(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150930
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】エアブリッジと超伝導回路装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H10N 60/01 20230101AFI20231005BHJP
H01L 21/768 20060101ALI20231005BHJP
H01L 21/3205 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
H01L39/24 F
H01L21/90 N
H01L21/88 N
H01L21/88 M
H01L39/24 C
H01L39/24 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060283
(22)【出願日】2022-03-31
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発/次世代コンピューティング技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 朝道
(74)【代理人】
【識別番号】100098648
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 潔人
(72)【発明者】
【氏名】多田 あゆ香
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 哲朗
【テーマコード(参考)】
4M113
5F033
【Fターム(参考)】
4M113AC06
4M113AC45
4M113BA02
4M113BA04
4M113BC01
4M113BC05
4M113BC12
4M113CA12
4M113CA13
4M113CA14
4M113CA16
4M113CA17
5F033GG01
5F033GG02
5F033GG03
5F033HH07
5F033HH08
5F033HH17
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5F033JJ01
5F033JJ07
5F033JJ08
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5F033JJ33
5F033JJ40
5F033KK07
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5F033KK21
5F033KK32
5F033KK33
5F033KK40
5F033MM17
5F033NN21
5F033PP15
5F033QQ08
5F033QQ09
5F033QQ18
5F033QQ19
5F033QQ74
5F033QQ75
5F033RR04
5F033RR22
5F033RR30
5F033SS21
(57)【要約】
【課題】橋脚部の強度を高めることで簡易な構成により全体の強度を向上可能としたエアブリッジの提供。
【解決手段】基板上、対向配置され間隙を第3の導体が延設される第1、第2の導体とそれぞれ当接する第1、第2の橋台と、前記第1、第2の橋台からそれぞれ立ち上がり、橋桁部を空中で支持する第1、第2の橋脚部と、を有し、前記橋桁部が前記第3の導体を跨ぐ構成の導電部材よりなるエアブリッジであって、前記第1、第2の橋台と前記第1、第2の橋脚部の基部とがそれぞれ交わる第1、第2の縁部を上から見た形状が、各橋台の両側辺と各縁部とが交わる端部同士を接続する仮想線に対して一側に突設した凸形状とされる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上、対向配置され間隙を第3の導体が延設される第1、第2の導体とそれぞれ当接する第1、第2の橋台と、前記第1、第2の橋台からそれぞれ立ち上がり、橋桁部を空中で支持する第1、第2の橋脚部と、を有し、前記橋桁部が前記第3の導体を跨ぐ構成の導電部材よりなるエアブリッジであって、
前記第1、第2の橋台と前記第1、第2の橋脚部の基部とがそれぞれ交わる第1、第2の縁部を上から見た形状が、
