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特開2023-151094ポリプロピレン系樹脂組成物及びポリプロピレン系樹脂成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151094
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】ポリプロピレン系樹脂組成物及びポリプロピレン系樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/16 20060101AFI20231005BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20231005BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20231005BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20231005BHJP
   C08L 23/04 20060101ALI20231005BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20231005BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20231005BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C08L23/16
C08L23/00
C08K3/013
C08K5/20
C08L23/04
C08L21/00
C08L23/08
C08L23/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060532
(22)【出願日】2022-03-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2021年11月29日、日本の自動車販売会社に販売のために納品。
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520087103
【氏名又は名称】ロッテ ケミカル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 悠典
(72)【発明者】
【氏名】一原 洋平
(72)【発明者】
【氏名】李 俊義
(72)【発明者】
【氏名】金 在潤
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC08Y
4J002BB05Y
4J002BB05Z
4J002BB15W
4J002BB15X
4J002BB15Z
4J002BB215
4J002DA016
4J002DE066
4J002DE076
4J002DE086
4J002DE146
4J002DE186
4J002DG026
4J002DG046
4J002DG056
4J002DJ016
4J002DJ036
4J002DJ046
4J002DJ056
4J002DK006
4J002DL006
4J002EP017
4J002FA016
4J002FA046
4J002FA066
4J002FB096
4J002FB166
4J002FB236
4J002FB246
4J002FD016
4J002FD167
4J002FD208
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】成形性、耐衝撃性及び耐傷付き性に優れたポリプロピレン系樹脂組成物、及びこれを成形してなるポリプロピレン系樹脂成形品を提供する。
【解決手段】ポリプロピレン(A)と、ポリプロピレン(B)と、ポリエチレン(C)と、熱可塑性エラストマー(D)と、無機フィラー(E)と、離型剤(F)と、相溶化剤(G)とを含むポリプロピレン系樹脂組成物であって、(A)~(E)の総量を100重量%としたときに、(A)の含有量は35~45重量%、(B)の含有量は30~40重量%、(C)の含有量は1~10重量%、(D)の含有量は10~20重量%、(E)の含有量は5~20重量%、(F)の含有量は0.1~0.4重量%、(G)の含有量は0.1~2重量%であり、(A)及び(B)は、プロピレン-エチレン共重合体であって、プロピレン重合単位とエチレン重合単位との総計に対する該エチレン重合単位の比率が3~15重量%であり、(A)の分子量は、111000以上128800以下であり、(B)の分子量は、160000以上239000以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン(A)と、ポリプロピレン(B)と、ポリエチレン(C)と、熱可塑性エラストマー(D)と、無機フィラー(E)と、離型剤(F)と、相溶化剤(G)とを含むポリプロピレン系樹脂組成物であって、
上記ポリプロピレン(A)、上記ポリプロピレン(B)、上記ポリエチレン(C)、上記熱可塑性エラストマー(D)、及び上記無機フィラー(E)の総量を100重量%としたときに、
上記ポリプロピレン(A)の含有量は35~45重量%、
上記ポリプロピレン(B)の含有量は30~40重量%、
上記ポリエチレン(C)の含有量は1~10重量%、
上記熱可塑性エラストマー(D)の含有量は10~20重量%、
上記無機フィラー(E)の含有量は5~20重量%、
上記離型剤(F)の含有量は0.1~0.4重量%、
上記相溶化剤(G)の含有量は0.1~2重量%であり、
上記ポリプロピレン(A)及び上記ポリプロピレン(B)は、プロピレン-エチレン共重合体であって、プロピレン重合単位とエチレン重合単位との総計に対する該エチレン重合単位の比率が3~15重量%であり、
