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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150876
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】液体医薬組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/565 20060101AFI20231005BHJP
   A61P 5/32 20060101ALI20231005BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231005BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20231005BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20231005BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20231005BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20231005BHJP
【FI】
A61K31/565
A61P5/32
A61P35/00
A61K9/08
A61K47/10
A61K47/14
A61K47/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060204
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】591166400
【氏名又は名称】富士製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】篠原 正行
(72)【発明者】
【氏名】市森 美樹
(72)【発明者】
【氏名】中上 桂一
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076DD37
4C076DD38
4C076DD45
4C076EE53
4C076FF63
4C076FF65
4C076GG41
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA09
4C086MA01
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA05
4C086MA16
4C086NA03
4C086NA05
4C086ZB26
4C086ZC11
(57)【要約】
【課題】保管安定性に優れたフルベストラントを含む液体医薬組成物を製造する技術を提供する。
【解決手段】本発明の一態様に係る液体医薬組成物の製造方法は、密封容器に充填された液体医薬組成物の製造方法であり、前記液体医薬組成物中の溶存酸素濃度を17体積%以下に調整する酸素量調整工程を含み、前記液体医薬組成物は、有効成分としてフルベストラントを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
密封容器に充填された液体医薬組成物の製造方法であり、
前記液体医薬組成物中の溶存酸素濃度を17体積%以下に調整する酸素量調整工程を含み、
前記液体医薬組成物は、有効成分としてフルベストラントを含む、
液体医薬組成物の製造方法。
【請求項2】
前記酸素量調整工程では、前記液体医薬組成物中に溶解している酸素を不活性ガスで置換する、請求項1に記載の液体医薬組成物の製造方法。
【請求項3】
前記酸素量調整工程では、前記酸素量調整工程前の前記液体医薬組成物中の溶存酸素濃度が17体積%を超えている場合、前記液体医薬組成物中に溶解している酸素を不活性ガスで置換する、請求項2に記載の液体医薬組成物の製造方法。
【請求項4】
前記酸素量調整工程では、前記容器中の空隙の酸素濃度を3体積%以下に調整する、請求項1~3のいずれか1項に記載の液体医薬組成物の製造方法。
【請求項5】
前記酸素量調整工程前の前記液体医薬組成物中の溶存酸素濃度が17体積%以下である、請求項4に記載の液体医薬組成物の製造方法。
【請求項6】
前記酸素量調整工程では、前記容器内の空隙ができないように前記液体医薬組成物を前記容器に充填する、請求項1~3のいずれか1項に記載の液体医薬組成物の製造方法。
【請求項7】
前記酸素量調整工程では、前記液体医薬組成物中の溶存酸素濃度を5体積%以下に調整する、請求項1~6のいずれか1項に記載の液体医薬組成物の製造方法。
【請求項8】
前記液体医薬組成物の原料を混合する混合工程をさらに含み、
前記混合工程の後に、前記酸素量調整工程を行う、請求項1~7のいずれか1項に記載の液体医薬組成物の製造方法。
【請求項9】
前記原料は、揮発性成分及び不揮発性成分を含み、
前記混合工程では、前記不揮発性成分を混合した後に、前記揮発性成分を添加して混合し、
前記酸素量調整工程では、前記揮発性成分を混合する前に、少なくとも1回、前記溶存酸素濃度を調整する、請求項8に記載の液体医薬組成物の製造方法。
【請求項10】
前記液体医薬組成物は、
フルベストラントと、
5w/v%以上、15w/v%以下のエタノールと、
5w/v%以上、15w/v%以下のベンジルアルコールと、
10w/v%以上、20w/v%以下の安息香酸ベンジル、及び10w/v%以上、20w/v%以下のプロピレングリコールのうち少なくとも1つと、
少なくとも50mg/mLのフルベストラントを含む液体医薬組成物を調製するのに十分な量のヒマシ油と、を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の液体医薬組成物の製造方法。
【請求項11】
