(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150556
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】グリーンシート
(51)【国際特許分類】
C04B 35/632 20060101AFI20231005BHJP
C04B 35/581 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C04B35/632
C04B35/581
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059719
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】馬場(西谷) 沙耶香
(72)【発明者】
【氏名】西田 悠光
(57)【要約】
【課題】水系原料を用いて形成された、緻密性が高く、従来よりも成形性に優れる薄膜のグリーンシートを提供する。
【解決手段】ここで開示されるグリーンシートは、レーザー回折法による平均粒子径(D50)が1μm以下であるセラミック粒子と、有機バインダと、アニオン系分散剤と、可塑剤と、を含む。そして、加熱乾燥式水分計により測定される水分量が0.8%以上10%以下である。また、マイクロメータによって測定される平均シート厚みが1mm以下である。かかる構成により、水系原料を用いて形成された、緻密性が高く、従来よりも成形性に優れる薄膜のグリーンシートを提供することを可能とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー回折法による平均粒子径(D50)が1μm以下であるセラミック粒子と、
有機バインダと、
アニオン系分散剤と、
可塑剤と、
を含み、
加熱乾燥式水分計により測定される水分量が0.8%以上10%以下であり、
マイクロメータによって測定される平均シート厚みが1mm以下である、
グリーンシート。
【請求項2】
前記水分量が1%以上3%以下である、請求項1に記載のグリーンシート。
【請求項3】
前記平均シート厚みが0.2mm以上0.6mm以下である、請求項1または2に記載のグリーンシート。
【請求項4】
前記セラミック粒子として窒化ケイ素粒子を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のグリーンシート。
【請求項5】
前記セラミック粒子を100質量部とした場合、前記アニオン系分散剤、有機バインダ、および可塑剤の含有率が、以下のとおり:
有機バインダ 8~35質量部;
アニオン系分散剤 0.1~0.7質量部;および
可塑剤 1~8質量部;
である、請求項1~4のいずれか一項に記載のグリーンシート。
【請求項6】
マイクロメータによって計測されるシート厚みムラが10μm以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載のグリーンシート。
【請求項7】
SEMによる断面観察に基づく空隙の最大長さが5μm以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載のグリーンシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示される技術は、セラミック基板等を形成するグリーンシート(未焼成シート)に関する。
【背景技術】
【0002】
電気エネルギーを効率的に利用するために、電力用半導体素子(いわゆるパワーモジュール)が不可欠な存在となっている。
また、省電力、高寿命の高輝度・パワーLEDランプ等に用いられる照明用半導体素子(いわゆるパワーLED用放熱基板)の需要も高まり、近年では、パワーモジュールの小型化、高緻密化、および熱伝導性の向上に関する技術の研究開発が精力的に行われている。かかる需要に伴い、これらの構成要素の1つであるグリーンシートについても同様に、薄膜化、高緻密化、熱伝導性の向上等が要求されている。さらに言えば、環境面に配慮した水系溶媒の使用と歩留まりの向上との両立、などといった生産の側面からの改良も要求されている。
【0003】
ところで、水系溶媒(水)を溶媒としたグリーンシートの作製方法としては、セラミック粒子と、水溶性有機結合剤(バインダ)と、可塑剤と、水とを含むスラリー(混錬物)を調製し、該スラリーを押し出し成形にて成形する方法が特許文献1にて開示されている。また、高い歩留まりを目的としたグリーンシートの従来技術として、特許文献2が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-238023号公報
