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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150531
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】溶接台車およびトンネルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/12 20060101AFI20231005BHJP
   B23K 37/02 20060101ALI20231005BHJP
   B64F 1/305 20060101ALI20231005BHJP
   B64F 5/10 20170101ALI20231005BHJP
【FI】
B23K9/12 331D
B23K37/02 Z
B64F1/305
B64F5/10
B23K9/12 331M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059681
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002358
【氏名又は名称】新明和工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】明石 大輔
(72)【発明者】
【氏名】武内 清
(57)【要約】      (修正有)
【課題】トンネル本体部の外側部位の連続溶接を安定した品質で行う。
【解決手段】溶接台車は、走行面に対して一方向に沿って走行可能な台車11と、台車11に設けられて溶接可能な溶接トーチと12、を備える。台車11は、少なくとも4枚のパネルが組み付けられて矩形枠状断面を有する長尺状のトンネル本体部に対して、一方向を長手方向とする隅肉部位に沿って走行され、溶接トーチ12は、トンネル本体部の外側部位に対して鏡面対称となる連続溶接に用いられる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行面に対して一方向に沿って走行可能な台車と、
前記台車に設けられて溶接可能な溶接トーチと、
を備え、
前記台車は、少なくとも4枚のパネルが組み付けられて矩形枠状断面を有する長尺状のトンネル本体部に対して、前記一方向を長手方向とする隅肉部位に沿って走行され、
前記溶接トーチは、前記トンネル本体部の外側部位に対して鏡面対称となる連続溶接に用いられる
溶接台車。
【請求項2】
前記台車は走行面側に設けられて前記走行面に引き付け可能な磁石を備える、
請求項1に記載の溶接台車。
【請求項3】
前記溶接トーチはその先端部が前記溶接台車の走行方向に沿って備えられている、
請求項1または2に記載の溶接台車。
【請求項4】
トンネル本体部の外側部位の四隅に対して用いられる、
請求項1から3のいずれかに記載の溶接台車。
【請求項5】
前記少なくとも4枚のパネルにおいて、第1の金属製パネルに対して第2の金属製パネルを略垂直状態で組み付け、
その後に、第1の金属製パネルと第2の金属製パネルが交差してなる隅肉部の溶接に請求項1から4のいずれかに記載の溶接台車を用いる、
トンネルの製造方法。
【請求項6】
前記トンネル本体部が旅客搭乗橋に用いられ、
前記トンネル本体部の外側部位に対して鏡面対称となる第1の溶接台車と第2の溶接台車を用い、
前記第1の溶接台車が前記トンネル本体部の長手方向中央部から一端部に向けて走行し、
前記第2の溶接台車が前記トンネル本体部の長手方向中央部から他端部に向けて走行する、
請求項5に記載のトンネルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル外側四隅の溶接に適用可能な溶接台車と、その溶接台車を用いるトンネルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば空港において、航空機に乗降する際には、ターミナルビルと航空機とを連結する旅客搭乗橋がよく用いられる。
【0003】
