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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150825
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】ミシンの糸切れ検知装置
(51)【国際特許分類】
   D05B 51/00 20060101AFI20231005BHJP
   D05B 57/02 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
D05B51/00
D05B57/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060124
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000113229
【氏名又は名称】株式会社PEGASUS
(72)【発明者】
【氏名】飯田 直正
(72)【発明者】
【氏名】若林 和志
(72)【発明者】
【氏名】川人 俊夫
【テーマコード(参考)】
3B150
【Fターム(参考)】
3B150AA05
3B150CA05
3B150CE01
3B150CE23
3B150CE27
3B150GD03
3B150GD26
3B150LA52
3B150LB01
3B150NA71
3B150NC02
3B150QA07
(57)【要約】
【課題】
ミシン稼働時にルーパー糸の糸切れを確実に検知するとともに、ルーパー糸の糸切れ時にミシン稼働を素早く停止させ、縫製における作業能率の低下を効果的に阻止できるようにする。
【解決手段】
糸繰りカムとルーパーが保持するルーパー糸の経路の途中にあり光軸が前後左右方向いずれかに向かう光センサと、光センサの両横側でルーパー糸を挿通する2箇所の糸通し穴を備えており、2箇所の糸通し穴の中心線の向きが光センサの光軸の向きと交わる方向であり、2箇所の糸通し穴のうちルーパーに近い方の糸通し穴側にて糸が緩むときに、2箇所の糸通し穴の間で穴の最下端を結ぶ線より下方向に糸の自重で落ち込む空間を備える光センサ横糸道部材を設ける。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右に往復運動するルーパーと、ルーパーの往復運動と連動する糸繰りカム回転軸に固定されルーパー糸の経路上に設置された糸繰り台からのルーパー糸の繰り出し量を変化させる糸繰りカムと、糸繰りカムの両側の糸繰り台上に配置され、ルーパー糸を挿通する糸道穴を有する糸案内とを備えたミシンにおいて、
糸繰りカムとルーパーが保持するルーパー糸の経路の途中にあり光軸が前後左右方向いずれかに向かう光センサと、光センサの両横側でルーパー糸を挿通する2箇所の糸通し穴を備えており、2箇所の糸通し穴の中心線の向きが光センサの光軸の向きと交わる方向であり、2箇所の糸通し穴のうちルーパーに近い方の糸通し穴側にて糸が緩むときに、2箇所の糸通し穴の間で穴の最下端を結ぶ線より下方向に糸の自重で落ち込む空間を備える光センサ横糸道部材を特徴とするミシンの糸切れ検知装置。
【請求項2】
前記光センサ横糸道部材は2箇所の糸通し穴の中心線の向きが光センサの光軸の向きと交わる方向であり、2箇所の糸通し穴の中心線の上下位置が光センサの光軸よりも下側にあることを特徴とする請求項1記載のミシンの糸切れ検知装置。
【請求項3】
前記光センサ横糸道部材は2箇所の糸通し穴の中心線の向きが光センサの光軸の向きと交わる方向であり、2箇所の糸通し穴の中心線の上下位置が光センサの光軸よりも下側にあり、2箇所の糸通し穴の最上端を結ぶ線の上下位置が光軸に伴う検出範囲の内側にあることを特徴とする請求項1記載のミシンの糸切れ検知装置。
【請求項4】
