(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150434
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】光通信装置
(51)【国際特許分類】
H04B 10/112 20130101AFI20231005BHJP
G02B 26/08 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
H04B10/112
G02B26/08 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059541
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000133227
【氏名又は名称】株式会社タムロン
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】橋本 優介
(72)【発明者】
【氏名】坂本 敬志
(72)【発明者】
【氏名】布施 慎吾
【テーマコード(参考)】
2H141
5K102
【Fターム(参考)】
2H141MA12
2H141MB39
2H141MC05
2H141MD13
2H141MD20
2H141MD34
2H141ME25
2H141MF03
2H141MG01
2H141MZ12
5K102AA21
5K102AL23
5K102MB20
5K102PB01
5K102PB02
5K102RB07
(57)【要約】
【課題】ウェッジプリズムの回転運動による光通信装置の共振の発生が抑制される光通信装置を実現する。
【解決手段】光通信装置(10)は、通信光の光路中に回転可能に配置されている四枚のウェッジプリズム(P111、P211、P121、P221)を有する。四枚のウェッジプリズムは、特定の順番で配置され、または対ごとに特定の頂角を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信光の光路中に回転可能に配置されている四枚のウェッジプリズムを有し、
二枚の前記ウェッジプリズムは、前記通信光の第一の方向における屈折角を調整するための第一のウェッジプリズム対に属し、
残りの二枚の前記ウェッジプリズムは、前記通信光の第二の方向における屈折角を調整するための第二のウェッジプリズム対に属し、
一方の前記ウェッジプリズム対に属する二枚の前記ウェッジプリズムの間に、少なくとも一枚の他方の前記ウェッジプリズム対に属する前記ウェッジプリズムが配置されている、
光通信装置。
【請求項2】
前記第一のウェッジプリズム対に属する前記ウェッジプリズムと、前記第二のウェッジプリズム対に属する前記ウェッジプリズムとが交互に配置されている、請求項1に記載の光通信装置。
【請求項3】
一方の前記ウェッジプリズム対に属する二枚の前記ウェッジプリズムの間に、他方の前記ウェッジプリズム対に属する二枚の前記ウェッジプリズムが配置されている、請求項1に記載の光通信装置。
【請求項4】
通信光の光路中に回転可能に配置されている四枚のウェッジプリズムを有し、
二枚の前記ウェッジプリズムは、いずれも第一の頂角を有し、前記通信光の第一の方向における屈折角を調整するための第一のウェッジプリズム対に属し、
残りの二枚の前記ウェッジプリズムは、いずれも第二の頂角を有し、前記通信光の第二の方向における屈折角を調整するための第二のウェッジプリズム対に属する、
光通信装置。
【請求項5】
一方の前記ウェッジプリズム対に属する二枚の前記ウェッジプリズムと、他方の前記ウェッジプリズム対に属する二枚の前記ウェッジプリズムとが、この順で配置されている、請求項4に記載の光通信装置。
【請求項6】
同じ前記ウェッジプリズム対に属する二枚の前記ウェッジプリズムの回転方向が互いに逆方向であり、同じ前記ウェッジプリズム対に属する二枚の前記ウェッジプリズムの回転角度の絶対値が同じである、請求項1~5のいずれか一項に記載の光通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
5G(第五世代移動通信システム)などの電波による通信技術が劇的な高速化を遂げているが、その通信速度は理論的に上限に達している。通信のさらなる高速化を実現することは、コストおよび実現性の観点から困難である。その中でも、通信のさらなる高速化を実現するための技術として、光無線通信技術が注目されている。
【0003】
光は電磁波であるが、利用の自由度が電波に比べて高く、直進性が高いことから電波のように広い範囲に伝播しないため、セキュリティ上優位である。このため、固定された物体間の通信に適していると考えられ、また、人工衛星間の宇宙空間における通信においても電波を補完する技術として有利と考えられている。
