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特開2023-150501測量装置、測量方法および測量用プログラム。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150501
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】測量装置、測量方法および測量用プログラム。
(51)【国際特許分類】
   G01C 15/00 20060101AFI20231005BHJP
   G01S 17/10 20200101ALI20231005BHJP
   G01S 7/487 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
G01C15/00 103E
G01S17/10
G01S7/487
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059639
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】弥延 聡
(72)【発明者】
【氏名】吉野 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 陽
【テーマコード(参考)】
5J084
【Fターム(参考)】
5J084AA05
5J084AB17
5J084AC08
5J084AD01
5J084BB24
5J084BB28
5J084CA03
5J084CA31
5J084DA01
5J084EA40
(57)【要約】
【課題】レーザー測距における多重反射の影響を抑制する。
【解決手段】測距光の発光と受光に基づき、前記測距光の反射点の測距を行う測量方法であって、K+1回目の発光の後における受光が、前記K+1回目の発光より前の発光の多重反射光であるか否かの判定を行い、Kは0を含まない自然数であり、前記判定では、K回目以前の発光を起点として、前記K回目以前の発光から最初の受光までの時間差に基づく周期に対応する前記K+1回目の発光の後における前記受光を前記多重反射光の受光と判定する。
【選択図】図4

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測距光の発光と受光に基づき、前記測距光の反射点の測距を行う測量装置であって、
K+1回目の発光の後における受光が、前記K+1回目の発光より前の発光の多重反射光であるか否かの判定を行う判定部を備え、
Kは0を含まない自然数であり、
前記判定部では、K回目以前の発光を起点として、前記K回目以前の発光から最初の受光までの時間差に基づく周期に対応する前記K+1回目の発光の後における前記受光を前記多重反射光の受光と判定する測量装置。
【請求項2】
前記多重反射光と判定された受光の後における前記周期に対応しない受光を前記K+1回目の発光の反射光として採用する請求項1に記載の測量装置。
【請求項3】
前記多重反射光と判定された受光の後における前記周期に対応した受光がある場合に、
更に当該受光のタイミングにおける前記多重反射光の推定強度が予め定めた閾値以下である場合、当該受光を前記K+1回目の発光の反射光として採用する請求項1に記載の測量装置。
【請求項4】
測距光の発光と受光に基づき、前記測距光の反射点の測距を行う測量方法であって、
K+1回目の発光の後における受光が、前記K+1回目の発光より前の発光の多重反射光であるか否かの判定を行い、
Kは0を含まない自然数であり、
前記判定では、K回目以前の発光を起点として、前記K回目以前の発光から最初の受光までの時間差に基づく周期に対応する前記K+1回目の発光の後における前記受光を前記多重反射光の受光と判定する測量方法。
【請求項5】
測距光の発光と受光に基づき、前記測距光の反射点の測距を行う処理をコンピュータに実行させるプログラムであって、
コンピュータに
K+1回目の発光の後における受光が、前記K+1回目の発光より前の発光の多重反射光であるか否かの判定を行わせ、
Kは0を含まない自然数であり、
