IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パナソニックIPマネジメント株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-固体電解コンデンサ 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150741
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】固体電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/08 20060101AFI20231005BHJP
   H01G 9/15 20060101ALI20231005BHJP
   H01G 9/048 20060101ALI20231005BHJP
   H01G 9/10 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
H01G9/08 B
H01G9/15
H01G9/048 F
H01G9/10 G
H01G9/08 E
H01G9/08 Z
H01G9/10 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059995
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松居 明子
(72)【発明者】
【氏名】栗田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】上田 さおり
(72)【発明者】
【氏名】木村 拡
(57)【要約】
【課題】絶縁基板を有する固体電解コンデンサが高温に晒された場合のESRを低く抑える。
【解決手段】固体電解コンデンサは、陽極部および陰極部を含む少なくとも1つのコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子を支持する基板と、前記コンデンサ素子を封止する封止体と、前記陽極部および前記陰極部のそれぞれと電気的に接続する複数の外部電極と、を備える。前記基板は、絶縁基板と、前記絶縁基板の少なくとも一方の主面を覆い、かつ前記主面に直接接着した少なくとも1つの被膜とを含む。前記基板の水蒸気透過度は、30g/m・day以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極部および陰極部を含む少なくとも1つのコンデンサ素子と、
前記コンデンサ素子を支持する基板と、
前記コンデンサ素子を封止する封止体と、
前記陽極部および前記陰極部のそれぞれと電気的に接続する複数の外部電極と、を備える固体電解コンデンサであって、
前記基板は、絶縁基板と、前記絶縁基板の少なくとも一方の主面を覆い、かつ前記主面に直接接着した少なくとも1つの被膜とを含み、
前記基板の水蒸気透過度は、30g/m・day以下である、固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記被膜は、フッ素樹脂を含む、請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
前記被膜の厚さは、0.3μm以上である、請求項2に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項4】
前記被膜は、エポキシ樹脂の硬化物を含む、請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項5】
前記被膜の厚さは、3μm以上である、請求項4に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項6】
前記被膜の厚さは、100μm以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項7】
水の前記被膜に対する接触角は、90°以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項8】
前記絶縁基板は、ガラスエポキシ基板である、請求項1~7のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項9】
前記絶縁基板の厚さは、50μm以上500μm以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項10】
積層された2つ以上の前記コンデンサ素子を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
固体電解コンデンサは、固体電解質を含むコンデンサ素子と、コンデンサ素子を封止する封止体と、コンデンサ素子の陽極側および陰極側のそれぞれと電気的に接続される複数の外部電極とを備える。固体電解コンデンサには、コンデンサ素子が基板上に載置された状態で封止されている固体電解コンデンサもある。
【0003】
特許文献1は、素子積層体と、絶縁基板と、封止樹脂とを備える直方体状の樹脂成形体と、第1外部電極と、第2外部電極とを備え、素子積層体の積層方向のいずれか一方の主面には、コンデンサ容量に寄与しないダミー層が設けられており、絶縁基板は、ダミー層と隣接する位置に配置されている固体電解コンデンサを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2021/112239号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
固体電解コンデンサの基板としては、例えば、絶縁基板、金属基板または配線パターンが形成された積層基板(プリント基板など)が用いられている。基板は厚さの薄いシート状である。そのため、絶縁性樹脂を含む絶縁基板などでは、水蒸気が透過し易い。基板の水蒸気透過度が高いと、内部に水分が侵入して、リフロー処理などで固体電解コンデンサが高温に晒された場合に、内部でガスが発生して体積が膨張する。膨張による応力がコンデンサ内の構成要素に加わるため、構成要素が損傷して、等価直列抵抗(ESR)が増大する場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面は、陽極部および陰極部を含む少なくとも1つのコンデンサ素子と、
前記コンデンサ素子を支持する基板と、
前記コンデンサ素子を封止する封止体と、
前記陽極部および前記陰極部のそれぞれと電気的に接続する複数の外部電極と、を備える固体電解コンデンサであって、
前記基板は、絶縁基板と、前記絶縁基板の少なくとも一方の主面を覆い、かつ前記主面に直接接着した少なくとも1つの被膜とを含み、
前記基板の水蒸気透過度は、30g/m・day以下である、固体電解コンデンサに関する。
【発明の効果】
【0007】
絶縁基板を有する固体電解コンデンサが高温に晒された場合のESRを低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の一実施形態に係る固体電解コンデンサの断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
絶縁基板を有する固体電解コンデンサでは、絶縁基板の水蒸気透過度が高いと、内部に水分が侵入し易い。内部に侵入した水分は、リフロー処理などで固体電解コンデンサが高温に晒されると、気化、膨張するため、膨張による応力が内部の構成要素に加わり易い。応力が、コンデンサ素子、封止体、リードなどに加わると、クラックが発生したり、剥離が生じたりして、抵抗が増加し、固体電解コンデンサのESRが大きくなる。また、侵入した水分の膨張に伴う応力の程度、応力が加わる部分などを制御することは難しいため、個体間でのESRの変動幅のばらつきも大きくなり易い。
