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特開2023-150384眼科装置用黒点板およびその製造方法、眼科装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150384
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】眼科装置用黒点板およびその製造方法、眼科装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/14 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
A61B3/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059478
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】秋葉 正博
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA09
4C316AB16
4C316FY03
4C316FZ02
(57)【要約】
【課題】ゴーストの発生を防止する黒点板において、より簡便な方法で製造することができ、かつ、基板やその他被覆層と黒点板との界面での反射を抑制することのできる眼科装置用黒点板及びこれを用いた眼科装置を提供する。
【解決手段】基板層と、前記基板層上に設けられた少なくとも一層から構成された反射防止層と、前記反射防止層上に小黒点として設けられた遮光層とを有する眼科装置用黒点板であって、前記反射防止層と前記遮光層との間には、前記反射防止層からの入射光の反射を防止する誘電体層からなる第1屈折率マッチング層が設けられ、前記遮光層上には、空気からの入射光の反射を防止する誘電体層からなる第2屈折率マッチング層が設けられたことを特徴とする眼科装置用黒点板。
【選択図】図6

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板層と、
前記基板層上に設けられた少なくとも一層から構成された反射防止層と、
前記反射防止層上に小黒点として設けられた遮光層とを有する眼科装置用黒点板であって、
前記反射防止層と前記遮光層との間には、前記反射防止層からの入射光の反射を防止する誘電体層からなる第1屈折率マッチング層が設けられ、
前記遮光層上には、空気からの入射光の反射を防止する誘電体層からなる第2屈折率マッチング層が設けられたことを特徴とする眼科装置用黒点板。
【請求項2】
基板層と、
前記基板層上に小黒点として設けられた遮光層と、
前記遮光層を覆って前記基板層上に設けられた少なくとも一層から構成された反射防止層とを有する眼科装置用黒点板であって、
前記基板層と前記遮光層との間には、前記基板層からの入射光の反射を防止する誘電体層からなる第1屈折率マッチング層が設けられ、
前記遮光層と前記反射防止層との間には、前記反射防止層からの入射光の反射を防止する誘電体層からなる第2屈折率マッチング層が設けられたことを特徴とする眼科装置用黒点板。
【請求項3】
基板層と、
前記基板層上に小黒点として設けられた遮光層と、
前記遮光層を覆って前記基板層上に設けられた接着剤層と、
前記接着剤層上に設けられたもう一方の基板層とを有する眼科装置用黒点板であって、
前記基板層と前記遮光層との間には、前記基板層からの入射光の反射を防止する誘電体層からなる第1屈折率マッチング層が設けられ、
前記遮光層と前記接着剤層との間には、前記接着剤層からの入射光の反射を防止する誘電体層からなる第2屈折率マッチング層が設けられたことを特徴とする眼科装置用黒点板。
【請求項4】
前記少なくとも一方の屈折率マッチング層中に、前記遮光層と同じ材料で形成された金属薄層が設けられたことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の眼科装置用黒点板。
【請求項5】
前記基板層上に前記反射防止層を形成し、
前記反射防止層上に所望のパターンを有するマスキング層を形成した後、前記第1屈折率マッチング層を構成する誘電体層、前記遮光層、前記第2屈折率マッチング層を構成する誘電体層を形成し、
前記マスキング層を除去することを特徴とする請求項1に記載の眼科装置用黒点板の製造方法。
【請求項6】
