IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジェイエスピーの特許一覧

特開2023-151066発泡シートの製造方法及び発泡シート
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151066
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】発泡シートの製造方法及び発泡シート
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/14 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
C08J9/14 CET
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060487
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】100126413
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 太亮
(72)【発明者】
【氏名】勝山 直哉
(72)【発明者】
【氏名】角田 博俊
【テーマコード(参考)】
4F074
【Fターム(参考)】
4F074AA32
4F074AC36
4F074AD10
4F074AG20
4F074BA33
4F074BA38
4F074BA75
4F074BC12
4F074DA02
4F074DA03
4F074DA12
4F074DA23
4F074DA24
4F074DA34
(57)【要約】
【課題】無機粉体の含有量を低減しつつ、成形性の良好な発泡シートを得ることができると共に、製造された発泡シートに由来するリサイクル原料を含むポリスチレン系樹脂を用いて発泡シートを製造する場合であっても、黄変の発生が抑制された発泡シートを得ることができる発泡シートの製造方法、および発泡シートを提供する。
【解決手段】
ポリスチレン系樹脂と物理発泡剤とを混練してなる発泡性樹脂溶融物を押出発泡させて発泡シートを製造する方法において、前記物理発泡剤は、炭素数が3~5の炭化水素及び/又はアルキル基の炭素数が1~3のジアルキルエーテルと、窒素とを含み、前記炭化水素及び/又は前記ジアルキルエーテルの添加量と前記窒素の添加量との合計が、前記発泡性樹脂溶融物1kgあたり0.2mol以上1.2mol以下であり、前記窒素の添加量が、前記発泡性樹脂溶融物1kgあたり0.01mol以上0.20mol以下であり、且つ、前記炭化水素及び/又は前記ジアルキルエーテルの添加量に対する前記窒素の添加量の比が、0.03以上0.4以下である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン系樹脂と物理発泡剤とを混練してなる発泡性樹脂溶融物を押出発泡させて発泡シートを製造する方法であって、
前記物理発泡剤は、炭素数が3~5の炭化水素及び/又はアルキル基の炭素数が1~3のジアルキルエーテルと、窒素とを含み、
前記炭化水素及び/又は前記ジアルキルエーテルの添加量と前記窒素の添加量との合計が、前記発泡性樹脂溶融物1kgあたり0.2mol以上1.2mol以下であり、
前記窒素の添加量が、前記発泡性樹脂溶融物1kgあたり0.01mol以上0.20mol以下であり、且つ、
前記炭化水素及び/又は前記ジアルキルエーテルの添加量に対する前記窒素の添加量の比が、0.03以上0.4以下である、ことを特徴とする、
発泡シートの製造方法。
【請求項2】
前記発泡性樹脂溶融物は無機粉体を含まない、又は、前記発泡性樹脂溶融物は前記無機粉体を含み、且つ前記無機粉体の配合量が、前記ポリスチレン系樹脂100質量部に対して0.2質量部以下である、
請求項1に記載の発泡シートの製造方法。
【請求項3】
前記発泡性樹脂溶融物は脂肪酸金属塩を含まない、又は、前記発泡性樹脂溶融物は前記脂肪酸金属塩を含み、且つ前記脂肪酸金属塩の配合量が、前記ポリスチレン系樹脂100質量部に対して0.02質量部以下である、
請求項1又は2に記載の発泡シートの製造方法。
【請求項4】
前記発泡シートの見掛け密度が40kg/m以上200kg/m以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載の発泡シートの製造方法。
【請求項5】
前記発泡シートの平均気泡径が0.08mm以上0.5mm以下である、
請求項1から4のいずれか1項に記載の発泡シートの製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の発泡シートの製造方法により製造された発泡シートに由来するリサイクル原料を含むポリスチレン系樹脂と物理発泡剤とを混練してなる発泡性樹脂溶融物を押出発泡させて発泡シートを製造する方法。
【請求項7】
ポリスチレン系樹脂と物理発泡剤とを混練してなる発泡性樹脂溶融物を押出発泡させてなり、見掛け密度が40kg/m以上200kg/m以下である発泡シートであって、
前記物理発泡剤は、炭素数が3~5の炭化水素及び/又はアルキル基の炭素数が1~3のジアルキルエーテルと、窒素とを含み、
前記発泡シートの平均気泡径が0.08mm以上0.5mm以下であり、
前記発泡シートを燃焼させたときの燃焼残渣の割合が0.2質量%以下(0を含む)である、
発泡シート。
【請求項8】
脂肪酸金属塩を含まない、又は、前記脂肪酸金属塩を含み、且つ前記脂肪酸金属塩の配合量が0.02質量%以下である、
請求項7に記載の発泡シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡シートの製造方法及び発泡シートに関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂製の発泡シートは、軽量性や成形性等に優れるため、熱成形用の発泡シート等として使用されている。例えば、ポリスチレン系樹脂を基材樹脂として用いた発泡シート(ポリスチレン系樹脂発泡シートと称呼することがある)を熱成形して得られる成形体(成形品)は、弁当箱、丼、カップ等の各種容器等の広範な用途で使用される。
【0003】
ポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法として、例えば、押出機にポリスチレン系樹脂と物理発泡剤とを供給して発泡性樹脂溶融物を形成し、発泡性樹脂溶融物を押出発泡させて、発泡シートを製造する方法が知られている(例えば、特許文献1)。このような発泡シートの製造方法を実施する際には、所望とする気泡構造を有する発泡シートを得るために、通常、無機粉体が添加される。無機粉体は気泡調整剤として機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-145486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ポリスチレン系樹脂発泡シートの製造においては、環境負荷低減の観点から、発泡シートの製造時に発生する発泡シートの端材や、発泡シートの熱成形時に発生する端材等から形成された、発泡シート由来のリサイクル原料が、発泡シートを形成するためのポリスチレン系樹脂として再利用されることがある。
【0006】
特許文献1に示されるような方法で製造される発泡シートにおいては、通常、前述した無機粉体や、無機粉体を樹脂中に良好に分散させるために添加される分散剤が、発泡シート中に残留する。このような無機粉体等が残留した発泡シートからリサイクル原料を形成し、発泡シートの製造に再利用した場合、リサイクル原料の使用量等によっては、リサイクル原料を含有する発泡シートに黄変等が生じ、発泡シートの品質が低下するおそれがあった。この点については、リサイクル原料となる発泡シートに含まれる無機粉体や分散剤の配合量を低減することが考えられるが、一般的に発泡シートに添加される無機粉体や分散剤を低減した場合には、所望とする発泡シートを得ることができなくなるおそれがある。
【0007】
本発明の目的は、無機粉体の配合量を低減しつつ、良好な発泡シートを得ることができると共に、製造された発泡シートに由来するリサイクル原料を含むポリスチレン系樹脂を用いて発泡シート(リサイクル原料含有発泡シートと称呼する場合がある)を製造する場合であっても黄変の発生が抑制されたリサイクル原料含有発泡シートを得ることができる発泡シートの製造方法、および発泡シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、次の(1)から(8)に示す発明を要旨とする。
