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  • 特開-眼科装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150775
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】眼科装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/113 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
A61B3/113
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060039
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】多々良 陽子
(72)【発明者】
【氏名】雜賀 誠
(72)【発明者】
【氏名】行森 隆史
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA16
4C316AA21
4C316FA01
4C316FA18
4C316FB11
4C316FB12
4C316FB21
4C316FY09
4C316FZ01
(57)【要約】
【課題】斜位の有無に拘らず、両眼視状態から左右の被検眼に提示した視標の明度差を拡大させたときに眼位ずれを検出可能な眼科装置を提供すること。
【解決手段】左右被検眼EL、ERから視標までの距離を視標提示距離L2とし、左右の視線が交差する視線交差点P1までの距離を輻輳距離L1とするとき、視標を提示する視標投影系42と、輻輳距離L1を調整する駆動機構23と、左右被検眼EL、ERの前眼部画像E´を検出する観察系41と、視標投影系42と駆動機構23と観察系41とを制御する制御部40と、を備え、制御部40は、輻輳距離L1を視標提示距離L2とは異なる距離に設定した状態で任意の視標提示距離L2に視標を提示させ、左被検眼ELに提示した視標と右被検眼ERに提示した視標との明度差を次第に拡大させると共に、前眼部画像E´に基づいて左右被検眼EL、ERの視線方向SL、SRを検出する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
左被検眼及び右被検眼から視標までの距離を視標提示距離とし、前記左被検眼の視線と前記右被検眼の視線が交差する位置を視線交差点とし、前記左被検眼及び前記右被検眼から前記視線交差点までの距離を輻輳距離とするとき、
前記左被検眼及び前記右被検眼に対して前記視標を提示すると共に、前記左被検眼に提示した前記視標と前記右被検眼に提示した前記視標との明度差を変更可能な視標提示機構と、
前記輻輳距離を調整する輻輳調整機構と、
前記左被検眼及び前記右被検眼の眼情報を取得する眼情報取得部と、
前記視標提示機構と、前記輻輳調整機構と、前記眼情報取得部と、を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記輻輳調整機構を制御して前記輻輳距離を前記視標提示距離とは異なる距離に設定し、前記視標提示機構により任意の前記視標提示距離に前記視標を提示させると共に前記明度差を次第に拡大させ、前記眼情報取得部によって取得された眼情報に基づいて前記左被検眼の視線方向及び前記右被検眼の視線方向を検出する
ことを特徴とする眼科装置。
【請求項2】
請求項1に記載された眼科装置において、
前記制御部は、前記左被検眼の視線方向及び前記右被検眼の視線方向に基づいて、前記左被検眼又は前記右被検眼の疲労度を推定する
ことを特徴とする眼科装置。
【請求項3】
請求項2に記載された眼科装置において、
少なくとも検者が視認可能な表示部を備え、
前記制御部は、前記疲労度の推定結果を、前記表示部に表示させる
ことを特徴とする眼科装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載された眼科装置において、
前記制御部は、前記輻輳距離を前記視標提示距離よりも短い距離に設定する
ことを特徴とする眼科装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載された眼科装置において、
前記視標提示機構は、前記左被検眼に前記視標を提示すると共に前記視標の明度を任意に変更可能な第1ディスプレイと、前記右被検眼に前記視標を提示すると共に前記視標の明度を任意に変更可能な第2ディスプレイと、を有する
ことを特徴とする眼科装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載された眼科装置において、
前記制御部は、前記視線方向を検出する際、前記眼情報取得部によって取得された眼情報に基づいて、前記左被検眼のピント位置及び前記右被検眼のピント位置を検出する
ことを特徴とする眼科装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載された眼科装置において、
少なくとも検者が視認可能な表示部を備え、
前記制御部は、前記視標提示機構により前記明度差を次第に拡大させる際、前記眼情報取得部によって取得された眼情報を前記表示部に表示させる
ことを特徴とする眼科装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載された眼科装置において、
前記制御部は、前記眼情報取得部によって取得された眼情報に基づいて、前記左被検眼の眼位と前記右被検眼の眼位を検出し、前記左被検眼の眼位及び前記右被検眼の眼位に基づいて、前記視標提示距離及び前記輻輳距離を設定する
ことを特徴とする眼科装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、両眼で視標を視認させた状態から、一方の被検眼の視界を次第に暗くし、融像が破壊されて当該一方の被検眼の視線が外れて眼位ずれ(視線のずれ)が生じたタイミングに基づいて、被検眼の疲労度を推定する眼科装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-169601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の眼科装置では、一方の被検眼の視界を暗くして融像が破壊されたとき、眼位ずれが生じることを前提としている。しかしながら、外斜位や内斜位を持っていない被検者の場合では、両眼視状態から融像が破壊されても視線が外れないため、眼位ずれが生じない。そのため、眼位ずれを検出できず、眼疲労の推定を行うことができないという問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、斜位の有無に拘らず、両眼視状態から左右の被検眼に提示した視標の明度差を拡大させたときに眼位ずれを検出可能な眼科装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の眼科装置は、左被検眼及び右被検眼から視標までの距離を視標提示距離とし、前記左被検眼の視線と前記右被検眼の視線が交差する位置を視線交差点とし、前記左被検眼及び前記右被検眼から前記視線交差点までの距離を輻輳距離とするとき、前記左被検眼及び前記右被検眼に対して前記視標を提示すると共に、前記左被検眼に提示した前記視標と前記右被検眼に提示した前記視標との明度差を変更可能な視標提示機構と、前記輻輳距離を調整する輻輳調整機構と、前記左被検眼及び前記右被検眼の眼情報を取得する眼情報取得部と、前記視標提示機構と、前記輻輳調整機構と、前記眼情報取得部と、を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記輻輳調整機構を制御して前記輻輳距離を前記視標提示距離とは異なる距離に設定し、前記視標提示機構により任意の前記視標提示距離に前記視標を提示させると共に前記明度差を次第に拡大させ、前記眼情報取得部によって取得された眼情報に基づいて前記左被検眼の視線方向及び前記右被検眼の視線方向を検出する構成とした。
【発明の効果】
【0007】
このように構成された本発明の眼科装置では、斜位の有無に拘らず、両眼視状態から左右の被検眼に提示した視標の明度差を拡大させたときに眼位ずれを検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1の眼科装置の外観を示す斜視図である。
