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特開2023-150976異種金属接合継手の検査方法、異種金属接合継手の製造方法及び異種金属接合継手
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150976
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】異種金属接合継手の検査方法、異種金属接合継手の製造方法及び異種金属接合継手
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/21 20140101AFI20231005BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20231005BHJP
   B23K 26/323 20140101ALI20231005BHJP
   B23K 26/322 20140101ALI20231005BHJP
【FI】
B23K26/21 G
B23K26/00 M
B23K26/323
B23K26/322
B23K26/21 W
B23K26/00 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060345
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 恭兵
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 励一
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA52
4E168BA73
4E168BA83
4E168BA87
4E168BA88
4E168BA89
4E168CA06
4E168CA15
4E168CB22
4E168DA28
4E168DA40
4E168FB03
4E168FB05
(57)【要約】
【課題】ブローホールの発生量を容易に判断することができ、これにより溶接欠陥の発生が抑制され、高強度の異種金属接合継手を製造することができる異種金属接合継手の検査方法を提供する。
【解決手段】異種金属接合継手の検査方法は、アルミニウム合金材2の表面に低温溶射皮膜1を形成する工程と、低温溶射皮膜1側に鋼材3を重ね合わせる工程と、鋼材3側からレーザを照射することにより、鋼材3の一部と低温溶射皮膜1の一部とを溶融させ、溶接金属4を形成し、鋼材3とアルミニウム合金材2とを接合する工程と、鋼材3の表面から突出した溶接金属4の余盛の高さHと、溶接金属4を形成する領域における鋼材3の厚さTsと、低温溶射皮膜1の厚さTfとに基づき、式A:(H/(Ts+Tf))×100により余盛高さ率を求める工程と、を有し、余盛高さ率が所定の値を超えている場合に、溶接不良が発生したと判断する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金材の表面の少なくとも一部に、純鉄、炭素鋼、フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金、コバルト及びコバルト合金から選択された少なくとも1種の金属粉末を低温溶射することにより低温溶射皮膜を形成する工程と、
前記低温溶射皮膜と鋼材とが対向するように、前記アルミニウム又はアルミニウム合金材と前記鋼材とを重ね合わせる工程と、
前記鋼材側からレーザを照射することにより、前記鋼材の一部と前記低温溶射皮膜の一部とを溶融させ、溶接金属を形成し、前記鋼材と前記アルミニウム又はアルミニウム合金材とを接合する工程と、
前記鋼材の表面から突出した前記溶接金属の余盛の高さHを測定するとともに、前記溶接金属を形成する領域における前記鋼材の厚さTsと前記低温溶射皮膜の厚さTfとの和を算出し、式A:(H/(Ts+Tf))×100により余盛高さ率(%)を求める工程と、を有し、
前記余盛高さ率(%)が所定の値を超えている場合に、溶接不良が発生したと判断することを特徴とする、異種金属接合継手の検査方法。
【請求項2】
前記余盛高さ率が15(%)以下である場合に、ブローホール率が所定の値以下であって、継手強度が良好であると判断することを特徴とする、請求項1に記載の異種金属接合継手の検査方法。
【請求項3】
前記余盛高さ率が12(%)以下である場合に、ブローホール率が所定の値以下であって、継手強度が優れていると判断することを特徴とする、請求項2に記載の異種金属接合継手の検査方法。
【請求項4】
アルミニウム又はアルミニウム合金材の表面の少なくとも一部に、純鉄、炭素鋼、フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金、コバルト及びコバルト合金から選択された少なくとも1種の金属粉末を低温溶射することにより低温溶射皮膜を形成する工程と、
前記低温溶射皮膜と鋼材とが対向するように、前記アルミニウム又はアルミニウム合金材と前記鋼材とを重ね合わせる工程と、
前記鋼材側からレーザを照射することにより、前記低温溶射皮膜の一部と前記鋼材の一部とを溶融させ、溶接金属を形成し、前記鋼材と前記アルミニウム又はアルミニウム合金材とを接合する工程と、
前記鋼材の表面から突出した前記溶接金属の余盛の高さHを測定するとともに、前記溶接金属を形成する領域における前記鋼材の厚さTsと前記低温溶射皮膜の厚さTfとの和を算出し、式A:(H/(Ts+Tf))×100により余盛高さ率(%)を求める工程と、を有し、
前記余盛高さ率が所定の値を超えている場合に、溶接不良が発生したと判断し、
前記溶接金属にさらにレーザを照射する追加照射工程と、前記追加照射工程後の余盛高さ率が所定の値以下であるかどうかを判断する追加判定工程と、を有し、
前記余盛高さ率が所定の値以下となるまで、前記追加照射工程と前記追加判定工程とを繰り返すことを特徴とする、異種金属接合継手の製造方法。