前記酸素量調整工程では、前記酸素量調整工程後の前記液体医薬組成物を雰囲気温度60℃で3週間貯蔵した場合の、前記液体医薬組成物中のフルベストラントの質量に対するフルベストラントスルホンの質量割合が、0.300w/w%以下となるように、前記液体医薬組成物中の溶存酸素濃度を調整する、請求項1~10のいずれか1項に記載の液体医薬組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体医薬組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、フルベストラントを含む筋肉注射に適する医薬製剤が開示されており、特許文献2には、処方を変更したフルベスト製剤が開示されている。また、フルベストラント(7α-[9-(4,4,5,5,5-ペンタフルオロペンチルスルフィニル)ノニル]エストラ-1,3,5(10)-トリエン-3,17β-ジオール)を有効成分とする医薬製剤は、フェソロデックスという商品名において、現在市販されている。
【0003】
フルベストラントは、酸化によりスルホン化して、フルベストラントスルホンという類縁体を生成することが知られている。特許文献3には、安息香酸ベンジル中に微量に混在している過酸化物等の不純物の酸化作用が、注射用製剤の調液時のフルベストラントスルホンの生成に関与しているものと推測し、安息香酸ベンジルと抗酸化剤との混合処理、安息香酸ベンジルの加熱処理及び安息香酸ベンジルの精製処理からなる群より選択される少なくとも1つの処理を行うことによって、安息香酸ベンジルに混在している過酸化物等の不純物により発現する酸化作用を打消し、これによって調液時のフルベストラントスルホンの増加を抑制し得ることが開示されている。また、安息香酸ベンジルと抗酸化剤との混合処理を窒素雰囲気下で行うことで、調液時のフルベストラントスルホンの増加率がより抑えられる傾向にあったことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2003-519659
【特許文献2】特表2009-509942
【特許文献3】国際公開第2019/151353号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フルベストラントを含む医薬製剤(以下、「フルベストラント製剤」という)の保管時の製剤の安定性(以下、「保管安定性」という)の向上が求められている。しかしながら、特許文献3に記載されている方法は、調液時のフルベストラントスルホンの増加を抑制する方法であり、フルベストラント製剤の保管安定性を向上させる方法ではない。そのため、保管安定性に優れたフルベストラント製剤を製造する技術が望まれている。
【0006】
本発明の一態様は、保管安定性に優れたフルベストラントを含む液体医薬組成物を製造する新規技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた。その結果、フルベストラントを含む液体医薬組成物の溶存酸素濃度を所定の値以下にすることで、保管時におけるフルベストラントの酸化によるフルベストラントスルホンの増加を抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。さらに、フルベストラントを含む液体医薬組成物を充填した容器の空隙の酸素濃度を所定の値以下にすることが、保管時の液体医薬組成物の溶存酸素濃度を所定の値以下に維持することにおいて有効であることも見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る液体医薬組成物の製造方法は、密封容器に充填された液体医薬組成物の製造方法であり、前記液体医薬組成物中の溶存酸素濃度を17体積%以下に調整する酸素量調整工程を含み、前記液体医薬組成物は、有効成分としてフルベストラントを含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、保管安定性に優れたフルベストラントを含む液体医薬組成物を製造する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態1に係る液体医薬組成物の製造方法の流れを説明する図である。
図2】本発明の実施形態2に係る液体医薬組成物の製造方法の流れを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<液体医薬組成物の製造方法の特徴>
本発明の一態様に係る液体医薬組成物の製造方法(以下、単に「製造方法」という)は、密封容器に充填された液体医薬組成物の製造方法であり、前記液体医薬組成物中の溶存酸素濃度を17体積%以下に調整する酸素量調整工程を含み、前記液体医薬組成物は、有効成分としてフルベストラントを含む。
【0012】
本発明の一態様に係る製造方法によれば、保管時におけるフルベストラントの酸化による液体医薬組成物中のフルベストラントスルホンの増加を抑制することができる。したがって、保管安定性に優れたフルベストラントを含む液体医薬組成物の製造方法を提供することができる。
【0013】
以上のことから、本発明の一態様に係る製造方法によって製造したフルベストラントを有効成分として含有する液体医薬組成物は、安定的に保存することができる。したがって、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標3「全ての人に健康と福祉を」に貢献することが可能となる。
【0014】
