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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150442
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】コネクタ用端子材
(51)【国際特許分類】
   C25D 7/00 20060101AFI20231005BHJP
   C25D 5/10 20060101ALI20231005BHJP
   C25D 5/12 20060101ALI20231005BHJP
   C25D 5/50 20060101ALI20231005BHJP
   B32B 15/01 20060101ALI20231005BHJP
   H01R 13/03 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C25D7/00 H
C25D5/10
C25D5/12
C25D5/50
B32B15/01 D
H01R13/03 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059550
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】井上 雄基
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】牧 一誠
【テーマコード(参考)】
4F100
4K024
【Fターム(参考)】
4F100AB16B
4F100AB17A
4F100AB17C
4F100AB21C
4F100AB21D
4F100AB31C
4F100AT00
4F100EH712
4F100EH71B
4F100EH71C
4F100GB41
4F100JA11B
4F100JA11C
4F100JB03
4F100JK06B
4F100JK06C
4K024AA03
4K024AA07
4K024AA09
4K024AB02
4K024AB03
4K024BA09
4K024BB10
4K024BC10
4K024CA01
4K024CA06
4K024DB02
4K024GA01
(57)【要約】
【課題】銅錫合金層及び錫層を有するコネクタ用端子材の耐熱性及び加工追従性をさらに向上させる。
【解決手段】銅又は銅合金からなる基材2の上に、銅錫合金層3、錫又は錫合金からなる錫層4がこの順に積層されてなるコネクタ用端子材1であり、錫層の表面を観察面として、EBSDによる集合組織解析から得られた錫層の結晶方位分布関数をオイラー角(φ1、Φ、φ2)で表したとき、φ2=60°、φ1=60°~75°、Φ=0°~15°の範囲における方位密度の平均値が0.05以上50未満である。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅又は銅合金からなる基材の上に、銅錫合金層、錫又は錫合金からなる錫層がこの順に積層されてなるコネクタ用端子材であって、前記錫層の表面を観察面として、EBSDによる集合組織解析から得られた前記錫層の結晶方位分布関数をオイラー角(φ1、Φ、φ2)で表したとき、φ2=60°、φ1=60°~75°、Φ=0°~15°の範囲における方位密度の平均値が0.05以上50未満であることを特徴とするコネクタ用端子材。
【請求項2】
前記錫層の結晶方位分布関数における、φ2=0°、φ1=60°~75°、Φ=0°~15°の範囲における方位密度の最大値が0.1以上55未満である請求項1に記載のコネクタ用端子材。
【請求項3】
前記錫層は平均厚み0.2μm以上1.7μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のコネクタ用端子材。
【請求項4】
前記銅錫合金層の一部が前記錫層の表面に露出しており、該錫層の表面における前記銅錫合金層の露出面積率が50%以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のコネクタ用端子材。
【請求項5】