【0009】
(1)ポリスチレン系樹脂と物理発泡剤とを混練してなる発泡性樹脂溶融物を押出発泡させて発泡シートを製造する方法であって、
前記物理発泡剤は、炭素数が3~5の炭化水素及び/又はアルキル基の炭素数が1~3のジアルキルエーテルと、窒素とを含み、
前記炭化水素及び/又は前記ジアルキルエーテルの添加量と前記窒素の添加量との合計が、前記発泡性樹脂溶融物1kgあたり0.2mol以上1.2mol以下であり、
前記窒素の添加量が、前記発泡性樹脂溶融物1kgあたり0.01mol以上0.20mol以下であり、且つ、
前記炭化水素及び/又は前記ジアルキルエーテルの添加量に対する前記窒素の添加量の比が、0.03以上0.4以下である、ことを特徴とする、
発泡シートの製造方法。
(2)前記発泡性樹脂溶融物は無機粉体を含まない、又は、前記発泡性樹脂溶融物は前記無機粉体を含み、且つ前記無機粉体の配合量が前記ポリスチレン系樹脂100質量部に対して0.2質量部以下である、
上記(1)に記載の発泡シートの製造方法。
(3)前記発泡性樹脂溶融物は、脂肪酸金属塩を含まない、又は、前記発泡性樹脂溶融物は前記脂肪酸金属塩を含み、且つ前記分散剤の配合量が前記ポリスチレン系樹脂100質量部に対して0.02質量部以下である、
上記(1)又は(2)に記載の発泡シートの製造方法。
(4)前記発泡シートの見掛け密度が40kg/m以上200kg/m以下である、上記(1)から(3)のいずれか1つに記載の発泡シートの製造方法。
(5)前記発泡シートの平均気泡径が0.08mm以上0.5mm以下である、
上記(1)から(4)のいずれか1つに記載の発泡シートの製造方法。
(6)上記(1)から(5)のいずれか1項に記載の発泡シートの製造方法により製造された発泡シートに由来するリサイクル原料を含むポリスチレン系樹脂と物理発泡剤とを混練してなる発泡性樹脂溶融物を押出発泡させて発泡シートを製造する方法。
(7)ポリスチレン系樹脂と物理発泡剤とを混練してなる発泡性樹脂溶融物を押出発泡させてなり、見掛け密度が40kg/m以上200kg/m以下である発泡シートであって、
前記物理発泡剤は、炭素数が3~5の炭化水素及び/又はアルキル基の炭素数が1~3のジアルキルエーテルと、窒素とを含み、
発泡シートの平均気泡径が0.08mm以上0.5mm以下であり、
発泡シートを燃焼させたときの燃焼残渣が0.2質量%以下(0を含む)である、
発泡シート。
(8)脂肪酸金属塩を含まない、又は、前記脂肪酸金属塩を含み、且つ前記脂肪酸金属塩の配合量が0.02質量%以下である、
上記(7)に記載の発泡シート。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、無機粉体の配合量を低減しつつ、良好な発泡シートを得ることができると共に、製造された発泡シートに由来するリサイクル原料を含むポリスチレン系樹脂を用いて発泡シートを製造する場合であっても、黄変の発生が抑制されたリサイクル原料含有発泡シートを得ることができる発泡シートの製造方法、および発泡シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態について、1.発泡シートの製造方法、2.発泡シート、3.発泡シートに由来するリサイクル原料を用いた発泡シートの製造方法の順序で以下に説明する。
【0012】
なお、本発明は、以下に説明する実施の形態等に限定されない。
【0013】
[1 発泡シートの製造方法]
[1-1 構成]
本発明にかかる発泡シートの製造方法は、ポリスチレン系樹脂と物理発泡剤とを混練してなる発泡性樹脂溶融物を押出発泡させることでポリスチレン系樹脂発泡シート(以下、発泡シートと称呼する)を製造する方法(いわゆる押出発泡法)である。発泡シートの製造方法の構成の説明においては、発泡性樹脂溶融物に無機粉体及び分散剤を含まない場合を例に挙げて説明を続ける。ただし、このことは、後述するように、発泡シートに無機粉体などの残留成分が存在することを排除するものではない。また、発泡性樹脂溶融物に無機粉体及び分散剤を所定の範囲で含有する場合を排除するものではない。なお、ポリスチレン系樹脂発泡シートを発泡シートと称呼する点及び本発明にかかる発泡シートの製造方法が押出発泡法である点については、後述する発泡シート、及び製造された発泡シートに由来するリサイクル原料を含むポリスチレン系樹脂を用いて発泡シートを製造する方法のいずれについても同様である。
【0014】
押出発泡法は、一般的な押出発泡シートを製造するための製造装置を用いて製造することができる。製造装置は、直列に接続された押出機(上流側の第一押出機と下流側の第二押出機)と、第二押出機の下流側に設けられたダイとを有する装置を挙げることができる。なお、ダイとして環状ダイが用いられていることが好ましい。以下の説明では、第二押出機の下流側に環状ダイが備えられている製造装置を用いた場合を例として説明を続ける。製造装置には、環状ダイの下流側に円筒状の発泡シートを冷却するための冷却筒(マンドレル)が設けられ、押出され冷却された円筒状の発泡シートを切り開くカッターが設けられていることが好適である。また、製造装置には、発泡シートをロール状に引き取る巻取機が設けられていることが好ましい。なお、上流側と下流側は、発泡シートの基材樹脂となるポリスチレン系樹脂の移送方向を基準として定められるものとする。また、ここに示す製造装置は一例であり、これに限定されるものではない。
【0015】
(発泡性樹脂溶融物の形成)
発泡シートの製造方法では、ポリスチレン系樹脂と物理発泡剤が混練される。このとき発泡性樹脂溶融物が形成される。上記に説明した製造装置では、上流側の第一押出機にポリスチレン系樹脂が供給され、さらに物理発泡剤が圧入される。そして、第一押出機や第二押出機の内部でポリスチレン系樹脂と物理発泡剤とが混練され、発泡性樹脂溶融物が形成される。
【0016】
(押出発泡)
発泡性樹脂溶融物は、上流側の第一押出機から下流側の第二押出機に移送され、第二押出機により発泡性樹脂溶融物の温度が調整される。そして、第二押出機に設けられた環状ダイから発泡性樹脂溶融物が大気圧中に押し出され、筒状の発泡体が形成される。筒状の発泡体はマンドレルに沿って引き取られ、冷却される。その後、筒状の発泡体はその押出方向に沿ってカッターで切り開かれ、シート状に展開された後、巻取機によってロール状に巻き取られる。こうして、発泡性樹脂溶融物が押出発泡されることで、発泡シートが製造される。
【0017】
得られた発泡シートは、そのまま使用されてもよいし、さらに発泡シートを用いた成形品として使用されてもよい。成形品は、発泡シートを所定の形状に賦形することで得られる成形体を示し、具体的には容器等を例示することができる。
【0018】
(ポリスチレン系樹脂)
発泡シートの製造方法で用いられるポリスチレン系樹脂は、ポリスチレン系樹脂発泡体の用途で使用可能な樹脂であれば、特に限定されない。本明細書において、ポリスチレン系樹脂は、スチレン系単量体成分単位を50質量%以上含む樹脂を示すものとする。ポリスチレン系樹脂としては、例えば、ポリスチレン、ゴム変性ポリスチレン(耐衝撃性ポリスチレン)、スチレン-αメチルスチレン共重合体、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-メタクリル酸エチル共重合体、スチレン-アクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリル酸エチル共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体等といったポリマーや、ポリスチレンとポリフェニレンエーテルとの混合物等が挙げられる。これらの中でも、ポリスチレン系樹脂として、ポリスチレンを用いることが好ましい。なお、ポリスチレン系樹脂の概念には、上記した各種のポリマーや混合物が1種で(単独で)用いられる場合、及び上記した各種のポリマーや混合物が2種以上を併用される場合が含まれる。
【0019】
(発泡剤)
