(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150439
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】地盤構造推定方法及びそれに用いられる受振ユニット
(51)【国際特許分類】
E02D 1/02 20060101AFI20231005BHJP
G01V 1/02 20060101ALI20231005BHJP
G01V 1/42 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
E02D1/02
G01V1/02 E
G01V1/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059547
(22)【出願日】2022-03-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年8月31日にウェブサイト掲載
(71)【出願人】
【識別番号】000222668
【氏名又は名称】東洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】和田 眞郷
(72)【発明者】
【氏名】宮本 順司
(72)【発明者】
【氏名】小田切 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】河田 晃靖
(72)【発明者】
【氏名】鶴ヶ崎 和博
【テーマコード(参考)】
2D043
2G105
【Fターム(参考)】
2D043AB07
2D043AB08
2D043AC01
2G105AA02
2G105BB01
2G105CC03
2G105DD02
2G105EE02
2G105GG05
2G105LL09
(57)【要約】
【課題】地下水の有無などの地盤状態に関わらず、地盤構造を面的或いは立体的に効率よく推定する。
【解決手段】地盤構造推定方法は、地中の起振孔60内の、深度が互いに異なる複数の地中起振点62において、順次、起振具10によって振動を発生させ、複数の地中起振点62の各々で発生した振動のS波を、水平位置が互いに及び起振孔60と異なる複数の地表受振点70と、水平位置が起振孔60と異なる地中の受振孔80内の、深度が互いに異なる複数の地中受振点82との、少なくともいずれか一方において受振し、受振したS波に基づき、弾性波トモグラフィ法を利用して地盤GのS波速度構造を推定する。このように、振動のP波を用いずにS波を用いるため、地下水の有無などの地盤Gの状態に関わらず、地盤Gの構造を面的或いは立体的に効率よく推定することができる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤構造を推定する方法であって、
地中の起振孔内の、深度が互いに異なる複数の地中起振点において、順次、起振具によって振動を発生させ、
前記複数の地中起振点の各々で発生した振動のS波を、水平位置が互いに及び前記起振孔と異なる複数の地表受振点と、水平位置が前記起振孔と異なる地中の受振孔内の、深度が互いに異なる複数の地中受振点との、少なくともいずれか一方において受振し、
受振したS波に基づき、弾性波トモグラフィ法を利用して、地盤のS波速度構造を推定することを特徴とする地盤構造推定方法。
【請求項2】
前記複数の地表受振点において振動のS波を受振する場合に、水平位置が互いに異なる位置に少なくとも2つの前記起振孔を設け、該少なくとも2つの起振孔の各々の、前記複数の地中起振点において振動を発生させることを特徴とする請求項1記載の地盤構造推定方法。
【請求項3】
互いに直交する3方向の振動を計測するように3つの振動センサを組み合わせた3方向受振器を、チューブ状部材の外周に該チューブ状部材の長手方向に互いに間隔を空けて複数取り付け、このとき、複数の前記3方向受振器の間隔を前記複数の地中受振点の配置間隔に合わせ、更に、前記チューブ状部材を前記受振孔内で膨張させて複数の前記3方向受振器を孔壁に密着させることで、前記複数の地中受振点のうち、複数の前記3方向受振器が位置している地中受振点での受振を同時に行うことを特徴とする請求項1又は2記載の地盤構造推定方法。
【請求項4】
前記複数の地中受振点を、前記受振孔内での深度が1m毎に設定し、
前記チューブ状部材に、5つ以下の前記3方向受振器を1m間隔で取り付けることを特徴とする請求項3記載の地盤構造推定方法。
【請求項5】
前記起振具として、動的コーン貫入試験、静的コーン貫入試験、及び標準貫入試験のうち、いずれか1つの試験で利用される器具又は装置を流用すると共に、前記1つの試験を並行して行うことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の地盤構造推定方法。
【請求項6】
地盤構造を推定するために、地中の受振孔内の、深度が互いに異なる複数の地中受振点において、起振点で発生した振動のS波を受振する受振ユニットであって、
互いに直交する3方向の振動を計測するように3つの振動センサが組み合わされた3方向受振器と、
拡径方向に膨張可能なチューブ状部材と、を含み、
該チューブ状部材の外周に、複数の前記3方向受振器が、前記複数の地中受振点の配置間隔に合わせて互いに間隔を空けて、前記チューブ状部材の長手方向に沿って取り付けられていることを特徴とする受振ユニット。
【請求項7】
前記チューブ状部材に、5つ以下の前記3方向受振器が1m間隔で取り付けられていることを特徴とする請求項6記載の受振ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤構造を推定する地盤構造推定方法と、地盤構造推定方法に用いられる受振ユニットとに関するものである。
【背景技術】
【0002】