光軸に伴う検出範囲にルーパー糸が重なるときの検知信号と光軸に伴う検出範囲にルーパー糸が重ならないときの検知信号をそれぞれ監視して、ミシン稼働が開始したときに検知信号の監視を開始して、一定の時間間隔で二つの信号が切り替わることでミシン稼働が正常であると判断して、一定の時間間隔で二つの信号が切り替わらないとき異常が発生したと判断して、異常が発生したとの判断があらかじめ指定した一定の時間間隔の整数倍で連続して発生したときに誤検知でないと判断し異常であると判断してミシン稼働を停止させて、異常が発生したとの判断があらかじめ指定した一定の時間間隔の整数倍に達する前に二つの信号が切り替わることが生じれば誤検知であったとして正常であると判断する制御装置を設けたことを特徴とする請求項1または2または3記載のミシンの糸切れ検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二重環縫い目を形成するミシンのルーパー糸の糸切れ検知装置に関するものである。本発明において、前後とは布送り方向における前後方向をいい、左右とはミシンを正面から見たときの左右方向をいう。また上下とはミシンの上下方向をいう。
【背景技術】
【0002】
針を挟んで左右に往復運動するルーパーを備え、針とルーパーとの協働により二重環縫い目を形成するミシンでは通常、ルーパーの手前でルーパー糸を挿通した2つの糸案内間に糸繰りカムを設置し、糸繰りカムの輪郭の曲線にルーパー糸を接触させることにより変化する張力を与えルーパー糸の繰り出し量を多くしたり少なくしたりするようにしている。ところがミシン稼働中にルーパー糸が切れたり、縫製作業の前後においてルーパー糸を切断した後にミシンを再稼働するときに、ルーパー糸がルーパーから外れて糸繰りカム回転軸に巻き付くといった不具合が生じることがある。糸繰りカム回転軸へのルーパー糸の巻き付きに作業者が気付かないでそのままミシン稼働が続けられるとルーパー糸が供給源側から引き出されて巻き付きの量が増大する。これを取り除くために作業者はミシンを停止させて安全を確認しながら手で低速で逆回転させて巻き付いたルーパー糸を引っ張って取り外すといった作業が発生する。例えば1秒間で100回転する回転数のミシンで3秒間の巻き付きが生じれば300回転分を手で逆回転させることになりミシン自体のトルクも相まって作業者に大きな負担を与え作業能率を非常に低下させることがあった。さらに筒状物を縫製するためのシリンダベッドミシンでは、糸繰りカムが設置されているスペースが狭いため巻き付いたルーパー糸の除去作業が大変困難であった。
【0003】
糸繰りカムに糸が巻き付くことを防止するために糸を監視する方法としてミシンの糸切れ検知装置が知られている。(例えば、特許文献1参照。)糸切れ検知装置は糸繰りカムとルーパーとの間のルーパー糸経路上に固定配置され、ルーパー糸を挿通する糸通し孔を有する一対の糸道と、前記糸通し孔に挿通されたルーパー糸部の振動を前記糸道の間で監視するセンサと、該センサによる糸の振動無しの検知に基づいてミシン稼働を停止する。これは縫目が形成される際にルーパー側での糸消費によって動的に発生される糸の振動が糸通し孔に挿通された一対の糸道間でセンサにより監視される。このセンサによる糸の振動の監視でルーパー糸の糸切れが検知されるとともに、制御装置を介してミシン稼働が停止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-70682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の糸切れ検知装置では動的に発生するルーパー糸の振動の有無を監視しており、一対の糸道間で糸が残っている状態ではミシンが稼働していれば糸の振動が発生するため、例えばルーパー先端以降でルーパー糸が切断されて糸繰りカム回転軸に巻き付くことが始まってもしばらくの間糸は巻き付き続けて、一対の糸道の片側から糸が抜けてさらにセンサの光軸からが糸が交差しない所まで抜ける程度に糸が糸繰りカムに巻き付いた後でなければ正確に検知されないものであった。