【0010】
上記に鑑み、本開示の固体電解コンデンサでは、コンデンサを支持する基板を、絶縁基板と、絶縁基板の少なくとも一方の主面を覆い、かつ主面に直接接着した少なくとも1つの被膜とで構成する。そして、基板の水蒸気透過度を、30g/m・day以下とする。被膜を形成することで、入手が容易な絶縁基板を用いても、基板全体の水蒸気透過度を低く抑えることができ、リフロー処理など高温に晒された場合の固体電解コンデンサのESRの増加(または変動)を抑制できる。また、本開示では、固体電解コンデンサ内部への基板を通じた水分の侵入自体が低減されることで、個体間におけるESRの変動幅のばらつきも低減できる。
【0011】
被膜は、例えば、被膜を構成する成分またはその前駆体を含むコーティング剤を塗布し、乾燥または加熱することによって形成される。そのため、被膜が絶縁基板に直接接着した状態である。これによって、別途粘着剤や接着剤を用いて絶縁基板に被膜を固定する必要がないことに加え、絶縁基板と被膜との界面を伝って、内部に水分が侵入することが抑制される。また、入手が容易な絶縁基板を用いても、被膜により簡便に基板全体の水蒸気透過度を低減できる。
【0012】
本開示には、陽極部および陰極部を含む少なくとも1つのコンデンサ素子と、コンデンサ素子を支持する基板と、コンデンサ素子を封止する封止体と、陽極部および陰極部のそれぞれと電気的に接続する複数の外部電極と、を備える固体電解コンデンサであって、基板は、絶縁基板と、絶縁基板の少なくとも一方の主面を覆い、かつ主面に直接接着した少なくとも1つの被膜とを含む固体電解コンデンサも包含される。ここで、固体電解コンデンサの吸湿量は、1つの固体電解コンデンサの単位体積当たり4.0mg/cm以下(または固体電解コンデンサの単位表面積当たり210μg/cm以下)である。このように、本開示の固体電解コンデンサは、被膜を形成することで、入手が容易な絶縁基板を用いても、基板全体の水蒸気透過度を低く抑えることができ、固体電解コンデンサの吸湿量を低く抑えることができる。よって、リフロー処理など高温に晒された場合の固体電解コンデンサのESRの増加(または変動)を抑制できるとともに、固体電解コンデンサ内部への基板を通じた水分の侵入自体が低減されることで、個体間におけるESRの変動幅のばらつきも低減できる。
【0013】
固体電解コンデンサの吸湿量は、同様の手順で作製した複数の固体電解コンデンサを用いて、下記の手順で求められる。
(a)固体電解コンデンサを、155℃で24時間加熱し、
(b)60%RH以下で30℃まで冷却する。
(c)(b)処理後の一部の固体電解コンデンサを85℃および85%RHの条件下で12時間静置する。
(d)(a)(b)処理後の固体電解コンデンサ、および(a)~(c)処理後の固体電解コンデンサを、25℃および不活性雰囲気下で固体電解コンデンサの長さ方向の中央で切断する。
(e)切断した固体電解コンデンサを、不活性雰囲気下で、260℃まで10℃/分の速度で加熱し、このときの水蒸気発生量(水分量)を求める。
【0014】
(a)~(e)は、この順序で行われる。(a)(b)では、固体電解コンデンサに元々内包されていた水分を除去しており、(a)(b)処理後の固体電解コンデンサを(c)処理を行わずに(d)で切断し、(e)で求めた水分量が初期(乾燥後)の固体電解コンデンサが内包する水分量w0に相当する。(c)では吸湿処理を行っている(c)の吸湿処理は、固体電解コンデンサが高湿度環境で保存されたときの状態を模した加速試験に相当する。(a)~(c)処理後の固体電解コンデンサを(d)で切断し、(e)で求められる水分量w1から初期の水分量w0を差し引いた差分を「固体電解コンデンサの吸湿量」または単に「吸湿量」と称することがある。なお、この吸湿量は、上述の通り、固体電解コンデンサ1つの単位体積当たりの吸湿量(mg/cm)(または単位表面積当たりの吸湿量(μg/cm))である。吸湿量は複数の固体電解コンデンサについて求められる吸湿量の平均値であってもよい。また、(d)における不活性雰囲気とは、例えば、ヘリウムガス雰囲気である。
【0015】
(e)において固体電解コンデンサの水分量は、不活性雰囲気中、熱重量質量分析装置(Thermogravimetry Mass Spectrometer:TG-MS)によって分析される。TG-MSとしては、例えば、NETZSCH社製のSTA 449 Jupiter F1とJEOL社製のJMS-Q1500GCとを組み合わせて使用する。上記(e)は、TG-MSによる操作条件に相当する。(e)の不活性雰囲気下とは、TG-MSの測定が不活性雰囲気で行われることを意味する。TG-MSにもよるが、不活性雰囲気とは、例えば、ヘリウムガス雰囲気である。また、(e)における速度は、昇温速度に相当し、昇温時には、所定の昇温速度で昇温しながら、固体電解コンデンサの加熱が行われる。
【0016】
本明細書中、固体電解コンデンサの長さ方向とは、陽極体の長さ方向に平行な方向である。陽極体の長さ方向とは、陽極体が延びた状態(折り曲げられていない状態)で、陰極部が形成されない一方の端部の端面の中心と陰極部が形成される他方の端部の中心とを結ぶ直線と平行な方向である。
【0017】
以下に、本開示の固体電解コンデンサについてより具体的に説明する。
【0018】
[固体電解コンデンサ]
(基板)
固体電解コンデンサにおいて、コンデンサ素子を支持する基板は、絶縁基板と被膜とを含む。
【0019】
絶縁基板としては、ガラスエポキシ基板、紙フェノール基板、ガラスポリイミド基板、フッ素基板などが挙げられる。これらの絶縁基板には、絶縁基板を構成する材料(絶縁性樹脂など)だけでなく、絶縁基板に含まれる添加剤(フィラーなど)、絶縁基板の厚さなど、様々な要素によって、水蒸気透過度が高いものも低いものもある。絶縁基板の水蒸気透過度が高いと上記のように、高温に晒された場合に水分の気化及び膨張に伴う応力によって、コンデンサ素子等が損傷し、抵抗が高まることでESRが増加する。中でも、ガラスエポキシ基板は入手が容易であるが、水蒸気透過度が比較的高く、高温に晒された場合のESRの増加が顕著になり易い。本開示では、このような絶縁基板を含む基板を用いる場合でも、被膜の形成によって、固体電解コンデンサ内部への基板を通した水分の侵入を抑制して、高温に晒された場合のESRの変動を低く抑えることができる。
【0020】
被膜は、絶縁基板の少なくとも一方の主面を覆うように形成される。絶縁基板が絶縁基板のみである場合には、絶縁基板のコンデンサ素子を載置する側の主面(第1主面)のみに被膜を形成してもよく、第1主面とは反対側の主面(第2主面)のみに被膜を形成してもよい。また、第1主面および第2主面の双方に被膜を形成してもよい。積層基板を構成する絶縁基板の主面に被膜を形成する場合には、絶縁基板の露出した主面に被膜を形成してもよい。被膜は、通常、配線パターンが形成されていない部分または主面に形成される。
【0021】
基板の水蒸気透過度は、30g/m・day以下である。なお、基板の水蒸気透過度とは、絶縁基板(または絶縁基板を含む積層基板)と絶縁基板の主面に形成された被膜とで構成される基板全体の水蒸気透過度である。被膜によって、基板の水蒸気透過度を全体として低減できるため、固体電解コンデンサ内部への基板を通じた水分の侵入を抑制して、高温に晒された場合のESRの変動を低く抑えることができる。基板の水蒸気透過度は、27g/m・day以下であってもよく、22g/m・day以下または20g/m・day以下であってもよい。本開示では、基板の水蒸気透過度を、被膜の形成という、ごく簡便な方法で低減することができ、高温に晒された場合のESRの変動を低く抑えることができる。基板の水蒸気透過度の下限は、できるだけ低い方が好ましいが、完全に0g/m・dayにすることは難しく、例えば、5g/m・day以上であってもよい。