各橋台の両側辺と各縁部とが交わる端部同士を接続する仮想線に対して一側に突設した凸形状とされる、エアブリッジ。
【請求項2】
前記第1、第2の橋台と前記第1、第2の橋脚部の基部とがそれぞれ交わる前記第1、第2の縁部を上から見た形状が、
前記各橋台の両側辺が前記各橋脚部と交わる前記端部同士を接続する前記仮想線を超えて、前記各橋台の前記縁部の対向辺と反対側に張り出した凸状曲線である、請求項1に記載のエアブリッジ。
【請求項3】
前記第1、第2の橋台と前記第1、第2の橋脚部の基部とが交わる前記第1、第2の縁部を上から見た形状が、
前記各橋台の両側辺が前記橋脚部と交わる前記端部同士を接続する前記仮想線から手前の前記各橋台の前記縁部の対向辺側に張り出した凸状曲線である、請求項1に記載のエアブリッジ。
【請求項4】
前記第1、第2の橋脚部は各々、
前記基部の前記縁部に対応した凸形状が上方で緩和された構成とされ、前記橋脚部の横断面は平坦である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のエアブリッジ。
【請求項5】
少なくとも前記橋桁部がメッシュ構造とされる、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のエアブリッジ。
【請求項6】
対向配置される第1、第2の導体と、前記第1、第2の導体の間を延設される第3の導体と、を含み、前記第1乃至第3の導体が超伝導部材からなる超伝導回路装置であって、
前記第1の導体と前記第2の導体間を前記第3の導体を跨いで架橋される超伝導部材からなるエアブリッジとして、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のエアブリッジを備えた超伝導回路装置。
【請求項7】
基板上、対向配置される第1、第2の導体であって間隙を第3の導体が延設される前記第1、第2の導体とそれぞれ当接する第1、第2の橋台からそれぞれ立ち上がり、橋桁部を空中で支持する第1、第2の橋脚部を有し、前記橋桁部が前記第3の導体を跨ぐ構成の導電部材よりなるエアブリッジを含む超伝導回路装置の製造方法であって、
(A)前記基板上の超伝導配線パタンの上に形成された犠牲層に、前記第1、第2の橋台を形成する位置に一側に突設した凸形状の開口底部を有するビアを形成し、
(B)前記犠牲層上に、前記エアブリッジの構成部材である超伝導膜を成膜し、
(C)前記エアブリッジの構成部材である前記超伝導膜をパターニングしたのち、前記犠牲層を除去することで、
前記第1、第2の橋台と前記第1、第2の橋脚部の基部とがそれぞれ交わる第1、第2の縁部を上から見た形状が、各橋台の両側辺と各縁部とが交わる端部同士を接続する仮想線に対して前記一側に突設した凸形状とされる前記エアブリッジを作製してなる、
超伝導回路装置の製造方法。
【請求項8】
前記第1、第2の橋台と前記第1、第2の橋脚部の基部とがそれぞれ交わる前記第1、第2の縁部の各縁部を上から見た形状が、
前記各橋台の両側辺が前記橋脚部と交わる端部同士を接続する前記仮想線を超えて、前記各橋台の前記縁部の対向辺と反対側に張り出した凸状曲線である、請求項7に記載の超伝導回路装置の製造方法。
【請求項9】
前記第1、第2の橋台と前記第1、第2の橋脚部の基部とが交わる前記第1、第2の縁部の各縁部を上から見た形状が、
前記各橋台の両側辺が前記橋脚部と交わる端部同士を接続する前記仮想線から手前の前記各橋台の前記縁部の対向辺側に張り出した凸状曲線である、請求項7に記載の超伝導回路装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアブリッジと超伝導回路装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導量子回路は、超伝導金属を用いて作成されたインダクタとキャパシタ、及びジョセフソン接合を一つ以上含むループを有するSQUID(Super Quantum Interference Device)から構成される超伝導共振器を基本素子とする。ジョセフソン接合とは、薄い絶縁膜を超伝導体で挟んだトンネル接合であり、非線形インダクタとして振る舞う。SQUIDに対して電流制御部から制御ラインに電流(直流又はマイクロ波電流)を流しSQUIDループを貫く磁束を変調することで超伝導共振器の共振周波数を変化させることができる。