【0004】
光通信技術には、二つのウェッジプリズムを異なる速度で同じ回転方向に回転させることでレーザービームを走査する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光通信装置は、その用途に応じて配置されることから、振動する条件下で設置されることがある。この場合、ウェッジプリズムが特定の方向へ随時回転運動することから、ウェッジプリズムが光通信装置の振動の発生源となり、光通信装置を共振させることがあり得る。従来技術は、ウェッジプリズムの回転運動による光通信装置の共振の発生を抑制する観点から検討の余地が残されている。
【0007】
本発明の一態様は、ウェッジプリズムの回転運動による光通信装置の共振の発生が抑制される光通信装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る光通信装置は、通信光の光路中に回転可能に配置されている四枚のウェッジプリズムを有し、二枚の前記ウェッジプリズムは、前記通信光の第一の方向における屈折角を調整するための第一のウェッジプリズム対に属し、残りの二枚の前記ウェッジプリズムは、前記通信光の第二の方向における屈折角を調整するための第二のウェッジプリズム対に属し、一方の前記ウェッジプリズム対に属する二枚の前記ウェッジプリズムの間に、少なくとも一枚の他方の前記ウェッジプリズム対に属する前記ウェッジプリズムが配置されている。
【0009】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る光通信装置は、通信光の光路中に回転可能に配置されている四枚のウェッジプリズムを有し、二枚の前記ウェッジプリズムは、いずれも第一の頂角を有し、前記通信光の第一の方向における屈折角を調整するための第一のウェッジプリズム対に属し、残りの二枚の前記ウェッジプリズムは、いずれも第二の頂角を有し、前記通信光の第二の方向における屈折角を調整するための第二のウェッジプリズム対に属する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、ウェッジプリズムの回転運動による光通信装置の共振の発生が抑制される光通信装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態1に係る光通信装置の構成の概要を模式的に示す図である。
【
図2】本発明の実施形態1に係る光通信装置の機能的構成を模式的に示す図である。
【
図3】本発明の実施形態1におけるウェッジプリズムの配置を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態2におけるウェッジプリズムの配置を示す図である。
【
図5】本発明の実施形態3におけるウェッジプリズムの配置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0013】
[光通信装置の構成]
図1は、本発明の実施形態1に係る光通信装置の構成の概要を模式的に示す図である。
図1に示されるように、光通信装置10は、通信光の光路中に回転可能に配置されている四枚のウェッジプリズムを有している。より詳しくは、光通信装置10は、ケーシング11、ケーシング11を回頭可能に支持する架台12、ケーシング11内に配置されている発光素子13、および、発光素子13からの出射光の伝播方向を調整するための光軸調整装置14を有する。
【0014】
ケーシング11は、光通信の光学系を収容する筐体である。架台12は、ケーシング11を支持する構成であり、例えばモータを駆動源として有し、ケーシング11を回頭可能に支持する。
【0015】
発光素子13は、光通信に利用可能な光を発生する素子であり、例えば電気を光に変換する素子であってよい。発光素子13の例には、発光ダイオードおよび半導体レーザが含まれる。
【0016】
光軸調整装置14は、第一のウェッジプリズムユニット15および第二のウェッジプリズムユニット16を含む。第一のウェッジプリズムユニット15は、四枚のウェッジプリズムのうちの、発光素子13側(通信光の伝播方向における上流側)の二枚のウェッジプリズムで構成されている。第二のウェッジプリズムユニット16は、四枚のウェッジプリズムのうちの、通信光の伝播方向における下流側の二枚のウェッジプリズムで構成されている。四枚のウェッジプリズムは、同一の回転軸CAを軸として回転可能に配置されている。
【0017】
