IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 原田工業株式会社の特許一覧

特開2023-150996円偏波アンテナ用給電回路および円偏波アンテナ装置
<>
  • 特開-円偏波アンテナ用給電回路および円偏波アンテナ装置 図1
  • 特開-円偏波アンテナ用給電回路および円偏波アンテナ装置 図2
  • 特開-円偏波アンテナ用給電回路および円偏波アンテナ装置 図3
  • 特開-円偏波アンテナ用給電回路および円偏波アンテナ装置 図3A
  • 特開-円偏波アンテナ用給電回路および円偏波アンテナ装置 図3B
  • 特開-円偏波アンテナ用給電回路および円偏波アンテナ装置 図3C
  • 特開-円偏波アンテナ用給電回路および円偏波アンテナ装置 図4
  • 特開-円偏波アンテナ用給電回路および円偏波アンテナ装置 図4A
  • 特開-円偏波アンテナ用給電回路および円偏波アンテナ装置 図5
  • 特開-円偏波アンテナ用給電回路および円偏波アンテナ装置 図5A
  • 特開-円偏波アンテナ用給電回路および円偏波アンテナ装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023150996
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】円偏波アンテナ用給電回路および円偏波アンテナ装置
(51)【国際特許分類】
   H01P 5/08 20060101AFI20231005BHJP
   H01P 5/12 20060101ALI20231005BHJP
   H01Q 21/24 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
H01P5/08 Z
H01P5/12
H01Q21/24
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060377
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000165848
【氏名又は名称】原田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】難波 将仁
(72)【発明者】
【氏名】土橋 正紀
(72)【発明者】
【氏名】川津 吉統
【テーマコード(参考)】
5J021
【Fターム(参考)】
5J021FA05
5J021FA32
5J021JA02
5J021JA06
(57)【要約】
【課題】広範な周波数帯において優れた軸比特性を得ることができる円偏波アンテナ用給電回路等を提供する。
【解決手段】円偏波アンテナ用給電回路であって、入力信号を、同位相で同振幅の第1の同相信号および第2の同相信号に分配する分配器と、分配器により分配された第1の同相信号および第2の同相信号を、互いに90度の位相差を有する2つの出力信号に変換する移相器と、を備え、分配器または移相器を構成するインダクタの少なくとも一部が、分布定数回路として構成される。移相器は、分配器により分配された第1の同相信号の位相を進める第1の位相シフト回路と、分配器により分配された第2の同相信号の位相を遅らせる第2の位相シフト回路と、を有してもよい。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円偏波アンテナ用給電回路であって、
入力信号を、同位相で同振幅の第1の同相信号および第2の同相信号に分配する分配器と、
前記分配器により分配された前記第1の同相信号および前記第2の同相信号を、互いに90度の位相差を有する2つの出力信号に変換する移相器と、
を備え、
前記分配器または前記移相器を構成するインダクタの少なくとも一部が、分布定数回路として構成された円偏波アンテナ用給電回路。
【請求項2】
前記移相器は、
前記分配器により分配された前記第1の同相信号の位相を進める第1の位相シフト回路と、
前記分配器により分配された前記第2の同相信号の位相を遅らせる第2の位相シフト回路と、
を有する、請求項1に記載の円偏波アンテナ用給電回路。
【請求項3】
前記分配器は、入力ポートから前記入力信号が入力されて前記第1の同相信号を第1の出力部に出力する第1の分配回路と、前記入力ポートから前記入力信号が入力されて前記第2の同相信号を第2の出力部に出力する第2の分配回路と、
を備え、
前記第1の分配回路および前記第2の分配回路を構成するインダクタの少なくとも一部が、部分定数回路のインダクタとして構成され、
