(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150464
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】摩擦攪拌接合システム及び摩擦攪拌接合方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
B23K20/12 330
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059577
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松井 功
(72)【発明者】
【氏名】前口 貴治
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA08
4E167BG19
4E167CC01
(57)【要約】
【課題】十分な接合強度を確保する。
【解決手段】金属で形成された接合対象物同士を突き合わせて、接触面を摩擦攪拌する摩擦攪拌装置と、摩擦攪拌装置で摩擦攪拌した接合対象物に熱処理を行う熱処理装置と、を含み、熱処理装置は、接合対象物の温度を上昇させる昇温工程と、接合対象物を溶体化温度で1h以上維持する溶体化工程と、を行い、昇温工程で、550℃以上700℃以下の温度で、24h以上96h以下維持する事前焼鈍を行う。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属で形成された接合対象物同士を突き合わせて、接触面を摩擦攪拌する摩擦攪拌装置と、
前記摩擦攪拌装置で摩擦攪拌した前記接合対象物に熱処理を行う熱処理装置と、を含み、
前記熱処理装置は、
前記接合対象物の温度を上昇させる昇温工程と、
前記接合対象物を溶体化温度で1h以上維持する溶体化工程と、を行い、
前記昇温工程で、550℃以上700℃以下の温度で、24h以上96h以下維持する事前焼鈍を行う摩擦攪拌接合システム。
【請求項2】
前記溶体化工程は、摩擦攪拌部分の析出物の10%以上20%以下を溶体化させる請求項1に記載の摩擦攪拌接合システム。
【請求項3】
前記溶体化工程は、前記接合対象物を827℃以上900℃未満で加熱する請求項1または請求項2に記載の摩擦攪拌接合システム。
【請求項4】
前記熱処理装置は、
溶体化処理をした前記接合対象物を冷却する冷却工程と、
冷却した前記接合対象物を前記事前焼鈍よりも低い温度で加熱する時効処理を行う時効工程と、を行う請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の摩擦攪拌接合システム。
【請求項5】
前記接合対象物は、銅が主成分の金属である請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の摩擦攪拌接合システム。
【請求項6】
金属で形成された接合対象物同士を突き合わせて、接触面を摩擦攪拌する摩擦攪拌工程と、
摩擦攪拌した前記接合対象物の温度を上昇させる昇温工程と、
前記接合対象物を溶体化温度で1h以上維持する溶体化工程と、を含み、
前記昇温工程で、550℃以上700℃以下の温度で、24h以上96h以下維持する事前焼鈍を行う摩擦攪拌接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、摩擦攪拌接合システム及び摩擦攪拌接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
摩擦撹拌接合法(Friction Stir Welding法)は、2つの金属部材の接合面が互いに接触するように突合わせて固定し、この突合せ部に回転ピン部を押し込み、回転しながらこれを移動することで、固相状態による塑性流動現象を生じさせて接合する。また、摩擦攪拌をした後、接合部の強度を向上させるために、熱処理を行う(特許文献1)。特許文献1に記載の摩擦攪拌接合方法は、摩擦攪拌接合を行った後、熱処理として、焼鈍処理、塑性加工処理、溶体化処理、時効処理を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、特許文献1に記載の摩擦攪拌処理の後に実行している熱処理では、接合部分の強度が不十分となる場合がある。
【0005】