超伝導量子回路において、信号線路と、該信号線路を挟んで並列配置された一対のグランドパタンとからなるコプレーナ線路(コプレーナ導波路:coplanar waveguide)が用いられる。1つの超伝導量子回路チップ内にSQUIDが複数配設される構成が用いられる場合、SQUIDを貫く磁場を形成する印加電流が、当該磁場印加対象のSQUIDだけでなく他のSQUIDにも印加されてしまう、というクロストークが問題となる。これは、超伝導量子回路チップ内に配置したコプレーナ線路のグランド面が分断され電荷の分布(電流)が生じることもその原因と考えられている。これを防ぐために、例えばエアブリッジが用いられる。例えば特許文献1、2等には、基板上の配線層(導体層)において、配線を跨いで両側の配線を接続するエアブリッジ構造として、コプレーナ導波路の信号線の両側のグランド面を超伝導体で接続するエアブリッジを配置する構造が開示されている。
【0003】
図9(A)、(B)は、関連技術のエアブリッジを模式的に説明する図であり、
図9(A)はZ軸方向から見たXY面での模式平面図であり、
図9(B)は、
図9(A)のA-A線に沿った模式断面図である。
図9(A)、(B)に示すように、エアブリッジ130は、導体(信号導体)121の両側に間隙を置いて配置されたグランド導体(グランドパタン)122A、122Bにそれぞれ当接する第1、第2の橋台131A、131Bから立ち上がる第1、第2の橋脚部132A、132Bが橋桁部133の両端を空中に支持することで橋桁部133が信号導体121を跨ぐ中空構造を有している。超伝導量子回路(チップ)において、信号導体121、グランド導体122A、122B、エアブリッジ130の各部は超伝導部材からなり、基板1は例えばシリコン(Si)からなる。なお、
図9では、エアブリッジ130の各部に橋梁の構造に対応する名前を付けているが、これらの名前はいずれも構成の説明のための一例である。また、
図9の例では、第1、第2の橋脚部132A、132Bと橋桁部133が所定の角度(鈍角、ただし90度も含む)で交差する構成として図示しているが、第1、第2の橋脚部132A、132Bと橋桁部133は太鼓橋のように連続曲線でアーチを構成してもよい。
【0004】
図9のエアブリッジは、作製プロセス中にブリッジが消失したり崩落したりして、チップの歩留まりが悪い。
【0005】
なお、上記したクロストーク低減以外にも、例えばモノリシック型マイクロ波集積回路(Monolithic Microwave Integrated Circuit: MMIC)上に互いに交差する伝送線路を形成する場合、配線間の寄生容量を低減させる目的で、層間絶縁物として、空気を用いたエアブリッジ配線が広く使われている。特許文献3には、MMICチップにおいて、長尺のエアブリッジ自体に撓みに対する機械的強度を持たせる構成として、エアブリッジの全体形状は上に凸のアーチ型をなしており、エアブリッジの橋脚部の横断面形状が下に凸状に湾曲している構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6437607号公報
【特許文献2】特表2020-532866号公報
【特許文献3】特開2008-270617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3では、エアブリッジ自体に撓みに対する機械的強度を増すための構成として、橋脚部の横断面形状が下に凸状に湾曲した構成を開示しているが、このような構成は製造が複雑化し時間を要する。
【0008】
本開示は、橋脚部の強度を高めることで、簡易な構成により全体の強度を向上可能としたエアブリッジと超伝導回路装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一の側面によれば、基板上、対向配置され間隙を第3の導体が延設される第1、第2の導体とそれぞれ当接する第1、第2の橋台と、前記第1、第2の橋台からそれぞれ立ち上がり橋桁部を空中で支持する第1、第2の橋脚部を有し、前記橋桁部が前記第3の導体を跨ぐ構成の導電部材よりなるエアブリッジであって、前記第1、第2の橋台と前記第1、第2の橋脚部の基部とがそれぞれ交わる第1、第2の縁部を上から見た形状が、 各橋台の両側辺と各縁部とが交わる端部同士を接続する仮想線に対して一側に突設した凸形状とされるエアブリッジが提供される。
【0010】
