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特開2023-150403アルミニウムドロス粒子の処理方法およびアルミナ粒子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150403
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】アルミニウムドロス粒子の処理方法およびアルミナ粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/38 20220101AFI20231005BHJP
   B09B 3/40 20220101ALI20231005BHJP
   C22B 21/00 20060101ALI20231005BHJP
   C01F 7/30 20220101ALI20231005BHJP
【FI】
B09B3/38 ZAB
B09B3/40
C22B21/00
C01F7/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059500
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】399038527
【氏名又は名称】株式会社スズムラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】鈴村 隆広
【テーマコード(参考)】
4D004
4G076
4K001
【Fターム(参考)】
4D004AA44
4D004AB05
4D004AC05
4D004BA06
4D004CA15
4D004CA22
4D004CA30
4D004CA50
4D004CB27
4D004CB31
4D004CB50
4D004CC03
4D004CC11
4D004DA06
4G076AA02
4G076AB28
4G076AC01
4G076AC04
4G076BA38
4G076BC08
4G076BD02
4G076CA02
4G076DA30
4K001AA02
4K001BA13
4K001CA05
(57)【要約】
【課題】処理後のAlドロスからのアンモニアガスの発生を実質的に抑制し、再利用を可能とするAlドロスの処理技術を提供する。
【解決手段】Alドロス粒子(100)を75~95℃の水系媒体中にて水と接触させて粒子中の窒化アルミニウムを分解する。また、粒子表面のスケール(110)は、Alドロス粒子(100)のスラリーにマイクロバブル(120)を導入することで粒子表面から除去する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化アルミニウムを含有するアルミニウムドロス粒子を75~95℃の水系媒体中にて水と接触させて前記窒化アルミニウムを分解する第一の工程と、
前記第一の工程によって前記アルミニウムドロス粒子の表面に付着したスケールを前記表面から除去する第二の工程と、
を含み、
前記第二の工程は、前記アルミニウムドロス粒子を有する前記水系媒体にマイクロバブルを導入するマイクロバブル導入工程を含む、
アルミニウムドロス粒子の処理方法。
【請求項2】
前記第二の工程は、前記水系媒体中に超音波を発生させてマイクロバブルを発生させる超音波発生工程を含む、請求項1に記載のアルミニウムドロス粒子の処理方法。
【請求項3】
前記第二の工程は、前記第一の工程で処理されている前記アルミニウムドロス粒子をビーズで研磨して前記スケールを前記表面から除去する研磨工程を含む、請求項1または2に記載のアルミニウムドロス粒子の処理方法。
【請求項4】
前記第一の工程で発生するアンモニアを収集する第三の工程をさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のアルミニウムドロス粒子の処理方法。
【請求項5】
前記第一の工程で発生するアンモニアを収集する第三の工程をさらに含み、
前記第三の工程におけるアンモニアの回収量に応じて前記研磨工程を実施する、請求項3に記載のアルミニウムドロス粒子の処理方法。
【請求項6】
前記第三の工程は、アンモニアを水中に捕集する工程である、請求項4または5に記載のアルミニウムドロス粒子の処理方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の方法で処理したアルミニウムドロス粒子を焼成してアルミナ粒子を生成する工程を含む、アルミナ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムドロス粒子の処理方法およびアルミナ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムの精錬および合金鋳造における溶融時にアルミニウムドロスが発生する。アルミニウムドロスは、窒化アルミニウムを含有し、湿潤環境下でアンモニアガスを発生することから、アルミニウムドロスを無害化処理することが従来検討されている。
【0003】
アルミニウムドロスの無害化処理には、たとえば、加熱水中でアンモニアを回収しながらアルミニウムドロスを分解し、泡と共に排出されるアルミニウムドロスをバブルキャッチャーで回収する技術が知られている(例えば特許文献1参照)。また、アルミニウムドロスの無害化処理には、アルミニウムドロスと水とを90~200℃にてビーズ存在下で攪拌して無害化する技術が知られている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-177556号公報
【特許文献2】特開平10-008154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような従来技術では、アルミニウムドロス中の窒化アルミニウムの分解処理が十分に進行せず、このため、湿潤環境下では、処理後のアルミニウムドロスから依然としてアンモニアガスが発生することがある。このように、従来技術は、湿式での処理後のアルミニウムドロスからのアンモニアガスの発生を実質的に抑制する観点から検討の余地が残されている。
【0006】
