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特開2023-151035重合性組成物及びポリカーボネート樹脂
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151035
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】重合性組成物及びポリカーボネート樹脂
(51)【国際特許分類】
   C07D 317/46 20060101AFI20231005BHJP
   C08G 64/02 20060101ALI20231005BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20231005BHJP
   C08G 64/30 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C07D317/46
C08G64/02
C08L69/00
C08G64/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060428
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】戸田 達朗
(72)【発明者】
【氏名】楠山 直征
(72)【発明者】
【氏名】井手 翔太
(72)【発明者】
【氏名】中田 卓人
(72)【発明者】
【氏名】福岡 大嗣
(72)【発明者】
【氏名】米田 久成
【テーマコード(参考)】
4J002
4J029
【Fターム(参考)】
4J002CG011
4J002EJ046
4J002EJ066
4J002EU186
4J002EW066
4J002EW086
4J002EW116
4J002FD076
4J002GP00
4J002GP01
4J029AA09
4J029AB01
4J029AB04
4J029AB07
4J029AC01
4J029AD01
4J029AD10
4J029AE04
4J029BD02
4J029BD03A
4J029HC06
4J029KE17
(57)【要約】      (修正有)
【課題】優れた耐熱性を有するポリカーボネート樹脂を提供することを目的とする。
【解決手段】シクロヘキセンカーボネート等の重合性モノマーを含み、前記重合性モノマーが、カーボネート基の結合する隣接する2つの炭素原子の立体化学における(R,R)体及び(S,S)体を含む混合物であり、かつ、前記(R,R)体及び前記(S,S)体のうちいずれか一方の割合が、前記(R,R)体及び前記(S,S)体の合計量に対して60mol%以上90mol%以下である、重合性組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】
(式(1)中、Aは、置換されていてもよい2価の脂環部位である。)
で表される重合性モノマーを含み、
前記重合性モノマーが、前記式(1)のカーボネート基の結合する隣接する2つの炭素原子の立体化学における(R,R)体及び(S,S)体を含む混合物であり、かつ、
前記(R,R)体及び前記(S,S)体のうちいずれか一方の割合が、前記(R,R)体及び前記(S,S)体の合計量に対して60mol%以上90mol%以下である、重合性組成物。
【請求項2】
下記式(2)で表される構造単位:
【化2】
(式(2)中、Aは、置換されていてもよい2価の脂環部位である。)
を有するポリカーボネート樹脂であって、
前記ポリカーボネート樹脂が、式(2)で表される構造単位におけるカーボネート基の結合する隣接する2つの炭素原子の立体化学における(R,R)体及び(S,S)体の構造単位を含み、
前記(R,R)体及び前記(S,S)体のうちいずれか一方の割合が、前記(R,R)体及び前記(S,S)体の合計量に対して60mol%以上90mol%以下であり、
重量平均分子量が100,000以上500,000以下である、ポリカーボネート樹脂。
【請求項3】
重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.8以上4.0以下である、請求項2に記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項4】
周期表第3族から第13族金属元素の含有量が1ppm以下である、請求項2又は3に記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項5】
メタノール不溶分を熱重量測定により窒素雰囲気下で加熱したときの150~270℃における重量減少率が、10質量%以下である、請求項2~4のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項6】
請求項2~5のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂と、酸化防止剤と、を含有する、ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
請求項2~5のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂、又は請求項6に記載のポリカーボネート樹脂組成物を含有する、光学部品。
【請求項8】
請求項2~5のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂、又は請求項6に記載のポリカーボネート樹脂組成物の、光学部品用材料としての使用。
【請求項9】
請求項2~5のいずれか一項に記載のポリカーボネート樹脂の製造方法であって、請求項1に記載の重合性組成物を開環重合することにより、前記ポリカーボネート樹脂を得る重合工程を含む、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性組成物及びポリカーボネート樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は耐熱性に優れるエンジニアリングプラスチックである。近年、ポリカーボネート樹脂はその軽量化や低コスト化とともに、優れた耐熱性や光学特性を兼ね備えるものが要求されている。そのような要求を満たすことを目的として、芳香族骨格をベースとした特殊な芳香族ポリカーボネート樹脂の開発が盛んに行われている。
【0003】
他方、芳香族ポリカーボネートに代わる樹脂として、脂肪族、特に脂環式構造を有するポリカーボネート樹脂の開発も行われている。脂環式ポリカーボネートは、ビスフェノールAなどの芳香環を有するポリカーボネート樹脂と比べて耐光性や光学特性に優れる傾向がある。例えば、特許文献1では透明性、耐熱性、色調に優れる多環脂環式ポリカーボネート樹脂が開示されている。また、石油原料のみならず、植物などのバイオマス由来の原料を用いたポリカーボネートの開発も行われている。例えば、特許文献2において、でんぷんから誘導可能なイソソルバイドを原料に用いたポリカーボネート樹脂が開示されている。
【0004】
このような脂環式ポリカーボネート樹脂のうち、シクロヘキサンカーボネート構造を有するポリ(シクロヘキセンカーボネート)は、ベンゼン環に対応する飽和の炭素六員環を有する最も単純なポリカーボネートである。ポリ(シクロヘキセンカーボネート)は、例えば特許文献3に示されているように、シクロヘキセンオキシドと二酸化炭素との反応によって合成できることが広く知られている。また、特許文献4及び非特許文献1に記載されているように、1,2-シクロヘキセンカーボネートの開環重合によりポリ(シクロヘキセンカーボネート)が得られることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4774610号公報
【特許文献2】特許第6507495号公報
【特許文献3】特許第5403537号公報
【特許文献4】特開2019-108547号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Macromolecules 2014, 47, 4230-4235.
