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特開2023-1506003-ヒドロキシ酪酸のマグネシウム塩の結晶体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150600
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】3-ヒドロキシ酪酸のマグネシウム塩の結晶体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 59/01 20060101AFI20231005BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20231005BHJP
   C07C 51/43 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C07C59/01 CSP
A23L33/10
C07C51/43
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059795
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】杉本 雅行
【テーマコード(参考)】
4B018
4H006
【Fターム(参考)】
4B018MD09
4B018ME01
4B018ME14
4H006AA01
4H006AA02
4H006AA03
4H006AB10
4H006AD15
4H006BC51
4H006BN10
4H006BS10
4H006BS70
(57)【要約】
【課題】潮解せず、吸湿性が抑制された3-ヒドロキシ酪酸のマグネシウム塩の結晶体及びその製造方法、並びに吸湿性の抑制方法を提供する。
【解決手段】本発明は3-ヒドロキシ酪酸のマグネシウム塩の結晶体を包含する。この結晶体は、粉末X線回折パターンにおいて、回折角度2θ=9.8°±0.2°,10.1°±0.2°,17.8°±0.2°に回折ピークを有する。前記結晶体は、さらに、回折角度2θ=16.8°±0.2°,18.4°±0.2°,19.7°±0.2°に回折ピークを有していてもよい。また、前記結晶体は、21.5°±0.2°の回折角度2θに回折ピークを有していてもよい。前記結晶体は、非晶質の3-ヒドロキシ酪酸のマグネシウム塩を160~250℃で加熱して製造できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3-ヒドロキシ酪酸のマグネシウム塩の結晶体。
【請求項2】
3-ヒドロキシ酪酸のマグネシウム塩の結晶体であって、粉末X線回折パターンにおいて、回折角度2θ=9.8°±0.2°,10.1°±0.2°,17.8°±0.2°に回折ピークを有する請求項1記載の結晶体。
【請求項3】
さらに、回折角度2θ=16.8°±0.2°,18.4°±0.2°,19.7°±0.2°に回折ピークを有する請求項1又は2記載の結晶体。
【請求項4】
回折角度2θ=21.5°±0.2°に回折ピークを有する請求項1~3のいずれかに記載の結晶体。
【請求項5】
窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分の条件で測定したとき、熱重量示差走査熱分析(TG-DTA)において、融点を示さず;発熱ピークを示し、前記発熱ピークのピーク温度が180~186℃である請求項1~4のいずれかに記載の結晶体。
【請求項6】
3-ヒドロキシ酪酸が、(R)-3-ヒドロキシ酪酸である請求項1~5のいずれかに記載の結晶体。
【請求項7】
非晶質の3-ヒドロキシ酪酸のマグネシウム塩を160~250℃で加熱し、請求項1~6のいずれかに記載の3-ヒドロキシ酪酸のマグネシウム塩の結晶体を製造する方法。
【請求項8】
175~220℃で加熱する請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1~6のいずれかに記載の3-ヒドロキシ酪酸のマグネシウム塩の結晶体を含む経口組成物。
【請求項10】
3-ヒドロキシ酪酸のマグネシウム塩の吸湿性を抑制する方法であって、非晶質の3-ヒドロキシ酪酸のマグネシウム塩を160~250℃で加熱し、請求項1~6のいずれかに記載の結晶体を生成させ、3-ヒドロキシ酪酸のマグネシウム塩の吸湿性を抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3-ヒドロキシ酪酸(3-ヒドロキシブタン酸又は3HB)のマグネシウム(Mg)塩の結晶体及びその製造方法、並びに3HBのMg塩の吸湿性を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3-ヒドロキシ酪酸(3HB)又はその塩は、本来、人の体内に存在する物質であり、糖質に代わる画期的なエネルギー源として期待されている。3HBは、ココナッツオイルや母乳等に含まれる中鎖脂肪酸(MCT)を摂取することにより、代謝されて血中に取り込まれ、解糖系を経由する糖質よりも速やかに効率よくエネルギーに変換される。
【0003】
また、3HBは、単なるエネルギー源という役割だけでなく、脂肪や糖が細胞に吸収されるのを抑制する作用や、認知機能や長期持続記憶機能の改善(又は向上)、及びアルツハイマー病の予防にも有効であることが確認されており、アスリート向けのエネルギー物質、ダイエット・健康補助食品(サプリメント)分野への応用が期待されている。
