(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151012
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】非水系二次電池用セパレータ及び非水系二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/449 20210101AFI20231005BHJP
H01M 50/426 20210101ALI20231005BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20231005BHJP
H01M 50/451 20210101ALI20231005BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20231005BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20231005BHJP
H01M 50/457 20210101ALI20231005BHJP
【FI】
H01M50/449
H01M50/426
H01M50/417
H01M50/451
H01M50/443 M
H01M50/434
H01M50/457
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060397
(22)【出願日】2022-03-31
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】522131147
【氏名又は名称】上海恩捷新材料科技股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西川 聡
【テーマコード(参考)】
5H021
【Fターム(参考)】
5H021CC04
5H021EE02
5H021EE03
5H021EE04
5H021EE10
5H021EE21
5H021EE22
5H021EE23
5H021EE31
5H021EE32
5H021EE34
5H021HH01
5H021HH07
(57)【要約】
【課題】多孔質基材の少なくとも片面にポリフッ化ビニリデン系樹脂を含む接着層を設けて電極との接着性を有しつつ、帯電を抑え、ハンドリング性が高められた非水系二次電池用セパレータを提供する。
【解決手段】多孔質基材と、多孔質基材の少なくとも片面に、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を含む接着層と、を有し、曇点が30℃以上85℃以下であり、分子量が200以上1500以下であるノニオン性界面活性剤を含む、非水系二次電池用セパレータである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質基材と、
前記多孔質基材の少なくとも片面に、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を含む接着層と、
を有し、
曇点が30℃以上85℃以下であり、分子量が200以上1500以下であるノニオン性界面活性剤を含む、非水系二次電池用セパレータ。
【請求項2】
前記多孔質基材が、ポリオレフィン微多孔膜を有する請求項1に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項3】
前記多孔質基材が、前記ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に、無機フィラーを含み、かつ、層全体に対する無機フィラーの含有率が90質量%以上である耐熱性層を有する請求項2に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項4】
前記接着層を、前記多孔質基材の両面に有する請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項5】
前記接着層が、前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂の三次元網目状構造を含む請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項6】
前記ノニオン性界面活性剤の含有量が、0.05g/m2~1.0g/m2である請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項7】
正極と、
負極と、
前記正極及び前記負極の間に配置され、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータと、
を備えた非水系二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水系二次電池用セパレータ及び非水系二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、多孔質基材の片面又は両面に、セパレータの耐熱性の向上や電極とセパレータとの接着性の向上を目的として、樹脂及びフィラーを含む多孔質層を設ける提案がなされている。
【0003】
例えば、多孔質基材であるポリエチレン微多孔膜の片面に、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)系樹脂、無機フィラーを含む耐熱性層が形成されたセパレータが開示されている(特許文献1参照)。多孔質基材にポリフッ化ビニリデンを含む接着層が形成されたセパレータは、充放電に伴う電極の膨張及び収縮によるセルの変形を抑制し、電池の信頼性を高める効果がある。セパレータが電極と接着することで、加熱時の収縮が抑制されている。これにより、電池の安全性向上に寄与している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、PVDFは帯電しやすい性質を有しており、PVDFを含む接着層がセパレータの最表面に設けられている場合、搬送性の低下、及び異物が吸着しやすいことによる歩留まりの低減を招きやすいという性質がある。したがって、ハンドリング中に適切な除電処理を施す必要があった。このような状況に鑑み、PVDFを含む接着層が設けられたセパレータでは、帯電防止のための処置が技術課題の1つと考えられている。
【0006】
上記の技術課題に対して、従来から界面活性剤を用いる技術が提案されている。ところが、これまでに開示されている技術は、セパレータにおける水分率の上昇、又はセル性能の低下を引き起こすという弊害を招いていたのが現状である。
【0007】
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、多孔質基材の少なくとも片面にポリフッ化ビニリデン系樹脂を含む接着層を設けて電極との接着性を有しつつ、帯電を抑え、ハンドリング性が高められた非水系二次電池用セパレータを提供することにある。
本開示の他の実施形態が解決しようとする課題は、セパレータと電極との接着性を有しつつ、電池特性に優れた非水系二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 多孔質基材と、前記多孔質基材の少なくとも片面に、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を含む接着層と、を有し、
