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特開2023-150838粉体及びその製造方法、並びに樹脂組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150838
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】粉体及びその製造方法、並びに樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/18 20060101AFI20231005BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20231005BHJP
   C08K 7/22 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C01B33/18 E
C08L101/00
C08K7/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060149
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐土原 功樹
(72)【発明者】
【氏名】江上 美紀
(72)【発明者】
【氏名】荒金 宏忠
(72)【発明者】
【氏名】村口 良
【テーマコード(参考)】
4G072
4J002
【Fターム(参考)】
4G072AA25
4G072BB05
4G072BB07
4G072BB16
4G072DD03
4G072GG01
4G072HH21
4G072JJ15
4G072MM24
4G072MM28
4G072MM32
4G072MM36
4G072TT01
4G072TT02
4G072UU09
4J002AA021
4J002BD121
4J002BG041
4J002BG051
4J002CD001
4J002CD021
4J002CD041
4J002CD051
4J002CD061
4J002CD071
4J002CD101
4J002CD121
4J002CH071
4J002CM021
4J002CM041
4J002CP031
4J002DJ006
4J002DJ016
4J002FA096
4J002FD016
4J002FD140
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】絶縁材料の低誘電率化及び低誘電正接化を可能とし、その製造プロセスに耐え得る強度を持つ中空粒子を含む粉体を提供する。
【解決手段】 本発明は、無孔質の外殻の内部に空洞を有する中空粒子を含む粉体に関する。粉体の平均粒子径(D50)が10.0μm以上20.0μm以下で、粒子径45μmより大きい粗大粒子が、1.0体積%以下含まれている。この粉体を水に懸濁した際、浮遊粒子が10.0~30.0質量%、懸濁粒子が0~4.0質量%、沈降粒子が66.0~90.0質量%である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無孔質の外殻の内部に空洞を有する中空粒子を含む粉体であって、
前記粉体の平均粒子径(D50)が10.0μm以上20.0μm以下であり、
前記粉体には、粒子径45μmより大きい粗大粒子が、1.0体積%以下含まれ、
前記粉体を水に懸濁した際、浮遊粒子が10.0~30.0質量%、懸濁粒子が0~4.0質量%、沈降粒子が66.0~90.0質量%である粉体。
【請求項2】
前記粉体の変形係数が3000kgf/mmより大きいことを特徴とする請求項1に記載の粉体。
【請求項3】
前記粉体の空隙率が30.0体積%以上70.0体積%未満である請求項1または2に記載の粉体。
【請求項4】
前記粉体の比表面積が3.0m/g以下である請求項1に記載の粉体。
【請求項5】
前記粉体には、アルカリ成分量が200ppm以下含まれることを特徴とする請求項2に記載の粉体。
【請求項6】
請求項1に記載の粉体を樹脂材料に配合することを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
珪酸アルカリ水溶液を熱風気流中で噴霧乾燥して粒子を調製する第一工程と、
前記粒子に含まれるアルカリを酸で中和して除去する第二工程と、
前記粒子を乾燥する第三工程と、
前記粒子を焼成する第四工程と、を順に備え
前記第二工程と前記第三工程の間に、粒子径45μm以上の粗大粒子の存在が1.0体積%以下になるように湿式分級する分級工程が設けられたことを特徴とする粉体の製造方法。
【請求項8】