発泡シートの製造方法で用いられる発泡剤としては、物理発泡剤が好適に採用される。物理発泡剤は、炭化水素及び/又はジアルキルエーテルを含むことが好適である。炭化水素としては、樹脂への溶解性や発泡シートからの揮散性の観点や、押出発泡により所望とする発泡シートを製造しやすい観点や、熱成形性に優れる発泡シートを得やすい観点からは、炭素数が3から5の炭化水素が用いられることが好ましい。具体的には、炭素数が3から5の炭化水素としては、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン及びイソペンタン等を例示することができる。これらの中でも、炭化水素としては、ノルマルブタン及び/またはイソブタンが用いられることが好ましい。なお、物理発泡剤として用いられる炭素数が3から5の炭化水素を、単に炭化水素と称呼することがある。
【0020】
ジアルキルエーテルとしては、炭化水素の場合と同様な観点や、食品等を入れた成形体を電子レンジ等で加熱した際に、膨張(三次発泡)しにくい成形体を得やすい観点からは、アルキル基の炭素数が1から3のジアルキルエーテルが用いられることが好ましい。具体的に、アルキル基の炭素数が1から3のジアルキルエーテルとしては、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテルを例示することができる。これらの中でも、ジアルキルエーテルとしては、ジメチルエーテルが用いられることが好ましい。なお、物理発泡剤として用いられるアルキル基の炭素数が1から3のジアルキルエーテルを、単にジアルキルエーテルと称呼することがある。
【0021】
押出発泡により所望とする発泡シートを製造しやすい観点や、熱成形性に優れる発泡シートを得やすい観点からは、物理発泡剤として、炭化水素を用いることが好ましい。また、押出発泡性や熱成形性を高めつつ、成形体の三次発泡を抑制しやすい観点からは、物理発泡剤として、炭化水素及びジアルキルエーテルを併用することが好ましい。
【0022】
(窒素)
物理発泡剤には窒素が含まれている。窒素は、押出発泡時に、溶融状態のポリスチレン系樹脂から分離して、ポリスチレン系樹脂内に気泡構造を形成する点で、発泡剤としての機能を発揮すると考えられる。また、窒素は、後述するように、その機能についての詳細な機構は明らかではないが、物理発泡剤として使用される上記した炭化水素及び/又はジアルキルエーテルによる発泡剤としての機能を効果的に発揮させる、いわゆる気泡調整剤としての機能を兼ねることができるものと考えられる。後述するように気泡調整剤は、気泡核点の形成による気泡調整効果を有し、物理発泡剤による樹脂の発泡を制御して、気泡構造の状態を調整する添加物を示す。したがって、本発明の発泡シートの製造方法においては、窒素は発泡剤としての機能と、気泡調整効果を発揮する機能を有しているものと考えられ、物理発泡剤として窒素を添加することによって、押出発泡時における、気泡調整効果と押出発泡性に影響を与えることが考えられる。
【0023】
なお、本発明の所期の目的を達成できる範囲において、窒素の添加のタイミングは特に限定されない。例えば、炭化水素及び/又はジアルキルエーテルとともに窒素が添加されてもよく、炭化水素及び/又はジアルキルエーテルとは異なるタイミングで、窒素が添加されてもよい。
【0024】
本発明の所期の目的を達成できる範囲で、前記した炭化水素、前記したジアルキルエーテル及び窒素以外の他の物理発泡剤を併用してもよい。また、窒素は、単体で添加されてもよいし、混合状態で添加されてもよい。窒素を混合状態で添加される場合の例としては、空気を添加する場合を例示することができる。
【0025】
(物理発泡剤の添加量)
発泡シートの製造方法では、炭化水素及び/又はジアルキルエーテルの添加量と窒素の添加量との合計量(物理発泡剤の合計添加量と称呼する)は、発泡性樹脂溶融物1kgあたり0.2mol以上1.2mol以下である。物理発泡剤の合計添加量が少なすぎる場合には、押出発泡による発泡が不十分となり、所望とする発泡倍率を有する発泡シートを得ることが困難となる虞がある。見掛け密度の低い発泡シートを安定して製造する観点からは、物理発泡剤の合計添加量は、発泡性樹脂溶融物1kgあたり、0.3mol以上であることが好ましく、0.4mol以上であることがより好ましく、0.5mol以上であることがさらに好ましい。
【0026】
物理発泡剤の合計添加量が多すぎる場合には、発泡倍率や気泡構造の制御が困難となり、所望とする発泡シートを得ることが困難となる虞や、得られる発泡シートの熱成形性が低下する虞がある。外観や熱成形性に優れる発泡シートを安定して製造する観点から、物理発泡剤の合計添加量は、発泡性樹脂溶融物1kgあたり1.1mol以下であることが好ましく、1.0mol以下であることがより好ましい。
【0027】
また、物理発泡剤が、炭化水素及びジアルキルエーテルを含む場合、押出発泡により所望とする発泡シートを安定して製造できると共に、食品等を入れた成形体を電子レンジ等で加熱した際に、膨張(三次発泡)しにくい成形体をより安定して製造しやすい観点からは、前記炭化水素の添加量と、前記ジアルキルエーテルの添加量との比(炭化水素:ジアルキルエーテル)は、6:4~9:1であることが好ましく、7:3~8:2であることがより好ましい。なお、上記の炭化水素とジアルキルエーテルの比は、mol比である。
【0028】
(発泡性樹脂溶融物における窒素の添加割合)
本発明における発泡シートの製造方法においては、発泡性樹脂溶融物における窒素の添加割合(窒素添加量と称呼する)は、発泡性樹脂溶融物1kgあたり、0.01mol以上0.20mol以下である。窒素添加量が少なすぎる場合、押出発泡時における窒素による気泡核点の形成効果が不足するためか、発泡が生じず、所望とする発泡シートを得ることが困難となる。
【0029】
一方、窒素添加量が多くなりすぎた場合、窒素による気泡核点の形成効果が過度に強くなりやすくなるためか、発泡シートの気泡の微細化が生じやすくなる。これにより、押出発泡時に発泡シートにコルゲートが生じやすくなると共に、発泡シートを引き取る際に、発泡シートが破断しやすくなり、良好な発泡シートを得ることが困難となるおそれがある。
【0030】
所望とする発泡倍率を有すると共に、良好な気泡構造を有する発泡シートを安定して製造することができる観点からは、窒素添加量は、発泡性樹脂溶融物1kgあたり、0.02mol以上であることが好ましく、0.05mol以上であることがより好ましく、0.08mol以上であることがさらに好ましい。同様の観点から、窒素添加量は、発泡性樹脂溶融物1kgあたり、0.18mol以下であることが好ましく、0.15mol以下であることがより好ましく、0.12mol以下であることがさらに好ましい。また、後述するように発泡性樹脂溶融物が無機粉体を含む場合、発泡シートの気泡構造のコントロール性をより高めることができる観点からは、窒素添加量は、発泡性樹脂溶融物1kgあたり、0.15mol以下であることが好ましく、0.12mol以下であることがより好ましく、0.10mol以下であることがさらに好ましい。
【0031】
(物理発泡剤における窒素の割合(相対比率))
物理発泡剤においては、炭化水素及び/又はジアルキルエーテルの添加量(FA1)に対する、窒素の添加量(FA2)の比(FA2/FA1)が0.03以上0.4以下とされている。本明細書においては、FA2/FA1を窒素の相対比率と称呼する場合がある。
【0032】
窒素の相対比率が過剰に高い場合、窒素による気泡核点の形成効果が過度に強くなるためか、発泡シートの気泡が微細化しやすくなる。これにより、押出発泡時に発泡シートにコルゲートが生じやすくなり、良好な発泡シートを得ることが困難となる虞がある。また、窒素の相対比率が過剰に低い場合、気泡核点の形成効果が不足するためか、押出発泡による発泡が生じにくくなる。そのため、見掛け密度の低い、所望とする発泡シートを得ることが困難になる虞がある。
【0033】
比較的気泡径の大きい気泡が形成された発泡シートを得やすく、熱成形性に優れる発泡シートを安定して製造しやすくなる観点から、窒素の相対比率(FA2/FA1)の上限は、0.35であることが好ましく、0.32であることがより好ましく、0.30であることがさらに好ましい。また、窒素の相対比率(FA2/FA1)の下限は、0.05であることが好ましく、0.08であることが好ましく、0.1であることがさらに好ましい。また、後述するように発泡性樹脂溶融物が無機粉体を含む場合、発泡シートの気泡構造のコントロール性をより高めることができる観点からは、窒素の相対比率(FA2/FA1)の上限は、0.30であることが好ましく、0.25であることがより好ましく、0.20であることがさらに好ましい。