なお、本明細書において、液体医薬組成物の保管安定性は、雰囲気温度60℃の温度条件下にて液体医薬組成物の保管(貯蔵)を行う苛酷試験を実施し、試験開始から3週間経過時点での液体医薬組成物中のフルベストラントの質量に対するフルベストラントスルホンの質量割合(w/w%)に基づき評価している。具体的には、試験開始から3週間経過時点での液体医薬組成物中のフルベストラントの質量に対するフルベストラントスルホンの質量割合(w/w%)が0.300w/w%以下である場合に、その液体医薬組成物は、保管安定性に優れていると評価する。この観点において、試験開始から3週間経過時点での液体医薬組成物中のフルベストラントの質量に対するフルベストラントスルホンの質量割合(w/w%)が0.250w/w%以下である液体医薬組成物は、保管安定性により優れていると評価し、0.200w/w%以下である液体医薬組成物は、保管安定性にさらに優れていると評価し、0.150w/w%以下である液体医薬組成物は、保管安定性に特に優れていると評価する。液体医薬組成物中のフルベストラントの質量に対するフルベストラントスルホンの質量割合(w/w%)は、以下の式から算出される値である。算出方法の詳細は後述する実施例において説明する:
フルベストラントの質量に対するフルベストラントスルホンの質量割合(w/w%)=液体医薬組成物中のフルベストラントスルホンの量/液体医薬組成物中のフルベストラントの量×100。
【0015】
<液体医薬組成物>
本発明の一態様に係る製造方法で得られる液体医薬組成物は、有効成分としてフルベストラントを含む液状の医薬組成物である。フルベストラントは、7α-[9-(4,4,5,5,5-ペンタフルオロペンチルスルフィニル)ノニル]エストラ-1,3,5(10)-トリエン-3,17β-ジオールを指す一般名である。本明細書において、「フルベストラント」という場合、その薬学的に許容できる塩類、及びそのいずれかの可能な任意の溶媒和物も包含する意味である。
【0016】
液体医薬組成物に含まれているフルベストラントの含有量は、目的に応じて適宜調整することができる。しかし、市販製剤との生物学的同等性を得るために、含有量を大きく変更することはリスクとなり得る。そのため、医薬組成物中に含まれる有効成分の質量を市販製剤に準じた質量とすることが好ましい。これは、医薬組成物の総質量を先発製剤よりも減らす場合も同様である。
【0017】
液体医薬組成物は、フルベストラントの他に、薬学的に許容可能な溶剤及び植物油を含んでいることが好ましい。
【0018】
薬学的に許容可能な溶剤は、例えば、アルコール、非水性エステル化合物等を挙げることができるが、これらに限定されない。フルベストラントの溶解性を向上させる観点から、薬学的に許容可能な溶剤として、アルコールを含んでいることが好ましい。本明細書において、「非水性」とは、25℃の水に対する溶解度が1質量%未満であることを意味する。
【0019】
アルコールとしては、例えば、エタノール、ベンジルアルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、及びポリソルベート80等が挙げられる。非水性エステル化合物としては、例えば、安息香酸ベンジル、オレイン酸エチル、及びミリスチン酸イソプロピル等が挙げられる。薬学的に許容可能な溶剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0020】
薬学的に許容可能な溶剤は、エタノールと、ベンジルアルコールと、安息香酸ベンジル及びプロピレングリコールのうち少なくとも1種と、を組み合わせて使用してもよく、エタノールと、ベンジルアルコールと、安息香酸ベンジル又はプロピレングリコールとを組み合わせて使用してもよい。
【0021】
エタノールと、ベンジルアルコールと、安息香酸ベンジル又はプロピレングリコールとを組み合わせて使用する場合、各溶剤の含有量は、目的に応じて適宜調整することができる。一例として、エタノールの含有量は、5w/v%以上、15w/v%以下であってもよく、ベンジルアルコールの含有量は、5w/v%以上、15w/v%以下であってもよく、安息香酸ベンジルの含有量は、10w/v%以上、20w/v%以下であってもよく、プロピレングリコールの含有量は、10w/v%以上、20w/v%以下であってもよい。
【0022】
本明細書において「植物油」は、植物の種子、果実等から抽出することによって得られる油脂を意味する。植物油は、医薬品添加物として使用実績のある植物油が好ましい。例えば、ヒマシ油、ゴマ油、ダイズ油、トウモロコシ油、オリーブ油、サンフラワー油、ナタネ油、ラッカセイ油、及びツバキ油等が挙げられる。植物油は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。フルベストラントの溶解性を高める、且つ体内に添加した後の液体医薬組成物の徐放性を高める観点から、ヒマシ油を含んでいることが好ましい。ヒマシ油の含有量は、目的に応じて適宜調整することができ、少なくとも50mg/mLのフルベストラントを含む液体医薬組成物を調製するのに十分な量を含有していることが好ましい。
【0023】
本発明の一態様に係る製造方法によって製造される好ましい液体医薬組成物の一例は、フルベストラントと、5w/v%以上、15w/v%以下のエタノールと、5w/v%以上、15w/v%以下のベンジルアルコールと、10w/v%以上、20w/v%以下の安息香酸ベンジルと、少なくとも50mg/mLのフルベストラントを含む液体医薬組成物を調製するのに十分な量のヒマシ油と、を含んでいる液体医薬組成物である。
【0024】
本発明の一態様に係る製造方法によって製造される好ましい液体医薬組成物の別の一例は、フルベストラントと、5w/v%以上、15w/v%以下のエタノールと、5w/v%以上、15w/v%以下のベンジルアルコールと、10w/v%以上、20w/v%以下のプロピレングリコールと、少なくとも50mg/mLのフルベストラントを含む液体医薬組成物を調製するのに十分な量のヒマシ油と、を含んでいる液体医薬組成物である。
【0025】
本発明の一態様に係る製造方法によって製造される液体医薬組成物は、本発明の効果を損なわなければ、上述した成分に加えて、薬学的に許容される任意の成分をさらに含んでいてもよい。任意の成分としては、例えば、抗酸化剤、防腐剤、界面活性剤、安定化剤、乳化剤、及び懸濁剤等が挙げられるが、これらに限定されない。任意の成分は、1種を単独で含んでいてもよく、2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。