四枚のウェッジプリズムは、二枚ずつが協同して通信光を第一の方向および第二の方向の二方向へ屈折させる。本実施形態において、回転軸CAに直交する平面であって、当該平面における水平方向をヨー方向、当該平面における垂直方向をピッチ方向とする。本実施形態において、ヨー方向は第一の方向に該当し、ピッチ方向は第二の方向に該当する。光軸調整装置の四枚のウェッジプリズムのうちの二枚が、通信光のヨー方向への屈折を制御する。光軸調整装置の四枚のウェッジプリズムのうちの残りの二枚が、通信光のピッチ方向への屈折を制御する。ウェッジプリズムの配置および動作の詳細については後述する。
【0018】
図2は、本発明の一実施形態に係る光通信装置の機能的構成を模式的に示す図である。
図2に示されるように、光軸調整装置14は、それぞれのウェッジプリズムユニットに対応するウェッジプリズムの回転機構を備えており、また、加速度センサ17、および、コントローラ18を備えている。
【0019】
第一のウェッジプリズムユニット15は、通信光の伝播方向の上流側に配置される第一ウェッジプリズムP111と、通信光の伝播方向の下流側に配置される第二ウェッジプリズムP211とを含む。第一のウェッジプリズムユニット15は、第一ウェッジプリズムP111の回転機構として、ホルダ110、コイル111および位置センサ112を有し、第二ウェッジプリズムP211の回転機構として、ホルダ210、コイル211および位置センサ212を有している。
【0020】
第二のウェッジプリズムユニット16は、通信光の伝播方向の上流側に配置される第三ウェッジプリズムP121と、通信光の伝播方向の下流側に配置される第四ウェッジプリズムP221とを含む。第二のウェッジプリズムユニット16は、第三ウェッジプリズムP121の回転機構として、ホルダ120、コイル121および位置センサ122を有し、第四ウェッジプリズムP221の回転機構として、ホルダ220、コイル221および位置センサ222を有している。
【0021】
ホルダ110、210、120、220は、円環板状の部材であり、中央の開口部にウェッジプリズムを保持し、ケーシング11内において、回転軸CAを中心に回転可能に配置されている。
【0022】
コイル111、211、121、221は、ホルダ110、210、120、220を回転駆動させる磁極を通電によって発生させる部材である。コイル111、211、121、221に発生した磁極に応じて、コイル111、211、121、221に対向する不図示の磁石との間の吸引力または反発力が生じ、吸引力または反発力に応じた回転角度でホルダ110、210、120、220が回転する。
【0023】
位置センサ112、212、122、222は、対応するウェッジプリズムP111、P211、P121、P221の回転方向における位置(例えばウェッジプリズムの頂角の位置)を検出するためのセンサである。位置センサ112、212、122、222は、例えば、ホルダ110、210、120、220に固定されるホール素子と、それに対応してケーシング11側に固定される磁石とによって構成される。
【0024】
加速度センサ17は、光通信装置10(またはケーシング11)の傾きを検出するセンサである。
【0025】
コントローラ18は、加速度センサ17の信号を参照して光通信装置10の傾きを特定し、特定した傾きに基づいてウェッジプリズムの回転角度を算出し、当該回転角度に応じた信号を出力する。コントローラ18は、例えば、入力部、演算部、制御部、記憶部、出力部を備える集積回路で構成される。コントローラ18は、位置センサ112、212、122、222および加速度センサ17からの信号を受信し、各ウェッジプリズム対のコイルに信号を出力するように構成されている。ここで「ウェッジプリズム対」とは、ヨー方向またはピッチ方向へ通信光の屈折させるために共に動く二枚のウェッジプリズムの組み合わせである。
【0026】
なお、ウェッジプリズムP111、P211、P121、P221は、いずれも同じ寸法を有し、また同じ大きさの頂角を有している。
【0027】
[ウェッジプリズムの配置]
第一のウェッジプリズムユニット15に配置されている第一ウェッジプリズムP111と、第二のウェッジプリズムユニット16に配置されている第三ウェッジプリズムP121とは、発光素子13から発せられる通信光の伝播方向のうち、ヨー方向への屈折角度を調整するように回転運動する。たとえば、光軸調整装置14は、第一ウェッジプリズムP111および第三ウェッジプリズムP121が互いに逆方向に回転運動するように構成されている。
【0028】