【特許文献2】特開平6-211560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されたグリーンシートは、水を比較的多く含む。そのため、上記方法を、薄膜(例えば平均厚みが1mm以下)のグリーンシートに適用した場合、水の蒸発時、即ちグリーンシート成形時に大きな空隙(ボイド)ができやすく、グリーンシートの厚みムラが大きくなる。換言すれば、グリーンシートの緻密性の低下につながる。また、特許文献1および2で開示されているグリーンシートは、厚みが1mm以上のものである。そして、特許文献2に開示されたグリーンシートは、有機溶媒を用いるため、環境面に問題がある。
【0006】
ここに開示される技術は、かかる点を鑑みて創出されたもので、水系原料を用いて形成された、緻密性が高く、従来よりも成形性に優れる薄膜のグリーンシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示されるグリーンシートの好ましい一態様では、レーザー回折法による平均粒子径(D50)が1μm以下であるセラミック粒子と、有機バインダと、アニオン系分散剤と、可塑剤と、を含む。そして、加熱乾燥式水分計により測定される水分量が0.8%以上10%以下である。また、マイクロメータによって測定される平均シート厚みが1mm以下である。
【0008】
上記構成によると、グリーンシートの組成および水分量を適正化することにより、空隙や厚みムラを抑えた、緻密性が高く、良好な成形性を持つグリーンシートが得られる。さらに、平均シート厚みを適正化することにより、上記の効果を持つ厚さが1mm以下の、所望の薄膜グリーンシートを得られる。
【0009】
ここに開示されるグリーンシートの好ましい一態様では、上記水分量が1%以上3%以下である。かかる構成によると、空隙や厚みムラをより抑えたグリーンシートが提供される。
【0010】
ここに開示されるグリーンシートの好ましい一態様では、マイクロメータによって測定される平均シート厚みが0.2mm以上0.6mm以下である。かかる構成によると、より薄膜のグリーンシートが提供される。
【0011】
ここに開示されるグリーンシートの好ましい一態様では、上記セラミック粒子として、窒化ケイ素粒子を含む。かかる構成によると、熱伝導性に優れ、熱膨張係数が非常に小さいグリーンシートが提供される。
【0012】
ここに開示されるグリーンシートの好ましい一態様では、上記セラミック粒子を100質量部とした場合、上記アニオン系分散剤、有機バインダ、および可塑剤の含有率が、以下のとおり:
有機バインダ 8~35質量部;
アニオン系分散剤 0.1~0.7質量部;および
可塑剤 1~8質量部;
である。かかる構成によると、上記原料の配合率を適正化することにより、空隙や厚みムラを更に抑制したグリーンシートが提供を可能とする。
【0013】
ここに開示されるグリーンシートの好ましい一態様では、マイクロメータによって計測されるシート厚みムラが10μm以下である。かかる構成によると、熱伝導性が均一なグリーンシートの提供を可能とする。
【0014】
ここに開示されるグリーンシートの好ましい一態様では、SEMによる断面観察に基づく空隙の最大長さが5μm以下である。かかる構成によると、グリーンシートに対してより高い緻密性を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】ロールコンパクション法による、グリーンシート成形の形態を模式的に示した図である。
【
図2】一実施例に係るグリーンシートを放熱基板として使用した場合の、パワーモジュールの構成を模式的に示す断面図である。
【
図3】一実施例に係るグリーンシートの断面をSEM(走査型電子顕微鏡)によって観察したときの画像(1000倍)である。
【
図4】一比較例に係るグリーンシートの断面をSEMによって観察したときの画像(1000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、ここに開示される技術の実施形態について説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって上記技術の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。上記技術は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明し、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
【0017】
[グリーンシートの構成]
