(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150819
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】充填材、構造体の製造方法及び地盤又はコンクリートの改良方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20231005BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20231005BHJP
C04B 24/04 20060101ALI20231005BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20231005BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20231005BHJP
C04B 22/12 20060101ALI20231005BHJP
C04B 24/26 20060101ALI20231005BHJP
C04B 22/10 20060101ALI20231005BHJP
E21D 11/00 20060101ALI20231005BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20231005BHJP
C04B 22/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B22/08 Z
C04B24/04
C04B22/06 Z
C04B22/14 B
C04B22/12
C04B24/26 C
C04B22/10
E21D11/00 A
E04G23/02 B
C04B22/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060111
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】刈茅 孝一
(72)【発明者】
【氏名】黒田 健夫
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 朱音
(72)【発明者】
【氏名】吉田 英一
(72)【発明者】
【氏名】石橋 正祐紀
(72)【発明者】
【氏名】前島 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】升元 一彦
(72)【発明者】
【氏名】山下 慧
【テーマコード(参考)】
2D155
2E176
4G112
【Fターム(参考)】
2D155JA00
2D155LA14
2E176AA01
2E176BB13
4G112MA00
4G112MB06
4G112MB08
4G112MB12
4G112MD01
4G112PA03
4G112PB03
4G112PB05
4G112PB08
4G112PB09
4G112PB10
4G112PB11
4G112PB16
4G112PB30
(57)【要約】
【課題】充填した箇所及びその周囲を緻密化し、構造物を長期に安定した状態に保持することができる充填材を提供する。
【解決手段】本発明に係る充填材は、セメントミルク又はモルタルと、陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物とを含み、前記イオン放出性化合物が、難水溶性塩を生成可能である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントミルク又はモルタルと、陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物とを含み、
前記イオン放出性化合物が、難水溶性塩を生成可能である、充填材。
【請求項2】
前記イオン放出性化合物が、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸ナトリウム、又は炭酸水素ナトリウムである、請求項1に記載の充填材。
【請求項3】
前記イオン放出性化合物が、難水溶性塩として、炭酸カルシウムを生成可能である、請求項1又は2に記載の充填材。
【請求項4】
前記イオン放出性化合物の表面が、コーティング剤により被覆されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の充填材。
【請求項5】
前記コーティング剤の材料が、樹脂を含む、請求項4に記載の充填材。
【請求項6】
セメントミルクを含み、
前記セメントミルクがエアミルクである、請求項1~5のいずれか1項に記載の充填材。
【請求項7】
モルタルを含み、
前記モルタルがエアモルタルである、請求項1~5のいずれか1項に記載の充填材。
【請求項8】
起泡剤を含み、
前記起泡剤が、アルカリ性の起泡剤である、請求項1~7のいずれか1項に記載の充填材。
【請求項9】
充填対象物の充填対象部に、請求項1~8のいずれか1項に記載の充填材を充填する充填工程と、
前記充填材中の前記セメントミルク又は前記モルタルを硬化させる硬化工程とを備える、構造体の製造方法。
【請求項10】
前記充填対象物が地盤又はコンクリートを含み、
前記充填対象部が、前記地盤又は前記コンクリートの空洞である、請求項9に記載の構造体の製造方法。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか1項に記載の充填材を用いて、地盤又はコンクリートを改良する、地盤又はコンクリートの改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物に用いることができる充填材に関する。また、本発明は、上記充填材を用いる構造体の製造方法及び地盤又はコンクリートの改良方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル、地下鉄、地下商店街、及び地下通路等の地下構造物は、地下空間の開発とともに増加している。ここで、地下構造物を建造する際に、コンクリートの硬化又は乾燥に伴いコンクリートが収縮した場合には、地下構造物とその背面の地盤との間に、空洞が生じることがある。また、地震等の外部応力や、地下水の減少に伴う地盤沈下等によっても、地下構造物とその背面の地盤との間に、空洞が生じることがある。
【0003】
このような空洞を長期間放置すると、地盤(地山)が崩落したり、地下構造物が傾いたりすることにより、地下構造物の内部の安全を確保できないおそれがある。地下構造物にかかる土圧を均一化し、地盤の崩壊を防ぐために、地下構造物とその背面の地盤との間の空洞に、充填材を注入する裏込め工法が用いられることがある。
【0004】