【0034】
本発明にかかる発泡シートの製造方法においては、次に述べる坪量及び見掛け密度を有する発泡シートを得ることができる。
【0035】
(発泡シートの坪量)
本発明にかかる発泡シートの製造方法で得ることができる発泡シートについて、発泡シートの坪量は80g/m以上400g/m以下であることが好ましい。上記坪量とすることで、軽量で、熱成形性が良好であると共に、適度な剛性を有する成形体を安定して得ることができる。発泡シートや、発泡シートを熱成形してなる成形体の剛性を高める観点からは、発泡シートの坪量は、100g/m以上であることが好ましく、120g/m以上であることがより好ましい。また、発泡シートの軽量性を高める観点からは、300g/m以下であることが好ましく、250g/m以下であることがより好ましく、200g/m以下であることがさらに好ましい。
【0036】
(発泡シートの坪量の測定方法)
発泡シートの坪量は、次のように測定される。まず、本発明の製造方法によって得られた発泡シートにおいて、発泡シートの幅方向(発泡シートの押出方向及び発泡シートの厚み方向と直交する方向)に沿って等間隔に10箇所選択する。次に、10箇所のそれぞれ位置で、縦25mm×横25mmの試験片(ただし厚みは発泡シートの厚み)を切り出す。得られた試験片のそれぞれについて質量を測定する。そして、測定された質量と試験片の面積に基づいて、それぞれの試験片の坪量(質量/面積)を算出し、得られた値が算術平均される。この算術平均された値が発泡シートの坪量(g/m)として定められる。
【0037】
(発泡シートの見掛け密度)
本発明にかかる発泡シートの製造方法で得ることができる発泡シートについて、発泡シートの見掛け密度が40kg/m以上200kg/m以下であることが好ましい。上記見掛け密度を有することで、軽量で、熱成形性が良好であると共に、適度な剛性を有する成形体を安定して得ることができる。発泡シートの見掛け密度は、50kg/m以上であることが好ましく、60kg/m以上であることがより好ましい。また、発泡シートを熱成形してなる成形体の強度を高める観点からは、発泡シートの見掛け密度は、180kg/m以下であることが好ましく、170kg/m以下であることがより好ましく、160kg/m以下であることがさらに好ましい。
【0038】
(発泡シートの見掛け密度の測定方法)
発泡シートの見掛け密度は、次のように測定される。上記で説明した発泡シートの坪量の測定方法と同様の方法及び条件を用いて、10箇所の位置のそれぞれについての試験片が準備され、それぞれの試験片について坪量が算出される。また、試験片の厚み(発泡シートの厚み)を測定し、測定された坪量を試験片の厚み(発泡シートの厚み)で除する。これによりそれぞれの試験片の密度が算出され、さらに得られた値が算術平均される。この算術平均された値が発泡シートの見掛け密度(kg/m)として定められる。
【0039】
(発泡シートの幅)
本発明にかかる発泡シートの製造方法で得ることができる発泡シートについて、発泡シートの幅は特に限定されるものではないが、本発明にかかる発泡シートの製造方法では、発泡シートは、発泡シートの押出方向及び発泡シートの厚み方向と直交する方向の長さ(シート幅と称呼することがある)が500mm以上であることが好ましい。シート幅が500mm以上である場合、発泡シートを用いて成形品を製造する場合に、多数個取りの熱成形により、一度に多くの成形品を成形することができるため、発泡シートは生産性に優れたものとなる。かかる観点から、発泡シートのシート幅は600mm以上であることがより好ましい。なお、発泡シートの上限は、特に限定されるものではないが、概ね2000mmである。
【0040】
(発泡シートの厚み)
本発明にかかる発泡シートの製造方法で得ることができる発泡シートについて、発泡シートの厚みは、概ね0.5mm以上4mm以下であることが好ましく、1mm以上3mm以下であることがより好ましい。この場合、軽量で、熱成形性が良好であると共に、適度な剛性を有する成形体を得やすくなる。発泡シートの厚みは、次のように測定される。まず、発泡シートの幅方向に沿って等間隔に10箇所選択する。次に、10箇所のそれぞれ位置で発泡シートの厚みを測定し、測定された厚みの算術平均値を算出する。この測定を、無作為に選択された押出方向に沿った3つの位置で行い、これらの算術平均値を発泡シートの厚みとする。
【0041】
(発泡シートの平均気泡径)
本発明の製造方法により得られる発泡シートの平均気泡径(mm)は、発泡シートの成形性(熱成形性)及び発泡シートの外観を良好にする観点からは、0.08mm以上0.5mm以下であることが好ましい。また、熱成形性に優れる発泡シートを安定して得やすい観点から、発泡シートの平均気泡径は、0.10mm以上であることが好ましく、0.12mm以上であることがより好ましく、0.15mm以上であることがさらに好ましい。また、発泡シートを熱成形してなる成形体において、平滑な表面を形成しやすいと共に、光沢度を高めやすくなり、外観が良好な成形体を安定して得やすくなる観点からは、発泡シートの平均気泡径は、0.4mm以下であることが好ましく、0.35mm以下であることがより好ましく、0.30mm以下であることがさらに好ましく、0.26mm以下であることが特に好ましい。なお、発泡シートの平均気泡径は、発泡シートの幅方向(TD)に沿った平均気泡径、発泡シートの押出方向(MD)に沿った平均気泡径、及び発泡シートの厚み方向(VD)に沿った平均気泡径の平均値を示すものとする。
【0042】
(発泡シートの平均気泡径の測定方法)
発泡シートの平均気泡径(mm)は、次のように測定される。発泡シートにおいて、発泡シートの幅方向に沿ったおおむね中央部(中央部付近)から、試験片を切り出す。このとき試験片の大きさは、幅方向に沿った長さが10cm、押出方向に沿った長さが10cmであり、且つ、試験片の厚み方向の長さは、発泡シートの厚みとされる。また、発泡シートにおいて発泡シートの幅方向に沿ったおおむね一方端部とおおむね他方端部の両方(両端部のそれぞれについての端部付近)から、上記中央部付近から切り出された試験片と同様の大きさの試験片が切り出される。
【0043】
切り出されたそれぞれの試験片について、発泡シートの押出方向(MD)に沿った垂直な断面を拡大した写真(MD方向拡大写真)が撮影される。拡大写真の撮影には、光学顕微鏡を用いることができる。光学顕微鏡の具体例としては、株式会社キーエンス製のデジタルマイクロスコープ(「VHX-7000」)等を挙げることができる。なお、断面を拡大した写真の撮影にあたり、断面の拡大倍率は、例えば100倍に定めることができる。さらに、MD方向拡大写真の撮影と同様の方法を用いて、発泡シートの幅方向(TD)に沿った垂直な断面を拡大した写真(TD方向拡大写真)が撮影される。
【0044】
MD方向拡大写真及びTD方向拡大写真のそれぞれの上に、発泡シートの厚み方向に沿った線分を等間隔に引く。MD方向拡大写真及びTD方向拡大写真のそれぞれにおいて、線分と交差する気泡の画像に基づき、それぞれの気泡について、拡大写真の拡大倍率を考慮した、MD方向、TD方向及びVD方向に沿った気泡径の最大値を測定する。なお、線分と交差する気泡としては、測定者の目視上、気泡と線分との交差を認められたものが、全て選ばれる。そして、それぞれの気泡について測定されたMD方向、TD方向及びVD方向に沿った気泡径をそれぞれ算術平均することで、MD方向、TD方向及びVD方向の平均気泡径をそれぞれ算出する。たとえば、複数の気泡について測定されたTD方向に沿った気泡径の算術平均値を算出することで、試験片におけるTD方向の平均気泡径が算出される。
【0045】
そして、それぞれの試験片について算出されたMD方向、TD方向及びVD方向の平均気泡径の算術平均値をそれぞれ算出することで、MD方向、TD方向及びVD方向の発泡シートの平均気泡径が算出される。たとえば、複数の試験片について測定されたTD方向の平均気泡径の算術平均値を算出することで、発泡シートにおけるTD方向の平均気泡径が算出される。
【0046】
さらに、発泡シートにおける、TD方向の平均気泡径、MD方向の平均気泡径及びVD方向の平均気泡径の算術平均値を算出する。この算出された値が発泡シートの平均気泡径(mm)として定められる。