前記基材と前記銅錫合金層との間に平均厚みが0.05μm以上3.0μm以下のニッケル又はニッケル合金からなるニッケル層を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のコネクタ用端子材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や民生機器等の電気配線の接続に使用される有用な皮膜が設けられたコネクタ用端子材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の電気配線の接続に用いられるコネクタが知られている。この車載用コネクタ(車載用端子)には、メス端子に設けられた接触部が、メス端子内に挿入されたオス端子に所定の接触圧を有して接触することで、電気的に接続されるように設計された端子対を備えるものが用いられている。このようなコネクタ(端子)として、銅又は銅合金からなる基材の上に銅(Cu)めっき及び錫(Sn)めっきを施した後にリフロー処理することにより、表層の錫層の下層に銅錫(Cu-Sn)合金層が形成された端子材が広く用いられている。
【0003】
近年、例えば自動車においては急速に電動化・電装化が進行し、大電流化や電装機器の高集積化に伴い、使用するコネクタの小型化が顕著になっている。コネクタが小型化すると、端子を成形するためにより厳しい曲げ加工を施すとともに、使用中にコネクタで生じる発熱を十分に放熱できなくなり、コネクタの温度上昇値が大きくなり易い。また、高電流・高電圧化に伴い、より電流を多く流すことを要求され、発熱による温度上昇自体が増大する傾向にある。そのため、車載用コネクタには、優れた耐熱性と加工追従性が求められる。
【0004】
例えば、端子材の耐熱性を向上させるために、特許文献1では、Cu又はCu合金からなる基材の表面に、Ni層、Cu-Sn合金層(Cu-Sn金属間化合物層)からなる中間層、Sn又はSn合金からなる表面層がこの順で形成された端子材が開示されている。この場合、Ni層が基材上にエピタキシャル成長しており、Ni層の平均結晶粒径を1μm以上、Ni層の厚さを0.1~1.0μm、かつ中間層の厚さを0.2~1.0μm、表面層の厚さを0.5~2.0μmとすることで、Cu又はCu合金からなる下地基材に対するバリア性を高め、Cuの拡散をより確実に防止して耐熱性を向上させ、高温環境下でも安定した接触抵抗を維持することができるSnめっき材が得られている。しかし、Ni層の存在を前提としているため、コスト的にNi層を導入できない場合には、耐熱性を向上させることはできない。またNi層のエピタキシャル成長のためには母材の前処理が必要となるため、耐熱性の向上させることができる母材が限定される問題があった。
【0005】
一方、特許文献2には、Cu-Fe系合金よりなる金属母材と、該金属母材の表面に形成されたNi系めっき層が熱処理されてなる下地めっき層と、該下地めっき層の表面に形成された表面めっき層と、を有するコネクタ用端子が開示されている。金属母材の表面に形成されたNi系めっき層が熱処理されてなる下地めっき層を有しているため、熱処理されていない電析状態のままのNiめっき層よりなる下地めっき層に比べて伸び性に優れ、曲げ加工時の割れが生じ難い。この場合、熱処理温度としては、例えば、750~850℃等、熱処理時間としては、例えば0.5~3時間等が例示されている。
しかしながら、熱処理温度が700℃を超える温度であるため、基材として用いる銅合金に強度を求める場合には適用できない。さらにはコスト的にNi層あるいはNi合金層を導入できない錫めっきでは加工追従性を向上させることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-122403号公報
【特許文献2】特開2017-27705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、銅錫合金層及び錫層を有するコネクタ用端子材の耐熱性及び加工追従性をさらに向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のコネクタ用端子材は、銅又は銅合金からなる基材の上に、銅錫合金層、錫又は錫合金からなる錫層がこの順に積層されてなるコネクタ用端子材であり、前記錫層の表面を観察面として、EBSDによる集合組織解析から得られた前記錫層の結晶方位分布関数をオイラー角(φ1、Φ、φ2)で表したとき、φ2=60°、φ1=60°~75°、Φ=0°~15°の範囲における方位密度の平均値が0.05以上50未満である。