上記ポリプロピレン(A)の分子量は、110000以上128800以下であり、
上記ポリプロピレン(B)の分子量は、160000以上239000以下である
ことを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1において、
上記ポリプロピレン(A)のメルトフローレート(MFR:230℃、2.16kg荷重)は、80~120g/10分である
ことを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
上記ポリプロピレン(B)のメルトフローレート(MFR:230℃、2.16kg荷重)は、40~80g/10分である
ことを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一において、
上記ポリプロピレン(A)及び上記ポリプロピレン(B)の少なくとも一方におけるDSC法により測定された溶融ピークの温度は、150℃~160℃である
ことを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一において、
上記ポリエチレン(C)は、直鎖状低密度ポリエチレンである
ことを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一において、
上記ポリエチレン(C)は、エチレン-1-ブテン共重合体である
ことを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一において、
上記ポリエチレン(C)の分子量は、145000以上165000以下である
ことを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一において、
上記ポリエチレン(C)の密度は、0.85~0.95g/cmである
ことを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一において、
上記ポリエチレン(C)のメルトフローレート(MFR:190℃、2.16kg荷重)は、1~10g/10分である
ことを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一において、
上記ポリエチレン(C)におけるDSC法により測定された溶融ピークの温度は、110℃~130℃である
ことを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一において、
上記相溶化剤(G)は、グラフト化ポリプロピレンである
ことを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一において、
上記熱可塑性エラストマー(D)の分子量は、45000以上50000以下である
ことを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一において、
上記熱可塑性エラストマー(D)のメルトフローレート(MFR:190℃、2.16kg荷重)は、10~40g/10分である
ことを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一において、
上記熱可塑性エラストマー(D)は、エチレンオクテンラバーである
ことを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項15】
請求項1~13のいずれか一において、
上記無機フィラー(E)は、フレーク状の無機フィラーである
ことを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項16】
請求項15において、
上記無機フィラー(E)の平均粒径は、5μm以下である
ことを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか一において、
上記無機フィラー(E)の密度は、2.58~3.83g/cmである
ことを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか一において、
上記離型剤(F)は、不飽和脂肪酸アミドである
ことを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項19】
請求項18において、
上記離型剤(F)は、エルカ酸アミドである
ことを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか一において、
上記ポリプロピレン系樹脂組成物は、自動車部品用である
ことを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項21】
請求項1~20のいずれか一に記載のポリプロピレン系樹脂組成物を成形してなるポリプロピレン系樹脂成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリプロピレン系樹脂組成物及びポリプロピレン系樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系樹脂組成物は、物性、成形性及び経済性等に優れた材料として、例えば日用品、工業用品、自動車内外装部品等の種々の成形品に利用されている。
【0003】
ポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形品には、使用目的及び用途等に応じて、種々の物性が要求される。例えば、自動車内外装部品に使用される材料では、大型部品にも適用可能な成形性を有するとともに、耐衝撃性、耐傷付き性等の物性に優れることが求められる。
【0004】