地盤の構造を推定する方法として、地盤の弾性波速度検層方法(JGS 1122 2012)、人工的に発生させた弾性波を用いる弾性波トモグラフィ法などが挙げられ、例えば特許文献1、2には、弾性波トモグラフィ法を活用して地盤構造を推定する方法が開示されている。すなわち、特許文献1には、坑井内の震源を用いずに、地表に配置した震源のみで坑井間トモグラフィ測定データを作成できる方法が開示されている。また、特許文献2には、表面波探査法によって地盤のS波速度構造を推定し、推定したS波速度構造に基づき初期パラメータを設定して、複数の地中の受振点で受振したP波に基づき、弾性波トモグラフィ法によって地盤のP波速度構造を推定することで、処理負荷を低減する地盤構造推定方法が開示されている。更に、一般的に、地盤強度、すなわち地盤の硬軟や締まり具合などは、標準貫入試験方法(JIS A 1219)、機械式コーン貫入試験方法(JIS A 1220)、及び動的コーン貫入試験方法(JGS 1437 2014)などに基づいて調査されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-298369号公報
【特許文献2】特開2020-167726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述した弾性波トモグラフィ法を使用する推定方法ではP波を用いており、P波は、岩盤の場合には硬軟に相関するものの、地下水以深の飽和地盤の場合には水中速度と同じになり、地盤の硬軟と直接関りがなくなるため、地盤の硬軟を推定するのが困難になる。これに対し、地盤の弾性波速度検層方法では、各地層のP波速度のみではなく、地盤の硬軟と相関するS波速度を得ることができるが、試験地点1点のS波データのみしか得ることができない。また、標準貫入試験方法や機械式コーン貫入試験方法、及び動的コーン貫入試験方法でも試験地点1点の硬軟データのみしか得られず、面的或いは立体的な硬軟データを得たい場合は、複数の地点で試験方法を実施する必要があった。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、地下水の有無などの地盤状態に関わらず、地盤構造を面的或いは立体的に効率よく推定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0006】
(1)地盤構造を推定する方法であって、地中の起振孔内の、深度が互いに異なる複数の地中起振点において、順次、起振具によって振動を発生させ、前記複数の地中起振点の各々で発生した振動のS波を、水平位置が互いに及び前記起振孔と異なる複数の地表受振点と、水平位置が前記起振孔と異なる地中の受振孔内の、深度が互いに異なる複数の地中受振点との、少なくともいずれか一方において受振し、受振したS波に基づき、弾性波トモグラフィ法を利用して、地盤のS波速度構造を推定する地盤構造推定方法。
【0007】
本項に記載の地盤構造推定方法は、弾性波トモグラフィ法を利用して地盤構造を推定するものであって、この際、起振点で発生させた振動のS波を受振点で受振し、その受振した振動のS波を使用して推定を行う。受振する振動は、対象地盤の地中に設ける起振孔内に、深度が互いに異なる複数の地中起振点を設定し、これら複数の地中起振点において、順次、起振具を利用することで発生させる。このとき、深度を徐々に大きくしながら起振孔を設け、起振孔の深度が設定した地中起振点に達する度に、起振孔の先端で振動を発生させてもよい。
【0008】
そして、上記のように複数の地中起振点の各々で発生させた振動のS波を、対象地盤の範囲に設定する、複数の地表受振点と複数の地中受振点との、少なくともいずれか一方で受振する。複数の地表受振点は、水平位置が互いに異なると共に、起振孔とも水平位置が異なる位置に設定する。また、複数の地中受振点は、水平位置が起振孔と異なる位置に受振孔を設け、その地中の受振孔内の、深度が互いに異なる位置に設定する。そして、このように設定した複数の地表受振点と複数の地中受振点との、少なくともいずれか一方で受振した振動のS波から、弾性波トモグラフィ法を利用して、対象地盤のS波速度構造を推定するものである。
【0009】
これにより、振動を複数の地表受振点のみで受振する場合は、複数の地中起振点と複数の地表受振点との間に位置する地盤の構造が推定され、振動を複数の地中受振点のみで受振する場合は、複数の地中起振点と複数の地中受振点との間に位置する地盤の構造が推定される。更に、振動を複数の地表受振点と複数の地中受振点との双方で受振する場合は、複数の地中起振点と複数の地表受振点との間に位置する地盤の構造と、複数の地中起振点と複数の地中受振点との間に位置する地盤の構造とが推定される。いずれの場合であっても、地盤構造が面的或いは立体的に効率よく推定されるものであり、特に地表受振点と地中受振点との双方で受振する場合は、振動が柔らかい地盤を迂回して伝播したときの不足データなどが補われて、推定精度がより高められるものである。しかも、弾性波トモグラフィ法によって、振動のP波を用いずに、振動のS波を利用して地盤のS波速度構造を推定するため、地下水以深の地盤や海底地盤などの飽和地盤であっても、地盤構造が問題なく推定されるものである。従って、地盤の状態に関わらず、地盤の硬軟などの構造が効率よく推定されることとなる。
【0010】
(2)上記(1)項において、前記複数の地表受振点において振動のS波を受振する場合に、水平位置が互いに異なる位置に少なくとも2つの前記起振孔を設け、該少なくとも2つの起振孔の各々の、前記複数の地中起振点において振動を発生させる地盤構造推定方法。
本項に記載の地盤構造推定方法は、複数の地表受振点において振動のS波を受振する場合に、水平位置が互いに異なる位置に少なくとも2つの起振孔を設ける。そして、これら少なくとも2つの起振孔の各々に複数の地中起振点を設定し、それら複数の地中起振点の各々において振動を発生させる。すなわち、例えば2つの起振孔を設ける場合は、一方の起振孔の複数の地中起振点において、順次、起振具によって振動を発生させ、その振動のS波を複数の地表受振点で受振する。また、それとは別のタイミングで、他方の起振孔の複数の地中起振点において、順次、起振具によって振動を発生させ、その振動のS波を複数の地表受振点で受振する。
【0011】