本発明の一態様は、処理後のアルミニウムドロスからのアンモニアガスの発生を実質的に抑制し、再利用を可能とするアルミニウムドロスの処理技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るアルミニウムドロス粒子の処理方法は、窒化アルミニウムを含有するアルミニウムドロス粒子を75~95℃の水系媒体中にて水と接触させて前記窒化アルミニウムを分解する第一の工程と、前記第一の工程によって前記アルミニウムドロス粒子の表面に付着したスケールを前記表面から除去する第二の工程と、を含み、前記第二の工程は、前記アルミニウムドロス粒子を有する前記水系媒体にマイクロバブルを導入するマイクロバブル導入工程を含む。
【0008】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るアルミナ粒子の製造方法は、上記の方法で処理したアルミニウムドロス粒子を焼成してアルミナ粒子を生成する工程を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、処理後のアルミニウムドロスからのアンモニアガスの発生を実質的に抑制し、再利用を可能とするアルミニウムドロスの処理技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態で使用される処理装置の構成を模式的に示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係るアルミニウムドロス粒子の処理方法に供されるアルミニウムドロス粒子の状態を説明するための図である。
図3】本発明の一実施形態に係るアルミニウムドロス粒子の処理方法の加温された水中でのアルミニウムドロス粒子の分解の様子を説明するための図である。
図4】本発明の一実施形態に係るアルミニウムドロス粒子の処理方法におけるマイクロバブル存在下の加温水中でのアルミニウムドロス粒子の第一の状態を説明するための図である。
図5】本発明の一実施形態に係るアルミニウムドロス粒子の処理方法におけるマイクロバブル存在下の加温水中でのアルミニウムドロス粒子の第二の状態を説明するための図である。
図6】本発明の一実施形態に係るアルミニウムドロス粒子の処理方法における湿式粉砕装置で処理されているアルミニウムドロス粒子の状態を説明するための図である。
図7】本発明の一実施形態に係るアルミニウムドロス粒子の処理方法におけるマイクロバブル存在下の加温水中でのアルミニウムドロス粒子の最終的な状態を説明するための図である。
図8】本発明の一実施形態に係るアルミナ粒子の製造方法におけるアルミナ粒子の生成を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を説明する。なお、本明細書中、「~」は、その両端の数値を含む以上以下の数値範囲を表す。
【0012】
〔アルミニウムドロス粒子の処理方法〕
本発明の実施形態に係るアルミニウムドロス粒子の処理方法は、アルミニウムドロス粒子(以下、「Alドロス粒子」とも言う)を75~95℃の水系媒体中にて水と接触させて窒化アルミニウムを分解する第一の工程と、第一の工程によってAlドロス粒子の表面に付着したスケールを当該表面から除去する第二の工程とを含む。第一の工程と第二の工程とは、Alドロス粒子からのアンモニアガスの発生が実質的に停止するまで、同時に実施してもよいし、別々に実施してもよいし、順番に繰り返して実施してもよい。
【0013】
Alドロス粒子とは、アルミニウムの精錬で生じる、アルミニウムの酸化物および窒化物を主に含有する組成物の粒子である。Alドロス粒子は、少なくとも窒化アルミニウムを含む窒素系化合物を含有し、その他に金属アルミニウムおよびハロゲンを微量含有していてもよい。窒化アルミニウムは、アルミニウムと窒素とが反応してなる構造を有する生成物であり、水との接触によりアンモニアを生成する。Alドロス粒子は、その他の窒素系化合物として、AlONなどのアルミニウムの酸窒化物を含み得る。ハロゲンの例には、フッ素および塩素が含まれる。Alドロス粒子の粒径は、数平均粒径で20~500μmであってよい。
【0014】
[第一の工程]
水系媒体は、水を主成分とする液媒である。水系媒体は、水であってもよいし、水溶性有機溶剤の水溶液であってもよいし、酸またはアルカリの水溶液であってもよい。水系媒体は、入手が容易な観点から、好ましくは水である。
【0015】
水系媒体の加熱は、公知のヒータを用いて適宜に実施可能である。水系媒体の温度は、低すぎるとAlドロス粒子中の窒化物の除去が不十分になることがある。Alドロス粒子中の窒化物を十分に除去する観点から、水系媒体の温度は75℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましく、85℃以上であることがさらに好ましい。水系媒体の温度は、Alドロス粒子中の窒化物の除去を促進させる観点では、高いほど好ましい。その一方で、Alドロス粒子中の金属アルミニウム分および窒化物(窒化アルミニウム)分の含有量が多いと、第一の工程にて発生する酸化熱により、水系媒体の温度が急激に上昇することがある。そのため、高温でありながら、このような急激な温度上昇に十分に対応可能な程度の温度で第一の工程を実施することが好ましい。水系媒体の急激な温度上昇を抑制する観点から、水系媒体の温度は97℃以下であることが好ましく、95℃以下であることがより好ましく、93℃以下であることがさらに好ましい。
【0016】
第一の工程における水系媒体の温度は、一定であってもよいし、変化してもよい。たとえば、第一の工程の時間が長くなると、水系媒体からの水およびその他の溶剤の蒸発量が多くなり、水系媒体とAlドロス粒子との混合物(以下、「水スラリー」とも言う)における水系媒体に対するAlドロス粒子量の質量比(以下、「固溶比」とも言う)が低くなることがある。当該固溶比が下がると、上記のように水系媒体中の金属アルミニウム粒子およびAlドロス粒子の含有量が多くなり、水スラリーの突沸などの急激な温度上昇が発生し、水系媒体の温度の維持または固溶比を維持することが困難になることがある。
【0017】
