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特開2023-1510923次元プリンタ成形及び炭素化による炭素成形体の製造のための樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151092
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】3次元プリンタ成形及び炭素化による炭素成形体の製造のための樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/08 20060101AFI20231005BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20231005BHJP
   B29C 64/314 20170101ALI20231005BHJP
   B29C 64/118 20170101ALI20231005BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20231005BHJP
【FI】
C08L79/08
C08K3/04
B29C64/314
B29C64/118
B33Y70/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060530
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100193404
【弁理士】
【氏名又は名称】倉田 佳貴
(72)【発明者】
【氏名】生駒 英行
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 厚則
【テーマコード(参考)】
4F213
4J002
【Fターム(参考)】
4F213AB18
4F213AB25
4F213WA22
4F213WA25
4F213WB01
4J002BG023
4J002CM041
4J002CM042
4J002DA016
4J002DA026
4J002DA036
4J002FA046
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】本発明は、3次元プリンタにより成形でき、かつ炭素化後においてその形状を維持できる、樹脂組成物を得ることを目的とする。
【解決手段】3次元プリンタ成形及び炭素化による炭素成形体の製造のための本発明の樹脂組成物は、
残炭率が50%未満である第一の熱可塑性樹脂、
残炭率が50%以上である第二の熱可塑性樹脂、及び
これらの熱可塑性樹脂中に分散している炭素質フィラー
を含有している。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元プリンタ成形及び炭素化による炭素成形体の製造のための樹脂組成物であって、
残炭率が50%未満である第一の熱可塑性樹脂、
残炭率が50%以上である第二の熱可塑性樹脂、及び
これらの熱可塑性樹脂中に分散している炭素質フィラー
を含有している、樹脂組成物。
【請求項2】
JIS K7210-1に準拠するメルトマスフローレートが、温度360℃かつ荷重2.16kgfの条件で測定した場合に、10~35g/10min以上である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
窒素雰囲気下かつ昇温速度10℃/minの条件での、示差熱-熱重量同時分析(TG-DTA)により測定した、前記第一の熱可塑性樹脂の融点が、前記第二の熱可塑性樹脂の融点よりも高い、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
窒素雰囲気下かつ昇温速度10℃/minの条件での、示差熱-熱重量同時分析(TG-DTA)により測定した、前記第一の熱可塑性樹脂の熱分解温度が、前記第二の熱可塑性樹脂の熱分解温度よりも低い、請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記第一及び第二の熱可塑性樹脂が、いずれもポリイミド系樹脂である、請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記第一の熱可塑性樹脂が、熱可塑性ポリイミドである、請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記第一の熱可塑性樹脂が、ポリエーテルイミドである、請求項5又は6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記炭素質フィラーの含有率が、前記樹脂組成物全体の質量に対して、10~40質量%である、請求項1~7のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記炭素質フィラーが、炭素繊維である、請求項1~8のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元プリンタ用樹脂組成物、特に3次元プリンタにより成形でき、かつ炭素化する際に形状を維持できる樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
