(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150991
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】折板屋根構造
(51)【国際特許分類】
E04D 3/00 20060101AFI20231005BHJP
E04D 3/362 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
E04D3/00 B
E04D3/362 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060367
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000207436
【氏名又は名称】日鉄鋼板株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 真司
【テーマコード(参考)】
2E108
【Fターム(参考)】
2E108AA05
2E108AS02
2E108AZ01
2E108BB04
2E108BN06
2E108CC02
2E108DF07
2E108ER14
2E108FF05
2E108GG00
(57)【要約】
【課題】複数の折板を接続してアーチ形状を実現する施工技術において高精度な施工が可能な折板屋根構造を提供する。
【解決手段】折板屋根構造30は、アーチ形状の一端から頂点に向けて並び、互いに接続される複数の第一折板13と、他端から頂点に向けて並び、互いに接続される複数の第二折板13と、端部第一折板13Bと端部第二折板13Cとに接続される頂点折板13Aと、を備えている。頂点折板13Aの第一接続部17Aは、折板13B、13Cの第一接続部17B、17Cに接続される部分に、頂点側に向けて切欠かれた頂点第一切欠き101A1、頂点第二切欠き101A2を有している。頂点第一切欠き101A1の長さL2aは、端部第一折板13Bの第一接続部17Bの第一切欠き101Bの長さL1aよりも長い。頂点第二切欠き101A2の長さL2bは、端部第二折板13Cの第一接続部17Cの第二切欠き101Cの長さL1bよりも長い。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーチ形状を形成する折板屋根構造であって、
前記アーチ形状の一端から頂点に向けて並び、互いに接続される複数の第一折板と、
前記アーチ形状の他端から前記頂点に向けて並び、互いに接続される複数の第二折板と、
前記複数の第一折板のうちの前記頂点側の端部に位置する端部第一折板と、前記複数の第二折板のうちの前記頂点側の端部に位置する端部第二折板とに接続される頂点折板と、を備え、
前記端部第一折板と前記端部第二折板と前記頂点折板のそれぞれは、
前記アーチ形状に沿った長さ方向に対して直交する幅方向の一端部に位置する第一接続部と、前記幅方向の他端部に位置する第二接続部とを有し、
前記端部第一折板の前記第一接続部は、前記一端側に隣接する他の前記第一折板の前記第一接続部に接続される部分に、前記第一折板同士の重なり範囲を確保するために前記頂点側に向けて切欠かれた第一切欠きを有し、
前記端部第二折板の前記第一接続部は、前記他端側に隣接する他の前記第二折板の前記第一接続部に接続される部分に、前記第二折板同士の重なり範囲を確保するために前記頂点側に向けて切欠かれた第二切欠きを有し、
前記頂点折板の前記第一接続部は、前記端部第一折板の前記第一接続部に接続される部分に、前記端部第一折板との重なり範囲を確保するために前記頂点側に向けて切欠かれた頂点第一切欠きを有し、前記端部第二折板の前記第一接続部に接続される部分に、前記端部第二折板との重なり範囲を確保するために前記頂点側に向けて切欠かれた頂点第二切欠きを有し、
前記頂点第一切欠きは、前記第一切欠きよりも前記長さ方向に長く、
前記頂点第二切欠きは、前記第二切欠きよりも前記長さ方向に長い、
折板屋根構造。
【請求項2】
前記頂点第一切欠きは前記第一切欠きより前記長さ方向に50mm以上長く、
前記頂点第二切欠きは前記第二切欠きより前記長さ方向に50mm以上長い、請求項1に記載の折板屋根構造。
【請求項3】
前記頂点第一切欠きは前記長さ方向に250mm以上であり、