旅客搭乗橋においては、旅客者が通行するトンネル(旅客搭乗橋トンネル)が、鉄などの金属材料で構成されている。トンネルは図5の断面図で示すように、フロアパネル7、ルーフパネル8および両側のサイドパネル9が組み立てられてなる構成を有する。各パネル7,8,9の端部には溶接用の平板6が固定されており、図示のように隣接する平板6同士が交差する上下左右四隅(A,B,C,D)の外側と内側がそれぞれ隅肉溶接されている(特許文献1)。
【0004】
この隅肉溶接の際には、トンネルの直角度を良くするために、トンネルの内側や外側をあらかじめ治具で固定する必要がある。内側を固定する場合にはクロスバーを内方空間の幅、高さ、又は斜めの領域にわたって架けるとともにトンネル長手方向に一定間隔で設置する。また、外側を固定する場合には骨組みをトンネルの外側に新たに設置するとともに同様に長手方向に設置する。旅客搭乗橋として用いられるトンネルであるため、元々大型で長尺であることから、溶接を行うためのこうした事前に要する治具の固定作業は煩雑となる。
【0005】
また、旅客搭乗橋は様々な外部環境に晒され、その内方を旅客者が通行するため、トンネル溶接部の気密性、水密性には高水準が求められる。そのため、上記の隅肉溶接に関しては、トンネル長手方向に沿って連続溶接が行われ、溶接作業そのものの煩雑性も増加する。こうした隅肉溶接作業の負担軽減の点で溶接台車の適用が望まれており、特許文献2のような上向き溶接、下向き溶接が可能な溶接台車なども知られてはいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭59-23500号公報
【特許文献2】特公昭59-33474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、上述した高精度な直角度の維持と作業負担の軽減の両立を図るため、本発明者らは様々な溶接手法に対する鋭意工夫に取り組んだ。特許文献2のような溶接台車を単に用いるだけでは、事前に設置された治具や骨組み設備によってトンネル長手方向に沿って溶接台車が走行することができず、連続溶接ができない。
【0008】
一方で、治具や周囲の骨組みなどを回避しつつ溶接台車を用いずに手作業で連続溶接を行うことは、一定姿勢の持続が求められる作業者への負担が大きい。特に、トンネルの外側四隅に関しては、内側四隅とは異なる作業負荷も生じる。例えば、低位置に対する隅肉溶接の場合、内側四隅のように単純に上からトーチを接近させるわけにはいかず、サイドパネル9に設けられた平板6を避けつつ潜り込むようにして、外側隅肉部位にトーチを接近させなければならない。そのため、隅肉部に手が届きにくい上、視認もしづらいことから作業性が悪い。また、高位置に対する隅肉溶接の場合であっても、同様にサイドパネル9に設けられた平板6があるため、手が届きにくく、視認しづらい。加えて、フロアパネル7の高さH1分だけ高位置で作業できる内側隅肉の場合とは異なって、外側隅肉の場合には、その高さH1及び上記平板6を回避しつつ隅肉部に接近するために脚立等を使った高所作業が求められる。
【0009】
本発明は、このような点に鑑みてなされたもので、トンネル外側四隅の溶接において、作業者の煩雑性を解消し、連続溶接可能な溶接台車およびその溶接台車を用いるトンネルの製造方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る溶接台車は、走行面に対して一方向に沿って走行可能な台車と、前記台車に設けられて溶接可能な溶接トーチと、を備え、前記台車は、少なくとも4枚のパネルが組み付けられて矩形枠状断面を有する長尺状のトンネル本体部に対して、前記一方向を長手方向とする隅肉部位に沿って走行され、前記溶接トーチは、前記トンネル本体部の外側部位に対して鏡面対称となる連続溶接に用いられる。
【0011】
本発明のように、溶接トーチがトンネル本体部の外側部材に対して鏡面対称となるように連続溶接できる構成の溶接台車となっていることで、例えばトンネル本体部の上下左右の隅肉溶接部位に対して都度細かな溶接トーチの姿勢変更などを設定する必要がない。また、長尺状のトンネル本体部に対して一定品質の連続溶接を行うためには、上記の溶接台車がそのトンネル本体部の長手方向に沿うように一方向を走行可能なため、簡易に溶接品質の安定化を実現することもできる。つまり、溶接台車の設定の煩雑さが緩和されるとともに、簡易に隅肉溶接できることから、作業性が向上し、作業者の負担を軽減できる。さらに、連続溶接を安定した品質で実現できる。