本開示は上述した課題を解決するものであり、十分な接合強度を確保することができる摩擦攪拌接合システム及び摩擦攪拌接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための本開示の摩擦攪拌接合システムは、金属で形成された接合対象物同士を突き合わせて、接触面を摩擦攪拌する摩擦攪拌装置と、前記摩擦攪拌装置で摩擦攪拌した前記接合対象物に熱処理を行う熱処理装置と、を含み、前記熱処理装置は、前記接合対象物の温度を上昇させる昇温工程と、前記接合対象物を溶体化温度で1h以上維持する溶体化工程と、を行い、前記昇温工程で、550℃以上700℃以下の温度で、24h以上96h以下維持する事前焼鈍を行う。
【0007】
上記の目的を達成するための本開示の摩擦攪拌接合方法は、金属で形成された接合対象物同士を突き合わせて、接触面を摩擦攪拌する摩擦攪拌工程と、摩擦攪拌した前記接合対象物の温度を上昇させる昇温工程と、前記接合対象物を溶体化温度で1h以上維持する溶体化工程と、を含み、前記昇温工程で、550℃以上700℃以下の温度で、24h以上96h以下維持する事前焼鈍を行う。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、十分な接合強度を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、摩擦攪拌接合システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、摩擦攪拌接合方法の一例を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、本実施形態の摩擦攪拌接合装置の摩擦攪拌接合用工具を表す正面図である。
【
図5】
図5は、接合対象物の摩擦攪拌接合方法を表す概略断面図である。
【
図6】
図6は、接合対象物の摩擦攪拌接合方法を表す概略平面図である。
【
図7】
図7は、摩擦攪拌接合方法の接合対象物の接合部分の温度変化の一例を示す説明図である。
【
図8】
図8は、摩擦攪拌工程後の接合部分を模式的に示す説明図である。
【
図9】
図9は、時効工程後の接合部分を模式的に示す説明図である。
【
図10】
図10は、異常粒成長がない接合部分を模式的に示す説明図である。
【
図11】
図11は、異常粒成長がある接合部分を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照して、本開示に係る接合対象物の接合方法の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本開示が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。
【0011】
図1は、摩擦攪拌接合システムの概略構成を示すブロック図である。
図1に示す摩擦攪拌接合システム1は、接合対象物の2つの面を対面させた状態で、2つの面の接触面に対して摩擦攪拌接合を行って、接合を行い、接合部分に熱処理を行い、接合部分を強化する。摩擦攪拌接合システム1は、摩擦攪拌接合装置6と、熱処理装置8と、を含む。摩擦攪拌接合装置6は、接合対象物の2つの面を対面させた状態で、2つの面の接触面に対して摩擦攪拌接合する。摩擦攪拌接合装置10については後述する。熱処理装置8は、接合対象物に対する熱処理を行う装置、例えば、熱処理炉である。熱処理装置8は、1つの熱処理炉で全ての熱処理を行っても、工程ごとに熱処理炉を備えていてもよい。
【0012】
図2は、摩擦攪拌接合方法の一例を示すフローチャートである。摩擦攪拌接合システム1は、接合対象物の端面同士を接触させ接触面を摩擦攪拌接合装置6で接合する摩擦攪拌工程(ステップS12)と、熱処理装置8で、接合部を摩擦攪拌した接合対象物を加熱して昇温する昇温工程(ステップS14)と、熱処理装置8で、昇温した接合対象物を溶体化温度で加熱して溶体化処理を行う溶体化工程(ステップS16)と、熱処理装置8で、溶体化処理を行った接合対象物を冷却する冷却工程(ステップS18)と、熱処理装置8で、冷却を行った接合対象物に対して時効処理を行う時効工程(ステップS20)と、を含む。以下、各工程について説明する。
【0013】
図3から
図6を用いて、摩擦攪拌接合装置6の構成及び、摩擦攪拌工程(ステップS12)について説明する。
図3は、本実施形態の摩擦攪拌接合装置の摩擦攪拌接合用工具を表す正面図である。
図4は、接合対象物を表す断面図である。
図5は、接合対象物の摩擦攪拌接合方法を表す概略断面図である。