【0009】
このコネクタ用端子材は、表面が錫層からなるため、錫層本来の良好な電気特性を有している。そして、この錫層表面のEBSDによる集合組織解析から得られた結晶方位分布関数(Orientation Distribution Function : ODF )をオイラー角(φ1、Φ、φ2)で表したとき、φ2=60°、φ1=60°~75°、Φ=0°~15°の範囲における方位密度の平均値を0.05以上50未満であるので、銅元素の錫層表面への拡散を抑制して耐熱性を向上させ、かつ曲げ加工時の錫層の割れを防止して、優れた加工追従性を発揮することができる。その方位密度の平均値が0.05未満では、銅元素の錫層表面への拡散を抑制できず、耐熱性が低下する。方位密度の平均値が50以上の場合は、錫層の結晶方位の異方性が高すぎるため、曲げ加工を実施した際に錫層が割れてしまい、良好な曲げ追従性が得られない。この方位密度の平均値は、0.1以上40未満が好ましく、0.3以上30未満がさらに好ましい。
そして、このように下地層としてニッケル層を有しない場合にも優れた耐熱性を有する端子材とすることができる。
【0010】
本発明のコネクタ用端子材において、前記錫層の結晶方位分布関数における、φ2=0°、φ1=60°~75、Φ=0°~15°の範囲における方位密度の最大値が0.1以上55未満であるとよい。
【0011】
錫層の結晶方位分布関数における、φ2=0°、φ1=60°~75、Φ=0°~15°の範囲の方位密度の最大値を0.1以上55未満とすることにより、銅元素の錫層表面への拡散をさらに抑制して耐熱性をより向上させ、かつ曲げ加工時の錫層の割れをより防止して、優れた加工追従性を発揮することができる。その方位密度の最大値が0.1未満では、銅元素の錫層表面への拡散を抑制できず、方位密度の最大値が55以上の場合は、錫層の結晶方位の異方性が高すぎるため、曲げ加工を実施した際に錫層が割れて、良好な曲げ追従性が得られないおそれがある。この方位密度の最大値は、0.2以上45未満が好ましく、0.5以上35未満がさらに好ましい。
【0012】
本発明のコネクタ用端子材において、前記錫層は平均厚みが0.2μm以上1.7μm以下であるとよい。
【0013】
錫層の平均厚みを0.2μm以上1.7μm以下としたのは、0.2μm未満では電気的接続信頼性の低下を招くおそれがあり、1.7μmを超えても接触抵抗は下がらず、めっきコストが高くなるとともに動摩擦係数が増大するおそれがあるためである。錫層の上限厚みは望ましくは1.6μm以下、より望ましくは1.5μm以下である。
【0014】
本発明のコネクタ用端子材において、前記銅錫合金層の一部が前記錫層の表面に露出しており、該錫層の表面における前記銅錫合金層の露出面積率が50%以下であるとよい。
【0015】
銅錫合金層の一部が錫層の表面に露出する場合、銅錫合金層と錫層との界面が急峻な凹凸状に形成されており、表層付近が錫層の錫と銅錫合金が複合した構造となり、硬い銅錫合金層の間にある軟らかい錫が潤滑剤の作用を果たし動摩擦係数を下げることができ、耐摩耗性も向上する。
この場合、錫層の表面における銅錫合金層の露出面積率が50%を超えると、電気接続特性が低下するおそれがある。露出面積率の下限は1%、望ましくは1.5%以上であり、上限は40%以下である。
【0016】
本発明のコネクタ用端子材において、前記基材と前記銅錫合金層との間に平均厚みが0.05μm以上3.0μm以下のニッケル又はニッケル合金からなるニッケル層を有するとよい。ニッケル層により基材からの銅の拡散を防止して、耐熱性をさらに向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高温環境での接触抵抗の低下を抑制して耐熱性を向上させるとともに、曲げ加工時の皮膜の剥離や割れを防止することができるコネクタ用端子材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の皮膜付銅端子材の第1実施形態を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の皮膜付銅端子材の第2実施形態を模式的に示す断面図である。