ここで開示されるグリーンシートは、未焼成のシート状構造体であり、セラミック粒子と、有機バインダと、アニオン系分散剤と、可塑剤と、を含む。このグリーンシートは、典型的には、上記の材料を含む造粒粉末を圧縮成形(例えば後述のロールコンパクション成形機を用いた圧延方法等)することによって得られる圧縮成形体である。
【0018】
ここで開示されるグリーンシートは、セラミック粒子を含む。セラミック粒子の平均粒子径(D50)は、成形性の観点より1μm以下であることが好ましい。なお、本明細書において「平均粒子径(D50)」とは、体積基準の粒度分布測定(例えば、レーザー回折法)によって測定された粒子径であって、微粒子側から累積50%に相当する粒子径(50%体積平均粒径)をいう。
【0019】
ここで開示されるセラミック粒子としては、例えば、窒化ケイ素(シリコンナイトライド:Si3N4)、窒化アルミニウム(アルミナイトライド:AlN)、窒化ホウ素(ボロンナイトライド:BN)等の窒化物系材料;酸化ジルコニウム(ジルコニア:ZrO2)、酸化マグネシウム(マグネシア:MgO)、酸化アルミニウム(アルミナ:Al2O3)、二酸化ケイ素(シリカ:SiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(チタニア:TiO2)等の酸化物系材料;コーディエライト(2MgO・2Al2O3・5SiO2)、ムライト(3Al2O3・2SiO2)、フォルステライト(2MgO・SiO2)、ステアタイト(MgO・SiO2)、サイアロン(Si3N4-AlN-Al2O3)、ジルコン(ZrO2・SiO2)、フェライト(M2O・Fe2O3)等の複合酸化物系材料;炭化ケイ素(シリコンカーバイド:SiC)、炭化ホウ素(ボロンカーバイド:B4C)等の炭化物系材料;などが挙げられる。上記セラミック粒子は1種を単独で含んでもよいし、2種以上の混合物として、あるいは2種以上を複合化した複合体として含んでもよい。
【0020】
上記セラミック粒子として好適に選択されるものとして窒化物系セラミック、その中でも特に窒化ケイ素が挙げられる。窒化ケイ素は、他のセラミック粒子と比較して熱伝導性に優れ、熱膨張係数が非常に小さく、さらに強度が非常に高いことから、放熱基板用途としての薄膜のグリーンシートを得るうえで好適である。
【0021】
ここで開示されるグリーンシートは、アニオン系分散剤を含む。分散剤はセラミック粒子に濡れ性を付与し、かかる効果により、粒子表面上の気体と液体を置換する効果を持つ。さらにセラミック粒子に付着した分散剤は、該分散剤のもつ立体障害や静電反発効果により、粒子同士の接近を防ぐことで分散体を安定化、換言すればセラミック粒子の表面を改質させる効果を持つ。特に、アニオン系分散剤は、セラミック粒子への吸着性が大きいため、より効率的な分散効果が期待できる。
【0022】
ここで開示されるアニオン系分散剤の含有率は、使用する分散剤の種類によって異なるが、例えば、上記セラミック粒子を100質量部とした場合、0.1~0.7質量部程度が好ましく、0.2~0.6質量部程度がより好ましい。
【0023】
アニオン系分散剤としては、特には限定されないが、例えば、カルボン酸構造、リン酸構造、スルホン酸構造などが好適に用いられる。
【0024】
アニオン系分散剤の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、例えば200~25000程度が好ましく、400~25000程度がより好ましい。また、上記重量平均分子量は、ゲルクロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography:GPC)によって測定し、標準ポリスチレン検量線を用いて換算した重量基準の平均分子量を採用し得る。あるいは、メーカーの公称値を採用してもよい。
【0025】
ここで開示されるグリーンシートは、有機バインダを含む。有機バインダは、セラミック粒子およびその他のグリーンシートの構成材料を結着する成分である。有機バインダとしては、グリーンシートを乾燥させるための加熱処理(典型的には、100℃~200℃の加熱処理)によっては分解されず、かつ、脱バインダ処理(典型的には、200℃超過600℃以下程度の加熱処理)や600℃超過(例えば1500℃~2500℃)での焼成工程によって分解除去し易いものを好ましく用いることができる。
【0026】
有機バインダの含有率は、使用する有機バインダの種類によって異なるが、例えば、上記セラミック粒子を100質量部とした場合、8~35質量部程度が好ましく、20~30質量部程度がより好ましい。
【0027】
