IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日揮触媒化成株式会社の特許一覧

特開2023-150709硫化カルボニルまたは二硫化炭素を加水分解するための触媒担体の製造方法、触媒担体および当該触媒担体を含む触媒
<>
  • 特開-硫化カルボニルまたは二硫化炭素を加水分解するための触媒担体の製造方法、触媒担体および当該触媒担体を含む触媒 図1
  • 特開-硫化カルボニルまたは二硫化炭素を加水分解するための触媒担体の製造方法、触媒担体および当該触媒担体を含む触媒 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150709
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】硫化カルボニルまたは二硫化炭素を加水分解するための触媒担体の製造方法、触媒担体および当該触媒担体を含む触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/26 20060101AFI20231005BHJP
   B01J 37/00 20060101ALI20231005BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B01J23/26 A
B01J37/00 F
B01J37/08
B01J37/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059942
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴鹿 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 啓智
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA01
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA01A
4G169BA02A
4G169BA03A
4G169BA03B
4G169BA38
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC03A
4G169BC03B
4G169BC16A
4G169BC58A
4G169BC58B
4G169CA10
4G169CA11
4G169DA06
4G169EA06
4G169EB14Y
4G169EC03Y
4G169EC07X
4G169EC07Y
4G169EC08X
4G169EC14X
4G169EC15X
4G169EC16X
4G169EC17X
4G169ED03
4G169FB06
4G169FB30
4G169FB57
4G169FB62
4G169FB63
4G169FC07
4G169FC08
(57)【要約】
【課題】水に接触しても割れが起こりにくい硫化カルボニルまたは二硫化炭素を加水分解するための触媒担体を提供すること。
【解決手段】硫化カルボニルまたは二硫化炭素を加水分解するための触媒担体の製造方法であって、アルミニウム含有塩基性水溶液とアルミニウム含有酸性水溶液とを混合して擬ベーマイトヒドロゲルを調製する工程、前記擬ベーマイトヒドロゲルにシリカを添加して熟成スラリーを調製する工程、前記熟成スラリーを噴霧乾燥してスプレー粉末を調製する工程、前記スプレー粉末を150℃以上、350℃以下の温度で、0.5時間以上、24時間熱処理して成型用前駆体を調製する工程、前記成型用前駆体を混練して成型用粘土を調製する工程、前記成型用粘土を押出成型して押出成型体を調製する工程、前記押出成型体を焼成してγアルミナを含む触媒担体を調製する工程、を備える、触媒担体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化カルボニルまたは二硫化炭素を加水分解するための触媒担体の製造方法であって、
アルミニウム含有塩基性水溶液とアルミニウム含有酸性水溶液とを混合して擬ベーマイトヒドロゲルを調製する工程、
前記擬ベーマイトヒドロゲルにシリカを添加して熟成スラリーを調製する工程、
前記熟成スラリーを噴霧乾燥してスプレー粉末を調製する工程、
前記スプレー粉末を150℃以上、350℃以下の温度で、0.5時間以上、24時間熱処理して成型用前駆体を調製する工程、
前記成型用前駆体を混練して成型用粘土を調製する工程、
前記成型用粘土を押出成型して押出成型体を調製する工程、