前記判定では、K回目以前の発光を起点として、前記K回目以前の発光から最初の受光までの時間差に基づく周期に対応する前記K+1回目の発光の後における前記受光を前記多重反射光の受光と判定する測量用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー測距の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、工事現場における測量手段としてレーザースキャンが利用されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-8406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、反射プリズムや高反射率の壁面等からの反射があった場合、反射光がレーザースキャン装置の光学系や筐体で再度反射し、それが上記反射プリズムや高反射率の壁面等で再度反射されて再度検出され、といった多重反射が生じる場合がある。
【0005】
図6に基本的なレーザースキャン装置の光学系の概念図を示す。発光部からパルス発光されたスキャン光(測距光)は、ハーフミラーやダイクロイックミラー等の入反射分離光学系を透過して、回転する反射ミラーに当たり、そこで反射されて外部に照射される。反射点からの反射光は、回転する反射ミラーで反射され、更に入反射分離光学系で反射されて受光部で受光される。
【0006】
ここで、反射点からの反射光は、一部が入反射分離光学系を透過し、受光部のみならず発光部にも入射する。これら入射光が発光部や受光部の光学系(レンズや光透過性の保護層)で反射され、それが経路を戻って反射ミラーで反射されて反射点の方向に照射され、上記の多重反射が生じる要因となる。また、スキャン光は長い距離を伝播する過程でビーム径が広がっており、戻ってきた反射光がレーザースキャン装置の筐体で反射され、再度反射点の方向に反射され、それが上記の多重反射となる場合もある。
【0007】
この多重反射光がノイズとなる場合がある。すなわち、レーザースキャンでは、パルス光による繰り返しの測定が行われる。ここで、K+1回目の発光に対する反射光として、K回目の発光に係る多重反射光を検出すると、反射光の誤検出となり、そのスキャン光を用いた測定は誤測定となる。
【0008】
なぜなら、この受光はK回目に発光したスキャン光の多重反射光であり、本来ここではK+1回目に発光したスキャン光の反射光を受光すべきであるからである。なお、状況によっては、多重反射が3回目、4回目・・・と生じる場合も有り得る。この問題は、トータルステーション等で同一点に繰り返し測距光を照射する場合にも生じる。
【0009】
このような背景において、本発明は、レーザー測距における多重反射の影響を抑制する技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、測距光の発光と受光に基づき、前記測距光の反射点の測距を行う測量装置であって、K+1回目の発光の後における受光が、前記K+1回目の発光より前の発光の多重反射光であるか否かの判定を行う判定部を備え、Kは0を含まない自然数であり、前記判定部では、K回目以前の発光を起点として、前記K回目以前の発光から最初の受光までの時間差に基づく周期に対応する前記K+1回目の発光の後における前記受光を前記多重反射光の受光と判定する測量装置である。
【0011】
本発明において、前記多重反射光と判定された受光の後における前記周期に対応しない受光を前記K+1回目の発光の反射光として採用する態様が挙げられる。本発明において、前記多重反射光と判定された受光の後における前記周期に対応した受光がある場合に、更に当該受光のタイミングにおける前記多重反射光の推定強度が予め定めた閾値以下である場合、当該受光を前記K+1回目の発光の反射光として採用する態様が挙げられる。
【0012】
本発明は、測距光の発光と受光に基づき、前記測距光の反射点の測距を行う測量方法であって、K+1回目の発光の後における受光が、前記K+1回目の発光より前の発光の多重反射光であるか否かの判定を行い、Kは0を含まない自然数であり、前記判定では、K回目以前の発光を起点として、前記K回目以前の発光から最初の受光までの時間差に基づく周期に対応する前記K+1回目の発光の後における前記受光を前記多重反射光の受光と判定する測量方法である。
【0013】