有機バインダとしては、特に限定されないが、上記溶媒の性質より、水溶性有機バインダを好ましく用いることができる。水溶性有機バインダとしては、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、アルギン酸、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
ここで開示されるグリーンシートは、可塑剤を含む。可塑剤は、主として上記の有機バインダを構成するポリマーの分子間に浸透してポリマーの分子間力を弱め、それぞれの分子鎖を動きやすくすることによって、ポリマーが規則正しく配向するのを阻害する。このことにより、可塑剤は、ポリマーに柔軟性を付与する機能を有する化合物である。ロールコンパクション成形に際しては、可塑剤によりポリマーの弾性が増すことにより、成形後のシートをロールから外しやすくなる等の成形性の向上がみられる点においても好ましい。可塑剤としては、乾燥処理(典型的には、100℃以上200℃以下程度の加熱処理)によっては分解されず、かつ、脱バインダ処理(典型的には、200℃超過600℃以下程度の加熱処理)や600℃超過(例えば1500℃~2500℃)での焼成工程によって分解除去され易いものを好ましく用いることができる。
【0029】
可塑剤の含有率は、使用する可塑剤の種類によって異なるが、例えば、上記セラミック粒子を100質量部とした場合、1~8質量部程度が好ましく、2~6質量部程度がより好ましい。
【0030】
可塑剤としては、特に限定されないが、グリーンシートの成形性、加工容易性、および緻密性を向上する観点から、グリセリン系可塑剤を好ましく用いることができる。グリセリン系可塑剤は、グリセリン、ポリグリセリン、ポリオキシアルキレングリセリルエーテル、およびポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテルを含む。また、グリセリン系可塑剤は、グリーンシートの保存安定性を向上する観点からも、好ましく使用され得る。
【0031】
分散媒としては、水系溶媒、例えば、イオン交換水(脱イオン水)、純水、超純水、蒸留水等の水を好ましく用いることができる。なお、水系溶媒は、ここで開示される技術の効果を損なわない範囲において、水と均一に混合し得る非水系溶媒(低級アルコール、低級ケトン等)を必要に応じて含有してもよい。この場合、水系溶媒の95vol%以上が水であることが好ましく、99vol%以上が水であることがより好ましい。
【0032】
なお、ここで開示されるグリーンシートは、必要に応じて、消泡剤、離型剤などの添加剤成分を含有してもよい。
【0033】
ここで開示される好適なグリーンシートは、加熱乾燥式水分計により測定される水分量が0.8%以上10%以下含まれる。水分量が0.8%よりも低すぎる場合、造粒粉が乾燥し、グリーンシートとしての成形ができないため好ましくない。一方で、水分量が10%より高すぎる場合、空隙や横割れが生じることにより、厚みムラが増大する虞があるため好ましくない。従って、かかるグリーンシートの水分量は、グリーンシートの成形性の観点から、0.8%以上10%以下が好ましく、1%以上5%以下がより好ましく、1%以上3%以下がさらに好ましい。
ここで、加熱乾燥式水分計は、粉体を含む固体や液体の水分量測定に用いられる測定機器である。測定方法としては、まず、試料皿に試料を乗せ、カバーを閉じる。上記カバー内部には、ハロゲンランプ等の熱源を搭載しており、上部から試料を加熱する役割を持つ。さらに、上記試料皿は電子天秤を搭載しており、試料の秤量の役割を持つ。そして、上記熱源を用いて試料を加熱し、かかる試料の質量変化より、試料の水分量を算出することができる。
【0034】
ここで開示されるグリーンシートは、断面の電子顕微鏡観察下において、長さが5μm以上の空隙および横割れが存在しないことが好ましい。かかる空隙および横割れの不存在は、グリーンシートの熱伝導性を向上する観点から好ましい。例えば以下の実施例に記載されるとおり、グリーンシートの表面に垂直な断面(厚み方向(グリーンシートの面方向に直交する方向をいう。以下同じ。)に沿う断面)を観察できるような試料を用意して、該断面を走査型電子顕微鏡(Scannning Electron Microscope:SEM)を用いて観察し、上記空隙の存在の有無を確認するとよい。SEMの観察倍率は、特に限定されないが、例えば、1000倍~3000倍程度に設定するとよい。また、特に限定するものではないが、複数(例えば5以上、10以上、15以上、またはそれ以上)の観察視野を無作為に得て、上記空隙の存在の有無を確認するとよい。なお、グリーンシートには、断面の電子顕微鏡観察下において、長さが5μm以上の空隙が存在しない限りは、長さが5μm未満の空隙は存在してもよい。