【請求項5】
前記追加照射工程におけるレーザの出力は、前記鋼材と前記アルミニウム又はアルミニウム合金材とを接合する工程におけるレーザの出力よりも小さくすることを特徴とする、請求項4に記載の異種金属接合継手の製造方法。
【請求項6】
予備溶接試験により溶接条件を決定する工程と、
アルミニウム又はアルミニウム合金材の表面の少なくとも一部に、純鉄、炭素鋼、フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金、コバルト及びコバルト合金から選択された少なくとも1種の金属粉末を低温溶射することにより低温溶射皮膜を形成する工程と、
前記低温溶射皮膜と鋼材とが対向するように、前記アルミニウム又はアルミニウム合金材と前記鋼材とを重ね合わせる工程と、
前記予備溶接試験により決定された溶接条件を用いて前記鋼材側からレーザを照射することにより、前記低温溶射皮膜の一部と前記鋼材の一部とを溶融させ、溶接金属を形成し、前記鋼材と前記アルミニウム又はアルミニウム合金材とを接合する工程と、を有し、
前記予備溶接試験は、
試験用アルミニウム又はアルミニウム合金材の表面の少なくとも一部に、純鉄、炭素鋼、ニッケル、ニッケル合金、コバルト及びコバルト合金から選択された少なくとも1種の金属粉末を低温溶射することにより試験用低温溶射皮膜を形成する工程と、
前記試験用低温溶射皮膜と試験用鋼材とが対向するように、前記試験用アルミニウム又はアルミニウム合金材と前記試験用鋼材とを重ね合わせる工程と、
試験用溶接条件により前記試験用鋼材側からレーザを照射することにより、前記試験用低温溶射皮膜の一部と前記試験用鋼材の一部とを溶融させ、試験用溶接金属を形成し、前記試験用鋼材と前記試験用アルミニウム又はアルミニウム合金材とを接合する工程と、
前記試験用鋼材の表面から突出した前記試験用溶接金属の余盛の高さHを測定するとともに、前記試験用溶接金属を形成する領域における鋼材の厚さTsと前記試験用低温溶射皮膜の厚さTfとの和を算出し、式A:(H/(Ts+Tf))×100により余盛高さ率(%)を求める工程と、を有し、
前記溶接条件を決定する工程は、
前記余盛高さ率が所定の値を超えている場合に、溶接不良が発生したと判断し、前記試験用溶接条件を変化させて、前記予備溶接試験を繰り返し実施し、余盛高さ率が所定の値以下となる溶接条件を選択する工程であることを特徴とする、異種金属接合継手の製造方法。
【請求項7】
アルミニウム又はアルミニウム合金材と、
前記アルミニウム又はアルミニウム合金材の表面の少なくとも一部に設けられ、純鉄、炭素鋼、フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金、コバルト及びコバルト合金から選択された少なくとも1種の金属を含む低温溶射皮膜と、
前記低温溶射皮膜に接するように配置された鋼材と、
前記鋼材における前記低温溶射皮膜に接する面と反対側の面から、前記低温溶射皮膜に到達するように形成され、前記低温溶射皮膜と前記鋼材とを接合する溶接金属と、を有する異種金属接合継手であって、
前記溶接金属は、前記鋼材の表面から突出した余盛を有し、
前記余盛の高さをH(mm)、前記溶接金属を有する領域における前記鋼材の厚さをTs(mm)、前記低温溶射皮膜の厚さをTf(mm)とした場合に、式A:(H/(Ts+Tf))×100により算出される余盛高さ率が15(%)以下であることを特徴とする、異種金属接合継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種金属接合継手の検査方法、異種金属接合継手の製造方法及び異種金属接合継手に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の分野においては、CO排出量の削減を目的とした車体軽量化や衝突安全性強化を実現するため、ボディ骨格等に高張力鋼板(High Tensile Strength Steel:HTSS)が適用されている。
【0003】
また、更なる車体軽量化を目的として、軽量なアルミニウム又はアルミニウム合金材のような非鉄金属と、鋼材とを接合した異種金属接合材についても需要が高くなっている。異種金属を接合する方法として、一般的には、釘又はネジ等で接合する方法、及びSPR(Self-Pierce Riveting)又はFDS(Flow Drilling Screw;登録商標)を利用して接合する方法がある。
【0004】
しかしながら、釘、ネジ又はリベットを用いる方法では、釘及びネジが比較的高価であるか、又はリベットを作成するための工程が必要となるため、接合材の製造コストが高くなるとともに、釘、ネジ及びリベットの重量分だけ、得られる接合材が重くなるという問題がある。
【0005】
一方、アルミニウム又はアルミニウム合金材と鋼材とを一般的な方法で直接溶接すると、接合界面に脆弱な金属間化合物が形成され、良好な強度を得ることができない。そこで、アルミニウム又はアルミニウム合金材と鋼材との接合において、高強度の接合材を得ることができる溶接方法についての要求が高くなってきている。
【0006】
そこで、特許文献1には、アルミニウム合金材の表面の少なくとも一部に、純鉄、炭素鋼、ニッケル、ニッケル合金、コバルト及びコバルト合金から選択された少なくとも1種の金属粉末を低温溶射することにより低温溶射皮膜を形成し、低温溶射皮膜と鋼材とが対向するように、アルミニウム合金材と鋼材とを重ね合わせた後に、鋼材側からレーザ溶接する、異材接合構造体の製造方法が開示されている。上記特許文献1に記載の製造方法によると、低温溶射皮膜とアルミニウム合金材とは、アンカー効果によって機械的に強固に接合され、低温溶射皮膜と鋼材とはレーザ溶接によって接合される。したがって、アルミニウム合金材と鋼材とを高い接合強度で接合することができる。
【0007】