3次元(3D)プリンタは、CAD等により入力された3次元データから薄い断面の形状を計算し、この計算結果をもとに材料を何層にも積層することで立体物を造形する技術であり、付加製造技術(Additive Manufacturing Technology)とも呼ばれている。3次元プリンタは、射出成形で用いられる金型を必要とせず、射出成形では成形できない複雑な立体構造を造形することができることから、多品種少量生産技術として注目されている。
【0003】
3次元プリンタ用材料(付加製造材料ともいう)には、3次元プリンタの方式や用途に応じて、様々な材料が開発されており、主材料としては光硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、金属、セラミックス、ワックス等が用いられる。
【0004】
3次元プリンタの方式は、材料を立体的に造形する方式により、(1)結合剤噴霧方式、(2)指向性エネルギー堆積方式、(3)材料押出方式、(4)材料噴霧方式、(5)粉末床溶融結合方式、(6)シート積層方式、(7)液槽光重合方式等に分類される。前述の方式の中でも、材料押出方式(熱溶解積層方式とも呼ばれる)を採用した3次元プリンタは、低価格化が進んでおり、家庭・オフィス用として需要が高まっている。また、粉末床溶融結合方式を採用した3次元プリンタは、粉末材料のリサイクル性向上を実現したシステムの開発が進み、注目されている方式である。
【0005】
熱溶解積層方式(材料押出方式)とは、フィラメントと呼ばれる糸状などの形状を有する熱可塑性樹脂を押出しヘッド内部の加熱手段にて流動化したのち、ノズルからプラットフォーム上に吐出し、目的とする造形物の断面形状に従って、少しずつ積層しながら冷却固化することで造形する方法である。
【0006】
このような熱溶解積層方式の3次元プリンタのための樹脂組成物として、種々の組成物が開示されている。
【0007】
特許文献1では、平均繊維長1μm~300μm、且つ平均アスペクト比3~200である無機繊維と、熱可塑性樹脂とを含有する樹脂組成物であり、3次元プリンタ用造形材料である樹脂組成物が開示されている。
【0008】
特許文献2では、熱溶解積層型3次元プリンタ用フィラメントであって、熱可塑性を有するマトリックス樹脂と、この熱可塑性を有するマトリックス樹脂中に分散された機能性ナノフィラーを含む機能性樹脂組成物によって形成されていることを特徴とする熱溶解積層型3次元プリンタ用フィラメントが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2018/043231号
【特許文献2】特開2016-28847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の3次元プリンタにより成形できる成形体は、樹脂をベースとする成形体であった。
【0011】
これに対して、本発明は、3次元プリンタにより成形できる樹脂組成物であって、得られた成形体を炭素化することによって炭素成形体を得ることができる樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討したところ、以下の手段により上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、下記のとおりである:
〈態様1〉3次元プリンタ成形及び炭素化による炭素成形体の製造のための樹脂組成物であって、
残炭率が50%未満である第一の熱可塑性樹脂、
残炭率が50%以上である第二の熱可塑性樹脂、及び
これらの熱可塑性樹脂中に分散している炭素質フィラー
を含有している、樹脂組成物。
〈態様2〉JIS K7210-1に準拠するメルトマスフローレートが、温度360℃かつ荷重2.16kgfの条件で測定した場合に、10~35g/10min以上である、態様1に記載の樹脂組成物。
〈態様3〉窒素雰囲気下かつ昇温速度10℃/minの条件での、示差熱-熱重量同時分析(TG-DTA)により測定した、前記第一の熱可塑性樹脂の融点が、前記第二の熱可塑性樹脂の融点よりも高い、態様1又は2に記載の樹脂組成物。
