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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150685
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】光学製品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/116 20150101AFI20231005BHJP
   G02B 1/18 20150101ALI20231005BHJP
   C03C 17/38 20060101ALI20231005BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20231005BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20231005BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20231005BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
G02B1/116
G02B1/18
C03C17/38
C23C14/08 D
C23C14/06 P
B32B7/023
B32B9/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059908
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000219738
【氏名又は名称】東海光学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124420
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 清隆
(72)【発明者】
【氏名】山口 達也
【テーマコード(参考)】
2K009
4F100
4G059
4K029
【Fターム(参考)】
2K009AA02
2K009CC02
2K009CC03
2K009CC42
2K009DD04
2K009EE05
4F100AA12D
4F100AA17E
4F100AA20C
4F100AA28E
4F100AG00A
4F100AH08C
4F100AK45A
4F100AT00A
4F100BA05
4F100BA07
4F100EH66C
4F100EH66D
4F100EH66E
4F100EJ65B
4F100GB41
4F100JG01E
4F100JG03
4F100JK09
4F100JL06E
4F100JN06C
4F100JN18A
4F100JN18C
4F100JN18D
4G059AA01
4G059AC04
4G059EA03
4G059EA05
4G059EA12
4G059FA05
4G059GA02
4G059GA04
4G059GA16
4K029AA09
4K029AA24
4K029BA45
4K029BA46
4K029BA47
4K029BA50
4K029BA58
4K029BA62
4K029BB02
4K029BC07
4K029CA05
4K029CA06
4K029DC03
4K029DC05
4K029DC06
4K029FA04
(57)【要約】
【課題】帯電防止性能、耐スクラッチ性能、及び反射防止性能がより高い水準で共存する光学製品、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】光学製品1において、基材2の片面側に、直接光学多層膜4が形成されている。光学多層膜4は、反射防止部10と、最も空気側に配置される表層部12と、を備えている。表層部12は、防汚膜を含んでいる。反射防止部10は、低屈折率材料製の複数の低屈折率層Lと、高屈折率材料製の複数の高屈折率層Hと、ITO製のITO層14と、を有している。高屈折率材料は、Siである。反射防止部10の基材2側から数えて1層目は、高屈折率層Hである。反射防止部10の基材2側から数えて2層目は、ITO層14である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも片面側に、直接又は中間膜を介して光学多層膜が形成された光学製品であって、
前記光学多層膜は、反射防止部と、最も空気側に配置される表層部と、を備えており、
前記表層部は、防汚膜を含んでおり、
前記反射防止部は、低屈折率材料製の複数の低屈折率層と、高屈折率材料製の複数の高屈折率層と、ITO製のITO層と、を有しており、
前記高屈折率材料は、Siであり、
前記反射防止部の前記基材側から数えて1層目は、前記高屈折率層であり、