前記基板層上に所望のパターンを有するマスキング層を形成した後、前記第1屈折率マッチング層を構成する誘電体層、前記遮光層、前記第2屈折率マッチング層を構成する誘電体層を形成し、
前記マスキング層を除去し、
前記第1屈折率マッチング層、前記遮光層、前記第2屈折率マッチング層を覆うように、前記基板層上に前記反射防止層を形成することを特徴とする請求項2に記載の眼科装置用黒点板の製造方法。
【請求項7】
前記基板層上に所望のパターンを有するマスキング層を形成した後、前記第1屈折率マッチング層を構成する誘電体層、前記遮光層、前記第2屈折率マッチング層を構成する誘電体層を形成し、
前記マスキング層を除去し、
前記第1屈折率マッチング層、前記遮光層、前記第2屈折率マッチング層を覆うように、前記基板層上に前記接着剤層を形成し、
前記接着剤層上に前記もう一方の基板層を接着することを特徴とする請求項3に記載の眼科装置用黒点板の製造方法。
【請求項8】
前記第1屈折率マッチング層および/または前記第2屈折率マッチング層の形成に際しては、少なくとも一層の金属薄層を前記誘電体層中に形成することを特徴とする請求項5~7のいずれかに記載の眼科装置用黒点板の製造方法。
【請求項9】
前記所望のパターンを有するマスキング層の形成と、前記屈折率マッチング層および前記遮光層の形成と、その後のマスキング層の除去に代えて、
前記屈折率マッチング層および前記遮光層を全面に形成した後に不要部分を除去して所望のパターンとすることを特徴とする請求項5~7のいずれかに記載の眼科装置用黒点板の製造方法。
【請求項10】
照明光源からの照明光を穴鏡を介して被検眼に投影して前記被検眼を照明する照明系と、
前記被検眼を撮影する光路中に設けられる撮影絞りを有する撮影系とを備え、
前記照明系及び前記撮影系は被検眼と前記穴鏡との間に配設された互いに共用する対物レンズを有し、前記照明系は請求項1~4のいずれかに記載の眼科装置用黒点板を有すると共に、前記対物レンズのレンズ面を反射面と考えたとき、前記撮影絞りの開口部の像が形成される位置と前記遮光層が前記反射面を介して共役に設けられて、前記撮影絞りの開口部の前記像が前記遮光層により覆われるようにしたことを特徴とする眼科装置。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検眼の観察・撮影等に用いられる眼科装置に用いられる眼科装置用黒点板と、これを用いた眼科装置に関する。
【背景技術】
【0002】
眼底カメラ等の眼科装置においては、照明光源から照明光を対物レンズを介して被検眼に投影する照明系と、照明光の被検眼からの反射光をこの対物レンズ及び撮影絞りを介して観察手段及び撮影手段までそれぞれ案内する観察系及び撮影系を有する。
【0003】
このような眼科装置においては、被検眼に対向する対物レンズの表面による反射光が観察系・撮影系に有害光として混入し、フレヤーやゴーストの原因となり、鮮明な眼底の観察・撮影が行えない。
【0004】
従来、このような有害光を除去するために、様々な技術が開発されている。例えば、特許文献1には、光を透過可能な複数枚積層された基板間に黒色塗料層が小黒点として形成された黒点板が設けられた眼科装置が開示されている。この黒点板によれば、照明光源の光軸方向から見て中心部近傍に黒点が重なっており、この部分の照明光が遮蔽される。これにより、対物レンズ中心部近傍でのゴースト等の発生を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3576645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の黒点板の製造方法においては、黒点の黒色塗料を充填するための微小な孔を基板上に形成するため、エッチング等の化学的手段、研削等の物理的手段を用いていた。
【0007】
このような手段による微小孔の形成においては、以下のような諸問題があった。まず、上記化学的手段・物理的手段に伴う設計上の制約があり、微小孔全域にわたって深さを均一にすることが難しかった。特に化学的手段においては、ある程度以上に微小孔を深くしようとすると長時間の溶解が必要となり、長時間の溶解に伴って微小孔の底部に凹凸が生じて均一にすることができない場合があった。また、複数の黒点板の製造に際して微小孔の形成にバラツキがあり再現性が悪かった。また、微小孔の形成後、深さの測定にも時間を要していた。さらには、基板の微小孔に直接黒色塗料を充填するため、両者の屈折率差によっては、基板側からの入射光が基板-黒色塗料層界面で反射を起こしてしまっていた。