前記押出成型体を焼成してγアルミナを含む触媒担体を調製する工程、を備える、
触媒担体の製造方法。
【請求項2】
硫化カルボニルまたは二硫化炭素を加水分解するための触媒担体であって、
γアルミナを含み、
Alの含有量が、Al換算で、70質量%以上、99質量%以下の範囲にあり、
Siの含有量が、SiO換算で、1質量%以上、30質量%以下の範囲にあり、
細孔径が5nmから5000nmの範囲にある細孔の容積(PV5-5000)が0.5mL/g以上であり、
積算細孔容積の分布において細孔径が10nmのときの積算細孔容積割合が20%以上であり、Log微分細孔容積の最大値が3mL/g以下である、
触媒担体。
【請求項3】
請求項2に記載された触媒担体を含む、硫化カルボニルまたは二硫化炭素を加水分解するための触媒。
【請求項4】
Crを含む、請求項3に記載された触媒。
【請求項5】
Crの含有量が、Cr換算で、5質量以上、30質量%以下の範囲にある、請求項4に記載された触媒。
【請求項6】
Cr6+含有量が2000ppm以下である、請求項5に記載された触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化カルボニルまたは二硫化炭素を加水分解するための触媒担体の製造方法、触媒担体、および当該触媒担体を含む触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
硫黄化合物は、環境汚染の原因となったり、触媒の被毒物質となったりするので、各種プロセスにおいて様々な方法で除去されている。特に、硫黄化合物の中でも硫化カルボニルおよび二硫化炭素は、硫化水素や二酸化硫黄のように湿式法で効率的に除去することが困難である。これらを除去する方法の一つとして、水蒸気および触媒の存在下で硫化水素に加水分解した後、湿式法により除去する方法が知られている。例えば、特許文献1には、アルミナと水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムから成る触媒を用いて、石炭ガス化ガスあるいは重質油ガス化ガス等に含まれる硫化カルボニルを加水分解する方法が開示されている。
【0003】
これらの物質を加水分解するための触媒として、例えば、特許文献2には、重質油および/または石炭を部分酸化することにより得られた混合ガスに接触して混合ガス中の硫化カルボニルおよびシアン化水素を分解するための触媒であって、シリカを含むアルミナからなる担体にクロム酸化物を担持させて構成した触媒が開示されている。また、特許文献3には、アルカリ土類金属シリケートを含む触媒を備えた硫化カルボニル分解装置が開示されている。
【0004】
これらの触媒には、主にγアルミナが担体として用いられてきた。しかしながら、γアルミナを用いた担体は、水と接触すると割れやすいという課題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平5-70500号公報
【特許文献2】特開2003-135959号公報
【特許文献3】特開2021-53619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、硫化カルボニルまたは二硫化炭素を加水分解するための触媒担体であって、水と接触しても割れが起こりにくい担体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
硫化カルボニルまたは二硫化炭素を加水分解するための触媒担体の製造方法であって、アルミニウム含有塩基性水溶液とアルミニウム含有酸性水溶液とを混合して擬ベーマイトヒドロゲルを調製する工程、前記擬ベーマイトヒドロゲルにシリカを添加して熟成スラリーを調製する工程、前記熟成スラリーを噴霧乾燥してスプレー粉末を調製する工程、前記スプレー粉末を150℃以上、350℃以下の温度で、0.5時間以上、24時間熱処理して成型用前駆体を調製する工程、前記成型用前駆体を混練して成型用粘土を調製する工程、前記成型用粘土を押出成型して押出成型体を調製する工程、前記押出成型体を焼成してγアルミナを含む触媒担体を調製する工程、を備える。この触媒担体の製造方法により得られた触媒担体を用いることで、上記の課題を解決することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法を用いて得られた触媒担体は、水と接触しても割れが起こりにくい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1および比較例1の触媒担体の積算細孔容積の分布図である。
