IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マツダ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-ピストンリング 図1
  • 特開-ピストンリング 図2
  • 特開-ピストンリング 図3
  • 特開-ピストンリング 図4
  • 特開-ピストンリング 図5
  • 特開-ピストンリング 図6
  • 特開-ピストンリング 図7
  • 特開-ピストンリング 図8
  • 特開-ピストンリング 図9
  • 特開-ピストンリング 図10
  • 特開-ピストンリング 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150380
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】ピストンリング
(51)【国際特許分類】
   F02F 5/00 20060101AFI20231005BHJP
   F16J 9/14 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
F02F5/00 K
F16J9/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059473
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】堀端 頌子
(72)【発明者】
【氏名】宮内 勇馬
(72)【発明者】
【氏名】小林 森
【テーマコード(参考)】
3J044
【Fターム(参考)】
3J044BA03
3J044CB25
3J044DA09
(57)【要約】
【課題】燃焼圧を受けて移動するピストンのピストンリングの合口部21において、燃焼室からクランク室へ漏れるブローバイガス、そして、クランク室から燃焼室へ漏れるブローバックガス及びオイル上がりを抑制すること。
【解決手段】一般部22と合口部21にて形成されるピストンリングの合口部21の、一般部22の一端から、径方向外径側の上側の一部が連続して、他端に向って延びる第1突出部41と、一般部22の一端から、径方向外径側の下側の一部が連続して、他端に向って延びる第2突出部42と、一般部22の他端の径方向外径側に設けられ、その上面が第1突出部41の下面41aに対応して一般部22の上面よりも下方に位置する第1受入部45と、一般部22の他端の径方向外径側に設けられ、その下面が第2突出部42の上面42aに対応して一般部22の下面よりも上方に位置する第2受入部46を形成した。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関用ピストンのピストンリング溝に設けられ、一般部と合口部にて形成されるピストンリングにおいて、
前記一般部の一端から、径方向外径側の上側の一部が連続して、他端に向って延びる第1突出部と、
前記一般部の一端から、径方向外径側の下側の一部が連続して、他端に向って延びる第2突出部と、
前記一般部の他端の径方向外径側に設けられ、その上面が前記第1突出部の下面に対応して一般部の上面よりも下方に位置する第1受入部と、
前記一般部の他端の径方向外径側に設けられ、その下面が前記第2突出部の上面に対応して一般部の下面よりも上方に位置する第2受入部と、を備え、
前記第1突出部の下面と 第1受入部の上面は、径方向内側に向うほど、上方に傾斜しており、
前記第2突出部の上面と 前記第2受入部の下面は、径方向内側に向うほど、下方に傾斜していることを特徴とするピストンリング。
【請求項2】
前記第1突出部の径方向内側に形成される径方向内側端部が、前記ピストンリング内周面から外周面までの幅方向にて、リングの略中央に位置することを特徴とするピストンリング。
【請求項3】
前記ピストンリングの前記一般部の外周面の厚さ方向中央に、内径方向に凹んだ周溝を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のピストンリング。
【請求項4】
前記周溝の上方の外周面の周方向の一部が、周溝と連通するように他の部分よりも内径側に位置することを特徴とする請求項3に記載のピストンリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関のピストンに装着されるピストンリングの構造に関し、特に、合口部の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ピストンリングは、ピストンの外周面に設けられた溝に装着される。ピストンリングの合口部においては、燃焼室からクランク室へ漏れるブローバイガス、そして、クランク室から燃焼室へ漏れるブローバックガス及びオイル上がりを抑制することが必要である。