第一のウェッジプリズムユニット15に配置されている第二ウェッジプリズムP211と、第二のウェッジプリズムユニット16に配置されている第四ウェッジプリズムP221とは、発光素子13から発せられる通信光の伝播方向のうち、ピッチ方向への屈折角度を調整するように回転運動する。たとえば、光軸調整装置14は、第二ウェッジプリズムP211および第四ウェッジプリズムP221が互いに逆方向に回転運動するように構成されている。
【0029】
図3は、本発明の実施形態1におけるウェッジプリズムの配置を示す図である。
図3に示されるように、第一のウェッジプリズムユニット15は、通信光のヨー方向の屈折角度を調整するための第一ウェッジプリズムP111と、通信光のピッチ方向の屈折角度を調整するための第二ウェッジプリズムP211とを有する。また、第二のウェッジプリズムユニット16は、通信光のヨー方向の屈折角度を調整するための第三ウェッジプリズムP121と、通信光のピッチ方向の屈折角度を調整するための第四ウェッジプリズムP221とを有する。
【0030】
このように、光通信装置10では、第一ウェッジプリズムP111および第三ウェッジプリズムP121の二枚のウェッジプリズムが、通信光のヨー方向における屈折角を調整するための第一のウェッジプリズム対に属している。また、光通信装置10では、第二ウェッジプリズムP211および第四ウェッジプリズムP221の二枚のウェッジプリズムが、通信光のピッチ方向における屈折角を調整するための第二のウェッジプリズム対に属している。
【0031】
上記のように、光通信装置10では、第一のウェッジプリズム対に属する第一ウェッジプリズムP111および第三ウェッジプリズムP121の二枚のウェッジプリズムの間に、第二のウェッジプリズム対に属する第二ウェッジプリズムP211が配置されている。より詳しくは、光通信装置10では、第一のウェッジプリズム対に属するウェッジプリズムP111、P121と、第二のウェッジプリズム対に属するウェッジプリズムP211、P221とが交互に配置されている。
【0032】
[伝播方向調整の動作]
本実施形態において、ウェッジプリズムの回転は、例えば、加速度センサ17の出力値からコントローラ18がウェッジプリズムの回転角度を算出し、コイル111、211、121、221に対してPWM(パルス幅変調)制御を行うことで実施され得る。また、コントローラ18は、位置センサ112、212、122、222からの信号を受信してウェッジプリズムの回転位置を決定し、ウェッジプリズムの回転運動の制御のフィードバック処理を行う。ウェッジプリズムの回転角度は、ウェッジプリズムの頂角の位置で確認される。
【0033】
光軸調整装置14の四枚のウェッジプリズムのうち、第一ウェッジプリズムP111および第三ウェッジプリズムP121の二枚のウェッジプリズムが互いに逆方向に、かつ互いに絶対値で同じ大きさの回転角度で回転運動する。この回転運動により、通信光の屈折角のヨー方向成分が調整される。また、光軸調整装置14の四枚のウェッジプリズムのうち、第二ウェッジプリズムP211および第四ウェッジプリズムP221の二枚のウェッジプリズムが互いに逆方向に、かつ互いに絶対値で同じ大きさの回転角度で回転運動する。この回転運動により、通信光の屈折角のピッチ方向成分が調整される。このように、本実施形態では、同じウェッジプリズム対に属する二枚のウェッジプリズムの回転方向が互いに逆方向であり、かつ同じウェッジプリズム対に属する二枚のウェッジプリズムの回転角度の絶対値が同じである。
【0034】
各ウェッジプリズム対の二枚のウェッジプリズムにおいて、通信光の伝播方向の屈折角度の大きさは、ウェッジプリズムの回転角度の大きさと実質的に直線的な相関性を示す。よって、ウェッジプリズムの回転角度と通信光の伝播方向の屈折角度とが線形近似する。このような線形近似関係により、ウェッジプリズムの回転角度が算出される。また、各ウェッジプリズム対の二枚のウェッジプリズムを互いに逆方向に回転運動させることにより、屈折角度を大きくすることが可能である。
【0035】
[主な作用効果]
光通信装置は、基準の高さに対して上下方向に移動するシフト揺れをすることがある。光通信装置の防振では、揺れの周波数の範囲および揺れの種類などの観点から、周波数で1~100Hz、伝播方向の屈折角度が5°程度の範囲で、通信光の伝播方向の制御が求められる。
【0036】
通信光の伝播方向の屈折角度は、発光素子の光軸に直交する二方向(ヨー方向とピッチ方向)のそれぞれの方向における距離で容易に表すことが可能である。そして、当該屈折角度は、ウェッジプリズムの回転角度に容易に置き換え可能であり、所望の屈折角度を実現するウェッジプリズムの回転角度は迅速に決定され、さらに、ウェッジプリズムの回転運動は迅速に実施される。よって、本実施形態では、光通信装置の振動による通信光の伝播方向の変化の影響を実質的に解消することが可能である。
【0037】