図2】実施例1および比較例1の成型体のLog微分細孔容積の分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の製造方法は、硫化カルボニルまたは二硫化炭素を加水分解するための触媒担体の製造方法であって、アルミニウム含有塩基性水溶液とアルミニウム含有酸性水溶液とを混合して擬ベーマイトヒドロゲルを調製する工程、前記擬ベーマイトヒドロゲルにシリカを添加して熟成スラリーを調製する工程、前記熟成スラリーを噴霧乾燥してスプレー粉末を調製する工程、前記スプレー粉末を150℃以上、350℃以下の温度で、0.5時間以上、24時間熱処理して成型用前駆体を調製する工程、前記成型用前駆体を混練して成型用粘土を調製する工程、前記成型用粘土を押出成型して押出成型体を調製する工程、前記押出成型体を焼成してγアルミナを含む触媒担体を調製する工程、を備えている。特に、前記スプレー粉末を150℃以上、350℃以下の温度で熱処理することで、最終的に得られる触媒担体の10nm以下の細孔が少なくなると共にその細孔分布がブロードになり、水と接触しても割れにくくなる。以下、本発明の製造方法について詳述する。
【0011】
[本発明の製造方法]
本発明の製造方法は、アルミニウム含有塩基性水溶液とアルミニウム含有酸性水溶液とを混合して擬ベーマイトヒドロゲルを調製する工程を含む。この工程では、γアルミナの原料となる擬ベーマイトを調製することを目的としている。なお、擬ベーマイトとは、水酸化アルミニウムの結晶構造の一つである。ここでは、二つの異なるアルミニウム原料を用いることで、各原料に基づく擬ベーマイトゲルの性状に違いが生じ、その性状が最終的に得られる触媒担体の細孔構造に影響を与えているものと考えられる。
【0012】
アルミニウム含有塩基性水溶液を調製する方法として、アルミニウムを含む化合物を塩基性水溶液に溶解する方法、アルミン酸ナトリウム等のアルカリ塩を水に溶解する方法等、従来公知の方法を用いることができる。このとき、アルミニウム含有塩基性水溶液のpHは、10以上であることが好ましく、12以上であることがより好ましい。pHを調製する方法としては、アンモニア水または水酸化ナトリウム水溶液等の従来公知の塩基性水溶液を添加する方法を用いることができる。また、アルミニウム含有塩基性水溶液は、溶解しているアルミニウムイオンを安定化するため、グルコン酸ナトリウム等のキレート剤を含んでいてもよい。更に、アルミニウム含有塩基性水溶液に含まれるアルミニウムの濃度は、Al換算で、1質量%以上、10質量%以下の範囲にあることが好ましい。
【0013】
アルミニウム含有酸性水溶液を調製する方法として、アルミニウムを含む化合物を酸性水溶液に溶解する方法、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム等を水に溶解する方法等、従来公知の方法を用いることができる。このとき、アルミニウム含有酸性水溶液のpHは、5以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましい。pHを調製する方法としては、塩酸、硝酸、硫酸等を含む従来公知の酸性水溶液を添加する方法を用いることができる。また、アルミニウム含有酸性水溶液に含まれるアルミニウムの濃度は、Al換算で、0.5質量%以上、5質量%以下の範囲にあることが好ましい。
【0014】
アルミニウム含有塩基性水溶液とアルミニウム含有酸性水溶液とを混合すると、擬ベーマイトヒドロゲルが生成する。このとき、両水溶液の温度は、40℃以上であることが好ましい。また、擬ベーマイトヒドロゲルの生成量が少ない場合は、従来公知の酸または塩基を用いてpHを6以上、8以下の範囲に調整するとよい。更に、この工程で得られた擬ベーマイトヒドロゲルは、酸または塩基に由来する塩を不純物として含んでいるので、温水、硫酸アンモニウム水溶液、希アンモニア水等を用いて洗浄してもよい。例えば、擬ベーマイトヒドロゲルを濾別して、流通洗浄してもよい。
【0015】
本発明の製造方法は、前記擬ベーマイトヒドロゲルにシリカを添加して熟成スラリーを調製する工程を含む。この工程では、前述の工程で得られた擬ベーマイトヒドロゲルにシリカを添加し、擬ベーマイトヒドロゲル中にシリカを分散させることを目的としている。
【0016】
この工程で添加するシリカは、従来公知のものを用いることができる。例えば、シリカゾル、ヒュームドシリカ、シリカゲル等を用いることができる。このとき、シリカの平均サイズは、1nm以上、100nm以下の範囲にあることが好ましく、1nm以上、10nm以下の範囲にあることがより好ましい。平均サイズが小さいシリカを用いることで、擬ベーマイトヒドロゲル中にシリカを高分散させることができる。なお、平均サイズとは、電子顕微鏡等で観察されるシリカの一次粒子の長径の平均(50個)を指すものとする。