前記第1の分配回路と、前記第2の分配回路とは、前記入力ポートから互いに離れる方向に延びて形成され、
前記第1の分配回路と、前記第2の分配回路とは、互いに前記第1の出力部と前記第2の出力部との間の距離よりも近づく部分を有しない形状とされる、請求項1または2に記載の円偏波アンテナ用給電回路。
【請求項4】
前記分配器は、前記入力信号が入力されて前記第1の同相信号を出力する第1の分配回路と、前記入力信号が入力されて前記第2の同相信号を出力する第2の分配回路と、
を備え、
前記第1の分配回路と、前記第2の分配回路とは、互いに等価であり、
前記第1の分配回路および前記第2の分配回路を構成するインダクタの少なくとも一部が、分布定数回路のインダクタとして構成され、
前記第1の分配回路と、前記第2の分配回路とは、互いに鏡像の関係となるように実装されている、請求項1または2に記載の円偏波アンテナ用給電回路。
【請求項5】
前記分配器または前記移相器を構成するコンデンサがチップ部品として構成され、
前記コンデンサの一の極が接続されるグランド側の接続部は、グランドパターンが前記接続部に向けて突出する突出部に設けられ、または、前記グランドパターンの一部として形成されたアイランド部に設けられる、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の円偏波アンテナ用給電回路。
【請求項6】
2つの給電点を有する円偏波アンテナと、前記2つの給電点に、互いに90度の位相差を有する2つの出力信号を与える円偏波アンテナ用給電回路と、を備えるアンテナ装置であって、
円偏波アンテナ用給電回路は、
入力信号を同位相で同振幅の2つの同相信号に分配する分配器と、
前記分配器により分配された前記2つの同相信号を、互いに90度の位相差を有する前記2つの出力信号に変換する移相器と、
を備え、
前記分配器または前記移相器を構成するインダクタの少なくとも一部が、分布定数回路として構成された円偏波アンテナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、円偏波アンテナ用給電回路および円偏波アンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
GNSS(Global Navigation Satellite System)アンテナの分波回路として、ハイブリッド回路を用いたもの(特許文献1)や移相器とウィルキンソン回路とを組み合わせたもの(特許文献2)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-266438号公報
【特許文献2】特開2015-019132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のようにハイブリッド回路をマルチバンドGNSSアンテナの分波回路として使用すると、広範な周波数帯において優れた軸比特性を得ることができない。また、特許文献2のように移相器およびウィルキンソン回路をチップ部品等の集中定数素子により構成した場合、部品のばらつきによる軸比特性の劣化などの問題が生ずる。
【0005】
そこで、本開示は、広範な周波数帯において優れた軸比特性を得ることができる円偏波アンテナ用給電回路等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの側面では、
円偏波アンテナ用給電回路であって、
入力信号を、同位相で同振幅の第1の同相信号および第2の同相信号に分配する分配器と、
前記分配器により分配された前記第1の同相信号および前記第2の同相信号を、互いに90度の位相差を有する2つの出力信号に変換する移相器と、
を備え、
前記分配器または前記移相器を構成するインダクタの少なくとも一部が、分布定数回路として構成された円偏波アンテナ用給電回路が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、広範な周波数帯において優れた軸比特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施例の円偏波アンテナ用給電回路を示すブロック図である。
図2】本実施例の円偏波アンテナ用給電回路を示す回路図である。
図3】分配器および移相器が実装された回路基板を示す図である。
図3A】回路基板を含むアンテナ装置の構成を例示する断面図である。
図3B】回路基板における他の実装パターンを例示する図である。
図3C】回路基板における他の実装パターンを例示する図である。