前記反射防止部の前記基材側から数えて2層目は、前記ITO層である
ことを特徴とする光学製品。
【請求項2】
前記低屈折率材料は、SiOである
ことを特徴とする請求項1に記載の光学製品。
【請求項3】
425nm以上625nm以下の波長域における両面反射率の平均が1%以下である
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光学製品。
【請求項4】
前記反射防止部の前記基材側から数えて3層目以降の奇数層目は、前記高屈折率層であり、
前記反射防止部の前記基材側から数えて4層目以降の偶数層目は、前記低屈折率層である
ことを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の光学製品。
【請求項5】
前記反射防止部の層数は、前記ITO層を含めて16である
ことを特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記載の光学製品。
【請求項6】
前記表層部は、有機ケイ素化合物製である
ことを特徴とする請求項1から請求項5の何れかに記載の光学製品。
【請求項7】
前記高屈折率層、前記低屈折率層及び前記ITO層の少なくとも何れかは、スパッタ法により形成されている
ことを特徴とする請求項1から請求項6の何れかに記載の光学製品。
【請求項8】
請求項1から請求項6の何れかに記載の光学製品における前記高屈折率層、前記低屈折率層及び前記ITO層の少なくとも何れかを、スパッタ法により前記基材の片面側に、直接又は中間膜を介して形成することで、前記反射防止部を形成し、
その後、前記表層部を形成する
ことを特徴とする光学製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定波長域の光の反射が抑制される反射防止機能を有する光学製品、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
反射防止膜用の積層体として、特開2005-288712号公報(特許文献1)に記載されたものが知られている。
この積層体は、ITO(Indium Tin Oxide)等の帯電防止層と、一の塗布工程により低屈折率層及び高屈折率層を形成可能な液状樹脂組成物を硬化してなる硬化膜層と、を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-288712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この積層体では、帯電防止層により帯電防止性を有すると共に、硬化膜により耐裂傷性を有している。
しかし、低屈折率層及び高屈折率層がそれぞれ1層ずつしか存在せず、全光線透過率が95%程度となるような反射防止性しか得られない。
【0005】
本開示の主な目的は、帯電防止性能、耐裂傷(耐スクラッチ)性能、及び反射防止性能がより高い水準で共存する光学製品、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書は、光学製品を開示する。この光学製品は、基材の少なくとも片面側に、直接又は中間膜を介して光学多層膜を有している。光学多層膜は、反射防止部と、最も空気側に配置される表層部と、を備えている。表層部は、防汚膜を含んでいる。反射防止部は、低屈折率材料製の複数の低屈折率層と、高屈折率材料製の複数の高屈折率層と、ITO製のITO層と、を有している。高屈折率材料は、Siである。反射防止部の基材側から数えて1層目は、高屈折率層である。反射防止部の基材側から数えて2層目は、ITO層である。
又、本明細書は、光学製品の製造方法を開示する。この光学製品の製造方法は、上述の光学製品における高屈折率層、低屈折率層及びITO層の少なくとも何れかを、スパッタ法により基材の片面側に、直接又は中間膜を介して形成することで、反射防止部を形成し、その後、表層部を形成する。
【発明の効果】
【0007】
本開示の主な効果は、帯電防止性能、耐スクラッチ性能、及び反射防止性能がより高い水準で共存する光学製品、及びその製造方法が提供されることである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係る光学製品の模式的な断面図である。
図2図1の光学製品を製造する装置の模式的な上面図である。
図3図2の装置に係る動作例のフローチャートである。
図4】実施例1における可視域及び隣接域での分光反射率分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る実施の形態の例が説明される。
本発明は、以下の形態に限定されない。
【0010】
≪光学製品の構成等≫
