口2と挿し口3を有さないハウジング管を処理する場合には問題が生じる。管体がハウジング管の場合、例えば、
図10に示すように、通常管と管径wが同じであっても、ハウジング管の管軸方向端部が当て止め22に当たらない場合がある。このため、当て止め22を所望の位置に移動させる移動装置を追加するか、あるいは、受け口2と挿し口3を有する管体1を取り扱う設備とは別に、ハウジング管を専用に取り扱う設備を設置する必要がある。
【0009】
また、仮に、当て止め22の移動装置を追加したり、あるいは、ハウジング管を専用に取り扱う設備を設置したとしても、ハウジング管の内面処理や外面処理には種々の支障が生じ得る。例えば、
図11に示すように、管体10の端部が当て止め22に当接していることによって、内面処理の際の中摺り研磨工程において、砥石がハウジング管の内面の端部に接触できない事態が生じ得る。また、内面処理の際の粉体塗装工程において、当て止め22に当接しているハウジング管の端部付近(図中の符号E部分)に、粉体塗装ができない部分が生じるという問題がある。
図11の符号23は、粉体塗装の塗料を吐出するノズルaを示し、ノズルaから吐出される塗料は、ハウジング管の当て止め22に当接している部分には付着しない、又は、付着しても当て止め22の当接によって塗装にムラが生じてしまうこととなる。
【0010】
そこで、この発明の課題は、受口と挿し口を有さない管体(ハウジング管)の表面処理を容易にできるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、この発明は、管体の端部に取り付けられる管体用疑似受口であって、前記端部の外周に固定される基部と、前記基部に隣接して設けられた環状を成す張出部と、を備え、前記管体への取り付け状態で、前記張出部は前記端部よりも管軸方向外方へ突出し、且つ、前記張出部の外面は前記管体の外周面よりも大径であり、少なくとも前記張出部の外方側端面に臨む素材は金属である管体用疑似受口を採用した。
【0012】
ここで、前記基部は環状を成しその周方向に沿って少なくとも1箇所にスリットを備え、前記基部における前記スリットを挟む対向部間に設けられる締付手段を備え、前記基部は、前記締付手段によって前記端部の外周に締め付けられて固定される構成を採用できる。
【0013】
このとき、前記締付手段は、前記対向部の一方に設けられた雌ねじ部及び他方に設けられた貫通孔と、前記貫通孔に挿通され前記雌ねじ部にねじ込まれるボルトで構成され、前記取り付け状態で、前記ボルトは前記基部の前記外面よりも内径側に入り込んでいる構成を採用できる。
【0014】
これらの各態様において、前記基部と前記張出部とは、前記スリットを挟んで管軸回り所定の方位は周方向スリットを介して分断されており、他の方位では連結されている構成を採用できる。
【0015】
これらの各態様からなる管体用疑似受口を用いた管体の表面処理方法であって、前記基部が前記締付手段によって前記管体の端部の外周に締め付けられて固定され、前記張出部が前記端部よりも管軸方向外方へ突出し、且つ、前記張出部の外面は前記管体の外周面よりも大径である状態で、前記管体をローラ上に載置し、前記張出部を当て止めに当接させ、前記管体を管軸回りに回転させながら、前記管体の内面又は端面に対して研磨、研削、塗装、ライニングの中から選択される単一の又は複数の表面処理を行う管体の表面処理方法を採用できる。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、受口と挿し口を有さない管体(ハウジング管)の表面処理が容易にできるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】この発明における第1の実施形態の疑似受口の使用状態を示す縦断面図
【
図6】この発明における第2の実施形態の疑似受口の使用状態を示す要部拡大断面図
【
図7】この発明における第2の実施形態の疑似受口の使用状態を示す要部拡大断面図
【
図8】この発明における第2の実施形態の疑似受口の使用状態を示す要部拡大断面図
【
図9】受口と挿し口を有する管体(通常管)の内面処理又は外面処理を取り扱う設備の模式図
【
図10】
図9の設備で受口と挿し口を有さない管体(ハウジング管)を取り扱った状態を示す模式図
【
図11】既存の設備で受口と挿し口を有さない管体(ハウジング管)を取り扱った状態を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、この発明の第1の実施形態に係る管体用疑似受口30(以下、単に疑似受口30と称する)を、受口と挿し口を有さない管体10、いわゆるハウジング管に取り付けた状態を示している。実施形態の管体10は、トンネル内の消火配管構造の送水配管等に用いられるハウジング管を想定しているが、管体10の用途はこれに限定されない。また、実施形態の管体10は、遠心鋳造(遠心力鋳造)によって製造されるダクタイル鋳鉄管を想定しているが、他の鋳鉄管、他の金属管であってもよい。