曇点が30℃以上85℃以下であり、分子量が200以上1500以下であるノニオン性界面活性剤を含む、非水系二次電池用セパレータである。
【0009】
<2> 前記多孔質基材が、ポリオレフィン微多孔膜を有する<1>に記載の非水系二次電池用セパレータである。
【0010】
<3> 前記多孔質基材が、前記ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に、無機フィラーを含み、かつ、層全体に対する無機フィラーの含有率が90質量%以上である耐熱性層を有する<2>に記載の非水系二次電池用セパレータである。
【0011】
<4> 前記接着層を、前記多孔質基材の両面に有する<1>~<3>のいずれか1つに記載の非水系二次電池用セパレータである。
【0012】
<5> 前記接着層が、前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂の三次元網目状構造を含む<1>~<4>のいずれか1つに記載の非水系二次電池用セパレータである。
【0013】
<6> 前記ノニオン性界面活性剤の含有量が、0.05g/m2~1.0g/m2である<1>~<5>のいずれか1つに記載の非水系二次電池用セパレータである。
【0014】
<7> 正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に配置され、<1>~<6>のいずれか1つに記載の非水系二次電池用セパレータと、を備えた非水系二次電池である。
【発明の効果】
【0015】
本開示の一実施形態によれば、多孔質基材の少なくとも片面にポリフッ化ビニリデン系樹脂を含む接着層を設けて電極との接着性を有しつつ、帯電を抑え、ハンドリング性が高められた非水系二次電池用セパレータが提供される。
本開示の他の実施形態によれば、セパレータと電極との接着性を有しつつ、電池特性に優れた非水系二次電池が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。なお、これらの説明及び実施例は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。
【0017】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
【0018】
本明細書において「(メタ)アクリル」との表記は「アクリル」又は「メタクリル」を意味する。
【0019】
本明細書において、非水系二次電池用セパレータに関し、「長手方向」とは、長尺状に製造されるセパレータの長尺方向を意味し、「幅方向」とは、セパレータの長手方向に直交する方向を意味する。「長手方向」を「MD方向」とも称し、「幅方向」を「TD方向」とも称する。
【0020】
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0021】
更に、本明細書において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する該当する複数の物質の合計量を意味する。
【0022】
本明細書において、「全固形分」とは、組成物の全組成から溶媒を除いた成分の総質量をいう。また、「固形分」とは、上述のように、溶媒を除いた成分であり、例えば、25℃において固体であっても、液体であってもよい。
【0023】
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0024】
本明細書において、「耐熱性」とは、200℃未満の温度領域で溶融又は分解を起こさない性状を意味する。
【0025】
<非水系二次電池用セパレータ>
本開示の非水系二次電池用セパレータは、多孔質基材と、多孔質基材の少なくとも片面に配置されたポリフッ化ビニリデン系樹脂を含む接着層と、を有する。接着層は、多孔質基材の両面に配置されていてもよい。また、本開示の非水系二次電池用セパレータは、曇点が30℃以上85℃以下であり、分子量が200以上1500以下であるノニオン性界面活性剤を含む。
【0026】
本開示の非水系二次電池用セパレータは、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を含む接着層を有しつつ、曇点及び分子量が特定の範囲にあるノニオン性界面活性剤を含むことで、帯電を抑え、ハンドリング性を改善し、更には電池とした際の電池特性が向上する。このような効果が奏される作用機序は、必ずしも明確ではないが、以下のように推察される。
従来から、帯電を抑える目的で界面活性剤や水系のバインダを用いる技術が知られているが、内部に保持される水分量が増える傾向があり、電池性能を左右することがある。そのため、単に界面活性剤等を用いるだけでは所望とする特性が得られず、水分量を適切に制御するための技術が必要とされることが判明した。このような事情に鑑み、特定のノニオン系の界面活性剤が、数ある界面活性物質の中において、水分への親和性、つまり水分を抱き込む性質を適度に抑えつつも、所望とする帯電抑制を発現し得るとの知見を得た。
本開示の非水系二次電池用セパレータは、上記知見に基づいて達成されたものであり、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を含む接着層を備えた場合において、ノニオン系であって、かつ、曇点及び分子量が特定の範囲を満足する界面活性剤を含有することで、電極との接着性と帯電抑制性との両立を達成した。これにより、セパレータはハンドリング性に優れ、電池とした際の電池特性にも優れるという利点がある。
【0027】
以下、本開示の非水系二次電池用セパレータ(以下、単に「セパレータ」ともいう。)について詳細に説明する。
【0028】
(ノニオン性界面活性剤)
本開示の非水系二次電池用セパレータは、曇点が30℃以上85℃以下であり、分子量が200以上1500以下であるノニオン性界面活性剤を含有する。特定の曇点及び分子量を有するノニオン性界面活性剤が選択されることで、セパレータの親水性が高くなり過ぎず、セパレータの水分率上昇を抑え、かつ、帯電を抑制することができる。
【0029】
本開示の非水系二次電池用セパレータにおいて、ノニオン性界面活性剤は、いずれの層に含有されていてもよく、多孔質基材、接着層、及び後述する耐熱性層のいずれに含有されていてもよい。ノニオン性界面活性剤は、多孔質基材、接着層、及び後述する耐熱性層の少なくとも1つに含有されていればよく、少なくとも接着層に含有されていることが好ましく、接着層に最も多く含有されていることが好ましい。
【0030】
ノニオン性界面活性剤の曇点は、30℃以上85℃以下である。曇点が30℃より低くなると、溶解しにくいため、界面活性剤の付与を、水溶液を調製して塗布等することによって行うことが難しく製造適性に劣る。結果、十分な帯電抑制効果も得られにくい。また、曇点が85℃を超えると、親水性が高くなり過ぎて、セパレータの水分率上昇を引き起こしやすく、電池とした際の電池性能を損ないやすい。
ノニオン性界面活性剤の曇点としては、上記同様の理由から、30℃以上60℃以下が好ましく、35℃以上50℃以下がより好ましく、35℃以上45℃以下が更に好ましい。
【0031】
曇点は、JIS K 2269に準拠して測定される値である。