前記頂点第二切欠きは前記長さ方向に250mm以上である、請求項1又は2に記載の折板屋根構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、折板屋根構造に関する。より詳細には、本開示は、アーチ形状を形成する折板屋根構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の折板屋根構造は、例えば、縦葺き材としての複数の折板を有している。複数の折板は、屋根勾配方向において、軒側から棟側に向かって順に連結されている。具体的には、軒側に配置される折板の棟側端部に、棟側に配置される折板の軒側端部が上方から重ねられている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、全体としてアーチ形状を有する折板屋根構造が従来から知られている。しかし、特許文献1には、複数の折板をアーチ形状に設置する具体的な手法が提案されていない。
【0005】
本開示は、上記事由に鑑みてなされており、複数の折板を接続してアーチ形状を実現する施工技術を高精度にできる折板屋根構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る折板屋根構造は、アーチ形状を形成する折板屋根構造である。前記折板屋根構造は、前記アーチ形状の一端から頂点に向けて並び、互いに接続される複数の第一折板と、前記アーチ形状の他端から前記頂点に向けて並び、互いに接続される複数の第二折板と、頂点折板とを備えている。前記頂点折板は、前記複数の第一折板のうちの前記頂点側の端部に位置する端部第一折板と、前記複数の第二折板のうちの前記頂点側の端部に位置する端部第二折板とに接続される。
【0007】
前記端部第一折板と前記端部第二折板と前記頂点折板のそれぞれは、前記アーチ形状に沿った長さ方向に対して直交する幅方向の一端部に位置する第一接続部と、前記幅方向の他端部に位置する第二接続部とを有している。
【0008】
前記端部第一折板の前記第一接続部は、他の前記第一折板の前記第一接続部に接続される部分に、前記第一折板同士の重なり範囲を確保するために前記頂点側に向けて切欠かれた第一切欠きを有している。
【0009】
前記端部第二折板の前記第一接続部は、他の前記第二折板の前記第一接続部に接続される部分に、前記第二折板同士の重なり範囲を確保するために前記頂点側に向けて切欠かれた第二切欠きを有している。
【0010】
前記頂点折板の前記第一接続部は、前記端部第一折板の前記第一接続部に接続される部分に、前記端部第一折板との重なり範囲を確保するために前記頂点側に向けて切欠かれた頂点第一切欠きを有し、前記端部第二折板の前記第一接続部に接続される部分に、前記端部第二折板との重なり範囲を確保するために前記頂点側に向けて切欠かれた頂点第二切欠きを有している。
【0011】
前記頂点第一切欠きは、前記第一切欠きよりも前記長さ方向に長い。
【0012】
前記頂点第二切欠きは、前記第二切欠きよりも前記長さ方向に長い。
【発明の効果】
【0013】
本開示の一態様に係る折板屋根構造によれば、複数の折板を接続してアーチ形状を実現する施工技術において、高精度な施工が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本開示に係る折板屋根構造が採用された二重折板屋根構造の一実施形態を示す模式的斜視図である。
【
図2】
図2Aは、同上の二重折板屋根構造の下屋根を構成する折板屋根構造の斜視図である。
図2Bは、同上の二重折板屋根構造の斜視図である。
【
図3】
図3は、同上の二重折板屋根構造の要部断面図である。
【
図4】
図4Aは、同上の折板屋根構造が備える折板の正面図である。
図4Bは、同上の折板同士の横継ぎ動作の一状態を示す正面図である。
図4Cは、同上の折板同士の横継ぎ動作の一状態を示す正面図である。
【
図5】
図5は、同上の折板同士の縦継ぎ動作の一状態を示す斜視図である。
【
図6】
図6は、同上の折板同士の縦継ぎ動作の一状態を示す斜視図である。
【
図7】
図7は、同上の縦継ぎされた折板同士の接続部分の断面図である。
【
図8】
図8Aは、同上の折板同士の縦継ぎ動作の一状態を示す模式的平面図である。
図8Bは、同上の折板同士の縦継ぎ動作の一状態を示す模式的平面図である。
【
図9】
図9Aは、同上の折板同士の横継ぎ動作の一状態を示す模式的平面図である。
図9Bは、同上の折板同士の横継ぎ動作の一状態を示す模式的平面図である。
【
図10】
図10は、同上の折板屋根構造が備える頂点折板と隣接する2つの同上の折板との縦継ぎ動作の一状態を示す模式的平面図である。
【
図11】
図11は、同上の頂点折板と隣接する2つの同上の折板との縦継ぎ動作の一状態を示す模式的平面図である。
【
図12】
