(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150489
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】制御装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 6/16 20160101AFI20231005BHJP
【FI】
H02P6/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059617
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 知史
(72)【発明者】
【氏名】松橋 秀一
(72)【発明者】
【氏名】立野 純一
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 啓太
【テーマコード(参考)】
5H560
【Fターム(参考)】
5H560AA08
5H560BB04
5H560DA01
5H560DC03
5H560RR03
5H560TT08
5H560TT11
5H560TT15
5H560XA02
5H560XA12
5H560XA13
(57)【要約】
【課題】機械角を電気角に変換するための回路規模を削減するとともに、変換精度を向上することが可能な制御装置及び制御方法を提供する。
【解決手段】センサ装置によって検出されたモータの回転角度を示す検出信号を、第1のフィルタでフィルタリングした検出信号から第1の機械角を算出する第1の機械角検出部と、センサ装置によって検出された検出信号を、第1のフィルタより位相遅延の小さい第2のフィルタでフィルタリングした検出信号から第2の機械角を算出する第2の機械角検出部と、第2の機械角から第1の機械角を減算して第2の機械角と第1の機械角との位相差を算出し、位相差に補正係数を乗じて位相誤差補正量を算出し、第1の機械角に位相誤差補正量を加算して第1の機械角の位相誤差を補正する位相補正部と、位相誤差が補正された第1の機械角を電気角に変換する変換部と、を備える制御装置。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサ装置によって検出されたモータの回転角度を示す検出信号を、第1のフィルタでフィルタリングした前記検出信号から第1の機械角を算出する第1の機械角検出部と、
前記センサ装置によって検出された前記検出信号を、前記第1のフィルタより位相遅延の小さい第2のフィルタでフィルタリングした前記検出信号から第2の機械角を算出する第2の機械角検出部と、
前記第2の機械角から前記第1の機械角を減算して前記第2の機械角と前記第1の機械角との位相差を算出し、前記位相差に補正係数を乗じて位相誤差補正量を算出し、前記第1の機械角に前記位相誤差補正量を加算して前記第1の機械角の位相誤差を補正する位相補正部と、
位相誤差が補正された前記第1の機械角を電気角に変換する変換部と、
を備える制御装置。
【請求項2】
前記第1のフィルタは、前記第2のフィルタよりもフィルタリングの精度が高いフィルタである
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記第1のフィルタはバタワースフィルタであり、前記第2のフィルタは移動平均フィルタである、
請求項1又は請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記補正係数は、位相遅延がない理想の機械角と前記第1の機械角との差分と、前記第2の機械角と前記第1の機械角との差分に前記補正係数を乗じた値とが等しくなるように設定される、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項5】
前記モータは、ブラシレスモータである、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項6】
第1の機械角検出部が、センサ装置によって検出されたモータの回転角度を示す検出信号を、第1のフィルタでフィルタリングした前記検出信号から第1の機械角を算出する第1の機械角検出過程と、
第2の機械角検出部が、前記センサ装置によって検出された前記検出信号を、前記第1のフィルタより位相遅延の小さい第2のフィルタでフィルタリングした前記検出信号から第2の機械角を算出する第2の機械角検出過程と、
位相補正部が、前記第2の機械角から前記第1の機械角を減算して前記第2の機械角と前記第1の機械角との位相差を算出し、前記位相差に補正係数を乗じて位相誤差補正量を算出し、前記第1の機械角に前記位相誤差補正量を加算して前記第1の機械角の位相誤差を補正する位相補正過程と、
変換部が、位相誤差が補正された前記第1の機械角を電気角に変換する変換過程と、