【0017】
この工程では、擬ベーマイトヒドロゲルにシリカを添加した後、一定時間熟成して、熟成スラリーを調製する。このとき、熟成する温度は、70℃以上100℃以下の範囲にあることが好ましく、80℃以上、100℃以下の範囲にあることがより好ましい。また、撹拌しながら熟成することで、シリカが擬ベーマイトヒドロゲルに高分散しやすくなる。熟成する時間は、1時間以上、24時間以下の範囲にあることが好ましい。
【0018】
この製造方法では、前記熟成スラリーを噴霧乾燥してスプレー粉末を調製する工程を含む。この工程では、前述の工程で得られた熟成スラリーに含まれるシリカ含有擬ベーマイトヒドロゲルをスプレー粉末として取り出すことを目的としている。このとき、噴霧乾燥によって、シリカ含有擬ベーマイトヒドロゲルは、球状の粉末に成型される。
【0019】
噴霧乾燥の方法は、熟成スラリーに含まれるシリカ含有擬ベーマイトヒドロゲルをスプレー粉末として取り出すことができれば、従来公知の方法を用いることができる。例えば、市販の噴霧乾燥装置を用い、熱風が流通している乾燥器内に熟成スラリーの液滴を噴霧してもよい。このとき、熱風の入口温度、および出口温度等については、得たいスプレー粉末の状態に合わせて適宜調整される。
【0020】
この製造方法では、前記スプレー粉末を150℃以上、350℃以下の温度で、0.5時間以上、24時間以下熱処理して成型用前駆体を調製する工程を含む。この工程を含むことで、最終的に得られる触媒担体の10nm以下の細孔が減少し、水に接触しても割れが起こりにくくなるものと考えられる。この理由は、明確ではないが、熱処理によってシリカ含有擬ベーマイトヒドロゲルの脱水反応が進み、後述の焼成工程において擬ベーマイトの収縮が小さくなったためと考えられる。なお、前述の噴霧乾燥においても一定の熱はかかるが、乾燥時間が瞬間的であるため脱水反応が進むには十分でないと考えられる。
【0021】
熱処理の方法は、従来公知の方法を用いることができる。例えば、乾燥機、マッフル炉、キルン等を用いて、スプレー粉末を熱処理するとよい。熱処理の温度は、175℃以上、350℃以下の範囲にあることが好ましく、200℃以上、300℃以下の範囲にあることがより好ましい。このような温度範囲で熱処理をスプレー粉末に熱処理を行うことで、脱水反応が適度に進行する。
【0022】
熱処理の時間は、1時間以上、24時間以下の範囲にあることが好ましく、3時間以上、20時間以下の範囲にあることがより好ましい。このような時間の範囲でスプレー粉末に熱処理を行うことで、脱水反応が適度に進行する。
【0023】
この製造方法では、前記成型用前駆体を混練して成型用粘土を調製する工程を含む。この工程では、前述の工程で得られた成型用前駆体を押出成型に適した粘土状に成型することを目的としている。
【0024】
成型用前駆体を混練する方法は、従来公知の方法を用いることができる。例えば、ミックスマーラー、またはニーダー等の従来公知の装置を用いて、溶媒および成型助剤の少なくとも1つと共に混練することができる。これらの溶媒および成型助剤の少なくとも1つは、従来公知の方法を参考に押出成型が可能な粘土となるように適宜選択することができる。
【0025】
この製造方法では、前記押出成型体を焼成してシリカ含有γアルミナを含む成型体を調製する工程を含む。この工程では、前述の工程で得られた押出成型体に含まれるシリカ含有擬ベーマイトヒドロゲルをシリカ含有γアルミナに転移させることを目的としている。
【0026】
押出成型体を焼成する方法は、従来公知の方法を用いることができる。例えば、マッフル炉等を用いて、押出成型体を焼成するとよい。焼成の温度は、擬ベーマイトがγアルミナに転移する温度以上であればよく、500℃以上、700℃以下の範囲にあることが好ましい。焼成の温度が高すぎると、γアルミナが更に別の相に転移してしまうことがある。また、焼成の温度が低すぎても、γアルミナへの転移が促進しない。熱処理の時間は、0.5時間以上、48時間以下の範囲にあることが好ましく、1時間以上、24時間以下の範囲にあることがより好ましい。
【0027】