【0032】
ノニオン性界面活性剤の分子量は、200以上1500以下である。分子量が200より低いと、曇点が低くなり、概ね親油性が高過ぎるために水溶液を調製しにくく、上記の通り製造適性に劣る。結果、帯電抑制効果も得られにくい。また、分子量が1500より高くなると、立体障害の観点から、界面活性剤分子が接着層表面に配向しにくくなり、十分な帯電防止効果が得られにくい。
ノニオン性界面活性剤の分子量としては、上記同様の理由から、200以上1000以下が好ましく、300以上750以下がより好ましく、400以上670以下が更に好ましい。
【0033】
分子量は、ノニオン性界面活性剤を構成する原子の種類と数に基づいて化学式から算術計算により求められる。
【0034】
ノニオン性界面活性剤とは、水に溶けてもイオン性を示さないが界面活性を呈する非イオン性の界面活性剤のことをいう。本開示のノニオン性界面活性剤としては、上記の曇点及び分子量を有する界面活性剤であれば特に制限はなく、適宜選択して用いることができる。
【0035】
ノニオン性界面活性剤の具体例としては、アルキレンオキシド(CnH2n-O-、n=2又は3)鎖を有するアルキレンオキシド系界面活性剤等を挙げることができる。
【0036】
前記アルキレンオキシド系界面活性剤としては、アルキレンオキシドアルキルエーテル等が挙げられる。アルキレンオキシドアルキルエーテルとしては、例えば、エチレンオキシドアルキルエーテル、プロピレンオキシドアルキルエーテルが挙げられ、アルキル部位の炭素数が8~18(好ましくは10~16)のエチレンオキシドアルキルエーテルがより好ましい。
【0037】
エチレンオキシドアルキルエーテルの具体例としては、ポリオキシエチレン(9)ラウリルエーテル(曇点83℃、分子量582、エチレンオキシド単位9)、ポリオキシエチレン(6)ラウリルエーテル(曇点40℃、分子量450、エチレンオキシド単位6)、ポリオキシエチレン(9)オレイルエーテル(曇点55℃、分子量664、エチレンオキシド単位9)等が挙げられる。
【0038】
本開示のノニオン性界面活性剤は、上市されている市販品を用いてもよく、例えば、花王株式会社製のエマルゲンシリーズ(例:エマルゲン108、エマルゲン409PV、エマルゲン707、エマルゲン109P)、株式会社ADEKA製のプルロニックシリーズ(例:プルロニックP-84、プルロニックL-64)を挙げることができる。
【0039】
ノニオン性界面活性剤は、1種単独で含有されてもよいし、2種以上を併用してもよい。
本開示の非水系二次電池用セパレータにおけるノニオン性界面活性剤の含有量としては、0.05g/m2以上1.0g/m2以下であることが好ましく、0.1g/m2以上0.7g/m2以下であることがより好ましく、0.1g/m2以上0.5g/m2以下であることが更に好ましい。ノニオン性界面活性剤の含有量が0.05g/m2以上であると、良好な帯電防止効果が得られやすい。また、ノニオン性界面活性剤の含有量が1.0g/m2以下であると、セパレータの水分率が高くなり過ぎない。
【0040】
非水系二次電池用セパレータにおけるノニオン性界面活性剤の含有量は、セパレータをジメチルスルホキシドに溶解し、可溶成分を核磁気共鳴(NMR)法で分析することにより求められる。具体的には、セパレータをジメチルスルホキシドへの溶解前後の重量差で可溶成分の重量を求め、1H-NMR、19F-NMRによりポリフッ化ビニリデン系樹脂とノニオン性界面活性剤の重量比を求めることで算出可能である。
【0041】
(多孔質基材)
本開示の非水系二次電池用セパレータは、多孔質基材を有する。
多孔質基材とは、内部に空孔ないし空隙を有する基材を意味する。このような基材としては、微多孔膜;不織布、紙状シート等の繊維状物からなる多孔性シート;などが挙げられる。特に、セパレータの薄膜化及び高強度化の観点で、微多孔膜が好ましい。微多孔膜とは、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となった膜を意味する。
【0042】
多孔質基材を構成する材料は、電気絶縁性を有する材料であれば有機材料及び無機材料のいずれでもよい。
【0043】
多孔質基材は、単層又は多層のいずれでもよい。多孔質基材は、ポリオレフィンを含む微多孔膜(「ポリオレフィン微多孔膜」という。)を有することが好ましい。多孔質基材が単層である場合、多孔質基材はポリオレフィン微多孔膜であることが好ましい。また、多孔質基材が多層である場合、ポリオレフィン微多孔膜及び耐熱性層を有する基材が好ましく、ポリオレフィン微多孔膜と、ポリオレフィン微多孔膜上に塗設された耐熱性層とからなる基材がより好ましい。
【0044】
多孔質基材を構成する材料は、多孔質基材にシャットダウン機能を付与する観点から、熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。シャットダウン機能とは、電池温度が高まった場合に、構成材料が溶解して多孔質基材の孔を閉塞することによりイオンの移動を遮断し、電池の熱暴走を防止する機能をいう。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが挙げられる。熱可塑性樹脂は、シャットダウン機能を付与する観点から、流動伸び変形温度が200℃未満の樹脂が好ましい。
【0045】
ポリオレフィン微多孔膜としては、従来の非水系二次電池用セパレータに適用されているポリオレフィン微多孔膜の中から、十分な力学特性とイオン透過性を有するものを選択すればよい。ポリオレフィン微多孔膜は、シャットダウン機能を発現する観点から、ポリエチレンを含むことが好ましく、ポリエチレンの含有量としては95質量%以上が好ましい。
【0046】
ポリオレフィン微多孔膜は、高温に曝されたときに容易に破膜しない程度の耐熱性を付与するという観点では、ポリエチレンとポリプロピレンとを含むポリオレフィン微多孔膜が好ましい。このようなポリオレフィン微多孔膜としては、ポリエチレンとポリプロピレンが1つの層において混在している微多孔膜が挙げられる。このような微多孔膜においては、シャットダウン機能と耐熱性の両立という観点から、95質量%以上のポリエチレンと5質量%以下のポリプロピレンとを含むことが好ましい。また、シャットダウン機能と耐熱性の両立という観点では、ポリオレフィン微多孔膜が2層以上の積層構造を備えており、少なくとも1層はポリエチレンを含み、少なくとも1層はポリプロピレンを含む構造のポリオレフィン微多孔膜も好ましい。
【0047】
ポリオレフィン微多孔膜に含まれるポリオレフィンは、重量平均分子量が10万~500万のものが好適である。重量平均分子量が10万以上であると、十分な力学特性を確保できる。一方、重量平均分子量が500万以下であると、シャットダウン特性が良好であるし、膜の成形がしやすい。
【0048】
ポリオレフィン微多孔膜は、例えば以下の方法で製造可能である。すなわち、溶融したポリオレフィン樹脂をT-ダイから押し出してシート化し、これを結晶化処理した後延伸し、さらに熱処理をして微多孔膜とする方法である。または、流動パラフィンなどの可塑剤と一緒に溶融したポリオレフィン樹脂をT-ダイから押し出し、これを冷却してシート化し、延伸した後、可塑剤を抽出し熱処理をして微多孔膜とする方法である。
【0049】
繊維状物からなる多孔性シートとしては、熱可塑性樹脂の繊維状物からなる不織布、紙等の多孔性シートが挙げられる。