また、本実施形態の光通信装置では、前述したように、対となるウェッジプリズムの回転方向が互いに逆方向で、かつ回転角度の絶対値が同じである。よって、一方向へウェッジプリズムを回転させる場合に比べて、小さい回転角度で通信光の伝播方向を広範囲で制御することが可能であり、また迅速に伝播方向を制御可能となる。このため、光通信に好適に適用でき、また回転角度が小さいので共振防止の観点から好適である。
【0038】
本実施形態の光通信装置は、光通信装置が振動する状況下にある場合に、上記のようなウェッジプリズムの回転運動による光通信装置の共振を防止し、光通信装置の振動を抑制するのに好適である。本実施形態におけるこのような防振の理由には、以下のような力学的な理由が含まれると考えられる。
【0039】
たとえば、本実施形態の光通信装置では、互いに対向方向に同じ大きさの角度だけ回転する、対となるウェッジプリズム間の距離は、これらを同じウェッジプリズムユニットに配置する場合よりも長くなる。このため、対で回転運動するウェッジプリズムによる動作時のモーメントがより大きくなる。よって、ウェッジプリズムの回転運動による振動によって光通信装置の振動が打ち消される。
【0040】
本実施形態の光通信装置では、上記のような理由により、ウェッジプリズム対間でのウェッジプリズムの回転運動の偏りが生じやすい。このため、通信光の伝播方向の振動のうち、一方の方向の成分がより収束されやすく、よって、他方の方向の成分も収束されやすくなる、とも考えられる。
【0041】
また、本実施形態の光通信装置では、上記のように、同じ大きさの角度で回転する同一対でのウェッジプリズム間の距離は、これらを同じウェッジプリズムユニットに配置する場合に比べて長くなる。よって、ウェッジプリズムの屈折の影響がより大きくなる。本実施形態では、ある一対のウェッジプリズムの間に他の一対の少なくとも一方のウェッジプリズムを挟むことによって、対をなす二つのウェッジプリズム間の距離をより大きくしつつ、全ての隣り合うウェッジプリズム間の距離を最少にすることが可能となる。仮に、ある一対のウェッジプリズムの間に他の一対の少なくとも一方のウェッジプリズムを挟むことなく対をなす二つのウェッジプリズム間の距離をより大きくした状態で各対のウェッジプリズムを並べる場合では、対をなすウェッジプリズム間にウェッジプリズム一枚分程度の隙間が生じることになるため大型化してしまう。よって、本実施形態のようにウェッジプリズムの順番を入れ替えて配置することは、ウェッジプリズムの配置の小型化の観点で有利である。
【0042】
[用途]
光通信装置10は、ビーコンに好適に用いられる。ビーコンとは、広い範囲に光ビームを照射して、通信相手に自分の位置を知らせる機能である。ビーコンでは、光ビームをおおよその方向に向けて特定の範囲内で走査させる。光の照射方向は、ピッチ方向の角度とヨー方向の角度との合成によって決められる。広い空間で通信相手の位置を正確に捕捉することは通常困難であるが、本実施形態の光通信装置によれば、迅速な走査が可能であるため、ビーコンに好適に用いられる。
【0043】
対のウェッジプリズムによる光通信装置は、対のウェッジプリズムの回転運動がノイズとなって光通信装置の振動を生じ、また増幅させることがある。本実施形態の光通信装置では、このような光通信装置の振動は、対のウェッジプリズムの回転運動により抑制される。本実施形態に好適な光通信装置の例には、回頭自在に支持されている光通信装置、および、宇宙空間などの無重力空間に配置されている光通信装置、が含まれる。
【0044】
特に本実施形態では、対のウェッジプリズムにおけるウェッジプリズム間の距離が、いずれのウェッジプリズム対においても、ウェッジプリズム一枚分程度大きく、ほぼ同程度である。よって、本実施形態は、主にヨー方向またはピッチ方向に一定範囲往復させるような、ヨー方向の成分とピッチ方向の成分との大きさの差がより大きな方向に通信光を走査させる光通信装置において、当該光通信装置の振動を抑制するのに好適である。
【0045】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、前述の実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。本実施形態の光通信装置は、ウェッジプリズムユニットにおけるウェッジプリズムの配置が異なる以外は、前述した実施形態1の光通信装置と同様に構成されている。
【0046】
[ウェッジプリズムの配置]
図4は、本発明の実施形態2におけるウェッジプリズムの配置を示す図である。