図4】本実施例における通過損失差のばらつきをシミュレーションした結果を示す図である。
図4A】本実施例における通過特性における位相差のばらつきをシミュレーションした結果を示す図である。
図5】公知例(例えば、特許文献2の装置)のように、インダクタL1~L7として、チップ部品を使用した場合(本実施例に対する比較例)の通過損失差のばらつきをシミュレーションした結果を示す図である。
図5A】公知例(例えば、特許文献2の装置)のように、インダクタL1~L7として、チップ部品を使用した場合(本実施例に対する比較例)の通過特性における位相差のばらつきをシミュレーションした結果を示す図である。
図6図4図5Aに示したシミュレーションの結果から算出された軸比特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら実施例について説明する。
【0010】
図1は、本実施例の円偏波アンテナ用給電回路を示すブロック図、図2は、本実施例の円偏波アンテナ用給電回路を示す回路図である。
【0011】
図1に示すように、本実施例の円偏波アンテナ用給電回路は、分配器10と、移相器20と、を備える。移相器20のポートP1およびポートP2は、パッチ電極1の2つの給電点のそれぞれに接続される。
【0012】
図2に示すように、分配器10は、ポートP0(入力ポート)に与えられる入力信号を同位相で同振幅の第1の同相信号S1および第2の同相信号S2に分配するウィルキンソン回路である。本実施例では、分配器10は、コンデンサC8、インダクタL6、コンデンサC6、インダクタL4、コンデンサC4からなる第1の分配回路10Aとしてのローパスフィルタと、コンデンサC8、インダクタL7、コンデンサC7、インダクタL5、コンデンサC5からなる第2の分配回路10Bとしてのローパスフィルタと、第1の分配回路10Aの出力部13および第2の分配回路10Bの出力部14を互いに結合する抵抗R1と、を備える。図2に示すように、ポートP0はコンデンサC8を介してグランドに接続される。
【0013】
また、第1の同相信号S1が出力される出力部13は、コンデンサC4を介してグランドに接続される。インダクタL6およびインダクタL4は、ポートP0と、出力部13との間に直列に接続され、インダクタL6とインダクタL4との接続点は、コンデンサC6を介してグランドに接続される。
【0014】
同様に、第2の同相信号S2が出力される出力部14は、コンデンサC5を介してグランドに接続される。インダクタL7およびインダクタL5は、ポートP0と、出力部14との間に直列に接続され、インダクタL7とインダクタL5との接続点は、コンデンサC7を介してグランドに接続される。
【0015】
コンデンサC4とコンデンサC5、インダクタL4とインダクタL5、コンデンサC6とコンデンサC7、インダクタL6とインダクタL7とは、設計上、互いに等価であり、したがって、2つのローパスフィルタ(第1の分配回路10Aおよび第2の分配回路10B)も、設計上、互いに等価である。このため、2つのローパスフィルタ(第1の分配回路10Aおよび第2の分配回路10B)からそれぞれ出力される第1の同相信号S1および第2の同相信号S2の位相および振幅は、設計上、同一となる。なお、本発明において、「第1の分配回路10Aと第2の分配回路10Bとが、互いに等価である」ことは、本実施例のように、第1の分配回路10Aと第2の分配回路10Bとが、互いに実質的に等価(例えば、回路図としては等価)となる設計がされている場合を含む概念であり、チップ部品である各素子の値に相違(誤差)がある場合も含め、第1の分配回路10Aと第2の分配回路10Bとが完全に等価であることを意味しない。
【0016】
図2に示すように、移相器20は、インダクタL3、コンデンサC2、インダクタL1からなるローパスフィルタである位相シフト回路21(第1の位相シフト回路)と、コンデンサC3、インダクタL2、コンデンサC1からなるハイパスフィルタである位相シフト回路22(第2の位相シフト回路)と、を備える。
【0017】
位相シフト回路21におけるインダクタL3およびインダクタL1は、第1の同相信号S1が出力される第1の分配回路10Aの出力部13と、ポートP1との間に直列に接続され、インダクタL3とインダクタL1との接続点は、コンデンサC2を介してグランドに接続される。位相シフト回路21を構成するインダクタL3、コンデンサC2、インダクタL1の定数は、所定の周波数、例えば、使用されるGNSSの通過帯域の中心付近の周波数において、45度だけ位相を遅らせるような定数とされる。