例えば、特許文献1では、ポリプロピレン樹脂、エチレン-α-オレフィン共重合体ゴム、タルク、グラフト化ポリプロピレン樹脂、不飽和脂肪酸アミド及び耐スクラッチ剤を所定割合で含むポリプロピレン組成物が提案されている。特許文献1には、当該ポリプロピレン組成物を、特に自動車内装用品に見られるような射出成型製品中に用いた時に、改良された耐スクラッチ性を示すことが記載されている。
【0005】
特許文献2では、特定の高結晶性ポリプロピレン樹脂、ゴム成分、無機フィラー、タルク、相溶化剤及び耐スクラッチ剤を所定割合で含み、外観及び耐スクラッチ性に優れたポリプロピレン樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4960086号公報
【特許文献2】韓国特許第10-1876021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、成形品の耐衝撃性を向上させるためには、ポリプロピレン系樹脂組成物に柔軟性を付与する成分を添加することが望ましい。しかしながら、柔軟性を付与する成分を添加すると、成形品の耐傷付き性は低下する傾向にある。また、柔軟性を付与する成分は、一般的に粘性が高いため、ポリプロピレン系樹脂組成物の成形性も低下する傾向にある。このように、ポリプロピレン系樹脂組成物に添加する成分がもたらす影響は、物性によってトレードオフの関係にある。
【0008】
特許文献1,2の技術では、特に耐傷付き性の向上を目的としている。しかしながら、耐傷付き性のみならず、成形性及び耐衝撃性にも優れたポリプロピレン系樹脂組成物及び成形品をもたらすという観点から、これらの従来技術には改善の余地がある。
【0009】
そこで本開示では、成形性、耐衝撃性及び耐傷付き性に優れたポリプロピレン系樹脂組成物、及びこれを成形してなるポリプロピレン系樹脂成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、ここに開示するポリプロピレン系樹脂組成物の一態様は、ポリプロピレン(A)と、ポリプロピレン(B)と、ポリエチレン(C)と、熱可塑性エラストマー(D)と、無機フィラー(E)と、離型剤(F)と、相溶化剤(G)とを含むポリプロピレン系樹脂組成物であって、上記ポリプロピレン(A)、上記ポリプロピレン(B)、上記ポリエチレン(C)、上記熱可塑性エラストマー(D)、及び上記無機フィラー(E)の総量を100重量%としたときに、上記ポリプロピレン(A)の含有量は35~45重量%、上記ポリプロピレン(B)の含有量は30~40重量%、上記ポリエチレン(C)の含有量は1~10重量%、上記熱可塑性エラストマー(D)の含有量は10~20重量%、上記無機フィラー(E)の含有量は5~20重量%、上記離型剤(F)の含有量は0.1~0.4重量%、上記相溶化剤(G)の含有量は0.1~2重量%であり、上記ポリプロピレン(A)及び上記ポリプロピレン(B)は、プロピレン-エチレン共重合体であって、プロピレン重合単位とエチレン重合単位との総計に対する該エチレン重合単位の比率が3~15重量%であり、上記ポリプロピレン(A)の分子量は、111000以上128800以下であり、上記ポリプロピレン(B)の分子量は、160000以上239000以下であることを特徴とする。
【0011】
上記ポリプロピレン(A)のメルトフローレート(MFR:230℃、2.16kg荷重)は、80~120g/10分であることが好ましい。
【0012】
上記ポリプロピレン(B)のメルトフローレート(MFR:230℃、2.16kg荷重)は、40~80g/10分であることが好ましい。
【0013】
上記ポリプロピレン(A)及び上記ポリプロピレン(B)の少なくとも一方におけるDSC法により測定された溶融ピークの温度は、150℃~160℃であることが好ましい。
【0014】
上記ポリエチレン(C)は、直鎖状低密度ポリエチレンであることが好ましい。
【0015】
上記ポリエチレン(C)は、エチレン-1-ブテン共重合体であることが好ましい。
【0016】
上記ポリエチレン(C)の分子量は、145000以上165000以下であることが好ましい。
【0017】
上記ポリエチレン(C)の密度は、0.85~0.95g/cmであることが好ましい。
【0018】
上記ポリエチレン(C)のメルトフローレート(MFR:190℃、2.16kg荷重)は、1~10g/10分であることが好ましい。
【0019】
上記ポリエチレン(C)におけるDSC法により測定された溶融ピークの温度は、110℃~130℃であることが好ましい。
【0020】
上記相溶化剤(G)は、グラフト化ポリプロピレンであることが好ましい。
【0021】
上記熱可塑性エラストマー(D)の分子量は、45000以上50000以下であることが好ましい。
【0022】
上記熱可塑性エラストマー(D)のメルトフローレート(MFR:190℃、2.16kg荷重)は、10~40g/10分であることが好ましい。
【0023】
上記熱可塑性エラストマー(D)は、エチレンオクテンラバーであることが好ましい。
【0024】
上記無機フィラー(E)は、フレーク状の無機フィラーであることが好ましい。
【0025】
上記無機フィラー(E)の平均粒径は、5μm以下であることが好ましい。
【0026】
上記無機フィラー(E)の密度は、2.58~3.83g/cmであることが好ましい。
【0027】
上記離型剤(F)は、不飽和脂肪酸アミドであることが好ましい。
【0028】
上記離型剤(F)は、エルカ酸アミドであることが好ましい。
【0029】
上記ポリプロピレン系樹脂組成物は、自動車部品用であることが好ましい。
【0030】
ここに開示するポリプロピレン系樹脂成形品の一態様は、上記のポリプロピレン系樹脂組成物を成形してなるポリプロピレン系樹脂成形品である。
【発明の効果】
【0031】