【0026】
本発明の一態様に係る製造方法によって製造される液体医薬組成物は、注射用製剤として好適に用いることができる。
【0027】
本発明の一態様に係る製造方法によって製造される液体医薬組成物は、密封容器に充填されている。密封容器に充填することで、フルベストラントがなるべく酸素の影響を受けないようにすることができる。密封容器としては、例えば、バイアル、アンプル、及びシリンジ等が挙げられるが、これらに限定されない。液体医薬組成物を注射用製剤として使用する場合、医療現場における取り扱い性の観点から、密封容器はシリンジであることが好ましく、本剤の処方上の特性から、化学的に安定で耐溶剤性が高く、且つガスバリア性の高いガラス製のシリンジがより好ましい。医療機関における利便性、及び本剤の粘性の高さの観点から、本発明の一態様に係る製造方法によって製造される液体医薬組成物は、プレフィルドシリンジ製剤であることが好ましい。また、密封容器は、口をゴム栓によって栓をされていることが好ましい。本剤の処方上の特性から、ガスバリア性の高いブチルゴム製のラミネートゴム栓を用いることが好ましい。
【0028】
以下に、本発明の一態様に係る製造方法における各工程を説明する。
【0029】
<酸素量調整工程>
酸素量調整工程は、液体医薬組成物中の溶存酸素濃度を17体積%以下に調整する工程である。液体医薬組成物中の溶存酸素濃度をこのような範囲に調整することによって、液体医薬組成物の保管中にフルベストラントが酸化しにくくなり、その結果、液体医薬組成物中のフルベストラントスルホンが増加しにくくすることができる。したがって、保管安定性に優れたフルベストラントを含む液体医薬組成物を製造することができる。また、液体医薬組成物の保管中のフルベストラントをより酸化しにくくする観点から、溶存酸素濃度を11体積%以下に調整することが好ましく、5体積%以下に調整することがより好ましく、1体積%以下に調整することが特に好ましい。
【0030】
本明細書において、液体医薬組成物中の溶存酸素濃度は、液体医薬組成物に溶解している酸素の濃度を意味し、液体医薬組成物の体積に対する酸素の体積%で表す。本明細書において、溶存酸素濃度は、蛍光式酸素濃度計によって測定した値である。蛍光式酸素濃度計としては、公知の蛍光式酸素濃度計を用いることができる。高感度であることから、マイクロファイバーケーブルを基にしたマイクロ酸素センサーを用いたマイクロ酸素計を好適に用いることができる。マイクロ酸素計は、例えば、PreSens社製 OXY-1 ST traceである。
【0031】
また、本明細書において、「液体医薬組成物中の溶存酸素濃度を17体積%以下に調整する」とは、(i)液体医薬組成物中の溶存酸素量を減少させること、および(ii)液体医薬組成物中の溶存酸素量が増加しにくくすること、の2つの概念を包含した意味である。
【0032】
液体医薬組成物中の溶存酸素量を減少させる方法としては、液体医薬組成物中の溶存酸素量を減少させることができるあらゆる方法を採用することができ、例えば、不活性ガスによる溶存酸素の置換、真空脱気、加温、及び撹拌等が挙げられる。溶存酸素量を短時間で効率よく減少させることができる点で、酸素量調整工程では、液体医薬組成物中の溶存酸素を不活性ガスで置換することが好ましい。例えば、不活性ガスを液体医薬組成物中に吹き付けてバブリングすることによって、液体医薬組成物中の溶存酸素を不活性ガスに置換することができる。不活性ガスの種類は、液体医薬組成物に含まれる成分に影響を与えなければ特に制限されないが、窒素ガス、ヘリウムガス、及びアルゴンガス等が好ましく、安価で調達が容易な観点から窒素ガスであることがより好ましい。
【0033】
本発明の一態様に係る製造方法は、酸素量調整工程の前に、液体医薬組成物中の溶存酸素濃度を測定する工程をさらに含んでいてもよい。酸素量調整工程前の液体医薬組成物中の溶存酸素濃度(以下、「液体医薬組成物の調整前溶存酸素濃度」という)が17体積%を超えている場合は、酸素量調整工程を行って、液体医薬組成物中の溶存酸素濃度を17体積%以下に低下させる。一方、液体医薬組成物の調整前溶存酸素濃度が17体積%以下である場合は、溶存酸素溶存酸素量をさらに減少させる処理を行わなくてもよい。
【0034】
また、酸素量調整工程において、液体医薬組成物中の溶存酸素濃度を減少させる場合、液体医薬組成物を密封容器に充填する前及び後の何れにおいて実施してもよい。液体医薬組成物を密封容器に充填する前に酸素量調整工程を行うことで、密封容器に充填後の液体医薬組成物に対して、1つずつ酸素量調整工程を行うよりも効率よく溶存酸素濃度を調整することができる。これに対して、液体医薬組成物を密封容器に充填した後に酸素量調整工程を行うことで、酸素量調整工程によって所与の値に調整した溶存酸素濃度が、密封容器への充填処理によって増加することを防ぐことができる。ただし、空隙ができないように液体医薬組成物を容器に充填する場合は、充填する前に液体医薬組成物の溶存酸素濃度を減少させることが好ましい。
【0035】
酸素量調整工程では、液体医薬組成物中の溶存酸素量が増加しにくくする処理を行うことが好ましい。これによって、液体医薬組成物の溶存酸素濃度を所与の値以下に維持することができる。液体医薬組成物中の溶存酸素量が増加しにくくする方法としては、液体医薬組成物中に新たな酸素が溶け込むことを防ぐことができるあらゆる方法を採用することができ、例えば、不活性ガスによって密封容器の空隙中の酸素を置換すること、密封容器内の空隙ができないように液体医薬組成物を容器に充填すること等を挙げることができる。これらの方法は、密封容器の空隙中の酸素量を調整することで液体医薬組成物中の溶存酸素量が増加しにくくする方法であるが、密封容器の空隙中の酸素量を調整する処理を行ったうえで、密封容器内に外部から新たな酸素が流入することを防ぐ処理を併用することが好ましい。密封容器内に外部から新たな酸素が流入することを防ぐ処理としては、例えば、酸素バリア性を有する袋等を用いて、密封容器を脱酸素剤と共に包装する処理を挙げることができる。この処理によって、外部からのわずかな酸素の流入も防ぐことができる。
