(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150948
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】吊り具
(51)【国際特許分類】
B66C 1/46 20060101AFI20231005BHJP
B66C 1/54 20060101ALI20231005BHJP
B66C 1/66 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B66C1/46
B66C1/54
B66C1/66 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060309
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】591098798
【氏名又は名称】日本電極株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】三田村 聡
(72)【発明者】
【氏名】若林 泰広
(72)【発明者】
【氏名】杉山 幸宏
(72)【発明者】
【氏名】山田 一馬
【テーマコード(参考)】
3F004
【Fターム(参考)】
3F004AA07
3F004AB20
3F004EA11
(57)【要約】
【課題】取り扱いが良好で、吊り具及び搬送物の破損を防ぐことができる吊り具を提供する。
【解決手段】上面にストレート孔Sが形成された搬送物Tを吊り上げる吊り具であって、吊り上げられるリフト部2と、リフト部2に接続され、リフト部2から離間する方向に向けて拡径する拡径部23を備えたくさび軸部3と、拡径部23の周囲に配置された複数のアンカー部材31を有する複合アンカー部4と、複数のアンカー部材31を束ねるリング部材6と、を備え、吊り上げる方向にくさび軸部3が相対移動すると、拡径部23によって各アンカー部材31が径方向外側に押し広げられ、複合アンカー部4の外周面でストレート孔Sの孔壁を押圧することを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストレート孔が形成された搬送物を吊り上げる吊り具であって、
吊り上げられるリフト部と、
前記リフト部に接続され、前記リフト部から離間する方向に向けて拡径する拡径部を備えたくさび軸部と、
前記拡径部の周囲に配置された複数のアンカー部材を有する複合アンカー部と、
前記複数のアンカー部材を束ねるリング部材と、を備え、
吊り上げる方向に前記くさび軸部が相対移動すると、前記拡径部によって各前記アンカー部材が径方向外側に押し広げられ、前記複合アンカー部の外周面で前記ストレート孔の孔壁を押圧することを特徴とする吊り具。
【請求項2】
前記アンカー部材の外周面に、前記ストレート孔の孔壁との摩擦力を向上させる凸凹部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の吊り具。
【請求項3】
前記リフト部、前記くさび軸部及び各前記アンカー部材は金属製であって、
前記くさび軸部の軸方向の中心軸と前記拡径部の外側面とのなす傾斜角度αは0.9°以上4.3°未満であり、前記ストレート孔の孔壁が前記アンカー部材から受ける圧縮応力が10N/mm2以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の吊り具。
【請求項4】
前記拡径部を構成する各外側面は平坦面で形成されており、
前記リフト部を吊り上げた際に、前記複合アンカー部に対して前記拡径部が吊り上げる方向に相対移動することで、各前記アンカー部材が径方向外側に押し広げられることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の吊り具。
【請求項5】
前記拡径部の平断面は、略正多角形のn角形を呈し、nは前記アンカー部材の数と共に4であるか、あるいは、nはn≧6かつ偶数であり、前記アンカー部材の数がn×1又はn×1/2であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の吊り具。
【請求項6】
前記拡径部の平断面の形状と、前記複合アンカー部の内周面の形状とが略同一又は略相似状になっており、各対向面同士が接触することを特徴とする請求項5に記載の吊り具。
【請求項7】
前記拡径部を構成する各外側面は平坦面で形成されており、
前記くさび軸部は、雄ネジが形成されたボルト部と、前記ボルト部に螺合した座金の回動によって昇降する前記拡径部と、を備え、