図3】実施例15の錫層をEBSDで解析したφ2=60°の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のコネクタ用端子材の実施形態を説明する。
【0020】
(第1実施形態)
第1実施形態のコネクタ用端子材1は、図1に示すように、銅又は銅合金からなる基材2の上に、皮膜として、銅及び錫の合金からなる銅錫合金層3と、錫又は錫合金からなる錫層4とがこの順に形成されている。
【0021】
基材2は帯板状に形成された条材であり、銅又は銅合金からなるものであれば、特に、その組成が限定されるものではない。
【0022】
銅錫合金層3及び錫層4は、後述するように、基材2の上に銅めっき層、錫めっき層を順に形成してリフロー処理することにより形成される。
そのうち、銅錫合金層3は、図1の円で囲った部分を拡大して示したように、基材2の上に部分的に形成されたCuSn層3aと、このCuSn層3aの上及び該CuSn層3aが存在しない基材2の上のいずれか、またはこれらにまたがるように形成されたCuSn層3bとから構成される。銅錫合金層3の平均厚みは0.1μm以上1.5μm以下である。銅錫合金層3の平均厚みが、0.1μm未満では耐摩耗性が増大するおそれがあり、1.5μmを超えると耐熱性の低下を招くおそれがあるためである。
【0023】
錫層4の平均厚みは0.2μm以上1.7μm以下である。錫層4の平均厚みを0.2μm以上1.7μm以下としたのは、0.2μm未満では電気的接続信頼性の低下を招くおそれがあり、1.7μmを超えても接触抵抗は下がらず、めっきのコストが高くなるとともに動摩擦係数が増大するおそれがあるためである。錫層4の平均厚みは望ましくは1.6μm以下、より望ましくは1.5μm以下である。
【0024】
そして、この錫層4の表面を観察面としたEBSD(後方散乱電子回折:Electron BackScatter Diffraction)による集合組織解析から得られた結晶方位分布関数(Orientation Distribution Function : ODF )をオイラー角(φ1、Φ、φ2)で表したとき、φ2=60°、φ1=60°~75°、Φ=0°~15°の範囲における方位密度の平均値を0.05以上50未満である。また、φ2=0°、φ1=60°~75、Φ=0°~15°の範囲における方位密度の最大値を0.1以上55未満である。
【0025】
φ2=60°、φ1=60°~75°、Φ=0°~15°の範囲における方位密度の平均値を0.05以上50未満とすることにより、銅元素の錫層4表面への拡散を抑制して耐熱性を向上させ、かつ曲げ加工時の錫層の割れを防止でき、加工追従性にも優れている。その方位密度の平均値が0.05未満では、銅元素の錫層4表面への拡散を抑制できずに耐熱性が低下し、方位密度の平均値が50以上の場合は、錫層4の結晶方位の異方性が高すぎるため、結晶方位の異方性と密接に関わりのある曲げ加工を実施した際に、曲げ性が低下して錫層4が割れてしまい、良好な加工追従性が得られない。この方位密度の平均値は、0.1以上40未満が好ましく、0.3以上30未満がさらに好ましい。
【0026】
また、φ2=0°、φ1=60°~75、Φ=0°~15°の範囲の方位密度の最大値を0.1以上55未満とすることにより、銅元素の錫層4表面への拡散をさらに抑制して耐熱性をより向上させ、かつ曲げ加工時の錫層の割れの発生をより防止して、優れた加工追従性を発揮することができる。その方位密度の最大値が0.1未満では、銅元素の錫層4表面への拡散を抑制する効果に乏しく、方位密度の最大値が55以上の場合は、錫層4の結晶方位の異方性が高すぎるため、曲げ加工を実施した際に錫層4が割れて、良好な加工追従性が得られないおそれがある。この方位密度の最大値は、0.2以上45未満が好ましく、0.5以上35未満がさらに好ましい。
【0027】
以上のように構成されるコネクタ用端子材1の製造方法について説明する。