【0012】
また、前記台車は走行面側に設けられて前記走行面に引き付け可能な磁石を備える構成とすることもできる。この構成により、下向き溶接のみならず、上向き溶接が可能となり、トンネル本体部の外側かつ上側の部材のみならず、下側の部材に対しても溶接することができる。必要な溶接台車の台数を減らし、その分煩雑な設定作業を削減することができる。また、外側四隅の全てに溶接台車を用いることができるので、作業者が手動で溶接を行う必要がなく、作業者の負担を大きく軽減できる。
【0013】
さらに、前記溶接トーチはその先端部が前記溶接台車の走行方向に沿って備えられている構成とすることもできる。この構成により、溶接トーチが溶接台車の前方に向かって設けられるため、溶接トーチを溶接台車の側方や上方に設けた溶接台車より小型化することができる。図5に示すように、トンネル本体部の外側は走行スペースが限られており、台車が溶接部材に対して近接状態で走行することが求められる中、溶接台車のスリム化に役立つ構成となっている。加えて、溶接台車の全高を小さくできることで、トンネル本体部の外側でかつ下側のような狭小スペースの走行においても本発明の溶接台車の適用が望ましい。
【0014】
前記溶接台車はトンネル本体部の外側部位の四隅それぞれに対して用いられることが好ましい。四隅それぞれに用いられる溶接台車とすることで、溶接台車の向き(走行方向)を変えるだけで全ての四隅において一定品質の溶接が施された状態にすることができる。また、本発明に係る鏡面対称の溶接台車を複数台用いることで、各溶接台車で溶接姿勢などの設定を省略でき、さらには溶接に要する時間も短縮できることで、効率の高い溶接作業になる。
【0015】
以上の構成による溶接台車を用いた溶接を行ったトンネルの製造方法を採用することもできる。
【0016】
前記トンネルの製造方法は、前記トンネル本体部が旅客搭乗橋トンネルである溶接に適用され、前記トンネル本体部の外側部位に対して鏡面対称となる第1の溶接台車と第2の溶接台車を用い、前記第1の溶接台車が前記トンネル本体部の長手方向中央部から一端部に向けて走行し、前記第2の溶接台車が前記トンネル本体部の長手方向中央部から他端部に向けて走行する、旅客搭乗橋トンネルの製造方法とすることができる。
【0017】
旅客搭乗橋トンネルにおいて、トンネル本体部長手方向の一の外側部位で、鏡面対称である第1の溶接台車と第2の溶接台車を例えば同時に使用して互いに反対方向に走行させることで、効率的に溶接できる。また、各台車の溶接条件を同一にできるため、連続溶接の品質を一定にすることが容易となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、トンネル本体部の外側部位に対して鏡面対称となるように溶接台車を用いることで、溶接台車の設定の煩雑さが緩和され、作業性が向上し、連続溶接を安定した品質で行うことができる。特に、長尺でサイズの大きなトンネル部材であるほど、顕著にその効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】旅客搭乗橋の構成を示す側面図である。
図2】(a)は本発明の溶接台車の走行方向側から見た模式図、(b)は平面図、(c)は側面図である。
図3】(a)は本発明の溶接台車の平面図で、(b)はその鏡面対称となる溶接台車の平面図である。
図4】鏡面対称の溶接台車をトンネル本体部の適用可能な位置を示した模式図である。
図5】従来の実施形態に係るトンネル本体部を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る溶接台車の実施形態の一例について、図面を用いて説明する。
【0021】