を含む制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電動パワーステアリングのアシスト用のモータとしてブラシレスモータが使用されている(例えば特許文献1)。ブラシレスモータにおいてベクトル制御を行う場合、モータのセンサ信号は機械角から電気角へ変換される。この変換は、例えば、各種のフィルタや変換マップなどを用いて行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、用いるフィルタによっては位相遅延が生じてしまうため、位相遅延を補正するための回路構成が必要となり、回路規模が大きくなってしまう。また、変換を複数回行う場合には、変換が繰り返されることで変換誤差が蓄積されてしまい、変換精度が劣化してしまう。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、機械角を電気角に変換するための回路規模を削減するとともに、変換精度を向上することが可能な制御装置及び制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る制御装置は、センサ装置によって検出されたモータの回転角度を示す検出信号を、第1のフィルタでフィルタリングした前記検出信号から第1の機械角を算出する第1の機械角検出部と、前記センサ装置によって検出された前記検出信号を、前記第1のフィルタより位相遅延の小さい第2のフィルタでフィルタリングした前記検出信号から第2の機械角を算出する第2の機械角検出部と、前記第2の機械角から前記第1の機械角を減算して前記第2の機械角と前記第1の機械角との位相差を算出し、前記位相差に補正係数を乗じて位相誤差補正量を算出し、前記第1の機械角に前記位相誤差補正量を加算して前記第1の機械角の位相誤差を補正する位相補正部と、位相誤差が補正された前記第1の機械角を電気角に変換する変換部と、を備える。
【0007】
本発明の一態様に係る制御方法は、第1の機械角検出部が、センサ装置によって検出されたモータの回転角度を示す検出信号を、第1のフィルタでフィルタリングした前記検出信号から第1の機械角を算出する第1の機械角検出過程と、第2の機械角検出部が、前記センサ装置によって検出された前記検出信号を、前記第1のフィルタより位相遅延の小さい第2のフィルタでフィルタリングした前記検出信号から第2の機械角を算出する第2の機械角検出過程と、位相補正部が、前記第2の機械角から前記第1の機械角を減算して前記第2の機械角と前記第1の機械角との位相差を算出し、前記位相差に補正係数を乗じて位相誤差補正量を算出し、前記第1の機械角に前記位相誤差補正量を加算して前記第1の機械角の位相誤差を補正する位相補正過程と、変換部が、位相誤差が補正された前記第1の機械角を電気角に変換する変換過程と、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、機械角を電気角に変換するための回路規模を削減するとともに、変換精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係る電動パワーステアリング装置の概略構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】本実施形態に係る制御装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】本実施形態に係る位相誤差の一例を示す図である。
【
図4】従来の制御装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0011】
<1.電動パワーステアリング装置の概略構成>
まず、
図1を参照して、本実施形態に係る電動パワーステアリング装置(EPS:Electric Power Steering)の概略構成について説明する。
図1は、本実施形態に係る電動パワーステアリング装置の概略構成の一例を示すブロック図である。
図1に示すように、電動パワーステアリング装置1は、ステアリング機構2と、トルクセンサ3と、モータ4と、アナログ角度センサ5と、制御装置6と、を備える。
【0012】
ステアリング機構2は、電動パワーステアリング装置1が設けられた車両の進行方向を任意に変えるための操舵用の装置である。ステアリング機構2が運転者によって操作されると操舵トルクが発生する。ステアリング機構2は、この操舵トルクを伴って回転する。
【0013】
トルクセンサ3は、ステアリング機構2の操作によって発生する操舵トルクを検出する。トルクセンサ3は、検出した操舵トルクの検出値を制御装置6へ出力する。
【0014】
モータ4は、ステアリング機構2の操舵をアシストするためのモータである。例えば、モータ4は、ステアリング機構2が車両の前輪を操舵する操舵力をアシストする。モータ4は、制御装置6に電気的に接続されており、制御装置6からの駆動信号により駆動される。モータ4は、例えば、3相(U、V、W)のブラシレスモータである。
【0015】