【0035】
ここで開示されるグリーンシートの厚みムラは、おおよそ10μm以下であることが好ましい。上記厚みムラが、おおよそ10μm以下であるグリーンシートは、換言すれば、熱伝導性が均一かつ成形性が良好といえる。
【0036】
ここで開示されるマイクロメータによって測定されるグリーンシートの平均シート厚みは、1mm以下であり、0.2mm以上0.6mm以下程度が好ましい。
【0037】
[グリーンシートの製造方法]
ここで開示されるグリーンシートの製造方法は特に制限されないものの、好適には、上記の造粒粉末を圧縮成形(例えば一軸圧縮成形、典型的にはロール圧延)することで得ることができる。一例として、
図1に示すロールコンパクション成形機5によって好ましく製造することができる。このロールコンパクション成形機5は、大略的には、貯留タンク1と、一対のロール2と、を備える。貯留タンク1は、造粒粉末1aを貯留する容器である。貯留タンク1はまた、その底部にフィーダー1bを備えており、フィーダー1bの吐出口から一定量の造粒粉末1aを一対のロール2の間に連続的に供給するよう構成されている。フィーダー1bとしては、定量性に優れるものであれば特に限定されず、例えばスクリュー式、振動式、流動式等の各種フィーダーを適宜採用し得る。
【0038】
上記製造方法は、おおまかにいって、原料用意工程、造粒工程、およびシート成形工程を含む。原料用意工程では、グリーンシート10Gの原料として、セラミック粒子、アニオン系分散剤、有機バインダ、可塑剤、および、必要に応じて各種添加剤を含む原料を用意する。これらの構成材料および含有率等については上記のとおりである。
【0039】
造粒工程では、上記原料を用いて造粒粉末1aを作製する。造粒方法は特に限定されず、湿式造粒および乾式造粒のいずれを採用してもよい。造粒方法としては、例えば、転動造粒法、流動層造粒法、撹拌造粒法、圧縮造粒法、押出造粒法、破砕造粒法、スプレードライ法(噴霧造粒法)等が挙げられる。より微細な原料粉末を扱いやすいという観点からは、噴霧造粒法等の湿式造粒法の採用が好ましい。噴霧造粒法では、まず、用意した原料の混合物を調製し、該混合物を分散媒中に分散して、原料スラリーを得る。原料の混合方法は特に限定されず、従来公知の撹拌・混合装置を使用することができる。例えば、ボールミル、ミキサー、ディスパー、ニーダ等を使用することができる。混合物分散媒としては、環境負荷を減らす観点から、例えば水が好適例として挙げられる。次いで、スプレードライ装置を用いて、上記原料スラリーを液的状に噴霧して乾燥させることで、造粒粉末を得ることができる。造粒粉末のサイズは、特に限定されず、例えば10μm以上200μm以下とすることができる。
【0040】
シート成形工程では、上記造粒粉末をシート状に成形する。具体的には、
図1に示されるように、上記造粒工程で得られた造粒粉末1aを、ロールコンパクション成形機5の貯留タンクに投入する。造粒粉末1aは、貯留タンク1の底部のフィーダー1bを通って外部に吐出される。そして、吐出された造粒粉末1aは、一対のロール2の間に供給される。そして、ロール2が回転(
図1中の矢印を参照。)することによって、上記供給された造粒粉末1aが圧縮されることによって、シート状に成形されて、グリーンシート10Gが得られる。ここでの諸条件(ロール間隔等)は、原料の種類等によって異なり得るため、グリーンシート10Gの厚みとして所望される厚みを実現できるように、適宜変更され得る。
【0041】
上記製造方法では、グリーンシートの原料を含む造粒粉末を作製して用いることによって、成形されたグリーンシートにおける原料の分離を抑制することができる。また、セラミック粒子の、グリーンシートの面方向における配向を抑制することができる。そして、グリーンシートにより多くのセラミック粒子を含ませることができる。
【0042】
[グリーンシートの用途]
ここで開示されるグリーンシートの用途は、特に限定されないが、例えば、パワーモジュールを構成する放熱材料として使用することができる。
図2は、グリーンシート10Gの使用例として、パワーモジュール6の構成を模式的に示す断面図である。パワーモジュール6は、典型的には、パワーデバイス7と、放熱基板8と、冷却器9を備える。放熱基板8は、セラミック基板の前駆体としてのグリーンシート10Gの表面(上面)と裏面(下面)にそれぞれ、銅板11a、銅板11bを備えており、それらを焼成(例えば1500~2000℃)することで作られている。なお、かかる構成をもつ放熱基板8は、一般的にDBC(Direct Bonded Copper)基板と呼ばれるものである。そして、放熱基板8の表面(上面)に、パワーデバイス7がはんだ12aにより接合されている。更に、放熱基板8の裏面(下面)には、冷却器9がはんだ12bにより接合されている。