基材2として、銅又は銅合金からなる板材を用意し、この板材に脱脂、酸洗等の処理をすることによって表面を清浄にする。
この基材2は、圧延工程等を経て連続的に走行される、あるいはコイル状に巻き取られていて、そのコイルを巻き戻しながら連続的に走行され、その連続走行する基材2の表面に、銅めっき、錫めっきをこの順序で施し、銅めっき層及び錫めっき層を順に形成する。
【0028】
銅めっきは一般的な銅めっき浴を用いればよく、例えば硫酸銅(CuSO)及び硫酸(HSO)を主成分とした硫酸銅浴等を用いることができる。めっき浴の温度は20~50℃、電流密度は1A/dm以上50A/dm以下とされる。この銅めっきにより形成される銅めっき層の膜厚は0.05μm以上1.0μm以下とされる。
【0029】
錫めっき層形成のためのめっき浴としては、一般的な錫めっき浴を用いればよく、例えば硫酸(HSO)と硫酸第一錫(SnSO)を主成分とした硫酸浴を用いることができる。めっき浴の温度は15~35℃、電流密度は1A/dm以上30A/dm以下とされる。この錫めっきにより形成される錫めっき層の膜厚は0.5μm以上2.0μm以下とされる。錫めっき層の膜厚が0.5μm未満であると、リフロー処理の後の錫層4が薄くなって電気的接続性が損なわれ、2.0μmを超えると、φ2=60°、φ1=60°~75°、Φ=0°~15°の範囲における結晶方位分布関数の方位密度の平均値を0.05以上にすることが難しくなる。
【0030】
リフロー処理は、各種めっき処理がなされた基材2を連続的に走行しながら加熱して、めっき層を一旦溶融させた後に冷却する。
具体的には、基材2に各種めっきを施してなるめっき材をCO還元性雰囲気にした加熱炉内で240℃以上350℃以下の温度に加熱する加熱工程と、加熱工程の後に、30℃/秒以上の冷却速度でピーク温度から230℃までを冷却する一次冷却工程、一次冷却後に10℃/秒以下の冷却速度で230℃未満から200℃以上の温度まで冷却する二次冷却工程、二次冷却後に100℃/秒以上300℃/秒以下の冷却速度で常温(25℃)まで冷却する三次冷却工程が順に施される。この三次冷却工程に要する時間は0.5秒以上2秒以下である。
【0031】
加熱工程では、めっき後の処理材を20℃/秒以上75℃/秒以下の昇温速度で240℃以上350℃以下の温度まで3秒以上15秒間で加熱するとよい。
【0032】
一次冷却工程および二次冷却工程は空冷により、三次冷却工程は10℃以上90℃以下の水を用いた水冷により行われる。二次冷却工程の冷却速度は望ましくは5℃/秒以下、さらに望ましくは3℃/秒以下である。
冷却工程を三段階として錫層4の凝固組織を制御し、これにより結晶方位密度を制御することができる。すなわち、一次冷却工程を30℃/秒以上の冷却速度で行うことにより銅錫合金層3の過剰な成長を抑制でき、接触抵抗の過剰な増大を防ぐことができる。また、二次冷却速度が10℃/秒以下であるのは形成する錫凝固組織を制御し、錫層4の結晶方位分布関数における、φ2=60°、φ1=60°~75°、Φ=0°~15°の範囲の方位密度の平均値を0.05以上50未満とされる凝固組織を得て耐熱性を向上させることができる。
この二次冷却工程の冷却速度は好ましくは1℃/秒以上10℃/秒以下であり、1℃/秒以上とすることにより、φ2=0°、φ1=60°~75、Φ=0°~15°の範囲の方位密度の最大値を0.1以上55未満として、さらに耐熱性を向上させることができる。
【0033】
このようなリフロー処理を行うことにより、錫(Sn)を融点以上に加熱すると共に、その冷却を上記の条件で三段階で行い、そのうち、一次冷却工程と二次冷却工程とを上記のように調整することができる。
また、このリフロー処理を還元性雰囲気で行うことにより錫層4表面に溶融温度の高い錫酸化物皮膜が生成するのを防ぎ、より低い温度かつより短い時間でリフロー処理を行うことが可能となる。
【0034】
このようにして製造されるコネクタ用端子材1は、表面の錫層4により良好な電気特性を有しているとともに、この錫層4表面の結晶方位密度を上記のように制御したことにより、耐熱性を向上させ、曲げ加工時の皮膜の剥離や割れを防止することができる。
【0035】
