(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150874
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】板ガラスの製造方法および端面加工装置
(51)【国際特許分類】
C03B 29/02 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
C03B29/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060202
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】折田 憲明
(72)【発明者】
【氏名】寺田 景
(72)【発明者】
【氏名】奥野 剛志
【テーマコード(参考)】
4G015
【Fターム(参考)】
4G015DA03
4G015DA05
(57)【要約】
【課題】薄い板ガラスであっても割れの生じる可能性を低減して板ガラスの端面を加工する技術を実現する。
【解決手段】板ガラスの製造方法は、過熱蒸気(22)により、端面(1A)を有する板ガラス(1)の端面を板ガラスの軟化点以上の温度に加熱する加熱工程を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
過熱蒸気により、端面を有する板ガラスの前記端面を前記板ガラスの軟化点以上の温度に加熱する加熱工程を含む板ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記加熱工程では、前記板ガラスの板面の延びる方向に沿って前記過熱蒸気を吹き出して前記端面を加熱する、請求項1に記載の板ガラスの製造方法。
【請求項3】
前記過熱蒸気は、前記端面よりも広い範囲に噴射される、請求項1または2に記載の板ガラスの製造方法。
【請求項4】
前記板ガラスの両面に前記板ガラスよりも熱伝導率の高い第1部材を当接させて、前記板ガラスを保持する、請求項1から3のいずれか1項に記載の板ガラスの製造方法。
【請求項5】
前記第1部材の前記板ガラス側とは反対側の面である第1外側面に前記第1部材よりも熱伝導率の低い第2部材をさらに当接させた状態で、前記板ガラスを保持する、請求項4に記載の板ガラスの製造方法。
【請求項6】
前記第2部材の前記端面側の端部と前記端面との距離は、1mm以上150mm以下である、請求項5に記載の板ガラスの製造方法。
【請求項7】
前記加熱工程の後、(i)前記端面の温度、および(ii)前記第1部材が当接する、前記板ガラスにおける前記第1部材の前記端面側の端部から所定距離の範囲である伝熱高温部分の温度が、前記板ガラスの歪点付近の温度を同時期に下回るように、前記板ガラスを冷却する冷却工程をさらに含む、請求項4から6のいずれか1項に記載の板ガラスの製造方法。
【請求項8】
前記第1部材は、前記端面から0.5mm以上離れた位置に当接する、請求項4から7のいずれか1項に記載の板ガラスの製造方法。
【請求項9】
前記板ガラスは、板厚が0.02mm以上2mm以下である、請求項1から8のいずれか1項に記載の板ガラスの製造方法。
【請求項10】
板ガラスの端面を露出させた状態で、前記板ガラスを保持する保持部と、
噴射孔から前記端面に向けて過熱蒸気を吹き出して前記端面を前記板ガラスの軟化点以上の温度に加熱する過熱蒸気発生装置と、を備える端面加工装置。
【請求項11】
前記保持部は、
前記板ガラスの両面に前記板ガラスよりも熱伝導率の高い第1部材を当接させ、
前記第1部材の前記板ガラス側とは反対側の面である第1外側面に前記第1部材よりも熱伝導率の低い第2部材をさらに当接させた状態で、前記板ガラスを保持する、請求項10に記載の端面加工装置。
【請求項12】
前記噴射孔と前記板ガラスの端面との距離を変更するための駆動機構と、
前記駆動機構を制御する制御部と、をさらに備え、
前記制御部は、
前記板ガラスの端面を前記板ガラスの軟化点以上の温度に加熱した後、(i)前記端面の温度、および(ii)前記第1部材が当接する、前記板ガラスにおける前記第1部材の前記端面側の端部から所定距離の範囲である伝熱高温部分の温度が、前記板ガラスの歪点付近の温度を同時期に下回るように、前記板ガラスを冷却するように、前記噴射孔と前記板ガラスの端面との距離を制御する、請求項11に記載の端面加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は板ガラスの製造方法および端面加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、板ガラスは、製造工程において、切断加工により形成された端面に対して研磨等の機械的な加工が施される。また、板ガラスの端面の加工方法としては、板ガラスの端面にレーザ光を照射する方法も知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、携帯型装置のカバーガラス等に用いられる、薄い板ガラスおよび可撓性を有するガラス材に対する需要が増大している。
【0005】
板ガラスが薄くなるにつれて、板ガラスは外力により破損し易くなる。そのため、板ガラスの端面を機械的に加工する方法では、適用可能な板ガラスの板厚の範囲が限られる。
【0006】
また、板ガラスの端面にレーザ光を照射して加工する方法では、レーザ光を局所的に照射することから、レーザ光のスポットサイズおよび照射位置、並びに、レーザ照射部の温度、等の各種のレーザ加工条件を制御することは容易ではない。そして、板ガラスが薄くなるほど、上記のような各種のレーザ加工条件を制御することがより困難となる。また、レーザ照射による局所的な加熱によって板ガラスの端面の近傍部分に大きな歪が発生すると、その歪に起因して板ガラスに割れが生じる。
【0007】
本発明の一態様は、上記のような問題点に鑑み、薄い板ガラスであっても割れの生じる可能性を低減して板ガラスの端面を加工する技術を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様における板ガラスの製造方法は、過熱蒸気により、端面を有する板ガラスの前記端面を前記板ガラスの軟化点以上の温度に加熱する加熱工程を含む。
【0009】
また、本発明の一態様における端面加工装置は、板ガラスの端面を露出させた状態で、前記板ガラスを保持する保持部と、噴射孔から前記端面に向けて過熱蒸気を吹き出して前記端面を前記板ガラスの軟化点以上の温度に加熱する過熱蒸気発生装置と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、薄い板ガラスであっても割れの生じる可能性を低減して板ガラスの端面を加工する技術を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態1における板ガラスの製造方法を実施する端面加工装置の一部を模式的に示す断面図である。
【
図2】端面加工装置に含まれる過熱蒸気発生装置の構成を示す概略図である。
【
図3】板ガラスを保持するガラス保持部を上方から見た場合の様子を概略的に示す模式図である。
【
図4】本発明の実施形態1における端面加工装置の概略的な構成を示すブロック図である。
【
図5】板ガラスの製造方法の一例の概要を示すフローチャートである。
【
図6】条件設定処理の一例の概要を示すフローチャートである。
【
図7】条件設定処理を実施する際の端面加工装置の一部を模式的に示す断面図である。
【
図8】
図7に示すガラス保持部の板ガラスにおける端面の近傍部分を示す平面図である。
【
図9】一変形例における板ガラスの製造方法を実施する端面加工装置の一部を模式的に示す断面図である。