前記第二工程において、前記粒子に含まれるアルカリ成分を200ppm以下に低減することを特徴とする請求項7に記載の粉体の製造方法。
【請求項9】
前記分級工程において、目開き50μm以下の篩を用いて湿式ふるい分級処理を行うことを特徴とする請求項7または8に記載の粉体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体の絶縁材料のフィラーに好適な粉体に関する。特に、無孔質の外殻の内部に空洞を有する中空粒子を含む粉体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信において高速・大容量化が進んでいる。そのため、通信機器に使用される資材には、低い誘電率(低Dk)、及び低い誘電正接(低Df)が求められている。例えば、半導体素子が実装されるプリント配線板には、低い誘電率及び低い誘電正接を持つ絶縁材料が求められている。絶縁材料の誘電率が高いと誘電損失が生じ、また、絶縁材料の誘電正接が高いと、誘電損失だけでなく、発熱量が増大するおそれがある。
【0003】
絶縁材料の低誘電率化、及び低誘電正接化を実現するために、絶縁材料の主体である樹脂材料の開発が行われている。
【0004】
このような樹脂材料には、耐久性(剛性)や耐熱性等を向上させるために、無機または有機質のフィラーが配合される。無機フィラーとして、シリカ、窒化ホウ素、アルミナ、チタニア等の金属酸化物を用いることが知られている。また、誘電率を低くするために、中空粒子またはシリカをフィラーとして配合することが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
また、誘電率及び誘電正接を低くするため、ケイ素、カルシウム、ナトリウムまたはカリウム、ホウ素、リン、亜鉛を含むガラスマイクロバブル粒子(中空粒子)をフィラーとして用いることが知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【0006】
また、平均中空率70体積%以上、平均粒子径3~20μmの中空粒子が知られている(例えば、特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-057352号公報
【特許文献2】WO2015/009461号
【特許文献3】WO2007/125891号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
フィラーとして用いられる材料のうち、シリカは、低誘電率及び低誘電正接の点で優れている。しかしながら、データ通信の大容量化及び高速処理化が急速に進んでいるため、さらなる低誘電率化、及び低誘電正接化が求められている。しかしながら、特許文献1に記載のフィラーでは、粒子径が小さいため誘電率をこれ以上低くすることが困難である。仮に、大きい粒子径が実現できたとしても粒子強度が低くなってしまう。
【0009】
また、特許文献2に記載のガラスマイクロバブル粒子は多元素から成り、不純分(特にNa)を多く含むため、誘電正接を低くすることが困難であった。
【0010】
また、特許文献3に開示された中空粒子は、外殻が薄く、空隙率が高いため、粒子強度が十分ではない。そのため、樹脂と混練する際に割れが発生しやすく、誘電率を低くすることが困難であった。
【0011】
このように、従来の技術では、誘電率及び誘電正接の低下と、粒子強度を高いレベルで両立することができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、粗大粒子を含まない所定条件を満たす中空粒子を含む粉体が、絶縁材料の低誘電率化及び低誘電正接化を実現するとともに、絶縁材料の製造プロセスに耐え得る強度を持つことを見いだした。
【0013】
すなわち、本発明による粉体は、無孔質の外殻の内部に空洞を有する中空粒子を含んでおり、平均粒子径(D50)が10.0μm以上20.0μm以下であり、粒子径45μmより大きい径の粒子を1.0体積%以下含んでいる。この粉体を水に懸濁した際、浮遊粒子が10.0~30.0質量%、懸濁粒子が0~4.0質量%、沈降粒子が66.0~90.0質量%である。
【0014】