しかし、上記特許文献1に記載の製造方法により異材接合構造体を製造する場合に、低温溶射皮膜に含まれるガスに起因して、溶接時にブローホールが発生し、溶接欠陥となりやすくなる。このような溶接欠陥が発生すると接合強度が低下するため、ブローホールの有無を容易に検出でき、高強度な継手を製造する方法についての要求が高くなっている。なお、低温溶射皮膜を利用しない被溶接材の接合時においては、ブローホール等の溶接欠陥の発生を検出する種々の方法が提案されている。
【0008】
例えば、特許文献2には、重ね継手を構成する1組の部材に対してレーザを照射して、レーザ溶接を行った溶接部材の欠陥を、レーザ照射による超音波で検出する超音波検出方法が開示されている。
【0009】
また、特許文献3には、レーザ溶接による溶接部を撮像手段により撮影し、この撮影した画像についてテクスチャ解析を行い、テクスチャ解析の結果の値と所定のしきい値とを比較し、テクスチャ解析の結果の値がしきい値を超えた場合には、ブローホールが発生したと判定する、レーザ溶接における不良判定方法も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2020-011276号公報
【特許文献2】特開2019-164037号公報
【特許文献3】特開2003-205381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献2に記載の超音波検査により欠陥を検出する方法は、検査に時間がかかり、生産ライン内で検査を実施することが困難である。
【0012】
また、上記特許文献3に記載の不良判定方法は、ブローホールが発生した場合に、溶接部表面に形成されるクレータのような凹凸形状を輝度により縞模様として識別し、ブローホールの発生の有無を判定する。しかし、低温溶射皮膜を用いて異種金属材料をレーザ溶接により接合した場合に、ブローホールが発生しても、溶接部表面にクレータのような凹凸形状が発生するとは限らない。したがって、上記特許文献1に記載の製造方法を用いて異材接合構造体を製造する場合に、ブローホールの発生を判定する方法として、上記特許文献3に記載の判定方法を利用することはできない。
【0013】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、ブローホールの発生量を容易に判断することができ、これにより溶接欠陥の発生が抑制され、高強度の異種金属接合継手を製造することができる異種金属接合継手の検査方法及び異種金属接合継手の製造方法、並びにこの製造方法により製造される異種金属接合継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の上記目的は、異種金属接合継手の検査方法に係る下記(1)の構成により達成される。
【0015】
(1) アルミニウム又はアルミニウム合金材の表面の少なくとも一部に、純鉄、炭素鋼、フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金、コバルト及びコバルト合金から選択された少なくとも1種の金属粉末を低温溶射することにより低温溶射皮膜を形成する工程と、
上記低温溶射皮膜と鋼材とが対向するように、上記アルミニウム又はアルミニウム合金材と上記鋼材とを重ね合わせる工程と、
上記鋼材側からレーザを照射することにより、上記鋼材の一部と上記低温溶射皮膜の一部とを溶融させ、溶接金属を形成し、上記鋼材と上記アルミニウム又はアルミニウム合金材とを接合する工程と、
上記鋼材の表面から突出した上記溶接金属の余盛の高さHを測定するとともに、上記溶接金属を形成する領域における上記鋼材の厚さTsと上記低温溶射皮膜の厚さTfとの和を算出し、式A:(H/(Ts+Tf))×100により余盛高さ率(%)を求める工程と、を有し、
上記余盛高さ率(%)が所定の値を超えている場合に、溶接不良が発生したと判断することを特徴とする、異種金属接合継手の検査方法。
【0016】
また、異種金属接合継手の検査方法に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の(2)及び(3)に関する。
【0017】
(2) 上記余盛高さ率が15(%)以下である場合に、ブローホール率が所定の値以下であって、継手強度が良好であると判断することを特徴とする、(1)に記載の異種金属接合継手の検査方法。
【0018】
(3) 上記余盛高さ率が12(%)以下である場合に、ブローホール率が所定の値以下であって、継手強度が優れていると判断することを特徴とする、(1)に記載の異種金属接合継手の検査方法。
【0019】
また、本発明の上記目的は、異種金属接合継手の製造方法に係る下記(4)の構成により達成される。
【0020】
(4) アルミニウム又はアルミニウム合金材の表面の少なくとも一部に、純鉄、炭素鋼、フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金、コバルト及びコバルト合金から選択された少なくとも1種の金属粉末を低温溶射することにより低温溶射皮膜を形成する工程と、
上記低温溶射皮膜と鋼材とが対向するように、上記アルミニウム又はアルミニウム合金材と上記鋼材とを重ね合わせる工程と、
上記鋼材側からレーザを照射することにより、上記低温溶射皮膜の一部と上記鋼材の一部とを溶融させ、溶接金属を形成し、上記鋼材と上記アルミニウム又はアルミニウム合金材とを接合する工程と、
上記鋼材の表面から突出した上記溶接金属の余盛の高さHを測定するとともに、上記溶接金属を形成する領域における上記鋼材の厚さTsと上記低温溶射皮膜の厚さTfとの和を算出し、式A:(H/(Ts+Tf))×100により余盛高さ率(%)を求める工程と、を有し、
上記余盛高さ率が所定の値を超えている場合に、溶接不良が発生したと判断し、
上記溶接金属にさらにレーザを照射する追加照射工程と、上記追加照射工程後の余盛高さ率が所定の値以下であるかどうかを判断する追加判定工程と、を有し、