【0022】
基板の水蒸気透過度は、JIS Z 0208:1976「防湿包装材料の透湿度試験方法(カップ法)」に準拠して測定できる。試験は、温度85℃、相対湿度85%の温湿条件にて行われる。固体電解コンデンサを形成する前の絶縁基板の少なくとも一方の主面に被膜を形成した基板(幅広の状態の基板)を測定用サンプルとして用いる。
【0023】
固体電解コンデンサの吸湿量は、例えば、1つの固体電解コンデンサの単位体積当たり4.0mg/cm以下(または固体電解コンデンサの単位表面積当たり210μg/cm以下)である。この吸湿量は低いほど好ましいが、0にすることは難しく、例えば、0.1mg/cm以上(または5μg/cm以上)であってもよい。
【0024】
基板の水蒸気透過度(および固体電解コンデンサの吸湿量)は、例えば、被膜に含まれる成分、厚さ、絶縁基板の一方の主面に被膜を形成するか双方の主面に被膜を形成するかによって、調節することができる。また、基板の水蒸気透過度(および固体電解コンデンサの吸湿量)は、絶縁基板の構成成分、絶縁基板の厚さなどにも影響される。本開示では、特に、絶縁基板(または絶縁基板を含む積層基板)の水蒸気透過度が30g/m・dayを超える場合に特に効果的であり、被膜によって、基板の水蒸気透過度を低減でき、固体電解コンデンサの吸湿量を低減できるため、固体電解コンデンサが高温に晒された場合のESRの変動を低く抑えることができる。
【0025】
また、絶縁基板の厚さは大きいほど、水蒸気透過度(および固体電解コンデンサの吸湿量)は低くなる傾向があるが、本開示では、被膜を形成するため、絶縁基板の厚さが比較的小さくても、基板全体の水蒸気透過度(および固体電解コンデンサの吸湿量)を低く抑えることができる。絶縁基板の厚さは、例えば、500μm以下であり、250μm以下であってもよく、200μm以下または150μm以下であってもよい。コーティング剤を用いて被膜を形成すると、絶縁基板の反りが生じ易い。このような反りを軽減する観点からは、絶縁基板はある程度の厚さを有することが好ましく、例えば、50μm以上の厚さを有してもよい。
【0026】
被膜を形成する樹脂材料としては、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、フェノール樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、ゴム状重合体などが挙げられる。被膜は、これらの樹脂材料を一種含んでもよく、二種以上組み合わせて含んでもよい。被膜を構成する樹脂材料は、熱可塑性樹脂であってもよく、硬化性樹脂(熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂など)であってもよい。被膜を形成する樹脂材料は、樹脂または樹脂の前駆体(硬化性化合物(モノマー、オリゴマーなど)など)以外に、触媒、硬化剤、架橋剤、重合開始剤、硬化促進剤などの添加剤を含んでもよい。熱可塑性樹脂(またはその組成物)を用いて被膜を形成する場合、形成された被膜は熱可塑性樹脂(またはその組成物)を含む。硬化性樹脂(またはその組成物)を用いて被膜を形成する場合、形成された被膜は、硬化性樹脂(またはその組成物)の硬化物を含む。
【0027】
上述のように、被膜は、被膜の構成成分(樹脂材料またはその前駆体、添加剤などを含む組成物)を含むコーティング剤を絶縁基板の主面に塗布し、乾燥または加熱することによって形成される。必要に応じて、コーティング剤を絶縁基板の主面に塗布した後、光照射することによって、被膜を形成してもよい。コーティング剤は、被膜の構成成分(樹脂材料またはその前駆体、添加剤などを含む組成物)と、溶剤とを含んでもよい。溶剤としては、水、有機溶剤などが挙げられる。溶剤の種類は、構成材料の種類に応じて選択される。コーティング剤は、溶剤を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
【0028】
コーティング剤を用いて被膜を形成することで、基板の水蒸気透過度(および固体電解コンデンサの吸湿量)を容易に低減することができる。また、被膜を絶縁基板に直接接着した状態にすることができるため、被膜と絶縁基板との界面を通じて水分が、固体電解コンデンサ内部に侵入することが抑制される。よって、固体電解コンデンサが高温に晒された場合のESRの変動を低減する効果が高まる。
【0029】
コーティング剤の絶縁基板への付与は、公知の塗布方法を利用してもよい。コーティング剤の塗布は、例えば、バーコート、スプレーコート、ディップコート、ダイコート、印刷法(スクリーン印刷など)、転写法などを利用して行ってもよい。
【0030】
基板の水蒸気透過度(および固体電解コンデンサの吸湿量)を低減する、より高い効果が得られ易い観点からは、被膜は、フッ素樹脂を含んでもよい。コーティング剤を用いて被膜を形成する場合には、コーティング剤の乾燥または加熱などを行うことで被膜を形成する際に、基板の反りが顕著になり易い。反りが顕著になると、コンデンサ素子を基板上に安定して載置し難い。フッ素樹脂を用いる場合、このような反りを抑制し易い。フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシアルカン、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン共重合体が挙げられる。被膜は、フッ素樹脂を一種含んでもよく、二種以上組み合わせて含んでもよい。中でも、フッ化ビニリデン共重合体に分類される、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-フッ化エチレン共重合体、フッ化ビニリデン-パーフルオロメチルビニルエーテル-フッ化エチレン共重合体などは、フッ素ゴムとも呼ばれ、応力を緩和し易いことから、絶縁基板の主面に被膜を形成しても反りが生じ難い。そのため、フッ素ゴムを用いて被膜を形成すると、基板の反りを抑制できるとともに、固体電解コンデンサ内部への水分の侵入を抑制して、高温に晒された場合のESRの変動を低減することができる。
【0031】
基板の水蒸気透過度(および固体電解コンデンサの吸湿量)を低減する、より高い効果が得られ易い観点からは、被膜は、エポキシ樹脂の硬化物を含んでもよい。この場合、コーティング剤を用いて被膜を形成しても、基板の反りを抑制し易いことからも有利である。エポキシ樹脂としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂など)、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂(クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノール/変性ノボラック型エポキシ樹脂など)などが挙げられる。耐水性が高く、基板の水蒸気透過度(および固体電解コンデンサの吸湿量)を低減する高い効果が得られ易い観点からは、被膜は、少なくともビスフェノールA型エポキシ樹脂の硬化物を含むことが好ましい。
【0032】
被膜は、フィラーを含んでもよい。フィラーとしては、例えば、絶縁性の粒子および絶縁性の繊維が挙げられる。フィラーを構成する絶縁性材料としては、例えば、シリカ、アルミナなどの絶縁性の化合物(酸化物など)、ガラス、鉱物材料(タルク、マイカ、クレーなど)などが挙げられる。被膜は、フィラーを一種含んでもよく、二種以上組み合わせて含んでもよい。
【0033】
被膜がフィラーを含む場合、被膜の強度を高めることができる一方で、コーティング剤としては粘度が上がり基板へ塗布しにくくなるといったデメリットがある。被膜中のフィラーの含有率は、例えば、20質量%以下であり、10質量%以下であってもよく、7質量%以下または5質量%以下であってもよい。