【0043】
かかる構成のパワーモジュール6によると、グリーンシート10Gの空隙や厚みムラを持たない性質によって、放熱基板8の熱伝導性が均一となり、冷却器9への熱伝導が効率よく行われる。その結果、パワーデバイス7の発熱に対して適切に放冷を行うことができる。また、放熱基板8は、上記に例示したDBC基板に限られず、他の基板の誘導体としてグリーンシートを用いることができる。そして、グリーンシート10Gは、放熱基板8の構成部分としてだけではなく、冷却器9に代えて、発熱部品の放熱を行う放熱シートを作製する目的で使用することができる。なお、冷却器9は、例えば放熱フィンや、ヒートシンク、放熱板などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0044】
なお、上記説明では一例として、放熱基板としてのグリーンシートの使用用途について説明したが、グリーンシートの用途はこれに限定されない。例えば、積層セラミックコンデンサ(Multi-Layer Ceramic Capacitor:MLCC)等の、誘電体層の前駆物質である誘電体として使用することもできる。詳述すれば、グリーンシートに、導電性粉末を含む内部電極用の導電性ペーストを印刷して内部電極層を形成し、この内部電極層が印刷されたグリーンシートを多数積層して圧着し、焼成することでMLCCを作製することができる。
【0045】
ここで開示される技術によると、レーザー回折法による平均粒子径(D50)が1μm以下であるセラミック粒子と、有機バインダと、アニオン系分散剤と、可塑剤と、を含み、加熱乾燥式水分計により測定される水分量と平均シート厚みを所定の範囲内とすることで、グリーンシートの緻密性と成形性の向上を実現する。
【実施例0046】
以下、ここに開示される技術に関するいくつかの実施例を説明するが、本技術をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0047】
(実施例1)
原料として、セラミック粒子としての窒化ケイ素粉末(Si3N4、平均粒子径0.8μm、CX-L8AW-C、青島瓷興新材料有限公司製)と、有機バインダとしてのアクリル系バインダ(ボンコートCE-1400、DIC株式会社製)と、可塑剤としてのグリセリン(富士フイルム和光純薬株式会社製)と、アニオン系分散剤1としてのカルボン酸構造アニオン系分散剤(BYK-LPC22137、ビックケミージャパン株式会社製)とを、それぞれ、75.7g、20g、2g、0.3gとなるように秤量した。さらに、添加剤として、消泡剤と、離型剤とを、少量添加した。そして、上記原料と、上記添加剤と、原料の総量に対して同質量の水と、玉石とを、共にポットミルに投入し、混合することで原料スラリーを調製した。
【0048】
そしてこの原料スラリーをスプレードライ造粒装置で噴霧乾燥することで、造粒粉を作製した。造粒粉の平均粒子径は、約80μmとなるように噴霧条件を調製した。
【0049】
シート成形前に、上記得られた造粒粉をアルミ皿上に均一になるようにとり、水分量を加熱乾燥式水分計(MX-50、株式会社エー・アンド・デイ製)で測定した。測定条件は、以下のとおりとした。
試料量:1g
加熱方式:ハロゲンランプ
測定温度:100℃
測定精度:0.1%
【0050】
上記得られた造粒粉を用い、ロールコンパクション成形装置を用いて、ロール間隔を0.5mm、成形速度を0.5~1m/分とした条件でシート成形を行い、グリーンシートを作製した。
【0051】
(実施例2)
アニオン系分散剤2として、リン酸構造アニオン系分散剤(DISPERBYK-102、ビックケミージャパン株式会社製)を使用した点以外は実施例1と同様の材料および手順を用いて、実施例2に係るグリーンシートを作製した。
【0052】
(実施例3)
アニオン系分散剤3として、スルホン酸構造アニオン系分散剤(Hypermer KD-20、クローダジャパン株式会社製)を使用した点以外は実施例1と同様の材料および手順を用いて、実施例3に係るグリーンシートを作製した。
【0053】
(比較例1)
分散剤を用いらなかった点以外は実施例1と同様の材料および手順を用いて、比較例1に係るグリーンシートを作製した。
【0054】
(比較例2)
カチオン系分散剤として、カルボン酸構造カチオン系分散剤(DISPERBYK2012、ビックケミージャパン株式会社製)を使用した点以外は実施例1と同様の材料および手順を用いて、比較例2に係るグリーンシートを作製した。
【0055】
(比較例3)
