(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150748
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】同報無線システム、並びに、同報無線システム用の拡声子局および信号処理装置
(51)【国際特許分類】
G08B 27/00 20060101AFI20231005BHJP
H04H 20/59 20080101ALI20231005BHJP
H04H 60/13 20080101ALI20231005BHJP
G08B 23/00 20060101ALI20231005BHJP
H03G 5/16 20060101ALI20231005BHJP
H04R 27/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
G08B27/00 C
H04H20/59
H04H60/13
G08B23/00 520B
H03G5/16 165
H04R27/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060003
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中川原 圭太郎
(72)【発明者】
【氏名】中谷 豊
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 逸人
【テーマコード(参考)】
5C087
5J030
【Fターム(参考)】
5C087AA02
5C087AA37
5C087AA44
5C087BB20
5C087DD02
5C087FF01
5C087FF02
5C087FF16
5C087GG01
5C087GG28
5C087GG51
5C087GG66
5C087GG85
5J030AA06
5J030AA07
5J030AA10
5J030AA12
5J030AA14
5J030AA15
5J030AB01
5J030AB02
5J030AC01
5J030AC16
5J030AC19
5J030AC21
5J030AC22
5J030AC27
5J030AC28
5J030AC29
(57)【要約】
【課題】住民に音声を正しく伝えることができる同報無線システム、並びに、同報無線システム用の拡声子局および信号処理装置を提供する。
【解決手段】本発明の一形態に係る同報無線システムは、親局設備と、屋外に設置された少なくとも1つの拡声子局とを備え、前記親局設備から前記拡声子局へ配信された音声信号を含む拡声情報を前記拡声子局から放送する同報無線システムであって、前記親局設備は、前記音声信号と、前記親局設備または前記拡声子局が設置される場所の温度、湿度および天候のうち少なくとも1つに関連するデータを含む環境情報とを、前記拡声子局へ送信する送信部を有し、前記拡声子局は、前記音声信号と前記環境情報とを受信する受信部と、前記音声信号を再生する拡声器と、前記環境情報に基づいて、前記拡声器で再生される音声の明瞭性に関する評価指標が所定の基準値となるように前記音声信号を補正する信号処理装置と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
親局設備と、屋外に設置された少なくとも1つの拡声子局とを備え、前記親局設備から前記拡声子局へ配信された音声信号を含む拡声情報を前記拡声子局から放送する同報無線システムであって、
前記親局設備は、前記音声信号と、前記親局設備または前記拡声子局が設置される場所の温度、湿度および天気のうち少なくとも1つに関連するデータを含む環境情報とを、前記拡声子局へ送信する送信部を有し、
前記拡声子局は、前記音声信号と前記環境情報とを受信する受信部と、前記音声信号を再生する拡声器と、前記環境情報に基づいて、前記拡声器で再生される音声の明瞭性に関する評価指標が所定の基準値となるように前記音声信号を補正する信号処理装置と、を有する
同報無線システム。
【請求項2】
請求項1に記載の同報無線システムであって、
前記信号処理装置は、
前記拡声器で再生される音声信号について前記屋外の温度、湿度および天気のうち少なくとも1つが異なる複数種の気象条件ごとにあらかじめ取得した、前記評価指標として前記所定の基準値が得られる周波数パターンを記憶する記憶部と、
前記環境情報に対応する周波数パターンを前記記憶部から抽出し、抽出される周波数パターンに基づいて前記音声信号の周波数特性を補正する制御部と
を有する
同報無線システム。
【請求項3】
請求項2に記載の同報無線システムであって、
前記記憶部は、前記拡声器の周波数特性である拡声器周波数特性をさらに記憶し、
前記制御部は、前記環境情報と前記拡声器周波数特性とに基づいて、前記音声信号の周波数特性を補正する
同報無線システム。
【請求項4】
請求項3に記載の同報無線システムであって、
前記拡声子局は、前記拡声器周波数特性が異なる複数の拡声器を有し、
前記記憶部は、前記複数の拡声器各々についての周波数特性である複数の拡声器周波数特性をさらに記憶する
同報無線システム。
【請求項5】
請求項2~4のいずれか1つに記載の同報無線システムであって、
前記記憶部に記憶される各周波数パターンは、前記音声信号に対する補正用データである
同報無線システム。
【請求項6】
請求項5に記載の同報無線システムであって、
前記親局設備は、前記親局設備または前記拡声子局が設置される地域の気象データを取得するデータ取得部をさらに有し、温度、湿度および天気のうち少なくとも1つに応じて予め類型化された複数の識別子のうち前記気象データに対応する識別子を前記環境情報として送信し、
前記記憶部は、前記周波数パターンとして前記複数の識別子に各々対応する複数の補正用データを記憶する
同報無線システム。
【請求項7】
請求項2~6のいずれか1つに記載の同報無線システムであって、
前記信号処理装置は、前記音声信号の再生前および再生後に、前記親局設備から送信され又は前記記憶部に記憶された所定の予備音声信号を合成する音声合成部をさらに有し、
前記制御部は、前記音声信号および前記予備音声信号のうち、前記音声信号のみを選択的に補正する
同報無線システム。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1つに記載の同報無線システムであって、
前記親局設備は、前記拡声子局が設置される地域の気象データを取得するデータ取得部をさらに有し、取得した前記気象データに基づいて前記環境情報を生成する
同報無線システム。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1つに記載の同報無線システムであって、
前記評価指標は、SII(Speech Intelligibility Index)である
同報無線システム。
【請求項10】
請求項1~9に記載の同報無線システムであって、
前記所定の基準値は、前記拡声子局から所定距離隔てた地点における所定の被験者を対象としてあらかじめ測定された、前記拡声子局から放送される前記音声信号に対する所定の了解度を満たす値である
同報無線システム。
【請求項11】
屋外に設置され、親局設備から配信された音声信号を含む拡声情報を放送する同報無線システム用の拡声子局であって、
前記音声信号と、前記屋外の温度、湿度および天気のうち少なくとも1つに関連するデータを含む環境情報とを受信する受信部と、
前記音声信号を再生する拡声器と、
前記環境情報に基づいて、前記拡声器で再生された音声の明瞭性に関する評価指標が所定の基準値となるように、前記音声信号を補正する信号処理装置と
を備える拡声子局。
【請求項12】
屋外に設置され、親局設備から配信された音声信号を含む拡声情報を放送する同報無線システム用の拡声子局であって、
前記音声信号を受信する受信部と、
前記屋外の温度、湿度、風および天気のうち少なくとも1つに関連するデータを含む環境情報を取得する計測器と、
前記音声信号を再生する拡声器と、
前記環境情報に基づいて、前記拡声器で再生された音声の明瞭性に関する評価指標が所定の基準値となるように、前記音声信号を補正する信号処理装置と
を備える拡声子局。
【請求項13】
請求項11または12に記載の拡声子局であって、
前記拡声器は、複数の拡声器を含み、
前記信号処理装置は、前記屋外の風向に応じて前記複数の拡声器で各々再生される音声信号を個別に補正する
拡声子局。
【請求項14】
親局設備から屋外の拡声子局へ配信された音声信号を含む拡声情報を前記拡声子局から放送する同報無線システム用の信号処理装置であって、