【0004】
このように3HB(又はその塩)は、様々な分野で注目されているものの、3HBは、酸の状態での取扱いが難しいため、通常、中和塩(中和反応により生成する塩)の粉末の形態で提供されている。前記塩としては、ミネラルとして人体の摂取許容量が大きいナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などが挙げられる。しかし、これらの塩はいずれも吸湿性が高いため、多湿な環境下での取扱性(又は保存安定性)に劣り、例えば、健康補助食品(サプリメント)などの長期保存安定性が求められる用途では、開封後の保存方法が大きな課題となる。
【0005】
3HB又はその塩の固体状態での取扱性を改善する手段として、特開2021-185799号公報(特許文献1)には、3-ヒドロキシ酪酸及び/又はその塩と、所定の油脂粒子とを含む3-ヒドロキシ酪酸含有油脂組成物が開示されている。
【0006】
特許文献1には、3HBの塩の形態としてMg塩が例示されており、段落[0019]には、3HBの形状は固体であることが好ましいことが記載されているが、3HBのMg塩の形態については記載されていない。
【0007】
そして、特許文献1では、3HBと所定の油脂粒子とを組み合わせることにより、3HBの潮解を抑制することが記載されており、3HB(又はその塩)単独では吸湿性(又は保存安定性)が懸念される。
【0008】
しかも、特許文献1のように、所定の油脂粒子を含むと、3HBを含む単位組成物(又は摂取単位)中の3HB(又はその塩)の含有量が減少し、摂取効率が低下するだけでなく、エネルギー物質、ダイエット・健康補助食品といったヘルシー志向が求められる用途では、油脂成分の摂取過多の虞があり、実用的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2021-185799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、潮解せず、吸湿性が抑制された3-ヒドロキシ酪酸のマグネシウム塩の結晶体及びその製造方法、並びに吸湿性の抑制方法を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、高湿度下であっても、潮解することなく吸湿性を抑制でき、長期に亘って安定に保存できるとともに、取扱性に優れる3-ヒドロキシ酪酸のマグネシウム塩の結晶体及びその製造方法、並びに吸湿性の抑制方法を提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、簡便に製造でき、吸湿性を抑制できる3-ヒドロキシ酪酸のマグネシウム塩の結晶体及びその製造方法、並びに吸湿性の抑制方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、3-ヒドロキシ酪酸は、熱安定性に劣り、熱分解により容易にクロトン酸を生成するため、当初、3HB(又はその塩)を加熱することを想定していなかった。ところが、分解温度について検討するために熱重量-示差熱分析(TG-DTA)を行ったところ、本発明者は、驚くべきことに、非晶質(又はアモルファス)の3HBのMg塩が所定の温度で結晶化して結晶体を形成することを発見した(図1)。すなわち、本発明者は、3HBが熱に不安定であるという知見に反して、本来ならば、潮解性を有する非晶質の3HBのMg塩を、加熱という簡単な操作だけで結晶化できることを見いだし、本発明を完成させた。
【0014】
なお、Mg塩と類似の性質を有すると思われる3HBのカルシウム塩(Ca塩)もMg塩と同様に非晶質であるが、3HBのCa塩を、同様に所定の温度で加熱しても、溶融したままで結晶化しない。本発明は、3HBのMg塩の特異な挙動を利用して完成したものである。
【0015】
すなわち、本発明は3-ヒドロキシ酪酸のマグネシウム塩の結晶体を包含する。この3-ヒドロキシ酪酸のマグネシウム塩の結晶体は、粉末X線回折パターンにおいて、回折角度2θ=9.8°±0.2°,10.1°±0.2°,17.8°±0.2°に回折ピークを有していてもよい。
【0016】
前記結晶体は、さらに、回折角度2θ=16.8°±0.2°,18.4°±0.2°,19.7°±0.2°に回折ピークを有していてもよい。前記結晶体は、回折角度2θ=21.5°±0.2°に回折ピークを有していてもよい。
【0017】
前記結晶体は、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分の条件で測定したとき、熱重量示差走査熱分析(TG-DTA)において、融点を示さず;発熱ピークを示し、前記発熱ピークのピーク温度が180~186℃程度であってもよい。また、前記結晶体の3-ヒドロキシ酪酸は、(R)-3-ヒドロキシ酪酸であってもよい。
【0018】
本発明の3-ヒドロキシ酪酸のマグネシウム塩の結晶体は、非晶質の3-ヒドロキシ酪酸のマグネシウム塩を160~250℃(特に175~220℃)程度で加熱することにより製造できる。
【0019】
また、本発明は、前記3-ヒドロキシ酪酸のマグネシウム塩の結晶体を含む経口組成物も包含する。
【0020】