第一の工程における水スラリーの固溶比は、Alドロス粒子量を1としたときに、水系媒体の量が7~10程度であることが、第一の工程を安定にかつ効率よく実施する観点から好ましい。また、Alドロス粒子中の金属アルミニウムの含有量が20質量%よりも大きい場合には、第一の工程の水スラリーにおける固溶比を上記の範囲に制御することが、上記の観点から好ましい。
【0018】
第一の工程は、水系媒体中にAlドロス粒子を投入されてなるAlドロス粒子の水スラリー(以下、単に「スラリー」とも言う)を攪拌し、かつ上記の範囲の温度に当該スラリーを加熱し、またその温度を維持することによって実施可能である。
【0019】
[第二の工程]
第二の工程は、アルミニウムドロス粒子を有する水系媒体にマイクロバブルを導入するマイクロバブル導入工程を含む。
【0020】
ここで、マイクロバブルとは、マイクロバブルとは、1.0~100μmの直径を有する気泡である。マイクロバブルの直径は、個数基準の直径である。マイクロバブルの直径は、スラリーにおけるAlドロス粒子表面のスケールを十分に除去する観点から、最頻値で、50μm以上であることが好ましく、80μm以上であることがよい好ましく、100μm以上であることがさらに好ましい。また、上記の観点から、マイクロバブルの最頻値の直径は、150μm以下であることが好ましく、120μm以下であることがよい好ましく、100μm以下であることがさらに好ましい。
【0021】
また、上記スケールを除去する観点から、直径の最頻値におけるマイクロバブルの個数濃度は、500個/mL以上であることが好ましく、1,000個/mL以上であることがより好ましく、1,500個/mL以上であることがさらに好ましい。一方で、マイクロバブルの個数濃度が高いと、処理槽にダメージを与えることがあり、水系媒体中のマイクロバブルの圧壊による衝撃波が他のマイクロバブルに吸収されることがある。よって、処理槽10などの処理装置へダメージを軽減させる観点、および、マイクロバブルによる効率のよいスケール除去を実現する観点から、直径の最頻値におけるマイクロバブルの個数濃度は、3,000個/mL以下であることが好ましく、2,500個/mL以下であることがより好ましく、2,000個/mL以下であることがさらに好ましい。
【0022】
マイクロバブルの発生方法は、所望のマイクロバブルの大きさおよび量に応じて適宜に決めてよい。マイクロバブルの発生方法は、液の流動を伴い方法であってもよいし、液の流動を伴わない方法であってもよい。液の流動を伴い方法の例には、旋回液流式、エジェクタ式、ベンチュリ式、およびスタティックミキサ式および加圧溶解式の各方式のマイクロバブルの発生方法が含まれる。液の流動を伴わない方法の例には、細孔式、回転式、超音波式、蒸気凝縮式および電気分解式の各方式のマイクロバブルの発生方法が含まれる。
【0023】
特に、第二の工程は、水系媒体中に超音波を発生させてマイクロバブルを発生させる超音波発生工程を含んでもよい。超音波発生工程のみでマイクロバブルを発生させてもよいし、マイクロバブルを発生させる他の方法と超音波発生工程とを並行してもよい。水系媒体中に超音波を発生させることは、水系媒体中のAlドロス粒子中の成分の分解および酸化をより促進させる観点から好ましい。
【0024】
超音波を水系媒体に発生させると、マイクロバブルの発生に伴って、水系媒体中の音圧の変動を生じる。そのため、変動する音圧によってマイクロバブルが急激に圧縮される。たとえば、陰圧時に発生したキャビテーション気泡が次の高い圧力波により急激に縮小される。気泡内の圧力は気泡の径に反比例して増加することから、マイクロバブルの急激な縮小(圧壊)は、マイクロバブルの内圧の急上昇をもたらし、断熱圧縮的な作用によるマイクロバブルの温度の急上昇ももたらす。このように、超音波によって水系媒体(水スラリー)中にマイクロバブルを発生させることにより、発生したマイクロバブルの消滅時に数千気圧で数千℃の領域を形成し、水酸基ラジカルなどのフリーラジカルが発生する。このような超高温度またはフリーラジカルにより、種々の成分を酸化分解が促進され得る。よって、第二の工程が超音波発生工程を含むことによって、金属アルミニウムならびにフッ素および塩素などのハロゲンなどの、Alドロス粒子に含有される様々な成分の含有量を低減させることが期待される。
【0025】
マイクロバブルの直径は、定量レーザ回折・散乱法などの公知の測定方法によって測定することが可能である。マイクロバブルの直径は、例えば、マイクロバブル発生前のスラリーにおける上記測定方法の測定値Aと、マイクロバブルを発生させた後の当該スラリーにおける上記測定方法の測定値Bとの差分から求めることが可能である。
【0026】
第二の工程におけるマイクロバブルのスラリーへの導入により、Alドロス粒子における窒化アルミニウムの分解(Alドロス粒子からのアンモニアガスの発生)が促進される。これは、マイクロバブルがスラリー中で圧壊する際に生じる衝撃波がアルミニウムドロス粒子表面のスケールを破壊し、Alドロス粒子内部で発生したアンモニアガスがAlドロス粒子の表面から直接、または、当該衝撃波による破壊でより薄くなったスケールを介してスラリー中へ放出されるため、と考えられる。
【0027】
第二の工程は、上記のスケールをAlドロス粒子から除去するさらなる工程を含んでいてもよい。たとえば、第二の工程は、第一の工程で処理されているAlドロス粒子をビーズで研磨して前記スケールを前記表面から除去する研磨工程を含んでもよい。
【0028】
当該研磨工程には、ビーズミルを好ましく採用することができる。ビーズの粒径を適切に設定することにより、Alドロス粒子の寸法が、スケールが適度に除去された適切な寸法となるように、Alドロス粒子を研磨することが可能である。当該スケールは、後述するが水酸化アルミニウムの固体と考えられ、ビーズの材料は、このようなスケールの成分に応じて、当該スケールを粉砕または研磨可能な公知の材料から適宜に選べばよい。当該研磨工程は、前述のマイクロバブル導入工程とは別の時期に実施することが、Alドロス粒子における水系媒体中での窒化アルミニウムの分解をさらに進行させる観点から好ましい。
【0029】
[その他の工程]