【非特許文献2】Journal of Polymer Research 2011, 18, 1177-1183.
【非特許文献3】Journal of the American Chemical Society 2012, 134, 5682-5688.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らが、上記文献に記載のものを始めとする従来の脂環式ポリカーボネート樹脂を詳細に検討したところ、耐熱性が不十分であることがわかった。
【0008】
例えば、特許文献3では、シクロヘキセンオキシドを二酸化炭素から合成されたポリ(シクロヘキセンカーボネート)が記載されているが、カーボネート結合とは異なるエーテル結合が存在することが示されている。
【0009】
一般に、主鎖の開裂は、不飽和結合や異種結合等、熱的に不安定な部分から開始しやすいことが知られており、ポリカーボネート樹脂においても、耐熱性を高めるためにはカーボネート結合以外の異種結合を含まない方が望ましいと考えられる。
【0010】
また、非特許文献2には、ポリ(シクロヘキセンカーボネート)に対して亜鉛を添加すると脱炭酸を伴う熱分解が促進されることが記載されている。このような分解促進効果は亜鉛のみならず、遷移金属元素や比較的ルイス酸性の高い12族、13族元素によっても同様に起こりうると予想され、熱分解を抑制するという観点においては、そのような金属元素を含まないことが好ましいと考えられる。
【0011】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、優れた耐熱性を有するポリカーボネート樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を進めた結果、ポリマー中のエナンチオマー比率を特定の範囲に制御することにより、優れた耐熱性を有するポリカーボネート樹脂を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]
下記式(1):
【化1】
(式(1)中、Aは、置換されていてもよい2価の脂環部位である。)
で表される重合性モノマーを含み、
前記重合性モノマーが、前記式(1)のカーボネート基の結合する隣接する2つの炭素原子の立体化学における(R,R)体及び(S,S)体を含む混合物であり、かつ、
前記(R,R)体及び前記(S,S)体のうちいずれか一方の割合が、前記(R,R)体及び前記(S,S)体の合計量に対して60mol%以上90mol%以下である、重合性組成物。
[2]
下記式(2)で表される構造単位:
【化2】
(式(2)中、Aは、置換されていてもよい2価の脂環部位である。)
を有するポリカーボネート樹脂であって、
前記ポリカーボネート樹脂が、式(2)で表される構造単位におけるカーボネート基の結合する隣接する2つの炭素原子の立体化学における(R,R)体及び(S,S)体の構造単位を含み、
前記(R,R)体及び前記(S,S)体のうちいずれか一方の割合が、前記(R,R)体及び前記(S,S)体の合計量に対して60mol%以上90mol%以下であり、
重量平均分子量が100,000以上500,000以下である、ポリカーボネート樹脂。
[3]
重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.8以上4.0以下である、[2]に記載のポリカーボネート樹脂。
[4]
周期表第3族から第13族金属元素の含有量が1ppm以下である、[2]又は[3]に記載のポリカーボネート樹脂。
[5]
メタノール不溶分を熱重量測定により窒素雰囲気下で加熱したときの150~270℃における重量減少率が、10質量%以下である、[2]~[4]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂。
[6]
[2]~[5]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂と、酸化防止剤と、を含有する、ポリカーボネート樹脂組成物。
[7]
[2]~[5]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂、又は請求項[6]に記載のポリカーボネート樹脂組成物を含有する、光学部品。
[8]
[2]~[5]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂、又は[6]に記載のポリカーボネート樹脂組成物の、光学部品用材料としての使用。
[9]
[2]~[5]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂の製造方法であって、[1]に記載の重合性組成物を開環重合することにより、前記ポリカーボネート樹脂を得る重合工程を含む、製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、優れた耐熱性を有するポリカーボネート樹脂を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」ともいう。)について詳細に説明する。なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0016】
<重合性組成物>
本実施形態の重合性組成物は、下記式(1):
【化3】
(式(1)中、Aは、置換されていてもよい2価の脂環部位である。)
で表される重合性モノマーを含み、
前記重合性モノマーが、前記式(1)のカーボネート基の結合する隣接する2つの炭素原子の立体化学における(R,R)体及び(S,S)体を含む混合物であり、かつ、
前記(R,R)体及び前記(S,S)体のうちいずれか一方の割合が、前記(R,R)体及び前記(S,S)体の合計量に対して60%以上90%以下である。
本実施形態の重合性組成物は、上記のような特徴を有することにより、優れた耐熱性を有するポリカーボネート樹脂を提供できる。
本実施形態の重合性組成物において、前記(R,R)体及び前記(S,S)体のうちいずれか一方の割合は、前記(R,R)体及び前記(S,S)体の合計量に対して60%以上90%以下であることが好ましく、70%以上90%以下であることがより好ましい。本実施形態の重合性組成物は、前記(R,R)体及び前記(S,S)体のうちいずれか一方の割合が前記範囲であると、一層優れた耐熱性を有するポリカーボネート樹脂を提供できる。
なお、本明細書中において、「カーボネート基」とは、-OC(=O)O-で表される、2価の置換基を意味する。
【0017】
式(1)中、Aは置換されていてもよい2価の脂環部位である。本発明の効果をより有効かつ確実に奏する観点から、式(1)中、Aは、好ましくは、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロヘプチレン基、シクロオクチレン基、シクロノナニレン基、シクロデシレン基である。同様の観点から、式(1)中、Aは、より好ましくは、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロヘプチレン基、シクロオクチレン基である。同様の観点から、式(1)中、Aは、更に好ましくは、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロヘプチレン基、である。脂環部位Aは非置換であることが好ましい。