さらに、本発明には、3-ヒドロキシ酪酸のマグネシウム塩の吸湿性を抑制する方法であって、非晶質の3-ヒドロキシ酪酸のマグネシウム塩を160~250℃で加熱し、前記結晶体を生成させ、3-ヒドロキシ酪酸のマグネシウム塩の吸湿性を抑制する方法も含まれる。
【0021】
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「3-ヒドロキシ酪酸のマグネシウム塩の結晶体」を単に「結晶体」又は「3HBのMg塩の結晶体」と称する場合があり、「非晶質の3-ヒドロキシ酪酸のマグネシウム塩」を単に「非晶質体」又は「非晶質の3HBのMg塩」と称する場合がある。
【発明の効果】
【0022】
本発明の3-ヒドロキシ酪酸のマグネシウム塩の結晶体は、非晶質である3-ヒドロキシ酪酸のマグネシウム塩を、加熱という簡便な操作で結晶化でき、新規な3-ヒドロキシ酪酸のマグネシウム塩の結晶体を製造できる。このように生成した結晶体は、潮解性を有する非晶質の3-ヒドロキシ酪酸のマグネシウム塩とは大きく異なり、潮解せず、吸湿性が大きく抑制されている。そのため、前記結晶体は、長期に亘って結晶構造を保持して安定に保存(又は保管)でき、比較的高湿度下であっても、長期に亘って安定して結晶構造を保持できる。また、前記結晶体は、結晶体単独で保存でき、取扱性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、3HBのMg塩の熱重量-示差熱分析(TG-DTA)のチャートを示す。
図2図2は、実施例1~2及び比較例1~2で得られた粉末サンプルのXRDスペクトルである。
図3図3は、実施例1で得られた粉末サンプルのHPLCチャート(測定条件1)である。
図4図4は、実施例1で得られた粉末サンプルのHPLCチャート(測定条件2)である。
図5図5は、比較例3~5で得られた粉末サンプルのXRDスペクトルである。
図6図6は、実施例3及び比較例6で得られた粉末サンプルの吸湿による重量変化を示す曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[3HBのMg塩の結晶体]
本発明の3HBのMg塩の結晶体は、新規であり、結晶構造は特に制限されず、回折ピークを粉末X線回折において、回折ピークが確認できればよい。代表的な本発明の3HBのMg塩の結晶体は、粉末X線回折パターンにおいて、特徴的な回折ピークを有する。なお、粉末X線回折パターンは、慣用の粉末X線回折装置を用いて測定でき、例えば、後述する実施例に記載の条件で測定できる。回折ピークを示す回折角度2θは、測定条件及び試料の調製などによって、±0.2°(例えば、±0.1°)程度変動する場合がある。
【0025】
また、通常、粉末X線回折において、結晶体である試料を測定すると、明確な回折ピーク(シャープな回折ピーク)が確認され、非晶質の試料を測定すると、明確な回折ピークは確認されず、幅広い又はブロードなハローパターンが確認される。
【0026】
本発明の3HBのMg塩の結晶体は、粉末X線回折パターンにおいて、結晶体由来(又は結晶体であることを示す)の明確な回折ピークを有しており、回折角度2θ=9.8°±0.2°,10.1°±0.2°,17.8°±0.2°に回折ピークを有している。
【0027】
前記結晶体は、前記回折角度2θに加え、回折角度2θ=16.8°±0.2°,18.4°±0.2°,19.7°±0.2°にもシャープな回折ピークを有していてもよい。
【0028】
さらに、前記結晶体は、回折角度2θ=21.5°±0.2°に回折ピークを有していてもよい。
【0029】
これらの回折ピークにおいて、回折角度2θ=10.1°での回折強度(ピーク面積)が最も大きい。
【0030】
3HBのMg塩の結晶体は、加熱すると、溶融して分解するため、融点を示さない、又は正確な融点を測定することが困難である。すなわち、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分の条件で測定したとき、熱重量示差走査熱分析(TG-DTA)において、前記結晶体は、融点を示さない。
【0031】
また、本発明の結晶体について、非晶質の3HBのMg塩が、所定の温度で結晶化するという知見を得た。すなわち、非晶質(結晶化前)の3HBのMg塩を、熱重量-示差熱分析装置(TG-DTA)((株)リガク製「Thermo plus EV02」)を用い、窒素雰囲気下、測定温度30~500℃、昇温速度10℃/分の条件で測定したところ、図1のチャートのTG曲線に示されるように、重量減少が見られず、DTA曲線に示されるように、発熱ピーク(結晶構造の形成又は結晶化に伴うピーク)が確認でき、粉末X線回折に加え、DTA曲線からも発熱ピークを示す温度付近で、3HBのMg塩の結晶化が起こっていることが示唆された。
【0032】
図1のチャートでの発熱ピークを示す温度(ピーク温度又はピークトップ温度)は、180~186℃程度であり、好ましくは181~185℃、さらに好ましくは182~184℃程度である。
【0033】