図4に示されるように、第一のウェッジプリズムユニット15は、通信光のヨー方向の屈折角度を調整するための第一のウェッジプリズム対に属する第一ウェッジプリズムP112と、通信光のピッチ方向の屈折角度を調整するための第二のウェッジプリズム対に属する第二ウェッジプリズムP212とを有している。また、第二のウェッジプリズムユニット16は、通信光のピッチ方向の屈折角度を調整するための第二のウェッジプリズム対に属する第三ウェッジプリズムP222と、通信光のヨー方向の屈折角度を調整するための第一のウェッジプリズム対に属する第四ウェッジプリズムP122とを有している。すなわち、本実施形態では、一方のウェッジプリズム対に属する二枚のウェッジプリズムの間に、他方のウェッジプリズム対に属する二枚のウェッジプリズムが配置されている。
【0047】
[伝播方向調整の動作]
本実施形態では、第一ウェッジプリズムP112と第四ウェッジプリズムP122とが互いに逆方向に、かつ同じ大きさの回転角度で回転運動して、通信光の屈折角のヨー方向成分が調整される。また、第二ウェッジプリズムP212と第三ウェッジプリズムP222とが互いに逆方向に、かつ同じ大きさの回転角度で回転運動して、通信光の屈折角のピッチ方向成分が調整される。
【0048】
[主な作用効果]
本実施形態の光通信装置も、実施形態1の光通信装置と同様に、ウェッジプリズムの回転運動に起因する共振を防止し、光通信装置の振動を抑制することが可能である。その理由には、以下のような力学的な理由が含まれると考えられる。
【0049】
たとえば、本実施形態では、ヨー方向への屈折角度を調整する第一ウェッジプリズム対のウェッジプリズム間の距離が、ピッチ方向への屈折角度を調整する第二ウェッジプリズム対のウェッジプリズム間の距離よりも長い。よって、同じ回転角度の大きさで比べたときに、対で回転運動するウェッジプリズムによる動作時のモーメントの大きさは、第一ウェッジプリズム対でより大きくなり、第二ウェッジプリズム対でより小さくなる。
【0050】
このように、本実施形態では、二ツのウェッジプリズム対の間で、回転運動によるモーメントの大きさに差が生じる。このため、二つのウェッジプリズム対の回転運動に差が生じやすく、共振が生じにくい。
【0051】
よって、本実施形態は、斜め45°のような、ヨー方向の成分とピッチ方向の成分が同程度の大きさとなる方向に通信光を走査させる光通信装置において、当該光通信装置の振動を抑制するのに好適である。
【0052】
また、本実施形態の光通信装置では、ある一対のウェッジプリズムの間に他の一対のウェッジプリズムを挟むことによって、全ての隣り合うウェッジプリズム間の距離を最少にしつつ、ある一対をなすウェッジプリズム間の距離をより大きくすることが可能である。よって、本実施形態は、前述した実施形態1と同様に、ウェッジプリズムの配置の小型化の観点で有利である。
【0053】
〔実施形態3〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、前述の実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。本実施形態の光通信装置は、ウェッジプリズムユニットにおけるウェッジプリズムの形状およびその配置が異なる以外は、前述した実施形態1の光通信装置と同様に構成されている。
【0054】
[ウェッジプリズムの配置]
図5は、本発明の実施形態3におけるウェッジプリズムの配置を示す図である。
図5に示されるように、第一のウェッジプリズムユニット15は、通信光のヨー方向の屈折角度を調整するための第一のウェッジプリズム対に属する第一ウェッジプリズムP113と第二ウェッジプリズムP123とを有している。また、第二のウェッジプリズムユニット16は、通信光のピッチ方向の屈折角度を調整するための第二のウェッジプリズム対に属する第三ウェッジプリズムP213と第四ウェッジプリズムP223とを有している。
【0055】
第一ウェッジプリズムP113および第二ウェッジプリズムP123は、いずれも同じ寸法を有し、また第一の頂角θを有している。第三ウェッジプリズムP213および第四ウェッジプリズムP223は、いずれも第二の頂角γを有する以外は、第一ウェッジプリズムP113および第二ウェッジプリズムP123と同じ寸法を有している。θはγよりも大きく、その差は例えば0.1~10°であり、より好ましくは0.1~7°である。
【0056】
[伝播方向調整の動作]
本実施形態では、第一ウェッジプリズムP113と第二ウェッジプリズムP123とが互いに逆方向に、かつ同じ大きさの回転角度で回転運動して、通信光の屈折角のヨー方向成分が調整される。また、第三ウェッジプリズムP213と第四ウェッジプリズムP223とが互いに逆方向に、かつ同じ大きさの回転角度で回転運動して、通信光の屈折角のピッチ方向成分が調整する。通信光の伝播方向を同じ大きさの屈折角度で屈折させる場合では、第一のウェッジプリズム対のウェッジプリズムP113、P123の回転角度は、第二のウェッジプリズム対のウェッジプリズムP213、P223の回転角度よりも大きくなる。