下記の特許文献1には、複合式裏込め注入止水工法が開示されている。上記複合式裏込め注入止水工法は、以下の工程を備える。地下コンクリート構造物に発生したクラック又はその近傍に、注入孔を形成し、上記注入孔より第1材料を注入し、上記コンクリート部材の背面に上記第1材料による改良体を造成する工程。上記第1材料と異なる第2材料を、上記注入孔又はその近傍に別途形成した注入孔より注入し、上記改良体を逸走防止の壁体として、上記クラック生成部分のコンクリート部材背面近傍に上記第2材料による遮水体を造成する工程。
【0005】
下記の特許文献2には、硬化材の主材と反応剤とを充填箇所で反応固化させる二液混合タイプの裏込め材が開示されている。上記裏込め材は、上記主剤としてエアモルタルを含み、上記反応剤として水ガラスを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平04-001366号公報
【特許文献2】特開2019-044417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
地下構造物を補強するために、地下構造物と地盤との間の空洞に、従来の裏込め材(充填材)を充填(注入)した場合には、地下構造物の強度をある程度高めることができる。
【0008】
しかしながら、地下構造物を補強した後に、外部応力や環境条件の変化等により、充填した箇所の周囲の地下構造物又は地盤に新たなひび割れや微細な空隙が発生すると、再度の補強が必要となる。
【0009】
従来、既設の地下構造物及び地下構造物の周囲を、長期間にわたり自己治癒的に修復又は強化する方法は知られていない。
【0010】
本発明の目的は、充填した箇所及びその周囲を緻密化し、構造物を長期に安定した状態に保持することができる充填材を提供することである。また、本発明は、上記充填材を用いる構造体の製造方法及び及び地盤又はコンクリートの改良方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の広い局面によれば、セメントミルク又はモルタルと、陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物とを含み、前記イオン放出性化合物が、難水溶性塩を生成可能である、充填材が提供される。
【0012】
本発明に係る充填材のある特定の局面では、前記イオン放出性化合物が、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸ナトリウム、又は炭酸水素ナトリウムである。
【0013】
本発明に係る充填材のある特定の局面では、前記イオン放出性化合物が、難水溶性塩として、炭酸カルシウムを生成可能である。
【0014】
本発明に係る充填材のある特定の局面では、前記イオン放出性化合物の表面が、コーティング剤により被覆されている。
【0015】
本発明に係る充填材のある特定の局面では、前記コーティング剤の材料が、樹脂を含む。
【0016】
本発明に係る充填材のある特定の局面では、前記充填材は、セメントミルクを含み、前記セメントミルクがエアミルクである。
【0017】
本発明に係る充填材のある特定の局面では、前記充填材は、モルタルを含み、前記モルタルがエアモルタルである。
【0018】
本発明に係る充填材のある特定の局面では、前記充填材は、起泡剤を含み、前記起泡剤が、アルカリ性の起泡剤である。
【0019】
本発明の広い局面によれば、充填対象物の充填対象部に、上述した充填材を充填する充填工程と、前記充填材中の前記セメントミルク又は前記モルタルを硬化させる硬化工程とを備える、構造体の製造方法が提供される。
【0020】
本発明に係る構造体の製造方法のある特定の局面では、前記充填対象物が地盤又はコンクリートを含み、前記充填対象部が、前記地盤又は前記コンクリートの空洞である。
【0021】
本発明の広い局面によれば、上述した充填材を用いて、地盤又はコンクリートを改良する、地盤又はコンクリートの改良方法が提供される。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る充填材は、セメントミルク又はモルタルと、陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物とを含む。本発明に係る充填材では、上記イオン放出性化合物が、難水溶性塩を生成可能である。本発明に係る充填材では、上記の構成が備えられているので、充填した箇所及びその周囲を緻密化し、構造物を長期に安定した状態に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る充填材を用いた、構造体の製造方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0025】
(充填材)
本発明に係る充填材は、セメントミルク又はモルタルと、陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物(以下、「イオン放出性化合物」と記載することがある)とを含む。本発明に係る充填材では、上記イオン放出性化合物が、難水溶性塩を生成可能である。本発明に係る充填材は、難水溶性塩生成用充填材である。
【0026】
なお、本明細書において、「セメントミルク」とは、セメントと水(混錬用水)との混錬物を意味する。本明細書において、「セメントミルク」は、細骨材を含まない。本明細書において、「モルタル」とは、セメントと細骨材と水(混錬用水)との混錬物を意味する。本明細書において、「セメント」とは、石灰石、粘土、珪石、及び酸化鉄原料等を主原料とし、水との化学反応で硬化可能な粉体を意味する。
【0027】
なお、本明細書において、「難水溶性塩」とは、難水溶性塩1gを水100g中に入れ、20℃で10分間保持したときに、水に溶ける難水溶性塩の重量が0.1g以下である塩を意味する。
【0028】
本発明に係る充填材では、上記の構成が備えられているので、充填した箇所及びその周囲の強度を高めることができ、かつ高い強度を長期間維持することができる。より具体的には、充填対象物の充填対象部に充填材が充填された状態で、上記充填材中の上記イオン放出性化合物がイオンを放出することにより、難水溶性塩が生成され、コンクリーションが形成される。これにより、充填した箇所及びその周囲が緻密化され、構造物を長期に安定した状態に保持することができる。本発明は、構造物の予防保全に寄与する。本発明は、特に、既設の地下構造物の予防保全に寄与する。
【0029】