前記座金が回動した際に、前記複合アンカー部に対して前記拡径部が吊り上げる方向に相対移動することで、各前記アンカー部材が径方向外側に押し広げられることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の吊り具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送物を吊り上げる吊具に関する。
【背景技術】
【0002】
耐火ブロック、コンクリートブロック、カーボンブロック等のブロック状の搬送物が大型化すると、クレーン等による荷役作業が必要となる。これらの搬送物に玉掛けワイヤを巻き付けるのが困難なときは、搬送物の上面等に空けた孔を利用して荷役する方法がとられている。
【0003】
例えば、特許文献1の吊り具は、硬質ウレタンゴムのスリーブと、スリーブの中空部に挿入されるテーパー付き芯金と、芯金の基端に設けられたアイナットと、を備えている。スリーブは、一部が4つに分割されており、容易に変形可能になっている。当該吊り具を搬送物の逆テーパー形状の孔に挿入した後、アイナットを介して吊り上げると、テーパー付き芯金によってスリーブが径方向外側に押し広げられるため、スリーブの外周面が逆テーパー形状の孔の孔壁に押し付けられる。これにより、搬送物を容易に吊り上げ、搬送することができる。また、搬送物を所定の位置に搬送した後、スリーブに対して芯金を押し下げると、吊り具と逆テーパー形状の孔との係合状態(拡張状態)が解除され、吊り具を容易に引き抜くことができる。これにより、搬送作業を迅速に行うことができる。特許文献2には、吊り具の先端部が切りかけられた部位が、内部にテーパーを持つスリーブで拡張し、ストレート孔内部で拡張することによりワンタッチで着脱出来る吊り具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3035314号公報
【特許文献2】中国特許公開公報第112065832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の吊り具では、吊り荷に穴の奥が広がる逆テーパー形状の孔を開ける必要があり、通常のドリル穴では加工が困難で有り、特殊な治具と熟練作業を必要とし、容易には逆テーパー穴を用意することが難しい。また、逆テーパー形状孔内でスリーブが径方向外側に押し広げられるため、経年劣化によって元の形状に戻りづらくなり、スリーブの外径が徐々に大きくなってしまう。スリーブの外径が大きくなると、逆テーパー形状の孔にスリーブを挿入、抜き出しするのが困難になるほか、テーパー孔の上面部分に荷重(応力)が集中し、ブロックの破損を招きやすいという問題がある。また、特許文献1の吊り具では、スリーブの一部が分割されているため、経年劣化によって亀裂が入りやすく、スリーブが破損しやすいという問題がある。
【0006】
また特許文献2においては、スリーブに開口された膨張開口は線状であり、膨張を引き起こす応力が膨張開口周辺に集中し、摩擦不足による脱落や吊り荷の破壊を引き起こすという問題点があった。何れの特許文献における吊り具においても、ブロックの挿入孔内面に対して不均一に面圧が発生し、これによりブロック内部に発生する応力も不均一となる。
【0007】
このような観点から本発明は、取り扱いが容易で、吊り具および搬送物の破損を防ぐことができる吊り具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための本発明は、上面にストレート孔が形成された搬送物を吊り上げる吊り具であって、吊り上げられるリフト部と、前記リフト部に接続され、前記リフト部から離間する方向に向けて拡径する拡径部を備えたくさび軸部と、前記拡径部の周囲に配置された複数のアンカー部材を有する複合アンカー部と、前記複数のアンカー部材を束ねるリング部材と、を備え、吊り上げる方向に前記くさび軸部が相対移動すると、前記拡径部によって各前記アンカー部材が径方向外側に押し広げられ、前記複合アンカー部の外周面で前記ストレート孔の孔壁を押圧することを特徴とする。これにより、被吊り対象挿入孔内面に均一に面圧を発生させることが可能となり、吊り具の性能である許容吊り荷重を最大化でき、且つランダムに発生しうるブロックの破壊を大幅に抑制でき、従来の吊り具と比べ格段に性能が高く安全な吊り具を提供する。
【0009】