前記拡声子局の拡声器で再生される前記音声信号について前記屋外の温度、湿度および天気のうち少なくとも1つが異なる複数種の気象条件ごとにあらかじめ設定した、音声の明瞭性に関する評価指標として所定の基準値が得られる周波数パターンを記憶する記憶部と、
前記屋外の現在の気象条件に対応する1つの周波数パターンを前記記憶部から抽出し、抽出した前記周波数パターンが得られるように前記音声信号を補正する制御部と
を備える信号処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば防災無線放送に用いられる同報無線システムの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
市町村などにおける防災無線放送には、同報無線システムが広く運用されている。同報無線システムは、親局設備から屋外の各所に設置された複数の無線拡声子局へ同時配信された音声情報を、各無線拡声子局から防災地点や住民宅へ放送する情報伝達手段である。このような目的から、同報無線システムには、各無線拡声子局がカバーするエリアの住民に放送内容が明確かつ正確に伝達されることが望まれる。
【0003】
例えば特許文献1には、親局設備からの音声情報を屋外拡声子局のスピーカから拡声音声情報として出力する際に、音圧計で測定したスピーカ周辺の雑音音圧レベルに応じて、拡声音声情報の音量レベルを出力増幅器にて調整する同報無線システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
音声の伝達特性は、季節あるいは天気によって大きく変化する。したがって、音声の音量が十分なレベルでも、住民が音声を正しい単語で認識できないことがあり、このため、住民に防災情報を正しく伝達できないおそれがあるという問題がある。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、季節、天気などの様々な条件に関わらず、住民に音声が正しく伝わりやすくなる同報無線システム、並びに、同報無線システム用の拡声子局および信号処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態に係る同報無線システムは、親局設備と、屋外に設置された少なくとも1つの拡声子局とを備え、前記親局設備から前記拡声子局へ配信された音声信号を含む拡声情報を前記拡声子局から放送する同報無線システムであって、
前記親局設備は、前記音声信号と、前記親局設備または前記拡声子局が設置される場所の温度、湿度および天気のうち少なくとも1つに関連するデータを含む環境情報とを、前記拡声子局へ送信する送信部を有し、
前記拡声子局は、前記音声信号と前記環境情報とを受信する受信部と、前記音声信号を再生する拡声器と、前記環境情報に基づいて、前記拡声器で再生される音声の明瞭性に関する評価指標が所定の基準値となるように前記音声信号を補正する信号処理装置と、を有する。
【0008】
この同報無線システムによれば、拡声子局が設置される屋外の温度、湿度、天気などの気象条件に応じて目標とする評価指標が得られるように音声信号を補正する。これにより、住民に音声が正しく伝わりやすくなる。
【0009】
前記信号処理装置は、記憶部と、制御部とを有してもよい。
前記記憶部は、前記拡声器で再生される音声信号について前記屋外の温度、湿度および天気のうち少なくとも1つが異なる複数種の気象条件ごとにあらかじめ取得した、前記評価指標として前記所定の基準値が得られる周波数パターンを記憶する。
前記制御部は、前記環境情報に対応する周波数パターンを前記記憶部から抽出し、抽出される周波数パターンに基づいて前記音声信号の周波数特性を補正する。
【0010】
前記記憶部は、前記拡声器の周波数特性である拡声器周波数特性をさらに記憶し、前記制御部は、前記環境情報と前記拡声器周波数特性とに基づいて、前記音声信号の周波数特性を補正してもよい。
あるいは、前記拡声子局は、前記拡声器周波数特性が異なる複数の拡声器を有し、前記記憶部は、前記複数の拡声器各々についての周波数特性である複数の拡声器周波数特性を記憶してもよい。
これにより、拡声器周波数特性をも考慮に入れて、音声信号を補正することができる。
【0011】
前記記憶部に記憶される各周波数パターンは、前記音声信号に対する補正用データであってもよい。
【0012】
前記親局設備は、前記親局設備または前記拡声子局が設置される地域の気象データを取得するデータ取得部をさらに有し、温度、湿度および天気のうち少なくとも1つに応じて予め類型化された複数の識別子のうち前記気象データに対応する識別子を前記環境情報として送信しもよい。この場合、前記記憶部は、前記周波数パターンとして前記複数の識別子に各々対応する複数の補正用データを記憶してもよい。
【0013】
前記信号処理装置は、前記音声信号の再生前および再生後に、前記親局設備から送信され又は前記記憶部に記憶された所定の予備音声信号を合成する音声合成部をさらに有し、前記制御部は、前記音声信号および前記予備音声信号のうち、前記音声信号のみを選択的に補正してもよい。
【0014】
前記親局設備は、前記拡声子局が設置される地域の気象データを取得するデータ取得部をさらに有し、取得した前記気象データに基づいて前記環境情報を生成してもよい。
【0015】
前記評価指標は、SII(Speech Intelligibility Index)であってもよい。
【0016】
前記所定の基準値は、前記拡声子局から所定距離隔てた地点における所定の被験者を対象としてあらかじめ測定された、前記拡声子局から放送される前記音声信号に対する所定の了解度を満たす値であってもよい。
【0017】
本発明の一形態に係る拡声子局は、屋外に設置され、親局設備から配信された音声信号を含む拡声情報を放送する同報無線システム用の拡声子局であって、受信部と、拡声器と、信号処理装置とを備える。
前記受信部は、前記音声信号と、前記屋外の温度、湿度および天気のうち少なくとも1つに関連するデータを含む環境情報とを受信する。
前記拡声器は、前記音声信号を再生する。
前記信号処理装置は、前記環境情報に基づいて、前記拡声器で再生された音声の明瞭性に関する評価指標が所定の基準値となるように、前記音声信号を補正する。
【0018】
本発明の他の形態に係る拡声子局は、屋外に設置され、親局設備から配信された音声信号を含む拡声情報を放送する同報無線システム用の拡声子局であって、受信部と、計測器と、拡声器と、信号処理装置とを備える。
前記受信部は、前記音声信号を受信する。
前記計測器は、前記屋外の温度、湿度、風および天気のうち少なくとも1つに関連するデータを含む環境情報を取得する。
前記拡声器は、前記音声信号を再生する。
前記信号処理装置は、記環境情報に基づいて、前記拡声器で再生された音声の明瞭性に関する評価指標が所定の基準値となるように、前記音声信号を補正する。
【0019】
前記拡声器は、複数の拡声器を含み、前記信号処理装置は、前記屋外の風向に応じて前記複数の拡声器で各々再生される音声信号を個別に補正してもよい。
【0020】
本発明の一形態に係る信号処理装置は、親局設備から屋外の拡声子局へ配信された音声信号を含む拡声情報を前記拡声子局から放送する同報無線システム用の信号処理装置であって、記憶部と、制御部とを備える。
前記記憶部は、前記拡声子局の拡声器で再生される前記音声信号について前記屋外の温度、湿度および天気のうち少なくとも1つが異なる複数種の気象条件ごとにあらかじめ設定した、音声の明瞭性に関する評価指標として所定の基準値が得られる周波数パターンを記憶する。
前記制御部は、前記屋外の現在の気象条件に対応する1つの周波数パターンを前記記憶部から抽出し、抽出した前記周波数パターンが得られるように前記音声信号を補正する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、季節、天気などの様々な条件に関わらず、住民に音声が正しく伝わりやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る同報無線システムの概略構成図である。
【
図2】SIIと了解度との関係の一例を示す図である。
【
図4】点音源スピーカを用いた時の音声信号の補正の有無による了解度の違いを説明する一実験結果である。
【
図5A】4つに類型化された季節・天気の条件を示す説明図である。
【
図5B】晴天/点音源スピーカの組み合わせによるSIIの相関マップと、その了解度IDの対応テーブルを示す図である。
【
図5C】悪天候/点音源スピーカの組み合わせによるSIIの相関マップと、その了解度IDの対応テーブルを示す図である。
【
