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特開2023-150807半導体素子の熱抵抗測定方法及び半導体素子の熱抵抗測定装置
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  • 特開-半導体素子の熱抵抗測定方法及び半導体素子の熱抵抗測定装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150807
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】半導体素子の熱抵抗測定方法及び半導体素子の熱抵抗測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/26 20200101AFI20231005BHJP
【FI】
G01R31/26 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060097
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】原岡 了佑
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 秀一
【テーマコード(参考)】
2G003
【Fターム(参考)】
2G003AA02
2G003AB15
2G003AB16
2G003AD06
2G003AE01
(57)【要約】
【課題】複数の半導体素子のそれぞれの熱抵抗を測定することができる半導体素子の熱抵抗測定方法及び半導体素子の熱抵抗測定装置を提供することを目的とする。
【解決手段】半導体素子の熱抵抗測定方法は、半導体モジュール11に設けられSi-FET113を不飽和状態に制御し、かつ半導体モジュール11に設けられSi-FET113に直列に接続されたGaN-FET111を飽和状態に制御して、Si-FET113の熱抵抗を測定する第一熱抵抗測定工程(ステップS11)と、Si-FET113及びGaN-FET111を飽和状態に制御してGaN-FET111の熱抵抗を測定する第二熱抵抗測定工程(ステップS15)とを備えている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体モジュールに設けられエンハンスメント型の第一電圧制御型半導体素子を不飽和状態に制御し、かつ前記半導体モジュールに設けられ前記第一電圧制御型半導体素子に直列に接続されたディプレッション型の第二電圧制御型半導体素子を飽和状態に制御して、前記第一電圧制御型半導体素子の熱抵抗を測定する第一熱抵抗測定工程と、
前記第一電圧制御型半導体素子及び前記第二電圧制御型半導体素子を飽和状態に制御して前記第二電圧制御型半導体素子の熱抵抗を測定する第二熱抵抗測定工程と
を備える半導体素子の熱抵抗測定方法。
【請求項2】
前記第一熱抵抗測定工程は、
前記不飽和状態に制御した前記第一電圧制御型半導体素子を発熱させる第一発熱工程と、
前記第一発熱工程で前記第一電圧制御型半導体素子を発熱させる前に、前記第一電圧制御型半導体素子に設けられた制御端子及びキャリア流入側端子の間の端子間電圧を、前記不飽和状態に制御した状態で測定する第一発熱前電圧測定工程と、
前記第一発熱工程の後に前記不飽和状態で発熱を継続している前記第一電圧制御型半導体素子の前記端子間電圧を測定する第一発熱中電圧測定工程と
を有する
請求項1に記載の半導体素子の熱抵抗測定方法。
【請求項3】
前記第一発熱前電圧測定工程において測定された前記端子間電圧、前記第一発熱中電圧測定工程において測定された前記端子間電圧及び前記第一電圧制御型半導体素子が有する温度特性係数に基づいて、前記第一電圧制御型半導体素子の熱抵抗を算出する第一熱抵抗算出工程を備える
請求項2に記載の半導体素子の熱抵抗測定方法。
【請求項4】
前記第一発熱前電圧測定工程において、
前記第二電圧制御型半導体素子を前記飽和状態に制御し、かつ前記第一電圧制御型半導体素子を前記不飽和状態に制御することが可能な電圧値の第一測定用電圧を前記半導体モジュールに設けられた一方の端子及び他方の端子の間に印加し、
前記第一電圧制御型半導体素子が発熱しない電流量の第一測定用電流を前記一方の端子から前記半導体モジュールに流して前記端子間電圧を測定する
請求項2又は3に記載の半導体素子の熱抵抗測定方法。
【請求項5】
前記第一発熱工程において、
前記第一電圧制御型半導体素子の前記制御端子及び前記キャリア流入側端子の間に前記第一発熱前電圧測定工程において測定された前記端子間電圧と同じ電圧値の電圧を印加し、
前記第二電圧制御型半導体素子を前記飽和状態に制御した状態で前記不飽和状態に制御した前記第一電圧制御型半導体素子を発熱させることが可能な第一発熱用電圧を前記半導体モジュールの前記一方の端子及び前記他方の端子の間に印加し、
前記第一測定用電流よりも電流量が大きい第一発熱用電流を前記一方の端子から前記半導体モジュールに流して前記第一電圧制御型半導体素子を発熱させる
請求項4に記載の半導体素子の熱抵抗測定方法。
【請求項6】
前記第一発熱中電圧測定工程において、
前記第一測定用電圧を前記半導体モジュールの前記一方の端子及び前記他方の端子の間に印加し、
前記第一測定用電流を前記一方の端子から前記半導体モジュールに流して前記端子間電圧を測定する
請求項4又は5に記載の半導体素子の熱抵抗測定方法。
【請求項7】
前記第二熱抵抗測定工程は、
前記第一電圧制御型半導体素子及び前記第二電圧制御型半導体素子を前記飽和状態に制御した状態で前記第二電圧制御型半導体素子を発熱させる第二発熱工程と、
前記第二発熱工程で前記第二電圧制御型半導体素子を発熱させる前に、前記第一電圧制御型半導体素子及び前記第二電圧制御型半導体素子を前記飽和状態に制御した状態で前記半導体モジュールの一方の端子及び他方の端子の間の両端子間電圧を測定する第二発熱前電圧測定工程と、
前記第二発熱工程の後に前記飽和状態で前記第二電圧制御型半導体素子が発熱を継続している状態で前記半導体モジュールの前記両端子間電圧を測定する第二発熱中電圧測定工程と
を有する
請求項1から6までのいずれか一項に記載の半導体素子の熱抵抗測定方法。
【請求項8】
前記第二発熱前電圧測定工程において測定された前記両端子間電圧、前記第二発熱中電圧測定工程において測定された前記両端子間電圧及び前記第二電圧制御型半導体素子が有する温度特性係数に基づいて、前記第二電圧制御型半導体素子の熱抵抗を算出する第二熱抵抗算出工程を備える
請求項7に記載の半導体素子の熱抵抗測定方法。
【請求項9】
前記第二発熱前電圧測定工程において、
前記第一電圧制御型半導体素子及び前記第二電圧制御型半導体素子を前記飽和状態に制御し、
前記第一電圧制御型半導体素子及び前記第二電圧制御型半導体素子に異常な発熱が発生しない電流量の第二測定用電流を前記一方の端子から前記半導体モジュールに流して前記両端子間電圧を測定する