本発明の3HBのMg塩の結晶体は、光学異性体(R体又はS体)であってもよく、ラセミ体であってもよいが、生体適合性の点から、R体((R)-3-ヒドロキシ酪酸)を少なくとも含むのが好ましい。また、結晶形成性の点から、3HB中のR体の割合、すなわち光学純度(鏡像体または光学異性体過剰率)は、例えば50%e.e.程度以上(例えば80%e.e.以上)、好ましくは90%e.e.以上(例えば95~100%e.e.)、さらに好ましくは98~100%e.e.(例えば99~100%e.e.、特に実質的に100%e.e.)が好ましい。光学純度が低すぎると結晶性が低下するおそれがある。また、本発明において、例えば、光学異性体(R体又はS体)のいずれか一方の異性体(例えばR体)を必要とする用途(例えば健康補助食品など)では、3HBの光学純度が低いと、摂取量(又は投与量)を、所望の異性体(例えばR体)の量に合わせる必要があり、全体としてより多くの3HBの塩が必要となり、ミネラル成分の摂取が過剰になる虞がある。
【0034】
前記結晶体の形態は、粉状又は粒状(又は粒子状)であってもよい。前記結晶体の粒子径は、例えば0.1~1000μm、好ましくは0.5~500μm、さらに好ましくは1~100μm程度である。前記粒子径は、動的光散乱法などの方法で測定できる。
【0035】
[3HBのMg塩の結晶体の製造方法]
化合物を結晶化する方法には、溶液に対し、溶質の貧溶媒を添加して晶析する方法、乾燥、濃縮などにより溶媒を除去する方法などの汎用の方法が知られており、溶液を冷却(急冷又は徐冷)する方法も主要な結晶化方法として周知されている。しかし、本発明では、意外にも、非晶質の3HBのMg塩を、所定の温度で加熱することにより、3HBのMg塩の結晶体を生成することができる。
【0036】
本発明の3HBのMg塩を形成する3HBは、光学異性体(R体又はS体)であってもよく、ラセミ体であってもよいが、生体適合性の点から、R体((R)-3-ヒドロキシ酪酸)を少なくとも含むのが好ましい。また、結晶形成性の点から、3HB中のR体の割合、すなわち光学純度(鏡像体または光学異性体過剰率)は、例えば50%e.e.程度以上(例えば80%e.e.以上)、好ましくは90%e.e.以上(例えば95~100%e.e.)、さらに好ましくは98~100%e.e.(例えば99~100%e.e.、特に実質的に100%e.e.)が好ましい。光学純度が低すぎると結晶性が低下するおそれがある。
【0037】
なお、3HB又はその塩は、市販品を用いてもよく、バイオマス原料(生物由来の資源)を利用してもよい。
【0038】
非晶質の3HBのMg塩(非晶質体)の加熱温度は、結晶化方法に応じて、例えば150~250℃、好ましくは155~230℃、さらに好ましくは160~220℃であってもよい。
【0039】
非晶質の3HBのMg塩(非晶質体)を加熱する温度は、結晶化効率の点から、160~250℃程度から適宜選択でき、好ましくは170℃以上(例えば173~230℃程度)、さらに好ましくは175~220℃、より好ましくは178~215℃(特に180~210℃)程度であってもよい。
【0040】
なお、非晶質の3HBのMg塩に、3HBのMg塩の結晶体(又は種結晶)を添加して結晶化すると、添加した結晶体が種晶として作用するためか、非晶質の3HBのMg塩のみで結晶化させる場合よりも、加熱温度が低くても結晶構造を形成できる。前記結晶体を添加する場合の加熱温度は、例えば150~230℃、好ましくは155~210℃、さらに好ましくは160~200℃程度であってもよい。
【0041】
種晶として添加する前記結晶体の割合は、非晶質の3HBのMg塩が結晶を形成可能であれば特に制限されないが、例えば、前記非晶質体100質量部に対して、5~200質量部、好ましくは20~150質量部、さらに好ましくは30~120質量部程度である。
【0042】
加熱雰囲気は、空気中、又は窒素ガスや希ガスなどの不活性雰囲気中で行ってもよい。
【0043】
加熱時間は、前記非晶質体が、結晶構造を形成できる限り特に制限されず、例えば30秒~5時間、好ましくは1分~2時間、さらに好ましくは3分~1時間(例えば5~30分)程度であってもよい。
【0044】
また、加熱操作は、所望の加熱温度を保持している合計時間が前記加熱時間を満たす範囲であれば断続的に行ってもよいが、秩序ある結晶構造を形成する点から連続的に行うのが好ましい。
【0045】
さらに、本発明では、非晶質の3HBのMg塩を、粉末(又は粉体)の状態で加熱しても結晶化でき、作業工程が極めて簡便であるため、ロスが少なく、効率よく結晶化できる。
【0046】
なお、前記非晶質体を溶媒に溶解して溶液状態で加熱してもよい。しかし、溶媒を除去する必要があり、粉末(又は粉体)状態で加熱する場合よりも高い加熱温度及び/又は長い加熱時間を要する虞がある。
【0047】
このように生成した3HBのMg塩の結晶体は、通常、潮解性を有する非晶質の3HBのMg塩に比べて吸湿性を大きく抑制できる。
【0048】
例えば、3HBのMg塩の非晶質体及び結晶体を25℃、40%RH下で24時間保存したとき、結晶体の吸湿重量(吸湿量)と非晶質体の吸湿重量との割合は、前者/後者=1/10~1/2、好ましくは1/8~1/2.5、さらに好ましくは1/6~1/3程度である。本発明の結晶体は、吸湿性を抑制でき、長期に亘って安定に保存できるとともに、取扱性に優れる。また、高湿度下であっても有効に吸湿性を抑制でき、長期安定性に優れる。
【0049】
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、吸湿量は、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0050】