【0057】
[主な作用効果]
本実施形態の光通信装置も、実施形態1の光通信装置と同様に、ウェッジプリズムの回転運動に起因する共振を防止し、光通信装置の振動を抑制することが可能である。その理由には、以下のような力学的な理由が含まれると考えられる。
【0058】
たとえば、本実施形態の光通信装置では、通信光の伝播方向を同じ大きさの屈折角度で屈折させる場合で比べたときに、第一のウェッジプリズム対のウェッジプリズムの回転角度は、第二のウェッジプリズム対のウェッジプリズムの回転角度よりも大きくなる。よって、回転運動によるモーメントも、第一のウェッジプリズム対のそれは、第二のウェッジプリズム対のそれよりも大きくなる。
【0059】
このため、本実施形態の光通信装置では、ウェッジプリズム対間でのウェッジプリズムの回転運動の大きさが偏りやすい。そのため、個々のウェッジプリズム対に起因する光通信装置の振動が収束しやすく、防止される。
【0060】
また、本実施形態の光通信装置では、一方の屈折角度を有するウェッジプリズム対のみを用いて、他方の異なる屈折角度を有するウェッジプリズム対による通信光の屈折を実現するためには、一方の屈折角度を有するウェッジプリズム対のウェッジプリズムの間隔をより広くする必要がある場合がある。本実施形態では、異なる屈折角度を有するウェッジプリズム対を用いることにより、全ての隣り合うウェッジプリズム間の距離を最少にしつつ、屈折角度の異なるウェッジプリズム対による上記の光学特性が実現される。よって、本実施形態は、前述した実施形態1および実施形態2と同様に、ウェッジプリズムの配置の小型化の観点で有利である。
【0061】
〔変形例〕
前述の実施形態の説明では、光通信装置を通信光の出射側の装置として説明したが、本発明の光通信装置は、受光側の装置であってもよい。このような受信側の光通信装置は、前述の発光素子に代えて受光素子を有することで構成される。受光素子には、光を電気に変換する素子を好適に用いることができる。受光素子の例には、フォトダイオードおよびCMOSイメージセンサが含まれる。
【0062】
本発明の光通信装置は、第三以降のウェッジプリズム対をさらに有していてもよい。第三以降のウェッジプリズム対は、上記の実施形態の要件を満たすようにウェッジプリズムを有していればよい。
【0063】
本発明では、前述した実施形態3において前述の実施形態1または実施形態2の構成を採用してもよい。この場合、実施形態1または実施形態2の効果と実施形態3の効果との両方の実現が期待される。
【0064】
本発明では、通信光の伝播方向を所望の方向へ制御可能な範囲において、ウェッジプリズム対におけるウェッジプリズムの回転方向は、いずれも同じ方向であってもよいし、異なる絶対値の回転角度で回転させてもよい。
【0065】
本発明では、加速度センサに代えて、または加速度センサに加えてジャイロセンサを備えていてもよい。光通信装置の揺れの形態には、任意の場所を回転中心として回転運動する回転揺れもある。回転揺れの検出には、ジャイロセンサが有利である。この構成は、光通信装置の回転揺れを抑制する観点から好適である。
【0066】
本発明では、コントローラが算出したウェッジプリズムの回転角度の値に応じて、ウェッジプリズム対間でウェッジプリズムの回転速度が異なるように、ウェッジプリズムの回転速度を調整する制御をさらに含んでいてもよい。前述した実施形態では、ウェッジプリズムの回転速度は、コイルの電流値によって調整可能である。このようなさらなる制御によれば、振動および共振を抑制する効果が期待される。
【0067】
〔実験例1〕
いずれも同じ頂角を有する四枚のウェッジプリズムを用いる以外は前述した実施形態3と同様の構成を有する光通信装置を用いて、ヨー方向とピッチ方向の両成分を含む方向で振動する通信光の伝播方向の制御を以下の条件で実施した。そして、このときの光通信装置の振動を求めた。この制御の結果、通信光の振動と同方向の光通信装置における振動の発生が確認された。
(条件)
ウェッジプリズムの径:35mm
ウェッジプリズムの頂角:0.1°
回転方向:ウェッジプリズム対で互いに対向方向
回転角度(絶対値):10°
通信光の振動方向:ランダム
通信光の振幅:1mrad
振動の周波数:15Hz
【0068】
〔実験例2〕
前述した実施形態1と同様にウェッジプリズムを配置し、実施形態1と同様に回転運動を制御した以外は実験例1と同様に通信光の伝播方向の制御を実施した。その結果、光通信装置の振動の発生は確認されなかった。