【0050】
耐熱性層は、ポリオレフィン微多孔膜の上(好ましくはポリオレフィン微多孔膜の表面)に配置される層である。
耐熱性層は、多孔質基材の片面のみにあってもよく、多孔質基材の両面にあってもよい。耐熱性層が多孔質基材の両面にあると、セパレータの耐熱性がより優れ、電池の安全性をより高めることができる。また、セパレータにカールが発生しにくく、電池製造時のハンドリング性に優れる。耐熱性層が多孔質基材の片面のみにあると、セパレータのイオン透過性がより優れる。また、セパレータ全体の厚みを抑えることができ、エネルギー密度のより高い電池を製造し得る。
【0051】
耐熱性層としては、バインダ樹脂と無機フィラーを含む層であることが好ましい。
【0052】
耐熱性層のバインダ樹脂は、非水溶性樹脂又は水溶性樹脂のいずれでもよい。
バインダ樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリケトン、ポリエーテルイミド、ポリ-N-ビニルアセトアミド、ポリアクリルアミド、共重合ポリエーテルポリアミド、フッ素系ゴム、アクリル系樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体、セルロース、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0053】
バインダ樹脂は、粒子状樹脂でもよく、例えば、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、フッ素系ゴム、スチレン-ブタジエン共重合体等の樹脂粒子が挙げられる。バインダ樹脂は、セルロース、ポリビニルアルコール等の水溶性樹脂でもよい。
バインダ樹脂として粒子状樹脂又は水溶性樹脂を用いる場合は、バインダ樹脂を水に分散又は溶解させて塗工液を調製し、該塗工液を用いて乾式塗工法にて耐熱性層を多孔質基材上に形成することができる。
【0054】
バインダ樹脂としては、耐熱性に優れる観点から、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド及びポリイミドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む耐熱性樹脂が好ましい。中でも、耐久性の観点から、全芳香族ポリアミドが好ましい。全芳香族ポリアミドは、メタ型でもパラ型でもよい。全芳香族ポリアミドの中でも、多孔質層を形成しやすい観点および電極反応において耐酸化還元性に優れる観点から、メタ型全芳香族ポリアミドが好ましい。全芳香族ポリアミドには、少量の脂肪族単量体が共重合されていてもよい。
【0055】
バインダ樹脂として用いられる全芳香族ポリアミドとしては、具体的には、ポリメタフェニレンイソフタルアミド又はポリパラフェニレンテレフタルアミドが好ましく、ポリメタフェニレンイソフタルアミドがより好ましい。
【0056】
バインダ樹脂としては、耐熱性層と接着層との密着性という観点では、ポリフッ化ビニリデン系樹脂(PVDF系樹脂)が好ましい。PVDF系樹脂としては、フッ化ビニリデンの単独重合体(即ちポリフッ化ビニリデン);フッ化ビニリデンと他の単量体との共重合体(ポリフッ化ビニリデン共重合体);ポリフッ化ビニリデンとポリフッ化ビニリデン共重合体の混合物;が挙げられる。フッ化ビニリデンと共重合可能な単量体としては、例えば、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、トリクロロエチレン、フッ化ビニル、トリフルオロパーフルオロプロピルエーテル、エチレン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エステル、酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリロニトリル等が挙げられる。これら単量体は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。PVDF系樹脂は、重量平均分子量(Mw)が60万~300万であることが好ましい。PVDF系樹脂は、酸価が3mgKOH/g~20mgKOH/gであることが好ましい。PVDF系樹脂の酸価は、例えば、PVDF系樹脂にカルボキシ基を導入することにより制御できる。PVDF系樹脂へのカルボキシ基の導入及び導入量は、PVDF系樹脂の重合成分としてカルボキシ基を有する単量体(例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸エステル、及びこれらのフッ素置換体)を用い、その重合比を調整することにより制御できる。
【0057】
無機フィラーとしては、特に制限はなく、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化クロム、水酸化ジルコニウム、水酸化セリウム、水酸化ニッケル、水酸化ホウ素等の金属水酸化物の粒子;シリカ、アルミナ、ジルコニア、酸化マグネシウム、チタン酸バリウム等の金属酸化物の粒子;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩の粒子;硫酸バリウム、硫酸カルシウム等の硫酸塩の粒子;などが挙げられる。無機フィラーとしては、電解液に対する安定性及び電気化学的な安定性の観点から、マグネシウム系粒子及びバリウム系粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む粒子が好ましい。
マグネシウム系粒子とは、マグネシウム化合物を含む無機フィラーを意味し、具体的には例えば水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム等が挙げられる。
バリウム系粒子とは、バリウム化合物を含む無機フィラーを意味し、具体的には例えば硫酸バリウム、チタン酸バリウム等が挙げられる。
無機フィラーは、シランカップリング剤等により表面修飾されたものでもよい。
【0058】
無機フィラーの粒子形状に限定はなく、球形、楕円形、板状、針状、不定形のいずれでもよい。耐熱性層に含まれる無機フィラーは、電池の短絡抑制の観点から、板状の粒子、又は凝集していない一次粒子であることが好ましい。
【0059】
無機フィラーの平均粒子径は、0.01μm~10μmが好ましい。その下限値としては、0.1μmがより好ましく、上限値としては5μmがより好ましい。
平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定される値であり、例えばシスメックス社製のマスターサイザー2000を用いて測定される。具体的には、無機フィラーと水(分散媒)と非イオン性界面活性剤(Triton X-100;分散剤)とを混合し分散させた分散液の、体積粒度分布における中心粒子径(D50)を平均粒子径とする。
【0060】
多孔質基材としては、ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に、さらに無機フィラーを含み、かつ、層全体に対する無機フィラーの含有率が90質量%以上である耐熱性層を有する基材が好ましい。無機フィラーの層全体に対する含有率は、90質量%以上100質量%未満が好ましく、95質量%以上100質量%未満がより好ましい。
【0061】