【0047】
(発泡シートの独立気泡率)
発泡シートの独立気泡率は、70%以上であることが好ましい。発泡シートの独立気泡率が上記範囲であることで、発泡シートを用いた成形体を熱成形する際の発泡シートの二次発泡性を良好にすることができる。また、発泡シートを熱成形することで得られる成形品の強度等を確保することができる。この観点から、発泡シートの独立気泡率は、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
【0048】
(発泡シートの独立気泡率の測定方法)
発泡シートのおおむね中央部から25mm×25mm×シート厚み(押出発泡シートの厚み)に切断した試験片を作製する。シート厚みの総和が20mmに最も近づくように試験片を複数枚重ねて試験片とする。次に、ASTM-D2856-70の手順Cに従って、東芝ベックマン株式会社の空気比較式比重計930型等を使用して試験片の真の体積Vxを測定し、下記数式(式(1))により独立気泡率S(%)を計算する。上記測定を、5個の試験片を用いて行い、その算術平均値を発泡シートの独立気泡率とする。
【0049】
【数1】
【0050】
ただし、
Vx:上記方法で測定された試験片の真の体積(cm)であり、発泡シートを構成する樹脂の体積と、試験片内の独立気泡部分の気泡全体積との和に相当する、
Va:測定に使用された試験片の外寸から計算された試験片の見掛け体積(cm)、
W:測定に使用された試験片の全質量(g)、そして
ρ:発泡シートを構成する樹脂の密度(g/cm)、
である。
【0051】
[1-2 作用及び効果]
本発明にかかる発泡シートの製造方法においては、物理発泡剤として、炭化水素及び/又はジアルキルエーテルの他に、窒素が用いられている。窒素は、発泡剤としての機能と、気泡調整剤としての機能とを兼ねているものと考えられる。この理由としては、定かではないが、以下のことが考えられる。押出発泡時において、発泡性樹脂溶融物中に含まれる窒素は、炭化水素及び/又はジアルキルエーテルに比べて、溶融状態のポリスチレン系樹脂から早期に分離して、押出された樹脂中に気泡形成の起点となる気泡核を形成することが考えられる。さらに、発泡性樹脂溶融物の発泡が進む際には、樹脂からの炭化水素及び/又はジアルキルエーテルの分離が進み、窒素により形成された気泡核(またはその近傍)を起点とした気泡の形成・成長が進行するものと考えられる。
【0052】
したがって、本発明にかかる発泡シートの製造方法においては、窒素が気泡調整剤としての機能を発揮できることにより、従来一般的に気泡調整剤として添加されてきた無機粉体の添加量を抑制して、または無機粉体を添加せずに発泡シートを製造しても、所望の発泡倍率や気泡構造を有し、熱成形性の良好な発泡シートを得ることができる。
【0053】
また、既述したように発泡シートの製造においては、発泡シートに由来するリサイクル原料が、発泡シートを形成するためのポリスチレン系樹脂として再利用されることがある。気泡調整剤として無機粉体が添加された従来の発泡シートでは、通常、無機粉体や、無機粉体を樹脂中に良好に分散させるために添加される分散剤が、発泡シート中に残留する。したがって、このような無機粉体等が残留した従来の発泡シートからリサイクル原料を製造し、発泡シートの原料として再利用した場合、リサイクル原料の使用量等によっては、発泡シートに黄変等が生じ、発泡シートの品質が低下するおそれがあった。
【0054】
本発明にかかる発泡シートの製造方法においては、一般的に気泡調整剤として添加されてきた無機粉体の配合量を抑制することができるため、本発明で得られた発泡シートに由来するリサイクル原料を用いて発泡シートを製造したとしても、黄変の発生が抑制された発泡シート(リサイクル原料含有発泡シート)を得ることができる。
【0055】
また、従来の発泡シートでは、無機粉体や、無機粉体を樹脂中に分散させるために添加される分散剤が、発泡シート中に多く残留する。このことに加えて、発泡シートに添加される無機粉体や分散剤の量は、発泡シートの用途や製造条件によって変動することが多い。このため、従来の発泡シートに由来するリサイクル原料が、発泡シートを形成するためのポリスチレン系樹脂として再利用される場合、発泡シートの倍率や気泡構造(気泡の大きさや気泡の分布等)を所望の範囲に調整することが困難となる虞があり、発泡シートの生産性が低下する虞があった。
【0056】
本発明にかかる発泡シートの製造方法においては、一般的に気泡調整剤として添加されてきた無機粉体の配合量を抑制することができるため、本発明で得られた発泡シートに由来するリサイクル原料を発泡シートの原料として用いた場合であっても、所望の気泡構造を実現した発泡シートを得ること(すなわちリサイクル原料を含むポリスチレン系樹脂を用いた発泡シートの品質の安定化)が容易となる。
【0057】
また、従来の発泡シートをリサイクル原料として用いる場合においては、リサイクル原料含有発泡シートには無機粉体が含まれる。従来の発泡シート、及びリサイクル原料含有発泡シートは、例えば、熱成形により、容器等の成形品に加工される。このとき、発泡シートは、多数個取りの熱成形により、多数の容器が連接された状態で成形される場合があるが、これらの容器を個々の容器に分離するために、隣り合う容器の間の連接部が電熱線(ニクロム線等)で切断(溶断)される。この際、発泡シートに含まれた無機粉体が電熱線に付着して、電熱線が汚染され、電熱線の切断機能の低下を招く要因となる可能性が指摘されている。
【0058】
この点、本発明によれば、窒素が従来の無機粉体の機能(気泡調整剤としての機能)を兼ねることができるため、発泡シートは、分散剤や無機粉体が含有されていない状態、又は、分散剤や無機粉体が含まれていたとしても、従来の発泡シートに比べて分散剤や無機粉体の含有量を減じた状態とすることができる。このため、本発明によれば、電熱線の切断機能低下の抑制を実現可能な発泡シートを得ることができる。
【0059】
[1-3 残留成分及び燃焼残渣について]
上述したように、本発明の発泡シートの製造方法では、得られた発泡シートには気泡調整剤に由来する無機粉体などの残留成分が存在しなくてもよいが、製造された発泡シートが、残留成分を所定の範囲内で含んでいてもよい。残留成分に無機粉体が含まれる場合、発泡性樹脂溶融物に窒素と無機粉体が併用されている。
【0060】
(残留成分)
本発明の発泡シートにおいては、無機粉体や、分散剤に由来する残留成分が存在していても良い。残留成分とは、発泡シートを製造する際に使用された原料のうち、樹脂成分と発泡剤を除く成分であり、発泡シート内に残ったものを示す。残留成分としては、気泡調整剤や分散剤等の各種の添加剤を挙げることができ、具体的には後述するような気泡調整剤の機能を有する無機粉体を例示することができる。無機粉体としては、具体的には、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、シリカ、酸化チタン、クレー、酸化アルミニウム等が挙げられる。これらの中でも、気泡調整剤として添加される無機粉体としては、タルクを好ましく用いることができる。タルクを含む無機粉体を用いる場合、気泡調整効果を高める観点からは、タルクの平均粒子径は、0.1μm以上15μm以下であることが好ましく、0.5μm以上10μm以下であることがより好ましい。また、分散剤を多量に添加せず、タルクを良好に分散させることができる観点からは、タルクの平均粒子径は、2μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることがさらに好ましい。
【0061】
上記平均粒子径は、レーザー回折散乱法により測定することができる。具体的には、平均粒子径は、レーザー回折散乱法によって測定される体積基準の粒度分布において、体積累計50%に相当する粒子径(D50)を意味する。なお、上記平均粒子径は、上記体積累計50%に対応する粒子の体積と同体積を有する仮想球の直径を意味する。
【0062】
(無機粉体の配合量)
発泡性樹脂溶融物に無機粉体を配合する場合、無機粉体の配合量は、前記ポリスチレン系樹脂100質量部に対して0.2質量部以下であることが好ましい。無機粉体量が多くなりすぎると、成形品の製造時の電熱線汚染や、発泡シートをリサイクル原料として使用した発泡シートの品質の安定化を損なう虞がある。
【0063】