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものでありその目的は、ミシン稼働時にルーパー糸の糸切れを検知するとともに、ルーパー糸の糸切れ時に糸繰りカム回転軸に巻き付く量を減らせるようにミシン稼働を素早く停止させ、縫製における作業者の負担の軽減と作業能率の低下を効果的に阻止できるミシンの糸切れ検知装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、左右に往復運動するルーパーと、ルーパーの往復運動と連動する糸繰りカム回転軸に固定されルーパー糸の経路上に設置された糸繰り台からのルーパー糸の繰り出し量を変化させる糸繰りカムと、糸繰りカムの両側の糸繰り台上に配置され、ルーパー糸を挿通する糸道穴を有する糸案内とを備えたミシンにおいて、糸繰りカムとルーパーが保持するルーパー糸の経路の途中にあり光軸が前後左右方向いずれかに向かう光センサと、光センサの両横側でルーパー糸を挿通する2箇所の糸通し穴を備えており、2箇所の糸通し穴の中心線の向きが光センサの光軸の向きと交わる方向であり、2箇所の糸通し穴のうちルーパーに近い方の糸通し穴側にて糸が緩むときに、2箇所の糸通し穴の間で穴の最下端を結ぶ線より下方向に糸の自重で落ち込む空間を備える光センサ横糸道部材を設けたことを特徴とするものである。
【0008】
上記目的を達成するために、請求項2に記載の発明は、請求項1記載のミシンの糸切れ検知装置であって、前記光センサ横糸道部材は2箇所の糸通し穴の中心線の向きが光センサの光軸の向きと交わる方向であり、2箇所の糸通し穴の中心線の上下位置が光センサの光軸よりも下側にあることを特徴とするものである。
【0009】
上記目的を達成するために、請求項3に記載の発明は、請求項1記載のミシンの糸切れ検知装置であって、前記光センサ横糸道部材は2箇所の糸通し穴の中心線の向きが光センサの光軸の向きと交わる方向であり、2箇所の糸通し穴の中心線の上下位置が光センサの光軸よりも下側にあり、2箇所の糸通し穴の最上端を結ぶ線の上下位置が光軸に伴う検出範囲の内側にあることを特徴とするものである。
【0010】
上記目的を達成するために、請求項4に記載の発明は、請求項1または2または3記載のミシンの糸切れ検知装置であって、光軸に伴う検出範囲にルーパー糸が重なるときの検知信号と光軸に伴う検出範囲にルーパー糸が重ならないときの検知信号をそれぞれ監視して、ミシン稼働が開始したときに検知信号の監視を開始して、一定の時間間隔で二つの信号が切り替わることでミシン稼働が正常であると判断して、一定の時間間隔で二つの信号が切り替わらないとき異常が発生したと判断して、異常が発生したとの判断があらかじめ指定した一定の時間間隔の整数倍で連続して発生したときに誤検知でないと判断し異常であると判断してミシン稼働を停止させて、異常が発生したとの判断があらかじめ指定した一定の時間間隔の整数倍に達する前に二つの信号が切り替わることが生じれば誤検知であったとして正常であると判断する制御装置を設けた構成である。
【0011】
本発明によれば、ミシン稼働時に針とルーパーとにより縫目が形成され、このときルーパーのルーパー糸の消費とルーパー糸の保持による張力変化と、糸繰りカムのルーパー糸に与える張力変化により発生するルーパー糸の振動が、糸通し穴に挿通された光センサ横糸道部材間で光センサにより監視される。ルーパー糸の振動は複数の振動が合成されたものであり要因として主に二つ存在する。一つはミシン自体の機械振動がルーパー糸に伝達されて生じるものである。もう一つは前述の一対の糸道と同じ機能をもつ光センサ横糸道部材間にて、2箇所の糸通し穴と糸の接触部を節としてルーパー糸が弦振動を行うものである。
【0012】