図1に示されるように、本発明に係る光学製品1は、板状の基材2と、その片面(成膜面M)に直接形成される光学多層膜4と、を有している。
尚、基材2は、ブロック状等、板状以外の形状であっても良い。成膜面Mは、平面であっても良いし、曲面であっても良い。成膜面M及び光学多層膜4は、基材2の両面に設けられる等、複数設けられても良い。成膜面Mは、複数設けられた場合、成膜面M毎に互いに異なる形状であっても良い。光学多層膜4は、複数設けられた場合、光学多層膜4毎に互いに同じ(基材2を中心に対称な)構成であっても良いし、互いに異なる構成であっても良い。又、光学多層膜4は、成膜面Mに、中間膜を介して形成されても良い。光学多層膜4が複数設けられた場合、中間膜は、その有無を含めて、基材2から見て互いに同じ態様であっても良いし、互いに異なる態様であっても良い。基材2において、本発明の光学多層膜4と、本発明に属さない光学膜(単層膜又は光学多層膜)とが併存していても良い。
【0011】
基材2は、透明(半透明を適宜含む)であれば、ポリカーボネイト等の樹脂(プラスチック)、あるいはガラスを始めとしていかなる材質であっても良いところ、好ましくはアルカリ元素を含んだガラスであり、より好ましくは強化ガラスであり、例えば化学強化ガラスである。
強化ガラス製の基材2は、表面に圧縮応力層が形成されているので、表面にクラックが生じたとしても、圧縮応力によりクラックの成長が抑制され、通常の(強化処理されていない)ガラス製の基材2よりも衝撃に強い。
又、基材2は、好ましくは巻き取り不能であり、ロール化不能であるものが好ましい。塑性変形を生じない限り巻き取れない程度に柔軟でない基板であれば、光学多層膜4等がより一層安定して形成され、光学製品1がより一層頑丈になる。
【0012】
光学多層膜4は、基材2(成膜面M)に対して形成される。
光学多層膜4は、少なくとも光学的な機能を発揮するために形成され、ここでは、少なくとも反射防止機能を発揮するために形成される。
光学多層膜4は、反射防止部10と、表層部12と、を有する。表層部12は、反射防止部10の上(基材2と反対側,空気側)に形成される。尚、反射防止部10は、反射防止膜として捉えられても良く、表層部12は、表層膜として捉えられても良い。
【0013】
反射防止部10は、低屈折率材料から形成された低屈折率層Lと、高屈折率材料から形成された高屈折率層Hとを交互に積層して形成される。
低屈折率材料は、酸化ケイ素(SiO)である。尚、低屈折率材料は、フッ化カルシウム(CaF)、フッ化マグネシウム(MgF)、あるいはSiOを含むこれらの二種以上の混合物であっても良い。
高屈折率材料は、窒化ケイ素(Si)である。Siにより、他の一般的な高屈折率材料に比べてより大きい硬度の層がもたらされ、光学多層膜4の高硬度化、ひいては耐スクラッチ性の向上に寄与する。Siの屈折率は、約1.7であり、中屈折材料とも捉え得る。
反射防止部10は、高屈折率層HとしてSi製のSi層を有することから、好ましくはスパッタ法により形成される。
【0014】
又、反射防止部10は、帯電防止機能を具備するため、導電性を呈するITO製のITO層14を有する。ITOの屈折率は、可視域(例えば400nm以上680nm以下の波長域)で2.1以上2.2以下程度であるため、ITO層14は、高屈折率層Hとして扱い得る。
ITO層14は、好ましくはスパッタ法により形成される。
【0015】
反射防止部10、即ち高屈折率層H、低屈折率層L及びITO層14の少なくとも何れかは、スパッタ法により形成されたものと特定可能である。
例えば、スパッタ法により形成されたSi製の高屈折率層Hは、Si製であることは容易に分かるものの、スパッタ法で形成されたSiの微細構造を直接同定することは、層全体を原子の見られる電子顕微鏡等で観察し尽くしたとしてもなお検討を要して現実的でなく、当業者にとっても直接の測定が極めて困難である。従って、スパッタ法により形成された高屈折率層Hと特定されることは有用であり、更に適宜スパッタ時の各種の条件等で高屈折率層Hが特定されることは、当業者にとって分かり易く有用である。
この点、低屈折率層L及びITO層14においても、同様である。
又、スパッタにおいてラジカルガス(プラズマガス)が導入される場合、例えばラジカル処理(プラズマ処理)された高屈折率層Hと特定されることは、ラジカル処理(プラズマ処理)の有無による高屈折率層Hの微細構造の相違が直接同定困難である(直接同定が現実的でない)ことから有用である。この場合、ラジカルガス(プラズマガス)の導入条件及び成膜室の条件の少なくとも一方等の各種の条件によって更に高屈折率層Hが特定されても良い。この点、低屈折率層L及びITO層14においても、同様である。
【0016】
反射防止部10は、反射防止機能を有することから、好ましくはITO層14を含めて17層以上とされる。Siの屈折率が高屈折率材料としては比較的低いため、所望の反射防止性能を得るために比較的多くの層数が必要となる。