図5D】晴天/線音源スピーカの組み合わせによるSIIの相関マップと、その了解度IDの対応テーブルを示す図である。
【
図5E】悪天候/線音源スピーカの組み合わせによるSIIの相関マップと、その了解度IDの対応テーブルを示す図である。
【
図6】了解度ID決定テーブルを示す図であり、(A)は晴天用のテーブル、(B)は悪天候用のテーブルである。
【
図7】親局設備から送信される環境情報(了解度ID)から補正周波数パターンを決定する方法を説明する同報無線システムの概念図である。
【
図8】各拡声子局に格納されるイコライズIDリストとイコライズ変換リストの一例を示す図である。
【
図9】上記同報無線システムの動作手順の一例を示すフローチャートである。
【
図10】本発明の第2の実施形態に係る同報無線システムにおける拡声子局を示す正面図である。
【
図11】上記拡声子局における拡声器の配置例を示す概略平面図である。
【
図12】
図10に示す拡声子局の構成の変形例を示す図である。
【
図13】拡声器の設置方向と風速との関係を説明する図である。
【
図14】複数の拡声器のグループ化を説明する図である。
【
図15】風速と降雨量に基づいて算出される判定値に応じて用意された了解度ID決定テーブルを示す図である。
【
図16】無風時における各拡声子局の音達範囲(制御前)を示す図である。
【
図17】強風時における各拡声子局の音達範囲(制御前)を示す図である。
【
図18】強風時における各拡声子局の一制御例を示す図である。
【
図19】強風時における各拡声子局の最適制御例を示す図である。
【
図20】強風・豪雨時における各拡声子局の音達範囲(制御前)を示す図である。
【
図21】強風・豪雨時における各拡声子局の最適制御例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0024】
<第1の実施形態>
[同報無線システム]
図1は、本発明の一実施形態に係る同報無線システムの概略構成図である。
本実施形態の同報無線システム100は、親局設備10と、屋外に設置された複数の拡声子局20とを備え、親局設備10から拡声子局20へ音声信号を一斉配信し、配信された音声信号を含む拡声情報を拡声子局20から放送する。同報無線システム100は、例えば、地域住民へ防災情報を伝達する防災行政無線システムとして運用される。
【0025】
親局設備10は、例えば、市役所等の行政機関、あるいは、学校や公民館等の公共施設に設置される。拡声子局20は、市区町村が管轄する地域ごとに少なくとも1つずつ設置される。1つの拡声子局20が音声を伝達できる範囲(音達範囲)は、各拡声子局20において異なっていてもよいし、一部が重複していてもよい。
【0026】
なお、拡声子局20の設置数は複数に限られず、1つであってもよい。また、上記構成に加えて、親局設備10からの通信を拡声子局20へ中継する中継局が設置されてもよい。
【0027】
[親局設備]
親局設備10は、操作卓11と、制御装置12と、送信機13とを有する。
【0028】
操作卓11は、入力装置111と、表示装置112と、データ取得部113とを有する。入力装置111は、各拡声子局20へ送信される音声情報を入力するためのもので、タッチパネルやマウス、キーボードのほか、音声入力用のマイクロフォンなどを含む。入力装置111は、例えば、キーボード等で入力した音声情報を音声データに変換する。表示装置112は、入力装置111で入力された各種情報を表示する画面を含む。データ取得部113は、ネットワークNを介してサーバ装置1に接続され、拡声子局20が設置される市区町村に近い観測点における現在の気象データを取得する。サーバ装置1は、例えば、気象庁のウェブサーバであってもよい。
【0029】
気象データは、例えば、温度(気温)、湿度、天気、風量(風向きを含む)などが挙げられる。ここで、本明細書において天気とは、温度・湿度を含まない、晴れ/雨/曇りなどの空模様を意味し、少なくとも降雨の有無あるいは雨量(ゼロを含む)がわかればよい。取得した気象データは、制御装置12により自動的に取り込まれ、あるいは、入力装置111の操作により入力される。
【0030】
なお、操作卓11は、親局設備10に付属された機器である場合に限られず、親局設備10とは別の機器であってもよい。すなわち、操作卓11は、親局設備10とは異なる場所に設置されてもよく、この場合、操作卓11は、親局設備10と有線又は無線で通信可能に接続される。
【0031】
制御装置12は、入力装置111で生成された音声データに基づいて拡声子局20へ送信される音声信号を生成する。制御装置12はさらに、データ取得部113で取得した気象データのうち、親局設備10または各拡声子局20が設置される場所の温度、湿度および天気のうち少なくとも1つに関連する天候データを含む環境情報を生成する。本実施形態では、温度、湿度および天気のうち少なくとも1つに応じて予め類型化された複数の識別子のうち、データ取得部113で取得された気象データに対応する識別子が環境情報として各拡声子局20へ送信される。上記識別子の詳細については後述する。
【0032】
なお、制御装置12は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等のコンピュータに用いられるハードウェア要素および必要なソフトウェアにより実現され得る。制御装置12は、操作卓11の一部であってもよい。
【0033】
送信機13は、制御装置12において生成された音声信号および環境情報を含む拡声情報を各拡声子局20へ無線送信する通信装置である。送信機13は、上記音声信号を所定の音声コーデックに符号化する変調器などを含む。なお、上記変調器は、制御装置12が備えていてもよい。
【0034】
[拡声子局]
拡声子局20は、受信機21と、拡声器22と、イコライザ23と、信号処理装置24とを有する。
【0035】
受信機21は、親局設備10から送信される音声信号および環境情報を含む拡声情報を受信する通信装置である。受信機21は、受信した上記拡声情報をデコードする復調器を有する。なお、上記復調器は、拡声器22あるいは信号処理装置24が備えていてもよい。
【0036】
拡声器22は、受信機21で受信した音声信号を音として再生するスピーカである。拡声器22は、各拡声子局20に少なくとも1つ設置される。拡声器22は、音声信号の音圧レベルを増幅させる増幅器を含む。拡声器22は、あらかじめ設定された音達範囲にわたって伝達できる音圧レベルで音声信号を再生する。拡声器22の数や種類は特に限定されず、単一の点音源あるいは線音源スピーカであってもよいし、複数の点音源あるいは線音源スピーカであってもよいし、点音源および線音源を同時に含む複数のスピーカであってもよい。なお、点音源とは、例えばストレートホーン型のような一般的な特性を有するスピーカをいい、線音源とは、例えばラインアレイ型のような点音源よりも高音域を強調した特性を有するスピーカをいう。
【0037】
イコライザ23は、信号処理装置24からの制御指令に基づき、拡声器22で再生される音声信号の周波数特性を変更する音響機器である。イコライザ23は、音声信号の特定の周波数帯域を強調し、あるいは減衰させることで、拡声器22の音達範囲にわたって音声の可聴性が向上するように音声信号の伝達特性を改善する。イコライザ23は、拡声器22の保護と音声品質の確保を目的とし、入力された音声信号の強度に対して強調量を適応的に調整する機能も有する。
【0038】
一般に、音声の伝達特性は、季節あるいは天気によって大きく変化する。例えば、夏に比べて、冬は気温および湿度が低いため、高音域(例えば4kHz以上)の周波数成分が遠くへ届きにくくなる。また、晴天時に比べて雨天時の方が、降雨での騒音等によって音声伝達特性が悪化しやすい。つまり、屋外の気象条件によっては、拡声器22で再生される音声の音量が十分なレベルでも音声を正しい単語で認識させることができないことがあり、その結果、住民に防災情報を正しく伝達できないおそれがある。
【0039】
そこで本実施形態の拡声子局20は、親局設備10から送信される環境情報に基づき、拡声器22で再生される音声の明瞭性に関する評価指標が所定の基準値となるように音声信号を補正する信号処理装置24を備える。これにより、季節や天気の影響を抑えて住民に防災情報を正しく伝達しやすくなる。
【0040】