【
図10】他の変形例における板ガラスの製造方法を実施する端面加工装置の一部を模式的に示す断面図である。
【
図11】他の変形例における板ガラスの製造方法を実施する端面加工装置の一部を模式的に示す断面図である。
【
図12】本発明の実施形態2における板ガラスの製造方法を実施する端面加工装置の一部を模式的に示す断面図である。
【
図13】実施形態2における板ガラスの製造方法を実施する端面加工装置の一部を模式的に示す断面図である。
【
図14】実施形態3における板ガラスの製造方法を実施する端面加工装置の一部を模式的に示す断面図である。
【
図15】一比較例の板ガラスの製造方法におけるレーザによる加熱について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態について、図面に基づいて以下に説明する。なお、以下の記載は発明の趣旨をよりよく理解させるためのものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、本出願における各図面に記載した構成の形状および寸法(長さ、幅等)は、実際の形状および寸法を必ずしも反映させたものではなく、図面の明瞭化および簡略化のために適宜変更している。
【0013】
以下、本発明の一態様における板ガラスの製造方法および端面加工装置の詳細な説明に先立って、本発明の知見について概略的に説明する。
【0014】
薄い板ガラスの端面を加熱して加工する場合、薄い板ガラスは比較的強度が低いため、板ガラスの端面を露出させた状態にて、板ガラスの上下の板面における端面の近傍部分に保持手段を当接させて保持される。上記保持手段は、板ガラスの端面を加熱して加工する際に熱の影響を受け得るため、上記保持手段は、熱への耐久性(すなわち高い耐熱性)を要する。
【0015】
例えば、セラミックボード等の耐熱性を有する保持部材を板ガラスの上下の板面に当接させて板ガラスを保持した状態にて、板ガラスの端面を加熱して端面加工することが考えられる。しかし、本発明者らによる試行の結果、端面加工後の板ガラスには多数の割れが発生した。このような割れの発生する原因について、下記のように考えられる。
【0016】
すなわち、板ガラスの端面を加熱した際に、板ガラスにおけるセラミックボードにて挟まれた部分は、加熱された端面から伝熱される熱量が比較的小さい。そのため、板ガラスの端面部分と、板ガラスの端面から離れた位置の板ガラスの内部側の部分との温度差が大きくなる。その結果、加熱後の冷却過程において板ガラスの内部に歪が顕著に生じることにより、板ガラスに割れが発生し得る。
【0017】
本発明者らは、板ガラスに割れが発生する可能性を低減させる有効な方策について鋭意検討を行い、板ガラスを加熱する熱源として過熱蒸気を用いることにより、板ガラスの内部に生じる歪を低減できることを見出した。
【0018】
一般に、板ガラスを加熱する手段としてバーナーが用いられることがある。バーナーを用いる場合、バーナーの火炎にはホットスポットとクールスポットとが存在するため、バーナーによる板ガラスの加熱温度の調整が容易ではない。そのため、板ガラスに割れが発生し易くなると考えられる。
【0019】
これに対し、過熱蒸気は、単位体積当たりの熱容量が大きく、非常に高い熱伝導性を有するとともに、熱源(例えば過熱蒸気の噴射孔)から加熱対象までの距離が大きくなるにつれて熱量が低減するという加熱特性を有する。換言すれば、過熱蒸気は、距離と熱量との間に反比例関係を有する。そのため、板ガラスの端面の加熱温度を比較的調整し易くすることができ、その結果、板ガラスの内部に生じる歪を効果的に低減させることができる。したがって、薄い板ガラスであっても割れの生じる可能性を低減して板ガラスの端面を加工することができる。
【0020】
また、例えば板ガラスの端面に対向する方向から過熱蒸気を吹き付ける場合、板ガラスの端面から遠ざかる方向における板ガラスの温度勾配を、比較的緩やか(なだらか)にすることができる。これにより、板ガラスの内部に生じる歪を効果的に低減させることができ、板ガラスに割れが発生する可能性を低減させることができる。
【0021】
さらに、例えば、板ガラスの端面が露出するようにして金属等の伝熱性の比較的高い保持部材を板ガラスの上下の板面に当接させて板ガラスを保持した状態にて、板ガラスの端面の部分を加熱して端面加工する。これにより、板ガラスの内部に生じる歪をより一層効果的に低減させることができる。
【0022】
すなわち、板ガラスの端面を加熱した際に、当該端面とともに金属が加熱され、金属を介して板ガラスに熱が伝熱する。その一方で、加熱後の冷却過程において、金属を介して板ガラスから熱が放散し易い。そのため、板ガラスの各部の冷却速度が比較的速くなる。
【0023】
例えば、端面を露出させて板ガラスを保持する際に、板ガラスよりも熱伝導率の高い保持部材(以下、第1部材と称することがある)を板ガラスの上下の板面に当接させた状態で板ガラスを挟む。ここで、上記第1部材としては、板ガラスの端面を加熱する際の熱に対する耐熱性を有するとともに、板ガラスを加熱および冷却する際に適度な伝熱が生じるような熱伝導率を有する部材を用いる。
【0024】
そして、板ガラスの形状および材質等に対応して、上記第1部材の形状および材質、並びに、板ガラスの上下の板面に当接する上記第1部材の位置、等の条件を設定する。つまり、板ガラスの端面加工において、板ガラスの温度を制御することに適した性能を有する上記第1部材を用いて、板ガラスの端面と適切な位置関係になるように上記第1部材を配置する。そして、板ガラスの端面とともに上記第1部材の一部を加熱するような広域加熱を行うことができる熱源を用いる。
【0025】
これにより、板ガラスの端面および当該端面の近傍部分、並びに、上記第1部材の少なくとも一部を加熱し、板ガラスの広域を昇温する。このような方法によれば、板ガラスの端面を加工する際に、板ガラスの端面と、当該板ガラスの端面から遠ざかる方向における温度勾配を比較的なだらかな状態とし易い。さらに、冷却過程において、板ガラスの端面から離れた場所でも、板ガラスの端面と同じように熱が放散し易い。そのため、加熱後の冷却過程において、板ガラスの各部の温度が、板ガラスの歪点の温度以下となるタイミングを一定にし易くなる。その結果、薄い板ガラスであっても、板ガラスの内部に生じる歪を効果的に低減できる。
【0026】
また、上記第1部材の外側に、上記第1部材よりも熱伝導率の低い保持部材(以下、第2部材と称する)をさらに当接させて板ガラスを保持することによれば、伝熱による板ガラスからの熱の放散を適度に抑制し易い。その結果、内部に生じる歪をより一層効果的に低減できる。
【0027】
<板ガラスの製造方法および端面加工装置の一例>
本発明の一実施形態における板ガラスの製造方法および端面加工装置について、
図1~5を用いて説明する。
【0028】
なお、以下では、板ガラス1として、矩形板状の形状を有する板ガラスを例示して説明するが、本発明の一態様における板ガラスの製造方法によって製造される板ガラスの形状は特に限定されるものではない。また、板ガラスの材質についても特に限定されるものではない。本発明の一態様における板ガラスの製造方法は、加工対象とする板ガラスに対応して、例えば予備試験等により具体的な条件を予め設定または調整することによって、各種の形状および材質の板ガラスに適用することができる。このことは、上述した知見および以下の説明に基づいて容易に理解できる。
【0029】
〔実施形態1〕
<端面加工装置>
図1は、本発明の一実施形態における板ガラス1の製造方法を実施する端面加工装置100の一部を模式的に示す断面図である。
図2は、端面加工装置100に含まれる過熱蒸気発生装置20の構成を示す概略図である。