発泡性樹脂溶融物に無機粉体を配合する場合、発泡シートをリサイクル原料として使用した発泡シートの品質の安定化効果を高める観点や、成形品の製造時における電熱線汚染をより抑制する観点からは、無機粉体の配合量は、前記ポリスチレン系樹脂100質量部に対して、0.15質量部以下であることが好ましく、0.12質量部以下であることがより好ましく、0.10質量部以下であることがさらに好ましい。
【0064】
また、発泡性樹脂溶融物に無機粉体を配合する場合、無機粉体による後述する効果(発泡倍率のコントロールの容易化(気泡径のコントロールの容易化)の効果)を高めやすくする観点からは、無機粉体の配合量は、ポリスチレン系樹脂100質量部に対して、0.02質量部以上であることが好ましく、0.03質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがさらに好ましい。なお、発泡シートに含まれる無機粉体の量は、通常、発泡シートの製造時に添加された無機粉体の配合量に対応する。
【0065】
(発泡シートの燃焼残渣)
発泡シートをリサイクル原料として使用した発泡シートの品質の安定化効果等を高める観点からは、発泡シートを燃焼させたときの燃焼残渣の割合が0.2質量%以下(0を含む)であることが好ましい。なお、燃焼残渣は、主に無機粉体に由来する成分である。かかる効果をより高める観点からは、発泡シートを燃焼させたときの燃焼残渣の割合は、0.15質量%以下であることが好ましく、0.12質量%以下であることがより好ましく、0.10質量%以下であることがさらに好ましい。
【0066】
燃焼残渣の割合は、次のように測定された発泡シートの燃焼残渣の質量から求めることができる。所定量(例えば、5g)の発泡シートを入れたルツボを、雰囲気温度を600℃に設定した電気炉中で1時間加熱する。加熱後、ルツボ内に残った残渣(燃焼残渣)の質量を測定する。測定された燃焼残渣の質量を、測定に用いた発泡シートの質量で除し、百分率で表すことで、発泡シートを燃焼させたときの燃焼残渣の割合を求めることができる。なお、測定においては、所定量の発泡シートがルツボに入るように、発泡シートを切断等した試験片を作製し、これを用いて測定を行ってもよい。
【0067】
(発泡性樹脂溶融物に窒素と無機粉体を併用する場合の効果)
所望の発泡倍率や気泡径を有する発泡シートを製造する場合、窒素のみで気泡調整剤の機能を発揮させるためには、窒素の添加量を厳格にコントロールすることが好ましい。この点、発泡性樹脂溶融物に無機粉体が本発明の効果を大きく損なわない程度で含まれていると、気泡調整剤の機能を発揮する成分として窒素と無機粉体とが併用された状態となり、所望の発泡シートを得るための、窒素の添加量のコントロール性を高めることができる。この理由としては、窒素の添加量の増加に伴う発泡倍率の増加の度合いよりも、無機粉体の配合量の増加に伴う発泡倍率の増加の度合いのほうが、変化が緩やかであることが挙げられる。そのため、窒素の添加量の調整により発泡倍率をコントロールするよりも、無機粉体の配合量の調整により発泡倍率をコントロールした方が、発泡シートの製造がより容易となる。例えば、発泡倍率が12倍程度の発泡シートを得る場合に、製造時に、発泡倍率が11倍から12倍よりも低い程度の発泡シートを製造できるような窒素を添加し、無機粉体の配合量を調製して発泡倍率が12倍程度となるように調整することで、12倍程度の発泡倍率を有する発泡シートを安定して得ることができる。したがって、発泡性樹脂溶融物に無機粉体が所定の範囲で含まれている場合には、無機粉体が本発明の効果を大きく損なう虞を抑制しつつ、発泡シートの発泡倍率や気泡径をより容易に調整することが可能となる。
【0068】
[1-4 分散剤について]
本発明の製造方法においては、発泡性樹脂溶融物が、分散剤を含まなくてもよいが、所定の配合量の範囲内で分散剤を含んでもよい。前述したように、分散剤は、通常、発泡性樹脂溶融物が無機粉体を含む場合に、無機粉体とともに含まれている。
【0069】
(分散剤)
分散剤は、ポリスチレン系樹脂と無機粉体とを混練し、樹脂中に無機粉体を分散させた状態を形成する場合に、無機粉体の分散性を高める機能を有する。分散剤としては、脂肪酸金属塩が挙げられる。脂肪酸金属塩としては、たとえば、炭素数が12以上30以下の脂肪酸(高級脂肪酸)と金属との塩が挙げられ、より具体的には、ステアリン酸金属塩、ラウリン酸金属塩、パルミチン酸金属塩などが例として挙げられる。また、脂肪酸金属塩を構成する金属としては、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、バリウム、アルミニウムなどが例示される。分散剤が脂肪酸金属塩を含む場合、分散剤中の脂肪酸金属塩の割合は50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。
【0070】
(分散剤の配合量)
発泡性樹脂溶融物に含まれる分散剤(脂肪酸金属塩)の配合量は、ポリスチレン系樹脂100質量部に対して0.02質量部以下(0を含む)であることが好ましい。分散剤の配合量を前記範囲とすることで、所望とする発泡倍率や気泡径を有する発泡シートを製造ができると共に、発泡シートに由来するリサイクル原料を用いて発泡シートを製造した際に、得られる発泡シートの黄変をより安定して抑制することができる。この観点から、発泡性樹脂溶融物が分散剤を含む場合、分散剤の配合量は、ポリスチレン系樹脂100質量部に対して、0.015質量部以下であることが好ましく、0.012質量部以下であることが好ましく、0.010質量部以下であることがさらに好ましく、0.008質量部以下であることがよりさらに好ましい。なお、得られる発泡シートの黄変をさらに抑制する観点からは、発泡性樹脂溶融物が分散剤を含まない(すなわち、分散剤の配合量が0)ことが特に好ましい。なお、上記と同様の観点から、得られる発泡シートについても、発泡シートが、分散剤(脂肪酸金属塩)を含まない、又は、前記分散剤(脂肪酸金属塩)を含み、且つ前記分散剤の配合量が0.02質量%以下であることが好ましい。また、発泡シートが前記分散剤を含む場合、分散剤の配合量は、0.015質量%以下であることが好ましく、0.012質量%以下であることが好ましく、0.010質量%以下であることがさらに好ましく、0.008質量%以下であることがよりさらに好ましい。なお、発泡シートに含まれる分散剤の量は、発泡シートの製造時に添加された分散剤の配合量に概ね対応する。
【0071】
[2 発泡シート]
本発明にかかる発泡シートは、ポリスチレン系樹脂と物理発泡剤とを混練してなる発泡性樹脂溶融物を押出発泡させてなり、見掛け密度が40kg/m以上200kg/m以下である。そして、物理発泡剤は、炭素数が3~5の炭化水素及び/又はアルキル基の炭素数が1~3のジアルキルエーテルと、窒素とを含む。この発泡シートは、平均気泡径が0.08mm以上0.5mm以下であることが好適である。本発明にかかる発泡シートは、上記[1 発泡シートの製造方法]で説明した方法を用いて製造されたポリスチレン系樹脂発泡シートである。したがって、本発明にかかる発泡シートについて、ポリスチレン系樹脂と物理発泡剤などの各構成については、上記[1 発泡シートの製造方法]で説明した各構成と同様であるので説明を省略する。
【0072】
発泡シートは、前述したように、残留成分を含まないものであってもよいが、残留成分を含むものであってもよい。また、本発明にかかる発泡シートにおいては、発泡シートを燃焼させたときの燃焼残渣の割合が、0.2質量%以下(0を含む)であると好ましい。本発明にかかる発泡シートにおいては、発泡シートが脂肪酸金属塩を分散剤として含む場合、発泡シートにおける脂肪酸金属塩の配合量が、0.02質量%以下であることが好ましい。
【0073】
本発明にかかる発泡シートによれば、本発明にかかる発泡シートをリサイクル原料として用いた発泡シートに黄変が生じる虞を抑制することができる。本発明にかかる発泡シートによれば、発泡シートをリサイクル原料として用いた発泡シートの品質の安定化を図ることができる。また、本発明にかかる発泡シートによれば、本発明にかかる発泡シートを用いて成形品を製造する工程で用いられる電熱線の切断機能低下の抑制を実現できる。
【0074】
[3 発泡シートに由来するリサイクル原料を用いた発泡シートの製造方法]
次に、発泡シートに由来するリサイクル原料を用いた発泡シートの製造方法(以下、リサイクル原料含有発泡シートの製造方法と称呼することがある)を説明する。