本開示の別の側面によれば、対向配置される第1、第2の導体と、前記第1、第2の導体の間を延設される第3の導体と、を含み、前記第1乃至第3の導体が超伝導部材からなる超伝導回路装置であって、前記第1の導体と前記第2の導体間を前記第3の導体を跨いで架橋される超伝導部材からなるエアブリッジとして、上記一の側面のエアブリッジを備えた超伝導回路装置が提供される。
【0011】
本開示のさらに別の側面によれば、基板上、対向配置され間隙を第3の導体が延設される第1、第2の導体と当接する第1、第2の橋台からそれぞれ立ち上がり、橋桁部を空中で支持する第1、第2の橋脚部を有し、前記橋桁部が前記第3の導体を跨ぐ構成の導電部材よりなるエアブリッジを含む超伝導回路装置の製造方法であって、
(A)前記基板上の超伝導配線パタンの上に形成された犠牲層に、前記第1、第2の橋台を形成する位置に一側に突設した凸形状の開口底部を有するビアを形成し、
(B)前記犠牲層上に、前記エアブリッジの構成部材である超伝導膜を成膜し、
(C)前記エアブリッジの構成部材である前記超伝導膜をパターニングしたのち、前記犠牲層を除去することで、
前記第1、第2の橋台と前記第1、第2の橋脚部の基部とがそれぞれ交わる第1、第2の縁部を上から見た形状が、各橋台の両側辺と各縁部とが交わる端部同士を接続する仮想線に対して前記一側に突設した凸形状とされる前記エアブリッジを作製してなる、超伝導回路装置の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、橋脚部の強度を高めることで、簡易な構成により全体の強度を向上可能としたエアブリッジを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(A)、(B)は実施形態の構成を模式的に示す模式平面図と模式断面図である。
【
図2】(A)乃至(E)は実施形態の製造工程の一例を模式的に示す図である。
【
図3】(F)乃至(H)は実施形態の製造工程の一例を模式的に示す図である。
【
図4】(A)乃至(C)は実施形態の構成を模式的に示す図である。
【
図5】(A)乃至(C)は比較例の構成を模式的に示す図である。
【
図6】(A)乃至(C)は別の実施形態の構成を模式的に示す図である。
【
図7】実施形態の超伝導回路の構成の一例を模式的に示す図である。
【
図8】別の実施形態の構成の一例を模式的に示す図である。
【
図9】(A)、(B)は関連技術の構成を模式的に示す模式平面図と模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
いくつかの実施形態について図面を参照して説明する。
図1(A)乃至(C)は、一実施形態のエアブリッジ30を説明する図である。
図1(A)はZ軸方向から見たXY面での模式平面図であり、
図1(B)は、
図1(A)のA-A線に沿った模式断面図である。
図1(A)、(B)はそれぞれ
図9の(A)、(B)に対応している。
図1(A)、(B)を参照すると、基板1上に対向配置された第1、第2の導体22A、22Bの間に、第3の導体(信号導体)21が配設された構造とされる。第1、第2の導体22A、22Bは、基板1上の配線層に形成されたグランド面(グランドパタン)からなる。第1、第2の導体22A、22B、第3の導体21は、超伝導部材からなる。エアブリッジ30は、第1、第2の導体22A、22Bにそれぞれ当接して接合される第1、第2の橋台31A、31Bの縁部34A、34Bからそれぞれ立ち上がり、橋桁部33を空中で支持する第1、第2の橋脚部32A、32Bを有する。橋桁部33は、第3の導体21の上方でこれを跨ぐ。第1、第2の橋台31A、31Bと第1、第2の橋脚部32A、32Bの基部とが交わる縁部(境界)34A、34Bを上から見た形状は、第1、第2の橋台31A、31Bの両側辺と縁部34A、34Bが交わる端部同士を接続する仮想線に対してそれぞれに対向する第2、第1の橋台31B、31A側に向けて張り出した凸形状とされる。凸形状は好ましくは凸状曲線とされ、第1、第2の橋台31A、31Bを上から見た平面形状は、D字型とされる。エアブリッジ30も超伝導部材で構成される。
【0015】
橋桁部33の横断面の形状は、ほぼ矩形とされている。ただし、製造に由来する湾曲等はあってよいことは勿論である。なお、