また、本発明では、複合アンカー部は、複数のアンカー部材で構成されており、これらをリング部材で束ねている。つまり、元々アンカー部材が分割されているため、複合アンカー部の一部に亀裂が入るおそれを低減することができる。また、複合アンカー部は複数のアンカー部材で構成されているため、外側に押し広げられることでストレート孔の孔壁を押圧することができ、かつ、リング部材により複数のアンカー部材を束ねてまとめることができる。また、リング部材により、複数のアンカー部材がバラバラにならず、ストレート孔に容易に挿入できかつ引き抜くことができる。
【0010】
また、前記アンカー部材の外周面に、前記ストレート孔の孔壁との摩擦力を向上させる凸凹部が形成されていることが好ましい。アンカー部材の外周面の凸凹は、周方向に曲面となるストレート孔の孔壁と複合アンカー部の外周面との摩擦力を高めることができ、搬送物を確実に吊り上げることができる。
【0011】
また、前記リフト部、前記くさび軸部及び各前記アンカー部材は金属製であって、前記くさび軸部の軸方向の中心軸と前記拡径部の外側面とのなす傾斜角度αは0.9°以上4.3°未満であり、前記ストレート孔の孔壁が前記アンカー部材から受ける圧縮応力が10N/mm2以下であることが好ましい。
【0012】
本発明によれば、搬送物が吊り具によって押し潰されることなく搬送することができる。
【0013】
また、本発明の吊り具は、前記拡径部を構成する各外側面は平坦面で形成されており、前記リフト部を吊り上げた際に、前記複合アンカー部に対して前記拡径部が吊り上げる方向に相対移動することで、各前記アンカー部材が径方向外側に押し広げられる。
【0014】
本発明によれば、吊り具を容易に構成することができる。
【0015】
また、前記拡径部を構成する各外側面は平坦面で形成されており、前記くさび軸部は、雄ネジが形成されたボルト部と、前記ボルト部に螺合した座金の回動によって昇降する前記拡径部と、を備え、前記座金が回動した際に、前記複合アンカー部に対して前記拡径部が吊り上げる方向に相対移動することで、各前記アンカー部材が径方向外側に押し広げられることが好ましい。
【0016】
吊り具をクレーン等の楊重機械で吊り上げる場合には、事前にくさび軸部を手などで持ち上げてストレート孔と接触させることで、接触長さを確保する。しかし、大型の吊り具を使う場合は、重量が嵩むため吊り具を手で持ち上げてストレート孔に固定することが困難である。これに対し、本発明の構造によれば、ストレート孔に十分な接触面を容易に確保し、吊り具を固定することができ、その結果容易に搬送物を吊り上げることができる。
また、前記拡径部の平断面は、略正多角形のn角形を呈し、nは前記アンカー部材の数と共に4であるか、あるいは、nはn≧6かつ偶数であり、前記アンカー部材の数がn×1又はn×1/2であることが好ましい。
【0017】
また、前記拡径部の平断面の形状と、前記複合アンカー部の内周面の形状とが略同一又は略相似状になっており、各対向面同士が接触することが好ましい。
【0018】
本発明によれば、拡径部から複合アンカー部全体に径方向外側に向けて均等に応力を伝えることができるため、搬送物の一部に応力が集中することなく、ブロックを破損させずに吊り上げることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る吊り具によれば、取り扱いが良好で、吊り具及び搬送物の破損を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る吊り具を示す側面図である。
【
図2】第一実施形態に係る吊り具を示す縦断面図である。
【
図3】第一実施形態に係るくさび軸部を示す側面図である。
【
図4】第一実施形態に係るくさび軸部を示す底面図(端面図)である。
【
図5】第一実施形態に係るアンカー部材を内側から見た側面図である。
【
図6】第一実施形態に係るアンカー部材を示す底面図である。
【
図7】第一実施形態に係る複合アンカー部を示す側面図である。
【
図8】第一実施形態に係る複合アンカー部を示す底面図である。
【
図9】第一実施形態に係る吊り具のモデル図である。
【
図10】第一実施形態に係る吊り具の各条件を示す一覧表である。
【
図11】第一実施形態に係る吊り具の使用状態を示す側面図である。
【
図12】本発明の第二実施形態に係る吊り具を示す側面図である。
【
図13】第二実施形態に係るくさび軸部を示す側面図である。
【
図14】第二実施形態に係るくさび軸部を示す底面図(端面図)である。
【
図15】第二実施形態に係る吊り具をストレート孔に挿入した状態を示す側面図である。
【