【0075】
リサイクル原料含有発泡シートの製造方法は、リサイクル原料を含むポリスチレン系樹脂と物理発泡剤とを混練してなる発泡性樹脂溶融物を押出発泡させて発泡シートを製造する方法であり、[1 発泡シートの製造方法]で説明したような押出発泡法を好適に採用できる。
【0076】
リサイクル原料含有発泡シートの製造方法は、ポリスチレン系樹脂にリサイクル原料が含まれる点及び製造される発泡シートがリサイクル原料含有発泡シートである点を除き、[1 発泡シートの製造方法]で示すものを用いられてよいため、物理発泡剤(炭化水素、ジエチルエーテル及び窒素)等の説明を省略する。また、ポリスチレン系樹脂と物理発泡剤とを混練してなる発泡性樹脂溶融物を押出発泡させる各工程についても、[1 発泡シートの製造方法]で説明したことと同様であるため説明を省略する。
【0077】
(ポリスチレン系樹脂)
ポリスチレン系樹脂は、リサイクル原料を含有している。ポリスチレン系樹脂は、リサイクル原料とリサイクル原料ではないもの(非リサイクル原料)とを混合したものであってもよいし、全てをリサイクル原料で構成してもよい。リサイクル原料の使用による効率的なリサイクルが可能となる観点からは、ポリスチレン系樹脂中のリサイクル原料の割合は、5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、20%以上であることがさらに好ましく、30%以上であることがよりさらに好ましい。また、発泡シートの生産安定性を高める観点からは、ポリスチレン系樹脂中のリサイクル原料の割合は、80%以下であることが好ましく、70%以下であることがより好ましく、60%以下であることがさらに好ましく、50%以下であることがよりさらに好ましい。非リサイクル原料は、[1 発泡シートの製造方法]で説明したポリスチレン系樹脂と同様であるので説明を省略する。
【0078】
(リサイクル原料)
リサイクル原料は、発泡シートに由来する原料である。具体的には、リサイクル原料は、本発明の発泡シートの製造方法で製造された発泡シートや、それらの発泡シートの製造時に発生する端材、それらの発泡シートの熱成形時に発生する端材等を材料として、これらの材料から製造された原料を示す。
【0079】
(リサイクル原料の製造方法)
リサイクル原料は、例えば、発泡シートの端材等の素材を押出機に供給し、素材を押出機の内部で溶融混練して樹脂溶融物を形成した後、樹脂溶融物を押出機から押出し、所定形状にペレタイズすること等により製造される。ただしこれはリサイクル原料の製造方法の一例であり、リサイクル原料の製造方法はこの製造方法に限定されるものではない。
【0080】
(リサイクル原料含有発泡シート)
リサイクル原料含有発泡シートの製造方法によれば、ポリスチレン系樹脂発泡シートとして見掛け密度が40kg/m以上200kg/m以下である発泡シートを得ることができる。リサイクル原料含有発泡シートの製造方法で得られるポリスチレン系樹脂発泡シートの見掛け密度等の諸物性に関する説明は、[1 発泡シートの製造方法]で得られる発泡シートと同様であるので説明を省略する。
【0081】
(作用及び効果)
リサイクル原料含有発泡シートの製造方法によれば、本発明にかかる発泡シートの製造方法で得られた発泡シートに由来するリサイクル原料を用いて発泡シートが製造されるため、上記[1 発泡シートの製造方法]でも説明したように、黄変の発生が抑制された発泡シートを得ることができ、またリサイクル原料を用いた発泡シートの品質の安定化が容易となる。
【0082】
次に、実施例を用いて説明を続ける。
【実施例0083】
(ポリスチレン系樹脂及び物理発泡剤)
ポリスチレン系樹脂としてPSジャパン株式会社製の一般ポリスチレン(商品名GX154)(密度1050kg/m、MFR1.6g/10分、ガラス転移温度122℃)を準備した。物理発泡剤としてイソブタン、ジメチルエーテル、及び窒素を準備した。
【0084】
(気泡調整剤)
気泡調整剤(表1においては、便宜上、気泡調整剤と表記した。)として、無機粉体と分散剤とを含有するマスターバッチが準備された。このマスターバッチは、ポリスチレン樹脂を基材樹脂とし、マスターバッチには、無機粉体が40質量%配合され、分散剤が2.5質量%配合されている。また、無機粉体はタルク(粒子径(D50)7.5μm)であり、分散剤はステアリン酸マグネシウムである。なお、タルクの粒子径は、島津製作所製レーザー回折式粒子径分布測定装置SALD-2100を用いて、レーザー解析回折散乱法にて体積基準の粒度分布の測定を行い、体積累計50%に相当する粒子径(D50)を求めることで算出した。
【0085】
後述する実施例及び比較例のうち発泡性樹脂溶融物に無機粉体及び分散剤を含有させる例(実施例3、4、6及び8、比較例5)では、上記マスターバッチを使用して発泡性樹脂溶融物に無機粉体及び分散剤を添加した状態が形成された。
【0086】
(製造装置)
発泡シートを製造するための製造装置を準備した。製造装置は、2台の押出機として第一押出機(口径65mm)と第二押出機(口径90mm)(ただし上流側の押出機を第一押出機と呼び、下流側の押出機を第二押出機と呼ぶ)とを直列に連結した、タンデム型の押出機と、第二押出機の吐出口側に設けられた環状ダイ(出口直径60mm)と、環状ダイの下流側に配置された冷却用筒(マンドレル)(直径212mm)と、マンドレルで冷却された円筒状の発泡体を切り開くカッターと、カッターで切り開かれた発泡シートを巻き取る巻取機とを備えるものであった。
【0087】
実施例1、2、5、7及び9
実施例1、2、5、7及び9のそれぞれについて、ポリスチレン系樹脂を第一押出機に供給し、約220℃で加熱混練した。さらに、実施例1、2、5、7及び9のそれぞれについて表1に示す添加量で物理発泡剤を第一押出機の溶融樹脂に圧入した。物理発泡剤を圧入するタイミングについては、窒素(窒素ガス)は窒素以外の物理発泡剤(イソブタン及び/又はジメチルエーテル)と同時に圧入された。なお、表1において物理発泡剤の添加量(mol/kg)は、発泡性樹脂溶融物1kgあたりに添加された物理発泡剤の物質量(mol)を示す。また、表1において、物理発泡剤のうち窒素以外の物理発泡剤(イソブタン及び/又はジメチルエーテル)をAとし、窒素をBとして、Aの添加量とBの添加量の合計量を合計量欄に記載し、Aの添加量を1とした場合のBの添加量の比率をB/A欄に記載した。
【0088】
第一押出機により形成された物理発泡剤を含む溶融樹脂は、第一押出機から、第一押出機の下流側に連結された第二押出機に移送された。そして、第二押出機により、溶融樹脂の樹脂温度を約159℃に調整した。このようにして発泡性樹脂溶融物を形成した。
【0089】
第二押出機発泡性樹脂溶融物を、1時間あたりの吐出量を50kg(50kg/h)とする条件で、第二押出機の環状ダイから大気圧下に押出した。これにより筒状発泡体が形成された。さらに押し出された筒状発泡体をマンドレルの外面に沿わせながら、ブロー比を3.5として、おおむね表2に示した坪量となるよう引取速度(例えば巻取機での巻き取り速度)を調整しながら引き取った。引き取りに伴う筒状発泡体の移動に伴い、押出方向に沿って筒状発泡体をカッターで切り開くことで、シート幅約670mmの発泡シートが製造された。なお発泡シートは巻取機によりロール状に巻き取られた。
【0090】
得られた発泡シートについて、厚み、坪量、見掛け密度及び独立気泡率を測定した。また、発泡シートを燃焼させたときの燃焼残渣の割合を測定した。それぞれの測定方法は、既述した方法を用いられた。それぞれの結果を表2に示す。
【0091】
なお、燃焼残渣の測定は、具体的には、以下のように行った。電気炉として、ヤマト科学製 Muffle Furnace MF28を用いた。また、測定用の試験片として、約5g分の発泡シートを採取し、その質量を測定すると共に、ルツボに入るように切断した。
セラミック製のルツボに、切断した発泡シートを入れ、発泡シートが入ったルツボを、雰囲気温度を600℃に設定した電気炉中で1時間加熱した。加熱後、残渣(燃焼残渣)が入ったルツボの質量を測定し、この質量からルツボの質量を差し引くことで、燃焼残渣の質量を測定した。測定された燃焼残渣の質量を、測定に用いた発泡シートの質量で除し、百分率で表すことで、発泡シートを燃焼させたときの燃焼残渣の割合を求めた。
【0092】