【0003】
そのために、例えば、特許文献1には、ピストンリングの一方の端部に設けられ、他方の端部に向かって延びる楔状の突出部と、ピストンリングの他方の端部に設けられ、突出部を受け容れるように切欠かれた受容部とが開示されている。
【0004】
突出部と受容部の合わせ面により、燃焼室とクランク室をシールして、ブローバイガス、ブローバックガス及びオイル上がりを抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】公開 昭60-108748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示の構造では、ガスのシール性がまだ不十分である。なぜならば、ピストンの上下動とリングが受けるガス圧によるリングの姿勢変化により、突出部と受容部との合わせ面が常に接触しているわけではなく、リングの熱収縮による隙間の変位やリング製造時での加工誤差などの影響もあり、突出部と受容部の合わせ面の微小隙間をガスが通り抜けていくからである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑みて、本件発明者は、突出部を周方向へ延ばし、突出部と受容部の合わせ面を長くすることを検討した。ガスの流通経路長が長くなり、通気抵抗が増大するので、シール性を上げられるからである。しかしながら、単純に突出部を長くすると、突出部の基端に応力集中の度合い増し、最悪の場合、突出部の欠損に繋がる為、耐久性に課題が残る。
【0008】
そこで、突出部の耐久性を確保しながら、突出部と受容部の合わせ面のシール性を向上させる方策を鋭意検討した。
【0009】
その結果、突出部の長さを抑えつつ、合わせ面を2つ設けることにより突出部の耐久性を確保し、ガスの流通経路長を長くすることによりシール性を向上するという方策を見いだした。この方策を具現化した本発明は、一般部と合口部にて形成されるピストンリングの合口部の構造である。この構造は、一般部の一端から、径方向外径側の上側の一部が連続して、他端に向って延びる第1突出部と、一般部の一端から、径方向外径側の下側の一部が連続して、他端に向って延びる第2突出部と、一般部の他端の径方向外径側に設けられ、その上面が第1突出部の下面に対応して一般部の上面よりも下方に位置する第1受入部と、一般部の他端の径方向外径側に設けられ、その下面が第2突出部の上面に対応して一般部の下面よりも上方に位置する第2受入部と、を有する。そして、第1突出部の下面と第1受入部の上面は径方向内側に向うほど上方に傾斜している。さらに、第2突出部の上面と第2受入部の下面は径方向内側に向うほど下方に傾斜している。
【0010】
本発明によれば、例えば、膨張行程では、ブローバイガスが以下のように流れる。燃焼室内のガスは、第1受入部の上面と第1突出部の下面との間の微小隙間を第1突出部の先端から基端まで進行する。そして、第2受入部の下面と第2突出部の上面との間の微小隙間を第2突出部の基端から先端まで進行する。したがって、ガスの進行経路には、第1突出部の先端から基端までの微小隙間と、第2突出部の基端から先端までの微小隙間が存在することになる。
【0011】
この2つの微小隙間によって、より大きな通気抵抗がブローバイガスに作用するため、十分なシール性を確保することができる。
【0012】
また、吸気行程では、ブローバックガスは膨張行程とは逆向きに流れる。同様に2つの微小隙間によって、より大きな通気抵抗がブローバックガスに作用するため、十分なシール性を確保することができる。
【0013】
本発明のピストンリングにおいては、第1突出部の径方向内側に形成される径方向内側端部が、ピストンリング内周面から外周面までの幅方向にて、リングの略中央に位置することが好ましい。
【0014】
このように構成することで、シール性を確保しつつ突出部の強度を確保することができる。なぜならば、突出部の径方向長さが長すぎると薄肉部分が増えることにより折れやすくなる。逆に、短すぎると突出部と受入部との合わせ面の径方向長さが短くなるためシール性が低下するからである。
【0015】