また、本発明の結晶体は、長期に亘って保存していても、結晶構造が崩壊したり、3HBのMg塩自体が分解したり構造が変化することなく安定である。すなわち、不活性ガス(窒素ガスなど)の雰囲気及び空気中、25℃、40%RH下で24時間保存したとき、3HB(又はそのMg塩)が結晶構造を保持していることをHPLC分析で確認できる。
【0051】
得られる3HBのMg塩のHPLC純度は、例えば75%以上であってもよく、好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、なかでも95%以上、特に98%以上である。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、HPLC純度は、HPLC分析で得られるピーク面積のデータの比較から汎用の方法で算出できる。
【0052】
さらに、本発明の結晶体は、加熱するという極めて簡便な方法で製造できるため、製造過程でのロスを削減でき、高収率で製造できる。前記収率は、例えば70%以上、好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。
【0053】
[用途及び経口組成物]
本発明には、前記結晶体を含む経口組成物(例えば、健康補助食品(サプリメントなど)などの食品や医薬品)も包含する。この経口組成物は、室温で固体であり、3HBのMg塩を安定に含有している。前記結晶体は、上述の通り、3HBがエネルギー源の役割があることに加え、脂肪や糖が細胞に吸収されるのを抑制する作用や、認知機能や長期持続記憶機能の改善(又は向上)、及びアルツハイマー病の予防にも有効であるため、結晶体単独で使用してもよく、担体(又は他の成分)と組み合わせて経口組成物の形態で使用してもよい。前記経口組成物は、粉剤又は粉末状、粒剤又は粒子状(顆粒剤、細粒剤など)、錠剤、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤など)などの形態であってもよい。
【0054】
[担体]
担体は、経口組成物の用途、形態などに応じて選択でき、健康補助食品などの食品分野で利用される慣用の担体、医薬品(又は医薬組成物)分野で利用される慣用の担体を含んでいてもよい。
【0055】
健康補助食品、機能性食品などの食品の分野において、代表的な前記担体には、蛋白質、糖類、油脂類などが挙げられる。
【0056】
(蛋白質)
蛋白質(又はプロテイン)は、植物性蛋白質、動物性蛋白質のいずれであってもよい。
【0057】
植物性蛋白質としては、米、小麦、大豆、野菜や果物などに含まれる蛋白質が挙げられる。
【0058】
動物性蛋白質には、肉類、魚介類、卵、乳製品などに含まれる蛋白質が含まれる。
【0059】
これらの蛋白質(又はプロテイン)は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0060】
本発明の結晶体は、ダイエット・健康食品や、筋肉トレーニングの目的で摂取される経口組成物として利用される場合、蛋白質、特に、体内で合成できない必須アミノ酸(又は不可欠アミノ酸)又は必須アミノ酸を含む蛋白質を組み合わせるのが好ましい。
【0061】
蛋白質の割合は、前記結晶体100質量部に対して50質量部以下、好ましくは30質量部以下(例えば0.1~30質量部)、さらに好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下であり、蛋白質を実質的に含んでいなくてもよい。
【0062】
(糖類)
糖類としては、例えば、アラビノース、キシロースなどのペントース;ブドウ糖(グルコース)、果糖(フルクトース)、ガラクトース、マンノース、ソルボースなどのヘキソース、プシコースに代表される希少糖、蜂蜜などの単糖;ショ糖(例えば、白糖や精製白糖、粉糖、グラニュー糖、きび糖、黒糖、三温糖など)、乳糖(ラクトース)、異性化乳糖(ラクチュロース)、麦芽糖(マルトース)、イソマルトース、トレハロースなどの二糖;マルトトリオース、イソマルトトリオース、パノース、澱粉分解物(デキストリン)などのオリゴ糖(三糖以上のオリゴ糖);キシリトール、エリスリトール、ソルビトール、マンニトール、還元麦芽糖水飴(マルチトール)、還元澱粉糖化物、還元パラチノース、還元乳糖(ラクチトール)などの糖アルコール類などが挙げられる。
【0063】
これらの糖類は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、グルコース、フルクトースなどの単糖、ショ糖(スクロース)、ラクトースなどの二糖が好ましく、ラクトースなどの二糖が特に好ましい。
【0064】
本発明の結晶体は、3HBがエネルギー源としても機能するため、糖類を必須成分としない。そのため、3HBの生理学的又は薬理学的な機能を十分に発現させる観点から、経口組成物中の糖類の含有量を抑制し、前記結晶体の含量を高めるのが好ましい。
【0065】
糖類の割合は、前記結晶体100質量部に対して100質量部以下であってもよく、好ましくは30質量部以下(例えば0.1~30質量部)、さらに好ましくは10質量部以下、より好ましくは1質量部以下であり、糖類を実質的に含んでいなくてもよく、含んでいないのが特に好ましい。
【0066】
(油脂類)