【0034】
被膜の厚さは、例えば、0.3μm以上であり、1μm以上または3μm以上であってもよく、10μm以上であってもよい。被膜の厚さは、被膜を構成する材料によって選択してもよい。例えば、フッ素樹脂を含む被膜では、被膜の厚さは、0.3μm以上であってもよく、1μm以上または2μm以上であってもよい。また、エポキシ樹脂の硬化物を含む被膜の厚さは、例えば、3μm以上であり、10μm以上または30μm以上であってもよく、35μm以上であってもよい。被膜の厚さが大きくなると、基板の水蒸気透過度(および固体電解コンデンサの吸湿量)は低くなる傾向があるが、被膜は容量に寄与しない。そのため、高容量を確保したり、固体電解コンデンサのサイズが大きくなったりすることを避ける観点からは、被膜の厚さは小さい方が好ましく、例えば、100μm以下であってもよい。絶縁基板の片方の主面に形成された被膜の厚さがこのような範囲である。絶縁基板の双方の主面に被膜が形成される場合には、双方の主面に形成された被膜の合計厚さが上記の範囲であってもよい。
【0035】
なお、本明細書中、被膜および絶縁基板の厚さは、基板を少なくとも含む断面画像に基づき、被膜および絶縁基板のそれぞれにつき、5箇所以上を任意に選択して厚さを計測し、平均化することによって求められる。
【0036】
基板の水蒸気透過度(および固体電解コンデンサの吸湿量)を低く抑える観点からは、被膜の撥水性が高い方が好ましい。水の被膜に対する接触角(静的接触角)は、例えば、90°以上であり、95°以上または97°以上であってもよく、100°以上であってもよい。
【0037】
被膜の接触角は、絶縁基板の少なくとも一方の主面に被膜を形成し、この被膜を用いて液滴法によって測定することができる。より具体的には、23℃および50%RHの環境下で、上記の被膜上に、約1μLの蒸留水を滴下し、接触角計によって、被膜に対する水滴の静的接触角を測定する。水滴の静的接触角の測定は、3回行い、平均値を算出する。この平均値を、被膜に対する水の接触角とする。接触角計としては、例えば、協和界面科学(株)製の「DMs-401」が使用される。
【0038】
(コンデンサ素子)
基板上に載置されるコンデンサ素子は、陽極部および陰極部を含む。陽極部と陰極部とを電気的に分離するため、絶縁性の分離層を設けてもよい。固体電解コンデンサは、コンデンサ素子を少なくとも1つ含んでおり、複数のコンデンサ素子を含んでもよい。複数のコンデンサ素子は、例えば、積層されていてもよい。
【0039】
(陽極体)
陽極体は、例えば、一方の端部(第1端部と称することがある)を含む第1部分と一方の端部とは反対側の他方の端部(第2端部と称することがある)を含む第2部分とを含む。陰極部は、陽極体の第2部分に形成される。陽極体の陰極部が形成されていない部分(より具体的には、第1部分の少なくとも一部)は、陽極部を構成する。
【0040】
陽極体は、例えば、弁作用金属、弁作用金属を含む合金、および弁作用金属を含む化合物(金属間化合物など)を含んでもよい。これらの材料は一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用してもよい。弁作用金属としては、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタンなどが挙げられる。陽極体は、弁作用金属、弁作用金属を含む合金、または弁作用金属を含む化合物の箔(陽極箔)であってもよく、弁作用金属、弁作用金属を含む合金、または弁作用金属を含む化合物の粒子の成形体(多孔質成形体)またはその焼結体(多孔質焼結体)であってもよい。
【0041】
陽極体として陽極箔を用いる場合、通常、表面積を増やすため、陽極箔の少なくとも第2部分の表面には、多孔質部が形成される。このような陽極箔は、芯部と、芯部の表面に形成された多孔質部とを有する。多孔質部は、例えば、陽極箔の表面に凹凸を形成することにより形成される。多孔質部を有する陽極箔は、例えば、陽極箔の少なくとも第2部分の表面をエッチング(電解エッチングなど)などにより粗面化することによって形成してもよい。第1部分の表面に所定のマスキング部材を配置した後、エッチング処理などの粗面化処理を行うことも可能である。一方で、陽極箔の表面の全面をエッチング処理などにより粗面化処理することも可能である。前者の場合、第1部分の表面には多孔質部を有さず、第2部分の表面に多孔質部を有する陽極箔が得られる。後者の場合、第2部分の表面に加え、第1部分の表面にも多孔質部が形成される。エッチング処理としては、公知の手法を用いればよく、例えば、電解エッチングが挙げられる。マスキング部材は、特に限定されず、導電性材料を含む導電体であってもよいが、樹脂などの絶縁体が好ましい。マスキング部材は、固体電解質層の形成前に取り除かれる。
【0042】
陽極箔の表面の全面を粗面化処理する場合、第1部分の表面に多孔質部を有する。この場合、多孔質部と封止体との接触部分を通じて固体電解コンデンサ内部に空気が侵入することを抑制する観点から、第1部分に形成された多孔質部の少なくとも一部を、予め、除去したり、圧縮して多孔質部の孔をつぶしたりしておいてもよい。これによって、空気の侵入による固体電解コンデンサの信頼性の低下を抑制できる。
【0043】
複数のコンデンサ素子を積層する場合、コンデンサ素子の陽極体の第1端部を束ねて、リードと接続して、外部電極と電気的に接続してもよい。しかし、束ねずに複数の第1端部の端面をそれぞれ封止体の外面から露出させて、外部電極と電気的に接続させてもよい。
【0044】
なお、封止体の外面とは、封止体の外形を形作る表面である。例えば、コンデンサ素子が基板とともに封止体で封止された封止物が直方体または立方体などの形状を有する場合、1つの表面(例えば、底面)が基板の表面に相当し、基板の表面以外の残りの5つの表面(例えば、側面、天面など)が封止体の外面に相当することがある。
【0045】
(誘電体層)
誘電体層は、例えば、陽極体の少なくとも第2部分の表面の弁作用金属を、化成処理などにより陽極酸化することで形成される。誘電体層は弁作用金属の酸化物を含む。例えば、弁作用金属としてアルミニウムを用いた場合の誘電体層は酸化アルミニウムを含む。誘電体層は、少なくとも多孔質部が形成されている第2部分の表面(多孔質部の孔の内壁面を含む)に沿って形成される。なお、誘電体層の形成方法はこれに限定されず、第2部分の表面に、誘電体として機能する絶縁性の層を形成できればよい。誘電体層は、第1部分の表面(例えば、第1部分の表面の多孔質部)にも形成されてもよい。
【0046】
化成処理は、例えば、陽極体を化成液中に浸漬することにより、陽極体の表面に化成液を含浸させ、陽極体をアノードとして、化成液中に浸漬したカソードとの間に電圧を印加することにより行うことができる。陽極体の表面に多孔質部を有する場合、誘電体層は、多孔質部の表面の凹凸形状に沿って形成される。
【0047】
(陰極部)
陰極部は、誘電体層を有する陽極体の第2部分に形成される。分離層の第2部分側の表面を陰極部が覆っている場合もある。
【0048】
陰極部は、例えば、誘電体層の少なくとも一部を覆う固体電解質層と、固体電解質層の少なくとも一部を覆う陰極引出層とを備える。陰極部は、誘電体層の少なくとも一部を覆うように固体電解質を形成し、固体電解質層の少なくとも一部を覆うように陰極引出層を形成することによって形成される。誘電体層を有する陽極体の一部に陰極部を形成することによって、コンデンサ素子が得られる。
【0049】
(固体電解質層)