前述の工程で得られた本発明の触媒担体は、そのまま加水分解反応用の触媒として用いることができる。また、Na、K、Crから選ばれる少なくとも1種の成分を担持することが好ましい。これらの成分を担持すると、硫化カルボニルや二硫化炭素をより効率よく加水分解できると共に、寿命も長くなりやすい。これらの成分を担持する方法としては、噴霧担持、含浸担持といった水を用いる従来公知の方法により担持することができる。例えばこれらの成分を含む塩を原料とし、これが溶解した水溶液を前述の方法で触媒担体に担持することができる。その後、従来公知の方法で乾燥して水を除去し、必要によって300℃~500℃の温度で焼成するとよい。また、原料として6価のCr化合物を用いた場合は、必要によって焼成処理または還元処理を行い、6価のCrを低減することが好ましい。6価のCrは、特定有害物質であることから、焼成や還元処理によって可能な限り低くすることが好ましい。例えば水素を用いて還元処理を行う場合は、500℃以下の温度で還元することが好ましく、400℃以下の温度で還元することがより好ましい。また、これらの温度において10Vol%以下の水素濃度下で少しずつ6価Crを還元することが好ましい。
【0028】
[本発明の触媒担体]
本発明の触媒担体は、硫化カルボニルまたは二硫化炭素を加水分解するための触媒担体であって、γアルミナを含み、Alの含有量が、Al換算で、70質量%以上、99質量%以下の範囲にあり、Siの含有量が、SiO換算で、1質量%以上、30質量%以下の範囲にあり、細孔径が5nmから5000nmの範囲にある細孔の容積(PV5-5000)が0.5mL/g以上であり、積算細孔容積の分布において細孔径が10nmのときの積算細孔容積割合が20%以上であり、Log微分細孔容積の最大値が3mL/g以下である。
【0029】
以下、本発明の触媒担体について詳述する。
【0030】
本発明の触媒担体は、積算細孔容積の分布において細孔径が10nmのときの積算細孔容積割合が20%以上である。前記分布は、水銀圧入法によって測定された細孔分布を基に算出された分布であって、細孔径の大きい細孔容積から積算したものである。図1は、比較例1および実施例1の方法で得られた成型体の積算細孔容積の分布図である。この分布図から、細孔径が10nmのときの積算細孔容積割合を算出する。例えば、図1の破線(比較例1)は、細孔径が小さい細孔が多いので、細孔径が大きい細孔から10nmの細孔径を有する細孔まで積算した積算細孔容積割合は7.3%しかなく、残りの92.7%は10nm未満の細孔径を有する細孔が占めている。一方、図1の実線(実施例1)は、細孔径が小さい細孔が少ないので、細孔径が大きい細孔から10nmの細孔径を有する細孔まで積算した積算細孔容積割合が57.5%もあり、10nm未満の細孔径を有する細孔の割合は少ない。このような細孔構造を有することで、本発明の触媒担体は、水に接触しても割れが起こりにくくなるものと考えられる。本発明の触媒担体は、積算細孔容積の分布において細孔径が10nmのときの積算細孔容積割合が30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましい。また、積算細孔容積割合の上限は100%であり、90%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましい。10nm未満の細孔径を有する細孔を少なくすることで、水に接触した際に割れが起こりにくくなり、この担体を用いた触媒の製造において、歩留まりが劇的に改善される。また、水が存在する系で反応が進行する加水分解反応中においても、長期間使用した際に強度が低下しにくくなる等の効果も期待できる。
【0031】
本発明の触媒担体は、Log微分細孔容積の最大値が3mL/g以下である。図2は、比較例1および実施例1の方法で得られた成型体のLog微分細孔容積の分布図である。この分布図から、Log微分細孔容積の最大値を算出する。例えば、図2の破線(比較例1)は、細孔分布がシャープであるため、Log微分細孔容積の最大値は6.451mL/gと大きな値になる。一方、図2の実線(実施例1)は、細孔分布がブロードであるため、Log微分細孔容積の最大値は、1.438mL/gと小さい値になる。このような細孔構造を有することで、本発明の触媒担体は、水と接触しても割れが起こりにくくなっているものと考えられる。本発明の成型体は、Log微分細孔容積の最大値が、2.5mL/g以下であることが好ましく、2mL/g以下であることがより好ましい。このように細孔分布がブロードな本発明の触媒担体は、副生成物や被毒物質等で細孔が閉塞しにくくなっており、長期間使用した際に触媒活性が維持されやすい。
【0032】
