(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150483
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】コラーゲン代謝促進剤、及びコラーゲン代謝に関与する細胞群を特定する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/33 20150101AFI20231005BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20231005BHJP
A61K 8/98 20060101ALI20231005BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20231005BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20231005BHJP
C12N 5/071 20100101ALN20231005BHJP
C12Q 1/6841 20180101ALN20231005BHJP
【FI】
A61K35/33
A61P17/00
A61K8/98
A61Q19/00
C12Q1/04
C12N5/071
C12Q1/6841 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059611
(22)【出願日】2022-03-31
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】000113470
【氏名又は名称】ポーラ化成工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】横田 絢
(72)【発明者】
【氏名】原田 靖子
(72)【発明者】
【氏名】白井 悠暉
(72)【発明者】
【氏名】藤原 裕展
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C083
4C087
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR55
4B063QS10
4B063QS34
4B063QS36
4B063QX02
4B065AA93X
4B065AC20
4B065CA44
4C083AA071
4C083AA072
4C083CC02
4C083EE11
4C083FF01
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB63
4C087MA63
4C087NA14
4C087ZA89
(57)【要約】
【課題】本発明の解決しようとする課題は、コラーゲンの分解及び/又は産生を促進に作用する細胞群の特定及びその活用に係る、新規な技術を提供することにある。
【解決手段】本発明は、A群に示す1以上の遺伝子をマーカー遺伝子として発現する細胞及び/又はB群に示す1以上の遺伝子をマーカー遺伝子として発現する細胞を有効成分とし、コラーゲン分解及び/又は新生のために用いられる、コラーゲン代謝促進剤である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記A群に示す1以上の遺伝子をマーカー遺伝子として発現する細胞及び/又は下記B群に示す1以上の遺伝子をマーカー遺伝子として発現する細胞を有効成分とし、コラーゲン分解及び/又は新生のために用いられる、コラーゲン代謝促進剤。
(A群)
(B群)
【請求項2】
前記のA群に示す遺伝子をマーカー遺伝子として発現する細胞がTNN(tenascin N)をマーカー遺伝子として含む、請求項1に記載のコラーゲン代謝促進剤。
【請求項3】
前記のB群に示す遺伝子をマーカー遺伝子として発現する細胞がMME(membrane metalloendopeptidase)をマーカー遺伝子として含む、請求項1又は2に記載のコラーゲン代謝促進剤。
【請求項4】
前記細胞は、線維芽細胞である、請求項1~3の何れか一項に記載のコラーゲン代謝促進剤。
【請求項5】
肌状態改善のために用いられる、請求項1~4の何れか一項に記載のコラーゲン代謝促進剤。
【請求項6】
真皮リモデリングのために用いられる、請求項1~5の何れか一項に記載のコラーゲン代謝促進剤。
【請求項7】
真皮組織に投与される細胞製剤である、請求項1~6の何れか一項に記載のコラーゲン代謝促進剤。
【請求項8】
コラーゲン分解関連遺伝子及び/又はコラーゲン新生関連遺伝子を発現する細胞集団を、複数の細胞亜集団に分類する亜集団分類工程を含み、
前記亜集団分類工程は、毛包周囲組織の細胞ごとに取得された遺伝子発現情報に基づき、前記細胞集団を前記複数の細胞亜集団に分類することを特徴とする、コラーゲン代謝に関与する細胞群を特定する、方法。
【請求項9】
前記亜集団分類工程で得られた前記複数の細胞亜集団のうち、毛包周囲組織に存在する細胞亜集団を特定する亜集団特定工程を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の方法により得られた前記細胞亜集団について、前記細胞亜集団で特異的に発現する遺伝子を特定するマーカー遺伝子特定工程を含む、コラーゲン代謝に関与する細胞群のマーカー遺伝子を特定する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コラーゲン代謝促進剤、及びコラーゲン代謝に関与する細胞群を特定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コラーゲンは、主に線維芽細胞によって分泌されるタンパク質である。コラーゲンのうち特に繊維状のI型コラーゲンは、真皮の骨格構造を形成する成分として、肌の弾力性や柔軟性の維持に関与する。また、断片化したコラーゲンの分解が促進されることで、新たなコラーゲンの産生が促進されることが知られている(非特許文献1)。
【0003】
このようなコラーゲンの分解及び産生のメカニズムに着目し、コラーゲン代謝を促進させることで、皮膚のハリ、弾力性等を改善する方法が注目されている。
特許文献1には、ヒルガオ科(Convolvulaceae)のアサガオカラクサ属植物(Evolvulus)の抽出物からなるCGRP受容体発現向上剤が、コラーゲン産生を促進するために用いられることが記載されている。
特許文献2には、Endo180活性化成分を有効成分とすることを特徴とする断片化コラーゲン代謝促進剤が記載されている。
【0004】
また、コラーゲンの代謝に係るコラーゲンの分解からコラーゲンの産生に至るプロセスは、「コラーゲンリモデリング」とも呼ばれる。特許文献3には、コラーゲンの分解及び産生の両者に関与する成分を含むコラーゲンリモデリング剤が記載されている。
【0005】
また、患者の皮膚組織から培養した線維芽細胞を皮内注入し、肌のシワ等の改善を促す方法が、実施されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6704289号公報
【特許文献2】特開2019-048786号公報
【特許文献3】特許第6782075号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Iwahashi H. et al., Photodermatol Photoimmunol Photomed. 2021 Sep 1.