図3は、板ガラス1を保持するガラス保持部(保持部)10を上方から見た場合の様子を概略的に示す模式図である。
図4は、端面加工装置100のブロック図である。
【0030】
図1に示すように、端面加工装置100は、ガラス保持部10および過熱蒸気発生装置20を備えている。板ガラス1は、切断加工された端面1Aを有する。ガラス保持部10は、板ガラス1の端面1Aを露出させた状態で、板ガラス1を保持する。過熱蒸気発生装置20は、噴射孔21から端面1Aに向けて過熱蒸気22を吹き出して、板ガラス1の端面1Aを板ガラス1の軟化点以上の温度に加熱する。
【0031】
ここで、
図1に示すような断面視において、板ガラス1の長手方向(板ガラス1の板面の延びる方向)に略平行な方向を左右方向Xとして
図1に矢印Xで示す。また、左右方向Xと略直交する方向を上下方向Yとして
図1に矢印Yで示す。以下の説明において、左右方向Xおよび上下方向Yに直交する方向を幅方向と称することがある。幅方向は、端面1Aにおける長辺の延びる方向であってよい。当該長辺の長さは、板ガラス1の幅の大きさに対応する。
【0032】
本実施形態では、過熱蒸気発生装置20における過熱蒸気22の噴射孔21は、板ガラス1の板面の延びる方向(左右方向X)に沿って過熱蒸気22を吹き出して板ガラス1の端面1Aを加熱するように位置している。
【0033】
(ガラス保持部)
本実施形態において、板ガラス1は、板ガラス1よりも熱伝導率の高い2枚の伝熱板(第1部材)50と、伝熱板50よりも熱伝導率の低い2枚の保熱板(第2部材)60とにより保持され、積層体2として構成される。
【0034】
詳しくは後述するが、ガラス保持部10は、板ガラス1の両面に板ガラス1よりも熱伝導率の高い伝熱板50を当接させて、板ガラス1を保持する。また、伝熱板50における板ガラス1側とは反対側の面である、第1外側面51B、52Bに、伝熱板50よりも熱伝導率の低い保熱板60をさらに当接させた状態で、板ガラス1を保持する。
【0035】
板ガラス1の端面1Aを過熱蒸気22によって加熱するとともに、上記積層体2のようにガラス保持部10によって板ガラス1を保持することにより、板ガラス1の内部に生じる歪を効果的に低減することができる。後述する加熱工程S3において、過熱蒸気22は、端面1Aよりも広い範囲に噴射される。すなわち、過熱蒸気22は、端面1Aおよび伝熱板50の少なくとも一部を含む範囲に噴射される。これにより、板ガラス1の端面1Aから遠ざかる方向において板ガラス1に生じる温度勾配を、比較的なだらかな状態とすることができる。
【0036】
また、後述する冷却工程S5においても、端面1Aから離れた場所でも、伝熱板50を介して放熱されることにより、端面1Aと同じように熱が放散し易い。そのため、板ガラス1の端面1Aおよび端面1Aから離れた場所の各部の温度について、同様のタイミングで(換言すれば同時期に)板ガラス1の歪点を下回るようにし易くできる。さらに、保熱板60により、伝熱による板ガラス1からの熱の放散を適度に抑制し易くなる。このため、内部に生じる歪をより一層効果的に低減することができる。
【0037】
積層体2は、ワークテーブル3の上に板ガラス1の板面が略水平になるように載置され、ガラス保持部10は、クランプ(固定具)4によってワークテーブル3上に積層体2が固定されることにより、板ガラス1を保持する。この例では、ワークテーブル3は積層体2よりも上下方向Yの下側に位置しており、クランプ4は積層体2より上下方向Yの上側に位置している。
【0038】
板ガラス1は、長手方向における一方の端の側面である端面1Aと、一方の板面である上面1Bと、他方の板面である下面1Cとを有している。この例では、上面1Bは板ガラス1における上下方向Yの上側の板面であり、下面1Cは板ガラス1における上下方向Yの下側の板面である。
【0039】
2枚の伝熱板50(伝熱板51、伝熱板52)は、板ガラス1の端面1Aの近傍を少なくとも除いて、板ガラス1の上面1Bおよび下面1C(両面)にそれぞれ当接している。具体的には、板ガラス1の上面1Bに伝熱板51が当接し、板ガラス1の下面1Cに伝熱板52が当接している。伝熱板51は端部51Aを有しており、伝熱板52は端部52Aを有している。本実施形態では、
図1に示す断面視において、端部51Aの位置と端部52Aの位置とは互いに同一または略同一である。そのため、端部51Aまたは端部52Aの位置を、伝熱板50の端部の位置と称することがある。
図1に示す断面視における、板ガラス1の端面1Aの位置と伝熱板50の端部の位置との距離を距離L1と称する。
【0040】
伝熱板51における板ガラス1側とは反対側の面を第1外側面51Bと称し、板ガラス1側の面を第1内側面51Cと称する。この例では、第1外側面51Bは伝熱板51における上下方向Yの上側の板面であり、第1内側面51Cは伝熱板51における上下方向Yの下側の板面である。
【0041】
また、伝熱板52における板ガラス1側とは反対側の面を第1外側面52Bと称し、板ガラス1側の面を第1内側面52Cと称する。この例では、第1外側面52Bは伝熱板52における上下方向Yの下側の板面であり、第1内側面52Cは伝熱板52における上下方向Yの上側の板面である。
【0042】
2枚の保熱板60(保熱板61、保熱板62)は、板ガラス1の端面1Aから左右方向Xに所定距離だけ離れた位置に配置され、そして伝熱板51および伝熱板52にそれぞれ当接している。具体的には、伝熱板51の第1外側面51Bに保熱板61が当接し、伝熱板52の第1外側面52Bに保熱板62が当接している。保熱板61は端部61Aを有しており、保熱板62は端部62Aを有している。本実施形態では、
図1に示す断面視において、端部61Aの位置と端部62Aの位置とは互いに同一または略同一である。そのため、端部61Aまたは端部62Aの位置を、保熱板60の端部の位置と称することがある。
図1に示す断面視における、板ガラス1の端面1Aの位置と保熱板60の端部の位置との距離を距離L2と称する。
【0043】
ワークテーブル3は、例えば後述する駆動機構40(
図4を参照)によって、少なくとも左右方向Xに移動可能に配置される。ワークテーブル3を移動させることによって、ガラス保持部10と、後述する過熱蒸気22の噴射孔21との位置関係を変化させることができる。具体的には、ガラス保持部10を、噴射孔21に対して左右方向Xに近接または離反する方向に移動させることができる。また、ワークテーブル3は、上下方向Yに移動可能に配置されてもよいし、前述の幅方向に移動可能に配置されてもよい。
【0044】
クランプ4は、積層体2をワークテーブル3に固定することができればよく、具体的な態様は特に限定されるものではない。積層体2をワークテーブル3に固定することが不要であれば、ガラス保持部10はクランプ4のような固定部材を備えていなくてもよい。
【0045】
本明細書では、板ガラス1の全体における、
図1および
図3に示す部分に着目して説明する。そのため、例えば、板ガラス1の板面、との記載は、板ガラス1における
図1および
図3にて図示している部分の板面を意味している。
図1および
図3において図示を省略している部分における板ガラス1の状態は特に限定されない。
【0046】
(過熱蒸気発生装置)
図1に示すように、過熱蒸気発生装置20は噴射孔21を有しており、噴射孔21から板ガラス1の端面1Aに向かって過熱蒸気22を噴射し、端面1Aを加熱することができる。
【0047】
過熱蒸気22は、バーナーのように煤を発生させることがないため、加工後の板ガラス1の清浄度を向上させることができる。また、板ガラス1や製造設備に付着した煤を除去する工程が不要となるため、効率よく板ガラス1を加工することができる。
【0048】