光学多層膜4において、最も基材2側の層(基材2に最も近い層)を1層目とすると、反射防止部10の1層目は、高屈折率層Hである。ITO層14は、高屈折率層Hを介して基材2に形成されるため、ITO層14の密着性は、ITO層14が基材2に直接形成される場合に比べ、より大きくなる。
又、反射防止部10において、ITO層14は、2層目に配置される。ITO層14は、他の層に比べ、耐スクラッチ性で劣るところ、できるだけ基材2の側に配置されているため、ITO層14が外力から保護されて、光学製品1の耐スクラッチ性が向上する。
更に、反射防止部10の3層目以上において、奇数層目は、高屈折率層Hであり、偶数層目は、低屈折率層Lである。
反射防止部10の最表層(表層部12に基材2側で隣接する層)は、低屈折率層Lである。
反射防止部10では、ITO層14を除き、高屈折率材料(Si)及び低屈折率材料(SiO)が1種ずつ用いられるため、膜設計がより容易であり、成膜コストがより低廉である。
【0017】
表層部12は、表面の滑り性をより大きくして耐スクラッチ性を付与あるいは向上するため、反射防止部10より空気側に配置される膜であり、防汚膜(撥水膜,撥油膜)である。尚、表層部12により、光学製品1において、更に防汚機能が付与される。
表層部12は、好ましくは有機ケイ素化合物製であり、より好ましくは、有機ケイ素化合物を重縮合させたものである。重縮合によって、被膜の厚膜化及び緻密化が可能となり、反射防止部10との密着性及び表面硬度が高くなって、撥水性に加え撥油性も呈するものとなり、滑り性に優れた被膜が得られ易くなる。
表層部12は、公知の蒸着法あるいはイオンスパッタリング法等により形成される。反射防止部10(好ましくはスパッタ法)と表層部12とで製法が異なる場合、反射防止部10の形成後に装置を変えて表層部12が形成される。
重縮合前の有機ケイ素化合物は、好ましくは、-SiR3-y(Rは1価の有機基、Xは加水分解可能な基、yは0から2までの整数)で表される含ケイ素官能基を有する化合物である。ここで、Xとしては、例えば-OCH,-OCHCH等のアルコキシ基、-OCOCH等のアシロキシ基、-ON=CR等のケトオキシム基(R,Rはそれぞれ一価の有機基を表す)、-Cl,-Br等のハロゲン基、-NR等のアミノ基(R,Rはそれぞれ一価の有機基を表す)等の基が挙げられる。
このような有機ケイ素化合物としては、含フッ素有機ケイ素化合物が好適である。含フッ素有機ケイ素化合物は、撥水撥油性、電気絶縁性、離型性、耐溶剤性、潤滑性、耐熱性、消泡性に総合的に優れている。特に、分子内にパーフルオロアルキル基あるいはパーフルオロポリエーテル基を持つ分子量1000~50000程度の比較的大きな有機ケイ素化合物は、滑り性に優れる。
【0018】
上記の光学製品1において、例えば基材2はレンズ用フィルタ基材であり、光学製品はレンズ用フィルタである。この場合の代表的用途は、レンズの保護の目的でレンズの近傍(レンズの前,上等)に装着するものであり、レンズの代表例は、カメラレンズである。
レンズ用フィルタは、眼鏡レンズに比べ、プラスチックレンズ基体とされるニーズが小さく、フィルタによる色付き及び光量減の少なくとも一方を抑制するために可視域の分光反射率分布を極めて低い(例えば全域であるいは域内平均で1%以下の)反射率でフラットにするニーズが大きいところ、上記の光学製品1はかような需要に良く適合し得る。
又、レンズ用フィルタを始めとする光学製品において、更に耐スクラッチ性及び帯電防止性少なくとも一方の具備が、品質低下を抑制した状態での長寿命化、及び粉塵等の付着抑制によるメンテナンス性の向上の少なくとも一方のために望まれているところ、上記の光学製品1はかような需要に良く適合し得る。
【0019】
≪光学製品の製造装置等≫
次いで、上述の光学製品1を製造可能な製造装置の実施形態が、説明される。
尚、本発明に係る光学製品1の製造装置は、以下の形態に限定されない。
【0020】
図2は、当該形態に係る製造装置101の模式的な上面図である。
製造装置101は、ドラム型スパッタ成膜装置(カルーセル型スパッタリング装置)であり、1以上の板状の基材2における片面に光学製品1を成膜するものである。
製造装置101は、成膜室としての真空室102と、その中央部において自身の軸周りで回転可能に配置された円筒状のドラム104と、を備えている。ドラム104の外周円筒面には、成膜対象としての基材2が、成膜面Mを外側に向けた状態で保持されている。
【0021】
真空室102の一面には、第1スパッタ源110が配置されている。
第1スパッタ源110は、第1ターゲットT1をセットするスパッタカソード112と、一対の防着板114と、スパッタガスが適宜流量調整のうえで導入されるスパッタガス導入口116と、を備えている。