【0008】
そこで、本発明は、フレヤーやゴーストの発生を防止する黒点板において、より簡便な方法で製造することができ、かつ、基板やその他被覆層と黒点板との界面での反射を抑制することのできる眼科装置用黒点板及びこれを用いた眼科装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、基板層と、前記基板層上に設けられた少なくとも一層から構成された反射防止層と、前記反射防止層上に小黒点として設けられた遮光層とを有する眼科装置用黒点板であって、前記反射防止層と前記遮光層との間には、前記反射防止層からの入射光の反射を防止する誘電体層からなる第1屈折率マッチング層が設けられ、前記遮光層上には、空気からの入射光の反射を防止する誘電体層からなる第2屈折率マッチング層が設けられたことを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、基板層と、前記基板層上に小黒点として設けられた遮光層と、前記遮光層を覆って前記基板層上に設けられた少なくとも一層から構成された反射防止層とを有する眼科装置用黒点板であって、前記基板層と前記遮光層との間には、前記基板層からの入射光の反射を防止する誘電体層からなる第1屈折率マッチング層が設けられ、前記遮光層と前記反射防止層との間には、前記反射防止層からの入射光の反射を防止する誘電体層からなる第2屈折率マッチング層が設けられたことを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、基板層と、前記基板層上に小黒点として設けられた遮光層と、前記遮光層を覆って前記基板層上に設けられた接着剤層と、前記接着剤層上に設けられたもう一方の基板層とを有する眼科装置用黒点板であって、前記基板層と前記遮光層との間には、前記基板層からの入射光の反射を防止する誘電体層からなる第1屈折率マッチング層が設けられ、前記遮光層と前記接着剤層との間には、前記接着剤層からの入射光の反射を防止する誘電体層からなる第2屈折率マッチング層が設けられたことを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1~3のいずれかに記載の発明において、前記少なくとも一方の屈折率マッチング層中に、前記遮光層と同じ材料で形成された金属薄層が設けられたことを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の眼科装置用黒点板の製造方法であって、前記基板層上に前記反射防止層を形成し、前記反射防止層上に所望のパターンを有するマスキング層を形成した後、前記第1屈折率マッチング層を構成する誘電体層、前記遮光層、前記第2屈折率マッチング層を構成する誘電体層を形成し、前記マスキング層を除去することを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項2に記載の眼科装置用黒点板の製造方法であって、前記基板層上に所望のパターンを有するマスキング層を形成した後、前記第1屈折率マッチング層を構成する誘電体層、前記遮光層、前記第2屈折率マッチング層を構成する誘電体層を形成し、前記マスキング層を除去し、前記第1屈折率マッチング層、前記遮光層、前記第2屈折率マッチング層を覆うように、前記基板層上に前記反射防止層を形成することを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載の発明は、請求項3に記載の眼科装置用黒点板の製造方法であって、前記基板層上に所望のパターンを有するマスキング層を形成した後、前記第1屈折率マッチング層を構成する誘電体層、前記遮光層、前記第2屈折率マッチング層を構成する誘電体層を形成し、前記マスキング層を除去し、前記第1屈折率マッチング層、前記遮光層、前記第2屈折率マッチング層を覆うように、前記基板層上に前記接着剤層を形成し、前記接着剤層上に前記もう一方の基板層を接着することを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載の発明は、請求項5~7のいずれかに記載の発明において、前記第1屈折率マッチング層および/または前記第2屈折率マッチング層の形成に際しては、少なくとも一層の金属薄層を前記誘電体層中に形成することを特徴とする。
【0017】