本発明の触媒担体は、γアルミナを含む。γアルミナは、活性アルミナとも呼ばれており、担体の構成成分として広く知られている。γアルミナは、比表面積が大きく、化学的にも安定であることから、触媒または吸着剤の担体として広く使用されている。また、それ自体が触媒または吸着剤としても使用されている。
【0033】
本発明の触媒担体に含まれるAlの含有量は、Al換算で、70質量%以上、99%以下の範囲にある。本発明の触媒担体は、γアルミナをより多く含むことで、触媒や吸着剤等の構成成分をより多く担持させることができる。したがって、80質量%以上、99質量%以下の範囲にあることが好ましく、90質量%以上、99質量%以下の範囲にあることがより好ましい。Alの含有量は、サンプルを全量溶解した溶液を準備し、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析を用いて測定することができる。
【0034】
本発明の触媒担体はSiを含み、その含有量が、SiO換算で、1質量%以上、30質量%以下の範囲にある。本発明の触媒担体に含まれるSiは、シリカとして存在しており、触媒担体内部においてバインダーの働きをしているものと考えられ、触媒担体の物理的強度を高める。また、加水分解反応におけるγアルミナの変質(ベーマイト化)を抑制する働きもある。しかしながら、本発明の触媒担体においてシリカの含有量が増えるほど、γアルミナの含有量は低下してしまう。したがって、本発明の成型体に含まれるSiの含有量は、1質量%以上、20質量%以下の範囲にあることが好ましく、1質量%以上、10質量%以下の範囲にあることが特に好ましい。Siの含有量は、サンプルを全量溶解した溶液を準備し、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析を用いて測定することができる。
【0035】
本発明の触媒担体は、細孔径が5nmから5000nmの範囲にある細孔の容積(PV5-5000)が0.5mL/g以上であり、0.55mL/g以上、1mL/g以下の範囲にあることが好ましく、0.55mL/g以上、0.9mL/g以下の範囲にあることが好ましく、0.55mL/g以上、0.8mL/g以下の範囲にあることが特に好ましい。PV5-5000がこれらの範囲にある本発明の触媒担体は、物理的強度が高く、担持する成分の担持量も多くなる。
【0036】
本発明の触媒担体は、比表面積が150m/g以上であることが好ましく、200m/g以上であることがより好ましく、250m/g以上であることが特に好ましい。比表面積が大きい本発明の触媒担体は、担持する成分をより分散して担持することができる。また、比表面積の下限は、特に限定されるものではないが、500m/g以下であってもよく、450m/g以下であってもよく、400m/g以下であってもよい。
【0037】
本発明の触媒担体は、圧壊強度が4N/mm以上であることが好ましく、6N/mm以上であることがより好ましく、8N/mm以上であることが特に好ましい。圧壊強度が大きい本発明の触媒担体は、触媒として用いたときに、その寿命が長くなりやすい。また、圧壊強度の上限は、特に限定されるものではないが、40N/mm以下であってもよく、30N/mm以下であってもよく、20N/mm以下であってもよい。
【0038】
本発明の触媒担体は、粉状ではなく、成型体である。その形状は、球状、柱状、または柱状に類する形状(例えば、マカロニ状、三つ葉状、四つ葉状、またはスポーク状等)であることが好ましい。球状である場合、その平均径は直径を指すものとし、1mm以上、10mm以下の範囲にあることが好ましい。柱状または柱状に類する形状である場合、その平均径は断面の長径を指すものとし、1mm以上、10mm以下の範囲にあることが好ましい。また、その平均長さは、2mm以上、100mm以下であることが好ましい。
【0039】
本発明の触媒担体は、特定の成分を担持しなくても、γアルミナの化学的性状を利用してそのまま加水分解触媒として使用することができる。本発明の触媒担体は、水に接触したとしても割れにくいという特徴を有していることから、水の存在する環境下での反応に用いられる加水分解用触媒の担体として好適に用いることができる。
【0040】
本発明の触媒担体は、Na、K、Crから選ばれる少なくとも1種の担持成分が担持された触媒であることが好ましい。本発明の触媒担体にこれらの成分が担持された触媒は、硫化カルボニルや二硫化炭素をより効率よく加水分解できると共に、寿命も長くなりやすい。担持量(NaO、KO、Cr換算)は、触媒の全量に対して、1質量%以上、30質量%以下の範囲にあることが好ましく、5質量%以上、25質量%以下の範囲にあることがより好ましく、10質量%以上、20質量%以下の範囲にあることが特に好ましい。特に、Crを含む場合は、6価Crの含有量が2000ppm以下であることが好ましく、1000ppm以下であることがより好ましい。