【非特許文献2】Eca LP et al., Dermatol Surg. 2012 Feb;38(2):180-4.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記先行技術のあるところ、本発明は、コラーゲンの分解及び/又は新生に関与する細胞群の特定及びその活用に係る、新規な技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
皮膚に存在する毛包は、毛包幹細胞等を有し、毛髪や毛包周囲の真皮マトリックスを産生する部位である。本発明者らは、毛包周囲の真皮マトリックスが毛周期に関与しているものと推測し、鋭意研究を行った。その結果、毛包周囲組織の特異的な部位でコラーゲンの分解及び/又は新生が活発に生じていること、及び、コラーゲン代謝が活発な毛包周囲組織の一部に、コラーゲン代謝関連遺伝子を高発現する特定の細胞群が存在することを発見し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、下記A群に示す1以上の遺伝子をマーカー遺伝子として発現する細胞及び/又は下記B群に示す1以上の遺伝子をマーカー遺伝子として発現する細胞を有効成分とし、コラーゲン分解及び/又は新生のために用いられる、コラーゲン代謝促進剤である。
【0011】
【0012】
【0013】
上記A群に示す遺伝子をマーカー遺伝子として発現する細胞及び/又は上記B群に示す遺伝子をマーカー遺伝子として発現する細胞を含む本発明は、コラーゲンの代謝を促進する効果を有する。
【0014】
本発明の好ましい形態では、前記のA群に示す遺伝子をマーカー遺伝子として発現する細胞がTNN(tenascin N)をマーカー遺伝子として含む。
【0015】
本発明の好ましい形態では、前記のB群に示す遺伝子をマーカー遺伝子として発現する細胞がMME(membrane metalloendopeptidase)をマーカー遺伝子として含む。
【0016】
本発明の好ましい形態では、前記細胞は、線維芽細胞である。
【0017】
本発明の好ましい形態では、本発明のコラーゲン代謝促進剤は、肌状態改善のために用いられる。
【0018】
本発明の好ましい形態では、本発明のコラーゲン代謝促進剤は、真皮リモデリングのために用いられる。
【0019】
本発明の好ましい形態では、本発明のコラーゲン代謝促進剤は、真皮組織に投与される細胞製剤である。
【0020】
また、本発明は、
コラーゲン分解関連遺伝子及び/又はコラーゲン新生関連遺伝子を発現する細胞集団を、複数の細胞亜集団に分類する亜集団分類工程を含み、
前記亜集団分類工程は、毛包周囲組織の細胞ごとに取得された遺伝子発現情報に基づき、前記細胞集団を前記複数の細胞亜集団に分類することを特徴とする、コラーゲン代謝に関与する細胞群を特定する方法にも関する。
【0021】
上記方法によれば、毛包を含む毛包周囲組織を一細胞単位で解析するという新たなアプローチにより、コラーゲンの代謝に関与する細胞群を特定することができる。
【0022】
本発明の好ましい形態では、前記亜集団分類工程で得られた前記複数の細胞亜集団のうち、毛包周囲組織に存在する細胞亜集団を特定する亜集団特定工程を含む。
亜集団特定工程を含むことで、毛包周囲においてコラーゲンの代謝に関与する細胞群を特定することが可能となる。
【0023】
また、本発明は、前記亜集団分類工程で得られた前記細胞亜集団について、前記細胞亜集団で特異的に発現する遺伝子を特定するマーカー遺伝子特定工程を含む、コラーゲン代謝に関与する細胞群のマーカー遺伝子を特定する方法にも関する。
細胞亜集団に特異的なマーカー遺伝子を特定することで、該細胞亜集団に属する細胞が容易に選別可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、コラーゲンの分解及び/又は新生に関与する細胞群の特定、及びその活用に係る新規な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明のコラーゲン代謝に関与する細胞を特定する方法を示すフローチャート図である。
【
図2】実施例1のシングルセル解析データに基づき分類した細胞集団を示す、UMAPによる二次元プロット図である。
【
図3】実施例1の線維芽細胞に属する細胞集団の細胞亜集団を示す、UMAPによる二次元プロット図である。
【
図4】ヒト皮膚組織を用いた、in situ ハイブリダイゼーションによるTNN発現部位を示す明視野画像(a)と、免疫染色によるMME発現部位を示す明視野画像(b)である。
【
図5】休止期、成長期、及び退行期の毛包周囲組織における、コラーゲンの分解及び新生を検出した蛍光画像である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができる。
【0027】
<1>コラーゲン代謝促進剤
本発明のコラーゲン代謝促進剤は、下記表1のA群に示す遺伝子(以下、マーカー遺伝子Aともいう)を発現する細胞及び/又は下記表2のB群に示す遺伝子(以下、マーカー遺伝子Bともいう)を発現する細胞を有効成分とする。
【0028】
【0029】
【0030】
ここで、本発明の好ましい実施の形態では、上記A群中の好ましくは1以上、より好ましくは2以上、より好ましくは3以上、より好ましくは4以上、より好ましくは5以上、さらに好ましくは6以上、特に好ましくは全ての遺伝子がマーカー遺伝子Aとして発現する細胞を、有効成分とする。
【0031】