請求項9に記載の発明は、請求項5~7のいずれかに記載の発明において、前記所望のパターンを有するマスキング層の形成と、前記屈折率マッチング層および前記遮光層の形成と、その後のマスキング層の除去に代えて、前記屈折率マッチング層および前記遮光層を全面に形成した後に不要部分を除去して所望のパターンとすることを特徴とする。
【0018】
請求項10に記載の発明は、照明光源からの照明光を穴鏡を介して被検眼に投影して前記被検眼を照明する照明系と、前記被検眼を撮影する光路中に設けられる撮影絞りを有する撮影系とを備えた眼科装置であって、前記照明系及び前記撮影系は被検眼と前記穴鏡との間に配設された互いに共用する対物レンズを有し、前記照明系は請求項1~4のいずれかに記載の眼科装置用黒点板を有すると共に、前記対物レンズのレンズ面を反射面と考えたとき、前記撮影絞りの開口部の像が形成される位置と前記遮光層が前記反射面を介して共役に設けられて、前記撮影絞りの開口部の前記像が前記遮光層により覆われるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、従来技術の小黒点に相当する遮光層を形成するにあたり、基板や反射防止層に微小孔を設けるのではなく、マスキング技術を用いて所望のパターンにて遮光層を形成しているので、遮光層の幅や厚さといった寸法の設計上の制約が無く、全面にわたり厚さが均一であり、複数回製造しても再現性が高く、製造後に寸法を計測する必要が無い。また、基板層や反射防止層上に第1屈折率マッチング層を介して遮光層を形成しているので、基板側からの入射光が基板-遮光層間で反射を起こすことが抑制される。遮光層の基板層と反対側、すなわち、反射防止層、接着剤層、空気との間には第2屈折率マッチング層が形成されているので、こちら側からの入射光の反射も同時に抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】黒点板を有さない従来の眼科装置の模式図である。
図2】中心ゴーストを示す写真画像である。
図3】黒点板を有する従来の眼科装置の模式図である。
図4】黒点板の挿入による黒点影を示す写真画像である。
図5】従来の黒点板の模式断面図である。
図6】本発明の第1実施形態に係る黒点板の模式断面図である。
図7】本発明の第2実施形態に係る黒点板の模式断面図である。
図8】本発明の第3実施形態に係る黒点板の模式断面図である。
図9】実施例での黒点板の透過率、表面反射率、裏面反射率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図を参照して本発明を詳細に説明する。
図1には、本発明が対象とする眼底カメラ等の眼科装置100の光学系の概略が示される。まず、眼科装置100の照明光学系として、上流側より、観察用の照明光源101と、レンズ102、穴部(絞り)103aを有する穴鏡103、対物レンズ104が設けられている。符号200は被検眼である。照明光源101より照射された光は、細線Aで示す通り、レンズ102を経て、穴鏡103で反射され、対物レンズ104を経て、被検眼の網膜に照射される。
【0022】
次に、観察・撮影光学系として、センサー106、レンズ105、穴鏡103、対物レンズ104、被検眼200に至る。照明光源101より被検眼200の網膜に照射された光は、中線Bで示す通り、対物レンズ104を経て、穴鏡103の穴部103aを通過し、レンズ105を経て、センサー106によって受光されて、眼底像のデータとして、図示しない観察手段に供される。
【0023】
ここで、対物レンズ104の表面104aでは、界面で反射光が生じ、太線Cで示す経路でセンサー106に到達し、図2に示すようなゴーストとして観察される。本発明の黒点板はこれを防止するために用いられるものである。
【0024】
次に、図1の眼科装置100に、黒点板を挿入した模式図を図3に示す。照明光学系において、照明光源101とレンズ102の間に、黒点板107が挿入されている。照明光源101からの光は、細線Aで示すように照射されるが、黒点板107が影となり、太線Cで示すように光軸中央近傍の照明光が遮蔽される。その後照明光は穴鏡103で反射され、Cで示すように対物レンズ表面104aの表面の中央近傍を遮蔽する。これにより、対物レンズ表面104aで反射光が生じることが防止され、センサー106でゴーストが検出されない。なお、黒点の寸法次第で、あるいは、遮蔽領域が大きくなって観察・撮影系に影響を及ぼし、図4に示すような眼底像に黒点影が発生するという別の問題が生じる。
【0025】