請求項7又は8に記載の半導体素子の熱抵抗測定方法。
【請求項10】
前記第二発熱工程において、
前記半導体モジュールの前記一方の端子及び前記他方の端子の間に前記第二発熱前電圧測定工程において測定された前記両端子間電圧と同じ電圧値の電圧を印加し、
前記第一電圧制御型半導体素子及び前記第二電圧制御型半導体素子を前記飽和状態に制御した状態で前記第二電圧制御型半導体素子を発熱させることが可能であり、かつ前記第二測定用電流よりも電流量が大きい第二発熱用電流を前記一方の端子から前記半導体モジュールに流して前記第二電圧制御型半導体素子を発熱させる
請求項9に記載の半導体素子の熱抵抗測定方法。
【請求項11】
前記第二発熱中電圧測定工程において、
前記第一電圧制御型半導体素子及び第二電圧制御型半導体素子を前記飽和状態に制御した状態で、前記第二測定用電流を前記一方の端子から前記半導体モジュールに流して前記両端子間電圧を測定する
請求項9又は10に記載の半導体素子の熱抵抗測定方法。
【請求項12】
エンハンスメント型の第一電圧制御型半導体素子に設けられた制御端子及びキャリア流入側端子の間に電圧を印加する端子間可変電源と、
前記第一電圧制御型半導体素子と前記第一電圧制御型半導体素子に直列に接続されたディプレッション型の第二電圧制御型半導体素子とを有する半導体モジュールの一方の端子及び他方の端子の間に電圧を印加する両端子間可変電源と
を備え、
前記端子間可変電源は、前記第一電圧制御型半導体素子の熱抵抗を測定する場合に前記第一電圧制御型半導体素子を不飽和状態に制御可能な電圧を前記制御端子及び前記キャリア流入側端子の間に印加し、前記第二電圧制御型半導体素子の熱抵抗を測定する場合に前記第一電圧制御型半導体素子及び前記第二電圧制御型半導体素子を飽和状態に制御可能な電圧を前記制御端子及び前記キャリア流入側端子の間に印加し、
前記両端子間可変電源は、前記第二電圧制御型半導体素子の熱抵抗を測定する場合に、前記半導体モジュールの前記一方の端子及び前記他方の端子の間に電圧を印加するとともに前記一方の端子から前記飽和状態に制御された前記第二電圧制御型半導体素子に電流を流す
半導体素子の熱抵抗測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子の熱抵抗測定方法及び半導体素子の熱抵抗測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の熱抵抗の測定において、例えば半導体素子自体に電圧を印加し自己発熱させることで熱抵抗を測定することが広く知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-135868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、複数の半導体素子が近接配置され、熱的に結合しているような半導体モジュールは、各々の半導体素子を個々に自己発熱させることでそれぞれの熱抵抗を個別に測定することが困難であるという問題を有している。
【0005】
本発明の目的は、複数の半導体素子のそれぞれの熱抵抗を個別に測定することができる半導体素子の熱抵抗測定方法及び半導体素子の熱抵抗測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一態様による半導体素子の熱抵抗測定方法は、半導体モジュールに設けられエンハンスメント型の第一電圧制御型半導体素子を不飽和状態に制御し、かつ前記半導体モジュールに設けられ前記第一電圧制御型半導体素子に直列に接続されたディプレッション型の第二電圧制御型半導体素子を飽和状態に制御して、前記第一電圧制御型半導体素子の熱抵抗を測定する第一熱抵抗測定工程と、前記第一電圧制御型半導体素子及び前記第二電圧制御型半導体素子を飽和状態に制御して前記第二電圧制御型半導体素子の熱抵抗を測定する第二熱抵抗測定工程とを備える。
【0007】
また、上記目的を達成するために、本発明の一態様による半導体素子の熱抵抗測定装置は、エンハンスメント型の第一電圧制御型半導体素子に設けられた制御端子及びキャリア流入側端子の間に電圧を印加する端子間可変電源と、前記第一電圧制御型半導体素子と前記第一電圧制御型半導体素子に直列に接続されたディプレッション型の第二電圧制御型半導体素子とを有する半導体モジュールの一方の端子及び他方の端子の間に電圧を印加する両端子間可変電源とを備え、前記端子間可変電源は、前記第一電圧制御型半導体素子の熱抵抗を測定する場合に前記第一電圧制御型半導体素子を不飽和状態に制御可能な電圧を前記制御端子及び前記キャリア流入側端子の間に印加し、前記第二電圧制御型半導体素子の熱抵抗を測定する場合に前記第一電圧制御型半導体素子及び前記第二電圧制御型半導体素子を飽和状態に制御可能な電圧を前記制御端子及び前記キャリア流入側端子の間に印加し、前記両端子間可変電源は、前記第二電圧制御型半導体素子の熱抵抗を測定する場合に、前記半導体モジュールの前記一方の端子及び前記他方の端子の間に電圧を印加するとともに前記一方の端子から前記飽和状態に制御された前記第二電圧制御型半導体素子に電流を流す。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、複数の半導体素子のそれぞれの熱抵抗を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態による半導体素子の熱抵抗測定装置の概略構成の一例を示す回路図である。
図2】本発明の一実施形態による半導体素子の熱抵抗測定装置に備えられた半導体デバイスの概略構成の一例を模式的に示す平面図である。
図3】本発明の一実施形態による半導体素子の熱抵抗測定装置に備えられた半導体デバイスの概略構成の一例を模式的に示す断面図である。
図4】本発明の一実施形態による半導体素子の熱抵抗測定方法の流れの一例を示すフローチャートである。
図5】本発明の一実施形態による半導体素子の熱抵抗測定方法における第一熱抵抗測定工程の流れの一例を示すフローチャートである。
図6】本発明の一実施形態による半導体素子の熱抵抗測定方法での第一熱抵抗測定工程において、半導体モジュールに供給される種々の電圧及び電流を説明するための図である。
図7】本発明の一実施形態による半導体素子の熱抵抗測定方法における第二熱抵抗測定工程の流れの一例を示すフローチャートである。
図8】本発明の一実施形態による半導体素子の熱抵抗測定方法での第二熱抵抗測定工程において、半導体モジュールに供給される種々の電圧及び電流を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態による半導体素子の熱抵抗測定方法及び半導体素子の熱抵抗測定装置について図1から図8を用いて説明する。
【0011】
(半導体素子の熱抵抗測定装置)