また、本発明による粉体の製造方法は、珪酸アルカリ水溶液を熱風気流中で噴霧乾燥して粒子を調製する第一工程と、粒子に含まれるアルカリを酸で中和して除去する第二工程と、粒子を乾燥する第三工程と、粒子を焼成する第四工程と、を順に備え、第二工程と第三工程の間に、粒子径45μm以上の粗大粒子の存在が1.0体積%以下になるように湿式分級する分級工程が設けられている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の粉体は、絶縁材料の低誘電率化及び低誘電正接化を実現するとともに、絶縁材料の製造プロセスに耐え得る強度を持つ。そのため、優れた絶縁材料を安定して製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の粉体は、無孔質の外殻の内部に空洞を有する中空粒子を含んでおり、平均粒子径(D50)が10.0μm以上20.0μm以下、45μmより大きい径の粒子(以下、粗大粒子と称す)の含有量が1.0体積%以下である。この粉体を水に懸濁した際、浮遊粒子が10.0~30.0質量%、懸濁粒子が0~4.0質量%、沈降粒子が66.0~90.0質量%である。本発明の粉体には、中空粒子の他に少量の中実粒子も含まれている可能性がある。中空粒子の調製時に、期せずして中実粒子も作製される可能性があるためである。内部に空洞のない中実粒子は、比重が大きいので、基本的に沈降粒子の中に潜在していると考えられる。粉体に含まれる粒子の90質量%以上が中空粒子であることが好ましい。
【0017】
ここで、水に懸濁した際に水中に分散する粒子を懸濁粒子とし、上層(水面付近)に浮遊して存在する比重の軽い粒子を浮遊粒子とした。このような浮遊粒子は通常は空隙率が高い。そのため、樹脂材料に配合される浮遊粒子が増えるほど、樹脂製品(成型物)の誘電率及び誘電正接が低下する。また、一般的に、空隙率が高い粒子ほど粒子径が大きい(粒子径が小さいほど空隙率が低い)。浮遊粒子は、粒子径(d)と外殻の厚さ(t)の比(t/d)が小さいため、粒子強度が低い傾向にある。そのため、樹脂材料と粒子を混ぜる工程から樹脂製品を成型するまでの間(すなわち、製造プロセス中)に、粒子が割れるおそれがある。割れた粒子は、低誘電率化及び低誘電正接化の妨げとなると共に、樹脂組成物の流動性を悪化させて、樹脂製品の均一性を低下させたり、樹脂製品の内部にボイドを生じさせたりする要因となる。しかしながら、浮遊粒子の量を粒子全体の10.0~30.0質量%に制御することにより、粒子割れの抑制と、誘電率及び誘電正接の低下を両立することができる。
【0018】
すなわち、浮遊粒子の量を制御することにより、空隙率が高い粒子の持つ好ましい特性(例えば低誘電率化及び低誘電正接化)を確保しつつ、空隙率の高い粒子の持つ好ましくない特性(例えば割れの発生)が問題のない程度に抑制することができる。浮遊粒子には、小径でも空隙率の高い粒子が存在しており、このような粒子は、製造プロセスにおいて、大径粒子に比べて割れが生じにくく、全体として、粒子強度を向上させている。浮遊粒子の含有量は、12.5質量~25.0質量%が好ましく、15.0~20.0質量%がさらに好ましい。また、沈降粒子の含有量は、70.0~88.0質量%が好ましく、75.0~85.0質量%がさらに好ましい。
【0019】
また、粉体の平均粒子径(D50)は、10.0μm以上20.0μm以下である。これにより、誘電率の低減と粒子強度の向上が両立する。噴霧乾燥法により造粒した場合、一般的に、粒子径が小さいほど空隙率が低くなる傾向がある。したがって、平均粒子径10.0μm未満の粉体は、誘電率低減効果が低い。10.0μm未満の粉体で空隙率を高くする方法もあるが、粒子径が小さくなるほど、外殻が薄くなるため、粒子調製時に割れる粒子が多くなる。割れた粒子を除くことは難しく、割れた粒子を含む粉体を樹脂材料に配合すると、樹脂組成物の流動性を悪化させて、樹脂成型物の均一性を低下させたり、樹脂成型物の内部にボイドを生じさせたりする要因となる。一方、平均粒子径が20.0μmを超える場合、粉体には、大きい中空粒子が多く含まれている。通常、中空粒子は、大きいほど空隙率が高いため、粒子強度が低い。そのため、平均粒子径は、15.0μm以下が好ましい。
【0020】
また、粉体に含まれる粗大粒子(粒子径45μm超)は、1.0体積%以下である。粗大粒子を湿式篩分けにより1.0体積%以下にすることで、粒子割れの抑制と、低誘電率化及び低誘電正接化を両立することができる。一般的に噴霧乾燥法を用いて造粒された粒子(粉体)は広い粒度分布となることが知られている。当然、粉体には大きい粒子が相当量含まれることになる。このような粉体が樹脂材料に配合された場合、空隙率が高く強度の低い粗大粒子が多くの体積を占めるため、製造プロセス中に、混練による力を受け、割れ粒子の発生頻度が高くなる。そのため、結果的に所望の誘電特性が得られない。そのため、前述の通り、粗大粒子を湿式篩分けにより1.0体積%以下にする必要がある。粗大粒子は、0.5体積%以下が好ましく、0.3体積%以下がさらに好ましく、0体積%が特に好ましい。