図5に、上述した従来技術による黒点板の模式断面図を示す。(a)は平面図、(b)は側断面図である。従来の黒点板10は、ガラス等で構成された基板層11と、基板層11上に設けられた微小孔に黒色塗料を充填してなる遮光層12と、その上に形成された反射防止層13とを有する。上述した通り、従来の黒点板10では、基板層に化学的あるいは物理的に微小孔を形成していたので、設計上の制約があり、微小孔全域にわたって深さを均一にすることが難しく、複数の黒点板を製造するに際して再現性が悪く、また、微小孔の形成後、深さの測定にも時間を有していた。さらには、微小孔に直接黒色塗料を充填するため、両者の屈折率差によっては、基板側からの入射光が基板-黒色塗料層界面で反射を起こしてしまっていた。
【0026】
本発明は、これらの問題を解決するものであり、以下、図を参照して詳細に説明する。
<第1実施形態>
図6(a)は、本発明の第1実施形態に係る黒点板20の模式断面図である。黒点板20は、ガラスなどの透明な材質で構成された基板層21を有し、その表面には、反射防止層22が設けられている。反射防止層22は、基板層21と空気との間の反射を防止するような屈折率のものが選択される。反射防止層22の表面には、黒点層23が設けられている。以上が第1実施形態の基本構成である。なお、図6(a)では黒点層23は凸部を構成しているが、これは黒点層23の上下方向に長さを誇張したものであり、実際の黒点層23は、厚さがnmオーダーの薄層である。
【0027】
第1実施形態の黒点板を詳細に拡大すると、図6(b)に示すように、黒点層23は、光を不透過である遮光層24と、遮光層24と反射防止層22との間に、誘電体層25aで構成された第1屈折率マッチング層25を有する。また、黒点層23は、遮光層24と周囲の雰囲気(空気)との間に、誘電体層26aで構成された第2屈折率マッチング層26を有する。
【0028】
第1屈折率マッチング層25は、図面下方からの入射光が反射防止層22と遮光層24との界面で反射が起こらないよう、反射防止層22の屈折率と遮光層24の屈折率とを勘案してその屈折率が選択される。同様にして、第2屈折率マッチング層26は、図面上方からの入射光が空気と遮光層24との界面で反射が起こらないよう、空気の屈折率と遮光層24の屈折率とを勘案してその屈折率が選択される。
【0029】
黒点層23における各層の厚さについて述べる。遮光層24は、光を不透過とすることが必要であり、遮光するのに十分な厚さであればよい。通常、100nm以上で成膜される。第1屈折率マッチング層25および第2屈折率マッチング層26は、本実施形態のように誘電体層25a、26aの単層で構成されることもあり、また、後述の変更例のように多層で構成されることもあるが、85~500nmの範囲で成膜される。
【0030】
遮光層24の材質は、金属が好ましく、特に、Cr、Ni、Ti、Fe、Si、Ta、Nb、Zr、Mo、W等が特に好ましい。第1屈折率マッチング層25および第2屈折率マッチング層26を構成する誘電体層25aおよび26aの材質は、SiO、NbO、Y、Al、TiO、Ta、ZrO、HfO等の酸化物系や、MgF等のフッ化物系が好ましい。図6(b)では、誘電体層25aおよび26aはそれぞれ一層として図示しているが、これらの化合物から2種以上を選択して2層以上を積層して第1屈折率マッチング層25および第2屈折率マッチング層26を構成してもよい。
【0031】
上記黒点板20aの製造方法は下記の通りである。すなわち、ガラス等の透明な基板層21上に、公知の方法で反射防止層22を成膜する。続いて、反射防止層22上に、マスク成膜(穴の開いたマスクをかぶせて成膜)、リフトオフ成膜等のマスキングを行う公知の方法にて、所望のパターンが形成された図示しないマスキング層を成膜する。
【0032】
このマスキング層に対して、第1屈折率マッチング層25を構成する1または複数の誘電体層25aの材料によって、蒸着やスパッタリング等の公知の成膜を行い、マスキング層の所望のパターン内に、所望の厚さにて第1屈折率マッチング層25を成膜する。続いて、遮光層24の材料、第2屈折率マッチング層26を構成する1または複数の誘電体層26aの材料によって同様に成膜を行う。最後に、マスキング層を除去する。以上のようにして、図6(b)に示す第1実施形態の黒点板20aが得られる。
【0033】