本発明の好ましい実施の形態では、上記B群中の好ましくは1以上、より好ましくは2以上、より好ましくは3以上、より好ましくは4以上、より好ましくは5以上、さらに好ましくは6以上、特に好ましくは全ての遺伝子がマーカー遺伝子Bとして発現する細胞を、有効成分とする。
【0032】
なお、本発明において「マーカー遺伝子の発現」とは、遺伝子(mRNA)の発現、又はタンパク質の発現を意味するものとする。
【0033】
また、本発明のコラーゲン代謝促進剤は、マーカー遺伝子Aを発現する細胞又はマーカー遺伝子Bを発現する細胞を単独で含有してもよいし、マーカー遺伝子Aを発現する細胞及びマーカー遺伝子Bを発現する細胞を共に含有してもよい。
【0034】
本発明の好ましい実施の形態では、前記のA群に示す遺伝子をマーカー遺伝子として発現する細胞が、TNN(tenascin N)をマーカー遺伝子として含むことが好ましい。
【0035】
ここで、TNN(tenascin N)は、別名tenascin Wとも呼ばれる細胞外マトリックスタンパク質であり、ITGA8:ITGB1ヘテロダイマー、ITGAV:ITGB1、ITGA4:ITGB1のリガンドと推定される(UniprotKB参照)。また、腫瘍において血管新生を引き起こすと考えられている(Martina E.et al, FASEB J. 24:778-787(2010))。
【0036】
また、本発明の好ましい実施の形態では、前記のB群に示す遺伝子をマーカー遺伝子として発現する細胞がMME(membrane metalloendopeptidase)をマーカー遺伝子として含むことが好ましい。
【0037】
MME(membrane metalloendopeptidase)は、中性エンドペプチダーゼ(NEP)又はネプリライシンとも呼ばれる、II型の膜貫通型メタロエンドペプチダーゼである(岩田修永ら、生体の科学、55巻5号、pp.540-541(2004))。また、MMEは、皮膚の弾性線維に対して、紫外線誘導性のエラスターゼ活性を示すことが知られている(Morisaki N. et al, J. Biol. Chem. 285:39819-39827(2010))。
【0038】
後述する実施例に示す通り、マーカー遺伝子Aを発現する細胞及びマーカー遺伝子Bを発現する細胞は、コラーゲンの分解及び/又は新生に関与する細胞であり、毛包周囲組織におけるコラーゲンの分解及び/又は新生の生じる部位に存在する。そのため、当該細胞を含むことで、本発明は、コラーゲンの代謝を促進する効果を有する。
なお、本明細書における毛包周囲組織とは、毛包と、その周囲を構成する細胞及び細胞外マトリックス等の組織を含むものとする。
【0039】
なお、本明細書において、コラーゲン代謝の促進とは、コラーゲンの分解及び/又は新生が生じ、新たなコラーゲンの産生が促進されることをいう。
また、本発明に係るコラーゲンとは、好ましくはI型コラーゲン、III型コラーゲン又はV型コラーゲンといった線維性コラーゲンや、VII型コラーゲン、XII型コラーゲン、XIV型コラーゲン等であり、より好ましくはI型コラーゲンである。
【0040】
また、実施例に記載の通り、マーカー遺伝子Aを発現する細胞及びマーカー遺伝子Bを発現する細胞は、線維芽細胞に属する細胞集団から特定された細胞である。
すなわち、マーカー遺伝子Aを発現する細胞及びマーカー遺伝子Bを発現する細胞は、好ましくは線維芽細胞である。
【0041】
本発明において使用する細胞は、毛包周囲組織から取得した細胞から、マーカー遺伝子A又はマーカー遺伝子Bを発現するものを選別し、選別した細胞を必要に応じて培養することで得ることができる。
マーカー遺伝子Aを発現する細胞及び/又はマーカー遺伝子Bを発現する細胞の選別は、セルソーター等を用いて既存の方法により行うことができる。
【0042】
本発明において使用する細胞の由来は、特に限定されないが、コラーゲン代謝促進剤を投与される患者由来の細胞であることが好ましい。患者由来の細胞を用いることで、免疫拒絶反応を回避し、該細胞の有するコラーゲン代謝促進効果を発揮させることができる。
【0043】
本発明では、投与される患者以外の人由来の細胞使用することもできる。この場合、移植前に他人から採取した細胞に対し、抗原性を除去する工程を加えてもよい。
【0044】
また、本発明のコラーゲン代謝促進剤は、表1のA群に示す遺伝子(マーカー遺伝子A)を高発現する細胞群及び/又は表2のB群に示す遺伝子(マーカー遺伝子B)を高発現する細胞群を含むことが好ましい。細胞群とは、マーカー遺伝子A又はマーカー遺伝子Bを発現する細胞を複数集めた集団のことをいう。
マーカー遺伝子A又はマーカー遺伝子Bを高発現する細胞群は、患者等の毛包周囲組織から取得した複数の細胞群を培養し、マーカー遺伝子A又はマーカー遺伝子Bの発現量を測定することで、選別することができる。マーカー遺伝子A又はマーカー遺伝子Bの発現量は、RT-qPCR等による遺伝子発現解析や、免疫染色、ウェスタンブロッティング等によるタンパク質発現解析により測定することができる。
【0045】
マーカー遺伝子A又はマーカー遺伝子Bを高発現する細胞群の選別方法は特に限定されない。例えば、複数の細胞群のうち、予め定めた発現量を超える細胞群について、マーカー遺伝子A又はマーカー遺伝子Bを高発現している細胞群であると選別するといった、定量的な選別を行うことができる。
また、複数の細胞群の発現量を相対的に比較し、マーカー遺伝子A又はマーカー遺伝子Bの発現量が最も高い細胞群を選別するといった、定性的な選別を行うことができる。
【0046】