上記評価指標とは、例えば、AI(Articulation Index)、SII(Speech Intelligibility Index)、STI(Speech Transmission Index)などの国際規格で標準化された音声の明瞭性に関する客観的評価指標をいう。例えば、SIIは、「ANSI S3.5-1997」として標準化されており、基本的には、区分した周波数帯域毎に信号対雑音比と周波数別の係数(周波数別の明瞭度への寄与率)から周波数別の明瞭度指数を求め、それらの総和により全体の明瞭度指数を求める。これらの評価指標は、音声信号の周波数や音圧レベル、気温や湿度、騒音などの環境因子から、音声の明瞭性に関する評価値を理論的に導き出せる。以下、この評価指標を物理的評価指標ともいう。本実施形態ではこの物理的評価指標を基準に音声信号を補正することで、これら環境因子に左右されない明瞭な音声を再生することを目的とする。
【0041】
物理的評価指標における上記所定の基準値とは、信号処理装置24からの制御指令に基づきイコライザ23において実行される音声信号の補正処理に際して基準となる当該物理的評価指標の具体的な値を意味する。基準値を設定するにあたり、本実施形態では、SIIなどとは異なる評価指標である了解度(音声了解度)を利用する。
【0042】
図2は、上記物理的評価指標と了解度との関係を示す一実験結果である。この実験では、スピーカの音源としてストレートホーン型の点音源とラインアレイ型の線音源の2種類を用い、試験用音源および屋外環境を同一の条件としてSIIと単語了解度との関係を評価した。図中、横軸はSII、縦軸は単語了解度である。
同図に示すように、SIIの値が高くなるほど単語了解度も高くなる傾向を示し、線音源および点音源のいずれの場合においても、SIIが約0.7以上で単語了解度は概ね85%程度であった。なお同図の結果はあくまでも一例であり、測定環境やスピーカの周波数特性などに応じて、SIIと了解度の定量的な関係は変化する。したがって,SIIの値は一般に0.45以上が好ましいとされるが、
図2のようなSIIと了解度の関係をあらかじめ実験で求めておき、了解度によって設定した基準値をSIIに換算して用いても良い。
【0043】
音声了解度は、単語あるいは文章がどれだけ正確に相手に伝わるかを表す値であって、受話者が完全に了解できた数と送話した数との比のパーセントで表される。音声了解度は、複数の被験者に対して実際に行った聴取実験に基づいて測定されるため、物理的評価指標とは異なり、心理的な評価指標ともいえる。音声了解度の種類としては、例えば、文章了解度と単語了解度がある。文章了解度は文章単位での了解度であり、単語了解度は個々の単語の了解度である。
【0044】
了解度の測定には、例えば、拡声子局20のスピーカ(拡声器22)から試験用音源を再生し、確認地点において聴こえた通りに書き取る試験を行う。再生音圧レベルは、緊急時設定(最大音圧レベル)とする。試験方法としては、連単語について、単語単位ですべての音節が正しく書き取れたかどうかを採点する。すべての確認者(被験者)のデータをまとめ、正答率を算出し、その正答率を了解度とする。1計測条件あたり、人数×単語数が100以上になるように、試験用音源と確認者の数を確保する。確認者は、聴覚検査で著しい聴力の低下が認められない者など通常の聴力を有する者とする。試験用音源に対する親密度および回答方法に対する熟練度統制の観点から、試験用音源の言語の能力が十分に高い者を充てる。また、試験用音源を事前に確認者に知らせることのないようにする。
【0045】
本実施形態において上記所定の基準値は、拡声子局20から所定距離隔てた地点における所定の被験者を対象としてあらかじめ測定された、拡声子局20から放送される音声信号に対する所定の了解度を満たす値である。この所定の了解度は、目標とする了解度であって、その値は高いほど好ましい。この目標とする了解度に対応するSIIに近づくように音声信号の周波数特性を補正することで、補正前に比べて了解度を向上させることができる。
【0046】
また、上記所定距離は、拡声子局20の音達範囲内の任意の距離をいう。音圧レベルは距離が長いほど減衰するため、了解度の測定地点は、上記音達範囲において拡声子局20から比較的遠い地点とし、本実施形態では約580mとした。上記基準値として設定される了解度は、季節や雨量などの気象条件に関係なく一定値であってもよいし、気象条件に応じて異なる値であってもよい。
【0047】
上述のように音声の伝達特性は季節(気温、湿度)や騒音(雨量)などの気象条件により変動するため、音声の伝達特性の変動に伴って音声の了解度も低下しやすい。しかし、このような場合においても、気象条件に合わせて拡声器22で再生される音声を適切にイコライジングすることで、了解度を改善することは可能である。そこで本実施形態では、晴天時や悪天候時などのシーン別にレベル調整した了解度向上パターン(晴天モード、雨天モードなど)をあらかじめ準備し、天候に合わせて拡声器22から再生される音声の周波数特性を補正する。これにより、拡声器22の音達範囲内の地域住民に対して聞き取りやすい音声情報を提示可能とする。
【0048】
[信号処理装置]
以下、信号処理装置24の詳細について説明する。
図1に示すように、各拡声子局20における信号処理装置24は、記憶部241と、制御部242と、音声合成部243とを有する。
【0049】
記憶部241は、ハードディスクドライブや半導体メモリ等の情報記憶装置である。記憶部241は、拡声器22で再生される音声信号を補正するための複数の周波数パターンを記憶する。これらの周波数パターンは、親局設備10から送信される音声信号に掛け合わせることで、拡声器22の音達範囲において音声信号の物理的評価指標(本実施形態ではSII)が所定の基準値となるように音声信号を補正するためのデータである。以下、上記周波数パターンを補正周波数パターンともいう。
【0050】
補正周波数パターンは、拡声子局20が設置される屋外の温度、湿度、天気、風速などのうち少なくとも1つが異なる複数種の気象条件ごとにあらかじめ設定される。気象条件としては、例えば、夏(高温、高湿)用の補正周波数パターン、冬(低温、低湿)用の補正周波数パターン、および、降雨時の補正周波数パターンなどが挙げられる。夏用および冬用の補正周波数パターンは、それぞれ異なる温度および湿度の組み合わせに対応する複数のパターンが用意されてもよい。夏用および冬用の補正周波数パターンに加えて、春用および秋用の補正周波数パターンが用意されてもよい。降雨時の補正周波数パターンについても同様に、異なる雨量に対応する複数のパターンが用意されてもよい。
【0051】
例えば、冬用の補正周波数パターンには、夏用の補正周波数パターンと比較して、高音域が強調された周波数パターンが適用できる。また、夏用の補正周波数パターンであって、降雨量が比較的多い場合(例えば、2~6mm/h)は、例えば
図3(A)に示すように低音域が減衰され高音域が強調された周波数パターンを適用でき、豪雨時の場合は、例えば
図3(B)に示すように、中音域が強調された補正周波数パターンを適用できる。なお、高音域強調型の拡声器22を使用する場合は、降雨量に応じて中音域が強調された補正周波数パターンを適用できる。
【0052】
図4は、拡声器22として点音源スピーカを用いた時の音声信号の補正の有無による了解度の違いを説明する一実験結果である。図中、横軸はSII、縦軸は単語了解度である。図中の各点(A1,A2,A3,B1,B2)は、屋外の温度および湿度は同一とし、天気のみを異ならせた3つの条件についての評価結果である。音声信号はいずれも同一のものを用いた。
【0053】
図4において、点A1~A3は、補正無しのときの評価結果であり、点A1は豪雨時、点A2はやや強い雨、点A3は晴天時に相当する。
一方、点B1および点B2は、補正有りのときの評価結果である。より具体的に、点B1は、点A1の条件において音声信号の中音域を強調させたときの評価結果である。点B2は、点A2の条件において音声信号の低音域を減衰させ、高音域を強調させたときの評価結果である。点B1および点B2から明らかなように、音声信号の補正により、それぞれ点A1および点A2よりもSIIおよび了解度をいずれも向上させることができる。
【0054】
図4に示すように雨騒音に対するSIIと了解度との相関においては、補正無しの場合は図中左下(低SII、低了解度)に向かって劣化するのに対して、補正有りの場合は図中右上(高SII、高了解度)の状態に維持できることがわかる。
【0055】
なお、音声信号の周波数特性は常に補正されるとは限られず、目的とする物理的評価指標あるいは音声了解度が得られる気象条件であれば、音声信号の補正はしなくてもよい。例えば、比較的音声信号が減衰しにくい夏場などの所定の温湿度条件などがこれに該当する。
【0056】
補正周波数パターンは、拡声器22のスピーカ特性(拡声器周波数特性)をも考慮に入れて調整されてもよい。