【0018】
本実施形態において、式(1)中、脂環部位Aは置換基によって置換されていてもよい。置換基としては、特に限定されないが、例えば、水酸基、リン酸基、炭素数6~20のアリール基、炭素数6~20のアラルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~30のシリル基、炭素数1~30のシリルアルコキシ基、炭素数1~11のエステル基、炭素数1~11のアシル基、又は、直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~30の脂肪族炭化水素基が挙げられる。本発明の効果をより有効かつ確実に奏する観点から、脂環部位Aが置換されている場合、置換基は、好ましくは、水酸基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~11のエステル基、炭素数1~11のアシル基、及び、直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~30の脂肪族炭化水素基からなる群より選択される1種以上の置換基である。同様の観点から、脂環部位Aが置換されている場合、置換基は、より好ましくは、水酸基、炭素数1~20のアルコキシ基、及び、直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~30の脂肪族炭化水素基からなる群より選択される1種以上の置換基である。同様の観点から、脂環部位Aが置換されている場合、置換基は、更に好ましくは、炭素数1~20のアルコキシ基、及び、直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~30の脂肪族炭化水素基からなる群より選択される1種以上の置換基である。各種置換基の例示、好適な置換基は、以下の式(1A)で示すとおりである。
【0019】
本実施形態に係る重合性モノマーは、下記式(1A):
【化1A】
(式(1A)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8は、各々独立して、水素原子、水酸基、リン酸基、炭素数6~20のアリール基、炭素数6~20のアラルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~30のシリル基、炭素数1~30のシリルアルコキシ基、炭素数1~30のエステル基、炭素数1~30のアシル基、又は、直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~30の脂肪族炭化水素基であるか、又は、R1~R8は、それらが結合している炭素元素と一緒に、環状構造を形成していてもよく、前記環状構造においてR1~R8はアルキレン基又はカーボネート基を介して互いに結合しており、前記アルキレン基は、水酸基、リン酸基、アミノ基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~20のエステル基、又は、非置換の直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~30の脂肪族炭化水素基によって置換されていてもよく、主鎖にカルボニル基が挿入されていてもよく、前記アルコキシ基、シリル基、シリルアルコキシ基、前記エステル基、前記アシル基、前記脂肪族炭化水素基は、水酸基、リン酸基、アミノ基、アルコキシ基、又はエステル基によって置換されていてもよく、前記アラルキル基、及び前記アリール基は、炭素数1~20のアルキル基により置換されていてもよい。また、nは0~5の整数である。)で表される重合性モノマーであることが好ましい。
【0020】
本実施形態において、式(1A)中、R1~R8は、各々独立して、水素原子、水酸基、リン酸基、炭素数6~20のアリール基、炭素数6~20のアラルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数1~30のシリル基、炭素数1~30のシリルアルコキシ基、炭素数1~30のエステル基、炭素数1~30のアシル基、又は、直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~30の脂肪族炭化水素基である。本発明の効果をより有効かつ確実に奏する観点から、式(1A)中、R1~R8は、好ましくは、各々独立して、水素原子、水酸基、炭素数1~10のアルコキシ基、炭素数1~11のエステル基、炭素数1~11のアシル基、及び、直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~30の脂肪族炭化水素基からなる群より選択される1種以上の置換基である。同様の観点から、式(1A)中、R1~R8は、より好ましくは、各々独立して、水素原子、水酸基、炭素数1~10のアルコキシ基、及び、直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~30のアルキル基からなる群より選択される1種以上の置換基である。同様の観点から、式(1A)中、R1~R8は、更に好ましくは、各々独立して、水素原子、炭素数1~10のアルコキシ基、及び、直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~30の脂肪族炭化水素基からなる群より選択される1種以上の置換基である。
【0021】
本実施形態において、式(1A)中、R1~R8は、アルキレン基又はカーボネート基(-OC(=O)O-基)を介して互いに結合して環状構造を形成していてもよく、アルキレン基は、水酸基、リン酸基、アルコキシ基、又はエステル基によって置換されていてもよい。本発明の効果をより確実かつ有効に奏する観点から、R1~R8が、アルキレン基を介して互いに結合し、環状構造を形成している場合、アルキレン基の炭素数は、好ましくは1~20、より好ましくは1~15、更に好ましくは1~12である。更に、同様の観点から、上記アルキレン基の有する置換基は、好ましくは、水酸基、アルコキシ基、又はエステル基であり、より好ましくは、水酸基、又はアルコキシ基である。同様の観点から、R1~R8が環状構造を形成している場合、好ましくは、非置換のアルキレン基を介して環状構造を形成している。非置換のアルキレン基としては、特に限定されないが、例えば、メチレン基、エチレン基、1,3-プロピレン基、1,4-ブチレン基、1,5-ペンチレン基、1,3-シクロペンチレン基、1,6-ヘキシレン基、1,3-シクロヘキシレン基、及び1,4-シクロヘキシレン基が挙げられる。
【0022】
1~R8が環状構造を形成する場合、R1~R8のうちの任意の2つが一緒になって環状構造を形成していていることが好ましい。
【0023】
上記式(1A)におけるリン酸基は、非置換であってもよく、置換されていてもよい。すなわち、1置換のリン酸基であってもよく、2置換のリン酸基であってもよい。本発明の効果をより有効かつ確実に奏する観点から、リン酸基が置換されている場合、置換基は、非置換の直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~30のアルキル基であることが好ましい。同様の観点から、上記式(1A)におけるリン酸基は、非置換であることが好ましい。