【0021】
このような粉体は、平均粒子径が10.0μm以上という比較的大きな粒子を含んでいるにかかわらず、変形係数を高くすることができる。ここで、変形係数は、荷重を加えた時に粉体に生じる変位から求められる。粒子強度の大きい粒子が多く含まれる粉体ほど変形係数は大きくなる。割れが生じやすい粗大粒子を取り除きながら、浮遊粒子の量も制御することにより、変形係数を大きくすることができる。粉体の変形係数は3000kgf/mmより大きいことが好ましい。変形係数が3000kgf/mm以下の場合、製造プロセスでの混練に耐えられず、粒子割れが発生し、所望の誘電特性が得られない。
【0022】
粉体の空隙率は、30.0体積%以上70.0体積%未満が好ましい。このような空隙率により、低誘電率化及び低誘電正接化を図ることができると共に、粒子強度を所定以上に保持して粒子の割れを効果的に抑制することができる。空隙率は、40.0体積%以上がより好ましく、50.0体積%以上がさらに好ましい。一方、65.0体積%以下がより好ましく、55.0体積%以下がさらに好ましい。
【0023】
また、粉体の比表面積は3.0m/g以下が好ましい。比表面積が大きいほど樹脂組成物中で粒子同士が凝集しやすい。そのため、流動性が低下し、成形性に影響を与える。
【0024】
ここで、粉体を構成する粒子は、シリカを主成分とするシリカ系粒子が適している。したがって、粉体に含まれる中空粒子(外殻)は、シリカの他、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の無機酸化物を含んでいてもよい。粒子中のシリカの含有量は、70質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、実質的にシリカのみからなることが特に好ましい。
【0025】
[樹脂組成物]
上述した粉体と樹脂材料を配合することにより、樹脂組成物が調製される。このような樹脂組成物は、半導体等の電子材料の絶縁材料、具体的には、プリント配線板(リジッド基板及びフレキシブル基板を含む)を形成するための銅張積層板、プリプレグ、ビルドアップフィルム等に用いることができる。また、モールド樹脂、モールドアンダーフィル、アンダーフィル等の半導体パッケージ関連材料や、フレキシブル基板用接着剤等に用いることができる。
【0026】
樹脂として、一般に半導体等の電子材料に使用されている硬化性樹脂を使用することができる。光硬化樹脂でもよいが、熱硬化樹脂が好ましい。硬化性樹脂として、エポキシ系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリイミド系樹脂、ビスマレイミド系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、BTレジン、シアネート系樹脂等を挙げることができる。エポキシ系樹脂として、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、トリフェノールアルカン型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンフェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環型エポキシ樹脂、ハロゲン化エポキシ樹脂等を例示することができる。これらの樹脂は、単独で使用されても、2種以上混合して使用されてもよい。
【0027】
樹脂組成物には、粉体Aと硬化性樹脂Bが、10/100~95/100の質量比(A/B)で含まれることが好ましい。これにより、流動性等の樹脂組成物の特性を維持しつつ、フィラーとしての機能を十分に発揮することができる。質量比(A/B)は、30/100~80/100がより好ましい。
【0028】
さらに、樹脂組成物は、フェノール化合物、アミン化合物、酸無水物等の硬化剤を含むことが好ましい。硬化性樹脂にエポキシ樹脂を用いる場合、硬化剤として、1分子中にフェノール性水酸基を2個以上有するフェノール樹脂(ビスフェノール型樹脂、ノボラック樹脂、トリフェノールアルカン型樹脂、レゾール型フェノール樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ビフェニル型フェノール樹脂、ナフタレン型フェノール樹脂、シクロペンタジエン型フェノール樹脂等)や、メチルヘキサヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、無水メチルナジック酸等の酸無水物を挙げることができる。樹脂組成物には、必要に応じて、着色剤、応力緩和剤、消泡剤、レベリング剤、カップリング剤、難燃剤、硬化促進剤等の各種添加剤を添加してもよい。