図12は、同上の頂点折板と隣接する2つの同上の折板との縦継ぎ動作の一状態を示す斜視図である。
【
図13】
図13は、同上の頂点折板と隣接する2つの同上の折板との縦継ぎ動作の一状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.実施形態
(1)二重折板屋根構造の全体構成
以下、本開示の実施形態について添付図面に基づいて説明する。
【0016】
二重折板屋根構造1は、
図1に示すように、建物100の屋根としてアーチ形状を形成する構造である。ここで、「アーチ形状」とは弓形であり、両端部から頂部に向かう2つの曲線からなる形状である。なお、「アーチ形状」とは概ねアーチ形状であることを意味しており、一部に直線形状を含んでいてもよい。具体的には、アーチ形状の曲率半径は250~400mの範囲にあることが好ましい。
【0017】
なお、
図1は二重折板屋根構造1が全体としてアーチ形状であることを示すための模式図であり、詳細は省略されている。
【0018】
二重折板屋根構造1は、
図2A及び
図2Bに示すように、下屋根2と上屋根3とを有している。下屋根2及び上屋根3は、いずれも、折板屋根により構成されている。下屋根2と上屋根3との間の間隔は、屋根面全面に亙って略一定の間隔となっている。以下においては、屋根勾配方向を軒棟方向として定義し、軒棟方向に対して直交し且つ水平面に沿う方向を横方向として定義する。なお、本実施形態では、前述のように二重折板屋根構造1が全体としてアーチ形状であるので、下屋根2及び上屋根3の屋根勾配もアーチ形状となっている。
【0019】
本実施形態では、下屋根2を構成する折板屋根構造30について、詳細に説明する。そのため、上屋根3の説明は簡略化される。
【0020】
(2)下屋根
(2-1)下屋根の構造
下屋根2は、
図2Aに示すように、屋根下地材5の上に葺設される。屋根下地材5は、例えば、母屋51と、タイトフレーム52とを備えている。
【0021】
タイトフレーム52には、下屋根2が取り付けられる。タイトフレーム52は、横方向に長く延びており、その長手方向とは直角な軒棟方向に幅を有している。タイトフレーム52は、母屋51上に固定される。前述のタイトフレーム52の長さ方向は、母屋51の長手方向に略平行となっている。タイトフレーム52は、例えば、帯状の金属板を曲げ加工することで形成されている。
【0022】
タイトフレーム52は、複数の山型の突出部53を有している。複数の突出部53は、タイトフレーム52の長手方向に一定のピッチで並設される。各突出部53の頂部には、吊子54が固定される。吊子54は、下屋根2をタイトフレーム52に固定するものである。吊子54は、例えば、ボルト・ナット等の固着具を介してタイトフレーム52に固定される。
【0023】
屋根下地材5は、複数の母屋51を備える。各母屋51の長手方向は、横方向と略平行となっている。複数の母屋51は、軒棟方向に離間して複数並設される。軒棟方向に並設された複数の母屋51は、棟に近い母屋51ほど、上方に位置するように配置されている。各母屋51は、例えば、H型鋼、C型鋼、又はリップ付き溝型鋼などにより構成される。
【0024】
下屋根2は、
図2Aに示すように、複数の山部11と複数の谷部12とを有している。下屋根2には、山部11と谷部12とが、横方向に交互に1つずつ並設されている。山部11及び谷部12は、軒棟方向に長さを有している。
【0025】
下屋根2は、複数の折板13により構成されている。折板13は、断面略U字状の金属製縦葺き屋根材である。複数の折板13は、軒棟方向に複数連結されるとともに、さらに横方向に複数連結されることで、下屋根2を構成している。つまり、前述の複数の山部11及び複数の谷部12は、複数の折板13によって構成されている。さらに具体的には、軒棟方向に着目すれば、複数の折板13の連結によってアーチ形状が形成される。
【0026】
折板13は、一枚の金属板を曲げ加工することで形成されており、例えば、ロールフォーミングを用いて成型される。折板13を構成する金属板としては、例えば、塗装鋼板、亜鉛めっき鋼板、ステンレス鋼板、ガルバリウム鋼板(登録商標)、エスジーエル(登録商標)等がある。なお、複数の折板13は、各々のサイズ、基本形状等が同じである。
【0027】
折板13は、
図2A及び
図5に示すように、軒棟方向に長く延びており、横方向に幅を有している。以後、折板13の長手方向を長さ方向と呼び、短手方向を幅方向と呼ぶ。
【0028】