上記余盛高さ率が所定の値以下となるまで、上記追加照射工程と上記追加判定工程とを繰り返すことを特徴とする、異種金属接合継手の製造方法。
【0021】
また、異種金属接合継手の製造方法に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の(5)に関する。
【0022】
(5) 上記追加照射工程におけるレーザの出力は、上記鋼材と上記アルミニウム又はアルミニウム合金材とを接合する工程におけるレーザの出力よりも小さくすることを特徴とする、(4)に記載の異種金属接合継手の製造方法。
【0023】
また、本発明の上記目的は、異種金属接合継手の製造方法に係る下記(6)の構成により達成される。
【0024】
(6) 予備溶接試験により溶接条件を決定する工程と、
アルミニウム又はアルミニウム合金材の表面の少なくとも一部に、純鉄、炭素鋼、フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金、コバルト及びコバルト合金から選択された少なくとも1種の金属粉末を低温溶射することにより低温溶射皮膜を形成する工程と、
上記低温溶射皮膜と鋼材とが対向するように、上記アルミニウム又はアルミニウム合金材と上記鋼材とを重ね合わせる工程と、
上記予備溶接試験により決定された溶接条件を用いて上記鋼材側からレーザを照射することにより、上記低温溶射皮膜の一部と上記鋼材の一部とを溶融させ、溶接金属を形成し、上記鋼材と上記アルミニウム又はアルミニウム合金材とを接合する工程と、を有し、
上記予備溶接試験は、
試験用アルミニウム又はアルミニウム合金材の表面の少なくとも一部に、純鉄、炭素鋼、ニッケル、ニッケル合金、コバルト及びコバルト合金から選択された少なくとも1種の金属粉末を低温溶射することにより試験用低温溶射皮膜を形成する工程と、
上記試験用低温溶射皮膜と試験用鋼材とが対向するように、上記試験用アルミニウム又はアルミニウム合金材と上記試験用鋼材とを重ね合わせる工程と、
試験用溶接条件により上記試験用鋼材側からレーザを照射することにより、上記試験用低温溶射皮膜の一部と上記試験用鋼材の一部とを溶融させ、試験用溶接金属を形成し、上記試験用鋼材と上記試験用アルミニウム又はアルミニウム合金材とを接合する工程と、
上記試験用鋼材の表面から突出した上記試験用溶接金属の余盛の高さHを測定するとともに、上記試験用溶接金属を形成する領域における鋼材の厚さTsと上記試験用低温溶射皮膜の厚さTfとの和を算出し、式A:(H/(Ts+Tf))×100により余盛高さ率(%)を求める工程と、を有し、
上記溶接条件を決定する工程は、
上記余盛高さ率が所定の値を超えている場合に、溶接不良が発生したと判断し、上記試験用溶接条件を変化させて、上記予備溶接試験を繰り返し実施し、余盛高さ率が所定の値以下となる溶接条件を選択する工程であることを特徴とする、異種金属接合継手の製造方法。
【0025】
また、本発明の上記目的は、異種金属接合継手に係る下記(7)の構成により達成される。
【0026】
(7) アルミニウム又はアルミニウム合金材と、
上記アルミニウム又はアルミニウム合金材の表面の少なくとも一部に設けられ、純鉄、炭素鋼、フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金、コバルト及びコバルト合金から選択された少なくとも1種の金属を含む低温溶射皮膜と、
上記低温溶射皮膜に接するように配置された鋼材と、
上記鋼材における上記低温溶射皮膜に接する面と反対側の面から、上記低温溶射皮膜に到達するように形成され、上記低温溶射皮膜と上記鋼材とを接合する溶接金属と、を有する異種金属接合継手であって、
上記溶接金属は、上記鋼材の表面から突出した余盛を有し、
上記余盛の高さをH(mm)、上記溶接金属を有する領域における上記鋼材の厚さをTs(mm)、上記低温溶射皮膜の厚さをTf(mm)とした場合に、式A:(H/(Ts+Tf))×100により算出される余盛高さ率が15(%)以下であることを特徴とする、異種金属接合継手。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、ブローホールの発生量を容易に判断することができ、これにより溶接欠陥の発生が抑制され、高強度の異種金属接合継手を製造することができる異種金属接合継手の検査方法及び異種金属接合継手の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、溶接金属中のブローホールが少なく、高い強度を有する異種金属接合継手を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、本発明の実施形態に係る異種金属接合継手の検査方法の一部を示し、鋼材とアルミニウム合金材とを接合する工程を示す断面図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る異種金属接合継手の検査方法の一部を示し、得られた溶接金属の一例を拡大して示す図面代用写真である。
図3図3は、本発明の実施形態に係る異種金属接合継手の検査方法の一部を示し、得られた溶接金属の他の例を拡大して示す図面代用写真である。
図4図4は、縦軸を余盛高さ率とし、横軸をブローホール率とした場合の、余盛高さ率とブローホール率との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明者らは、アルミニウム又はアルミニウム合金材と鋼材との異種金属接合継手を製造する際に、容易にブローホールの発生の有無を判定することができ、これにより、高強度の異種金属接合継手を製造することができる方法について、鋭意検討を重ねた。その結果、アルミニウム又はアルミニウム合金材と鋼材とを、低温溶射皮膜を利用してレーザ溶接した場合に、溶接金属にブローホールが発生していると、ブローホールの発生量に応じて溶接金属の余盛の高さが変化することを見出した。また、本発明者らは、鋼材と低温溶射皮膜との厚さの和に対する余盛高さの値を求めることにより、ブローホール率を予測することができることを見出した。したがって、所定のブローホール率以下となるように余盛高さを設定することにより、ブローホールが少ない高強度の異種金属接合継手を製造することができる。