本実施形態による半導体素子の熱抵抗測定装置の概略構成について図1から図3を用いて説明する。図1は、本実施形態による半導体素子の熱抵抗測定装置(以下、「熱抵抗測定装置」と略記する場合がある)1の概略構成の一例を示す図である。
【0012】
図1に示すように、本実施形態による熱抵抗測定装置1は、シリコン(Si)で形成された半導体基板113a(図1では不図示、図3参照)を有する電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor:FET)113に設けられたゲート電極g3(制御端子の一例)及びソース電極s3(キャリア流入側端子の一例)の間に電圧を印加する可変電源13(端子間可変電源の一例)を備えている。以下、シリコンで形成された半導体基板を有する電界効果トランジスタを「Si-FET」と称する。Si-FET113は、例えばN型のFETである。Si-FET113は、エンハンスメント型の第一電圧制御型半導体素子の一例に相当する。
【0013】
また、熱抵抗測定装置1は、Si-FET113とSi-FET113に直列に接続されたGaN-FET111を有する半導体モジュール11のドレイン端子D(一方の端子の一例)及びソース端子S(他方の端子の一例)の間に電圧を印加する可変電源15(両端子間可変電源の一例)を備えている。GaN-FET111は、窒化ガリウム(GaN)で形成された半導体基板111a(図1では不図示、図3参照)を有する電界効果トランジスタである。以下、窒化ガリウムで形成された半導体基板を有する電界効果トランジスタを「GaN-FET」と称する。GaN-FET111は、例えばN型のFETである。GaN-FET111は、ディプレッション型の第二電圧制御型半導体素子の一例に相当する。
【0014】
可変電源13の正極側は、半導体モジュール11のゲート端子Gに接続されている。半導体モジュールのゲート端子Gは、Si-FET113のゲート電極g3に接続されている。このため、可変電源13の正極側は、半導体モジュール11のゲート端子Gを介してSi-FET113のゲート電極g3に接続される。可変電源13の負極側は、半導体モジュール11のソース端子Sに接続されている。半導体モジュール11のソース端子Sは、Si-FET113のソース電極s3に接続されている。このため、可変電源13の負極側は、半導体モジュール11のソース端子Sを介してSi-FET113のソース電極s3に接続される。
【0015】
可変電源15の正極側は、半導体モジュール11のドレイン端子Dに接続されている。半導体モジュール11のドレイン端子Dは、GaN-FET111のドレイン電極d1に接続されている。このため、可変電源15の正極側は、半導体モジュール11のドレイン端子Dを介してGaN-FET111のドレイン電極d1に接続される。
可変電源15の負極側は、半導体モジュール11のソース端子S及び可変電源13の負極側に接続されている。半導体モジュール11のソース端子Sは、Si-FET113のソース電極s3に接続されている。このため、可変電源15の負極側は、半導体モジュール11のソース端子Sを介してSi-FET113のソース電極s3に接続される。
【0016】
図1に示すように、半導体モジュール11は、可変電源13の正極側と負極側の間に直列に接続されたGaN-FET111及びSi-FET113を有している。GaN-FET111のソース電極s1は、Si-FET113のドレイン電極d3に接続されている。GaN-FET111のゲート電極g1は、Si-FET113のソース電極s3に接続されている。このため、GaN-FET111のゲート電極g1は、Si-FET113のソース電極s3を介して半導体モジュール11のソース端子S、可変電源13の負極側及び可変電源15の負極側に接続される。
【0017】
ここで、半導体モジュール11の構成について図1を参照しつつ図2及び図3を用いて説明する。図2は、半導体モジュール11の概略構成の一例を示す平面模式図である。図3は、図2中に示すA-A線で切断した半導体モジュール11のGaN-FET111及びSi-FET113の部分の概略構成の一例を示す断面模式図である。
【0018】
図2に示すように、Si-FET113及びGaN-FET111は、重なって配置されている。Si-FET113は、GaN-FET111の上に配置されている。半導体モジュール11のゲート端子G、ドレイン端子D及びソース端子Sは所定形状の配線パターンを有し、GaN-FET111の周囲を囲んで配置されている。
【0019】
図3に示すように、GaN-FET111は、半導体モジュール11に設けられたケース115の上に配置されている。GaN-FET111は、熱伝導性を有する伝熱性接合剤117によってケース115と熱的かつ機械的に接合されている。GaN-FET111は、半導体基板111aを有している。半導体基板111aのケース115側の表面が伝熱性接合剤117を介してケース115に接合されている。
【0020】
GaN-FET111は、伝熱性接合剤117と接している半導体基板111aの表面の裏面側に形成された2個のゲート電極g1、ソース電極s1及びドレイン電極d1(図3では不図示、図2参照)を有している。このように、GaN-FET111は、半導体基板111aの1つの表面上にゲート電極g1、ソース電極s1及びドレイン電極d1が形成された横型構造を有している。
【0021】
図2に示すように、半導体基板111aは、ゲート電極g1、ソース電極s1及びドレイン電極d1が形成された表面に直交する軸方向から見て(以下、「平面視」と称する)、長方形状を有している。ドレイン電極d1は、半導体基板111aの一方の長辺の近傍で当該長辺に沿って延在して配置されている。ドレイン電極d1は、正方形状を有する複数(本実施形態では6個)の電極パッドを有し、隣接する当該電極パッド同士が配線パターンによって接続された形状を有している。2個のゲート電極g1は、半導体基板111aの他方の長辺寄りに配置されている。2個のゲート電極g1の一方は、半導体基板111aの一方の短辺の近傍に配置され、2個のゲート電極g1の他方は、半導体基板111aの他方の短辺の近傍に配置されている。ソース電極s1は、半導体基板111aのほぼ中央であって、2個のゲート電極g1に挟まれ、かつドレイン電極d1に隣り合って配置されている。
【0022】
図2に示すように、Si-FET113は、GaN-FET111のソース電極s1の上に配置されている。図3に戻って、Si-FET113は、ソース電極s1の上に形成された導電性接合剤119によってGaN-FET111と電気的かつ物理的(熱的)に接合されている。Si-FET113は、Siで形成された半導体基板113aと、半導体基板111aのGaN-FET111側の表面に形成されたドレイン電極d3と、当該表面の裏面側に形成されたソース電極s3及びゲート電極g3を有している。このように、Si-FET113は、半導体基板111aの2つの表面上にソース電極s3及びドレイン電極d3が形成された構造を有している。
【0023】
