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  • 特開-アルミナ粒子材料の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150964
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】アルミナ粒子材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 7/42 20220101AFI20231005BHJP
   B22F 9/00 20060101ALI20231005BHJP
   B22F 1/107 20220101ALI20231005BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20231005BHJP
【FI】
C01F7/42
B22F9/00 B
B22F1/107
B22F1/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060329
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】501402730
【氏名又は名称】株式会社アドマテックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中垣 駿
(72)【発明者】
【氏名】中村 展歩
【テーマコード(参考)】
4G076
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4G076AA02
4G076AB16
4G076BA17
4G076BA38
4G076BB08
4G076BC09
4G076BD10
4G076CA02
4G076CA03
4G076CA26
4G076CA28
4G076CA40
4G076FA01
4K017AA03
4K017AA08
4K017BA01
4K017CA07
4K018BA08
4K018BB04
4K018BD04
4K018CA08
(57)【要約】
【課題】粒径が小さいアルミナ粒子材料を製造する新規な製造方法を提供すること。
【解決手段】高温の酸化雰囲気下に投入するときの濃度が高くても生成された粒子同士の凝集が生起しないようにするために液体中に原料粒子材料を分散させた分散体として高温の酸化雰囲気下に投入する方法に想到した。本発明のアルミナ粒子材料の製造方法は、体積平均粒径が0.1μm以上、40μm以下、金属アルミニウムから構成される原料粒子材料を可燃性液体中に全体の質量を基準として1%以上、75%以下の濃度で分散させた分散体を調製する分散体調製工程と、前記分散体を高温の酸化雰囲気下に供給し、前記原料粒子材料を燃焼させることにより、アルミナ粒子材料を製造するアルミナ粒子材料製造工程とを有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体積平均粒径が0.1μm以上、40μm以下、金属アルミニウムから構成される原料粒子材料を可燃性液体中に全体の質量を基準として1%以上、75%以下の濃度で分散させた分散体を調製する分散体調製工程と、
前記分散体を高温の酸化雰囲気下に供給し、前記原料粒子材料を燃焼させることにより、アルミナ粒子材料を製造するアルミナ粒子材料製造工程と、
を有するアルミナ粒子材料の製造方法。
【請求項2】
前記原料粒子材料の体積平均粒径が、0.5μm以上、10μm以下である請求項1に記載のアルミナ粒子材料の製造方法。
【請求項3】
前記可燃性液体は、引火点10℃以上、燃焼熱5.0kcal/g以上、1分子酸素含0.1以上、0.5以下である請求項1又は2に記載のアルミナ粒子材料の製造方法。
【請求項4】