本開示によると、成形性、耐衝撃性及び耐傷付き性に優れたポリプロピレン系樹脂組成物、及びこれを成形してなるポリプロピレン系樹脂成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本開示の実施形態を詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0033】
<ポリプロピレン系樹脂組成物>
本開示に係るポリプロピレン系樹脂組成物は、ポリプロピレン(A)と、ポリプロピレン(B)と、ポリエチレン(C)と、熱可塑性エラストマー(D)と、無機フィラー(E)と、離型剤(F)と、相溶化剤(G)と、を含有する。以下、各成分について説明する。
【0034】
なお、以下の説明において、本開示に係るポリプロピレン系樹脂組成物及びポリプロピレン系樹脂成形品を、それぞれ単に「組成物」及び「成形品」と称することがある。
【0035】
[ポリプロピレン(A)及びポリプロピレン(B)]
ポリプロピレン(A)及びポリプロピレン(B)(本明細書において、「PP成分(A),(B)」ともいう。)は、プロピレン-エチレン共重合体である。
【0036】
プロピレン-エチレン共重合体の種類は、特に限定されるものではなく、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体等であってよく、好ましくはランダム共重合体、ブロック共重合体である。
【0037】
なお、PP成分(A),(B)におけるプロピレン重合単位とエチレン重合単位との総計に対する該エチレン重合単位の比率は3~15重量%である。
【0038】
プロピレン-エチレン共重合体の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を採用できる。プロピレン-エチレン共重合体としては、市販品を使用してもよい。
【0039】
PP成分(A),(B)は組成物の母材の役割を有しているため、組成物に要求される成形性並びに成形品に要求される強度、剛性等の機械的な物性を満足する上で、PP成分(A),(B)の物性の設定は重要である。
【0040】
本開示では、PP成分(A),(B)として、互いに分子量の異なるプロピレン-エチレン共重合体を使用するようにしている。すなわち、ポリプロピレン(A)の分子量は、ポリプロピレン(B)の分子量よりも小さく設定されている。
【0041】
相対的に分子量の小さいポリプロピレン(A)は、分子鎖が短いため流動性に優れる傾向があり、組成物の成形性の向上に寄与する。また、相対的に分子量の大きいポリプロピレン(B)は、分子鎖が長いためにポリプロピレン(A)に比べて流動性は低下するものの、成形品の強度及び剛性等の向上に寄与する。言い換えると、分子量の異なる2種類のPP成分(A),(B)を組み合わせることにより、組成物の優れた成形性を確保しつつ、成形品の十分な強度及び剛性等を確保でき、物性バランスに優れた組成物及び成形品を得ることができる。
【0042】
具体的に、ポリプロピレン(A)の分子量は、110000以上128800以下、好ましくは111000以上127000以下、より好ましくは112000以上125000以下である。ポリプロピレン(A)の分子量が下限値未満では、組成物の流動性が過剰となり成形品の優れた強度及び剛性等を確保することが難しくなるおそれがある。また、ポリプロピレン(A)の分子量が上限値を超えると、組成物に十分な流動性が付与されず、優れた成形性を確保することが難しくなるおそれがある。ポリプロピレン(A)の分子量を上記範囲とすることにより、成形品の強度及び剛性等の物性の低下を抑制しつつ、当該組成物に十分な流動性を付与してその成形性を向上できる。
【0043】
一方、ポリプロピレン(B)の分子量は、ポリプロピレン(A)の分子量よりも大きく、160000以上239000以下、好ましくは165000以上230000以下、より好ましくは170000以上225000以下である。ポリプロピレン(B)の分子量が下限値未満では、組成物の流動性が過剰となり成形品の優れた強度及び剛性等を確保することが難しくなるおそれがある。また、ポリプロピレン(B)の分子量が上限値を超えると、組成物に十分な流動性が付与されず、優れた成形性等を確保することが難しくなるおそれがある。ポリプロピレン(B)の分子量を上記範囲とすることにより、組成物の成形性の低下を抑制しつつ、優れた強度及び剛性等を確保できる。
【0044】
なお、PP成分(A),(B)の分子量は、例えばゲル・パーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定できる。また、PP成分(A),(B)として市販品を採用する場合は、カタログ値であってもよい。
【0045】
高分子材料の流動性を評価する指標としてメルトフローレートがある。メルトフローレートは、例えばISO 1133:1997 Conditions Mに準拠して測定すればよい。
【0046】
組成物の優れた成形性を確保する観点から、ポリプロピレン(A)のメルトフローレート(MFR:230℃、2.16kg荷重)は、好ましくは80~120g/10分、より好ましくは85~115g/10分、特に好ましくは90~110g/10分である。
【0047】
また、組成物の優れた強度及び剛性等を確保する観点から、ポリプロピレン(B)のメルトフローレート(MFR:230℃、2.16kg荷重)は、好ましくは40~80g/10分、より好ましくは45~75g/10分、特に好ましくは50~70g/10分である。
【0048】
PP成分(A),(B)の少なくとも一方、すなわちPP成分(A),(B)の一方又は両者における示差走査熱量測定(DSC)法により測定された溶融ピークの温度(Tm)は、好ましくは150℃~160℃、好ましくは151℃~159℃、好ましくは152℃~158℃である。これにより、組成物の十分な成形性及び成形品の十分な強度及び剛性等が確保され、物性バランスに優れた組成物及び成形品を得ることができる。