本発明の実施形態において、Alドロス粒子の処理方法は、その効果が得られる範囲において、前述した第一の工程および第二の工程以外の他の工程をさらに含んでいてもよい。たとえば、当該処理方法は、第一の工程で発生するアンモニアを収集する第三の工程をさらに含んでもよい。
【0030】
前述したように、加温されたスラリーからは、Alドロス粒子中の窒化アルミニウムの水との分解反応によってアンモニアガスが発生する。アンモニアは、肥料の原料として有用であり、または、燃料としても有用である。上記処理方法で生成するアンモニアを回収することは、資源の有効活用の観点から好ましい。
【0031】
第三の工程の例には、アンモニアを水中に捕集する工程が含まれる。このようなアンモニア捕集工程は、気体を液体に捕集する公知の捕集装置を用いて実施することが可能である。当該捕集装置の例には、シャワーノズルとその下方に配置される充填層とを有し、塔内の水などの吸収液をシャワーノズルに循環させる吸収塔、が含まれる。
【0032】
捕集工程におけるアンモニアの吸収液には水を用いることができる。捕集工程における吸収液の量が不十分であると、吸収液においてアンモニアが飽和し、吸収液に吸収されなくなる。このため、アンモニアをより確実に捕集する観点から、捕集工程では直列に接続される二以上の捕集装置を用いることが好ましい。また、アンモニアを連続して捕集する観点から、並列に接続される二以上の捕集装置を用いてもよい。
【0033】
捕集装置を直列に接続する場合では、上流側の捕集装置の吸収液でアンモニアが飽和すると、下流側の捕集装置へアンモニアが流入する。よって、Alドロス粒子の処理によるアンモニアの発生量を正確に把握する観点から、二以上の捕集装置の吸収液(水)のそれぞれでpHを測定することが好ましい。
【0034】
また、捕集装置における吸収液の量は、少なすぎるとAlドロス粒子の処理で発生するアンモニアの捕集が不十分になることがある。Alドロス粒子の処理で発生するアンモニアを十分に捕集する観点から、捕集装置における吸収液の量は多いことが好ましく、例えば第一の工程における水系媒体の容量に対して50%以上の容量であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。一方で、捕集装置における吸収液の量は、装置の大型化および運転コストの増加を抑制する観点、ならびに本発明の処理方法における吸収液の循環、再利用の観点から、第一の工程における水系媒体の容量と同程度であることが好ましい。これらの観点から、捕集装置における吸収液の量は、第一の工程における水系媒体の容量の100%であってよい。
【0035】
また、本発明では、第二の工程の開始時期の決定に第三の工程を利用してもよい。たとえば、本発明では、第三の工程におけるアンモニアの回収量に応じて研磨工程を実施してもよい。アンモニアの回収量は、スラリーから発生するアンモニアガスを吸収する水のpHによって検出することが可能である。たとえば、当該pHの上昇が特定の速度を下回る場合では、アンモニアガスの発生が実質的に停止したと判断することができ、よって研磨工程を開始することができる。たとえば、直列に接続される捕集装置の吸収液のpHを測定する場合では、上流側の吸収液のpHが安定したとき、または、下流側の吸収液のpHの上昇速度が低下したとき、などを、研磨工程の開始時期としてもよい。
【0036】
上記のような処理方法によれば、窒化アルミニウムが分解、除去されたAlドロス粒子を生成することが可能である。このような処理後のAlドロス粒子は、アルミニウム成分として酸化アルミニウムおよび水酸化アルミニウムを実質的に含有する。処理後のAlドロス粒子の組成は、一例で、アルミニウムが0.1~0.3質量%以下、窒素が0.1~0.4質量%以下、フッ素が1.5質量%以下、塩素が1.0質量%以下、である。よって、処理後のAlドロス粒子は、湿潤環境下においても水素ガスやアンモニアを発生しないことから、アルミニウム系の無機材料として、種々の用途で再利用可能になる。
【0037】
なお、Alドロス粒子中の成分のうち、水溶性となる成分の含有量は、水系媒体の量を増やすことによって低減させることが可能である。たとえば、塩素は、水溶性の成分になりやすいことから、水系媒体の量を増やすことによってAlドロス粒子中の含有量を十分に低減させやすい。
【0038】
〔酸化アルミニウム(アルミナ)粒子の製造方法〕
本発明の実施形態に係るアルミナ粒子の製造方法は、前述の処理方法で処理したAlドロス粒子を焼成してアルミナ粒子を生成する工程を含む。前述の処理方法で得られるAlドロス粒子は、強熱することにより、Alドロス粒子100中の水酸化アルミニウムが水を放出し、酸化アルミニウムになる。よって、アルミニウム成分が実質的にアルミナからなる粒子が得られる。製造されるアルミナ粒子の組成は、一例で、アルミニウムが0.1質量%以下、窒素が0.1質量%以下、フッ素が0.1質量%以下、塩素が0.2質量%以下、である。
【0039】
なお、Alドロス粒子中の成分のうち、揮発性となる成分の含有量は、強熱によって低減させることが可能である。たとえば、フッ素は、アルミナ粒子の生成工程において1400℃で強熱することにより、生成するアルミナ粒子中の含有量を十分に低減させやすい。また、上記の強熱に際してAlドロス粒子を水洗する場合では、塩素などの前述した水溶性となる成分の含有量をさらに低減させることが可能である。
【0040】
アルミナ粒子は、高い硬度と高い融点を有し、耐熱性、電気絶縁性および耐摩耗性を有する。よって、用途に応じた粒度に調整することで種々のセラミック材料に用いることが可能である。アルミナ粒子の用途の例には、発光ダイオード、リチウム電池および自動車製品などの産業用機械部品の材料、レンガなどの耐火物の材料、ガラス材料、放熱材料、研磨剤、触媒、ならびに、触媒の担体、が含まれる。
【0041】
本発明の実施形態に係るアルミナ粒子の製造方法は、焼成する工程以外の他の工程をさらに含んでいてもよい。たとえば、当該製造方法は、焼成して得られたアルミナ粒子を粉砕してアルミナ粒子の粒度を調整する工程をさらに含んでもよい。この工程を有することは、用途に応じたアルミナ粒子を得る観点から好適である。また、同様の観点から、焼成後または粉砕後のアルミナ粒子を分級する工程をさらに含んでもよい。
【0042】
〔Alドロス粒子の処理およびアルミナ粒子の製造の具体的態様〕