図16】第二実施形態に係る吊り具の使用状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら説明する。本発明は以下の実施形態のみに限定されるものではない。また、実施形態における構成要素は、一部又は全部を適宜組み合わせることができる。さらに、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであり、表された各構成要素の寸法やそれらの比は実際のものとは異なる場合もある。
【0022】
<第一実施形態>
図1に示すように、第一実施形態に係る吊り具1は、リフト部2と、くさび軸部3と、複合アンカー部4と、保持具5と、リング部材6と、を備えている。吊り具1は、
図2に示す搬送物Tを吊り上げ、搬送するために用いられる治具である。吊り具1の各部材は、リング部材6を除き、金属、焼結金属、金属強化繊維樹脂又は熱光硬化性樹脂で形成されていることが好ましく、鉄鋼、ステンレスなど、強度の高い金属部材がより好ましい。
【0023】
搬送物Tは、特に制限されるものではないが、例えば、ブロック状の耐火物、コンクリートであることが好ましく、ブロック状のカーボンであることがより好ましい。搬送物Tの上面には、一つ又は複数の略円柱状の中空部を備えたストレート孔Sが形成されている。ストレート孔Sは、吊り具1の複合アンカー部4が挿入される孔である。ストレート孔Sの内径は、吊り上げる前の複合アンカー部4の外径よりもわずかに大きく形成されていることが好ましい。ストレート孔Sの内径と複合アンカー部4の外径との差は3mm以下が好ましく、2mm以下がより好ましい。
【0024】
リフト部2は、頭部にリングの付いたボルトナット構造であれば特に限定はせず、さらにはアイナット、アイボルト、ユニバーサルのリンクボルトなどであってもよく、クレーン等の楊重機械のフックに係止されるリンク部位で、必要な強度を持っている以下の形状をしていれば特に制約をしない。以下、本実施形態ではリフト部2がアイナットの場合を述べる。リフト部2は、基部11と、環状部12とを備えている。基部11は、くさび軸部3が接続される柱状部位である。リフト部2がアイナットの場合、基部11の内部には、高さ方向に沿って貫通孔が形成されている。また、当該貫通孔の内周面にネジ溝(雌ネジ)が形成されており、くさび軸部3の頭部21が螺合されている。また、基部11には、横方向に貫通するピンストレート孔13が形成されている。環状部12は、基部11の上部に連続し、リング状を呈する。
【0025】
くさび軸部3は、リフト部2に接続されるとともに、複合アンカー部4の内部に挿入される軸状の部材である。
図2及び
図3に示すように、くさび軸部3は、頭部21と、首部22と、拡径部23とを備えている。頭部21は、横方向に貫通するピンストレート孔24が形成されている。頭部21の外周面には、基部11に螺合するネジ溝(雄ネジ)が形成されている。基部11と頭部21とを螺合させつつ、頭部21のピンストレート孔24と基部11のピンストレート孔13とを連通させ、ピンストレート孔13,24にピン(図示省略)を挿入する。これにより、リフト部2とくさび軸部が相対的に廻ってずれることを防ぎ、結果的にリフト部2からくさび軸部3が脱落するのを防ぐことができる。なお、基部11がネジ溝で、頭部21に螺合させる構造であっても良い。
【0026】
首部22は、頭部21よりも細くなっており、頭部21と拡径部23とを連結する柱状の部位である。拡径部23は、首部22の下端から下方に延設され、下方に向かうにつれて拡径する部位である。
図4に示すように、拡径部23の平断面は、本実施形態では略正8角形になっている。拡径部23は、上端から下端にかけて、平断面となる略正8角形の面積が徐々に大きくなるように形成されている。拡径部23を構成する各外側面(8つの側面)は平坦面になっている。軸心(中心軸)Cに対する拡径部23の外側面の傾斜角度αは、例えば、0.9°以上4.3°未満の範囲、好ましくは2.2°以上4.3°未満の範囲で適宜設定することができる。吊り具1の設計条件については後述する。
【0027】
複合アンカー部4は、
図1に示すように、同形状からなる複数のアンカー部材31で構成されている。アンカー部材31の数は適宜設定すればよいが、本実施形態では4つになっている。
図5は、第一実施形態に係るアンカー部材を内側から見た側面図である。
図5に示すように、アンカー部材31は、保持具用溝33と、リング部材用溝34,34と、くさび軸部用溝35と、を備えている。
【0028】
図5~
図8に示すように、アンカー部材31は縦長の略柱状部材である。
図7に示すように、アンカー部材31の側端面36,36がなす角度σは約90°になっている。アンカー部材31の外周面には、凸凹を呈する凸凹部39(