折板13は、平坦部14と、一対の立設部15と、一対の接続部16とを備えている。平坦部14は、下屋根2の谷部12の底面を構成する部分である。平坦部14は、軒棟方向に長く延びており、横方向に幅を有している。一対の立設部15は、平坦部14の幅方向の両端から斜め上方に向かって延出している。一対の立設部15は、上方に向かうほど、対向間の距離が拡がるよう傾斜している。一対の接続部16は、一対の立設部15の上端から、平坦部14が設けられた側とは反対側に向かうよう略水平方向に延出している。
【0029】
各接続部16は、
図3に示すように、横方向に隣接する他の折板13の接続部16との間に吊子54を介装した状態ではぜ締めされてはぜ固定部21となり、その結果タイトフレーム52に固定され山部が形成される。
【0030】
図4A~
図4Cを用いて、一対の接続部16を詳細に説明する。一対の接続部16は、折板13の幅方向の一端部つまり一方の立設部15の上端に設けられた第一接続部17と、折板13の幅方向の他端部つまり他方の立設部15の上端に設けられた第二接続部18とを有している。
【0031】
第一接続部17は、一方の立設部15の上端から横方向外側に延びる平面部81と、平面部81の横方向外側端部から立ち上げられた外側板部82と、外側板部82の上端から横方向内側に延びる天板部83と、天板部83の横方向内側先端から横方向外側且つ斜め下方に折り曲げられた斜め折り曲げ部84とを有している。
【0032】
第二接続部18は、他方の立設部15の上端から横方向外側に延びる平面部91と、平面部91の横方向外側端部から立ち上げられた内側板部92と、内側板部92の上端から横方向外側に延びる天板部93と、天板部93の横方向外側先端から下方に延びる外側板部94と、外側板部94の下端から横方向外側に延びる平面部95とを有している。以上の構成により、第二接続部18は、断面形状が上側に凸となっている。
【0033】
第一接続部17の軒側の端部には、
図5に示すように、棟側(アーチ形状の頂点側)に向けて切欠かれた切欠き101が形成されている。切欠き101は、第一接続部17のうち、天板部83と斜め折り曲げ部84に形成された、長さ方向に長さL1だけ欠落した部分である。その結果、第一接続部17のうち、平面部81と外側板部82のみからなる挿入部102が、長さL1だけ形成されている。なお、長さL1は、例えば、200mmであり、150~250mmの範囲にあることが好ましい。
【0034】
(2-2)下屋根の取付施工
下屋根2は、次のようにして取付施工される。まず、施工者は、母屋51の長手方向に沿ってタイトフレーム52を設置する。施工者は、タイトフレーム52を、各母屋51に設置する。このとき施工者は、各母屋51に設置するタイトフレーム52について、隣り合う突出部53の間の下方に凹となった部分が軒棟方向にまっすぐ並ぶよう、各タイトフレーム52を配置する。
【0035】
次いで施工者は、折板13をタイトフレーム52に設置する。施工者は、折板13を、軒棟方向に並ぶ複数のタイトフレーム52に架設し、各タイトフレーム52の突出部53間の下方に凹となった部分に嵌め込む。
【0036】
次いで施工者は、
図5、
図6、
図8A及び
図8Bに示すように、すでに設置されている折板13に対して、棟側に新たな折板13を縦継ぎする。縦継ぎ作業において、新たな棟側の折板13の軒側端部は、すでに設置されている軒側の折板13の棟側端部に、上方から重ねて配置される。このとき、棟側の折板13の第二接続部18は、軒側の折板13の第二接続部18に対して上から嵌まり込んで覆う。さらに、棟側の折板13の挿入部102(平面部81及び外側板部82)は、
図7に示すように、軒側の折板13の第一接続部17の中に下側からすくいあげられるように入れられる。そのため、
図6、
図8A及び
図8Bに示すように、棟側の折板13の軒側端部が軒側の折板13の棟側端部の上に載って重なる重ね部23が得られる。このとき、切欠き101の長さL1が重ね部23の長さになる。このように、本実施形態の折板13は、切欠き101が設けられていることで、複数の折板13を軒棟方向に縦継ぎしたときの重ね量を確保でき、つまり重ね性及び防水性を向上させることができる。
【0037】
上述のように複数の折板13を、アーチ形状の一端から頂点に向けて設置するとともに、複数の折板13を、アーチ形状の他端から頂点に向けて設置する。
【0038】
次いで施工者は、
図9A及び
図9Bに示すように、新たな折板13を、縦継ぎが完了した折板13の横方向に配置する。横継ぎ作業において、施工者は、横方向に隣り合う2つの折板13の隣り合う接続部16同士を上下に重ね、このとき、接続部16同士の間に吊子54を挟んだ状態でタイトフレーム52に固定する。具体的には、