ミシン自体の機械振動は前後左右上下方向が組み合わさりルーパー糸へ強制振動を与える。強制振動の振動数はミシン稼働時の回転数と同じものが主要因となる。そして加振力の要因としては近傍にある糸繰りカムによるものの割合が大きい。弦振動はその固有振動数が節間の距離である弦の長さに反比例し張力の二分の一乗に比例することは良く知られている。例えば光センサ横糸道部材間の2箇所の糸通し穴が左右方向に設置される場合、2箇所の糸通し穴と糸の接触部を節としてルーパー糸は主に前後方向や上下方向に加振される。左側の糸通し穴での糸の張力の向きが左上方向、右側の糸通し穴での糸の張力の向きが右下方向のとき、節は左側の糸通し穴の上端と右側の糸通し穴の下端に生じる。糸の張力の向きはルーパー,糸切れ検知装置,糸繰り台の相対的な位置により決まる。2箇所の糸通し穴と糸の接触部を節としてルーパー糸をみたとき、節にて生じるルーパー糸の張力はミシン1回転中で様々に変化する。節間の距離はおおむね一定であるが張力が変化することにより弦振動の固有振動数がミシン稼働時の回転数に等しく又は近くなれば強制振動に加えてルーパー糸に弦振動の固有振動又はこれに近い合成振動が生じる。このときルーパー糸の振幅は最も大きくなると考えられる。
【0013】
従来の技術でのミシンの糸切れ検知装置は光センサの光軸の向きを前後方向にして2箇所の糸通し穴の中心線の向きを左右方向とした場合に、光センサの光軸と2箇所の糸通し穴の中心線の上下位置を一致させて、前述の糸の強制振動と弦振動の合成振動について有無を検知する。(図3に正常なミシン稼働時の糸の弦振動の模式図を記す。)
【0014】
光センサによる糸の振動の検知の制御としては例えば以下の方法を用いることができる。光軸に伴う検出範囲に糸が重なるときの検知信号と糸が重ならない時の検知信号との切り替わりが発生することで糸の振動が生じていることを確認し正常に糸が供給されていると判断する。光軸に伴う検出範囲に糸が重ならない時の検知信号が継続すると切り替わりが生じないためこの状態が一定時間経過すれば異常が発生したと判断する。光軸に伴う検出範囲に糸が重なるときの検知信号が継続するときも同様に異常が発生したと判断する。これらにより異常が発生したことの判断が開始される。そしてこの状態が一定時間経過すれば誤検知でなく異常であると判断されミシン稼働が停止される。
【0015】
しかし従来の技術ではルーパー先端でルーパー糸の糸切れが生じた場合、最初はルーパー内で残されたルーパー糸の部分と2箇所の糸通し穴の間のルーパー糸の部分は強制振動により加振されており検知信号の切り替わりが生じて正常に糸が供給されていると判断される。(図4にこのときの糸の強制振動の模式図を記す。)そしてルーパー糸が糸繰りカムに巻き付き始めてルーパー糸が引き戻され、ルーパー糸の切断された先端が2箇所の糸通し穴の間にある光軸に伴う検出範囲から抜けた所でようやく継続して糸が重ならない状態が生じる。したがって実際には糸繰りカムには、ルーパー先端から光軸に伴う検出範囲から抜けた所までの糸の経路にあるルーパー糸と、さらに誤検知でなく異常であると判断される一定時間の間に巻き付き続ける量の糸が糸繰りカムに巻き付くことになる。
【0016】
本発明の請求項1によれば、糸繰りカムに巻き付くルーパー糸の量を減らすために、糸繰りカムとルーパーが保持するルーパー糸の経路の途中にあり光軸が前後左右方向いずれかに向かう光センサと、光センサの両横側でルーパー糸を挿通する2箇所の糸通し穴を備えており、2箇所の糸通し穴の中心線の向きが光センサの光軸の向きと交わる方向であり、2箇所の糸通し穴のうちルーパーに近い方の糸通し穴側にて糸が緩むときに、2箇所の糸通し穴の間で穴の最下端を結ぶ線より下方向に糸の自重で落ち込む空間を備える光センサ横糸道部材を設けた構成とできる。これにより通常のミシン稼働時にはルーパー糸の弦振動で検知信号の切り替わりが生じる。
【0017】
