(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150981
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】負イオン生成装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/08 20060101AFI20231005BHJP
H01J 37/244 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
H01J37/08
H01J37/244
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060352
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】北見 尚久
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101DD03
5C101DD34
5C101GG20
5C101GG23
5C101GG28
5C101HH50
(57)【要約】
【課題】適切なタイミングで対象物に負イオンを照射できる負イオン生成装置を提供する。
【解決手段】負イオン生成装置1は、チャンバ2内においてプラズマPを生成することで、負イオンを生成する負イオン生成部4を備えている。従って、負イオン生成部4がプラズマPを停止した後に、負イオンを基板11に対して照射可能となる。ここで、負イオン生成装置1は、プラズマPの生成及び消失を検出する検出部40を備える。従って、負イオン生成装置1は、検出部40によってプラズマPの消失を確認した後で、基板11へ負イオンを照射することが可能となる。これにより、適切なタイミングで負イオン照射を行うことができる。以上より、適切なタイミングで基板11に負イオンを照射できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負イオンを生成して対象物に照射する負イオン生成装置であって、
内部で前記負イオンの生成が行われるチャンバと、
前記チャンバ内においてプラズマを生成することで、前記負イオンを生成する負イオン生成部と、
前記プラズマの生成及び消失を検出する検出部と、を備える、負イオン生成装置。
【請求項2】
前記検出部は、前記チャンバ内における光量を検出する光検出素子を有する、請求項1に記載の負イオン生成装置。
【請求項3】
前記光検出素子は、前記チャンバのビューポートに取り付けられている、請求項2に記載の負イオン生成装置。
【請求項4】
前記検出部の検出結果に基づいて動作を停止する、請求項1~3の何れか一項に記載の負イオン生成装置。
【請求項5】
前記検出部は、前記負イオン生成装置内の所定の箇所の電圧を検出する、請求項1~4の何れか一項に記載の負イオン生成装置。
【請求項6】
前記検出部は、前記チャンバ内の圧力を検出する、請求項1~5の何れか一項に記載の負イオン生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負イオン生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、負イオン生成装置として、特許文献1に記載されたものが知られている。この負イオン生成装置は、チャンバ内へ負イオンの原料となるガスを供給するガス供給部と、チャンバ内において、プラズマを生成することで負イオンを生成する負イオン生成部と、を備えている。負イオン生成部は、プラズマによってチャンバ内で負イオンを生成することで、当該負イオンを対象物へ照射している。負イオン生成装置は、プラズマをOFFとしたタイミングで、対象物へ負イオンを照射している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述のような負イオン生成装置は、プラズマが停止された後のチャンバ内の電位を測定し、測定結果に基づいて負イオンを対象物に照射する適切なタイミングを把握している。しかしながら、このような電位の測定プローブを組み込むには、チャンバ内への真空導入機構などが必要となり、検出にも煩雑さが生じるという問題がある。これに対し、プラズマOFFの制御を行った後、所定の遅延時間の経過後に、対象物へ負イオンを照射する場合がある。しかしながら、このような負イオン生成装置においては、プラズマOFFの制御を行った後も、プラズマが消失せずにプラズマONの状態が継続する場合がある。当該場合に対象物へ負イオンを照射しようとした場合、対象物や装置にダメージが及ぼされる可能性がある。