図1も参照)が形成されている。凸凹部39は、ストレート孔Sの孔壁と接触する部位である。凸凹部39は、ストレート孔Sの孔壁との摩擦力が向上するように適宜形成すればよいが、例えば、本実施例ではローレット加工によって形成することが好ましい。
【0029】
図5に示すように、保持具用溝33は、アンカー部材31の上部の外周に沿って切り欠かれた溝である。保持具用溝33には、保持具5の底部41(
図2参照)が挿入される。すなわち、保持具用溝33は、保持具5の底部41と係合する部位である。
【0030】
リング部材用溝34は、アンカー部材31の上部及び下部の外周に沿って切り欠かれた溝である。リング部材用溝34は、リング部材6が取り付けられる部位である。上側のリング部材用溝34は、保持具用溝33より上方でも下方でも構わないが、本実施形態では下に形成されている。
【0031】
くさび軸部用溝35は、アンカー部材31の内部において、軸心Cに沿って上下方向に延設された溝である。くさび軸部用溝35は、くさび軸部3の拡径部23が配置される部位である。くさび軸部用溝35は、平坦な内側面35aと、内側面35aの両側に形成された平坦な内側面35b,35bとで構成されている。
図6に示すように、内側面35b,35bは、内側面35aに対して傾斜しており、かつ、内側面35aに対して左右対称となる位置に形成されている。内側面35aの幅は、上部から下部に向かうにつれて徐々に大きくなっている。同様に、内側面35bの幅も、上部から下部に向かうにつれて徐々に大きくなっている。
図7に示すように、軸心Cに対する内側面35aの傾斜角度βは、前記した傾斜角度αと概ね同一になっている。
【0032】
図7に示すように、4つのアンカー部材31の各側端面36(
図6参照)を対向させることで略円筒状の外形を呈する複合アンカー部4が形成される。各側端面36,36同士は接触するか、わずかな間隔をあけて対向している。
【0033】
図8に示すように、4つのくさび軸部用溝35が周方向に並設されることにより、複合アンカー部4の内部に上部から下部に向けて徐々に拡径する断面略正8角形の孔部が形成される。より詳しくは、
図8に示すように、隣り合うアンカー部材31,31同士の内側面35b,35bで一つの面が形成される。これにより、4つの内側面35aと、4組の内側面35b,35bとで断面略正8角形の孔部が形成される。吊り具1を使用する前において、複合アンカー部4の内部に形成された当該8つの内側面は、くさび軸部3の拡径部23の外側面にそれぞれ接触するか、わずかな隙間をあけて対向している。つまり、同じ高さ位置において、拡径部23の平断面と、複合アンカー部4の孔部の平断面は略同形状又は略相似状になっている。
【0034】
なお、拡径部23の外側面においては、アンカー部材31と接触対向する外側面と、アンカー部材31間の隙間に位置する外側面とが交互に構成されるため、拡径部23の面数(多角形数)は、アンカー部材31の枚数と同等もしくは倍数となる。
【0035】
保持具5は、
図2に示すように、各アンカー部材31の上部に係合される部材である。保持具5は、底部41と、側壁部42と、を備えている。底部41は、円板状を呈し、中央部に貫通穴43が形成されている。側壁部42は、底部41の外周縁から立ち上がる円筒状の壁部である。底部41の開口縁が、側方から4つの保持具用溝33に入り込み、係合している。つまり、保持具5は、4つのアンカー部材31の上部を一つにまとめる部材である。
【0036】
リング部材6は、弾性を備えており、4つのアンカー部材31の径外方向へのわずかな移動を許容しつつ、4つのアンカー部材31を束ねる部材である。リング部材6は、4つのアンカー部材31を軸心C方向に常時付勢している。これにより、複合アンカー部4の孔部の内側面は、拡径部23の外側面にそれぞれ接触するか、わずかな隙間をあけて対向している。リング部材6は、例えば、ゴム製又は樹脂製のOリングである。リング部材6は、リング部材用溝34に配設されている。リング部材6は、複合アンカー部4に対して少なくとも2つ以上あればよい。複合アンカー部4を常時平行に保つためには、2箇所以上が好ましく、本実施形態では、複合アンカー部4の上部と下部の2箇所に配設されている。
【0037】
次に、搬送物Tのストレート孔Sの孔壁が吊り具1によって圧潰することなく(搬送物Tが破損することなく)搬送する設計条件について説明する。搬送物Tは、カーボンブロックを例示する。また、吊り具1の各部材は、リング部材6を除き、鉄鋼で形成されている。カーボンの圧縮強度はその種類にもよるが、一般的な強度は24.5N/mm