ルーパー先端でルーパー糸の糸切れが生じた場合、ルーパー糸が糸繰りカムに巻き付き始めてルーパー糸が引き戻されるよりも先に、2箇所の糸通し穴のうちルーパーに近い側の糸通し穴の横でルーパー糸のルーパーによる張力を失い緩みが生じて糸繰りカムによる張力で2箇所の糸通し穴の間に引っ張られて下方向へ降りることで、ルーパー糸の振動は通常よりも下方で生じることになる。このときの振動はルーパーに近い側の糸通し穴でルーパー糸の張力が失われるため弦振動の一つの節としての機能を失い強制振動を主とするものになる。光センサはこの状態では光軸に伴う検出範囲に糸が重ならない時の検知信号のみとなり、切り替わりが生じないため異常が発生したことの判断が開始される。これによりルーパー糸が糸繰りカムに巻き付き始めてルーパー糸が引き戻され、ルーパー糸の切断された先端が2箇所の糸通し穴の間にある光軸に伴う検出範囲から抜けるよりも先に、一定時間経過して異常であると判断されてミシン稼働が停止する。したがって糸繰りカムには前述の従来の糸の振動を検知する方法よりも異常が発生したことの判断の開始が早いためルーパー糸の巻き付く量が少なくなる。
【0018】
また前記光センサ横糸道部材は2箇所の糸通し穴の中心線の向きが光センサの光軸の向きと交わる方向であり、2箇所の糸通し穴の中心線の上下位置が光センサの光軸よりも下側にある構成とできる。これにより通常のミシン稼働時には、ルーパー糸の弦振動の振幅の最も上付近でのみ光軸に伴う検出範囲にルーパー糸が重なり、それ以外ではルーパー糸が重ならないことで検知信号の切り替わりが生じる。(図6にこのときの糸の弦振動の模式図を記す。)
【0019】
前述の従来の技術では光センサの光軸と2箇所の糸通し穴の中心線の上下位置を一致させており、このときルーパー糸の弦振動の振幅の中心で光軸にルーパー糸が重なる。よって振幅の中心から上方向へ糸が振れるときに糸が重ならなくなることで検知信号の切り替わりが生じ、上方向から再び下方向へ糸が振れ始めて振幅の中心に来た時に糸が重なることで検知信号の切り替わりが生じ、下方向から再び上方向へ糸が振れ始めて振幅の中心に近づく。この過程を振動の1周期とすれば2分の1周期で1回の検知信号の切り替わりが生じる。これに対して本発明の技術ではルーパー糸の弦振動の振幅の最も上付近でのみ光軸に伴う検出範囲にルーパー糸が重なり、それ以外では光軸にルーパー糸が重ならないことにより振動の1周期で1回の検知信号の切り替わりが生じることになる。振動の1周期はミシン稼働時の回転数から換算することができる。例えば1秒間に100回転の回転数であれば100分の1秒を1周期としてこれを検知信号を監視する一定時間と指定することで検知信号の切り替わりを監視できる。しかしルーパー糸の糸繰りカムへの巻き付きを減らす目的において検知信号の監視に2分の1周期と1周期の違いがあっても糸の巻き付く量の違いは少ないため特段の問題はない。
【0020】
そしてルーパー先端でルーパー糸の糸切れが生じた場合、前述の通りルーパー糸の振動は通常よりも下方で生じることになる。このときの振動はルーパーに近い側の糸通し穴でルーパー糸の張力が失われるため弦振動の一つの節としての機能を失い強制振動を主とするものになる。しかし緩んだルーパー糸が下方向で構造物に引っかかる等の何らかの抵抗を受けて張力が生じ弦振動の一つの節として機能する場合に上方向の振幅が本来の想定よりも大きくなることが考えられる。(図5にこのときの糸の弦振動の模式図を記す。)
【0021】
このときに光軸と2箇所の糸通し穴の中心線の上下位置が一致しているよりも2箇所の糸通し穴の中心線の上下位置が光センサの光軸よりも下側にある方が上方向の振幅が光軸に伴う検出範囲と交差して検知信号の切り替わりが生じることが少なくなる。これによりルーパー糸が糸繰りカムに巻き付き始めてルーパー糸が引き戻され、ルーパー糸の切断された先端が2箇所の糸通し穴の間にある光軸に伴う検出範囲から抜けるよりも先に、一定時間経過して異常であると判断されてミシン稼働が停止する。したがって糸繰りカムには前述の従来の糸の振動を検知する方法よりもルーパー糸の巻き付く量が少なくなる。
【0022】