【0036】
本発明の一態様に係る製造方法において、密封容器内の空隙が存在する場合、酸素量調整工程では、密封容器内の空隙中の酸素濃度を3体積%以下に調整することが好ましい。容器内の空隙中の酸素濃度をこのような範囲にすることによって、密封容器内のヘッドスペース等の空隙中に存在する酸素が、時間経過に伴い液体医薬組成物中に溶解することを防ぎ、液体医薬組成物中の溶存酸素量が増加しにくくすることができる。その結果、液体医薬組成物の溶存酸素濃度を所与の値に維持することができる。液体医薬組成物の調整前溶存酸素濃度が17体積%以下であれば、溶存酸素溶存酸素量をさらに減少させる処理を行わずに、空隙の酸素量を所与の値以下に調整する処理のみをおこなってもよい。
【0037】
不活性ガスによって密封容器の空隙中の酸素を置換する場合、使用できる不活性ガスの種類は、上述した通りであるため、同じ説明を繰り返さない。
【0038】
本明細書において、密封容器内の空隙中の酸素濃度は、密封容器内の空隙中に存在する酸素の濃度を意味し、密封容器の体積に対する酸素の体積%で表す。本明細書において、密封容器内の空隙中の酸素濃度は、液体医薬組成物中の溶存酸素濃度と同様の方法を用いて測定した値である。
【0039】
本発明の別の一態様に係る製造方法において、処理が比較的容易であることから、液体医薬組成物中の溶存酸素量が増加しにくくする方法として、酸素量調整工程では、密封容器内の空隙ができないように液体医薬組成物を容器に充填することが好ましい。空隙ができるだけ生じないようにすることで、空隙中に存在する酸素が、時間経過に伴い液体医薬組成物中に溶解することを防ぎ、液体医薬組成物中の溶存酸素量が増加しにくくすることができる。その結果、液体医薬組成物の溶存酸素濃度を所与の値に維持することができる。液体医薬組成物の調整前溶存酸素濃度が17体積%以下であれば、溶存酸素溶存酸素量をさらに減少させる処理を行わずに、空隙ができないように液体医薬組成物を容器に充填するだけでもよい。
【0040】
空隙ができないように液体医薬組成物を容器に充填する方法としては、例えば、密封容器の全容積を液体医薬組成物が満たすように充填する、及び密封容器内を脱気した後、液体医薬組成物を充填する等の方法を挙げることができる。
【0041】
本発明の一態様に係る製造方法において、酸素量調整工程では、酸素量調整工程後の液体医薬組成物を雰囲気温度60℃で3週間貯蔵した場合の、液体医薬組成物中のフルベストラントの質量に対するフルベストラントスルホンの質量割合(w/w%)が、0.300w/w%以下となるように、液体医薬組成物中の溶存酸素濃度を調整することが好ましく、0.250w/w%以下となるように、液体医薬組成物中の溶存酸素濃度を調整することがより好ましく、0.200w/w%以下となるように、液体医薬組成物中の溶存酸素濃度を調整することがさらに好ましく、0.150w/w%以下となるように調整することが特に好ましい。液体医薬組成物中のフルベストラントの質量に対するフルベストラントの質量割合(w/w%)がこのような範囲となるように液体医薬組成物中の溶存酸素濃度を調整することにより、保管安定性に優れたフルベストラントを有効成分として含む液体医薬組成物を製造することができる。「液体医薬組成物中のフルベストラントの質量に対するフルベストラントの質量割合(w/w%)」の算出方法は上述した通りである。
【0042】
<混合工程>
本発明の一態様に係る製造方法は、酸素量調整工程の他に、混合工程を含んでいてもよい。混合工程は、液体医薬組成物の原料を混合する工程である。液体医薬組成物の原料は、揮発性成分及び不揮発性成分を含んでいてもよい。本明細書において「揮発性成分」とは、20℃、1013hPaの条件下で、大気中に少なくとも一部が揮発する成分を指し、「不揮発性成分」とは、当該条件下で大気中に全く揮発しない成分を指す。揮発性成分は、例えば、上述した好ましい液体医薬組成物に含まれている原料のうち、エタノール及びベンジルアルコールであり、不揮発性成分は、フルベストラント、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、及びヒマシ油である。
【0043】
混合工程では、液体医薬組成物のすべての原料を1度に添加して混合してもよく、原料ごとに適宜、添加しながら混合してもよい。原料ごとに適宜、添加しながら混合する場合、フルベストラント以外の不揮発性成分を混合した第1の溶液(溶液1)を調製した後に、揮発性成分にフルベストラントを溶解して調製した第2の溶液(溶液2)を溶液1に添加して混合することが好ましい。これにより、フルベストラントを十分に溶解させることができると共に、薬液調製の段階で揮発性成分が揮発しにくくすることができる。混合の方法は、特に限定されず、例えば、撹拌による混合が挙げられる。
【0044】
混合時間は、特に限定されず、混合時の温度、混合時の雰囲気、製造スケール、混合効率、製造効率等に応じて、適宜調整することができる。
【0045】
混合時の温度は、特に限定されず、例えば、混合する液体医薬組成物の原料の溶解性等に応じて、適宜設定することができる。
【0046】
混合時の雰囲気は、特に限定されず、大気雰囲気であっても不活性ガス雰囲気であってもよい。空気中の酸素が溶け込むことで溶液中の溶存酸素の量が増加することを防ぐ観点から、不活性ガス成層下で混合工程を行うことが好ましい。使用できる不活性ガスの種類は、上述した通りであるため、同じ説明を繰り返さない。
【0047】