本発明に係る充填材では、充填対象物の充填対象部に充填材を充填した後、セメントミルク又はモルタルが硬化し、充填した箇所及びその周囲の強度を高めることができる。また、充填した箇所において、上記充填材が、地盤又は構造物に付着した水分等と接触した場合には、上記充填材中の上記イオン放出性化合物がイオンを放出することにより、水分等と充填材との接触面において、難水溶性塩を生成可能である。すなわち、本発明に係る充填材は、上記充填材の表面に、難水溶性塩の層を生成可能である。生成した難水溶性塩により、充填した箇所及びその周囲の強度はさらに高められる。なお、上記難水溶性塩は、通常、数カ月~数年をかけて生成すると考えられる。また、生成した難水溶性塩により、充填材と水分とのさらなる接触が効果的に抑えられ、充填材の硬化物の劣化及び構造物の劣化を効果的に抑えることができる。なお、上記充填材は、上記セメントミルク又はモルタルの硬化反応後の充填材であってもよく、充填材の硬化物であってもよい。
【0030】
また、本発明に係る充填材は、充填する箇所が乾燥状態であっても、湿潤状態であっても用いることができる。さらに、本発明に係る充填材は、充填する箇所から水が流出している場合であっても、用いることができる。このため、本発明に係る充填材は、様々な用途の構造物を保全することができ、また、迅速に補修することができる。
【0031】
上記構造物としては、地下構造物が挙げられる。上記地下構造物としては、地下コンクリート構造物、地下トンネル、海底トンネル、及び山岳トンネル等が挙げられる。本発明に係る充填材は、地下構造物と地下構造物の背面の地盤との間の空洞に好適に用いられる。また、本発明に係る充填材は、地盤沈下により構造物の床下に生じた空洞に好適に用いられる。さらに、本発明に係る充填材は、不要になったトンネル及び上下水道管等の空洞、並びに橋台裏の軽量盛土に好適に用いられる。
【0032】
本発明の効果が効果的に発揮されることから、上記充填材は、地盤又はコンクリートを含む充填対象物用の充填材であることが好ましい。本発明の効果が効果的に発揮されることから、上記充填材は、地盤又はコンクリートを含む充填対象物の充填対象部に充填されて用いられることが好ましい。
【0033】
以下、本発明に係る充填材に用いられる各成分の詳細などを説明する。
【0034】
<セメントミルク又はモルタル>
上記充填材は、セメントミルク又はモルタルを含む。上記充填材は、セメントミルクを含んでいてもよく、モルタルを含んでいてもよく、セメントミルク及びモルタルの双方を含んでいてもよい。
【0035】
上記充填材が、セメントミルクを含む場合には、充填材の注入性を高めることができる。上記充填材が、モルタルを含む場合には、セメントの硬化に伴う収縮(自己収縮)及び硬化後の乾燥に伴う収縮(乾燥収縮)を抑制することができる。
【0036】
上記セメントミルク及び上記モルタルに含まれるセメントは、特に限定されない。上記セメントミルク及び上記モルタルに含まれるセメントとしては、ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、及びフライアッシュセメント等が挙げられる。
【0037】
上記モルタル中の細骨材としては、人工骨材、及び天然骨材等が挙げられる。上記人工骨材としては、高炉スラグ、及びフライアッシュ等が挙げられる。上記天然骨材としては、砂等が挙げられる。材料コストを良好にする観点からは、上記モルタル中の細骨材は、砂であることが好ましい。
【0038】
上記モルタル中の細骨材の平均粒子径は、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上であり、好ましくは2000μm以下、より好ましくは100μm以下である。上記モルタル中の細骨材の平均粒子径が上記下限以上であると,モルタル強度を良好にすることができる。上記モルタル中の細骨材の平均粒子径が上記上限以下であると、上記モルタル中で細骨材が沈下することを抑制し、充填材の注入性を高めることができる。
【0039】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記セメントミルク100重量%中、セメントの含有量は、好ましくは10重量%以上、より好ましくは20重量%以上、さらに好ましくは30重量%以上であり、好ましくは90重量%以下、より好ましくは80重量%以下、さらに好ましくは70重量%以下である。
【0040】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記セメントミルクにおいて、セメント100重量部に対して、水(混錬用水)の含有量は、好ましくは11重量部以上、より好ましくは25重量部以上、さらに好ましくは35重量部以上であり、好ましくは125重量部以下、より好ましくは100重量部以下、さらに好ましくは67重量部以下である。
【0041】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記モルタル100重量%中、セメントの含有量は、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上、さらに好ましくは20重量%以上であり、好ましくは60重量%以下、より好ましくは50重量%以下、さらに好ましくは40重量%以下である。
【0042】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記モルタル100重量%中、細骨材の含有量は、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上、さらに好ましくは20重量%以上であり、好ましくは90重量%以下、より好ましくは85重量%以下、さらに好ましくは80重量%以下である。
【0043】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記モルタルにおいて、セメント100重量部に対して、細骨材の含有量は、好ましくは11重量部以上、より好ましくは25重量部以上、さらに好ましくは40重量部以上であり、好ましくは900重量部以下、より好ましくは400重量部以下、さらに好ましくは250重量部以下である。
【0044】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記モルタルにおいて、セメント100重量部に対して、水(混錬用水)の含有量は、好ましくは20重量部以上、より好ましくは30重量部以上、さらに好ましくは40重量部以上であり、好ましくは200重量部以下、より好ましくは100重量部以下、さらに好ましくは60重量部以下である。
【0045】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記充填材100重量%中、上記セメントミルク又は上記モルタルの含有量は、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上であり、好ましくは99.9重量%以下、より好ましくは99.5重量%以下、さらに好ましくは99重量%以下である。