無機フィラーは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
耐熱性層における無機フィラーの含有量は、2.0g/m2~20.0g/m2が好ましい。無機フィラーの含有量が2.0g/m2以上であると、セパレータの耐熱性により優れる。無機フィラーの含有量が20.0g/m2以下であると、耐熱性層が剥離して脱落しにくい。
【0062】
耐熱性層は、上記ノニオン性界面活性剤以外の分散剤、湿潤剤、消泡剤、pH調整剤などの添加剤を含んでいてもよい。分散剤は、耐熱性層を形成するための塗工液に、分散性、塗工性又は保存安定性を向上させることができる。湿潤剤、消泡剤、pH調整剤は、耐熱性層を形成するための塗工液に、例えばポリオレフィン微多孔膜との馴染みを良くする目的、塗工液へのエア噛み込みを抑制する目的、又はpH調整の目的で添加することができる。
【0063】
-耐熱性層の特性-
本開示のセパレータにおいて、耐熱性層の厚みは、セパレータの耐熱性又はハンドリング性の観点から、片面当たり0.5μm以上が好ましく、片面当たり0.8μm以上がより好ましく、セパレータのハンドリング性又は電池のエネルギー密度の観点から、片面当たり4.0μm以下が好ましく、片面当たり3.5μm以下がより好ましい。耐熱性層の厚みは、耐熱性層が多孔質基材の片面のみにある場合でも両面にある場合でも、両面の合計として、1.0μm以上が好ましく、1.6μm以上がより好ましく、8.0μm以下が好ましく、7.0μm以下がより好ましい。
【0064】
耐熱性層は、複数の孔を有する多孔質層であってもよい。耐熱性層が多孔質層である場合、空孔率は30%~70%であることが好ましい。
【0065】
多孔質基材がポリオレフィン微多孔膜と耐熱性層とを有する場合、ポリオレフィン微多孔膜と耐熱性層との間の剥離強度は、電極に対するセパレータの接着強度の観点から、5N/m以上が好ましく、10N/m以上がより好ましく、20N/m以上が更に好ましい。また、剥離強度は、イオン透過性の観点から、75N/m以下が好ましく、60N/m以下がより好ましく、50N/m以下が更に好ましい。
【0066】
(接着層)
本開示の非水系二次電池用セパレータは、多孔質基材の少なくとも片面にポリフッ化ビニリデン系樹脂を含む接着層を有する。接着層は、セパレータの例えば電極との間の接着を担う。
【0067】
接着層は、多孔質基材の片面に配置されるのみならず、本開示の効果がより奏される観点では、多孔質基材の両面に配置されていることが好ましい。
【0068】
接着層は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を含む。
ポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、フッ化ビニリデンの単独重合体(即ちポリフッ化ビニリデン);フッ化ビニリデンと他のモノマーとの共重合体(ポリフッ化ビニリデン共重合体);ポリフッ化ビニリデンとポリフッ化ビニリデン共重合体の混合物;が挙げられる。フッ化ビニリデンと共重合可能なモノマーとしては、例えば、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、トリクロロエチレン、フッ化ビニル、トリフルオロパーフルオロプロピルエーテル、エチレン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エステル、酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリロニトリル等が挙げられる。これらモノマーは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0069】
ポリフッ化ビニリデン共重合体は、電池製造時の加圧及び加熱に耐え得る機械的強度を得る観点から、フッ化ビニリデン由来の構成単位を50モル%以上有する共重合体が好ましい。
【0070】
ポリフッ化ビニリデン共重合体としては、フッ化ビニリデンとテトラフルオロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体、又はフッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンの共重合体が好ましく、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体がより好ましい。フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体としては、ヘキサフルオロプロピレン由来の構成単位を0.1モル%~10モル%(好ましくは0.5モル%~5モル%)含む共重合体が好ましい。
【0071】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量は、1000~500万が好ましく、1万~300万がより好ましく、5万~200万が更に好ましい。
【0072】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、粒子の形態で含まれてもよい。接着層は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の粒子が多孔質基材の上に付着した構造を有する層でもよい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂の粒子を含む接着層は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の粒子間に存在する隙間によって、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となっていてもよい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂の粒子が付着した構造とは、完成したセパレータにおいて、粒子形状が保持されている態様のみならず、製造過程での熱処理又は乾燥処理により粒子が一部溶融して粒子形状を保持していない態様も含む。
【0073】
接着層は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の三次元網目状構造を有していることが好ましい。接着層が三次元網目状構造を有していることで、接着層内のイオン透過性が電極との接着後も良好であり、かつ、均一となる。
【0074】
三次元網目状構造とは、左右方向、上下方向、前後方向、及びこれらの中間の斜め方向を含む三次元空間の様々な方向に(例えば複数の粒子が繋がって)孔(空間)が立体的に広がっている構造を指す。
【0075】
三次元網目状構造は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を有機溶剤に溶解し、ポリフッ化ビニリデン系樹脂含有液を多孔質基材に塗布した後にポリフッ化ビニリデン系樹脂の貧溶剤を含む凝固液に浸漬し、水洗、乾燥することで形成することができる。
また、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の粒子を用いることによって、三次元網目状構造を有する接着層を形成することもできる。
ただし、三次元網目状構造の形成方法は、これらに制限されるものではない。
【0076】