図1(B)では、単に説明のため、橋桁部33の両端で第1、第2の橋脚部32A、32Bが所定角度で交わる構成として図示されているが、なだらかな連続曲線によるアーチ状であってもよいことは勿論である。
【0016】
図1(B)において、基板1は、シリコンからなる。ただし、ゲルマニウムやサファイアや化合物半導体材料(IV族(GeSn等)、III-V族(GaAs,GaN,GaP,GaSb,InAs,InP,InS等)、II-VI族(ZnS, ZnSe))等の他の電子材料を用いてもよい。単結晶である方が望ましいが、多結晶やアモルファスであってもよい。
【0017】
超伝導導体は、ニオブ(Nb)等の超伝導材料から構成される。なお、超伝導材料としては、ニオブ(Nb)に限らず、ニオブ窒化物、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、鉛(Pb)、錫(Sn)、レニウム(Re)、パラジウム(Pd)、チタン(Ti)、チタン窒化物、タンタル(Ta)、タンタル窒化物、及び、これらのうちの少なくともいずれかを含む超伝導特性を示す合金であってもよい。
【0018】
例えば第1、第2の導体22A、22B、第3の導体(信号導体)21をNbとし、エアブリッジ30(第1、第2の橋台31A、31B、第1、第2の橋脚部32A、32B、橋桁部33)をNbとは別の部材、例えばAlとしてもよい。
【0019】
エアブリッジ30の長さは、第1、第2の導体22A、22B間の間隔に対応した値に設定される。非限定的な例として、第3の導体(信号導体)21の幅を約2~24μm(micrometer)程度、第1の導体22Aと第3の導体21、第2の導体22Bと第3の導体21の間隔を約10μm程度、エアブリッジ30の第1、第2の橋台31A、31Bの幅を約30μm程度、長さを約40μm程度、第1、第2の橋脚部32A、32B間の距離を約30乃至70μm程度としてもよい。なお、エアブリッジ30の高さは実装(設計)に固有のパラメータであり、例えば後述される犠牲層の膜厚で設定される。
【0020】
図2、
図3は、実施形態の量子チップを半導体プロセスを用いて製造する場合のエアブリッジ30の製造に関係する工程の一例を模式的に示した工程断面図である。なお、単に図面作成の都合で
図2と
図3に分図されている。
【0021】
図2(A)を参照すると、基板1(シリコン)全面に、Nb等の超伝導導体膜2を成膜し、露光・現像(フォトリソグラフィ)/エッチングにより配線パタンを形成する。
図2(A)において、2A、2B、2Cは、
図1(A)の第1の導体22A、第2の導体22B、第3の導体(信号導体)21にそれぞれ対応する。
【0022】
次に、
図2(B)を参照すると、基板1全面に犠牲層4を形成(塗布)する。犠牲層4は例えばフォトレジスト(有機ポリイミド等)からなる。犠牲層4は二酸化シリコン(SiO
2)等であってもよい。
【0023】
次に、
図2(C)を参照すると、犠牲層4にビア(ブラインドビア)をパタン形成するためのフォトマスク5のマスクパタンを模式的に示している。エアブリッジ30の第1、第2の橋台(コンタクト部)31A、31Bを形成するため、犠牲層4に、底面がD型形状のビアが形成される。このため、フォトマスク5には、エアブリッジ30の第1、第2の橋台(コンタクト部)31A、31Bの形成位置に、D型形状の開口(アパーチャ)5A、5Bが対向配置されている。開口5A、5Bは対向する側がそれぞれ円弧状に突設したD型形状とされているが、D型に制限されるものでなく、任意の凸状の曲線形状であってよいことは勿論である。
【0024】
次に、
図2(D)を参照すると、このフォトマスク5を用いた犠牲層4(フォトレジスト)の露光・現像により、超伝導導体膜2にまで達するビア6A、6Bが形成される。ビア6A、6Bの底面の形状は、
図2(C)の開口5A、5Bに対応する。犠牲層4がSiO
2の場合、フォトマスク5を用いた犠牲層4の露光・現像とエッチングにより、ビア6A、6Bが形成される。
【0025】
次に、
図2(E)を参照すると、基板1の加熱処理等により犠牲層4をリフローする。なお、犠牲層4がSiO
2の場合、例えば異方性ドライエッチングにより、犠牲層4の角落としを行うことで、
図2(E)のような形状の犠牲層4を得る。
【0026】
次に、
図3(F)を参照すると、基板1上に、エアブリッジとなる超伝導部材(超伝導導体膜)3をスパッタ等で成膜する。非限定的な例として、超伝導部材3は例えばアルミニウム(Al)からなる。超伝導部材3の膜厚は例えば数百nm(nanometer)乃至1μm以下としてもよい