前記分散体は、前記原料粒子材料の濃度が30%以上、50%以下である請求項1~3のうちの何れか1項に記載のアルミナ粒子材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミナ粒子材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粒径が30nmから300nm程度の小さな粒径のアルミナ粒子材料を製造する方法としては、(1)水系湿式合成法、(2)金属アルミニウムからなる原料粒子材料を高温の酸化雰囲気に投入して燃焼させた後に急冷する方法(VMC法)、(3)塩化アルミニウムと酸素と可燃性ガスを含む火炎中で球状のアルミナ粒子を形成する製造方法(特許文献1)、(4)アルミニウムとマグネシウムを含む原料を酸素雰囲気下で熱プラズマにより蒸発させる方法(特許文献2)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-181159号公報
【特許文献2】特開平11-278828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら(1)~(4)のアルミナ粒子材料の製造方法は以下のような問題点がある。(1)の水系湿式合成により製造されるものは、実質的にベーマイトでありアルミナではなく、更に製造された粒子は不定形であって、分散性や流動性の優れる球状の粒子を製造することは困難である。(2)のVMC法では、300nm以下の粒子に加え、粗大粒子も合成される。そのため、300nm以下や100nm以下などの粒径が小さい粒子を選択的に得ることはできないでいた。(3)の方法では、塩化アルミニウムを原料に用いるため、残存する塩化物イオンの除去が困難であり、電子材料用途など不純物の要求が厳しいものでは使用が困難である。(4)の方法では、熱プラズマを発生させるのに大きなエネルギーが必要であるのに対して製造されるアルミナ粒子材料の量は十分とは言えない。
【0005】
本発明は上記実情に鑑み完成したものであり、粒径が小さいアルミナ粒子材料を製造する新規な製造方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、VMC法において原料粒子材料を可燃性液体中に分散させた状態で高温の酸化雰囲気下で投入することで粒径が小さなアルミナ粒子材料が優先して生成することを見出した。VMC法において粗大粒子が形成される理由としては、粗大粒子は、金属の酸化反応により高温で液滴状態となった酸化物が冷却により凝固する前に高濃度で集合して1つの粒子となったものであることが推察された。
【0007】
そこで、生成した液滴状態の酸化物の集合を抑えるために原料となるアルミニウムからなる原料粒子材料の投入濃度を希薄化することで、得られるアルミナ粒子材料の粒径を小さくすることができたが、燃焼が起きづらく、すなわち、酸化反応自体が進みくいために未反応物が残りやすいこととなった。また、希薄化状態でも酸化反応が進みやすいように、原料粒子材料の粒子径を所定粒径範囲の微細なものとするも、フィード性が悪いため安定的に燃焼(酸化反応)が進まなかった。
【0008】
そこで、反応性の高い微粉末の原料粒子材料のフィード性を維持しつつ、希薄状態でも酸化反応が進むようにするため、可燃性液体中に原料粒子材料を分散させた分散体として高温の酸化雰囲気下に投入する方法に想到し、その問題を解決することで本発明を完成した。
【0009】
すなわち、上記課題を解決する本発明のアルミナ粒子材料の製造方法は、体積平均粒径が0.1μm以上、40μm以下、金属アルミニウムから構成される原料粒子材料を可燃性液体中に全体の質量を基準として1%以上、75%以下の濃度で分散させた分散体を調製する分散体調製工程と、
前記分散体を高温の酸化雰囲気下に供給し、前記原料粒子材料を燃焼させることにより、アルミナ粒子材料を製造するアルミナ粒子材料製造工程と、
を有する。
【0010】
前記原料粒子材料の体積平均粒径が、0.5μm以上、10μm以下であることが好ましい。そして、前記可燃性液体は、引火点10℃以上、燃焼熱5.0kcal/g以上、1分子酸素含有0.1以上、0.5以下であることが好ましい。更に、前記分散体は、前記原料粒子材料の濃度が30%以上、50%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアルミナ粒子材料の製造方法は、上記構成を有することによってVMC法であっても粒径の小さなアルミナ粒子材料を優先して製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】試験例5により作成されたアルミナ粒子材料のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のアルミナ粒子材料の製造方法について以下実施形態に基づき詳細に説明を行う。本実施形態のアルミナ粒子材料の製造方法は、体積平均粒径が300nm以下のアルミナ粒子材料を好適に製造できる製造方法である。