【0018】
位相シフト回路22におけるコンデンサC3およびコンデンサC1は、第2の同相信号S2が出力される第2の分配回路10Bの出力部14と、ポートP2との間に直列に接続され、コンデンサC3とコンデンサC1との接続点は、インダクタL2を介してグランドに接続される。位相シフト回路22を構成するコンデンサC3、インダクタL2、コンデンサC1の定数は、上記所定の周波数において、45度だけ位相を進めるような定数とされる。
【0019】
このように、位相シフト回路21は、45度だけ位相を遅らせる位相遅れ回路とされ、位相シフト回路22は、45度だけ位相を進める位相進み回路とされることにより、ポートP1およびポートP2には、互いに90度の位相差を有する2つの信号が、それぞれ出力される。なお、移相器20の構成は任意であり、移相器20として、互いに90度の位相差を有する2つの信号が得られる任意の位相シフト回路が適用可能である。
【0020】
次に、分配器10および移相器20の実装方法の一例について説明する。
【0021】
図3は、分配器および移相器が実装された回路基板を示す図、図3Aは、回路基板を含むアンテナ装置の構成を例示する断面図である。
【0022】
図3において、回路基板4のポートP0、ポートP1、ポートP2、コンデンサC1~C8、インダクタL1~L7は、図2における同一符号の要素に対応している。
【0023】
図3に示すように、インダクタL1~L7のそれぞれは、回路基板4に形成されたマイクロストリップラインとして構成されている。一方、コンデンサC1~C8のそれぞれは、回路基板4に実装されたチップ部品として構成されている。このように、本実施例では、インダクタL1~L7の少なくとも一部を分布定数回路として構成することにより、コストダウンを図ることができる。また、コンデンサC1~C8のそれぞれを集中定数回路として構成することにより、回路の実装面積を抑制することができる。
【0024】
さらに、インダクタL1~L7の少なくとも一部を分布定数回路として構成することにより、インダクタンスとしてチップ部品を用いる場合と比べて、インダクタンス値のばらつきを抑制することができる。さらにまた、チップ部品を用いる場合とは異なり、インダクタL1~L7のそれぞれを分布定数回路として構成することにより、それぞれのインダクタンス値を任意の値に調整することが可能となる。したがって、チップ部品により構成されたコンデンサC1~C8の容量として、所定の規格値のものを使用した場合であっても、インダクタンス値の側で回路定数を調整できるため、分配器10および移相器20の特性(周波数特性)の設計自由度を大幅に向上させることができる。
【0025】
図3に示すように、分配器10は、直線Lを通り、回路基板4の実装面に直交する平面に対して、第1の分配回路10A、第2の分配回路10Bおよび抵抗R1が互いに鏡像となる実装パターンを有する。すなわち、インダクタL4とインダクタL5、インダクタL6とインダクタL7は、それぞれ、上記平面に対して、鏡像となるパターンのマイクロストリップラインとして構成されている。また、コンデンサC3とコンデンサC4、コンデンサC7とコンデンサC6も、それぞれ、上記平面に対して、鏡像且つ互いが離れるよう配置されるとともに、抵抗R1、およびマイクロストリップライン以外の回路基板4上の導体パターンについても鏡像の関係が確保されている。なお、実装パターンにおいて鏡像の関係が確保されていなくても、第1の分配回路10Aと第2の分配回路10Bの実装パターンが互いに離れていれば、相互間の干渉を抑制することができる。
【0026】
一般に、マイクロストリップラインを含む回路基板4上の導体パターンは、グランドパターン30にある程度近接しても、例えば、0.4mm程度まで近接しても、問題を生じない。しかし、マイクロストリップライン同士は、互いに例えば、0.4mm程度の近距離だと容量結合等により回路の性能に悪影響を及ぼす可能性がある。とくに、分配器10のストリップラインである、インダクタL4とインダクタL5、インダクタL6とインダクタL7が互いに近接していると、ポートP1、P2間のアイソレーションが悪化し、互いの信号が干渉し合う可能性がある。また、実装スペースを考慮してミアンダ形状のストリップラインとすると、ストリップライン内での容量結合により特性が変化する可能性があり、本実施例のように、ミアンダ形状の微細パターンを避けた形状のストリップラインとすることが望ましい。
【0027】