〈態様4〉窒素雰囲気下かつ昇温速度10℃/minの条件での、示差熱-熱重量同時分析(TG-DTA)により測定した、前記第一の熱可塑性樹脂の熱分解温度が、前記第二の熱可塑性樹脂の熱分解温度よりも低い、態様1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
〈態様5〉前記第一及び第二の熱可塑性樹脂が、いずれもポリイミド系樹脂である、態様1~4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
〈態様6〉前記第一の熱可塑性樹脂が、熱可塑性ポリイミドである、態様5に記載の樹脂組成物。
〈態様7〉前記第一の熱可塑性樹脂が、ポリエーテルイミドである、態様5又は6に記載の樹脂組成物。
〈態様8〉前記炭素質フィラーの含有率が、前記樹脂組成物全体の質量に対して、10~40質量%である、態様1~7のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
〈態様9〉前記炭素質フィラーが、炭素繊維である、態様1~8のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、3次元プリンタにより成形できる樹脂組成物であって、得られた成形体を炭素化することによって炭素成形体を得ることができる樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
《樹脂組成物》
3次元プリンタ成形及び炭素化による炭素成形体の製造のための本発明の樹脂組成物は、
残炭率が50%未満である第一の熱可塑性樹脂、
残炭率が50%以上である第二の熱可塑性樹脂、及び
これらの熱可塑性樹脂中に分散している炭素質フィラー
を含有している。
【0015】
すなわち、本発明は、3次元プリンタ成形及び炭素化による炭素成形体の製造のための上記の樹脂組成物の使用にも関する。
【0016】
ここで、本発明に関して、「残炭率」は、下記のようにして測定される値である。
【0017】
(残炭率)
熱天秤を用いて、窒素雰囲気において昇温速度20℃/分で室温から900℃まで昇温し、850℃での温度を焼成後質量として、以下の式により、残炭率(質量%)を算出する。
残炭率(%)=(焼成後(850℃)質量/焼成前質量)×100
【0018】
本発明者らは、上記の構成により、3次元プリンタにより成形でき、かつ炭素化後においてその形状を維持できる、樹脂組成物を得ることができることを見出した。理論に拘束されることを望まないが、これは、残炭率の低い第一の熱可塑性樹脂と炭素質フィラーとの組合せが、炭素化前の形状を炭素化後においても維持すること貢献する一方で、残炭率の高い第二の熱可塑性樹脂が、3次元プリンタによる成形性に貢献することによると考えられる。
【0019】
本発明の樹脂組成物の、JIS K7210-1に準拠するメルトマスフローレートは、温度360℃かつ荷重2.16kgfの条件で測定した場合に、10g/10min以上、12g/10min以上、15g/10min以上、17g/10min以上、又は20g/10min以上であってよく、また100g/10min以下、70g/10min以下、50g/10min以下、40g/10min以下、35g/10min以下、又は30g/10min以下であってよい。
【0020】
本発明の樹脂組成物の融点は、300℃以上、310℃以上、320℃以上、330℃以上、340℃以上、350℃以上、360℃以上、又は370℃以上であってよく、また450℃以下、440℃以下、430℃以下、420℃以下、410℃以下、400℃以下、390℃以下、又は380℃以下であってよい。
【0021】
本発明の樹脂組成物の熱分解温度は、380℃以上、390℃以上、400℃以上、410℃以上、又は420℃以上であってよく、また550℃以下、540℃以下、530℃以下、520℃以下、510℃以下、又は500℃以下であってよい。
【0022】
ここで、本発明においては、融点及び熱分解温度は、窒素雰囲気下かつ昇温速度10℃/分の条件での示差熱-熱重量同時分析(TG-DTA)により測定することができる。具体的には、窒素雰囲気下で、昇温速度10℃/分で試料を加熱して、JIS K0129に準拠する示差熱-熱重量同時分析(TG-DTA)により、縦軸を質量、横軸を温度とした曲線(TG曲線)、及び縦軸を温度差、横軸を温度とした曲線(DTA曲線)を得ることにより、融点及び熱分解温度を得ることができる。より具体的には、TG曲線において質量の減少が観察されない位置で、DTA曲線の曲線に吸熱ピークが観察されたときに、この極小値をとる温度を、融点とすることができる。また、TG曲線において質量の減少が観察されたときに、質量の減少が始まったときの温度を、熱分解温度とすることができる。