図2】実施例1の眼科装置の測定ヘッドの駆動機構を模式的に示す説明図である。
図3】輻輳距離及び視標提示距離を示す説明図である。
図4】実施例1の眼科装置の左測定光学系の構成を示す説明図である。
図5】実施例1の制御部にて実施する眼疲労推定処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の眼科装置を実施するための形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【0010】
実施例1の眼科装置1は、被検眼の眼特性を測定する光学系を有し、被検眼の眼特性を他覚的及び自覚的に測定可能な眼科装置である。つまり、検者は、眼科装置1を用いて任意の他覚検査及び自覚検査を行うことができる。なお、他覚検査では、被検眼に光が照射され、その戻り光の検出結果に基づいて被検眼に関する情報(眼特性)が測定される。ここで、他覚検査は、被検眼の眼特性を取得するための測定と、被検眼の画像を取得するための撮影とを含む。他覚検査には、他覚屈折測定(レフ測定)、角膜形状測定(ケラト測定)、眼圧測定、眼底撮影、光コヒーレンストモグラフィ(Optical Coherence Tomography:以下、「OCT」という)を用いた断層像撮影(OCT撮影)、OCTを用いた計測等がある。また、自覚検査では、被検者に視標等が提示され、提示された視標等に対する被検者の応答に基づいて被検眼に関する情報(眼特性)が測定される。自覚検査には、遠用検査、中用検査、近用検査、コントラスト検査、グレア検査等の自覚屈折測定や、視野検査等がある。
【0011】
また、実施例1の眼科装置1は、被検者が左右の目を開放した状態で、眼特性を両眼同時に測定可能な両眼開放タイプの眼科装置である。なお、実施例1の眼科装置1では、片眼を遮蔽したり、固視標を消灯したりすることで、眼特性を片眼ずつ測定することも可能である。
【0012】
そして、実施例1の眼科装置1は、図1に示すように、支持基台10と、測定ユニット20と、検者用コントローラ30と、制御部40と、図示しない被検者用コントローラと、を備えている。以下では、被検者から見て、左右方向をX方向とし、上下方向(鉛直方向)をY方向とし、X方向及びY方向と直交する方向(奥行き方向)をZ方向とする。
【0013】
支持基台10は、床面から起立した支柱11と、支柱11によって支持された検眼用テーブル12と、を有している。検眼用テーブル12は、検者用コントローラ30等の検眼に用いる装置や用具を置いたり、被検者の姿勢を支えたりするための台である。検眼用テーブル12は、Y方向の位置(高さ位置)を調節可能に支柱11に支持されていてもよい。
【0014】
測定ユニット20は、アーム21と、測定ヘッド22と、を有している。アーム21は、一端が支柱11の先端部に支持され、他端がZ方向に沿って支柱11から手前側(被検者側)へと延び、先端部に測定ヘッド22が取り付けられている。これにより、測定ヘッド22は、検眼用テーブル12の上方でアーム21を介して支柱11に吊下げられる。また、アーム21は、支柱11に対してY方向に移動可能である。なお、アーム21は、支柱11に対してX方向やZ方向にも移動可能にされていてもよい。
【0015】
測定ヘッド22は、被検者の左側の被検眼E(左被検眼EL)と、被検者の右側の被検眼E(右被検眼ER)と、の眼特性をそれぞれ個別に測定する部分である。測定ヘッド22は、アーム21の先端に取り付けられた左眼用駆動機構23L及び右眼用駆動機構23Rと、左眼用駆動機構23Lの下側に設けられた左測定部24Lと、右眼用駆動機構23Rの下側に設けられた右測定部24Rと、を有している。
【0016】
ここで、左測定部24L及び右測定部24Rは、被検者の左右の目に個別に対応すべく対を為している。そして、左測定部24Lには、左被検眼ELの眼特性を測定する左測定光学系25Lが内蔵されている。右測定部24Rには、右被検眼ERの眼特性を測定する右測定光学系25Rが内蔵されている。左測定部24L及び右測定部24Rによる測定結果は、制御部40に入力される。
【0017】
また、左眼用駆動機構23Lは、左測定部24Lを水平(X方向)移動駆動、鉛直(Y方向)移動駆動、X方向回旋駆動、Y方向回旋駆動させる機構である。図2に示されたように、左眼用駆動機構23Lは、左鉛直駆動部26L、左水平駆動部27L、左Y軸回旋駆動部28L、左X軸回旋駆動部29Lを有している。右眼用駆動機構23Rは、右測定部24Rを水平(X方向)移動駆動、鉛直(Y方向)移動駆動、X方向回旋駆動、Y方向回旋駆動させる機構である。右眼用駆動機構23Rは、右鉛直駆動部26R、右水平駆動部27R、右Y軸回旋駆動部28R、右X軸回旋駆動部29Rを有している。
【0018】
なお、左眼用駆動機構23Lと右眼用駆動機構23Rとは、X方向で双方の中間に位置する鉛直面に関して面対称な構成とされている。以下では、個別に述べる時を除き、左眼用駆動機構23L及び右眼用駆動機構23Rを「駆動機構23」と記し、左測定部24L及び右測定部24Rを「測定部24」と記し、左鉛直駆動部26L及び右鉛直駆動部26Rを「鉛直駆動部26」と記し、左水平駆動部27L及び右水平駆動部27Rを「水平駆動部27」と記し、左Y軸回旋駆動部28L及び右Y軸回旋駆動部28Rを「Y軸回旋駆動部28」と記し、左X軸回旋駆動部29L及び右X軸回旋駆動部29Rを「X軸回旋駆動部29」と記す。
【0019】
鉛直駆動部26は、アーム21と水平駆動部27との間に設けられ、アーム21に対して水平駆動部27をY方向(鉛直方向)に移動させる。水平駆動部27は、鉛直駆動部26とY軸回旋駆動部28との間に設けられ、鉛直駆動部26に対してY軸回旋駆動部28をX方向及びZ方向(水平方向)に移動させる。鉛直駆動部26及び水平駆動部27は、例えばパルスモータのような駆動力を発生するアクチュエータと、例えば歯車の組み合わせやラック・アンド・ピニオン等のような駆動力を伝達する伝達機構と、を設けて構成される。水平駆動部27は、例えば、X方向とZ方向とで個別にアクチュエータ及び伝達機構の組み合わせを設けることで、容易に構成できると共に水平方向の移動の制御を容易なものにできる。
【0020】
Y軸回旋駆動部28は、水平駆動部27とX軸回旋駆動部29との間に設けられ、水平駆動部27に対してX軸回旋駆動部29を、対応する被検眼Eの眼球回旋点Oを通りY方向に延びる眼球回旋Y軸を中心に回転させる。X軸回旋駆動部29は、Y軸回旋駆動部28と対応する測定部24との間に設けられ、Y軸回旋駆動部28に対して対応する測定部24を、対応する被検眼Eの眼球回旋点Oを通りX方向に延びる眼球回旋X軸を中心に回転させる。
【0021】
Y軸回旋駆動部28及びX軸回旋駆動部29は、例えば、鉛直駆動部26や水平駆動部27と同様にアクチュエータと伝達機構とを有するものとし、アクチュエータからの駆動力を受けた伝達機構が円弧状の案内溝に沿って移動する構成とする。Y軸回旋駆動部28は、案内溝の中心位置が眼球回旋Y軸と一致されることで、対応する被検眼Eの眼球回旋Y軸を中心に測定部24を回転させることができる。また、X軸回旋駆動部29は、案内溝の中心位置が眼球回旋X軸と一致されることで、対応する被検眼Eの眼球回旋X軸を中心に測定部24を回転させることができる。すなわち、測定部24は、Y軸回旋駆動部28及びX軸回旋駆動部29の各々の案内溝の中心位置が対応する被検眼Eの眼球回旋点Oと一致することで、眼球回旋点Oを中心に左右方向(Y方向を中心とする回転方向)及び上下方向(X方向を中心とする回転方向)に回転可能とされている。
【0022】
なお、Y軸回旋駆動部28は、自らに設けたY軸回転軸線回りに回転可能に測定部24を支持すると共に水平駆動部27と協働してX軸回旋駆動部29を介して測定部24を支持する位置を変更しつつ回転させることで、対応する被検眼Eの眼球回旋Y軸を中心に測定部24を回旋させるものでもよい。また、X軸回旋駆動部29は、自らに設けたX軸回転軸線回りに回転可能に測定部24を支持すると共に鉛直駆動部26と協働して測定部24を支持する位置を変更しつつ回転させることで、対応する被検眼Eの眼球回旋X軸を中心に測定部24を回旋させるものでもよい。
【0023】
このように、駆動機構23は、左測定部24L及び右測定部24Rを個別に又は連動させて、X方向、Y方向及びZ方向に移動させると共に、左測定部24Lを左被検眼ELの眼球回旋点Oを中心に上下左右に回旋させ、右測定部24Rを右被検眼ERの眼球回旋点Oを中心に上下左右に回旋させる。これにより、駆動機構23は、それぞれ対応する被検眼Eに対して、左測定部24L及び右測定部24Rを所望の位置(姿勢)に移動させることができる。