本実施例では、実装スペースを抑制しつつ、最大限にアイソレーションを確保するため、各ポートP1、P2に対応する第1の分配回路10Aおよび第2の分配回路10Bの回路を互いに鏡像となるように実装するとともに、物理的な距離も確保してアイソレーションの悪化を抑制している。なお、スペースに余裕がある場合には、ストリップラインを直線状または直線状に近い形状とし、且つ、第1の分配回路10Aと第2の分配回路10Bの実装パターンを互いに離すのが最も好ましい。
【0028】
また、第1の分配回路10Aおよび第2の分配回路10Bを互いに鏡像となるように実装することにより、回路間の結合に起因する回路への影響の対称性を確保することにより、容量結合等による第1の分配回路10Aおよび第2の分配回路10Bにおける特性変化を均等化させることができる。これにより、第1の分配回路10Aおよび第2の分配回路10Bの性能を容易に調整することが可能となる。
【0029】
さらに、図3に示すように、本実施例では、第1の分配回路10Aと、第2の分配回路10Bとは、ポートP0から互いに離れる方向に延びて形成される。また、第1の分配回路10Aと、第2の分配回路10Bとは、互いに第1の出力部11と第2の出力部12との間の距離よりも近づく部分を有しない形状とされる。これにより、第1の分配回路10Aと、第2の分配回路10Bとの間の容量結合の影響を抑制できる。
【0030】
また、本実施例では、分配器10および移相器20に使用されるコンデンサの実装に係る不良率を低減するようなグランドパターン30を回路基板4に形成している。例えば、チップ部品であるコンデンサC7の一の極が接続されるグランド側の接続部31aは、グランドパターン30が接続部31aに向けて突出する突出部31に設けられる。また、チップ部品であるコンデンサC6の一の極が接続されるグランド側の接続部32aは、グランドパターン30の一部として形成されたアイランド部32Aに設けられる。また、チップ部品であるコンデンサC4の一の極が接続されるグランド側の接続部32b、およびチップ部品であるコンデンサC5の一の極が接続されるグランド側の接続部32cは、グランドパターン30の一部として形成されたアイランド部32Bに設けられる。また、チップ部品であるコンデンサC2の一の極が接続されるグランド側の接続部32dは、グランドパターン30の一部として形成されたアイランド部32Cに設けられる。
【0031】
このように、グランドに接続されるチップ部品の一の極を、突出部31またはアイランド部32A~32Cに形成された接続部31a、32a~32dに接続することにより、リフロー時の熱伝導の速度を、チップ部品の両極間で整えることができる。例えば、仮に、チップ部品の一の極を大面積(ベタパターン)のグランドパターンに接続し、他の極を細い導電パターンや面積の小さな導電パターンに接続する場合、両極間におけるはんだの溶けるタイミングの相違に起因して、先に溶けたはんだの表面張力によりチップ部品が引っ張られて移動、回転する。このため接続不良(オープン不良)や、チップ部品の傾きにより衝撃に対する耐性が低下するなど、実装上の不良が増加する要因となる。
【0032】
本実施例では、グランドパターン30に突出部31やアイランド部32A~32Cをあえて形成し、これらの領域にチップ部品のグランド側の極を接続している。突出部31やアイランド部32A~32Cは、チップ部品の他の極が接続される導体パターンと同様、熱的には、実質的に細いパターンや実質的に面積の小さいパターンとして機能する。このため、はんだ付けする際の熱的な条件を、チップ部品の両極間で整えることができ、はんだ付けに係る不良の発生を抑制することができる。
【0033】
また、本実施例では、ポートP2とコンデンサC1との間に形成されているような経路33(例えば、50Ωに整合するライン)と同様の経路(例えば、後述する図3Bおよび図3Cに示す経路34)を、ポートP1とインダクタL1との間に形成せず、ポートP1とインダクタL1とを直結している。これは、従来、インピーダンスを50Ωに設定していた部分をマイクロストリップラインにすることで、あえてインピーダンスを高くしてインダクタンスに見せることにより、実装スペースの抑制を可能としたものである。
【0034】