ここで、複数の地表受振点の中で、一方の起振孔の近傍に位置する地表受振点では、起振点からの距離の近さに起因して、受振した振動のP波が卓越してS波との判別が困難な場合がある。しかしながら、そのような地表受振点は、他方の起振孔から離れた位置にあることで、他方の起振孔の地中起振点で発生した振動を受振したときに、P波とS波との判別が容易に行われる。このように、少なくとも2つの起振孔において振動を発生させることで、複数の地表受振点の全てにおいて、少なくとも1つの起振孔からの振動にかかるP波とS波との判別が容易に行えるようになり、換言すれば、例えば起振孔の直上などの地盤情報が補完される。このため、S波を利用した弾性波トモグラフィ法による地盤構造の推定が、より精度よく実現されるものとなり、推定結果の信頼性が向上するものである。なお、複数の地中受振点でも振動を受振する場合は、当然のことながら、各起振孔で発生させた振動を複数の地中受振点でも受振してよい。
【0012】
(3)上記(1)(2)項において、互いに直交する3方向の振動を計測するように3つの振動センサを組み合わせた3方向受振器を、チューブ状部材の外周に該チューブ状部材の長手方向に互いに間隔を空けて複数取り付け、このとき、複数の前記3方向受振器の間隔を前記複数の地中受振点の配置間隔に合わせ、更に、前記チューブ状部材を前記受振孔内で膨張させて複数の前記3方向受振器を孔壁に密着させることで、前記複数の地中受振点のうち、複数の前記3方向受振器が位置している地中受振点での受振を同時に行う地盤構造推定方法。
【0013】
本項に記載の地盤構造推定方法は、複数の地中受振点における振動の受振を、3方向受振器やチューブ状部材を含む、受振ユニットとでも呼ばれるような装置を使用して実行するものである。すなわち、互いに直交する3方向の振動を計測するように、3つの振動センサを組み合わせて3方向受振器を作製し、この3方向受振器を複数用意する。そして、これら複数の3方向受振器を、チューブ状部材の外周に、チューブ状部材の長手方向に互いに間隔を空けて取り付け、この際、複数の3方向受振器の間隔を複数の地中受振点の配置間隔に合わせて取り付ける。
【0014】
更に、複数の3方向受振器が取り付けられたチューブ状部材を受振孔内に配置し、受振孔内でチューブ状部材を膨張させることで、複数の3方向受振器を受振孔の孔壁に密着させる。このとき、複数の3方向受振器の位置を、受振孔に設定した複数の地中受振点のいずれかに合わせて密着させる。そして、このように設置した複数の3方向受振器によって、複数の地中起振点で発生させた振動のS波を受振するものである。これにより、複数の地中受振点のうち、複数の3方向受振器が位置している地中受振点での受振が同時に行われるため、作業の省力化及び短時間化が見込まれ、より効率よく地盤構造が推定されるものとなる。しかも、3方向受振器の各々は、互いに直交する3方向の振動を計測するように構成されているため、各地中受振点において問題なく振動のS波が計測されるものである。
【0015】
(4)上記(3)項において、前記複数の地中受振点を、前記受振孔内での深度が1m毎に設定し、前記チューブ状部材に、5つ以下の前記3方向受振器を1m間隔で取り付ける地盤構造推定方法。
本項に記載の地盤構造推定方法は、受振孔に設定する複数の地中受振点を、受振孔内での深度が1m毎に設定する。そして、これに合わせて、チューブ状部材の外周に取り付ける複数の3方向受振器の取り付け間隔を1mとし、更に、チューブ状部材に取り付ける3方向受振器の数量を5つ以下とする。
【0016】
これにより、チューブ状部材の長さは、5m程度もあれば事足りるため、例えば地下水や海水などが流入した受振孔内でチューブ状部材を膨張させる場合であっても、チューブ状部材の上下間での水圧差が抑制される。従って、チューブ状部材が長過ぎる場合に懸念される、水圧差に起因するチューブ状部材の内部の圧力の偏りが抑制されるため、5つ以下の3方向受振器が、チューブ状部材の長手方向についての取り付け位置に関わらず、膨張したチューブ状部材によって問題なく孔壁に密着されるものとなる。また、複数の地中受振点を深度が1m毎に設定することで、1mの深度毎に振動の受振及びそのデータを使用した地盤構造の推定が行われることになり、適切な間隔で地盤構造が推定されるものである。
【0017】
(5)上記(1)から(4)項において、前記起振具として、動的コーン貫入試験、静的コーン貫入試験、及び標準貫入試験のうち、いずれか1つの試験で利用される器具又は装置を流用すると共に、前記1つの試験を並行して行う地盤構造推定方法。
本項に記載の地盤構造推定方法は、起振孔内の複数の地中起振点で振動を発生させる際に、動的コーン貫入試験、静的コーン貫入試験、及び標準貫入試験のうち、いずれか1つの試験で利用される器具又は装置を起振具として流用して振動を発生させ、更にその試験を並行して行うものである。換言すれば、起振孔において上記の3つの貫入試験のうちのいずれか1つの試験を行い、その試験において発生させる振動を、複数の地表受振点や複数の地中受振点で受振するものである。
【0018】
すなわち、動的コーン貫入試験又は静的コーン貫入試験の場合は、先端にコーンが取り付けられたロッドと、ロッドの後端を打撃するハンマーなどとを、振動を発生させるための起振具として利用する。また、標準貫入試験の場合は、先端にサンプラーが取り付けられたボーリングロッドと、ボーリングロッドの後端を打撃するドライブハンマーとを、振動を発生させるための起振具として利用する。このように、専用の起振具を使用することなく、各貫入試験で利用される器具又は装置を起振具として流用して振動を発生させることで、コストの低減を図るものである。更に、いずれか1つの貫入試験を並行して行い、その試験結果も利用して地盤構造を推定することで、地盤構造の推定精度が向上されるものである。
【0019】
(6)地盤構造を推定するために、地中の受振孔内の、深度が互いに異なる複数の地中受振点において、起振点で発生した振動のS波を受振する受振ユニットであって、互いに直交する3方向の振動を計測するように3つの振動センサが組み合わされた3方向受振器と、拡径方向に膨張可能なチューブ状部材と、を含み、該チューブ状部材の外周に、複数の前記3方向受振器が、前記複数の地中受振点の配置間隔に合わせて互いに間隔を空けて、前記チューブ状部材の長手方向に沿って取り付けられている受振ユニット。
【0020】