図2に示したように、点音源および線音源で周波数特性が異なるため、スピーカ特性毎に補正周波数パターンを設定しておくことが好ましい。この場合、気象条件ごとに設定した補正周波数パターンとは別に拡声器22の補正周波数パターンを設定してもよいし、各気象条件の補正周波数パターンとして、拡声器22の補正周波数パターンを含んだパターンを設定してもよい。
【0057】
音声信号はそのすべてについて補正してもよいが、音声を正しい単語で認識できるようにすることを目的とする場合は、聞き取りにくい特定の子音を含む単語のみを対象として補正を行ってもよい。例えば、伝達する音声に『外出する際のマスク着用』という文章が含まれる場合、『外出』の「しゅつ」や『マスク』の「すく」のように、「s」、「k」、「t」などの子音を含む単語は他の子音と比較して聞き取りにくいとされる。このような場合、「しゅつ」や「すく」の言葉のみを強調する補正のみで、文章全体の了解度を向上させることができる。
【0058】
制御部242は、親局設備10から送信される環境情報に基づき、当該環境情報に対応する1つまたは複数の周波数パターンを記憶部241から抽出し、抽出される周波数パターンに基づいて音声信号の周波数特性を補正する。本実施形態では、記憶部241に格納された複数種の補正周波数パターンの中から、親局設備10から送信される環境情報に対応する補正周波数パターンを抽出する。制御部242は、抽出された補正周波数パターンに基づいてイコライザ23を制御することで、拡声器22で再生される音声信号の周波数特性を補正する。この際、放送される音声の音量が過剰にならない程度にゲインを調整してもよい。
【0059】
音声合成部243は、音声信号の再生前および再生後に、予備音声信号を合成する。予備音声信号は、地域住民へ防災情報の注意を促すためのもので、拡声放送の冒頭および最後に放送される一定のメロディあるいはチャイムである。予備音声信号は、防災情報の種類あるいは緊急度に応じて異なる音声が準備されてもよい。
【0060】
予備音声信号は、親局設備10から音声信号と同時に送信されてもよいし、記憶部241に記憶されていてもよい。予備音声信号が記憶部241に記憶されておくことで、各拡声子局20の自局放送にも使用することができる。また、予備音声信号の再生/停止は、親局設備10から指示されてもよいし、拡声子局20において予め定められた条件に従って行われてもよい。
【0061】
制御部242は、音声信号および予備音声信号のうち、音声信号のみを選択的に補正する。予備音声信号は、有意な情報が含まれていないため可聴性を高める必要性はそもそも乏しく、また、地域住民にとって聞き慣れている場合が多いため気象条件が変動しても一定の認識効果が得られるからである。
【0062】
なお、制御部242および音声合成部243は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等のコンピュータに用いられるハードウェア要素および必要なソフトウェアにより実現され得る。CPUに代えて、またはこれに加えて、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のPLD(Programmable Logic Device)、あるいは、DSP(Digital Signal Processor)、その他ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等が用いられてもよい。音声合成部243は、制御部242の一部であってもよい。
【0063】
[環境情報と補正周波数パターンとの関係]
続いて、親局設備10から送信される環境情報と、この環境情報に基づいて各拡声子局20で選択される補正周波数パターンとの関係について説明する。
【0064】
(基本的な考え方)
図5Aは、4つに類型化された季節・天気の条件を示す説明図である。この例では、季節・天気の条件が「冬以外・悪天候」を第1類型、「冬・悪天候」を第2類型、「冬以外・晴天」を第3類型、「冬・晴天」を第4類型とする。これら4つの類型に拡声器22のスピーカ特性の違いが加わって、合計8つのパターンが準備される。
【0065】
スピーカ特性の違いは、ここでは音源の違い(点音源スピーカおよび線音源スピーカ)で分類した。これ以外にも、スピーカの音声到達距離でスピーカ特性を分類してもよく、例えば、音声到達距離が500m未満のスピーカと、音声到達距離が500m以上のスピーカで分類される。
【0066】
了解度に影響する要素としては、「スピーカ」、「天候」および「季節(温度・湿度)」が挙げられる。「スピーカ」については、音源ごとにスピーカ特性を考慮して音声信号が補正される。「天候」については、晴天および曇天時は通常の補正(または補正無)、雨天時は降雨による騒音の影響を低減する補正が行われる。そして、「季節(温度・湿度)」については、気温、湿度による減衰を低減する補正が行われる。
【0067】
そこで本実施形態では、温度、湿度および天気(降雨量)に関する気象データと拡声器22のスピーカ特性とに応じて予め類型化された複数の識別子(以下、了解度IDともいう)を後述する方法で準備しておく。そして親局設備10(制御装置12)において、これら複数の了解度IDの中から、データ取得部113で取得される現在の気象データに対応する1つの了解度IDを決定し、決定した了解度IDを環境情報として各拡声子局20へ送信する。各拡声子局20は、受信した了解度IDを基に、音声信号の補正周波数パターンを選択する。
【0068】
(了解度IDの準備)
了解度IDは、拡声子局20で放送される音声がその音達範囲にわたって目標とする物理的評価指標(SII)を実現するための音声信号の補正指針に関する情報を含む。SIIに影響する測定環境としては、例えば、親局設備10から送信される音声信号の無線特性、拡声子局10のスピーカ特性、拡声子局10で放送される音声の伝搬特性(距離、風など)、暗騒音、気圧、路面反射などが挙げられる。天候条件やスピーカ特性によっては、音声信号を補正せずに目標とするSII値(例えば、0.55)が得られる場合もある。理解を容易にするため、ここでは了解度IDを以下の3つのID番号に分類する。
【0069】
「1」:イコライジングを実施しない(SII値が0.55より大きい)
「2」:弱いイコライジングを実施する(SII値が0.50以上0.55以下)
「3」:強いイコライジングを実施する(SII値が0.50未満)
【0070】
本実施形態では
図5B~
図5Eに示すように、気温および湿度とSIIとの関係を示す相関マップを、天候(晴天/悪天候)に関連付けられた騒音レベル、およびスピーカ特性(ストレート/ラインアレイ)が異なる条件下で予め作成しておく。天候(晴天/悪天候)は、例えば降雨による屋外の騒音レベルと関連付けられており、ここでは、降雨量4mm/h未満のときの天候を「晴天」、その騒音レベルを50dB相当とし、降雨量4mm/h以上のときの天候を「悪天候」、その騒音レベルを55dB相当とした。
【0071】
図5Bは、晴天/点音源スピーカ(ストレート型)の組み合わせによるSIIの相関マップと、その了解度IDの対応テーブルを示している。
同図(1)に示すSIIの相関マップは、横軸を相対湿度(%)、縦軸を気温(℃)にしたときのSIIの値を等高線で表すことができる。
同図(2)に示す了解度IDの対応テーブルは、SII値0.50および0.55を閾値として、同図(1)の相関マップを実現するためのイコライジング条件を、気温および相対湿度の組み合わせ別に了解度ID番号で振り分けた対応テーブルである。
【0072】
図5Cは、悪天候/点音源スピーカ(ストレート型)の組み合わせによるSIIの相関マップ(同図(1))と、その了解度IDの対応テーブル(同図(2))を示している。
【0073】
同様に、
図5Dは、晴天/線音源スピーカ(ラインアレイ型)の組み合わせによるSIIの相関マップ(同図(1))と、その了解度IDの対応テーブル(同図(2))を示している。また、
図5Eは、悪天候/線音源スピーカ(ラインアレイ型)の組み合わせによるSIIの相関マップ(同図(1))と、その了解度IDの対応テーブル(同図(2))を示している。
同図の例では、晴天/悪天候のいずれについても、
図5B,Cに示した点音源スピーカのケースと比較して、相対湿度20%以上の温湿度条件で強めのイコライジングが実施された場合を示している。
【0074】
図6(A),(B)は、以上のようにして測定されたSIIの相関マップおよび了解度IDの対応テーブルを基に作成された、スピーカの種類を考慮してマージした(統合した)了解度IDの決定テーブルである。同図(A)は晴天時、同図(B)は悪天候にそれぞれ対応する。マージされた了解度IDは以下の番号1~6になる。