油脂類は、食用油脂であれば特に限定されず、植物性油脂、動物性油脂、加工油脂のいずれであってもよい。
【0067】
植物性油脂としては、例えば、大豆油、綿実油、あまに油、ひまし油、紅花油、米油、胚芽米油、コーン油、ゴマ油、向日葵油、米糖油、キャノーラ油などの菜種油、落花生油、パーム核油、オリーブ油、グレープシード油などの植物油(サラダ油、白絞油);ヤシ油、カロチーノ油などのパーム油、カカオ脂などの植物脂(植物脂肪)などが挙げられる。
【0068】
動物性油脂としては、例えば、バター、牛脂、乳脂肪、豚脂(ラード)、魚油などの動物脂が挙げられる。
【0069】
加工油脂としては、例えば、マーガリン、ショートニング、ステアリン酸トリグリセリドなどの中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)などが挙げられる。
【0070】
これらの油脂類は、分別油、エステル交換油、水素添加油であってもよい。これらの油脂類は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0071】
本発明の結晶体は、ダイエット・健康食品や、筋肉トレーニングの目的で摂取される経口組成物として利用される場合、油脂類の摂取は抑制される傾向が強いため、油脂類の含有量は少ない方が好ましい。
【0072】
油脂類の割合は、前記結晶体100質量部に対して30質量部以下、好ましくは20質量部以下(例えば0.1~20質量部)、さらに好ましくは10質量部以下、より好ましくは1質量部以下であり、油脂類を実質的に含んでいなくてもよく、含んでいないのが特に好ましい。
【0073】
また、本発明の結晶体は、医薬品(又は医薬組成物)分野で利用される慣用の担体を含んでいてもよい。医薬品(又は医薬組成物)の担体は、例えば、第十八改正日本薬局方(局方)の他、(1)医薬品添加物ハンドブック、日本医薬添加剤協会(2007)、(2)「医薬品添加物事典2016」((株)薬事日報社、2016年2月発行)及び(3)医薬品添加物規格2018((株)薬事日報社、2018年7月)などに収載されている成分の中から、投与経路及び製剤用途に応じて選択できる。医薬品を形成する代表的な担体は、具体的に、賦形剤[糖類又は糖アルコール類(乳糖などの前記[担体]の項に記載の糖類又は糖アルコール類など)、デンプン類(トウモロコシデンプンなど)、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸、二酸化ケイ素、含水二酸化ケイ素などの酸化ケイ素類、油脂類(大豆油、綿実油などの前記[担体]の項に記載の油脂類など];結合剤[ポリビニルピロリドン(PVP、ポビドン)などのポリビニルピロリドン系ポリマー、エチルセルロース(EC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)などのセルロースエーテル類など];崩壊剤[糖類又は糖アルコール類(乳糖などの前記[担体]の項に記載の糖類又は糖アルコール類など)、可溶性デンプン(アルファー化デンプンなど)、クロスポビドンなどのポリビニルピロリドン系ポリマー、低置換度カルボキシメチルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースなど]などが例示できる。これらの担体は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0074】
前記担体の割合(合計割合)は、前記結晶体1質量部に対して0.01~100質量部程度の範囲から選択でき、例えば0.1~50質量部、好ましくは1~30質量部程度であってもよい。
【0075】
[添加剤]
本発明の経口組成物は、ダイエット・健康補助食品分野で利用される慣用の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0076】
慣用の添加剤としては、例えば、ケトンエステル類(例えば、3HBと1,3-ブタンジオールとのケトンエステルなど)、ビタミン類(例えば、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンB、ビタミンB、ビタミンB、ビタミンC、ビタミンB12など)、食物繊維(例えば、小麦ふすま、コーンふすま、オーツブラン、コーンファイバー、大豆食物繊維、ビートファイバー、結晶セルロース、寒天、キトサン、キチン、ヘミセルロース、リグニン、グルカンなど)、非糖質甘味料(例えば、ステビア、カンゾウ、アマチャなどの天然甘味料;サッカリン、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、ネオテームなどの人工甘味料など)、着香料(メントール、バニラビーンズ、オレンジなどの果汁、レモンライム、レモンピールなど)、着色料(食用黄色5号、食用赤色2号、食用青色2号などの食用色素;食用レーキ色素;ベンガラなど)、調味料、膨張剤または発泡剤(重曹など)、増粘安定剤または保水乳化安定剤(ペクチン、セルロースなどの増粘多糖類など)、pH調整剤(重曹、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カリウムなどの無機塩など)、強化パウダー、保存料(防腐剤、抗菌剤など)、消泡剤、乳化剤、酸化防止剤、光安定剤、醸造用剤などが挙げられる。これらの添加剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0077】