次に、本発明の実施形態におけるAlドロス粒子の処理方法およびアルミナ粒子の製造方法をより具体的に説明する。まず、Alドロス粒子の処理方法を実施可能な処理装置について説明する。まず、本発明の一実施形態で用いられる処理装置を説明する。
【0043】
[処理装置の構成]
図1は、本発明の一実施形態で使用される処理装置の構成を模式的に示す図である。図1に示されるように、処理装置は、処理槽10、マイクロバブル発生装置20、循環ポンプ30、加熱装置40、アンモニア回収装置50、湿式粉砕装置60および固液分離装置70を有する。
【0044】
処理槽10は、水系媒体とAlドロス粒子とのスラリーを収容可能な容器である。処理槽10は、気密に構成されている。処理槽10は、Alドロス粒子を処理槽10内に供給するための供給管と、処理槽10内の気相を排気するための排気管とを上部に有している。また、処理槽10は、収容するスラリーを排出するための排出口を底部に有している。さらに、処理槽10は、収容するスラリーを攪拌するための攪拌装置11を有している。
【0045】
マイクロバブル発生装置20は、処理槽10に収容されているスラリー中にマイクロバブルを発生させるための装置である。マイクロバブル発生装置20は、当該スラリー中にマイクロバブルを発生させるためのノズル21を有している。
【0046】
循環ポンプ30は、処理槽10の排出口から排出されたスラリーを処理槽10に戻すためのポンプである。処理槽10の排出口と供給管とを接続する第一の管路内に配置されている。循環ポンプ30は、当該スラリーを送液可能なポンプであればよく、このような送液機能を有する公知のポンプから適宜に決めてよい。
【0047】
加熱装置40は、循環ポンプ30によって処理槽10に戻されるスラリーを加熱するための装置である。加熱装置40は、第一の管路における循環ポンプ30と処理槽10の供給管との間に配置されている。加熱装置40は、処理槽10中のスラリーの温度を75~95℃に調整可能にスラリーを加熱可能であればよく、このような加熱機能を有する公知の加熱装置から適宜に決めてよい。
【0048】
アンモニア回収装置50は、処理槽10中のスラリーから発生するアンモニアガスを吸収するための装置である。アンモニア回収装置50は、第一吸収塔51および第二吸収塔52を有している。第一吸収塔51および第二吸収塔52は、いずれも吸収液としての水と気相中のアンモニアとを接触させるための気液接触装置であり、塔の下方から供給されるアンモニアガスに対して上方から水を党内に散布、循環させる装置である。また、第一吸収塔51および第二吸収塔52は、いずれも、流下した吸収液のpHを測定するための不図示のpH計を備えている。第一吸収塔51は、処理槽10の排気管に接続されており、第二吸収塔52は、第一吸収塔51の上部の排気管に接続されている。第二吸収塔52の上部の排気管は、不図示の排気処理装置に接続されている。
【0049】
湿式粉砕装置60は、処理槽10の排出口から排出されたスラリー中の粒子を湿式環境下で研磨するための装置である。湿式粉砕装置60は、処理槽10と循環ポンプ30とを接続する第一の管路に対するバイパス管路となる第二の管路に配置されている。湿式粉砕装置60の例には、ビーズミルが含まれる。湿式粉砕装置60は、処理槽10中のスラリーの温度を75~95℃に調整可能にスラリーを加熱可能であればよく、このような加熱機能を有する公知の加熱装置から適宜に決めてよい。
【0050】
固液分離装置70は、処理槽10の排出口から排出されたスラリーを固液分離して粒子を取り出すための装置である。固液分離装置70は、前述する第一の管路および第二の管路とは別の第三の管路に配置されている。固液分離装置70は、例えばサイクロン式などの遠心分離機である。
【0051】
なお、図1の処理装置は、処理槽10と循環ポンプ30との間で第一の管路を開閉するバルブV1、処理槽10と湿式粉砕装置60との間で第二の管路を開閉するバルブV2、および、処理槽10と固液分離装置70との間で第三の管路を開閉するバルブV3、をそれぞれ備えている。バルブV1~V3は、例えばダイヤフラムバルブである。
【0052】
図1の処理装置は、焼成装置80および乾式粉砕装置90をさらに有する。
【0053】
焼成装置80は、固液分離装置70で分離された粒子を焼成するための装置である。焼成装置80は、当該粒子中の水酸化アルミニウムを脱水して酸化アルミニウムにするための装置である。酸化アルミニウムは、水酸化アルミニウムの熱分解の程度により種々の結晶構造を取り得ることから、焼成装置80は、目的とする結晶構造の酸化アルミニウムを生成可能な温度に当該粒子を加熱可能な公知の装置から適宜に決めることができる。たとえば、αアルミナを生成するためであれば、焼成装置80は、当核粒子を1100~1450℃に加熱可能な装置であることが好ましい。
【0054】
乾式粉砕装置90は、焼成装置80で焼成された粒子を解砕し、また当該粒子の粒度を調整するための装置である。乾式粉砕装置90は、詳しくは後述するが、得られるアルミナ粒子の用途に応じた粒径に、焼成後の粒子の粒度を調整可能であればよく、乾式でアルミナ粒子の粒度分布に利用可能な公知の装置から適宜に決めることができる。
【0055】
[Alドロス粒子の処理方法のより具体的な態様]
次に、図1の処理装置を用いるAlドロス粒子の処理方法の一例を説明する。まず、処理槽10の供給管を介してAlドロス粒子を処理槽10に投入する。次いで、処理槽10に水を投入し、攪拌装置11で攪拌を開始し、Alドロス粒子のスラリーを生成する。当該スラリーにおけるAlドロス粒子の濃度は、固溶比で10~15質量%である。
【0056】
次いで、バルブV1を開き、循環ポンプ30を作動させ、加熱装置40で当該スラリーを加熱して処理槽10のスラリーを第一の流路に循環させる。そして、スラリーの温度を75~95℃に加温し、維持する。
【0057】
次いで、マイクロバブル発生装置20を作動させて、ノズル21からスラリー中へマイクロバブルを発生させる。処理槽10中のスラリーにおいて、Alドロス粒子は、ノズル21から発生するマイクロバブルと接触する。処理槽10では、スラリーのpHが上昇し、またスラリーからアンモニアガスが発生する。
【0058】