【0029】
樹脂組成物の製造方法は、従来公知の方法を適用できる。例えば、熱硬化性樹脂、粉体、硬化剤、添加剤等を混合し、ロールミルなどで混練する。得られた樹脂組成物を基体に塗布し、熱、紫外線等により硬化させる。
【0030】
[粉体の製造方法]
本発明の粉体の製造方法は、珪酸アルカリ水溶液を熱風気流中で噴霧乾燥して粒子を調製する粒子調製工程と、調製された粒子に含まれるアルカリを酸で中和して除去するアルカリ除去工程と、アルカリ除去された粒子を乾燥する乾燥工程と、前記粒子を焼成する焼成工程とを有し、アルカリ除去工程と乾燥工程の間に、粒子径45μm以上の粗大粒子の存在が1.0体積%以下になるように湿式分級する分級工程が設けられている。
【0031】
このような工程により、上述の粉体を得ることができる。
【0032】
一般的に、焼成により粒子を製造する場合には、粒子径を整えるために、焼成後の最終段階で行うことが好ましいと考えられる。しかし、ここでは、あえて焼成前に行う。分級処理を行わずに焼成工程を行う場合、取り除かれるべき粗大粒子が存在したまま焼成されてしまう。粗大粒子は空隙率が高く、割れやすい傾向がある。そのため、加熱による収縮のストレスで割れるおそれがある。割れにより生じた破片は、空隙のない緻密なシリカであるため、低誘電率化・低誘電正接化の妨げとなる。分級処理を焼成前に行うことにより、このような不都合を避けることができる。そのため、粒子の低誘電率化・低誘電正接化がより確実に実現され、データ通信の高速化に対応した粒子が得られる。以下、各工程を詳細に説明する。
【0033】
(粒子調製工程)
本工程では、珪酸アルカリ水溶液を熱風気流中で噴霧乾燥して粒子を造粒する。なお、本工程は、中空粒子を得るために行われるが、全ての粒子を中空粒子にすることは困難であり、造粒された粒子には、結果的に中実粒子も含まれている可能性がある。この場合、後述の工程を経て得られる粉体に中実粒子も含まれている。しかし、粉体が上述の特性を備えていれば、中実粒子が含まれていても、期待する効果が得られる。
【0034】
珪酸アルカリのSiOとMO(Mはアルカリ金属)のモル比(SiO/MO)は、1~5が好ましく、2~4がより好ましい。このモル比が1未満の場合は、アルカリ量が多すぎるので、後述のアルカリ除去工程で酸洗浄を行っても十分に除去することが困難である。さらに、噴霧乾燥品の潮解性が大きくなるため、所望の中空粒子が得られ難い。このモル比が5を超えると、珪酸アルカリの可溶性が低下し、水溶液の調製が困難である。水溶液を調製できたとしても、噴霧乾燥により中空粒子を造粒することができない場合がある。
【0035】
珪酸アルカリ水溶液のSiOとしての濃度は、1~30質量%が好ましく、5~28質量%が好ましい。1質量%未満でも製造は可能であるが、生産性が著しく低下する。30質量%を超えると、珪酸アルカリ水溶液としての安定性が著しく低下して高粘性になり、噴霧乾燥できない場合がある。噴霧乾燥できたとしても、粒子径分布、外殻の厚さ等が極めて不均一になり、得られた粒子の用途が制限されることがある。珪酸アルカリとして、水に可溶の珪酸ナトリウム、珪酸カリウムが例示できる。珪酸ナトリウムが好ましい。
【0036】
噴霧乾燥方法としては、例えば、回転ディスク法、加圧ノズル法、2流体ノズル法等の従来公知の方法を採用することができる。ここでは、2流体ノズル法が好適である。
【0037】
噴霧乾燥において、噴霧乾燥器における入口温度は、300~600℃が好ましく、350~550℃がより好ましい。また、出口温度は、120~300℃が好ましく、130~250℃がより好ましい。このような温度設定により、中空粒子を安定して得ることができる。
【0038】
(アルカリ除去工程)
次に、粒子調製工程で造粒された粒子に含まれるアルカリを酸で中和して除去する。粒子を酸の溶液に浸漬する処理が好ましい。このとき、粒子中のMOモル数(Msp)と酸のモル数(Ma)とのモル比(Ma/Msp)は、0.6~4.7が好ましく、1~4.5が好ましい。このモル比が0.6未満の場合は、MOに対して酸の量が少なすぎる。そのため、アルカリの除去とともに起きると考えられるケイ酸のシリカ骨格化が進行せず、粒子が部分的に溶解したり、溶解した珪酸アルカリがゲル化する場合がある。モル比が4.7を超えてもさらにシリカ骨格化が進むことはなく、酸が過剰であり経済的でない。
【0039】