【実施例0041】
以下、本発明の製造方法および触媒担体について、実施例を用いて詳述する。但し、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0042】
[実施例1]
Al換算濃度が22質量%のアルミン酸ナトリウム水溶液3.03kgに、濃度が26.5質量%のグルコン酸ナトリウム0.08kgと、純水10.23kgとを加えて、57℃に加温したアルミニウム含有塩基性水溶液を調製した。次いで、Al換算濃度が7質量%の硫酸アルミニウム水溶液4.76kgに、純水8.57kgを加えて、57℃に加温したアルミニウム含有酸性水溶液を調製した。前記酸性水溶液を前記塩基性水溶液に添加して、擬ベーマイトアルミナヒドロゲルを調製した。
【0043】
この擬ベーマイトアルミナヒドロゲルを濾別し、濃度が0.3質量%のアンモニア水を用いて洗浄し、洗浄ゲルを調製した。得られた洗浄ゲルは、NaO換算で、0.13質量%のNaを含み、SO換算で、0.48質量%のSを含んでいた。
【0044】
Al換算濃度が10質量%となるように、この洗浄ゲルを純水に加えた。その後、濃度が15質量%のアンモニア水を加えて、pHを10.5に調整した。更に、平均サイズが5nmのシリカゾル(製品名:SI-550、SiO換算濃度:20質量%、日揮触媒化成株式会社製)を、洗浄ゲルに含まれるAl(Al換算質量)とシリカゾルに含まれるSi(SiO換算質量)との和に対して、シリカ(SiO換算)が1.5質量%となるように加えた。その後、95℃に加温して20時間撹拌しながら熟成して熟成スラリーを調製した。
【0045】
この熟成スラリーを噴霧乾燥してスプレー粉末を調製した。このスプレー粉末を乾燥機にて200℃で12時間熱処理し、成型用前駆体粉末を調製した。この成型用前駆体粉末をミックスマーラーにて加水しながら混練して成型用粘土を調製し、これを押出成型機にて2.6mmφの円柱状に成型して、押出成型体を調製した。この押出成型体を乾燥した後、空気雰囲気下において600℃で3時間焼成して、円柱状の触媒担体を調製した。
【0046】
得られた触媒担体について、以下の測定を行った。結果を表1に示す。
【0047】
以下の条件で、得られた触媒担体の平均径および平均長さを測定した。
<平均径、平均長さ測定>
・サンプル数:40個(ランダムサンプリング)
・直径測定:マイクロメーター使用
・長さ測定:デジタルノギス使用
【0048】
以下の条件で、得られた触媒担体のX線回折測定を行い、γアルミナの有無を確認した。
<X線回折測定>
X線回折装置 :MineFlex600(株式会社リガク製)
線源 :Cu-kα線
加速電圧、電流 :40KV、15mA
スキャン速度 :4°/min
ステップ幅 :0.02°
測定範囲(2θ):10°~90°
<判定方法>
上記のX線回折測定により得られたX線回折パターンについて、統合粉末X線解析ソフトウェアPDXL(株式会社リガク製)を用いて、γアルミナに帰属される回折ピークの有無を確認した。
【0049】
以下の条件で、得られた触媒担体の細孔容積を測定した。得られた細孔分布から、PV5-5000およびLog微分細孔容積の最大値および細孔径10nmにおける積算細孔容積割合を算出した。
<細孔容積(Hg圧入法)測定>
・細孔分布測定装置:PM-33GT1LP(QUANTA CROME製)
・前処理:500℃-1時間
・サンプル容量:1mL
・細孔径測定範囲:5nm~5000nm
【0050】
以下の条件で、比表面積を測定した。
<比表面積測定>
・BET比表面積測定装置:Macsorb HM Model-1220(マウンテック社製)
・サンプル量:0.1g
・前処理:500℃-1時間
【0051】
以下の条件で、圧壊強度を測定した。
<圧壊強度測定>
500℃で1時間焼成させたサンプルについて、圧壊強度測定装置(圧縮子20mm巾)を使用してその長さを測定後、圧縮し、破砕されたときの過重を測定した。これを50個のサンプルについて測定し、下式によりCrushing Strengthを算出し、算術平均したものを測定値とした。
Crushing Strength(N/mm)=S/L
S:加圧荷重(N)
L:測定した長さ(mm)
【0052】
以下の条件で、溶媒含浸時の割れ数を測定した。
<溶媒含浸時の割れ数>
ランダムサンプリングした50個のサンプルを20mLの純水に浸漬した。1時間後にサンプルを濾別し、50℃にて12時間乾燥させた。乾燥後のサンプル個数を数え、以下の式から割れ数を算出した。