【0046】
<イオン放出性化合物>
上記充填材は、陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物(イオン放出性化合物)を含む。上記イオン放出性化合物は、難水溶性塩を生成可能である。
【0047】
上記イオン放出性化合物は、陽イオンを放出可能な化合物であってもよく、陰イオンを放出可能な化合物であってもよく、陽イオンと陰イオンとの双方を放出可能な化合物であってもよく、陽イオンを放出可能な化合物と陰イオンを放出可能な化合物との混合物であってもよい。上記イオン放出性化合物は、粒子状であってもよい。上記イオン放出性化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0048】
上記イオン放出性化合物は、地盤又は構造物に付着した水分等との接触により、難水溶性塩を生成することが好ましい。上記充填材を充填した箇所に至った水又は湿気により、上記イオン放出性化合物より陽イオン又は陰イオンが放出されることが好ましい。具体的には、上記イオン放出性化合物が陽イオンを放出可能な化合物である場合には、上記イオン放出性化合物から放出された陽イオンと、水分等に溶解した陰イオンとが化学反応し、難水溶性塩が形成されることが好ましい。上記イオン放出性化合物が陰イオンを放出可能な化合物である場合には、上記イオン放出性化合物から放出された陰イオンと、水分等に溶解した陽イオンとが化学反応し、難水溶性塩が形成されることが好ましい。また、上記イオン放出性化合物が、陽イオンと陰イオンとの双方を放出可能な化合物、又は陽イオンを放出可能な化合物と陰イオンを放出可能な化合物との混合物である場合には、上記イオン放出性化合物から放出された陽イオンと陰イオンとが、水分等を媒体に移動し、出会ったポイントで難水溶性塩が形成されることが好ましい。
【0049】
上記イオン放出性化合物としては、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸ナトリウム、及び炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。上記イオン放出性化合物は、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸ナトリウム、又は炭酸水素ナトリウムであることが好ましい。これらのイオン放出性化合物は、難水溶性塩をより一層効果的に生成可能である。
【0050】
上記陽イオンを放出可能な化合物としては、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、及び炭酸水素カルシウム等が挙げられる。上記陽イオンを放出可能な化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0051】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記陽イオンを放出可能な化合物は、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、又は炭酸水素カルシウムであることが好ましい。本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記陽イオンを放出可能な化合物は、酸化カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、又は乳酸カルシウムであることがより好ましく、乳酸カルシウムであることがさらに好ましい。本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記陽イオンを放出可能な化合物は、カルシウムイオンを放出可能な化合物であることが好ましく、有機酸カルシウム塩であることがより好ましい。上記有機酸カルシウム塩としては、酢酸カルシウム、及び乳酸カルシウム等が挙げられる。
【0052】
上記陰イオンを放出可能な化合物としては、炭酸水素カルシウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸バリウム、又炭酸ナトリウム、及び炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。上記陰イオンを放出可能な化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0053】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記陰イオンを放出可能な化合物は、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸バリウム、又は炭酸水素ナトリウムであることが好ましく、炭酸水素ナトリウムであることがより好ましい。本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記陰イオンを放出可能な化合物は、炭酸水素イオン又は炭酸イオンを放出可能な化合物であることが好ましい。
【0054】
上記陽イオンと陰イオンとの双方を放出可能な化合物としては、炭酸水素カルシウム等が挙げられる。
【0055】
難水溶性塩をより一層を良好に生成する観点からは、上記充填材は、陽イオンを放出可能な化合物と陰イオンを放出可能な化合物との混合物であることが好ましく、カルシウムイオンを放出可能な化合物と炭酸水素イオン又は炭酸イオンを放出可能な化合物との混合物であることがより好ましい。
【0056】
上記難水溶性塩としては、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、及び水酸化鉄等が挙げられる。
【0057】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記難水溶性塩は、炭酸カルシウムであることが好ましい。本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記イオン放出性化合物は、難水溶性塩として、炭酸カルシウムを生成可能であることが好ましい。
【0058】
上記イオン放出性化合物は、球状であってもよく、球状以外の形状であってもよく、扁平状であってもよい。上記イオン放出性化合物は、球状であることが好ましい。
【0059】