【0005】
そこで本発明は、適切なタイミングで対象物に負イオンを照射できる負イオン生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る負イオン生成装置は、負イオンを生成して対象物に照射する負イオン生成装置であって、内部で負イオンの生成が行われるチャンバと、チャンバ内においてプラズマを生成することで、負イオンを生成する負イオン生成部と、プラズマの生成及び消失を検出する検出部と、を備える。
【0007】
本発明に係る負イオン生成装置は、チャンバ内においてプラズマを生成することで、負イオンを生成する負イオン生成部を備えている。従って、負イオン生成部がプラズマを停止した後に、負イオンを対象物に対して照射可能となる。ここで、負イオン生成装置は、プラズマの生成及び消失を検出する検出部を備える。従って、負イオン生成装置は、検出部によってプラズマの消失を確認した後で、対象物へ負イオンを照射することが可能となる。以上より、適切なタイミングで対象物に負イオンを照射できる。
【0008】
検出部は、チャンバ内における光量を検出する光検出素子を有してよい。プラズマが生成されているときはプラズマ光が必ず発生し、プラズマの消失に伴い、その光は減少していく。従って、検出部は、光検出素子によってプラズマ光を監視することで、正確にプラズマの消失を検出できる。
【0009】
光検出素子は、チャンバのビューポートに取り付けられていてよい。この場合、光検出素子は、チャンバの外側からプラズマの消失を検出することができる。そのため、光検出素子を容易に装置に組み込むことができる。
【0010】
負イオン生成装置は、検出部の検出結果に基づいて動作を停止してよい。この場合、プラズマOFFの制御をしたにも関わらずプラズマの消失が検出されない場合、装置に異常があるものとみなして、動作を停止することができる。これにより、動作停止後にメンテナンス等を行うことができる。
【0011】
検出部は、負イオン生成装置内の所定の箇所の電圧を検出してよい。この場合、光検出素子などを追加しなくともプラズマの消失を検出することが可能となる。
【0012】
検出部は、チャンバ内の圧力を検出してよい。この場合、光検出素子などを追加しなくとも、既存の圧力計などを用いてプラズマの消失を検出することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、適切なタイミングで対象物に負イオンを照射できる負イオン生成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係る負イオン生成装置の構成を示す概略断面図である。
【
図2】プラズマPのON/OFFのタイミングと正イオン及び負イオンの対象物への飛来状況を示すグラフである。
【
図3】陽極の電圧Vの時間変化と、光検出素子によって検出信号、すなわち光量の時間変化を示す。
【
図4】プラズマがONの状態でバイアス電圧をかけた場合の不具合について説明するための図である。
【
図5】各箇所の電圧の時間変化を示すグラフである。
【
図6】陽極と陰極との間の電圧の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら本発明の一実施形態に係る負イオン生成装置について説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
まず、
図1を参照して、本発明の実施形態に係る負イオン生成装置の構成について説明する。
図1は、本実施形態に係る負イオン生成装置の構成を示す概略断面図である。なお、説明の便宜上、
図1には、XYZ座標系を示す。X軸方向は、対象物である基板の厚さ方向である。Y軸方向及びZ軸方向は、X軸方向と直交すると共に互いに直交する方向である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の負イオン生成装置1は、チャンバ2、対象物配置部3、負イオン生成部4、ガス供給部6、回路部7、電圧印加部8、及び制御部50を備えている。
【0018】