【0014】
本実施形態のアルミナ粒子材料の製造方法は、分散体調製工程とアルミナ粒子材料製造工程とその他必要に応じて選択されるその他工程とを有する。
【0015】
分散体調製工程は、原料粒子材料を可燃性液体中に全体の質量を基準として1%以上、75%以下の濃度で分散させた分散体を調製する工程である。原料粒子材料は、金属アルミニウムから構成される。金属アルミニウムから構成されるとは、金属アルミニウムを50質量%以上含有することを意味し、その他の材料としてアルミニウム以外の金属を独立した単独の粒子材料としてアルミニウムからなる粒子材料と混合物として含有させたり、合金や金属間化合物などの形態でアルミニウムと同一の粒子材料中に含有させたりしても良い。例えばケイ素、マグネシウム、ジルコニウム、チタンを含んでも良い。電子材料向けフィラーとしての適用を想定した場合は、原料粒子材料は、Naの含有量が少ないことが好ましい。例えばNaついて1ppm以下の含有量にすることが望ましい。さらに、原料粒子材料は、U及びThの含有量が少ないことが好ましい。例えばU及びThのそれぞれについて5ppb以下の含有量にすることが望ましい。
【0016】
原料粒子材料は、原料粒子材料を構成する材料を適正な方法により粒子化して製造する。粒子化する方法としては、粉砕による方法、アトマイズ法などが挙げられる。原料粒子材料は、シラン化合物、シラザン化合物により表面処理されていても良い。
【0017】
原料粒子材料は、体積平均粒径が0.1μm以上、40μm以下である。体積平均粒径の下限値は0.5μm、1μm、1.5μm、2μmであることが好ましく、上限値は10μm、15μm、20μm、30μmであることが好ましい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることが可能である。原料粒子材料の粒径を大きくすると、得られるアルミナ粒子材料の粒子径が大きくなる傾向となり、反対に原料粒子材料の粒径を小さくすると、得られるアルミナ粒子材料の粒子径が小さくなる傾向となる。
【0018】
分散体は、原料粒子材料を可燃性液体中に分散させたものである。原料粒子材料は、分散体全体の質量を基準として、1%以上、75%以下の濃度で分散されている。原料粒子材料の濃度の下限値としては、5%、10%、15%、20%、30%が挙げられ、上限値としては、40%、45%、50%、60%、70%が挙げられる。これらの下限値及び上限値は任意に組み合わせることができる。原料粒子材料の濃度を高くすると、得られるアルミナ粒子材料の粒子径が大きくなる傾向となり、反対に原料粒子材料の濃度を低くすると、得られるアルミナ粒子材料の粒子径が小さくなる傾向となる。
【0019】
原料粒子材料を可燃性液体中に分散させる方法としては特に限定されず、可燃性液体中に原料粒子材料を少しずつ投入したり、反対に原料粒子材料に可燃性液体を少しずつ投入したり、両者を一度に混合したりできる。更に混合するときには撹拌機、超音波発生機、高圧分散機などを用いることができる。
【0020】
可燃性液体は、単一の化合物から構成されるもの、複数の化合物の混合物から構成されるものの何れであっても良く、後述する高温の酸化雰囲気と同じ酸化雰囲気(酸素などの酸化物質の濃度が同じ)下において燃焼させたときに燃焼が継続する液体を意味する。したがって、複数の化合物の混合物である場合には、可燃性液体を構成する化合物のうちの一つ以上が単独では可燃性液体とは言えないものを含むこともできる。
【0021】