割れ数(個)=乾燥後のサンプル個数(個)-50(個)
【0053】
[実施例2]
洗浄ゲルに含まれるAl(Al換算質量)とシリカゾルに含まれるSi(SiO換算質量)との和に対して、シリカ(SiO換算)が3質量%となるように加えたこと、ミックスマーラーに代えて双腕式ニーダーを用いたこと、以外は実施例1と同様の方法で、触媒担体を調製した。また、得られた触媒担体について、実施例1と同様の方法で測定を行った。結果を表1に示す。
【0054】
[実施例3]
洗浄ゲルに含まれるAl(Al換算質量)とシリカゾルに含まれるSi(SiO換算質量)との和に対して、シリカ(SiO換算)3質量%となるようにシリカゾルを加えたこと、以外は実施例1と同様の方法で、円柱状の触媒担体を調製した。また、得られた触媒担体について、実施例1と同様の方法で測定を行った。結果を表1に示す。
【0055】
[実施例4]
平均径が1.3mmφの四葉型に押出成型したこと以外は、実施例3と同様の方法で、四つ葉円柱状の触担体を調製した。また、得られた触媒担体について、実施例1と同様の方法で測定を行った。結果を表1に示す。
【0056】
[実施例5]
洗浄ゲルに含まれるAl(Al換算質量)とシリカゾルに含まれるSi(SiO換算質量)との和に対して、シリカ(SiO換算)が5質量%となるように加えたこと、以外は実施例1と同様の方法で、円柱状の触媒担体を調製した。また、得られた触媒担体について、実施例1と同様の方法で測定を行った。結果を表1に示す。
【0057】
[実施例6]
スプレー粉末を乾燥機にて300℃で12時間熱処理したこと、以外は実施例5と同様の方法で、円柱状の触媒担体を調製した。また、得られた触媒担体について、実施例1と同様の方法で測定を行った。結果を表1に示す。
【0058】
[比較例1]
シリカゾルを用いず、スプレー粉末を乾燥機にて乾燥させなかったこと、以外は実施例1と同様の方法で、円柱状の触媒担体を調製した。また、得られた触媒担体について、実施例1と同様の方法で測定を行った。結果を表1に示す。
【0059】
[比較例2]
スプレー粉末を乾燥機にて乾燥させなかったこと、以外は実施例2と同様の方法で、円柱状の触媒担体を調製した。また、得られた触媒担体について、実施例1と同様の方法で測定を行った。結果を表1に示す。
【0060】
[比較例3]
スプレー粉末を乾燥機にて120℃で12時間熱処理したこと、以外は実施例2と同様の方法で、円柱状の触媒担体を調製した。また、得られた触媒担体について、実施例1と同様の方法で測定を行った。結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
[実施例7]
室温にて130gの純水に無水クロム酸26.5g(富士フイルム和光純薬株式会社:酸化クロム(VI)99.5%)を溶解させて含浸液を調製し、実施例2の触媒担体120gをブレンダ―等で流動させながら含浸液を噴霧し、Crを均一に含浸させた。その後、120℃で3時間乾燥させた後に、400℃で4時間焼成した。室温にて73gの純水に炭酸カリウム6.0g(富士フイルム和光純薬株式会社:炭酸カリウム99.5%)を溶解させた含浸液を調製し、焼成品100gにブレンダ―等で流動させながら含浸液を噴霧し、Kを均一に含浸させた。その後120℃で3時間乾燥させた。更に、得られた触媒担体を400℃で10Vol%水素雰囲気下において400℃で徐々に還元し、触媒を調製した。得られた触媒について、硫化カルボニルおよび二硫化炭素の加水分解反応試験を行い、その触媒活性を評価した。
【0063】
<加水分解反応試験>
上記記載内容によって得られた加水分解触媒について、以下の反応条件で、加水分解反応試験を行った。結果を表2に示す。
・反応器:固定床流通式反応器
・フィードガス組成: COS 2020ppm/HS 216ppm/CS 218ppm/CO 5%/HO 2%/N balance
フィードガス流通方法:ダウンフロー
・GHSV: 4,000h-1
・温度: 160℃
・圧力: 0.2MPaG
・触媒充填量: 30mL
なお、硫化カルボニル転化率(%)および二硫化炭素転化率(%)は、下記式により算出した。
硫化カルボニル転化率(%)=[(フィードガスに含まれるCOS濃度-反応後のガスに含まれるCOS濃度)/フィードガスに含まれるCOS濃度]×100
二硫化炭素転化率(%)=[(フィードガスに含まれるCS濃度-反応後のガスに含まれるCS濃度)/フィードガスに含まれるCS濃度]×100
【0064】
【表2】
図1
図2