Si-FET113のドレイン電極d3と、GaN-FET111のソース電極s1とは、導電性接合剤119によって電気的に接続されている。これにより、Si-FET113及びGaN-FET111は、直列に接続される。
【0024】
図2に戻って、Si-FET113のゲート電極g3は、ボンディングワイヤBW1によって半導体モジュール11のゲート端子Gに接続されている。Si-FET113のソース電極s3は、複数(本実施形態では4本)のボンディングワイヤBW2によって半導体モジュール11のソース端子Sに接続されている。GaN-FET111の2個のゲート電極g1のそれぞれは、ボンディングワイヤBW3によって半導体モジュール11のソース端子Sに接続されている。これにより、GaN-FET111の2個のゲート電極g1は、ボンディングワイヤBW3、ソース端子S及びボンディングワイヤBW2を介してSi-FET113のソース電極s3と接続される。GaN-FET111のドレイン電極d1は、複数(本実施形態では6本)のボンディングワイヤBW4によって半導体モジュール11のドレイン端子Dに接続されている。ボンディングワイヤBW4は、正方形状に形成されたドレイン電極d1の電極パッドに接合されている。
【0025】
このように、半導体モジュール11は、Si-FET113がGaN-FET111の上に配置されたチップオンチップ構造を有している。よって熱的に結合している。また、半導体モジュール11は、GaN-FET111とSi-FET113とが直列に接続(カスケード接続)された構成を有している。このため、この直列接続の回路に単純に電流を流すだけでは、GaN-FET111及びSi-FET113のそれぞれが発熱し、かつ上に記載の通り、熱的にも結合しているため、その発熱が、それぞれのFETの発熱を個別に検出することができない。よって、それぞれのFETの熱抵抗を個別に算出することができない。
【0026】
そこで、本実施形態による熱抵抗測定装置1では、可変電源13は、Si-FET113の熱抵抗を測定する場合にSi-FET113を不飽和状態に制御可能な電圧をゲート電極g3及びソース電極s3の間に印加し、GaN-FET111の熱抵抗を測定する場合にSi-FET113及びGaN-FET111を飽和状態に制御可能な電圧をゲート電極g3及びソース電極s3の間に印加する。さらに、本実施形態による熱抵抗測定装置1では、可変電源15は、GaN-FET111の熱抵抗を測定する場合に、半導体モジュール11のドレイン端子D及びソース端子Sの間に電圧を印加するとともにドレイン端子Dから飽和状態に制御されたGaN-FET111に電流を流す。
【0027】
このように、熱抵抗測定装置1は、可変電源13,15から半導体モジュール11に印加する電圧を適宜変化させ、Si-FET113の熱抵抗を測定する場合と、GaN-FET111の熱抵抗を測定する場合とでSi-FET113及びGaN-FET111の動作状態を適宜異ならせることによって、Si-FET113の熱抵抗及びGaN-FET111の熱抵抗を個別に測定するようになっている。
【0028】
本実施形態では、「不飽和状態」は、FETのIV特性(ドレイン・ソース間電圧に対するドレイン・ソース間電流の特性)における線形領域でFETが動作する状態を意味する。すなわち、「不飽和状態」は、ドレイン・ソース間電流がドレイン・ソース間電圧に依存して変化する領域でFETが動作する状態を意味する。また、本実施形態では、「飽和状態」は、FETのIV特性における飽和領域でFETが動作する状態を意味する。すなわち、「飽和状態」は、ドレイン・ソース間電流がドレイン・ソース間電圧に依存せずゲート・ソース間電圧に依存して変化する領域でFETが動作する状態を意味する。「不飽和状態」及び「飽和状態」のいずれもFETは、オン状態である。しかしながら、ゲート-ソース間電圧が同一の場合には、「飽和状態」の方が「非飽和状態」よりも大きいドレイン-ソース間電流が流れる。
【0029】
熱抵抗測定装置1は、制御部17を備えている。制御部17は、可変電源13,15を制御してゲート電極g3とソース電極s3の間の電圧を測定したり、GaN-FET111及びSi-FET113のそれぞれの発熱量に基づいてGaN-FET111及びSi-FET113のそれぞれの熱抵抗を算出したりする。
【0030】
(半導体素子の熱抵抗測定方法)
本実施形態による半導体素子の熱抵抗測定方法について図4から図8を用いて説明する。図4は、本実施形態による半導体素子の熱抵抗測定方法(以下、「熱抵抗測定方法」と略記する場合がある)の流れの一例を示すフロントゲートである。
【0031】
図4に示すように、本実施形態による熱抵抗測定方法では、まず、ステップS11において、第一熱抵抗測定工程が実行され、ステップS13の処理に移行する。ステップS11の第一熱抵抗測定工程では、半導体モジュール11(図6参照)に設けられたSi-FET113(エンハンスメント型の第一電圧制御型半導体素子の一例、図6参照)を不飽和状態に制御し、かつ半導体モジュール11に設けられSi-FET113に直列に接続されたGaN-FET111(ディプレッション型の第二電圧制御型半導体素子の一例、図6参照)を飽和状態に制御して、Si-FET113の熱抵抗を測定する。
【0032】
ここで、第一熱抵抗測定工程(ステップS11)の具体的な処理について図5及び図6を用いて説明する。図5は、第一熱抵抗測定工程の流れの一例を示すフローチャートである。図6は、第一熱抵抗測定工程において、可変電源13,15によって半導体モジュール11に供給される種々の電圧及び電流を説明するための図である。図6(a)は、第一熱抵抗測定工程における第一発熱前電圧測定工程及び第一発熱中電圧測定工程(いずれも詳細は後述)を説明するための図であり、図6(b)は、第一発熱工程(詳細は後述)を説明するための図である。
【0033】
図5に示すように、第一熱抵抗測定工程では、まず、ステップS111において、第一発熱前電圧測定工程が実行され、ステップS113の処理に移行する。ステップS111の第一発熱前電圧測定工程では、第一発熱工程(詳細は後述)でSi-FET113を発熱させる前に、Si-FET113に設けられたゲート電極g3(制御端子の一例)とソース電極s3(キャリア流入側端子の一例)の間の端子間電圧Vgsm1を、Si-FET113を不飽和状態に制御した状態で測定する。つまり、第一発熱前電圧測定工程では、IV特性における線形領域で動作するようにSi-FET113が制御された状態で端子間電圧Vgsm1が測定される。より具体的には、第一発熱前電圧測定工程において、GaN-FET111を飽和状態に制御し、かつSi-FET113を不飽和状態に制御することが可能な電圧値の第一測定用電圧Vmp1を半導体モジュール11に設けられたドレイン端子D及びソース端子Sの間に印加する。つまり、第一測定用電圧Vmp1は、GaN-FET111が飽和状態となる電圧がドレイン端子d1及びソース端子s1に印加され、Si-FET113が不飽和状態となる電圧がドレイン端子d3及びソース端子s3に印加される電圧値に設定される。さらに、第一発熱前電圧測定工程において、飽和状態に制御されたGaN-FET111及び不飽和状態に制御されたSi-FET113の両方が流すことが可能な電流量に設定された第一測定用電流Imp1をドレイン端子Dから半導体モジュール11に流して、Si-FET113のゲート電極g3及びソース電極s3の間の端子間電圧Vgsp1を測定する。第一発熱前電圧測定工程では、GaN-FET111及びSi-FET113に許容値以上の電流が流れることにより、GaN-FET111及びSi-FET113の少なくとも一方に、電圧や電流などが定格範囲内で動作している場合には生じない発熱(以下、「異常な発熱」と称する)が発生することが防止される。