上記イオン放出性化合物の粒子径は、好ましくは1.0μm以上、より好ましくは5.0μm以上、さらに好ましくは10μm以上であり、好ましくは200μm以下、より好ましくは150μm以下、さらに好ましくは120μm以下である。上記イオン放出性化合物の粒子径が上記下限以上であると、充填材中及び充填材の硬化物中での分散性を高めることができる。また、上記イオン放出性化合物の粒子径が上記下限以上であると、上記イオン放出性化合物が後述するコーティング剤により良好に被覆され、充填材中及び充填材の硬化物中での分散性を高めることができる。上記イオン放出性化合物の粒子径が上記上限以下であると、充填材を充填対象部に充填する際の粘度を良好にし、充填材の注入性を高めることができる。
【0060】
上記イオン放出性化合物の粒子径は、平均粒子径であることが好ましい。上記平均粒子径は、数平均粒子径を示す。上記イオン放出性化合物の平均粒子径は、任意のイオン放出性化合物50個を電子顕微鏡又は光学顕微鏡にて観察し、平均値を算出することにより求められる。
【0061】
上記充填材では、上記イオン放出性化合物の表面が、コーティング剤により被覆されていてもよい。上記イオン放出性化合物は、マイクロカプセルの内包物であってもよい。上記充填材は、上記イオン放出性化合物を内包物として含有するマイクロカプセルを含んでいてもよい。上記イオン放出性化合物の表面がコーティング剤により被覆されているか、又は、上記イオン放出性化合物がマイクロカプセルの内包物であると、上記イオン放出性化合物から陽イオン又は陰イオンが放出される時期及び量を制御することができる。
【0062】
上記コーティング剤により被覆されたイオン放出性化合物は、水又は湿気等の水分が充填材又は充填材の硬化物と接触し、該水分が上記コーティング剤の内部に拡散浸入したときに、陽イオン又は陰イオンを放出可能であることが好ましい。上記コーティング剤により被覆されたイオン放出性化合物は、上記コーティング剤中の空隙より陽イオン又は陰イオンを放出可能であってもよい。上記コーティング剤により被覆されたイオン放出性化合物は、上記コーティング剤の内部に拡散し、陽イオン又は陰イオンを放出可能であってもよい。これらの場合には、イオン放出性化合物から陽イオン又は陰イオンが放出される時期及び量をより一層良好に制御することができる。
【0063】
上記マイクロカプセルは、上記イオン放出性化合物を放出可能であることが好ましい。上記マイクロカプセルは、水又は湿気等の水分と接触したときに、マイクロカプセルを構成する膜が崩壊することが好ましい。この場合には、イオン放出性化合物から陽イオン又は陰イオンが放出される時期及び量をより一層良好に制御することができる。
【0064】
上記マイクロカプセルを構成する膜の材料及び上記イオン放出性化合物の表面を被覆するためのコーティング剤の材料は、上記イオン放出性化合物の種類により適宜選択することができる。上記マイクロカプセルを構成する膜の材料及び上記イオン放出性化合物の表面を被覆するためのコーティング剤の材料は、樹脂を含むことが好ましい。この場合には、充填材中及び充填材の硬化物中での上記イオン放出性化合物の分散性を高め、陽イオン又は陰イオンを放出する時期及び量を良好に制御することができる。また、マイクロカプセルを構成する膜の厚みを均一にすることができ、上記イオン放出性化合物の表面をコーティング剤により均一に被覆することができる。
【0065】
上記樹脂としては、水溶性樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、及び湿気硬化性樹脂等が挙げられる。上記樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0066】
上記水溶性樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸樹脂(PLA樹脂)、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、及びメチルセルロース等が挙げられる。
【0067】
上記熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS樹脂)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、及びポリメタクリル酸メチル(PMMA)等が挙げられる。
【0068】
上記ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、及びエチレン-α-オレフィン共重合体等が挙げられる。
【0069】
上記熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、(メタ)アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ウレタン樹脂、及びポリウレア樹脂等が挙げられる。上記熱硬化性樹脂は、熱硬化剤と併用されてもよい。
【0070】
上記光硬化性樹脂としては、(メタ)アクリル樹脂、(メタ)アクリルウレタン系樹脂、エポキシ樹脂、及びシリコーン樹脂等が挙げられる。上記光硬化性樹脂は、光重合開始剤と併用されてもよい。
【0071】
上記湿気硬化性樹脂としては、湿気硬化性ウレタン樹脂、及び加水分解性シリル基含有樹脂等が挙げられる。
【0072】
イオン放出性化合物から陽イオン又は陰イオンが放出される時期及び量をより一層良好に制御する観点からは、上記樹脂は、熱可塑性樹脂を含むことが好ましく、ポリオレフィン樹脂を含むことがより好ましく、エチレン-酢酸ビニル共重合体を含むことがさらに好ましく、エチレン-酢酸ビニル共重合体であることが特に好ましい。
【0073】
上記マイクロカプセルを構成する膜の厚み及び上記コーティング剤による被覆層の厚みは、特に限定されない。イオン放出性化合物から陽イオン又は陰イオンが放出される時期及び量をより一層良好に制御する観点からは、上記マイクロカプセルを構成する膜の厚み及び上記コーティング剤による被覆層の厚みは、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上であり、好ましくは1000μm以下、より好ましくは200μm以下である。
【0074】
上記充填材100重量%中、上記イオン放出性化合物の含有量は、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.3重量%以上であり、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下である。上記イオン放出性化合物の含有量が、上記下限以上及び上記上限以下であると、陽イオン又は陰イオンがより一層効果的に放出され、難水溶性塩が良好に生成される。結果として、充填した箇所及びその周囲がより一層緻密化され、構造物をより一層長期に安定した状態に保持することができる。上記イオン放出性化合物の含有量が上記上限以下であると、充填材を充填対象部に充填する際の粘度を良好にし、充填材の注入性を高めることができる。
【0075】