2である。
図9は、第一実施形態に係る吊り具のモデル図である。
図10は、第一実施形態に係る吊り具の各条件を示す一覧表である。ここでは、吊り具1の外径Φは30mm以上100mm以下であることが好ましく、35mm以上80mm以下がより好ましい。外径Φが30mm未満であると十分な重量を吊り上げることができない。外径Φが100mmを超えると搬送物に大きな孔が空いてしまい、それに対応する吊り具も重量が大きくなりハンドリングしづらくなる。本実施形態では、外径Φが30mm、38mm、50mm、80mmの場合についてそれぞれ算出している。
【0038】
図9及び
図10に示すように、吊り荷重(最大吊り荷重)Wは外径Φ=30mmでは4900Nであり、外径Φ=38mmでは5880Nであり、外径Φ=50mmでは11760Nであり、外径Φ=80mmでは23520Nである。吊り具1の吊り荷重(最大吊り荷重)については、別途行う引抜試験によって得ることができる。接触円周長さ、接触長h、接触面積は
図10に示すとおりである。接触円周長さは、ストレート孔Sの孔壁に複合アンカー部4の外周面が接触する長さであって、複合アンカー部4の外径に円周率を乗じ、側端面36,36同士の隙間を減算している。例えば、外径Φ=38mmの場合、接触円周長さは38×3.14-2×4で算出される。接触長hは、受圧部の高さ方向の長さ(拡径部23の高さ寸法)を示している。吊り具1とカーボンブロックとの摩擦係数μは0.15である。
【0039】
吊り上げ力(吊り荷重)=Wkg、ストレート孔Sの孔壁に作用する力=Fとすると、F=W/(2sinα)(式1)となる。吊り具1がカーボンブロックとの摩擦力で落下しないためには、μF>W(式2)を満たす必要がある。式1及び式2から傾斜角度α<4.3°となる。つまり、傾斜角度αが4.3°以上となると、複合アンカー部4がストレート孔Sを押す押圧力及び摩擦力が足りず、搬送することができない。
【0040】
図10に示すように、例えば、吊り具1の外径Φが30mmにおいて、傾斜角度αが2.86、吊り荷重が4900Nの場合、ストレート孔Sに作用する圧縮応力は9.50N/mm
2となる。
また、例えば、吊り具1の外径Φが38mmにおいて、傾斜角度がα2.86°、吊り荷重が5880Nの場合、ストレート孔Sに作用する圧縮応力は8.68N/mm
2となる。
【0041】
また、例えば、吊り具1の外径Φが50mmにおいて、傾斜角度αが2.86°、吊り荷重が11760Nの場合、ストレート孔Sに作用する圧縮応力は7.91N/mm2となる。
【0042】
また、例えば、吊り具1の外径Φが80mmにおいて、接触長hを100mm、傾斜角度αが2.86°、吊り荷重が23520Nの場合、ストレート孔Sに作用する圧縮応力は9.70N/mm2となる。
また、例えば、吊り具1の外径Φが80mmにおいて、接触長hを110mm、傾斜角度αが2.86°、吊り荷重が27440Nの場合、ストレート孔Sに作用する圧縮応力は10.28N/mm2となる。
【0043】
上記のいずれの場合にも、カーボンブロックの圧縮強度である24.5N/mm2未満であるため、カーボンブロックを圧潰することなく(破損することなく)搬送することができる。逆に、圧縮応力が24.5N/mm2の時、外径Φ=30mm、38mm、50mm、80mmの傾斜角度αはそれぞれ1.1°、1.0°、0.9°、1.1°となる。傾斜角度αが小さくなるほど圧縮応力が大きくなる傾向がある。そのため、外径Φ=38mm、50mm、80mmの場合、傾斜角度αは、0.9°以上であることが好ましい。カーボンブロックの圧縮強度より、圧縮応力が24.5N/mm2以下であればカーボンブロックへの圧潰を抑制することができるが、安全率等を考慮すると、好ましくは15N/mm2以下、より好ましくは10N/mm2以下が好ましい。最もリスクが小さいのは、対象とするブロックの強度の1/5以下の応力での操作をすることである。
【0044】
次に、本実施形態の吊り具1の使用方法について説明する。まず、
図2に示すように、複合アンカー部4を搬送物Tのストレート孔Sに挿入する。この時、くさび軸部3の拡径部23の各外側面は、複合アンカー部4の孔部の各内側面にそれぞれ接触するか、わずかな隙間をあけて対向している。また、複合アンカー部4の外周面は、ストレート孔Sの孔壁に接触するか、わずかな隙間をあけて周方向に亘って対向している。
【0045】
次に、