アナログ角度センサ5は、モータ4に備えられている。アナログ角度センサ5は、モータ4のロータの回転角度を検出する。例えば、アナログ角度センサ5は、回転角度を検出する磁気センサである。アナログ角度センサ5は、検出した回転角度に応じた出力信号を制御装置6へ出力する。例えば、アナログ角度センサ5は、モータ4のロータの回転角度を示すコサイン信号(cosθ)とサイン信号(sinθ)の二相の検出信号を出力する。
【0016】
制御装置6は、電動パワーステアリング装置1の動作全体を制御するための装置である。例えば、制御装置6は、ECU(Engine Control Unit)によって実現される。
制御装置6は、トルクセンサ3によって検出された操舵トルクに基づき、モータ4の駆動を制御する。即ち、制御装置6は、モータドライバとしての機能を有する。モータ4の制御において、制御装置6は、モータ4に流れる電流が目標値となるよう制御する。この時、制御装置6は、アナログ角度センサ5によって検出された検出信号が示す角度を機械角から電気角に変換し、この電気角に基づき電流のベクトルを決定する。
【0017】
<2.従来の制御装置の機能構成>
以上、本実施形態に係る電動パワーステアリング装置1の概略構成について説明した。続いて、
図4を参照して、従来の制御装置について説明する。
図4は、従来の制御装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
図4に示すように、従来の制御装置100は、電気角検出部120と位相補正部150とを備える。
【0018】
電気角検出部120は、アナログ角度センサ5の検出信号から機械角を算出し、算出した機械角を電気角へ変換して出力する。
図4に示すように、電気角検出部120は、バタワース三次元フィルタ121a及び121bと、角度算出部122と、変換マップ123とを備える。
【0019】
アナログ角度センサ5から出力された二相の検出信号は、バタワース三次元フィルタ121a及び121bに供給される。例えば、バタワース三次元フィルタ121aにはコサイン信号が入力され、バタワース三次元フィルタ121bにはサイン信号が入力される。バタワース三次元フィルタ121a及び121bは、それぞれ入力された信号をフィルタリングする。フィルタリング後、バタワース三次元フィルタ121a及び121bは、フィルタリング後の検出信号を角度算出部122へ出力する。
【0020】
角度算出部122は、バタワース三次元フィルタ121a及び121bによりフィルタリングされた二相の検出信号に基づき、当該検出信号に対応する機械角を算出する。算出後、角度算出部122は、算出した機械角を変換マップ123へ出力する。
【0021】
変換マップ123は、角度算出部122から入力された機械角を電気角へ変換して出力する。この変換において、変換マップ123は、入力された機械角を補正してから電気角へ変換している。機械角の補正は、例えば、角度算出部122によって算出された機械角と、エンコーダによって測定されて外部から入力された機械角との差分を埋めるように補正が行われる。
【0022】
位相補正部150は、電気角検出部120によって算出された電気角に生じている位相誤差を補正し、補正した電気角を出力する。電気角検出部120の変換マップ123から出力された電気角は、バタワース三次元フィルタ121a及び121bでフィルタリングされた検出信号から求められている。このため、この電気角の位相には、バタワース三次元フィルタ121a及び121bの特性に起因する遅延が生じている。よって、電気角には、この位相の遅延によって位相に誤差が生じる。そこで、位相補正部150は、電気角の位相の誤差を補正する。なお、以下では、フィルタの特性に応じて生じる位相の遅延は「位相遅延」とも称され、位相遅延によって生じる位相の誤差は「位相誤差」とも称される。
図4に示すように、位相補正部150は、角度算出部151と、回転数算出部152と、移動平均フィルタ153と、位相補正マップ154と、加算器155とを備える。
【0023】
アナログ角度センサ5から出力された二相の検出信号は、角度算出部151にも供給される。角度算出部151は、供給された二相の検出信号に基づき、当該検出信号に対応する機械角を算出する。算出後、角度算出部151は、算出した機械角を回転数算出部152へ出力する。
【0024】
回転数算出部152は、角度算出部151から入力された機械角に基づき、モータ4の回転数を算出する。回転数算出部152は、算出した回転数を移動平均フィルタ153へ出力する。
【0025】
移動平均フィルタ153は、回転数算出部152から入力された回転数をフィルタリングする。フィルタリング後、移動平均フィルタ153は、フィルタリング後の回転数を位相補正マップ154へ出力する。
【0026】
位相補正マップ154は、移動平均フィルタ153から入力された回転数に基づき、位相誤差補正量を算出する。位相補正マップ154は、算出した位相誤差補正量を加算器155へ出力する。
【0027】