上記セメントミルク又は上記モルタル100重量部に対して、上記イオン放出性化合物の含有量は、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.3重量部以上であり、好ましくは20重量部以下、より好ましくは5重量部以下、さらに好ましくは1重量部以下である。上記イオン放出性化合物の含有量が上記下限以上であると、陽イオン又は陰イオンがより一層効果的に放出され、難水溶性塩が良好に生成される。結果として、充填した箇所及びその周囲がより一層緻密化され、構造物をより一層長期に安定した状態に保持することができる。上記イオン放出性化合物の含有量が上記上限以下であると、充填材を充填対象部に充填する際の粘度を良好にし、充填材の注入性を高めることができる。
【0076】
上記セメントミルク又は上記モルタル中のセメントの含有量100重量部に対して、上記イオン放出性化合物の含有量は、好ましくは0.2重量部以上、より好ましくは0.5重量部以上であり、好ましくは40重量部以下、より好ましくは10重量部以下である。上記イオン放出性化合物の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、陽イオン又は陰イオンがより一層効果的に放出され、難水溶性塩が良好に生成される。結果として、充填した箇所及びその周囲がより一層緻密化され、構造物をより一層長期に安定した状態に保持することができる。上記イオン放出性化合物の含有量が上記上限以下であると、充填材を充填対象部に充填する際の粘度を良好にし、充填材の注入性を高めることができる。
【0077】
上記充填材100重量%中、上記イオン放出性化合物及び上記コーティング剤の合計の含有量は、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1.5重量%以上であり、好ましくは50重量%以下、より好ましくは25重量%以下である。上記イオン放出性化合物及び上記コーティング剤の合計の含有量が、上記下限以上及び上記上限以下であると、陽イオン又は陰イオンがより一層効果的に放出され、難水溶性塩が良好に生成される。結果として、充填した箇所及びその周囲がより一層緻密化され、構造物をより一層長期に安定した状態に保持することができる。上記イオン放出性化合物及び上記コーティング剤の合計の含有量が上記上限以下であると、充填材を充填対象部に充填する際の粘度を良好にし、充填材の注入性を高めることができる。
【0078】
<起泡剤>
上記充填材の軽量性及び流動性を高める観点からは、上記セメントミルク又は上記モルタルは、気泡(エアー)を混合して用いられることが好ましい。上記充填材の軽量性及び流動性を高める観点からは、上記充填材がセメントミルクを含み、上記セメントミルクがエアミルクであることが好ましい。上記充填材の軽量性及び流動性を高める観点からは、上記充填材がモルタルを含み、上記モルタルがエアモルタルであることが好ましい。上記充填材の軽量性及び流動性を高める観点からは、上記充填材は、エアミルク又はエアモルタルを含むことが好ましい。エアミルクは、上記セメントミルクと気泡(エアー)との混合物であり、エアモルタルは、上記モルタルと気泡(エアー)との混合物である。
【0079】
上記エアミルク又は上記エアモルタル中の気泡(エアー)を安定化し、良好に分散させる観点からは、上記充填材は、起泡剤を含むことが好ましい。
【0080】
上記起泡剤としては、動物蛋白系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤、及び非イオン系界面活性剤が挙げられる。
【0081】
上記アニオン系界面活性剤としては、アルキル硫酸エステル塩(AS)、アルキルエーテル硫酸エステル塩(AES)、アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)、及びアルファオレフィンスルホン酸ナトリウム(AOS)等が挙げられる。
【0082】
難水溶性塩をより一層良好に形成し、生成した難水溶性塩の再溶解を防ぐ観点からは、上記起泡剤は、アルカリ性の起泡剤であることが好ましく、アニオン系界面活性剤であることが好ましく、アルカリ性のアニオン系界面活性剤であることがより好ましい。難水溶性塩をより一層良好に形成し、生成した難水溶性塩の再溶解を防ぐ観点からは、上記起泡剤のpHは、好ましくは7以上、より好ましくは8以上であり、好ましくは12以下、より好ましくは11以下である。上記起泡剤が酸性の起泡剤であると、生成した難水溶性塩が再溶解することがある。特に、上記イオン放出性化合物が炭酸イオンを放出可能な化合物である場合には、上記起泡剤が酸性であると、炭酸イオンの存在比率が小さくなり、難水溶性塩が形成されにくくなることがある。
【0083】
上記起泡剤を用いて上記セメントミルク又は上記モルタルに気泡を混合する方法(エアミルク又はエアモルタルの製造方法)としては、従来公知の方法を用いることができる。上記起泡剤を用いて上記セメントミルク又は上記モルタルに気泡を混合する方法としては、プレフォーム方式、又は、ミックスフォーム方式等を用いることができる。
【0084】
上記充填材の軽量性をより一層高める観点からは、上記エアミルク又は上記エアモルタルを含む充填材のエアー量(体積含有率)は、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上であり、好ましくは80%以下、より好ましくは70%以下である。
【0085】
上記エアー量は、アルコール法、及び比重測定法等により測定することができる。
【0086】
上記充填材100重量%中、上記起泡剤の含有量は、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.2重量%以上であり、好ましくは5重量%以下、より好ましくは3重量%以下である。上記起泡剤の含有量が、上記下限以上及び上記上限以下であると、上記エアミルク又はエアモルタル中の気泡(エアー)をより一層安定化し、より一層良好に分散させることができる。
【0087】
上記セメントミルク100重量部に対して、上記起泡剤の含有量は、好ましくは0.2重量部以上、より好ましくは0.4重量部以上であり、好ましくは10重量部以下、より好ましくは6重量部以下である。上記起泡剤の含有量が、上記下限以上及び上記上限以下であると、上記エアミルク中の気泡(エアー)をより一層安定化し、より一層良好に分散させることができる。
【0088】
上記モルタル100重量部に対して、上記起泡剤の含有量は、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.2重量部以上であり、好ましくは5重量部以下、より好ましくは3重量部以下である。上記起泡剤の含有量が、上記下限以上及び上記上限以下であると、上記エアモルタル中の気泡(エアー)をより一層安定化し、より一層良好に分散させることができる。