固体電解質層は、例えば、導電性高分子(共役系高分子、ドーパントなど)を含む。共役系高分子としては、例えば、π共役系高分子(ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリンおよびこれらの誘導体など)を用いてもよい。例えば、ポリチオフェン誘導体には、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)などが包含される。ドーパントとしては、ポリスチレンスルホン酸(PSS)などを用いてもよく、ナフタレンスルホン酸、トルエンスルホン酸などを用いてもよい。固体電解質層は、例えば、共役系高分子の前駆体(モノマー、オリゴマーなど)およびドーパント(ナフタレンスルホン酸、トルエンスルホン酸など)を誘電体層上で化学重合および電解重合の少なくとも一方を利用して重合することにより、形成することができる。あるいは、共役系高分子およびドーパントが溶解した溶液、または、共役系高分子およびドーパントが分散した分散液を、誘電体層に付着させ、乾燥させることによって固体電解質層を形成してもよい。分散媒(溶媒)としては、例えば、水、有機溶媒、またはこれらの混合物が挙げられる。固体電解質層は、マンガン化合物を含んでもよい。
【0050】
(陰極引出層)
陰極引出層は、例えば、固体電解質層と接触するとともに固体電解質層の少なくとも一部を覆う導電性の層を含む。陰極引出層は、固体電解質層の少なくとも一部を覆う第1層を少なくとも備えている。陰極引出層は、固体電解質層の少なくとも一部を覆う第1層と、第1層の少なくとも一部を覆う第2層とを含んでもよい。
【0051】
例えば、第1層としての金属箔で陰極引出層を構成してもよい。金属箔には、例えば、Al箔、Cu箔、弁作用金属(アルミニウム、タンタル、ニオブなど)または弁作用金属を含む合金で形成された金属箔を用いてもよい。必要に応じて、金属箔の表面を粗面化してもよい。金属箔の表面には、化成皮膜が設けられていてもよく、金属箔を構成する金属とは異なる金属(異種金属)や非金属の被膜が設けられていてもよい。異種金属や非金属としては、例えば、チタン、ニッケルのような金属、カーボン(導電性カーボンなど)のような非金属などを挙げることができる。金属箔は、金属箔(例えば、Al箔、Cu箔)の表面を蒸着あるいは塗工により導電膜で被覆した焼結箔、蒸着箔または塗工箔であってもよい。蒸着箔は、表面にNiが蒸着されたAl箔であってもよい。導電膜としては、Ti、TiC、TiO、C(カーボン)膜などが挙げられる。導電膜は、カーボン塗膜であってもよい。
【0052】
陰極引出層では、上記の異種金属または非金属(例えば、導電性カーボン)の被膜を第1層として、上記の金属箔を第2層としてもよい。
【0053】
陰極引出層は、例えば、第1層としての導電性カーボンを含む層(カーボン層とも称する)と、第2層としての金属含有層(例えば、金属粉を含む層または金属箔)とを含んでもよい。
【0054】
第1層としてのカーボン層に含まれる導電性カーボンとしては、例えば、黒鉛(人造黒鉛、天然黒鉛など)が挙げられる。
【0055】
第2層としての金属粉を含む層は、例えば、金属粉を含む組成物を第1層の表面に積層することにより形成できる。このような第2層としては、例えば、金属粉と樹脂(バインダ樹脂)とを含む組成物を用いて形成される金属ペースト層が挙げられる。金属ペースト層としては、銀粒子と樹脂とを含む銀ペースト層が挙げられる。樹脂としては、熱可塑性樹脂を用いることもできるが、イミド系樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。
【0056】
第2層としての金属箔には、例えば、第1層について例示した金属箔が挙げられる。
【0057】
金属箔は、固体電解質層または第1層(カーボン層など)に導電性接着剤を介して貼り付けられていてもよい。導電性接着剤としては、導電性カーボンを含む接着剤、銀粒子などの金属粒子を含む接着剤などが挙げられる。
【0058】
陰極部が金属箔を含む場合、金属箔の端面を封止体の外面から露出させ、外部電極と容易に電気的な接続を行うことができるため、有利である。固体電解コンデンサが積層された複数のコンデンサ素子を備える場合には、金属箔を、複数のコンデンサ素子の少なくとも1つに設けてもよく、隣接するコンデンサ素子間に金属箔が介在するように設けてもよい。例えば、隣接するコンデンサ素子間で、1つの金属箔を共有してもよい。例えば、固体電解コンデンサが積層された複数のコンデンサ素子を含む場合、隣接するコンデンサ素子の間に金属箔を挟持してもよい。
【0059】
(セパレータ)
金属箔を陰極引出層に用いる場合、金属箔と陽極箔との間にはセパレータを配置してもよい。セパレータとしては、特に制限されず、例えば、セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ビニロン、ポリアミド(例えば、脂肪族ポリアミド、アラミドなどの芳香族ポリアミド)の繊維を含む不織布などを用いてもよい。
【0060】
(分離層)
分離層は、陰極部を形成する前に形成される。分離層は、第1部分の表面の少なくとも一部を覆うように、陰極部に近接して設けてもよい。固体電解コンデンサ内部への空気の侵入を抑制する観点からは、分離層は、第1部分および封止体と密着していてもよい。分離層は、第1部分の上に誘電体層を介して配置されてもよい。このような分離層は、誘電体層の形成後に設けられる。この場合に限らず、必要に応じて、誘電体層の形成前に設けてもよい。
【0061】
分離層は、例えば、樹脂を含み、後述の封止体について例示するものを用いることができる。第1部分の多孔質部に形成した誘電体層を圧縮して緻密化することで、絶縁性を持たせてもよい。
【0062】
分離層は、例えば、シート状の絶縁部材(樹脂テープなど)を、第1部分に貼り付けることにより設けてもよい。表面に多孔質部を有する陽極箔を用いる場合では、第1部分の少なくとも一部の多孔質部を除去または圧縮して平坦化してから、絶縁部材を第1部分に密着させてもよい。シート状の絶縁部材は、第1部分に貼り付ける側の表面に粘着層を有することが好ましい。
【0063】
また、液状樹脂を第1部分の少なくとも一部に塗布または含浸させて、第1部分と密着する絶縁部材を形成してもよい。液状樹脂を用いた方法では、絶縁部材は、第1部分の多孔質部の少なくとも表層の凹凸を埋めるように形成してもよい。この場合、多孔質部の表層の凹部に液状樹脂が容易に入り込み、凹部内にも絶縁部材を容易に形成することができる。この場合、陽極体の表層の多孔質部が絶縁部材で保護されるため、陽極体の端部を封止体とともに部分的に除去して、封止体の外面を形成するとともに、陽極体の端面を封止体の外面から露出させる際に、陽極体の多孔質部の崩壊が抑制される。陽極体の多孔質部の表層と絶縁部材とが強固に密着しているため、陽極体の端部を封止体とともに部分的に除去する際に、絶縁部材が陽極体の多孔質部の表面から剥離することが抑制される。
【0064】
液状樹脂としては、例えば、後述の封止体について例示する硬化性樹脂組成物などを用いてもよく、樹脂を溶剤に溶解させた溶液を用いてもよい。また、液状樹脂の塗布または含浸を行うとともに、シート状の絶縁部材を用いてもよい。
【0065】
(その他)
コンデンサ素子(または積層された2つ以上のコンデンサ素子)は、導電性接着剤を介して基板の上に載置されていてもよい。積層された複数のコンデンサ素子のうち、基板に最も近いコンデンサ素子の陰極形成部は、基板側に金属箔を有していてもよい。この金属箔は必要に応じて導電性接着剤を介して、基板に接触していてもよい。
【0066】
(スペーサ)
固体電解コンデンサは、必要に応じて、スペーサを含んでもよい。スペーサは、例えば、積層された複数のコンデンサ素子の隣接する陽極部の端部間および隣接する陰極部の端部間の少なくとも一方に配置される。スペーサは、導電性(金属製など)であってもよく、絶縁性であってもよい。絶縁性のスペーサを用いる場合、陽極部または陰極部の端面ととともに、封止体の外面からスペーサを露出させてもよい。絶縁性のスペーサは、例えば、熱可塑性樹脂、または硬化性樹脂で形成される。スペーサの材料としては、封止体の材料について例示される樹脂などを用いてもよい。