スパッタカソード112は、外部直流電源(図示略)と接続されている。
防着板114は、第1ターゲットT1とこれに対向するドラム104の部分との間を、他の真空室102の内部部分から区切るように配置されている。
スパッタガス導入口116は、防着板114によって区切られた空間へ向けてスパッタガスを流す。
【0022】
真空室102の別の一面には、第2スパッタ源120が配置されている。
第2スパッタ源120は、第1スパッタ源110と同様に、第2ターゲットT2をセットするスパッタカソード122と、一対の防着板124と、スパッタガス導入口126と、を備えている。
【0023】
更に、真空室102の他の一面には、ラジカル源130が配置されている。
ラジカル源130は、ガスをバルブ132により流量調整のうえで導入可能なラジカルガス導入口134と、加速電圧用電源(図示略)により電圧が印加されることでプラズマを発生可能なガン136と、を有する。
ラジカルガス導入口134から真空室102の内部に導入されたガスは、ガン136が発生したプラズマによりラジカル化し、基材2に向かってビーム状に照射される。
【0024】
加えて、ラジカル源130の両脇には、排気部140が設けられている。各排気部140では、真空室102内の排気が行われる。
尚、第1スパッタ源110、第2スパッタ源120、ラジカル源130及び各排気部140の少なくとも何れかの配置、及び設置数は、上述のものに限定されない。第1スパッタ源110、第2スパッタ源120、及びラジカル源130の少なくとも何れかにおける電流(電圧)は、直流に係るものであっても良いし、低周波、あるいは高周波(例えばRadio Frequency;RF)の交流に係るものであっても良い。
【0025】
製造装置101の動作例(光学製品1の製造方法の例)について、主に図3に基づいて説明される。
【0026】
まず、基材2がドラム104にセットされると共に、第1ターゲットT1としてシリコン(Si)がセットされ、第2ターゲットT2としてITOがセットされる(ステップS1)。
次に、真空室102の内部が排気される(ステップS2)。
続いて、ドラム104が回転され、ドラム104に保持された基材2が、第1スパッタ源110,第2スパッタ源120,ラジカル源130の各内側を順次繰り返し高速で通過するようにされる(ステップS3)。
次いで、基材2のクリーニングが行われる(ステップS4)。即ち、ラジカル源130のラジカルガス導入口34から酸素(O)ガスが導入された状態で、ガン136に高周波電圧が印加されて、ラジカル酸素が生成され、移動している基材2に対して所定時間照射される。かようなラジカル酸素の照射により、基材2表面に有機物等が付着していたとしても、有機物等はラジカル酸素及びプラズマで発生する紫外線によって分解剥離され、基材2の表面がクリーニングされる。かようなクリーニングにより、後に形成する膜の密着性が向上する。
【0027】
続いて、光学多層膜4の反射防止部10が形成される(ステップS5)。
即ち、ドラム104の回転が維持された状態で、第1スパッタ源110のスパッタガス導入口116から希ガス(ここではArガス)が導入され、スパッタカソード112に直流(DC)電圧が印加されることで、第1ターゲットT1表面のSiが、Arによるスパッタにより、基材2の表面上に堆積する。更に、ラジカル源130のラジカルガス導入口134から酸素ガス(Oガス)が導入された状態で、ガン136に高周波電圧が印加されて、ラジカル酸素が生成され、Siの堆積した移動中の基材2に対して照射されて、Siの酸化がなされ、反射防止部10の低屈折率層L(SiO層)が形成される。このとき、第2スパッタ源120は作動していない。尚、Oガスと共に、希ガスが導入されても良い。
同様に、ドラム104の回転が維持された状態で、第1ターゲットT1のSiをスパッタにより基材2に堆積させつつ、ラジカル源130のラジカルガス導入口134から窒素ガス(Nガス)が導入された状態で、ガン136に高周波電圧が印加されて、ラジカル窒素が生成され、Siの堆積した移動中の基材2に対して照射されて、Siの窒化がなされ、反射防止部10の高屈折率層H(Si層)が形成される。このとき、第2スパッタ源120は作動していない。尚、Oガスと共に、希ガスが導入されても良い。
又、第2スパッタ源120のスパッタガス導入口126から希ガス(ここではArガス)が導入され、スパッタカソード122に直流電圧が印加されることで、第2ターゲットT2表面のITOが、Arによるスパッタにより、基材2の表面上に堆積して、反射防止部10のITO層14が形成される。このとき、第1スパッタ源110及びラジカル源130は作動していない。尚、ラジカル源130から併せて希ガスが導入されても良い。