本発明は、測距光の発光と受光に基づき、前記測距光の反射点の測距を行う処理をコンピュータに実行させるプログラムであって、コンピュータにK+1回目の発光の後における受光が、前記K+1回目の発光より前の発光の多重反射光であるか否かの判定を行わせ、Kは0を含まない自然数であり、前記判定では、K回目以前の発光を起点として、前記K回目以前の発光から最初の受光までの時間差に基づく周期に対応する前記K+1回目の発光の後における前記受光を前記多重反射光の受光と判定する測量用プログラムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、レーザー測距における多重反射の影響を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】レーザースキャンの概要を示す図である。
図2】レーザースキャン装置の外観を示す図である。
図3】レーザースキャン装置のブロック図である。
図4】処理の原理を示す図である。
図5】処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図6】基本的なレーザースキャン装置の光学系の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.第1の実施形態
(概要)
図1には、点群データの取得を行いたい現場に測量装置であるレーザースキャン装置200が設置された状態が示されている。図1には、点群データの取得の対象の一例として建物100、反射プリズム300と400が示されている。反射プリズム300と400は、位置が既知の点に設置され、後方交会法によりレーザースキャン装置200の位置と姿勢を求めるために利用される。
【0017】
以下、スキャン光の多重反射の影響を抑制する技術の原理について説明する。図4には、K番目の発光の多重反射が生じた場合が示されている。ここでは、多重反射として、反射プリズムや鏡面等の高反射率の反射点からの反射があり、それがレーザースキャン装置で受光される共にレーザースキャン装置の光学系等で反射されて再度当該反射点に向かい、それが再反射されてレーザースキャン装置で受光されると共に再反射され、・・・を繰り返す場合を想定している。なお、Kは0を含まない自然数(K=1,2,3,4・・・)である。
【0018】
ここで、K番目の発光に対応する最初の反射光の受光が時刻t0にあるとする。この受光は多重反射ではなく、1回目の反射(正規反射光)である。この際のスキャン光の反射点(スキャン点)までの往復時間をΔTkとする。多重反射は、ΔTkの間隔で受光され、多重反射が繰り返すたびに徐々に弱くなる。図4には、時間軸上でΔTkの間隔に周期的に並んだ多重反射の受光時刻t1,t2,t3,t4が示されている。なお、いつまで検出可能な多重反射が繰り返されるのかは、反射点までの距離、反射点の反射率、発光強度、受光感度、反射点までの間の水分や塵の影響(測距光の減衰や散乱に関係する)等によるので一概にはいえない。
【0019】
図4において、K+1番目の発光に対応する正規の(多重反射でない)受光のタイミングは「*2」の受光である。しかしながら、K番目の発光に多重反射があり、K+1番目の発光の後で、且つ、「*2」の前のタイミングで多重反射光が「*1」(時刻t3)があると、それがK+1番目の発光に対応する受光として検出される。
【0020】
「*1」の検出光は、K番目の発光に起因する反射光(多重反射光)であり、K+1番目の発光に起因するものとして処理すると、誤測定となる。すなわち、本来K+1番目の発光のタイミングと、「*2」の検出のタイミングに基づき距離を計算すべきものが、K+1番目の発光のタイミングと、「*1」の検出のタイミングに基づき計算されると、光波測距の原理に基づかず、誤った距離が算出される。
【0021】
例えば、スキャン点(測距光の反射点)までの距離が100mの場合、スキャン光の往復に要する時間は、(往復の距離)/(光速)=(100×2)/3×10≒0.67μsである。つまり、発光から約0.67μs後に反射光を検出する。これがK番目の発光の場合、ΔTk=0.67μsとなる。
【0022】