発生したアンモニアガスは、処理槽10の排気管を通って第一吸収塔51に供給され、第一吸収塔51での吸収液としての水との接触によって吸収液に吸収される。これにより、第一吸収塔51内の吸収液のpHが上昇する。第一吸収塔51で吸収されなかったアンモニアガスは、第二吸収塔52に供給され、第一吸収塔51での吸収液としての水との接触によって吸収液に吸収される。これにより、気相中のアンモニアは実質的に吸収液としての水に吸収される。
【0059】
このように、第一の管路にスラリーを循環させて温度を維持しながら処理槽10中で攪拌し、マイクロバブルと接触させ続けると、スラリーからのアンモニアガスの発生が実質的に停止することがある。アンモニアガスの生成停止は、第一吸収塔51または第二吸収塔52の吸収液のpHの上昇が実質的に止まることによって確認される。
【0060】
このとき、処理槽10中のスラリーを湿式粉砕装置60に導入する。より具体的には、バルブV2を開くとともにバルブV1を閉じて、当該スラリーを湿式粉砕装置60に導入する。湿式粉砕装置60では、スラリー中のAlドロス粒子は、湿式粉砕装置60内のビーズによって研磨される。こうして、表面が研磨されたAlドロス粒子が処理槽10に供給される。その結果、処理槽10においてアンモニアガスが再度発生する。アンモニアガスの再発生は、第一吸収塔51または第二吸収塔52のpHを測定することによって確認される。
【0061】
上記のようにして、アンモニアガスが発生する間は処理槽10中において、加温されているスラリーのAlドロス粒子をマイクロバブルに接触させる処理を続ける。そして、アンモニアガスの発生が停止または発生量が少なくなったら、スラリーを湿式粉砕装置60へ供給してAlドロス粒子を研磨する。
【0062】
処理槽10中のスラリーからのアンモニアガスの発生が実質的に停止したら、例えば湿式粉砕装置60で処理したスラリーからの処理槽10におけるアンモニアガスの発生が確認されなくなったら、バルブV1およびバルブV2を閉じ、バルブV3を開いて、処理槽10中のスラリーを固液分離装置70に供給する。そして、当該スラリーからAlドロス粒子を分離する。
【0063】
固液分離装置70に供されるスラリーの水系媒体の最終のpHは例えば10超である。固液分離装置70で分離された液は、処理槽10に戻して次のAlドロス粒子の処理における水系媒体に再利用する。
【0064】
また、第一吸収塔51内の吸収液の最終のpHは、例えば11弱である。このように、第一吸収塔51の吸収液は、飽和アンモニア水溶液などの濃アンモニア水になりやすい。このため、第一吸収塔51の吸収液は、肥料などの、アンモニアを原料に含む製品の材料、または燃料として好適に利用することが可能である。
【0065】
また、第二吸収塔52の吸収液の最終のpHは、例えば9前後である。このように、第二吸収塔52の吸収液は、希アンモニア水溶液になりやすい。第二吸収塔52の吸収液は、第一吸収塔51の次の吸収液として利用することが可能である。また、第二吸収塔52の吸収液は、処理槽10における次のスラリーの分散媒として利用することも可能である。
【0066】
固液分離装置70で分離されたAlドロス粒子は、アルミナ粒子の材料として利用される。
【0067】
[アルミナ粒子の製造方法のより具体的な態様]
固液分離装置70で分離されたAlドロス粒子は、焼成装置80で焼成される。これにより、Alドロス粒子中の水酸化アルミニウムが脱水によって酸化アルミニウムに変換する。焼成温度は、焼成後の粉体の用途に応じて適宜に決めることができ、例えば、水酸化アルミニウムから酸化アルミニウム(αアルミナ)への変換であれば1180~1280℃であればよく、より高い耐火性が求められる場合では、Alドロス粒子中のフッ素を除去する観点から1350~1450℃であればよい。
【0068】
次いで、焼成装置80で焼成されたAlドロス粒子は、乾式粉砕装置90で粉砕され、体積基準のメジアン径で10~100μmの粒径のアルミナ粒子として取り出される。当該アルミナ粒子は、セラミックス製品の材料粉体として利用可能である。
【0069】
〔本発明の実施形態におけるAlドロス粒子の状態の説明〕
上記の処理方法および製造方法におけるAlドロス粒子の状態は、以下のような状態と考えられる。以下、図2図8を用いてAlドロス粒子の状態を説明する。
【0070】
図2は、本発明の一実施形態に係るAlドロス粒子の処理方法に供されるAlドロス粒子の状態を説明するための図である。図2に示されるように、Alドロス粒子100は、金属アルミニウム、酸化アルミニウム(アルミナ)および窒化アルミニウムを含有している。処理槽10に供給された状態では、Alドロス粒子100は水と接触している。
【0071】
図3は、本発明の一実施形態に係るAlドロス粒子の処理方法の加温された水中でのAlドロス粒子の分解の様子を説明するための図である。図3に示されるように、Alドロス粒子100のアルミニウム成分は、75~95℃に加温された加温水中で以下のように反応する。金属アルミニウムは、水と反応して水酸化アルミニウムと水素を生成する。窒化アルミニウムは、水と反応して水酸化アルミニウムとアンモニアを生成する。酸化アルミナは、上記加温水中では安定であり、反応しない。
【0072】
図4は、本発明の一実施形態に係るAlドロス粒子の処理方法におけるマイクロバブル存在下の加温水中でのAlドロス粒子の第一の状態を説明するための図である。なお、図4から図8では、気体が通気可能な表面状態を破線で示す。
【0073】
図4に示されるように、加温水中では、Alドロス粒子100で発生した水素およびアンモニアは、ガスとしてAlドロス粒子100から放出される。水素はそのままスラリーから放出され、アンモニアはスラリーの水に吸収され、余剰分がスラリーから放出される。このため、スラリーの加温水中のアンモニア濃度は飽和し、スラリーのpHは溶解しているアンモニアのために上昇する。
【0074】