図3Aに示すように、例えば、円偏波アンテナ装置100は、2つの給電点が形成されたパッチ電極1と、セラミックからなる誘電体層2とを有する送受信可能な円偏波アンテナを備える。円偏波アンテナ装置100は、パッチ電極1、誘電体層2および回路基板4を、順次、積層して構成され、回路基板4の表面41(図3Aにおいて上面)には、グランド導体が形成されてもよい。この場合、回路基板4の裏面42(図3Aにおいて下面)に、分配器10おより移相器20が実装されてもよい。また、この場合、回路基板4のポートP1およびポートP2は、図3Aにおいて誘電体板2を上下方向に貫通する導通ピンなどによりパッチ電極1の2つの給電点のそれぞれに接続することができる。ただし、本発明は、分配器10および移相器20が、図3Aに示す回路基板4の裏面42に実装される場合に限定されない。また、本発明において、誘電体層の構成は任意である。例えば、本実施例に示すパッチアンテナにおけるセラミック等の誘電体層に限定されず、誘電体層としてセラミック以外の素材を用いてもよく、任意の素材からなる基板(積層基板の中の一部の層を含む)を誘電体層として用いてもよい。また、例えば、アンテナエレメントを板金で形成した場合などには、誘電体層として空隙(空気)を利用してもよい。さらに、アンテナに設けられる給電点の数も2つに限定されず、例えば、本願発明は、4点給電の円偏波アンテナについても適用される。
【0035】
図3Bおよび図3Cは、回路基板における他の実装パターンを例示する図である。図3Bおよび図3Cにおいて、図3と同一の要素および対応する要素には、同一符号を付している。
【0036】
図3Bおよび図3Cの例では、図3に示す実装パターンとは異なり、第1の分配回路10Aおよび第2の分配回路10Bの回路が、互いに鏡像となる実装パターンを採用していない。しかし、実装パターンにおいて鏡像の関係が確保されていなくても、第1の分配回路10Aと第2の分配回路10Bの実装パターンを、互いに離す方向に引き回すことにより、相互間の干渉を抑制することができる。
【0037】
また、図3Bおよび図3Cの例では、図3の場合と比較して、実装スペースに余裕があるため、インダクタL1~L7を構成するストリップラインの形状を、図3の場合よりも直線状または直線状に近い形状とし、かつ、ストリップライン間の距離を確保している。さらに、図3Bおよび図3Cの例においても、突出部31またはアイランド部32A~32Cに相当するグランドパターンを採用することで、リフロー時の熱伝導の速度を、チップ部品(例えば、図3BのコンデンサC2、コンデンサC4、コンデンサC5、コンデンサC6、図3CのコンデンサC2、コンデンサC4、コンデンサC5、コンデンサC6、コンデンサC7、コンデンサC8)の両極間で整えている。
【0038】
なお、図3Cの例では、抵抗R1から分岐したインダクタL4およびインダクタL5の一部を、互いに平行な直線状のストリップラインとして構成している。このように、分岐後すぐに離れる方向にストリップラインを延さず、暫く平行であっても、その後離れるように実装されていれば、相互間の干渉を抑制する効果がある。
【0039】
なお、例えば、理想的には、第1の分配回路10Aと第2の分配回路10Bとの間で、レイアウトを等価にする(例えば、図3)とともに、各素子の値を等価とするのが好ましい。しかし、両者の回路のレイアウトが異なる場合(例えば、図3B図3C)に、レイアウトの相違に起因する分布定数的な影響をキャンセルする目的で、各素子の定数を調整し、第1の分配回路10Aと第2の分配回路10Bの特性を等価に近づけることもできる。
【0040】
図4は、本実施例における通過損失差のばらつきをシミュレーションした結果を示す図、図4Aは、本実施例における通過特性における位相差のばらつきをシミュレーションした結果を示す図である。図4および図4Aでは、インダクタL1~L7のインダクタンス値を固定し、コンデンサC1~C8の容量および抵抗R1の抵抗値の偏差に基づく変化幅を示している。コンデンサC1~C8の偏差は、容量の公称値が5pF以下については、±0.25pFとし、容量の公称値が6pF以上については、±0.5pFとしている。また、抵抗R1の偏差を、公称値の±5%としている。 図4は、ポートP1からポートP0までの経路と、ポートP2からポートP0までの経路における損失差(ゲイン差)の最小値(点線)および最大値(実線)の周波数特性を示し、図4Aは、ポートP1からポートP0までの経路と、ポートP2からポートP0までの経路における位相差の最小値(点線)および最大値(実線)の周波数特性を示している。
【0041】