図3、
図4A、
図4B、及び
図4Cに示すように、横継ぎ作業において、新たな折板13の第二接続部18が、既設の折板13の第一接続部17に対して上から嵌まり込んで覆い、この第二接続部18と第一接続部17の間にタイトフレーム52の吊子54が挟みこまれる。
【0039】
施工者は、最終的に、横方向に隣り合う2つの折板13の接続部17、18に吊子54を巻き込んで次に接続部17,18を折り曲げることで、
図3に示すように、はぜ固定部21を形成する(つまり、はぜ継ぎ固定する)。
【0040】
既設の一列に並んだ複数の折板13のそれぞれに対して、
図9に示すように、上述した方法で新たな折板13を横継ぎする。横継ぎされる複数の新たな折板13同士は、上述した方法で縦継ぎされる。これにより、複数の折板13が横方向及び軒棟方向に接続されて、下屋根2のうち、アーチ形状の一端から頂点に向かう部分と、アーチ形状の他端から頂点に向かう部分とが形成される。
【0041】
複数の折板13は、アーチ形状の一端から頂点に向けて並び互いに接続される複数の第一折板13と、アーチ形状の他端から頂点に向けて並び、互いに接続される複数の第二折板13を含む。複数の第一折板13のうちの頂点側の端部に位置するものを端部第一折板13Bと呼び、複数の第二折板13のうちの頂点側の端部に位置するものを端部第二折板13Cと呼ぶ。
【0042】
端部第一折板13Bは、前述の折板13と同じ構造を有している。以下では、端部第一折板13Bの構成部分の名称及び符号を折板13に対応させつつ説明する。端部第一折板13Bは、幅方向の一端部に位置する第一接続部17Bと、幅方向の他端部に位置する第二接続部18Bとを有している。第一接続部17Bは、アーチ形状の一端側に隣接する他の第一折板13の第一接続部17Bに接続される部分(軒側端部)に、第一折板13同士の重なり範囲を確保するために頂点側に向けて切欠かれた第一切欠き101Bを有している。第一切欠き101Bの長さはL1aである。
【0043】
端部第二折板13Cは、前述の折板13と同じ構造を有している。以下では、端部第一折板13Bの構成部分の名称及び符号を折板13に対応させつつ説明する。端部第二折板13Cは、幅方向の一端部に位置する第一接続部17Cと、幅方向の他端部に位置する第二接続部18Cとを有している。第一接続部17Cは、アーチ形状の他端側に隣接する他の第一折板13の第一接続部17Cに接続される部分(軒側端部)に、第二折板13同士の重なり範囲を確保するために頂点側に向けて切欠かれた第二切欠き101Cを有している。第二切欠き101Cの長さはL1bである。本実施形態では、第一切欠き101Bの長さL1aと第二切欠き101Cの長さL1bは同じであるが、互いに異なっていてもよい。
【0044】
(3)頂点折板
以下、
図10~
図12を用いて、頂点折板13Aの構造及び取り付け方法を説明する。端部第一折板13Bと端部第二折板13Cとは、頂点折板13Aによって互いに接続される。
【0045】
なお、
図10~
図12では、端部第一折板13B以外の第一折板13と端部第二折板13C以外の第二折板13は省略されている。
【0046】
頂点折板13Aは、前述の折板13と構造が類似している。以下では、頂点折板13Aの構成部分の名称及び符号を折板13に対応させつつ説明する。頂点折板13Aは、幅方向の一端部に位置する第一接続部17Aと、幅方向の他端部に位置する第二接続部18Aとを有している。
【0047】
頂点折板13Aは、他の折板13とは異なり、第一接続部17Aの長さ方向両端に切欠きを有している。具体的には、第一接続部17Aは、端部第一折板13Bの第一接続部17Bに接続される部分(一方の端部)に、端部第一折板13Bとの重なり範囲を確保するために頂点側に向けて切欠かれた頂点第一切欠き101A1を有している。頂点第一切欠き101A1の長さはL2aであり、第一切欠き101Bの長さL1aより長い。その結果、第一接続部17Aの一方の端部には、平面部81と外側板部82のみからなる挿入部102A1が、長さL2aだけ形成されている。
【0048】
さらに、第一接続部17Aは、端部第二折板13Cの第一接続部17Cに接続される部分(他方の端部)に、端部第二折板13Cとの重なり範囲を確保するために頂点側に向けて切欠かれた頂点第二切欠き101A2を有している。頂点第二切欠き101A2の長さはL2bであり、第二切欠き101Cの長さL1より長い。その結果、第一接続部17Aの他方の端部には、平面部81と外側板部82のみからなる挿入部102A2が、所定長さL2bだけ形成されている。本実施形態では頂点第一切欠き101A1の長さL2aと頂点第二切欠き101A2の長さL2bは同じであるが、互いに異なっていてもよい。