【0019】
管体10は、
図1に示すように、全長に亘って同一径である断面円形の直管部を有し、その直管部の管軸方向両端が、隣り合う別の管体10への接続部となる端部12である。端部12は、直管部と同じ外径及び内径である。端部12の外周面には、ハウジング継手(図示せず)に対応した突部11が設けられている。環状のハウジング継手の軸方向端部が突部11に当たることで、ハウジング継手と管体10とが管軸方向に位置決めされる(接続対象となる別の管体10側も同様)。この実施形態では、突部11は、管体10の管軸回り全周に亘って連続的に設けられた突条であるが、突部11を管軸回り一部にのみ設けてもよい。
【0020】
疑似受口30は、管体10の端部12の外周に取り付けられる一体の金属成型品である。疑似受口30の構成は、
図2~
図5に示すように、環状を成しその周方向1箇所にスリット34を備えた断面C字状の基部31と、基部31に隣接して設けられた環状を成す張出部32と、基部31におけるスリット34を挟む対向部33,33間に設けられる締付手段50とを備えたものである。スリット34は疑似受口30を内外に貫通している。
【0021】
基部31と張出部32とは、スリット34を挟んで管軸回り所定の方位は周方向スリット40を介して分断されている。この実施形態では、周方向スリット40は、スリット34を挟んで周方向に沿って対称な溝42である。溝42は疑似受口30を内外に貫通している。また、溝42は、スリット34の中心線から両側の終端部41,41までが、管軸回りにそれぞれ90度の方位となっている。すなわち、周方向スリット40は管軸回りに180度の方位に形成されている。周方向スリット40が設けられた部分以外の他の方位では、基部31と張出部32とは連結されて一体の部材となっている。基部31と張出部32とが連結された部分を、以下、連結部35と称する。このため、基部31は、円弧状の部材からなる連結部35と、その連結部35の周方向両端から突出する円弧状の対向部33,33で構成されている。
【0022】
締付手段50は、
図2に示すように、対向部33,33の一方に設けられた雌ねじ部53a及び他方に設けられた貫通孔53bと、その雌ねじ部53aにねじ込まれるボルト52で構成されている。ボルト52の軸部を他方の対向部33側から貫通孔53bに挿通し、その軸部を雌ねじ部53aにねじ込むことにより、対向部33,33同士が接近する方向へ締め付けられる。
図1に示すように、疑似受口30を管体10に取り付けした状態(以下、取り付け状態と称する)で、ボルト52の頭部及び軸部は、基部31の外面31aよりも内径側に入り込んでいる。雌ねじ部53a,貫通孔53bは、両側の対向部33,33にそれぞれ設けられた孔部51の内周に形成されているが、ボルト52の頭部が入り込む部分には形成されていない。孔部51のうち、ボルト52の頭部が入り込む部分は、雌ねじ部53aおよび貫通孔53bよりもやや内径が大きい大径部54となっている。
【0023】
基部31は、締付手段50によって管体10の管軸方向の端部12の外周に締め付けられて固定される。このとき、基部31の内面31bは、管体10の外周面10aに密着し、基部31の端面31cは、管体10の突部11の側面に当接してもよいが、突部11の側面を基準として付近まで差し込まれることで、疑似受口30と管体10とが管軸方向へ位置決めされるようになっている。この取り付け状態で、基部31の外面31aは、管体10の外周面10aよりも径方向距離L1(
図1参照)だけ外径側に位置し(大径であり)、且つ、突部11の外周面よりも径方向距離L2(
図1参照)だけ外径側に位置している(大径である)。なお、締付手段50による内径方向への締め付けによって、径方向距離L1,L2は、若干縮小している箇所もある。
【0024】
また、その取り付け状態で、張出部32は、管体10の端部12の端面10cよりも管軸方向外方へ管軸方向距離L3(
図1参照)だけ突出し、且つ、張出部32の外面32aは、同じく、管体10の外周面10aよりも径方向距離L1(
図1参照)だけ外径側に位置し(大径であり)、且つ、突部11の外周面よりも径方向距離L2(
図1参照)だけ外径側に位置している(大径である)。
【0025】
前述のように、鋳鉄管からなる管体10には、鋳造後の行程において、各種の内面処理や外面処理が施される。ここで、受口や挿し口を有さないハウジング管からなる管体10に対しては、上記の疑似受口30を装着して処理が行われる。管体10に疑似受口30を装着することから、その管体10が、従来から使用している通常管と管径が同じかあるいは管径が近い所定の範囲のハウジング管である限り、従来から用いている通常管用の装置(