【0024】
そして、駆動機構23は、左測定部24L及び右測定部24Rの位置を調整することで、左被検眼EL及び右被検眼ERを開散(開散運動)させたり輻輳(輻輳運動)させたりできる。すなわち、駆動機構23(左眼用駆動機構23L及び右眼用駆動機構23R)は、輻輳距離L1を調整する輻輳調整機構となる。なお、「輻輳距離L1」とは、図3に示されたように、左右被検眼EL、ERを平面視した状態で、左右被検眼EL、ERから視線交差点P1までのZ方向に沿った距離である。「視線交差点P1」とは、左被検眼ELの視線方向SL(視線)と右被検眼ERの視線方向SR(視線)が交差する位置である。輻輳距離L1は、左被検眼ELの視線方向SLと右被検眼ERの視線方向SRとでなす角である輻輳角度θ1を制御することで設定される。
【0025】
また、実施例1の眼科装置1では、左測定部24L及び右測定部24Rに、それぞれ偏向部材24aが設けられている。左測定光学系25L及び右測定光学系25Rは、偏向部材24aを通じて左右被検眼EL、ERの眼特性をそれぞれ取得する。眼科装置1は、各偏向部材24aが左被検眼EL、右被検眼ERにそれぞれ対応する位置となるように左測定部24L及び右測定部24Rの位置を調整することで、被検者が両眼を開放した状態(両眼視の状態)で、両眼同時に眼特性を取得できる。また、眼科装置1は、X軸回旋駆動部29により眼球回旋X軸を中心に左測定部24L及び右測定部24Rの回転姿勢を変化させることで、左右被検眼EL、ERを下方視や上方視させた状態で眼特性を取得できる。そして、眼科装置1は、Y軸回旋駆動部28により眼球回旋Y軸を中心に左測定部24L及び右測定部24Rの回転姿勢を変化させることで、左右被検眼EL、ERを左方視や右方視させた状態で眼特性を取得できる。
【0026】
検者用コントローラ30は、検者による操作を受け付け、制御部40に制御信号を出力する情報処理装置である。検者用コントローラ30は、例えばタブレット端末やスマートフォン等であり、測定ユニット20から分離し、検者によって携帯可能になっている。なお、検者用コントローラ30は、ノート型パーソナルコンピュータやデスクトップ型パーソナルコンピュータ等であってもよいし、眼科装置1専用のコントローラであってもよい。検者用コントローラ30は、無線通信やネットワーク通信を介して制御部40と情報をやりとりする。
【0027】
また、検者用コントローラ30は、図1に示されたように、表示部31と、図示しない操作側制御部と、図示しない入力ボタンと、を備えている。表示部31は、検者用コントローラ30の表面に設けられたタッチパネルディスプレイからなり、入力ボタンが設定されている。操作側制御部は、検者用コントローラ30に内蔵されたマイクロコンピュータからなる。操作側制御部は、制御部40から送信された測定結果や検知結果に基づいて表示部31に表示する画像を制御する。また、操作側制御部は、入力ボタンに対する操作に応じた制御信号を制御部40に出力する。
【0028】
制御部40は、検眼用テーブル12の下方に設けられた情報処理装置である。制御部40は、検者用コントローラ30から送信された制御信号に基づいて、左測定光学系25L及び右測定光学系25Rを含む測定ユニット20の各部を統括的に制御する。また、制御部40は、左測定部24L及び右測定部24Rで測定した左右被検眼EL、ERの眼特性の測定結果を検者用コントローラ30に送信する。
【0029】
また、制御部40は、後述する眼疲労推定処理を実行する。眼疲労推定処理において、制御部40は、まず、視標提示機構(後述する視標投影系42)を制御し、左被検眼EL及び右被検眼ERに対して任意の視標提示距離L2に視標を個別に提示し、左被検眼EL及び右被検眼ERで視標をそれぞれ視認させる。このとき、制御部40は、駆動機構23(左眼用駆動機構23L及び右眼用駆動機構23R)を制御し、左測定部24L及び右測定部24Rの位置(向き)を調整し、輻輳角度θ1を所定の角度に設定して、輻輳距離L1を視標提示距離L2とは異なる距離に設定する。次に、制御部40は、視標提示機構(視標投影系42)を制御し、左被検眼ELに提示された視標の明度(バックグラウンドに対する視標のコントラスト)と、右被検眼ERに提示された視標の明度(バックグラウンドに対する視標のコントラスト)との明度差(コントラスト差)を次第に拡大する。そして、制御部40は、視標の明度差を拡大しつつ、眼情報取得部(後述する観察系41)によって取得された眼情報(前眼部画像E´)に基づいて、左被検眼ELの視線方向SL及び右被検眼ERの視線方向SRを検出する。さらに、制御部40は、左被検眼ELの視線方向SL及び右被検眼ERの視線方向SRに基づいて、左被検眼EL及び右被検眼ERの疲労度(眼精疲労)を推定する。
【0030】
なお、「視標提示距離L2」とは、図3に示されたように、左被検眼ELから、左被検眼ELに対して提示された視標までのZ方向に沿った距離、及び、右被検眼ERから、右被検眼ERに対して提示された視標までのZ方向に沿った距離である。ここでは、左被検眼ELの視標提示距離L2と、右被検眼ERの視標提示距離L2は同じ距離とする。なお、実施例1では、視標提示距離L2は、視標提示機構である視標投影系42によって実現する。視標提示距離L2は、視標投影系42のパワー(光線をレンズの力で偏向させる力)から算出され、ディオプター換算値で表すことが可能である。
【0031】
すなわち、制御部40は、左右被検眼EL、ERの屈折値(等価球面度数)に合わせて遠点にあたる位置を基準にして、任意の所定距離(視標提示距離L2)に視標が提示されるように視標投影系42が有する移動レンズ42eを移動させ、視標投影系42のパワーを制御する。例えば、視標提示距離L2を50cmに設定する場合、制御部40は、左右被検眼EL、ERの遠点にあたる位置(例えば、左右被検眼EL、ERの屈折値が-5.0Dとする)に対し、遠点にあたる位置(ゼロD)と50cm(2.0D)に視標を提示するときのパワー差(2.0D)分、近方視となるように移動レンズ42eを移動させ、視標投影系42のパワーを変更して屈折値が-7.0Dの位置に視標を提示する。この結果、制御部40は、視標投影系42により、左右被検眼EL、ERに対し50cmの位置に提示された視標を見せることができる。
【0032】
また、制御部40は、眼疲労推定処理を実施する際、輻輳角度θ1により設定される輻輳距離L1を視標提示距離L2よりも短い距離に設定する。制御部40は、このとき視標提示距離L2を保つようにする。すなわち、眼疲労推定処理時、制御部40は、視標が提示された位置を両眼視する場合の輻輳角度θ2よりも、輻輳角度θ1を大きい値に設定して、左被検眼EL及び右被検眼ERに視標提示距離L2よりも近距離を見るように輻輳運動を行わせ、左被検眼EL及び右被検眼ERを内側に回旋させる(図3参照)。
【0033】
また、制御部40は、眼疲労推定処理の実施中、左被検眼ELの視線方向SL及び右被検眼ERの視線方向SRを検出する際、眼情報取得部(眼屈折力測定系43)によって取得された眼情報(眼底反射光によるリング像)に基づいて、左被検眼ELのピント位置(調節位置)と右被検眼ERのピント位置(調節位置)をそれぞれ検出する。なお、「ピント位置」は、左被検眼EL或いは右被検眼ERの所定位置観察時の屈折力によって表される。
【0034】
以下、図4に基づいて、左測定光学系25L及び右測定光学系25Rの詳細構成を説明する。なお、左測定光学系25Lと右測定光学系25Rとは同一の構成である。このため、以下では、右測定光学系25Rの説明は省略し、左測定光学系25Lについてのみ説明する。
【0035】
左測定光学系25Lは、図4に示されたように、観察系41(眼情報取得部)、視標投影系42(視標提示機構)、眼屈折力測定系43(眼情報取得部)、Zアライメント系45、XYアライメント系46、ケラト系47を有する。ここで、観察系41は、左被検眼ELの前眼部を観察し、前眼部画像E´を取得する。視標投影系42は、左被検眼ELに対して任意の視標提示位置に視標を提示する。つまり、視標投影系42は、視標提示距離L2を任意の距離に設定可能である。眼屈折力測定系43は、左被検眼ELの眼屈折力(屈折特性)の測定を行う。Zアライメント系45及びXYアライメント系46は、左被検眼ELに対する左測定光学系25Lの位置合わせ(アライメント)を行うために設けられている。Zアライメント系45は、観察系41の光軸Lに沿うZ方向(前後方向)のアライメント情報を生成し、XYアライメント系46は、光軸Lに直交するY方向及びX方向(上下左右方向)のアライメント情報を生成する。ケラト系47は、左被検眼ELの角膜形状の測定を行う。