接着層が三次元網目状構造を有していることは、完成したセパレータを厚み方向と平行な平面で切断し、切断面における接着層を走査型電子顕微鏡で観察することにより確認することができる。
【0077】
接着層が耐熱性層又は多孔質基材に付着した構造であることで、耐熱性層又は多孔質基材と接着層との間の界面破壊が発生しにくい。また、接着層が、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の粒子同士が互いに繋がって連結した構造であることで、接着層は靱性に優れ、接着層の凝集破壊が発生しにくい。
【0078】
接着層は、本開示の効果を著しく損なわない範囲で、正極又は負極の組成に合せてポリフッ化ビニリデン系樹脂以外の他の樹脂を更に含んでいてもよい。他の樹脂としては、例えば、フッ素系ゴム、アクリル系樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体、ビニルニトリル化合物(アクリロニトリル、メタクリロニトリル等)の単独重合体又は共重合体、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル(ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド等)が挙げられる。接着層は、耐酸化性に優れる点で、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及びアクリル系樹脂を含むことが好ましい。また、接着層は、接着層のイオン透過性、接着層の電極に対する接着性、接着層と耐熱性層との間の剥離強度、及び接着層のハンドリング性をバランスよく調整する観点から、ポリフッ化ビニリデン系樹脂とアクリル系樹脂の混合物の粒子、又は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を(好ましくは全固形分に対し50質量%超)含む第1の粒子とアクリル系樹脂を(好ましくは全固形分に対し50質量%超)含む第2の粒子との混合物を含むことが好ましい。
【0079】
アクリル系樹脂は、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸塩、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、架橋ポリ(メタ)アクリル酸、架橋ポリ(メタ)アクリル酸塩、架橋ポリ(メタ)アクリル酸エステルが挙げられ、変性されていてもよい。
【0080】
接着層は、接着層のイオン透過性、接着層の電極に対する接着性、接着層と耐熱性層との間の剥離強度、及び接着層のハンドリング性をバランスよく調整する観点から、層全体に対するポリフッ化ビニリデン系樹脂の含有量が、50質量%超であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。
【0081】
接着層は、界面活性剤等の分散剤、湿潤剤、消泡剤、pH調整剤などの添加剤を含んでいてもよい。
【0082】
接着層は、接着層を形成するためのポリフッ化ビニリデン系樹脂含有液を調製し、ポリフッ化ビニリデン系樹脂含有液を多孔質基材の上に付与(例えば塗布)することによって形成することができる。接着層は、例えばポリフッ化ビニリデン系樹脂の粒子を含む樹脂粒子分散液を調製し、樹脂粒子分散液を多孔質基材の上に塗布等して形成してもよい。
接着層は、電極に対する接着性の観点から、片面あたり0.2g/m2以上が好ましく、イオン透過性、セパレータのハンドリング性又は電池のエネルギー密度の観点から、片面あたり2.0g/m2以下が好ましい。
【0083】
-セパレータの特性-
本開示のセパレータの厚みは、セパレータの機械的強度の観点から、8.0μm以上が好ましく、9.0μm以上がより好ましく、電池のエネルギー密度の観点から、20.0μm以下が好ましく、15.0μm以下がより好ましい。
【0084】
本開示のセパレータの突刺強度は、セパレータの機械的強度又は電池の耐短絡性の観点から、150g~1000gが好ましく、200g~600gがより好ましい。セパレータの突刺強度の測定方法は、多孔質基材の突刺強度の測定方法と同様である。
【0085】
本開示のセパレータの空孔率は、電極に対する接着性、セパレータのハンドリング性、イオン透過性又は機械的強度の観点から、30%~60%が好ましい。
【0086】
本開示のセパレータに含まれる水分量(質量基準)は、1200ppm以下が好ましく、1000ppm以下がより好ましい。セパレータの水分量が少ないほど、電池を構成した場合において、電解液と水との反応が抑えられ、電池内でのガス発生を抑えることができ、電池のサイクル特性が向上する。この観点から、セパレータに含まれる水分量は、800ppm以下がより好ましく、600ppm以下が更に好ましく、500ppm以下が特に好ましい。
【0087】
本開示のセパレータの膜抵抗は、電池の負荷特性の観点から、0.5ohm・cm2~10ohm・cm2が好ましく、1ohm・cm2~8ohm・cm2がより好ましい。
【0088】
本開示のセパレータのガーレ値(JIS P8117:2009)は、機械的強度とイオン透過性のバランスの観点から、50秒/100mL~800秒/100mLが好ましく、80秒/100mL~500秒/100mLがより好ましく、100秒/100mL~400秒/100mLが更に好ましい。
【0089】
本開示のセパレータは、イオン透過性の観点から、セパレータのガーレ値と多孔質基材のガーレ値との差が20秒/100mL~300秒/100mLであることが好ましい。セパレータのガーレ値と多孔質基材のガーレ値との差は、200秒/100mL以下がより好ましく、150秒/100mL以下が更に好ましい。
【0090】
本開示のセパレータのMD及びTDにおける引張強度は、セパレータの機械的強度又はハンドリング性の観点から、いずれも、500kgf/cm2以上が好ましく、700kgf/cm2以上がより好ましい。上限は、通常3000kgf/cm2以下である。
【0091】
-セパレータの製造方法-
本開示のセパレータは、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を含む接着層を多孔質基材の少なくとも片面に成形する工程、及びノニオン性界面活性剤を付着させる工程を有する方法で製造される。
接着層は、以下の工程を経て成形することができる。即ち、この工程では、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を溶解する溶媒(以下、「良溶媒」ともいう。)と溶解しない溶媒(以下、「貧溶媒」ともいう。)からなる混合溶媒に溶解してポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を作製する。この溶液を基材の少なくとも片面に塗工した後に混合溶媒と貧溶媒の一例である水からなる凝固液に浸漬する。これにより、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を三次元網目状構造に固化させて、凝固液を水洗し、水を乾燥する。