本項に記載の受振ユニットは、地盤構造の推定に利用されるデータを取得するために、起振点で発生した振動のS波を、対象地盤に設けられた地中の受振孔内の、深度が互いに異なる複数の地中受振点において受振するものである。具体的に、この受振ユニットは、3方向受振器とチューブ状部材とを含み、3方向受振器は、互いに直交する3方向の振動を計測するように、3つの振動センサが組み合わされて形成されている。チューブ状部材は、拡径方向に膨張可能なものであって、その外周に複数の3方向受振器が取り付けられている。このとき、複数の3方向受振器は、受振孔に設定された複数の地中受振点の配置間隔に合わせて、チューブ状部材の長手方向に沿って、互いに間隔を空けて取り付けられる。
【0021】
このような構成により、受振ユニットは、データの取得時に、複数の3方向受振器の位置が複数の地中受振点の深度に合わせられた状態で、受振孔内に配置される。そして、その状態でチューブ状部材に空気などが送り込まれることで、拡径方向に膨張したチューブ状部材によって、受振孔の孔壁に複数の3方向受振器が密着する。これにより、複数の3方向受振器が位置する複数の地中受振点において、起振点で発生した振動のS波が同時に計測されるようになるため、作業の省力化及び短時間化が図られるものとなる。しかも、複数の3方向受振器の各々が、互いに直交する3方向の振動を計測するように構成されているため、地中受振点の各々で問題なく振動のS波が計測されるものとなる。なお、複数の3方向受振器の数量は、複数の地中受振点の数量と同じである必要はなく、複数の地中受振点の全てで計測を行うために、受振ユニットの配置深度が変えられながら複数回に分けて計測が行われてもよい。
【0022】
(7)上記(6)項において、前記チューブ状部材に、5つ以下の前記3方向受振器が1m間隔で取り付けられている受振ユニット。
本項に記載の受振ユニットは、チューブ状部材の外周に、5つ以下の3方向受振器が1m間隔で取り付けられているものである。すなわち、受振孔内には、複数の地中受振点が1m毎の深度で設定されており、その設定間隔に合わせて3方向受振器が取り付けられる。また、3方向受振器の数量が5つ以下であることで、チューブ状部材の長さが5m程度に抑えられるため、水圧差によるチューブ状部材内の両端間の圧力の偏りが抑制される。
【0023】
すなわち、地下水以深の地盤や海底地盤などの飽和地盤に設置されることを想定すると、受振孔内の地下水や海水の中でチューブ状部材が膨張することになる。そして、その際に外部から受ける水圧の影響が、チューブ状部材の長さが5m程度であることによって、チューブ状部材の両端間(上下端間)であまり差が出ないように抑制されるため、チューブ状部材全体が問題なく膨張するものとなる。これにより、5つ以下の3方向受振器の全てが孔壁に密着し、振動のS波の受振が精度よく行われるものである。更に、1mの深度毎に設定された複数の地中受振点においてS波を計測するものであるため、地盤構造が適切な間隔で推定されるものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明は上記のような構成であるため、地下水の有無などの地盤状態に関わらず、地盤構造を面的或いは立体的に効率よく推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施の形態に係る地盤構造推定方法で使用する部材の配置を概略的に示すイメージ図である。
【
図2】受振ユニットの構成を概略的に示すイメージ図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る地盤構造推定方法における、複数の地中起振点、複数の地表受振点、及び複数の地中受振点の位置関係を概略的に示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面に基づき説明する。ここで、従来技術と同一部分、若しくは相当する部分については、詳しい説明を省略することとし、また、図面の全体にわたって、同一部分若しくは対応する部分は、同一の符号で示している。
図1は、本発明の実施の形態に係る地盤構造推定方法で使用する部材の構成及び配置の一例を示している。図示のように、本発明の実施の形態に係る地盤構造推定方法は、起振具10、複数の地表受振器20、計測器24、分析装置26、受振ユニット30、及びコンプレッサー56を使用して、地盤Gの構造を推定するものである。
【0027】
起振具10は、地盤Gに形成された地中の起振孔60において、振動を発生するためのものであって、本実施形態では、ハンマーなどの打撃手段12と、ロッドなどの長尺状の被打撃物14とで構成されている。すなわち、起振孔60内に設置された被打撃物14の後端側が、打撃手段12により打撃されることで、被打撃物14の先端が位置している起振孔60の先端部分で、振動を発生させるものである。後述するように、起振孔60には、深度が互いに異なる複数の地中起振点62(
図3参照)が設定され、その地中起振点62の各々で振動を発生させるように、被打撃物14の先端の位置が調整、すなわち、起振孔60の深度が調整される。
【0028】
また、起振具10には、動的コーン貫入試験、静的コーン貫入試験、及び標準貫入試験などで利用される器具や装置が流用されてもよい。すなわち、動的コーン貫入試験や静的コーン貫入試験の器具や装置が流用される場合は、打撃手段12として、木製ハンマー、大型油圧ハンマーなどが用いられ、被打撃物14として、先端にコーンが取り付けられたロッドなどが用いられる。また、標準貫入試験の器具や装置が流用される場合は、打撃手段12として、ドライブハンマーが用いられ、被打撃物14として、先端にサンプラーが取り付けられたボーリングロッドが用いられる。
【0029】
複数の地表受振器20は、計測対象の地盤Gの地表において、上記のようにして起振具10により発生された振動のS波を受振するためのものであり、後述するように設定される複数の地表受振点70(
図3参照)において、振動を受振するように設置される。地表受振器20には、地表で振動のS波を受振可能な任意の振動センサが利用される。複数の地表受振器20は、テイクアウトケーブル22を介して計測器24に接続されている。計測器24は、複数の地表受振器20によって受振された振動をデータ化し、分析装置26へと送信するものである。
【0030】