【0049】
[ポリエチレン(C)]
ポリエチレン(C)は、組成物及び成形品の耐衝撃性を向上させつつ、剛性等の物性も確保するために添加される。特に、後述する熱可塑性エラストマー(D)についても、耐衝撃性を向上させる機能があるが、熱可塑性エラストマー(D)のみを添加すると柔らかすぎて剛性が不足する傾向にあるため、熱可塑性エラストマー(D)とポリエチレン(C)とを組み合わせて添加することにより、成形品の優れた耐衝撃性及び剛性の双方をバランスよく確保できる。
【0050】
ポリエチレン(C)としては、限定する意図ではないが、具体的には例えばエチレン-α-オレフィン共重合体が挙げられる。ポリエチレン(C)として好ましいのは、炭素数3,4のα-オレフィンを共重合モノマーとするエチレン-α-オレフィン共重合体であり、より好ましくはエチレン-1-ブテン共重合体である。
【0051】
また、ポリエチレン(C)としては、限定する意図ではないが、例えば直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のいずれも使用できるが、特にLLDPEを用いることが好ましい。
【0052】
ポリエチレン(C)の分子量は、好ましくは145000以上165000以下、より好ましくは146000以上164000以下、特に好ましくは147000以上160000以下である。ポリエチレン(C)の分子量が下限値未満では、成形品の優れた剛性を確保することが難しくなるおそれがある。また、ポリエチレン(C)の分子量が上限値を超えると、成形品の優れた耐衝撃性を確保することが難しくなるおそれがある。ポリエチレン(C)の分子量を上記範囲とすることにより、成形品の優れた耐衝撃性及び剛性の双方をバランスよく確保できる。
【0053】
ポリエチレン(C)のメルトフローレート(MFR:190℃、2.16kg荷重)は、好ましくは1~10g/10分であり、より好ましくは2~9g/10分、好ましくは3~8g/10分である。ポリエチレン(C)のMFRを上記範囲とすることにより、組成物の優れた成形性を確保しつつ、耐衝撃性及び剛性に優れた成形品を得ることができる。MFRが下限値未満の場合、組成物の成形性が低下するおそれがある。逆に、MFRが上限値を超える場合、成形品の耐衝撃性及び剛性が低下するおそれがある。
【0054】
ポリエチレン(C)におけるDSC法により測定された溶融ピークの温度(Tm)は、好ましくは110℃~130℃、より好ましくは112℃~128℃、特に好ましくは115℃~125℃である。これにより、組成物の優れた成形性を確保しつつ、耐衝撃性及び剛性に優れた成形品を得ることができる。Tmが下限値未満の場合、成形品の耐衝撃性及び剛性が低下するおそれがある。逆に、Tmが上限値を超える場合、組成物の成形性が低下するおそれがある。
【0055】
ポリエチレン(C)の密度は、組成物の優れた成形性を確保しつつ、耐衝撃性及び剛性に優れた成形品を得る観点から、0.85~0.95g/cmであることが好ましく、0.86~0.94g/cmであることがより好ましく、0.87~0.93g/cmであることが特に好ましい。当該密度が下限値未満であると、成形品の剛性が低下する傾向となる。また、当該密度が上限値を超えると、成形品の耐衝撃性が低下する場合がある。
【0056】
[熱可塑性エラストマー(D)]
熱可塑性エラストマー(D)は、組成物及び成形品の耐衝撃性を向上させる目的で添加される。
【0057】
熱可塑性エラストマー(D)としては、特に限定されるものではなく公知の化合物を適宜使用でき、具体的には例えば、スチレン系ブロック共重合体エラストマー、エチレン-α-オレフィン共重合体エラストマー等の低結晶性又は非晶性の共重合体エラストマーが挙げられる。
【0058】
熱可塑性エラストマー(D)として好ましいのは、エチレンオクテンラバー(EOR)、エチレンブテンラバー(EBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、ポリスチレン-block-ポリ(エチレン-ブテン)-block-ポリスチレントリブロック共重合体(SEBS)であり、より好ましいのはエチレンオクテンラバー(EOR)である。
【0059】
熱可塑性エラストマー(D)の分子量は、好ましくは45000以上50000以下、より好ましくは46000以上49000以下である。熱可塑性エラストマー(D)の分子量が下限値未満又は上限値を超えると、成形品の優れた耐衝撃性を確保することが難しくなるおそれがある。熱可塑性エラストマー(D)の分子量を上記範囲とすることにより、成形品の優れた耐衝撃性を確保できる。
【0060】
熱可塑性エラストマー(D)のメルトフローレート(MFR:190℃、2.16kg荷重)は、好ましくは10~40g/10分であり、より好ましくは15~35g/10分、特に好ましくは20~30g/10分である。MFRが下限値未満の場合、組成物の成形性が低下するおそれがある。逆に、MFRが上限値を超える場合、高分子量成分が少なくなり、耐衝撃性が低下するおそれがある。熱可塑性エラストマー(D)のMFRを上記範囲とすることにより、組成物の成形性と成形品の耐衝撃性とをバランスよく両立させることができる。
【0061】
[無機フィラー(E)]
無機フィラー(E)は、成形品の耐衝撃性、耐傷付き性、剛性及び寸法安定性等の向上に寄与する。
【0062】