他方において、スキャン光の発光の間隔が約1.8μs(556kHz)である場合、K回目の発光の約1.8μs後に、次のK+1回目の発光が行われる。ここでK回目のスキャン光に多重反射が生じているとすると、上記の場合、K回目の受光(t0)から0.67μs後(t1)、1.34μs後(t2)、2.04μs後(t3)、・・・に多重反射光を受光する。この場合、K回目の発光から2.04μs後(t3)の多重反射光が「*1」のタイミングとなる。
【0023】
ここで、K+1番目の発光に対応する正規の反射光は、「*2」であるが、従来の技術では、レーザースキャン装置の側で「*1」が正規の反射であるか否かの判定ができないので、時刻t3の「*1」の反射光が採用され、スキャン点の位置の測定に係る演算が行われる。この結果は、エラーであり、ノイズとなる。
【0024】
この問題に対応するために、本実形態では以下の工夫を行う。まず、K番目の発光における測定光(スキャン光)の往復時間ΔTkを取得し、その整数倍のタイミングで受光した検出光を多重反射光であると推定し、多重反射光と推定される検出光を採用しない、あるいは多重反射光と推定される検出光を用いた測距値を採用しない。
【0025】
図4の場合でいうと、「*1」の検出光は採用しない、あるいはそれに基づく測距値は採用しない。こうすることで、多重反射光を検出することで生じる誤測定の問題を回避する。
【0026】
また、K+1番目の発光に係る正規の反射光とK番目の発光に係る多重反射光とが重なっていると判定され、更にその際の多重反射光が測距に悪影響を与える程強い光である場合、多重反射光の影響が問題となると判定し、その重なった反射光をK+1番目の発光に係る正規の反射として採用しない。この場合、測距を無効とする。なお、K+1番目の発光に係る正規の反射光とK番目の発光に係る多重反射光とが重なっていても、多重反射光が測距に悪影響を与える程強い光でない場合、多重反射光の影響が問題とならないと判定し、その重なった反射光をK+1番目の発光に係る正規の反射として採用する。
【0027】
(ハードウェアの構成)
図2には、レーザースキャン装置(レーザースキャナ)200の外観が示されている。レーザースキャン装置200は、三脚311、三脚311の上部に固定されたベース部312、ベース部312上で水平回転が可能な回転体である水平回転部313、水平回転部313に対して鉛直回転が可能な回転体である鉛直回転部314を備えている。また、水平回転部313の背面には、図示しない操作パネルが配置されている。
【0028】
鉛直回転部314は、レーザースキャン光の放射と受光を行う光学部315を備えている。光学部315からレーザースキャン光がパルス発光される。このパルス発光は、鉛直回転部314が回転しながら、その回転軸(水平方向に延長する軸)に直交する方向(鉛直面)に沿って行われる。この場合、光学部315から鉛直角の方向(仰角および俯角の角度方向)に沿ってレーザースキャン光がパルス発光される。
【0029】
水平回転部313を水平回転させ、且つ、鉛直回転部314を鉛直回転させながら、光学部315からレーザースキャン光をパルス発光させ、対象物からのその反射光を光学部315で受光することで、周囲に対するレーザースキャンが行われる。
【0030】
上記の鉛直角の方向に沿ったスキャン(縦スキャン)と同時に水平回転部313が水平回転することで、この鉛直角方向に沿ったスキャンライン(縦スキャンライン)が水平角方向(水平方向)に沿ってずれるようにして移動する。
【0031】
なお、鉛直回転時に水平回転も同時に行った場合、鉛直角方向に沿ったスキャン(縦スキャンライン)は完全に鉛直方向に沿っておらず、僅かであるが少し斜めの線となる。なお、水平回転部313が回転しなければ、鉛直角方向に沿ったスキャン(縦スキャンライン)は鉛直方向に沿ったものとなる。
【0032】
水平回転部313と鉛直回転部314の回転は、モータにより行われる。水平回転部313の水平回転角と、鉛直回転部314の鉛直回転角は、エンコーダにより精密に計測される。
【0033】
各レーザースキャン光は、1条のパルス測距光であり、一つのレーザースキャン光により、当該レーザースキャン光が当たった反射点であるスキャン点の測距が行われる。この測距値とレーザースキャン光の照射方向から、レーザースキャン装置200に対するスキャン点(レーザースキャン光の反射点)の位置が算出される。
【0034】