受振ユニット30は、計測対象の地盤Gに形成された地中の受振孔80において、上記のようにして起振具10により発生された振動のS波を受振するためのものであって、複数の3方向受振器32とチューブ状部材48とを含んでいる。
図2には、そのような本発明の実施の形態に係る受振ユニット30の詳細構造が例示されている。まず、
図2(a)に示すように、3方向受振器32の各々は、3つの振動センサ34、円筒ケース36、2つの止水栓40、及びケーブル42を含んでいる。3つの振動センサ34は、互いに直交する3方向(高さ方向、側方向、奥行き方向)の振動を計測するように、円筒ケース36内で位置及び向きが固定されている。
【0031】
3つの振動センサ34の固定は、円筒ケース36内に充填されたシリコン38によって実現され、3つの振動センサ34及びシリコン38を内蔵した状態で、円筒ケース36の上下両端が、止水栓40によって塞がれている。ケーブル42は、3つの振動センサ34の各々から延びるデータ通信線を収容・保護するものである。3つの振動センサ34には、各方向の振動を計測可能な任意の振動センサが利用され、3つの振動センサ34の固定方法も、シリコン38以外のものを用いた任意の方法であってもよい。また、これらに限定されるものではないが、例えば、円筒ケース36は内径が40mm程度のアルミ製のものであり、2つの止水栓40にはシリコン樹脂製などの止水性に優れたものが用いられる。
【0032】
次に、
図2(b)を参照すると、本発明の実施の形態に係る受振ユニット30は、チューブ状部材48の外周に、チューブ状部材48の長手方向に沿って、
図2(a)に示したような3方向受振器32が5つ取り付けられている。5つの3方向受振器32の設置間隔は、後述するように受振孔80に設定される複数の地中受振点82(
図3参照)の配置間隔と同じ大きさになっており、本実施形態ではその大きさが1mである。このため、本実施形態のチューブ状部材48の長さは、5つの3方向受振器32が1m間隔で取り付けられるように、約5mになっている。チューブ状部材48は、拡径方向に膨張可能なものであって、内部に空気が送り込まれることで膨張する。チューブ状部材48には、これに限定されるものではないが、ポリ塩化ビニルや化学繊維を含む多目的ホースなどが利用される。このようなチューブ状部材48に対する3方向受振器32の取り付け方法には、チューブ状部材48の材質などに応じて、接着剤などの任意の取り付け方法が採用される。
【0033】
また、チューブ状部材48の両端は、ねじ込み式などのキャップ50によって塞がれており、下方のキャップ50には錘52が接続され、上方のキャップ50には、キャップ50を貫通してチューブ状部材48の内部まで至る供給管54が接続されている。錘52は、受振ユニット30が飽和地盤などに形成されて地下水などが含まれる受振孔80内に設置される場合に、チューブ状部材48に空気が送り込まれた状態の受振ユニット30が受振孔80内で浮上することを防止する重さを有する、例えばステンレス製などの重錘である。供給管54は、チューブ状部材48の内部に空気を送り込むためのものであって、
図1に示したコンプレッサー56から延びている。
【0034】
図1に戻り、コンプレッサー56は、上記のような供給管54を介してチューブ状部材48に空気を送り込むものである。
図1には、供給管54に加えて、受振ユニット30からデータ線58が延びているが、このデータ線58は、
図2に示した3方向受振器32のケーブル42などが統合された線をイメージしたものであって、計測器24や分析装置26に接続されている。そして、このようなデータ線58を介して、5つの3方向受振器32による振動の受振結果が、計測器24や分析装置26へ送信される。分析装置26は、複数の地表受振器20及び受振ユニット30による振動の受振結果から、地盤Gの構造を分析して推定するものであり、本発明の実施の形態に係る地盤構造推定方法に必要な大部分の処理や計算が、分析装置26によって実行される。分析装置26には、例えばノート型PCやタブレット型PCなどの、任意のソフトウェアを搭載した任意のハードウェアを用いてよい。なお、
図1では、各装置の動作に必要な電力を供給するための電源などの図示を省略している。
【0035】
続いて、
図3を参照しながら、本発明の実施の形態に係る地盤構造推定方法の具体的な内容について説明する。なお、地盤構造推定方法に用いる部材の構成については、適宜、
図1及び
図2を参照のこと。
図3には、計測対象の地盤Gの周辺に設定した、複数の地中起振点62、複数の地表受振点70、及び複数の地中受振点82を丸印で示しており、地中起振点62が黒丸、地表受振点70が白丸、地中受振点82が灰色丸で示されている。また、地盤Gの中で改良が施された部分である改良地盤IGが、グレーで着色して示されており、更に地盤Gには、便宜上、1m間隔で縦及び横に延びる補助線も図示されている。
【0036】
まず、主に改良地盤IGを中心とした地盤構造を推定するために、2つの起振孔60の各々で振動を発生させ、その振動を複数の地表受振点70で受振して分析する場合を例にして説明する。この場合には、改良地盤IGの直上を網羅する地表の範囲に、互いに水平位置が異なるように複数の地表受振点70を設定し、
図3の例では、符号70A~70Cの間に1m間隔で設定された複数の地表受振点70がそれに相当する。そして、複数の地表受振点70の各々で振動を受振するように、複数の地表受振器20を設置する。更に、複数の地表受振点70と水平位置が異なる位置に、1つ目の起振孔60Aを設け、起振孔60Aに複数の地中起振点62を設定する。
図3の例では、起振孔60Aに、深度方向に1m間隔で9つの地中起振点62が設定されている。そして、これらの地中起振点62の各々で、上述したような起振具10を用いて振動を発生させる。
【0037】