【0089】
上記セメントミルク又は上記モルタル中のセメントの含有量100重量部に対して、上記起泡剤の含有量は、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.3重量部以上であり、好ましくは10重量部以下、より好ましくは6重量部以下である。上記起泡剤の含有量が、上記下限以上及び上記上限以下であると、上記エアミルク又はエアモルタル中の気泡(エアー)をより一層安定化し、より一層良好に分散させることができる。
【0090】
上記起泡剤は、適宜水(希釈用水)により希釈して用いられることが好ましい。上記充填材は、上記起泡剤と、水(希釈用水)とを含むことが好ましい。上記希釈用水としては、海水、河川水、湖沼水、水道水、工業用水、及び脱イオン水等が挙げられる。
【0091】
上記充填材の軽量性をより一層高める観点からは、上記起泡剤の希釈倍率は、好ましくは5倍以上、より好ましくは10倍以上であり、好ましくは50倍以下、より好ましくは30倍以下である。
【0092】
上記充填材が起泡剤及び希釈用水を含む場合に、充填材の材料における、水(W)の含有量(重量)(具体的には、例えば、混錬用水と起泡剤と希釈用水との合計の含有量(重量))と、セメント(C)の含有量(重量)との比率W/C(%)を、水セメント比とする。上記充填材の軽量性をより一層高める観点からは、上記水セメント比は、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上であり、好ましくは150%以下、より好ましくは140%以下である。
【0093】
<他の成分>
上記充填材は、必要に応じて、上記セメントミルク、上記モルタル、上記イオン放出性化合物、及び上記起泡剤以外の他の成分を含んでいてもよい。上記他の成分としては、反応触媒、反応促進剤、架橋剤、吸水剤、整泡剤、酸化防止剤、及び着色剤等が挙げられる。
【0094】
(充填材の他の詳細)
上記充填材は、混合により用いられる充填材であることが好ましい。上記充填材は、上記セメントミルク又は上記モルタルと、上記イオン放出性化合物とを混合して用いられる充填材であることが好ましい。上記充填材は、上記エアミルク又は上記エアモルタルと、上記イオン放出性化合物とを混合して用いられる充填材であることがより好ましい。
【0095】
(地盤又はコンクリートの改良方法、並びに、構造体及び構造体の製造方法)
本発明に係る充填材を用いて、地盤又はコンクリートを改良することができる。本発明に係る地盤又はコンクリートの改良方法は、上述した充填材を用いて、地盤又はコンクリートを改良する方法である。地盤又はコンクリートを改良するために、上記充填材は、地盤又はコンクリートに注入される。
【0096】
また、本発明に係る充填材を用いて、構造体を得ることができる。上記構造体は、充填対象部を有する充填対象物と、上記充填対象部に充填された充填物とを備えることが好ましい。上記充填物は、上記充填材により形成されていることが好ましい。上記充填物は、上記充填材中の上記セメントミルク又は上記モルタルが硬化された充填物である。上記充填物は、上記充填材の硬化物である。
【0097】
本発明に係る構造体の製造方法は、充填対象物の充填対象部に、上述した充填材を充填する充填工程と、上記充填材中の上記セメントミルク又は上記モルタルを硬化させる硬化工程とを備える。
【0098】
上記構造体の製造方法では、上記充填対象部に充填された充填物を備える構造体が得られる。上記充填物は、上記充填材中の上記硬化性成分が硬化された充填物である。上記充填物は、上記充填材の硬化物である。
【0099】
上記構造体では、充填材を充填した箇所及びその周囲が充填材により緻密化されるため、長期に安定した状態に保持することができる。
【0100】
本発明の効果が効果的に発揮されることから、上記充填対象物は、地盤又はコンクリートを含むことが好ましい。本発明の効果が効果的に発揮されることから、上記充填対象部が、上記地盤又は上記コンクリートの空洞であることが好ましい。
【0101】
上記構造体の製造方法は、以下の工程を備えることが好ましい。(1)上記セメントミルク又は上記モルタルと上記イオン放出性化合物とを混合して充填材を得る工程。(2)充填対象部に、上記充填材を充填する充填工程。(3)上記充填材中の上記セメントミルク又は上記モルタルを硬化させる硬化工程。上記構造体の製造方法は、以下の工程を備えることがより好ましい。(1A)上記セメントミルク又は上記モルタルと上記起泡剤及び希釈用水とを混合してエアミルク又はエアモルタルを得る工程。(1B)上記エアミルク又は上記エアモルタルと上記イオン放出性化合物とを混合して充填材を得る工程。(2)充填対象部に、上記充填材を充填する充填工程。(3X)上記充填材中の上記エアミルク又は上記エアモルタルを硬化させる硬化工程。
【0102】
上記セメントミルク又は上記モルタル(上記エアミルク又は上記エアモルタル)と上記イオン放出性化合物とを混合する方法は、特に限定されない。上記セメントミルク又は上記モルタル(上記エアミルク又は上記エアモルタル)と上記イオン放出性化合物とは、充填材の充填(注入)時に混合されることが好ましい。混合には、ミキシングユニット、押出機、又はブレンダーを用いてもよい。
【0103】
上記充填材は、充填対象部に充填して用いられる。充填対象部に上記充填材を充填する方法は、特に限定されない。充填対象部に上記充填材を充填する方法としては、構造物に構造物の前面から背面まで貫通する注入口を形成し、該注入口より充填対象部に充填材を注入する方法等が挙げられる。上記充填材の注入量は、充填する箇所(充填対象部)のサイズ等に応じて適宜変更可能である。上記充填対象部は、空洞であることが好ましい。上記充填対象部は、地下構造物と地盤との間の空洞であってもよい。上記充填材は、裏込め工法により充填されることが好ましい。
【0104】
上記充填材を充填(注入)する際の圧力は、充填材の粘度、充填する箇所(充填対象部)のサイズ等に応じて、適宜変更可能である。上記充填材は、高圧で充填(注入)されてもよく、低圧で充填(注入)されてもよい。高圧で充填する場合の圧力は、0.5MPa以上24MPa以下であることが好ましい。低圧で充填する場合の圧力は、0.01MPa以上0.5MPa以下であることが好ましい。充填対象部の細部への充填材の注入性を高める観点からは、上記充填材を注入する際の圧力は、0.1MPa以上4MPa以下であることが好ましい。
【0105】
図1は、本発明の一実施形態に係る充填材を用いた、構造体の製造方法を説明するための模式図である。
【0106】
構造物100は、地下構造物である。構造物100と、地盤102との間には、充填対象部(空洞)103が生じている。
【0107】