可燃性液体は、分散体の揮発性の観点から引火点10℃以上であることが好ましく、30℃以上であることがより好ましい。また、可燃性液体は、原料粒子材料からアルミナ粒子材料への酸化反応促進の観点から燃焼熱が5.0kcal/g以上であることが好ましく、6.0kcal/g以上であることがより好ましい。さらに、原料粒子材料の分散安定性および酸化反応促進の両立の観点から、可燃性液体を構成する化合物は、1分子酸素原子含有が0.1以上、0.5以下であることが好ましい。なお、本明細書における「1分子酸素原子含有量」とは、可燃性液体の総分子量を1としたとき、そのうちの酸素の原子量の合計の値である。更に、前記分散体は、原料粒子材料の分散安定性、原料粒子材料のフィード性および酸化反応促進の両立の観点から前記原料粒子材料の濃度が30%以上、50%以下であることが好ましい。
【0022】
分散体には原料粒子材料の分散性を向上および安定化するための分散剤を加えても良い。分散剤としては特に限定されないが、アルミニウムの表面の塩基性部位に吸着する酸性分散剤を採用することが好ましい。酸性分散剤としては、高分子ポリカルボン酸系の酸性分散剤が例示できる。分散剤の添加量は特に限定しないが、原料粒子材料の質量を基準として、下限値として、0.5%、0.8%、1.0%が例示でき、上限値として、2.5%、2.0%、1.5%が例示できる。これらの下限値及び上限値は任意に組み合わせることができる。
【0023】
調製した分散体は、高温の酸化雰囲気下に供給することで原料粒子材料を酸化してアルミナ粒子材料を調製する。分散体は、微細な液滴の状態で高温の酸化雰囲気下に投入することが好ましい。例えば、噴霧器を用いて分散体を微細化することができる。噴霧器により微細化する際には、高温の酸化雰囲気下に直接噴霧したり、何らかのキャリアガス中に噴霧して微細化した分散体を含むキャリアガスの状態で高温の酸化雰囲気下に投入したりできる。
【0024】
高温の酸化雰囲気には、供給された原料粒子材料を十分に酸化できる量の酸素などの酸化ガスが外部から供給される。例えば、投入する原料粒子材料を理論的に酸化できる酸素量に相当する酸化ガスの量を基準として、高温の酸化雰囲気中に供給される酸化ガスの量は、1倍~5倍程度含むことが可能であり、下限値としては、1.2倍、1.5倍、1.8倍、2.0倍などが例示でき、上限値としては4.0倍、3.5倍、3.0倍などが例示できる。これらの下限値及び上限値は任意に組み合わせることができる。
【0025】
高温の酸化雰囲気中には、酸化ガスの他に窒素やアルゴンなどの非反応性ガスを含有することができる。非反応性ガスの量を調節することで高温の酸化雰囲気中の分散体や原料粒子材料の濃度を調節することができる。
【0026】
高温の酸化雰囲気中の分散体の濃度は酸化反応の安定性の観点から所定範囲にあるほうが好ましい。例えば、分散体は、高温の酸化雰囲気中に13000mL/m・hから40000mL/m・h程度の濃度で供給することで酸化反応が安定し、アルミナ粒子材料中に含まれる未反応アルミニウム量が減少するため好ましい。
【0027】
高温の酸化雰囲気中の原料粒子材料の濃度はアルミナ粒子材料の小粒径化および酸化反応の安定性のため所定範囲にあることが好ましい。例えば、原料粒子材料は、高温の酸化雰囲気中に500mL/mから18000mL/m程度の濃度で供給することで合成粒子が小さくなり好ましい。
【0028】
非反応性ガスと酸化ガスとを混合した状態で外部から高温の酸化雰囲気中に供給することができる。例えば、非反応性ガスと酸化ガスとして空気を採用して高温の酸化雰囲気中に供給することができる。その場合に空気中に含まれる水分量を低下させることが好ましい。
【0029】
高温の酸化雰囲気は、プロパンガスなどの炭化水素ガス、水素、アンモニアなどの炭素非含有ガスなどからなる可燃性ガスを助燃性ガスと共に供給したガスに着火した炎として形成することや、分散体そのものに着火して形成される高温の酸化雰囲気を利用することができる。
【0030】
高温の酸化雰囲気を形成する装置としては炉などの反応容器を採用することが好ましい。特に炉の上方から分散体を投入し、下方から製造されたアルミナ粒子材料を回収する形態をもつことが好ましい。特に、高温の酸化雰囲気は、分散体を炉内に投入する周囲を囲むように形成することが好ましく、更に高温の酸化雰囲気を囲むようにシースガスを供給することが好ましい。
【0031】
高温の酸化雰囲気内では原料粒子材料が燃焼してアルミナを形成し、高温の酸化雰囲気から離れることで急冷されてアルミナ粒子材料が形成される。得られたアルミナ粒子材料は、バグフィルタやサイクロンなどの常法により回収する。