ここで、良溶媒は、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等の極性アミド溶媒が挙げられる。貧溶媒は、水、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、ブタンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリプロピレングリコール等が挙げられる。また、混合溶媒は、必ずしも貧溶媒を含む必要はなく良溶媒のみから構成されてもよい。
また、前述同様のポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液を基材の少なくとも片面に塗工した後に良溶媒を乾燥することで、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を三次元網目状構造に析出させた後、貧溶剤を乾燥または抽出により除去する方法によっても、接着層の成形は可能である。
さらに、ポリフッ化ビニリデン系樹脂溶液に無機フィラーを分散させたものを用いて塗工する場合は、塗工後に混合溶媒を乾燥除去することで、三次元網目状構造の接着層を成形することができる。
ノニオン性界面活性剤の付着は、ノニオン性界面活性剤水溶液を接着層が成形された多孔質基材に塗布することで実現できる。ノニオン性界面活性剤水溶液の塗布は、接着層成形工程においてポリフッ化ビニリデン系樹脂を三次元網目状構造に析出させた後に実施することが好適であり、特に乾燥後の接着層が多孔質基材に成形された後になされるのが好適である。ここで、ノニオン性界面活性剤水溶液の塗布は、グラビアコート、ディップコート等の公知の方法で実現可能である。
【0092】
<非水系二次電池>
本開示の非水系二次電池は、正極と、負極と、正極及び負極の間に配置された既述の本開示の非水系二次電池用セパレータと、を備えている。本開示の非水系二次電池は、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池である。ドープとは、吸蔵、担持、吸着、又は挿入を意味し、正極等の電極の活物質にリチウムイオンが入る現象を意味する。
【0093】
本開示の非水系二次電池は、本開示のセパレータが電極との接着に優れ、かつ、帯電を抑え、ハンドリング性に優れることにより、電池の生産性および電池のサイクル特性(容量維持率)に優れる。
【0094】
本開示の非水系二次電池は、例えば、負極と正極とがセパレータを介して対向した電池素子が電解液と共に外装材内に封入された構造を有する。本開示の非水系二次電池は、非水電解質二次電池、特にリチウムイオン二次電池に好適である。
【0095】
以下、本開示の非水系二次電池が備える正極、負極、電解液及び外装材の形態例を説明する。
【0096】
正極の実施形態例としては、正極活物質及びバインダ樹脂を含む活物質層が集電体上に成形された構造が挙げられる。活物質層は、さらに導電助剤を含んでもよい。正極活物質としては、例えば、リチウム含有遷移金属酸化物が挙げられ、具体的にはLiCoO2、LiNiO2、LiMn1/2Ni1/2O2、LiCo1/3Mn1/3Ni1/3O2、LiMn2O4、LiFePO4、LiCo1/2Ni1/2O2、LiAl1/4Ni3/4O2等が挙げられる。バインダ樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体等が挙げられる。導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛粉末等の炭素材料が挙げられる。集電体としては、例えば厚み5μm~20μmの、アルミ箔、チタン箔、ステンレス箔等が挙げられる。
【0097】
本開示の非水系二次電池においては、本開示のセパレータの接着層にポリフッ化ビニリデン系樹脂を含有させた場合、ポリフッ化ビニリデン系樹脂が耐酸化性に優れるため、接着層を非水系二次電池の正極側に配置することで、正極活物質として、4.2V以上の高電圧で作動可能なLiMn1/2Ni1/2O2、LiCo1/3Mn1/3Ni1/3O2等を適用しやすい。
【0098】
負極の実施形態例としては、負極活物質及びバインダ樹脂を含む活物質層が集電体上に成形された構造が挙げられる。活物質層は、さらに導電助剤を含んでもよい。負極活物質としては、リチウムを電気化学的に吸蔵し得る材料が挙げられ、具体的には例えば、炭素材料;ケイ素、スズ、アルミニウム等とリチウムとの合金;ウッド合金;などが挙げられる。バインダ樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体等が挙げられる。導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛粉末等の炭素材料が挙げられる。集電体としては、例えば厚み5μm~20μmの、銅箔、ニッケル箔、ステンレス箔等が挙げられる。また、上記の負極に代えて、金属リチウム箔を負極として用いてもよい。
【0099】
電解液は、リチウム塩を非水系溶媒に溶解した溶液である。リチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiClO4等が挙げられる。非水系溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びそのフッ素置換体等の鎖状カーボネート;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等の環状エステル;などが挙げられ、これらは単独で用いても混合して用いてもよい。電解液としては、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを質量比(環状カーボネート:鎖状カーボネート)20:80~40:60で混合し、リチウム塩を0.5mol/L~1.5mol/Lの範囲にて溶解した溶液が好適である。
【0100】
外装材としては、金属缶、アルミラミネートフィルム製パック等が挙げられる。電池の形状は角型、円筒型、コイン型等があるが、本開示のセパレータはいずれの形状にも好適である。
【0101】
本開示の非水系二次電池の製造方法としては、セパレータに電解液を含浸させて熱プレス処理(本開示において「ウェットヒートプレス」という。)を行って電極に接着させることを含む製造方法;セパレータに電解液を含浸させずに熱プレス処理(本開示において「ドライヒートプレス」という。)を行って電極に接着させることを含む製造方法;が挙げられる。
【0102】
本開示の非水系二次電池は、正極と負極との間に本開示のセパレータを配置し、長さ方向に巻き回して巻回体を製造した後、この巻回体を用いて、例えば下記の製造方法1~3により製造できる。本開示では、製造方法1又は2において既述の本開示の非水系二次電池用セパレータによる効果がより期待されるが、製造方法3であってもよい。巻回体の代わりに、正極、セパレータ、負極をこの順に少なくとも1層ずつ積層する方式(所謂スタック方式)によって製造した素子を用いる場合も同様である。
【0103】
(製造方法1)巻回体にドライヒートプレスして電極とセパレータとを接着した後、外装材(例えばアルミラミネートフィルム製パック。以下同じ)に収容し、そこに電解液を注入し、外装材の上からさらに巻回体をウェットヒートプレスし、電極とセパレータとの接着と、外装材の封止とを行う。
(製造方法2)巻回体にドライヒートプレスして電極とセパレータとを接着した後、外装材に収容し、そこに電解液を注入し、外装材の封止を行う。