本実施形態に係る溶接台車は、空港内にあって図1に示すようなターミナルビル300と航空機200とを連結する旅客搭乗橋100の製造時によく用いられる。旅客搭乗橋100には、旅客者が通行する長尺で伸縮可能なトンネル(旅客搭乗橋トンネル)110が設けられており、このトンネル110における筒状部分となる複数のトンネル本体部2は、主に鉄などの金属材料で構成されている。本実施形態の溶接台車1は図2に示すように、トンネル本体部2の外側の部位の溶接に主に用いられ、この部位の溶接の作業効率向上に貢献し得る構成となっている。トンネル本体部2は、金属製のフロアパネル7、ルーフパネル8および両側のサイドパネル9が組み付けられて矩形枠状断面を有する長尺状の部材である。図2(a)に、ルーフパネル8とサイドパネル9が組み付けられたトンネル本体部2の上側側部(隅部)が示されるように、各パネルの端部には溶接用の平板6(水平平板6aと垂直平板6b)が固定されている。水平平板6aと垂直平板6b同士が略垂直に交差する状態でトンネル本体部2の内側をクロスバー(不図示)で固定し、この平板6の外側の隅肉部Aが溶接台車1によって溶接される。
【0022】
図2(b)に示すように、溶接台車1は、4個の駆動輪14を有する台車11と、台車11上に設けられて走行方向に沿って備わる溶接トーチ12と、台車11に搭載された駆動用モータ15と、台車11に配置されて溶接トーチ12の先端12aを台車11の走行方向に沿って支持するトーチ支持部16と、台車11の溶接トーチ12の先端が突出する一方の側面側(図中の上側)に延出して設けた倣い輪17、他方の側面側(図中の下側)に設けた制御ボックス19を備えている。さらに、台車11の下部には磁石13が設けられており、この磁石13の磁力を介して走行面の水平平板6aに対して台車11が引き付けられた状態となり、台車11が安定走行も可能となる。磁石13は、例えば、電磁石である。ただし、磁石の種類は特に限定されない。
【0023】
トーチ支持部16には、溶接トーチ12を位置調整可能に支持すると共に、溶接トーチ12の先端12aと溶接箇所(隅肉部A)との距離と角度を調整する微調整機構18が設けられている。
【0024】
制御ボックス19は、駆動輪14及び溶接トーチ12の各動作を制御するようになっている。具体的には、この制御ボックス19において、溶接条件と駆動輪14の回転速度をそれぞれ設定し、図示しない溶接スタートボタンのオン操作により駆動用モータ15の駆動力が駆動輪14に伝達され、倣い輪17を垂直平板6bに当接させた状態で、溶接台車1が溶接走行を開始する。溶接台車1は溶接トーチ12が設けられた方向を走行方向として走行する。なお、図2で示す溶接台車1は4輪駆動だが、2輪駆動でもよい。
【0025】
上記構成を有する溶接台車1は、トンネル本体部2の上側に位置する水平平板6a上を走行するとともに隅肉部Aを下向きで溶接することができる。この溶接は溶接台車1の走行に伴って、トンネル本体部2の長手方向に沿って連続的に行うことができる。
【0026】
本実施形態に係るトンネル本体部2の溶接において、2つの溶接台車1が用いられる。この2つの溶接台車1は、トンネル本体部2の外側四隅の同じ隅部に対して同じタイミングで用いられる。
【0027】
先ず、トンネル本体部2の組み付けに関して、金属製パネルである4枚のパネル(フロアパネル7、ルーフパネル8および両側のサイドパネル9)を準備し、各パネルの両端部に固定された溶接用の平板6(水平平板6aと垂直平板6b)を互いに略垂直に交差して4枚のパネルで矩形枠状断面を有するトンネル本体部2とする。このときは、上下左右の四隅にはまだ溶接が行われておらず、矩形枠状断面を形成する内方空間に各パネルが姿勢維持可能なように、トンネル本体部2の長手方向に沿って所定の間隔でクロスバー等の架設や支持用部材の設置が行われる。こうした状態のトンネル本体部2における上下左右の内側四隅に対し、作業者が手動でクロスバーや支持用部材を避けつつ移動しながら溶接作業を行う。この内方空間においては、クロスバーや支持用部材を除くと、溶接作業を遮るものはなく、作業者も上側の隅部や下側の隅部に対して溶接トーチを簡易に近づけることができる。
【0028】