レーザースキャン装置200から出力されるレーザースキャン点群の形態としては、各点(各スキャン点)に係る距離と方向のデータを出力する形態が挙げられる。レーザースキャン装置200の内部において、特定の座標系における各点の位置を計算し、各点の3次元座標位置を点群データとして出力する形態も可能である。また、レーザースキャン点群のデータには、各スキャン点の輝度(反射光の強度)の情報も含まれている。
【0035】
図3は、レーザースキャン装置200のブロック図である。レーザースキャン装置200は、発光部201、受光部202、測距部203、方向取得部204、発光制御部205、駆動制御部206、通信装置207、記憶部208、多重反射光判定部209、正規反射光判定部210、受光強度判定部211、受光データ取得部212、点群データ生成部213、多重反射の周期取得部214を備える。
【0036】
レーザースキャン装置200はコンピュータを内蔵し、当該コンピュータにより、各スキャン点の位置の測定に係る演算が行われる。また、当該コンピュータにより、記憶部208、多重反射光判定部209、正規反射光判定部210、受光強度判定部211、受光データ取得部212、点群データ生成部213、多重反射の周期取得部214の機能が実現される。このコンピュータを外部に用意する形態も可能である。
【0037】
発光部201は、レーザースキャン光の発光を行う発光素子、発光に関係する光学系と周辺回路を有する。発光の繰り返し周波数は、例えば200kH~2MHzが挙げられる。この周波数は、コスト、求める点群の密度、測距の距離等を勘案して選択される。受光部202は、レーザースキャン光の受光を行う受光素子、受光に関係する光学系と周辺回路を有する。
【0038】
測距部203は、受光部202の出力に基づき、レーザースキャン装置200からレーザースキャン光の反射点(スキャン点)までの距離を算出する。レーザースキャン光は、反射点までの距離に応じて発光時点から時間差を持って受光される。この時間差に基づき、反射点の距離が算出される。
【0039】
方向取得部204は、レーザースキャン光の光軸の方向を取得する。光軸の方向は、水平方向の光軸の角度(水平角)と鉛直方向の光軸の角度(仰角または俯角)を計測することで得る。方向取得部204は、水平角検出部204aと鉛直角検出部204bを有する。
【0040】
水平角検出部204aは、水平回転部313の水平回転角を検出する。水平回転は、鉛直方向を回転軸とする回転である。角度の検出は、エンコーダにより行われる。鉛直角検出部204bは、鉛直回転部314の鉛直回転角(仰角または俯角)を検出する。鉛直回転は、水平方向を回転軸とする回転である。角度の検出は、エンコーダにより行われる。
【0041】
水平回転部313の水平回転角と鉛直回転部314の鉛直回転角を計測することで、レーザースキャン装置200から見たレーザースキャン光の光軸の方向、すなわちスキャン点の方向が判る。
【0042】
発光制御部205は、発光部201におけるレーザースキャン光の発光タイミングの制御を行う。駆動制御部206は、水平回転部313を水平回転させるための駆動制御を行う水平回転駆動制御部206aと、鉛直回転部314を鉛直回転させるための駆動制御を行う鉛直回転駆動制御部206bを備える。駆動はモータにより行われる。
【0043】
通信装置207は、他の装置との間で通信を行う。通信は、有線、無線LAN、携帯電話回線等を用いて行われる。記憶部208は、半導体メモリやハードディスク装置により構成され、レーザースキャン装置200の動作に必要な動作プログラム、データ、動作の過程や動作の結果得られるデータを記憶する。
【0044】
多重反射光判定部209は、多重反射光であるか否かの判定を行う。この判定では、一番近いタイミングでの発光の後であり、且つ、前記発光より前の直近で得た発光から最初の受光までの時間(反射点までの測距光の往復時間)の整数倍のタイミングでの受光であるか否かが判定される。
【0045】
図4の場合でいうと、着目する発光がK+1番目の発光であるとして、その時刻より後で、最初に受光したタイミングが、前回の発光(K番目の発光)の開始時刻を起点としたΔTk間隔の複数の時刻t1、t2、t3・・・と一致するか否か、が判定される。
【0046】