また、粒子の濃度が、SiOとして1~30質量%になるように酸水溶液に浸漬することが好ましい。1質量%未満の場合は、アルカリ除去や洗浄性に問題はないが、製造効率が低下する。30質量%を超えると、濃度が濃すぎてアルカリ除去、洗浄効率が低下する場合がある。5~25質量%がさらに好ましい。
【0040】
酸水溶液へ浸漬する条件は、アルカリを所望の量まで除去できれば特に制限はない。通常、処理温度は5~100℃であり、処理時間は0.5~24時間である。浸漬処理の後、従来公知の方法で洗浄することが好ましい。例えば、純水にて濾過洗浄する。なお、必要に応じて、上記酸処理及び洗浄を繰り返し行ってもよい。
【0041】
アルカリ除去後のアルカリ(M)の残存量(質量割合)は、200ppm以下が好ましく、100ppm以下がより好ましく、50ppm以下がさらに好ましい。本工程で十分にアルカリを除去することにより、後の工程で粒子が合着することが防止され、焼成工程で焼結粒子が発生することを防ぐことができる。また、アルカリの残存量(含有量)は、誘電特性に影響を及ぼすことが知られている。本工程において十分にアルカリを除去することにより、原料に珪酸アルカリ水溶液を用いた場合でも、低誘電率化及び低誘電正接化を可能とする粒子を得ることができる。
【0042】
なお、最終製品(粉体を構成する粒子)のアルカリ量も上述の範囲が好ましく、通常、アルカリ除去工程後のアルカリ量と同等になる。
【0043】
アルカリ残存量は、粉体を酸で溶解させたものを試料とし、原子吸光光度計を用いて測定できる。珪酸ナトリウムを用いた場合はNaを測定し、珪酸カリウムを用いた場合はKを測定する。具体的には、実施例で説明する。
【0044】
本工程で用いる酸として、鉱酸(塩酸、硝酸、硫酸等)、及び、有機酸(酢酸、酒石酸、リンゴ酸等)を例示できる。鉱酸が好適に用いられ、価数の大きい硫酸が特に好ましい。
【0045】
(分級工程)
アルカリ除去工程と後述の乾燥工程の間で分級処理を行うことにより、粗大粒子を除去する。この分級工程では、粉体の粒度を揃えることを目的に、粒子径によって粉体を分ける粒度分級を行う。粒度分級の操作として、篩分けと流体分級に大別することができる。粒子の空隙率の影響を受けず、生産効率の高い篩分けを用いることが好ましい。篩分けでは、ふるい網の開口を利用して分級する。本発明では、粒子の分散性を高い状態で、粒子表面へのダメージを軽減するため、湿式篩分けを用いた。
【0046】
この工程では、粒子径が大きく、製造プロセス中で割れやすい粒子を取り除けるような目開き(メッシュ数)の篩を適宜用いる。粉体に含まれる粗大粒子を1.0体積%以下にするためには、300メッシュ以上の篩を用いることが好ましい。
【0047】
また、分級工程により、浮遊粒子の含有量を10.0~30.0質量%に、沈降粒子の含有量を66.0~90.0質量%に制御することができる。
【0048】
(乾燥工程)
次に、分級された粒子に乾燥処理を行う。必要に応じて複数回行ってもよい。ただし、工程数が増加し、生産性が下がるため、製造プロセス中では1度の乾燥処理が好ましい。乾燥処理として、加熱乾燥が適している。乾燥温度は、50~400℃が好ましく、50~200℃がより好ましい。具体的には、50~200℃程度の低温で時間をかけて乾燥させる方法や、温度を徐々に上昇させて乾燥させる方法や、温度を何段階かに分けて変更して乾燥させる方法を挙げることができる。
【0049】
(焼成工程)
次に、乾燥処理後の粒子を焼成する。焼成温度は、600~1200℃が好ましく、900~1100℃がより好ましい。焼成温度が600℃未満の場合は、SiOH基の残存量が多く、粒子の誘電正接が高くなる。そのため、樹脂材料に配合しても、誘電正接低減効果が得られにくい。焼成温度が1200℃を超える場合は、粒子同士が焼結しやすいので、異形状の粒子や、粗大粒子が生成しやすい。
【0050】
さらに、乾燥工程と焼成工程の間に解砕工程を設けることが好ましい。乾燥工程で粒子同士が凝集していても、単粒子に分離することができる。そのため、粒子同士の焼結が防止できる。
【0051】
解砕装置として、公知のボールミル、ビーズミル、及びハンマーミル等を用いることができる。工程中で粉体に機械的な負荷によるクラックを生じさせないため、最小限の打撃力を用いて短時間で解砕可能な連続式のピンミルが適している。
【0052】
さらに、焼成工程後に粒子塊を篩分けする工程を設けることが好ましい。なお、粒子塊とは、例えば、粒径が150μmを超えるような大きな粒子を示す。この工程では、粒子塊を取り除けるような目開き(メッシュ数)の篩を適宜用いる。例えば、目開き150μmの篩を用いる。
【0053】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。
【0054】