チャンバ2は、基板11(対象物)を収納し負イオンの照射処理を行うための部材である。チャンバ2は、内部で負イオンの生成が行われる部材である。チャンバ2は、導電性の材料からなり接地電位に接続されている。
【0019】
チャンバ2は、X軸方向に対向する一対の壁部2a,2bと、Y軸方向に対向する一対の壁部2c,2dと、Z軸方向に対向する一対の壁部(不図示)と、を備える。なお、X軸方向の負側に壁部2aが配置され、正側に壁部2bが配置される。Y軸方向の負側に壁部2cが配置され、正側に壁部2dが配置される。
【0020】
対象物配置部3は、負イオンの照射対象物となる基板11を配置させる。対象物配置部3は、チャンバ2の壁部2aに設けられる。対象物配置部3は、載置部材12と、接続部材13と、を備える。載置部材12及び接続部材13は、導電性の材料によって構成される。載置部材12は、載置面12aに基板11を載置するための部材である。載置部材12は、壁部2aに取り付けられて、チャンバ2の内部空間内に配置される。載置面12aは、X軸方向と直交するように広がる平面である。これにより、基板11は、X軸方向と直交するように、ZY平面と平行となるように、載置面12a上に載置される。接続部材13は、載置部材12と電圧印加部8とを電気的に接続する部材である。接続部材13は、壁部2aを貫通してチャンバ2外まで延びている。載置部材12及び接続部材13は、チャンバ2とは絶縁されている。
【0021】
本実施形態では、負イオン照射の対象となる基板11として、絶縁物の材料が採用されてよい。絶縁物の基板11として、例えば、ガラス基板、SiO2、SiON、AlN、Al2O3、Si3N4などのファインセラミックス、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、テフロン(登録商標)・フッ素樹脂など樹脂が入った基板、ポリイミド、PETなどのフレキシブル基板の材料が挙げられる。また、基板11として、金属板、導電性基板、半導体など採用可能である。
【0022】
続いて、負イオン生成部4の構成について詳細に説明する。負イオン生成部4は、チャンバ2内において、プラズマ及び電子を生成し、これによって負イオン及びラジカル等を生成する。負イオン生成部4は、プラズマガン14と、陽極16と、を有している。
【0023】
プラズマガン14は、例えば圧力勾配型のプラズマガンであり、その本体部分がチャンバ2の壁部2cに設けられて、チャンバ2の内部空間に接続されている。プラズマガン14はガス供給部(不図示)を有しており、ArやHeなどの希ガスを供給しプラズマを生成している。プラズマガン14は、チャンバ2内でプラズマPを生成する。プラズマガン14において生成されたプラズマPは、プラズマ口からチャンバ2の内部空間へビーム状に出射される。これにより、チャンバ2の内部空間にプラズマPが生成される。
【0024】
陽極16は、プラズマガンからのプラズマPを所望の位置へ導く機構である。陽極16は、プラズマPを誘導するための電磁石を有する機構である。陽極16は、チャンバの壁部2dに設けられて、プラズマガン14とY軸方向に向かい合う位置に配置されている。これにより、プラズマPは、プラズマガン14から出射されてY軸方向の正側へ向かいながらチャンバ2の内部空間で広がった後、収束しながら陽極16へ導かれる。なお、プラズマガン14と陽極16との位置関係は、上述のものに限定されず、負イオンを生成することができる限り、どのような位置関係が採用されてもよい。
【0025】
ガス供給部6は、チャンバ2の外部に配置されている。ガス供給部6は、壁部2dに形成されたガス供給口26を通し、チャンバ2内へガスを供給する。ガス供給口26は、負イオン生成部4と対象物配置部3との間に形成される。ここでは、ガス供給口26は、壁部2dのX軸方向の負側の端部と、陽極16との間の位置に形成される。ただし、ガス供給口26の位置は、特に限定されない。ガス供給部6は、負イオンの原料となるガスを供給する。ガスとして、例えば、O-などの負イオンの原料となるO2、NH-などの窒化物の負イオンの原料となるNH2、NH4、その他、C-やSi-などの負イオンの原料となるC2H6、SiH4などが採用される。なお、ガスは、Arなどの希ガスも含む。
【0026】