本発明のコラーゲン代謝促進剤は、コラーゲンの分解及び/又は新生を促進することで真皮におけるコラーゲンの代謝を促進することから、真皮のリモデリングに関与するものである。すなわち、本発明のコラーゲン代謝促進剤は、真皮リモデリングのために用いることができる。
【0047】
なお、本発明における真皮リモデリングとは、真皮を構成する細胞外マトリックス等の組織が再構築されるといった、真皮構造の再編成のことをいう。
【0048】
また、コラーゲンの代謝促進効果を有することから、本発明のコラーゲン代謝促進剤は、肌状態改善剤として用いることができる。
具体的には、本発明のコラーゲン代謝促進剤は、皮膚の抗老化、より具体的には、肌のしわ、たるみ、くすみの予防及び/又は抑制、肌の毛穴の目立ちの改善、肌の弾力、保湿力の向上等のために用いることができる。
【0049】
本発明のコラーゲン代謝促進剤を適用する方法は特に限定されないが、例えば、皮内注射、皮下注射、静脈注射等による投与、皮膚への塗布等が挙げられる。
【0050】
投与量は、コラーゲン代謝促進剤の剤形及び食品形態、患者の症状、年齢等によって異なるが、1回の投与量全量に対する細胞相当量で、好ましくは1.0×105~1.0×1010個/kg体重、より好ましくは1.0×106~1.0×109個/kg体重、さらに好ましくは5.0×106~1.0×108個/kg体重を目安とすることができる。また、投与は、1日に1回又は数回に分けて行ってもよいし、複数回を数日に分けて行ってもよい。
【0051】
本発明のコラーゲン代謝促進剤は、細胞製剤の形態とすることが好ましい。細胞製剤は、公知の方法で製剤化することができる。
また、細胞製剤は、マーカー遺伝子Aを発現する細胞及び/又はマーカー遺伝子Bを発現する細胞を、無菌水又は生理食塩水等の溶液を含む形態であってもよい。
【0052】
細胞製剤には、任意の成分を配合することができる。例えば、ソルビトール、マンノース、マンニトール等の糖類、薬学的に許容される担体、具体的には、植物油、乳化剤、緩衝剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、賦形剤、防腐剤、結合剤、無痛化剤等を適宜組わせて配合することができる。
なお、細胞製剤には、必要に応じて、前記細胞の栄養源となる成分や前記細胞の効果を補助する有効成分が含まれていてもよい。
【0053】
細胞製剤は、液状の注射用製剤、又は、移植用製剤の形態であることが好ましい。移植用製剤は、固形状構造(例えばシート構造等)又はゲル状構造の形態が好ましく例示できる。注射用製剤及び移植用製剤は、上述の任意の成分等を添加することにより、既存の方法で製造することができる。
【0054】
また、細胞製剤は、「コラーゲン代謝促進のため」の用途の表示が付された形態とすることも好ましい。また、用途の表示は、「コラーゲン分解及び/又は新生の促進」であってもよい。
【0055】
前記「表示」は、需要者に対して前記用途を知らしめる機能を有する全ての表示を含む。すなわち、前記用途を想起・類推させうるような表示であれば、表示の目的、表示の内容、表示する対象物・媒体等の如何に拘わらず、全て前記「表示」に該当する。
また、前記「表示が付された」とは、前記表示と、細胞製剤(製品)を関連付けて認識させようとする表示行為が存在していることをいう。
【0056】
表示行為は、需要者が前記用途を直接的に認識できるものであることが好ましい。具体的には、本発明の細胞製剤に係る商品又は商品の包装への前記用途の記載行為、商品に関する広告、価格表もしくは取引書類(電磁的方法により提供されるものを含む)への前記用途の記載行為が例示できる。
【0057】
また、本発明のコラーゲン代謝促進剤は、皮膚外用組成物の形態とすることができる。
【0058】
皮膚外用組成物は、化粧料、医薬部外品、皮膚外用医薬品等の形態とすることができ、日常的に使用できることから、化粧料、医用部外品がより好ましい。
【0059】
皮膚外用組成物が化粧料である場合には、ローション剤、乳化剤、ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤等の形態とすることが好ましい。より具体的には、化粧水、乳液、クリーム、ジェル、パック、ヘアクリーム、スプレー等の形態が挙げられ、特に化粧水、乳液又はクリームの形態とすることが好ましい。
【0060】
皮膚外用組成物には、例えば、炭化水素類、エステル類、トリグリセライド類、脂肪酸、高級アルコール等の油性成分、アニオン界面活性剤類、両性界面活性剤類、カチオン界面活性剤類、非イオン界面活性剤類等の界面活性剤、多価アルコール類、増粘・ゲル化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、色剤、防腐剤、粉体等を任意に配合することができる。
また、本発明のコラーゲン代謝促進剤の効果を妨げない限り、本発明に係る細胞以外の有効成分を含有してもよい。有効成分としては、特に限定されないが、美白成分、シワ改善成分、抗炎症成分、動植物由来の抽出物等が挙げられる。
【0061】
皮膚外用組成物は、マーカー遺伝子Aを発現する細胞及び/又はマーカー遺伝子Bを発現する細胞を、上述した任意成分を適宜配合し、常法により製造することができる。
【0062】
また、皮膚外用組成物として使用する場合、マーカー遺伝子Aを発現する細胞及び/又はマーカー遺伝子Bを発現する細胞の含有量は、上述の細胞製剤の形態で、皮膚外用組成物全量に対し好ましくは0.00001質量%~5質量%、より好ましくは、0.0001質量%~2質量%、さらに好ましくは、0.001質量%~1質量%含有することができる。
【0063】
<2>コラーゲン代謝関連遺伝子を発現する細胞群を特定する方法