【0027】
続いて、
図3(G)を参照すると、フォトレジスト7を塗布し、フォトレジスト7をエアブリッジのパタンに露光・現像する。
【0028】
エアブリッジの上に残されたフォトレジスト7をマスクとしてAlをエッチングすることにより、超伝導導体膜2からなる配線上にエアブリッジ30が形成される。
【0029】
図3(H)を参照すると、フォトレジスト7、犠牲層4(フォトレジスト)をアッシング(例えば酸素プラズマアッシング)等で除去し、残りのフォトレジストを有機溶剤(液体)で除去することで、3次元のエアブリッジ30が形成される。
【0030】
図4(A)は、実施形態のエアブリッジ30を模式的に示す斜視図である。符号35Aで示す破線は、第1の橋台31Aにおいて、第1の橋台31Aの両側辺と縁部34Aの両端点との交点同士を接続する仮想線である。
図4(A)に示すように、第1の橋台31Aの縁部34A(第1の橋台31Aと第1の橋脚部32Aの基部とが交わる縁(境界))は、仮想線35Aに対して、第1の橋台31Aとは反対側(もう一方の第2の橋台31B側)に突設している(張り出している)。
【0031】
第1の橋台31Aの縁部34Aから立ち上がる第1の橋脚部32Aの表面(傾斜部の表面)は、第1の橋脚部32Aの底辺でもある縁部34Aの形状に対応して中央側が凹んでいる。第1の橋脚部32Aの表面の中央部での凹みの具合は、第1の橋脚部32Aの高さが増すにしたがって緩和され、第1の橋脚部32A(傾斜部)の最上部ではほぼ平坦に近づいている。これは、エアブリッジ30の製造工程の説明で参照した
図2(D)のビア6A、6Bの底面の形状と、
図2(E)のリフロー後の犠牲層4の側面の形状に対応している。第2の橋台31B、第2の橋脚部32Bについても同様である。このため、橋桁部33のB-B線の断面(横断面)は、
図4(C)に模式断面図として示すように、ほぼ矩形型とされる。
【0032】
図4(B)は、第1の橋台31Aの縁部34Aの裏面側の犠牲層の残滓41Aを説明する図である。第1の橋台31Aの縁部34Aの裏面、第1の橋脚部32Aの裏面が、反対側の第2の橋台31B、第2の橋脚部32B側に凸状に突出している。このため、
図3(H)のフォトレジスト7、犠牲層4の除去工程において、第1、第2の橋台31A、31Bの縁部34A、34Bの裏が凸型であることから、該領域に有機溶剤が入りこみやすく、出ていきやすいことから、残滓41Aは残り難くなっている。ウエハ上のフォトレジスト残留物等は、超伝導量子回路素子における誘電損失の原因となるため、できるだけ残留物がでない方がよい。
【0033】
図5(A)、(B)は、比較例として、
図9(A)、(B)を参照して説明した関連技術のエアブリッジ130を模式的に示す斜視図と、第1の橋台131Aの縁部134Aの裏面側の犠牲層の残滓141Aを説明する図である。
図5(A)に示すように、第1の橋台131Aの縁部134Aは、第1の橋台131Aの両側辺の端点同士を結ぶ直線とされ、
図4(A)の破線で示す仮想線35Aに対応している。
図3(H)のフォトレジスト・犠牲層除去工程において、第1、第2の橋台131A、131Bの縁部134A、134Bの裏や、第1、第2の橋脚部132A、132Bの裏面には、犠牲層の残留物である残滓141A、141Bは残りやすい。このため、フォトレジスト/犠牲層の残滓除去処理に時間を要する。
【0034】
図5(C)は、
図5(A)の橋桁部133のB-B線の模式断面図である。
図4(C)と
図5(C)から、
図4(A)の実施形態の橋桁部33の横断面は、
図5(A)の関連技術の橋桁部133の横断面とほぼ同一形状とされる。
【0035】
図4(A)の構成によれば、エアブリッジ30の根本である第1、第2の橋脚部32A、32Bの強度を増す構成とし、エアブリッジ30の全体の強度を増す構成としている。これは、
図4(A)の第1、第2の橋脚部32A、32Bの見かけの断面2次モーメントが、
図5(A)の平板型の第1、第2の橋脚部132A、132Bよりも大幅に大きいことによる。
【0036】
図6は、別の実施形態を説明する図である。
図6(A)、(C)は、
図4(A)、(C)に対応している。
図6(B)は、
図6(A)を上から(Z軸方向)みた模式平面図である。