図6参照)をそのまま用いて、管体10の内面処理や外面処理を行うことができる(
図1参照)。ここで、疑似受口30の管体10に対する外径側への突出量及び管軸方向への突出量(前述の径方向距離L1及び管軸方向距離L3)が、その装置で扱っていた通常管の直管部に対する受口2の外径側への突出量及び管軸方向への突出量と等しいことが望ましいが、作業上支障がない限りにおいて、両者の外径側への突出量及び管軸方向への突出量に差異があることを排除するものではない。これにより、従来の装置に当て止め22を移動させる装置を追加したり、あるいは、ハウジング管を専用に取り扱う設備を別に設ける必要がなくなり、コストの削減に寄与し得る。
【0026】
なお、
図1では、
図9に示すローラ21の図示を省略している。
図1において、ローラ21(図示せず)を駆動力によって回転させることで、管体10が管軸回りに回転し、管体10は管軸回りに回転しながらスラスト荷重により管軸方向へ移動して、当て止め22に疑似受口30の端部32cが当たることで、作業中の管体10の管軸方向への移動が規制されている点は同様である。当て止め22は、管体10の管軸回りの回転ともに、それに追随して回転する点も同様である。
【0027】
すなわち、この発明では、疑似受口30を用いた管体10の表面処理方法として、以下の手法を採用できる。まず、基部31が締付手段50によって管体10の管軸方向の端部12の外周に締め付けられて固定され、張出部32が管体10の端部12よりも管軸方向外方へ突出し、且つ、張出部32の外面31aは管体10の外周面10aよりも大径である状態で、管体10をローラ21上に載置し、張出部32を当て止め22に当接させ、管体10を管軸回りに回転させながら、管体10の内面10b又は端面10cに対して各種の表面処理を行う手法である。
【0028】
図1において、管体10の端部12が当て止め22に直接当接することなく、疑似受口30の張出部32が当て止め22に当接することによって、内面処理の際の中摺り研磨工程において、砥石24は管体10の内面全域に接触できる。すなわち、砥石24が管体10の内面10bの端部に接触できない事態を防止できる。また、疑似受口30の張出部32が当て止め22に当接することによって、塗装工程において、管体10の内面10bや端面10cの全域に塗料が行きわたるようになる。当て止め22が、管体10の端面10aを覆っていないからである。これにより、各種塗装のムラの発生を防止できる。以上のようなことから、疑似受口30を用いることによって、管体10の内面10b又は端面10c等に対して行う、研磨、研削、塗装だけでなく、ライニング等の各種の処理を、容易に且つ適切に行うことができる。
【0029】
上記の実施形態では、周方向スリット40は、スリット34の中心線から終端部41,41までは、管軸回りにそれぞれ90度の方位としたが、周方向スリット40を設ける範囲は適宜増減できる。このため、例えば、周方向スリット40をスリット34の中心線から終端部41,41までの範囲を、管軸回りにそれぞれ60度、120度等としてもよい。また、スリット34を延長して張出部32にもスリット34を設ければ、スリット34を切削加工する場合において、その加工の手順が容易になる。
【0030】
また、上記の実施形態では締付手段50として、対向部33,33の一方に設けられた雌ねじ部53a及び他方に設けられた貫通孔53bと、その雌ねじ部53aにねじ込まれるボルト52で構成したが、この実施形態には限定されず、ボルト、ナット等のねじを用いた各種の締付手段50、その他、各種の機構を用いた締付手段50を採用してもよい。ただし、その締付手段50を構成する部材は、疑似受口30の管体10への固定状態で、基部31の外面31aよりも内径側に入り込んでいることが望ましい。また、この疑似受口30を構成する素材は、特に限定されないが、例えば、常温で施工する表面処理であれば、取り付けが簡単なゴム製や樹脂製のものを使用でき、加熱が必要となる表面処理であれば、金属製とすることが望ましい。ただし、少なくとも張出部32の外方側端面32cに臨む素材は、当て止め22に当接することを前提に金属であることが求められる。
【0031】
さらに、上記の実施形態では、基部31はその周方向に沿って1箇所にスリット34を備えた構成としたが、例えば、スリット34の数を周方向に沿って2箇所、あるいは、3箇所以上としてもよい。この場合、そのスリット34毎に締付手段50が設置されることになる。例えば、スリット34が周方向に沿って2箇所の場合、それぞれのスリット34を挟む対向部33,33間を締付手段50で締め付けることにより、基部31は管体10の端部12の外周に固定される。ここで、仮に、各スリット34を延長して張出部32にもスリット34を設ければ、基部31及び張出部32とからなる疑似受口30は、周方向に沿って分割された2つ割りの部材となって、管体10の端部12の外周への取り付けがさらに容易になる。