図6は、接合対象物の摩擦攪拌接合方法を表す概略平面図である。
【0014】
本実施形態において、
図3に示すように、摩擦攪拌接合装置6は、摩擦攪拌接合用工具10で摩擦攪拌接合を行う。摩擦攪拌接合用工具10は、図示しない駆動装置の出力軸に保持される回転軸11と、この回転軸11の先端部に装着されるヘッド部12とを有する。ヘッド部12は、回転可能な回転体21と、この回転体21の回転軸心上を先端側に突出したピン部22と、回転体21の先端側で外径寸法がピン部22より大きいショルダ部23とを有している。そして、ピン部22は、ショルダ部23の先端面から所定長さだけ突出している。
【0015】
回転体21は、円柱形状をなし、回転軸11の先端部に一体に固定されてなり、この回転軸11と共に回転可能となっている。ピン部22は、回転体21と同心の円柱(または、円錐台形状)をなし、この回転体21の先端部に突出するように一体に固定されてなり、回転体21と共に回転可能となっている。ショルダ部23は、回転体21の先端側で外径寸法がピン部22より大きい円柱形状をなしている。この場合、ショルダ部23は、先端面が回転体21の軸方向に直交する平面としたが、先端面が回転体21の先端側で外周部からピン部22に向かって先端側に突出するように傾斜した傾斜面としてもよい。
【0016】
摩擦攪拌接合装置6は、摩擦攪拌接合用工具10を用いて銅を主成分とする金属材料からなる接合対象物同士を摩擦撹拌接合法により接合する。
【0017】
図4に示す接合対象物は、第1接合部材31と、第2接合部材32とを含む。第1接合部材31と、第2接合部材32とは、別部材でも、接合する面と反対側の面が繋がっていても、例えば、接合することで、円筒となる部材でもよい。第1接合部材31は、銅を主成分とする合金であり、接合面31aを有する。第2接合部材32は、銅を主成分とする合金であり、接合面32aを有する。本実施形態の接合対象物の接合方法は、第1接合部材31の接合面31aと第2接合部材32の接合面32aとを突合せて
図5及び
図6に示すように、摩擦攪拌接合法により接合する。
【0018】
本実施形態の接合対象物の接合方法は、第1接合部材31の接合面31aと第2接合部材32の接合面32aとを互いに接触するように支持し、摩擦攪拌接合用工具10のピン部22を回転しながら接合面31a、32aを含む領域に押し込み、第1接合部材31及び第2接合部材32に押し込まれたピン部22を回転しながら接合方向に沿って移動する。
【0019】
具体的には、第1接合部材31の接合面31aと、第2接合部材32の接合面32aとが接触するように突き合わせて支持する。そして、まず、図示しない回転工具移動機構により摩擦攪拌接合用工具10を移動し、ピン部22を接合面31a、32aの上方に位置させる。次に、摩擦攪拌接合用工具10の回転軸11を矢印A方向に回転し、ピン部22を下降して先端部を第1接合部材31及び第2接合部材32の表面に押し付ける。
【0020】
すると、回転するピン部22と第1接合部材31及び第2接合部材32との摩擦により第1接合部材31及び第2接合部材32が発熱し、第1接合部材31及び第2接合部材32が塑性流動し、ピン部22が第1接合部材31及び第2接合部材32の深さ方向へ内部に入り込んでいき、ショルダ部23の先端面が第1接合部材31及び第2接合部材32の表面に当接する。さらに、第1接合部材31及び第2接合部材32に押し込まれたピン部22を回転状態のまま、接合面31a、32aに沿って、つまり接合方向Bに沿って移動する。
【0021】
このピン部22の移動により接合面31a、32aを含む第1接合部材31及び第2接合部材32が塑性流動し、ピン部22が移動する領域の第1接合部材31と第2接合部材32が混合する。これにより、第1接合部材31と第2接合部材32とが摩擦攪拌接合法によって接合される。
【0022】
次に、
図7を用いて、接合対象物の熱処理について説明する。
図7は、摩擦攪拌接合方法の接合対象物の接合部分の温度変化の一例を示す説明図である。
図7は、接合対象物が鍛造され、摩擦攪拌接合され、その後の熱処理での各工程の温度変位を示している。
図7は、縦軸が温度であり、横軸が時間である。なお、横軸の時間軸は、軸の長さが工程によって異なる部分がある。銅にクロムとジルコニウムを混合したCu-Cr-Zr合金を接合対象物とした場合で説明する。
【0023】