慣用の添加剤の割合(合計割合)は、前記結晶体100質量部に対して0.01~50質量部程度の範囲から選択でき、例えば0.01~10質量部、好ましくは0.1~5質量部、さらに好ましくは0.2~3質量部である。
【実施例0078】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、原料及び評価方法について下記に示す。
【0079】
[原料]
下記実施例又は比較例で使用するR-3-ヒドロキシ酪酸((R)-3HB)は、特開2019-176839号公報の実施例1に記載された方法に従って製造した(R)-3-ヒドロキシ酪酸水溶液を、70℃に設定したエバポレーターで水分が出なくなるまで濃縮し、濃縮液の重量に対して30質量%の酢酸エチルと(R)-3HBの種結晶を入れて4℃に一晩放置した後、濾別、乾燥して用いた。
【0080】
[評価方法]
(粉末X線回折)
X線回折装置(XRD)((株)リガク製「SmartLab」)を用いて、X線管球:CuKα、管電圧:40kV、管電流:30mA、検出器:D/tex ultra 250、測定角5~90°の条件で測定した。
【0081】
(熱重量示差熱分析)
熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)((株)リガク製「Thermo plus EV02」)を用い、窒素雰囲気下、測定温度30~500℃、昇温速度10℃/分の条件で測定した。
【0082】
(HPLC)(HPLC純度を確認するための測定条件1)
高速液体クロマトグラフィHPLC装置((株)島津製作所製「Prominence」)、カラム((株)島津製作所製「Shim-pack SCR-102H」(粒子径7μm、内径8.0mm×長さ300mm))
検出方法:電気伝導度
カラム温度:40℃
移動相A:5mmol/L p-トルエンスルホン酸
反応相B:5mmol/L p-トルエンスルホン酸、20mmol/L Bis-Tris、100μmol/L EDTA
流量:0.8mL/分(移動相A)
流量:0.8mL/分(反応相B)
定量法:面積百分率法。
【0083】
(3HBのMg塩の吸湿量及び重量変化)
非晶質の3HBのMg塩を所定の恒温恒湿条件下で所定時間保存し、保存前後の重量を測定し、以下の式に基づいて、3HBのMg塩の吸湿量及び重量変化を評価した。
【0084】
3HBのMg塩の吸湿量=(保存後の重量)-(保存前の重量)
3HBのMg塩の重量変化(%)=100×(3HBのMg塩の吸湿量)/(保存前の重量)。
【0085】
[比較例1]
R-3-ヒドロキシ酪酸((R)-3HB)100gと蒸留水300gとをビーカーに入れて混合し、(R)-3HB水溶液を調製した。この水溶液に、pHが9.0になる量的割合で酸化マグネシウム(約19.3g)を添加した後、水溶液の全量が500mLになるように蒸留水を加えた。これをスプレードライヤー(日本ビュッヒ(株)製「Mini Spray Dryer B-290」(入口温度160℃、出口温度80℃))にて乾燥し、(R)-3HBのMg塩の粉末サンプルを得た。得られたサンプルの粉末X線回折パターンを図2に示す。粉末X線回折パターンから、結晶に由来するパターンは検出されず、非晶質に特徴的なハローパターンのみが観測された。
【0086】
なお、得られた3HBのMg塩の粉末サンプルを純水で1000倍に希釈して、HPLC分析(測定条件1)したところ、単一のピークが確認でき、高純度の3HBのMg塩が生成していた。
【0087】
[比較例2]
比較例1で得られた粉末サンプルを120℃で10分保持した後、粉末X線回折を行った。得られた粉末X線回折パターンを図2に示す。粉末X線回折パターンから、結晶に由来するパターンは検出されず、非晶質に特徴的なハローパターンのみが観測された。
【0088】
なお、得られた3HBのMg塩の粉末サンプルを純水で1000倍に希釈して、HPLC分析(測定条件1)したところ、単一のピークが確認でき、高純度の3HBのMg塩が生成していた。
【0089】
[実施例1]
比較例1で得られた粉末サンプルを180℃で10分保持した後、粉末X線回折及びHPLC分析(測定条件1)を行った。得られた粉末X線回折パターンを図2に、HPLCのチャートを図3に示す。
【0090】
粉末X線回折パターンから、結晶に由来するパターン(シャープ又は明確なピーク)が以下の回折角度2θに検出され、3HBのMg塩が結晶化していることがわかった。
【0091】
2θ=9.8°、10.1°、16.8°、17.8°、18.4°、19.7°
【0092】
また、HPLC分析では、180℃で10分保持した後の粉体サンプルを、蒸留水で1000倍に希釈して測定したところ、3HBに由来する単一のピークが見られた。
【0093】
すなわち、得られた3HBのMg塩の粉末サンプルを純水で1000倍に希釈して、HPLCで測定条件1の下、分析したところ、図3に示すように単一のピークが確認でき、高純度の3HBのMg塩が生成していた。
【0094】
また、得られた3HBのMg塩の粉末サンプルを、純水で1000倍に希釈して、以下の測定条件2で、光学純度を調べるため、HPLC分析したところ、図4に示すように、3HBのMg塩がR体であることを示す単一ピークが確認でき、得られた3HBのMg塩は、実質的に100%e.e.のR体であった。