【0024】
上記式(1A)における炭素数6~20のアリール基としては、特に限定されないが、例えば、フェニル基、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、テトラメチルフェニル基、ペンタメチルフェニル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ジイソプロピルフェニル基等の、無置換またはアルキル基を有するアリール基や、例えば、4-メトキシフェニル基、3,5-ジメトキシフェニル基等のアルコキシ基を有するアリール基や、例えば、ビフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基が挙げられる。
【0025】
上記式(1A)における炭素数6~20のアラルキル基としては、特に限定されないが、例えば、ベンジル基、4-メチルベンジル基、フェネチル基等の、無置換またはアルキル基を有するアラルキル基や、例えば、4-メトキシベンジル基、3,5-ジメトキシベンジル基などのアルコキシ基を有するアラルキル基や、例えば、ジフェニルメチル基、ナフチルメチル基、アントラセニルメチル基などが挙げられる。
【0026】
上記式(1A)における炭素数1~20のアルコキシ基としては、特に限定されないが、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノナニルオキシ基、デシルオキシ基、フェノキシ基、ベンジルオキシ基、ビニルオキシ基、及びアリルオキシ基が挙げられる。
【0027】
上記式(1A)における炭素数1~30のシリル基としては、特に限定されないが、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、トリフェニルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、ジ-tert-ブチルイソブチルシリル基、及びtert-ブチルジフェニルシリル基が挙げられる。
【0028】
上記式(1A)における炭素数1~30のシリルアルコキシ基としては、特に限定されないが、例えば、トリメチルシリルメトキシ基、トリメチルシリルエトキシ基、トリメチルシリルフェノキシ基、トリメチルシリルベンジルオキシ基、トリエチルシリルメトキシ基、トリエチルシリルエトキシ基、トリエチルシリルフェノキシ基、トリエチルシリルベンジルオキシ基、トリイソプロピルシリルメトキシ基、トリイソプロピルシリルエトキシ基、トリイソプロピルシリルフェノキシ基、トリイソプロピルシリルベンジルオキシ基、トリフェニルシリルメトキシ基、トリフェニルシリルエトキシ基、トリフェニルシリルフェノキシ基、トリフェニルシリルベンジルオキシ基、tert-ブチルジメチルシリルメトキシ基、tert-ブチルジメチルシリルエトキシ基、tert-ブチルジメチルシリルフェノキシ基、tert-ブチルジメチルシリルベンジルオキシ基、ジ-tert-ブチルイソブチルシリルメトキシ基、ジ-tert-ブチルイソブチルシリルエトキシ基、ジ-tert-ブチルイソブチルシリルフェノキシ基、ジ-tert-ブチルイソブチルシリルベンジルオキシ基、tert-ブチルジフェニルシリルメトキシ基、tert-ブチルジフェニルシリルエトキシ基、tert-ブチルジフェニルシリルフェノキシ基、及びtert-ブチルジフェニルシリルベンジルオキシ基が挙げられる。
【0029】
上記式(1A)における炭素数1~30のエステル基としては、特に限定されないが、例えば、メチルエステル基、エチルエステル基、プロピルエステル基、ブチルエステル基、ペンチルエステル基、シクロペンチルエステル基、ヘキシルエステル基、シクロヘキシルエステル基、ヘプチルエステル基、オクチルエステル基、ノナニルエステル基、デシルエステル基、フェニルエステル基、ベンジルエステル基、ビニルエステル基、及びアリルエステル基が挙げられる。
【0030】
上記式(1A)における炭素数1~30のアシル基としては、特に限定されないが、例えば、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、及びベンゾイル基が挙げられる。
【0031】
上記式(1A)における脂肪族炭化水素基は、飽和であっても不飽和であってもよいが、熱安定性を向上させる観点から、飽和(アルキル基)であることが好ましい。上記式(1A)における直鎖状、分岐状、若しくは環状の炭素数1~30のアルキル基としては、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、1-ノルボルニル基、2-ノルボルニル基、n-オクチル基、1-ビシクロ[2.2.2]オクチル基、2-ビシクロ[2.2.2]オクチル基、n-ノナニル基、n-デシル基、1-アダマンチル基、2-アダマンチル基、デカヒドロナフチル基、及びテトラシクロドデシル基が挙げられる。
【0032】
<ポリカーボネート樹脂>
本実施形態のポリカーボネート樹脂は、下記式(2)で表される構造単位:
【化4】
(式(2)中、Aは、置換されていてもよい2価の脂環部位である。)
を有するポリカーボネート樹脂であって、
前記ポリカーボネート樹脂が、式(2)で表される構造単位におけるカーボネート基の結合する隣接する2つの炭素原子の立体化学における(R,R)体及び(S,S)体の構造単位を含み、
前記(R,R)体及び前記(S,S)体のうちいずれか一方の割合が、前記(R,R)体及び前記(S,S)体の合計量に対して60%以上90%以下であり、
重量平均分子量が100,000以上500,000以下である。
【0033】
なお、式(2)中、Aは、置換されていてもよい2価の脂環部位は、式(1)との関係において説明したとおりである。
【0034】
本実施形態のポリカーボネート樹脂は、下記式(2A)で表される構造単位:
【化5】
を有するポリカーボネート樹脂であることが好ましい。
【0035】
なお、式(2A)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、nは、式(1A)との関係において説明したとおりである。
【0036】
本実施形態のポリカーボネート樹脂は、上記の構成を備えることにより、耐熱性に優れる。この要因は、以下のように考えられるが、要因はこれに限定されない。
【0037】
本実施形態のポリカーボネート樹脂は、(R,R)体及び(S,S)体のうちいずれか一方のエナンチオマー割合が過剰であるため、(R,R)同士あるいは(S、S)同士が連続して配列する確率が多くなる。その結果、エナンチオマー配列のブロック性が増加し、ポリマー鎖におけるブロック性の高い部分の分子間力が高まることにより、非晶性を維持しつつ、耐熱性が向上すると考えられる。
本実施形態のポリカーボネート樹脂において、前記(R,R)体及び前記(S,S)体のうちいずれか一方の割合は、前記(R,R)体及び前記(S,S)体の合計量に対して60%以上90%以下であることが好ましく、70%以上90%以下であることがより好ましい。本実施形態のポリカーボネート樹脂は、前記(R,R)体及び前記(S,S)体のうちいずれか一方の割合が前記範囲であると、一層優れた耐熱性を有する。