また、過熱蒸気22は、飽和水蒸気による熱風等と比較して、単位体積当たりの熱容量が大きく、非常に高い熱伝導性を有するため、熱効率よく板ガラス1を軟化させることができる。また、過熱蒸気22中には、ほとんど酸素(O2)が存在しない、または実質的に全く酸素が存在しないため、製造設備の酸化を防ぐことができる。
【0049】
さらに、過熱蒸気22は、移動する距離によって減衰するため、噴射孔21からの距離による温度調整を容易に行うことができる。過熱蒸気22と比較して、バーナーによる加熱の場合、火炎にホットスポットとクールスポットとが存在するために温度調整が困難である。また、レーザによる加熱の場合も同様に、照射範囲が狭いため温度差が生じ易く、温度調整が困難である。
【0050】
一方、過熱蒸気22の場合は、例えば、過熱蒸気22を板ガラス1の横から左右方向Xに照射する。これにより、板ガラス1の端面1Aを加熱しながら、端面1Aより噴射孔21から遠い位置にある板ガラス1の部分を、温度勾配をつけながら端面1Aよりも低い温度で加熱することができる。これにより、板ガラス1に生じる温度勾配を比較的なだらかな状態とすることができ、板ガラス1内に発生する内部応力(歪)を低減することができる。
【0051】
図2に示すように、過熱蒸気発生装置20は、飽和蒸気生成部26、過熱蒸気生成部25、配管27、ノズル24、および過熱蒸気22を噴射する噴射孔21を備える。
【0052】
飽和蒸気生成部26は、例えば、ボイラーから構成され、配管27から供給される水を加熱して飽和蒸気を生成する。飽和蒸気生成部26は、ボイラーに加えて、飽和蒸気を効率よく生成するために減圧装置を備えていてもよい。
【0053】
過熱蒸気生成部25は、飽和蒸気生成部26が生成した飽和蒸気を更に加熱して、過熱蒸気22を生成する。過熱蒸気生成部25は、例えば、過熱蒸気生成部25の内部に配置される配管27Aの外周面に巻かれたコイル28に電流を流し、誘導加熱することによって、配管27A内を通過する飽和蒸気を加熱してもよい。飽和蒸気の加熱方法は、特に限定されるものではなく、例えばバーナー、ヒーター、通電加熱などであってもよい。
【0054】
過熱蒸気22の温度は、板ガラス1の軟化点以上の温度であることが好ましい。具体的には、過熱蒸気22の温度は、200~1200℃であることが好ましく、700~1100℃であることがより好ましい。ここで、過熱蒸気22の温度とは、例えば、過熱蒸気発生装置20の噴射孔21における過熱蒸気22の温度である。なお、過熱蒸気22の温度は、例えばコイル28に通電される電流量を調整することで所望の温度に設定される。
【0055】
過熱蒸気発生装置20の噴射孔21と板ガラス1の端面1Aとの間の距離は、3~100cmであることが好ましく、5~20cmであることがより好ましい。
【0056】
上記の過熱蒸気22の条件は、後述する過熱蒸気発生装置制御部31を介して、加工条件データ82に基づき、板ガラス1の板厚や組成などに応じて適宜変更することができる。
【0057】
噴射孔21の周囲は、カバー部材(不図示)等により覆われていてもよい。カバー部材は、例えばステンレス鋼等の金属、耐熱性煉瓦、セラミックス等の材料により構成される。これにより、噴射孔21から噴射される過熱蒸気22の熱を、板ガラス1に効率よく伝えることができるとともに、周囲の環境(外乱)への影響、および、周囲の環境への影響を低減させることができる。
【0058】
図3に示すように、板ガラス1の上面1Bおよび下面1Cは、伝熱板51、52がそれぞれ当接しているが、板ガラス1の端面1Aの近傍は伝熱板51、52から露出している。詳しくは後述するが、噴射された過熱蒸気22により、端面1Aとともに伝熱板51、52の少なくとも一部が加熱され、伝熱板51、52を介して、伝熱板51、52に挟まれた板ガラス1の部分に熱が伝熱する。
【0059】
また、過熱蒸気22を噴射する噴射孔21に近い位置の空間の温度は比較的高温になり、噴射孔21から遠くなるにつれて空間の温度は徐々に低下する。
図3では、過熱蒸気22の外縁23の一例を仮想的に2点鎖線にて示している。
【0060】
過熱蒸気22は、上述したように、噴射孔21からの距離によってなだらかな温度勾配をつけながら温度調整を容易に行うことができる。このような過熱蒸気22を用いることにより、伝熱板50から露出している板ガラス1の端面1A近傍部分は、なだらかな温度勾配をつけながら加熱することができる。また、過熱蒸気22が直接当たらない伝熱板50に挟まれている部分は、加熱された端面1Aから伝熱される熱量が比較的小さいが、伝熱板50からの伝熱を加えて加熱することができる。
【0061】
これにより、露出している部分だけ極端に高温になることを回避し、板ガラス1内に極端な温度差が発生することを防止することができる。これによって、内部応力の発生を押さえつつ、板ガラス1の端面1Aを加工することができる。
【0062】
<端面加工装置の概略構成>
次に、端面加工装置100の概略的な構成について説明する。
図4に示すように、端面加工装置100は、ガラス保持部10と、過熱蒸気発生装置20と、制御部30と、駆動機構40と、入力部71と、表示部72と、記憶部80と、を備えている。端面加工装置100は、温度測定部15を備えていてもよく、温度測定部15および条件設定部33は、後述する条件設定処理にて用いられる。
【0063】
ガラス保持部10は、前述のように板ガラス1を保持しており、駆動機構40によって移動可能となっている。本実施形態では、左右方向Xにガラス保持部10が移動する例について説明するが、これに限定されない。端面加工装置100は、ガラス保持部10と過熱蒸気22の噴射孔21との位置関係を変化させて板ガラス1の端面1Aを加工可能なように、ガラス保持部10の位置を制御可能となっていればよい。
【0064】
過熱蒸気発生装置20は、板ガラス1の端面1Aおよび伝熱板50の少なくとも一部を加熱する広域加熱が可能であればよく、飽和蒸気生成部26のボイラー等の種類、飽和水蒸気の加熱方法、噴射孔21の数および形状等の具体的な態様は特に限定されない。
【0065】
制御部30は、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理部であり、端面加工装置100の各部を統括して制御する。制御部30には、過熱蒸気発生装置制御部31と、位置制御部32と、条件設定部33と、が含まれている。過熱蒸気発生装置制御部31は、飽和蒸気生成制御部311、および噴射量制御部312を備える。飽和蒸気生成制御部311は、ボイラーの温度等を制御して、生成する飽和蒸気の量等を制御する。噴射量制御部312は、過熱蒸気生成部25を制御して、生成する過熱蒸気22の量および温度等を制御する。
【0066】
位置制御部32、および条件設定部33の詳細については、板ガラスの製造方法についての説明と合わせて後述する。
【0067】
駆動機構40は、後述する位置制御部32からの指令に基づいて過熱蒸気22の噴射孔21に対するガラス保持部10の位置を制御し、噴射孔21と板ガラス1の端面1Aとの距離を変更する。駆動機構40は、例えばエンコーダを含むサーボモータを有していてもよい。駆動機構40は、ガラス保持部10の位置を制御可能であればよく、具体的な態様は特に限定されない。また、作業者がガラス保持部10を手動で移動させてもよい。
【0068】
入力部71は、例えばキーボードおよびマウス等であり、作業者が各種の情報を入力する際に用いることができる。表示部72は、例えば液晶ディスプレイである。入力部71および表示部72はタッチパネル等であってもよい。入力部71および表示部72の具体的な態様は特に限定されない。
【0069】