また、発泡シートについて、発泡シートの押出方向(MD)の平均気泡径、発泡シートの幅方向(TD)の平均気泡径、及び発泡シートの厚み方向(VD)の平均気泡径を測定した。MDの平均気泡径、TDの平均気泡径及びVDの平均気泡径に基づき発泡シートの平均気泡径が算出された。結果を表2に示す。表2においてMDの平均気泡径、TDの平均気泡径、VDの平均気泡径及び発泡シートの平均気泡径は、それぞれ平均気泡径欄におけるMD欄、TD欄、VD欄、及び平均欄に記載されている。
【0093】
さらに、得られた発泡シートを用いて黄変度試験及び電熱線汚染度試験を実施した。結果を表2に示す。
【0094】
(黄変度試験)
黄変度試験は、得られた発泡シートを用いてリサイクル原料を作製した際の、リサイクル原料の黄変度合を評価する試験である。
【0095】
黄変度試験は次のように実施された。実施例にて得られた発泡シートを、リサイクル原料作製用の押出機にて溶融し、リペレット化することで、リサイクル原料を作製した。発泡シートのリペレット化においては、まず、得られた発泡シートを押出機に供給可能な大きさに破砕し、その破砕物を、内径65mmの単軸押出機に供給して、最高温度230℃で溶融混練することで溶融樹脂を形成した。次いで、吐出量20kg/hrで、溶融樹脂を押出機からストランド状に押出して、押出された樹脂をペレット状にカットすることで、リサイクル原料を作製した。次に、リサイクル原料を熱プレスして、厚み1mmの試験片(ソリッドシート)を作製した。
【0096】
作製された試験片について、分光色差計(日本電色製:Spectro Color Meter SE2000)を用いてL(色空間)を特定した。
【0097】
(黄変の抑制性の評価)
黄変度試験で得られたbの値に基づき、黄変の抑制性を評価した。なお、bの値は黄方向の色を意味し、bの値が大きいほど、黄変が生じていることを意味する。また、リサイクル原料に黄変が生じやすいと、リサイクル原料を用いて得られる発泡シートにも黄変が生じやすくなる。
【0098】
得られる発泡シートの黄変をより抑制することができるリサイクル原料となる観点からは、bの値は、3.6以下であることが好ましく、3.4以下であることがより好ましく、3.0以下であることがさらに好ましい。各実施例(実施例1から9)は、比較例5よりもbの値が小さく、いずれも3.6以下を満たしていた。
【0099】
(電熱線汚染度試験)
電熱線汚染度の試験は、次のように実施された。得られた発泡シートを50枚重ねて積層体を形成し、積層体に対して、発泡シートの全幅にわたって、切断処理を施した。切断処理は、電気を通じて発熱させた電熱線(ニクロム線)により、積層体を厚み方向に沿って切断することで実施された。
【0100】
(電熱線汚染の抑制性の評価)
電熱線汚染の抑制性の評価は、切断処理を実施した後における電熱線に無機粉体の付着が認められるか否かを観察することで実施された。電熱線汚染度評価は、以下のように評価された。
【0101】
〇(良好) :電熱線において無機粉体の付着が認められない。
×(不良) :電熱線において無機粉体の付着が認められる。
【0102】
比較例1から4
比較例1から4のそれぞれについて、実施例1と同様の方法が実施された。ただし、物理発泡剤は、表1の比較例1から4の各欄に示す添加量となるように第一押出機の内部に圧入された。
【0103】
比較例1と2については、製造装置から押出した際にポリエチレン系樹脂に気泡構造が形成されず(発泡状態が形成されず)、発泡シートを得ることができなかった。このため、発泡シートの厚み、坪量、見掛け密度及び独立気泡率、平均気泡径の測定を行わなかった。また、黄変度試験及び電熱線汚染度試験を実施しなかった。
【0104】
比較例3と4については、製造装置から押出した際にポリエチレン系樹脂に形成された気泡が過度に微細化してしまい、発泡シートの引き取りができず、結果として発泡シートを得ることができなかった。このため、発泡シートの厚み、坪量、見掛け密度及び独立気泡率、平均気泡径の測定を行わなかった。また、黄変度試験及び電熱線汚染度試験を実施しなかった。
【0105】
実施例3、4、6及び8、比較例5
実施例3、4、6及び8、並びに比較例5のそれぞれについて、ポリスチレン系樹脂を第一押出機に供給したことにかえて、ポリスチレン系樹脂と、無機粉体と分散剤とを含有するマスターバッチとを第一押出機に供給したほかは、実施例1と同様の方法を用いて発泡シートを得た。なお、表1において、無機粉体及び分散剤のそれぞれの配合量は、ポリスチレン系樹脂100質量部あたりに配合された無機粉体及び分散剤のそれぞれの配合量(質量部)に対応する。
【0106】
得られた発泡シートについて実施例1と同様の方法を用いて発泡シートの厚み、坪量、見掛け密度及び独立気泡率を測定した。また実施例1と同様に、発泡シートを燃焼させたときの燃焼残渣の割合を測定した。発泡シートについて、実施例1と同様の方法を用いて発泡シートの押出方向(MD)の平均気泡径、発泡シートの幅方向(TD)の平均気泡径、及び発泡シートの厚み方向(VD)の平均気泡径を測定し、さらに発泡シートの平均気泡径が算出された。それぞれ結果を表2に示す。
【0107】
また、得られた発泡シートを用い、実施例1と同様の方法及び評価基準を用いて黄変度試験及び電熱線汚染度試験を実施した。それぞれ結果を表2に示す。
【0108】
【表1】
【0109】
【表2】
【0110】
上述した本発明の製造方法及び実施例は、一例であり、本発明はこれに限定されない。
【0111】
本発明について説明したが、本発明は、次に示す構成とすることが可能である。
(A1)
ポリスチレン系樹脂と物理発泡剤とを混練してなる発泡性樹脂溶融物を押出発泡させて発泡シートを製造する方法であって、
前記物理発泡剤は、炭素数が3~5の炭化水素及び/又はアルキル基の炭素数が1~3のジアルキルエーテルと、窒素とを含み、
前記炭化水素及び/又は前記ジアルキルエーテルの添加量と前記窒素の添加量との合計が、前記発泡性樹脂溶融物1kgあたり0.2mol以上1.2mol以下であり、
前記窒素の添加量が、前記発泡性樹脂溶融物1kgあたり0.01mol以上0.20mol以下であり、且つ、
前記炭化水素及び/又は前記ジアルキルエーテルの添加量に対する前記窒素の添加量の比が、0.03以上0.4以下である、ことを特徴とする、
発泡シートの製造方法。
(A2)
前記発泡性樹脂溶融物は無機粉体を含まない、又は、前記発泡性樹脂溶融物は前記無機粉体を含み、且つ前記無機粉体の配合量が前記ポリスチレン系樹脂100質量部に対して0.2質量部以下である、
上記(A1)に記載の発泡シートの製造方法。
(A3)
前記発泡性樹脂溶融物は脂肪酸金属塩含まない、又は、前記発泡性樹脂溶融物は前記脂肪酸金属塩を含み、且つ前記脂肪酸金属塩の配合量が前記ポリスチレン系樹脂100質量部に対して0.02質量部以下である、
上記(A1)又は(A2)に記載の発泡シートの製造方法。
(A4)
前記発泡シートの見掛け密度が40kg/m以上200kg/m以下である、上記(A1)から(A3)のいずれか1つに記載の発泡シートの製造方法。
(A5)
前記発泡シートの平均気泡径が0.08mm以上0.5mm以下である、
上記(A1)から(A4)のいずれか1つに記載の発泡シートの製造方法。
(A6)
上記(A1)から(A5)のいずれか1つに記載の発泡シートの製造方法により製造された発泡シートに由来するリサイクル原料を含むポリスチレン系樹脂と物理発泡剤とを混練してなる発泡性樹脂溶融物を押出発泡させて発泡シートを製造する方法。
(A7)
ポリスチレン系樹脂と物理発泡剤とを混練してなる発泡性樹脂溶融物を押出発泡させてなり、見掛け密度が40kg/m以上200kg/m以下である発泡シートであって、
前記物理発泡剤は、炭素数が3~5の炭化水素及び/又はアルキル基の炭素数が1~3のジアルキルエーテルと、窒素とを含み、
前記発泡シートの平均気泡径が0.08mm以上0.5mm以下であり、
前記発泡シートを燃焼させたときの燃焼残渣の割合が0.2質量%以下(0を含む)である、
発泡シート。
(A8)
脂肪酸金属塩を含まない、又は、前記脂肪酸金属塩を含み、且つ前記脂肪酸金属塩の配合量が0.02質量%以下である、
上記(A7)に記載の発泡シート。
(A9)
発泡シートの厚みが1mm以上3mm以下である、
上記(A7)または(A8)に記載の発泡シート。
(A10)
発泡シートの坪量が80g/m以上400g/m以下である、
上記(A7)から(A9)のいずれか1つに記載の発泡シート。