次に、トンネル本体部2における上下左右の外側四隅の溶接に関して、上述のとおり、溶接台車1が用いられる。溶接台車1は、トンネル本体部2の長手方向において、その略中央部から一端側(図中の左側)を走行方向とする図3(a)と、同じく略中央部から他端側(図中の右側)を走行方向とする図3(b)に示すように、鏡面対称で用いられるように構成されている。具体的には、トンネル本体部2の隅肉部Aの溶接には溶接台車1が2つ(第1の溶接台車1A、第2の溶接台車1B)用いられ、それぞれの溶接台車1の走行方向が、矢印のように水平平板6aに対して反対方向であり、溶接トーチ12がその走行方向に沿うように走行方向前側に備わっている。これらの溶接台車1が鏡面対称構造を有するので、溶接トーチ12も互いの走行方向側から見て隅肉部Aに対して斜め方向から接近し、水平平板6aに対する角度および垂直平板6bに対する角度は略同一の大きさとすることができる。このため、互いに反対方向に走行しても隅肉部Aに対して同じ溶接品質を確保することができ、2つの溶接台車1を同時に走行させることで隅肉部Aの連続溶接に要する時間を短縮することもできる。また、溶接台車1には溶接トーチ12が走行方向前側に備わっているため、トンネル本体部2の長手方向端部まで溶接でき、溶接残部が生じない。
【0029】
2つの溶接台車1は、溶接トーチ12の角度などのレイアウト条件を鏡面対称として揃えたものを利用することで、各溶接台車1を走行前に隅肉部Aに対する溶接トーチ12の姿勢条件などを個別に設定する作業の煩雑性を解消できる。また、溶接トーチ12の姿勢以外にも、2つの溶接台車1のそれぞれ溶接条件や駆動輪14の回転速度などの設定も同じとする。これにより、同列状に形成される隅肉部Aの溶接品質を一定にすることができる。さらに、これら溶接台車1を同時に走行させることで、溶接条件に影響する気温、湿度等も同じ外部環境下で溶接でき、溶接条件の微調整が必要なく、設定の煩雑さを緩和することができる。
【0030】
上記効果を奏する溶接台車1を用いて、本実施形態に係るトンネル本体部2に対する溶接は図4に示す模式図のように行われる。図4は、第1の溶接台車1Aと第2の溶接台車1Bを組み合わせてトンネル本体部2を溶接する場合の各溶接台車1の走行方向、すなわち連続溶接の方向を示す模式図である。第1の溶接台車1Aに関しては、トンネル本体部2の外側部位の四隅において、矢印Xで示す長手方向に走行させ、第2の溶接台車1Bに関しては矢印Yで示す長手方向に走行させることで、各隅肉部を溶接する。本実施形態では、トンネル本体部2の外側かつ上方右側部の点P1、点P2、点P3を通る線(溶接ラインP1-P2-P3)を隅肉溶接する。第1の溶接台車1Aを用いて溶接ライン中央部P2から矢印Xに沿って下向き溶接を行い、溶接ライン一端部P1まで溶接する。他方、第2の溶接台車1Bは、溶接ライン中央部P2から矢印Yに沿って下向き溶接を行い、溶接ライン他端部P3まで溶接する。このとき、第1の溶接台車1Aと第2の溶接台車1Bによる溶接は同時に行う。鏡面対称の溶接台車1を用いて同じ条件で、トンネル本体部2の長手方向中央部から両端部に向けて同時に溶接が行われることで、溶接ひずみなどの影響も抑制できる。特に本実施形態におけるトンネル本体部2のように長尺な部材であるほど、長手方向の一端部から他端部まで1台の溶接台車1のみで溶接する場合と比べて、高い品質を得ることができる。
【0031】
続いて、トンネル本体部2の外側かつ下方右側部の溶接ラインR1-R2-R3での溶接では、第1の溶接台車1Aと第2の溶接台車1Bをそれぞれ天地逆転させて用いる。各溶接台車1は磁石13により走行面に引き付けられた状態となっており、安定した状態で走行面を走行可能となっている。このとき、第1の溶接台車1Aは溶接ライン中央部R2から矢印Xに沿って上向き溶接を行い、溶接ライン一端部R3まで溶接する。第2の溶接台車1Bは溶接ライン中央部R2から矢印Yの方向に沿って上向き溶接を行い、溶接ライン他端部R1まで溶接する。このときの各溶接台車1A,1Bによる溶接も同時に行う。各溶接台車1は下向き溶接時に対して、磁石13によって天地逆転させるのみで同様に鏡面対称構造をうまく活用でき、溶接条件や駆動輪14の回転速度の設定は下向き溶接時の設定を適用するため、設定の煩雑さを同様に緩和することができるとともに同等の一定した溶接品質を得ることができる。さらに、トンネル本体部2の外側四隅における残りの隅肉部に対しても、同様に溶接ラインQ1-Q2-Q3、S1-S2-S3として同等の効果を得ることができる。
【0032】