回路部7は、可変電源30と、第1の配線31と、第2の配線32と、抵抗器R1~R3と、スイッチSW1と、を有している。可変電源30は、接地電位にあるチャンバ2を挟んで、負電圧をプラズマガン14の陰極21に、正電圧を陽極16に印加する。これにより、可変電源30は、プラズマガン14の陰極21と陽極16との間に電位差を発生させる。第1の配線31は、プラズマガン14の陰極21を、可変電源30の負電位側と電気的に接続している。第2の配線32は、陽極16を、可変電源30の正電位側と電気的に接続している。抵抗器R1は、第1の中間電極22と可変電源30との間において直列接続されている。抵抗器R2は、第2の中間電極23と可変電源30との間において直列接続されている。抵抗器R3は、チャンバ2と可変電源30との間において直列接続されている。スイッチSW1は、制御部50からの指令信号を受信することにより、ON/OFF状態が切り替えられる。スイッチSW1は、抵抗器R2に並列接続されている。スイッチSW1は、プラズマPを生成するときはOFF状態とされる。一方、スイッチSW1は、プラズマPを停止するときはON状態とされる。
【0027】
電圧印加部8は、基板11にバイアス電圧を印加する。電圧印加部8は、基板11にバイアス電圧を印加する電源36と、電源36と対象物配置部3とを接続する第3の配線37と、第3の配線37に設けられたスイッチSW2とを有している。電源36は、バイアス電圧として、正の電圧を印加する。第3の配線37は、一端が電源36の正電位側に接続されていると共に、他端が接続部材13に接続されている。これにより、第3の配線37は、電源36と基板11とを、接続部材13及び載置部材12を介して電気的に接続する。スイッチSW2は、制御部50によってそのON/OFF状態が切り替えられる。スイッチSW2は、負イオン生成時に所定のタイミングでON状態とされる。スイッチSW2がON状態とされると、接続部材13と電源36の正電位側とが互いに電気的に接続され、接続部材13にバイアス電圧が印加される。一方、スイッチSW2は、負イオン生成時における所定のタイミングにおいてOFF状態とされる。スイッチSW2がOFF状態とされると、接続部材13と電源36とが互いに電気的に切断され、接続部材13にはバイアス電圧が印加されず、接続部材13は浮遊状態となる。なお、電圧印加部8の更に詳細な構成については、後述する。
【0028】
制御部50は、負イオン生成装置1全体を制御する装置であり、装置全体を統括的に管理するECU[Electronic Control Unit]を備えている。ECUは、CPU[Central Processing Unit]、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random Access Memory]、CAN[Controller Area Network]通信回路等を有する電子制御ユニットである。ECUでは、例えば、ROMに記憶されているプログラムをRAMにロードし、RAMにロードされたプログラムをCPUで実行することにより各種の機能を実現する。ECUは、複数の電子ユニットから構成されていてもよい。
【0029】
制御部50は、チャンバ2の外部に配置されている。また、制御部50は、ガス供給部6によるガス供給を制御するガス供給制御部51と、負イオン生成部4によるプラズマPの生成を制御するプラズマ制御部52と、電圧印加部8によるバイアス電圧の印加を制御する電圧制御部53と、を備えている。制御部50は、プラズマPの生成と停止を繰り返す間欠運転を行うように、制御を行う。
【0030】
プラズマ制御部52の制御により、スイッチSW1がOFF状態とされているとき、プラズマガン14からのプラズマPがチャンバ2内に出射されるため、チャンバ2内にプラズマPが生成される。プラズマPは、中性粒子、正イオン、負イオン(酸素ガスなどの負性気体が存在する場合)、及び電子を構成物質としている。プラズマ制御部52の制御によりスイッチSW1がON状態とされているとき、プラズマガン14からのプラズマPがチャンバ2内に出射されないのでチャンバ2内におけるプラズマPの電子温度が急激に低下する。このため、チャンバ2内に供給されたガスの粒子に、電子が付着し易くなる。これにより、生成室10b内には、負イオンが効率的に生成される。電圧制御部53は、プラズマPが停止しているタイミングで、電圧印加部8を制御して基板11に正のバイアス電圧を付与する。これにより、チャンバ2内の負イオンが基板11へ導かれ、負イオンが基板11へ照射される。