【0067】
(封止体)
コンデンサ素子(または積層された複数のコンデンサ素子)は、封止体で覆われることで封止される。陽極部および陰極部の少なくとも一方の端面が封止体の外面から露出するようにコンデンサ素子を封止してもよく、封止後、封止体を部分的に除去することで、外面を形成するとともに、陽極部および陰極部の少なくとも一方の端面を外面から露出させてもよい。陽極部および陰極部の一方と電気的に接続したリードの他端を、封止体から引き出した状態になるように、封止体で封止して、リードの他端と外部電極とを接続してもよい。また、所定の形状に折り曲げ加工した板状の外部リード端子を導電性のペースト等を介して、コンデンサ素子(または積層された複数のコンデンサ素子の最下層または最上層)において露出する陰極部の表面に貼り付けることにより、コンデンサ素子とリード端子との電気的接続を行ってもよい。
【0068】
封止体は、例えば、硬化性樹脂組成物の硬化物を含むことが好ましく、熱可塑性樹脂もしくはそれを含む組成物を含んでもよい。
【0069】
封止体は、例えば、射出成形などの成形技術を用いて形成してもよい。封止体は、例えば、所定の金型を用いて、硬化性樹脂組成物または熱可塑性樹脂(組成物)を、基板に支持されたコンデンサ素子を覆うように所定の箇所に充填することによって形成してもよい。
【0070】
硬化性樹脂組成物は、硬化性樹脂に加え、フィラー、硬化剤、重合開始剤、および触媒などから選択される少なくとも一種を含んでもよい。硬化性樹脂としては、熱硬化性樹脂が例示される。硬化剤、重合開始剤、触媒などは、硬化性樹脂の種類に応じて適宜選択される。
【0071】
硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリウレタン、ジアリルフタレート、不飽和ポリエステルなどが挙げられる。熱可塑性樹脂としては、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などが挙げられる。熱可塑性樹脂およびフィラーを含む熱可塑性樹脂組成物を用いてもよい。
【0072】
封止体の強度などを高める観点から、封止体はフィラーを含むことが好ましい。フィラーとしては、被膜について記載したフィラーから選択してもよい。封止体は、フィラーを一種含んでもよく、二種以上組み合わせて含んでもよい。
【0073】
(コンタクト層)
封止体から露出する陽極部および陰極部の端面の少なくとも一方は、コンタクト層を介して、外部電極と接続していてもよい。コンタクト層は、例えば、無電解Niめっき層で形成してもよく、無電解Niめっき層とこれを覆う無電解Agめっき層とで形成してもよい。コンタクト層を設ける場合、コンタクト層により陽極部または陰極部の端面と外部電極との電気的接続をより確実にすることができ、固体電解コンデンサの信頼性を高める上で有利である。
【0074】
コンタクト層は、封止体の表面は極力覆わず、封止体から露出した陽極部または陰極部の端面のみを覆うように選択的に形成してもよい。陽極部または陰極部の端面に選択的に無電解Niめっき層が形成されるように、無電解Niめっき層の形成に先立って、ジンケート処理を行ってもよい。
【0075】
(外部電極)
外部電極は、通常、コンデンサ素子の陽極部と接続する第1外部電極と、陰極部と接続する第2外部電極とを含む。各外部電極は、金属層を含んでもよい。金属層は、例えば、めっき層である。金属層は、例えば、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、錫(Sn)、銀(Ag)、および金(Au)よりなる群から選択される少なくとも1種を含む。金属層の形成には、例えば、電解めっき法、無電解めっき法、スパッタリング法、真空蒸着法、化学蒸着(CVD)法、コールドスプレー法、溶射法などの成膜技術を用いてもよい。
【0076】
各外部電極は、例えば、Ni層と錫層との積層構造を含んでもよい。各外部電極は、外表面が、はんだとの濡れ性に優れた金属であることが好ましい。このような金属として、たとえばSn、Au、Ag、Pd等が挙げられる。
【0077】
各外部電極は、例えば、導電性ペースト層とめっき層との積層構造を含んでもよい。
はんだとの濡れ性に優れる点で、めっき層として、上記のNi層と錫層との積層構造を有するめっき層(Ni/Snめっき層など)を採用してもよい。
【0078】
(導電性ペースト層)
導電性ペースト層は、コンデンサ素子または複数のコンデンサ素子の陽極部および陰極部の少なくとも一方の端面を覆うように形成してもよい。このとき、コンタクト層を介して、端面を覆うように導電性ペースト層を形成してもよい。また、陽極部または陰極部の端面だけでなく、この端面が露出した封止体の表面(側面など)を覆うように導電性ペースト層を形成してもよい。このようにして、コンデンサ素子の陽極部または陰極部と、導電性ペースト層とが電気的に接続される。
【0079】
導電性ペースト層は、導電性粒子および樹脂材料を含む導電性ペーストを、陽極部または陰極部の端面が露出した封止体の表面に塗布し、乾燥させることにより形成され得る。そのため、導電性ペースト層は、導電性粒子を含む導電性樹脂層と言うこともできる。樹脂材料は、封止体およびコンタクト層との接着に適しており、化学結合(例えば、水素結合)により接合強度を高めることができる。導電性粒子としては、例えば、銀、銅などの金属粒子や、カーボンなどの導電性の無機材料の粒子を用いることができる。
【0080】
導電性ペースト層は、コンデンサ素子の陽極部または陰極部の端面が露出した封止体の表面(例えば、側面)だけでなく、この表面と交差する表面(例えば、上面または底面)の一部を被覆してもよい。また、基板の表面がコンデンサ素子の外表面の一部を構成しているときは、基板の表面の一部を被覆してもよい。
【0081】
絶縁基板として、絶縁基板を含む積層基板を用いる場合、積層基板の素子積層体が載置される側と反対側に、外部電極(陰極部と電気的に接続する第2外部電極など)を予め形成してもよい。載置により、外部電極(第2外部電極など)は、積層基板に形成された配線パターン、および、表面の配線パターンと裏面の配線パターンとを接続するスルーホールを介して、コンデンサ素子の陽極部または陰極部(通常、陰極部)と電気的に接続され得る。この場合、基板を介して、第2外部電極と、各コンデンサ素子の陰極部との電気的接続がされる。裏面の配線パターン次第で、固体電解コンデンサ底面の中央領域に第2外部電極(陰極)を任意に配置することができる。例えば、第2外部電極を第1外部電極に近接して配置してもよい。
【0082】
図1は、本開示の一実施形態に係る固体電解コンデンサの構造を模式的に示す断面図である。
【0083】
図1に示すように、固体電解コンデンサ100は、積層された複数のコンデンサ素子10と、コンデンサ素子10を封止する封止体14と、第1外部電極21と、第2外部電極22と、を備える。図示例では、積層された複数のコンデンサ素子10は、基板17に支持されている。
【0084】
基板17は、絶縁基板17aと、絶縁基板17aの片方の主面を覆う被膜17bとを含む。基板17の水蒸気透過度は、30g/m・day以下である。これによって、基板17を通じた固体電解コンデンサ100内部への水分の侵入が抑制され、固体電解コンデンサの吸湿量が低減される。固体電解コンデンサ100がリフロー処理などの高温に晒された場合でも水分の気化による膨張応力がコンデンサ素子10などに加わることが軽減され、損傷が軽減されることで、ESRの変動を低く抑えることができる。図示例では、被膜17bは、絶縁基板17aのコンデンサ素子10を載置する側の主面(内側の主面)に形成している。しかし、この場合に限らず、絶縁基板17aの外側の主面に被膜17bを形成してもよく、双方の主面に被膜17bを形成してもよい。被膜17bは、例えば、被膜17bの構成成分またはその前駆体を含むコーティング剤を絶縁基板17aの主面に塗布し、乾燥または加熱(もしくは光照射)することによって形成される。そのため、被膜17bは、絶縁基板17aの主面に直接接着した状態である。よって、被膜17bと絶縁基板17aとの界面を通じた水分の侵入も抑制され、高い効果が得られる。