【0023】
第一及び第二の熱可塑性樹脂は、同種の樹脂であること、特にいずれもポリイミド系樹脂であることが、第一及び第二の熱可塑性樹脂の混合状態を良好とし、それによって、3次元印刷による成形性を良好にする観点から好ましい。
【0024】
また、本発明の樹脂組成物は、炭素質フィラー以外の随意の他の粒子を含有していてもよい。
【0025】
以下では、本発明の各構成要素について説明する。
【0026】
〈第一の熱可塑性樹脂〉
第一の熱可塑性樹脂は、残炭率が50%未満である熱可塑性樹脂である。この残炭率は、48%以下、45%以下、42%以下、40%以下、38%以下、又は35%以下であってよく、また15%以上、18%以上、20%以上、22%以上、又は25%以上であってよい。
【0027】
第一の熱可塑性樹脂としては、例えば熱可塑性ポリイミド(TPI)を用いることができる。熱可塑性ポリイミドとしては、商業的に入手可能なものを用いることができる。
【0028】
第一の熱可塑性樹脂の含有率は、樹脂組成物全体の質量に対して、10質量%以上、又は15質量%以上であることが、炭素化後に成形体を得る観点から好ましい。この含有率は、50質量%以下、45質量%以下、40質量%以下、又は35質量%以下であってよい。
【0029】
第一の熱可塑性樹脂の、JIS K7210-1に準拠するメルトマスフローレートは、温度360℃かつ荷重2.16kgfの条件で測定した場合に、0.1g/10min以上、0.5g/10min以上、又は1.0g/10min以上であってよく、また10.0g/10min以下、5.0g/10min以下、3.0g/10min以下、又は2.5g/10min以下であってよい。
【0030】
第一の熱可塑性樹脂の融点は、250℃以上、260℃以上、270℃以上、280℃以上、290℃以上、300℃以上、310℃以上、又は315℃以上であってよく、また400℃以下、390℃以下、380℃以下、370℃以下、360℃以下、350℃以下、340℃以下、330℃以下、又は325℃以下であってよい。
【0031】
第一の熱可塑性樹脂の融点は、第二の熱可塑性樹脂の融点よりも高くてよく、例えば第二の熱可塑性樹脂の融点よりも20℃以上、30℃以上、40℃以上、50℃以上、又は55℃以上高くてよい。
【0032】
第一の熱可塑性樹脂の熱分解温度は、380℃以上、390℃以上、400℃以上、410℃以上、420℃以上、又は430℃以上であってよく、また500℃以下、490℃以下、480℃以下、470℃以下、460℃以下、450℃以下、又は440℃以下であってよい。
【0033】
第一の熱可塑性樹脂の熱分解温度は、第二の熱可塑性樹脂の熱分解温度よりも低くてよく、例えば第二の熱可塑性樹脂の熱分解温度よりも20℃以上、30℃以上、40℃以上、50℃以上、又は55℃以上低くてよい。
【0034】
〈第二の熱可塑性樹脂〉
第二の熱可塑性樹脂は、残炭率が50%以上である熱可塑性樹脂である。この残炭率は、52%以上、55%以上、57%以上、60%以上、又は62%以上であってよく、また80%以下、78%以下、75%以下、72%以下、70%以下、又は67%以下であってよい。
【0035】
第二の熱可塑性樹脂の残炭率は、第一の熱可塑性樹脂の残炭率よりも、20%以上、25%以上、30%以上、又は35%以上大きいことが、上記の作用を得る観点から好ましい。
【0036】
第二の熱可塑性樹脂としては、例えばポリエーテルイミド(PEI)を用いることができる。ポリエーテルイミドとしては、商業的に入手可能なものを用いることができる。特に、第一の熱可塑性樹脂としては熱可塑性ポリイミド(TPI)を用いる場合、第二の熱可塑性樹脂としてポリエーテルイミド(PEI)を用いると、第一及び第二の熱可塑性樹脂がいずれもイミド系の樹脂であることによって、第一及び第二の熱可塑性樹脂の高い相溶性を得ることができる。
【0037】
第二の熱可塑性樹脂の含有率は、樹脂組成物全体の質量に対して、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、30質量%以上、又は35質量%以上であることが、3次元プリンタによる造形性の観点から好ましい。この含有率は、80質量%以下、75質量%以下、70質量%以下、又は65質量%以下であってよい。
【0038】
第二の熱可塑性樹脂の、JIS K7210-1に準拠するメルトマスフローレートは、温度340℃かつ荷重5.00kgfの条件で測定した場合に、5g/10min以上、7g/10min以上、10g/10min以上、又は12g/10min以上であってよく、また30g/10min以下、25g/10min以下、20g/10min以下、17g/10min以下、又は15g/10min以下であってよい。