また前記光センサ横糸道部材は2箇所の糸通し穴の中心線の向きが光センサの光軸の向きと交わる方向であり、2箇所の糸通し穴の中心線の上下位置が光センサの光軸よりも下側にあり、2箇所の糸通し穴の最上端を結ぶ線の上下位置が光軸に伴う検出範囲の内側にある構成とできる。これにより通常のミシン稼働時には、ルーパー糸の弦振動の振幅の中心付近もしくはこれより上で光軸にルーパー糸が重なる。(図8にこのときの糸の弦振動の模式図を記す。)そしてさらに上方向へ糸が振れるときに光軸に伴う検出範囲に糸が重ならなくなることで
検知信号の切り替わりが生じ、上方向から再び下方向へ糸が振れ始めて糸が重なることで検知信号の切り替わりが生じ、下方向から再び上方向へ糸が振れ始めて振幅の中心に近づく。これは2分の1周期で1回の検知信号の切り替わりが生じる。
【0023】
そしてルーパー先端でルーパー糸の糸切れが生じた場合、前述の通りルーパー糸の振動は通常よりも下方で生じることになる。このときの振動はルーパーに近い側の糸通し穴でルーパー糸の張力が失われるため弦振動の一つの節としての機能を失い強制振動を主とするものになる。しかし緩んだルーパー糸が下方向で構造物に引っかかる等の何らかの抵抗を受けて張力が生じ弦振動の一つの節として機能する場合に上方向の振幅が本来の想定よりも大きくなることが考えられる。(図7にこのときの糸の弦振動の模式図を記す。)
【0024】
このときに光軸と2箇所の糸通し穴の中心線の上下位置が一致しているよりも2箇所の糸通し穴の中心線の上下位置が光センサの光軸よりも下側にある方が上方向の振幅が光軸に伴う検出範囲と交差して検知信号の切り替わりが生じることが少なくなる。これによりルーパー糸が糸繰りカムに巻き付き始めてルーパー糸が引き戻され、ルーパー糸の切断された先端が2箇所の糸通し穴の間にある光軸に伴う検出範囲から抜けるよりも先に、一定時間経過して異常であると判断されてミシン稼働が停止する。したがって糸繰りカムには前述の従来の糸の振動を検知する方法よりもルーパー糸の巻き付く量が少なくなる。
【発明の効果】
【0025】
以上のように本発明によれば、ルーパー先端でルーパー糸の糸切れが生じた場合、ルーパー糸のルーパーによる張力を失い緩みが生じて下方向へ降りることで、ルーパー糸の振動は通常よりも下方で生じることになり、
これによりルーパー糸が糸繰りカムに巻き付き始めてルーパー糸が引き戻され、ルーパー糸の切断された先端が2箇所の糸通し穴の間にある光軸に伴う検出範囲から抜けるよりも先に、一定時間経過して異常であると判断されてミシン稼働が停止することで、ルーパー糸の巻き付く量が少なくなる。
【0026】
また2箇所の糸通し穴の中心線の上下位置が光センサの光軸よりも下側にあることで、上方向の振幅が本来の想定よりも大きくなる場合でも、検知信号の切り替わりが生じることが少なくなり、これによりルーパー糸が糸繰りカムに巻き付き始めてルーパー糸が引き戻され、ルーパー糸の切断された先端が2箇所の糸通し穴の間にある光軸に伴う検出範囲から抜けるよりも先に、一定時間経過して異常であると判断されてミシン稼働が停止することで、ルーパー糸の巻き付く量が少なくなる。したがって糸繰りカムに巻き付いた糸の除去が少なくて済み作業者の負担を減らし作業能率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明に適用されるミシンの外観斜視図である。
図2】本発明に適用されるミシンの平面図である。
図3】従来のミシンの糸切れ検知装置の正面図であり、糸の弦振動の模式図である。
図4】従来のミシンの糸切れ検知装置の正面図であり、1箇所の糸通し穴側にて糸が緩むときの糸の強制振動の模式図である。
図5】本発明に適用されるミシンの糸切れ検知装置の正面図であり、1箇所の糸通し穴側にて糸が緩むときの糸の弦振動の模式図である。
図6】本発明に適用されるミシンの糸切れ検知装置の正面図であり、糸の弦振動の模式図である。
図7】本発明に適用されるミシンの糸切れ検知装置の正面図であり、1箇所の糸通し穴側にて糸が緩むときの糸の弦振動の模式図である。
図8】本発明に適用されるミシンの糸切れ検知装置の正面図であり、糸の弦振動の模式図である。