加算器155には、電気角検出部120の変換マップ123から電気角が入力され、位相補正マップ154から位相誤差補正量が入力される。加算器155は、入力された電気角に対して、入力された位相誤差補正量を加算する。これにより、加算器155は、位相誤差が補正された電気角を出力する。
【0028】
上述の制御装置100では、二相の検出信号をバタワース三次元フィルタ121a及び121bでフィルタリングして、モータ4の電気角を求めている。バタワース三次元フィルタ121a及び121bを通すことで、角度算出部122にてよりバラツキの小さい機械角を算出できるが、フィルタリング処理に時間がかかる分だけ位相に遅延が生じてしまう。このため、バタワース三次元フィルタ121a及び121bでフィルタリングした検出信号から算出した電気角には位相誤差が生じる。そこで、
図4に示す構成では、位相補正部150によって電気角の位相誤差を補正している。
【0029】
ところが、
図4に示す構成では、位相補正部150は、回転数から位相誤差補正量を求める位相補正マップ154を有する構成となっている。このような位相補正マップ154を設けると、ROM(Read Only Memory)の容量が増大するという問題が生じる。
例えば、位相補正マップ154は、モータ4の回転数を徐々に変化させながら、位相差を回転数毎にサンプリングし、これをROMのテーブルに記憶させることで作成される。一例として、位相補正マップ154を実現するためには、2バイト×4096=8192バイトのROMの容量が必要になる。
【0030】
また、上述の制御装置100では、位相補正を行うための角度算出部151は、アナログ角度センサ5から入力される二相の検出信号に対してフィルタリングを行わずに機械角を算出している。このため、角度算出部151が算出する機械角は、バラツキが大きくなってしまう。また、回転数算出部152は、バラツキが大きい機械角を用いて回転数を算出している。このため、回転数算出部152が算出する回転数もバラツキが大きくなってしまう。また、位相補正マップ154は、バラツキが大きい回転数を用いて位相誤差補正量を算出している。このため、補正後の電気角もバラツキが大きくなってしまう。
また、位相補正部150では、回転数算出部152で機械角から回転数への変換を行い、位相補正マップ154で回転数から位相誤差補正量への変換を行っている。このように、位相補正部150では変換が繰り返し行われるため、変換誤差が蓄積されて変換精度の劣化が生じる。
【0031】
上述のように、従来の制御装置100では、二相の検出信号をフィルタリングすることにより生じた位相誤差の補正に補正用のマップを用いているため、回路規模が大きくなってしまう、という問題があった。また、従来の制御装置100では、位相誤差補正量の算出においてフィルタリングしていない二相の検出信号を複数回変換しているため、算出される位相誤差補正量には変換誤差が蓄積されてしまい変換精度が劣化してしまう、という問題があった。
【0032】
これらの問題に対して、本実施形態では、機械角から回転数を求める回転数算出部や、位相補正マップを不要とし、機械角のみで位相誤差補正量を算出するようにした。これにより、機械角を電気角に変換するための回路規模を削減するとともに、変換精度を向上することを可能とした。
【0033】
<3.本実施形態に係る制御装置の機能構成>
以上、従来の制御装置の機能構成について説明した。続いて、
図2及び
図3を参照して、本実施形態に係る制御装置の機能構成について説明する。
図2は、本実施形態に係る制御装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
図2に示すように、本実施形態に係る制御装置6は、機械角検出部(第1の機械角検出部)20と、機械角検出部(第2の機械角検出部)30と、位相補正部40と、変換マップ50(変換部)とを備える。
【0034】
機械角検出部20は、アナログ角度センサ5の検出信号から機械角(第1の機械角)を算出し、算出した機械角を電気角へ変換して出力する。
機械角検出部20は、バタワース三次元フィルタ(第1のフィルタ)21a及び21bと、角度算出部22とを備える。
【0035】
アナログ角度センサ5から出力された二相の検出信号は、バタワース三次元フィルタ21a及び21bに供給される。例えば、バタワース三次元フィルタ21aにはコサイン信号が入力され、バタワース三次元フィルタ21bにはサイン信号が入力される。バタワース三次元フィルタ21a及び21bは、それぞれ入力された信号をフィルタリングする。フィルタリング後、バタワース三次元フィルタ21a及び21bは、フィルタリング後の検出信号を角度算出部22へ出力する。
【0036】
角度算出部22は、バタワース三次元フィルタ21a及び21bによりフィルタリングされた二相の検出信号に基づき、当該検出信号に対応する機械角を算出する。
例えば、角度算出部22は、コサイン信号(cosθ)とサイン信号(sinθ)からなる二相の検出信号から、以下の(1)式のように機械角Cを算出する。
機械角C=sinθ/cosθ …(1)
【0037】