無機フィラー(E)としては、特に限定されるものではなく、公知のポリマー用の無機フィラーを採用できる。無機フィラー(E)の具体例としては、例えば、シリカ、ケイ藻土、バリウムフェライト、酸化ベリリウム、軽石、軽石バルン等の酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム等の水酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、ドーソナイト等の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸アンモニウム、亜硫酸カルシウム等の硫酸塩または亜硫酸塩、タルク、クレー、マイカ、ガラス繊維、ガラスバルーン、ガラスビーズ、ケイ酸カルシウム、ワラストナイト、モンモリロナイト、ベントナイト等のケイ酸塩、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素中空球等の炭素類や、硫化モリブデン、ボロン繊維、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸ナトリウム、マグネシウムオキシサルフェイト、塩基性硫酸マグネシウム繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、ケイ酸カルシウム繊維、炭酸カルシウム繊維、各種金属繊維等を挙げることができる。これらは、1種のみ単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0063】
上記の無機フィラー(E)のうち、耐傷付き性、耐衝撃性及び経済性等に優れた組成物及び成形品を得る観点から、タルク、ウィスカー及びガラス繊維から選ばれた少なくとも1種が好ましく、タルクがより好ましい。
【0064】
上記の無機フィラー(E)は、例えば有機チタネート系カップリング剤、有機シランカップリング剤、不飽和カルボン酸又はその無水物をグラフトした変性ポリオレフィン、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステル等によって表面等を処理したものを用いてもよく、また、2種以上を併用して表面等を処理してもよい。
【0065】
無機フィラー(E)の形状については、特に制限はなく、フレーク状、粒状、繊維状、棒状、ウィスカー状等、いずれの形状であってもよく、耐衝撃性向上の観点から、好ましくはフレーク状、繊維状、ウィスカー状、より好ましくはフレーク状である。
【0066】
なお、これらは、一般的な粉末状の外に、取り扱いの利便性等を高めた、圧縮魂状、ペレット(造粒)状、顆粒状、チョップドストランド状等の形態で製造されることが多いが、いずれも使用することができる。中でも粉末状、圧縮魂状、顆粒状が好ましい。
【0067】
また、ここでいうウィスカーとは、塩基性硫酸マグネシウム繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、ケイ酸カルシウム繊維、炭酸カルシウム繊維、極細炭素繊維等の極細(概ね繊維径2μm以下、とりわけ繊維径1μm以下)繊維状のものである。
【0068】
無機フィラー(E)の平均粒径は、好ましくは5μm以下、より好ましくは1~5μmである。平均粒径は、レーザー回折散乱方式粒度分布計等を用いて測定した値である。
【0069】
また、無機フィラー(E)の平均アスペクト比は4以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましい。無機フィラー(E)のアスペクト比の測定は、顕微鏡等により測定された値より求められる。
【0070】
無機フィラー(E)の密度は、成形品の耐衝撃性及び耐傷付き性向上の観点から、好ましくは2.58~3.83g/cm、より好ましくは2.60~3.80g/cm、好ましくは2.65~3.75g/cmである。これにより、を向上できる。
【0071】
[離型剤(F)]
離型剤(F)は、組成物及び成形品の離型性及び耐傷付き性等を向上させる役割を有する。
【0072】
離型剤(F)としては、成形分野において離型剤として用いられる公知の化合物を使用できる。離型剤(F)としては、具体的には例えば、脂肪酸アミド及びその誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられる。
【0073】
脂肪酸アミドとしては、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、オレイン酸アミド、ベヘニン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ラウリン酸アミド等が挙げられる。また、脂肪酸アミド誘導体としては、12-ヒドロキシステアリン酸アミド等が挙げられる。離型剤(F)としては、これらの中から選ばれる1種又は2種以上を併用して使用することができる。離型剤(F)としては、エルカ酸アミド、オレイン酸アミド等の不飽和脂肪酸アミドを使用することが好ましく、特にエルカ酸アミドを使用することが好ましい。
【0074】
[相溶化剤(G)]
上述の成分のうち、ポリプロピレン(A)、ポリプロピレン(B)及びポリエチレン(C)からなるポリオレフィン成分及び熱可塑性エラストマー(D)は、無機フィラー(E)及び離型剤(F)よりも極性が低い。言い換えると、成分(A)~(D)は低極性材料、成分(E)、(F)は高極性材料であり、これらの各成分間における相溶性が不足する。
【0075】
相溶化剤(G)は、組成物の上述の各成分間、特にポリオレフィン成分及び熱可塑性エラストマー(D)と、無機フィラー(E)及び離型剤(F)との相溶性を向上させる役割を有する。
【0076】
相溶化剤(G)を添加することにより、各成分間の相溶性が向上するから、組成物中における各成分の分散性が向上する。そうして、組成物及び成形品のモルフォロジー(微細構造)が改善され、成形性、耐衝撃性及び耐傷付き性の全てにおいて改善された、物性バランスに優れた組成物及び成形品が得られる。
【0077】
なお、相溶化剤(G)としては、成形分野において相溶化剤として用いられる公知の化合物を使用できる。相溶化剤(G)としては、具体的には例えば、不飽和カルボン酸又はその無水物等の極性物質をグラフトしたグラフト化ポリオレフィン等が挙げられ、特にマレイン酸変性ポリプロピレン等のグラフト化ポリプロピレンを用いることが好ましい。