【0031】
図2は、プラズマPのON/OFFのタイミングと正イオン及び負イオンの対象物への飛来状況を示すグラフである。図中、「ON」と記載されている領域はプラズマPの生成状態を示し、「OFF」と記載されている領域はプラズマPの停止状態を示す。時間t1のタイミングで、プラズマPが停止される。プラズマPの生成中は、正イオンが多く生成される。このとき、チャンバ2中に電子も多く生成される。そして、プラズマPが停止されると、正イオンが急激に減少する。このとき、電子も減少する。負イオンは、プラズマPの停止後、所定時間経過した時間t2から急激に増加し、時間t3にてピークとなる。なお、正イオン及び電子は、プラズマPの停止後から減少してゆき時間t3付近で、正イオンは負イオンと同量となり、電子はほとんど無くなる。
【0032】
ここで、
図1に示すように、負イオン生成装置1は、プラズマPの生成及び消失を検出する検出部40を備える。検出部40は、光検出素子41と、制御部50のプラズマ監視部54と、を有する。
【0033】
光検出素子41は、チャンバ2内における光量を検出する素子である。光検出素子41は、例えば、遅延の少ないフォトダイオードが望ましいが、フォトダイオードの信号を増幅するための回路に遅延がある場合は、増幅器を内蔵した光学素子であるフォトトランジスタを用いてもよい。光検出素子41としてフォトダイオードを用いる場合、光に対する遅延が少ないが、得られる信号強度が低いという特徴がある。光検出素子41として、フォトダイオードと増幅器の組み合わせを用いる場合、フォトダイオードの信号を増幅器で増幅することができる。光検出素子41として、フォトトランジスタを用いる場合、増幅する分、遅延が発生するが、信号強度が高いというメリットがある。応答速度は、フォトダイオード単品が最も速く、「フォトダイオード+増幅器」及びフォトトランジスタが略同程度である。信号強度は、フォトダイオード単品が最も弱く、「フォトダイオード+増幅器」及びフォトトランジスタが略同程度である。
【0034】
光検出素子41は、チャンバ2のビューポート42に取り付けられている。ビューポート42は、チャンバ2の壁部に形成された覗き窓であり、チャンバ2の外部から内部の様子を視覚的に確認することができる部分である。ビューポート42は、チャンバ2の壁部に設けられた光透過性部材を有している。光検出素子41は、チャンバ2の外側に設けられ、ビューポート42の光透過性部材を介して、チャンバ2内の光量を検出する。光検出素子41は、検出した信号を制御部50へ送信する。
【0035】
制御部50のプラズマ監視部54は、光検出素子41で検出された信号に基づいて、チャンバ2内のプラズマPを監視する。プラズマ監視部54は、光検出素子41で検出された光量が所定値以上である場合、チャンバ2内でプラズマPが生成されていることを検出する。プラズマ監視部54は、光検出素子41で検出された光量が減少することで、所定の閾値以下となった場合、チャンバ2内でプラズマPが消失したことを検出する。
【0036】
例えば、
図3は、陽極16の電圧Vの時間変化と、光検出素子41によって検出信号、すなわち光量PTの時間変化を示す。
図3に示すように、プラズマ制御部52がプラズマPをOFFとしたタイミングで、光量PTが急激に低下している。プラズマ監視部54は、光量PTが所定の閾値TH以下となったタイミングで、プラズマPが消失したことを検出する。電圧制御部53は、プラズマ制御部52がプラズマPを停止する制御を行い、プラズマ監視部54がプラズマPの消失を検出した後のタイミングにて、電圧印加部8を制御して基板11に正のバイアス電圧を付与する。これにより、プラズマPが消失した後のチャンバ2内にて、負イオンが基板11へ導かれ、負イオンが基板11へ照射される。例えば、電圧制御部53は、プラズマPがOFFとなっており、負イオンがチャンバ内に多く存在している時間領域E1(
図2参照)のタイミングで、バイアス電圧を印加する。
【0037】
また、プラズマ監視部54は、検出部40の検出結果に基づいて負イオン生成装置1を停止する。例えば、プラズマ監視部54は、プラズマ制御部52がプラズマPをOFFとして所定時間経過しても、プラズマPの消失を検出できない場合、負イオン生成部4を停止する。
【0038】
次に、本実施形態に係る負イオン生成装置1の作用・効果について説明する。
【0039】