【0039】
第二の熱可塑性樹脂の融点は、200℃以上、210℃以上、220℃以上、230℃以上、240℃以上、250℃以上、又は260℃以上であってよく、また370℃以下、360℃以下、350℃以下、340℃以下、330℃以下、320℃以下、310℃以下、300℃以下、290℃以下、280℃以下、又は270℃以下であってよい。
【0040】
第二の熱可塑性樹脂の熱分解温度は、400℃以上、410℃以上、420℃以上、430℃以上、440℃以上、450℃以上、460℃以上、又は470℃以上であってよく、また550℃以下、540℃以下、530℃以下、520℃以下、510℃以下、500℃以下、490℃以下、又は480℃以下であってよい。
【0041】
〈炭素質フィラー〉
炭素質フィラーは、第一及び第二の熱可塑性樹脂中に分散している炭素繊維及び/又は炭素粒子であってよい。この炭素質フィラーは、炭素化後に得られる炭素成形体においては、アモルファス炭素中に分散することとなる。中でも、炭素繊維を用いることが、炭素化後に得られる成形体の形状を維持する観点から好ましい。
【0042】
炭素繊維としては、これに限られないが、ミルドファイバー、及びチョップドファイバー等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、また組み合わせて使用してもよい。
【0043】
炭素繊維の平均長さは、10μm以上、15μm以上、20μm以上、25μm以上、30μm以上、35μm以上、40μm以上、45μm以上、50μm以上、55μm以上、60μm以上、65μm以上、70μm以上、75μm以上、80μm以上、85μm以上、又は90μm以上であることができ、また800μm以下、700μm以下、600μm以下、500μm以下、400μm以下、300μm以下、200μm以下、180μm以下、150μm以下、120μm以下、又は110μm以下であることができる。
【0044】
炭素繊維の平均繊維径は、1μm以上、3μm以上、5μm以上、又は7μm以上であることができ、また20μm以下、15μm以下、12μm以下、又は10μm以下であることができる。なお、炭素繊維の平均長さは、走査型電子顕微鏡(SEM)等により50本以上の繊維を無作為に選んで観察、計測し、個数平均を算出することにより求めることができる。
【0045】
炭素粒子としては、例えばグラフェン、カーボンナノチューブ、黒鉛、及びカーボンブラック等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、また組み合わせて使用してもよい。
【0046】
炭素粒子の形状は、特に限定されず、例えば扁平状、アレイ状、球状等の形状であってよい。
【0047】
炭素粒子の平均粒子径は、100nm以上、200nm以上、300nm以上、500nm以上、700nm以上、1μm以上、2μm以上、又は3μm以上であることができ、また20μm以下、15μm以下、10μm以下、又は7μm以下であることができる。ここで、本明細書において、平均粒子径は、レーザー回折法において体積基準により算出されたメジアン径(D50)を意味するものである。
【0048】
樹脂組成物中の炭素質フィラーの含有率は、樹脂組成物全体の質量に対して、5質量%以上、10質量%以上、又は15質量%以上であることが、形状の維持の観点から好ましい。この含有率は、45質量%以下、40質量%以下、又は35質量%以下であってよい。
【0049】
〈他の粒子〉
炭素質フィラー以外の他の粒子としては、例えば樹脂粒子、金属系粒子等を用いることができる。
【0050】
樹脂粒子としては、例えばアクリル系樹脂粒子等を用いることができる。アクリル系樹脂粒子としては、例えばポリ(メタ)アクリル酸、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリプロピル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、ポリイソブチルアクリレート、ポリペンチル(メタ)アクリレート、ポリヘキシル(メタ)アクリレート、ポリ-2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の粒子を用いることができる。
【0051】
金属系粒子としては、例えば金属単体、金属酸化物、金属炭化物、及び金属窒化物の粒子からなる群より選択される少なくとも一種、特に金属単体の粒子を用いることができ、より具体的には、チタン(Ti)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、銀(Ag)、及び金(Au)の単体、酸化物、炭化物及び窒化物の粒子からなる群より選択される少なくとも一種を用いることができる。