記憶部80には、端面加工装置100の動作において用いられる各種のデータが記憶されている。記憶部80には、ログデータ81と加工条件データ82とが記憶されている。ログデータ81は、板ガラス1の端面加工の際における、ガラス保持部10の位置の変化と、温度測定部15にて測定した板ガラス1の各部の温度の変化と、を記録した時系列データである。ログデータ81は、後述する条件設定処理にて用いられる。加工条件データ82は、板ガラス1の形状および材質等に対応した、板ガラス1の端面加工を適切に行うことが可能な加工条件についてのデータである。加工条件データ82は、後述する条件設定処理によって予め設定されてもよい。
【0070】
(ガラス保持部の構成例)
板ガラス1は、表面が平滑になるように研磨処理が施されていてもよい。板ガラス1は、例えば、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス等である。以下、ガラス保持部10の構成例として、板ガラス1が化学強化処理用のアルミノシリケートガラスである例について説明する。板ガラス1は、例えば、熱伝導率が27℃において0.5W/m・℃以上1.5W/m・℃以下である。
【0071】
板ガラス1は、板厚が2mm以下であってよく、1mm以下であってもよい。本実施形態における板ガラス1の製造方法によれば、薄い板ガラス1であっても端面を適切に加工可能であることから、板厚の下限を設定することを要しないが、板ガラス1は、例えば、板厚が0.02mm以上であってもよく、0.04mm以上であってもよい。板厚が0.02mm未満では、板ガラス1の取扱いが困難であり得るためである。
【0072】
板ガラス1は切断加工によって形成されてもよく、板ガラス1の形状は特に限定されるものではない。板ガラス1に対応する形状の伝熱板50および保熱板60を用いて板ガラス1を保持すればよい。また、板ガラス1に対応する形状の噴射孔21を有する過熱蒸気発生装置20を用いればよい。噴射孔21は、例えば円形若しくは長円形または矩形であってよく、多角形状であってよく、曲線および直線が組み合わされた外縁形状を有する不定形状であってもよい。噴射孔21の具体的な形状は特に限定されない。また、噴射孔21は、例えばノズルの先端に形成されていてよく、壁面に形成されていてもよい。噴射孔21は、板ガラス1の端面1Aに向かって過熱蒸気22を噴射することによって端面1Aを加工可能であればよく、噴射孔21の具体的な構造は特に限定されない。
【0073】
伝熱板50は、例えば各種の鋼板であってよく、各種のステンレス鋼板であってもよい。また、伝熱板50は、板ガラス1よりも熱伝導率の高い、銅等の材質にて形成されていてもよい。ここでは、伝熱板50がSUS304のオーステナイト系ステンレス鋼板である例について説明する。伝熱板50は、例えば、27℃において熱伝導率が10W/m・℃以上600W/m・℃以下であってよい。
【0074】
伝熱板50は、板厚が0.5mm以上5mm以下であってよく、1mm以上4mm以下であってもよい。伝熱板50の板厚が0.5mm未満の場合、後述する加熱工程S3において端面1Aを加熱した際の熱の影響によって伝熱板50が変形し得る。この場合、伝熱板50と板ガラス1との間に隙間が生じ、当該隙間において板ガラス1の温度が上昇し易くなる。その結果、板ガラス1の端面1Aを加工する安定性が低下し得る。一方で、伝熱板50の板厚が5mmを超えると、伝熱板50によって挟み込まれた板ガラス1の部分の温度を上昇させ難い。
【0075】
伝熱板50の形状は特に限定されない。伝熱板50は、板ガラス1の端面1Aの近傍を少なくとも除いて、板ガラス1の板面に当接するような形状であればよく、板状に限定されない。伝熱板50は、例えば、端面1Aから0.1mm以上離れた位置に当接する。板ガラス1の端面1Aの位置と伝熱板50の端部の位置との距離L1は、0.5mm以上5mm以下であってよく、1mm以上4mm以下であってもよい。距離L1が5mmを超えると、板ガラス1の端面1A以外の部分も高い温度まで加熱されてしまい、熱で板ガラス1が変形し得る。一方で、距離L1が0.5mm未満の場合、加熱される領域が狭くなり得る。
【0076】
保熱板60は、例えばセラミックボード、ウレタンボード、等であってよく、伝熱板50よりも熱伝導率の高い材質にて形成されていればよく、保熱板60の材質は特に限定されない。ここでは、保熱板60がファイバーボードである例について説明する。保熱板60は、例えば、熱伝導率が27℃において0.01W/m・℃以上0.5W/m・℃以下であってよい。保熱板60は、板ガラス1から過度に放熱されることを抑制する。
【0077】
保熱板60は、板厚が3mm以上50mm以下であってよく、10mm以上40mm以下であってもよい。保熱板60の板厚が10mm未満の場合、保熱性が低くなり得る。保熱板60の板厚が50mmを超えると、保熱板60の容積が大きくなり、材料のコストが増大し得る。
【0078】
保熱板60の形状は特に限定されない。保熱板60の形状は、板状に限定されず、例えばメッシュ状であってもよい。保熱板60は、板ガラス1の端面1Aから所定距離だけ離れた位置に配置され、伝熱板50の板面に当接するような形状であってよい。板ガラス1の端面1Aの位置と保熱板60の端部の位置との距離L2は、過熱蒸気発生装置20の過熱蒸気22による板ガラス1および伝熱板50の広域加熱を妨げないような保熱板60の位置となるように設定される。距離L2は、1mm以上150mm以下であってよく、10mm以上50mm以下であってもよい。
【0079】
距離L2が150mmを超えると、保熱効果を十分に得ることができないことがあり得る。一方で、距離L2が1mm未満の場合、冷却工程S5において板ガラス1および伝熱板50から熱が放散することを必要以上に妨げることにより冷却速度が低下する。その結果、後述する冷却工程S5における所要時間が増大し得る。
【0080】
<板ガラスの製造方法>
端面加工装置100を用いて実施する板ガラス1の製造方法の一例について、以下に説明する。
図5は、板ガラスの製造方法の一例について示すフローチャートである。
図5に示すように、本実施形態における板ガラス1の製造方法は、保持工程S1と、加熱工程S3と、冷却工程S5と、後処理工程S7と、を含む。
【0081】
(前準備)
板ガラス1の製造方法では、先ず、ガラス材を所望の形状に切断加工することにより、端面1Aを有する板ガラス1を準備する。切断加工される前のガラス材は、例えばオーバーフロー法、フロート法等によって形成されていてもよい。
【0082】
(保持工程S1)
保持工程S1では、板ガラス1の端面1Aを露出させた状態で、板ガラス1の上面1Bおよび下面1Cに板ガラス1よりも熱伝導率の高い伝熱板50を当接させて、板ガラス1を保持する。また、保持工程S1では、伝熱板51の第1外側面51Bおよび伝熱板52の第1外側面52Bにそれぞれ、伝熱板50よりも熱伝導率の低い保熱板61および保熱板62をさらに当接させた状態にて板ガラス1を保持する。より詳しくは、板ガラス1の端面1Aから左右方向Xの所定距離の範囲を少なくとも除いて、第1外側面51Bおよび第1外側面52Bにそれぞれ保熱板61および保熱板62をさらに当接させた状態にて板ガラス1を保持する。これにより上述のようなガラス保持部10を構成する(
図1および
図3を参照)。
【0083】
ここで、制御部30は、記憶部80から加工条件データ82を読み出してもよい。加工条件データ82は、板ガラス1の種類に対応付けられた、端面加工装置100の各種の制御条件を含む。以下、本実施形態における板ガラス1の種類に対応する制御条件を、説明の便宜上、制御条件Qと称する。保持工程S1では、制御条件Qに基づいて、板ガラス1を保持する具体的な状態が設定されてよい。保持工程S1での制御条件Qには、具体的には、例えば、距離L1、距離L2、噴射孔21と端面1Aとの間の距離(位置関係)等の条件が含まれる。