【0075】
「1」:(スピーカの条件によらず)イコライジングを実施しない
「2」:(スピーカの条件によらず)弱いイコライジングを実施する
「3」:(スピーカの条件によらず)強いイコライジングを実施する
「4」:(点音源または音声到達距離500m未満)イコライジングを実施しない
(線音源または音声到達距離500m以上)弱いイコライジングを実施する
「5」:(点音源または音声到達距離500m未満)弱いイコライジングを実施する
(線音源または音声到達距離500m以上)強いイコライジングを実施する
「6」:(点音源または音声到達距離500m未満)イコライジングを実施しない
(線音源または音声到達距離500m以上)強いイコライジングを実施する
【0076】
本実施形態では、
図6(A),(B)に示す了解度ID決定テーブルが、親局設備10の制御装置12が内蔵するメモリに格納される。制御装置12は、データ取得部113で取得した現在の気象データに対応する了解度IDを、当該了解度ID決定テーブルを参照して決定し、決定した了解度IDを環境情報として、各拡声子局20へ送信する。なお、了解度ID決定テーブルを参照するとき、温度、湿度には、例えば実際の温度、湿度(データ取得部113で取得した気象データ)を例えば四捨五入した数値が適用される。
【0077】
なお、気象データをリアルタイムで取得できない環境においては、了解度ID決定テーブルとして、あらかじめ定めた暦上の月日を基準にして冬あるいは冬以外の季節に対応する了解度IDのテーブルが用意されてもよい。この場合、例えば、11月~2月は冬に対応する了解度IDが選択され、3月~10月は冬以外の季節に対応する了解度IDが選択される。あるいは、季節ごとに、または月ごとに異なる了解度ID決定テーブルが用意されてもよい。
【0078】
(拡声子局における補正周波数パターンの決定方法)
図7は、親局設備10から送信される環境情報(了解度ID)から補正周波数パターンを決定する方法を説明する同報無線システム100の概念図である。同図に示すように、各拡声子局20は、イコライズIDリスト244と、イコライズ変換リスト245とを有する。
【0079】
イコライズIDリスト244は、補正周波数パターンに相当する音声信号補正用のデータ(以下、補正データともいう)とイコライズIDとを紐づけるリストである。
図8(A)にイコライズIDリスト244の一例を示す。イコライズIDリスト244は、各拡声子局20の記憶部241に共通に格納される。同図の例では、ID番号が「0」~「4」の5つのイコライズIDとそのデータが示されており、「0」は、イコライジングなし、「1」は弱(明瞭化用)、「2」は強(了解度向上用)、「3」は弱(幹線道路用)、「4」は強(幹線道路用)である。各イコライズIDのデータには、フィルタの種類(図示の例ではHPF:ハイパスフィルタ)、カットオフ周波数fc、補正対象周波数帯域のゲインなどが設定されている。
【0080】
なお、明瞭化用のデータ(イコライズID「1」)は、例えば季節(温度、湿度)を考慮した補正データあり、了解度向上用、幹線道路用のデータ(イコライズID「2」~「4」)は、騒音の有無とその強弱を考慮した補正データである。
【0081】
一方、イコライズ変換リスト245は、親局設備10から送信される環境情報(了解度ID)とイコライズIDとを紐づけるリストである。
図8(B)、(C)に、イコライズ変換リスト245の例を示す。イコライズ変換リスト245は、イコライズIDリスト244と同様に各拡声子局20の記憶部241に格納されるが、拡声子局20ごとに異なる内容に設定される。これにより、各拡声子局20の設置条件等により最適な補正データを設定することができる。
【0082】
例えば、
図8(B)に示す設定例は、音源が異なる複数のスピーカ(拡声器22)を備えた拡声子局用のイコライズ変換リストであり、点音源スピーカ用の変換リストと線音源スピーカ用の変換リストが含まれる。いずれの変換リストにおいても、環境情報(了解度ID)とイコライズIDとの対応関係が示されており、同じ環境情報(了解度ID)でも点音源スピーカと線音源スピーカとで異なるイコライズIDが付与される場合がある。同図の例では、了解度ID「4」に対応するイコライズIDが、点音源スピーカでは「イコライジングなし」のイコライズID「0」が設定され、線音源スピーカでは「弱:明瞭化用」のイコライズID「1」が設定される。
【0083】
また、
図8(C)に示す設定例では、音源が異なる複数のスピーカ(拡声器22)を備えた拡声子局用のイコライズ変換リストであるが、幹線道路近くに設置される拡声子局用の変換リストである。
図8(B)との相違は、すべての了解度IDに対してイコライジングが実施される点である。
【0084】
各拡声子局20の信号処理装置24は、
図6に示すように、親局設備20から送信される環境情報(了解度ID)に対応するイコライズIDをスピーカ(拡声器22)の音源ごとにイコライズ変換リスト245を参照して決定し、決定したイコライズIDに対応する補正データを、イコライズIDリスト245を参照して決定し、決定した補正データに基づいてイコライザ23を制御することで音声信号を補正する。
【0085】
なお、全拡声子局20に共通のイコライズIDリスト244は必ずしも必要ではなく、必要に応じて省略されてもよい。この場合、例えば各拡声子局20のイコライズ変換リスト245に、イコライズIDに対応する補正データが書き込まれてもよい。
【0086】
[同報無線システムの動作]
続いて、本実施形態の同報無線システム100の典型的な動作を説明する。
図9は、同報無線システム100の動作手順の一例を示すフローチャートである。
【0087】
防災放送を開始するに際しては、まず、親局設備10の操作卓11によって放送するべき音声データを入力する(ステップ101)。この音声データの入力は、オペレータが入力部材111を用いて一語一語入力してもよいし、あらかじめ準備された複数の文章の中から選択する操作で行われてもよいし、オペレータによる音声入力操作で行われてもよい。
【0088】
続いて、親局設備10は、操作卓11のデータ取得部113より親局設備10または拡声子局20が設置される地域の現在の気象データ(温度、湿度、天気)を取得する(ステップ102)。この場合もオペレータの入力操作によって気象データを入力してもよいし、データ取得部112から自動的に気象条件を取得してもよい。
【0089】
続いて、親局設備10は、入力した音声データを基に音声信号を生成し、取得した気象データを基に環境情報を生成する。環境情報としては、
図6(A),(B)に示す了解度ID決定テーブル(6つの了解度ID「1」~「6」)の中から1つの了解度IDを決定する。了解度IDの決定は、制御装置12において自動的に行われてもよいし、オペレータの入力操作によって行われてもよい。そして親局設備10は、生成した音声信号および環境情報(了解度ID)を送信機13から各拡声子局20へ一斉送信する(ステップ103)。親局設備10は、音声信号の有無に関係なく、最新の環境情報を定期的に各拡声子局20へ一斉送信する。
【0090】
各拡声子局20は、受信機21を介して上記音声信号および環境情報を受信する(ステップ104)。信号処理装置24は、受信した環境情報(了解度ID)に基づいて、了解度IDに対応するイコライズIDを決定する(ステップ104、
図8(A)~(C)参照)。
【0091】
例えば、了解度ID「1」の場合、
図8(B)に示すイコライズ変換リスト245を有する拡声子局20においては、受信した再生信号を補正しない(イコライジングなしの)イコライズID「0」が採用され、
図8(C)に示すイコライズ変換リスト245を有する拡声子局20においては、幹線道路用の補正データを有するイコライズID「3」が採用される。なお、同じ了解度IDでもスピーカの音源によってイコライズIDが異なる場合は、使用するスピーカ音源に対応するイコライズIDが選択される。
【0092】
続いて、信号処理装置24は、決定したイコライズIDに対応する補正データを、イコライズIDリスト244から決定する(ステップ106)。そして、信号処理装置24は、決定した補正データ(補正周波数パターン)に基づき、受信した音声信号の周波数特性を補正する(ステップ107)。音声信号の補正処理は、イコライザ23を用いて音声信号の特定周波数帯域を強調させ、あるいは減衰させる処理を含む。音声信号の補正後、信号処理装置24は、補正した音声信号を拡声器22で再生する(ステップ108)。この際、親局設備10から送信され又は記憶部241に記憶された予備音声信号を、音声信号の再生前および再生後にそれぞれ再生する。