なお、前記(R,R)体及び前記(S,S)体の割合は、例えば、ポリカーボネート樹脂をアルカリによって加水分解して生成したジオールの(R,R)体及び(S,S)体の割合をガスクロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィーを用いて分析することにより、測定することができる。
【0038】
非特許文献3には、一方のエナンチオマー割合が過剰なポリ(シクロヘキセンカーボネート)が記載されているが、カーボネート結合とは異なるエーテル結合をもつ化学種が観測されており、熱分解の起点となりうる異種結合を含まないポリカーボネート環状体の合成には課題が残されている。また、樹脂の熱分解といった耐熱性に関して何ら言及されておらず、非特許文献3に記載のポリカーボネート樹脂は、耐熱性の信頼性が十分ではなく、改善の余地がある。
【0039】
本実施形態のポリカーボネート樹脂において、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(以下「Mw」とも記す)は、100,000以上500,000以下である。本実施形態のポリカーボネート樹脂は、Mwが上記の範囲内にあることで、成形が容易となる。また、そのようなポリカーボネート樹脂は、耐熱性に優れるものとなる。同様の観点から、本実施形態のポリカーボネート樹脂のMwは、より好ましくは100,000以上450,000以下であり、更に好ましくは100,000以上400,0000以下である。また、本実施形態のポリカーボネート樹脂のMwの上限は、300,000であってもよい。サイズ排除クロマトグラフィーによるポリカーボネート樹脂の重量平均分子量は、具体的には実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0040】
本実施形態のポリカーボネート樹脂において、重量平均分子量(Mw)を上記の範囲内に制御するためには、重合性モノマーと重合開始剤との割合を適宜調整すればよく、また、後述する製造方法によってポリカーボネート樹脂を製造すればよい。重合性モノマーに対して添加する重合開始剤の量を特定の範囲内に制御することにより、良好な転化率で重合反応を進行し、かつ、Mwを大きくすることができる傾向にある。
【0041】
本実施形態のポリカーボネート樹脂は、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.8以上4.0以下であることが好ましい。本実施形態のポリカーボネート樹脂は、Mw/Mnが上記の範囲内にあることで、一層耐熱性に優れるものとなる傾向にある。同様の観点から、本実施形態のポリカーボネート樹脂のMw/Mnは、より好ましくは1.8以上3.5以下であり、更に好ましくは1.8以上3.0以下である。
【0042】
本実施形態のポリカーボネート樹脂は、周期表3族から13族金属元素の含有量が1ppm以下であることが好ましい。周期表3族から13族金属元素としては、特に限定されないが、例えば、スカンジウム、イットリウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、テクネチウム、レニウム、鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛、カドミウム、水銀、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウムが挙げられる。本実施形態のポリカーボネート樹脂は、上記金属元素の含有量が1ppm以下であることで、非特許文献2に記載されているような、金属元素による熱分解の促進を抑制することができ、一層耐熱性に優れるものとなる傾向にある。同様の観点から、本実施形態のポリカーボネート樹脂において、上記金属元素の含有量は、より好ましくは0.8ppm以下であり、更に好ましくは0.5ppm以下である。また、本実施形態のポリカーボネート樹脂において、上記金属元素の含有量の下限は、0ppmであってもよい。上記金属元素の含有量は、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)によって測定することができる。
【0043】
本実施形態のポリカーボネート樹脂において、メタノール不溶分を熱重量測定により窒素雰囲気下で加熱したときの150~270℃における重量減少率は、10質量%以下であることが好ましい。一般的な脂環式ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度(Tg)より高いとされる150℃から、成形加工時のシリンダー温度の上限と考えられる270℃程度までの重量減少率を低減することが好ましい。本実施形態のポリカーボネート樹脂は、重量減少率が上記の範囲内にあることで、主鎖切断に起因する着色や成形不良を抑制することができる傾向にある。同様の観点から、本実施形態のポリカーボネート樹脂において、メタノール不溶分を熱重量測定により窒素雰囲気下で加熱したときの150~270℃における重量減少率は、より好ましくは8質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下である。本実施形態のポリカーボネート樹脂において、メタノール不溶分を熱重量測定により窒素雰囲気下で加熱したときの150~270℃における重量減少率の下限は、特に限定されないが、例えば、0.1質量%である。
【0044】
<ポリカーボネート樹脂組成物>
本実施形態のポリカーボネート樹脂組成物は、上記のポリカーボネート樹脂と、酸化防止剤とを含有する。
【0045】
本実施形態のポリカーボネート樹脂組成物は、酸化防止剤を含有することにより、成形加工時の熱や剪断による劣化を一層防止することができるため、ポリカーボネート樹脂組成物の耐熱性を一層向上させることができる。また、本実施形態のポリカーボネート樹脂組成物は、酸化防止剤を含有することにより、使用時にポリカーボート樹脂が酸化されることを一層防止することができるため、ポリカーボネート樹脂組成物の耐光性を一層向上させることができる。
【0046】
本実施形態のポリカーボネート樹脂組成物における、酸化防止剤は特に限定されないが、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤が挙げられる。