酸素量調整工程は、混合工程の後に行うことが好ましい。酸素量調整工程において、液体医薬組成物中の溶存酸素濃度を減少させる場合、揮発性成分を混合する前に、少なくとも1回、溶存酸素濃度を調整することが好ましい。揮発性成分を混合する前に酸素量調整工程を行うことで、酸素量調整工程による揮発性成分の揮発を抑制することができる。これにより、液体医薬組成物中の成分の分量が変化してしまうことを防ぐことができる。また、揮発性成分が揮発して量が減少すると、フルベストラントの溶解性が低下するため、酸素量調整工程による揮発性成分の揮発を抑制することができれば、液体医薬組成物におけるフルベストラントの溶解性が低下することを防ぐことができる。
【0048】
〔実施形態1〕
図1を参照して実施形態1に係る液体医薬組成物の製造方法について説明する。図1は本発明の実施形態1に係る液体医薬組成物の製造方法の流れを示す図である。
【0049】
まず、混合工程において、揮発性成分であるエタノール及びベンジルアルコールにフルベストラントを溶解する(図1中の「原料溶解」)。次いで、不揮発性成分である安息香酸ベンジルまたはプロピレングリコールを添加し混合する(図1中の「混合1」)。次いで、ヒマシ油を添加して薬液の全量を調整し(図1中の「全量調整」)、液状医薬組成物を得る。
【0050】
次に、酸素量調整工程において、液状医薬組成物に対して窒素バブリングを行い、液状医薬組成物中に溶存している酸素を窒素で置換することで、液状医薬組成物中の溶存酸素濃度を調整する(図1中の「溶存酸素濃度調整」)。窒素バブリング後に液状医薬組成物中の溶存酸素濃度を測定し、溶存酸素濃度が17体積%以下であれば、酸素量調整工程を終了し、次の工程に進む。溶存酸素濃度が17体積%を超えている場合は、17体積%以下になるまで窒素バブリングを繰り返す。
【0051】
次に、無菌ろ過工程において、溶存酸素濃度調整後の液状医薬組成物を無菌ろ過する(図1中の「無菌ろ過」)。
【0052】
次に、充填工程において、無菌ろ過後の液状医薬組成物を、シリンジに充填する(図1中の「シリンジ充填」)。
【0053】
最後に、酸素量調整工程において、シリンジ中の空隙の気体を窒素置換することで、シリンジ中の空隙の酸素濃度を3体積%以下に調整し、シリンジをゴム栓を用いて打栓する(図1中の「空隙酸素濃度調整及び打栓」)。これによって、シリンジに充填された液体医薬組成物が得られる。
【0054】
実施形態1に係る液体医薬組成物の製造方法によれば、図1に示したフローであることにより、液状医薬組成物の薬液の粘度が低くなり、撹拌しやすくなるため、特殊な撹拌装置及び加温処理が必要ないという利点がある。本明細書において「特殊な撹拌装置」とは、撹拌能力の強い仕様である撹拌装置、及び特殊な形状の撹拌羽を有する撹拌装置等を指す。また、フルベストラントの溶解時、フルベストラントがだま状になることを抑制できるため、フルベストラントを効率的に溶解することができるという利点がある。
【0055】
(実施形態1の変形例)
実施形態1に係る液体医薬組成物の製造方法では、混合工程において各成分を混合する順序は上述した順序に限定されない。例えば、まず、ヒマシ油にフルベストラントを溶解する。次いで、揮発性成分であるエタノール及びベンジルアルコールを添加し混合する。次いで、不揮発性成分である安息香酸ベンジルまたはプロピレングリコールを添加し混合する。最後に、ヒマシ油を添加して薬液の全量を調整し、液状医薬組成物を得てもよい。また、別の変形例としては、例えば、フルベストラントを含むすべての成分を一度に投入して混合して、液状医薬組成物を得てもよい。成分の混合物の撹拌のし易さ及びフルベストラントを効率的に溶解する観点から、実施形態1に示した順序で各成分を混合することが好ましい。
【0056】
〔実施形態2〕
図2を参照して実施形態2に係る液体医薬組成物の製造方法について説明する。図2は本発明の実施形態2に係る液体医薬組成物の製造方法の流れを示す図である。実施形態2においては、混合工程を二回に分けて行い、酸素量調整工程における溶存酸素濃度の調製を第1の混合工程と第2の混合工程との間、及び第2の混合工程の後の二回に分けて行う点が、実施形態1に係る液体医薬組成物の製造方法と少なくとも異なる。
【0057】
まず、第1の混合工程において、フルベストラント以外の不揮発性成分である安息香酸ベンジルまたはプロピレングリコールと、ヒマシ油とを混合して、第1の溶液(溶液1)を調製する(図2中の「混合1」)。
【0058】
次に、第1の酸素量調整工程において、溶液1に対して窒素バブリングを行い、溶液1中に溶存している酸素を窒素で置換することで、溶液1中の溶存酸素濃度を調整する(図1中の「溶存酸素濃度調整1」)。
【0059】
次に、第2の混合工程において、揮発性成分であるエタノール及びベンジルアルコールにフルベストラントを溶解して、第2の溶液(溶液2)を調製し(図2中の「原料溶解」)、溶液2を溶存酸素濃度調整後の溶液1に添加し、混合して、液状医薬組成物を得る(図2中の「混合2」)。
【0060】
次に、第2の酸素量調整工程において、液状医薬組成物に対して窒素バブリングを行い、液状医薬組成物中に溶存している酸素を窒素で置換することで、液状医薬組成物中の溶存酸素濃度を調整する(図2中の「溶存酸素濃度調整2」)。窒素バブリング後に液状医薬組成物中の溶存酸素濃度を測定し、溶存酸素濃度が17体積%以下であれば、酸素量調整工程を終了し、次の工程に進む。溶存酸素濃度が17体積%を超えている場合は、17体積%以下になるまで窒素バブリングを繰り返す。
【0061】
これ以降の処理は、実施形態1と同じである。すなわち、無菌ろ過工程において、溶存酸素濃度調整後の液状医薬組成物を無菌ろ過し(図2中の「無菌ろ過」)、充填工程において、無菌ろ過後の液状医薬組成物を、シリンジに充填し(図2中の「シリンジ充填」)、シリンジ中の空隙の気体を窒素置換することで、シリンジ中の空隙の酸素濃度を3体積%以下に調整し、シリンジをゴム栓を用いて打栓する(図2中の「空隙酸素濃度調整及び打栓」)。これによって、シリンジに充填された液体医薬組成物が得られる。
【0062】