(第2実施形態)
前述の第1実施形態に対して、第2実施形態のコネクタ用端子材11では、図2に示すように、基材2と銅錫合金層12との間にニッケル又はニッケル合金からなるニッケル層13が形成され、そのニッケル層13の上に、銅錫合金層12、錫層14が形成されている。
【0036】
ニッケル層13は、基材2の表面にニッケル又はニッケル合金を電解めっきして形成されたものであり、0.05μm以上3.0μm以下の厚さに形成される。このニッケル層13を設けることにより、基材2からの銅(Cu)が皮膜に拡散することを防止することができる。このニッケル層13の厚さは、0.05μm未満では基材2からの銅(Cu)の拡散を防止する効果に乏しく、銅の拡散防止による耐熱性の向上効果が期待できず、3.0μmを超えると曲げ加工等の追従性が低下して割れが発生するおそれがある。
【0037】
銅錫合金層12は、基材2の上にニッケルめっき層、銅めっき層、錫めっき層を順に形成してリフロー処理することにより形成されたもので、図示は省略するが、図1の場合と同様に、部分的に形成されたCuSn層と、このCuSn層の上及び該CuSn層が存在しないニッケル層13の上のいずれか、またはこれらにまたがるように形成されたCuSn層とから構成される。この銅錫合金層12の平均厚みは0.1μm以上1.5μm以下である。また、CuSn合金層12bに対するCuSn合金層12aの体積比率は20%以下が好ましい。なお、CuSn層は、その銅(Cu)の一部がニッケル(Ni)に置換した化合物合金層である場合もある。
【0038】
錫層14の平均厚みは、第1実施形態と同様であるが、錫層14の表面に、銅錫合金層12の一部が露出している。この実施形態では、銅錫合金層12と錫層14との界面が急峻な凹凸状に形成され、その界面付近が銅錫合金層12と錫層14との複合構造となっており、その銅錫合金層12の一部が錫層14の表面に露出している。このため、軟らかい錫層14が硬い銅錫合金層12によって支持されるため、摩擦係数が低くなり、コネクタとしての挿抜性が向上する。
この銅錫合金層12の錫層14表面への露出率は50%以下である。銅錫合金層12の露出面積率が50%を超えると、電気接続特性が低下するおそれがある。露出面積率の下限は1%、望ましくは1.5%以上であり、上限は40%以下である。
また、錫層14の表面において、錫層14の表面を観察面としたEBSDによる集合組織解析から得られた錫層14の結晶方位分布関数をオイラー角(φ1、Φ、φ2)で表したとき、φ2=60°、φ1=60°~75°、Φ=0°~15°の範囲における方位密度の平均値が0.05以上50未満、φ2=0°、φ1=60°~75、Φ=0°~15°の範囲における方位密度の最大値が0.1以上55未満である構成は、第1実施形態と同様である。
【0039】
第2実施形態のコネクタ用端子材11を製造するには、基材2の上にニッケルめっき、銅めっき、錫めっきを順に施して、リフロー処理すればよい。
ニッケルめっきのためのめっき浴は、一般的なニッケルめっき浴を用いればよく、例えば硫酸ニッケル(NiSO)と塩化ニッケル(NiCl)、硼酸(HBO)を主成分としたワット浴などを用いることができる。めっき浴の温度は20℃以上60℃以下、電流密度は5A/dm以上60A/dm以下とされる。
銅めっき、錫めっき及びリフロー処理は第1実施形態と同様の条件で行われる。
【0040】
この第2実施形態のコネクタ用端子材11は、銅錫合金層12と錫層14との界面が急峻な凹凸状に形成され、これにより、錫層14と銅錫合金層12との界面付近が、軟らかい錫層14の直下で硬い銅錫合金層12が錫層14を支持する複合構造となり、動摩擦係数を低減することができる。もちろん、最表面は錫層14が主体であるので、電気接続性に優れている。
なお、このような錫層と銅錫合金層との複合構造は、ニッケル層を形成せずに、ニッケルを含有する銅合金を基材として用いることによっても形成することができる。
【実施例0041】
板厚0.25mmの銅合金板を基材とし、以下のめっき浴条件で各種めっきを施した。これらのめっき層の膜厚は表1の通りとした。
【0042】
(銅めっき)
硫酸銅:250g/L
硫酸:50g/L
液温:25℃
電流密度:5ASD(A/dmの略;以下同じ)