本発明は、これら知見に基づいてなされたものである。
【0030】
以下、本発明に係る異種金属接合継手の検査方法、異種金属接合継手の製造方法及び異種金属接合継手の実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。また、以下に示す実施形態において、アルミニウム又はアルミニウム合金材を、単にアルミニウム合金材ということがある。
【0031】
[異種金属接合継手の検査方法]
図1は、本発明の実施形態に係る異種金属接合継手の検査方法の一部を示し、鋼材とアルミニウム合金材とを接合する工程を示す断面図である。また、図2は、本発明の実施形態に係る異種金属接合継手の検査方法の一部を示し、得られた溶接金属の一例を拡大して示す図面代用写真である。図3は、本発明の実施形態に係る異種金属接合継手の検査方法の一部を示し、得られた溶接金属の他の例を拡大して示す図面代用写真である。
【0032】
<低温溶射皮膜を形成する工程>
図1に示すように、アルミニウム合金材2の表面の少なくとも一部に、例えば純鉄等の金属粉末を低温溶射することにより低温溶射皮膜1を形成する。低温溶射する方法とは、コールドスプレー法ともいい、ガスと金属粉末とを音速以上の高速で対象物に吹きつける方法である。この方法は、使用するガス種、圧力、温度、金属粉末の粒子径等を適宜選択して実施することができる。
【0033】
<アルミニウム合金材と鋼材とを重ね合わせる工程>
その後、得られた低温溶射皮膜1の上に鋼材3を重ね合わせる。
【0034】
<アルミニウム合金材と鋼材とを接合する工程>
その後、鋼材3側、すなわち、鋼材3の低温溶射皮膜1に接する面と反対側の面からレーザLを照射しつつ、所望の溶接線方向に沿ってレーザLを移動させる。図2に示すように、レーザLを照射することにより、鋼材3の一部を板厚方向に溶融させるとともに、低温溶射皮膜1の少なくとも一部を溶融させる。その結果、鋼材3を板厚方向に貫通し、低温溶射皮膜1の鋼材3側の表面から低温溶射皮膜の膜厚方向の一部に到達する溶接金属4が形成され、アルミニウム合金材2と鋼材3とが接合される。
【0035】
ここで、アルミニウム合金材と鋼材とを接合する工程として、レーザ溶接を適用するのは、アーク溶接などの他の溶接方法に比べ、レーザ溶接は入熱が低く、熱影響が小さいからである。アーク溶接の場合を用いた場合には、溶接時に発生する熱がアルミニウム合金材2まで到達しやすいため、アルミニウム合金材2までもが溶融し、接合強度が低下するおそれがある。しかし、レーザ溶接を用いた場合には、アルミニウム合金材2への熱影響を最小限に抑え、アルミニウム合金材2の溶融を抑制することができる。
【0036】
上記のように、レーザLを照射して鋼材3及び低温溶射皮膜1を溶融させた場合に、低温溶射皮膜1中にはガスが含まれているため、このガスが原因となって溶接金属4内にブローホール6が発生しやすくなる。そして、溶接金属4内にブローホール6が発生すると、鋼材3の表面から溶接金属4が突出し、余盛5が形成される。
【0037】
一方、図3に示すように、溶接金属4内にブローホールが形成されていない場合は、鋼材3の表面から突出する余盛5の高さが低くなる。したがって、余盛5の高さ等に基づき、ブローホールの発生量を判断することができる。
【0038】
<余盛高さ率を求める工程>
具体的に、本実施形態においては、余盛5の高さHを測定するとともに、アルミニウム合金材2と鋼材3との接合領域、すなわち、溶接金属4を形成した領域における鋼材3の厚さTsと低温溶射皮膜1の厚さTfとの和を算出し、以下に示す式Aにより余盛高さ率(%)を求める。
式A:(H/(Ts+Tf))×100
【0039】
余盛5の高さHは、カメラ撮影によって測定してもよいし、レーザによって測定してもよく、測定方法は特に限定されない。また、溶接始端部及び溶接終端部においては、溶接金属4の表面はクレータのような凹形状となりやすいため、余盛5の高さHを測定する位置としては、溶接始端部及び溶接終端部を除く定常部を選択することが好ましい。
【0040】
また、低温溶射皮膜1の厚さTfは、接合する工程の前に測定することができる。例えば、低温溶射皮膜1を形成する箇所におけるアルミニウム合金材の厚さを測定するとともに、低温溶射皮膜1を形成した後の該当箇所における部材の厚さを測定する。そして、皮膜形成後の部材の厚さから皮膜形成前のアルミニウム合金材の厚さを減ずることにより、低温溶射皮膜1の厚さTfを算出することができる。
【0041】
溶接金属4内におけるブローホール6の発生量に応じて、余盛5の高さHが変化し、特に、ブローホール6の発生量が多い場合に、鋼材の厚さTsと低温溶射皮膜の厚さTfとの和に対する余盛5の高さHの値(余盛高さ率)が大きくなる。したがって、上記式Aにより求められる余盛高さ率が所定の値を超えている場合に、溶接金属4中にブローホール6が多く存在し、溶接不良が発生していると判断することができる。
【0042】
本実施形態においては、余盛5の高さH、鋼材の厚さTs及び低温溶射皮膜の厚さTfを測定し、上記式Aにより余盛高さ率を算出するのみで、ブローホール率を予測することができるため、生産ライン内において容易に所望の継手が得られているかどうかを検査することができる。なお、本明細書において、ブローホール率とは、溶接金属4に対して断面マクロ写真を撮影し、ブローホールを含む溶接金属4の全体の面積Swとブローホールの面積Sbを算出して、以下に示す式Bにより得られる値とする。
式B:(Sb/Sw)×100
【0043】