【0069】
〔実験例3〕
前述した実施形態2と同様にウェッジプリズムを配置し、実施形態2と同様に回転運動を制御した以外は実験例1と同様に通信光の伝播方向の制御を実施した。その結果、光通信装置の振動の発生は確認されなかった。
【0070】
〔実験例4〕
前述した実施形態3と同様のウェッジプリズムを用い、実施形態3と同様に回転運動を制御した以外は実験例1と同様に通信光の伝播方向の制御を実施した。その結果、光通信装置の振動の発生は確認されなかった。
【0071】
以上の実験例から明らかなように、前述した本発明の実施形態は、ウェッジプリズムの回転による光通信装置の振動および共振を防止する。したがって、本発明の実施形態では、光通信装置の振動が容易に打ち消され、少なくとも2組2対のウェッジプリズムにおける共振の防止が可能であり、光通信装置の無重力での姿勢制御への貢献が期待される。
【0072】
〔まとめ〕
以上の説明から明らかなように、本発明の実施形態に係る光通信装置(10)は、通信光の光路中に回転可能に配置されている四枚のウェッジプリズム(P111、P211、P121、P221)を有する。そして、二枚のウェッジプリズム(P111、P121)は、通信光の第一の方向における屈折角を調整するための第一のウェッジプリズム対に属し、残りの二枚のウェッジプリズム(P211、P221)は、通信光の第二の方向における屈折角を調整するための第二のウェッジプリズム対に属し、一方のウェッジプリズム対に属する二枚のウェッジプリズムの間に、少なくとも一枚の他方のウェッジプリズム対に属するウェッジプリズムが配置されている。
【0073】
または、本発明の実施形態に係る光通信装置は、通信光の光路中に回転可能に配置されている四枚のウェッジプリズムを有する。そして、二枚のウェッジプリズム(P113、P123)は、いずれも第一の頂角を有し、通信光の第一の方向における屈折角を調整するための第一のウェッジプリズム対に属し、残りの二枚のウェッジプリズム(P213、P223)は、いずれも第二の頂角を有し、通信光の第二の方向における屈折角を調整するための第二のウェッジプリズム対に属する。
【0074】
上記の光通信装置は、いずれも、ウェッジプリズムの回転運動による光通信装置の共振の発生が抑制される光通信装置を実現することができる。
【0075】
後者の光通信装置では、一方のウェッジプリズム対に属する二枚のウェッジプリズムと、他方のウェッジプリズム対に属する二枚のウェッジプリズムとが、この順で配置されていてもよい。この構成は、ウェッジプリズムの回転運動による光通信装置の振動の発生を抑制する観点からより一層効果的である。
【0076】
本発明の実施形態において、第一のウェッジプリズム対に属するウェッジプリズムと、第二のウェッジプリズム対に属するウェッジプリズムとが交互に配置されていてもよい。この構成は、ウェッジプリズムの回転運動による光通信装置の振動の発生を抑制する観点からより一層効果的である。
【0077】
本発明の実施形態において、一方のウェッジプリズム対に属する二枚のウェッジプリズムの間に、他方のウェッジプリズム対に属する二枚のウェッジプリズムが配置されていてもよい。この構成は、ウェッジプリズムの回転運動による光通信装置の振動の発生を抑制する観点からより一層効果的である。
【0078】
本発明の実施形態において、同じウェッジプリズム対に属する二枚のウェッジプリズムの回転方向が互いに逆方向であり、かつ同じウェッジプリズム対に属する二枚のウェッジプリズムの回転角度の絶対値が同じであってもよい。この構成は、光通信の通信光の制御を実現し、かつ光通信装置の振動の発生を抑制する観点からより一層効果的である。
【0079】
本発明によれば、強靭な光通信網の構築の整備に貢献が期待され、産業と技術革新の基盤についての持続可能な開発目標(SDGs)の達成への貢献が期待される。
【0080】
本発明は、上述した各実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0081】
10 光通信装置
11 ケーシング
12 架台
13 発光素子
14 光軸調整装置
15 第一のウェッジプリズムユニット
16 第二のウェッジプリズムユニット
17 加速度センサ
18 コントローラ
110、120、210、220 ホルダ
111、121、211、221 コイル
112、122、212、222 位置センサ
P111、P112、P113 第一ウェッジプリズム
P123、P211、P212 第二ウェッジプリズム
P121、P213、P222 第三ウェッジプリズム
P122、P221、P223 第四ウェッジプリズム
CA 回転軸