図9】本発明に適用されるミシンの糸切れ検知装置の制御装置の流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下図1から図8に基づいて本発明の実施形態を説明する。図1は本発明に適用されるミシンの外観斜視図であり、図2は同ミシンの平面図である。ミシン1は3本の針(図示なし)と1個のルーパー2とを備えており、糸供給源(図示なし)から糸調子器(図示なし)を経て供給される針糸(図示なし)と、同じく糸調子器を経て供給されるルーパー糸3とにより偏平縫いを形成する。各針は、ミシン1の稼働に連動して上下動する針棒(図示なし)に取り付けられ、針板(図示なし)の針穴を貫通する。ルーパー2は、ミシン1の稼働に連動して左右動するルーパー軸21に取り付けられ、針板の針穴を貫通した各針の先端部を挟んで左右に往復運動する。
【0029】
ミシン1のシリンダ11内には、主軸12の回転に従って糸繰り台4からの繰り出し量が変化する糸繰りカム41と、糸繰りカム41の両横側の糸繰り台4上に配置される糸案内42とが備えられている。糸繰り台4はシリンダ11に固定され、糸繰りカム41は主軸12に固定され主軸12に対して位相角を調節できる。糸案内42はルーパー糸3を挿通するための糸道穴43をそれぞれ有している。なお本実施の形態では糸繰りカムを主軸に固定しているがこれに限定されるだけでなく、ルーパーの往復運動と連動する糸繰りカム回転軸であれば何れの軸でもよい。
【0030】
図5図6は糸切れ検知装置5の正面図である。糸繰りカム41とルーパー2間の糸経路上に糸切れ検知装置5が配置されている。糸切れ検知装置5はミシン1のシリンダ11にネジ51で固定される。糸切れ検知装置5は2箇所の糸通し穴53を有する光センサ横糸道部材部材52とフォトインタラプタ6とこれを搭載するセンサ基板61とからなる。センサ基板61は光センサ横糸道部材部材52に基板固定ネジ62で固定される。フォトインタラプタ6の光軸7は前記2箇所の糸通し穴53の中心線の向きがフォトインタラプタ6の光軸7の向きと交わる方向であって、中心線の上下位置が光軸7よりも下側にある。図6では2箇所の糸通し穴53を節としてルーパー糸3が弦振動を行った際に振幅の上方向側のみでルーパー糸3と光軸7が交差する位置にある様子を示している。なお図6中左のルーパー2側の糸の張力の向きを左上方向、図6中右の糸繰り台4側の糸の張力の向きを右下方向としている。この方向はルーパー2,糸切れ検知装置5,糸繰り台4の相対的な位置により決まる。ルーパー糸3の弦振動の振幅が最大となる固有振動数は、節の間にある弦の長さと糸の張力と糸の線密度の関係により定まり、2箇所の節の間の距離とミシン稼働時の回転数にて生じる最大の張力と標準的に使用される糸の線密度から関係を選択して、ミシン稼働時のルーパー糸3と光軸7が交差する位置を決定することができる。
【0031】
光センサ横糸道部材部材52は2箇所の糸通し穴53の間にフォトインタラプタ6およびセンサ基板61が固定されており、2箇所の糸通し穴53の間の下側には空間があり、挿通されたルーパー糸3が緩むときにルーパー糸3が2箇所の糸通し穴53の間で穴の最下端を結ぶ線により下方向に糸の自重で落ち込むことができる大きさの空間である。図5では糸切れにてルーパー2の張力が失われて糸が緩んでルーパー2側にある糸通し穴53の近傍で糸が自重で下方向に落ち込んだときのルーパー糸3の振動の様子を示している。このときルーパー糸3は振動しても光軸に伴う検出範囲71と交差しない位置にある。
【0032】
これにより通常のミシン稼働時には、ルーパー糸3の弦振動の振幅の最も上付近でのみ光軸に伴う検出範囲71にルーパー糸3が重なりそれ以外ではルーパー糸3が重ならない。ルーパー2の先端でルーパー糸3の糸切れが生じた場合、ルーパー2内で残されたルーパー糸3と2箇所の糸通し穴53の間のルーパー糸3は、ルーパー糸3が糸繰りカム41に巻き付き始めてルーパー糸3が引き戻されるよりも先に、2箇所の糸通し穴53のうちルーパー2に近い側の糸通し穴53の横でルーパー糸3のルーパー2による張力を失い緩むことで糸繰りカム41による張力で2箇所の糸通し穴53の間に引っ張られて自重で下方向へ落ち込み、ルーパー糸3の振動は通常よりも下方で生じることになる。この状態ではミシン稼働していても光軸に伴う検出範囲71にルーパー糸3が重ならない。