【0049】
頂点折板13Aは、最初に端部第一折板13Bに接続され、次に端部第二折板13Cに接続される。
【0050】
端部第一折板13Bに接続されるときに、頂点折板13Aの第二接続部18Aの軒側端部が、端部第一折板13Bの第二接続部18Bの棟側端部に対して上から嵌まり込んで覆う。さらに、頂点折板13Aの挿入部102A1は、端部第一折板13Bの第一接続部17Bの中に入り込み、そのため、頂点折板13Aの一方の軒側端部が端部第一折板13Bの棟側端部の上に載って重なることが可能になる。このとき、頂点折板13Aの挿入部102A2は、端部第二折板13Cの第一接続部17Cの上に載った状態となる。
【0051】
次に端部第二折板13Cに接続されるときに、頂点折板13Aの第二接続部18Aの軒側端部が、端部第二折板13Cの第二接続部18Bの棟側端部に対して上から嵌まり込んで覆う。さらに、頂点折板13Aの挿入部102A2は、端部第二折板13Cの第一接続部17Bの中に入り込み、そのため、頂点折板13Aの軒側端部が端部第二折板13Cの棟側端部の上に載って重なることが可能になる。なお、この動作は、頂点折板13Aの挿入部102A2が端部第二折板13Cの第一接続部17Cの上に載った状態から行うため、頂点折板13Aの挿入部102A2は、端部第二折板13Cの第一接続部17Cの中に入れられるために大きく捩じられる必要がある。
【0052】
前述のように、頂点第一切欠き101A1の長さL2aは、第一切欠き101Bの長さL1aよりも長い。さらに、頂点第二切欠き101A2の長さL2bは、第二切欠き101Cの長さL1bよりも長い。具体的には長さL1a、L1bが200mmの場合に、長さL2a、L2bは250mm以上である。長さL2a、L2bは、250~400mmの範囲にあることが好ましい。言い換えると、頂点第一切欠き101A1の長さL2aは、第一切欠き101Bの長さL1aより50~200mm長いことが好ましい。頂点第二切欠き101A2の長さL2bは、第二切欠き101CのL1bより50~200mm長いことが好ましい。頂点第一切欠き101A1の長さL2aは、長さ方向に250~400mmの範囲にあることが好ましい。頂点第二切欠き101A2の長さL2bは、長さ方向に250~400mmの範囲にあることが好ましい。
【0053】
図11では、頂点折板13Aと端部第一折板13Bの重ね部23の長さZ1は、頂点第一切欠き101A1の長さL2aより短くなっている。また、頂点折板13Aと端部第二折板13Cの重ね部23の長さZ2は、頂点第二切欠き101A2の長さL2bより短くなっている。つまり、本実施形態では、頂点折板13Aの切欠きの長さは、頂点折板13Aの重ね部23の長さよりも長く設定されている。また、頂点折板13Aと端部第一折板13B又は端部第二折板13Cとの重ね部23の長さは、第一折板13同士の重ね部23及び第二折板13同士の重ね部23の長さより長くなるように設定されている。
【0054】
端部第一折板13B又は端部第二折板13Cは、縦継ぎ施工の誤差がある場合、又は折板切断精度や切り欠きのカット精度等に起因して設計に対して折板13が長くなっている場合には、所定の位置から頂点側(長さ方向の片側)にずれることがある。しかし、前述のように頂点折板13Aの頂点第一切欠き101A1及び頂点第二切欠き101A2の長さが端部第一折板13B及び端部第二折板13Cの切欠き101B、101Cそれぞれよりも長く設定されているので、そのずれを吸収することができ、問題なく施工できる。
【0055】
端部第一折板13B又は端部第二折板13Cは、縦継ぎ施工の誤差がある場合、又は折板切断精度や切り欠きのカット精度等に起因して設計に対して折板13が短くなっている場合には、前述の場合とは逆に、所定の位置から頂点側(長さ方向の片側)と反対側にずれることがある。しかし、本態様では前述のように頂点折板13Aの頂点第一切欠き101A1及び頂点第二切欠き101A2の長さが端部第一折板13B及び端部第二折板13Cの切欠き101B、101Cそれぞれより長く設定されているので、頂点折板13Aと端部第一折板13B又は端部第二折板13Cの重ね部23の長さをあらかじめ長く設定することができ、そのため重ね部23が上記理由によって短くなっても必要な長さを確保できる。
【0056】
以上の結果、アーチ形状を形成する複数の折板の接続による長さの誤差を吸収し、適切な重ね量を確保することで高精度な施工が可能になる。
【0057】