実施形態2に係る液体医薬組成物の製造方法によれば、まず、フルベストラント以外の不揮発性成分に対して第1の酸素量調整工程を行うので、溶存酸素量の調整による揮発性成分の揮発を抑制することができる。また、第1の酸素量調整工程において、フルベストラント以外の不揮発性成分に対して十分に溶存酸素濃度調整処理を行うことで、揮発性成分混合後の液体医薬組成物に対して行う第2の酸素量調整工程において、液体医薬組成物中の溶存酸素濃度をより短時間で目的の値まで調整することが可能となる。これにより、溶存酸素量の調整によって液体医薬組成物中の成分が揮発することによって成分の分量が変化してしまうことを防ぐことができる。また、揮発性成分が揮発して量が減少すると、フルベストラントの溶解性が低下するため、酸素量調整工程による揮発性成分の揮発を抑制することができれば、液体医薬組成物におけるフルベストラントの溶解性が低下することを防ぐことができる。
【0063】
<まとめ>
本発明の態様1に係る液体医薬組成物の製造方法は、密封容器に充填された液体医薬組成物の製造方法であり、前記液体医薬組成物中の溶存酸素濃度を17体積%以下に調整する酸素量調整工程を含み、前記液体医薬組成物は、有効成分としてフルベストラントを含む。
【0064】
本発明の態様2に係る液体医薬組成物の製造方法は、態様1において、前記酸素量調整工程では、前記液体医薬組成物中に溶解している酸素を不活性ガスで置換することが好ましい。
【0065】
本発明の態様3に係る液体医薬組成物の製造方法は、態様2において、前記酸素量調整工程では、前記酸素量調整工程前の前記液体医薬組成物中の溶存酸素濃度が17体積%を超えている場合、前記液体医薬組成物中に溶解している酸素を不活性ガスで置換することが好ましい。
【0066】
本発明の態様4に係る液体医薬組成物の製造方法は、態様1~3のいずれか1つにおいて、前記酸素量調整工程では、前記容器中の空隙の酸素濃度を3体積%以下に調整することが好ましい。
【0067】
本発明の態様5に係る液体医薬組成物の製造方法は、態様4において、前記酸素量調整工程前の前記液体医薬組成物中の溶存酸素濃度が17体積%以下であることが好ましい。
【0068】
本発明の態様6に係る液体医薬組成物の製造方法は、態様1~3のいずれか1つにおいて、前記酸素量調整工程では、前記容器内の空隙ができないように前記液体医薬組成物を前記容器に充填することが好ましい。
【0069】
本発明の態様7に係る液体医薬組成物の製造方法は、態様1~6のいずれか1つにおいて、前記酸素量調整工程では、前記液体医薬組成物中の溶存酸素濃度を5体積%以下に調整することが好ましい。
【0070】
本発明の態様8に係る液体医薬組成物の製造方法は、態様1~7のいずれか1つにおいて、前記液体医薬組成物の原料を混合する混合工程をさらに含み、前記混合工程の後に、前記酸素量調整工程を行うことが好ましい。
【0071】
本発明の態様9に係る液体医薬組成物の製造方法は、態様8において、前記原料は、揮発性成分及び不揮発性成分を含み、前記混合工程では、前記不揮発性成分を混合した後に、前記揮発性成分を添加して混合し、前記酸素量調整工程では、前記揮発性成分を混合する前に、少なくとも1回、前記溶存酸素濃度を調整することが好ましい。
【0072】
本発明の態様10に係る液体医薬組成物の製造方法は、態様1~9のいずれか1つにおいて、前記液体医薬組成物は、フルベストラントと、5w/v%以上、15w/v%以下のエタノールと、5w/v%以上、15w/v%以下のベンジルアルコールと、10w/v%以上、20w/v%以下の安息香酸ベンジル、及び10w/v%以上、20w/v%以下のプロピレングリコールのうち少なくとも1つと、少なくとも50mg/mLのフルベストラントを含む液体医薬組成物を調製するのに十分な量のヒマシ油と、を含むことが好ましい。
【0073】
本発明の態様11に係る液体医薬組成物の製造方法は、態様1~10のいずれか1つにおいて、前記酸素量調整工程では、前記酸素量調整工程後の前記液体医薬組成物を雰囲気温度60℃で3週間貯蔵した場合の、前記液体医薬組成物中のフルベストラントの質量に対するフルベストラントスルホンの質量割合(w/w%)が、0.300w/w%以下となるように、前記液体医薬組成物中の溶存酸素濃度を調整することが好ましい。
【0074】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明の以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例0075】
〔液体医薬組成物の調製〕
液体医薬組成物は、表1に記載の処方例1又は処方例2を用いて調製した。
【表1】
【0076】
[実施例1]
図2に示す実施形態2の製造方法に従って、まず、窒素成層下でプロピレングリコール及びヒマシ油を混合して、溶液1を調製した(第1の混合工程)。溶液1に対して、窒素バブリングを行い、溶液1中の酸素を窒素で置換することで溶液1中の溶存酸素濃度を調整した(第2の酸素量調整工程)。次に、窒素成層下でエタノール及びベンジルアルコールに、フルベストラントを溶解して、溶液2を調製した。この溶液2を溶液1に添加して再度混合し、液体医薬組成物の全ての原料を含む薬液(液体医薬組成物)を得た(第2の混合工程)。その後、薬液に対して、再度窒素バブリングを行って、薬液中の溶存酸素濃度を調整した(第2の酸素量調整工程)。なお、各成分の分量は、表1の処方例2に従った。また、窒素成層は、各成分を、溶解するための容器に投入した後、当該容器の口に窒素チューブをあてがい、液面がわずかに揺れる程度の圧力で窒素を一定時間(数秒~数十秒)投入し、素早く当該容器の蓋を閉じることで処理した。
【0077】
次に、薬液を無菌ろ過し、ガラス製のシリンジに充填した。その後、薬液を充填したシリンジの空隙中の気体を窒素置換し(第3の酸素量調整工程)、ブチルゴム製のラミネートゴム栓を用いて打栓して、シリンジに充填された液体医薬組成物を得た。なお、液体医薬組成物の製造に用いた各成分、シリンジ、及びゴム栓は、当技術分野で通常用いられるものを使用した。
【0078】
薬液をシリンジに充填する前に、薬液中の溶存酸素濃度を測定した。また、シリンジを打栓した後にシリンジの空隙中の酸素濃度を測定した。