反射防止部10の各層の膜厚は、スパッタカソード112,122への投入電力が一定であり、単位時間当たりの成膜される物理膜厚である成膜レートが一定である場合には、スパッタリングの時間の長短により制御される。よって、所望の膜厚に相当する時間が経過した時点で、スパッタカソード112,122及びガン136への電圧印加が停止されて、反射防止部10の各層の成膜が順次完了する。
【0028】
反射防止部10の形成が完了すれば、ドラム104が止められ、適宜冷却が行われた後、反射防止部10付き基材2が取り出される(ステップS6)。
尚、反射防止部10と基材2との間に、製造装置101あるいは別の装置によって更に1以上の中間膜が付与されても良い。
【0029】
その後、反射防止部10付き基材2における反射防止部10の上に表層部12を形成するため、反射防止部10付き基材2が、公知の蒸着装置あるいはイオンスパッタリング装置に入れられて、表層部12の蒸着材料(有機材料)の蒸着あるいはスパッタにより処理される(ステップS7)。
かようにして、表層部12及び反射防止部10を有する基材2、即ち光学製品1が得られる。
【実施例0030】
次いで、本発明の実施例1、及び本発明に属さない比較例1~9が、適宜図面を用いて説明される。尚、本発明は、以下の実施例に限定されない。又、本発明の捉え方により、実施例が比較例となったり、比較例が実施例となったりすることがある。
【0031】
≪基材2等≫
これらの実施例ないし比較例における基材2は、何れも化学強化ガラス製であって、レンズ用フィルタとして標準的な大きさの円板状である。
基材2は、実施例ないし比較例において共通しており、肉厚は2.00mm(ミリメートル)であり、屈折率は1.52である。尚、基材2に対して染色等は行っておらず、基材2自体は無色透明である。
【0032】
≪実施例1,比較例1~9の光学多層膜4等≫
更に、実施例1,比較例1~9では、基材2の片面における成膜面Mの上に、光学多層膜4が形成された。
実施例1,比較例1~9の光学多層膜4は、次の表1~3に記載された通りに形成された。表1~3における「膜厚」は、物理膜厚(nm)である。
又、実施例1から表層部12のみを省いた比較例0が形成された。同様に、比較例1~9からそれぞれ表層部12のみを省いた比較例1’~9’が形成された。
【0033】
【表1】
【表2】
【表3】
【0034】
実施例1では、光学多層膜4の1層目はSi層であり、2層目はITO層14である。
又、3層目はSi層であり、以降16層目までSiO層との交互構造を呈する。実施例1の光学多層膜4の1層目から16層目までが、反射防止部10である。
実施例1の反射防止部10は、製造装置101により、クリーニング(ステップS4)がなされた状態で、又第1スパッタ源110、第2スパッタ源120、及びラジカル源130において直流が用いられた状態で、成膜される。
実施例1の光学多層膜4の17層目は、表層部12であり、防汚膜である。
その防汚膜は、ここでは、キヤノンオプトロン株式会社製OF-SRを反射防止部10の上に蒸着することにより、物理膜厚を4.70nmとした状態で成膜された。尚、この防汚膜の波長500nmにおける屈折率は、1.350であった。
【0035】
比較例1~3のそれぞれの層構造は、互いに同一である。当該層構造は、実施例1に類似している。より詳しくは、実施例1のITO層14が14層目に移設され、更に1層目がSiO層とされると共に、2層目以降がITO層14を除き実施例1の1層目以降と同様に配置されることで、当該層構造が得られる。
比較例1の反射防止部10は、製造装置101により、クリーニング(ステップS4)が省略された状態で、又第1スパッタ源110及び第2スパッタ源120において直流が用いられた状態で、成膜される。
比較例2の反射防止部10は、製造装置101により、クリーニング(ステップS4)が省略された状態で、又第1スパッタ源110及び第2スパッタ源120においてRFが用いられた状態で、成膜される。
比較例3の反射防止部10は、製造装置101により、クリーニング(ステップS4)がなされた状態で、又第1スパッタ源110及び第2スパッタ源120において直流が用いられた状態で、成膜される。
比較例1~3の各表層部12は、実施例1の表層部12と同様に形成される。
【0036】
比較例4の層構造は、比較例1~3の層構造におけるITO層14を14層目から5層目に移設したものである。
比較例4の反射防止部10は、製造装置101により、クリーニング(ステップS4)がなされた状態で、又第1スパッタ源110及び第2スパッタ源120において直流が用いられた状態で、成膜される。
比較例4の表層部12は、実施例1の表層部12と同様に形成される。
【0037】