(製造方法3)巻回体を外装材に収容し、そこに電解液を注入し、外装材の上から巻回体をウェットヒートプレスし、電極とセパレータとの接着と、外装材の封止とを行う。
【0104】
上記製造方法1~3における熱プレスの条件としては、ドライヒートプレス及びウェットヒートプレスそれぞれ、プレス温度は60℃~120℃が好ましく、70℃~100℃がより好ましく、プレス圧は、電極1cm2当たりの荷重として、0.5kg~90kgが好ましい。プレス時間は、プレス温度及びプレス圧に応じて調節することが好ましく、例えば0.1分間~60分間の範囲で調節する。
【0105】
上記製造方法1又は2においては、ドライヒートプレスする前に巻回体に常温プレス(常温下での加圧)を施して、巻回体を仮接着してもよい。上記製造方法2においては、巻回体を外装材に収容する前に常温プレスして、巻回体を仮接着してもよい。
【実施例0106】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0107】
[曇点の測定]
JIS K 2269に準拠して測定した。
【0108】
[帯電性評価]
JIS L 1094に記載の半減期法にて測定した。具体的には、以下の実施例及び比較例で作製したセパレータを試料とし、スタチックオネストメーター(シシド静電気社製)を用い、試料と電極間の距離を20mmとして10kV、3分のコロナ放電を試料に施した後の飽和電圧と半減期を測定した。
【0109】
[水分率測定]
カールフィッシャー水分率計を用いて測定した。具体的には、以下の実施例及び比較例で作製したセパレータを試料とし、試料を露点-55℃のドライルーム内で1時間保管した後、各試料を150℃で15分加熱した。この間に排出された水分はドライエア(露点-55℃)をキャリアガスとしてカールフィッシャー水分率計に運ばれ、電量法にて水分量を測定し、試料重量で除算することにより水分率を求めた。
【0110】
[電池性能評価]
銅箔上にグラファイト/スチレンブタジエンゴム/カルボキシメチルセルロース(=96.2/2.8/1.0[質量比])である合剤層を成形して負極とした。また、アルミ箔上にコバルト酸リチウム/ポリフッ化ビニリデン/アセチレンブラック(=94.0/3.0/3.0[質量比])である合剤層を成形して正極とした。得られた負極、正極はセパレータを介して接合し、アルミラミネートフィルム製パックに入れた後、電解液を注入して封止することで電池を得た。ここで、電解液は、1M(mol/L) LiPF6-エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート(=3/7[質量比])とした。
電池性能評価は、0.1C定電流放電容量に対する10C定電流放電容量維持率で評価した。放電カットオフ電圧は、2.5Vとした。なお、充電は、0.1C、4.2Vの定電流・定電圧充電とした。
【0111】
(実施例1)
ポリエチレン微多孔膜の一方面に、アルミナ粒子及びアクリル系樹脂を含む耐熱性層を積層した多孔質基材の表裏面(前記耐熱性層の表面及び他方面)に、さらにポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体からなる三次元網目状構造の接着層を積層したセパレータ(SEMCORP社製、製品型番:ND7T211O)の両面に、曇点40℃、分子量450のノニオン性界面活性剤であるエマルゲン108(花王株式会社製)の水溶液を塗布した後、60℃で10分間の乾燥条件で乾燥することで、セパレータを作製した。セパレータにおけるエマルゲン108の付着量は、0.2g/m2とした。作製したセパレータを厚み方向と平行な平面で切断し、その切断面における接着層を走査型電子顕微鏡で観察して、三次元網目状構造を有していることを確認した。
また、作製したセパレータを試料として帯電性、水分率、電池性能を測定、評価した結果を表1に示す。
【0112】
(実施例2)
実施例1において、エマルゲン108の付着量を0.13g/m2に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてセパレータを作製した。作製したセパレータを試料として帯電性、水分率、電池性能を測定、評価した結果を表1に示す。
また、セパレータを厚み方向と平行な平面で切断し、切断面における接着層を走査型電子顕微鏡で観察することで、接着層が三次元網目状構造を有することを確認した。
【0113】
(実施例3)
実施例1において、エマルゲン108の付着量を0.4g/m2に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてセパレータを作製した。作製したセパレータを試料として帯電性、水分率、電池性能を測定、評価した結果を表1に示す。
また、セパレータを厚み方向と平行な平面で切断し、切断面における接着層を走査型電子顕微鏡で観察することで、接着層が三次元網目状構造を有することを確認した。
【0114】
(実施例4)
実施例1において、エマルゲン108の付着量を0.6g/m2に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてセパレータを作製した。作製したセパレータを試料として帯電性、水分率、電池性能を測定、評価した結果を表1に示す。
また、セパレータを厚み方向と平行な平面で切断し、切断面における接着層を走査型電子顕微鏡で観察することで、接着層が三次元網目状構造を有することを確認した。
【0115】
(実施例5)
実施例1において、エマルゲン108を、曇点55℃、分子量664のノニオン性界面活性剤であるエマルゲン409PV(花王株式会社製)に代えたこと以外は、実施例1と同様にしてセパレータを作製した。作製したセパレータを試料として帯電性、水分率、電池性能を測定、評価した結果を表1に示す。
また、セパレータを厚み方向と平行な平面で切断し、切断面における接着層を走査型電子顕微鏡で観察することで、接着層が三次元網目状構造を有することを確認した。
【0116】
(比較例1)
実施例1において、エマルゲン108を、曇点100℃超、分子量2254のノニオン性界面活性剤であるエマルゲン150(花王株式会社製)に代えたこと以外は、実施例1と同様にしてセパレータを作製した。作製したセパレータを試料として帯電性、水分率、電池性能を測定、評価した結果を表1に示す。
【0117】
(比較例2)
実施例1において、エマルゲン108を、曇点98℃、分子量758のノニオン性界面活性剤であるエマルゲン120(花王株式会社製)に代えたこと以外は、実施例1と同様にしてセパレータを作製した。作製したセパレータを試料として帯電性、水分率、電池性能を測定、評価した結果を表1に示す。
【0118】
(比較例3)
実施例1において、エマルゲン108の水溶液の塗布を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にしてセパレータを作製した。作製したセパレータを試料として帯電性、水分率、電池性能を測定、評価した結果を表1に示す。
【0119】
【0120】
表1に示すように、曇点が85℃以下であり、かつ、分子量が1500以下である特定のノニオン性界面活性剤を用いた実施例は、特定のノニオン性界面活性剤を用いない比較例に比べ、帯電が少なく抑えられてハンドリング性が良好であり、セパレータにおける水分量が良好で電池性能に優れていた。