【実施例0032】
本発明のアルミナ粒子材料の製造方法について以下実施例に基づき詳細に説明を行う。実施例にて用いた可燃性液体の性状については表1に示す。
【0033】
(試験例1)
・分散体調製工程
原料粒子材料として体積平均粒径が2.0μmのアルミニウムからなる粒子材料を採用した。原料粒子材料を100質量部としたときに酸性分散剤としてのマリアムAFB-1521(日油株式会社製)を1質量部添加してよく撹拌した。その後、可燃性液体としてのプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)99質量部に対して原料粒子材料が1質量部の割合で分散させて試験例1の分散体を得た。
【0034】
なお、酸性分散剤に代えて塩基性分散剤(日油株式会社製:高分子アミン化合物:エスリームAD-374M、又は、エスリームAD-3172M)を用いて調製した分散体についてスライドガラス上でのカバーガラスを乗せた状態での凝集状態を光学顕微鏡にて評価したところ、試験例1の分散体では均一に分散しているのに対して凝集の生成が認められた。
【0035】
・アルミナ粒子材料製造工程
得られた分散体を20mL/分、エジェクター圧力0.1kPaで供給して高温の酸化雰囲気を内部に形成した炉内に噴霧することでアルミナ粒子材料を調製した。得られたアルミナ粒子材料は、サイクロンにて分離した。
【0036】
・評価
得られたアルミナ粒子材料について、体積平均粒径をレーザー回折式粒度分布計にて、比表面積を窒素を用いたBET法にて、それぞれ測定した。未反応アルミニウム量については、アルミナ粒子材料をpH14の塩基性水溶液に懸濁させ、未反応のアルミニウムが存在したならば溶解して発生するガスを定量することにより測定した。結果を表2に示す。
【0037】
表2における分散体安定性の評価は、分散体を透明容器に入れてこれを所定時間静置したのち、当該透明容器をひっくり返しても自重で取り出せない沈殿物が形成されるか否かにより行い、30分静置させたあとでも当該沈殿物が形成されなかった場合に分散体が長時間にわたって安定して存在できるものと判断し「○」と記載し、そうでない場合には分散体が安定せずすぐに沈殿分離してしまうものと判断し「×」と記載した。
【0038】
表2における分散体揮発性の評価は、分散体を厚さ5mmになるように乾燥皿にいれて25℃の環境下で所定時間静置したのちに可燃性液体が揮発することによって粉末状になるか否かにより行い、30分静置させたあとでも粉末化しなかった場合に分散体揮発性が少なくフィード、貯蔵等のハンドリングが容易であると判断し「○」と記載し、そうでない場合には上記のハンドリングがしにくいものと判断し「×」と記載した。
【0039】
(試験例2~32)
可燃性液体、原料粒子材料の体積平均粒径、分散体中の原料粒子材料濃度について、表2に示す組み合わせに変更して各試験例の分散体を調製し、試験例1と同様にアルミナ粒子材料製造工程にてアルミナ粒子材料を製造し、試験例1と同様に体積平均粒径、比表面積、未反応アルミニウム量を測定した。
【0040】
(比較例)
体積平均粒径が2μmの原料粒子材料をそのままキャリアガスとしての窒素ガスを使用して4g/分、エジェクター圧力0.1kPaで高温の酸化雰囲気下に投入し同様にしてアルミナ粒子材料を製造した。得られたアルミナ粒子材料について試験例と同様に評価した結果を表2に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
表より明らかなように、可燃性液体中に原料粒子材料を濃度0.5%超、80%未満で調製した分散体を用いてアルミナ粒子材料を製造した試験例1~24、31については、製造されたアルミナ粒子材料の未反応アルミニウム量が2.0%以下であって粒径が小さいアルミナ粒子材料を選択的に製造できていることが分かった。
【0044】
そして、原料粒子材料の可燃性液体中の濃度を上昇させると、やや粒子径が大きくなることが分かり、当該濃度によって、粒子径を300nm以下の領域において制御ができることが示唆された。
【0045】