【0043】
(錫めっき)
硫酸錫:75g/L
硫酸:85g/L
添加剤:10g/L
液温:25℃
電流密度:2 ASD
【0044】
次いで、めっき層付基材を表1に示す条件でリフロー処理した。
リフロー処理後、銅錫合金層及び錫層の厚み、錫層表面における銅錫合金層の露出面積率、錫層表面における結晶方位密度を測定するとともに、耐熱性、加工追従性を評価した。
【0045】
(銅錫合金層及び錫層の平均厚みの測定方法)
錫層及び銅錫合金層の厚みは、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製蛍光X線膜厚計(SEA5120A)にて測定した。錫層の厚み及び銅錫合金層の厚みの測定には、最初にリフロー後のサンプルについて、錫を含む皮膜(銅錫合金層及び錫層)全体の厚みを測定した後、銅錫合金層を腐食しない成分からなるめっき被膜剥離用のエッチング液に5分間浸漬することにより錫層を除去し、その下層の銅錫合金層を露出させ銅錫合金層の厚みを測定して銅錫合金層の平均厚みを算出した後、(錫層を含む皮膜全体の厚み-銅錫合金層の平均厚み)を錫層の平均厚みと定義した。表1に示す各厚みは5箇所の測定値の平均値である。
【0046】
(銅錫合金層の露出面積率の測定方法)
銅錫合金層の露出面積率は、表面酸化膜を除去後、100×100μmの領域を走査イオン顕微鏡により観察した。測定原理上、最表面から約20nmまでの深さ領域にCuSn合金が存在すると、白くイメージングされるので、画像処理ソフトを使用し、測定領域の面積に対する白い領域の面積の比率を銅錫合金層の露出面積率とみなした。
【0047】
(錫層表面の結晶方位密度の測定方法)
結晶方位密度は、株式会社日立ハイテク製の走査電子顕微鏡(SU7000)を用いてEBSD法(Electron Backscatter Diffraction)により測定した。測定条件は設定電圧15kV、プローブ電流値をHi80、対物絞り径φ70μmとし、測定面積は結晶粒を100個以上含む、1000μm×1000μmの範囲とし、スキャンステップを2μmとした。この測定を20視野で実施した。
測定後の結晶粒の解析には、TSL社製の解析ソフトOIM Analysisを用いて結晶粒の方位分布関数(Orientation Distribution Function:ODF)を解析し、解析により得られた結晶方位分布関数はオイラー角で表示された。φ2=0°の断面図より、φ2=0°、φ1=60°~75、Φ=0°~15°の範囲(この範囲を範囲1とする)における方位密度の最大値を読みだした。また、オイラー角で表示されたφ2=60°の断面図よりφ2=60°、φ1=60°~75°、Φ=0°~15°の範囲(この範囲を範囲2とする)における方位密度の平均値を算出した。
【0048】
本発明でいう集合組織の方位密度とは、ランダムな方位に対して各方位の強度を比率で表したものである。ここでいうランダムとは、結晶方位が均一に分散して集積がない集合組織を意味しており、ODF図上の方位密度(集積強度)の大きさに等しい。ランダムな方位の定義については、特開2008―303455号公報にも同様の記載がある。
ODFはオイラー角の3変数(φ1、Φ、φ2)を直角座標軸にとった3次元方位空間に表示する。錫めっき面内の圧延方向と平行な方向RDおよび板幅方向TDと、圧延面の法線方向NDの3方向のオイラー角で示し、RD軸の方位回転をΦ、ND軸の方位回転をφ1、TD軸の方位回転をφ2として示す。ODFは本来3次元表示すべきであるが、等密度曲面で正確に表示することは難しいので、φ2またはφ1が一定である二次元断面を適当な間隔で表示することが多い。このようにODF解析により集合組織を定量的に議論するため、方位分布関数を用いて複数の極点図(2次元情報)から3次元情報を取り出す解析をし、集合組織を定量できる。
なお、オイラー角はBungeの定義を用いて規定し、ピーク強度比は、ランダムな方位となっているβ―Snを測定した際に得られるピークに対する比を用いる。
各供試材について、範囲1における方位密度については、その最大値、範囲2における方位密度については、その平均値を求めた。
【0049】
(耐熱性の評価)