【0084】
(加熱工程S3)
加熱工程S3では、板ガラス1の端面1Aを板ガラス1の軟化点以上の温度に加熱する。過熱蒸気22の噴出量や温度が変更可能である場合、制御条件Qには、例えば、過熱蒸気22の噴出量や温度等の条件が含まれる。
【0085】
制御部30の過熱蒸気発生装置制御部31は、制御条件Qに基づいて、過熱蒸気発生装置20を制御する。ここで、過熱蒸気発生装置制御部31は、ガラス保持部10の位置制御が開始される前に、過熱蒸気発生装置20を動作させてもよい。
【0086】
加熱工程S3では、板ガラス1の端面1Aを板ガラス1の軟化点以上の温度に加熱する前に、ガラス保持部10を予熱することが好ましい。例えば、加熱工程S3では、制御条件Qに基づいて、ガラス保持部10の予熱を行い、その後、板ガラス1の端面1Aの加工を行うように、温度制御を行う。そのために、位置制御部32は、ガラス保持部10を過熱蒸気22の噴射孔21に緩やかに近づけ、その後、ガラス保持部10を過熱蒸気22の噴射孔21に更に近づけるような、ガラス保持部10の位置制御を行う。これにより、加熱工程S3後における板ガラス1の内部の温度勾配を緩やかにし易くすることができる。
【0087】
本明細書において、伝熱板50によって挟まれている板ガラス1の部分であって、加熱工程S3にて板ガラス1の端面1Aを加熱した際に、板ガラス1の歪点を超える温度に加熱される板ガラス1の部分を、伝熱高温部分HP(
図7参照)と称する。
【0088】
なお、加熱工程S3において、位置制御部32は、下記のようにガラス保持部10の位置制御を行ってもよい。すなわち、位置制御部32は、ガラス保持部10を予熱するために或る程度の時間を確保することなく、ガラス保持部10を過熱蒸気22の噴射孔21に比較的速く近づけるように、ガラス保持部10の位置を制御してもよい。この場合であっても、ガラス保持部10にて板ガラス1を保持していない場合に比べて、加熱工程S3後における板ガラス1の内部の温度勾配を緩やかにすることができる。
【0089】
(冷却工程S5)
冷却工程S5では、加熱工程S3の後、制御条件Qに基づいて、下記のように板ガラス1を冷却する。すなわち、冷却工程S5では、板ガラス1について第1の冷却および第2の冷却を行う。
【0090】
第1の冷却では、(i)板ガラス1の端面1Aの温度、および(ii)伝熱高温部分HPの温度が、板ガラス1の歪点付近の温度を同時期に下回るように、板ガラス1を冷却する。このため、制御部30の位置制御部32は、駆動機構40を動作させ、噴射孔21と板ガラス1の端面1Aとの距離を制御する。これにより、加熱後の冷却過程において、板ガラス1の内部に発生する歪を効果的に低減することができる。
【0091】
伝熱高温部分HPに含まれる、特定の位置における温度を計測し、上記(ii)の温度として用いてもよく、この「特定の位置における温度」とは、例えば板ガラス1の端面1Aから5mmの位置であってもよい。そして、本明細書において、上記「同時期に下回る」とは、下記の(1)または(2)であることを意味する。
【0092】
(1)上記(i)および(ii)が或る時点において同時に板ガラス1の歪点の温度を下回る。
【0093】
(2)上記(i)および(ii)の何れかが一方が板ガラス1の歪点の温度を下回った時点から、他方が板ガラス1の歪点の温度を下回るまでの期間が30秒以下であればよく、少なくとも60秒以下であればよい。
【0094】
冷却工程S5では、制御条件Qに基づいて、先ず、上記第1の冷却を行うように温度制御を行う。そのために、位置制御部32は、ガラス保持部10を過熱蒸気22の噴射孔21から緩やかに遠ざけるように、ガラス保持部10の位置制御を行う。例えば、位置制御部32は、加熱工程S3にて板ガラス1の端面1Aを板ガラス1の軟化点以上の温度に加熱した位置よりも噴射孔21から少し離れた位置にガラス保持部10を移動させ、当該位置を維持するようにガラス保持部10の位置制御を行ってもよい。
【0095】
そして、冷却工程S5では、上記第1の冷却を行った後、第2の冷却を行う。第2の冷却では、板ガラス1の温度について格別の温度制御を要しない。そのために、位置制御部32は、ガラス保持部10を噴射孔21から遠ざけるようにガラス保持部10の位置を制御する。
【0096】
なお、上記加熱工程S3および冷却工程S5において、位置制御部32は、ガラス保持部10の位置を連続的に変化させてよく、断続的に変化させてもよい。
【0097】
(後処理工程S7)
後処理工程では、例えば、板ガラス1に対して化学強化処理を行う。板ガラス1に対して、その他の各種処理を行ってもよい。これにより、板ガラスの製品を製造することができる。
【0098】
<条件設定処理>
次に、記憶部80に記憶される加工条件データ82を設定する条件設定処理について、
図6~
図8を用いて以下に説明する。
図6は、条件設定処理の一例の概要を示すフローチャートである。
図7は、条件設定処理を実施する際の端面加工装置100の一部を模式的に示す断面図である。
図8は、
図7に示すガラス保持部10の板ガラス1における端面1Aの近傍部分を示す平面図である。
【0099】
図6に示すように、先ず、板ガラス1の端面1Aの位置および端面1Aから、左右方向Yに所定距離だけ離れた位置の温度を測定可能となるように、板ガラス1を保持する(S11)。具体的には、
図7および
図8に示すように、板ガラス1の端面1Aの位置を測定対象点P1とし、端面1Aから、左右方向Yに所定距離だけ離れた位置を測定対象点P2とする。本実施形態における測定対象点P2は、端面1Aから5mmの位置である。測定対象点P1および測定対象点P2は、例えば、板ガラス1の幅方向(紙面と略直交する方向)における中央部に位置している。
【0100】
測定対象点P2は、
図7の伝熱高温部分HPにおける、端面1Aから遠い方の端部の近傍の位置であることが好ましい。伝熱高温部分HPの範囲は、板ガラス1の歪点の温度および保持条件による影響を受けて変わり得る。測定対象点P2の位置は、例えば、端面1Aから1mm以上10mm以下の位置であってもよい。
【0101】
測定対象点P1および測定対象点P2にそれぞれ熱電対(不図示)の先端を設置する。温度測定部15に熱電対を接続することにより、測定対象点P1および測定対象点P2の温度を測定可能とする。なお、熱電対は、例えば、測定対象点P1および測定対象点P2の下方に熱電対の固定板を設置し、固定板上に2本の熱電対を立てて、板ガラス1に接続する。なお、測定対象点P2に対応する位置における伝熱板52には、熱電対を通すための開孔が形成される。
【0102】
次いで、板ガラス1の(材質および形状)に関する種類データおよび板ガラス1を保持する条件に関する保持条件データを作成する(S13)。保持条件データは、伝熱板50の材質および形状、距離L1、保熱板60の材質および形状、並びに距離L2のデータを含んでいてもよい。上記ステップS13は、例えば作業者が入力部71を用いて種類データおよび保持条件データを入力することにより行われてもよい。なお、上記ステップS13が行われるタイミングは、後述するS31の前であればよく、特に限定されない。
【0103】
次いで、温度測定部15は、測定対象点P1および測定対象点P2の温度データを取得して制御部30に送信する。制御部30は、測定対象点P1および測定対象点P2の温度について、時系列データ(ログデータ81)の記録を開始する(S15)。
【0104】
次いで、ガラス保持部10の位置制御を開始する(S17)。例えば、