あるいは、マスキング技術に代えて、フォトリソグラフィを用いることも可能である。すなわち、反射防止層22上に、所望の厚さにて第1屈折率マッチング層25、遮光層24の材料、第2屈折率マッチング層26の成膜を全面に行う。続いて、フォトリソグラフィなどでパターニング・エッチングを行い不要部分を除去する方法である。
【0034】
本発明の黒点板の製造方法によれば、穴あけ加工をせずに平滑な表面に成膜を行うので、全面にわたり均一な厚さを得ることができ、nmオーダーで厚さを制御することができ、さらに、複数個の黒点板を製造する際にも再現性が高い。
【0035】
<第1実施形態、変更例1>
図6(c)に、第1実施形態の変更例を示す。この変更例の黒点板20bにおいては、第1屈折率マッチング層25および第2屈折率マッチング層26の層中に、遮光層24を構成する材料と同種の材料(金属)で構成された金属薄層25b、26bが形成されている。すなわち、第1屈折率マッチング層25においては誘電体層25a、金属薄層25b、誘電体層25aの順に積層され、第2屈折率マッチング層26においては誘電体層26a、金属薄層26b、誘電体層26aの順に積層されている。
【0036】
なお、金属薄層は、第1屈折率マッチング層25と第2屈折率マッチング層26のどちらか一方にのみ形成されていてもよい。金属薄層25bおよび26bの厚さは、約10~200nmの範囲で成膜される。
【0037】
本第1実施形態の変更例によれば、屈折率マッチング層中に吸収作用を持つ薄層を挿入することで、膜内に侵入した光を吸収減衰させることができる。それにより干渉効果による反射光低減だけでなく、吸収効果による反射光低減を実現することができるという効果を奏する。
【0038】
黒点板20bの製造方法は、上記のマスキング工程において、マスキング層の所望のパターン内に、誘電体層25aの材料、金属薄層25bの材料、誘電体層25aの材料(以上3層で第1屈折率マッチング層25を構成)、遮光層24の材料、誘電体層26aの材料、金属薄層26bの材料、誘電体層26aの材料(以上3層で第2屈折率マッチング層26を構成)という順に成膜を行う。続いて、マスキング層を除去する。あるいは、フォトリソグラフィを用いる場合は、マスキング工程に代えて、誘電体層25a、金属薄層25b、誘電体層25a、遮光層24、誘電体層26a、金属薄層26b、誘電体層26aという順に全面に成膜し、不要部分を除去する。以上のようにして、図6(c)に示す黒点板20bが得られる。
【0039】
<第1実施形態、変更例2>
図6(d)に、第1実施形態の変更例2を示す。この変更例の黒点板20cにおいては、上述の黒点板20bと同様に第1屈折率マッチング層25および第2屈折率マッチング層26の層中に、遮光層24を構成する材料と同種の材料(金属)で構成された金属薄層25a、26aが2層ずつ形成されている。なお、図6(d)は一例であり、第1屈折率マッチング層25と第2屈折率マッチング層26のどちらか一方に金属薄層が2層設けられていて他方には0~1層設けられていても良い。また、第1屈折率マッチング層25と第2屈折率マッチング層26の両方あるいは一方に3層以上の金属薄層を設けても良い。
【0040】
本第1実施形態の変更例によれば、屈折率マッチング層を多層構成にすることで、反射防止帯域を広帯域に広げることや、より反射率を低減することが可能になる。
【0041】
黒点板20cの製造方法は、黒点板20bの製造方法と同様である。マスキング工程において、マスキング層の所望のパターン内に、所望の層順となるように順次成膜を行う。続いて、マスキング層を除去する。以上のようにして、図6(d)に示す黒点板20cが得られる。
【0042】
<第2実施形態>
図7(a)は、本発明の第2実施形態に係る黒点板30の模式断面図である。黒点板30は、ガラスなどの透明な材質で構成された基板層31を有し、その表面には、黒点層33が設けられている。そして、黒点層33を覆うようにして、基板層31上に反射防止層32が設けられている。反射防止層32は、基板層31と空気との間の反射を防止するような屈折率のものが選択される。以上が第2実施形態の基本構成である。
【0043】
第2実施形態の黒点板を詳細に拡大すると、図7(b)に示すように、黒点層33は、光を不透過である遮光層34と、遮光層34と基板層31との間に、誘電体層35aで構成された第1屈折率マッチング層35を有する。また、黒点層23は、遮光層34とそれを覆う周囲の反射防止層32との間に、誘電体層36aで構成された第2屈折率マッチング層36を有する。
【0044】