【0078】
相溶化剤(G)としてグラフト化ポリオレフィンを使用する場合、酸変性量(グラフト率)は、特に限定されるものではなく、一般的に使用される酸変性量(グラフト率)であってよい。酸変性量(グラフト率)は、具体的には例えば0.1~5重量%とすることができる。
【0079】
[その他の配合成分(任意成分)]
本開示のポリプロピレン樹脂組成物には、本開示の効果を損なわない範囲で、或いは、更に性能の向上をはかるために、上記成分に加えて、酸化防止剤、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、核剤、難燃剤、分散剤、顔料、発泡剤等の任意成分を配合してもよい。
【0080】
[各成分の含有量]
本開示に係るポリプロピレン系樹脂組成物に含まれる上記各成分の含有量は、ポリプロピレン(A)、ポリプロピレン(B)、ポリエチレン(C)、熱可塑性エラストマー(D)、及び無機フィラー(E)の総量を100重量%としたときに、以下の通りである。
【0081】
ポリプロピレン(A):35~45重量%、好ましくは36~44重量%、より好ましくは37~43重量%、特に好ましくは40~42重量%
ポリプロピレン(B):30~40重量%、好ましくは30~35重量%、より好ましくは30~32重量%
ポリエチレン(C):1~10重量%、好ましくは1~5重量%、より好ましくは1~4重量%、特に好ましくは2~4重量%
熱可塑性エラストマー(D):10~20重量%、好ましくは12~18重量%、より好ましくは14~16重量%、特に好ましくは14.5~15.5重量%
無機フィラー(E):5~20重量%、好ましくは6~17重量%、より好ましくは7~14重量%、特に好ましくは9~11重量%
離型剤(F):0.1~0.4重量%、好ましくは0.15~0.35重量%、より好ましくは0.15~0.3重量%、特に好ましくは0.15~0.25重量%
相溶化剤(G):0.1~2重量%、好ましくは0.3~1.3重量%とすることができる。
【0082】
任意成分:限定する意図ではないが、例えば0.1~2重量%
本開示に係るポリプロピレン系樹脂組成物において、各成分の上記配合バランスは極めて重要である。上記配合バランスにより、成形性、耐衝撃性及び耐傷付き性の全てにおいて優れた、良好な物性バランスを有する材料となる。
【0083】
[ポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法]
本開示のポリプロピレン樹脂組成物は、上記成分(A)~(G)及び必要に応じて任意成分を、従来公知の方法で、上記配合割合で配合・混合し、溶融混練することにより製造できる。
【0084】
溶融混練は、限定する意図ではないが、例えば一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロールミキサー、ブラベンダープラストグラフ、ニーダー等の通常の混練機を用いて混練・造粒することによって行うことができる。
【0085】
この場合、各成分の分散を良好にすることができる混練・造粒方法を選択することが好ましく、好ましくは二軸押出機を用いて行われる。この混練・造粒の際には、上記各成分の配合物を同時に混練してもよく、また性能向上をはかるべく各成分を分割して混練してもよい。各成分を分割して混練する場合は、例えば先ずプロピレン系重合体の一部又は全部とエラストマーとを混練し、その後に残りの成分を混練・造粒するといった方法等を採用できる。
【0086】
[ポリプロピレン系樹脂組成物の用途及びポリプロピレン系樹脂成形品]
本開示に係るポリプロピレン系樹脂組成物は、成形性に優れるとともに、耐衝撃性及び耐傷付き性に優れた成形品が得られるから、各種成形品を製造するための成形用材料として好適である。
【0087】
言い換えると、本開示に係るポリプロピレン系樹脂成形品は、上述の組成物を公知の各種成形方法によって成形することにより得られる。
【0088】
成形方法は、特に限定されるものではないが、例えば、射出成形(ガス射出成形も含む)、射出圧縮成形(プレスインジェクション)、押出成形、中空成形、カレンダー成形、インフレーション成形、一軸延伸フィルム成形、二軸延伸フィルム成形等の各種方法を採用することができ、特に、射出成形、射出圧縮成形を採用することが好ましい。
【0089】
成形品の具体例としては、特に限定されるものではなく、例えば日用品、工業用品、自動車部品、電子機器の部品、家電製品の部品、建材等が挙げられる。
【0090】
特に、本開示に係る組成物は、成形性、耐衝撃性及び耐傷付き性に優れているから、ドアトリム、インストルメントパネル等の自動車内装部品、バンパー、ロッカーモール、サイドモール、オーバーフェンダー、バックドア、ガーニッシュ等の自動車外装部品、特に自動車内装部品の成形用材料として好適である。
【実施例0091】
次に、具体的に実施した実施例について説明する。
【0092】
<評価方法>
[PP成分(A),(B)、ポリエチレン(C)、熱可塑性エラストマー(D)の分子量]
GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて、以下の装置および測定条件で評価し、算出した。なお、検量線を、東ソー株式会社製の標準ポリスチレンを用いて作製し、測定された分子量の値をポリスチレンの値に換算して、重量平均分子量(Mw)を得、分子量とした。また、試料2.5mgを5mlの1,2,4-トリクロロベンゼンに、160℃で約2時間かけて十分に溶解させ、ろ過して測定用の試料とした。
・装置:Agilent PL-GPC 220
・溶媒:1,2,4-トリクロロベンゼン(Tedia)
・流量:1.0mL/分
・カラム及びシステムの温度:160℃