ところで、アーク溶接において、ブローホールが20%以上になると、急激に継手強度が低下するとの報告がある(石井,鋼溶接部における気泡の強度に及ぼす影響,溶接学会誌,第41巻(1972)第4号,p.368-378)。本発明者らは、余盛高さ率が15%以下である場合に、ブローホールが20%以下であることを実験的に確認している。したがって、ブローホール率を20%以下とするためには、余盛高さ率を15%以下とすることが好ましい。言い換えると、余盛高さ率が15%以下である場合に、ブローホール率が20%以下であると判断し、継手強度が良好であると判断することができる。また、例えば、図3に示すように、余盛高さ率が12%以下であることが好ましく、この場合に、ブローホールはほとんど発生しておらず、継手強度がより優れていると判断することができる。
【0044】
[異種金属接合継手の製造方法]
(第1の実施形態)
本発明においては、上記異種金属接合継手の検査方法を利用して、溶接欠陥が少ない高強度の異種金属接合継手を製造することができる。以下、図1図3を用いて、本発明の第1の実施形態に係る異種金属接合継手の製造方法について説明する。
【0045】
まず、図1及び図2に示すように、異種金属接合継手の検査方法と同様にして、低温溶射皮膜を形成する工程、アルミニウム合金材と前記鋼材とを重ね合わせる工程、アルミニウム合金材と鋼材とを接合する工程、及び余盛高さ率を求める工程を実施する。余盛5の高さHを測定する方法及び測定する位置については、上述したとおりである。そして、余盛高さ率が所定の値、例えば15%を超えていた場合に、溶接不良が発生したと判断し、次の追加照射工程を実施する。
【0046】
<追加照射工程>
上記余盛高さ率に基づき、所望の品質を有する異種金属接合継手が得られていないと判断された場合に、溶接金属4に沿って、さらにレーザLを照射する。この追加照射工程におけるレーザLの出力を、上記アルミニウム合金材と鋼材とを接合する工程におけるレーザLの出力よりも大きくすると、新たに低温溶射皮膜1が溶融し、さらにブローホール6が発生するおそれがある。したがって、追加照射工程におけるレーザLの出力は、上記溶接金属を形成する工程におけるレーザLの出力よりも小さくすることが好ましい。この追加照射工程により、溶接金属4中のブローホール6を排出させることができる。
【0047】
<追加判定工程>
その後、上記余盛高さ率を求める工程と同様にして、追加照射工程後の余盛高さ率を求め、15%以下となっているかどうかを確認する。ここで、余盛高さ率が15%以下となっていれば、ブローホールを低減できたと判断する。一方、余盛高さ率が15%を超えていた場合には、余盛高さ率が15%以下となるまで、追加照射工程と追加判定工程とを繰り返す。このような方法により、高強度の異種金属接合継手を製造することができる。
【0048】
なお、上記追加照射工程と追加判定工程とは、2回以上繰り返してもよいが、繰り返す回数が増加するにしたがって、1つの異種金属接合継手を製造するための時間が著しく増加するため、追加照射工程と追加判定工程との繰り返し回数は少ない方が好ましい。
【0049】
本実施形態において、予め必要とする強度と、ブローホール率との関係を求めておくことにより、溶接不良が発生したと判断する余盛高さ率を自由に設定することができる。具体的に、十分に高い強度を必要とする場合には、ブローホール率はできるだけ低い方が好ましいため、余盛高さ率の判定基準を低く、例えば12%以下に設定すればよい。一方、ブローホールがある程度許容される強度を目標とする場合には、余盛高さ率の判定基準を高めに設定すればよい。
【0050】
(第2の実施形態)
第2の実施形態は、上記第1の実施形態における低温溶射皮膜を形成する工程、アルミニウム合金材と前記鋼材とを重ね合わせる工程、及びアルミニウム合金材と鋼材とを接合する工程の前に、予備溶接試験により溶接条件を決定する工程を実施する。以下、予備溶接試験及び溶接条件を決定する工程について説明する。なお、予備溶接試験において使用する試験用アルミニウム合金材及び試験用鋼材や、予備溶接試験において形成される試験用低温溶射皮膜及び試験用溶接金属は、実際に製造するものと同様のため、図1図3を参照して説明する。
【0051】
〔予備溶接試験〕
<試験用低温溶射皮膜を形成する工程>
まず、図1に示すように、実際に製造する異種金属接合継手において使用するものと同等の試験用アルミニウム合金材、試験用鋼材及び金属粉末を準備し、実際の製造方法と同様にして、試験用アルミニウム合金材(アルミニウム合金材2)に、例えば純鉄等の金属粉末を低温溶射することにより、試験用低温溶射皮膜(低温溶射皮膜1)を形成する。
【0052】
<試験用アルミニウム合金材と試験用鋼材とを重ね合わせる工程>
次に、試験用低温溶射皮膜と試験用鋼材とが対向するように、試験用アルミニウム合金材と試験用鋼材(鋼材3)とを重ね合わせる。
【0053】
<試験用アルミニウム合金材と試験用鋼材とを接合する工程>
その後、任意に設定した試験用溶接条件により試験用鋼材側からレーザLを照射しつつ、所望の溶接線方向に沿ってレーザLを移動させることにより、試験用低温溶射皮膜の一部と試験用鋼材の一部とを溶融させ、試験用溶接金属(溶接金属4)を形成し、試験用アルミニウム合金材と試験用鋼材とを接合する。
【0054】
<余盛高さ率を求める工程>
試験用鋼材の表面から突出した試験用溶接金属の余盛の高さHを測定するとともに、試験用溶接金属を形成する領域における鋼材の厚さTsと低温溶射皮膜の厚さTfとの和を算出し、式A:(H/(Ts+Tf))×100により余盛高さ率(%)を求める。
【0055】
〔溶接条件の決定〕
<溶接条件を決定する工程>
余盛高さ率が所定の値を超えている場合に、溶接不良が発生したと判断し、試験用溶接条件を変化させて、上記予備溶接試験を繰り返し実施する。試験用溶接条件を変化させる方法としては、レーザ入熱量を制御することが好ましく、具体的には、レーザ出力、溶接速度、ビーム焦点位置を変更させることが好ましい。そして、余盛高さ率が所定の値以下となった際の試験用溶接条件を選択して、実際の溶接工程、すなわち、低温溶射皮膜を形成する工程、アルミニウム合金材と前記鋼材とを重ね合わせる工程、及びアルミニウム合金材と鋼材とを接合する工程を実施する。