【0033】
図7図8は糸切れ検知装置5の正面図である。糸繰りカム41とルーパー2間の糸経路上に糸切れ検知装置5が配置されている。糸切れ検知装置5はミシン1のシリンダ11にネジ51で固定される。糸切れ検知装置5は2箇所の糸通し穴53を有する光センサ横糸道部材部材52とフォトインタラプタ6とこれを搭載するセンサ基板61とからなる。センサ基板61は光センサ横糸道部材部材52に基板固定ネジ62で固定される。フォトインタラプタ6の光軸7は前記2箇所の糸通し穴53の中心線の向きがフォトインタラプタ6の光軸7の向きと交わる方向であって、中心線の上下位置が光軸7よりも下側にあり、2箇所の糸通し穴53の最上端を結ぶ線の上下位置が光軸に伴う検出範囲71の内側にある。このとき2箇所の糸通し穴53を節としてルーパー糸3が弦振動を行った際に振幅の中心付近もしくはこれより上でルーパー糸3と光軸7が交差する。
【0034】
これにより通常のミシン稼働時には、ルーパー糸3の弦振動の振幅の中心付近もしくはこれより上で光軸に伴う検出範囲71にルーパー糸3が重なりそれ以外ではルーパー糸3が重ならない。ルーパー2の先端でルーパー糸3の糸切れが生じた場合、ルーパー2内で残されたルーパー糸3と2箇所の糸通し穴53の間のルーパー糸3は、ルーパー糸3が糸繰りカム41に巻き付き始めてルーパー糸3が引き戻されるよりも先に、2箇所の糸通し穴53のうちルーパー2に近い側の糸通し穴53の横でルーパー糸3のルーパー2による張力を失い緩むことで糸繰りカム41による張力で2箇所の糸通し穴53の間に引っ張られて自重で下方向へ落ち込み、ルーパー糸3の振動は通常よりも下方で生じることになる。この状態ではミシン稼働していても光軸に伴う検出範囲71にルーパー糸3が重ならない。
【0035】
図9は糸切れ検知装置5の制御装置の流れ図である。制御装置はセンサ基板61と接続されており、フォトインタラプタ6の光軸に伴う検出範囲71にルーパー糸3が重なるときの検知信号と、光軸に伴う検出範囲71にルーパー糸3が重ならないときの検知信号をそれぞれ監視している。ミシン稼働が開始したときに検知信号の監視を開始して、一定の時間間隔で二つの信号が切り替わることでミシン稼働が正常であると判断する。一定の時間間隔で二つの信号が切り替わらないとき異常が発生したと判断する。この異常が発生したとの判断があらかじめ指定した一定の時間間隔の整数倍で連続して発生したときに誤検知でないと判断し異常であると判断してミシン稼働を停止させる。異常が発生したとの判断があらかじめ指定した一定の時間間隔の整数倍に達する前に二つの信号が切り替わることが生じれば誤検知であったとして正常であると判断する。
【0036】
ルーパー2の先端でルーパー糸3の糸切れが生じた場合、光軸に伴う検出範囲71にルーパー糸3が重ならないときの検知信号が連続して発するため、制御装置は前述の通り異常であると判断してミシン稼働を停止させる。
【0037】
本発明は以上説明した実施例に限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、前記実施例に種々の変更を付加して実施することができ、本発明はそれらの変更形態をも包含するものである。
【符号の説明】
【0038】
1 ミシン
2 ルーパー
3 ルーパー糸
4 糸繰り台
5 糸切れ検知装置
6 フォトインタラプタ
7 光軸
11 シリンダ
12 主軸(糸繰りカム回転軸)
21 ルーパー軸
41 糸繰りカム
42 糸案内
43 糸道穴
51 ネジ
52 光センサ横糸道部材
53 糸通し穴
61 センサ基板
62 基板固定ネジ
71 光軸に伴う検出範囲
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9