比較例5の層構造は、比較例4の層構造における5層目のITO層14を、10層構造に代えたものである。当該10層構造は、比較例5の5~14層目にわたる。当該10層構造における比較例5の5,7,9,11,13層目は、それぞれ物理膜厚1nmのITO層14である。又、当該10層構造における比較例5の6,8,10,12,14層目は、それぞれ物理膜厚5nmのSi層である。比較例5の15層目以降は、比較例4の6層目以降と同様に成る。
比較例5の反射防止部10は、製造装置101により、クリーニング(ステップS4)がなされた状態で、又第1スパッタ源110及び第2スパッタ源120において直流が用いられた状態で、成膜される。
比較例5の表層部12は、実施例1の表層部12と同様に形成される。
【0038】
比較例6の層構造は、比較例1~3の層構造における14層目のITO層14を、窒素ラジカル処理(プラズマ処理)されたITOであるITON製のITON層に代えたうえで15層目に移設して成る(14層目:物理膜厚58.59nmのSi層)。
ITON層は、製造装置101において、ITOのスパッタ中に、ラジカル源130のラジカルガス導入口134から窒素ガス(Nガス)が導入された状態で、ガン136に高周波電圧が印加されて、ラジカル窒素が生成され、ITOの堆積した移動中の基材2に対して照射されることで形成される。ここで、xは、ラジカル源130(ガン136)の電圧、周波数、及び処理時間の少なくとも何れか等により決まる。又、ここではクリーニング(ステップS4)がなされる。
比較例6の反射防止部10におけるITON層以外の層は、製造装置101により、クリーニング(ステップS4)がなされた状態で、又第1スパッタ源110及び第2スパッタ源120において直流が用いられた状態で、成膜される。
比較例6の表層部12は、実施例1の表層部12と同様に形成される。
【0039】
比較例7の層構造は、比較例6の層構造における15層目のITON層を、Siスパッタ処理及び窒素ラジカル処理(プラズマ処理)がなされたITOであるSiITON層(物理膜厚82.72nm)に代えたうえで、16層目のSiO層を省いて成る(16層目:防汚膜)。
SiITON層は、製造装置101において、第2ターゲットT2によるITOのスパッタ中に、第1ターゲットT1によるSiのスパッタが合わせてなされると共に、ラジカル源130のラジカルガス導入口134から窒素ガス(Nガス)が導入された状態で、ガン136に高周波電圧が印加されて、ラジカル窒素が生成され、Si及びITOが混合して堆積した移動中の基材2に対して照射されることで形成される。ここで、yは、ラジカル源130(ガン136)の電圧、周波数、及び処理時間の少なくとも何れか等により決まる。又、ここではクリーニング(ステップS4)がなされる。
比較例7の反射防止部10におけるSiITON層以外の層は、製造装置101により、クリーニング(ステップS4)がなされた状態で、又第1スパッタ源110及び第2スパッタ源120において直流が用いられた状態で、成膜される。
比較例7の表層部12は、実施例1の表層部12と同様に形成される。
【0040】
比較例8の層構造は、比較例1~3の層構造における14層目のITO層14を、1層目に移設して成る。比較例8の2~14層目は、比較例1~3の1~13層目に順に対応する。
比較例8の反射防止部10の層は、製造装置101により、クリーニング(ステップS4)がなされた状態で、又第1スパッタ源110及び第2スパッタ源120において直流が用いられた状態で、成膜される。
比較例8の表層部12は、実施例1の表層部12と同様に形成される。
【0041】
比較例9の層構造は、比較例1~3の層構造における15層目のSi層の物理膜厚を、10nmから200nmに変えて成る。
比較例9の反射防止部10の層は、製造装置101により、クリーニング(ステップS4)がなされた状態で、又第1スパッタ源110及び第2スパッタ源120において直流が用いられた状態で、成膜される。
比較例9の表層部12は、実施例1の表層部12と同様に形成される。
【0042】
≪実施例1,比較例1~9の反射防止性、耐スクラッチ性、帯電防止性等≫
実施例1,比較例1~9の反射防止性等が、次の表4に示される。
【0043】
【表4】
【0044】
反射防止性(光線透過性)に関し、実施例1について、可視域及び隣接域での分光反射率分布が測定された。
その結果が、図4に示される。図4によれば、反射率が可視域全体で0.5%以下であり、実施例1が優れた反射防止性を呈することが分かる。
比較例1~9,0,1’~9’においても、反射防止部10を有するように設計されているため、基本的には実施例1と同様の分光反射率分布を有する。