本実施形態に係る負イオン生成装置1は、チャンバ2内においてプラズマPを生成することで、負イオンを生成する負イオン生成部4を備えている。従って、負イオン生成部4がプラズマPを停止した後に、負イオンを基板11に対して照射可能となる。ここで、負イオン生成装置1は、プラズマPの生成及び消失を検出する検出部40を備える。従って、負イオン生成装置1は、検出部40によってプラズマPの消失を確認した後で、基板11へ負イオンを照射することが可能となる。これにより、適切なタイミングで負イオン照射を行うことができる。以上より、適切なタイミングで基板11に負イオンを照射できる。
【0040】
例えば、実際にプラズマPがOFFになっていない状況で電圧制御部53が基板11にバイアス電圧を印加すると、基板11が損傷したり装置が故障するなどの不具合が生じる。プラズマPがONの状態でバイアス電圧をかけた場合の不具合の一例について、
図4を参照して説明する。
図4(a)は低バイアス電圧をかけた場合の負イオン密度等の時間変化を示すグラフであり、
図4(b)は高バイアス電圧をかけた場合の負イオン密度等の時間変化を示すグラフである。ここでは、プラズマOFFの時間t0の時点からバイアス電圧をかけたと仮定する。時間t0は電荷バランスで決定され,電子が多いと大きくなる。つまり、低バイアス時に比べて高バイアス時の方が残留電子を一時的に集めてしまうため負イオンフラックスの立ち上がりがその分遅延する。低バイアスのタイミングで,高バイアス電圧を印加すると電子の方が多いので大電流が流れることになる。放電電流も同様な事が起こり,高電流側は時間t0が大きくなり,かつ低電流時 (低バイアス) の立ち上がり後のピークが無くなり平坦な負イオンフラックスになる。
図4(c)に示すように、高バイアス時のΔtではCCモードとなり、その後にCVモードとなる。
【0041】
バイアス毎に、電子を集め過ぎたり、負イオン電流が流れすぎた場合に、バイアス電源がCVモードではなく、CCモードになったりする場合がある。仮に、プラズマONの時にバイアス電圧をかけると電源側の電流制限が働き、CCモードに移行するので、電圧のかかり方は、
図4で示すものより更に変化を生じる可能性がある。この場合の問題としては、保護回路が働いて電圧が一定にかけられないので、負イオン照射処理が不均一となる。また、バイアス電源に電流が流れすぎて電圧がかからずにCCモードに移行して、電源がある程度耐えたとしても、バイアス電源出力の切替器がダメージを受ける可能性がある。
【0042】
これに対し、負イオン生成装置1は、プラズマPが消失したことを確実に確認した後でバイアス電圧を印加できるため、前述のような不具合が生じない、適切なタイミングで負イオン照射を行うことができる。以上より、適切なタイミングで基板11に負イオンを照射できる。
【0043】
検出部40は、チャンバ2内における光量を検出する光検出素子41を有してよい。プラズマPが生成されているときはプラズマ光が必ず発生し、プラズマPの消失に伴い、その光は減少していく。従って、検出部40は、光検出素子41によってプラズマ光を監視することで、正確にプラズマPの消失を検出できる。
【0044】
光検出素子41は、チャンバ2のビューポート42に取り付けられていてよい。この場合、光検出素子41は、チャンバ2の外側からプラズマPの消失を検出することができる。そのため、光検出素子41を容易に装置に組み込むことができる。例えば、既存の負イオン生成装置1に対して、ビューポート42の位置に光検出素子41を貼り付けて制御部50に信号を入力すれば検出部40を後付けで容易に構築することができる。
【0045】
負イオン生成装置1は、検出部40の検出結果に基づいて動作を停止してよい。この場合、プラズマOFFの制御をしたにも関わらずプラズマPの消失が検出されない場合、装置に異常があるものとみなして、動作を停止することができる。これにより、動作停止後にメンテナンス等を行うことができる。
【0046】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0047】
例えば、上述の実施形態では、光検出素子41は、ビューポート42に設けられていたが、光検出素子41を設ける位置は特に限定されない。例えば、チャンバ2内に光検出素子41を設けてもよい。また、ビューポート42の位置はプラズマ光が見える位置であれば限定されない。光検出素子41の位置についても同様である。