なお、一致は、ある程度の余裕をもって判定される。例えば、ΔTkの±5%以内の範囲で上記の一致の判定が行われる。
【0047】
ここで、一致と判定された場合、判定の対象となる受光はK番目の発光の多重反射光と判定される。図4の場合、時刻t3における受光は、K+1番目の発光の後のタイミングであり、その時刻は、前回の発光(K番目の発光)の開始時刻を起点とした周期ΔTkの間隔の時刻であるので、上記の判定はYES(つまり、多重反射光であるとの判定)となる。この処理が多重反射光判定部209において行われる。
【0048】
正規反射光判定部210は、多重反射光の受光が判定された場合に、多重反射光でない正規反射光を判定する。上記の多重反射光が受光された場合、その後に正規反射光(多重反射光でない反射光)が受光される。図4の場合でいうと、t3の多重反射受光の後にK+1番目の発光の正規反射光「*2」が受光される。この際、「*2」の受光が正規反射光の受光であるか否かの判定が正規反射判定部210で行われる。
【0049】
基本的には、多重反射光の検出の後の最初の反射光(次の反射光)をK+1番目の発光に係る正規の反射光として判定する。なお、この次の反射光が多重反射光の周期と一致している場合は、後述の受光強度の判定において、正規の反射光として採用するか否かを判断する。
【0050】
受光強度判定部211は、受光した検出光の強度を判定する。例えばK+1番目の発光の反射光とK番目の発光の多重反射光が重なっても(これは極めて希であるが)、多重反射光の強度が測距に影響する程強くなければ、スキャン点の位置の測定に影響はない。そこで、このような場合に当該多重反射光の検出光の強度を判定することで、スキャン点の位置の測定に影響はない検出強度か、あるいは当該測定に影響が出る程度の検出強度であるか否かの判定を行う。この判定を受光強度判定部211で行われる。
【0051】
K+1番目の発光の反射光とK番目の発光の多重反射光が重なっている場合、K番目の発光の多重反射光のみの強度を直接分離して評価することはできない。そこで、K番目の発光の多重反射光の減衰率と反射回数に基づき、K番目の発光の多重反射光の強度を推定する。多重反射光は、1次反射、2次反射・・・と次数が多くなる程、強度が低下する。この傾向を検出(あるいは予め取得)しておき、それに基づき、上記正規反射光と重なった多重反射光の強度を推定する。この推定値を用いて上記の判定を行う。
【0052】
受光データ取得部212は、正規反射光である場合、あるいは正規反射光として扱っても問題がない受光データを測距用の受光データとして採用する。受光データとしては、受光の時刻(タイミング)と受光強度が挙げられる。
【0053】
点群データ生成部213は、受光データ取得部212が取得した受光データに基づきスキャン点の位置データを生成する。スキャン点の位置データは、対象となる反射点(スキャン点)の測距値とレーザースキャン装置200の光学原点から見た方向のデータにより構成される。レーザースキャンによって得られる点群データは、上記スキャン点の位置データと各スキャン点に係る反射光の強度(検出光の強度)の値により構成される。
【0054】
多重反射の周期取得部214は、多重反射光の受光タイミングの周期を取得する。図4の場合、多重反射の周期取得部214は、ΔTk、ΔTk+1を取得する。この場合、発光時刻とその発光の正規反射の受光時刻の差が多重反射の周期として取得される。図4の場合、発光の開始時刻と正規反射(多重反射でない反射)の受光のピークの時刻の差が多重反射の周期(図4の場合のTk、Tk+1)として取得される。
【0055】
(処理の一例)
図5に処理の手順の一例を示す。図5の処理を実行するプログラムは、レーザースキャン装置200が内蔵するコンピュータの記憶部に記憶され、当該コンピュータのCPUにより読み出されて実行される。当該プログラムを適当な記憶媒体に記憶させ、そこから読み出して利用する形態も可能である。
【0056】
以下で説明する処理は、(1)測距光の発光毎に随時行う形態、(2)スキャンデータを取得した後に後処理で行う形態、(3)レーザースキャンを行いながら同時ではないが遅延して処理を平行して行う形態が可能である。
【0057】