但し、表4の「吸収」の列に示されるように、比較例1,6では、他のものとは異なり、可視域の入射光線に対して平均で1%を超える吸収が発生しており、他のもの(○)に比べて光線透過性が劣っている(△)。比較例1では、クリーニングされない基材2上にITO層14等が成膜され、主に微視的により乱れたITO層14において吸収が発生しているものと考えられる。又、比較例6では、主にITON層において吸収が発生しているものと考えられる。他方、比較例1’,6’においても、比較例1,6と同様に吸収が発生する。
尚、反射防止性(光線透過性)に関し、好ましくは、425nm以上625nm以下の波長域における両面反射率の平均が1%以下とされる。又、この基準を過度に複雑ではない設計によって満たす観点から、反射防止部10の層数は、ITO層14を含めて17以上であることが好ましい。
【0045】
又、耐スクラッチ性に関し、それぞれ次の耐スクラッチ性試験が行われた。
即ち、引掻試験機における往復移動可能であるアームに取り付けられた紙やすり(スコッチブライト工業用パッド#3000)が、光学多層膜4に対して荷重が200gとなるように押し付けられた状態で10往復(ストローク片道20mm)された。そして、傷の有無が直接の視認により確認され、目視可能な1本以上の傷の発生がみられる場合に「×」と評価され、目視可能な傷が1本もみられない場合に「○」と評価された。
まず、表層部12(防汚膜)のない比較例0,1’~9’は、いずれも評価「×」で、耐スクラッチ性に劣っていた。
次に、表4の「耐スクラッチ性」の列に示されるように、実施例1及び比較例6は、他のもの(×)と異なり、耐スクラッチ性に優れていた(○)。良好な耐スクラッチ性は、主に、実施例1のITO層14の配置(2層目)、あるいは比較例6のITON層の設置によるものと考えられる。
【0046】
更に、帯電防止性に関し、それぞれ抵抗値が測定された。
即ち、表面抵抗測定機により、それぞれの単位面積(ここでは1平方センチメートル)当たりの表面抵抗値(オーム毎スクエア;Ω/□)が測定された。抵抗値が低いほど、静電気を逃がし易くて帯電し難く、帯電防止性に優れることになる。又、抵抗値が1×1010Ω/□以下の程度であれば、その抵抗値を有する光学製品に対し、帯電した発泡スチロール粉は接触させても付着せず、抵抗値が1×1011Ω/□以下の程度であれば、帯電した発泡スチロール粉が接触の瞬間において光学製品に付着しそうになるものの、すぐに落下することになる。よって、ここでは、抵抗値が1×1011Ω/□以下のものが、良好な帯電防止性を有するものと評価される。
すると、実施例1、比較例1~4,6,8~9が良好な帯電防止性能を有していることになる。比較例5の帯電防止性能が劣るのは、各ITO層14の物理膜厚が1nmと薄すぎて、各ITO層14で十分な導電性を得られないことによるものと考えられる。又、比較例7の帯電防止性能が劣るのは、ITOに比べSiITONの導電性が低いことによるものと考えられる。
【0047】
そして、実施例1において、反射防止性、耐スクラッチ性、帯電防止性の全てにおいて良好な結果が得られた。
【0048】
≪まとめ等≫
実施例1は、基材2の片面側に、直接光学多層膜4が形成された光学製品1である。光学多層膜4は、反射防止部10と、最も空気側に配置される表層部12と、を備えている。表層部12は、防汚膜を含んでいる。反射防止部10は、低屈折率材料製の複数の低屈折率層Lと、高屈折率材料製の複数の高屈折率層Hと、ITO製のITO層14と、を有している。高屈折率材料は、Siである。反射防止部10の基材2側から数えて1層目は、高屈折率層Hである。反射防止部10の基材2側から数えて2層目は、ITO層14である。
よって、帯電防止性能、耐スクラッチ性能、及び反射防止性能がより高い水準で共存する光学製品1が提供される。
【0049】
又、実施例1の低屈折率材料は、SiOである。よって、十分な質を有する低屈折率材料がより低コストで得られる。
更に、実施例1では、425nm以上625nm以下の波長域における両面反射率の平均が1%以下である。よって、反射防止性能がより十分なものとなる。
【0050】
加えて、実施例1では、反射防止部10の3層目以降の奇数層目は、高屈折率層Hであり、反射防止部10の4層目以降の偶数層目は、低屈折率層Lである。よって、高屈折率層H及び低屈折率層Lの交互膜により、反射抑制機能を有する反射防止部10がより容易に得られる。
又、反射防止部10の層数は、ITO層14を含めて16である。よって、Si製の高屈折率層Hを含む反射防止部10において、十分な反射抑制機能が得られる。
更に、表層部12は、有機ケイ素化合物製である。よって、十分に平滑であり耐スクラッチ性の向上に寄与する防汚膜が、より容易に得られる。
又更に、高屈折率層、低屈折率層及びITO層14の少なくとも何れかは、スパッタ法により形成されている。よって、帯電防止性能、耐スクラッチ性能、及び反射防止性能の少なくとも何れかの向上に一層寄与する高屈折率層、低屈折率層及びITO層14の少なくとも何れかが得られる。
図1
図2
図3
図4