本発明は、上記<1>コラーゲン代謝促進剤に含まれる、コラーゲン代謝に関与する細胞群を特定する方法(以下、細胞群特定方法という)にも関する。
【0064】
本発明の細胞群特定方法は、好ましくは、毛包周囲組織の皮膚切片を用いてシングルセル解析を行い、該解析結果を用いてコラーゲンの代謝に関与する細胞群、及びそのマーカー遺伝子を特定する。
なお、本発明における「コラーゲン代謝に関与する細胞群」とは、特定の細胞種に分類される細胞集団のうち、コラーゲン代謝関連遺伝子を発現する細胞の集まりのことを示す。また、本発明において、ある細胞集団をさらに分類して得られた細胞群は、細胞亜集団ともいう。
【0065】
以下、本発明の細胞群特定方法について、詳細に説明を加える。
本発明の細胞群特定方法は、毛包を含む毛包周囲組織から得られる皮膚切片を用いて、細胞ごとに遺伝子発現を測定する発現解析工程S1と、遺伝子発現に基づいて細胞を複数の細胞集団に分類し、前記複数の細胞集団うち、コラーゲン分解関連遺伝子及び/又はコラーゲン新生関連遺伝子の発現量が高い細胞集団を特定する細胞集団選定工程S2と、特定された細胞集団を細胞亜集団に分類する亜集団分類工程S3と、前記細胞亜集団のマーカー遺伝子を特定するマーカー遺伝子特定工程S4と、毛包周囲組織に局在する細胞亜集団を特定する亜集団特定工程S5を備える。
【0066】
続いて、本発明の各工程について、詳述する。
【0067】
(i)発現解析工程S1
発現解析工程S1は、皮膚組織から得られた細胞ごとの遺伝子発現を解析する工程である。
具体的には、発現解析工程S1では、毛包を含む毛包周囲組織から得られる皮膚切片を用いて、細胞ごとに遺伝子発現を測定する。細胞ごとの遺伝子発現は、シングルセルRNA-seq(Single Cell RNA-seq;scRNA-seq)により解析することができる。当該解析は、細胞を単細胞処理化した後に、既存のシーケンサー(MiSeq、又はHiSeq3000/4000(Illumina社製)等)を用いて行うことができる。
【0068】
(ii)細胞集団選定工程S2
細胞集団選定工程S2は、遺伝子発現情報に基づき分類した細胞集団から、特定の細胞集団を選定する工程である。
【0069】
細胞集団選定工程S2では、初めに、発現解析工程S1で取得した遺伝子発現情報に基づいて、細胞を複数の細胞集団に分類する。具体的には、取得した遺伝子発現データについて、既存の方法を用いてクラスタリング行い、UMAP(Uniform Manifold Approximation and Projection)等により二次元プロットを作成することで、細胞を類似の遺伝子発現パターンを有する細胞集団に分類することができる。
なお、UMAPは、次元削減を行うことで、取得した全遺伝子発現データを2次元空間等に要約する手法の一つである。
【0070】
続いて、複数の細胞集団うち、コラーゲン分解関連遺伝子及び/又はコラーゲン新生関連遺伝子の発現量が他の細胞集団よりも高い細胞集団を特定し、以後の解析に用いる細胞集団とする。例えば、後述する実施例においては、コラーゲン分解関連遺伝子及び/又はコラーゲン新生関連遺伝子を高発現する細胞集団として、線維芽細胞の細胞集団を選択している。
【0071】
なお、本工程におけるコラーゲン分解関連遺伝子とは、例えばI型コラーゲン等を分解するMMP14(Human Matrix Metallopeptidase 14)等であり、コラーゲン新生関連遺伝子とは、I型コラーゲン合成酵素遺伝子のCOL1A1(Human Collagen Type1 Alpha 1)等のことを示す。
【0072】
(iii)亜集団分類工程S3
亜集団分類工程S3は、特定の細胞集団を、さらに細胞亜集団に分類する工程である。
亜集団分類工程S3では、細胞集団選定工程S2で特定した細胞集団を、発現解析工程S1で取得した遺伝子発現データに基づいて、さらに細胞亜集団に分類する。分類結果は、(ii)の細胞集団の選定と同様、UMAPにより二次元プロットを作成することで可視化することができる。
【0073】
(iV)マーカー遺伝子特定工程S4
マーカー遺伝子特定工程S4は、亜集団分類工程S3で特定した細胞亜集団のマーカー遺伝子を特定する工程である。
【0074】
マーカー遺伝子特定工程S4では、各細胞亜集団について、亜集団を構成する細胞が特異的に発現しているマーカー遺伝子を特定する。マーカー遺伝子の特定は、任意の検定を実施し、各細胞亜集団において有意に発現している遺伝子を特定することにより行うことができる。
【0075】
(V)亜集団特定工程S5
亜集団特定工程S5は、亜集団分類工程S3にて得られた複数の細胞亜集団のうち、毛包周囲組織に局在する細胞亜集団を特定する工程である。
【0076】
亜集団特定工程S5の好ましい形態では、細胞亜集団ごとに、毛包包含組織の細胞数と、毛包非包含組織の細胞数を対比する対比工程と、特定の細胞亜集団に属する毛包包含組織の細胞数が、特定の細胞亜集団に属する毛包非包含組織の細胞数よりも多い場合に、該細胞亜集団を毛包周囲組織に存在する細胞亜集団であると判定する判定工程を有する。
【0077】
対比工程は、亜集団分類工程S3で取得した細胞亜集団ごとに、毛包包含組織の細胞数と、毛包非包含組織の細胞数を対比する工程である。
本発明において、毛包包含組織は、毛包を含む皮膚組織であり、好ましくは単一の有毛サンプル(single-hair サンプル)である。
毛包非包含組織は、毛包を含まない皮膚組織であり、好ましくは無毛サンプル(non-hair サンプル)である。
【0078】
判定工程は、対比工程の対比結果に基づいて、毛包周囲に存在する細胞亜集団を特定する工程である。