・サンプル濃度:1mg/mL。
【0093】
[MFR(成形性)]
PP成分(A),(B)のMFR(230℃、2.16kg荷重)、ポリエチレン(C)及び熱可塑性エラストマー(D)のMFR(190℃、2.16kg荷重)、並びに、組成物のMFR(230℃、2.16kg荷重)は、ISO 1133:1997 Conditions Mに準拠して測定した。
【0094】
なお、組成物の成形性の評価では、組成物のMFR(230℃、2.16kg荷重)が、45g/10分を超える場合を○、45g/10分以下の場合を×とした。
【0095】
[DSC法により測定された溶融ピークの温度]
示差走査熱量計(セイコーインスツル製EXSTAR DSC6220)を用いて、窒素雰囲気中で3mgの試料を30℃から260℃まで20℃/分の条件で昇温した。そして、昇温過程で得られる吸熱ピーク温度を、試料の溶融ピーク温度(Tm)とした。
【0096】
[平均粒径]
タルクの平均粒径は、レーザー散乱式粒度分析装置(Malvern Panalytical Ltd製MASTERSIZER 2000)を用いて測定した。
【0097】
[シャルピー衝撃強度(耐衝撃性)]
後述する方法により作製した試験片について、ISO 179に準拠して、ノッチ付きのシャルピー衝撃強度(単位:kJ/m)を測定した。
【0098】
シャルピー衝撃強度が、20kJ/mを超える場合を○、20kJ/m以下の場合を×とした。
【0099】
[ひっかき試験(耐傷付き性)]
後述する方法により作製した試験片について、安田精機社製の全自動クロスカット剥離試験機を用いて、100gの荷重を載せた引掻き針(先端R0.7mm)にて、引掻き速度1000mm/分、50mmストロークで試験片の表面を引掻き、傷をつけた。
【0100】
試験片の表面を目視で観察し、変化がない又は僅かな変化しか認められなかった場合を○(傷無し)、著しい変化が認められた場合を×(傷有り)とした。
【0101】
<原材料>
[ポリプロピレン(A)]
ポリプロピレン(A)として、分子量の異なる以下の3種類のプロピレン-エチレン共重合体を用いた。
【0102】
ポリプロピレン(A-1):分子量119900
ポリプロピレン(A-2):分子量110000
ポリプロピレン(A-3):分子量110100
なお、上記3種類のいずれもMFR(230℃、2.16kg荷重)は100g/10分、溶融ピーク温度(Tm)は155℃であった。
【0103】
[ポリプロピレン(B)]
ポリプロピレン(B)として、分子量の異なる以下の4種類のプロピレン-エチレン共重合体を用いた。
【0104】
ポリプロピレン(B-1):分子量184200
ポリプロピレン(B-2):分子量184000
ポリプロピレン(B-3):分子量158300
ポリプロピレン(B-4):分子量239100
なお、上記4種類のいずれも、MFR(230℃、2.16kg荷重)は60g/10分、溶融ピーク温度(Tm)は155℃であった。
【0105】
[ポリエチレン(C)]
ポリエチレン(C)として、エチレン・1-ブテン共重合体を用いた。ポリエチレン(C)の分子量は154000、密度は0.863g/cm、MFR(190℃、2.16kg荷重)は7g/10分、溶融ピーク温度(Tm)は120℃であった。
【0106】
[熱可塑性エラストマー(D)]
熱可塑性エラストマー(D)として、分子量の異なる以下の3種類のエチレンオクテンラバーを用いた。
【0107】
熱可塑性エラストマー(D-1):分子量48000
熱可塑性エラストマー(D-2):分子量98000
熱可塑性エラストマー(D-3):分子量68000
なお、上記3種類のいずれも、MFR(190℃、2.16kg荷重)は20g/10分であった。
【0108】
[無機フィラー(E)]
無機フィラー(E)として、タルクを用いた。平均粒径は4μmであった。
【0109】
[離型剤(F)]
離型剤(F)として、エルカ酸アミドを用いた。
【0110】
[相溶化剤(G)]
相溶化剤(G)として、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(酸変性量(グラフト率)は0.1~5重量%)を用いた。
【0111】
<試験片の製造>
表1に示す成分を、表1に示す割合にて、スーパーミキサーSFC-50(株式会社カワタ製)にてドライブレンドした後、押し出し温度210℃、吐出量80kg/hの条件で二軸押出し機(株式会社神戸製鋼所製、KCM65)を用いて溶融混練した。溶融混練後、射出成型機(日精樹脂工業製NEX220)にて成形した120×120×3mmの成形品をひっかき試験用の試験片とした。なお、当該試験片の一方の平面は、深さ約70μmの自動車内装革シボが形成されたシボ面となっており、当該シボ面を測定面とした。
【0112】
また、上記と同様の条件で溶融混練後、上記射出成型機により、ISO 179に準拠したシャルピー衝撃強度測定用の試験片を成形した。
【0113】
<成分配合及び試験結果>
実施例1,2及び比較例1~5のポリプロピレン系樹脂組成物の各成分の配合及び各種評価の結果を表1に示す。
【0114】
【表1】
【0115】
表1から明らかなように、実施例1,2のポリプロピレン系樹脂組成物は、上述の各要件を満たす配合であり、成形性、耐衝撃性及び耐傷付き性の全てにおいて良好な成形品が得られることが判った。
【0116】
一方、比較例1~5のポリプロピレン系樹脂組成物は、上述の各要件の少なくとも1つを満たしていない配合であり、成形性、耐衝撃性及び耐傷付き性の少なくとも1つの物性が低下することが判った。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本開示は、成形性、耐衝撃性及び耐傷付き性に優れたポリプロピレン系樹脂組成物、及びこれを成形してなるポリプロピレン系樹脂成形品を提供することができるので、極めて有用である。