【0032】
この発明の第2の実施形態を
図6~
図8に示す。第2の実施形態は、基部31に設けられるスリット34の設置を省略し、基部31の素材をゴムや樹脂等の弾性変形可能な素材として、基部31を管体10の端部12の外周に嵌め込み固定できるようにしたものである。具体的には、基部31の内面を外径側へ押し広げるように弾性変形させ、その状態で突部11を乗り越えて基部31を管体10の外周に嵌めた後、押し広げていた外力を解放することで、基部31は管体10の端部12の外面に密着するようになる。このとき、管体10の突部11が、基部31の内面の凹部31eに入り込むことで、管体10に対する疑似受口30の位置決めと脱落防止が図られている。
【0033】
実施形態では、張出部32の内方側の部分32dを基部31と一体の弾性変形可能な素材で形成し、張出部32の外方側端面32cに臨む端面部32eの素材を金属(金属板)としている。端面部32eの素材が金属であるのは、当て止め22に当接した際に、その当接する部分の素材が樹脂やゴムでは耐久性に乏しく、摩耗及び損傷が著しくなるからである。このようなことから、端面部32eの素材を金属(実施形態では鉄)としている。
【0034】
疑似受口30の管体10への取り付け状態で、張出部32は端部12よりも管軸方向外方へ突出し、且つ、張出部32の外面32aは前記管体10の外周面10aよりも大径である点は、第1の実施形態と同様である。
【0035】
図6は、モルタルライニングの作業行程を示す模式図である。図中の符号23は、モルタルを送り出す供給管bを示している。疑似受口30を用いたことにより、管体10の端部12が当て止め22に直接当接せず、疑似受口30の張出部32が当て止め22に当接することによって、供給管bから送り出されるモルタルライニング用のモルタルが、管体10の内面全域に行きわたるようになる。ここで、張出部32の内面32bを、モルタルライニング層b’の仕上がり面よりも内径側へ寸法eだけ突出させていることから、張り出し部32はモルタルが外部へ漏れ出ることを防ぐことで、モルタルライニング層b’を形成するための型枠としても機能している。
【0036】
図7は、モルタルライニング層b’の表面に堆積するレイタンスを除去する作業行程を示す模式図である。図中の符号23は、レイタンスを除去する研磨部(砥石)cを示している。疑似受口30を用いたことにより、管体10の端部12が当て止め22に直接当接せず、疑似受口30の張出部32が当て止め22に当接することによって、研磨部(砥石)cが管体10の内面全域に当接できるようになる。ここで、張出部32の内面32bを、モルタルライニング層b’の仕上がり面と面一にしていることから、研磨部(砥石)cは、モルタルライニング層b’の表面を管体10の端部12の端縁まで仕上げることができる。
【0037】
図8は、管体10の内面おけるモルタルライニング層b’の表面に、シールコート層を形成する作業行程を示す模式図である。シールコート層は、モルタルライニング層b’のモルタル中の水分の蒸発防止(養生の補助)と耐久性向上等を目的に、モルタルライニング層b’の表面にシールコート剤を塗布することで形成されるものである。張出部32の内面32bは、シールコート層の仕上がり面と面一である。
図8の符号23は、シールコート剤を吐出するノズルdを示し、ノズルdから吐出されるシールコート剤は、管体10の端部12の端縁まで確実に行きわたるようになっている。
【0038】
図6~
図8の例では、疑似受口30の管体10の端部12への固定を、基部31の素材の弾性変形を伴う嵌め込み固定としたが、その他の固定方法を採用してもよい。例えば、周方向に沿って複数に分割された円弧状の基部31、あるいは、第1の実施形態と同様に周方向1箇所のスリット34を備えたC字状の基部31を、管体10の端部12の外周に宛がい、その基部31の外面に締付手段50としてバンドを巻いて、そのバンドで内径側へ締め付けることで、基部31を管体10に固定する手法が挙げられる。また、バンドに代えてボルトやビス等のネジ部材を採用することができる。この場合、基部31の外面31aから内面31bに向かってネジ部材をねじ込み、そのネジ部材の先端を、管体10の外周面10aに当て止めすることで、基部31を管体10に固定する手法も考えられる。これらの場合、基部31には必ずしも弾性変形性能が要求されないので、基部31には任意の素材を採用できる。
【符号の説明】
【0039】
10 管体
11 突部
12 端部
30 疑似受口
31 基部
31a 外面
32 張出部
33 対向部
34 スリット
40 周方向スリット
50 締付手段
52 ボルト
53a 雌ねじ部
53b 貫通孔