大気中で高温保持し、接触抵抗を測定した。保持条件は120℃で1000時間までとした。測定方法は4端子接触抵抗試験機(山崎精機研究所製:CRS-113-AU)により、摺動式(1mm)で0から100gまで荷重を変化させて接触抵抗を測定し、荷重100gとしたときの接触抵抗値で評価した。1000時間経過後においても接触抵抗が5mΩ以下であったものを「A」、5mΩを超えて10mΩ以下であったものを「B」、1000時間経過後には10mΩを上回ったものを「C」とした。
【0050】
(加工追従性の評価)
供試材から幅10mm、長さ60mmの試験片(長軸方向が圧延方向と垂直)を切り出し、作製した試験片に対し、180度曲げを曲率半径R=1mmで施し、曲げ部分を光学顕微鏡で観察し、皮膜の割れ、あるいは剥離およびシワが認められないものを「A」、皮膜表面に割れや剥離は認められないが、微小なシワが見られるものを「B」、皮膜表面に割れや剥離は認められが、粗大なシワがみられるものを「C」、皮膜の割れまたは剥離によって基材が露出したものを「D」と評価した。微小なシワ、粗大なシワの判定は、曲げ部表面をレーザー顕微鏡にて確認し、曲げ部におけるシワ幅が30μm以下であれば微小なシワとし、30μmより大きければ粗大なシワとした。
【0051】
これらの結果を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
表1からわかるようにφ2=60°、φ1=60°~75°、Φ=0°~15°の範囲2における方位密度の平均値が0.05以上50未満である実施例は、加熱後でも接触抵抗が10mΩ以下と低く維持されていることから、耐熱性に優れており、また、加工追従性も、皮膜の割れや剥離がないか、表面にシワがみられる程度のもので良好であった。
そのうち、φ2=0°、φ1=60°~75、Φ=0°~15°の範囲1における方位密度の最大値が0.1以上55未満の実施例1~9は、加工追従性で悪くても微小なシワが観察される程度であり、より加工追従性に優れている。
これに対して、比較例はφ2=60°、φ1=60°~75°、Φ=0°~15°の範囲2における方位密度の平均値が0.05未満、又は50以上であり、耐熱性の評価において接触抵抗の増大が認められ、加工追従性も劣るものが出現した。
【0054】
次に基材と銅錫合金層との間にニッケル層を形成した試料も作製した。基材及び銅めっき、錫めっきの条件は先の実施例の場合と同様である。
(ニッケルめっき)
硫酸ニッケル:300g/L
硫酸:2g/L
液温:45℃
電流密度:20ASD
リフロー処理は表2に示す条件とした。
得られた試料について、前述したのと同様に、リフロー処理後、銅錫合金層及び錫層の厚みを測定するとともに、錫層表面における銅錫合金層の露出面積率、錫層表面における結晶方位密度を測定するとともに、耐熱性、加工追従性を評価した。
また、ニッケル層の厚みも、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製蛍光X線膜厚計(SEA5120A)を用いて測定した。5箇所の測定値を平均したものをニッケル層の平均厚みとする。
その結果を表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
表2からわかるように、φ2=60°、φ1=60°~75°、Φ=0°~15°の範囲2における方位密度の平均値が0.05以上50未満である実施例は、耐熱性が、表1の結果よりもさらに良好なものが多く、ニッケル層を形成することにより、さらに優れた端子材にできることがわかる。なお、表2にはニッケルめっき層の厚みを記載しているが、端子材としてのニッケル層の平均厚みも0.05μm以上3.0μm以下であった。
図3は、実施例15の錫層をEBSDで解析したφ2=60°の断面を示しており、横軸がφ1、縦軸がφ、グリッド線の間隔は15°である。φ1=60°~75、Φ=0°~15°の範囲で方位密度の最大値が0.1以上55未満となっている。
【符号の説明】
【0057】
1 コネクタ用端子材
2 基材
3 銅錫合金層
4 錫層
11 コネクタ用端子材
12 銅錫合金層
12a CuSn層
12b CuSn
13 ニッケル層
14 錫層
図1
図2
図3