充填材の供給装置5は、注入ガン51とタンク52とを備える。タンク52には、上記充填材が充填されている。
【0108】
まず、構造物100の前面から背面に向かって、所定の角度で穿孔し、注入口101を形成する。次いで、注入プラグ1と、注入ガン51とを接続する。その後、コンプレッサーを用いて、充填材を注入口101より充填対象部103に充填(注入)する(充填工程)。上記充填工程の前に、上記充填材が構造物の前面より流出することを防ぐために、構造物の前面側に、注入プラグの周囲を覆うように注入プレートを設置してもよい。
【0109】
次に、上記充填材中の上記セメントミルク又は上記モルタルを硬化させる(硬化工程)。このようにして、構造体を得ることができる。上記構造体は、上記充填対象部に充填された充填物として、上記充填材の硬化物を備える。上記構造体では、上記充填材の硬化物が形成されている。
【0110】
上記充填材の硬化物は、上記セメントミルク又は上記モルタルの硬化物と、上記イオン放出性化合物とを含むことが好ましい。上記充填材の硬化物中の上記イオン放出性化合物は、陽イオン又は陰イオンを放出可能な化合物である。上記充填材の硬化物中の上記イオン放出性化合物は、上記充填材の硬化物の内部又は表面に、難水溶性塩を生成可能である。上記充填材の硬化物中の上記イオン放出性化合物は、上記セメントミルク又は上記モルタルの硬化物中に分散していることが好ましい。
【0111】
上記構造体における上記充填材の硬化物の圧縮強度は、好ましくは0.1N/mm2以上、より好ましくは0.3N/mm2以上であり、好ましくは30N/mm2以下、より好ましくは16N/mm2以下である。上記構造体における上記充填材の硬化物の圧縮強度が上記下限以上であると、上記充填材の硬化物の強度を高めることができ、得られる構造体の耐久性を高めることができる。上記構造体における上記充填材の硬化物の圧縮強度が上記上限以下であると、上記構造体に地震等の外部応力が負荷された場合に、充填した箇所及びその周辺に発生する応力の分布を良好にすることができる。
【0112】
上記構造体における上記充填材の硬化物の圧縮強度は、以下の方法で測定することができる。3連型枠(幅4cm×高さ4cm×長さ16cm)に充填材を注入し、17℃~23℃及び90%RHの条件で硬化させて、試験体を作製する。得られた試験体について、JIS R5201に準拠して、圧縮強度を測定する。
【0113】
上記構造体では、充填材を充填した箇所及びその周囲を緻密化することができ、長期に安定した状態に保持することができる。
【0114】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0115】
以下の材料を用意した。
【0116】
(セメントミルク又はモルタル)
セメント(太平洋セメント社製「高炉B種セメント」)
細骨材(砂、平均粒子径50μm)
混錬用水
【0117】
(起泡剤及び希釈用水)
アルカリ性アニオン系界面活性剤(立花マテリアル社製「エアーボールQ」)
中性アニオン系界面活性剤(三興コロイド化学社製「サンコーネオゾール」)
希釈用水
【0118】
(イオン放出性化合物)
炭酸水素ナトリウム(富士フィルム和光純薬社製、平均粒子径107μm)
乳酸カルシウム(ナカライテスク社製、平均粒子径50μm)
【0119】
(コーティング剤)
エチレン-酢酸ビニル共重合体(東ソー社製「EVAウルトラセン#636」)
【0120】
(実施例1)
エアミルクの作製:
セメント30kgと、混錬用水20kgとを混錬して、セメントミルクを得た。次いで、アルカリ性アニオン系界面活性剤0.136kgに、希釈用水2.584kgを添加して20倍希釈し、気泡(エアー)と混合した後、セメントミルクに混合して、エアミルクを得た(プレフォーム方式)。
【0121】
充填材の作製:
炭酸水素ナトリウムと、エチレン-酢酸ビニル共重合体とを、押出機で溶融混合し、ストランド状に押出して、ペレット化した後に冷凍粉砕、分級することにより、炭酸水素ナトリウム(イオン放出性化合物)の表面の一部以上がエチレン-酢酸ビニル共重合体(コーティング剤)により被覆された平均粒子径50μmの粉体を得た。上記粉体100重量%中、エチレン-酢酸ビニル共重合体の含有量は、80重量%であった。エアミルクに、得られた粉体0.3kgを混合して、充填材を得た。
【0122】
充填材の硬化物の作製:
得られた充填材を、直径100mmの円筒形の容器に充填し、1ヵ月静置して硬化させた後、容器から取り出して、充填材の硬化物を得た。
【0123】
(実施例2~4)
充填材の組成及び含有量を、下記の表1のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、充填材及び充填材の硬化物を得た。
【0124】
(比較例1)
イオン放出性化合物及びコーティング剤を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、充填材及び充填材の硬化物を得た。
【0125】
(比較例2)
イオン放出性化合物及びコーティング剤を用いなかったこと以外は、実施例2と同様にして、充填材及び充填材の硬化物を得た。
【0126】
(評価)
(1)水セメント比
各充填材の材料において、水(W)の含有量(重量)(混錬用水と起泡剤と希釈用水との合計の含有量(重量))と、セメント(C)の含有量(重量)との比率W/C(%)を計算し、水セメント比とした。
【0127】
(2)エアー量
得られた充填材のエアー量を、比重測定法により算出した。
【0128】
(3)圧縮強度
得られた充填材の硬化物について、上述した方法で、圧縮強度を測定した。
【0129】
(4)難水溶性塩の生成
実施例1,2,4及び比較例1,2で得られた充填材の硬化物を、1000ppmの塩化カルシウム溶液に1ヵ月浸漬した。また、実施例3で得られた充填材の硬化物を、イオン交換水に1ヵ月浸漬した。浸漬後、充填材の硬化物を取り出し、充填材の硬化物の表面に粒子が析出しているか否かを目視で詳細に観察した。表面に粒子が析出しているものについては、走査型電子顕微鏡を用いて観察すると、緻密な結晶構造をもつ粒子(炭酸カルシウムのカルサイト構造)の集合体が観察された。難水溶性塩(炭酸カルシウム)の生成を、以下の基準で判定した。
【0130】
[難水溶性塩の生成の判定基準]
○○:充填材の硬化物の全表面積100%中、粒子が析出している表面積が20%以上
○:充填材の硬化物の全表面積100%中、粒子が析出している表面積が0%を超え、20%未満
×:充填材の硬化物の表面に粒子が析出していない
【0131】
充填材の構成及び結果を下記の表1,2に示す。
【0132】
【0133】
【符号の説明】
【0134】
1…注入プラグ
5…供給装置
51…注入ガン
52…タンク
100…構造物
101…注入口
102…地盤
103…充填対象部(空洞)