【0036】
観察系41は、対物レンズ41a、第1ダイクロイックフィルタ41b、第1ハーフミラー41c、第1リレーレンズ41d、第2ダイクロイックフィルタ41e、第1結像レンズ41f及び撮像素子(CCD)41gを有する。
【0037】
観察系41では、左被検眼ELの前眼部で反射された光束が、対物レンズ41aを経て第1結像レンズ41fにより撮像素子41g上に結像する。これにより、撮像素子41g上には、後述するケラトリング光束や第1アライメント光源45aの光束や第2アライメント光源46aの光束(輝点像Br)が投光(投影)された前眼部画像E´が形成される。撮像素子41gは、前眼部画像E´を撮影し、前眼部画像E´の画像信号を取得する。制御部40は、撮像素子41gから出力される画像信号に基づく前眼部画像E´等を検者用コントローラ30の表示部31に表示させる。また、制御部40は、前眼部画像E´に基づいて、左被検眼ELの視線方向SLを検出する。
【0038】
対物レンズ41aの前方には、ケラト系47が設けられている。ケラト系47は、ケラト板47a及びケラトリング光源47bを有している。ケラト板47aは、観察系41の光軸Lに関して同心状のスリットが設けられた板状を呈し、対物レンズ41aの近傍に設けられている。ケラトリング光源47bは、ケラト板47aのスリットに合わせて設けられている。
【0039】
ケラト系47では、点灯したケラトリング光源47bからの光束がケラト板47aのスリットを経ることで、左被検眼ELの角膜Ecに角膜形状の測定のためのケラトリング光束(角膜曲率測定用リング状視標)を投光(投影)する。ケラトリング光束は、左被検眼ELの角膜Ecで反射されることで、観察系41により撮像素子41g上に結像される。これにより、撮像素子41gがリング状のケラトリング光束の像(画像)を検出(受像)する。制御部40は、撮像素子41gが検出したケラトリング光束の像を表示部31に表示させる。さらに、制御部40は、撮像素子41gで検出した画像信号に基づいて、左被検眼ELの角膜形状(曲率半径)を周知の手法により測定する。
【0040】
ケラト系47(ケラト板47a)の後方にはZアライメント系45が設けられている。Zアライメント系45は、一対の第1アライメント光源45a及び一対の第1投影レンズ45bを有している。
【0041】
Zアライメント系45では、各第1アライメント光源45aからの光束が各第1投影レンズ45bで平行光束にされ、ケラト板47aに設けられたアライメント用孔を通して左被検眼ELの角膜Ecに平行光束が投光(投影)される。
【0042】
制御部40又は検者は、角膜Ecに投光(投影)された輝点(輝点像Br)に基づき、左測定部22L(或いは右測定部22R)を前後方向に移動させることで、観察系41の光軸Lに沿う方向(Z方向、前後方向)のアライメントを行う。なお、制御部40又は検者は、Z方向(前後方向)のアライメントを行う際、撮像素子41g上の第1アライメント光源45aによる2個の点像の間隔と、ケラトリング像の直径との比が所定範囲内に収まるように左測定部22L(或いは右測定部22R)の位置を調整する。
【0043】
また、観察系41には、XYアライメント系(平行光学系)46が設けられている。XYアライメント系46は、第2アライメント光源46a及び第2投影レンズ46bを有している。また、XYアライメント系46は、第1ハーフミラー41c、第1ダイクロイックフィルタ41b及び対物レンズ41aを観察系41と共用する。
【0044】
XYアライメント系46では、第2アライメント光源(点光源)46aからの光束が、対物レンズ41aを経て平行光束にされ、左被検眼ELの角膜Ecに投光(投影)される。XYアライメント系46から左被検眼ELの角膜Ecに投影された平行光束は、角膜頂点と角膜Ecの曲率中心の略中間位置に、アライメント光の輝点を形成する。
【0045】
制御部40又は検者は、角膜Ecに投光(投影)された輝点(輝点像Br)に基づき、左測定部22L(或いは右測定部22R)を上下方向又は左右方向に移動させることで、観察系41の光軸Lに直交する方向(Y方向、上下方向及びX方向、左右方向)のアライメントを行う。
【0046】
視標投影系42は、ディスプレイ42a(第1ディスプレイ)、第1ロータリープリズム42b、第2ロータリープリズム42c、第2結像レンズ42d、移動レンズ42e、第2リレーレンズ42f、第1フィールドレンズ42g、第1反射ミラー42h、第3ダイクロイックフィルタ42iを有する。また、視標投影系42は、第1ダイクロイックフィルタ41b及び対物レンズ41aを観察系41と共用する。
【0047】
ディスプレイ42aは、他覚検査を行う際や左被検眼ELに雲霧をかけるとき等に視線を固定する視標としての固視標や点状視標、左被検眼ELの眼特性(視力値や矯正度数(遠用度数、近用度数)等)を自覚的に検査するための自覚検査用の視標等の各種視標を表示する。なお、ディスプレイ42aに表示される視標は、検眼に用いられるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、ランドルト環、スネレン視標、Eチャート等が好適に挙げられる。また、視標は静止画であってもよいし、動画であってもよい。
【0048】
そして、ディスプレイ42aは、EL(エレクトロルミネッセンス)や液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display(LCD))等を用いることができ、所望の形状、形態及び所望のコントラスト(明度)の視標を表示可能である。すなわち、ディスプレイ42aは、制御部40によって制御されて任意の視標を表示すると共に、表示した視標の明度(バックグラウンドに対する視標のコントラスト)を任意に変更可能である。
【0049】
第1ロータリープリズム42b及び第2ロータリープリズム42cは、斜位検査においてプリズム度数及びプリズム基底方向を調整するために用いられ、パルスモータ等の駆動によってそれぞれ独立に回転される。第1ロータリープリズム42b及び第2ロータリープリズム42cは、互いに逆方向に回転されるとプリズム度数が連続的に変更され、同じ方向に一体的に回転されるとプリズム基底方向が連続的に変更される。
【0050】
移動レンズ42eは、制御部40によって制御される駆動モータ(図示せず)により、視標投影系42の光軸に沿って進退駆動される。制御部40は、移動レンズ42eを左被検眼EL側に移動させることで、屈折率をマイナス側に変位させることができる。また、制御部40は、移動レンズ42eを左被検眼ELから離反する方向に移動させることで、屈折率をプラス側(遠方視方向)に変位させることができる。したがって、視標投影系42は、移動レンズ42eの進退駆動により、ディスプレイ42aに表示された視標の提示位置が変更され、左被検眼ELに対して任意の位置で視標を提示することができる。すなわち、実施例1の眼科装置1は、左被検眼ELから視標提示位置までの視標提示距離L2を任意の距離に設定することができる。
【0051】
さらに、実施例1の眼科装置1は、左被検眼ELの眼特性を測定する左測定光学系25Lと、右被検眼ERの眼特性を測定する右測定光学系25Rとをそれぞれ有している。このため、眼科装置1は、左被検眼ELに対応するディスプレイ42a(第1ディスプレイ)と、右被検眼ERに対応するディスプレイ42a(第2ディスプレイ、図3参照)と、の二つのディスプレイを備えることとなる。
【0052】
これらのことから、眼科装置1は、左被検眼EL及び右被検眼ERに対して視標を個別に提示すると共に、視標提示距離L2を任意の距離に設定することができる。また、眼科装置1は、左被検眼ELに提示された視標の明度と右被検眼ERに提示された視標の明度とを異ならせ、左右の視標の明度差を変更(拡大)することが可能である。
【0053】
眼屈折力測定系43は、実施例1では、左被検眼ELの眼底Efに所定の測定パターンを投影する機能と、眼底Efに投影した測定パターンの像を検出する機能とを有する。すなわち、眼屈折力測定系43は、左被検眼ELの眼底Efにリング状の測定パターンを投影するリング状光束投影系43Aと、眼底Efからのリング状の測定パターンの反射光を検出(受像)するリング状光束受光系43Bと、を有している。なお、眼屈折力測定系43は、左被検眼ELの眼底Efに測定光束を投影し、眼底Efで反射された測定光束を測定リング像Riとして取得するものであれば、実施例1の構成に限定されない。眼屈折力測定系43の他の構成の一例としては、測定光束として点状のスポット光を眼底Efに投影し、眼底Efで反射された測定光束(その反射光束)をリング状のスリットやレンズを通すことでリング状の光束とし、測定リング像Riを取得するものがあげられる。