【0052】
他の粒子の平均粒子径は、10nm以上、20nm以上、30nm以上、50nm以上、70nm以上、100nm以上、200nm以上、300nm以上、500nm以上、700nm以上、又は1μm以上であることができ、また5.0μm以下、4.0μm以下、3.0μm以下、2.0μm以下、1.5μm以下、又は1.3μm以下であることができる。ここで、この平均粒子径の測定方法については、炭素質フィラーに関する記載を参照することができる。
【0053】
樹脂組成物中の他の粒子の含有率は、樹脂組成物全体の質量に対して、5質量%以上、10質量%以上、又は15質量%以上であってよく、また45質量%以下、40質量%以下、又は35質量%以下であってよい。
【0054】
《炭素成形体の製造方法》
炭素成形体を製造する本発明の方法は、
上記の樹脂組成物を3次元印刷して、樹脂成形体を提供すること、及び
前記樹脂成形体を非酸化雰囲気下で熱処理することにより、前記樹脂成形体を炭素化させて、炭素成形体を提供すること
を含む。
【0055】
〈樹脂成形体の提供〉
樹脂成形体の提供は、上記の樹脂組成物を3次元印刷することにより行う。
【0056】
本発明において用いられる3次元印刷の方式は、特に限定されるものではなく、例えば材料押出方式(熱溶解積層方式)等であってよい。
【0057】
〈炭素成形体の提供〉
炭素成形体の提供は、前記樹脂成形体を非酸化雰囲気下で熱処理することにより、樹脂成形体を炭素化させることにより行う。
【0058】
非酸化雰囲気としては、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、若しくはヘリウムガス等の不活性ガス雰囲気、又は水素含有窒素ガス等の還元性雰囲気を採用してよく、中でも窒素ガス雰囲気は、取り扱い容易で、かつ安価である観点から、好ましく用いられる。なお、非酸化雰囲気は、3次元印刷により積層させた層の完全燃焼を予防して炭素化させることが可能な範囲で、酸素を含有していてもよく、例えば5体積%以下、3体積%以下、又は1体積%以下の範囲で酸素を含有していてもよく、又は酸素を含有していなくてもよい。
【0059】
熱処理の温度は、例えば600℃以上、650℃以上、700℃以上、750℃以上、又は800℃以上、850℃以上、又は900℃以上であり、かつ1200℃以下、1150℃以下、1100℃以下、1050℃以下、又は1000℃以下であってよい。
【実施例0060】
実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0061】
《樹脂組成物の作製》
表1に示す材料を、表1に示す含有率で混錬して、実施例1~2及び比較例1~3の樹脂組成物を得た。表1に示す材料の詳細は以下のとおりである:
TPI:未精製の熱可塑性ポリイミド(残炭率24.1%)
PEI:ポリエーテルイミド(残炭率59.9%)
炭素繊維:炭素繊維(長さ30~200μm、平均繊維径約8μm)
【0062】
得られた樹脂組成物の融点及び熱分解温度を、昇温速度10℃/min、窒素雰囲気下での示差熱-熱重量同時分析(TG-DTA)によりそれぞれ測定した。
【0063】
また、得られた樹脂組成物のメルトマスフローレート(MFR)を、温度360℃かつ荷重2.16kgfの条件(比較例2のみ、温度340℃かつ荷重5.00kgfの条件)で測定した。
【0064】
《評価》
〈3次元成形性〉
得られた各樹脂組成物を、3次元プリンタを用いた成形を試み、得られた成形体を目視により確認した。評価結果は以下のとおりである:
A:入力した形状が出力できていた
B:入力した形状が出力できなかった
【0065】
〈炭素化後の形状維持〉
押出成形により、得られた各樹脂組成物を所与のブロック体の形状に成形して、炭素化後の形状を評価するための樹脂成形体を得た。次いで、非酸化性雰囲気下で1000℃で50時間熱処理して、樹脂成形体を炭素化させ、炭素成形体を得た。得られた炭素成形体の形状を目視により確認した。評価基準は以下のとおりである:
A:炭素化前の形状とほぼ相似の形状の成形体が得られた
B:炭素化前の形状から著しく変化した形状の成形体が得られた、又は成形体が得られなかった
【0066】
実施例及び比較例の構成及び評価結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1から、第一及び第二の熱可塑性樹脂、並びに炭素質フィラーを含有している実施例1~2の樹脂組成物は、良好な3次元造形性を有し、かつ炭素化後においても形状が維持できることが理解できよう。