こうした鏡面対称構造を備え、さらに磁石13も備えた溶接台車1を上述したトンネル本体部2の隅肉溶接、具体的には外側部位の隅肉溶接に用いることで、内側部位の溶接に溶接台車を用いる場合と異なる顕著な効果を得ることができる。トンネル本体部2の四隅に対し、外側部位または内側部位のいずれかだけでも溶接台車の利用を適用できれば、長尺状のトンネル本体部2の長手方向の長さやその大きさが大きいほど、作業時間の短縮を図ることができ、手動で溶接作業を行う作業者の負担も軽減できる。そこで、外側部位または内側部位のうち、内側部位の溶接に溶接台車1を用いる場合には、トンネル本体部2の外側領域に溶接前の各パネル(フロアパネル7、ルーフパネル8および両側のサイドパネル9)を支持する支持用部材を設置する必要がある。このため、人の通行を目的として一定以上の幅と高さを有する本実施形態に係るトンネル本体部2のさらに外側に支持用部材を設置することとなり、溶接を行うためのスペースも大きくなる。これに対し、外側部位の溶接に溶接台車1を用いる場合には、本実施形態のように内方空間に支持用部材を設置することで、トンネル本体部2の外側に要するスペースを縮小できる。したがって、トンネル本体部2の製造に要する作業スペースの縮小効果を得ることができる。
【0033】
また、作業者の手動によるトンネル本体部2の四隅における溶接作業姿勢の点で、選択自由度の高いトンネル本体部2の内方空間に対し、内方空間よりも高位置となる上側部位に溶接台車1を用いることで作業者の高所作業を解消することができる。上側かつ外側の隅肉部Aに対しては、手動による作業の場合には少なくともその位置よりも高い位置からの作業が必要となるが、本実施形態であればこうした高い位置からの作業が不要となる。
【0034】
本発明に係る溶接台車1は上記の実施形態に限定されるものではない。例えば、第1の溶接台車1Aと第2の溶接台車1Bは、溶接トーチ12が備わる方向と走行方向の両方が互いに鏡面対称の関係であれば一定の溶接品質の確保および溶接時間の短縮などの効果を得ることができるため、台車11や駆動輪14などの構成は必ずしも鏡面対称でなくてもよく、これにより部材の共通化が可能となる。
【0035】
第1の溶接台車1Aと第2の溶接台車1Bは、それぞれ互いに異なる溶接ラインで同時に用いてもよい。例えば図4において、第1の溶接台車1Aは白抜き矢印で示す部位、第2の溶接台車1Bは黒塗り矢印で示す部位で用いられればよく、例えば、第1の溶接台車1Aを溶接ラインP1-P2-P3の溶接ライン中央部P2から溶接ライン一端部P1で用いると同時に、第2の溶接台車1Bを他の溶接ラインS1-S2-S3の溶接ライン中央部S2から溶接ライン他端部S3で用いてもよい。
【0036】
第1の溶接台車1Aと第2の溶接台車1Bによる溶接は、同時ではなく別々に行ってもよい。例えば、第1の溶接台車1Aで溶接している間に、第2の溶接台車1Bを溶接開始位置へ備え付け、制御ボックス19で溶接条件等を調整し、第1の溶接台車1Aの溶接中または溶接終了後、第2の溶接台車1Bの溶接を開始してもよい。また、溶接台車1の数は2台に限らず、3台以上を用いてトンネル本体部2の溶接を行ってもよい。
【0037】
他にも、トンネル本体部2の溶接に用いられる溶接台車1は1台で鏡面対称を構成するものでもよい。例えば、溶接台車1に2本の溶接トーチ12が台車11の前端部および後端部に互いに鏡面対称となる向きで備えられ、駆動輪14には走行方向を前後方向に切り替え可能な機能が備えられた構成とし、適宜一方の溶接トーチ12を用いて溶接してもよい。さらには、溶接トーチが走行方向に対して左右(台車方向幅方向)に回転可能で、左右への溶接トーチ角度を同じように設定可能な構成を有したものでもよい。
【0038】
溶接条件や駆動輪14の回転速度の設定は、下向き溶接時と上向き溶接時で適宜設定を調整してもよい、例えば、上向き溶接では、溶接トーチの出力値を上げたり、駆動輪14の回転速度を低くしてもよい。
【0039】
その他、特に言及されない限りにおいて、実施形態は本発明を限定しない。例えば、上記した実施形態では、トンネル本体部2は旅客搭乗橋トンネルであったが、他のトンネルであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、矩形枠状断面を有する長尺状のトンネル本体部の外側四隅の溶接に対して有用である。
【符号の説明】
【0041】
1 溶接台車
2 トンネル本体部
11 台車
12 溶接トーチ
12a 溶接トーチ先端部
13 磁石
1A 第1の溶接台車
1B 第2の溶接台車
100 旅客搭乗橋
図1
図2
図3
図4
図5