一方、図5は、公知例(例えば、特許文献2の装置)のように、インダクタL1~L7として、チップ部品を使用した場合(本実施例に対する比較例)の通過損失差のばらつきをシミュレーションした結果を示す図、図5Aは、公知例(例えば、特許文献2の装置)のように、インダクタL1~L7として、チップ部品を使用した場合(本実施例に対する比較例)の通過特性における位相差のばらつきをシミュレーションした結果を示す図である。図5および図5Aでは、インダクタL1~L7のインダクタンス値、コンデンサC1~C8の容量および抵抗R1の抵抗値の偏差に基づく変化幅を示している。インダクタL1~L7の偏差は、インダクタンス値の公称値が5.6nH以下については、±0.3nHとし、インダクタンス値の公称値が6.8nH以上については、±5%としている。コンデンサC1~C8の偏差は、容量の公称値が5pF以下については、±0.25pFとし、容量の公称値が6pF以上については、±0.5pFとしている。また、抵抗R1の偏差を、公称値の±5%としている。
図5は、ポートP1からポートP0の経路と、ポートP2からポートP0の経路における損失差(ゲイン差)の最小値(点線)および最大値(実線)の周波数特性を示し、図5Aは、ポートP1からポートP0の経路と、ポートP2からポートP0の経路における位相差の最小値(点線)および最大値(実線)の周波数特性を示している。
【0042】
図4図5とを対比すると、本実施例(図4)では、比較例(図5)に比べて、損失差の変化幅(最小値と最小値の差)が小さく、広い周波数帯において、損失差が理想値である0dBに近い値となっている。例えば、1.610GHzの周波数において、本実施例(図4)では、-1.016dB~0.954の範囲に収まるのに対し、比較例(図5)では、-1.420dB~1.113dBの範囲まで損失差の幅が拡大する。
【0043】
また、図4A図5Aとを比較すると、本実施例(図4A)では、比較例(図5A)に比べて、位相差の変化幅(最小値と最小値の差)が小さく、広い周波数帯において、位相差が理想の角度である90度に近い角度となっている。例えば、1.610GHzの周波数において、本実施例(図4A)では、76.803度~103.521度の範囲に収まるのに対し、比較例(図5A)では、74.298度~101.619度の範囲まで位相差の幅が拡大する。このように、チップ部品の一部を分布定数に替えることで、アンテナ装置全体としての性能の劣化を抑制できることが分かる。
【0044】
図6は、図4図5Aに示したシミュレーションの結果から算出された軸比特性を示す図である。図6において、曲線71は、本実施例における軸比を示し、曲線72は、比較例における軸比を示す。曲線71および曲線72は、いずれも、チップ部品のばらつきにより、軸比特性が最も悪くなる状態を示している。
【0045】
図6に示すように、本実施例では、比較例と比べて、各周波数において、軸比がより0dBに近い値となる。また、周波数の上昇に伴う軸比の上昇幅もより抑制される。このように、本実施例では、チップ部品(インダクタ)のインダクタンス値のばらつきによる軸比特性の劣化を抑制することができる。このため、広範な周波数帯において優れた軸比特性を得ることができる。
【0046】
以上説明したように、本実施例では、分配器10および移相器20を構成するインダクタが、分布定数回路として構成されているので、チップ部品等の部品を用いた場合のようなインダクタンス値のばらつきが抑制される。したがって、良好な特性、例えば、広範な周波数帯において優れた軸比特性を得ることができる。また、コンデンサとして、任意の容量に設定することが困難なチップ部品を用いているにもかかわらず、インダクタのインダクタンス値を自由に設定できるため、分配器10および移相器20に、設計通りの特性を容易に与えることができる。
【0047】
さらに、本実施例では、第1の分配回路10Aおよび第2の分配回路10Bの回路を互いに鏡像となるように実装することにより、回路間の結合に起因する回路への影響の対称性を確保して、第1の分配回路10Aおよび第2の分配回路10Bにおける特性変化を均等化させることができる。
【0048】
以上、実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形および変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部または複数を組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 パッチ電極
2 誘電体層
4 回路基板
10 分配器
11 第1の分配回路
12 第2の分配回路
20 移相器
21 第1の位相シフト回路
22 第2の位相シフト回路
30 グランドパターン
31 突出部
32A、32B、32C アイランド部
100 円偏波アンテナ装置
図1
図2
図3
図3A
図3B
図3C
図4
図4A
図5
図5A
図6