ノニオン系分散剤として、カルボン酸構造ノニオン系分散剤(BYK-LPC22134、ビックケミージャパン株式会社製)を使用した点以外は実施例1と同様の材料および手順を用いて、比較例3に係るグリーンシートを作製した。
【0056】
(実施例4~8、比較例4~6)
加熱乾燥式水分計で測定した水分量を表1の「水分量」欄に記載の通りとしたこと以外は実施例1と同様の材料および手順を用いて、実施例4~8および比較例4~6に係るグリーンシートを作製した。ただし、比較例4では、造粒粉の乾燥によりグリーンシートが成形できなかった。
【0057】
(実施例9、比較例7~8)
有機バインダの添加量を表1の「有機バインダ」欄に記載の通りとしたこと以外は実施例1と同様の材料および手順を用いて、実施例9および比較例7~8に係るグリーンシートを作製した。
【0058】
(実施例10、比較例9~10)
可塑剤の添加量を表1の「可塑剤」欄に記載の通りとしたこと以外は実施例1と同様の材料および手順を用いて、実施例10および比較例9~10に係るグリーンシートを作製した。
【0059】
[グリーンシートの評価]
上記得られた、実施例1~10、比較例1~3および5~10のグリーンシートに対し、以下に示す物性評価を行った。なお、比較例4ではグリーンシートが得られなかったため、評価は実施せず、表1にて「-」で示した。
【0060】
(グリーンシートの空隙評価)
各例で得られたグリーンシートを、厚さ方向に切断した。そして、垂直な断面(厚み方向に沿う断面)に対して、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)による、観察倍率が約1000倍の断面SEM像を10点用意した。そしてこの断面SEM像を観察及び画像解析することで、空隙評価を行った。なお、断面上に見られた空隙が5μm未満のグリーンシートは「◎」と評価し、5μm以上10μm未満の空隙がみられたグリーンシートは「〇」、10μm以上の空隙あるいは横割れがみられたグリーンシートは「×」と評価し、表1の「空隙」の欄に結果を記した。また、一実施例における断面をSEMによって観察したときの画像を
図3に、一比較例における断面をSEMによって観察したときの画像を
図4に示した。
【0061】
(グリーンシートの厚みムラ評価、平均シート厚み)
得られたグリーンシートに対し、デジタル電子マイクロメータ(株式会社ミツトヨ製)を用いて50点以上の厚みを測定した。上記得られたシート面内中の厚みのうち、最大値と最小値の差を厚みムラ、平均値を平均シート厚みとした。併せて、下記の指標で厚みムラの評価を行い、表1の「平均シート厚み」の欄に平均シート厚みの値を、「厚みムラ」の欄に厚みムラの結果を記した。
「◎」:厚みムラが5μm以下である。
「〇」:厚みムラが5μmを超えて、10μm未満である。
「×」:厚みムラが10μm以上である。
【0062】
(総合評価)
上記空隙、厚みムラの評価結果に基づき、下記の指標で総合評価を行い、表1の「総合評価」の欄に記した。
「◎」:空隙が「◎」かつ、厚みムラが「◎」である。
「〇」:空隙が「◎」かつ、厚みムラが「〇」である。
「×」:空隙が「〇」あるいは「×」、または、厚みムラが「×」である。
【0063】
【0064】
表1に示すように、実施例1~3では、アニオン系分散剤を分散剤として選択したことで、空隙と厚みムラのいずれも抑えたグリーンシートを得ることができた。これによって、分散剤として、アニオン系ならば、カルボン酸構造アニオン系分散剤に限定されず、他の構造をとる分散剤を用いても同様の効果が得られることが分かる。
【0065】
また、水分量の観点からみると、実施例4~8で空隙と厚みムラのいずれも抑えたグリーンシートを得ることができたことから、ここに開示される技術におけるグリーンシートの水分量は0.8~10%が好適であることが分かる。さらに、実施例5~6、加えて実施例1では、得られたグリーンシートの厚みムラが5μm以下であったことから、かかるグリーンシートのより好適な水分量は、1~3%であることが分かる。
【0066】
次に、有機バインダの観点から見ると、実施例1、9は、いずれも空隙も厚みムラも良好なシートを得られた。このことから、有機バインダの含有率は、セラミック粒子を100質量部とした場合8~35質量部が好適であることが分かる。
【0067】
可塑剤の観点から見ると、実施例1、10は、いずれも空隙も厚みムラも良好なシートを得られた。このことから、可塑剤の含有率は、セラミック粒子を100質量部とした場合1~8質量部が好適であることが分かる。
【0068】
以上、ここに開示される技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例に対し、各種パラメータ等の変更を施したものも含まれる。