【0054】
リング状光束投影系43Aは、レフ光源ユニット部43a、第3リレーレンズ43b、瞳リング絞り43c、第2フィールドレンズ43d、穴開きプリズム43e及び第3ロータリープリズム43fを有している。また、リング状光束投影系43Aは、第3ダイクロイックフィルタ42iを視標投影系42と共用し、第1ダイクロイックフィルタ41b及び対物レンズ41aを観察系41と共用する。レフ光源ユニット部43aは、例えばLEDを用いたレフ測定用のレフ測定光源43g、コリメータレンズ43h、円錐プリズム43i及びリングパターン形成板43jを有している。レフ光源ユニット部43aは、制御部40によって制御され、眼屈折力測定系43の光軸上を一体的に移動する。
【0055】
リング状光束受光系43Bは、穴開きプリズム43eの穴部43p、第3フィールドレンズ43q、第2反射ミラー43r、第4リレーレンズ43s、合焦レンズ43t及び第3反射ミラー43uを有している。リング状光束受光系43Bは、対物レンズ41a、第1ダイクロイックフィルタ41b、第2ダイクロイックフィルタ41e、第1結像レンズ41f及び撮像素子41gを観察系41と共用する。さらに、リング状光束受光系43Bは、第3ダイクロイックフィルタ42iを視標投影系42と共用し、第3ロータリープリズム43f及び穴開きプリズム43eをリング状光束投影系43Aと共用する。
【0056】
眼屈折力測定系43によって左被検眼ELの眼屈折力を測定する際、まず、制御部40はレフ測定光源43gを点灯させる。そして、制御部40は、リング状光束投影系43Aのレフ光源ユニット部43aとリング状光束受光系43Bの合焦レンズ43tとを光軸方向に移動させる。そして、リング状光束投影系43Aでは、レフ光源ユニット部43aがリング状の測定パターンを出射し、その測定パターンを第3リレーレンズ43b、瞳リング絞り43c及び第2フィールドレンズ43dを経て穴開きプリズム43eに進行させ、その反射面43vで反射し、第3ロータリープリズム43fを経て第3ダイクロイックフィルタ42iに導く。リング状光束投影系43Aは、その測定パターンを第3ダイクロイックフィルタ42i及び第1ダイクロイックフィルタ41bを経て対物レンズ41aに導くことで、左被検眼ELの眼底Efにリング状の測定パターンを投影する。
【0057】
リング状光束受光系43Bは、眼底Efに形成されたリング状の測定パターンを対物レンズ41aで集光し、第1ダイクロイックフィルタ41b、第3ダイクロイックフィルタ42i及び第3ロータリープリズム43fを経て、穴開きプリズム43eの穴部43pに進行させる。続いて、リング状光束受光系43Bは、その測定パターンが第3フィールドレンズ43q、第2反射ミラー43r、第4リレーレンズ43s、合焦レンズ43t、第3反射ミラー43u、第2ダイクロイックフィルタ41e及び第1結像レンズ41fを経ることで、撮像素子41gに結像させる。これにより、撮像素子41gがリング状の測定パターンの像を検出し、制御部40は、撮像素子41gが検出した測定パターンの像を表示部31に表示させる。そして、制御部40は、撮像素子41gからの画像信号に基づき、眼屈折力としての球面度数、円柱度数、軸角度を周知の手法により測定する。
【0058】
なお、眼屈折力測定系43、Zアライメント系45、XYアライメント系46及びケラト系47等の構成や、眼屈折力(レフ)、自覚検査及び角膜形状(ケラト)の測定原理等は、公知であるので、詳細な説明は省略する。
【0059】
以下、実施例1の制御部40にて実施される眼疲労推定処理の処理手順を、図5に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0060】
ステップS1では、制御部40は、左被検眼EL及び右被検眼ERの眼屈折力を測定し、ステップS2へ進む。すなわち、制御部40は、まず、左被検眼ELに対する左測定部24Lのアライメントと、右被検眼ERに対する右測定部24Rのアライメントを行う。次に、制御部40は、左右被検眼EL、ERの眼屈折力をそれぞれ測定する。左右被検眼EL、ERの眼屈折力は、眼屈折力測定系43を用いて得られた眼底反射光によるリング像に基づいて検出される。
【0061】
ステップS2では、ステップS1での両眼の眼屈折力測定に続き、制御部40は、左測定光学系25Lが有する視標投影系42のディスプレイ42aに任意の視標を表示させ、右測定光学系25Rが有する視標投影系42のディスプレイ42aに任意の視標を表示させ、ステップS3へ進む。すなわち、制御部40は、ステップS2において、視標投影系42を制御し、左被検眼ELに対して視標を提示させ、右被検眼ERに対して視標を提示させる。なお、このとき表示される視標は、任意に設定可能であるが、被検者が固視しやすいものがよく、例えば、ジーメンススターチャートや、アスタリスクなど、中心の位置がはっきりしたものがよい。また、視標は、例えば黒色のバックグラウンドに白色で表示されたり、白色のバックグラウンドに黒色で表示されたりする。また、制御部40は、任意の色のバックグラウンドに固視しやすい色を使用して視標を表示してもよい。
【0062】
このとき、制御部40は、視標投影系42を制御して、視標提示距離L2を左右いずれも任意の所定距離(例えば50cm)に設定する。なお、視標提示距離L2は左右被検眼EL、ERで同じ距離とする。これにより、左右被検眼EL、ERにそれぞれ対応する各視標投影系42は、所定の視標提示距離L2に視標を提示する。
【0063】
また、このとき、制御部40は、左眼用駆動機構23L及び右眼用駆動機構23Rを制御し、Y軸回旋駆動部28により左測定部24L及び右測定部24Rの位置(向き)を調整し、左右被検眼EL、ERの瞳孔間距離に合わせて水平方向の位置を調整して、輻輳角度θ1を予め設定した所定角度にすることで、輻輳距離L1を視標提示距離L2とは異なる距離(例えば40cm)に設定する。つまり、Y軸回旋駆動部28が回転する角度は、輻輳距離L1により決定される。この結果、制御部40は、輻輳距離L1を視標提示距離L2とは異なる距離(実施例1では、輻輳距離L1を視標提示距離L2よりも短い距離)に設定した状態で、左右被検眼EL、ERのそれぞれに任意の視標提示距離L2で視標を提示させる。なお、実施例1では、輻輳距離L1及び視標提示距離L2は、予め所定の距離に決められている。
【0064】
さらに、実施例1の眼科装置1では、制御部40は、視標を提示した際、観察系41によって取得された左被検眼EL及び右被検眼ERの前眼部画像E´を検者用コントローラ30の表示部31に表示させる。なお、前眼部画像E´は、眼疲労推定処理の実施中、継続して表示され続ける。
【0065】
ステップS3では、ステップS2での視標の提示に続き、制御部40は、左被検眼ELの基準となる視線方向SL及び右被検眼ERの基準となる視線方向SRを検出し、ステップS4へ進む。ここで、「基準となる視線方向SL、SR」とは、左右被検眼EL、ERのそれぞれに提示した視標に明度差がない状態(明度差拡大前)での視線方向である。視線方向SL、SRは、観察系41によって取得された左被検眼EL及び右被検眼ERの前眼部画像E´に基づいて検出される。そのため、観察系41は、左被検眼ELの視線方向SLと右被検眼ERの視線方向SRを検出するための眼情報を取得する眼情報取得部に相当する。
【0066】
さらに、実施例1の眼科装置1では、制御部40は、視線方向SL、SRを検出したとき、観察系41によって取得された左被検眼EL及び右被検眼ERの前眼部画像E´に加え、左被検眼EL及び右被検眼ERの基準となる視線方向SL、SRの検出結果を、検者用コントローラ30の表示部31に表示させる。
【0067】
なお、視線方向SL、SRを検出するには、制御部40は、まず、左被検眼EL及び右被検眼ERの前眼部画像E´及び倍率に基づき、左被検眼EL及び右被検眼ERの瞳孔中心位置の二次元位置を求める。次に、制御部40は、左被検眼EL及び右被検眼ERの前眼部画像E´及び倍率に基づき、XYアライメント系46が描出した輝点(輝点像Br)の二次元位置である基準位置を求める。そして、制御部40は、基準位置及び瞳孔中心位置に基づいて視線方向SL、SRを求める。視線方向SL、SRを求める手法について、上記手法に限らず、周知のその他の手法を用いてもよい。