さらに、本発明のピストンリングにおいて、ピストンリングの一般部の外周面の厚さ方向中央に、内径方向に凹んだ周溝を有することが好ましい。
【0016】
このように構成することで、ピストンリング外周面とシリンダライナとの摺動抵抗を増すことなくピストンリングの強度を上げることができる。ひいてはピストンリングの厚みを増すことで、突出部を長くすることができるので、十分なシール性を確保することができる。
【0017】
上記構成において、周溝の上方の外周面の周方向の一部が、周溝と連通するように他の部分よりも内径側に位置することが好ましい。
【0018】
このように構成することで、燃焼室内のガスが周溝に充填されるようになる。この充填されたガスがピストンリングを内径側へ押し戻すように作用し、摺動抵抗の増大を抑制することができる。さらに、リングの厚みを増すことで、突出部を長くすることができるので、十分なシール性を確保することができる。
【発明の効果】
【0019】
本件の発明によれば、ピストンリングのシール性を維持しながら、長期の使用にわたって耐久性を確保可能な合口部の構造が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1実施形態にかかるエンジンの断面図である。
図2】ピストンリング単体の上面図及び合口部の拡大図。
図3】ピストンリングの側面図及び開閉時の合口部の拡大図。
図4】一端を拡大した斜視図。
図5】他端を拡大した斜視図。
図6】合口部が閉じられた時の合口部斜視図。
図7図6の断面BBでの斜視図。
図8】膨張行程で微小隙間を流れるブローバイガスを示す模式図である。
図9図6の断面BBでの断面図
図10】一般部での断面図
図11】周溝と燃焼室が連通する位置での断面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に示すように、例えば自動車に用いられるエンジン100は、上下方向に延びる円筒状のシリンダ1を内部に形成するシリンダブロック2、その上部に締結されたシリンダヘッド3、そしてシリンダ1の内部に往復運動可能に収容されたピストン5を備えている。
【0022】
周知のとおり、ピストン5、シリンダ1、そしてシリンダヘッド3により燃焼室Vが形成される。燃焼室Vには吸気ポート6および排気ポート7が開口しており、吸気ポート6を開閉する吸気弁8と排気ポート7を開閉する排気弁9とがシリンダヘッド3に設けられている。燃焼室Vでは、図外のインジェクタから噴射される燃料と吸気ポート6から導入された空気とが混合されて燃焼し、燃焼ガスによる膨張力を受けてピストン5が押し下げられる。なお、当実施形態のエンジンは、ガソリンを燃料として供給するガソリンエンジンである。このため、シリンダヘッド3には、燃焼室V内の混合気に着火するための点火プラグ孔4が設けられている。
【0023】
ピストン5の下方に位置するクランク室Cには、出力軸であるクランクシャフト11が、シリンダ1の中心軸であるシリンダ軸線Xと直交する方向(紙面に直交する方向)に延びるように配設されている。クランクシャフト11はコネクティングロッド12を介してピストン5と連結されており、ピストン5の往復運動に応じてクランクシャフト11が中心軸回りに回転するようになっている。したがって、燃焼ガスによる膨張力を受けてピストン5が押し下げられることにより、クランクシャフト11からトルクが出力される。
【0024】
ピストン5の外周にはリング溝31が設けられ、その中にピストンリング20が配置される。
【0025】
図2及び図3に示すように、ピストンリング20はステンレス等の鋼材で形成され、ピストンリング20の大部分を占める一般部22と、合口部21にて形成されている。合口部21はピストンリングの一端23と他端24により構成される。
【0026】
ピストンリング20は図6,7に示されるようにリング溝31に装着し、シリンダ1に組み込まれた状態では合口部21が閉じた状態となる。
【0027】
図4に示すように、一端23は、一般部22から、径方向外径側の上側43の一部が連続して、周方向に向って延びる第1突出部41が形成されている。第1突出部41の径方向内側に形成される径方向内側端部47は、ピストンリング20の内周面25から外周面26までの幅方向にて、リングの略中央に位置している。また、第1突出部41と同様の形状にて、第2突出部42が径方向外径側の下側44に設けられている。
【0028】