【0079】
<酸素濃度の測定>
薬液中の溶存酸素濃度及びシリンジの空隙中の酸素濃度は、高感度マイクロ酸素計(OXY-1 ST trace、PreSens社製)を用いて測定した。
【0080】
[実施例2~3]
プロピレングリコールの代わりに、安息香酸ベンジルを使用したこと以外は、実施例1と同じ方法を用いて、シリンジに充填された液体医薬組成物を作製した。なお、各成分の分量は、表1の処方例1に従った。
【0081】
[実施例4]
溶液1及び薬液に対して窒素バブリングを行わなかったこと以外は、実施例1と同じ方法を用いて、シリンジに充填された液体医薬組成物を作製した。
【0082】
[実施例5~6]
薬液の調製を窒素成層下で行わずに大気雰囲気下で行ったこと、並びに窒素バブリング前の薬液中の溶存酸素濃度が17体積%以下であったため窒素バブリングを行わなかったこと以外は、実施例2~3と同じ方法を用いて、シリンジに充填された液体医薬組成物を作製した。
【0083】
[実施例7~8]
薬液を空隙ができないようにシリンジに充填し、ゴム栓を用いて打栓した。それ以外は、実施例2と同じ方法を用いて、シリンジに充填された液体医薬組成物を作製した。なお、作製した液体医薬組成物にはシリンジ内に空隙がないため、空隙中の酸素濃度を測定しなかった。
【0084】
[実施例9~10]
薬液の調製を窒素成層下で行わずに大気雰囲気下で行ったこと、並びに窒素バブリング前の薬液中の溶存酸素濃度が17体積%以下であったため窒素バブリングを行わなかったこと以外は、実施例7~8と同じ方法を用いて、シリンジに充填された液体医薬組成物を作製した。
【0085】
[実施例11]
図1に示す実施形態1の製造方法に従って、液体医薬組成物の原料をすべて混合して薬液を調製した後に、薬液に対して窒素バブリングを行い、薬液中の溶存酸素濃度の調整を行ったこと以外は、実施例1と同じ方法を用いて、シリンジに充填された液体医薬組成物を作製した。また、実施例11では、空隙中の酸素濃度を測定しなかった。
【0086】
[比較例1]
薬液の調製を窒素成層下で行わずに大気雰囲気下で行ったこと、並びに溶液1及び薬液に対して窒素バブリングを行わなかったこと以外は、実施例1と同じ方法を用いて、シリンジに充填された液体医薬組成物を作製した。
【0087】
[比較例2]
充填したシリンジの空隙中の気体を窒素置換せずに打栓したこと以外は、比較例1と同じ方法を用いて、シリンジに充填された液体医薬組成物を作製した。
【0088】
〔液体医薬組成物の評価〕
実施例1~10及び比較例1~2において作製したシリンジに充填された液体医薬組成物を、雰囲気温度60℃の温度条件下にて液体医薬組成物の保管(貯蔵)を行う苛酷試験に供した。試験開始時、試験開始から1週間経過時点、及び試験開始から3週間経過時点で、各液体医薬組成物中のフルベストラントスルホンの含有量を測定した。
【0089】
<フルベストラントスルホンの質量割合(w/w%)の算出方法>
液体医薬組成物中のフルベストスルホンの質量に対するフルベストラントスルホンの質量割合(w/w%)は、下記の測定条件で液体医薬組成物を液体クロマトグラフィーに供して、フルベストラント及びフルベストラントスルホンのピーク面積を測定し、下記の計算式を用いて求めた。
(試料溶液の調製)
液体医薬組成物1mLに対応する質量を量り、メタノール/2-プロパノール混液(9:1)を加えてよく振り混ぜ、正確に10mLとした。
(標準溶液の調製)
試料溶液1mLを正確に量り、メタノール/2-プロパノール混液(9:1)を加えて正確に100mLとした。
(測定条件)
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:225nm)
カラム:平均粒径4μmの液体クロマトグラフィー用オクチルシリル化シリカゲルを充填したステンレス管(内径4.6mm、長さ25cm)
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相:(移動相A)水、(移動相B)アセトニトリル、(移動相C)メタノール
移動相勾配:表2のとおりに移動相の濃度勾配を制御した。
【表2】
流量:毎分1.5mL
注入量:10μL
(計算式)
フルベストラントスルホンの質量割合(w/w%)=A/A×100
:試料溶液のフルベストラントスルホンのピーク面積×10
:標準溶液のフルベストラントのピーク面積×1000
【0090】
シリンジに充填する前に測定した薬液中の溶存酸素濃度、薬液充填後のシリンジの空隙中の酸素濃度、及び各測定時点における液体医薬組成物中のフルベストラントスルホンの含有量を、表3に示す。表3中、丸印(〇)は処理を実施したことを意味し、棒線(-)は処理を実施しなかったことを意味する。なお、棒線(-)の横に付記した※1は、原料を混合した後の薬液中の溶存酸素濃度が17体積%以下であったため、薬液に対して窒素バブリングを行って酸素量の調整を実施しなかったことを示している。また、表3中に記載した※2は、シリンジ内に空隙ができないようにシリンジに薬液を充填したため、空隙中の気体を窒素置換する処理を行わなかったことを示している。
【0091】
【表3】
【0092】
表3に示すように、液体医薬組成物中の溶存酸素濃度が17体積%以下である実施例の1~11の液体医薬組成物は、比較例1~2の液体医薬組成物と比較して、保管中に生成したフルベストラントスルホンの量が少なかった。したがって、フルベストラントの酸化によるフルベストラントスルホンの生成を抑制することができた。以上の結果より、液体医薬組成物中の溶存酸素濃度を17体積%以下に調整する酸素量調整工程を含む液体医薬組成物の製造方法によって、保管安定性に優れたフルベストラントを含む液体医薬組成物を製造できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、保管安定性に優れたフルベストラントを含む液体医薬組成物を提供することができる。
図1
図2