図11に示すように、楊重機械のフック(図示省略)をリフト部2に係止しつつ、リフト部2を上方に吊り上げると、ストレート孔Sに複合アンカー部4が位置した状態で、くさび軸部3が相対的に上方に移動する。この時、くさび軸部3の拡径部23がアンカー部材31を内側から外側に数ミリ程度押し広げるため、複合アンカー部4の外周面がストレート孔Sの孔壁を周方向に亘って径方向外側に押圧した状態となる。つまり、吊り具1の内側から外側に作用する押圧力と、複合アンカー部4の外周面とストレート孔Sの孔壁との摩擦力とで、吊り具1で搬送物Tを吊り上げることができる。
【0046】
所定の位置に搬送物Tを載置したら、複合アンカー部4に対してくさび軸部3を下方に相対移動させる。これにより、くさび軸部3が元に位置に戻るため、複合アンカー部4もリング部材6により縮径し、元の状態に戻る。これにより、ストレート孔Sから吊り具1を引き上げることができる。
【0047】
以上説明した本実施形態に係る吊り具1の複合アンカー部4は、複数のアンカー部材31で構成されており、これらをリング部材6,6で束ねている。つまり、アンカー部材31の全体が分割し、複合アンカー部4全体で外周面と接触しているため、複合アンカー部4の一部に応力が集中し、亀裂が入るなど破壊するおそれを低減することができる。また、複合アンカー部4は複数のアンカー部材31で構成されているため、外側に押し広げられることでストレート孔Sの孔壁を押圧することができ、かつ、保持具5およびリング部材6により複数のアンカー部材31を束ねてまとめることができる。つまり、リング部材6で複数のアンカー部材31を軸心C方向に付勢しているため、アンカー部材31がバラバラにならず、取り扱いも良好となるとともに、ストレート孔Sに容易に挿入することができる。
【0048】
また、アンカー部材31の外周面に、滑り止め用に凸凹部39が形成されているため、複合アンカー部4とストレート孔Sの孔壁との摩擦力を高めることができ、搬送物Tを確実に吊り上げることができる。
【0049】
また、リフト部2、くさび軸部3及び各アンカー部材31は金属製であって、くさび軸部3の拡径部23の傾斜面(外側面)と軸心(中心軸)Cとのなす傾斜角度αが0.9°以上4.3°未満であり、ストレート孔Sの孔壁がアンカー部材31から受ける圧縮応力が10.0N/mm2以下であることが好ましい。カーボンブロックの圧縮強度は24.5N/mm2であるため、吊り具1がカーボンブロックを押し潰すことなく搬送することができる。
【0050】
また、本実施形態によれば、拡径部23を構成する各外側面は平坦面で形成されており、リフト部2を吊り上げた際に、複合アンカー部4に対して拡径部23が吊り上げる方向に相対移動することで、各アンカー部材31が外側に押し広げられる。つまり、本実施形態では、リフト部2を吊り上げるだけで、搬送物Tを吊り上げることができるため、作業工数を少なくすることができる。また、本実施形態によれば部品点数も少なく、各部材を容易に構成することができる。
【0051】
また、本実施形態のように、拡径部23の平断面は、略正多角形のn角形を呈し、nはアンカー部材31の数と共に4であるか、あるいは、nはn≧6かつ偶数であり、アンカー部材31の数がn×1又はn×1/2であることが好ましい。本実施形態では、n=8とし、アンカー部材31の数は4つとしている。
また、本実施形態のように、拡径部23の平断面の形状と、複合アンカー部4の孔部の形状とが略同一又は略相似状になっており、各対向面同士が接触することが好ましい。本実施形態によれば、拡径部23から複合アンカー部4の径方向外側に均等に応力を伝えることができるため、応力を分散させバランス良く吊り上げることができる。
【0052】
<第二実施形態>
次に、本発明の第二実施形態に係る吊り具1Aについて説明する。第二実施形態については、くさび軸部3Aがネジ構造になっている点で主に相違する。第二実施形態では、第一実施形態と相違する部分を中心に説明する。
【0053】
本実施形態の吊り具1Aは、リフト部2Aと、くさび軸部3Aと、複合アンカー部4A、保持具5Aと、リング部材6と、座金26と、ハンドル27とを備えている。
【0054】
リフト部2Aは、基部11と、環状部12とを備えている。基部11の内部には、後記するボルト部51が螺合するネジ溝(雌ネジ)が上下方向に亘って形成されている。また、リフト部2Aはボルト部51と一体構造のアイボルト形状であっても構わない。
【0055】
くさび軸部3Aは、
図12及び
図13に示すように、座金26と、ハンドル27と、ボルト部51と、拡径部52とを備えている。座金26は、円板状を呈し、中央にボルト部51が螺合するネジ溝(雌ネジ)が上下方向に亘って貫通して形成されている。ハンドル27は、座金26の両側において、それぞれ側方に突出して形成されている。