【0093】
以上のように本実施形態によれば、放送される音声信号が気象条件に合わせて最適な周波数特性に補正されるため、音声信号を補正しない場合と比較して、音声の伝達特性の減衰を抑えて拡声器22の音達範囲にわたって明瞭な音声を伝送することができる。これより、悪天候時においても音声の了解度が向上し、地域住民に正しい内容で放送内容を認識させることができる。
【0094】
さらに本実施形態によれば、音声の明瞭性に関する物理的評価指標が所定の基準値となるような補正周波数パターンを異なる気象条件ごとに複数種用意されているため、現時点における環境条件に適合した補正周波数パターンを適用することで、音声信号の補正処理を迅速に行うことができる。また、時々刻々と変化する気象条件に合わせて音声信号をリアルタイムで最適化することができる。
【0095】
<第2の実施形態>
続いて本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態では、拡声子局の他の構成例について説明する。なお、上述の第1の実施形態と対応する部分については同一の符号を付し、その詳細な説明については省略する。
【0096】
図10は、本実施形態の同報無線システムにおける拡声子局220を示す正面図である。本実施形態の拡声子局220は、親局設備10から音声信号および環境情報を受信する受信部21と、受信した音声信号を環境情報に基づいて補正する信号処理装置24と、補正した音声信号を再生する複数の拡声器22(スピーカ)を備えるとともに、風向および風速を測定する風向風速計27と、降雨量を測定する雨量計28と、温度および湿度を計測する温湿度計29とをさらに備える。
【0097】
なお、風向風速計27、雨量計28および温湿度計29は、当該拡声子局20が設置される屋外の温度、湿度、風および天気のうち少なくとも1つに関連するデータを含む環境情報を取得する計測器に相当する。
【0098】
複数の拡声器22は、支柱26の上部に等角度間隔で4方向に向けて配置される。例えば
図11に示すように、複数の拡声器22は、北方向(方位0°)に音声を発する拡声器22Nと、東方向(方位90°)に音声を発する拡声器22Eと、南方向(方位180°)に音声を発する拡声器22Sと、西方向(方位270°)に音声を発する拡声器22Wとを含む。
風向風速計27は、支柱26の頂部に配置され、風向および風速の計測結果を信号処理装置24へ入力する。
雨量計28および温湿度計29は、支柱26の任意の高さ位置に配置される。雨量計28は、降雨量の計測結果を信号処理装置24へ入力する。温湿度計29は、温度および湿度の計測結果を信号処理装置24へ入力する。
【0099】
なお、風向風速計27、雨量計28および温湿度計29の代わりに、例えば
図12に示すように、拡声子局の外部に設置された風向風速計、雨量計、温湿度計などからそれらの計測結果を外部の近距離無線通信装置31を介して受信する受信装置30が備え付けられてもよい。上記風向風速計、雨量計、温湿度計が設置される場所としては、例えば、各拡声子局の設置区域に設置された百葉箱などを含む気象観測所が挙げられる。
【0100】
本実施形態では、親局設備から送信される環境情報のみでは拡声子局特有の条件、例えば、局地的な豪雨、局地的な谷風・ビル風などに対応できない可能性がある。このため各拡声子局220において独自に風向風速や雨量等に関するデータを取得して、拡声子局220ごとに音声信号の補正の最適化を図るようにしている。
【0101】
信号処理装置24は、風向風速計27の計測結果に基づき、音声信号の補正データを各拡声器22について個別に又は所定のグループ単位で調整する。本実施形態において信号処理装置24は、拡声器22の方向(音声の出射方向)と風向および風速の計測値から、拡声器22の方向に対応する風速成分を算出し、算出した風速成分の大きさで風の評価を行う。なお、風向とは、風が吹いてきた方向(風の上流側の方向)をいい、例えば、南から北へ吹く風(南の風)の風向は180°である。
【0102】
例えば
図13(A),(B)に示すように、北方向を0°、東方向を90°、南方向を180°、西方向を270°としたとき、任意の1つの拡声器22が300°の方向に設置されているとする。この拡声器22に西から風速5[m/s]の風が作用したとき、
図13(C)に示すように拡声器22の方向に対向する風速成分を風縦方向、それに直交する方向を風横方向、拡声器の設置角と風向とのなす角をθとすると、風縦方向の風速は、風速×cosθにより求められる。具体的には、
風縦方向の風速=5×cos(270°-300°)
=5×cos(-30°/180°×π)
=4.33[m/s]
となる。
【0103】
なお、風の風向が90°(東風)の場合は、風速を5[m/s]とすると、
風縦方向の風速=5×cos(90°-300°)
=5×cos(-210°/180°×π)
=-4.33[m/s]
となり、正負の符号(+、-)で向かい風(+)、追い風(-)が区別される。
【0104】
信号処理装置24は、以上のようにして算出される拡声器22の風縦方向の風速に基づき、例えば、当該風速があらかじめ設定された閾値(例えば、6.6m/s)を超えたか否かで当該拡声器22で再生される音声信号の補正周波数パターンとして「強風用」のイコライズIDを採用するかどうかを決定する。このような処理は、すべての拡声器22について個別に行うことができる。
【0105】
これに対して、音声信号の補正データを各拡声器22について所定のグループ単位で調整する場合、信号処理装置24は、複数台の拡声器22について共通のイコライズIDを用いて音声信号を補正する。
図14に示す例では、拡声器22Nと拡声器22Eを含む第1拡声器群221が第1アンプ251に共通に接続され、拡声器22Sと拡声器22Wを含む第2拡声器群222が第2アンプ252に共通に接続される。
【0106】
この場合、例えば、第1拡声器群221に関しては、拡声器22Nと拡声器22Eのうち風縦方向の向かい風成分が最も大きい拡声器の風速値を参照して、拡声器22Nおよび拡声器22EのイコライズIDを決定する。同様に、第2拡声器群222に関しては、拡声器22Sと拡声器22Wのうち風縦方向の向かい風成分が最も大きい拡声器の風速値を参照して、拡声器22Sおよび拡声器22WのイコライズIDを決定する。
【0107】
次に、風と騒音とを考慮したイコライズIDの決定方法について説明する。ここでは、騒音として降雨量に対応する騒音を例に挙げて説明する。
【0108】
例えば、同じ降雨量でも風の強さによっては、
図6(A),(B)に示した了解度ID決定テーブルを用いて音声信号を補正したとしても、各拡声子局20のサービスエリア(音達範囲)においてSII(あるいは了解度)の改善を図れない場合がある。そこで以下に説明するように、了解度ID決定テーブルを複数用意しておき、風速および降雨量を変数として算出される所定の判定値に基づいて、了解度ID決定テーブルを使い分けてもよい。
【0109】
判定値の算出には、以下の式が用いられる。
判定値=天候+風速×係数
ここで、「天候」は、降雨量に応じた騒音量(dB)があらかじめ設定される。例えば、晴天(降雨量0mm/h)の場合は50dB、降雨量0mm/h超4mm/h未満の場合は55dBである。「風速」は拡声器22の風縦方向の風速であり、符号が+の場合は向かい風、符号が-の場合は追い風である。「係数」は、例えば、スピーカ出力地点から特定地点への音圧相対レベルの減衰量を測定し、風速との相関から得た傾きを基にした値である。具体的に「係数」は、例えば、1.2~3.0の値であり、ここでは1.5とする。
【0110】
なお、音圧相対レベルとは、スピーカ地点の音圧と測定地点(上記特定地点に相当)の音圧の差であり、例えば、スピーカ地点で120dB、測定地点で60dBがそれぞれ観測された場合、その相対レベルは-60dBとなる。そして、風速との相関とは、横軸を風速(m/s)、縦軸を音圧相対レベル(dB)としたものである。
【0111】
(例1)天候が晴れ、風速が2m/s(向かい風)の場合
判定値=天候+風速×係数
=50+2×1.5
=53
(例2)天候が雨(降雨量0mm/h超4mm/h未満:55dB)、風速が4m/s(向かい風)の場合
判定値=天候+風速×係数
=55+4×1.5
=61
(例3)天候が雨(降雨量0mm/h超4mm/h未満:55dB)、風速が-4m/s(追い風)の場合
判定値=天候+風速×係数
=55+(-4)×1.5
=49
【0112】