図7に示すように、基準位置L0を予め設定する。位置制御部32は、基準位置L0を基準とする位置Lを変数として、ガラス保持部10の位置(具体的には例えばワークテーブル3の位置)を制御する。このステップS17は、例えば、作業者が入力部71を用いてガラス保持部10の位置を入力することにより行われてもよい。位置制御部32は、例えば、作業者によって指定されたガラス保持部10の位置となるように、駆動機構40を駆動させる。或いは、位置制御部32は、温度測定部15によって経時的に測定される温度データに基づいて、ガラス保持部10の位置を自動制御するようになっていてもよい。
【0105】
次いで、位置制御部32は、駆動機構40を駆動させて、ガラス保持部10の位置Lが過熱蒸気発生装置20の噴射孔21に或る程度近づくように、ガラス保持部10を左右方向Xに移動させる。これにより、ガラス保持部10の全体を予熱する(S19:予熱)。例えば、測定対象点P1および測定対象点P2の温度が300℃程度になるように、予熱を行う。
【0106】
次いで、位置制御部32は、ガラス保持部10の位置Lが、さらに噴射孔21に近づくように、駆動機構40を駆動させる。これにより、板ガラス1の端面1Aを軟化点以上の温度に加熱する(S21:加熱)。例えば、測定対象点P1の温度が約850℃程度、測定対象点P2の温度が、板ガラス1の歪点を超える約550℃程度の温度となるように、ガラス保持部10を移動させる。
【0107】
次いで、板ガラス1の端面1Aを軟化点以上の温度に加熱することにより端面1Aの丸め加工が行われる。その後、位置制御部32は、ガラス保持部10の位置Lが、噴射孔21から左右方向Xに離反する方向に移動するように、駆動機構40を駆動させる。
【0108】
ここで、位置制御部32は、ガラス保持部10を噴射孔21から急激に遠ざけるのではなく、噴射孔21に比較的近い位置、すなわち周辺温度が比較的高い空間にて保持するようにガラス保持部10の位置を制御する。これにより、板ガラス1を緩やかに冷却する(S23:第1の冷却)。
【0109】
ガラス保持部10では、板ガラス1の伝熱高温部分HPにおける温度勾配が緩やかになっているとともに、板ガラス1の冷却速度が伝熱板50および保熱板60によって低下されている。
【0110】
具体的には、第1の冷却ステップS23では、測定対象点P1の温度TP1および測定対象点P2の温度TP2が板ガラス1の歪点StP付近の温度を同時期に下回るように、板ガラス1を冷却する。測定対象点P1の温度TP1および測定対象点P2の温度TP2が板ガラス1の歪点StP付近の温度を同時期に下回ることは、板ガラス1における測定対象点P1と測定対象点P2との間の部分における温度が同程度となっていることを意味する。
【0111】
第1の冷却ステップS23の後、位置制御部32は、ガラス保持部10の位置Lをさらに噴射孔21から離反するように、駆動機構40を駆動させる。これにより、板ガラス1を冷却する(S25:第2の冷却)。そして、ガラス保持部10から板ガラス1を取り出す(S27)。
【0112】
次いで、取り出した板ガラス1の端面1Aの近傍部分について、内部に発生した歪の評価を行う(S29)。板ガラス1の歪の評価方法については、公知の手法を用いることができることから詳細な説明は省略するが、例えばルケオ社製のひずみ計(LSM-1000LE)を用いることができる。
【0113】
次いで、板ガラス1の端面1Aの近傍部分における歪が所定の基準値以下であるか否かを判定する(S31)。この所定の基準値は、板ガラス1に対する後処理工程S7(
図5参照)の内容、および製品として求められる品質に応じて設定されてもよい。所定の基準値は、例えば、20MPaであってよく、10MPaであってもよい。
【0114】
板ガラス1の端面1Aの近傍部分における歪が所定の基準値以下ではない場合(S31でNO)、S11からの処理に戻って、再び条件設定処理を行う。この場合、例えば板ガラス1の保持条件等を変更してもよい。
【0115】
板ガラス1の端面1Aの近傍部分における歪が所定の基準値以下である場合(S31でYES)、条件設定部33は、板ガラス1の種類に関する種類データと、制御条件とを対応づけて加工条件データ82を作成して記憶部80に記憶する。
【0116】
ここで、上記制御条件には、保持条件データと、
図7に示すようなガラス保持部10の位置(位置L)の時系列変化についての位置制御条件と、が含まれる。条件設定部33による加工条件データ82の作成に使用される位置制御条件は、
図7に示すようなガラス保持部10の位置(位置L)の制御の時系列データに対して作業者による修正が行われたものであってもよい。
【0117】
<変形例>
以下、本実施形態の板ガラス1の製造方法および端面加工装置100の変形例について、例示的に説明する。
【0118】
(A)
図9は、一変形例における板ガラス1の製造方法を実施する端面加工装置100Aの一部を模式的に示す断面図である。
【0119】
図9に示すように、一変形例における端面加工装置100Aでは、ガラス保持部10の上方に、過熱蒸気22の噴射孔21を備えていてもよい。端面加工装置100Aは、駆動機構40によってガラス保持部10が上下方向Yに移動して、噴射孔21との位置関係を変化させることが可能になっていればよい。この場合においても、上記実施形態1における端面加工装置100と同様の効果を奏する。
【0120】
(B)
図10は、他の変形例における板ガラス1の製造方法を実施する端面加工装置100Bの一部を模式的に示す断面図である。
【0121】
図10に示すように、他の変形例における端面加工装置100Bは、ガラス保持部10の上方に、過熱蒸気発生装置20Bを備えている。過熱蒸気発生装置20Bは噴射孔21に加えて、板ガラス1に近い方の側に、開口径の異なる複数の噴射孔21Bをさらに有している。噴射孔21Bから噴射する過熱蒸気22Bの噴出量は、噴射孔21の過熱蒸気22の噴出量よりも小さくてもよい。これにより、加熱工程S3において、板ガラス1の端面1Aから遠ざかる方向の温度勾配を、より一層緩やかにすることができる。また、複数の噴射孔21、21Bの内、過熱蒸気22を噴射させる噴射孔を少なくとも1つ選択することにより、噴射する過熱蒸気22の噴射量を変更できるようにしてもよい。
【0122】
(C)
図11は、他の変形例における板ガラス1の製造方法を実施する端面加工装置100Cの一部を模式的に示す断面図である。
【0123】
図11に示すように、他の変形例における端面加工装置100Cでは、ガラス保持部10の下方に、過熱蒸気22の噴射孔21を備えていてもよい。端面加工装置100Cは、過熱蒸気22によって加熱された気体が上方に向かうことから、端面加工装置100とは制御条件が多少異なり得る。
【0124】
また、端面加工装置100Cにおいて、例えば、駆動機構40は、ガラス保持部10を板ガラス1の幅方向(板ガラス1の厚さ方向に直交かつ端面1Aに平行な方向)に駆動するようになっていてもよい。つまり、噴射孔21の上方における高温の空間を端面1Aが横切るように、ガラス保持部10の位置を制御することによって端面1Aの加工を行ってもよい。
【0125】
(D)
図12は、他の変形例における板ガラス1の製造方法を実施する端面加工装置100Dの一部を模式的に示す断面図である。
【0126】
図12に示すように、他の変形例における端面加工装置100Dでは、ガラス保持部10の上方および下方の両方に、過熱蒸気発生装置20を備えていてもよい。端面加工装置100Dは、駆動機構40によってガラス保持部10が左右方向Xに移動して、過熱蒸気22の噴射孔21との位置関係を変化可能となっていればよい。端面加工装置100Dは上記実施形態1における端面加工装置100と同様の効果を奏するとともに、加熱工程S3における処理時間を短縮し得る。
【0127】