【0034】
図6(a)に示すように、ステップS111の第一発熱前電圧測定工程において、熱抵抗測定装置1に備えられた制御部17は、可変電源15を制御して、第一測定用電圧Vmp1を半導体モジュール11のドレイン端子D及びソース端子Sの間に印加するとともに、第一測定用電流Imp1をドレイン端子Dから半導体モジュール11に供給する。第一測定用電流Imp1は、Si-FET113が不飽和状態でも流すことができる電流値(換言すると飽和状態での電流値よりも小さい値)に設定される。これにより、第一測定用電流Imp1は、Si-FET113に異常な発熱が発生しない電流量となる。第一測定用電圧Vmp1及び第一測定用電流Imp1は、例えばSi-FET113のデータシートに記載された電気的特性(電流-電圧特性など)に基づいて決定されてもよいし、実測値に基づいて決定されてもよい。
【0035】
第一発熱前電圧測定工程では、GaN-FET111は飽和状態に制御される。したがって、半導体モジュール11のドレイン端子Dから供給される第一測定用電流Imp1は、GaN-FET111を通ってSi-FET113のドレイン電極d3に入力される。制御部17は、飽和状態にあるGaN-FET111及び不飽和状態にあるSi-FET113を有する半導体モジュール11のソース端子Sから出力される電流を測定し、当該電流が第一測定用電流Imp1となるように可変電源13を調整する。制御部17は、第一発熱前電圧測定工程において、半導体モジュール11のソース端子Sから出力される電流が第一測定用電流Imp1と同じ電流値になる可変電源13の出力電圧、すなわちSi-FET113のゲート電極g3とソース電極s3との間の端子間電圧Vgsp1を測定して記憶する。
【0036】
図5に戻って、ステップS113において、第一発熱工程が実行され、ステップS115の処理に移行する。ステップS113の第一発熱工程では、不飽和状態に制御したSi-FET113を発熱させる。一般的に、FETでは、線形領域で制御された状態である不飽和状態の抵抗は、飽和状態のオン抵抗と比較して大きい。このため、第一発熱工程では、飽和領域で動作するGaN-FET111の発熱は無視できる程に、不飽和状態で動作するSi-FET113の発熱が支配的になる。ステップS113の第一発熱工程において、Si-FET113のゲート電極g3及びソース電極s3の間に第一発熱前電圧測定工程(ステップS111)において測定された端子間電圧Vgsp1と同じ電圧値の電圧を印加する。また、ステップS113の第一発熱工程において、GaN-FET111を飽和状態に制御した状態で不飽和状態に制御したSi-FET113を発熱させることが可能な第一発熱用電圧Vph1を半導体モジュール11のドレイン端子D及びソース端子Sの間に印加する。さらに、ステップS113の第一発熱工程において、第一測定用電流Imp1よりも電流量が大きい第一発熱用電流Iph1をドレイン端子Dから半導体モジュール11に流してSi-FET113を発熱させる。第一発熱用電流Iph1は、例えば飽和状態に制御されたGaN-FET111では許容範囲内であり、かつ不飽和状態に制御されたSi-FET113では許容範囲を超えた電流量に設定される。このため、Si-FET113は、GaN-FET111よりも発熱量が大きくなる。
【0037】
図6(b)に示すように、ステップS113の第一発熱工程において、制御部17は、ステップS111において測定された端子間電圧Vgsp1をSi-FET113のゲート電極g3及びソース電極s3に印加した状態で、半導体モジュール11を破損させない程度に発熱させることが可能な第一発熱用電圧Vph1及び第一発熱用電流Iph1が流れるように可変電源15を制御する。第一発熱用電圧Vph1(すなわち半導体モジュール11のドレイン-ソース間電圧)、第一発熱用電流Iph1(すなわち半導体モジュール11のドレイン電流)、GaN-FET111の完全なオン状態(飽和状態)におけるオン抵抗Rongを用いると、ステップS113の第一発熱工程における、GaN-FET111の消費電力TG1は、以下の式(1)で表すことができ、Si-FET113の消費電力TS1は、以下の式(2)で表すことができる。
TG1=Iph1×Rong ・・・(1)
TS1=Iph1×Vph1-TG1 ・・・(2)
【0038】
例えば、第一発熱用電圧Vph1を20[V]とし、第一発熱用電流Iph1を2[A]とし、オン抵抗Rongを35[mΩ]とすると、GaN-FET111の発熱TG1は、0.14[W](=2×35×10-3)となり、Si-FET113の発熱TS1は、39.86[W](=2×20-0.14)となる。このため、Si-FET113の消費電力TS1は、GaN-FET111の発熱TG1の約280倍となる。半導体モジュール11の発熱は、GaN-FET111の発熱TG1及びSi-FET113の発熱TS1を合算して得られるため、ステップS113の第一発熱工程における半導体モジュール11の発熱は、Si-FET113により消費される電力に起因する発熱が支配的となり、半導体モジュール11の発熱をSi-FET113の電力消費による発熱と見なすことができる。
【0039】
図5に戻って、ステップS115において、第一発熱中電圧測定工程が実行され、第一熱抵抗測定工程が終了し、ステップS13(図4参照)の処理に移行する。ステップS115の第一発熱中電圧測定工程では、第一発熱工程(ステップS113)の後に、不飽和状態で発熱を継続しているSi-FET113の端子間電圧Vgsm1(Si-FET113のゲート電極g3及びソース電極s3の間の電圧)を測定する。より具体的には、ステップS115の第一発熱中電圧測定工程において、第一測定用電圧Vmp1を半導体モジュール11のドレイン端子D及びソース端子Sの間に印加する。さらに、ステップS115の第一発熱中電圧測定工程において、第一測定用電流Imp1をドレイン端子Dから半導体モジュール11に流して端子間電圧Vgsm1を測定する。第一発熱中電圧測定工程では、Si-FET113の発熱による温度上昇が安定した後に端子間電圧Vgsm1が測定される。
【0040】