より詳しくは、起振孔60Aに設定された複数の地中起振点62の中で、最も地表側(一番上)に設定された地中起振点62の深度まで起振孔60Aを形成し、その状態で起振具10により起振孔60Aの先端で振動を発生させる。そして、起振孔60Aの一番上の地中起振点62で発生させた振動を、複数の地表受振点70(70A~70Cの範囲)において受振し、その結果を分析装置26へ送信する。続いて、起振孔60Aの上から2番目の地中起振点62の深度まで起振孔60Aを形成し、その状態で起振孔60Aの先端で振動を発生させ、その振動を複数の地表受振点70で受振した結果を分析装置26へ送信する。以降は、起振孔60Aに設定した一番下の地中起振点62で振動を発生させるまで、順次、上記の手順を繰り返し実行する。このとき、振動を発生させる起振具10として、動的コーン貫入試験、静的コーン貫入試験、又は標準貫入試験で利用される起振具10を利用する場合は、起振孔60Aにおいてその貫入試験も並行して行い、その結果を分析装置26へ入力するものとする。
【0038】
次いで、水平位置が起振孔60Aや複数の地表受振点70と異なる位置に、2つ目の起振孔60Bを設け、起振孔60Bに1m間隔で9つの地中起振点62を設定し、これらの地中起振点62の各々で振動を発生させる。そして、発生させた振動を複数の地表受振点70で受振し、受振した結果を分析装置26へ送信する。このとき、起振孔60Bに設定した全ての地中起振点62で振動を発生させるまで、深度を徐々に下げながら起振孔60Bを形成し、その起振孔60Bの先端で振動を発生させることや、起振孔60Bにおいて貫入試験を並行して行うことなどは、起振孔60Aの場合と同様である。なお、
図3には、起振孔60Aの一番上の地中起振点62と、起振孔60Bの一番上の地中起振点62とから、複数の地表受振点70や複数の地中受振点82へ、直進的に伝わる振動の波線イメージが、破線で図示されている。
【0039】
続いて、分析装置26を用いて、上述したように2つの起振孔60A、60Bで発生させた振動を複数の地表受振点70に設置された地表受振器20により受振した結果から、S波についての受振データを抽出する。そして、そのS波の受振データに基づいて、弾性波トモグラフィ法を利用して地盤GのS波速度構造を推定する。このとき、起振孔60で貫入試験を行っていた場合は、その試験結果も加味して地盤Gの構造を推定する。弾性波トモグラフィ法による地盤Gの構造の推定は、振動のS波のみを用いている点を除いて、従来既知の方法と同様であるため、ここでの詳しい説明は省略する。
【0040】
ここで、
図3の例のように、地表近傍に改良地盤IGが存在する場合は、改良地盤IGの領域が地盤Gの他の領域よりも硬くなっているため、地中起振点62で発生させた振動が直線的に伝播せず、地盤Gの柔らかい領域を迂回して改良地盤IGを通るように伝播する。具体的に、各地中起振点62で発生させた振動は、まずは略鉛直上方に伝播して、その後に他の領域と改良地盤IGとの境界で屈折し、そこからは改良地盤IGを通って略直線的に各地表受振点70まで伝播する。このため、複数の地表受振点70のみで振動を受振する場合は、特に改良地盤IGの
図3における左下端部や右下端部を通る振動の波線が存在せず、そのような端部の地盤構造が推定できない虞がある。
【0041】
そこで、上記のような改良地盤IGの端部の構造を推定するために、振動を改良地盤IGの端部を通して受振する方法として、以下のような計測を行った。なお、ここでは、改良地盤IGの
図3における右下端部の構造を補完するための方法を例にして説明するが、改良地盤IGの左下端部の構造を補完する場合は、以下の方法で左右を読み替えて実行すればよい。まず、複数の地表受振点70を、改良地盤IGの直上よりも図中右側方向に広い範囲まで、
図3の例では符号70Dで示す範囲まで設定する。更に、改良地盤IGの
図3における右側端部の近傍、
図3の例では改良地盤IGから右側へ5m程度離れたところに受振孔80を設け、受振孔80内に複数の地中受振点82を設定する。本実施形態では、深度が互いに1mずつ異なる位置に9つの地中受振点82を設定した。
【0042】
そして、3方向受振器32の位置が地中受振点82の深度に一致するように、受振孔80内に受振ユニット30を配置する。このとき、5つの3方向受振器32を備えた受振ユニット30により、受振孔80内の9つの地中受振点82の全てを2回に分けて計測することを念頭に配置する。そして、コンプレッサー56から供給管54を介してチューブ状部材48へ空気を送り込むことで、チューブ状部材48を拡径方向に膨張させて、5つの3方向受振器32を地中受振点82に相当する位置で孔壁に密着させる。ここまでの準備が整ったら、2つの起振孔60のうち
図3における右側の起振孔60Bの複数の地中起振点62において、順次、振動を発生させる。
【0043】
上記のように起振孔60Bで発生させた振動を、起振孔60Bよりも
図3における右側に位置する複数の地表受振点70(符号70B~70Dの範囲)で受振すると共に、受振孔80内の複数の地中受振点82でも受振する。すると、複数の地中起振点62から複数の地表受振点70へ至る振動の波線と、複数の地中起振点62から複数の地中受振点82へ至る振動の波線との、少なくとも一部が、改良地盤IGの
図3における右下端部を通って伝播する。このため、このようにして受振した振動のS波を利用して、弾性波トモグラフィ法により構造を推定して、改良地盤IGの右下端部の構造を補完する。なお、
図3の例では、起振孔60、地表受振点70、及び受振孔80の位置関係が、図中の左右方向についてのみ示されているが、当然のことながら、それらは
図3における紙面と直交する奥行き方向に存在していてもよいものである。
【0044】
ここで、本発明の実施の形態に係る地盤構造推定方法及びそれに用いられる部材の構成は、
図1~
図3に示した構成に限定されるものではなく、別の構成であってもよい。例えば、
図3の例と異なり、改良地盤IGが存在しない地盤Gの構造を推定してもよい。また、起振孔60の数や受振孔80の数は、
図3の例より多くても少なくてもよく、各起振孔60での複数の地中起振点62の数、複数の地表受振点70の数、及び各受振孔80での複数の地中受振点82の数も、
図3の例より多くても少なくてもよい。また、起振孔60を受振孔80として使用してもよい。また、受振ユニット30が具備する3方向受振器32の数量も5つに限定されるものではなく、4つ以下や6つ以上であってもよい。更に、3方向受振器32の取り付け間隔、複数の地中受振点82の設定間隔、複数の地表受振点70の設定間隔も、1mに限定されるものではなく他の距離であってよい。また、起振孔60において並行して行う試験は、地盤構造の推定に関するものであれば、動的コーン貫入試験や静的コーン貫入試験や標準貫入試験と別の試験であってもよい。また、起振具10は、該当深度で地盤Gに衝撃を与えて振動を発生させるものであれば、ハンマーなどの打撃手段12とロッドなどの長尺状の被打撃物14との組み合わせに限定されず、任意の手段で振動を発生させるものであってよい。