【0068】
また、視線方向SL、SRを検出した際、検出された視線方向SL、SRによって得られる輻輳角度から算出される輻輳距離と、駆動機構23を制御して設定された輻輳距離L1との差が大きい場合、若しくは、被検者から視標が2重に見えるとの訴えがあった場合には、視標を両眼視できていないことが考えられる。このため、検者又は制御部40は、視標の方向に視線を向けるよう被検者に促して、ステップS3の基準となる視線方向SL、SEの検出をやり直す。視線方向SL、SRの検出をやり直しても、上記の現象が改善されない場合、制御部40は、眼疲労推定処理を一旦中止し、視標提示距離L2と輻輳距離L1を等しくした状態で視標を提示してから眼疲労推定処理を行ってもよい。
【0069】
ステップS4では、ステップS3での基準となる視線方向SL、SRの検出に続き、制御部40は、左右のディスプレイ42aを制御し、左被検眼ELに提示した視標の明度(バックグラウンドに対する視標のコントラスト)と、右被検眼ERに提示した視標の明度(バックグラウンドに対する視標のコントラスト)との明度差(コントラスト差)を拡大させ、ステップS5へ進む。このとき、制御部40は、非優位眼に提示した視標(例えば、右被検眼ERに提示した視標)の明度(バックグラウンドに対する視標のコントラスト)を時間の経過と共に連続的又は段階的に低減させ、優位眼に提示した視標(例えば、左被検眼ELに提示した視標)の明度(バックグラウンドに対する視標のコントラスト)を固定(維持)する。これにより、視標の明度差(コントラスト差)は、時間の経過と共に連続的又は段階的に拡大し、非優位眼では視標が見えにくくなっていく。なお、制御部40は、ディスプレイ42aの光源を制御し、視標の色がバックグラウンドの色に近づくように変化させる等により、非優位眼に提示した視標の明度を低減する。また、明度を低減するときの明度の低減量及び明度の低減のさせ方は任意に設定可能である。制御部40は、例えば、明度変化前から、視標とバックグラウンドの色が同一になるまでの視標の色調変化量を複数段階に分割し、ステップS3を処理するごとに一段階ずつ低減してもよいし、視標とバックグラウンドの色が同一になるまで一定の割合で継続的に視標の色調を変化させてもよい。
【0070】
ステップS5では、ステップS4での視標の明度差の拡大に続き、制御部40は、左被検眼ELの視線方向SL及び右被検眼ERの視線方向SRを検出し、ステップS6へ進む。なお、視線方向SL、SRの検出方法は、ステップS3と同様である。
【0071】
ステップS6では、ステップS5での視線方向の検出に続き、左被検眼ELのピント位置(所定位置観察時の眼屈折値)及び右被検眼ERのピント位置(所定位置観察時の眼屈折値)を検出し、ステップS7へ進む。ここで、ピント位置は、眼屈折力測定系43を用いて得られた眼底反射光によるリング像に基づいて検出される。すなわち、制御部40は、左被検眼EL或いは右被検眼ERの屈折力から、それぞれの視軸上のピント位置(調節位置)を求める。そのため、眼屈折力測定系43は、左被検眼ELのピント位置及び右被検眼ERのピント位置を検出するための眼情報を取得する眼情報取得部に相当する。
【0072】
ステップS7では、ステップS6でのピント位置の検出に続き、ステップS3にて検出した基準となる左被検眼ELの視線方向SL及び基準となる右被検眼ERの視線方向SRと、ステップS5にて検出した左被検眼ELの視線方向SL及び右被検眼ERの視線方向SRと、ステップS6にて検出した左右被検眼EL、ERのピント位置と、に基づいて、視線方向SL、SRの変化の有無を判断する。YES(視線方向変化あり)の場合はステップS8へ進む。NO(視線方向変化なし)の場合はステップS4へ戻る。
【0073】
なお、視線方向SL、SRの変化の有無は、例えば、ステップS3で検出した基準となる視線方向SL、SRの平均的な角度に対し、ステップS5で検出した視線方向SL、SRが所定の量(例えば±0.5°)ずれたか否かに基づいて判断される。すなわち、制御部40は、基準となる視線方向SL、SRの平均的な角度から、視線方向SL、SRが所定の量ずれたときには、「視線方向変化あり」と判断する。また、左被検眼EL及び右被検眼ERのピント位置が、視標提示距離L2から例えばディオプター換算値で±1.0D以上乖離している場合では、左右被検眼EL、ERが固視標を見続けられなかった可能性がある。そのため、この場合、検者又は制御部40は、被検者に固視標を見続けるよう注意を促して、ステップS5の視線方向SL、SRの検出をやり直す。
【0074】
これにより、制御部40は、ステップS7にて「視線方向変化あり」と判断するまで、ステップS4からステップS7までの処理を繰り返し実行する。そのため、左被検眼ELに提示された視標と、右被検眼ERに提示された視標との明度差は、視線方向SL、SRに変化が生じるまで時間の経過と共に拡大していく。また、このとき、左右被検眼EL、ERの前眼部画像E´の表示と、視線方向SL、SRの検出及び視線方向SL、SRの検出結果の表示は継続して行われる。そのため、左右被検眼EL、ERの前眼部画像E´及び視線方向SL、SRの検出結果は、視標の明度差の拡大と同時進行で表示部31に表示され、検者はリアルタイムで左右被検眼EL、ERの状態を把握することが可能である。
【0075】
ステップS8では、ステップS7での視線方向変化ありとの判断に続き、制御部40は、ステップS7にて視線方向変化ありと判断した時点での左被検眼ELに提示された視標と、右被検眼ERに提示された視標との明度差(視線方向SL、SRが変化し始めたときの明度差、以下「視線変化開始時点の明度差」という)を決定し、ステップS9へ進む。なお、「視線変化開始時点の明度差」は、明度が低減される視標(非優位眼に提示された視標)の視線方向SL、SRが変化し始めた時点の明度で示されてもよい。
【0076】
ステップS9では、ステップS8での視線変化開始時点の明度差の決定に続き、制御部40は、ステップS8にて決定された視線変化開始時点の明度差の情報を、検者用コントローラ30の表示部31に表示させ(出力し)、ステップS10へ進む。
【0077】
ステップS10では、ステップS9での明度差情報の表示に続き、制御部40は、ステップS8にて決定された視線変化開始時点の明度差の情報に基づいて、左右被検眼EL、ERの眼疲労を推定し、エンドへ進む。また、制御部40は、眼疲労の推定結果を、検者用コントローラ30の表示部31に表示させる。なお、制御部40は、例えば一般的な視線方向SL、SRの変化が起こるときの非優位眼に提示された視標の明度と比較し、それよりも視線方向SL、SRが変化し始めた時点の非優位眼に提示された視標の明度が小さいときに、眼疲労がある可能性があると推定してもよい。また、制御部40は、過去の左右被検眼EL、ERの視線方向SL、SRの変化が起きたときの明度差との比較結果から、現在の眼疲労を推定してもよい。
【0078】
以下、実施例1の眼科装置1の作用効果を説明する。
【0079】
実施例1の眼科装置1は、左被検眼EL又は右被検眼ERの眼疲労を推定する際、図5に示された眼疲労推定処理を実行する。すなわち、制御部40は、左被検眼ELと右被検眼ERの眼屈折力を測定し(ステップS1)、続いて、左右被検眼EL、ERのそれぞれに対し、任意の視標提示距離L2により視標を提示する(ステップS2)。このとき、制御部40は、駆動機構23(左眼用駆動機構23L及び右眼用駆動機構23R)を制御して、左測定部24L及び右測定部24Rの位置(向き)を調整し、左右被検眼EL、ERの瞳孔間距離に合わせて水平方向の位置を調整して輻輳角度θ1が所定の角度になるように調整して、輻輳距離L1を視標提示距離L2とは異なる距離に設定する。
【0080】
特に、実施例1では、制御部40は、輻輳距離L1を40cmに設定し、視標提示距離L2を50cmに設定する。つまり、制御部40は、輻輳距離L1を視標提示距離L2よりも短い距離に設定する。これにより、左被検眼EL及び右被検眼ERは、視標が提示された位置とは異なる位置、実施例1では視標の提示位置よりも近距離の位置に視線が向くように輻輳運動させられる。
【0081】
次に、制御部40は、観察系41によって取得された前眼部画像E´に基づいて、左被検眼ELの基準となる視線方向SL及び右被検眼ERの基準となる視線方向SRを検出する(ステップS3)。
【0082】