以上のように施工することで、頂点折板13Aと端部第一折板13Bと端部第二折板13Cとは、
図13に示すように、互いに接続されて、アーチ形状の下屋根2の頂点部分を形成する。頂点折板13Aと端部第一折板13Bと端部第二折板13Cとは、アーチ状に僅かに湾曲している。頂点折板13Aの長さ方向の中央部は、母屋51とタイトフレーム52によって支持される。
【0058】
(4)上屋根
図2Bに示すように、上屋根3は、下屋根2の全体を上方から覆う。上屋根3も、下屋根2と同様に、アーチ形状に設けられる。
図2A及び
図2Bに示すように、下屋根2の上に支持具7が取り付けられ、この支持具7に上屋根3が取り付けられる。支持具7は、下屋根2における山部11の上端部に取り付けられる。支持具7は、軒棟方向において、各タイトフレーム52の上方に取り付けられる。
【0059】
支持具7は、下屋根2の上方に上屋根3を取り付けるに当たり、下屋根2よりも所定寸法上方に上屋根3を設置するために用いられる。支持具7は、
図3に示すように、下屋根2のはぜ固定部21を挟み込んで固定される上屋根用のサドル71と、サドル71に支持される上吊子部72とから構成される。上屋根用のサドル71は、鋼材等からなるサドル半体71A、71Bを対にして抱き合わせ、ボルト部材73によって連結されている。
【0060】
各サドル半体71A、71Bは底板部74と起立板部75とからなる脚部76を有している。底板部74は、1つの山部11を構成する一対の折板13のうちの一方の折板13の平面部81と他方の折板13の平面部91の上面に配置されている。上屋根用のサドル71は、脚部76の側方から打ち込まれるタッピングねじ77によって下屋根2に固定される。なお、タッピングネジの代わりにボルトが用いられてもよい。
【0061】
上屋根3は、
図2Bに示すように、下屋根2と同様、複数の山部41と複数の谷部42とを有している。上屋根3には、山部41と谷部42とが、横方向に交互に1つずつ並設されている。各山部41及び各谷部42は、軒棟方向に長く延びている。
【0062】
複数の山部41及び複数の谷部42は複数の折板44により構成されている。各折板44は、金属製縦葺き屋根材である。各折板44の長さは、下屋根2の軒棟方向の略全長にわたっている。各折板44は、断面略U字状である。複数の折板44は、横方向及び軒棟方向に互いに連結されている。上吊子部72の頂部は、折板44に挟み込まれてはぜ継ぎされる。なお、複数の折板44同士の横方向及び軒棟方向の連結の詳細説明は省略される。なお、折板44は、縦継ぎ構造でも1本物(すなわち縦継ぎをしない構成)でもよい。
【0063】
2.変形例
上述した実施形態は、本開示の様々な実施形態の一つに過ぎない。上述した実施形態は、本開示の目的を達成できれば、種々の変更が可能である。
【0064】
(1)屋根構造の基本構成の変形例
本開示の折板屋根構造30は、二重折板屋根構造1を構成するものに限定されない。つまり、本開示の折板屋根構造30は、上記実施形態の下屋根2のみからなる一層の折板屋根構造を構成してもよい。
【0065】
本開示の二重折板屋根構造1は、新築の建物の屋根構造であってもよいし、屋根改修構造であってもよい。
【0066】
(2)折板の接続部の変形例
折板13の接続部16の形状及び接続部16同士の接続構造は、
図3等に示す形状及び接続構造に、限定されない。
【0067】
折板13の切欠きの形状、位置及び個数は、縦継ぎにおいて2枚の折板13の重ねを可能にしたり容易にしたりできるのであれば、適宜変更可能である。
【0068】
3.まとめ
以上に説明したように、第1の態様に係る折板屋根構造(30)は、アーチ形状を形成する折板屋根構造(30)である。折板屋根構造(30)は、前記アーチ形状の一端から頂点に向けて並び、互いに接続される複数の第一折板(13)と、前記アーチ形状の他端から前記頂点に向けて並び、互いに接続される複数の第二折板(13)と、頂点折板(13A)と、を備えている。頂点折板(13A)は、複数の第一折板(13)のうちの前記頂点側の端部に位置する端部第一折板(13B)と、複数の第二折板(13)のうちの前記頂点側の端部に位置する端部第二折板(13C)とに接続される。
【0069】
端部第一折板(13B)と端部第二折板(13C)と頂点折板(13A)のそれぞれは、前記アーチ形状に沿った長さ方向に対して直交する幅方向の一端部に位置する第一接続部(17B、17C、17A)と、前記幅方向の他端部に位置する第二接続部(18B、18C、18A)とを有している。
【0070】