図6(a)に示すように、ステップS115の第一発熱中電圧測定工程において、制御部17は、ステップS111の第一発熱前電圧測定工程と同一の第一測定用電圧Vmp1及び第一測定用電流Imp1となるように可変電源15を制御する。これにより、可変電源15は、半導体モジュール11のドレイン端子D及びソース端子Sの間に第一測定用電圧Vmp1を印加するとともに、第一測定用電流Imp1をドレイン端子Dから半導体モジュール11に供給する。制御部17は、第一発熱中電圧測定工程において、半導体モジュール11のソース端子Sから出力される電流が第一測定用電流Imp1と同じ電流値になる可変電源13の出力電圧、すなわちSi-FET113のゲート電極g3とソース電極s3との間の端子間電圧Vgsm1を測定して記憶する。なお、図6(a)では、第一発熱中電圧測定工程における端子間電圧Vgsm1には丸かっこが付されている。
【0041】
図4に戻って、ステップS13において、第一熱抵抗算出工程が実行され、ステップS15の処理に移行する。ステップS15の第一熱抵抗算出工程では、第一発熱前電圧測定工程(ステップS111)において測定された端子間電圧Vgsp1、第一発熱中電圧測定工程(ステップS115)において測定された端子間電圧Vgsm1及びSi-FET113が有する温度特性係数Ks[mV/℃]に基づいて、Si-FET113の熱抵抗を算出する。Si-FET113が有する温度特性係数は、例えば恒温槽などを用いて実測された、Si-FET113と同様に形成されたSi-FETのドレイン-ソース間電圧の温度特性より算出され、制御部17に記憶されている。
【0042】
FETでは、ドレイン-ソース間電流が同じであっても温度が変わることによってゲート-ソース間電圧が変化する。また、FETは、ゲート-ソース間電圧と温度変化との関係を表す固有の温度特性係数を有している。このため、制御部17は、第一発熱前電圧測定工程(ステップS111)において測定された端子間電圧Vgsp1と、第一発熱中電圧測定工程(ステップS115)において測定された端子間電圧Vgsm1との差分である端子間電圧差ΔVgsを温度特性係数Ksで除算することにより、Si-FET113の発熱前後の温度差ΔT1を算出する。さらに、制御部17は、Si-FET113を発熱させるために半導体モジュール11に印加した負荷の大きさ(第一発熱用電圧Vph1と第一発熱用電流Iph1を乗算して得られる電力)によって温度差ΔT1を除算することにより、Si-FET113の熱抵抗値Rth_S[℃/W]を算出する。このように、本実施形態による半導体素子の熱抵抗測定方法では、ステップS11及びステップS15の処理を実行することによって、直列接続されたGaN-FET111及びSi-FET113のうちのSi-FET113の熱抵抗値Rth_Sを測定することができる。
【0043】
図4に示すように、ステップS15において、第二熱抵抗測定工程が実行され、ステップS17の処理に移行する。ステップS15の第二熱抵抗測定工程では、Si-FET113及びGaN-FET111を飽和状態に制御してGaN-FET111の熱抵抗を測定する。
【0044】
ここで、第二熱抵抗測定工程(ステップS15)の具体的な処理について図7及び図8を用いて説明する。図7は、第二熱抵抗測定工程の流れの一例を示すフローチャートである。図8は、第二熱抵抗測定工程において、可変電源13,15によって半導体モジュール11に供給される種々の電圧及び電流を説明するための図である。図8(a)は、第二熱抵抗測定工程における第二発熱前電圧測定工程及び第二発熱中電圧測定工程(いずれも詳細は後述)での状態を示し、図8(b)は、第二発熱工程(詳細は後述)での状態を示している。
【0045】
図5に示すように、第二熱抵抗測定工程では、まず、ステップS151において、第二発熱前電圧測定工程が実行され、ステップS153の処理に移行する。ステップS151の第二発熱前電圧測定工程では、第二発熱工程(詳細は後述)でGaN-FET111を発熱させる前に、Si-FET113及びGaN-FET111を飽和状態に制御した状態で半導体モジュール11のドレイン端子D及びソース端子Sの間の両端子間電圧Vdsm2を測定する。より具体的には、ステップS151の第二発熱前電圧測定工程において、Si-FET113及びGaN-FET111を飽和状態に制御する。さらに、ステップS151の第二発熱前電圧測定工程において、Si-FET113及びGaN-FET111に異常な発熱が発生しない電流量の第二測定用電流Imp2をドレイン端子Dから半導体モジュール11に流して両端子間電圧Vdsp2(すなわち半導体モジュール11のゲート-ソース間電圧)を測定する。
【0046】
図8(a)に示すように、ステップS151の第二発熱前電圧測定工程において、熱抵抗測定装置1に備えられた制御部17は、可変電源13を制御して、Si-FET113が飽和状態となる端子間電圧Vgsp2をSi-FET113のゲート電極g3及びソース電極s3の間に印加する。Si-FET113のソース電極s3は例えば0[V]であるため、ディプレッション型のGaN-FET111もオン状態にある。制御部17は、Si-FET113及びGaN-FET111がオン状態に制御した後に、可変電源15を制御して第二測定用電流Imp2をドレイン端子Dから半導体モジュール11に供給する。第二測定用電流Imp2は、Si-FET113及びGaN-FET111に異常な発熱が発生しない電流量となる。第二測定用電流Imp2は、例えばSi-FET113及びGaN-FET111の電気的特性(オン抵抗など)の設計値などに基づいて決定される。制御部17は、第二発熱前電圧測定工程において、可変電源15の電圧を上昇させるとともに第二測定用電流Imp2を増大させ、半導体モジュール11のソース端子Sから、設定された電流量の第二測定用電流Imp2が供給されるようになった時の両端子間電圧Vdsp2(すなわち半導体モジュール11のドレイン-ソース間電圧)を測定して記憶する。
【0047】
図7に戻って、ステップS153において、第二発熱工程が実行され、ステップS155の処理に移行する。ステップS153の第二発熱工程では、Si-FET113及びGaN-FET111を飽和状態に制御した状態でGaN-FET111を発熱させる。より具体的には、ステップS153の第二発熱工程において、半導体モジュール11のドレイン端子D及びソース端子Sの間に第二発熱前電圧測定工程(ステップS151)において測定された両端子間電圧Vdsp2と同じ電圧値の電圧を印加する。また、ステップS153の第二発熱工程において、Si-FET113及びGaN-FET111を飽和状態に制御した状態でGaN-FET111を発熱させることが可能であり、かつ第二測定用電流Imp2よりも電流量が大きい第二発熱用電流Iph2をドレイン端子Dから半導体モジュール11に流してGaN-FET111を発熱させる。
【0048】