(E)ガラス保持部10は、板ガラス1の上下の板面を同程度の大きさの伝熱板50で挟むことが好ましいが、例えば、伝熱板51の端部51Aの位置と、伝熱板52の端部52Aの位置とが互いにずれていてもよい。この場合、距離L1は、端部51Aの位置と端部52Aの位置との中間を伝熱板50の位置とすることによって特定してもよい。
【0128】
同様に、保熱板61の端部61Aの位置と、保熱板62の端部62Aの位置とが互いにずれていてもよい。この場合、距離L2は、端部61Aの位置と端部62Aの位置との中間を保熱板60の位置とすることによって特定してもよい。
【0129】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、
図13に基づいて説明すれば、以下のとおりである。なお、本実施形態において説明すること以外の構成は、前記実施形態1と同じである。また、説明の便宜上、前記実施形態1の図面に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0130】
本実施形態における板ガラス1の製造方法およびそれを実施する端面加工装置200は、ガラス保持部10Aを備え、ガラス保持部10Aは、板ガラス1および伝熱板50を含む積層体2Aを有する点が異なっている。
【0131】
図13は、本実施形態における板ガラス1の製造方法を実施する端面加工装置200の一部を模式的に示す断面図である。
図13に示すように、積層体2Aは、1枚の板ガラス1を、板ガラス1よりも熱伝導率の高い2枚の伝熱板(第1部材)50で挟むことで構成される。2枚の伝熱板50(伝熱板51、伝熱板52)は、板ガラス1の端面1Aの近傍を少なくとも除いて、板ガラス1の上面および下面にそれぞれ当接している。積層体2Aがワークテーブル3の上に載置され、クランプ4によってワークテーブル3上に積層体2が固定されることにより、板ガラス1を保持している。この例では、ワークテーブル3は積層体2Aよりも上下方向Yの下側に位置しており、クランプ4は積層体2Aより上下方向Yの上側に位置している。
【0132】
端面加工装置200においても、前記実施形態1にて説明したことと同様に、板ガラス1に対応するように、伝熱板50の材質、形状等、並びに距離L1を適切に設定して、保持工程S1~冷却工程S5を行って板ガラス1を製造することができる。
【0133】
ここで、外部影響を低減する保熱板60を使用していないことから、ガラス保持部10Aでは、板ガラス1の熱が伝熱板50を介して外部に放散し易くなる。そのため、板ガラス1の内部において、比較的急激に温度が下がる領域が生じ易くなる。
【0134】
例えば、本実施形態における板ガラス1の製造方法では、加熱工程S3における予熱の温度および時間、並びに、冷却工程S5におけるガラス保持部10Aの位置の制御、等を前記実施形態1における加工条件から変更する。そのような適切な加工条件は、前述のステップS11~S33によって加工条件データ82を作成することにより得ることができる。
【0135】
そして、端面加工装置200を用いて本実施形態における板ガラス1の製造方法を実施することにより、薄い板ガラス1であっても割れの生じる可能性を低減して板ガラス1の端面1Aを加工することができる。
【0136】
〔実施形態3〕
本発明の他の実施形態について、
図14に基づいて説明すれば、以下のとおりである。なお、本実施形態において説明すること以外の構成は、前記実施形態1、2と同じである。また、説明の便宜上、前記実施形態1、2の図面に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0137】
本実施形態における板ガラス1の製造方法およびそれを実施する端面加工装置300は、ガラス保持部10Bを備え、ガラス保持部10Bは、板ガラス1および保熱板60を含む積層体2Bを有する点が異なっている。
【0138】
図14は、本実施形態における板ガラス1の製造方法を実施する端面加工装置300の一部を模式的に示す断面図である。
図14に示すように、積層体2Bは、1枚の板ガラス1を、伝熱板50よりも熱伝導率の低い2枚の保熱板(第2部材)60で挟むことで構成される。2枚の保熱板60(保熱板61、保熱板62)は、板ガラス1の端面1Aの近傍を少なくとも除いて、板ガラス1の上面および下面にそれぞれ当接している。積層体2Bがワークテーブル3の上に載置され、クランプ4によってワークテーブル3上に積層体2が固定されることにより、板ガラス1を保持している。この例では、ワークテーブル3は積層体2Bよりも上下方向Yの下側に位置しており、クランプ4は積層体2Bより上下方向Yの上側に位置している。
【0139】
本実施形態のように、伝熱板50を使用していない場合であっても、過熱蒸気22を用いて板ガラス1の端面1Aを加熱することにより、板ガラス1の端面1Aから遠ざかる方向における板ガラス1の温度勾配をなだらかにし易くすることができる。端面加工装置300においても、前記実施形態1、2にて説明したことと同様に、板ガラス1に対応するように、保熱板60の材質、形状等、並びに距離L2を適切に設定して、保持工程S1~冷却工程S5を行って板ガラス1を製造することができる。これにより、板ガラス1の内部に生じる歪を効果的に低減させることができ、板ガラス1に割れが発生する可能性を低減させることができる。
【0140】
例えば、本実施形態における板ガラス1の製造方法では、加熱工程S3における予熱の温度および時間、並びに、冷却工程S5におけるガラス保持部10Bの位置の制御、等を前記実施形態1、2における加工条件から変更してもよい。そのような適切な加工条件は、前述のステップS11~S33によって加工条件データ82を作成することにより得ることができる。
【0141】
そして、端面加工装置300を用いて本実施形態における板ガラス1の製造方法を実施することにより、薄い板ガラス1であっても割れの生じる可能性を低減して板ガラス1の端面1Aを加工することができる。
【0142】
〔附記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0143】
以下、本発明の一実施例について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0144】
図15は、一比較例の板ガラスの製造方法におけるレーザ照射による加熱について説明する図である。
【0145】
板ガラス1として、幅30mm、長さ70mm、板厚0.7mmのアルミノシリケートガラス(熱伝導率:27℃において1.1W/m・℃)を用いた。
【0146】
図15に示すように、一比較例におけるレーザによる加熱では、出力200W、加熱領域0.5mm~2mm×25mmのCO
2レーザ91、および出力30W、加熱領域2mm~4mm×17mmのCO
2レーザ92a、92b、92cを並べて配置した。板ガラス1をレーザ91、92a、92b、および92cの下方に配置し、板ガラス1を左から右に移動させることにより、板ガラス1の端面1Aにレーザ91、92a、92b、および92cを順に照射した。これにより、レーザ91を照射して板ガラス1を溶融した後、レーザ92a、92b、92cを照射して板ガラス1の温度を徐々に下げた。
【0147】
図1に示すように、一実施例における過熱蒸気22による加熱では、以下のように板ガラス1を加熱した。板ガラス1の端面1Aを露出させて、板ガラス1の両面に伝熱板50としてSUS304の鋼板を当接させた。距離L1は0.5mmとした。そして、伝熱板51に保熱板61を当接させ、伝熱板52に保熱板62を当接させた。距離L2は3mmとした。
【0148】
比較例および実施例について、板ガラス1の端面1Aを加熱して端面加工を行い、加熱後の板ガラス1に発生した歪を評価した。比較例では、板ガラス1に60MPa程度の歪が発生した。これに対して、実施例では、板ガラス1の歪は7.3MPaにまで低減した。