【0047】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、イルガノックス1010(Irganox 1010:ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート])、イルガノックス1076(Irganox 1076:オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、イルガノックス1330(Irganox 1330:3,3’,3’’,5,5’,5’’-ヘキサ-t-ブチル-a,a’,a’’-(メシチレン-2,4,6-トリイル)トリ-p-クレゾール)、イルガノックス3114(Irganox3114:1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン)、イルガノックス3125(Irganox 3125)、アデカスタブAO-60(ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート])、アデカスタブAO-80(3、9-ビス{2-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルキシオキシ]-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン)、シアノックス1790(Cyanox 1790)、スミライザーGA-80(Sumilizer GA-80)、スミライザーGS(Sumilizer GS:アクリル酸2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニル)、及び、スミライザーGM(Sumilizer GM:アクリル酸2-tert-ブチル-4-メチル-6-(2-ヒドロキシ-3-tert-ブチル-5-メチルベンジル)フェニル)が挙げられる。これらは一種類単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
リン系酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、イルガフォス168(Irgafos168:トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト)、イルガフォス12(Irgafos12:トリス[2-[[2,4,8,10-テトラ-t-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン-6-イル]オキシ]エチル]アミン)、アデカスタブHP-10(ADKSTAB HP-10:2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト)、アデカスタブPEP36(ADKSTAB PEP36:ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト)、アデカスタブPEP36A(ADKSTAB PEP36A:ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト)、スミライザーGP(SumilizerGP:(6-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラ-t-ブチルジベンズ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン)、及び、GSY P101(テトラキス(2,4-ジ-t-ブチル-5メチルフェニル)4,4’-ビフェニレンジホスホナイト)が挙げられる。これらは一種類単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
本実施形態のポリカーボネート樹脂組成物に含有するポリカーボネート樹脂は、上記したポリカーボネート樹脂と同様であり、好ましい態様も同様である。
【0050】
本実施形態のポリカーボネート樹脂組成物において、ポリカーボネート樹脂の含有量は、本発明の効果をより有効かつ確実に奏する観点から、樹脂組成物全体に対して、好ましくは、50質量%以上99質量%以下であり、より好ましくは、60質量%以上99質量%以下であり、更に好ましくは、65質量%以上99質量%以下である。
【0051】
本実施形態のポリカーボネート樹脂組成物において、酸化防止剤の含有量は、成形加工時の熱や剪断による劣化を一層防止する観点から、樹脂組成物全体に対して、好ましくは、0.001質量%以上1質量%以下であり、より好ましくは、0.003質量%以上1質量%以下であり、更に好ましくは、0.005質量%以上1質量%以下である。
【0052】
<光学部品>
本実施形態の光学部品は、上記のポリカーボネート樹脂又は上記のポリカーボネート樹脂組成物を含有する。
【0053】
本実施形態の光学部品が含有する、上記のポリカーボネート樹脂又は上記のポリカーボネート樹脂組成物は、光弾性係数及び分子配向に伴う面内位相差が小さい傾向にある。そのため、本実施形態の光学部品は、応力複屈折と配向複屈折とを発現しにくい傾向にある。したがって、本実施形態の光学部品は、使用時の複屈折を抑えることができる傾向にある。更に、本実施形態の光学部品が含有する、上記のポリカーボネート樹脂又は上記のポリカーボネート樹脂組成物は、上述の通り、優れた耐熱性を有する。そのため、本実施形態の光学部品は、経年劣化を生じにくく、従来の光学部品に比べて長期間使用することができる。
【0054】
本実施形態における光学部品としては、特に限定されないが、例えば、カメラ、望遠鏡、顕微鏡、プロジェクター、及び車載用レンズ等の光学レンズ、並びに拡散板、導光板、偏光板、及び位相差フィルム等の光学フィルムが挙げられる。本実施形態の光学部品は、その用途に適した形状を有するよう、上記のポリカーボネート樹脂又は上記のポリカーボネート樹脂組成物に対して適宜成形等の加工を施すことで得られる。
【0055】
<ポリカーボネート樹脂の製造方法>
本実施形態のポリカーボネート樹脂の製造方法は、前記重合性組成物を開環重合することにより、ポリカーボネート樹脂を得る重合工程を含む。
【0056】
(重合開始剤)
本実施形態の製造方法において、重合性組成物を開環重合するための重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、酸触媒、塩基触媒、及び酵素触媒が挙げられる。塩基触媒としては、特に限定されないが、例えば、アルキル金属、金属アルコキシド、金属アミド、金属有機酸塩、環状モノアミン及び環状ジアミン(特に、アミジン骨格を有する環状ジアミン化合物)のような環状アミン、グアニジン骨格を有するトリアミン化合物、並びに窒素原子を含有する複素環式化合物が挙げられる。アルキル金属としては、特に限定されないが、例えば、メチルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム、及びフェニルリチウムのような有機リチウム、メチルマグネシウムハライド、エチルマグネシウムハライド、プロピルマグネシウムハライド、フェニルマグネシウムハライド、トリメチルアルミニウム、及びトリエチルアルミニウムが挙げられる。その中でも、好ましくはメチルリチウム、n-ブチルリチウム、又はsec-ブチルリチウムが用いられる。金属アルコキシド中の金属イオンとしては、特に限定されないが、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属イオンが挙げられ、好ましくはアルカリ金属である。アルコキシドイオンとしては、特に限定されないが、例えば、メトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシド、フェノキシド、及びベンジルオキシドが挙げられる。なお、フェノキシド、ベンジルオキシドについては、芳香環上に置換基を有していてもよい。金属アミドとしては、特に限定されないが、例えば、リチウムアミド、ナトリウムアミド、カリウムアミド、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド、ナトリウムビス(トリメチルシリル)アミド、及びカリウムビス(トリメチルシリル)アミドが挙げられる。