また、加温水中では、Alドロス粒子100で発生した水酸化アルミニウムは、Alドロス粒子100の表面を覆い、スケール110を形成する。スケール110は、水酸化アルミニウムの生成に伴って厚くなる。一方で、スラリー中のマイクロバブル120は、スケール110の厚さを減じる作用を呈する。すなわち、マイクロバブル120は、スラリー中でAlドロス粒子100に接触し、あるいは凝縮して圧壊することで衝撃波を生じる。この衝撃波によって、スケール110の一部がAlドロス粒子100の表面から除去される。スケール110の厚さが十分に薄い場合には、Alドロス粒子100で発生した水素およびアンモニアは、スケール110を通り抜け、ガスとしてAlドロス粒子100から放出される。
【0075】
図5は、本発明の一実施形態に係るAlドロス粒子の処理方法におけるマイクロバブル存在下の加温水中でのAlドロス粒子の第二の状態を説明するための図である。図5に示されるように、スケール110の厚さでは、スケール110の成長の方が、マイクロバブル120によるスケール110の厚さの減少を上回る。スケール110が十分に厚くなると、マイクロバブル120ではスケール110の厚みAlドロス粒子100の内部で生成したアンモニアガスおよび水素ガスはスケール110を通り抜けることができなくなる。このため、アンモニアガスおよび水素ガスのスラリー中への放出がされる。その結果、スラリーのpHの上昇が実質的に止まり、または、第一吸収塔51もしくは第二吸収塔52における吸収液のpHの上昇が実質的に止まる。
【0076】
図6は、本発明の一実施形態に係るAlドロス粒子の処理方法における湿式粉砕装置で処理されているAlドロス粒子の状態を説明するための図である。湿式粉砕装置60では、Alドロス粒子100は、当初、図5で示されるように十分に厚いスケール110が形成されている。湿式粉砕装置60では、スラリー中のAlドロス粒子100は粉砕用のビーズ610によって設定される目的の粒径の大きさに粉砕される。この粉砕によって、Alドロス粒子100の表面のスケール110が研磨され、再び十分に薄い厚さとなり、Alドロス粒子100中で発生したアンモニアガスおよび水素ガスは、スケール110を介してスラリー中へ放出可能となる。
【0077】
湿式粉砕装置60から処理槽10に戻されたAlドロス粒子100ではスケール110の厚さが再び増加する。このため、Alドロス粒子100では図5に示されるような状態となる。この状態のスラリーを湿式粉砕装置60に供給することにより、Alドロス粒子100は、図6(または図4)に示されるような状態となる。
【0078】
図7は、本発明の一実施形態に係るAlドロス粒子の処理方法におけるマイクロバブル存在下の加温水中でのAlドロス粒子の最終的な状態を説明するための図である。Alドロス粒子100における水と反応するアルミニウム成分が実質的に全て反応すると、図7に示されるように、Alドロス粒子100中のアルミニウム成分は、実質的に酸化アルミニウムと水酸化アルミニウムのみとなる。この状態になると、Alドロス粒子100からの気体の放出は停止し、アンモニアガスの放出も確認されなくなる。スラリーはアンモニアによる塩基性を有するため、Alドロス粒子100において水酸化アルミニウムは安定して存在する。
【0079】
図8は、本発明の一実施形態に係るアルミナ粒子の製造方法におけるアルミナ粒子の生成を説明するための図である。図7に示されるようなAlドロス粒子100は、強熱することにより、図8に示されるように、Alドロス粒子100中の水酸化アルミニウムが水を放出し、酸化アルミニウムを生成する。よって、前述の焼成工程によってアルミナ(酸化アルミニウム)粒子800が製造される。
【0080】
〔実験例1〕
1000gのAlドロス粒子と10Lの水とを反応槽中に投入し、攪拌して生成するスラリーを85℃に加熱した。この温度のスラリー中でマイクロバブルを3000個/mL程度の量で発生させた。反応槽中のガスは水トラップに導入し、当該トラップにおいて発生するアンモニアガスを捕集した。上記の条件での処理を時間実施した。そして、スラリーをろ過して、マイクロバルブ処理後のAlドロス粒子を回収した。
【0081】
上記のマイクロバルブ処理前後におけるAlドロス粒子の組成を表1に示す。なお、表1中、数値の単位は質量%である。表1中、AlおよびSiは水素ガス捕集法による分析値であり、Nは水蒸気蒸留および滴定法による分析値であり、FおよびClは蛍光X線分光法(ブリケット法)による分析値であり、Cは炭素分析による分析値である。
【0082】
【表1】
【0083】
〔実験例2〕
マイクロバブル処理後の100gのAlドロス粒子を1Lの水に混合、攪拌してスラリーを生成した。得られたスラリーをビーズミルで1時間攪拌、研磨した。ビーズには、粒径2mmのアルミナビーズを用いた。その後、ビーズからスラリーを分離し、さらにスラリーからビーズ研磨処理後のAlドロス粒子を回収した。
【0084】
上記のビーズ研磨処理前後におけるAlドロス粒子の組成を表2に示す。表2中の分析値は、表1の数値と同じ方法による。また、数値の単位は質量%である。
【0085】
【表2】
【0086】
〔実験例3〕
実験例1と同様のマイクロバルブ処理と、それにより得られたAlドロス粒子で実験例2と同様のビーズ研磨処理とを実施し、さらに得られたAlドロス粒子を上記のマイクロバルブ処理に供する。このようにしてマイクロバルブ処理とビーズ研磨処理とを1回繰り返した(計二回ずつ行った)。そして、最後のビーズ研磨処理で得られたAlドロス粒子を回収した。
【0087】
上記の繰り返し処理前後のAlドロス粒子の組成を表3に示す。表3中の分析値は、表1の数値と同じ方法による。また、数値の単位は質量%である。
【0088】
【表3】
【0089】
〔実験例4〕
実験例3と同様の処理で得られたAlドロス粒子を1400℃、5時間加熱して焼成した。こうして焼成粒子を得た。焼成前のAlドロス粒子の組成と焼成後の焼成粒子の組成とを表4に示す。表4中の分析値は、表1の数値と同じ方法による。また、数値の単位は質量%である。
【0090】
【表4】
【0091】
〔考察〕
セラミック材料において、リサイクル材料は、通常、新規の材料と混合して使用される。実験例4によれば、いずれも焼成粒子も、用途に応じた成分の制約を満たすように新規の材料と混合して使用することにより、セラミック材料として再利用可能である。
【0092】
〔変形例〕
本発明は上述した各実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0093】