以下、図4の場合を例に挙げ、処理の詳細を説明する。この例では、測距光のK+1番目の発光が行われる(ステップS101)。Kは、0を含まない自然数(K=1,2,3,4、・・・)である。次いでその反射光およびK番目の発光(前回の発光)の多重反射光が受光される(ステップS102)。なお、K番目の発光の多重反射光の受光は希であり(ここでは、この希な場合を想定している)、多重反射光がない場合がほとんどである。
【0058】
多重反射がある場合、ステップS102の受光は複数回となる。多重反射がなければステップS102の受光は1回である。
【0059】
ここで、ステップS102で得た受光のタイミングが直近で得た測定光(スキャン光)の発光から正規反射光の受光までの時間ΔTの間隔に一致するか否か、が判定される(ステップS103)。ここでは、ΔTとしてK番目の発光に係るΔTkを利用する。なお、ΔTが得られていない場合、ステップS103の処理は行われず、受光データを取得し、ステップS102からステップS107に進む。ステップS103の処理は、多重反射光判定部209で行われる。
【0060】
ステップS102の受光のタイミングがΔTkの間隔に一致していない場合、ステップS103からステップS107に進む。
【0061】
ステップS102の受光のタイミングがΔTkの間隔に一致している場合、ステップS103からステップS104に進む。ステップS104では、ステップS102の受光の次の受光のタイミングがΔTkの間隔に一致しているか否か、の判定が行われる。この処理は、正規反射光判定部210で行われる。
【0062】
次の受光がΔTkの間隔に一致していなければ、その受光をステップS101の発光に対する正規の反射光であると判定し、その受光データを採用する(ステップS105)。
【0063】
図4の場合でいうと、ステップS101においてK+1番目の発光が行われ、その後に「*1」の受光が検出(ステップS102)されたとする。この場合、「*1」の受光は、K番目の発光のタイミングを起点とするΔTkの間隔に一致するので、ステップS103からステップS104に進む。
【0064】
この場合、t3の後の最初の受光「*2」(次の受光)の時刻は、ΔTkの間隔の時刻でないので、「*2」の受光をK+1番目の発光の正規の反射光の受光と見なし、その受光データを採用する(ステップS105)。
【0065】
図5に戻り、ステップS104の判定がYESの場合、ステップS106に進む。ステップS106では、ステップS102で受光した多重反射光の受光強度が予め定めた閾値を超えるか否か、が判定される。この処理は、受光強度判定部211で行われる。ここでの閾値は、受光素子が飽和し、測距の精度低下を招く入射光の強度として設定される。
【0066】
ステップS104でYESとなった受光において、多重反射光の強度が予め定めた閾値を超えていない場合、当該受光した光の受光データを採用する(ステップS107)。
【0067】
例えば、図4の「*1」と「*2」が重なった場合、「*1」の強度が強くなければ、「*2」の受光タイミングを利用した測距に悪影響は出ない。よって、図4の「*1」と「*2」が重なった場合であってもステップS106の判定がYESであれば、K+1番目の発光に対応する正規反射光としてここで判定の対象としている受光の受光データを採用する(ステップS107)。
【0068】
ステップS106において、多重反射光の受光強度が予め定めた閾値を超えている場合、測距の精度が確保できないと判定され、エラー処理となる。この場合、ステップS101の発光に対応した点(スキャン点)の点群データの生成は行われない。
【0069】
ステップS105またはステップS107の後、ステップS105で採用した受光データまたはステップS107で採用した受光データに基づくスキャン点の位置データを生成する(ステップS108)。この処理は、点群データ生成部213で行われる。
【0070】
次に、発光から受光までの時間差ΔTを取得する(ステップS109)。例えば、図4の場合、ステップS101でK+1番目の発光を想定しているので、ここで対象となる発光はK+1番目の発光である。よってここでは、K+1番目の発光から正規反射光の受光までの時間ΔTk+1を取得する。この処理は、多重反射の周期取得部214で行なわれる。ΔTk+1は、次の発光(K+2番目の発光)に係る処理で利用される。
【0071】