【0085】
各コンデンサ素子10は、陽極部を構成する陽極体3と、陰極部6とを備える。陽極体3は、例えば、陽極箔である。陽極体3は、芯部4と芯部4の表面(陽極体3の表層)に形成された多孔質部5とを有する。多孔質部5の少なくとも一部の表面には誘電体層(図示しない)が形成されている。陰極部6は、誘電体層の少なくとも一部を覆っている。陰極部6は、固体電解質層7および陰極引出層を含む。
【0086】
コンデンサ素子10は、一方の端部(第1端部)において陰極部6で覆われることなく、陽極体3が露出している。コンデンサ素子10の他方の端部(第2端部)は陰極部6で覆われている。陽極体3の陰極部6(特に、固体電解質層7)で覆われた部分を第2部分2と称し、それ以外の部分を第1部分1と称する。第1部分1は、陽極体3の陰極部6で覆われていない。第1部分1の端部が第1端部であり、第2部分2の端部が第2端部である。
【0087】
図示例では、第2部分2は、芯部4と、芯部4の表面に形成された多孔質部5とを有する。第1部分1では、表面に多孔質部5を有していてもよく、有していなくてもよい。誘電体層は、少なくとも第2部分2に形成された多孔質部5の表面に沿って形成されている。誘電体層の少なくとも一部は、多孔質部5の孔の内壁面を覆い、その内壁面に沿って形成されている。
【0088】
陰極部6は、誘電体層の少なくとも一部を覆う固体電解質層7と、固体電解質層7の少なくとも一部を覆う陰極引出層とを備える。誘電体層の表面は、陽極体3の表面の形状に応じた凹凸形状が形成されている。固体電解質層7は、例えば、このような誘電体層の凹凸を埋めるように形成される。陰極引出層は、例えば、固体電解質層7の少なくとも一部を覆うカーボン層などの第1層8と、第1層8の少なくとも一部を覆う第2層としての金属箔20とを備えていてもよい。
【0089】
金属箔20は、積層方向において隣接するコンデンサ素子10の第2部分2の間に介在している。金属箔20は、コンデンサ素子10の陰極部6の一部を構成し、積層方向において隣接するコンデンサ素子10間で共有されている。金属箔20とコンデンサ素子10との間に、導電性を有する接着層9が介在してもよい。接着層9には、例えば、導電性接着剤が用いられる。接着層9は、例えば、銀を含む。
【0090】
陽極体3の陰極部6と対向しない領域のうち、少なくとも陰極部6に隣接する部分には、陽極体3の表面を覆うように絶縁性の分離層(または絶縁部材)12を形成してもよい。これにより、陰極部6と陽極体3の露出部分(第1部分1)との接触が規制されている。分離層12は、例えば、絶縁性の樹脂層である。
【0091】
封止体14は、ほぼ直方体の外形を有し、固体電解コンデンサ100もほぼ直方体の外形を有する。図示例では、封止体14は、第1外面14aおよび第1外面14aとは反対側の第2外面14bを有する。各コンデンサ素子10の陽極部である陽極体3の第1端部の端面1aは、第1外面14aにおいて露出している。また、陰極部6を構成する金属箔20の端面20aは、第2外面14bにおいて封止体から露出している。
【0092】
封止体14から露出する金属箔20の端面20aのそれぞれおよび第2外面14bは、第2外部電極22で覆われている。金属箔20の端面20aには、コンタクト層15が端面20aを覆うように形成されている。第2外部電極22は、コンタクト層15を介して、陰極部6を構成する金属箔20の端面20aと電気的に接続している。
【0093】
固体電解コンデンサ100において、複数の陽極体3の第1端部の封止体14から露出する端面1aのそれぞれおよび第1外面14aは、第1外部電極21に覆われている。陽極体3の端面1aには、コンタクト層15が端面1aを覆うように形成されている。図示例では、封止体14の第1外面14aから、分離層12の端面も露出しており、この露出した端面も第1外部電極21で覆われている。第1外部電極21は、コンタクト層15を介して、陽極体3の端面1aと電気的に接続している。
【0094】
第1外部電極21は、例えば、銀ペースト層などの導電性ペースト層21Aと、導電性ペースト層21Aを覆うNi/Snめっき層21Bとを備える。同様に、第2外部電極22は、例えば、銀ペースト層などの導電性ペースト層22Aと、導電性ペースト層22Aを覆うNi/Snめっき層22Bとを備える。
【0095】
第1外部電極21は、封止体14の第1外面14a全体を覆うとともに、第1外面14aと垂直な第3外面および基板17のそれぞれの第1外面14a側の一部も覆っている。第2外部電極22も同様に、第2外面14b全体を覆うとともに、第2外面14bと垂直な第3外面14cおよび基板17のそれぞれの第2外面14b側の一部も覆っている。このような構成によって、第1外部電極21と第1外面14aとの間、および第2外部電極22と第2外面14bとの間の双方において、密着性をさらに高めることができる。基板17の一部を覆う第1外部電極21および第2外部電極22は、それぞれ、固体電解コンデンサ100の底面において露出している。これらの露出部分は、それぞれ、固体電解コンデンサ100の陽極端子および陰極端子を構成する。
【0096】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0097】
《固体電解コンデンサE1~E4およびC1~C2》
下記の要領で、図1に示すような積層された複数(具体的には、7つ)のコンデンサ素子10を含む固体電解コンデンサ(固体電解コンデンサE1~E4およびC1~C2)を作製し、その特性を評価した。
【0098】
(1)基板17の準備
E1~E4およびC1では、表1に示す成分を含むコーティング剤を用いて絶縁基板17aのコンデンサ素子10を載置する側の主面全体に被膜17bを形成した。C2では、被膜17bを形成せずに、絶縁基板17a上にコンデンサ素子10を載置した。絶縁基板17aとしては、平均厚さが100μmのガラスエポキシ基板を用いた。被膜17bは、コーティング剤を絶縁基板17aの主面全体にスクリーン印刷により塗布し、塗膜を、表1に示す温度で表1に示す時間、加熱乾燥させることによって形成した。このようにして、基板17を準備した。
【0099】
なお、被膜17bの形成には、以下のコーティング剤を用いた。
コーティング剤1:フッ素ゴム(フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体)を含むコーティング剤
コーティング剤2:エポキシ樹脂およびシリカ粒子を含むエポキシ系コーティング剤(コーティング剤中の乾燥固形分に占めるシリカ粒子の比率:5質量%)
コーティング剤3:クレゾールノボラック型エポキシ樹脂およびシリカ粒子を含むコーティング剤(コーティング剤中の乾燥固形分に占めるシリカ粒子の比率:55質量%)
【0100】
(2)陽極体3の準備
基材としてのアルミニウム箔(厚み:100μm)の両方の表面をエッチングにより粗面化することで、陽極体3を作製した。
【0101】
(3)誘電体層の形成
陽極体3の第2部分を、化成液に浸漬し、7Vの直流電圧を、20分間印加して、酸化アルミニウムを含む誘電体層を形成した。
【0102】
(4)固体電解質層7の形成
陽極体3の第1端部に分離層12を形成した。分離層12が形成された陽極体3の第2部分を覆うように導電性高分子を含む固体電解質層7を形成した。