たとえば、本発明の実施形態における処理装置において、マイクロバブル発生装置20は、処理槽10中のスラリーに超音波を発生してスラリー中にマイクロバブルを発生させる超音波発生装置であってもよい。超音波発生装置は、他のタイプのマイクロバブル発生装置と併用してもよい。超音波発生装置の例には、超音波振動子および中空超音波ホーンなどの超音波マイクロバブル発生装置が含まれる。超音波発生装置は、前述したフリーラジカルによるAlドロス粒子中の種々の成分の酸化、分解を促進させる観点から、処理槽10中のスラリーに超音波を発生させるように配置されていることが好ましい。
【0094】
また、当該処理装置は、加熱装置40に代えて、または加熱装置40に加えて、処理槽10中のスラリーを直接加熱する加熱装置を有していてもよい。
【0095】
また、当該処理装置において、アンモニア回収装置50は、処理槽10で発生するアンモニアガスをガスの状態で回収する装置であってもよい。
【0096】
また、当該処理装置において、湿式粉砕装置60は、被粉砕粒子の粒径を湿式で設定可能な粉砕装置であれば、ローラミルなどの、ビーズミル以外の粉砕装置であってもよい。
【0097】
また、当該処理装置において、固液分離装置70は、サイクロン式以外の遠心分離機であってもよいし、ろ過装置であってもよい。
【0098】
また、当該処理装置において、バルブV1~V3は、ボールバルブなどの他のバルブであってもよい。
【0099】
また、当該処理装置は、乾式粉砕装置90に加えて、乾式粉砕装置90で粉砕されたアルミナ粒子を粒径に応じて分別するための分級装置をさらに有していてもよい。
【0100】
また、当該処理装置ではバルブV1~V3に自動弁を用い、当該処理装置が、アンモニア回収装置50におけるpH計からの情報に応じてバルブV1~V3の開閉を制御する制御部をさらに備えてもよい。この構成は、Alドロス粒子の処理作業における省力化の観点から有利である。
【0101】
また、本発明の実施形態におけるAlドロス粒子の処理方法において、固液分離装置70へのスラリーの供給は、処理槽10の気相のサンプリングとそれによるサンプル中のアンモニアガスの含有量に応じて制御してもよい。
【0102】
あるいは、Alドロス粒子の処理方法において、第二の工程(研磨工程)の開始時期は、例えば処理槽での特定の処理時間ごとに湿式粉砕装置によるスケール除去を実施するなどのように、予め定められている時間割りに応じて決めてもよい。
【0103】
また、当該処理方法において、アンモニアの回収率を高める観点から、湿式粉砕装置60および固液分離装置70の気相部も第一吸収塔51に供給されていてもよい。
【0104】
〔まとめ〕
以上の説明から明らかなように、本発明の実施形態に係るAlドロス粒子の処理方法は、窒化アルミニウムを含有するアルミニウムドロス粒子を75~95℃の水系媒体中にて水と接触させて窒化アルミニウムを分解する第一の工程と、第一の工程によってアルミニウムドロス粒子の表面に付着したスケールを表面から除去する第二の工程と、を含み、第二の工程は、アルミニウムドロス粒子を有する水系媒体にマイクロバブルを導入するマイクロバブル導入工程を含む。本発明の前述の実施形態では、汎用の設備を用い、水の沸点程度の比較的穏和な条件によって、アンモニアを実質的に発生させないAlドロスの処理を、規模の大小を問わずに実現可能である。このように、本発明の前述の実施形態によれば、処理後のAlドロスからのアンモニアガスの発生を実質的に抑制し、再利用を可能とするAlドロスの処理技術が提供される。
【0105】
また、本発明の実施形態に係るアルミナ粒子の製造方法は、上記の処理方法で処理したAlドロス粒子を焼成してアルミナ粒子を生成する工程を含む。よって、セラミック材料としてのアルミナ粒子にAlドロス粒子を再利用することができる。
【0106】
本発明の実施形態において、第二の工程は、水系媒体中に超音波を発生させてマイクロバブルを発生させる超音波発生工程を含んでいてもよい。この構成は、水系媒体中のAlドロス粒子中の成分の分解および酸化を促進させる観点からより一層効果的である。
【0107】
当該処理方法において、第二の工程は、第一の工程で処理されているアルミニウムドロス粒子をビーズで研磨してスケールを表面から除去する研磨工程を含んでもよい。この構成は、Alドロス粒子中の窒化アルミニウムの含有量をより一層低減させる観点からより一層効果的である。
【0108】
当該処理方法は、第一の工程で発生するアンモニアを収集する第三の工程をさらに含んでもよい。この構成は、窒化アルミニウムの分解に伴うアンモニウムを回収する観点から、またAlドロス粒子中に残っている微量の金属アルミ二ウムの酸化を促進させる観点から、より一層効果的である。
【0109】
当該処理方法において、第三の工程は、アンモニアを水中に捕集する工程であってもよい。この構成は、Alドロス粒子の無害化処理に伴って生じるアンモニアを有効活用する観点からより一層効果的である。
【0110】
なお、当該処理方法において、第三の工程におけるアンモニアの回収量に応じて研磨工程を実施してもよい。この構成は、Alドロス粒子中の窒化アルミニウムの分解処理の効率を高める観点からより一層効果的である。
【0111】
前述の本発明の実施形態では、Alドロス粒子からのアンモニアの発生を実質的に防止される。これにより、アルミニウムの生産に伴う環境への負荷が軽減され、廃棄物が有効利用可能となる。よって、陸および海の資源の確保、ならびに生産活動の持続可能なパターンの確保に関する持続可能な開発目標(SDGs)の達成への本発明の貢献が期待される。
【符号の説明】
【0112】
10 処理槽
11 攪拌装置
20 マイクロバブル発生装置
21 ノズル
30 循環ポンプ
40 加熱装置
50 アンモニア回収装置
51 第一吸収塔
52 第二吸収塔
60 湿式粉砕装置
70 固液分離装置
80 焼成装置
90 乾式粉砕装置
100 Alドロス粒子
110 スケール
120 マイクロバブル
610 ビーズ
800 アルミナ粒子
V1、V2、V3 バルブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8