【0045】
さて、上記構成をなす本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。すなわち、本発明の実施の形態に係る地盤構造推定方法は、弾性波トモグラフィ法を利用して地盤構造を推定するものであって、この際、起振点で発生させた振動のS波を受振点で受振し、その受振した振動のS波を使用して推定を行う。
図1及び
図3に示すように、受振する振動は、地盤Gの地中に設ける起振孔60内に、深度が互いに異なる複数の地中起振点62を設定し、これら複数の地中起振点62において、順次、起振具10を利用することで発生させる。
【0046】
そして、上記のように複数の地中起振点62の各々で発生させた振動のS波を、計測対象の地盤Gの範囲に設定する、複数の地表受振点70と複数の地中受振点82との、少なくともいずれか一方で受振する。複数の地表受振点70は、水平位置が互いに異なると共に、起振孔60とも水平位置が異なる位置に設定する。また、複数の地中受振点82は、水平位置が起振孔60と異なる位置に受振孔80を設け、その地中の受振孔80内の、深度が互いに異なる位置に設定する。そして、このように設定した複数の地表受振点70と複数の地中受振点82との、少なくともいずれか一方で受振した振動のS波から、分析装置26などにより、弾性波トモグラフィ法を利用して、地盤GのS波速度構造を推定するものである。
【0047】
これにより、地表受振器20によって振動を複数の地表受振点70のみで受振する場合は、複数の地中起振点62と複数の地表受振点70との間に位置する地盤Gの構造が推定され、振動を複数の地中受振点82のみで受振する場合は、複数の地中起振点62と複数の地中受振点82との間に位置する地盤Gの構造が推定される。更に、振動を複数の地表受振点70と複数の地中受振点82との双方で受振する場合は、複数の地中起振点62と複数の地表受振点70との間に位置する地盤Gの構造と、複数の地中起振点62と複数の地中受振点82との間に位置する地盤Gの構造とが推定される。
【0048】
いずれの場合であっても、地盤Gの構造を面的或いは立体的に効率よく推定することができ、特に地表受振点70と地中受振点82との双方で受振する場合は、振動が柔らかい地盤Gを迂回して伝播したときの不足データ(例えば
図3の改良地盤IGの右下端部のデータ)などを補うことができ、推定精度をより高めることが可能となる。しかも、弾性波トモグラフィ法によって、振動のP波を用いずに、振動のS波を利用して地盤GのS波速度構造を推定するため、地下水以深の地盤Gや海底の地盤Gなどの飽和地盤であっても、地盤Gの構造を問題なく推定することができる。従って、地盤Gの状態に関わらず、地盤Gの硬軟などの構造を効率よく推定することが可能となる。
【0049】
また、本発明の実施の形態に係る地盤構造推定方法は、複数の地表受振点70において振動のS波を受振する場合に、水平位置が互いに異なる位置に少なくとも2つの起振孔60(60A、60B)を設ける。そして、これら少なくとも2つの起振孔60の各々に複数の地中起振点62を設定し、それら複数の地中起振点62の各々において振動を発生させる。すなわち、例えば
図3のように2つの起振孔60A、60Bを設ける場合は、一方の起振孔60Aの複数の地中起振点62において、順次、起振具10によって振動を発生させ、その振動のS波を複数の地表受振点70で受振する。また、それとは別のタイミングで、他方の起振孔60Bの複数の地中起振点62において、順次、起振具10によって振動を発生させ、その振動のS波を複数の地表受振点70で受振する。
【0050】
ここで、複数の地表受振点70の中で、例えば起振孔60Bの近傍に位置する地表受振点70Bでは、起振孔60Bの地中起振点62からの距離の近さに起因して、受振した振動のP波が卓越してS波との判別が困難な場合がある。しかしながら、そのような地表受振点70Bは、もう一方の起振孔60Aからは離れた位置にあるため、その起振孔60Aの地中起振点62で発生した振動を受振したときに、P波とS波との判別を容易に行うことができる。このように、少なくとも2つの起振孔60において振動を発生させることで、複数の地表受振点70の全てにおいて、少なくとも1つの起振孔60からの振動にかかるP波とS波との判別を容易に行うことができ、換言すれば、例えば起振孔60の直上などの地盤Gの情報を補完することができる。このため、S波を利用した弾性波トモグラフィ法による地盤構造の推定を、より精度よく実現することができ、推定結果の信頼性を向上させることが可能となる。
【0051】
更に、本発明の実施の形態に係る地盤構造推定方法は、複数の地中受振点82における振動の受振を、
図2に示すような3方向受振器32やチューブ状部材48を含む、受振ユニット30を使用して実行するものである。すなわち、
図2(a)に示すように、互いに直交する3方向の振動を計測するように、3つの振動センサ34を組み合わせて3方向受振器32を作製し、この3方向受振器32を複数用意する。そして、
図2(b)に示すように、これら複数の3方向受振器32を、チューブ状部材48の外周に、チューブ状部材48の長手方向に互いに間隔を空けて取り付け、この際、複数の3方向受振器32の間隔を複数の地中受振点82の配置間隔に合わせて取り付ける。
【0052】
更に、
図1に示すように、上記のような受振ユニット30を受振孔80内に配置し、受振孔80内でチューブ状部材48を膨張させることで、複数の3方向受振器32を受振孔80の孔壁に密着させる。このとき、複数の3方向受振器32の位置を、
図3に示されるように受振孔80に設定した複数の地中受振点82のいずれかに合わせて密着させる。そして、このように設置した複数の3方向受振器32によって、複数の地中起振点62で発生させた振動のS波を受振するものである。これにより、複数の地中受振点82のうち、複数の3方向受振器32が位置している地中受振点82での受振を同時に行うことができるため、作業の省力化及び短時間化を見込むことができ、より効率よく地盤構造を推定することができる。しかも、3方向受振器32の各々は、互いに直交する3方向の振動を計測するように構成されているため、各地中受振点82において問題なく振動のS波を計測することができる。