第1屈折率マッチング層35は、図面下方からの入射光が基板層31と遮光層34との界面で反射が起こらないよう、基板層31の屈折率と遮光層34の屈折率とを勘案してその屈折率が選択される。同様にして、第2屈折率マッチング層36は、図面上方からの入射光が反射防止層32と遮光層34との界面で反射が起こらないよう、反射防止層32の屈折率と遮光層34の屈折率とを勘案してその屈折率が選択される。
【0045】
上記黒点板30aの製造方法は下記の通りである。すなわち、ガラス等の透明な基板層31上に、マスク成膜(穴の開いたマスクをかぶせて成膜)、リフトオフ成膜等のマスキングを行う公知の方法にて、所望のパターンが形成された図示しないマスキング層を成膜する。
【0046】
このマスキング層に対して、第1屈折率マッチング層35を構成する1または複数の誘電体層35aの材料によって、蒸着やスパッタリング等の公知の成膜を行い、マスキング層の所望のパターン内に、所望の厚さにて第1屈折率マッチング層35を成膜する。続いて、遮光層34の材料、第2屈折率マッチング層36を構成する1または複数の誘電体層36aの材料によって同様に成膜を行う。最後に、マスキング層を除去する。あるいは、マスキング技術に代えて、前述のフォトリソグラフィを用いる。続いて、黒点層33を覆うように、公知の方法で反射防止層32を成膜する。以上のようにして、図7(b)に示す第2実施形態の黒点板30aが得られる。
【0047】
<第2実施形態、変更例1>
図7(c)に、第2実施形態の変更例を示す。この変更例の黒点板30bにおいては、第1屈折率マッチング層35および第2屈折率マッチング層36の少なくとも一方の層中に、遮光層34を構成する材料と同種の材料(金属)で構成された金属薄層35b、金属36bが形成されている。なお、薄層は、どちらか一方にのみ形成されていてもよい。この変更例の黒点板30bの黒点層33の製造工程は、第1実施形態の変更例の黒点板20bの黒点層23の製造工程におけるマスキング工程と同様であるので、説明を省略する。
【0048】
<第2実施形態、変更例2>
図7(d)に、第2実施形態の変更例を示す。この変更例の黒点板30cにおいては、上述の黒点板30bと同様に第1屈折率マッチング層35および第2屈折率マッチング層36の少なくとも一方の層中に、遮光層34を構成する材料と同種の材料(金属)で構成された金属薄層35b、金属36bが二層ずつ形成されている。この変更例の黒点板30cの黒点層33の製造工程は、第1実施形態の変更例の黒点板20cの黒点層23の製造工程におけるマスキング工程と同様であるので、説明を省略する。また、金属薄層は第1屈折率マッチング層35および第2屈折率マッチング層36にそれぞれ二層ずつ設けた形態に限定されないのも同様である。
【0049】
<第3実施形態>
図8(a)は、本発明の第3実施形態に係る黒点板40の模式断面図である。黒点板40は、ガラスなどの透明な材質で構成された基板層41を有し、その表面には、黒点層43が設けられている。そして、黒点層43を覆うようにして、基板層41上に接着剤層42が設けられている。さらに、接着剤層42上には、もう一方の基板層47が接着されている。接着剤層42およびもう一方の基板層47は、基板層41と空気との間の反射を防止するような屈折率のものが選択される。以上が第3実施形態の基本構成である。
【0050】
第3実施形態の黒点板を詳細に拡大すると、図8(b)に示すように、黒点層43は、光を不透過である遮光層44と、遮光層44と基板層41との間に、誘電体層45aで構成された第1屈折率マッチング層45を有する。また、黒点層43は、遮光層44とそれを覆う周囲の接着剤層42との間に、誘電体層45aで構成された第2屈折率マッチング層46を有する。
【0051】
第1屈折率マッチング層45は、図面下方からの入射光が基板層41と遮光層44との界面で反射が起こらないよう、基板層41の屈折率と遮光層44の屈折率とを勘案してその屈折率が選択される。同様にして、第2屈折率マッチング層46は、図面上方からの入射光が接着剤層42と遮光層44との界面で反射が起こらないよう、接着剤層42の屈折率と遮光層44の屈折率とを勘案してその屈折率が選択される。
【0052】
上記黒点板40aの製造方法は下記の通りである。すなわち、ガラス等の透明な基板層41上に、マスク成膜、(穴の開いたマスクをかぶせて成膜)、リフトオフ成膜等のマスキングを行う公知の方法にて、所望のパターンが形成された図示しないマスキング層を成膜する。
【0053】