こうして、多重反射光の影響を排除した点(反射点)に係る測定の処理が行われる。この処理を各発光に関して繰り返し行う。
【0072】
(優位性)
測距対象までの距離が遠く、また測距光の繰り返しの発光間隔が短い場合に、図4に関連して説明した多重反射の影響が顕在化する。図4は、多重反射4回目が影響する例であるが、図4のΔTkが発光間隔に近くなると、K番目の発光に係る多重反射3回目以下がK+1番目の処理に影響する可能性が生じる。このような場合に、多重反射の影響を抑制できる。
【0073】
測量現場において、例えば数百m先に把握していない反射プリズムが置いてあり、そこからの反射が意図せず生じる場合が考えられる。また、工事車両のバックミラーからの反射のような意図しない強い反射がある場合が考えられる。上述した処理によれば、このような場合に効果的に多重反射の影響を抑制できる。
【0074】
2.第2の実施形態
多重反射の経路が複雑な場合も考えられる。例えば、レーザースキャン装置⇒測距対象での反射⇒レーザースキャン装置近くや背面にある鏡面等の高反射体からの反射⇒測距対象での反射点⇒・・・の繰り返し、レーザースキャン装置⇒測距対象での反射⇒他の反射面での反射⇒レーザースキャン装置での受光と反射⇒・・・の繰り返し、といった多重反射の経路が考えられる。
【0075】
これらの場合、発光と正規反射光の受光の間隔より、多重反射の周期は長くなる。これは、多重反射の経路が正規の経路より長くなるからである。
【0076】
以下、このような多重反射に対応する場合の例を説明する。この場合、発光間隔をT0として、発光後にT0より短い周期で、受光強度が徐々に低下する周期的な受光があるか否かを判定する。この受光がある場合、それを多重反射光と推認し、その周期を取得する。後は、第1の実施形態の場合と同じである。
【0077】
この場合、多重反射の周期ΔT’は、発光と正規反射光の受光の間隔ΔTの係数倍となる。係数は、1より大きな数字である。
【0078】
発光間隔をT0として、発光後にT0より短い周期で、受光強度が徐々に低下する周期的な受光があるか否かを判定し、この受光がある場合、それを多重反射光と推認し、その周期を取得する方法は、第1の実施形態で説明した多重反射の場合に利用することもできる。
【0079】
3.第3の実施形態
多重反射の周期の算出を測距光の発光毎ではなく、測距光の発光の2回毎、3回毎といった複数回の発光毎に行う態様も可能である。多重反射の周期の算出を、得られた測距値が大きく変化した毎に行う形態、受光強度が予め定めた閾値を超えた場合に行う形態、受光強度が大きく変化した場合に行う形態等も可能である。
【0080】
例えば、図4のK+1番目の発光に係る処理において、K-1番目の発光に係り得た多重反射光の周期を採用することができる。この場合、K番目の多重反射光の周期がK-1番目と同じであると見なしての処理となる。この方法は、発光間隔が短く、処理が追い付かない場合に利用できる。
【0081】
4.第4の実施形態
図5と同様の処理を、一通り点群データを取得した後に後処理で行う形態やレーザースキャンを行いながら同時ではないが遅延して行う形態も可能である。例えば、レーザースキャンを一通り行い、各スキャン点に関する発光時刻、発光方向、受光時刻、受光強度のデータを得る。そして後処理で各発光と各受光に関してステップS103以下の処理を行う。
【0082】
5.その他
多重反射光判定部209、正規反射光判定部210、受光強度判定部211、受光データ取得部212、点群データ生成部213、多重反射の周期取得部214の一または複数を外部の装置として用意してもよい。また、これら機能部の一または複数をPC(パーソナル・コンピュータ)や処理サーバで行う形態も可能である。これらの場合、レーザースキャンデータを処理する測量装置となる。
【0083】
レーザースキャンの場合を例に挙げ、実施形態を説明したが、トータルステーション等のレーザー測距において、測距精度を高めるために、スキャンではなく1点に対して複数回の測定を行なう方法がある。この場合に本発明を適用することもできる。
【符号の説明】
【0084】
200…レーザースキャン装置、311…三脚、312…ベース部、313…水平回転部、314…鉛直回転部、315…光学部。

図1
図2
図3
図4
図5
図6