判定工程では、特定の細胞亜集団に属する毛包包含組織の細胞数が、特定の細胞亜集団に属する毛包非包含組織の細胞数よりも多い場合に、該細胞亜集団を毛包周囲組織に存在する細胞亜集団であると判定する。本発明では、特定の細胞亜集団に属する毛包包含組織の細胞数が、特定の細胞亜集団に属する毛包非包含組織の細胞数よりも統計的に有意に多い場合に、該細胞亜集団を毛包周囲組織に存在する細胞亜集団であると判定することが好ましい。
【0079】
判定工程において毛包周囲組織に局在すると判定された細胞亜集団は、毛包周囲においてコラーゲン代謝に作用する細胞群であるといえる。
【0080】
なお、マーカー遺伝子特定工程S4及び亜集団特定工程S5の実施順序は限定されない。
すなわち、亜集団分類工程S3、マーカー遺伝子特定工程S4を順に実施後、亜集団特定工程S5を実施してもよいし、亜集団分類工程S3、亜集団特定工程S5を順に実施後、マーカー遺伝子特定工程S4を実施してもよい。後者の場合、マーカー遺伝子特定工程S4は、亜集団特定工程S5にて毛包周囲に存在することが特定された細胞亜集団のみに対し実施してもよい。
【0081】
また、細胞亜集団のマーカー遺伝子の特定後、マーカー遺伝子が実際に毛包周囲組織において発現していることを確認する工程を含むことが好ましい。
マーカー遺伝子の発現は、ヒトの皮膚組織から取得した皮膚切片を用いた免疫染色、in situ ハイブリダイゼーション等により確認することができる。
【0082】
また、マーカー遺伝子特定工程S4後に亜集団特定工程S5を実施する場合、亜集団特定工程S5において、毛包包含組織及び毛包非包含組織に着目した対比工程及び判定工程を実施せずに、上述したin vivoによる細胞亜集団の毛包周囲組織における発現確認を行ってもよい。
【0083】
上述した本発明の細胞群特定方法を用いれば、毛包周囲組織を用いた解析という新たなアプローチにより、コラーゲンの代謝に関与する細胞群を特定することができ、また、コラーゲン代謝に関与する細胞に係る新たなマーカー遺伝子を特定することができる。
【0084】
本発明の細胞群特定方法は、上記工程をすべて含む形態に限られない。
すなわち、本発明は、コラーゲン分解関連遺伝子及び/又はコラーゲン新生関連遺伝子を発現する細胞集団を、複数の細胞亜集団に分類する亜集団分類工程S3を含み、
前記亜集団分類工程S3は、毛包周囲組織の細胞ごとに取得された遺伝子発現情報に基づき、前記細胞集団を分類することを特徴とする方法であってもよい。
【0085】
また、コラーゲン分解関連遺伝子及び/又はコラーゲン新生関連遺伝子を発現する細胞集団を、複数の亜集団分類する亜集団分類工程S3と、
前記亜集団分類工程S3で得られた前記複数の細胞亜集団のうち、毛包周囲組織に存在する細胞亜集団を特定する亜集団特定工程S5を含む形態も好ましく例示できる。
【0086】
また、本発明は、上記細胞群特定方法を利用した、コラーゲンの代謝に関与する細胞群のマーカー遺伝子を特定する方法であってもよい。
すなわち、本発明は、コラーゲン分解関連遺伝子及び/又はコラーゲン新生関連遺伝子を発現する細胞集団を、複数の細胞亜集団に分類する亜集団分類工程S3と、
前記細胞亜集団について、前記細胞亜集団で特異的に発現する遺伝子を特定するマーカー遺伝子特定工程S4を含み、
前記亜集団分類工程S3は、毛包周囲組織の細胞ごとに取得された遺伝子発現情報に基づき、前記細胞集団を分類することを特徴とする、コラーゲン代謝に関与する細胞群のマーカー遺伝子を特定する方法であってもよい。
【実施例0087】
以下、本発明の基礎となる知見を裏付ける各種試験結果を示す。
【0088】
<実施例1> 細胞種ごとのコラーゲンの分解又は新生に関与する遺伝子の発現解析
(1)毛包周囲組織のシングルセル解析
3名の女性被験者の腹部から取得した、単一毛(single-hair)の微小皮膚片と、コントロールとして無毛(non-hair)の微小皮膚片を準備した。
【0089】
続いて、シングルセル遺伝子解析装置(Chromiumシステム(10X genomics社))を用いて、既存のプロトコルに従い、微小皮膚片から取得した真皮の構成細胞をシングルセル化し、得られた細胞について逆転写、ライブラリー作成を行った。作製したライブラリーを用いて、次世代シーケンサー(Illumina社製)により、細胞ごとの遺伝子配列データを取得した。
【0090】
(2)取得データの解析
シングルセル解析により得られた遺伝子配列データについて、統計解析ソフトRを用いて既存の方法(例えば、Unsupervised and graph-based clustering methods)にてクラスタリングを行い、UMAPにより二次元プロットを作成した。その結果、全構成細胞は、細胞種ごとに10個の細胞集団に分類された(
図2)。
【0091】
続いて、得られた細胞集団ごとに遺伝子発現量を定量化したところ、解析を行った全細胞のうち、線維芽細胞にてコラーゲンの分解又は新生に関連する遺伝子が高発現していた。そこで、当該線維芽細胞について、シングルセル解析により得られた遺伝子配列データに基づき、線維芽細胞の細胞集団に属する細胞を8つの亜集団(亜集団:FB0~FB7)に分類した(
図3)。
【0092】
さらに、8つの亜集団について、ウィルコクソンの順位和検定(Wilcoxon rank sum test)を行い、log2FC及び調整されたP値に基づいて細胞内で有意に発現量の高い遺伝子を選定し、その中でも特に特異性が高いものを各亜集団のマーカー遺伝子として特定した。
【0093】