機械角検出部30は、アナログ角度センサ5の検出信号から機械角(第2の機械角)を算出し、算出した機械角を電気角へ変換して出力する。
機械角検出部30は、移動平均フィルタ(第2のフィルタ)31a及び31bと、角度算出部32とを備える。
【0038】
アナログ角度センサ5から出力された二相の検出信号は、移動平均フィルタ31a及び31bにも供給される。例えば、移動平均フィルタ31aにはコサイン信号が入力され、移動平均フィルタ31bにはサイン信号が入力される。移動平均フィルタ31a及び31bは、それぞれ入力された信号をフィルタリングする。フィルタリング後、移動平均フィルタ31a及び31bは、フィルタリング後の検出信号を角度算出部32へ出力する。
【0039】
角度算出部32は、移動平均フィルタ31a及び31bによりフィルタリングされた二相の検出信号に基づき、当該検出信号に対応する機械角を算出する。
例えば、角度算出部32は、コサイン信号(cosθ)とサイン信号(sinθ)からなる二相の検出信号から、以下の(2)式のように機械角Bを算出する。
機械角B=sinθ/cosθ …(2)
【0040】
このように、本実施形態では、機械角検出部20と機械角検出部30の2系統の角度検出部を有し、この機械角検出部20と機械角検出部30によって2つの機械角(機械角C及びB)がそれぞれ求められる。
【0041】
ここで、機械角検出部20で検出信号をフィルタリングするフィルタは、バタワース三次元フィルタ21a及び21bである。バタワース三次元フィルタ21a及び21bを通すことで、角度算出部22にてよりバラツキの小さい機械角を算出できるが、フィルタリング処理に時間がかかる分だけ位相に遅延が生じてしまう。このため、バタワース三次元フィルタ21a及び21bでフィルタリングした検出信号から算出した電気角には位相誤差が生じる。即ち、機械角検出部20の角度算出部22で算出される機械角Cでは、バラツキは小さいが位相誤差が生じている。
【0042】
これに対して、機械角検出部30で検出信号をフィルタリングするフィルタは、移動平均フィルタ31a及び31bである。移動平均フィルタは、バタワース三次元フィルタよりもフィルタリング処理にかかる時間が短いため生じる位相誤差は小さいが、バタワース三次元フィルタよりもフィルタリングの精度が低いため生じるバラツキは大きくなってしまう。即ち、機械角検出部30の角度算出部32で算出される機械角Bでは、バラツキは大きいが機械角Cよりも小さい位相誤差が生じている。
よって、機械角検出部20の角度算出部22で算出された機械角Cは、機械角検出部30の角度算出部32で算出された機械角Bより、位相が遅れている。
【0043】
位相補正部40は、機械角検出部20から出力される機械角Cと機械角検出部20から出力される機械角Bとに基づき、機械角Cに生じている位相誤差を補正する。
図2に示すように、位相補正部40は、減算器41と、乗算器42と、加算器43とを備える。
【0044】
機械角検出部20の角度算出部22で算出された機械角Cは、減算器41へ出力されるとともに、加算器43へ出力される。機械角検出部30の角度算出部32で算出された機械角Bは、減算器41へ出力される。
【0045】
減算器41は、機械角Cと機械角Bとの位相差を算出する。例えば、減算器41は、機械角Bから機械角Cを減算して、位相差(B-C)を算出する。減算器41は、算出した位相差(B-C)を乗算器42へ出力する。
【0046】
乗算器42は、機械角Cの位相誤差を補正するための位相誤差補正量を算出する。例えば、乗算器42は、機械角Bと機械角Cとの位相差(B-C)に、所定の補正係数Kを乗算して、位相誤差補正量K(B-C)を算出する。乗算器42は、算出した位相誤差補正量K(B-C)を加算器43へ出力する。
【0047】
ここで、
図3を参照して、補正係数Kについて説明する。
図3は、本実施形態に係る位相誤差の一例を示す図である。
図3において、横軸は時間を示し、縦軸はモータ4の機械角を示している。
【0048】
機械角Aは、位相誤差が生じていない理想の機械角である。機械角Aは、例えば、理想の検出信号であるコサイン信号とサイン信号とに基づき予め算出される。
【0049】
機械角Bは、機械角検出部30の角度算出部32で算出される機械角である。機械角検出部30は、移動平均フィルタ31a及び31bを用いてフィルタリングを行っている。このため、機械角Bには位相誤差が生じる。
【0050】
機械角Cは、機械角検出部20の角度算出部22で算出される機械角である。機械角検出部20は、バタワース三次元フィルタ21a及び21bを用いてフィルタリングを行っている。このため、機械角Cには機械角Bに生じる位相誤差と比較して大きな位相誤差が生じる。
【0051】
本実施形態では、減算器41により、機械角Bと機械角Cとの減算(B-C)が行われる。そして、減算器41の出力に補正係数Kが乗算されて、位相誤差補正量が算出される。よって、位相誤差補正量は、K(B-C)となる。