【0056】
本実施形態に係る異種金属接合継手の製造方法によると、純鉄等の金属粉末をアルミニウム合金材2の表面に高速で噴射して低温溶射皮膜1を形成するため、アルミニウム合金材2の表面には微細な凹凸が形成される。そして、純鉄からなる低温溶射皮膜1とアルミニウム合金材2とは、アンカー効果によって機械的に締結されることにより、強固に結合される。また、低温溶射皮膜1と鋼材3とは一般的なレーザ溶接により強固に接合されるため、金属間化合物が生成せず、鋼材3とアルミニウム合金材2との異種金属同士を、間接的に高い接合強度で接合することができる。また、本実施形態に係る製造方法によると、余盛高さ率が所定の値以下となるまでレーザの追加照射又は条件の選択を実施している。したがって、溶接金属4中のブローホール率が低減され、強度が高い異種金属接合継手を製造することができる。
【0057】
[異種金属接合継手]
本発明は、上記異種金属接合継手の製造方法により製造された異種金属接合継手にも関する。図3を参照して、本発明の実施形態に係る異種金属接合継手について説明する。
【0058】
本実施形態に係る異種金属接合継手10は、アルミニウム合金材2と、アルミニウム合金材2の表面の少なくとも一部に設けられた低温溶射皮膜1と、低温溶射皮膜1に接するように配置された鋼材3と、低温溶射皮膜1と鋼材3とを接合する溶接金属4と、を有する。溶接金属4は、鋼材3における低温溶射皮膜1に接する面と反対側の面から、低温溶射皮膜1に到達するように形成されており、鋼材3の表面から突出した余盛5を有する。
【0059】
また、余盛5の高さをH(mm)、溶接金属4を有する領域における鋼材3の厚さをTs(mm)、低温溶射皮膜1の厚さをTf(mm)とした場合に、式A:(H/(Ts+Tf))×100により算出される余盛高さ率が15(%)以下である。
【0060】
このように構成された本実施形態に係る異材接合継手において、低温溶射皮膜1は、純鉄等の金属粉末をアルミニウム合金材2の表面に高速で噴射して形成されたものであるため、低温溶射皮膜1とアルミニウム合金材2とは、アンカー効果によって機械的に締結され、強固に結合されている。また、低温溶射皮膜1と鋼材3とは溶接金属4により強固に接合されているため、鋼材3とアルミニウム合金材2との異種金属同士を、間接的に高い接合強度で接合されている。また、本実施形態によると、余盛高さ率が所定の値以下となっている。したがって、溶接金属4中のブローホール率が低減され、継手強度を向上させることができる。
【0061】
次に、本実施形態に係る異種金属接合継手の検査方法、異種金属接合継手の製造方法及び異種金属接合継手において、低温溶射皮膜1、その材料となる金属粉末、アルミニウム合金材2、鋼材3及びレーザ照射時の溶接条件について、以下に詳細に説明する。
【0062】
<金属粉末の金属種:純鉄、炭素鋼、フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金、コバルト及びコバルト合金から選択された少なくとも1種>
低温溶射皮膜1と鋼材3とをレーザ溶接により接合するためには、低温溶射皮膜1の材料として、鋼材3と所望の接合強度で溶接することができると共に、溶接金属4の特性が良好となる金属材料を選択することが重要である。よって、低温溶射皮膜1の形成に用いる金属粉末としては、純鉄、炭素鋼、フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金、コバルト及びコバルト合金から選択された少なくとも1種の金属を含む粉末を使用する。
【0063】
なお、本明細書において、純鉄とは、工業用として容易に入手が可能であり、純度が99.9質量%以上のものを表す。また、炭素鋼とは、鉄と炭素を主成分とし,ケイ素,マンガン及び不純物リン,硫黄,銅を微量に含む鉄鋼材料を表す。なお、ニッケル合金としては、通称インコネル合金、インコロイ合金、ハステロイ合金と呼ばれるNiを主成分として、Mo、Fe、Co、Cr、Mnなどを適当量添加した合金を用いることができる。
【0064】
<金属粉末の平均粒子径及び形状>
低温溶射皮膜1の材料となる金属粉末の平均粒子径については特に限定されないが、低温溶射時のガス圧を1MPa以下の低圧条件とした場合には、例えば20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。
一方、ガス圧を1MPa~5MPaの高圧条件とした場合には、例えば50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。
金属粉末の粒子形状についても特に限定されないが、流動性の観点から球状であることが好ましい。
【0065】
<作動ガスの種類>
低温溶射皮膜1を形成する際に使用するガスについては特に限定されないが、一般的には、空気、窒素、ヘリウムまたはそれらの混合ガスを用いて行われる。一方、低温溶射皮膜が酸化すると、レーザ溶接性に悪影響を及ぼすおそれがあるため、ガス種として窒素やヘリウムを用いるのが好ましい。
【0066】
<作動ガスの温度>
低温溶射皮膜1を形成する際に使用するガスの温度が高い場合には、溶射ノズルで粉末が閉塞するおそれがある。したがって、作動ガスの温度は、低温溶射皮膜1を形成する際に用いられる金属粉末の融点よりも低い温度とすることが好ましい。
【0067】
<低温溶射皮膜の膜厚>
低温溶射皮膜1の膜厚が0.3mm未満であると、溶接後に特に剥離方向の強度を得にくい。そこで、低温溶射皮膜1の膜厚を0.3mm以上とすることにより、強度に優れた継手を得ることが可能となる。よって、低温溶射皮膜の膜厚は0.3mm以上であることが好ましく、0.6mm以上であることがより好ましい。