図15は、判定値の大きさに応じて異なる3つの了解度ID決定テーブルの一例を示しており、(A)は判定値が55未満のテーブル、(B)は判定値が55以上60未満のテーブル、そして(C)は判定値が60以上のテーブルである。同図(A)~(C)に示すように、判定値が大きいほど、同じ気温・相対湿度の条件でも、強いイコライジングが働くように設定されており、判定値が60以上の場合は常に、了解度IDが「2」に設定される。なお、判定値55未満のテーブル(同図(A))には、了解度IDとして「1」および「2」のほか、「0」が含まれる。了解度ID「0」は、「イコライジングなし」、つまり、イコライズID「0」に相当する(
図8(A)参照)。
【0113】
上記(例1)および(例3)の場合は、判定値がいずれも55未満であるため、
図15(A)に示す了解度ID決定テーブルが参照される。一方、上記(例2)の場合は、判定値が60以上であるため、
図15(C)に示す了解度ID決定テーブルが参照される。
【0114】
なお、(例3)のように風向が追い風の場合は、SII値向上を目的とした音声信号の補正する必要性は乏しい。このため、追い風の場合は、風量を0とし、「天候」の要素のみで了解度IDを決定してもよい。この場合、(例3)は以下の(例4)のように判定値が算出される。
(例4) 判定値=天候+風速×係数=55+0×1.5=55
この場合、
図15(B)に示す了解度ID決定テーブルが参照される。
【0115】
図15(A)~(C)に示す各了解度ID決定テーブルは、各拡声子局20の信号処理装置24における記憶部241に格納される。したがって、雨量計28の計測値と併用することで、各拡声子局20において独自に了解度ID(
図5(B)参照)を判定できる。したがって、親局設備10から送信される環境情報を必要とすることなく、各拡声子局20において独自に判定した了解度IDに基づいて、イコライズIDを決定することができる。
【0116】
なお、拡声子局20で判定される了解度IDが、親局設備10から送信される了解度IDと異なる場合は、拡声子局20で判定された了解度IDを用いてイコライズIDを決定するのが好ましい。これにより、各拡声子局20に一斉送信される了解度IDを用いてイコライズIDを決定する場合と比較して、拡声子局20ごとに異なる気象条件(風量、降雨量)に柔軟に対応することができる。
【0117】
以上のように本実施形態によれば、地域ごとに異なる風向風速に応じて各拡声子局220における補正データの調整が可能になるため、拡声子局220ごとに設置場所に起因する特有の気象に適合した音声信号の補正を実現することができる。
【0118】
さらに本実施形態によれば、各拡声子局220において風向に応じた音達範囲の調整を個別に行うようにしているため、風向の影響等によって、複数の拡声子局からの拡声音が同一地域に到達する、あるいは、いずれの拡声子局からの拡声音も到達しない地域が生じる、などといった事象を極力排除することができる。
【0119】
例えば
図16は、無風時における3つの拡声子局220A.220B,220Cの音達範囲(サービスエリア)Ra,Rb,Rcを示す模式図である。この例では、第1拡声子局220Aの南に向けて拡声音を放送し、第2拡声子局220Bが北に向けて拡声音を放送し、第3拡声子局220Cが東に向けて拡声音を放送する場合を例に挙げて説明する。第1拡声子局220Aの音達範囲Raと、第2拡声子局220Bの音達範囲Rbと、第3拡声子局220Cの音達範囲Rcはそれぞれが重複しない範囲にそれぞれ設定される。
【0120】
ここで、北東から強風Wが吹いた場合を考える。この場合、第1拡声子局220Aの音達範囲Raは北からの追い風成分を受け、第2拡声子局220Bの音達範囲Rbは北からの向かい風成分を受け、第3拡声子局220Cの音達範囲Rcは東からの向かい風成分を受ける。したがって各拡声子局220A~220Cにおいて音声信号の補正を行わない場合、
図17において実線で示すように、音達範囲Raは追い風成分の影響を受けて長くなり、音達範囲Rbは追い風成分の影響を受けて短くなり、音達範囲Rcは向かい風成分を受けて若干短くなる。その結果、3つの拡声子局220A~220Cのいずれからも拡声音が到達しない範囲が生じてしまう(なお図中、網掛け部分は、向かい風成分の影響による音達範囲の減少分を表している)。
【0121】
また上記問題を解決するため、例えば、すべての拡声子局220A~220Cにおいて強風用の補正データで音声信号を補正した場合、
図18に示すように、第1拡声子局220Aについては追い風成分の影響も受けるため音達範囲Raがさらに長くなり、第3拡声子局220Cについては向かい風成分を受けるもののイコライザの作用で音達範囲Rcが長くなる。第2拡声子局220Bについては向かい風成分の影響がイコライザの作用で相殺された様子を示している。その結果、各音達範囲Ra~Rcが重複する領域が発生し、複数の拡声子局からの拡声音が干渉することで、その重複領域の住民に対して音声をうまく認識させることができない場合がある。
【0122】
これに対して本実施形態によれば、各拡声子局220において風向に応じた音声信号のイコライズ調整を個別に行うようにしているため、例えば、第1拡声子局220Aおよび第3拡声子局220Cについては音声信号を補正せず(イコライジングなし)、第2拡声子局220Bについては強風用の補正データで音声信号を補正する(イコライジング最大)ことで、
図19に示すように、各拡声子局220A~220Cからの拡声音の干渉を極力回避しつつ、各拡声子局220A~220Cのサービスエリア全体にわたって拡声音が行き渡るように音達範囲Ra~Rcを個別に調整することができる。これにより、複数の拡声子局からの拡声音が同一地域に到達し、あるいは、いずれの拡声子局からの拡声音も到達しない地域が生じるなどの事象を極力排除することができる。
【0123】
さらに、台風の接近などの強風および豪雨を伴う環境下においては、音声の伝達特性がさらに劣化する。したがって、各拡声子局220A~220Cにおいて音声信号の補正を行わない場合、
図20において実線で示すように、いずれの拡声子局からも拡声音が到達しない領域がより顕著に発生する。
これに対して本実施形態によれば、このような環境下においても
図21に示すように各拡声子局220A~220Cのカバーエリア全域にわたって音達範囲Ra~Rcを最適化することができる。同図の例では、すべての拡声子局220A~220Cについて強風用あるいは豪雨用の補正データで音声信号を補正(イコライジング最大)した例を示している。
【0124】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。
【0125】
例えば以上の実施形態では、異なる温度、湿度および天気ごとに複数の補正周波数パターンをあらかじめ取得するようにしたが、温度、湿度および天気のうち少なくとも1つが異なる条件での補正周波数パターンを準備しておけばよい。また、温度、湿度および天気以外にも、風量および風向に対応した補正周波数パターンがさらに加わってもよい。
【0126】
また、複数の補正周波数パターンから気象条件に適した補正周波数パターンで音声信号を補正する場合に限らず、温度、湿度および降雨量の組み合わせから音声信号の各帯域(低音域、中音域、高音域)の補正量を決定する任意のアルゴリズムやテーブルをあらかじめ準備し、これらアルゴリズムやテーブルを用いて音声信号を補正してもよい。
【0127】
さらに本実施形態によれば、自局放送用の音声信号に対応した補正周波数パターンを記憶部241に記憶してもよい。この場合、親局設備10から各拡声子局20へ防災情報を送信しない場合でも環境情報を定期的に各拡声子局20へ送信することで、拡声子局20での自局放送に際して屋外環境に応じた適切な音声品質に補正できる。
【0128】
さらに、本実施形態では防災情報の同報無線システムを例に挙げて説明したが、これに限られず、特定の地域あるいは区画内に向けた業務放送や販促用の案内放送などにも本発明は適用可能である。なお、親局設備から環境情報が送信されない拡声子局に対しては、上述の第2の実施形態で説明した技術が適用可能である。
【0129】
さらに以上の実施形態では、了解度IDを決定する上で温度、湿度および天候の3つのデータを参照したが、これに代えて、これら3つのデータの少なくとも1つに基づいて了解度IDが決定されてもよい。
【符号の説明】
【0130】
1…サーバ装置
10…親局設備
11…操作卓
12…制御装置
13…送信機
20,220…拡声子局
21…受信機
22…拡声器
23…イコライザ
24…信号処理装置
27…風向風速計
28…雨量計
29…温湿度計
30…受信装置
100…同報無線システム
111…入力装置
112…表示装置
113…データ取得部
241…記憶部
242…制御部
243…音声合成部