金属有機酸塩中の有機酸イオンとしては、特に限定されないが、例えば、炭素数1~10のカルボン酸イオンが挙げられる。金属有機酸塩中の金属としては、特に限定されないが、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、及びスズが挙げられる。また、塩基触媒としては、特に限定されないが、例えば、有機塩基が挙げられる。有機塩基としては、特に限定されないが、例えば、1,4-ジアザビシクロ-[2.2.2]オクタン(DABCO)、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ-5-エン(DBN)、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(TBD)、ジフェニルグアニジン(DPG)、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン(DMAP)、イミダゾール、ピリミジン、プリン、及びホスファゼン塩基が挙げられる。本発明の効果をより有効かつ確実に奏する観点から、本実施形態の製造方法に用いる重合開始剤は、好ましくはアルキル金属、金属アルコキシド、又は金属アミドであり、より好ましくは金属アルコキシド、又は金属アミドである。
【0057】
本実施形態のポリカーボネート樹脂の製造方法の重合工程における、重合開始剤の使用量は、ポリカーボネート樹脂の目標とする分子量に応じて適宜調整すればよい。ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量(Mw)を10,000以上500,000以下の範囲に制御する観点から、重合開始剤の使用量は、開環重合性モノマーである環状カーボネート(A1)に対する物質量換算で、好ましくは、0.0001mоl%以上4mоl%以下であり、より好ましくは、0.0001mоl%以上2mоl%以下であり、更に好ましくは、0.0001mоl%以上1mоl%以下である。また、上記の重合開始剤は一種類を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
(重合停止剤)
本実施形態のポリカーボネート樹脂の製造方法において、得られるポリカーボネート樹脂の平均分子量を制御する観点から、上記重合開始剤に加えて、重合停止剤を用いてもよい。重合停止剤としては、特に限定されないが、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、リン酸、メタリン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、クエン酸、アスコルビン酸、グルコン酸、シュウ酸、酒石酸、メルドラム酸、及び安息香酸のような無機酸及び有機酸が挙げられる。
【0059】
(添加剤)
本実施形態のポリカーボネート樹脂の製造方法において、得られるポリカーボネート樹脂の分子量を制御する観点、及び末端構造を制御することで種々の特性を発現させる観点から、上記重合開始剤に加えて、添加剤を用いてもよい。添加剤としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、ノナノール、デカノール、ドデカノール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、5-ノルボルネン-2-メタノール、1-アダマンタノール、2-アダマンタノール、トリメチルシリルメタノール、フェノール、ベンジルアルコール、及びp-メチルベンジルアルコールのようなモノアルコール、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ヘキサンジオール、ノナンジオール、テトラメチレングリコール、及びポリエチレングリコールのようなジアルコール、グリセロール、ソルビトール、キシリトール、リビトール、エリスリトール、及びトリエタノールアミンのような多価アルコール、並びに、乳酸メチル、及び乳酸エチルが挙げられる。また、上記の添加剤は一種類を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
(反応温度)
本実施形態のポリカーボネート樹脂の製造方法において、重合工程における反応温度は、本実施形態のポリカーボネート樹脂を製造することができる範囲内であれば特に限定されないが、好ましくは0℃以上150℃以下であり、より好ましくは0℃以上130℃以下であり、さらに好ましくは0℃以上120℃以下である。重合工程における反応温度が上記範囲内にあることで、得られるポリカーボネート樹脂の重量平均分子量を100,000以上500,000以下の範囲に制御することが一層容易になる。
【0061】
(溶媒)
本実施形態のポリカーボネート樹脂の製造方法では、溶媒を用いてもよく、用いなくてもよい。溶媒としては、特に限定されないが、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジフェニルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、及びプロピレングリコールノモノメチルエーテルアセテートのようなエーテル系溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、及びトリクロロエタンのようなハロゲン系溶媒、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、シクロヘキサン、及びメチルシクロヘキサンのような飽和炭化水素系溶媒、トルエン、キシレン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、及びクレゾールのような芳香族炭化水素系溶媒、並びに、アセトン、2-ブタノン、2-ペンタノン、3-ペンタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、及びメチルイソブチルケトンのようなケトン系溶媒が挙げられる。
【実施例0062】
本発明を実施例及び比較例を用いて更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例等により何ら限定されるものではない。
【0063】
本明細書において、ポリカーボネート樹脂の物性の測定は以下のように行った。
【0064】
1H-NMR測定)
日本電子株式会社製NMR装置(製品名:ECZ400S)、及びTFHプローブを用いて、以下のようにNMR測定をすることで、ポリカーボネート樹脂の1H-NMRスペクトルを得た。なお、重溶媒の基準ピークは、クロロホルム-dを用いた場合は7.26ppmであるとし、積算回数は32回として測定を行った。
【0065】
(分子量の測定)