【0056】
ボルト部51は、外周面に上下方向に亘ってネジ溝(雄ネジ)が設けられた円柱状部材である。ボルト部51は、基部11、座金26及び後記する拡径部52にそれぞれ螺合している。基部11と座金26はそれぞれ独立してボルト部51と螺合している。本第二実施形態では拡径部52は、ボルト部51に螺合する筒状部材であって、ボルト部51とは別体になっているが、リフト部2Aがアイボルト形状でなければ一体構造でも構わない。拡径部52には、高さ方向に貫通する貫通孔の内周面にネジ溝(雌ネジ)が形成されている。拡径部52の外周面は、第一実施形態の拡径部23と概ね同じ構成になっている。つまり、
図14に示すように、拡径部52は、平断面略正8角形になっており、下方に向かうにつれて拡径している。
【0057】
保持具5Aは、
図12に示すように、アンカー部材31の上部の周囲に配設されたリング状部材である。保持具5Aは、アンカー部材31の上部の外周に沿って形成された保持具用溝33に配設されている。保持具5Aは、各アンカー部材31の上部に係合し、分割されたアンカー部材31を一つにまとめる部材である。
【0058】
リング部材6は、本実施形態では、アンカー部材31の外周において高さ方向に間隔をあけて5箇所に設けられている。リング部材6は、リング部材用溝34にそれぞれ配設されている。
【0059】
次に、本実施形態の吊り具1Aの使用方法について説明する。まず、
図15に示すように、複合アンカー部4Aを搬送物Tのストレート孔Sに挿入する。この時、くさび軸部3Aの拡径部52の外側面は、複合アンカー部4Aの孔部の内側面にそれぞれ接触するか、わずかな隙間をあけて対向している。複合アンカー部4Aの外周面は、ストレート孔Sと接触するか、わずかな隙間をあけて周方向に亘って対向している。
【0060】
次に、ハンドル27,27把持して、軸心C周りに回動させる。ハンドル27,27をねじ軸に沿って回す事で、座金26が搬送物Tの上面に当たり、ボルト部51が持ち上げられ、それにより拡径部52が引き上げられる。この時、拡径部52の外側面は、複合アンカー部4Aの孔部の内側面にそれぞれ接触しているため軸心C回りに回動しない。そのため、複合アンカー部4Aに対して拡径部52が相対的に上方に移動する。この時、くさび軸部3Aの拡径部52がアンカー部材31を内側から外側に1ミリに満たない程度ではあるが広げるため、複合アンカー部4Aの外周面がストレート孔Sの孔壁を周方向に亘って径方向外側に押圧した状態となる。これにより、搬送物Tに対して吊り具1Aがセットされた状態となる。
【0061】
さらに、
図16に示すように、楊重機械のフック(図示省略)をリフト部2Aに係止しつつ、リフト部2Aが吊り上げられることにより、くさび軸部3Aが持ち上がり、拡径部52によってアンカー部材31を径方向外側にさらに押圧する。つまり、吊り具1Aの内側から外側に作用する押圧力と、複合アンカー部4Aの外周面とストレート孔Sの孔壁との摩擦力とで、吊り具1Aで搬送物Tを吊り上げることができる。
【0062】
所定の位置に搬送物Tを載置したら、吊り上げる時とは反対方向にハンドル27を回動させて、複合アンカー部4Aに対して拡径部52を下方に相対的に移動させる。これにより、くさび軸部3Aが元に位置に戻るため、複合アンカー部4Aも縮径し、元の状態に戻る。これにより、ストレート孔Sから吊り具1Aを引き抜くことができる。
【0063】
以上説明した本実施形態に係る吊り具1Aであっても、第一実施形態と概ね同じ効果を奏することができる。また、吊り具1Aでは、くさび軸部3A(ボルト部51と拡径部52からなる)にボルト部51と、ボルト部51に螺合する拡径部52を備えているため、両者の送りねじ作用により、複合アンカー部4Aに対して拡径部52を昇降させることができる。これにより、ストレート孔Sに十分な接触面を容易に確保し、吊り具1Aを固定することができ、その結果容易に搬送物Tを吊り上げることができる。
【0064】
以上本発明の実施形態について説明したが、前記した形態に限定されるものではなく、発明の趣旨の範囲で適宜設計変更が可能である。例えば、本実施形態では、リフト部2としてアイナットを用いたが、アイボルトやユニバーサルのリンクボルトを用いてもよい。ユニバーサルのリンクボルトは、少なくとも軸心C回りに環状部12が回転可能になっている。
【符号の説明】
【0065】
1 吊り具
2 リフト部
3 くさび軸部
4 複合アンカー部
5 保持具
6 リング部材
11 基部
12 環状部
21 頭部
22 首部
23 拡径部
31 アンカー部材
S ストレート孔
T 搬送物