次いで、各亜集団におけるnon-hair サンプルとsingle-hair サンプルの構成割合を算出した。そして、non-hair サンプルよりもsingle-hair サンプルの占める割合が優位に高い亜集団(FB2及びFB6)を、毛包周囲に局在する細胞亜集団とした。特定した亜集団FB2(本発明におけるA群に相当)及びFB6(本発明におけるB群に相当)のマーカー遺伝子を、それぞれ表3及び4に示す。
【0094】
【0095】
【0096】
<実施例2> マーカー遺伝子発現の局在の確認
(1)マーカー遺伝子の選択
実施例1で特定した亜集団FB2及びFB6のマーカー遺伝子のうち、亜集団FB2のマーカー遺伝子としてTNNを、FB6のマーカー遺伝子としてMMEを選択した。
【0097】
(2)in situ ハイブリダイゼーションによる局在確認
TNNの遺伝子発現の局在を確認するため、in situ ハイブリダイゼーションを以下の手順で行った。なお、本実施例では、下記の表5に示すヒト皮膚を試験材料とした。
【0098】
【0099】
初めに、毛包を含む皮膚組織を10%ホルマリンで固定後、パラフィン包埋し、皮膚切片を得た。当該皮膚切片を脱パラフィン処理後、0.2%塩酸溶液に浸漬した。蒸留水、PBSで洗浄後、Proteinase Kでタンパク質分解酵素処理を行った。
【0100】
上述の処理後、皮膚切片をPBSで洗浄し、ISH Reagent Kit(ジェノスタッフ株式会社製)のプロトコルに従いハイブリダイゼーションを実施した。なお、プローブは、DIG RNA Labeling Kit(SP6/T7)(Roche Diagnostics社製)を用いたin vitro transcription法により合成した。
【0101】
続いて、ISH Reagent Kit内のG-Blockによりブロッキング処理を行った。ブロッキング処理後、皮膚組切片をTBSTで洗浄し、G-Blockで希釈したアルカリフォスファターゼ標識-抗ジコキシゲニン抗体(Anti-DIG-AP(Roche Diagnostics社製))を滴下した。
【0102】
続いて、皮膚切片をNBT(Sigma-Aldrich社製)及びBCIP(Sigma-Aldrich社製)で着色し、PBSで洗浄した。洗浄後、Kernechtrot Stain Sol.(武藤化学薬品株式会社製)に浸漬して対比染色を行った。
【0103】
染色後の皮膚切片を水道水で水洗いし、ISH Reagent Kit内のG-Mountを組織全体に滴下した。皮膚組織を乾燥させ、キシレンに浸漬した後、スライドガラスに封入した。その後、NanoZoomer S210(浜松ホトニクス株式会社製)を用いて染色画像を取得した。結果を、
図4(a)に示す。
【0104】
(3)免疫組織染色による局在確認
MMEのタンパク質局在を確認するため、免疫染色を以下の手順で行った。なお、本実施例では、下記の表6に示すヒト皮膚を試験材料とした。
【0105】
【0106】
初めに、毛包を含む皮膚組織を10%ホルマリンで固定後、パラフィン包埋し、皮膚切片を作製した。当該皮膚切片を、脱パラフィン後、蒸留水で洗浄し、HercepTestIIクエン酸緩衝液(DAKO社製)を用いて賦活処理を行った。PBSで洗浄後、Envision FLEX(発色基質:3,3’-ジアミノベンジジンテトラヒドロクロライド(DAB)、DAKO社製)の試薬を用いて、自動染色装置(AutostainerLink48(DAKO社製))によりブロッキングから抗体染色までの作業を行った。なお、一次抗体はCD10モノクローナル抗体(株式会社ニチレイバイオサイエンス製)を用いた。
【0107】
皮膚切片を蒸留水で洗浄後、ヘマトキシリンを用いて核染色した。洗浄、脱水、透徹処理後、皮膚切片を封入剤によりスライドガラスに封入した。その後、NanoZoomer S210(浜松ホトニクス株式会社製)を用いて染色画像を取得した。結果を、
図4(b)に示す。
【0108】
(4)結果
TNN遺伝子のmRNAに対するin situ ハイブリダイゼーションの結果、TNNの発現は、休止期、成長期、退行期の何れにおいても、毛包結合組織鞘のうち脂腺の付け根からバルジにかけて局在することが観察された。
また、MMEに対する免疫染色の結果、MMEの発現は、退行期には毛包結合組織鞘のうちバルジより下の領域、及び毛球下部に局在しており、休止期及び成長期には毛包結合組織鞘のうちバルジより下の領域に局在することが観察された。
なお、本明細書において、毛包結合組織鞘とは、一般に結合組織性毛包(connective tissue sheath)と呼ばれる領域のことをいう。
【0109】
<実施例3> 毛包周囲組織におけるコラーゲンの分解及び新生の観察
(1)試験材料及び測定部位の取得
本実施例では、下記の表7に示すヒト皮膚を試験材料とした。
【0110】
【0111】
(2)試験材料の処理
(2-1)コラーゲン分解検出用サンプルの調整、観察
表7の(A)及び(B)の皮膚組織(縦横約3mm、厚さ約1mmの立体皮膚組織)を4%パラホルムアルデヒド溶液で固定し、PBSで洗浄した。洗浄後の皮膚組織について、2%PBST(2%Triton-X 100を含むPBS)中で回転振盪させながら、室温で透過処理を行った。続いて、ブロッキングバッファー(10%goat serum、1%Triton-X 100を含むPBS)に置換して回転振盪させながらブロッキング処理を行った。その後、分解コラーゲン検出用プローブ(Collagen Hybridizing Peptide, Cy3 Conjugate(3Helix社製))、TO-PROTM-3 Iodide(642/661)-1mM Solution in DMSO(Thermo Fisher Scientific社製)により、4℃下で蛍光染色を行った。