[実施例1]
水ガラス水溶液(SiO/NaOモル比3.2、SiO濃度24.0質量%)30000gを用い、2流体ノズルの一方に0.62kg/hrの流量で、他方のノズルに空気を15900L/hr(空/液体積比31800)の流量で、入口温度350℃の熱風に噴霧して中空粒子を造粒した。ここで、出口温度は130℃であった(粒子調製工程)。この時、少量の中実粒子も造粒される可能性があるが、中実粒子を除去して次工程に進む必要はない。
【0055】
ついで、この中空粒子(すなわち、第一工程で造粒された粒子)5000gを濃度10質量%の硫酸水溶液32000gに浸漬して、15時間撹拌した。この時、固形分(SiO)濃度は10.2質量%であり、酸のモル数(Ma)とアルカリ(NaO)のモル数(Msp)の比(Ma/Msp)は3.5となる。撹拌後の分散液の温度は35℃、pHは3.0であった。浸漬処理後、純水にて濾過洗浄を行い、ケーキ品を得た(アルカリ除去工程)。
【0056】
ついで、洗浄後のケーキ品の固形分量を測定し、その数値を基に、純水にて濃度10重量%になるように純水を加えて分散液とした。その後、粗大粒子を除去するために、この分散液を目開き45μmの振動篩にかけ、篩を通過した粒子を回収した(湿式分級工程)。
【0057】
この粒子を1000℃で10時間加熱処理した(焼成工程)。これにより、中空粒子を含む粉体が得られた。
【0058】
この粉体を、液状酸無水物「新日本理化社製リカシッドMH700」、イミダゾール系エポキシ樹脂硬化剤「四国化成社製2PHZ-PW」と共に、液状エポキシ樹脂「日鉄ケミカル&マテリアル社製ZX-1059」に配合した。ここで、「ZX-1059」が100質量部、「リカシッドMH700」が86質量部、「2PHZ-PW」が1質量部の割合とし、配合物(ペースト)中の粉体の割合が35体積%になるように配合した。この配合物を、遊星ミルで予備混錬後、三本ロールで混練し、ペースト(樹脂組成物)を得た。このペーストを170℃で2時間加熱して硬化させ、50mm×50mm×1mmの板状の樹脂成型物(樹脂製品)を得た。
【0059】
上述のようにして得られた粉体及び樹脂成型物の物性を以下のように測定・評価した。その結果を調製条件とともに表1に示す。他の実施例や比較例でも同様に行った。
【0060】
(1)平均粒子径(D50)、粗大粒子量
粉体を1.0cm程度サンプリングし、粒度分析計(セイシン企業社製レーザーマイクロンサイザーLMS-3000)を用いて、乾式で粉体の粒度分布を測定した。測定結果から、平均粒子径(D50)が得られた。さらに、この粒度分布を分析して、45μmより大きい粒子径を持つ粗大粒子の体積比率を算出し、粗大粒子量(体積%)とした。
【0061】
(2)比表面積(SA)
粉体を300℃の環境下で1時間静置した後、全自動比表面積測定装置(マウンテック社製Macsorb)を用いて、BET法(1点法)により比表面積を測定した。ここでは、日本工業規格JIS Z8830に規定される測定方法に準じた。
【0062】
(3)Na残存量
粉体を硫酸・弗化水素酸で前処理した後、塩酸に溶解させ、原子吸光光度計(日立製Z-2310)を用いて原子吸光分析法によりNa量を測定した。
【0063】
(4)粒子密度、空隙率
20.0cm程度の粉体をランダムにサンプリングし、Quantachrome Instruments社製Ultrapyc5000を用いて、ガスピクノメーター法により、粉体に含まれる粒子の密度の平均(粒子密度)を測定した。ガスは窒素ガスを用いた。日本工業規格JIS Z8807に規定される測定方法により、粒子密度を測定した。
【0064】
この粒子密度から、式「[2.2-(粒子密度)]/2.2×100」により空隙率(%)を算出した。粉体がシリカ粒子で構成されているものとして、この式では、シリカの密度2.2g/cmを用いた。
【0065】
(5)粉体の誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)
ネットワークアナライザー(アンリツ社製、MS46122B)と空洞共振器(1GHz)を用いて、空洞共振器摂動法により誘電率(Dk)と誘電正接(Df)を測定した。ASTMD2520(JIS C2565)に準拠して測定した。
【0066】
(6)水に懸濁した際の浮遊粒子、懸濁粒子及び沈降粒子の割合
まず、5.0質量%となるように粉体と水を混合し、10分間の超音波処理を行った。得られた分散液を25℃にて24時間静置した後、浮遊粒子、懸濁粒子及び沈降粒子をそれぞれ回収した。回収した各粒子を105℃で24時間乾燥した後に計量し、その割合を算出した。
【0067】