ポリカーボネート樹脂0.02gに対して、テトラヒドロフランを2.0gの割合で加えた溶液を測定試料とし、高速GPC装置(東ソー株式会社製、製品名「HLC-8420GPC」)を用いて、ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量を測定した。カラムとして、東ソー株式会社製のTSKガードカラムSuperH-H、TSKgel SuperHM-H、TSKgel SuperHM-H、TSKgel SuperH2000、及びTSKgel SuperH1000(いずれも東ソー株式会社製製品名)を直列に連結して用いた。カラム温度は40℃とし、テトラヒドロフランを移動相として、0.60mL/分の速度で分析した。検出器としては、RIディテクターを用いた。Polymer Standards Service製のポリスチレン標準試料(分子量:2520000、1240000、552000、277000、130000、66000、34800、19700、8680、3470、1306、370)を標準試料として、検量線を作成した。このようにして作成した検量線を基に、ポリカーボネート樹脂の数平均分子量及び重量平均分子量を求めた。
【0066】
[合成例]
((S,S)-trans-1,2-シクロヘキセンカーボネート)
200mL三口フラスコへ、(S,S)-trans-1,2-シクロヘキサンジオール(4.11g、35.4mmol)を量り取って、フラスコ内を窒素で置換した。フラスコ内へ脱水テトラヒドロフラン(100mL)、クロロギ酸エチル(8.78g、80.9mmol)を添加した後、フラスコを氷浴に浸して、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら内温を3℃まで冷却した。トリエチルアミン(8.58g、84.8mmol)を滴下漏斗を用いてゆっくりと滴下した。氷浴からフラスコを取り出し、室温下でさらに3時間撹拌したところ、ジオールの残存が確認されたため、トリエチルアミン(8.99g、88.9mmol)とトリエチルアミン(9.0283g、83.2mmol)とを2回に分けて添加した。ジオールの消失を確認後、エタノール0.40gを添加し、減圧濾過によって沈殿を除去した後、ろ液をエバポレーターを用いて濃縮した。濃縮残渣をクロロホルム(20mL)に溶解させ、シリカゲル(20g)を通して着色成分を除去した後、水(100mL)で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで脱水し、エバポレーターを用いて濃縮した。濃縮残渣をクロロホルム(1mL)に再溶解し、氷浴で冷やしたヘプタン(100mL)中へ滴下し、析出した固体を減圧濾過によって回収した。回収した固体を真空乾燥機を用いて40℃で12時間乾燥させ、(S,S)-trans-1,2-シクロヘキセンカーボネート(以下、(S,S)-t-CHCとも表記する。)(1.54g)を得た。
なお、(R,R)-trans-1,2-シクロヘキセンカーボネート(以下、(R,R)-t-CHCとも表記する。)は(S,S)-t-CHCとほぼ等価であり、上記記載の(S,S)-t-CHCの合成方法と同様の方法で合成できる。
【0067】
[実施例1]
(R,R)-t-CHC:(S,S)-t-CHC=25mol%:75mol%となるように、25mL三口フラスコへ、(S,S)-t-CHC(0.99g、6.97mmol)、ラセミ体のt-CHC(1.00g、7.05mmol)を量り取って重合性組成物として、フラスコ内を窒素で置換した。フラスコ内へ脱水m-キシレン(7.84g)を添加した後、マグネチックスターラー用いて撹拌して重合性組成物を完全に溶解させた。この重合性組成物溶液から0.98g抜き取って、カールフィッシャー装置を用いて水分値の分析を行った。別途、乾燥させた30mLシュレンク管へ、カリウムtert-ブトキシドのテトラヒドロフラン溶液(1.0M、0.40mL、0.40mmol)を量り取り、脱水m-キシレン(3.60mL)で希釈して開始剤溶液を調製した。フラスコ内において、重合性組成物溶液(8.85g)を撹拌しながら、調製した開始剤溶液0.06mLを加え、25℃で30分撹拌して重合性組成物の開環重合反応を行った。フラスコ内に酢酸(0.0039g)を加えて反応を停止させて重合液を得た。
【0068】
続いて、メタノール不溶分の評価のため、次のようにして再沈殿操作を行った。前記重合液を7.98gサンプリングし、アセトン28.6gを加えて希釈した。希釈液をメタノール345g中へ加えてポリマーを析出させた。析出させたポリマーを減圧濾過によって回収し、メタノールで洗浄した。得られたポリマーを100℃で8時間真空乾燥させ、ポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂を窒素雰囲気下で加熱した際の、150~270℃における熱重量減少率は、1.8質量%であった。また、周期表第3族から第13族金属元素は用いていないため、このポリマー中の周期表第3族から第13族金属元素の含有量は、1ppm以下である。
【0069】
[実施例2]
(R,R)-t-CHC:(S,S)-t-CHC=15mol%:85mol%となるように、重合性組成物として、(S,S)-t-CHCを0.84g、ラセミ体のt-CHCを0.36g用いた以外は、実施例1と同様の方法で重合反応及び再沈殿操作を行ってポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂を窒素雰囲気下で加熱した際の、150~270℃における熱重量減少率は、2.6質量%であった。また、周期表第3族から第13族金属元素は用いていないため、このポリマー中の周期表第3族から第13族金属元素の含有量は、1ppm以下である。
【0070】
[比較例1]
重合性組成物として、ラセミ体のt-CHCのみ用いた((R,R)-t-CHC:(S,S)-t-CHC=50:50)以外は、実施例1と同様の方法で重合反応及び再沈殿操作を行ってポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂を窒素雰囲気下で加熱した際の、150~270℃における熱重量減少率は、13.3質量%であった。また、周期表第3族から第13族金属元素は用いていないため、このポリマー中の周期表第3族から第13族金属元素の含有量は、1ppm以下である。
【0071】
[比較例2]
重合性組成物として、(S,S)-t-CHCのみを用いた((R,R)-t-CHC:(S,S)-t-CHC=0:100)以外は、実施例1と同様の方法で重合反応を行ってポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂を窒素雰囲気下で加熱した際の、150~270℃における熱重量減少率は、45.9質量%であった。また、周期表第3族から第13族金属元素は用いていないため、このポリマー中の周期表第3族から第13族金属元素の含有量は、1ppm以下である。
【0072】
実施例及び比較例で得られたポリカーボネート樹脂の物性を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
表1から、実施例のポリカーボネート樹脂は、比較例のポリカーボネート樹脂と比べて、150~270℃における重量減少率が小さく、耐熱性に優れることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明のポリカーボネート樹脂、ポリカーボネート樹脂組成物、及びそれらを含む光学用成形体は、光学レンズ材料、光学デバイス、光学部品用材料、及びディスプレイ材料のような各種の光学用材料等の分野において産業上の利用可能性を有する。