【0112】
蛍光染色後、溶液をwashing buffer(3%NaCl、0.2%Triton-X 100を含むPBS)に置換し、回転振盪させながら洗浄した。その後、溶液をPBSに置換し、再度洗浄を行った。洗浄後、RapiClear 1.52(SunJin Lab社製)を添加した24穴プレートに皮膚組織を浸漬し、振盪させながら透明化処理を行った。透明化処理後、iSpacer(SunJin Lab社製)を用いて、皮膚組織をRapiClear 1.52でスライドガラスに封入した。その後、共焦点レーザー顕微鏡(Nikon社製)を用い、皮膚組織の染色画像を撮像した(
図5)。
【0113】
分解コラーゲンの観察後、皮膚組織をパラフィン包埋して皮膚切片を作製し、常法によりHE染色及びKi67染色を行った。Ki67抗体としては、ki67(MIB-1)(DAKO社製)を用いた。
続いて、当該皮膚切片から得られた染色画像を用いて、下記表8の分類表に基づき、皮膚組織中の毛包を成長期、退行期、休止期の3つの周期に分類した。毛包を毛周期ごとに分類後、毛包の分解コラーゲンの量・局在と、毛周期の関係性について評価した。
【0114】
【0115】
(2-2)コラーゲン新生検出用サンプルの調整、観察
コラーゲンの新生は、プロコラーゲンの検出を行うことにより実施した。
まず、表7の(C)の皮膚組織を用いて、常法によりパラフィン切片を作製し、該皮膚組織をキシレンに浸漬後、エタノール、PBS-Tで順に洗浄した。その後、1%トリプシンを添加して抗原賦活化処理を行った。PBS-Tで洗浄後、1次抗体(Anti-pro-CollagenI antibody(Clone. M-58)(Merck Millipore社製))を4℃で反応させた。反応後、PBS-Tで洗浄し、2次抗体(Goat anti-rat IgG Alexa Fluor 555(Invitrogen社製))を室温で反応させた。反応後の皮膚組織をPBSで洗浄し、ProLong Gold Antifade Mountant with DAPI(Invitrogen社製)でプレパラートに封入した。
得られた皮膚組織について、共焦点レーザー顕微鏡(Nikon社製)を用い、皮膚組織の染色画像を撮像した(
図5)。
【0116】
続いて、プロコラーゲンの検出に使用したものと同一の皮膚組織から得られたパラフィン切片を用いて、常法によりHE染色及びKi67免疫染色を行った。当該皮膚切片から得られた染色画像を用いて、上記表8の分類表に基づき、皮膚組織中の毛包を成長期、退行期、休止期の3つの周期に分類した。その後、毛包のプロコラーゲンの量・局在と、毛周期の関係性について評価した。
【0117】
(3)結果
図5に示すとおり、コラーゲンの分解が、休止期、成長期、退行期の3ステージの何れにおいても、毛包結合組織鞘で生じることが確認された。また、コラーゲンの新生が、休止期、成長期、退行期の3ステージの何れにおいても毛包結合組織鞘で生じており、退行期のみ毛球下部(
図5(b)の白枠矢じり)においても生じることが確認された。
【0118】
<考察>
実施例1により、コラーゲン代謝関連遺伝子を高発現し、毛包周囲組織に存在する細胞は、TNN、MMEを高発現することが明らかとなった(表3及び4)。そして、実施例2により、TNNが毛周期の休止期から退行期の全期間にかけて毛包結合組織鞘に発現すること、MMEが休止期及び成長期には毛包結合組織鞘から毛球にかけて発現し、退行期には毛包結合組織鞘及び毛球下部において発現することが確認された(
図4)。
【0119】
そして、実施例3の結果によれば、TNN及びMMEの発現は、コラーゲンの分解及び/又は新生の生じる部位及び毛周期と一致する(
図4及び5)。
よって、TNN発現領域の解析結果から、TNNを発現する亜集団FB2に属する細胞は、毛周期の休止期から退行期の全期間においてコラーゲンの分解及び/又は新生に関与していると考えられる。MME発現領域の解析結果から、MMEを発現する亜集団FB6に属する細胞は、休止期及び成長期には、毛包結合組織鞘のうちバルジより下の領域にてコラーゲンの分解及び/又は新生に関与すると共に、退行期において毛球下部にてコラーゲンの新生に関与すると推測できる。
【0120】
以上の結果を踏まえると、TNN等の亜集団FB2のマーカー遺伝子(A群に示すマーカー遺伝子A)を発現する細胞や、MME等の亜集団FB6のマーカー遺伝子(B群に示すマーカー遺伝子B)を発現する細胞が存在することにより、真皮マトリックスにおけるコラーゲンの分解及び新生が促進されることが期待される。すなわち、マーカー遺伝子Aを発現する細胞及びマーカー遺伝子Bを発現する細胞は、細胞移植や細胞注入により体内に投入されることで、コラーゲン代謝の活性化を惹起する効果を発揮すると考えられる。
【0121】
よって、A群に示すマーカー遺伝子Aを発現する細胞、及びB群に示すマーカー遺伝子Bを発現する細胞は、真皮マトリックスにおけるコラーゲンの分解及び新生に関与する、コラーゲン代謝促進剤の有効成分として用いることができる。
【0122】
そして、線維芽細胞の細胞集団に分類される細胞であっても、異なるマーカー遺伝子を発現する細胞亜集団が複数存在し、細胞亜集団ごとに毛包周囲組織における発現場所等が異なることが示された。
このように、毛包周囲の組織を解析することで、コラーゲン代謝に関与する遺伝子を特定し、特定の細胞群に分類される細胞から該遺伝子を高発現する新たな細胞群を特定することができる。