【0053】
また、本発明の実施の形態に係る地盤構造推定方法は、
図3に示すように、受振孔80に設定する複数の地中受振点82を、受振孔80内での深度が1m毎に設定する。そして、これに合わせて、チューブ状部材48の外周に取り付ける複数の3方向受振器32の取り付け間隔を1mとし、更に、チューブ状部材48に取り付ける3方向受振器32の数量を5つ以下(
図2の例では5つ)とする。これにより、チューブ状部材48の長さは、5m程度もあれば事足りるため、例えば地下水や海水などが流入した受振孔80内でチューブ状部材48を膨張させる場合であっても、チューブ状部材48の上下間での水圧差を抑制することができる。すなわち、チューブ状部材48が長過ぎる場合に懸念される、水圧差に起因するチューブ状部材48の内部の圧力の偏りを抑制することができる。このため、5つ以下の3方向受振器32を、チューブ状部材48の長手方向についての取り付け位置に関わらず、膨張したチューブ状部材48によって問題なく孔壁に密着させることが可能となる。また、複数の地中受振点82を深度が1m毎に設定することで、1mの深度毎に振動の受振及びそのデータを使用した地盤構造の推定を行うことになるため、適切な間隔で地盤Gの構造を推定することができる。
【0054】
更に、本発明の実施の形態に係る地盤構造推定方法は、起振孔60内の複数の地中起振点62で振動を発生させる際に、動的コーン貫入試験、静的コーン貫入試験、及び標準貫入試験のうち、いずれか1つの試験で利用される器具又は装置を起振具10として流用して振動を発生させ、更にその試験を並行して行うものである。換言すれば、起振孔60において上記の3つの貫入試験のうちのいずれか1つの試験を行い、その試験において発生させる振動を、複数の地表受振点70や複数の地中受振点82で受振するものである。
【0055】
すなわち、動的コーン貫入試験又は静的コーン貫入試験の場合は、先端にコーンが取り付けられたロッド14と、ロッド14の後端を打撃するハンマー12などとを、振動を発生させるための起振具10として利用する。また、標準貫入試験の場合は、先端にサンプラーが取り付けられたボーリングロッド14と、ボーリングロッド14の後端を打撃するドライブハンマー12とを、振動を発生させるための起振具10として利用する。このように、専用の起振具10を使用することなく、各貫入試験の起振具10を流用して振動を発生させることで、コストの低減を図ることができる。更に、いずれか1つの貫入試験を並行して行い、その試験結果も利用して地盤Gの構造を推定することで、地盤構造の推定精度を向上させることが可能となる。
【0056】
一方、本発明の実施の形態に係る受振ユニット30は、地盤構造の推定に利用されるデータを取得するために、起振点で発生した振動のS波を、地盤Gに設けられた地中の受振孔80内の、深度が互いに異なる複数の地中受振点82において受振するものである。具体的に、この受振ユニット30は、
図2に示すように、3方向受振器32とチューブ状部材48とを含み、3方向受振器32は、互いに直交する3方向の振動を計測するように、3つの振動センサ34が組み合わされて形成されている。チューブ状部材48は、拡径方向に膨張可能なものであって、その外周に複数の3方向受振器32が取り付けられている。このとき、複数の3方向受振器32は、受振孔80に設定された複数の地中受振点82の配置間隔に合わせて、チューブ状部材48の長手方向に沿って、互いに間隔を空けて取り付けられる。
【0057】
このような構成により、受振ユニット30は、データの取得時に、複数の3方向受振器32の位置が複数の地中受振点82の深度に合わせられた状態で、受振孔80内に配置される。そして、その状態でチューブ状部材48に空気が送り込まれることで、拡径方向に膨張したチューブ状部材48によって、受振孔80の孔壁に複数の3方向受振器32が密着する。これにより、複数の3方向受振器32が位置する複数の地中受振点82において、起振点で発生した振動のS波を同時に計測することができるため、作業の省力化及び短時間化を図ることが可能となる。しかも、複数の3方向受振器32の各々が、互いに直交する3方向の振動を計測するように構成されているため、地中受振点82の各々で問題なく振動のS波を計測することができる。
【0058】
また、本発明の実施の形態に係る受振ユニット30は、チューブ状部材48の外周に、5つ以下(
図2の例では5つ)の3方向受振器32が1m間隔で取り付けられているものである。すなわち、受振孔80内には、複数の地中受振点82が1m毎の深度で設定されており、その設定間隔に合わせて3方向受振器32が取り付けられる。また、3方向受振器32の数量が5つ以下であることで、チューブ状部材48の長さが5m程度に抑えられるため、水圧差によるチューブ状部材48内の両端間の圧力の偏りが抑制される。
【0059】
すなわち、地下水以深の地盤Gや海底の地盤Gなどの飽和地盤に受振ユニット30が設置されることを想定すると、受振孔80内の地下水や海水の中でチューブ状部材48が膨張することになる。そして、その際に外部から受ける水圧の影響が、チューブ状部材48の長さが5m程度であることによって、チューブ状部材48の両端間(上下端間)であまり差が出ないように抑制することができるため、チューブ状部材48全体を問題なく膨張させることができる。これにより、5つ以下の3方向受振器32の全てが孔壁に密着するため、振動のS波の受振を精度よく行うことができる。更に、1mの深度毎に設定された複数の地中受振点82においてS波を計測するものであるため、地盤Gの構造を適切な間隔で推定することが可能となる。
【符号の説明】
【0060】
10:起振具、30:受振ユニット、32:3方向受振器、34:振動センサ、48:チューブ状部材、60(60A、60B):起振孔、62:地中起振点、70(70A、70B、70C、70D):地表受振点、80:受振孔、82:地中受振点、G:地盤