図8(b)に示すように、ステップS153の第二発熱工程において、制御部17は、ステップS151において測定された両端子間電圧Vdsp2を半導体モジュール11のドレイン端子D及びソース端子Sの間に印加するとともに、半導体モジュール11を破損させない程度に発熱させることが可能な第二発熱用電流Iph2が流れるように可変電源15を制御する。両端子間電圧Vdsp2(すなわち半導体モジュール11のドレイン-ソース間電圧)、第二発熱用電流Iph2(すなわち半導体モジュール11のドレイン-ソース間電流)、GaN-FET111の飽和状態におけるオン抵抗Rong及びSi-FET113の飽和状態におけるオン抵抗Ronsを用いると、ステップS153の第二発熱工程における、GaN-FET111の発熱TG2は、以下の式(3)で表すことができ、Si-FET113の発熱TS2は、以下の式(4)で表すことができる。
TG2=Iph2×Rong ・・・(3)
TS2=Iph2×Rons ・・・(4)
【0049】
例えば、第二発熱用電流Iph2を50[A]とし、GaN-FET111のオン抵抗Rongを35[mΩ]とし、Si-FET113のオン抵抗Ronsを3[mΩ]とすると、GaN-FET111の発熱TG2は、87.5[W](=50×35×10-3)となり、Si-FET113の発熱TS2は、7.5[W](=50×3×10-3)となる。このため、GaN-FET111の発熱TG2は、Si-FET113の発熱TS2の約12倍となる。半導体モジュール11の発熱は、GaN-FET111の発熱TG2及びSi-FET113の発熱TS2を合算して得られるため、ステップS153の第二発熱工程における半導体モジュール11の発熱は、GaN-FET111の発熱が支配的となり、半導体モジュール11の発熱をGaN-FET111の発熱と見なすことができる。
【0050】
図7に戻って、ステップS155において、第二発熱中電圧測定工程が実行され、第二熱抵抗測定工程が終了し、ステップS17(図4参照)の処理に移行する。ステップS155の第二発熱中電圧測定工程では、第二発熱工程(ステップS153)の後に飽和状態でGaN-FET111が発熱を継続している状態で半導体モジュール11の両端子間電圧Vdsm2を測定する。より具体的には、ステップS155の第二発熱中電圧測定工程において、Si-FET113及びGaN-FET111を飽和状態に制御した状態で、第二測定用電流Imp2をドレイン端子Dから半導体モジュール11に流して両端子間電圧Vdsm2を測定する。
【0051】
図8(a)に示すように、ステップS155の第二発熱中電圧測定工程において、制御部17は、ステップS151の第二発熱前電圧測定工程での両端子間電圧Vdsp2と同じ電圧をSi-FET113のゲート電極g3及びソース電極s3の間に印加するように可変電源13を制御し、かつステップS151の第二発熱前電圧測定工程と同一の第二測定用電流Imp2となるように可変電源15を制御する。これにより、Si-FET113及びGaN-FET111が飽和状態に制御され、かつGaN-FET111が発熱した状態で、第二測定用電流Imp2がドレイン端子Dから半導体モジュール11に供給される。制御部17は、第二発熱中電圧測定工程において、半導体モジュール11のドレイン端子D及びソース端子Sの間の両端子間電圧Vdsm2を測定して記憶する。なお、図8(a)では、第二発熱中電圧測定工程における両端子間電圧Vdsm2には丸かっこが付されている。
【0052】
図7に戻って、ステップS17において、第二熱抵抗算出工程が実行され、熱抵抗測定方法の処理が終了する。ステップS17の第二熱抵抗算出工程では、第二発熱前電圧測定工程(ステップS151)において測定された両端子間電圧Vdsp2、第二発熱中電圧測定工程(ステップS155)において測定された両端子間電圧Vdsm2及びGaN-FET111が有する温度特性係数Kg[mV/℃]に基づいて、GaN-FET111の熱抵抗を算出する。GaN-FET111が有する温度特性係数は、例えば恒温槽などを用いて実測された、GaN-FET111と同様に形成されたGaN-FETのドレイン-ソース間電圧の温度特性より算出され、制御部17に記憶されている。
【0053】
制御部17は、第二発熱前電圧測定工程(ステップS151)において測定された両端子間電圧Vdsp2と、第二発熱中電圧測定工程(ステップS155)において測定された両端子間電圧Vdsm2との差分である両端子間電圧差ΔVdsを温度特性係数Kgで除算することにより、GaN-FET111の発熱前後の温度差ΔT2を算出する。さらに、制御部17は、GaN-FET111を発熱させるために半導体モジュール11に印加した負荷の大きさ(両端子間電圧Vdsp2及び第二発熱用電流Iph2を乗算した得られる電力)によって温度差ΔT2を除算することにより、GaN-FET111の熱抵抗値Rth_G[℃/W]を算出する。このように、本実施形態による半導体素子の熱抵抗測定方法では、ステップS15及びステップS17の処理を実行することによって、直列接続されたGaN-FET111及びSi-FET113のうちのGaN-FET111の熱抵抗値Rth_Gを測定することができる。
【0054】
このように、本実施形態による半導体素子の熱抵抗測定方法では、直列に接続されたSi-FET113及びGaN-FET111のそれぞれの熱抵抗を、ステップS11及びステップS13の処理と、ステップS15及びステップS17の処理というように熱抵抗測定工程を2段階に分けて実行するようになっている。
【0055】
(半導体素子の熱抵抗測定方法及び熱抵抗測定装置の効果)
一般的に、単体のFETは、飽和状態に制御された状態で測定された発熱前後のドレイン-ソース間電圧に基づいて熱抵抗が測定される。しかしながら、チップオンチップ構造(2種のチップを組み合わせた構造)を有する半導体モジュールの熱抵抗は、この方法では測定できない。例えばSiより優れたスイッチング性能を持つGaNを用いたGaN-FETは、ノーマリーオン型デバイスである。ノーマリーオン型デバイスは、ゲート-ソース間に電圧をかけなくてもオン状態になっているデバイスである。ノーマリーオン型デバイスは、ゲート-ソース間に負の電圧をかけることによってオフ状態になるが、パワーデバイスの安全性を保つために、ゲートに電圧が印加されていないゼロバイアス時に電流を遮断する必要がある。このため、GaN-FETは、ゼロバイアス時に電流が遮断されるノーマリーオフ型デバイスであるSi-FETとカスケード接続されることにより、ノーマリーオフが実現される。このようなカスケード型GaN-FETは、上述の単体のFETに適用される一般的な熱抵抗の測定方法では、カスケード接続されている2種のチップの正確な熱抵抗を測定することはできない。
【0056】