それに対して分散体の濃度が0.5%とその他の試験例よりも低い試験例25では、粒子径は小さいものの、未反応アルミニウム量が2.0%を大幅に超える値となってしまった。この結果から、分散体の中に含まれる原料粒子材料の濃度が所定値以上である試験例1~24では、反応源の原料粒子材料が十分に含まれるために燃焼(酸化反応)そのものが起こりやすくなることが推察された。
【0046】
また、分散体の濃度が80%である試験例26では粒子径は300nmを超える大きいものとなったうえに未反応アルミニウム量が2.0%を大幅に超える値となった。この結果から、分散体中の原料粒子材料が80%未満である試験例1~24では、分散体中における原料粒子材料の凝集が抑制され、これによりフィード安定性が向上したため燃焼(酸化反応)が安定して生起したからであると推察された。
【0047】
また、可燃性液体に代えて水を用いた試験例32で得られたアルミナ粒子材料は、未反応アルミニウム量が2.0%を大幅に超える値となった。この結果から、可燃性液体を採用することにより、原料粒子材料の酸化反応が十分に進行することが推察された。
【0048】
分散体とせずに乾燥した原料粒子材料をそのまま用いた比較例(従来のVMC法)で得られたアルミナ粒子材料は、粒径が小さなアルミナ粒子材料に加えて粒径が大きなアルミナ粒子材料も同程度製造されており、粒径が小さなアルミナ粒子材料を選択的に得ることは困難なことが分かった。
【0049】
可燃性液体を用いた試験例1~24、27~31中において互いに比較すると、以下の知見が得られた。まず、原料粒子材料として粒径が2μm、分散体濃度が40%の分散体を用いた試験例5、19、20、22、27~31を比較検討すると、可燃性液体としてPGMを用いた試験例5が未反応アルミニウム量がもっとも少ない点で他の可燃性液体を用いた試験例よりも好ましいことが分かった。1分子中酸素原子含有が0.1以上0.5以下であるため、原料粒子材料の分散性が高いので酸化反応が安定していたからであると考えられた。また、分散体の揮発性が低いので乾燥することなく安定的にフィードができたことも作用したと考えられ、安全性の観点からも取り扱いが容易であった。
【0050】
また、可燃性液体としてオクタンを用いた試験例28は、可燃性液体としてトルエンを用いた試験例27よりも小粒径アルミナを合成できることが分かった。1分子中の酸素原子の含有量が多いので可燃性液体中の凝集することなく分散性の点で優れていたため、原料粒子材料が希薄な状態で反応できたからであると考えられた。
【0051】
可燃性液体としてMEKを用いた試験例29は可燃性液体として、トルエンを用いた試験例27よりも小粒径のアルミナを合成できることが分かった。1分子中の酸素原子の含有量が多いので可燃性液体中で凝集することなく分散性の点で優れていた。これにより、原料粒子材料が希薄な状態で反応できたからであると考えられた。ただし、揮発性が高いため、分散体の乾燥によりフィードおよび噴霧器からの噴霧状態がやや安定しないことがあった。これにより、未反応アルミニウム量は同条件のPGMのとき(試験例5)よりも多くなったと考えられた。
【0052】
また、上記において、PGM、ブタノール、IPA、MIBK、メタノール、エタノールと、可燃性液体のみ異なる試験例5、19、22、24、30、31を比較すると、燃焼熱の大きい可燃性液体を用いる方が、未反応のアルミニウム量が少ない傾向にあることが分かった。自己の燃焼熱により火炎の形成が安定化するため、原料粒子材料の酸化反応を補助しているものと考えられた。
【0053】
次に、原料粒子材料として粒径が5μm、分散体濃度が40%の分散体を用いた試験例12、21、23を比較検討すると、上記の2μmの原料粒子材料を用いた場合と同様に、可燃性液体としてPGMを用いた試験例5が未反応アルミニウム量が少ない点において他の可燃性液体を用いた試験例よりも好ましいことが分かった。
【0054】
また、可燃性液体をPGMとし、分散体濃度を40%とした場合において、原料粒子材料の粒子径を0.1μm、2μm、5μm、10μm、30μmと可変した試験例15、5、12、17、18を比較したところ、原料粒子材料の粒子径が大きいほど、アルミナ粒子材料の粒子径が大きくなる傾向にあることが分かった。当該原料粒子材料の粒子径によって、アルミナ粒子材料の粒子径を300nm以下の領域において制御ができることが示唆された。
図1