図5に示すように、他端24は、一般部22から、径方向外径側の上側43に、第1突出部41の下面41aに対応して一般部22の上面27よりも下方に位置する第1受入部45が設けられている。また、第1受入部45と同様の形状にて、一般部22の下面28よりも上方に位置する第2受入部46が設けられている。
【0029】
図4及び図5に示すように、第1突出部41の下面41aと 第1受入部45の上面45aは、径方向内周面25に向うほど、上方に傾斜しており、第2突出部42の上面42aと 第2受入部46の下面46aは、径方向の内周面25に向うほど、下方に傾斜している。
【0030】
図6に示すように、ピストンリング20は、エンジン100への組付け状態では、一端23から伸びる第1突出部41が他端24に設けられた第1受入部45に形成された空間に受け入れられた状態となっている。また、同様に一端23から伸びる第2突出部42が他端24に設けられた第2受入部46に形成された空間に受け入れられた状態となっている。したがって、一般部22と合口部21のリングの外形形状が、同一となっている。
【0031】
さらに、一端23から他端24までの一般部22の外周面26の厚さ方向中央に、内径方向に凹んだ周溝49が形成され、周溝49の上方の外周面26に周溝49と連通するように連通部50が一定間隔で形成されている。
【0032】
図7に示すように、第1突出部41の下面41aと第1受入部45の上面45aとの間に微小隙間48aが形成される。同様に、第2突出部42の上面42aと第2受入部46の下面46aとの間に微小隙間48bが形成される。
【0033】
図8に示すように、例えば、膨張行程では、ブローバイガスが以下のように流れる。燃焼室V内のガスは、図示の矢印のように、未図示の第1突出部41の先端41bと他端24との隙間から下向きに流れ込み、微小隙間48aを第1突出部41の基端41cまで進行する。そして、基端52aに到達したガスは第2突出部42の基端52bに向って下方へさらに流れる。その後、微小隙間48bを第2突出部42の基端52bから先端51bまで進行する通路を形成することになる。
【0034】
このように、ガスの抜け道となるピストンリング20の上面から下面までを連通する隙間通路は、ピストンリング20の上下面に設けられた、突出部41,42と受入部45,46との組み合わせを2つ設けることで、微小隙間48aと48bが存在することになる。
【0035】
その結果、突出部の長さを抑えて耐久性を確保しながら、合わせ面を2つ設けて、微小隙間による通路長が長くなることで、ガスの流通抵抗が増し、ガスのシール性を向上することが出来る。
【0036】
図9に示すように、例えば、膨張行程では、ピストンリング20は燃焼室V内のガス圧により、リング溝31の下面に押し付けられる。さらにピストンリング20の内周面25に入り込んだガスのガス圧によりシリンダ1へ押し付けられながらピストン5は下降する。
【0037】
ところで、ピストンリング20の内周側に回り込んだ燃焼室V内のガスは、径方向内側に出来る一端23と他端24の隙間に入り込む。しかし、ピストンリング20は、シリンダ1の摺動面とリング溝31の下面側に押し付けられるためシール性は確保される。
【0038】
図10に示すように、ピストンリング20の一般部22の外周面26の厚さ方向中央に、内径方向に凹んだ周溝49が設けられている。シリンダ1と外周面26との接触幅を低減することで、摺動抵抗を減らすことができる。
【0039】
図11に示すように、周溝49の上方の外周面26の周方向の一部が、周溝49と連通するように連通部50が設けられている。
例えば、膨張行程では、燃焼室V内のガスは、連通部50から周溝49へと流れ込む。そのガスにより、ピストンリング20は径方向内側へのガス圧が発生し、摺動抵抗をさらに減らすことができる。
【符号の説明】
【0040】
1・・・シリンダ
5・・・ピストン
20・・・ピストンリング
21・・・合口部
22・・・一般部
23・・・一端
24・・・他端
31・・・リング溝
41・・・第1突出部
41a・・・第1突出部の下面
41b・・・第1突出部の先端
41c・・・第1突出部の基端
42・・・第2突出部
42a・・・第2突出部の上面
43・・・径方向外径側の上側
44・・・径方向外径側の下側
45・・・第1受入部
45a・・・第1受入部の上面
46・・・第2受入部
46a・・・第2受入部の下4面
47・・・径方向内側端部
48a、48b・・・微小隙間
49・・・周溝
50・・・連通部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11