【0103】
(5)陰極引出層の形成およびコンデンサ素子10の積層
上記(4)で得られた陽極体3を、黒鉛粒子を水に分散した分散液に浸漬し、分散液から取り出し後、加熱乾燥することにより、少なくとも固体電解質層7の表面に第1層8としてのカーボン層を形成した。
【0104】
第1層8が形成された7つの素子を、第1部分が重なるように、隣接する素子の第1層8間に、第2層としての金属箔20(アルミニウム箔、厚さ20μm)を介在させて積層した。このとき、第2層の金属箔20は、導電性接着剤を用いた接着層9を介して、隣接する第1層8に貼り付けた。こうして、第1層8、第2層としての金属箔20とを含む陰極引出層を形成するとともに、陰極引出層を備えるコンデンサ素子10を完成させた。各コンデンサ素子10において、陰極部6は、固体電解質層7および陰極引出層を含む。
【0105】
(6)封止体14による封止
上記(4)で得られた積層された7つのコンデンサ素子10を、エポキシ系接着剤を用いて上記(1)で準備した基板17上(C2では、絶縁基板17a上、C2以外では、被膜17b上)に載置し、モールド成形により、コンデンサ素子10の周囲に、絶縁性樹脂で形成された封止体14を形成した。封止体14の側面側の部分をダイシングにより切断して、第1外面14aおよび第2外面14bを形成した。このとき、第1外面14aから各コンデンサ素子10の陽極体3の端面1aが露出し、第2外面14bから金属箔20の端面20aが露出するように封止体14を切断した。このようにして、第1外面14aから陽極体3の端面1aが露出し、第2外面14bから陰極部6を構成する金属箔20の端面20aが露出した状態の前駆体を得た。封止体14の第1外面14aおよび第2外面14b、ならびに第1外面14aから露出した分離層12の端面には、洗浄処理および親水化処理を行った。
【0106】
(7)コンタクト層15の形成
上記(6)で得られた前駆体を用いて、第1外面14aから露出した陽極体3の端面1aを覆うように、無電解Niめっき層を形成し、次いで、無電解Niめっき層上に、無電解Agめっき層を形成した。このようにして、無電解Niめっき層および無電解Agめっき層からなるコンタクト層15を形成した。
【0107】
(8)第1外部電極21および第2外部電極22の形成
上記(7)で形成したコンタクト層15と第1外面14aおよび第2外面14bのそれぞれとを覆うように、第1外部電極21および第2外部電極22をそれぞれ形成した。
【0108】
より具体的には、銀粒子と樹脂とを含む導電性ペーストを、コンタクト層15および封止体の外面に塗布し、加熱乾燥することによって、導電性ペースト層21Aおよび22Aをそれぞれ形成した。次いで、導電性ペースト層21Aおよび22Aのそれぞれを覆うように、電解Niめっき層および電解Snめっき層を形成した。このようにして、Ni/Snめっき層21Bおよび22Bのそれぞれを形成した。めっき層の表面を水洗し、乾燥させることによって、第1外部電極21および第2外部電極22を有する固体電解コンデンサを得た。同様の手順で各例について合計20個の固体電解コンデンサを作製した。
【0109】
(9)評価
得られた固体電解コンデンサまたは基板17を用いて下記の評価を行った。
【0110】
(a)ESRの測定
20℃の環境下で、4端子測定用のLCRメータを用いて、20個の固体電解コンデンサのそれぞれについて、周波数100kHzにおける初期のESR(mΩ)を測定した。
【0111】
次いで、以下の手順で吸湿リフロー試験を行った。
まず、30℃および60%RHの恒温槽内で、固体電解コンデンサを168時間静置した。恒温槽から取り出した固体電解コンデンサを、25℃に冷却した。次いで、固体電解コンデンサに、IPC/JEDEC J-STD-020Dに則ったリフロー処理を行った。具体的には、固体電解コンデンサを、保持温度:150~200℃、および保持時間:180秒以内で予備加熱した。予備加熱後の固体電解コンデンサを、255℃以上の温度(最高温度260℃)で30秒間加熱した。このときの最高温度260℃での加熱は10秒以内とした。次いで、25℃まで10分かけて冷却し、この加熱と冷却とをさらに2回(つまり、合計3回)繰り返した。そして、20℃で、上記と同様の手順で、固体電解コンデンサのESRを測定した。吸湿リフロー試験後のESRから初期のESRを減じることによって、吸湿リフロー試験によるESRの変動量を求め、20個の平均値(mΩ)および標準偏差σ(mΩ)を求めた。
【0112】
(b)被膜17bの厚さおよび水の接触角、基板17の水蒸気透過度の測定
既述の手順で被膜17bの厚さの平均値(μm)、被膜17bに対する水の接触角(°)を測定した。
また、既述の手順で、基板17の水蒸気透過度(g/m・day)を測定した。
【0113】
(c)固体電解コンデンサの吸湿量
既述の手順で、実施例4の固体電解コンデンサの単位体積当たりの吸湿量(mg/cm)(または単位表面積当たりの吸湿量(μg/cm))を求め、20個の平均値を求めた。その結果、固体電解コンデンサの吸湿量は、3.7mg/cm(または205μg/cm)であった。
【0114】
評価結果を表1に示す。表1において、E1~E4は実施例であり、C1~C2は比較例である。
【0115】
【表1】
【0116】
表1に示されるように、基板17の水蒸気透過度が30g/m・dayを超える場合には、吸湿リフローによるESR変動量が大きく、個体間のばらつきも大きくなった(C1およびC2)。それに対し、基板17の水蒸気透過度が30g/m・day以下の場合には、C1やC2に比べて、吸湿リフローによるESR変動量が低減されており、個体間のばらつきも低減されている(E1~E4)。E1~E4で吸湿リフローによるESR変動が低く抑えられたのは、被膜17bによって、高湿度条件下でも基板17を通じた固体電解コンデンサ内への水分の侵入が抑制されたためと考えられる。実際に、E1~E4では、被膜に対する水の接触角も90°以上と大きく、撥水性が高い。このように、E1~E4では、基板17を通じた水分の侵入が抑制されたことで、リフロー処理によって固体電解コンデンサが高温に晒されても、水分の気化に伴う膨張が抑制され、コンデンサ素子等に加わる応力が低減されたことで、損傷が抑制され、ESRの変動が抑えられたと考えられる。また、固体電解コンデンサ内部で構成部材に加わる応力が大きい場合には、損傷が生じる部分がばらつくため、ESRの変動幅にもばらつきが生じる。E1~E4では、このようなばらつきが抑制されるため、ESRの変動量の標準偏差も小さくなったと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本開示に係る固体電解コンデンサは、絶縁基板を含む基板を通じた内部への水分の侵入を抑制することができ、リフロー処理などの高温に晒された場合のESRの変動を低く抑えることができる。よって、本開示に係る固体電解コンデンサは、高い信頼性が求められる様々な用途に利用でき、高い耐熱性が求められる用途、高湿度環境で使用される用途などにも有用である。しかし、固体電解コンデンサの用途はこれらのみに限定されない。
【符号の説明】
【0118】
1 第1部分(陽極引出部)
1a 第1端部の端面
2 第2部分(陰極形成部)
3 陽極体
4 芯部
5 多孔質部
6 陰極部
7 固体電解質層
8 第1層
9 第2層
10 コンデンサ素子
12 分離層(絶縁部材)
14 封止体
14a 封止体の第1外面
14b 封止体の第2外面
15 コンタクト層
17 基板
17a:絶縁基板
17b:被膜
20 陰極箔
20a 金属箔の端面
21 第1外部電極
21A 銀ペースト層
21B Ni/Snめっき層
22 第2外部電極
22A 銀ペースト層
22B Ni/Snめっき層
100 固体電解コンデンサ
図1