図6(B)を参照すると、35Aの破線は、第1の橋台31Aにおいて、第1の橋台31Aの両側辺と縁部34Aの両端点との交点同士を結ぶ仮想線である。第1の橋台31Aの縁部34C(第1の橋台31Aと第1の橋脚部32Aとの縁(境界))は、仮想線35Aに対して、手前側(第1の橋台31Aの自由端である対向辺側)に突設している(張り出している)。これは、第1の橋台31Aの縁部34Cは、仮想線35Aに対して曲線状に凹んでいるともいえる。
【0037】
第1の橋台31Aの縁部34Aから立ち上がる第1の橋脚部32Aの表面(傾斜部の表面)は、橋脚部32Aの底辺でもある縁部34Aの形状に対応して、中央が張り出しており(凸状とされ)、その張り出し具合は、第1の橋脚部32Aの高さが増すにしたがって緩和され、第1の橋脚部32A(傾斜部)の最上部ではほぼ平坦に近づいている。これは、エアブリッジ30の製造工程の説明で参照した
図2(D)のビア6A、6Bの底面の形状と、
図2(E)のリフロー後の犠牲層4の側面の形状に対応している。このため、橋桁部33のB-B線の断面(横断面)は、
図6(C)に模式断面図として示すように、ほぼ矩形型とされる。第2の橋台31B、第2の橋脚部32Bについても同様である。
【0038】
この変形例では、第1の橋台31Aの縁部34Aの裏面、第1の橋脚部32Aの裏面が、凹んでいるため、
図3(H)のフォトレジスト、犠牲層除去工程において、第1、第2の橋台31A、31Bの縁部34A、34Bの裏や、第1、第2の橋脚部32A、32Bの裏面は、フォトレジスト7、犠牲層4の残留物である残滓41Aは残りやすいといえる。しかし、
図5(A)の構成よりも、第1、第2の橋脚部32A、32Bの強度を増す構成とされる。これは、第1、第2の橋脚部32A、32Bの見かけの断面2次モーメントが、
図5(A)の平板型の第1、第2の橋脚部132A、132Bよりも大幅に大きいことによる。
【0039】
図7は、実施形態のエアブリッジ30を備えた超伝導量子回路の平面回路の一部を示す模式平面図である。
図7において、二つのエアブリッジ30-1、30-2は、二つの導体22A、22B間に、導体21-1、21-2をそれぞれ跨いで架橋されている。エアブリッジ30-1、30-2は、
図1等を参照して説明した実施形態の構成とされる。すなわち、エアブリッジ30-1の第1、第2の橋台31-1A、31-1Bを上から見た平面形状はD字型とされ、エアブリッジ30-2の第1、第2の橋台31-2A、31-2Bを上から見た平面形状もD字型とされる。導体22A、22B、導体21-1、21-2は、前述したように、Nb等の超伝導部材からなる。エアブリッジ30-1、30-2は超伝導部材で構成され、例えば前述したようにAl等で構成してもよい。
【0040】
SQUID10において、各ジョセフソン接合(JJ1、JJ2)は、基板上に形成したNb等の第1の超伝導配線と接続する第1のAl膜と、第1のAl膜上に形成した絶縁膜(第1のAl膜を酸化して得られるAl酸化膜)と、その上に一部重なるように形成した第2のAl膜を有し、第2のAl膜はNb等の第2の超伝導配線と接続している構成とされる。すなわち、Nb等の超伝導部材の配線パタンが形成された基板(シリコン)上にレジストを塗布し露光・現像し基板(シリコン)1の上方にレジストブリッジを設け、レジストブリッジをマスクとして基板を傾けて1回目のAlを蒸着し、第1のAl膜のパタンが形成される。酸化用チャンバーでAl表面を酸化させ、次に、基板を逆に傾けてAlを蒸着することで第2のAl膜のパタンが形成される。この結果、1回目の斜め蒸着による第1のAl膜のパタンと、2回目の斜め蒸着による第2のAl膜のパタンの重なり部分が形成され、この重なり部分が、それぞれジョセフソン接合JJ1、JJ2となる。なお、
図7において、配線11、12は、1回目と2回目の斜め蒸着による第1、第2のAl膜の配線パタンであり、Nb等の第1の超伝導配線21―1、21-2にそれぞれ接続する構成とされている。なお、
図7の構成は、実施形態のエアブリッジ30を、SQUID10を含む超伝導回路チップに適用した一例を模式的に示す図であるが、超伝導回路チップはかかる構成に制限されるものでないことは勿論である。
【0041】
図8(A)乃至(C)は、実施形態のエアブリッジ30の別の構成の一例を示す模式平面図である。
図8(A)の例では、少なくとも橋桁部33をメッシュ構造としている。