【0095】
(HPLC)(光学純度を測定するための測定条件2)
高速液体クロマトグラフィHPLC装置((株)島津製作所製「Prominence」)、カラム(住化分析センター社製「SUMICHIRAL OA-6100」(粒子径5μm、内径4.6mm×長さ250mm)+ガードカラム)
検出方法:UV-Vis(254nm)
カラム温度:25℃
移動相:1mM CuSO水溶液
流量:1.0mL/分
定量法:面積百分率法。
【0096】
[実施例2]
200℃で10分保持する以外は、実施例1と同様に粉末X線回折を行った。得られた粉末X線回折パターンを図2に示す。粉末X線回折パターンから、結晶に由来するパターン(シャープ又は明確なピーク)が以下の回折角度2θに検出され、3HBのMg塩が結晶化していることがわかった。
【0097】
2θ=9.8°、10.1°、16.8°、17.8°、18.4°、19.7°
【0098】
得られた3HBのMg塩の粉末サンプルを純水で1000倍に希釈して、HPLC分析(測定条件1)したところ、単一のピークが確認でき、高純度の3HBのMg塩が生成していた。
【0099】
[比較例3]
R-3-ヒドロキシ酪酸((R)-3HB)10gと蒸留水40gとをビーカーに入れて混合し、(R)-3HB水溶液を調製した。この水溶液に、pHが9.0になる量的割合で酸化マグネシウム(約1.9g)を添加し、80℃に設定したエバポレータで水が出なくなるまで濃縮し、(R)-3HBのMg塩の粉末サンプルを得た。得られたサンプルの粉末X線回折パターンを図5に示す。粉末X線回折パターンから、結晶に由来するパターンは検出されず、非晶質に特徴的なハローパターンのみが観測された。
【0100】
なお、得られた3HBのMg塩の粉末サンプルを純水で1000倍に希釈して、HPLC分析(測定条件1)したところ、単一のピークが確認でき、高純度の3HBのMg塩が生成していた。
【0101】
[比較例4]
R-3-ヒドロキシ酪酸((R)-3HB)10gと蒸留水40gとをビーカーに入れて混合し、(R)-3HB水溶液を調製した。この水溶液に、pHが9.0になる量的割合で酸化マグネシウム(約1.9g)を添加した後、-30℃の冷凍庫に24時間保存し、完全に凍結させた。これを凍結乾燥機(フリーズドライヤー)(東京理化器械(株)製「FREEZEDRYER FD-1」)で24時間凍結乾燥することで(R)-3HBのMg塩の粉末サンプルを得た。得られたサンプルの粉末X線回折パターンを図5に示す。粉末X線回折パターンから、結晶に由来するパターンは検出されず、非晶質に特徴的なハローパターンのみが観測された。
【0102】
なお、得られた3HBのMg塩の粉末サンプルを純水で1000倍に希釈して、HPLC分析(測定条件1)したところ、単一のピークが確認でき、高純度の3HBのMg塩が生成していた。
【0103】
[比較例5]
比較例1で得られた(R)-3HBのMg塩の粉末サンプル9.1gにエタノール36.4gを加え、完全に溶けるまで撹拌した。この内の16.5mLを取り分け、全量が200mLになるように酢酸エチルを加えてスターラーで撹拌した後、濾別し、残ったろ物(又は残渣)を60℃に設定したエバポレータで減圧乾燥した。得られた粉末の粉末X線回折パターンを図5に示す。粉末X線回折パターンから、結晶に由来するパターンは検出されず、非晶質に特徴的なハローパターンのみが観測された。
【0104】
なお、得られた3HBのMg塩の粉末サンプルを純水で1000倍に希釈して、HPLC分析(測定条件1)したところ、単一のピークが確認でき、高純度の3HBのMg塩が生成していた。
【0105】
実施例1~2及び比較例1~5から明らかなように、非晶質の(R)-3HBのMg塩を所定の温度で加熱すると、非晶質体が結晶化した。
【0106】
[実施例3]
実施例1で得られた粉末サンプルを80℃で2時間減圧乾燥した。この粉末サンプル4.36gをシャーレに取り出し、25℃40%RHに保持した恒温恒湿槽に入れた。それぞれ1、2、3、6、24時間後に重量を測定し、吸湿量及び重量変化を評価した。結果を図6に示す。
【0107】
[比較例6]
比較例1で得られた粉末サンプルを80℃で2時間減圧乾燥した。この粉末サンプル5.24gをシャーレに取り出し、25℃40%RHに保持した恒温恒湿槽に入れた。それぞれ1、2、3、6、24時間後に重量を測定し、吸湿量及び重量変化を評価した。結果を図6に示す。
【0108】
図6から明らかなように、(R)-3HBのMg塩の結晶体では、24時間保存後も重量変化が見られず、重量変化もわずか1.6%程度であり、吸湿性が有効に抑制されていた。
【0109】
なお、実施例3の40%RHを60%RHに代えて同様に吸湿量及び重量変化を評価したところ、60%RHにおいても(R)-3HBのMg塩の結晶体では、吸湿性が有効に抑制されていた。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の3HBのMg塩の結晶体は、医薬や食品の分野で利用される粉末材料(又は粉体)として有用であり、特に、アスリート向けのエネルギー物質、ダイエット・健康補助食品分野で利用される粉末材料として好適である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6