これに対して、機械角検出部20において生じる位相誤差は、位相誤差がない理想の機械角Aと機械角検出部20で算出された機械角Cとの減算値(A-C)となる。この機械角検出部20での位相誤差(A-C)が、機械角検出部20の位相誤差を補正するための理想的な位相誤差補正量となる。以下の(3)式のように、位相誤差補正量(A-C)と、上述の補正係数Kが乗じられた位相誤差補正量K(B-C)とが等しければ、理想的な位相誤差の補正が行えることになる。
(A-C)=K(B-C) …(3)
【0052】
上記(3)式より、補正係数Kは、以下の(4)式のように求められる。
K=(A-C)/(B-C) …(4)
【0053】
加算器43は、機械角Cの位相誤差を補正する。例えば、加算器43は、機械角Cに対して位相誤差補正量K(B-C)を加算する。これにより、機械角Cの位相誤差が補正される。加算器43は、位相誤差を補正した機械角を変換マップ50へ出力する。
【0054】
変換マップ50は、機械角を電気角に変換する。例えば、変換マップ50は、加算器43にて位相誤差が補正された機械角を入力として、電気角を出力する。この変換において、変換マップ50は、入力された機械角を補正してから電気角へ変換している。
【0055】
制御装置6は、変換マップ50から出力された電気角に基づきベクトル制御を行い、モータ4の駆動を制御する。また、制御装置6は、PWM(Pulse With Modulation:パルス幅変調)制御を行い、目標のロータの回転出力(例えば、目標回転数TRPM)に応じたデューティ比を設定し、設定したデューティ比に応じてモータ4の駆動を制御する。
【0056】
以上説明したように、本実施形態では、フィルタ特性の異なる2系統の機械角検出部20及び30でモータ4の機械角を求めている。そして、2系統の機械角検出部20及び30で算出した機械角を減算し、補正係数を乗算することで、位相誤差補正量を算出している。これにより、機械角から回転数を求める回転数算出部や、位相補正マップを不要とすることができる。位相補正マップが不要になったことにより、ROMの削減を図ることができる。また、本実施形態では、機械角のみで位相誤差補正量を算出しており、機械角から回転数への変換や回転数から位相誤差補正量への変換を行っていないため、誤差が蓄積されず、変換精度の向上が図れる。
【0057】
よって、本実施形態に係る制御装置6は、機械角を電気角に変換するための回路規模を削減するとともに、変換精度を向上することを可能とする。
また、制御装置6における回路規模の削減により、当該制御装置6を備える車両における資源使用量のミニマム化に寄与することができる。このため、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「強靭(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの促進を図る」に貢献することが可能となる。
また、制御装置6における変換精度の向上により、当該制御装置6を備える車両における効率的運用に寄与することができる。このため、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標7「全ての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する」に貢献することが可能となる。
【0058】
なお、上述の実施形態では、機械角検出部20で検出信号をフィルタリングするフィルタとして、バタワース三次元フィルタ21a及び21bを用い、機械角検出部30で検出信号をフィルタリングするフィルタとして移動平均フィルタ31a及び31bを用いる例について説明したが、かかる例に限定されない。例えば、機械角検出部20でフィルタリング精度の高いフィルタを用い、機械角検出部30で機械角検出部20のフィルタより位相遅延が少ないフィルタを用いる場合には、どのようなフィルタを用いても良い。
【0059】
以上、本発明の実施形態について説明した。なお、上述した実施形態における制御装置6の全部または一部をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【0060】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0061】
1…電動パワーステアリング装置、2…ステアリング機構、3…トルクセンサ、4…モータ、5…アナログ角度センサ、6…制御装置、20…機械角検出部(第1の機械角検出部)、21a,21b…バタワース三次元フィルタ(第1のフィルタ)、22…角度算出部、30…機械角検出部(第2の機械角検出部)、31a,31b…移動平均フィルタ(第2のフィルタ)、32…角度算出部、40…位相補正部、41…減算器、42…乗算器、43…加算器、50…変換マップ、100…制御装置、120…電気角検出部、121a,121b…バタワース三次元フィルタ、122…角度算出部、123…変換マップ、150…位相補正部、151…角度算出部、152…回転数算出部、153…移動平均フィルタ、154…位相補正マップ、155…加算器