図8(A)では、6角形のメッシュ36としているが、他のメッシュ形状であってもよいことは勿論である。例えば
図8(B)の例では、橋桁部33において、複数の丸型開口がメッシュ36を形成している。なお、
図8(B)の例では、3個の丸型開口が例示されているが、開口の個数は3に制限されるものでないことは勿論である。なお、メッシュサイズは、図示されたものに制限されるものでなく、さらに小さくても、あるいは大きくてもよいことは勿論である。
図8(B)において、開口部の形状は円形に制限されるものでなく、メッシュ(開口部)36の形状は、四角形、ひし形や楕円形等であってもよいことは勿論である。
【0042】
また、エアブリッジ30の幅(第3の導体21を覆う長さ)は図示のものより大としてもよい。例えば
図8(C)に模式的に示すように、第1の橋台31-1A~31-4A、第2の橋台31-1B~31-4Bが、上から見た平面形状がD字型とされる複数本のエアブリッジを、エアブリッジ長手方向に直交するラテラルメンバ(横木部材)37で、所定間隔で接続することで、格子状のメッシュ36を構成している。
図8(C)において、橋脚は32-1A~32-4A(32-1B~32-4B)の4本とされているが、橋脚の本数は4本に制限されるものでなく、また横木部材37の本数は5本に制限されるものでないことは勿論である。なお、
図8(C)において、第3の導体(信号導体)の線幅と、格子状のメッシュ36の大きさの関係は、
図8(C)に示した例に制限されるものでないことは勿論である。
【0043】
図8(A)乃至(C)において、エアブリッジ30のメッシュ構造は、
図3のフォトレジスト7の露光・現像、エッチング工程で、超伝導導体膜2の橋脚部の対応部分にメッシュパタン形成するようにしてもよい。
【0044】
エアブリッジ30の橋桁部33をメッシュ構造とすることで、橋桁部33の重量の軽量化に有効である。橋桁部33に開口を設けることで、第3の導体21とその上層のエアブリッジ30との間で実質的にオーバーラップする面積が削減される寄生容量の削減に寄与するともいえる。
【0045】
実施形態のエアブリッジは、相対する第1、第2の導体(グランド)間の第1の導体(信号導体)を跨いで相互接続する構成に制限されるものでなく、交差する二つの信号配線に対して、一方の信号配線を、他方の信号配線を跨ぐ構成としてもよいことは勿論である。
【0046】
また、実施形態のエアブリッジ30は、超伝導量子回路(量子デバイス)に制限される、MMIC等にも適用可能であることは勿論である。
【0047】
なお、上記の特許文献1-3の各開示を、本書に引用をもって繰り込むものとする。本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の請求の範囲の枠内において種々の開示要素(各付記の各要素、各実施例の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせ乃至選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0048】
1 基板
2 超伝導導体膜
2A、22A、22A-1、22A-2 第1の導体(グランドパタン)
2B、22B、22B-1、22B-2 第2の導体(グランドパタン)
2C、21、21-1、21-2 第3の導体(信号導体)
3 超伝導部材(超伝導導体膜)
4 犠牲層
5 フォトマスク
5A、5B 開口
6A 第1のビア
6B 第2のビア
7 フォトレジスト
10 SQUID
11 第1のAl(Al膜)
12 第2のAl(Al膜)
30、30-1、30-2 エアブリッジ
31A、31-1A~31-4A 第1の橋台
31B、31-1B~31-4B 第2の橋台
32A、32-1A~32-4A 第1の橋脚部
32B、32-1B~32-4B 第2の橋脚部
33 橋桁部
34A、34B、34C、34D 縁部
35A、35B 仮想線
36 メッシュ(開口部)
37 ラテラルメンバ(横木部材)
41A、41B フォトレジスト/犠牲層の残滓
121 導体(信号導体)
122A、122B グランド導体(グランドパタン)
130 エアブリッジ
131A 第1の橋台
131B 第2の橋台
132A 第1の橋脚部
132B 第2の橋脚部
133 橋桁部
134A、134B 縁部
141A、141B フォトレジスト/犠牲層の残滓