そして、制御部40は、視標提示距離L2により左右の視標の明度差を拡大させる。具体的には、制御部40は、左被検眼ELに提示した視標と、右被検眼ERに提示した視標とのいずれか一方(例えば、非優位眼が右眼であれば右被検眼ERに提示した視標)の明度を時間の経過と共に連続的又は段階的に低減させ、他方(例えば、優位眼が左眼であれば左被検眼ELに提示した視標)の明度を固定する(ステップS4)。これにより、左右の視標の明度差が時間の経過と共に拡大し、明度が低減する視標(例えば、右被検眼ERに提示された視標)は、時間の経過と共に連続的又は段階的に暗くなっていく。
【0083】
続いて、制御部40は、前眼部画像E´に基づいて、左被検眼ELの視線方向SL及び右被検眼ERの視線方向SRを再度検出する(ステップS5)。そして、制御部40は、視線方向SL、SRの検出と同時に、眼屈折力測定系43によって取得されたリング像に基づいて、左被検眼EL及び右被検眼ERのピント位置を検出する(ステップS6)。その後、制御部40は、視標の明度差の拡大前後にそれぞれ検出した左右被検眼EL、ERの視線方向SL、SR及びピント位置に基づいて、視線方向SL、SRの変化の有無を判断する(ステップS7)。
【0084】
ここで、左被検眼ELに提示された視標の明度(バックグラウンドに対する視標のコントラスト)と、右被検眼ERに提示された視標の明度(バックグラウンドに対する視標のコントラスト)と、が同程度で、左右の視標における明度差(コントラスト差)がゼロ(ほぼゼロを含む)である場合、左右被検眼EL、ERでそれぞれ目視した視標の像を一つの像として被検者が認識する融像が成立し、視線方向SL、SRは変化しない。
【0085】
そして、非優位眼(例えば右被検眼ER)に提示された視標(例えば、右被検眼ERに提示した視標)の明度が時間の経過と共に低減され(バックグラウンドに対する視標のコントラストが小さくなり)、左右の視標における明度差が拡大していくと、非優位眼では、次第に視標が見えにくくなっていく。このとき、左右の視標における明度差が一定の範囲内である場合には、被検者は左右被検眼EL、ERでそれぞれ目視した視標の像を一つの像として認識しようとするため、左右被検眼EL、ERの輻輳状態が維持され、融像が成立する。
【0086】
一方、左右の視標における明度差が一定の範囲を超えて拡大すると、被検者は、非優位眼によって視標を視認することができず、輻輳が維持されない状態となる。この結果、融像が破壊され、左右被検眼EL、ERの眼位は、融像が取り除かれた状態の眼位となり、視線方向SL、SRに変化が生じる。なお、「眼位」とは、左右被検眼EL、ERがそれぞれ向く方向を意味し、ここでは視線方向SL、SRに一致する。
【0087】
これに対し、実施例1の眼科装置1では、最初に視標を提示する際、輻輳距離L1を視標提示距離L2とは異なる距離(輻輳距離L1を視標提示距離L2よりも短い距離)に設定している。このため、左右被検眼EL、ERは、視標の提示位置よりも近距離の位置に視線が向くように輻輳運動させられ、輻輳距離L1と視標提示距離L2が一致している場合の眼位(視標提示距離L2に提示された実視標を目視する場合の眼位、輻輳角度θ2)よりも、内側に向かって回旋した状態になっている。
【0088】
これにより、例えば、非優位眼(視標明度が低減される被検眼)が外斜位若しくは正位である場合、融像が取り除かれたときに、輻輳している状態から外側に向かって回旋し、視標提示距離L2を両眼で視認する場合よりも外側を向く。
【0089】
なお、明度が低減される視標に対応した被検眼が内斜位である場合には、当該被検眼は、融像が取り除かれた状態の眼位において、正位よりも内側に回旋している状態になる。そのため、融像が取り除かれても眼位が大きく変化しにくい。この場合、制御部40は、被検眼が内斜位であることがわかった時点で、輻輳距離L1を視標提示距離L2よりも長い距離に設定して視標を再提示し、視標の明度差を拡大させつつ視線方向SL、SRの変化を測定しなおす。或いは、予め被検眼が内斜位であると把握していれば、制御部40は、輻輳距離L1を視標提示距離L2よりも長い距離に設定して視標を提示し、視標の明度差を拡大しつつ視線方向SL、SRの変化を測定する。これにより、融像が取り除かれたときに視線方向SL、SRが近方視側、すなわち左右被検眼EL、ERは、開散している状態から内側に向かって回旋し、視標提示距離L2を目視する場合よりも内側を向く。
【0090】
このように、実施例1の眼科装置1は、被検者が斜位を持っていなくても、つまり被検者の斜位の有無に拘らず、両眼視状態から左右被検眼EL、ERに提示した視標の明度差を拡大させ、融像が取り除かれた状態の眼位となったときに、左右被検眼EL、ERに眼位ずれを発生させることができる。
【0091】
なお、実施例1の眼科装置1では、視標提示機構によって視標を提示する際、制御部40が、輻輳距離L1を視標提示距離L2よりも短い距離に設定する。そのため、左右被検眼EL、ERは、視標が提示された位置よりも近距離の位置に視線が向くように輻輳運動させられ、視標提示距離L2に実際に提示された実視標を目視する場合の眼位よりも、内側に向かって回旋した状態になる。
【0092】
ここで、一般的に、眼位が正常な人(正位の人)よりも、外斜位を持つ人の方が多いと考えられている。そのため、視標の提示位置よりも近距離の位置に視線が向くように左右被検眼EL、ERを輻輳運動させることで、融像が取り除かれた状態の眼位となったときに視線方向SL、SRが大きく変化するケースを多くできると想定される。これにより、眼疲労の推定をより容易に行うことが可能となる。
【0093】
また、輻輳距離L1は、視標提示距離L2とは異なる距離に設定されていればよい。そのため、制御部40は、例えば、輻輳距離L1を40cmに設定し、例えば、内斜位が予め分かっている被検眼に対しては視標提示距離L2を30cmに設定し、輻輳距離L1を視標提示距離L2よりも長い距離に設定してもよい。この場合では、左右被検眼EL、ERは、視標の提示位置よりも遠距離の位置に視線が向くように開散運動させられ、視標提示距離L2に実際に視標を提示して目視する場合の眼位よりも、外側に向かって回旋した状態になる。
【0094】
この場合であっても、左右被検眼EL、ERは、融像が取り除かれた状態の眼位となったときには視線方向SL、SRが変化しやすく、眼位ずれを生じさせることができる。
【0095】
そして、制御部40は、視線方向SL、SRに変化が生じたと判断したとき、つまり眼位ずれが生じたとき、視線方向変化ありと判断した時点での左右の視標の明度差(視線変化開始時点の明度差)を決定する(ステップS8)。さらに、制御部40は、視線変化開始時点の明度差の情報を表示部31に表示させ(ステップS9)、視線変化開始時点の明度差の情報に基づいて、左右被検眼EL、ERの眼疲労を推定する(ステップS10)。また、制御部40は、眼疲労の推定結果を表示部31に表示させる。
【0096】
すなわち、実施例1の眼科装置1では、制御部40が、左被検眼ELの視線方向SL及び右被検眼ERの視線方向SRに基づいて、左右被検眼EL、ERの疲労度を推定するので、眼疲労の推定を適切に行うことができる。
【0097】
また、実施例1の眼科装置1では、制御部40が、眼疲労の推定結果を表示部31に表示させるので、検者は表示部31を視認することで、左右被検眼EL、ERの疲労度を容易に把握することができる。
【0098】
また、実施例1の眼科装置1では、左右被検眼EL、ERにそれぞれ対応した二つの視標投影系42を備え、一方の視標投影系42が、左被検眼ELに視標を提示すると共に視標の明度を任意に変更可能なディスプレイ42aを有し、他方の視標投影系42が、右被検眼ERに視標を提示すると共に視標の明度を任意に変更可能なディスプレイを有している。そのため、視標投影系42は、左被検眼ELに提示された視標の明度と、右被検眼ERに提示された視標の明度とを、それぞれ細かく変更することができ、制御部40は、左右の視標の明度差を適切に拡大させることができる。
【0099】
また、実施例1の眼科装置1では、制御部40は、左右被検眼EL、ERの視線方向SL、SRを検出する際、左被検眼ELのピント位置及び右被検眼ERのピント位置を検出する。ここで、制御部40は、ピント位置の検出結果から左被検眼EL及び右被検眼ERがどこの位置(距離)を目視しているのかを判別することができる。そのため、制御部40は、左右被検眼EL、ERのピント位置を検出することで、視線方向SL、SRの変化の有無を判断する際、ピント位置の判定結果からきちんと視標を見ているのか判断することが可能となり、視線方向SL、SRの変化の有無の判断精度を向上させることができる。