(7)変形係数
粉体とグリセリンを重量比2:1で混合分散した。この混合品を規定の金型(径25mm、高さ64mm)に充填する。充填後、金型をプレス機(エヌピーエーシステム社製)に設置し、段階的に荷重をかける。その際の荷重(kgf)と垂直方向の変位(mm)をプロットした。荷重が大きくなるにつれて粉体に含まれる粒子が徐々に破砕されて体積が減少する。この時、荷重(縦軸)と変位(横軸)の関係は直線的に変化する。直線部分の変位と荷重の傾きを求め、変形係数(kgf/mm)とした。変形係数が高いほど、粉体強度が高いことを示す。特開平2-216028号公報に開示された、中空微小粒子の強度測定方法を参考にした。
【0068】
(8)樹脂成型物の誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)
50mm×50mm×1mmの板状の樹脂成型物の誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)を、ネットワークアナライザー(アンリツ社製、MS46122B)と同軸共振器を用いて、9.4GHzで測定した。粉体(フィラー)を配合していない樹脂成型物と次式を用いて比較し、以下の基準で評価した。
【0069】
誘電率(Dk)の低減率(%)=(粉体配合なしの誘電率-粉体配合ありの誘電率)/粉体配合なしの誘電率×100
【0070】
◎:低減率15%以上
〇:低減率10%以上15%未満
△:低減率0%以上10%未満
×:低減率0未満
【0071】
誘電正接(Df)の低減率(%)=(粉体配合なしの誘電正接-粉体配合ありの誘電正接)/粉体配合なしの誘電正接×100
【0072】
◎:低減率50%以上
〇:低減率30%以上50%未満
△:低減率20%以上30%未満
×:低減率20%未満
【0073】
[実施例2]
粒子調製工程で、噴霧乾燥を入口温度400℃、出口温度150℃で行った以外は実施例1と同様にして、粉体及び樹脂成型物を得た。
【0074】
[実施例3]
湿式分級工程で、目開きを32μmに変えたこと以外は実施例2と同様にして、粉体及び樹脂成型物を得た。
【0075】
[比較例1]
湿式分級工程で、目開きを32μmに変えたこと以外は実施例1と同様にして、粉体及び樹脂成型物を得た。空隙率の高い粒子を除去する量が実施例1に比べて増えるため、空隙率が低くなり、樹脂成型物では低誘電率効果が小さくなった。
【0076】
[比較例2]
分級処理(湿式分級工程)を行わないこと以外は実施例2と同様にして、粉体及び樹脂成型物を得た。分級されていないため、得られた粉体は浮遊粒子が多く、外殻が薄く割れやすい粒子が多い。そのため、樹脂成型物の製造プロセスで粒子が割れ、樹脂成型物では低誘電率効果が得られなかった。また、割れによる比表面積の増加とともに表面シラノール基量が増加し、誘電正接が低下した。
【0077】
[比較例3]
分級処理(分級工程)を乾式分級に変えたこと以外は実施例2と同様にして、粉体及び樹脂成型物を得た。乾式分級では、粒子同士がぶつかり合い、静電気による擬似凝集が発生しやすい。そのため、篩効率が悪い。また、収率を確保するために、篩時間を長くすると、粒子の衝突回数(粒子同士及び装置内壁等との)が増えるため、粒子にクラックが生じ、割れやすい状態となる。樹脂成型物の製造プロセスで粒子が割れ、低誘電率効果が小さくなった。さらに、粒子表面のダメージにより、誘電正接が低下した。
【0078】
[比較例4]
湿式分級工程で、目開きを75μmに変えたこと以外は実施例2と同様にして、粉体及び樹脂成型物を得た。篩の目開きが大きいため、粗大粒子が十分に取り除かれず、樹脂成型物の製造プロセスで粒子が割れ、低誘電率効果が得られなかった。
【0079】
[比較例5]
粒子調製工程で、入口温度250℃の熱風に噴霧し、出口温度を80℃にしたこと以外は実施例2と同様にして、粉体及び樹脂成型物を得た。造粒された粒子は径が小さく、変形係数は高くなるが、空隙率が低い。そのため、低誘電率効果が小さくなった。
【0080】
[比較例6]
粒子調製工程で、入口温度500℃の熱風に噴霧し、出口温度を200℃にしたこと以外は実施例2と同様にして、粉体及び樹脂成型物を得た。造粒された粒子は径が大きく、空隙率が高いが、変形係数が低くなる。そのため、樹脂成型物の製造プロセスで割れが生じ、樹脂組成物としては低誘電率効果が得られなかった。
【0081】
【表1】
【0082】
表1に示すように、実施例による粉体及びこの粉体が配合された樹脂成型物は、誘電率及び誘電正接が低い。また、実施例に係る粉体を配合した樹脂組成物は、混練プロセスに耐え、割れが生じないため、誘電率及び誘電正接が低い。