このマスキング層に対して、第1屈折率マッチング層45を構成する1または複数の誘電体層45aの材料によって、蒸着やスパッタリング等の公知の成膜を行い、マスキング層の所望のパターン内に、所望の厚さにて第1屈折率マッチング層45を成膜する。続いて、遮光層44の材料、第2屈折率マッチング層46を構成する1または複数の誘電体層46aの材料によって同様に成膜を行う。最後に、マスキング層を除去する。あるいは、マスキング技術に代えて、前述のフォトリソグラフィを用いる。続いて、黒点層43を覆うように、公知の方法で接着剤層42を成膜する。最後に、接着剤層42上に、もう一方の基板層47を貼付けする。以上のようにして、図8(b)に示す第3実施形態の黒点板40aが得られる。
【0054】
<第3実施形態、変更例1>
図8(c)に、第3実施形態の変更例を示す。この変更例の黒点板40bにおいては、第1屈折率マッチング層45および第2屈折率マッチング層46の少なくとも一方の層中に、遮光層44を構成する材料と同種の材料(金属)で構成された金属薄層35b、金属36bが形成されている。なお、薄層は、どちらか一方にのみ形成されていてもよい。この変更例の黒点板40bの黒点層43の製造工程は、第1実施形態の変更例の黒点板20bの黒点層23の製造工程におけるマスキング工程と同様であるので、説明を省略する。
【0055】
<第3実施形態、変更例2>
図8(d)に、第3実施形態の変更例を示す。この変更例の黒点板40cにおいては、上述の黒点板40bと同様に第1屈折率マッチング層45および第2屈折率マッチング層46の少なくとも一方の層中に、遮光層44を構成する材料と同種の材料(金属)で構成された金属薄層35b、金属36bが二層ずつ形成されている。この変更例の黒点板40cの黒点層43の製造工程は、第1実施形態の変更例の黒点板20cの黒点層23の製造工程におけるマスキング工程と同様であるので、説明を省略する。また、金属薄層は第1屈折率マッチング層45および第2屈折率マッチング層46にそれぞれ二層ずつ設けた形態に限定されないのも同様である。
【0056】
以上説明した本発明の眼科装置用黒点板は、黒点層の製造方法に特徴を有していることから、黒点層の設計精度が向上しており、また、黒点層においては、遮光層と他の層の界面において屈折率マッチング層を設けているから、透過率および反射率の性能が向上しており、例えば図3に示すように、従来の黒点板を使用する眼底カメラ等の眼科装置において、黒点板を置き換えることで使用することができる。
【実施例0057】
以下、製造例の一例を説明する。
図6(c)に示す第1実施形態の変更例1の黒点板20bの構成にて、眼科装置用黒点板を作製した。各層の仕様は表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
上記製造例の光学特性のグラフを図9に示す。グラフに示すように、透過率はほぼ0であり、400~800nmの可視光領域において、表面反射率および裏面反射率も良好であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
高精度かつ高性能な眼科装置用黒点板を、より簡便な方法によって製造することができる。
【符号の説明】
【0061】
10:従来の黒点板、11:基板層、12:黒点層、13:反射防止層、
20,20a~20c:本発明の黒点板、21:基板層、22:反射防止層、23:黒点層、24:遮光層、25:第1屈折率マッチング層、25a:誘電体層、25b:金属薄層、26:第2屈折率マッチング層、26a:誘電体層、26b:金属薄層、
30,30a~30c:本発明の黒点板、31:基板層、32:反射防止層、33:黒点層、34:遮光層、35:第1屈折率マッチング層、35a:誘電体層、35b:金属薄層、36:第2屈折率マッチング層、36a:誘電体層、36b:金属薄層、
40,40a~40c:本発明の黒点板、41:基板層、42:接着剤層、43:黒点層、44:遮光層、45:第1屈折率マッチング層、45a:誘電体層、45b:金属薄層、46:第2屈折率マッチング層、46a:誘電体層、46b:金属薄層、47:もう一方の基板層、
100:眼科装置、101:照明光源、102:レンズ、103:穴鏡、103a:穴部、104:対物レンズ、104a:対物レンズ表面、105:レンズ、106:センサー、200:被検眼、A~C:光路。


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9