図7に示す接合対象物は、鍛造工程101で板状に成形される。接合対象物は、例えば、800℃で鍛造する。接合対象物は、鍛造工程で製造された後、冷却され、摩擦攪拌工程102で摩擦攪拌接合工具10が接触する領域が、加熱され、攪拌されることで、接合される。
【0024】
摩擦攪拌工程102で接合した接合対象物は、熱処理装置8に移動され昇温工程104で昇温される。昇温工程104は、所定上昇速度で接合対象物の温度を上昇させる。また、昇温工程104は、温度上昇時に所定の時間維持する事前焼鈍処理を行う。本実施形態の事前焼鈍は、550℃で24時間(24h)保持する。昇温工程104は、焼鈍処理後、再び温度上昇させる。
【0025】
昇温工程104を行った接合対象物は、溶体化温度で一定時間維持される溶体化工程106が行われる。本実施形態の溶体化工程106は、850℃1時間である。溶体化工程106を行った接合対象物は、冷却工程108で冷却される。冷却工程108は、接合対象物を室温近傍まで冷却する。冷却工程108の冷却方法は、特に限定されず、自然冷却、空冷、水冷等、種々冷却方法を用いることができる。
【0026】
冷却工程108を行った接合対象物は、再度所定温度に加熱される時効工程110が行われる。時効工程110は、焼鈍処理、溶体化処理よりも低い温度で一定時間維持される。本実施形態では、425℃で8時間維持される。
【0027】
図8は、摩擦攪拌工程後の接合部分を模式的に示す説明図である。
図9は、時効工程後の接合部分を模式的に示す説明図である。
図10は、異常粒成長がない接合部分を模式的に示す説明図である。
図11は、異常粒成長がある接合部分を模式的に示す説明図である。
【0028】
摩擦攪拌工程で摩擦攪拌を行った接合対象物は、
図8に示す結晶構造130に示すように、結晶粒132のうち、摩擦攪拌を行った結晶粒が母材、つまり摩擦攪拌されていない領域よりも小さい結晶粒134となる。結晶構造130には、析出物136が含まれる。
【0029】
これに対して、昇温工程、溶体化工程、冷却工程、時効工程を行った接合対象物は、
図9に示す結晶構造140に示すように、摩擦攪拌を行った結晶粒142の他の領域よりも小さい結晶粒134が再結晶し、結晶が成長して、母材の結晶粒142と同様の結晶粒となる。結晶構造140には、析出物146が含まれる。
【0030】
また、本実施形態の摩擦攪拌接合方法は、昇温処理時に、事前焼鈍を行うことで結晶の異常成長を抑制することができる。一例として、
図10に示すように、第1接合部材202と第2接合部材204との境界に形成される摩擦攪拌接合される攪拌領域206に異常成長した結晶粒が生じることを抑制できる。
図11は、第1接合部材212と第2接合部材214との境界に形成される摩擦攪拌接合される攪拌領域216に異常成長した結晶粒220、222、224が形成される。攪拌領域216に異常成長した結晶粒220、222、224が生じると、接合部の強度が低下する。具体的には、異常結晶が含まれない本実施形態の構造とすることで、溶接部を備えない母材場合の60%のクリープ強度を備えることができる。
【0031】
本実施形態の摩擦攪拌接合方法は、550℃以上700℃以下の温度で、24h以上96h以下維持する事前焼鈍を行うことで、母材に影響を与えることを抑制しつつ、摩擦攪拌した部分の結晶粒を成長させることができる。このように事前焼鈍で結晶粒を成長させることで、溶体化処理時に摩擦攪拌した部分の結晶粒が異常成長することを抑制でき、摩擦攪拌した部分の結晶粒を、母材の結晶粒と同等の結晶粒とすることができる。
【0032】
溶体化工程は、析出物の10%以上20%以下を溶体化させる部分溶体化温度とすることが好ましい。また、溶体化工程は、温度を、827℃以上900℃未満とすることが好ましい。また、溶体化工程の処理時間は、0.5時間以上1.0時間以下とすることが好ましい。溶体化工程の温度、時間を上記範囲とすることで、溶体化処理に、析出物の母相への再固溶量を抑制し、粒成長を物理的に抑制する析出物の効果が減少することを抑制できる。これにより、異常成長する結晶粒が生じることを要請できる。
【0033】
ここで、接合対象物は、銅を主成分とする合金として説明したが、Cu合金全般を用いることができる。また、接合対象物としては、Cu-Cr-Zr合金を用いることが好ましい。
【符号の説明】
【0034】
1 摩擦攪拌接合システム
6 摩擦攪拌接合装置
8 熱処理装置
10 摩擦攪拌接合用工具
11 回転軸
12 ヘッド部
21 回転体
22 ピン部
23 ショルダ部
31 第1接合部材
31a,32a 接合面
32 第2接合部材