一方、低温溶射皮膜1の膜厚が3mmを超えると、成膜時間が長くなり、製造コストが上昇するおそれがある。従って、低温溶射皮膜1の膜厚は3mm以下であることが好ましく、2mm以下であることがより好ましい。
【0068】
<アルミニウム又はアルミニウム合金材>
アルミニウム又はアルミニウム合金材についても特に限定されないが、自動車等に用いる部材に適用する場合には、強度の観点から、2000系、5000系、6000系、7000系等のアルミニウム合金材を用いることが好ましい。なお、本実施形態においては、鋼材3側からの片側施工による溶接が可能なレーザ溶接を用いることから、自動車等の分野で多用される閉断面の押出材であっても問題なく使用することができる。
【0069】
<鋼材>
鋼材3としては、一般的に鉄鋼と呼ばれる金属からなる部材であれば特に限定されない。ただし、近年、自動車のボディ骨格等に用いられる鋼板としては、車体軽量化や衝突安全性強化を目的として高張力鋼材(ハイテン材)等が多用されている。鋼材とアルミニウム又はアルミニウム合金材の異材接合法として普及している機械的接合法では、引張強度が590MPa以上の鋼板に適用することが困難である。よって、引張強度が590MPa以上の高張力鋼板において本発明は特に有効である。
【0070】
<レーザ照射時の溶接条件>
本実施形態において、アルミニウム合金材2への熱影響をより最小限に抑えるためには、低温溶射皮膜1及び鋼材3のみを溶融させるよう、適切な溶接条件を選択することが好ましい。本実施形態においては、余盛高さ率を所望の値に制御する条件として、レーザ入熱量を調整することが好ましく、具体的には、レーザ出力、溶接速度及びワーク表面におけるビーム集光直径を種々に変化させることにより、余盛高さ率を制御することができる。なお、低温溶射皮膜を用いた異種金属接合継手の製造において、一般的には、パワー密度(レーザ出力/ワーク表面におけるビーム面積)を1.0×10~1.0×107(W/cm)、投入エネルギー(レーザ出力/(ワーク表面におけるビーム集光直径×溶接速度))を1.0×10~1.0×10(J/cm)の範囲で選択することが好ましい。
【実施例0071】
以下、本実施形態に係る異種金属接合継手の検査方法の実施例について、具体的に説明する。
まず、アルミニウム合金板の表面に、純鉄又はニッケルからなる金属粉末を低温溶射して、低温溶射皮膜を形成した。次に、得られた低温溶射皮膜と鋼板とが対向するように、アルミニウム合金板と鋼板とを重ね合わせて配置した。その後、鋼板側、すなわち鋼板における、金属皮膜に接する面と反対側の面からレーザを照射することにより、鋼板の一部と低温溶射皮膜の一部とを溶融させ、溶接金属を形成し、鋼板とアルミニウム合金板とを接合して、異材接合構造体を製造した。なお、レーザの照射はガルバノスキャナにより制御し、直線状に溶接した。
【0072】
供試材の種類等、低温溶射皮膜の形成条件及びレーザ溶接条件を以下に示す。
【0073】
[供試材]
アルミニウム合金板:AA7204(引張強度350MPa級)、板厚3mm
鋼板:高張力鋼板(引張強度980~1500MPa級)
【0074】
[低温溶射皮膜の形成条件]
ガス種:窒素
ガス圧:5MPa
ガスの温度:1000℃
金属粉末:鉄粉、ニッケル粉
金属粉末の平均粒子径:20~50μm
【0075】
[レーザ溶接条件]
熱源:ファイバーレーザ
速度:4m/min
ワーク表面でのビーム集光直径:0.40~0.61mm
シールドガス:なし
【0076】
その後、得られた異材接合構造体に対して、断面マクロ写真を撮影し、断面マクロ写真から余盛の高さHを測定するとともに、鋼板の厚さTsと低温溶射皮膜の厚さTfとを用いて、下記式Aにより余盛高さ率を算出した。また、断面マクロ写真から溶接金属全体の面積Swとブローホールの面積Sbとを測定し、下記式Bによりブローホール率を算出した。
【0077】
式A:(H/(Ts+Tf))×100
式B:(Sb/Sw)×100
【0078】
種々の条件、測定結果及び算出結果を下記表1に示す。
なお、下記表1に示すブローホール率において、0(%)とは、全くブローホールが存在しなかったものを示す。
【0079】
【表1】
【0080】
図4は、縦軸を余盛高さ率とし、横軸をブローホール率とした場合の、余盛高さ率とブローホール率との関係を示すグラフ図である。上記表1及び図4に示すように、低温溶射皮膜の種類、厚さ、鋼材の厚さ及び溶接条件にかかわらず、余盛高さ率が上昇するにしたがって、ブローホール率が増加することが示された。また、上記表1に示すように、余盛高さ率が例えば15.0%以下である試験材No.1~15は、ブローホール率が20%以下となり、高強度の異種金属接合継手が製造されていると判断することができた。特に、余盛高さ率が例えば12.0%以下である試験材No.1~13は、ブローホール率が1.5%以下であって、ブローホールが著しく低減されており、より一層高強度の異種金属接合継手が製造されていると判断することができた。
【0081】
なお、上記表1によると、余盛の高さHとブローホール率とは、ある程度の相関性が認められる。しかし、例えば、試験材No.21は余盛の高さHが0.44(mm)であるのに対し、試験材No.15は0.49(mm)であり、試験材No.15の方が余盛の高さHが高くなっているが、余盛高さ率が15.0%以下であって、ブローホール率は20%以下であり、試験材No.21と比較して高強度の異種金属接合継手が得られている。この結果から、単に余盛の高さHを比較するのみでは、ブローホール率を判断することはできず、余盛高さ率によりブローホール率を判断する本発明は、極めて有効な手段であることが示された。
【符号の説明】
【0082】
1 低温溶射皮膜
2 アルミニウム合金材
3 鋼材
4 溶接金属
5 余盛
6 ブローホール
10 異種金属接合継手
図1
図2
図3
図4