【0100】
また、実施例1の眼科装置1では、制御部40は、視標の明度差を次第に拡大させる際、観察系41によって取得された眼情報である左被検眼EL及び右被検眼ERの前眼部画像E´を、左右の視標における明度差(コントラスト差)の拡大と同時に表示部31に表示させる。ここで、左右被検眼EL、ERの前眼部画像E´は、視線方向SL、SRの検出に用いられる眼情報である。このため、検者は、表示部31を視認することで、視標の明度差が拡大している間の左右被検眼EL、ERの動きをモニタリングでき、視線方向SL、SRの変化の有無判断を、検者も行うことが可能となる。
【0101】
以上、本発明の眼科装置を実施例1に基づいて説明してきたが、具体的な構成については、この実施例に限定されるものではなく、各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0102】
すなわち、実施例1の眼科装置1では、輻輳距離L1及び視標提示距離L2が予め決められている例が示された。しかしながら、制御部40は、眼疲労推定処理を実施する際、まず、左被検眼ELの眼位と右被検眼ERの眼位をそれぞれ検出する。そして、制御部40は、左被検眼ELの眼位及び右被検眼ERの眼位に基づいて、輻輳距離L1及び視標提示距離L2を設定してもよい。つまり、制御部40は、左右被検眼EL、ERの眼位に応じて、輻輳距離L1及び視標提示距離L2を変動させてもよい。
【0103】
なお、このとき検出される眼位は、例えば、融像除去時の眼位(両眼固視している状態で融像を取り除いたときの眼位)であってもよいし、輻輳距離L1と視標提示距離L2とが一致した状態で視標を視認している状態の眼位であってもよい。融像除去時の眼位は、被検眼にとって視標(モノ)を見る必要がないため、輻輳せずに、楽な姿勢である。また、眼位は、カバーテストやカバーアンカバーテスト等により検出することが可能である。ここで、カバーテストは、被検者に視標を両眼視させた状態で一方の被検眼を遮蔽したときの他方の被検眼の眼位の変化を評価する検査である。カバーアンカバーテストは、片眼を遮蔽した状態から遮蔽を外したときの遮蔽されていた被検眼の眼位の変化を評価する検査である。
【0104】
これにより、制御部40は、左右被検眼EL、ERの眼位に基づいて、輻輳距離L1及び視標提示距離L2を適切な距離に設定することができる。そのため、実施例1の眼科装置1は、融像が取り除かれた状態の眼位となったときに十分な眼位ずれを発生させ、眼疲労の推定精度を向上させることができる。
【0105】
また、実施例1では、視標提示機構として左右被検眼EL、ERのそれぞれに対応する二つの視標投影系42を有し、各視標投影系42が任意の視標を表示可能であって、明度を変更可能なディスプレイ42aを有する例が示された。しかしながら、視標提示機構の構成は、これに限らない。例えば、視標提示機構は、視標と左右被検眼EL、ERとの間に配置された液晶シャッターを有し、液晶シャッターの透過率を変化させることで左右被検眼EL、ERに提示した視標の明度差を拡大してもよい。つまり、視標提示機構は、視標自身の明度(バックグラウンドに対する視標のコントラスト)を変化させるだけでなく、左右被検眼EL、ERにそれぞれ入射する光の光量を変化させることで、左右の視標における明度差を変更可能としてもよい。
【0106】
さらに、視標投影系42は、左右被検眼EL、ERに任意の視標提示距離L2で視標を提示可能であり、さらに片眼のみ視標の明度(コントラスト)を変化させる機構を有しているのであれば、左右独立にそれぞれ設ける必要はない。
【0107】
また、実施例1の眼科装置1では、視線方向SL、SRの変化の有無を判断する際、左右被検眼EL、ERのピント位置を検出する例が示された。しかしながら、ピント位置は、視線方向SL、SRの変化を判断する際の判断制度を担保するために検出するので、必ずしも検出されなくてもよい。
【0108】
また、実施例1の眼科装置1では、左右被検眼EL、ERの疲労度の推定結果や、
視標の明度差を次第に拡大するときの、左右被検眼EL、ERの前眼部画像E´が、検者用コントローラ30の表示部31に表示される例が示された。しかしながら、表示部31は、少なくとも検者が目視可能であればよいので、例えば、検眼用テーブル12に設置されるモニターや、測定ユニット20に設けられるディスプレイ等を表示部としてもよい。
【0109】
また、実施例1では、非優位眼に提示した視標の明度(バックグラウンドに対する視標のコントラスト)を低減し、優位眼に提示した視標の明度(バックグラウンドに対する視標のコントラスト)を固定する例が示された。しかしながら、左右の視標の明度差を拡大する際、制御部40は、優位眼に提示した視標の明度を低減し、非優位眼に提示した視標の明度を固定することで、左右の視標の明度差を拡大してもよい。
【0110】
また、実施例1の眼科装置1では、基準となる視線方向SL、SRの平均的な角度から、明度差を拡大した後の視線方向SL、SRが所定の量(例えば±0.5°)ずれた時点で視線方向SL、SRが変化したと判断し、その時点の明度差を「視線変化開始時点の明度差」とする例が示された。つまり、実施例1では、視線方向SL、SRが、基準の視線方向SL、SRに対して所定の量ずれたタイミングが「視線方向SL、SRが変化したタイミング」と判断している。
【0111】
しかしながら、視線方向SL、SRが変化したタイミング(視線変化開始時点)の判断方法及び視線変化開始時点の明度差の決定方法は、これに限らない。例えば、制御部40は、視線方向SL、SRを所定間隔(例えば30Hz)で監視し続ける。そして、制御部40は、視線方向SL、SRが基準の視線方向SL、SRに対して、微小でも変化したときの視線方向SL、SRを示す値を直線近似した第1直線と、基準となる(視標明度差の拡大前)視線方向SL、SRを示す値を直線近似した第2直線(傾きがゼロ)とが交差するタイミングを「視線変化開始時点」とし、そのときの左右の視標の明度差を「視線変化開始時点の明度差」としてもよい。この場合、制御部40は、視線方向SL、SRが基準に対して所定の量ずれる前に、視線方向SL、SRが変化したと判断可能となる。
【0112】
また、実施例1の眼科装置1では、視線方向SL、SRの変化が開始(発生)した時点で視標の明度差の拡大を停止し、「視線変化開始時点の明度差」を決定する例が示された。しかしながら、制御部40は、一方の視標の明度がゼロになるまで、つまり、一方の視標がバックグラウンドと同じ色になるまで、視線方向SL、SRの変化を検出し続けてもよい。この場合、「視線変化開始時点」及び「視線変化開始時点の明度差」を決定する方法は、上記方法でもよい。また、他の方法であってもよい。つまり、制御部40は、まず、基準(明度変化前)の視線方向SL、SRから、視標の明度がゼロのときの視線方向SL、SRになるまでの、視線変化量(眼位の変動量)をグラフ化する。そして、制御部40は、当該グラフにおいて、視線の変化割合が0.1(10%)の時点(つまり、視線が10%変化した時点)での視線変化量と、視線の変化割合が0.9(90%)の時点(視線が90%変化した時点)での視線変化量とを繋ぐ直線と、基準(明度変化前)の視線変化量を示す直線(傾きゼロ)と、が交差するタイミングを「視線変化開始時点」とし、そのときの左右の視標の明度差を「視線変化開始時点の明度差」としてもよい。
【0113】
また、実施例1の眼科装置1では、左右被検眼EL、ERの前眼部画像E´及び視線方向SL、SRの検出結果の表示は、視標の明度差を拡大する間継続して表示され続ける。しかしながら、前眼部画像E´や視線方向SL、SRの検出結果は、視線方向SL、SRに変化が生じたと判断したタイミングや、一方の視標の明度がゼロになるタイミング、つまり、一方の視標がバックグラウンドと同じ色になったタイミング等で表示されてもよい。
【符号の説明】
【0114】
1 眼科装置
20 測定ユニット
22 測定ヘッド
23L 左眼用駆動機構(輻輳調整機構)
23R 右眼用駆動機構(輻輳調整機構)
24L 左測定部
24R 右測定部
25L 左測定光学系
25R 右測定光学系
41 観察系(眼情報取得部)
42 視標投影系(視標提示機構)
42a ディスプレイ(第1ディスプレイ、第2ディスプレイ)
43 眼屈折力測定系(眼情報取得部)
30 検者用コントローラ
31 表示部
40 制御部
L1 輻輳距離
L2 視標提示距離
P1 視標交差点
図1
図2
図3
図4
図5