【0048】
上述の実施形態では、検出部40は、光検出素子41を用いていたが、光検出素子41を用いなくともよい。例えば、検出部40は、負イオン生成装置1内の所定の箇所の電圧を検出してよい。この場合、光検出素子41などを追加しなくともプラズマPの消失を検出することが可能となる。ただし、検出部40は、光検出素子41と電圧による検出を併用してもよく、この場合はより正確にプラズマPの消失を検出することができる。
【0049】
図5(a)(b)に示すように、負イオン生成装置1の各部位における電圧は、プラズマONからプラズマOFFとなったタイミングで電圧が変化している。なお、
図1に示す負イオン生成装置1は、主ハース及び輪ハースを有していないが、このような材料を保持すると共にプラズマを導く主ハースと、主ハースの周囲に設けられた輪ハースを有してもよい。
【0050】
検出部40は、主ハース(陽極)の電圧に基づいて検出を行ってよい。主ハースの電圧が、例えば、+25Vあたりから+10Vに電圧降下する場合、閾値をこれらの電圧の間(例えば+20V)に設定すればよい。検出部40は、プラズマOFF信号を検出し、且つ、電圧値が閾値以下となったことを条件として、プラズマPの消失を検出してよい。
【0051】
検出部40は、第2の中間電極23の電圧に基づいて検出を行ってよい。第2の中間電極23が、例えば、-5Vあたりから+10Vあたりに電圧上昇する場合、閾値をこれらの電圧の間に(例えば0V)に設定すればよい。検出部40は、プラズマOFF信号を検出し、電圧値が閾値以上となったことを条件として、プラズマPの消失を検出してよい。
【0052】
検出部40は、輪ハースの電圧に基づいて検出を行ってよい。輪ハースの電圧の変動は少ないが、プラズマOFF時に負にピークが立ち、プラズマON時に正にピークが立つ。検出部40は、当該変動に基づいて検出を行ってよい。
【0053】
検出部40は、陰極21の電圧に基づいて検出を行ってよい。陰極21は基本的に負電圧であり、プラズマON時より、プラズマOFFの方が電圧の絶対値が小さくなるので、例えば、検出部40は、-30Vより0Vに近づいたことを条件として、プラズマPの消失を検出してよい。
【0054】
陽極16と陰極21を短絡することで、プラズマPの導入/非導入を行っているので、
図6のグラフ(A参照)に示すように、非導入時は両電極間電位がほぼ0になる。よって、検出部40は、電圧が0VになったタイミングでプラズマPの消失を検出してよい。
【0055】
検出部40は、プラズマON時に加熱され、プラズマOFF時に冷えるチャンバ2の壁部の温度に基づいて検出してもよい。
【0056】
また、検出部40は、チャンバ2内の圧力を検出してよい。この場合、光検出素子41などを追加しなくとも、既存の圧力計などを用いてプラズマPの消失を検出することが可能となる。ただし、検出部40は、光検出素子41と圧力による検出を併用してもよく、この場合はより正確にプラズマPの消失を検出することができる。
【0057】
チャンバ2は、プラズマON時は加熱されるので、圧力が上がり、プラズマOFF時は圧力が下がる。検出部40は、例えば、応答性のよい隔膜式圧力計等を用いて圧力を検出してよい。あるいは、通常電離真空計は、プラズマPの電子とイオンが入らない様に金網をおいて設置したり、エルボー配管などを介して接続しているが、わざとそれらの対策をしないことにより、圧力を検出してよい。電離真空計は、残留ガスをイオン化させて、その電流値を見ているので、電子やイオンが流入すると、多くの残留ガスをイオン化させたと判断するので、圧力が高い数値になってしまう。検出部40は、電離真空計の当該性質を利用すれば、プラズマPの消失を検出することができる。
【0058】
例えば、上記実施形態では、プラズマガン14を圧力勾配型のプラズマガンとしたが、プラズマガン14は、チャンバ2内にプラズマを生成できればよく、圧力勾配型のものには限られない。
【0059】
また、上記実施形態では、プラズマガン14とプラズマPを導く陽極16の組がチャンバ2内に一組だけ設けられていたが、複数組設けてもよい。また、一箇所に対して、複数のプラズマガン14からプラズマPを供給してもよい。
【符号の説明】
【0060】
1…負イオン生成装置、2…チャンバ、4…負イオン生成部、11…基板(対象物)、40…検出部、41…光検出素子、42…ビューポート。