端部第一折板(13B)の第一接続部(17B)は、他の第一折板(13)の第一接続部(17B)に接続される部分に、第一折板(13)同士の重なり範囲を確保するために前記頂点側に向けて切欠かれた第一切欠き(101B)を有している。
【0071】
端部第二折板(13C)の第一接続部(17C)は、他の第二折板(13)の第一接続部(17C)に接続される部分に、第二折板(13)同士の重なり範囲を確保するために前記頂点側に向けて切欠かれた第二切欠き(101C)を有している。
【0072】
頂点折板(13A)の第一接続部(17A)は、端部第一折板(13B)の第一接続部(17B)に接続される部分に、端部第一折板(13B)との重なり範囲を確保するために前記頂点側に向けて切欠かれた頂点第一切欠き(101A1)を有し、端部第二折板(13C)の第一接続部(17C)に接続される部分に、端部第二折板(13C)との重なり範囲を確保するために前記頂点側に向けて切欠かれた頂点第二切欠き(101A2)を有している。
【0073】
頂点第一切欠き(101A1)は、第一切欠き(101B)よりも前記長さ方向に長い。
【0074】
頂点第二切欠き(101A2)は、第二切欠き(101C)よりも前記長さ方向に長い。
【0075】
本実施形態の基本構成において、例えば、設計に対して複数の第一折板(13)が短かった場合、その不足分の合計だけ、端部第一折板(13A)は、所定の位置から頂点側と反対側にずれて、そのため頂点折板(13A)と端部第一折板(13B)との重ね部(23)の長さが短くなることがある。そのため、本実施形態とは違って頂点折板の切欠きの長さが他の折板の切欠きの長さと同じであれば、頂点折板と端部第一折板又は端部第二折板の重ね部の長さが不足する。しかし、本態様では頂点第一切欠き(101A1)は第一切欠き(101B)よりも前記長さ方向に長く、それにより重ね部(23)の長さも長く設定されているので、設計に対して第一折板(13)が短かった場合でも、頂点折板(13A)と第一折板(13)の重ね部(23)の長さを十分に確保できる。さらに、頂点折板(13A)の頂点第二切欠き(101A2)は第二切欠き(101C)よりも前記長さ方向に長く、それにより重ね部(23)の長さも長く設定されているので、設計に対して複数の第二折板(13)が短かった場合でも、頂点折板(13A)と第二折板(13)の重ね部(23)の長さを十分に確保できる。
【0076】
本実施形態の基本構成において、例えば、設計に対して複数の第一折板(13)が長かった場合、その余剰分の合計だけ、端部第一折板(13B)は、所定の位置から頂点側にずれることがある。しかし、前述のように頂点第一切欠き(101A1)は第一切欠き(101B)よりも前記長さ方向に長く、それにより頂点第1切欠き(101A1)に余剰分を確保できているので、設計に対して第一折板(13)が長かった場合でも、そのずれを吸収することができ、問題なく施工できる。さらに、頂点折板(13A)の頂点第二切欠き(101A2)は第二切欠き(101C)よりも前記長さ方向に長く設定されているので、設計に対して第二折板(13)が長かった場合でも、そのずれを吸収することができ、問題なく施工できる。
【0077】
以上の結果、アーチ形状を形成する複数の折板の接続による長さの誤差を吸収し、適切な重ね量を確保することで高精度な施工が可能になる。
【0078】
第2の態様に係る折板屋根構造(30)では、第1の態様において、頂点第一切欠き(101A1)は第一切欠き(101B)より前記長さ方向に50mm以上長い。頂点第二切欠き(101A2)は第二切欠き(101C)より前記長さ方向に50mm以上長い。
【0079】
この態様では、頂点折板(13A)と端部第一折板(13B)との重ね部(23)の長さ、及び頂点折板(13A)と端部第二折板(13C)との重ね部(23)の長さを十分に確保しやすい。
【0080】
第3の態様に係る折板屋根構造(30)では、第1又は第2の態様において、頂点第一切欠き(101A1)は前記長さ方向に250mm以上である。頂点第二切欠き(101A2)は前記長さ方向に250mm以上である。
【0081】
この態様では、前記頂点折板(13A)と端部第一折板(13B)との重ね部(23)の長さ、及び頂点折板(13A)と端部第二折板(13C)との重ね部(23)の長さを十分に確保しやすい。
【符号の説明】
【0082】
30: 折板屋根構造
13: 折板
13A: 頂点折板
13B: 端部第一折板
13C: 端部第二折板
17A、17B、17C: 第一接続部
18A、18B、18C: 第二接続部
101A1: 頂点第一切欠き
101A2: 頂点第二切欠き
101B: 第一切欠き
101C: 第二切欠き