カスケード型GaN-FETのように、ノーマリーオンデバイスとノーマリーオフデバイスがカスケード接続されているデバイス(以下、「カスケード型デバイス」と称する)では、上述の単体のFETに適用される一般的な熱抵抗の測定方法では、2つのチップの熱抵抗を測定することができない。2つのチップの熱抵抗をそれぞれ測定するためには、ノーマリーオンデバイス及びノーマリーオフデバイスのうちの測定対象のデバイスのみを発熱させた状態でカスケード型デバイスに測定電流を流してカスケード型デバイスの端子間電圧(例えばドレイン-ソース間電圧)を測定する必要がある。カスケード型GaN-FETに上述の単体のFETに適用される一般的な熱抵抗の測定方法を適用すると、GaN-FETに必ず測定電流が流れてしまうので、オン抵抗が高いGaN-FETの発熱が支配的となる。このため、GaN-FETの熱抵抗を測定することができても、Si-FETの熱抵抗を測定することができない。
【0057】
そこで、本実施形態による半導体素子の熱抵抗測定方法及び熱抵抗測定装置では、カスケード型デバイスに設けられるノーマリーオンデバイス及びノーマリーオフデバイスのそれぞれのオン抵抗が異なる特性を利用して、カスケード型デバイスの熱抵抗を正確に測定することができる。
【0058】
上述のように、本実施形態による半導体素子の熱抵抗測定装置1は、カスケード型デバイスである半導体モジュール11に設けられたSi-FET113及びGaN-FET111に対し、Si-FET113を不飽和状態かつGaN-FET111を飽和状態に制御できる。熱抵抗測定装置1は、このように制御した半導体モジュール11の発熱前後(すなわち発熱前及び発熱中)のSi-FET113の端子間電圧(すなわちゲート電極g3及びソース電極s3の間の電圧)を測定し、この測定結果に基づいてSi-FET113の熱抵抗を算出できる(ステップS11及びステップS13)。さらに、熱抵抗測定装置1は、Si-FET113及びGaN-FET111に対し、Si-FET113及びGaN-FET111を飽和状態に制御できる。熱抵抗測定装置1は、このように制御した半導体モジュール11の発熱前後の半導体モジュール11の両端子間電圧(すなわちドレイン端子D及びソース端子Sの間のドレイン-ソース間電圧)を測定し、この測定結果に基づいてGaN-FET111の熱抵抗を算出できる(ステップS15及びステップS17)。
【0059】
このように、本実施形態による半導体素子の熱抵抗測定方法及び熱抵抗測定装置1は、カスケード型パワーデバイスの2つの半導体チップ(例えばチップオンチップ構造を有する2つの半導体チップ)のそれぞれの熱抵抗を測定できる。
【0060】
以上説明したように、本実施形態による半導体素子の熱抵抗測定方法は、半導体モジュール11に設けられSi-FET113を不飽和状態に制御し、かつ半導体モジュール11に設けられSi-FET113に直列に接続されたGaN-FET111を飽和状態に制御して、Si-FET113の熱抵抗を測定する第一熱抵抗測定工程(ステップS11)と、Si-FET113及びGaN-FET111を飽和状態に制御してGaN-FET111の熱抵抗を測定する第二熱抵抗測定工程(ステップS15)とを備えている。
【0061】
また、本実施形態による半導体素子の熱抵抗測定装置1は、Si-FET113に設けられたゲート電極g3及びソース電極s3の間に電圧を印加する可変電源13と、Si-FET113とSi-FET113に直列に接続されたGaN-FET111とを有する半導体モジュール11のドレイン端子D及びソース端子Sの間に電圧を印加する可変電源15とを備え、可変電源13は、Si-FET113の熱抵抗を測定する場合にSi-FET113を不飽和状態に制御可能な電圧をゲート電極g3及びソース電極s3の間に印加し、GaN-FET111の熱抵抗を測定する場合にSi-FET113及びGaN-FET111を飽和状態に制御可能な電圧をゲート電極g3及びソース電極s3の間に印加し、可変電源15は、GaN-FET111の熱抵抗を測定する場合に、半導体モジュール11のドレイン端子D及びソース端子Sの間に電圧を印加するとともにドレイン端子Dから飽和状態に制御されたGaN-FET111に電流を流す。
【0062】
これにより、本実施形態による半導体素子の熱抵抗測定方法及び熱抵抗測定装置1は、複数の半導体素子(本実施形態ではSi-FET113及びGaN-FET111)のそれぞれの熱抵抗を測定することができる。
【0063】
本発明は、上記実施形態に限らず、種々の変形が可能である。
上記実施形態による半導体素子の熱抵抗測定方法は、第一熱抵抗測定工程(ステップS11)と、第一熱抵抗算出工程(ステップS13)とを別の工程として備え、第二熱抵抗測定工程(ステップS15)と、第二熱抵抗算出工程(ステップS17)とを別の工程として備えているが、本発明はこれに限られない。例えば、半導体素子の熱抵抗測定方法は、第一熱抵抗算出工程が第一熱抵抗測定工程に含まれ、第二熱抵抗算出工程が第二熱抵抗測定工程に含まれていてもよい。
【0064】
上記実施形態による半導体素子の熱抵抗測定方法では、Si-FET113の熱抵抗を測定した後にGaN-FET111の熱抵抗を測定するようになっているが、本発明はこれに限らない。半導体素子の熱抵抗測定方法では、GaN-FET111の熱抵抗を測定した後にSi-FET113の熱抵抗を測定するようになっていてもよい。
【0065】
上記実施形態では、電圧制御型半導体素子としてSi-FET及びGaN-FETが例示されているが、IGBTなどの他の電圧制御型半導体素子であっても、本実施形態と同様の効果が得られる。また、上記実施形態では、ディプレッション型(ノーマリーオン型)の素子としてGaN-FETが例示され、エンハンスメント型(ノーマリーオフ型)の素子としてSi-FETが例示されているが、他のディプレッション型素子及びエンハンスメント型素子であっても、本実施形態と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0066】
1 熱抵抗測定装置
11 半導体モジュール
13,15 可変電源
17 制御部
111 GaN-FET
111a,113a 半導体基板
113 Si-FET
115 ケース
117 伝熱性接合剤
119 導電性接合剤
BW1,BW2,BW3,BW4 ボンディングワイヤ
D ドレイン端子
d1,d3 ドレイン電極
G ゲート端子
g1,g3 ゲート電極
GaN 窒化ガリウム
Im1 第一測定用電流
Imp1 第一測定用電流
Imp2 第二測定用電流
Iph1 第一発熱用電流
Iph2 第二発熱用電流
Kg,Ks 温度特性係数
Rong,Rons オン抵抗
Rth_G,Rth_S 熱抵抗値
S ソース端子
s1,s3 ソース電極
TG1,TG2,TS1,TS2 発熱
Vdsm2,Vdsp2 両端子間電圧
Vgsm1,Vgsp1,Vgsp2 端子間電圧
Vmp1 第一測定用電圧
Vph1 第一発熱用電圧
ΔT1 温度差
ΔT2 温度差
ΔVds 両端子間電圧差
ΔVgs 端子間電圧差
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8